IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本製紙株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035364
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】成形用樹脂材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 97/02 20060101AFI20230306BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230306BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20230306BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20230306BHJP
   C08L 23/20 20060101ALI20230306BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20230306BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20230306BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C08L97/02
C08L101/00
C08L23/26
C08L23/16
C08L23/20
C08L53/02
C08L23/00
C08L23/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142154
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕司
(72)【発明者】
【氏名】松本 圭
(72)【発明者】
【氏名】石野 陽一
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA012
4J002AH001
4J002BB002
4J002BB053
4J002BB112
4J002BB153
4J002BB173
4J002BB214
4J002BP013
4J002GC00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】 本発明の課題は、木質系バイオマス焙焼物と熱可塑性樹脂とが均一に混合され、射出成形時に切断や割れ等が生じない粘りが高く、成形が容易である成形用樹脂材料を提供することである。
【解決手段】 平均粒径が100μm以下である木質系バイオマス焙焼物を40~90質量%含有し、さらに熱可塑性樹脂、及び酸変性ポリオレフィンを含有する成形用樹脂材料とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が100μm以下である木質系バイオマス焙焼物の粉砕物を40~90質量%含有し、さらに熱可塑性樹脂、及び酸変性ポリオレフィンを含有する成形用樹脂材料。
【請求項2】
前記酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量が、9000~45000である、請求項1に記載の成型用樹脂材料。
【請求項3】
前記酸変性ポリオレフィンの酸価が、26~70である、請求項1または2に記載の成型用樹脂材料。
【請求項4】
前記成型用樹脂材料中の酸変性ポリオレフィンの含有量が、0.1~10質量%である、請求項1~3に記載の成形用樹脂材料。
【請求項5】
熱可塑性エラストマーとして、スチレン・ブタジエン系ブロック共重合体、エチレン・オクテン系共重合体、プロピレン・エチレン系共重合体のいずれかを含む、請求項1~4に記載の成形用樹脂材料。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂を含む、請求項1~5のいずれかに記載の成形用樹脂材料。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂がポリプロピレン樹脂を含む、請求項1~6のいずれかに記載の成形用樹脂材料。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂が生分解性樹脂を含む、請求項1~7のいずれかに記載の成形用樹脂材料。
【請求項9】
木質系バイオマス焙焼物の粉砕物と、熱可塑性樹脂と、熱可塑性エラストマーとを加熱混錬する工程を含む、成型用樹脂材料の製造方法。
【請求項10】
前記加熱混錬工程において、二軸混錬押出機で処理した成型用材料を連続的に製造する、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質系バイオマス焙焼物、ポリプロピレンやポリエチレン、ポリ乳酸等に代表される熱可塑性樹脂、及び酸変性ポリオレフィンとを含有する成形用樹脂材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業資源としてのバイオマス材が注目されている。バイオマス材とは、植物などの生物を由来とした材料を意味する。バイオマス材は有機物であるため、燃焼させると二酸化炭素が排出される。しかしこれに含まれる炭素は、そのバイオマスが成長過程で光合成により大気中から吸収した二酸化炭素に由来するため、バイオマス材を使用しても全体として見れば大気中の二酸化炭素量を増加させていないと考えてよいとされる。この性質をカーボンニュートラルと呼ぶ。
【0003】
地球温暖化問題等の地球環境問題を背景として、省資源化、及び廃棄物の原材料を目指すマテリアルリサイクル、そして、生分解性プラスチックに代表される環境循環サイクルの推進が急務となっており、我が国でも改正リサイクル法やグリーン購入法等が整備され、これに対応した製品のニーズも高まっている。
【0004】
こうした状況において、自動車部品の材料から日用品まで幅広く使用されている樹脂成型品にバイオマス材を配合することは、カーボンニュートラルの理念の実践を促進するところである。例えば、特許文献1にはカルボキシルメチル化セルロースナノファイバー、第1級アミノ基を有する高分子化合物、酸変性されたポリオレフィン、ポリオレフィンを含有する複合材料が記載されている。特許文献2には木材パルプとポリマーマトリックスを含むセルロース複合材料が記載されている。特許文献3には木粉とランダムポリプロピレン樹脂を混合し、射出成形機によって木粉含有樹脂射出成形品を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2014/087767号公報
【特許文献2】特表2019-512591号公報
【特許文献3】特開2010-138337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、単に「木質系バイオマス」と「ポリプロピレン」とを混合して加熱溶融して成形する場合には、木質系バイオマスが親水性であるためにポリプロピレンとが均一に混合できない、木質系バイオマスとポリプロピレンとの混合物を射出する装置出口で樹脂体が細かく切れてしまう、得られる成形物品の表面が滑らかでない、などの問題があった。
【0007】
例えば、特許文献1ではカルボキシルメチル化セルロースナノファイバーを使用すると記載されているが、セルロースをカルボキシメチル化し、さらにポリオレフィン樹脂と均一分散性を高めるために、第1級アミノ基を有する高分子化合物、酸変性されたポリオレフィンを添加する必要があり、コストアップとなる。
【0008】
そこで、本発明の課題は、木質系バイオマスを混合した成形用樹脂材料において、木質系バイオマスと熱可塑性樹脂とが均一に混合されており、射出時などの成形時の切断や割れが少ない成形用樹脂材料を低コストで提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、木質系バイオマス焙焼物の粉砕物、ポリプロピレンやポリエチレン、ポリ乳酸等の熱可塑性樹脂、さらに酸変性ポリオレフィンと混合して加熱混練することで、成形性に優れた成形用樹脂材料が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明としては、以下に限定されないが、次のものが挙げられる。
(1) 平均粒径が100μm以下である木質系バイオマス焙焼物の粉砕物を40~90質量%含有し、さらに熱可塑性樹脂、及び酸変性ポリオレフィンを含有する成形用樹脂材料。
(2) 前記酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量が、9000~45000である、(1)に記載の成型用樹脂材料。
(3) 前記酸変性ポリオレフィンの酸価が、26~70である、(1)または(2)に記載の成型用樹脂材料。
(4) 前記成型用樹脂材料中の酸変性ポリオレフィンの含有量が、0.1~10質量%である、(1)~(3)に記載の成形用樹脂材料。
(5) 熱可塑性エラストマーとして、スチレン・ブタジエン系ブロック共重合体、エチレン・オクテン系共重合体、プロピレン・エチレン系共重合体のいずれかを含む、(1)~(4)に記載の成形用樹脂材料。
(6) 前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂を含む、(1)~(5)のいずれかに記載の成形用樹脂材料。
(7) 前記熱可塑性樹脂がポリプロピレン樹脂を含む、(1)~(6)のいずれかに記載の成形用樹脂材料。
(8) 前記熱可塑性樹脂が生分解性樹脂を含む、(1)~(7)のいずれかに記載の成形用樹脂材料。
(9) 木質系バイオマス焙焼物の粉砕物と、熱可塑性樹脂と、熱可塑性エラストマーとを加熱混錬する工程を含む、成型用樹脂材料の製造方法。
(10) 前記加熱混錬工程において、二軸混錬押出機で処理した成型用材料を連続的に製造する、(9)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、射出成形時に切断や割れ等が生じない木質系バイオマス焙焼物の粉砕物を含む粘りが高い成形用樹脂材料を安定的に製造することができる。また、木質系バイオマス焙焼物の配合率を高めることにより、カーボンニュートラルに優れる成形用樹脂材料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の焙焼物は、例えば、サイズが50mm以下の木質系バイオマスの粉砕物を、酸素濃度10%以下で、かつ物質温度240~350℃の条件下で焙焼することによって得られる。
【0013】
本発明は、木質系バイオマスの焙焼物を使用する。木質系バイオマスの原料の木材としては、広葉樹および針葉樹のいずれもが使用できる。具体的には、これに限定されるものではないが、広葉樹としては、ユーカリ、パラゴムノキ、ブナ、シナ、シラカバ、ポプラ、アカシア、ナラ、イタヤカエデ、センノキ、ニレ、キリ、ホオノキ、ヤナギ、セン、ウバメガシ、コナラ、クヌギ、トチノキ、ケヤキ、ミズメ、ミズキ、アオダモ等が例示され、針葉樹としては、スギ、エゾマツ、カラマツ、クロマツ、トドマツ、ヒメコマツ、イチイ、ネズコ、ハリモミ、イラモミ、イヌマキ、モミ、サワラ、トガサワラ、アスナロ、ヒバ、ツガ、コメツガ、ヒノキ、イチイ、イヌガヤ、トウヒ、イエローシーダー(ベイヒバ)、ロウソンヒノキ(ベイヒ)、ダグラスファー(ベイマツ)、シトカスプルース(ベイトウヒ)、ラジアータマツ、イースタンスプルース、イースタンホワイトパイン、ウェスタンラーチ、ウェスタンファー、ウェスタンヘムロック、タマラック等が例示される。
【0014】
これらの中では、ユーカリ属の木材やパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)が好ましい。ユーカリ属としては、Eucalyptus(以下、E.と略す) calophylla、E. citriodora、E. diversicolor、E. globulus、E. grandis、E. urograndis、E. gummifera、E. marginata、E. nesophila、E. nitens、E. amygdalina、E. camaldulensis、E. delegatensis、E. gigantea、E. muelleriana、E. obliqua、E. regnans、E. sieberiana、E. viminalis、E. marginata、等が挙げられる。
【0015】
本発明において、原料となる木質系バイオマスの形態は限定されず、例えば、木材チップ、樹皮(バーク)、おが屑、鋸屑などを好適に使用できる。好ましい態様において、サイズが50mm以下の木質系バイオマスを原料とすることができ、例えば、木質系バイオマスを粉砕することによって50mm以下のサイズに調整することができ、1mm以上50mm以下のサイズに粉砕した木質系バイオマスを原料として使用することが好ましい。なお、本発明において、木質系バイオマス粉砕物のサイズとは、篩い分け器の円形の穴の大きさによって篩い分けされたものである。木質系バイオマスを粉砕する場合、例えば、ハンマーミル、ナイフ切削型バイオマス燃料用チッパーで粉砕処理することが好ましい。
【0016】
本発明においては、木質系バイオマス焙焼物を使用する。一般に焙焼(torrefaction)とは、低酸素雰囲気下で、いわゆる炭化処理よりも低い温度で加熱する処理のことである。通常の木材の炭化処理の温度は400~700℃であるが、本発明においては、240~350℃にて焙焼が行われる。焙焼することによって、その出発原料よりも高いエネルギー密度を有する固体燃料が得られる。
【0017】
本発明における焙焼の処理条件は、酸素濃度10%以下で、物質温度240~350℃である。ここで、焙焼における物質温度は、焙焼処理装置の出口付近における木質系バイオマスの温度である。本発明においては、酸素濃度が10%以下の条件で焙焼を行うが、酸素濃度が10%を超えると物質収率、熱量収率が低下することがある。また、物質温度が240℃未満では、焙焼物を小さな粒径まで粉砕することが難しく、350℃を超えると、物質収率や熱量収率が低下する。物質温度は240~330℃が好ましく、さらに250~320℃がさらに好ましい。ヘミセルロースは270℃付近で熱分解が顕著になるのに対して、セルロースは355℃付近、リグニンは365℃付近で熱分解が顕著になるので、焙焼の処理温度を170~350℃とすることで、ヘミセルロースを優先的に熱分解して、物質収率と粉砕性を両立できる成形用樹脂材料を製造することが可能になると推察される。
【0018】
本発明において、焙焼処理を行うための装置は特に限定されないが、ロータリーキルンおよび/または竪型炉が好ましい。なお、酸素濃度を10%以下に調整するため装置内を窒素等の不活性ガスで置換することが好ましい。焙焼処理の処理時間は特に制限されないが、例えば、1~180分が好ましく、5~120分がより好ましくい、10~60分がさらに好ましい。連続式の装置を用いる場合は、焙焼装置における滞留時間を管理すればよい。
【0019】
本発明において、焙焼処理を行うための装置として、外熱式の焙焼装置を使用してもよい。例えば、外熱式のロータリーキルンは、キルン内筒の一部または全部をキルン外筒で覆う構造を有するもので、内筒内で木質系バイオマスの焙焼を行い、外筒内で燃料を燃焼させて内筒内部の木質系バイオマスを間接的に加熱する。キルン外筒内の温度は、400~800℃とすることができ、450~750℃とすることが好ましい。キルン外筒内の温度が400℃未満であるとキルン内筒内の木質系バイオマスの熱分解が不十分となり、得られる固体燃料の粉砕性が低下する。一方、800℃を超えるとキルン内筒内の木質系バイオマスの温度が過度に上昇し、得られる固体燃料の物質収率、熱量収率が低下する。
【0020】
本発明で用いる焙焼物は、原料である木質系バイオマスに対して物質収率で60~90%、熱量収率で70~95%であることが好ましい。また、粉砕性の指標であるJIS M 8801:2004に規定のハードグローブ粉砕性指数(HGI)は25以上が好ましく、30以上がさらに好ましい。HGIが高くなるほど、粉砕され易いことを示している。HGIが25~70の範囲であれば、熱可塑性樹脂と混合して成形処理することが容易になる。
【0021】
本発明で用いる焙焼物は成型物としてもよい。すなわち、木質系バイオマスの粉砕物状の出発原料(焙焼物)をブリケットやペレット状に成型処理する。成型物とすることにより、取り扱いを容易とし、高密度化されるので輸送コストを削減することができる。高密度化処理した後の成形物の嵩密度は500kg/m3以上とすることが好ましく、600kg/m3以上にすることがより好ましい。嵩密度は、JIS K 2151の6「かさ密度試験方法」に従って測定することができる。
【0022】
本発明において、焙焼物を成型物とするための装置は特に限定されていないが、例えば、ブリケッター(北川鉄工所製)、リングダイ式ペレタイザー(CPM製)、フラットダイ式ペレタイザー(Kahl製、ダルトン製)等が望ましい。
【0023】
本発明において、焙焼物を成型物とする際には、焙焼物の水分率を8~50%とすることが好ましく、さらに10~30%とすることが好ましい。水分が8%より少ないとブリケッターやペレタイザーの内部で閉塞が発生し、安定した成型物の製造ができない。水分率が50%を超えると成型することが困難で、粉体状またはペースト状で排出される。
【0024】
本発明において、焙焼物に対してバインダーを添加してもよい。バインダーは特に限定されていないが、例えば、澱粉やリグニンなどの有機高分子、アクリル酸アミドなどの無機高分子、ふすま(小麦粉製造時に発生する残渣)などの農業残渣を好適に使用できる。木質系バイオマスを効率よく有効利用することを目的としている観点から、バインダー添加部数は少ない方が望ましく、焙焼物100質量部に対して50質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。ただし、50質量部以上添加しても高密度化が不可能であるというわけではない。
【0025】
本発明において、焙焼物を熱可塑性樹脂と混錬する前に粉砕することが好ましい。粉砕物の平均粒径を100μm以下とすることが必要であり、50μm以下がさらに好ましい。焙焼物の粉砕物の平均粒径が100μmより大きいと、樹脂との均一な混合が困難になり、粉砕物と樹脂との混合物を射出する装置出口で、樹脂体が細かく切れる、冷却処理装置への搬出が困難となる、などの問題が生じ得る。なお、平均粒径とは、レーザー光散乱法(レーザー回折法)により測定した体積50%平均粒子径(D50)であり、レーザー回折/散乱式粒度分布測定器(マルバーン(株)製、機器名:マスターサイザー2000)等で測定することができる。
【0026】
焙焼物を粉砕する時に用いる粉砕機は、有機物を粉砕可能な装置であればよく、例えば、これらに限定されないが、ボールミル、ロッドミル、ビーズミル、コニカルミル、ディスクミル、エッジミル、ハンマーミル、乳鉢、ペレットミル、VSIミル、ウィリーミル、ローラーミル、ジェットミル、マスコロイダーなどを用いることができる。
【0027】
本発明の成形用樹脂材料は、上記の焙焼物と熱可塑性樹脂と酸変性ポリオレフィンとを加熱混練することにより、得ることができる。成形用樹脂材料中の焙焼物の配合率は、カーボンニュートラルを高いレベルで実現するためには、高い方が好ましいが、得られる樹脂材料、成形物品の製造や強度を考慮すると、40質量%以上90質量%以下が好ましく、より好ましくは50質量%以上80質量%以下である。
【0028】
本発明に用いる熱可塑性樹脂は、粒状に成形されたものが扱い易さの点で好ましいが、どのような形態でもよい。また、2種類以上の熱可塑性樹脂を同時に利用することもできる。
【0029】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられるが、これらに限定されず、熱により可塑化し成形が可能である樹脂であればいずれも用いることができる。中でも、LDPE(低密度ポリエチレン)などのポリエチレンおよびポリプロピレンは成形性の観点から好ましい。
【0030】
本発明においては、熱可塑性樹脂として生分解性樹脂を用いてもよい。熱可塑性を有する生分解性樹脂としては、これらに限定されないが、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリグリコール、ポリカプロラクトン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0031】
本発明においては、酸変性ポリオレフィンを添加することにより、焙焼物と熱可塑性樹脂の混練時に、均一性及び密着性の高い成形用樹脂材料を製造することができる。
【0032】
酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量は、9000~45000が好ましく、20000~35000がより好ましい。重量平均分子量が9000~45000の範囲であると、木質バイオマス焙炒物の分散性が向上し、引張強度が高くなる。
【0033】
酸変性のポリオレフィンのJIS K 0070に従って測定した酸価は、26~70が好ましく、40~60がより好ましい。酸価が26~70の範囲であると、木質バイオマス焙炒物の分散性が向上し、引張強度が高くなる。
【0034】
酸変性ポリオレフィンとしては、公知のものを用いることができ、例えば、これに限定されないが、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(ユーメックス1001、1010、三洋化成製)、モディック(登録商標)P908(三菱化学製)等が挙げられる。
【0035】
酸変性ポリオレフィンの含有量は、混練により得られる成形用樹脂材料中に、0.1~10質量%用いることが好ましく、0.3~5質量%がより好ましく、0.4~1質量%がさらに好ましい。
【0036】
本発明においては、熱可塑性エラストマーを添加することにより、木質系バイオマス焙焼物の粉砕物を配合しても、射出成形時に切断や割れ等が生じない粘りが高い成形用樹脂材料を安定的に製造することができる。
【0037】
本発明において使用する熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマーを挙げることができる。より具体的には、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン(SEPS)共重合体、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレン(SBBS)共重合体等のブロック共重合体を挙げることができる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0038】
また、本発明において使用する熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン系エラストマーを挙げることができる。より具体的には、エチレン・ブテン共重合体、EPR(エチレン-プロピレン共重合体)、変性エチレン・ブテン共重合体、EEA(エチレン-エチルアクリレート共重合体)、変性EEA、変性EPR、変性EPDM(エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体)、アイオノマー、α-オレフィン共重合体、変性IR(イソプレンゴム)、変性SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)、ハロゲン化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合体、エチレン-アクリル酸変性体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、及びその酸変性物、及びそれらを主成分とする混合物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0039】
本発明において使用する好ましい熱可塑性エラストマーとしては、スチレン・ブタジエン系ブロック共重合体、エチレン・オクテン系共重合体、プロピレン・エチレン系共重合体等が挙げられる。特に、スチレン・ブタジエン系ブロック共重合体が好ましい。また、上記熱可塑性エラストマーは、無水マレイン酸、無水フマル酸等で変性されていてもよい。スチレン・ブタジエン系ブロック共重合体においては、スチレン含有率が15~30質量%であることが好ましい。
【0040】
熱可塑性エラストマーの配合率は1~20質量%であることが好ましく、3~10質量%であることがより好ましい。
【0041】
本発明の前記成形用樹脂材料を加熱処理することによって成形体を得ることができる。本発明の成形用樹脂材料を加熱処理(加熱、溶融、混練等の処理)する際の温度は、通常100~300℃程度、好ましくは110~250℃程度、特に好ましくは120~220℃程度である。加熱処理により得られた成形体は、従来公知の樹脂成形体により目的とする形状に成形することができる。
【0042】
本発明の成形用樹脂材料の製造方法おいては、焙焼物及び酸変性ポリオレフィンを加熱混練するには、一般的な樹脂成形に用いられる装置を用いることができる。例えば、一般的なエクストルーダー、二軸混錬押出機を用いることが出来る。二軸混錬押出機としては日本製鋼所製のTEXシリーズを使用できる。
【0043】
本発明の成形用樹脂材料を用いて、種々の成形物品を製造することができる。成形には、熱可塑性樹脂の成形に用いられる通常の方法を用いることができ、例えば、これらに限定されないが、射出成形、押出成形、ブロー成型、金型成形、中空成形、発泡成形などを行うことができる。
【0044】
本発明の成形用樹脂材料又はそれを成形することにより得られる成形物品には、熱可塑性樹脂と焙焼物以外の有機物及び/又は無機物を含有させてもよい。他の成分としては、例えば、水酸化ナトリウム、水駿化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ;クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイ力、二酸化チタン、酸化亜鉛等の無機填料;カーボンブラック、グラファイト、ガラスフレーク等の有機填料;ベンガラ、アゾ顔料、フタロシアニン等の染料又は顔料;分散剤、滑剤、可塑剤、離型剤、難燃剤、酸化防止剤(フェノール系酸化防止剤、リン酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤)、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、金属不活性剤、結晶化促進剤(造核剤)、発泡剤、架橋剤、抗菌剤等の改質用添加剤等が挙げられる。
【0045】
本発明の成形用樹脂材料は、種々の目的に合わせた成形が可能であり、プラスチック製品の代替品として利用できる。本発明の成形用樹脂材料より得られる成形物品としては、例えば、トレー等、自動車部品、自動車のダッシュボード等の内装、飛行機の荷物入れ、輸送用機器の構造部材、家電製品の筐体(ハウジング)、電化製品部材、カード、トナー容器等の各種容器、建築材、育苗ポット、農業用シート、筆記具、木製品、家庭用器具、ストロー、コップ、玩具、スポーツ用品、港湾用部材、建築部材、発電機用部材、工具、漁具、包装材料、3Dプリンター造形物、パレット、食品容器、食器、カトラリー(スプーン、フォーク等)、箸、各種シート類等に幅広く適用可能である。これらの製品は不要となった場合、廃棄処分されることとなるが、例えば、焼却処理され二酸化炭素を排出することになっても、配合された木質系バイオマスの焙焼物の分は、大気中の二酸化炭素量を増加させていないものとして取り扱うことができる。
【実施例0046】
以下では、本発明の実験例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、部および%は質量部および質量%を示し、数値範囲はその端点を含むものとして記載する。
【0047】
[実施例1]
ユーカリ・ユーログランディスの木材チップをディスクチッパーにて粉砕処理した。粉砕後、1~50mmのサイズのチップ粉砕物を、コンベアドライヤー(Alvan Blanch(株)製)を用いて、熱風温度70℃で3時間乾燥し、水分を10%に調整した。
続いて、大型ロータリーキルン型炭化炉を用い、酸素濃度1%以下、炭化炉内のチップ粉砕物の物質温度が260℃となるようにして、滞留時間12分で焙焼を行って、木質系バイオマスの焙焼物を得た。得られた焙焼物を冷却後、LabMill(大阪ケミカル(株)製)で平均粒径50μmになるまで粉砕した。
次に焙焼物の粉砕物、ポリプロピレン(商品名:J107G、プライムポリマー製、メルトフローレイト:30g/10min)、酸変性ポリオレフィン(製品名:ユーメックス1010、酸価52、分子量30000、三洋化成工業株式会社製)を51:48.5:0.5の配合比で混合し、DSM Xplore Compounder15(レオ・ラボ社製)にて混錬190℃、6分、加熱筒190℃、成形(9bar 2s-11bar 0.5s-11bar 24s)、金型40℃で、成形用樹脂材料のダンベルを作成した後に物性を測定した。
なお、焙焼物の粉砕物の平均粒径は、レーザー回折式粒度測定装置(マスターサイザー3000、Malvern社製)にて測定し、体積基準による50%粒子径を平均粒径とした。
【0048】
[実施例2]
熱可塑性エラストマーとして無水マレイン酸変性スチレン・ブタジエンブロック共重合体(製品名:M1943、スチレン含有率20%、旭化成株式会社製)を使用し、焙焼物の粉砕物、ポリプロピレン、酸変性ポリオレフィン、熱可塑性エラストマーの配合比を51:43.6:0.4:5とした以外は、実施例1と同様にして、成形用樹脂材料を製造した。
【0049】
[実施例3]
焙焼物の粉砕物、ポリプロピレン、酸変性ポリオレフィン、熱可塑性エラストマーの配合比を51:38.6:0.4:10とした以外は、実施例2と同様にして、成形用樹脂材料を製造した。
【0050】
[比較例1]
酸変性ポリオレフィンを添加せず、焙焼物の粉砕物とポリプロピレンを50:50の配合比で混合した以外は、実施例1と同様にして、成形用樹脂材料を製造した。
【0051】
実施例1~3、及び比較例1で製造した成形用樹脂材料について、引張強度を下記の方法にて測定し、結果を表1に示した。
[引張強度の測定]:
DSM Xplore Compounder15(レオ・ラボ(株)製)で作成したJIS K 6251のダンベルを作成して、JIS K 7161:プラスチック-引張特性の試験方法に準じて引張速度1mm/minで測定した。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示されるように、酸変性ポリオレフィンを添加した実施例1~3の成形用樹脂材料は、熱酸変性ポリオレフィンを添加していない比較例1の成形用樹脂材料に比較すると、破断歪が高く粘りが高いので、成形性に優れることが示された。