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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035325
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】化粧材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 38/06 20060101AFI20230306BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20230306BHJP
   E04F 13/07 20060101ALI20230306BHJP
   E04F 13/08 20060101ALI20230306BHJP
   B29C 59/02 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
B32B38/06
B32B3/30
E04F13/07 B
E04F13/08 A
B29C59/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142097
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000550
【氏名又は名称】オカモト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 幸佑
(72)【発明者】
【氏名】池田 和則
【テーマコード(参考)】
2E110
4F100
4F209
【Fターム(参考)】
2E110AA57
2E110AB04
2E110AB23
2E110AB46
2E110BA03
2E110BB02
2E110BB22
2E110BB23
2E110BB32
2E110CA03
2E110CA04
2E110DC21
2E110EA09
2E110GA32W
2E110GB46W
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100DD01
4F100DD01A
4F100DD08
4F100DD08A
4F100EJ17
4F100EJ39
4F100GB08
4F100GB33
4F100HB00
4F100HB00C
4F100HB01
4F100HB21
4F100HB21A
4F100JK14
4F100JN01
4F100JN01B
4F209AF01
4F209AF10
4F209AG03
4F209AG05
4F209PA02
4F209PB01
4F209PC05
4F209PN03
4F209PN06
4F209PQ11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低グロスな自然に近い化粧材を提供する。
【解決手段】エンボス加工により凹凸模様が転写される化粧材であって、基材1の表面に形成される凹凸模様2と、凹凸模様の全面に亘り不規則に配列するように形成される多数の微細ドット3と、を備え、多数の微細ドットは、高さが5~50μmで基材の表面に露出することを特徴とする化粧材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンボス加工により凹凸模様が転写される化粧材であって、
基材の表面に形成される前記凹凸模様と、
前記凹凸模様の全面に亘り不規則に配列するように形成される多数の微細ドットと、を備え、
前記多数の微細ドットは、高さが5~50μmで前記基材の前記表面に露出することを特徴とする化粧材。
【請求項2】
前記微細ドットが、前記凹凸模様の前記全面から略半球状に突出することを特徴とする請求項1記載の化粧材。
【請求項3】
前記基材が透明又は半透明な材料からなり、前記基材を透過するように意匠面の印刷層が設けられることを特徴とする請求項1又は2記載の化粧材。
【請求項4】
エンボス版から凹凸模様が転写される化粧材の製造方法であって、
前記エンボス版の版面に前記凹凸模様と対応してエンボスパターンを形成する第一彫刻工程と、
前記エンボスパターンの全体に多数の微細凹型部を形成する第二彫刻工程と、
前記版面を基材の表面に圧接する型押し工程と、を含み、
前記第二彫刻工程では、多数の微細凹型部をそれぞれの深さが5~50μmで且つ前記エンボスパターンの全体に沿って不規則に配列し、
前記型押し工程では、前記エンボスパターン及び前記微細凹型部が凹凸反転して、前記基材の前記表面に前記凹凸模様が形成されるとともに、前記凹凸模様の全面に亘って前記多数の微細ドットが露出して形成されることを特徴とする化粧材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材用化粧シート,車両用内装表皮材,ラミネートフィルム等に用いられる化粧材、及び、化粧材を生産するための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンボス加工により凹凸模様が転写される化粧材がある。意匠性の優れた木目、石目、布目、皮革目等を有する化粧材を製造するために使用されるエンボス版の製造方法は、金属基材の表面にエッチングにより万線状微細凹凸を形成する工程と、万線状微細凹凸が形成された金属基材の表面をエッチングして原形の表面形状に対応した凸部及び凹部を形成する工程と、凹部のみにサンドブラストで砂目状凹凸が形成される工程とからなる(例えば、特許文献1参照)。
金属基材の表面において木材組織の道管、仮道管等に対応した凸部の頂部には、深さが5~30μm、間隔は20~100μmの平行状線群からなる万線状微細凹凸が形成される。作製する木目、石目、布目、皮革目等の化粧材の種類により、その原形の表面状態を再現するのに最も適した万線状微細凹凸を使用することで、表面光沢、表面形状、テクスチャー等が忠実に再現される。
金属基材の表面において凹部の内面には、粒子径が1~100μm程度、詳しくは#150(63~106μm)の粒子を用いたサンドブラスト処理で砂目状凹凸が形成される。
エンボス版が取り付けられエンボス機を使用して、透明なポリ塩化ビニル樹脂等からなる表面基材層の表面にエンボス加工を行うと同時に、印刷インキ層が設けられた裏面基材層と表面基材層を接着積層した後に、エンボス加工された表面の全面に透明な保護層を設けて化粧材が完成する。つまり、エンボス加工で化粧材は、表面基材層の表面においてエンボス版の凸部と対応する箇所に、エッチングによる万線状微細凹凸が凹状に形成され、エンボス版の凹部と対応する箇所には、サンドブラストによる砂目状凹凸が凸状に形成される。
保護層は、化粧材の表面物性を改良し、表面光沢を調整するものであり、保護層として使用される熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂に炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、アルミナ等の無機微粉末を添加している。
これによって化粧材は、木材組織に対応した表面凹凸を備え、見る方向により強弱が変化する表面光沢を有し、表面の磨耗により木材の質感が損なわれ難くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08-011207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の化粧材では、サンドブラストによる砂目状凹凸の粗さが小さくなり過ぎて反射光が強くなるため、砂目状凹凸の艶や光沢(グロス)が高くなって自然のテクスチャーが得られないだけでなく、表面基材層に少し熱をかけると、エンボス加工した砂目状凹凸がフラットに戻る(シボ戻り)を生じ易いという問題があった。
さらに、エンボス加工した万線状微細凹凸や砂目状凹凸の表面全体に積層された保護層の材料に微粉末(フィラー)が含まるため、濃色の場合には白ボケが発生し易いという問題があった。
この問題点を解決するために保護層の積層を止めると、特に粗さが細かい砂目状凹凸が露出するため、他の物との接触により損傷し易くてスクラッチ性に劣るとともに、砂目状凹凸の傷付きにより光沢やツヤが変化することや、変色して見えるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決するために本発明に係る化粧材は、エンボス加工により凹凸模様が転写される化粧材であって、基材の表面に形成される前記凹凸模様と、前記凹凸模様の全面に亘り不規則に配列するように形成される多数の微細ドットと、を備え、前記多数の微細ドットは、高さが5~50μmで前記基材の前記表面に露出することを特徴とする。
また、このような課題を解決するために本発明に係る化粧材の製造方法は、エンボス版から凹凸模様が転写される化粧材の製造方法であって、前記エンボス版の版面に前記凹凸模様と対応してエンボスパターンを形成する第一彫刻工程と、前記エンボスパターンの全体に多数の微細凹型部を形成する第二彫刻工程と、前記版面を基材の表面に圧接する型押し工程と、を含み、前記第二彫刻工程では、多数の微細凹型部をそれぞれの深さが5~50μmで且つ前記エンボスパターンの全体に沿って不規則に配列し、前記型押し工程では、前記エンボスパターン及び前記微細凹型部が凹凸反転して、前記基材の前記表面に前記凹凸模様が形成されるとともに、前記凹凸模様の全面に亘って前記多数の微細ドットが露出して形成されることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明の実施形態に係る化粧材の全体構成を示す説明図であり、(a)が化粧材の部分的な縦断正面図、(b)が化粧材の一部を撮影した写真、(c)が部分的な拡大写真である。
図2】微細ドットの配列状態を示す拡大写真である。
図3】微細ドットの形状を示す説明図であり、(a)が化粧材の一例の部分拡大縦断正面図、(b)が化粧材の他の例の部分拡大縦断正面図である。
図4】本発明の実施形態に係る化粧材の製造方法の全体構成を示す説明図であり、(a)が彫刻工程の縦断正面図、(b)がエッチング工程の縦断正面図、(c)が型押し工程の縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る化粧材Aは、図1図3に示すように、ユニットバスの内壁面やシステムキッチンのパネル壁面などの建材用化粧シート,インストルメントパネル(ダッシュボード)や座席シートや加飾部位などの車両用内装部品等に用いられるシート状やフィルム状の車両用内装表皮材、又は鋼板などの下地材に貼り合わされるラミネートフィルムである。
このような化粧シート,表皮材,ラミネートフィルムなどの中には、エンボス版10を用いたエンボス加工によって、凹凸柄を基材1の表面1aに転写した化粧材Aがある。
詳しく説明すると、本発明の実施形態に係る化粧材Aは、基材1と、基材1の表面1aに形成される凹凸模様2と、凹凸模様2の全面2aに亘って形成される多数の微細ドット3と、を主要な構成要素として備えている。
【0008】
基材1は、複数の層からなる積層構造又は単層構造に形成され、木目などの意匠面を有する。
基材1の具体例として図1(a)~(c)に示される表皮材の場合には、エンボス加工される表側層1bと、裏側層1cと、表側層1b及び裏側層1cの間に挟み込まれた中間層1dとの三層の積層構造としている。
表側層1bは、ポリ塩化ビニル(PVC)などのオレフィン系樹脂又はその他の合成樹脂からなるシート又はフィルムあり、透明や半透明の材料を用いることが好ましい。中間層1dは、意匠面となる画像がインクジェット印刷,グラビア印刷などの印刷法又はプリントなどにより刷られた印刷層として用いることも可能である。
特に、基材1が粘着性の化粧シートである場合には、裏側層1cの裏面側に粘着加工(ノリ引き)を行い、その後に、剥離紙が着脱可能に貼着される。
また、基材1がラミネートフィルムの場合には、エンボス加工した透明や半透明の表側層1bの裏面に、中間層1dとして粘着剤が塗布されて粘着加工(ノリ引き)を行い、裏側層1cとして剥離フィルムが着脱可能に貼着される。その使用時には、ユーザーが剥離フィルム(裏側層1c)を剥がして、インクジェット印刷,グラビア印刷などの印刷法又はプリントなどにより刷られた印刷媒体に貼り付けることにより、印刷フィルムなどの任意な印刷媒体が保護される。
なお、基材1の他の例として図示しないが、四層以上の積層構造にすることや単層構造にすることなどの変更が可能である。
【0009】
凹凸模様2は、意匠面として木目,石目,布目,皮目(皮革目),梨地などの柄と対応するように形成された凹凸柄であり、例えば意匠面が木目調の場合には、木材組織の道管や仮道管などの自然に近い状態で凹凸柄が形成される。
凹凸模様2は、凹凸柄と反転して形成された後述するエンボス版10の版面10aを基材1の表面1aに接触させ、加圧のみ又は加圧及び加熱することにより、基材1の表面1aがエンボス加工されて、基材1の表面1aに凹凸柄が転写される。
凹凸模様2の高低差は、木目調の場合には約1~100μm,梨地の場合には約1~50μm,皮目調の場合には約1~300μmなど、凹凸柄の種類に応じてそれぞれ適正な範囲で設定される。
【0010】
多数の微細ドット3は、意匠面と関係なく凹凸模様2の全面2aに亘り配置されて、基材1の表面1aに露出する。
微細ドット3のサイズは、サンドブラストによる特許文献1に記載の「砂目状凹凸」に比べて大きく設定されるものの、図1(b)に示されるように、微細ドット3の有無は肉眼による認識が困難であり、図1(c)や図2に示されるように、顕微鏡などで拡大しないと認識できない。
詳しく説明すると、微細ドット3の大きさ(直径)は、約10~150μm、詳しくは約10~50μmに設定される。微細ドット3の大きさが10μm未満の場合には、微細ドット3が小さくなり過ぎて微細ドット3の形成が困難となり、150μmよりも大きい場合には、微細ドット3が大きくなり過ぎて目視で確認可能となり好ましくない。
微細ドット3の高さは、約5~50μm、詳しくは約5~15μmに設定される。微細ドット3の高さが5μm未満の場合には、微細ドット3が低くなり過ぎて微細ドット3の形成が困難となり、50μmよりも高い場合には、微細ドット3が高くなり過ぎて目視で確認可能となり好ましくない。
微細ドット3の密度は、約5,000~300,000個/cm3、詳しくは約10,000~250,000個/cm3に設定される。微細ドット3の密度が5,000個/cm3未満の場合には、目的とする作用が得られず、300,000個/cm3よりも高い場合には、谷が埋まり相互に接合する事象が発生して好ましくない。
【0011】
さらに、多数の微細ドット3は、凹凸模様2の全面2aに亘って不規則(ランダム)に配列される。
つまり、多数の微細ドット3は、図2に示されるように、各微細ドット3の中央位置が縦横斜め方向へそれぞれ一直線上に配置されないようにランダム配置している。なお、図2に示される拡大写真では、微細ドット3の配列を見易くするために単色とし、縦方向の列を破線で繋いだ。
また、微細ドット3の形状は、凹凸模様2の全面2aから略半球状に突出するように形成することが好ましい。
ここで、「略半球状」とは、図3(a)に示されるような「半球体」の微細ドット3′だけに限らず、これに加えて図示しない「半楕円体」や、図3(b)に示されるような「頂部に中心の平面部位と環状のR面取り部位を有する潰れ変形した半球体」の微細ドット3″など、角部を有しないものが含まれる。
【0012】
そして、本発明の実施形態に係る化粧材Aの製造方法は、図4(a)~(c)に示すように、エンボス版10の版面10aに凹凸模様2と対応した凹凸柄のエンボスパターン12を形成する第一彫刻工程と、エンボスパターン12の全体に多数の微細凹型部13を形成する第二彫刻工程と、エンボス版10の版面10aを基材1の表面1aに圧接させる型押し工程と、を主要な工程として含んでいる。
第一彫刻工程では、エンボス版10の版面10aに対し、エッチング加工,レーザー加工,ミル加工,サンドブラストなどのうちいずれ一つ又は複数の加工を組み合わせることで、版面10aにエンボスパターン12が彫刻される。
エンボスパターン12の深さは、凹凸柄の種類に応じてそれぞれ前述した凹凸模様2の高低差と対応するように設定される。
第二彫刻工程では、主にエッチング加工のみ又は必要に応じてレーザー加工やミル加工やサンドブラストなどの他の加工を追加することで、多数の微細ドット3と対応する多数の微細凹型部13が、エンボスパターン12の全体に亘り不規則に配列されるように彫刻する。
多数の微細凹型部13において夫々のサイズ(大きさ及び深さ),密度,形状は、前述した微細ドット3のサイズ(大きさ及び高さ),密度,形状と対応するように設定される。
【0013】
型押し工程では、エンボス版10の版面10aを基材1の表面1aに圧接させ、必要に応じ加熱してエンボス加工が行われることにより、基材1の表面1aに凹凸模様2及び多数の微細ドット3が転写される。
この際、エンボス版10として、円柱体の外周面に版面10aが形成されたエンボスロールを用いることが好ましい。
好ましい例としては、先ず第一彫刻工程としてエッチング,ミル,レーザー法により、エンボスロールの外周面(エンボス版10の版面10a)に木目柄のエンボスパターン12を作成する。次に第二彫刻工程の準備工程としてサンドブラストによる艶消し加工を行い、その次に第二彫刻工程としてエッチングにより多数の微細凹型部13を作成する。その後には、版面10aの耐久性を向上させるために、エンボスパターン12や多数の微細凹型部13の表面にクロムメッキ層(図示しない)が形成されて、版面10aの耐久性が向上したエンボスロールが作製される。
これにより、多数の微細凹型部13の他には、木目柄のエンボスパターン12と、サンドブラストによる艶消し加工が残り、多数の微細凹型部13とともに艶消し効果を発揮する。
このサンドブラスト部分は、基材1の表面1aにおいて谷間に配置され、摩耗の問題があまりない。このため、摩耗による(サンドブラストの)艶変化が大きくなるという欠点は無い。
【0014】
このような本発明の実施形態に係る化粧材Aによると、基材1の表面1aに形成された木目などの柄の凹凸模様2とは別に、凹凸模様2の全面2aに亘って多数の微細ドット3を、それぞれの高さが5~50μmで且つ不規則(ランダム)に配列することにより、微細ドット3が凹凸模様2の全面2aを覆うようにランダム配置で露出する。
このため、微細ドット3の粗さが細かくなり過ぎず反射光が抑えられて、基材1の表面1aの光沢やツヤが全面的に低下する。これに加えて、露出した微細ドット3に対して指や手が直接的に接触するが、微細ドット3が不規則な配列なので、指や手で触った際の触感がサラサラとして人工的でなくなるとともに、指や手で擦った際の音も不自然な音が発生せず人工的でなくなる。
したがって、低グロスな自然に近い化粧材Aを提供することができる。
その結果、サンドブラストによる砂目状凹凸の粗さが細かくなり過ぎる従来のものに比べ、自然に近いテクスチャーが得られ、且つ基材1の表面1aに少し熱をかけても、微細ドット3のシボ戻りが生じ難く、リアリティのある低グロスな凹凸模様2を再現できる。
さらに、エンボス加工した万線状微細凹凸や砂目状凹凸の表面全体に保護層が積層される従来のものに比べ、保護層の積層が必要ないため、濃色の凹凸模様2であっても白ボケが発生し難くて色再現性に優れる。
【0015】
特に、多数の微細ドット3は、凹凸模様2の全面2aから略半球状に突出されるように形成することが好ましい。
この場合には、多数の微細ドット3に対してどの方向から光が入射しても、略半球面3aで乱反射して反射光が抑えられるとともに、略半球面3aに角部が無いため傷付き難い。
したがって、凹凸模様2の反射光が自然で傷付き難い化粧材Aを提供することができる。
その結果、エンボス加工した万線状微細凹凸や砂目状凹凸の表面全体に保護層が積層される従来のものに比べ、保護層が無くても他の物との接触により損傷し難くて、耐スクラッチ性に優れるとともに、微細ドット3の傷付きによる光沢やツヤの変化又は変色を防止できる。
【0016】
さらに、基材1が透明又は半透明な材料からなり、基材1を透過するように意匠面の印刷層1cを設けることが好ましい。
この場合には、多数の微細ドット3が不規則に配列された透明又は半透明な基材1を介して、印刷層1cの意匠面が透視可能になる。
したがって、印刷層1cの意匠面との光干渉で干渉縞(モアレ)の発生を防止することができる。
その結果、印刷層1cの意匠面が不自然な光沢にならない。
【0017】
また、このような本発明の実施形態に係る化粧材Aの製造方法は、エンボス版10の版面10aを基材1の表面1aに圧接してエンボス加工が行われることにより、基材1の表面1aに木目調などの絵柄を構成する凹凸模様2が形成されると同時に、多数の微細ドット3が深さ5~50μmで且つ凹凸模様2の全面2aに亘って不規則に配列されるように露出する。
したがって、エンボス加工のみで低グロスな自然に近い化粧材Aを提供することができる。
その結果、エンボス加工された表面の全面に透明な保護層を設ける従来の製造方法に比べ、エンボス加工のみで保護層が無くても低グロスな化粧材Aを作製できる。
さらに、エンボスパターン12の形成後に微細凹型部13をエッチングで形成するため、どのような凹凸柄のエンボスパターン12に対しても微細ドット3を彫刻することができて、汎用性に優れる。
また、微細ドット3が不規則な配列であるため、エンボス加工時において基材1の曲がりによる不具合や、エンボス加工時の剥がれなどの製造時のムラを回避できる。
【実施例0018】
以下に、本発明の実施例を説明する。
[実施例1~6及び比較例1~8]
表1に示す実施例1~6と表2に示す比較例1~7は、それらに記載された大きさ(直径),高さ,密度,配列の微細ドットと、所定の凹凸模様と組み合わされるようにエンボス版を作製し、これらのエンボス版を用いたエンボス加工によって、微細ドットのみが異なる凹凸柄を基材の表面に転写した化粧材である。表2に示す比較例8は、凹凸模様のみのエンボス版を作製し、このエンボス版を用いたエンボス加工によって、微細ドットが無い凹凸柄を基材の表面に転写した化粧材である。そして、同じサイズの評価試料をそれぞれ作製した。
実施例1~6及び比較例1~8では、図1(b)(c)に示される木目調の凹凸模様と意匠面が刷られた印刷層を有する三層構造の基材であり、共通の構成にしている。実施例1~6及び比較例1~7の微細ドットは、図3(a)に示される「半球体」であり、共通の構成にしている。
【0019】
実施例1~6では、微細ドットの大きさ(直径)が10~150μm、微細ドットの高さが5~50μm、微細ドットの密度が5,000~300,000個/cm3になっている。
詳しくは、実施例1の微細ドットでは、直径が10μm、高さが14μm、密度が20,000個/cm3で不規則(ランダム)に配列されている。
実施例2の微細ドットでは、直径が150μm、高さが14μm、密度が20,000個/cm3でランダムに配列されている。
実施例3の微細ドットでは、直径が20μm、高さが5μm、密度が20,000個/cm3で不規則(ランダム)に配列されている。
実施例4の微細ドットでは、直径が20μm、高さが50μm、密度が20,000個/cm3でランダムに配列されている。
実施例5の微細ドットでは、直径が20μm、高さが14μm、密度が5,000個/cm3で不規則(ランダム)に配列されている。
実施例6の微細ドットでは、直径が20μm、高さが14μm、密度が300,000個/cm3でランダムに配列されている。
【0020】
一方、比較例1~7では、実施例1~6の微細ドットに対して直径,高さ,密度,配列のいずれかが範囲外になっている。
詳しく説明すると、比較例1の微細ドットでは、直径が8μmであるところが実施例1や実施例2と異なり、その他は実施例1や実施例2と同じである。
比較例2の微細ドットでは、直径が160μmであるところが実施例1や実施例2と異なり、その他は実施例1や実施例2と同じである。
比較例3の微細ドットでは、高さが3μmであるところが実施例3や実施例4と異なり、その他は実施例3や実施例4と同じである。
比較例4の微細ドットでは、高さが55μmであるところが実施例3や実施例4と異なり、その他は実施例3や実施例4と同じである。
比較例5の微細ドットでは、密度が4,000個/cm3であるところが実施例5や実施例6と異なり、その他は実施例5や実施例6と同じである。
比較例6の微細ドットでは、密度が350,000個/cm3であるところが実施例5や実施例6と異なり、その他は実施例5や実施例6と同じである。
比較例7の微細ドットでは、直径が20μm、高さが14μm、密度が20,000個/cm3であるものの、配列がランダムではなく規則的であるところが異なっている

さらに、比較例8は、微細ドットが無い化粧材であるところが異なっている。
【0021】
[評価基準]
表1及び表2に示される評価結果(グロス値、触感、接触音、干渉縞)は、以下の指標に基づくものである。
「グロス値」は、実施例1~6及び比較例1~8において、表面の光沢やツヤを確認するための試験である。「グロス値」の評価は、BYK試験機を使用し、JIS Z8741に規定する方法3(入射角60度)に準拠して測定した。
「触感」は、実施例1~6及び比較例1~8において、表面の肌触りを確認するための試験である。「触感」の評価は、指先で触れた際の触感試験を行い、次のいずれに属するかを評価した結果である。
「天然の木材に近いサラサラとした触感」「天然の木材とは違うゴツゴツした触感」「天然の木材とは違うツルツルした触感」
「接触音」は、実施例1~6及び比較例1~8において、表面の凹凸状態を確認するための試験である。「接触音」の評価は、指先で擦った時の音を比較する試験を行い、次のいずれに属するかを評価した結果である。
「天然の木材を擦った時の自然的な音」「天然の木材とは違い滑って音無し」「天然の木材とは違う人工的な音」
「干渉縞」は、実施例1~6及び比較例1~8において、印刷層の意匠面との光干渉を確認するための試験である。「干渉縞」の評価は、表面に干渉縞(モアレ)が生じたか否かの試験を行った結果である。
「総合評価」とは、前述した「グロス値」「触感」「接触音」の評価結果に基づいて総合的に三段階で評価した。
この「総合評価」の評価結果において、◎:最適、○:良、×:不向き、のように評価した。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
[評価結果]
実施例1~6及び比較例1~8を比較すると、実施例1~6は、グロス値、触感、接触音、干渉縞の全てにおいて良好な評価結果が得られている。
この評価結果から明らかなように、実施例1~6は、低グロスな自然に近い化粧材であることが実証できた。
特に、実施例1,4,6は、最適な総合評価が得られ、より低グロスな自然に近い化粧材であることが実証できた。
【0025】
しかし、これに対して、比較例1~8は、グロス値、触感、接触音、干渉縞のいずれかで不良な評価結果になっている。
詳しく説明すると、比較例1は、微細ドットの直径が小さくて機能しないため、グロス値と触感と接触音で不良な評価結果になった。
比較例2は、微細ドットの直径が大きくなり過ぎるため、触感で不良な評価結果になった。
比較例3は、微細ドットの高さが低過ぎて機能しないため、グロス値と触感と接触音で不良な評価結果になった。
比較例4は、微細ドットの高さが高過ぎるため、触感で不良な評価結果になった。
比較例5は、微細ドットの密度が低過ぎて機能しないため、グロス値と触感と接触音で不良な評価結果になった。
比較例6は、微細ドットの密度が高過ぎるため、グロス値と触感で不良な評価結果になった。
比較例7は、微細ドットの配列が規則的であるため、触感と接触音と干渉縞で不良な評価結果になった。
比較例8は、微細ドットが無いため、グロス値が高くなるため、不良な評価結果になった。
【0026】
なお、前示の実施例1~6及び比較例1~8では、木目調の凹凸模様と意匠面が刷られた印刷層を有する三層構造の基材で評価したが、これに限定されず、梨地や皮目調の凹凸模様と意匠面が刷られた印刷層を有する三層構造の基材であってもよい。この場合も実施例1~6と同様な評価結果が得られた。
【符号の説明】
【0027】
A 化粧材 1 基材
1a 表面 1c 印刷層
2 凹凸模様 2a 全面
3 微細ドット 10 エンボス版
10a 版面 12 エンボスパターン
13 微細凹型部
図1
図2
図3
図4