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特開2023-35333銅又は銅合金からなるカソード電極を用いる過酸化水素燃料電池の燃焼方法
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  • 特開-銅又は銅合金からなるカソード電極を用いる過酸化水素燃料電池の燃焼方法 図1
  • 特開-銅又は銅合金からなるカソード電極を用いる過酸化水素燃料電池の燃焼方法 図2A
  • 特開-銅又は銅合金からなるカソード電極を用いる過酸化水素燃料電池の燃焼方法 図2B
  • 特開-銅又は銅合金からなるカソード電極を用いる過酸化水素燃料電池の燃焼方法 図3A
  • 特開-銅又は銅合金からなるカソード電極を用いる過酸化水素燃料電池の燃焼方法 図3B
  • 特開-銅又は銅合金からなるカソード電極を用いる過酸化水素燃料電池の燃焼方法 図4A
  • 特開-銅又は銅合金からなるカソード電極を用いる過酸化水素燃料電池の燃焼方法 図4B
  • 特開-銅又は銅合金からなるカソード電極を用いる過酸化水素燃料電池の燃焼方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035333
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】銅又は銅合金からなるカソード電極を用いる過酸化水素燃料電池の燃焼方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/06 20060101AFI20230306BHJP
   H01M 8/22 20060101ALI20230306BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20230306BHJP
   H01M 8/08 20160101ALI20230306BHJP
【FI】
H01M12/06 G
H01M12/06 F
H01M12/06 D
H01M8/22
H01M4/90 M
H01M8/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142111
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】500055935
【氏名又は名称】佐想 光廣
(71)【出願人】
【識別番号】517217232
【氏名又は名称】クロステクノロジーラボ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091465
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 久夫
(72)【発明者】
【氏名】佐想 光廣
【テーマコード(参考)】
5H018
5H032
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA07
5H018AS07
5H018EE02
5H018EE10
5H018EE11
5H032AA02
5H032AS01
5H032AS11
5H032CC11
5H032CC16
5H126BB10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】過酸化水素を燃料とする過酸化水素燃料電池反応の提供。
【解決手段】過酸化水素を含む、水溶性電解液中に金属銅又はその合金からなるカソード電極と、カソード電極より電極電位が卑で、過酸化水素の分解電圧以上となる電極電位差を形成する金属又はその合金からなるアノード電極とを浸漬し、カソード電極表面で形成されるヒドロキシイオンを酸素と水素に分解し、4OH→2O+2H+4e起電力を得ることを特徴とする過酸化水素燃料電池の新規燃焼方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素を含む水溶性電解液と、該電解液中に浸漬される金属銅又はその合金からなるカソード電極と、カソード電極より電極電位が卑で、過酸化水素の分解電圧以上となる電極電位差を形成する金属又はその合金からなるアノード電極とを備える、過酸化水素を燃料とする燃料電池において、
前記金属銅又はその合金からなるカソード電極表面で生成するヒドロキシイオンを以下の触媒作用により分解して酸素及び水素を生成し発電する
4OH-→2O2+2H2+4e-
ことを特徴とする過酸化水素燃料電池の燃焼方法。
【請求項2】
前記水溶性電解液に過酸化水素水又はその一部又は全部を過炭酸ナトリウムにより供給する請求項1記載の過酸化水素燃料電池の燃焼方法。
【請求項3】
アノード電極がマグネシウム又はその合金からなる請求項1記載の過酸化水素燃料電池の燃焼方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅又は銅合金からなるカソード電極を用いる過酸化水素燃料電池の燃焼方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池において、過酸化水素は水素より供給が容易な燃料源として着目されている。近年、過酸化水素燃料電池は、水素燃料電池と違って、水溶液を用いる1コンパートメント構造は、燃料の供給が容易で、しかもカソードとアノード室を区画する膜のない動作ができるため、有望なエネルギー変換プラットフォームとして期待されている。
【0003】
しかしながら、過酸化水素は燃料と酸化剤の両方として機能する高エネルギー密度液体であるので、ほとんどの金属電極はHのHO とOへの不均化反応を触媒する。その結果、この不均一反応は過酸化物燃料電池における著しい損失機構を示すので、金属をカソード電極とする過酸化水素燃料電池は存在しない。すなわち、カソード電極として伝導性ポリマーであるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を用いる一方、アノード電極としてニッケルメッシュを使用して、不均化反応による損失を発生させることのないように工夫し、0.20~0.30 mW cmの電力密度で0.5~0.6Vの範囲のオープン回路電位を示す過酸化水素燃料電池が発表されている(非特許文献1:「Single-Compartment hydrogen peroxide fuel cell with poly(3,4-ethylenedioxythiophene) cathodes」Chemical Communications,2018, Vol.54, Pages 11873-11876)。他方、カソード材料としてヘキサシアノ鉄酸銅(CuHCF)を使用し、アノード材料としてNiグリッドを使用する過酸化水素燃料電池も発表されている(非特許文献2:「Copper hexacyanoferrate as cathode material for hydrogen peroxide fuel cell」International Journal of Hydrogen Energy, ELSEVIER, Vol.45, Issue 47, 25 September 2020, Pages 25708-25718)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chemical Communications,2018, Vol.54, Pages 11873-11876
【非特許文献2】Journal of Hydrogen Energy, ELSEVIER, Vol.45, Issue 47, 25 September 2020, Pages 25708-25718
【非特許文献3】水渡英二著:物理化学の進歩(1936),10(3):154~165頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の過酸化水素燃料電池のカソード電極であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)やヘキサシアノ鉄酸銅(CuHCF)は複雑で量産性にかけるという問題点がある。そこで、本発明は過酸化水素燃料電池のカソード電極として使用できる新たな電極を提供すべく、鋭意研究を進めた。
【0006】
その結果、過酸化水素水はアルカリ性を示し、酸素とともに多くのヒドロキシイオンが存在するが、この過酸化水素水中に銅又は銅合金を浸漬すると、気体の発生を認め、常態ではこの気体は過酸化水素分解による酸素であるが、酸素だけでなく、水素を含むことを見出した。光触媒であれば、太陽光を受けて水を分解するが、この銅及び銅合金は太陽光を浴びても反応に変りがない。過酸化水素水中での、水の分解であると、電池起電力の損失となる。そこで、マグネシウム又はアルミニウムをアノード電極とする一方、銅又はその合金をカソード電極とする電池構成では、電解液の酸性域ではボルタ電池を構成し、アノード電極側から水素が発生させて発電するが、中性域では無反応であって、過酸化水素水を含むアルカリ電解液中に投入すると、銅カソード電極側から比較的粒子の大きい気体と細かな気体の両者の発生があり、酸素と水素が銅電極側から発生しつつ発電する現象が認められた。その結果、銅電極は電極近傍に存在するOHヒドロキシイオンの分解を触媒していると考えられ、かかるOHヒドロキシイオンの分解し、酸素及び水素を形成する反応は4OH-→ 2O+2H+4e-で示される。そこで、本発明は、銅又はその合金を過酸化水素燃料電池における新規燃焼方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、銅又はその合金をカソード電極とする過酸化水素燃料電池のヒドロキシイオンの分解反応に基づくもので、過酸化水素を含む水溶性電解液と、該電解液中に浸漬される金属銅又はその合金からなるカソード電極と、カソード電極より電極電位が卑で、過酸化水素の分解電圧以上となる電極電位差を形成する金属又はその合金からなるアノード電極とを備える、過酸化水素を燃料とする燃料電池において、
前記金属銅又はその合金からなるカソード電極表面で生成するヒドロキシイオンを以下の触媒作用により分解して酸素及び水素を生成し発電する
4OH-→2O2+2H2+4e-
ことを特徴とする過酸化水素燃料電池の燃焼方法にある。
【発明の効果】
【0008】
過酸化水素燃料電池では従来、非特許文献1に示すように、酸性領域では
カソード: H2O2+ 2H++ 2e-→ 2H2O (1.78 V対NHE)(1)
アノード: H2O2→ O2+ 2H+ 2e- (0.682 V対NHE)(2)
合計: 2H2O2→ 2H2O + O2 (1.09 V)(3)の電気化学反応を起こすが、本発明における過酸化水素を添加してなるアルカリ性領域では、
カソード: H+ 2e-→ 2HO+2OH- (1)
アノード: H+2OH-→ O+2H2O + 2e-(2)
の電気化学反応を起こしているものと考えられ、水素発生は認められないが、本発明では銅カソード表面での触媒反応も伴って過酸化水素の分解からのヒドロキシイオンの分解が起こり、酸素と水素を発生し、
2H→ ・4OH→ 2O+ 2H + 4e- の発電反応
又は ヒドロキシイオンの直接分解による4OH-→O+2HO+4e-の発電反応が伴う。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の銅又はその合金をカソード電極として過酸化水素燃料電池の概念図である。
図2A】本発明の第1のカソード電極構成の斜視図で、
図2B】本発明の第1のカソード電極構成のアノードとの組立図である。
図3A】本発明の第2のカソード電極構成の斜視図で、
図3B】本発明の第2のカソード電極構成のアノードとの組立図である。
図4A図2の電極構成のキャパシタ概念図である。
図4B図3の電極構成のキャパシタ概念図である。
図5図3のカソード電極表面で起こるマイクロキャパシタ効果の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、図1に示すように、Al又はMgアノード電極とCuカソード電極とを、過酸化水素を含むアルカリ性電解液に浸漬して対向配置して燃料電池を構成してなる。アノード電極/過酸化水素を含むアルカリ性電解液/カソード電極の構成における起電力であって、その反応は次の通りである。
アノード側の酸化反応をMe→Men+ + ne-と、
他方、カソード側の還元反応をO+HO+4e-→4OH- となる。
本発明では、カソード側の還元反応を促進するために、電解液に過酸化水素を添加し、アノード側負極に比べてカソード側正極のイオン化進行速度が劣る原因を改善した。
すなわち、金属銅はCu+2H→Cu2++2OH+2OH-及び Cu+2OH→Cu2++2OH-と一部過酸化水素に溶けるが、Cu2++2HO -→Cu+2HOと、HO2基がHaber u. Willstatter連鎖によって過酸化水素の分解を促進するからであると思われる(非特許文献3)。
【0011】
さらに、本発明においては、カソード側から水素と酸素ガスの発生が認められるので、通常の過酸化水素燃料電池(非特許文献1参照)を構成する。
カソード: H+ 2H + 2e-→ 2HO (1.78 V対NHE)(1)
アノード: H→ O+ 2H++ 2e- (0.682 V対NHE)(2)
合計: 2H→ 2HO + O (1.09 V)(3)
本発明では銅カソード表面での触媒反応も伴って過酸化水素2H→・4OH に分解して、・4OH →H+O+4e-↑と酸素と水素を発生させるか又はヒドロキシイオン4OH- →2H+2O+4e-を直接分解して酸素と水素を発生させ、同時に電子を放出するものと思われる。
【0012】
しかも、本発明によると、カソード電極の表面に形成される電気二重層は過酸化水素を含み、双極子(ダイポール)機能を有するため、対極のアノード電極はカソード電極(図2A)と組み合わせて接触させても(図2B)、図示のように双極子電気二重層キャパシタを構成して短絡せず(図4A)、他方、対極のアノード電極はカソード電極(図3A)と組み合わせて接触させても一定間隔で点状に配置される突起等で形成する(図3B)と、点状突起の先端に双極子電気二重層マイクロキャパシタ構造を有することになり(図4B)、図4Aの双極子電気二重層キャパシタと同一構成であるが、電極表面にマイクロコンデンサとして多数点在し、マイクロキャパシタ効果(図5)有することになり、図3のものは図2のものの2倍以上の発電能力を発揮することになる。
なお、本発明においては、カソード電極表面に過酸化水素を酸化剤として電解液に添加し、そうたが、金属表面を酸化する各種酸化剤であって、電気二重層を形成する機能を有する限り、過酸化水素とともに使用して同様の機能と作用効果を奏することができることは当業者であれば、本明細書の記載から理解できる。
【0013】
本発明においては、前記水溶性電解液に過酸化水素の一部又は全部を過炭酸ナトリウムにより供給するのが好ましい。具体的には、0.5から2.0モルのアルカリ金属又はアルカリ土類金属ハロゲン化塩、特に塩化ナトリウムを含む中性又はアルカリ性水溶液に対し数%から十数%の過酸化水素水(体積%)又は過炭酸ナトリウム(重量%)を添加するのが好ましい。
【0014】
アノード電極がマグネシウム又はその合金からなり、(-)Mg/NaCl+H2O2/Cu(+)の電池構成をとることにより、銅カソード電極との間に過酸化水素又はそれが分解したヒドロキシラジカルを分解するに必要な分解電圧を与える。
【0015】
前記カソード電極(図2A)とアノード電極とを交互にスペーサを介して一定の間隔をもって対向配置し、アノード電極とカソード電極との接触部に過酸化水素を含む水溶性電解液により電気二重層キャパシタを形成する(図4A)が、前記スペーサがカソード電極と同じ金属銅又は銅合金からなり、対極表面に一定間隔を隔てる点状突起を有する(図3A)と、その電極組み合わせ(図3B)は複数のマイクロキャパシタを構成し(図4B)、マイクロキャパシタ効果としてアバランシェ増幅効果(図5)を有することになる。
【産業上の利用可能性】
【0016】
(性能比較)
図2A及び図3Aに示す銅電極を使用して図4Bに示す概念のマイクロキャパシタがある場合と図4Aに示すマイクロキャパシタがない場合の電池の性能を比較した。容量3000mlの上方開放型直方体プラスチック容器を用いる。図3では、1mm厚み、縦横100×100mmの銅カソード電極板10に上下左右に150mmないし200mm間隔で多数の三角形の50mmの高さの突起11を切り立て(図3A)、図3Bに示すように、両端は銅板10は突起11を内向きに、真ん中は背中合わせに張り合わせた銅電極10で2mm厚み、縦横100×100mmのマグネシウムアノード電極板20を挟み込んで組み合わせる。この組み合わせ電極を使うと図4Bに示すように、銅カソード電極の表面にマイクロキャパシタを形成することができる。
他方、図2Aに示す、1mm厚み、縦横100×100mmの銅カソード電極板10に銅電極板をT字形に切り出し、端部を折り曲げて形成したスペーサSを取り付ける。このカソード電極板でスペーサSを介して2mm厚みの縦横100×100mmのMgアノード電極板20の両側を挟みつける。3枚の銅カソード電極板10で、2枚のMgアノード電極板20はスペーサSを介して交互に挟みつけると、図2Bに示す上部端面図の状態となる。この組み合わせ電極を使うと図4Aに示す双極子電気二重層キャパシタは構成するが、マイクロコンデンサ(図4B)を形成しない。
【0017】
プラスチック容器にはおよそ1500mlの純水に塩化ナトリウム0.5モル/l以上、好ましくは1.5モル/l以上2モル/lの電解液を調整し、これに過炭酸ナトリウム50~100gと30%過酸化水素水50mlを加える。電池反応は一定時間過ぎると、過酸化水素が消費され、電球が減少するので、2~3時間ごとに10mlの30%過酸化水素水を添加する。
【0018】
本件実施例においては、図2AおよびBの電極構成と図3AおよびBの電極構成の性能を比較して通常のキャパシタとマイクロキャパシタを銅カソード電極表面に形成して性能比較を行った。
電極構成以外は同じ条件としたので、アルカリ電解水における過酸化水素燃料電池反応に、マグネシウム空気電池反応が伴うものである点は同じである。したがって、以下の反応式に基づき、
過酸化水素がH+2HO+2e-→2HO+2OH-に分解する一方、カソード電極側でH+2OH-→O+2H2O+2e-の酸化反応を起こすだけでなく、
アルカリ性電解液での金属酸化反応がMg→Mg2++2e-となり、カソード側での酸素を還元してイオン化する反応がO2+2H2O+4e-→4OH-と典型的な金属空気電池反応が起こる。但し、過酸化水素燃料電池では酸素ガスは発生すると理解できるが、上記構成では酸素ガスだけでなく、水素ガスも発生する。ということは、非特許文献3(水渡英二著、物理化学の進歩(1936)、10(3):154~165頁)に示唆されるように、銅カソード電極表面で触媒機能が働き、過酸化水素の分解又はヒドロキシイオンの分解が起こり、発電反応に繋がっていると思われる。
2H→4・OH→H+O+4e-
4OH-→H2+O2+4e-
【0019】
以上の実験結果を考察すると、マイクロキャパシタを作る構成にもよるが、図3に示すマイクロキャパシタを有する燃料電池は図2に示す単なるキャパシタを有するものに比して2倍以上の電流値の増加を見ることがわかった。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5