(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035314
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】コンクリート
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20230306BHJP
C04B 14/04 20060101ALI20230306BHJP
C04B 20/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/04 Z
C04B20/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142083
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】俵積田 新也
(72)【発明者】
【氏名】梁 俊
(72)【発明者】
【氏名】堀口 賢一
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA04
(57)【要約】
【課題】反応性骨材を使用する場合であっても、簡易かつ安価にアルカリシリカ反応による劣化を抑制することを可能としたコンクリートを提案する。
【解決手段】JIS A 1145に規定する骨材のアルカリシリカ反応試験方法により無害でないと判定される反応性骨材を含有するコンクリートであって、空気量が10%以上である。骨材中に占める反応性骨材の割合は、30質量%から100質量%の範囲内である。また、水セメント比が45%以下で、かつ、細骨材率が45%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS A 1145に規定する骨材のアルカリシリカ反応試験方法により無害でないと判定される反応性骨材を含有するコンクリートであって、
空気量が10%以上であることを特徴とする、コンクリート。
【請求項2】
骨材中に占める反応性骨材の割合が、30質量%から100質量%の範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載のコンクリート。
【請求項3】
水セメント比が45%以下で、かつ、細骨材率が45%以下であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のコンクリート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリシリカ反応の反応性を有する骨材を使用したコンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートに使用される骨材の中には、アルカリシリカ反応の反応性が認められる反応性骨材が存在する。反応性骨材が使用されたコンクリートは、アルカリシリカ反応による劣化(膨張および膨張に伴うひび割れ等)が懸念される。アルカリシリカ反応は、水溶液中に溶け出したアルカリ成分の化学反応によって生成されるアルカリシリカゲルの吸水膨張に起因するものである。
コンクリートのアルカリシリカ反応の抑制方法として、材料中のアルカリ総量を抑制する方法、抑制効果のある混合セメントを使用する方法、安全と認められる骨材を使用する方法、亜硝酸リチウムの薬品をコンクリートの表面やコンクリート内部に圧入する方法がある。
ところが、アルカリ総量を抑制した場合であっても、アルカリシリカ反応による劣化が生じるおそれがある。
また、抑制効果のある混合セメントは、高価である。また、特殊な混和剤を用いる場合には、混合割合の検討に手間がかかるとともに、プラントの見直しが必要となるため、手間と費用が掛かる。
また、安全と認められる骨材の使用は、遠方から骨材を搬入する必要が生じる場合があるため、コスト高になるとともに、環境負荷低減化の妨げとなる。
そして、亜硝酸リチウムは、高価な材料であり、また、コンクリートへの供給にも手間がかかる。
そこで、特許文献1には、比較的安価な亜硝酸カルシウムや硝酸カルシウム等の薬品をコンクリートの表面に供給することやコンクリート内部に圧入することで、コンクリートのアルカリシリカ反応を抑制する方法が開示されている。
しかしながら、亜硝酸カルシウムや硝酸カルシウムを使用しても、コンクリートへの供給には手間がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような観点から、本発明は、反応性骨材を使用する場合に生ずるアルカリシリカ反応による劣化を抑制できるコンクリートを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明は、JIS A 1145に規定する骨材のアルカリシリカ反応試験方法により無害でないと判定される反応性骨材を含有するコンクリートであって、コンクリート中に含まれる空気量を10%以上とするものである。
本発明者らは、コンクリート中の空気量を増加させることで、アルカリシリカ反応による膨張圧を低減し、ひいては硬化体のひび割れを抑制できることを見出した。本発明によれば、反応性骨材の有効利用が可能となり、コスト低減化および骨材の地産地消が可能となる。また、特殊な混和剤や薬品を必須としないため、アルカリシリカ反応の抑制に要する手間や費用が増加することもない。
なお、骨材中に占める反応性骨材の割合を、30%から100%の範囲内とした場合であっても、膨張低減効果が得られる。
水セメント比が45%以下で、かつ、細骨材率が45%以下であれば、スランプを12cm以上確保できるとともに、空気量の増加に伴う耐久性の影響に対しても、必要な強度を確保できる。
【発明の効果】
【0006】
本発明のコンクリートによれば、骨材として反応性骨材を使用する場合であっても、アルカリシリカ反応による劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係るコンクリートについて実施した試験結果であって、クリープひずみの経時変化を示すグラフである。
【
図2】本発明の実施形態に係るコンクリートについて実施した試験結果であって、単位応力あたりのクリープひずみを示すグラフである。
【
図3】本発明の実施形態に係るコンクリートについて塩分浸透抵抗性を確認した試験結果であって、塩化物イオン濃度を示すグラフである。
【
図4】反応性骨材の科学法による反応性評価試験結果を示すグラフである。
【
図5】反応性骨材のモルタルバー法による反応性評価試験結果を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施形態に係るコンクリートについて実施した試験結果であって、促進期間と膨張率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態では、JIS A 1145に規定する骨材のアルカリシリカ反応試験方法により無害でないと判定される反応性骨材を骨材として使用する場合であっても、アルカリシリカ反応による劣化を抑制できるコンクリートについて説明する。具体的には、JIS A 1145に準じて、溶解シリカ量Scが10mmоl/L以上で、アルカリ濃度減少量Rcが700mmоl/L未満の範囲では、溶解シリカRcがアルカリ濃度減少量Rc未満となる場合、その骨材を無害と判定し、溶解シリカ量Rcがアルカリ濃度減少量以上となる場合、どの骨材は無害でないと判定する。
本実施形態のコンクリートは、セメントと、細骨材と、粗骨材と、AE減水剤やAE剤
等の混和剤と、水とを混合してなる。コンクリートの水セメント比は45%以下とする。
セメントには、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント(A~C種)、フライアッシュセメント(A~C種)、シリカセメント(A~C種)、エコセメント等を用いることができる。
骨材には、反応性骨材、あるいは反応性骨材と非反応性骨材との混合体を使用する。骨材(細骨材および粗骨材)中に占める反応性骨材の割合は、30質量%から100質量%の範囲内とする。本実施形態では、細骨材および粗骨材にそれぞれ反応性骨材を含有させる。また、細骨材率は45%以下である。さらに、粗骨材の最大寸法は25mmまたは20mmとする
コンクリートの空気量は、12%とする。コンクリート中の空気量、気泡の大きさ及び気泡の数等の調整は、AE剤などの混和剤の添加量により調整する。
【0009】
本実施形態のコンクリートによれば、骨材中に占める反応性骨材の割合が30%から100%の範囲内でありながら、空気量を12%にしたことで、アルカリシリカ反応による膨張圧を低減し、ひいては硬化体のひび割れを抑制できる。そのため、反応性骨材の有効利用が可能となり、コスト低減化および骨材の地産地消が可能となる。また、亜硝酸リチウムなどの特殊な薬品やフラアッシュ、スラグ等の混和材を必須としないため、アルカリシリカ反応の抑制に要する手間や費用が増加することもない。なお、標準的なコンクリート中の空気量が4.5%程度であるところ、本実施形態のコンクリートでは空気量を12%と大幅に増加させている。
また、水セメント比が45%以下で、かつ、細骨材率が45%以下にすることで、スランプを12cm以上確保できるとともに、必要な強度を確保できる。
【0010】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
前記実施形態では、コンクリートの空気量が12%の場合について説明したが、コンクリート中の空気量は10%以上であれば限定されるものではない。
前記実施形態では、細骨材と粗骨材との両方が、非反応性骨材と反応性骨材とを含有している場合について説明したが、細骨材または粗骨材のいずれか一方のみに反応性骨材が含まれていてもよい。
【0011】
以下、本実施形態のコンクリートについてクリープ特性(耐久性)、塩分浸透抵抗性、アルカリシリカ反応の抑制効果を検証した試験結果について説明する。また、比較例として、普通コンクリートを想定して、コンクリート中の空気量を4.5%とした場合についても測定した。
表1に本検証試験で使用した材料を示す。
【0012】
【0013】
(1)クリープ特性
JIS A 1157に従い、実施例および比較例のコンクリートのクリープ特性を確認した。単位セメント量を一定とし、28日圧縮強度が40N/mm2となるように水セメント比を調整した。その後、スランプが12cmになるように細骨材率を調整して配合を決定した。表2に実施例および比較例のコンクリート配合を示す。また、試験開始時に実施した圧縮強度試験結果に基づいて、クリープ試験の載荷応力度を決定した。
【0014】
【0015】
【0016】
図1にクリープひずみの経時変化、
図2に単位応力当たりのクリープひずみを示す。載荷材齢150日時点の試験結果から明らかなように、実施例のクリープひずみおよび単位応力当たりのクリープひずみの絶対値は、比較例よりも小さい結果となった。実施例の配合選定手法によりクリープ特性は向上する結果が得られた。
【0017】
(2)塩分浸透抵抗性
表2の配合による比較例と実施例について、土木学会基準「浸せきによるコンクリート中の塩化物イオンの見掛けの拡散係数試験方法(JSCE-G 572-2018)」に従い塩化物イオンの浸透に対する抵抗性を検討した。比較例および実施例の供試体を濃度10%の塩化ナトリウム水溶液に3か月浸漬させ、浸透面から10mm間隔、4つの深度において、塩化物イオン濃度の測定を行った。
測定結果を
図3に示す。また、測定結果を回帰分析して算出した表面塩化物イオン濃度C
0(kg/m
3)と見掛けの塩化物イオン拡散係数D
ap(cm
2/年)を表4に示す。試験結果より、実施例では、比較例と比較して、塩化物イオンの深さ方向への浸透が抑制される傾向が確認された。
【0018】
【0019】
(3)アルカリシリカ反応の膨張圧低減効果
JCI(日本コンクリート工学会)が定めるコンクリートのアルカリシリカ反応性試験方法(JCI-S-010-2017)に従い検討を行った。空気量4.5%の比較例Bと12%との実施例Bについて、それぞれアルカリ総量が5.5kg/m
3となる様に練混ぜ水に水酸化ナトリウムを添加してコンクリートバーを作成し40℃の湿潤環境で促進養生を行った。
まず、実施例Bおよび比較例Bに使用した反応性骨材と非反応性骨材(粗骨材)に対して化学法(JIS A 1145)による反応性評価試験を実施した。その結果を
図4に示す。また、反応性骨材を含む供試体に対してモルタルバー法(JIS A 1146)による反応性評価試験を実施した。その結果を
図5に示す。
モルタルバー法については、骨材全体に対する反応性骨材の割合(以下、混合率と称す)を10%、30%、50%、100%として試験を実施し、ペシマム混合率を確認した。試験結果より、化学法とモルタルバー法において高い反応性を示し、無害でないと判定される結果が得られた。
モルタルバー法の測定結果より,混合率30%において膨張率が最も高い値を示したため、コンクリートバー法における配合においても混合率30%で反応性骨材を使用して、空気量の影響を確認することとした。
【0020】
表5に比較例Bと実施例Bの配合を示す。空気量の増量がアルカリシリカ反応へ及ぼす影響を確認するため、比較例Bと実施例Bとで反応に用いられる水分量に差が生じないように単位水量を一定とし、28日圧縮強度が40N/mm2となるように単位セメント量を調整した。また、単位粗骨材量(反応性骨材量)とアルカリ総量を比較例Bと実施例Bとの間で一定とした。アルカリ総量は顆粒の水酸化ナトリウムを練混ぜ水に添加することで調整した。
【0021】
【0022】
図6に測定結果を示す。
図6に示すように、促進期間6カ月において、コンクリートバーの膨張率は比較例Bでは0.22%であったのに対し、実施例Bでは0.18%であった。空気量を増加させることで、2割程度の膨張低減効果を有することが確認された。