(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035317
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】直流高圧接地継電器
(51)【国際特許分類】
H02H 3/16 20060101AFI20230306BHJP
B60M 3/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
H02H3/16 B
B60M3/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142087
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000215110
【氏名又は名称】津田電気計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173222
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100151149
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 幸城
(72)【発明者】
【氏名】川原 敬治
(72)【発明者】
【氏名】長森 正樹
(72)【発明者】
【氏名】畑中 和明
(72)【発明者】
【氏名】小倉 健
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼尾 美奈子
【テーマコード(参考)】
5G004
【Fターム(参考)】
5G004AA01
5G004AB01
5G004BA01
5G004CA04
5G004DB01
5G004DC11
5G004EA01
5G004GA01
(57)【要約】
【課題】電気鉄道用直流変電所に設置されている高圧配電用変圧器の2次側線路の地絡故障等により誤動作することなく、電車の運行に影響を与えないような、高い信頼性を有する誤検知防止型直流高圧接地継電器を提供する。
【解決手段】電気鉄道用直流変電所2の接地マット3と帰線4の間に設けられてこの電位差を測定する電位差測定部5と、この電位差を用いて直流地絡を判定して直流地絡信号Fdを出力する直流地絡判定出力部6と、接地マット3と帰線4の間に生じる電位差が交流電路2Aの地絡故障によるものであるときに、直流地絡判定出力部6による直流地絡信号Fdの判定出力を阻止する誤動作防止部13とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気鉄道用直流変電所の接地マットと帰線の間に設けられてこの電位差を測定する電位差測定部と、前記電位差を用いて直流地絡を判定して直流地絡信号を出力する直流地絡判定出力部と、
接地マットと帰線の間に発生するレール電位を利用して充電される補助電源部と、
この補助電源部に充電された電力を用いて前記電位差測定部の出力を高速フーリエ変換演算する高速フーリエ変換部と、
この高速フーリエ変換部によって演算される商用周波数成分が交流電路の地絡故障を判定する閾値を上回るときに交流地絡を判定する交流地絡判定部と、
この交流地絡判定部によって交流地絡を判定するときに前記直流地絡判定出力部による直流地絡信号の判定出力を阻止する誤動作防止部とを備えることを特徴とする誤検知防止型直流高圧接地継電器。
【請求項2】
電気鉄道用直流変電所の接地マットと帰線の間に設けられてこの電位差を測定する電位差測定部と、前記電位差を用いて直流地絡を判定して直流地絡信号を出力する直流地絡判定出力部と、
接地マットと帰線の間の電路に流れる電流を測定する電流測定部と、
接地マットと帰線の間に発生するレール電位を利用して充電される補助電源部と、
この補助電源部に充電された電力を用いて前記電流測定部の出力を高速フーリエ変換演算する高速フーリエ変換部と、
この高速フーリエ変換部によって演算される商用周波数成分が交流電路の地絡故障を判定する閾値を上回るときに交流地絡を判定する交流地絡判定部と、
この交流地絡判定部によって交流地絡を判定するときに前記直流地絡判定出力部による直流地絡信号の判定出力を阻止する誤動作防止部とを備えることを特徴とする誤検知防止型直流高圧接地継電器。
【請求項3】
電気鉄道用直流変電所の接地マットと帰線の間に設けられてこの電位差を測定する電位差測定部と、前記電位差を用いて直流地絡を判定して直流地絡信号を出力する直流地絡判定出力部と、
接地マットと帰線の間の電路に流れる電流を測定する電流測定部と、
接地マットと帰線の間に発生するレール電位を利用して充電される補助電源部と、
この補助電源部に充電された電力を用いて少なくとも前記電流測定部の出力から実効値を演算する実効値演算部と、
この実効値演算部によって演算される実効値が交流電路の地絡故障を判定する閾値を上回るときに交流地絡を判定する交流地絡判定部と、
この交流地絡判定部によって交流地絡を判定するときに前記直流地絡判定出力部による直流地絡信号の判定出力を阻止する誤動作防止部とを備えることを特徴とする誤検知防止型直流高圧接地継電器。
【請求項4】
電気鉄道用直流変電所の接地マットと帰線の間に設けられてこの電位差を測定する電位差測定部と、前記電位差を用いて直流地絡を判定して直流地絡信号を出力する直流地絡判定出力部と、
接地マットと帰線の間の電位差が交流電路の地絡故障を判定する閾値を上回るときに交流地絡を判定する交流地絡判定部と、
この交流地絡判定部によって交流地絡を判定するときに前記直流地絡判定出力部による直流地絡信号の判定出力を阻止する誤動作防止部とを備えることを特徴とする誤検知防止型直流高圧接地継電器。
【請求項5】
電気鉄道用直流変電所の接地マットと帰線の間に設けられてこの電位差を測定する電位差測定部と、前記電位差を用いて直流地絡を判定して直流地絡信号を出力する直流地絡判定出力部と、
接地マットと帰線の間の電路に流れる電流を測定する電流測定部と、
この電流測定部によって測定される電流が交流電路の地絡故障を判定する閾値を上回るときに交流地絡を判定する交流地絡判定部と、
この交流地絡判定部によって交流地絡を判定するときに前記直流地絡判定出力部による直流地絡信号の判定出力を阻止する誤動作防止部とを備えることを特徴とする誤検知防止型直流高圧接地継電器。
【請求項6】
電気鉄道用直流変電所の接地マットと帰線の間に設けられてこの電位差を測定する電位差測定部と、前記電位差を用いて直流地絡を判定して直流地絡信号を出力する直流地絡判定出力部と、
前記電位差測定部の出力が交流電路の地絡故障を判定する閾値を上回るときに交流地絡を判定する交流地絡判定部と、
この交流地絡判定部によって交流地絡を判定するときに前記直流地絡判定出力部による直流地絡信号の判定出力を阻止する誤動作防止部とを備えることを特徴とする誤検知防止型直流高圧接地継電器。
【請求項7】
電気鉄道用直流変電所の接地マットと帰線の間に設けられてこの電位差を測定する電位差測定部と、前記電位差を用いて直流地絡を判定して直流地絡信号を出力する直流地絡判定出力部と、
接地マットと帰線の間に生じる電位差が交流電路の地絡故障を判定する閾値を上回るときに交流地絡を判定する交流地絡判定部と、
この交流地絡判定部が交流地絡を判定するときに接地マットおよび帰線と前記電位差測定部の間の接続を切り離すスイッチ部により前記直流地絡判定出力部による直流地絡信号の判定出力を阻止する誤動作防止部とを備えることを特徴とする誤検知防止型直流高圧接地継電器。
【請求項8】
電気鉄道用直流変電所の接地マットと帰線の間に設けられてこの電位差を測定する電位差測定部と、前記電位差を用いて直流地絡を判定して直流地絡信号を出力する直流地絡判定出力部と、
接地マットと帰線の間に生じる電位差が交流電路の地絡故障によるものであるときに、この交流地絡による電位差を直流地絡判定出力部によって誤検知させない程度に減衰させる交流地絡電圧抑制回路を、前記接地マットおよび帰線と直流地絡判定出力部の間に介在させて、直流地絡信号の判定出力を阻止する誤動作防止部とを備えることを特徴とする誤検知防止型直流高圧接地継電器。
【請求項9】
前記電位差測定部および直流地絡判定出力部は既存の直流高圧接地継電器のユニットであり、誤動作防止部はこの既存の直流高圧接地継電器と接地マットおよび帰線の間に介在するものである請求項7または請求項8に記載の直流高圧接地継電器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は直流高圧接地継電器に関するものであり、詳細には、電気鉄道用直流変電所に設置されている、電気鉄道の直流母線以外の交流の高圧配電線路が地絡故障した場合に誤動作することがない高い信頼性を有する直流高圧接地継電器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気鉄道用直流変電所において、直流母線に地絡などの重大故障が発生した場合には、多大な地絡電流が流れることにより変電所機器の焼損などの故障が発生する。そこで、電気鉄道用直流変電所の接地マットと帰線(レール)間の電位差を検知し、この電位差が所定の大きさ以上になった場合に、できる限り速やかに変電所を停電させることにより変電所設備への損傷を抑え、変電所を保護するために直流高圧接地継電器を設置することが行われている。
【0003】
図14は従来の直流高圧接地継電器90を取り付ける電気鉄道用直流変電所の構成を示す図である。
図14に示すように、電気鉄道用直流変電所では、特高配電線の母線から分岐して、高圧配電線用変圧器Taを介して信号機、照明、エスカレータ、券売機などの各施設に電力を供給する高圧配電線路91Aと、整流器用変圧器Tbを介して整流器Bによって直流変換され、き電線に電力を供給するための直流配電線路(直流母線)91Bに給電する。
【0004】
図15は特許文献1に代表される、従来の直流高圧接地継電器の構成を示す図である。
図15に示す直流高圧接地継電器90は、変電所の接地マット92と帰線93(レールR)の間に設置され、その間の電位差を測定する電位差測定部94Aを有し、この電位差測定部94Aが閾値以上の電位差を検出するときに地絡判定出力部94Bが直流地絡を判定して、交流遮断器90A(
図14参照)および直流高速度遮断器90Bに遮断信号(直流地絡信号)を送ってき電線95および直流母線91Bへの電力供給を遮断させるものである。
【0005】
直流母線91Bに地絡故障が発生すると、地絡の影響により帰線93に対して接地マット92の電位が高くなるので、前記地絡判定出力部94Bは、この電位差が閾値を超えることにより例えば40ms程度の極めて短い動作時間以内に故障検出をすることができる。したがって、前記交流遮断器90Aおよび直流高速度遮断器90Bを可能な限り早く遮断させることにより、設備の損傷を最小限に抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の電気鉄道用直流変電所の高圧配電用変圧器Taの2次側線路(高圧配電線路91A)において地絡故障が発生すると、接地マット92に交流の高電圧が印加されることにより、直流高圧接地継電器90が交流地絡故障を誤検知することがあった。
【0008】
すなわち、一般的に高圧配電用変圧器Taの2次側線路(高圧配電線路91A)の交流地絡故障は高圧受配電用の地絡保護継電器(図外)によって、交流遮断器96,96A~96Cにより遮断され保護されるべきものであるが、電気鉄道用直流変電所の高圧配電線路91Aの地絡故障が発生した場合には、変電所の接地マット92の電位が地絡電圧によって変動するので接地マット92に対して離れた個所にあるレールRに接続された帰線93との間に比較的大きな電位差が発生する。
【0009】
図16は50Hz6600V系の交流の電圧波形を示す図である。
図16を用いて、より具体的に説明すると、高圧配電線路91Aに地絡故障が発生した場合、地絡状況にもよるが全電圧が接地マットと帰線(レール)間に印加されたとすると、例えば設定値500Vの直流高圧接地継電器90の電位差測定部94Aに交流の半波の電圧が印加されることになる。
【0010】
従って、前記電位差(交流電圧)によって直流高圧接地継電器90の電位差測定部94Aには回路上半波の交流電圧が印加され、例えば設定された閾値の500V以上の直流電圧相当がおよそ9.7ms程度継続して印加されることになる。このため、地絡電圧が高い場合には直流高圧接地継電器90が誤動作し、変電所の交流遮断器90Aおよび直流高速度遮断器90Bが誤って遮断されるので、列車への電力供給が停止する事態が発生するという問題があった。
【0011】
このように、高圧配電線路91A側で交流地絡故障が発生して直流高圧接地継電器90が誤動作した場合には、その機能上、変電所の状態を全停電の状態になるため、復旧に多くの時間がかかることになり、列車の運行に多大な障害をきたすという問題があった。
【0012】
本出願人は、長年の鋭意研究により、電気鉄道用直流変電所に設置されている従来の直流高圧接地継電器90が、同じ変電所内に設置されている高圧配電用変圧器Taの2次側線路の地絡故障によって誤動作する原因について追求し、この誤動作に上述の事象が関係していることを突き止めている。
【0013】
そこで、前記地絡判定出力部94Bの反応速度を敢えて遅くすることにより、誤動作の発生を防止することが容易に考えられる。すなわち、高圧配電線路91A側の交流地絡故障が発生した場合に、この交流地絡故障を高圧配電線路91A側で検知して高圧配電線用変圧器Taがおよそ100ms程度の時間で遮断され、交流地絡故障の影響は小さくなる。したがって、前記地絡判定出力部94Bの反応速度を敢えて遅く、およそ100ms程度の時間を越えて、整定値となる400~600V以上の電位差を確認出来た場合にのみ、地絡判定出力部94Bが直流配電線路91Bにおける地絡故障を検出して、交流遮断器90Aおよび直流高速度遮断器90Bに遮断信号を送って直流母線91Bへの電力供給を遮断させることにより誤動作を防止することが考えられる。
【0014】
しかしながら、この場合には直流高速度遮断器90Bの誤動作は避けられるものの、直流配電経路91Bにおける直流地絡故障が発生した場合にも、地絡故障電流の影響が発生してから、少なくとも100ms以上は遅れて動作することになるので、大きな故障電流が100ms以上は流れ続けることによって、施設の破損などの被害が発生する可能性が著しく高くなるという問題があった。
【0015】
本発明は上述の事柄を考慮に入れてなされたものであり、その目的は、電気鉄道用直流変電所に設置されている高圧配電用変圧器の2次側線路の地絡故障等により誤動作することがなく、かつ、直流配電経路に地絡故障が発生した場合には、可能な限り速やかに故障電流を遮断させることができる、高い信頼性を有する誤検知防止型直流高圧接地継電器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1発明は、電気鉄道用直流変電所の接地マットと帰線の間に設けられてこの電位差を測定する電位差測定部と、前記電位差を用いて直流地絡を判定して直流地絡信号を出力する直流地絡判定出力部と、接地マットと帰線の間に発生するレール電位を利用して充電される補助電源部と、この補助電源部に充電された電力を用いて前記電位差測定部の出力を高速フーリエ変換演算する高速フーリエ変換部と、この高速フーリエ変換部によって演算される商用周波数成分が交流電路の地絡故障を判定する閾値を上回るときに交流地絡を判定する交流地絡判定部と、この交流地絡判定部によって交流地絡を判定するときに前記直流地絡判定出力部による直流地絡の判定出力を阻止する誤動作防止部とを備えることを特徴とする誤検知防止型直流高圧接地継電器を提供する。(請求項1)
【0017】
前記接地マットは接地抵抗を介して変電所の接地電位に接地されるものであるのに対し、この接地マットに対して離れた個所にあるレールに接続された帰線の電位は、この上を走行する列車を介して電流が流れるために、接地マットと帰線の間には幾らかのレール電位が発生するものであり、補助電源部はこのレール電位を利用して充電されることにより、常時充電される。なお、補助電源部は充放電が可能な二次電池であってもよいが、より簡素な構成のコンデンサを用いることが好ましい。また、より好ましくは電気二重層キャパシタを用いて大容量化を図る。
【0018】
補助電源部に充電された電力は高速フーリエ変換部が電位差測定部によって測定された電位差の高速フーリエ変換演算を行なうために用いられ、この高速フーリエ変換部は電子回路を組合わせて少なくとも商用電源の周波数成分を求めるFFT回路であることが考えられるが、例えば演算処理装置と、この演算処理装置によって実行可能な高速フーリエ変換プログラムであってもよい。また、高速フーリエ変換によって求める周波数成分は少なくとも商用周波数成分(商用電源の周波数成分)であり、日本の関西地方においては60Hz、関東地方においては50Hzである。この高速フーリエ変換部の出力は商用周波数の1波長分の時間(関西の場合16.7ms、関東の場合は20ms)の演算結果によって交流電源の地絡検知を確実に行うことができる程度の精度を得ることができる。
【0019】
前記交流地絡判定部は高速フーリエ変換演算によって周波数分析された商用周波数成分が交流電路の地絡故障を判定する閾値を上回るときに交流地絡を判定するものであるから、交流地絡故障の発生時点から16.7~20ms程度の短い時間で確実に交流地絡故障の判定を行うことができる。なお、この地絡故障判定部も前記高速フーリエ変換部と同じ演算処理部によって実行可能な交流地絡判定プログラムによって実現されるものであることにより、構成の簡略化を図り、製造コストを削減することが可能となることはいうまでもない。
【0020】
前記誤動作防止部は交流地絡判定部が交流地絡を判定した時点から直流地絡判定出力部による直流地絡の判定出力を阻止するものであり、例えば、直流地絡判定出力部の出力部において交流地絡を判定している間は直流地絡信号を出力させないスイッチ部、または、交流地絡を判定している間は直流地絡判定出力部に電位差信号を入力させないスイッチ部が考えられる。
【0021】
したがって、変電所の高圧配電線路において地絡故障が発生した場合、高速フーリエ変換を駆使し、交流地絡判定部が速やか且つ確実に地絡故障の判別を行うと共に、誤動作防止部が直流地絡判別出力部の誤動作を阻止することができるので、変電所内の高圧配電線路の地絡故障が原因で直流高圧接地継電器が誤動作することがなくなり、それだけ信頼性が向上する。
【0022】
第2発明は、電気鉄道用直流変電所の接地マットと帰線の間に設けられてこの電位差を測定する電位差測定部と、前記電位差を用いて直流地絡を判定して直流地絡信号を出力する直流地絡判定出力部と、接地マットと帰線の間の電路に流れる電流を測定する電流測定部と、接地マットと帰線の間に発生するレール電位を利用して充電される補助電源部と、この補助電源部に充電された電力を用いて前記電流測定部の出力を高速フーリエ変換演算する高速フーリエ変換部と、この高速フーリエ変換部によって演算される商用周波数成分が交流電路の地絡故障を判定する閾値を上回るときに交流地絡を判定する交流地絡判定部と、この交流地絡判定部によって交流地絡を判定するときに前記直流地絡判定出力部による直流地絡の判定出力を阻止する誤動作防止部とを備えることを特徴とする誤検知防止型直流高圧接地継電器を提供する。(請求項2)
【0023】
前記電流測定部は接地マットと帰線の間の電路に流れる電流を測定するものであり、例えば電磁誘導によって1次側に流れる電流に励磁されて2次側に電流が流れる変流器を用い、2次側の電流の大きさを計測可能な大きさに変換して測定するものであることが好ましい。すなわち、変流器の一次側に流れる電流に変化がある場合、これによって励磁された磁束密度の変化により、二次側には巻数比によって除算された大きさの電流が流れるので、交流地絡が発生した時には交流地絡の大きさに比例する2次電流が流れ、これを測定可能である。
【0024】
前記接地マットは接地抵抗を介して変電所の接地電位に接地されるものであるのに対し、この接地マットに対して離れた個所にあるレールに接続された帰線の電位は、この上を走行する列車を介して電流が流れるために、接地マットと帰線の間には幾らかのレール電位が発生するものであり、補助電源部はこのレール電位を利用して充電されることにより、常時充電される。なお、補助電源部は充放電が可能な二次電池であってもよいが、より簡素な構成のコンデンサを用いることが好ましい。また、より好ましくは電気二重層キャパシタを用いて大容量化を図る。
【0025】
補助電源部に充電された電力は高速フーリエ変換部が電流測定部によって測定された電流の高速フーリエ変換演算を行なうために用いられ、この高速フーリエ変換部は電子回路を組合わせて少なくとも商用電源の周波数成分を求めるFFT回路であることが考えられるが、例えば演算処理装置と、この演算処理装置によって実行可能な高速フーリエ変換プログラムであってもよい。また、高速フーリエ変換によって求める周波数成分は少なくとも商用周波数成分(商用電源の周波数成分)であり、日本の関西地方においては60Hz、関東地方においては50Hzである。この高速フーリエ変換部の出力は商用周波数の1波長分の時間(関西の場合16.7ms、関東の場合は20ms)の演算結果によって交流電源の地絡検知を確実に行うことができる程度の精度を得ることができる。
【0026】
前記交流地絡判定部は高速フーリエ変換演算によって周波数分析された商用周波数成分が交流電路の地絡故障を判定する閾値を上回るときに交流地絡を判定するものであるから、交流地絡故障の発生時点から16.7~20ms程度の短い時間で確実に交流地絡故障の判定を行うことができる。なお、この地絡故障判定部も前記高速フーリエ変換部と同じ演算処理部によって実行可能な交流地絡判定プログラムによって実現されるものであることにより、構成の簡略化を図り、製造コストを削減することが可能となることはいうまでもない。
【0027】
前記誤動作防止部は交流地絡判定部が交流地絡を判定した時点から直流地絡判定出力部による直流地絡の判定出力を阻止するものであり、例えば、直流地絡判定出力部の出力部において交流地絡を判定している間は直流地絡判定を出力させないスイッチ部、または、交流地絡を判定している間は直流地絡判定出力部に電位差信号を入力させないスイッチ部が考えられる。
【0028】
したがって、変電所の高圧配電線路において地絡故障が発生した場合、高速フーリエ変換を駆使し、交流地絡判定部が速やか且つ確実に地絡故障の判別を行うと共に、誤動作防止部が直流地絡判別出力部の誤動作を阻止することができるので、変電所内の高圧配電線路の地絡故障が原因で直流高圧接地継電器が誤動作することがなくなり、それだけ信頼性が向上する。
【0029】
第3発明は、電気鉄道用直流変電所の接地マットと帰線の間に設けられてこの電位差を測定する電位差測定部と、前記電位差を用いて直流地絡を判定して直流地絡信号を出力する直流地絡判定出力部と、接地マットと帰線の間の電路に流れる電流を測定する電流測定部と、接地マットと帰線の間に発生するレール電位を利用して充電される補助電源部と、この補助電源部に充電された電力を用いて少なくとも前記電流測定部の出力から実効値を演算する実効値演算部と、この実効値演算部によって演算される実効値が交流電路の地絡故障を判定する閾値を上回るときに交流地絡を判定する交流地絡判定部と、この交流地絡判定部によって交流地絡を判定するときに前記直流地絡判定出力部による直流地絡の判定出力を阻止する誤動作防止部とを備えることを特徴とする誤検知防止型直流高圧接地継電器を提供する。(請求項3)
【0030】
前記電流測定部は接地マットと帰線の間の電路に流れる電流を測定するものであり、たとえば電磁誘導によって1次側に流れる電流に励磁されて2次側に電流が流れる変流器を用い、2次側の電流の大きさを計測可能な大きさに変換して測定するものであることが好ましい。すなわち、変流器の一次側に流れる電流に変化がある場合、これによって励磁された磁束密度の変化により、二次側には巻数比によって除算された大きさの電流が流れるので、交流地絡が発生した時には交流地絡の大きさに比例する2次電流が流れ、これを測定可能である。
【0031】
前記接地マットは接地抵抗を介して変電所の接地電位に接地されるものであるのに対し、この接地マットに対して離れた個所にあるレールに接続された帰線の電位は、この上を走行する列車を介して電流が流れるために、接地マットと帰線の間には幾らかのレール電位が発生するものであり、補助電源部はこのレール電位を利用して充電されることにより、常時充電される。なお、補助電源部は充放電が可能な二次電池であってもよいが、より簡素な構成のコンデンサを用いることが好ましい。また、より好ましくは電気二重層キャパシタを用いて大容量化を図る。
【0032】
補助電源部に充電された電力は実効値演算部が電流測定部によって測定された電流を用いて実効値の演算を行なうために用いられる。また、実効値演算部は求められた瞬時実効値の平均値を実効値として求めることにより、測定精度を高められることは言うまでもない。実効値演算部は、例えば演算処理装置と、この演算処理装置によって実行可能な実効値演算プログラムであることが考えられる。実効値演算部によって求められる実効値は交流地絡故障の発生時点から1周期の16.7~20msの半分程度の短い時間で交流地絡故障電流の大きさを正確に判定できる大きさとなる。
【0033】
前記交流地絡判定部は実効値が交流電路の地絡故障を判定する閾値を上回るときに交流地絡を判定するものであるから、交流地絡故障の発生時点から数ms~数十ms以内の短い時間で確実に交流地絡故障の判定を行うことができる。なお、この地絡故障判定部も前記高速フーリエ変換部と同じ演算処理部によって実行可能な交流地絡判定プログラムによって実現されるものであることにより、構成の簡略化を図り、製造コストを削減することが可能となることはいうまでもない。
【0034】
前記誤動作防止部は交流地絡判定部が交流地絡を判定した時点から直流地絡判定出力部による直流地絡の判定出力を阻止するものであり、例えば、直流地絡判定出力部の出力部において交流地絡を判定している間は直流地絡判定を出力させないスイッチ部、または、交流地絡を判定している間は直流地絡判定出力部に電位差信号を入力させないスイッチ部が考えられる。
【0035】
したがって、変電所の高圧配電線路において地絡故障が発生した場合、実効値の演算を駆使し、交流地絡判定部が速やか且つ確実に地絡故障の判別を行うと共に、誤動作防止部が直流地絡判別出力部の誤動作を阻止することができるので、変電所内の高圧配電線路の地絡故障が原因で直流高圧接地継電器が誤動作することがなくなり、それだけ信頼性が向上する。
【0036】
第4発明は、電気鉄道用直流変電所の接地マットと帰線の間に設けられてこの電位差を測定する電位差測定部と、前記電位差を用いて直流地絡を判定して直流地絡信号を出力する直流地絡判定出力部と、接地マットと帰線の間の電位差が交流電路の地絡故障を判定する閾値を上回るときに交流地絡を判定する交流地絡判定部と、この交流地絡判定部によって交流地絡を判定するときに前記直流地絡判定出力部による直流地絡の判定出力を阻止する誤動作防止部とを備えることを特徴とする誤検知防止型直流高圧接地継電器を提供する。(請求項4)
【0037】
前記交流地絡判定部は、接地マットと帰線の間の電位差と、交流電路の地絡故障を判定する閾値とを比較し、接地マットと帰線の間の電位差が閾値を越えた場合に瞬時に交流地絡を判定するものである。すなわち、電気鉄道用直流変電所の交流電路において地絡故障が発生すると、離れた個所にあるレールに接続された帰線の電位が安定しているのに対し、電気鉄道用直流変電所の接地マットには地絡状況にもよるが電源電圧に近い交流電圧が印加されることになり、接地マットと帰線の間には、直流地絡に比べて大きな電位差が瞬間的に発生する。
【0038】
交流地絡判定部は電位差の瞬時値が直流き電電圧を越えた時点で速やかに交流地絡を判定し、交流地絡判定信号を出力するものであることが好ましく、例えば分圧抵抗を介して分圧した電圧を入力するリレーであることが考えられる。なお、リレーは高速応答可能な半導体素子を用いた無接点リレーであることが好ましいが、有接点リレーを用いてもよい。
【0039】
前記誤動作防止部は交流地絡判定部が交流地絡を判定した時点から直流地絡判定出力部による直流地絡の判定出力を阻止するものであり、例えば、直流地絡判定出力部の出力部において交流地絡を判定している間は直流地絡判定を出力させないスイッチ部、または、交流地絡を判定している間は直流地絡判定出力部に電位差信号を入力させないスイッチ部が考えられる。
【0040】
したがって、変電所の高圧配電線路において地絡故障が発生した場合、交流地絡判定部が地絡故障した交流電圧の立上りを捉えて速やか且つ確実に地絡故障の判別を行うと共に、誤動作防止部が直流地絡判別出力部の誤動作を阻止することができるので、変電所内の高圧配電線路の地絡故障が原因で直流高圧接地継電器が誤動作することがなくなり、それだけ信頼性が向上する。
【0041】
第5発明は、電気鉄道用直流変電所の接地マットと帰線の間に設けられてこの電位差を測定する電位差測定部と、前記電位差を用いて直流地絡を判定して直流地絡信号を出力する直流地絡判定出力部と、接地マットと帰線の間の電路に流れる電流を測定する電流測定部と、この電流測定部によって測定される電流が交流電路の地絡故障を判定する閾値を上回るときに交流地絡を判定する交流地絡判定部と、この交流地絡判定部によって交流地絡を判定するときに前記直流地絡判定出力部による直流地絡の判定出力を阻止する誤動作防止部とを備えることを特徴とする誤検知防止型直流高圧接地継電器を提供する。(請求項5)
【0042】
前記電流測定部は接地マットと帰線の間の電路に流れる電流を測定するものであり、たとえば電磁誘導によって1次側に流れる電流に励磁されて2次側に電流が流れる変流器を用い、2次側の電流の大きさを計測可能な大きさに変換して測定するものであることが好ましい。すなわち、変流器の一次側に流れる電流に変化がある場合、これによって励磁された磁束密度の変化により、二次側には巻数比によって除算された大きさの電流が流れるので、交流地絡が発生した時には交流地絡の大きさに比例する2次電流が流れ、これを測定可能である。
【0043】
前記交流地絡判定部は、前記電流測定部によって測定される電流を用いて交流電路の地絡故障を判定する閾値と比較し、この閾値を越えた場合に瞬時に交流地絡を判定するものである。すなわち、電気鉄道用直流変電所の交流電路において地絡故障が発生すると、電気鉄道用直流変電所の接地マットには地絡故障電流が流れ、かつ、遠方のレール側に大きな故障電流(交番電流)が流れる。
【0044】
交流地絡判定部は前記電流測定部によって測定された交番電流の瞬時値が直流地絡判定出力部による直流地絡の判定に用いる閾値を越えた時点で速やかに交流地絡を判定し、交流地絡判定信号を出力するものであることが好ましく、例えば交番電流を入力するリレーであることが考えられる。なお、リレーは高速応答可能な半導体素子を用いた無接点リレーであることが好ましいが、有接点リレーを用いてもよい。
【0045】
前記誤動作防止部は交流地絡判定部が交流地絡を判定した時点から直流地絡判定出力部による直流地絡の判定出力を阻止するものであり、例えば、直流地絡判定出力部の出力部において交流地絡を判定している間は直流地絡判定を出力させないスイッチ部、または、交流地絡を判定している間は直流地絡判定出力部に電位差信号を入力させないスイッチ部が考えられる。
【0046】
したがって、変電所の高圧配電線路において地絡故障が発生した場合、交流地絡判定部が地絡故障した交流電圧の立上りを捉えて速やか且つ確実に地絡故障の判別を行うと共に、誤動作防止部が直流地絡判別出力部の誤動作を阻止することができるので、変電所内の高圧配電線路の地絡故障が原因で直流高圧接地継電器が誤動作することがなくなり、それだけ信頼性が向上する。
【0047】
第6発明は、電気鉄道用直流変電所の接地マットと帰線の間に設けられてこの電位差を測定する電位差測定部と、前記電位差を用いて直流地絡を判定して直流地絡信号を出力する直流地絡判定出力部と、前記電位差測定部の出力が交流電路の地絡故障を判定する閾値を上回るときに交流地絡を判定する交流地絡判定部と、この交流地絡判定部によって交流地絡を判定するときに前記直流地絡判定出力部による直流地絡の判定出力を阻止する誤動作防止部とを備えることを特徴とする誤検知防止型直流高圧接地継電器を提供する。(請求項6)
【0048】
前記交流地絡判定部は、前記電位差測定部によって測定された電位差と、交流電路の地絡故障を判定する閾値とを比較し、電位差測定部によって測定された電位差が閾値を越えた場合に瞬時に交流地絡を判定するものである。すなわち、電気鉄道用直流変電所の交流電路において地絡故障が発生すると、離れた個所にあるレールに接続された帰線の電位が安定しているのに対し、電気鉄道用直流変電所の接地マットの電位には地絡状況にもよるが電源電圧に近い交流電圧が印加されることになり、電位差測定部は、直流地絡に比べて大きな電位差を瞬間的に測定する。
【0049】
交流地絡判定部は電位差の瞬時値が直流地絡判定出力部による直流地絡の判定に用いる閾値を越えた時点で速やかに交流地絡を判定し、交流地絡判定信号を出力するものであることが好ましく、例えば分圧抵抗を介して分圧した電圧を入力するリレーであることが考えられる。なお、リレーは高速応答可能な半導体素子を用いた無接点リレーであることが好ましいが、有接点リレーを用いてもよい。
【0050】
前記誤動作防止部は交流地絡判定部が交流地絡を判定した時点から直流地絡判定出力部による直流地絡の判定出力を阻止するものであり、例えば、直流地絡判定出力部の出力部において交流地絡を判定している間は直流地絡判定を出力させないスイッチ部、または、交流地絡を判定している間は直流地絡判定出力部に電位差信号を入力させないスイッチ部が考えられる。
【0051】
したがって、変電所の高圧配電線路において地絡故障が発生した場合、交流地絡判定部が地絡故障した交流電圧の立上りを捉えて速やか且つ確実に地絡故障の判別を行うと共に、誤動作防止部が直流地絡判別出力部の誤動作を阻止することができるので、変電所内の高圧配電線路の地絡故障が原因で直流高圧接地継電器が誤動作することがなくなり、それだけ信頼性が向上する。
【0052】
第7発明は、電気鉄道用直流変電所の接地マットと帰線の間に設けられてこの電位差を測定する電位差測定部と、前記電位差を用いて直流地絡を判定して直流地絡信号を出力する直流地絡判定出力部と、接地マットと帰線の間に生じる電位差が交流電路の地絡故障を判定する閾値を上回るときに交流地絡を判定する交流地絡判定部と、この交流地絡判定部が交流地絡を判定するときに接地マットおよび帰線と前記電位差測定部の間の接続を切り離すスイッチ部により前記直流地絡判定出力部による直流地絡の判定出力を阻止する誤動作防止部とを備えることを特徴とする誤検知防止型直流高圧接地継電器を提供する。(請求項7)
【0053】
前記交流地絡判定部は、接地マットと帰線の間の電位差と、交流電路の地絡故障を判定する閾値とを比較し、接地マットと帰線の間の電位差が閾値を越えた場合に瞬時に交流地絡を判定するものである。すなわち、電気鉄道用直流変電所の交流電路において地絡故障が発生すると、離れた個所にあるレールに接続された帰線の電位が安定しているのに対し、電気鉄道用直流変電所の接地マットの電位には地絡状況にもよるが電源電圧に近い交流電圧が印加されることになり、接地マットと帰線の間には、直流地絡に比べて大きな電位差が瞬間的に発生する。交流地絡判定部は電位差の瞬時値が直流き電電圧を越えた時点で速やかに交流地絡を判定し、交流地絡判定信号を出力するものであることが好ましい。また、同時に動作する可能性の高い直流地絡判定部には5ms程度の遅延時間を持たせることが望ましい。
【0054】
前記誤動作防止部は、交流地絡判定部が交流電路の地絡故障を判定したときに、接地マットおよび帰線と前記電位差測定部の間の接続を切り離すスイッチ部を備えるので、交流電路側の地絡故障が発生した時点で、直流地絡判定のための入力信号を無くすことにより直流地絡判定の誤動作を防止する。なお、スイッチ部は、例えば分圧抵抗を介して分圧した電圧を入力するリレー回路を用いて形成されることが考えられる。なお、リレー回路は接点抵抗がほとんど発生しない有接点リレーであることが好ましいが、高速応答可能な半導体素子を用いた無接点リレーを用いてもよい。
【0055】
したがって、変電所の高圧配電線路において地絡故障が発生した場合、交流地絡判定部が地絡故障した交流電圧の立上りを捉えて速やかに地絡故障の判別を行うと共に、誤動作防止部が直流地絡判別出力部の誤動作を阻止することができるので、変電所内の高圧配電線路の地絡故障が原因で直流高圧接地継電器が誤動作することがなくなり、それだけ信頼性が向上する。
【0056】
第8発明は、電気鉄道用直流変電所の接地マットと帰線の間に設けられてこの電位差を測定する電位差測定部と、前記電位差を用いて直流地絡を判定して直流地絡信号を出力する直流地絡判定出力部と、接地マットと帰線の間に生じる電位差が交流電路の地絡故障によるものであるときに、この交流地絡による電位差を直流地絡判定出力部によって誤検知させない程度に減衰させる交流地絡電圧抑制回路を、前記接地マットおよび帰線と直流地絡判定出力部の間に介在させて、直流地絡の判定出力を阻止する誤動作防止部とを備えることを特徴とする誤検知防止型直流高圧接地継電器を提供する。(請求項8)
【0057】
前記交流地絡電圧抑制回路は接地マットと帰線の間に生じる電位差が交流電路の地絡故障であるときにこれを直流地絡判定出力部によって誤検知させない程度に減衰させる減衰回路であることが好ましく、商用電源周波数の50~60Hzの6600Vを少なくとも2000V以下望ましくは400V以下に減衰させることができるローパスフィルタ、ノッチフィルタなどのパッシブフィルタであることが好ましいが、アクティブフィルタを用いても良い。
【0058】
前記誤動作防止部は、前記交流地絡電圧抑制回路を、前記接地マットおよび帰線と直流地絡判定出力部の間に介在させることにより、交流電路の地絡故障によって生じる接地マットと帰線の間の電位差を十分に減衰させた状態で、直流地絡判定出力部に入力させることにより、直流地絡の判定出力を阻止することができる。
【0059】
したがって、変電所の高圧配電線路において地絡故障が発生した場合であっても、誤動作防止部の交流地絡電圧抑制回路によって地絡故障した交流電圧を減衰させた状態で直流地絡判定出力部に入力させることにより直流地絡判別出力部の誤動作を阻止することができるので、変電所内の高圧配電線路の地絡故障が原因で直流高圧接地継電器が誤動作することがなくなり、それだけ信頼性が向上する。
【0060】
前記電位差測定部および直流地絡判定出力部は既存の直流高圧接地継電器のユニットであり、誤動作防止部はこの既存の直流高圧接地継電器と接地マットおよび帰線の間に介在するものである場合(請求項9)には、既存の直流高圧地絡継電器を接地マットおよび帰線の間に接続するときに、誤動作防止部を介在させることにより、高圧配電用変圧器の2次側線路の地絡故障の影響を受けることなく、直流地絡を速やかに判別して直流地絡信号を出力することができる。
【発明の効果】
【0061】
前述したように、本発明の誤検知防止型直流高圧接地継電器によれば、高圧配電用変圧器の2次側線路の地絡故障等による影響を速やかに判定して、誤動作防止部が直流地絡判定出力部の直流地絡判定の出力を阻止することができるので、直流高圧接地継電器の誤動作を防ぎ、列車の運行に対する障害を防止することができる。
【0062】
第1発明の誤検知防止型直流高圧接地継電器によれば、高速フーリエ変換部が、接地マットと帰線の間に発生する電位差を高速フーリエ変換によって周波数分析し、交流地絡判定部は商用電源の周波数成分の大きさを用いて交流地絡による地絡故障を正確かつ迅速に判定することができ、誤動作防止部は交流地絡による地絡故障発生時に直流地絡の判定出力を阻止することができる。
【0063】
第2発明の誤検知防止型直流高圧接地継電器によれば、高速フーリエ変換部が、接地マットと帰線の間に流れる電流を高速フーリエ変換によって周波数分析し、交流地絡判定部は商用電源の周波数成分の大きさを用いて交流地絡による地絡故障を正確かつ迅速に判定することができ、誤動作防止部は交流地絡による地絡故障発生時に直流地絡の判定出力を阻止することができる。
【0064】
第3発明の誤検知防止型直流高圧接地継電器によれば、実効値演算部が、接地マットと帰線の間に流れる電流を用いて実効値を演算し、この実効値の大きさを用いて交流地絡による地絡故障を正確かつ迅速に判定することができ、誤動作防止部は交流地絡による地絡故障発生時に直流地絡の判定出力を阻止することができる。
【0065】
第4発明の誤検知防止型直流高圧接地継電器によれば、接地マットと帰線の間の電位差が閾値を超えるときに交流地絡を速やかに判定でき、誤動作防止部は交流地絡による地絡故障発生時に直流地絡の判定出力を阻止することができる。
【0066】
第5発明の誤検知防止型直流高圧接地継電器によれば、接地マットと帰線の間の電路に流れる電流の大きさが閾値を超えるときに交流地絡を速やかに判定でき、誤動作防止部は交流地絡による地絡故障発生時に直流地絡の判定出力を阻止することができる。
【0067】
第6発明の誤検知防止型直流高圧接地継電器によれば、電位差測定部の出力が閾値を超えるときに、交流地絡を速やかに判定でき、誤動作防止部は交流地絡による地絡故障発生時に直流地絡の判定出力を阻止することができる。
【0068】
第7発明の誤検知防止型直流高圧接地継電器によれば、接地マットと帰線の間の電位差が閾値を超えるときに交流地絡を速やかに判定して、誤動作防止部のスイッチ部によって接地マットと帰線と直流地絡判定出力部の間の接続を切り離すことができ、交流地絡による地絡故障発生時に直流地絡の判定出力を阻止することができる。
【0069】
第8発明の誤検知防止型直流高圧接地継電器によれば、誤動作防止部の交流地絡電圧抑制回路によって交流地絡による電位差を減衰させて、直流地絡判定出力部によって誤検知させないことができるので、交流地絡による地絡故障発生時に直流地絡の判定出力を阻止することができる。
【0070】
前記誤動作防止部は既存の直流高圧接地継電器と接地マットおよび帰線の間に介在するものであることにより、既存の直流高圧接地継電器を活用して誤検知防止型直流高圧接地継電器を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【
図1】本発明にかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器が設置される直流電鉄用変電所の構成を示す図である。
【
図2】第1実施形態にかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器の構成を示す図である。
【
図3】第2実施形態にかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器の構成を示す図である。
【
図4】第3実施形態のかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器の構成を示す図である。
【
図5】第4実施形態にかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器の構成を示す図である。
【
図6】第5実施形態にかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器の構成を示す図である。
【
図7】第6実施形態にかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器の構成を示す図である。
【
図8】第7実施形態にかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器の構成を示す図である。
【
図9】第8実施形態にかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器の構成を示す図である。
【
図10】
図9の誤検知防止型直流高圧接地継電器における交流地絡電圧抑制回路の例を示す図である。
【
図11】第9実施形態にかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器が設置される直流鉄道用変電所の構成を示す図である。
【
図12】第9実施形態にかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器の構成を示す図である。
【
図13】第10実施形態にかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器の構成を示す図である。
【
図14】従来の直流高圧接地継電器を取り付ける電気鉄道用直流変電所の構成を示す図である。
【
図15】従来の直流高圧接地継電器の構成を示す図である。
【
図16】高圧配電線路の交流電圧波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
図1は本発明の誤検知防止型直流高圧接地継電器が設置される直流電鉄用変電所の構成を示す図であり、
図2は第1実施形態のかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器の構成を示す図である。以下、
図1~
図2を用いて、本発明の第1実施形態に係る誤検知防止型直流高圧接地継電器の具体的な実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0073】
図1に示すように、誤検知防止型直流高圧接地継電器1は、変電所2の接地マット3と帰線4の間に設けられ、接地マット3と帰線4の間の電位差を測定する電位差測定部5と、測定された電位差を用いて地絡故障を判定する直流地絡判定出力部6とを有する。また、変電所2内の電路は、高圧配電用変圧器7Aを介して信号機、照明、エスカレータ、券売機などの各施設の負荷Rに交流電力を供給する高圧電線路2Aと、整流器用変圧器7Bを介して整流器8によって直流変換された電力をき電線9に供給する直流配電線路(直流母線)2Bに分けられており、Baは高圧配電用変圧器7Aへの給電を遮断する遮断器、Bbは整流用変圧器7Bへの給電を遮断する遮断器、8Aはき電線9への電力供給を高速に遮断するための直流高速度遮断器である。
【0074】
図2に示すように、本発明の誤検知防止型直流高圧接地継電器1は、前記電位差測定部5と、直流地絡判定出力部6に加えて、接地マット3と帰線4の間に発生するレール電位を利用して充電される補助電源部10と、この補助電源部10に充電された電力を用いて前記電位差測定部5の出力を高速フーリエ変換演算する高速フーリエ変換部11と、この高速フーリエ変換部11によって演算される商用周波数成分が交流電路の地絡故障を判定する閾値を上回るときに交流地絡を判定する交流地絡判定部12と、この交流地絡判定部12によって交流地絡を判定するときに前記直流地絡判定出力部6による直流地絡の直流地絡信号Fdを阻止する誤動作防止部13とを備える。
【0075】
前記接地マット3は変電所2の地下に埋設されるものであるから、真の接地点Gには抵抗値3Rを介して接続されていると考えることができる。他方、帰線4は変電所3からは離れたところに配置されるレールは、真の接地点Gからレール漏れ抵抗4Rを介して接続されていると考えることができる。ここで、前記高圧電線路2A内の故障箇所Fにおいて地絡故障が発生したとすると、この故障箇所Fは最寄りの接地マット3と抵抗2Rによって接続されていると考えられる。
【0076】
前記電位差測定部5は帰線4から接地マット3の間にかかる電圧を分圧する分圧抵抗5Aと、帰線4から接地マット3を順方向として電位差測定部5に並列に接続された整流器5Bとを備え、帰線4を基準として接地マット3の正極性の電位差を測定するものである。
【0077】
前記直流地絡判定出力部6は電位差測定部5によって測定された電位差が直流地絡の基準となる整定値に達し、直流地絡故障であることを判定する直流地絡判定部6Aと、この直流地絡判定部6Aによって判定された判定結果を直流地絡信号Fdとして出力する地絡判定出力部6Bとを備え、地絡判定出力部6Bによる直流地絡信号Fdの出力部に前記誤動作防止部13を形成している。なお、6Cは直流地絡信号Fbを目視確認出来るようにLEDなどを用いて形成された地絡表示部である。
【0078】
補助電源部10は例えば電気二重層コンデンサと、この電気二重層コンデンサの充放電制御回路を備え、常に充電されると共に寿命の長いものであることが好ましい。すなわち、列車走行中には接地マット3と帰線4の間にはおよそ200~300Vのレール電圧が発生するが、このレール電圧を利用して電気二重層コンデンサを充電することが可能である。これにより、前記高速フーリエ変換部11は補助電源部10に充電させた電力を用いて高速フーリエ変換の演算処理を行うことが可能となる。また、本実施形態では補助電源部10に充電された電力を用いて交流地絡判定部12、誤動作防止部13および直流地絡判定出力部6にも電力供給を行う。これにより、外部からの電源供給が途絶した状態でも地絡故障を正しく判定することが可能となる。
【0079】
高速フーリエ変換部11は電位差測定部5の出力の高速フーリエ変換を行うことにより、その出力を交流地絡判定部12に供給する。この高速フーリエ変換の演算処理は少なくとも商用電源の周波数成分(すなわち商用周波数成分)において行うものであり、日本の関西地方においては60Hz、関東地方においては50Hzの周波数成分である。この高速フーリエ変換を商用電源の1周期にあたる時間(すなわち16.7msまたは20ms)演算処理した商用周波数成分は、様々なノイズ成分が含まれる接地マット3と帰線4の間の電位差に、高圧電線路2Aの地絡故障による交流電圧が確実に含まれていることを判別するための指針となる。なお、高速フーリエ変換部11はプログラマブルロジックデバイス(FPGA)などのハードウェアを駆使して形成してもよいが、マイクロコンピュータなどの演算処理装置によって実行可能な高速フーリエ変換プログラムによって実現することにより製造コストの削減を図ることができる。
【0080】
同様に、前記の各部6,12,13もマイクロコンピュータなどの演算処理装置によって実行可能なプログラム(図示していないが、直流地絡判定プログラム、交流地絡故障判定プログラム、誤動作防止プログラムなど)を用いて実現してもよい。
【0081】
交流地絡判定部12は高圧電線路2Aの地絡故障を判定するものであり、前記高速フーリエ変換部11が演算した商用周波数成分の大きさが交流電路の地絡故障を判定する閾値を上回るときに交流地絡を判定するものである。この閾値は、前記直流地絡判定部6Aが直流地絡を判定する整定値である400~600Vを遙かに越えて2000Vに達するものであるときに、誤検知の可能性があるために、この交流地絡を判定する。なお、高速フーリエ変換を行なった商用周波数成分を用いることにより、数十ms程度の短い時間で確実に高圧電線路2Aの地絡故障を判定することが可能であるが、高速フーリエ変換部11によって商用周波数の倍周波数成分を演算させ、倍周波数成分の大きさを判定基準に用いてさらなる高速化を図ってもよい。
【0082】
誤動作防止部13は前記直流地絡判定出力部6による直流地絡信号Fdの出力部において、前記交流地絡判定部12が高圧電線路2Aの地絡故障を判定している場合には、直流地絡の直流地絡信号Fdを阻止するものであり、より具体的にはスイッチ回路を用いて直流地絡信号Fdを遮断するものである。これにより、直流地絡判定部6Aが高圧電線路2Aの地絡故障による電位差の変動を直流地絡発生と判定することがあったとしても、直流地絡の直流地絡信号Fdが出力されることがないように構成している。
【0083】
なお、誤動作防止部13は直流地絡判定出力部6による直流地絡信号Fdを阻止できるものであればよく、直流地判定部6Aと電位差測定部5の間、または、直流地絡判定部6Aと地絡判定出力部6Bの間において、信号の遮断を行うものであってもよい。
【0084】
上記構成の誤検知防止型直流高圧接地継電器1を用いることにより、直流配電線路(直流母線)2Bにおいて直流地絡故障が発生した場合、これに伴って生じる地絡故障電流の影響によって帰線4に対する接地マット3の電位が急激に高くなり、この電位差を電位差測定部5が測定する。直流地絡判定出力部6はこの電位差が地絡判定の整定値(例えば400V~600V)を越えるときに直流地絡の直流地絡信号Fdを出力することにより、高速遮断器8Aおよび遮断器Bbを直ちに遮断して大きな故障電流が流れることによる被害を最小限におさえることができる。したがって、高圧電線路2Aには悪影響を及ぼすことがない。
【0085】
他方、変電所2の高圧電線路2Aの故障箇所Fにおいて交流の地絡故障が発生した場合、この故障箇所Fに供給される電力が抵抗2Rを介して接地マット3に供給されることになり、接地マット3に電源電圧(3300Vまたは6600V)に近い交流電圧が印加されることになる。このとき、電位差測定部5は極めて大きな交流の電位差(整流器5Bによって半波整流された波形)を測定する。
【0086】
前記高速フーリエ変換部11は電位差測定部5によって測定された電位差の商用周波数成分を常時分析し、交流の地絡故障が発生した時点から少なくとも商用電源の1周期(16.6ms~20ms)の間には交流地絡の商用周波数成分が大きく表れる。前記交流地絡判定部は、高速フーリエ変換部11によって求められる商用周波数成分があらかじめ定められた閾値を越えるときに、高圧電線路2Aにおける地絡故障を判定し、誤動作防止部13は直流地絡判定出力部6による直流地絡の直流地絡信号Fdを阻止する。
【0087】
したがって、交流地絡が発生すると誤動作防止部13が先に高圧電線路2Aにおける地絡故障を判定し、たとえ直流地絡判定出力部6が大きな交流電位差によって誤動作することがあったとしても、直流地絡の直流地絡信号Fdを阻止することによって、誤動作を防止することができる。なお、図示を省略するが、高圧電線路2A側にも地絡故障を検出して遮断器Baを遮断するので、遮断器Baが遮断すると接地マット3に交流電圧が印加されなくなり、接地マットの電位が直流地絡判定出力部6による直流地絡の整定値以下となって直流地絡の検出を行なうことができる状態に回復する。
【0088】
つまり、本実施形態の誤検知防止型直流高圧接地継電器1では、高圧電線路2Aにおける地絡故障によって直流地絡の直流地絡信号Fdを出力するという誤動作を無くすことができるので、高圧電線路2Aにおける地絡故障によって直流電線路2Bへの給電が遮断されることもなく、列車の運行に悪影響を与えることが無くなる。
【0089】
図3は第2実施形態にかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器15の構成を示す図である。
図3において、
図2に示す誤検知防止型直流高圧接地継電器1と異なる点は、接地マット3と帰線4の間の電路に流れる電流を測定する電流測定部16を備える点と、前記高速フーリエ変換部11が電流測定部16よって測定された交流電流の周波数解析を行うものである点である。その他の構成要素は
図2を用いて既に詳述したものと同一または同等であるから、詳細な説明を省略する。
【0090】
前記電流測定部16は例えば電磁誘導によって1次側の電路に流れる電流に励磁されて2次側に電流が流れる変流器を用い、2次側の電流の大きさを計測可能な大きさに変換して測定するものであることが好ましい。すなわち、変流器の一次側に流れる電流に変化がある場合、これによって励磁された磁束密度の変化により、二次側には巻数比によって除算された大きさの電流が流れるので、交流地絡が発生した時には交流地絡の大きさに比例する2次電流が流れ、これを測定可能である。
【0091】
変流器によれば、接地マット3と帰線4の間の電路に常に変動する交流電流が流れるときに、この電流を効率よく変換して測定することができる。また、接地マット3と帰線4の間の電路に直流の電流が流れる場合には、変流器は直流電流を伝達しないので、直流電流を検出することがない。加えて、接地マット3と帰線4の間の電路に流れる電流は正逆両方向に流れるので、高圧電線路2Aにおける地絡故障が発生したときに発生する交流電流の商用周波数成分を正確に分析することができる。
【0092】
すなわち、交流地絡判定部6は高圧電線路2Aにおける地絡故障をより確実に判別することができ、誤動作防止部13は直流地絡判定出力部6が交流の地絡故障に伴う誤動作による判定出力を迅速かつ確実に阻止することができる。
【0093】
図4は第3実施形態にかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器20の構成を示す図である。
図4において、
図3に示す誤検知防止型直流高圧接地継電器1と異なる点は、電流測定部16によって測定される電流から実効値を演算する実効値演算部21を備え、交流地絡判定部12は実効値演算部21によって演算される実効値が交流電路の地絡故障を判定する閾値を上回るときに交流地絡を判定するものである点である。その他の構成要素は
図2~
図3を用いて既に詳述したものと同一または同等であるから、詳細な説明を省略する。
【0094】
前記実効値演算部21は前記補助電源部10に充電させた電力を用いて実効値の演算処理を行うことにより、外部からの電力供給が途絶した状況においても実効値演算を常時行うことができる。なお、実効値は常に正の値となり、商用周波数の倍の周期で変動する値となる。したがって、実効値演算部21が電流測定部16によって測定された交流電流の実効値の平均値を求めることにより、より迅速に高圧電線路2Aにおける地絡故障の大きさを示す指針を得ることができる。
【0095】
また、前記実効値演算部21は電子回路を組合わせて実効値を求めるものであることが考えられるが、例えば演算処理装置と、この演算処理装置によって実行可能な実効値演算プログラムによって実現することにより、製造コストの削減を図ってもよい。
【0096】
図5は第4実施形態にかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器25の構成を示す図である。
図5において、
図2~
図4に示す誤検知防止型直流高圧接地継電器1,15,20と異なる点は、補助電源部10を無くした点と、接地マット3と帰線4の間の電位差が交流電路の地絡故障を判定する予め定められた閾値(例えば直流き電電圧1500V)を上回るときに交流地絡を判定する交流地絡判定部26を備える点である。その他の点は
図1~
図3を用いて説明したものと同一または同等であるから、その説明を省略する。
【0097】
なお、交流地絡判定部26は、例えば接地マット3と帰線4の間に介在させた分圧抵抗と、この分圧抵抗によって分圧された電圧が入力の閾値を越えたときにスイッチ切替するスイッチング回路とを備えるものであることが考えられ、このスイッチング回路は、例えばリレー回路である。すなわち、電圧調整された交流電圧をリレー回路の交流励磁コイルに供給することによりリレーコイルの励磁電圧を閾値とし、リレー回路のb接点を前記誤動作防止部13として、直流地絡判定出力部6の出力側に介在させることにより、可能な限りの簡素な構成で交流地絡判定部26および誤動作防止部13を構成することが可能となる。
【0098】
本実施形態のように、交流地絡判定部26において高度な演算処理を行なう必要のない受動素子によって構成することにより、補助電源部10を無くすことが可能となり、それだけ製造コストの削減を図ることが可能となる。
【0099】
図6は第5実施形態にかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器30の構成を示す図である。
図6において、
図4に示す誤検知防止型直流高圧接地継電器20と異なる点は、補助電源部10および実効値演算部21を無くした点と、電流測定部16によって測定される電流に高度な演算処理を加えることなく、交流電路の地絡故障を判定する予め定められた閾値(例えば、直流き電電圧に相当する電流)を上回るときに交流地絡を判定する交流地絡判定部31を備える点である。その他の点は
図4を用いて既に説明した第3実施形態と同一であるから、その詳細な説明を省略する。
【0100】
本実施形態のように、交流地絡判定部31を閾値と比較するだけの簡素な構成とすることにより、高度な演算処理を行なう必要のない受動素子によって構成することができ、補助電源部10を無くすことが可能となり、それだけ製造コストの削減を図ることが可能となる。
【0101】
図7は第6実施形態にかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器35の構成を示す図である。
図7において、
図2に示す誤検知防止型直流高圧接地継電器1と異なる点は、補助電源部10および高速フーリエ変換部11を無くした点と、電位差測定部5によって測定された電位差が交流電路の地絡故障を判定する閾値(例えば直流き電電圧1500V)を上回るときに交流地絡を判定する交流地絡判定部36を備える点である。その他の構成要素は
図2を用いて既に詳述したものと同一または同等であるから、その詳細な説明を省略する。
【0102】
本実施形態のように、本実施形態の交流地絡判定部36は、閾値と比較するだけの簡素な構成とすることにより、高度な演算処理を行なう必要のない受動素子によって構成することができ、補助電源部10を無くすことが可能となり、それだけ製造コストの削減を図ることが可能となる。
【0103】
図8は第7実施形態にかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器40の構成を示す図である。
図8において、
図5に示す誤検知防止型直流高圧接地継電器25と異なる点は、高圧電線路2Aにおける地絡故障が発生するときに直流地絡判定出力部6が誤動作することがないように、直流地絡判定出力部6を接地マット3および帰線4と完全に切り離す点にある。
【0104】
本実施形態の誤検知防止型直流高圧接地継電器40は、接地マット3と帰線4の間に生じる電位差が交流電路の地絡故障を判定する閾値(例えば直流き電電圧1500V)を上回るときに交流地絡を判定する交流地絡判定部41と、この交流地絡判定部41が交流地絡を判定するときに接地マット3および帰線4と前記直流地絡判定出力部6の間の接続を切り離すスイッチ部42Aにより前記直流地絡判定出力部6による直流地絡信号Fdの判定出力を阻止する誤動作防止部42とを備える。
【0105】
より具体的には、誤動作防止部42はリレー回路であり、分圧回路41Aを介して交流励磁のリレーコイル41Bに交流電圧が印加され、リレーコイル41Bに供給される交流電圧が閾値を超えるときにスイッチ部42Aのb接点が開くことにより接地マット3および帰線4から電位差測定部5を切り離す。その他の部材は
図5と同一又は同等の部材に同じ符号を付すことにより、その詳細な説明を省略する。
【0106】
第7実施形態の誤検知防止型直流高圧接地継電器40によれば、接地マット3と帰線4の間に高圧電線路2Aの地絡故障による交流電圧が印加されていない場合には、リレーコイル41Bに電位差が印加されることがないので、スイッチ部42Aが接地マット3と帰線4の間に電位差測定部5を接続しているので、直流配電線路2Bに地絡故障が発生すると直流地絡判定出力部6がこれを検知して直流地絡信号Fdを出力する。
【0107】
他方、接地マット3と帰線4の間に高圧電線路2Aの地絡故障による交流電圧が印加された場合は、この交流電圧がリレーコイル41Bの動作閾値を超えるときに直流地絡判定出力部6が動作する前にスイッチ部42Aのb接点が開く。すなわち、誤動作防止部42によって、直流地絡判定部6が接地マット3と帰線4の間から切り離されて、その誤動作を確実に防止することができる。
【0108】
図9は第8実施形態にかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器45の構成を示す図である。
図9において、
図8に示す誤検知防止型直流高圧接地継電器40と異なる点は、前記交流地絡判定部41および誤動作防止部42の代わりに、接地マット3と帰線4の間に生じる電位差が交流電路の地絡故障によるものであるときに、この交流地絡による電位差Viを直流地絡判定出力部6によって誤検知させない程度に減衰させた電位差Voを出力させる交流地絡電圧抑制回路47を、前記接地マット4および帰線3と直流地絡判定出力部5の間に介在させて、直流地絡信号Fdの判定出力を阻止する誤動作防止部46を備える点である。その他の部分は
図8を用いて既に詳述したものと同一であるから、同一または同等の部材に同じ符号を付すことにより、その詳細な説明を省略する。
【0109】
図10は前記交流地絡電圧抑制回路47の一例を示す図である。
図10に示すように、前記交流地絡電圧抑制回路47は例えば電位差Viの商用電源の交流電圧を減衰させるものであることが考えられ、例えば商用電源の周波数において、たとえ6600Vの交流の電位差Viが印加されたとしても直流地絡判定出力部6の整定値を下回る程度に減衰した電位差Voに変換するフィルタ回路である。
【0110】
図10(A)は前記交流地絡電圧抑制回路の一例としてのローパスフィルタ回路の構成を示す図である。
【0111】
図10(A)に示すように、前記交流地絡電圧抑制回路47の一例としてのローパスフィルタ回路47Aは、直列接続された可変抵抗RおよびコンデンサCと、可変抵抗Rの一端から中間点の間に接続されるコイルLとを備える。このローパスフィルタ回路47Aによれば電位差Viの交流成分は可変抵抗Rの中間点によって分割された抵抗R1,R1の大きさとコイルLの大きさおよびコンデンサCの容量によって定まる特性で減衰させることができる。なお、各素子R1,R2,L.Cの大きさは、6600Vの商用電源が電位差Viに印加されたとしても商用周波数において交流の出力電位差Voを直流地絡判定出力部6の整定値以下となり、かつ、直流地絡が発生したときにおける電位差Viの立上りの遅れを最小とする大きさに調整する。
【0112】
また、本例では抵抗R1に平行にコイルLを設けることにより、直流成分の負荷抵抗を可能な限り小さくするようにしているが、このコイルLを省略することも可能である。つまり、本発明の交流地絡電圧抑制回路47は前記ローパスフィルタ回路47Aの回路構成からコイルLを除いた構成であってもよいことはいうまでもない。
【0113】
図10(B)は前記交流地絡電圧抑制回路の一例としてのπ型ローパスフィルタ回路の例を示す図である。
【0114】
図10(B)に示すように、前記交流地絡電圧抑制回路47の一例としてのπ型ローパスフィルタ回路47Bは、順次接続された抵抗R3と、コイルL1と、コンデンサC1と、このコンデンサC1に並列に、順次接続された抵抗R4と、コイルL2と、コンデンサC2とを備え、このコンデンサC1の両端の電位差Viを出力するものである。
【0115】
本例のように、ローパスフィルタ回路を複数段組合わせたπ型ローパスフィルタ回路47を用いることにより、周波数による減衰率を大きくすることができる。つまり、商用電源の交流地絡に伴う電位差Viを効率的に減衰させて確実に検出されない程度に十分に減衰させた電位差Voに変換することができると共に、直流の電位差の減衰を抑えることができる。
【0116】
図10(C)は前記交流地絡電圧抑制回路の一例としてのノッチフィルタ回路の例を示す図である。
【0117】
図10(C)に示すように、前記交流地絡電圧抑制回路47の一例としてのノッチフィルタ回路47Cは、順次接続された抵抗R5,R6と、これらの抵抗R5,R6の間に接続されるコンデンサC3と、これらの抵抗R5,R6に対して平行に順次接続されたコンデンサC4,C5と、これらのコンデンサC4,C5の間に接続される抵抗R7とからなり、商用電源周波数のみを効率的に減衰させるものである。したがって、商用電源の交流地絡に伴う電位差Viを効率的に減衰させて確実に検出されない程度に十分に減衰させることができると共に、直流の電位差の減衰がほとんど生じない程度に抑えることができる。
【0118】
図11は第9実施形態にかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器が設置される直流鉄道用変電所の構成を示す図であり、
図12は第9実施形態にかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器の構成を示す図である。
【0119】
図11に示すように、第9実施形態にかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器50は、変電所2の接地マット3と帰線4の間に設けられた基台51を介して、従来の直流高圧接地継電器90のユニットを接続するものである。また、直流高圧接地継電器90は、接地マット3と帰線4の間の電位差を測定する電位差測定部5と、測定された電位差を用いて地絡故障を判定して直流地絡信号Fdを出力する直流地絡判定出力部6とを有するものである。
【0120】
変電所2内の電路は、高圧配電用変圧器7Aを介して信号機、照明、エスカレータ、券売機などの各施設の負荷Rに交流電力を供給する高圧電線路2Aと、整流用変圧器7Bを介して整流器8によって直流変換された電力をき電線9に供給する直流配電線路2Bに分けられており、Baは高圧配電用変圧器7Aへの給電を遮断する遮断器、Bbは整流用変圧器7Bへの給電を遮断する遮断器、8Aはき電線9への電力供給を高速に遮断するための直流高速度遮断器である。
【0121】
前記接地マット3は変電所2の地下に埋設されるものであるから、真の接地点Gには抵抗値3Rを介して接続されていると考えることができる。他方、帰線4は変電所3からは離れたところに配置されるレールは、真の接地点Gからレール漏れ抵抗4Rを介して接続されていると考えることができる。ここで、前記高圧電線路2A内の故障箇所Fにおいて地絡故障が発生したとすると、この故障箇所Fは最寄りの接地マット3と抵抗2Rによって接続されていると考えられる。
【0122】
図12に示すように、第9実施形態の誤検知防止型直流高圧接地継電器50において、基台51は、高圧電線路2Aにおける地絡故障が発生するときに直流高圧接地継電器90の直流地絡判定出力部6が誤動作することがないように、直流高圧接地継電器90のユニットを接地マット3および帰線4と完全に切り離すものである。
【0123】
また、電位差測定部5は帰線4から接地マット3の間にかかる電圧を分圧する分圧抵抗5Aと、帰線4から接地マット3を順方向として電位差測定部5に並列に接続された整流器5Bとを備える。なお、6Cは直流地絡信号Fbを目視確認出来るようにLEDなどを用いて形成された地絡表示部である。
【0124】
前記基台51は、接地マット3と帰線4の間に生じる電位差が交流電路の地絡故障を判定する閾値(例えば直流き電電圧1500V)を上回るときに交流地絡を判定する交流地絡判定部52と、この交流地絡判定部52が交流地絡を判定するときに接地マット3および帰線4と直流高圧接地継電器90(その直流地絡判定出力部6)の間の接続を切り離すスイッチ部53Aにより前記直流地絡判定出力部6による直流地絡信号Fdの判定出力を阻止する誤動作防止部53とを備える。
【0125】
より具体的には、誤動作防止部53はリレー回路であり、分圧回路52Aを介して交流励磁のリレーコイル52Bに交流電圧が印加され、リレーコイル52Bに供給される交流電圧が閾値を超えるときにスイッチ部53Aのb接点が開くことにより接地マット3および帰線4から電位差測定部5を切り離す。
【0126】
前記直流高圧接地継電器90のユニットは端子51A、51Bおよびケーブル51Cを介して基台51に接続されることにより、直流高圧接地継電器90は誤動作防止部53を介して接地マット3と帰線4の間に接続される。このように、直流高圧接地継電器90と基台51を接続する部分に端子51A,51Bおよびケーブル51Cを介在させることより、直流高圧接地継電器90のユニットを容易に取り換え可能であるが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、ケーブル51Cを省略して端子51A,51Bが互いに嵌合するように接続されるものであってもよく、さらには、端子51A,51Bを省略して直流高圧接地継電器90のユニットが基台51に接続されていてもよい。
【0127】
第9実施形態の誤検知防止型直流高圧接地継電器50によれば、接地マット3と帰線4の間に高圧電線路2Aの地絡故障による交流電圧が印加されていない場合には、リレーコイル52Bに電位差が印加されることがないので、スイッチ部53Aが接地マット3と帰線4の間に電位差測定部5を接続しているので、直流配電線路2Bに地絡故障が発生すると直流地絡判定出力部6がこれを検知して直流地絡信号Fdを出力する。
【0128】
他方、接地マット3と帰線4の間に高圧電線路2Aの地絡故障による交流電圧が印加された場合は、この交流電圧がリレーコイル52Bの動作閾値を超えるときに直流地絡判定出力部6が動作する前にスイッチ部53Aのb接点が開く。すなわち、誤動作防止部53によって、直流高圧接地継電器90のユニットが接地マット3と帰線4の間から切り離されて、その誤動作を確実に防止することができる。
【0129】
図13は第10実施形態にかかる誤検知防止型直流高圧接地継電器55の構成を示す図である。
図13において、
図12に示す誤検知防止型直流高圧接地継電器50と異なる点は、基台56内に、前記交流地絡判定部52および誤動作防止部53の代わりに、誤動作防止部57を設けた点である。
【0130】
前記誤動作防止部57は、接地マット3と帰線4の間に生じる電位差が交流電路の地絡故障によるものであるときに、この交流地絡による電位差Viを直流地絡判定出力部6によって誤検知させない程度に減衰させた電位差Voを出力させる交流地絡電圧抑制回路47を備える。また、前記直流高圧接地継電器90のユニットは端子56A、56Bおよびケーブル56Cを介して基台56に接続される。しかしながら、既に詳述したようにこれらの部材56A,56B,56Cは適宜省略可能であることはいうまでもない。その他の部分は
図12を用いて既に詳述したものと同一であるから、同一または同等の部材に同じ符号を付すことにより、その詳細な説明を省略する。また、交流地絡電圧抑制回路47は、
図10を用いて説明した種々の構成が考えられる。
【0131】
基台56に前記構成の誤動作防止部57を介在させることにより、接地マット3と帰線4の間に高圧電線路2Aの地絡故障によって6600V程度の大きな交流電圧が印加されたとしても、この交流成分が誤動作防止部57によって十分に減衰されるので、直流地絡判定部6が誤動作することがない。
【符号の説明】
【0132】
1,15,20,25,30,35,40,45,50,55 誤検知防止型直流高圧接地継電器
2 変電所
2A 高圧電線路
2B 直流配電線路
3 接地マット
4 帰線
5 電位差測定部
6 直流地絡判定出力部
7 整流器用変圧器
8 整流器
10 補助電源部
11 高速フーリエ変換部
12,26,31,36,41,52 交流地絡判定部
13,42,46,53,57 誤動作防止部
16 電流測定部
21 実効値演算部
42A、53A スイッチ部
47 交流地絡電圧抑制回路
Fd 直流地絡信号