(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035418
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】鉄道車両の空気ばね装置
(51)【国際特許分類】
B61F 5/10 20060101AFI20230306BHJP
F16F 9/02 20060101ALI20230306BHJP
F16F 9/508 20060101ALI20230306BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20230306BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20230306BHJP
F16F 9/34 20060101ALN20230306BHJP
【FI】
B61F5/10 C
F16F9/02
F16F9/508
F16F15/02 B
F16F15/023 A
F16F9/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142256
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 信之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 淳平
【テーマコード(参考)】
3J048
3J069
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048AB09
3J048AC04
3J048AD05
3J048BE03
3J048CB22
3J048DA01
3J048EA16
3J069AA09
3J069EE01
3J069EE66
(57)【要約】
【課題】フィードバック制御を用いることなく簡単な構造で、空気ばねの固有振動数を有する低周波の領域と軸ばねの固有振動数を有する高周波の領域とでそれぞれ安定して振動減衰できる鉄道車両の空気ばね装置を提供する。
【解決手段】台車2と車体3との間に設置した空気ばね4と、空気ばね本体4Hの空気室4Sと固定絞り51を介して連通された補助空気室6と、を備えた鉄道車両の空気ばね装置10である。補助空気室には、空気ばねと固定絞りを介して連通された第1補助空気室61と、第1補助空気室と固定絞りより絞り径が小さく形成された第2固定絞り52を介して連通された第2補助空気室62とを備え、第1、2補助空気室の間には、絞り径が固定絞りより小さく第2固定絞りより大きく形成された第3固定絞り53と所定の圧力差で連通させるリリーフ弁54とを有するバイパス回路5Bが、第2固定絞り52を有する固定絞り回路5Aと並列状に接続された。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の台車と車体との間に設置した空気ばねと、空気ばね本体の空気室と固定絞りを介して連通され前記台車に形成された補助空気室と、を備えた鉄道車両の空気ばね装置であって、
前記補助空気室には、前記空気ばね本体の空気室と前記固定絞りを介して連通された第1補助空気室と、当該第1補助空気室と前記固定絞りより絞り径が小さく形成された第2固定絞りを介して連通された第2補助空気室とを備え、
前記第1補助空気室と前記第2補助空気室との間には、絞り径が前記固定絞りより小さく前記第2固定絞りより大きく形成された第3固定絞りと所定の圧力差が生じたとき連通させるリリーフ弁とを有するバイパス回路が、前記第2固定絞りを有する固定絞り回路と並列状に接続されていることを特徴とする鉄道車両の空気ばね装置。
【請求項2】
請求項1に記載された鉄道車両の空気ばね装置において、
前記第1補助空気室と前記第2補助空気室とが、前記台車の台車枠内に形成され、前記バイパス回路が、前記台車の台車枠外に形成されていることを特徴とする鉄道車両の空気ばね装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された鉄道車両の空気ばね装置において、
前記第2補助空気室の容積は、前記第1補助空気室の容積より大きく形成されていることを特徴とする鉄道車両の空気ばね装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載された鉄道車両の空気ばね装置において、
前記補助空気室には、車両右側に配置された空気ばねと連通する右用の第1補助空気室及び右用の第2補助空気室と、車両左側に配置された空気ばねと連通する左用の第1補助空気室及び左用の第2補助空気室とを備え、
前記右用の第2補助空気室と前記左用の第2補助空気室との間には、所定の圧力差が生じたとき連通させる第2のリリーフ弁を有する第2バイパス回路が接続されていることを特徴とする鉄道車両の空気ばね装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載された鉄道車両の空気ばね装置において、
前記第1補助空気室と前記第2補助空気室との間には、絞り径が異なる第3固定絞りと異なる圧力差で連通させるリリーフ弁とを有する複数のバイパス回路が並列状に接続されていることを特徴とする鉄道車両の空気ばね装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の空気ばね装置に関し、詳しくは、空気ばねの固有振動数を有する低周波の領域と軸ばねの固有振動数を有する高周波の領域の両方の領域で振動減衰可能とした鉄道車両の空気ばね装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄道車両は、台車を構成する車輪と台車枠とを軸ばねを介して連結し、台車枠と車体とを空気ばねを介して連結することによって、車輪がレールから受ける振動を減衰させて、車体に搭乗した乗客に対する乗り心地の向上を図っている。また、空気ばねは、ゴムベローズと積層ゴム部からなる空気ばね本体の空気室と、台車に設置された補助空気室と、両空気室の間に形成された絞り(オリフィス)とによって構成され、この絞りを通過する空気の圧力損失によって振動の減衰を得る構造となっている。
【0003】
一方、空気ばねは、ゴムベローズ等から成り、その柔軟性から高周波の振動絶縁性には優れているが、多くの場合、低周波(1~2Hz付近)に共振点となる固有振動数を有するので、その低周波の領域で大きな振動減衰を得るように絞りの絞り径が一意的に選定されている。ところが、絞り径が一意的に選定された絞り(固定絞り)の場合、振動の周波数が高く振幅が大きくなると、絞りを通過する空気の流量(絞り流量)が増加して、絞り前後の圧力差が急激に増大する。そのため、軸ばねの固有振動数を有する高周波(10Hz付近)の領域では、絞りの減衰力が大幅に低下して、その領域の振動減衰性能が十分得られないという問題があった。
【0004】
このような問題に対応すべく、例えば、特許文献1には、鉄道車両の二次ばねとして使用される空気ばねで、空気ばね本体と補助空気室との間を絞りにより連通した装置において、絞りの大きさが連続的に変化する可変絞り機構で構成し、車体の振動をセンサ等で検知し、その振動速度に比例した減衰力が得られるように絞り制御機構を設けた鉄道車両用空気ばね装置が開示されている。
【0005】
具体的には、
図7に示すように、車体101の床面上に上下振動加速度計102を、車体101と台車枠103との間に高さセンサ104をそれぞれ設け、それらの検知信号を制御器105に入力し、スカイフックダンパの理論により車体101の上下振動速度に比例した減衰力を発生させるために、空気ばね106に設けた可変絞り機構107に制御信号を入力するように構成した鉄道車両用空気ばね装置100が開示されている。
【0006】
また、
図8に示すように、可変絞り機構107は、ステップモータやサーボモータ等の制御用モータ109により絞りを可変にした円板弁110等から構成されている。円板弁110は、例えば、空気ばね本体106aと補助空気室106bの間を仕切る隔壁111に複数の小円孔112を円周配置して設け、これに対し上記小円孔112と同じ円周配置により複数の透孔113を設けた回転円板114を重ね制御用モータ109で回転させ、小円孔112と透孔113の重なりによって形成される絞りの大きさを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載された鉄道車両用空気ばね装置100では、車体101の床面上に上下振動加速度計102を、車体101と台車枠103との間に高さセンサ104をそれぞれ設け、それらの検知信号を制御器105に入力し、スカイフックダンパの理論により車体101の上下振動速度に比例した減衰力を発生させるために、空気ばね106に設けた可変絞り機構107に制御信号を入力するように構成したので、車体101の上下振動速度の情報を可変絞り機構107にフィードバック制御する構成である。そのため、車体101の上下振動速度が速くなると、可変絞り機構107における絞り径の追従遅れが生じやすく、軸ばねの固有振動数を有する高周波(10Hz付近)の領域で、振動減衰性能が十分得られないという問題を解決できない可能性があった。
【0009】
また、上記可変絞り機構107は、ステップモータやサーボモータ等の制御用モータ109により絞りを可変にした円板弁110等から構成され、また、円板弁110は、例えば、空気ばね本体106aと補助空気室106bの間を仕切る隔壁111に複数の小円孔112を円周配置して設け、これに対し上記小円孔112と同じ円周配置により複数の透孔113を設けた回転円板114を重ね制御用モータ109で回転させ、小円孔112と透孔113の重なりによって形成される絞りの大きさを制御する構造であるので、空気ばね本体106aと補助空気室106bとの狭い隙間に可変絞り機構107が形成され、複雑な構造とならざるを得ない。そのため、可変絞り機構107が故障した場合の交換作業や、可変絞り機構107に対する定期的な点検作業が、煩雑となるという問題があった。
【0010】
本発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、フィードバック制御を用いることなく簡単な構造で、空気ばねの固有振動数を有する低周波の領域と軸ばねの固有振動数を有する高周波の領域とでそれぞれ安定して振動減衰できる鉄道車両の空気ばね装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉄道車両の空気ばね装置は、以下の構成を備えている。
(1)鉄道車両の台車と車体との間に設置した空気ばねと、空気ばね本体の空気室と固定絞りを介して連通され前記台車に形成された補助空気室と、を備えた鉄道車両の空気ばね装置であって、
前記補助空気室には、前記空気ばね本体の空気室と前記固定絞りを介して連通された第1補助空気室と、当該第1補助空気室と前記固定絞りより絞り径が小さく形成された第2固定絞りを介して連通された第2補助空気室とを備え、
前記第1補助空気室と前記第2補助空気室との間には、絞り径が前記固定絞りより小さく前記第2固定絞りより大きく形成された第3固定絞りと所定の圧力差が生じたとき連通させるリリーフ弁とを有するバイパス回路が、前記第2固定絞りを有する固定絞り回路と並列状に接続されていることを特徴とする。
【0012】
本発明においては、補助空気室には、空気ばね本体の空気室と固定絞りを介して連通された第1補助空気室と、当該第1補助空気室と固定絞りより絞り径が小さく形成された第2固定絞りを介して連通された第2補助空気室とを備え、第1補助空気室と第2補助空気室との間には、絞り径が固定絞りより小さく第2固定絞りより大きく形成された第3固定絞りと所定の圧力差が生じたとき連通させるリリーフ弁とを有するバイパス回路が、第2固定絞りを有する固定絞り回路と並列状に接続されているので、空気ばねの固有振動数を有する低周波と、軸ばねの固有振動数を有する高周波の両方の領域の振動に対して、固定絞り回路とバイパス回路とが互いに役割分担して振動減衰性能を安定的に確保することができる。
【0013】
すなわち、空気ばねの固有振動数を有する低周波の振動は、空気ばね本体の空気室と第1補助空気室とを連通させた固定絞りを通過後に、固定絞りより絞り径が小さく形成された第2固定絞りを通過する空気の圧力損失によって大きく減衰させることができる。また、軸ばねの固有振動数を有する高周波の振動は、振幅が小さい段階では、第2固定絞りを通過する空気の流量(絞り流量)が少なく、第1補助空気室内の圧力と第2補助空気室内の圧力との圧力差が所定値を越えないので、第2固定絞りによって減衰させ、振幅が大きくなり上記圧力差が所定値を超えた場合には、リリーフ弁が開放されて第3固定絞りを通過する空気の圧力損失によって減衰させることができる。
【0014】
また、固定絞りと第2固定絞りと第3固定絞りとが、いずれも絞り径が所定の大きさに設定された簡単な絞り構造であって、フィードバック制御を使用していないので、車体の上下振動速度が速くなっても、可変絞り機構のように絞り径の追従遅れが生じなく、軸ばねの固有振動数を有する高周波の領域で、空気ばねの振動減衰性能を安定して確保することができる。
【0015】
よって、本発明によれば、フィードバック制御を用いることなく簡単な構造で、空気ばねの固有振動数を有する低周波の領域と軸ばねの固有振動数を有する高周波の領域とでそれぞれ安定して振動減衰できる鉄道車両の空気ばね装置を提供することができる。
【0016】
(2)(1)に記載された鉄道車両の空気ばね装置において、
前記第1補助空気室と前記第2補助空気室とが、前記台車の台車枠内に形成され、前記バイパス回路が、前記台車の台車枠外に形成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明においては、第1補助空気室と第2補助空気室とが、台車の台車枠内に形成されているので、台車枠を構成するフレーム部材の内部空間を仕切り板で分割することによって、第1補助空気室と第2補助空気室とを簡単に形成することができる。また、バイパス回路が、台車の台車枠外に形成されているので、台車枠の外部に第3固定絞りとリリーフ弁とを配管接続してバイパス回路を簡単な構造で形成することができる。そのため、台車枠の外部からバイパス回路を構成するリリーフ弁等を簡単に点検でき、また、修理・交換等を行うことができる。したがって、空気ばねの振動減衰性能をより一層安定して確保することができる。
【0018】
(3)(1)又は(2)に記載された鉄道車両の空気ばね装置において、
前記第2補助空気室の容積は、前記第1補助空気室の容積より大きく形成されていることを特徴とする。
【0019】
本発明においては、第2補助空気室の容積は、第1補助空気室の容積より大きく形成されているので、車体の振動に伴って空気ばね本体の空気室から固定絞りを通過する空気が、第1補助空気室に滞留せずに、第2固定絞り又は第3固定絞りを通過して第2補助空気室へ素早く移動することができる。そのため、空気ばね本体の空気室と第2補助空気室とを第2固定絞り又は第3固定絞りを介して略直接的に連通させることができ、第2固定絞り又は第3固定絞りの減衰力の応答性を高めることができる。その結果、空気ばねの振動減衰性能をより一層向上させることができる。
【0020】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載された鉄道車両の空気ばね装置において、
前記補助空気室には、車両右側に配置された空気ばねと連通する右用の第1補助空気室及び右用の第2補助空気室と、車両左側に配置された空気ばねと連通する左用の第1補助空気室及び左用の第2補助空気室とを備え、
前記右用の第2補助空気室と前記左用の第2補助空気室との間には、所定の圧力差が生じたとき連通させる第2のリリーフ弁を有する第2バイパス回路が接続されていることを特徴とする。ここで、「車両右側」は、車両の進行方向を向いたときに右手側となり、「車両左側」は、車両の進行方向を向いたときに左手側となる意味である。
【0021】
本発明においては、補助空気室には、車両右側に配置された空気ばねと連通する右用の第1補助空気室及び右用の第2補助空気室と、車両左側に配置された空気ばねと連通する左用の第1補助空気室及び左用の第2補助空気室とを備え、右用の第2補助空気室と左用の第2補助空気室との間には、所定の圧力差が生じたとき連通させる第2のリリーフ弁を有する第2バイパス回路が接続されているので、車体が左右に傾斜(ローリング)すること等によって、右用の第2補助空気室内の圧力又は左用の第2補助空気室内の圧力が過剰に上昇し、所定の圧力差が生じた場合、第2のリリーフ弁が開放して両者の圧力の均等化を図り、第2固定絞り又は第3固定絞りの減衰力の低下を抑制すると共に、第2固定絞り又は第3固定絞りの減衰力の均一化を図ることができる。
【0022】
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載された鉄道車両の空気ばね装置において、
前記第1補助空気室と前記第2補助空気室との間には、絞り径が異なる第3固定絞りと異なる圧力差で連通させるリリーフ弁とを有する複数のバイパス回路が並列状に接続されていることを特徴とする。
【0023】
本発明においては、第1補助空気室と第2補助空気室との間には、絞り径が異なる第3固定絞りと異なる圧力差で連通させるリリーフ弁とを有する複数のバイパス回路が並列状に接続されているので、複数の固有振動数を有する高周波の振動に対して、複数のバイパス回路が別々に作動して、それぞれの振動減衰性能を発揮することができる。そのため、例えば、橋梁やトンネル等の路線状況の異なる走行区間で生じる特有の振動に対しても、安定した振動減衰性能を確保することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、フィードバック制御を用いることなく簡単な構造で、空気ばねの固有振動数を有する低周波の領域と軸ばねの固有振動数を有する高周波の領域とでそれぞれ安定して振動減衰できる鉄道車両の空気ばね装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本実施形態の一態様を表す鉄道車両の空気ばね装置の概略断面図である。
【
図2】
図1に示す鉄道車両の空気ばね装置における空気回路の概略構成図である。
【
図3】
図2に示す空気回路の動作説明図であって、(A)は第1補助空気室内の圧力と第2補助空気室内の圧力とが所定の圧力差より小さいときの動作説明図を示し、(B)は第1補助空気室内の圧力と第2補助空気室内の圧力とが所定の圧力差より大きいときの動作説明図を示す。
【
図4】
図1に示す鉄道車両の空気ばね装置における振動の周波数と応答倍率との関係を表す振動減衰特性図である。
【
図5】
図1に示す鉄道車両の空気ばね装置における第1変形例の空気回路の概略構成図である。
【
図6】
図1に示す鉄道車両の空気ばね装置における第2変形例の空気回路の概略構成図である。
【
図7】特許文献1に開示された鉄道車両用空気ばね装置の概略断面図である。
【
図8】
図7に示す鉄道車両用空気ばね装置の可変絞り機構の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本実施形態の一態様を表す鉄道車両の空気ばね装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。具体的には、本実施形態に係る鉄道車両の空気ばね装置の構成と動作方法について詳細に説明した上で、第1、2変形例の構成と動作方法について説明する。
【0027】
<本鉄道車両の空気ばね装置の構成と動作方法>
まず、本鉄道車両の空気ばね装置の構成と動作方法について、
図1~
図4を用いて説明する。
図1に、本実施形態の一態様を表す鉄道車両の空気ばね装置の概略断面図を示す。
図2に、
図1に示す鉄道車両の空気ばね装置における空気回路の概略構成図を示す。
図3に、
図2に示す空気回路の動作説明図であって、(A)は第1補助空気室内の圧力と第2補助空気室内の圧力とが所定の圧力差より小さいときの動作説明図を示し、(B)は第1補助空気室内の圧力と第2補助空気室内の圧力とが所定の圧力差より大きいときの動作説明図を示す。
図4に、
図1に示す鉄道車両の空気ばね装置における振動の周波数と応答倍率との関係を表す振動減衰特性図を示す。
【0028】
図1~
図3に示すように、本実施形態の一態様を表す鉄道車両の空気ばね装置10は、鉄道車両1の台車2と車体3との間に設置した空気ばね4と、空気ばね本体4Hの空気室4Sと固定絞り51を介して連通され台車2に形成された補助空気室6と、を備えた鉄道車両の空気ばね装置10である。ここで、台車2は、軌道FLに敷設されたレールRL上を走行する輪軸8と、空気ばね4が装着された台車枠21とを備え、輪軸8は、軸ばね7を介して台車枠21と連結されている。また、空気ばね4は、車両右側と車両左側にそれぞれ配置されている。ここで、「車両右側」は、車両の進行方向を向いたときに右手側となり、「車両左側」は、車両の進行方向を向いたときに左手側となる意味である。
【0029】
また、補助空気室6には、空気ばね本体4Hの空気室4Sと固定絞り51を介して連通された第1補助空気室61と、当該第1補助空気室61と固定絞り51より絞り径が小さく形成された第2固定絞り52を介して連通された第2補助空気室62とを備えている。ここでは、固定絞り51は、空気ばね本体4Hの空気室4Sと第1補助空気室61とを仕切る隔壁に設置されている。また、第2固定絞り52は、第1補助空気室61と第2補助空気室62とを仕切る隔壁に設置されているが、第1補助空気室61と第2補助空気室62とを接続する外部配管内に設置されても良い。
【0030】
なお、固定絞り51の絞り径は、空気ばね本体4Hの空気室4Sと第1補助空気室61との間で空気が略自由に移動できる大きさに形成されていれば良く、通過する空気の圧力損失が殆んど生じない程度の大きさで良い。また、第2固定絞り52の絞り径は、空気ばね4の固有振動数を有する低周波(1~2Hz付近)の領域で、第2固定絞り52を通過する空気の圧力損失によって大きく減衰させ得る大きさに設定されている。例えば、第2固定絞り52の絞り径は、固定絞り51の絞り径の1/2~1/3倍程度の大きさに形成されていることが好ましい。
【0031】
また、第1補助空気室61と第2補助空気室62との間には、絞り径が固定絞り51より小さく第2固定絞り52より大きく形成された第3固定絞り53と、所定の圧力差△Pが生じたとき連通させるリリーフ弁54と、を有するバイパス回路5Bが、第2固定絞り52を有する固定絞り回路5Aと並列状に接続されている。なお、第3固定絞り53の絞り径は、軸ばね7の固有振動数を有する高周波(10Hz付近)の領域で、第3固定絞り53を通過する空気の圧力損失によって大きく減衰させ得る大きさに設定されている。
【0032】
そして、リリーフ弁54は、第1補助空気室61内の圧力P1bが第2補助空気室62内の圧力P2bより所定の圧力差△P(例えば、80~120kPa程度)より大きくなったとき開放するリリーフ弁54aと、第2補助空気室62内の圧力P2bが第1補助空気室61内の圧力P1bより所定の圧力差△P(例えば、80~120kPa程度)だけ大きくなったとき開放するリリーフ弁54bとを備え、両リリーフ弁54a、54bが並列状に配置されている。
【0033】
本鉄道車両の空気ばね装置10は、以上のような構成を有するので、空気ばね4の固有振動数を有する低周波(1~2Hz付近)と、軸ばね7の固有振動数を有する高周波(10Hz付近)の両方の領域の振動Q1、Q2に対して、固定絞り回路5Aとバイパス回路5Bとが互いに役割分担して振動減衰性能を安定的に確保することができる。
【0034】
すなわち、
図3(A)に示すように、空気ばね4の固有振動数を有する低周波(1~2Hz付近)の振動Q1は、空気ばね本体4Hの空気室4Sと第1補助空気室61とを連通させた固定絞り51を殆ど減衰することなく通過後に、固定絞り51より絞り径が小さく形成された第2固定絞り52を通過する。そして、第2固定絞り52を通過する空気の圧力損失によって、空気ばね4の固有振動数を有する低周波(1~2Hz付近)の振動Q1を大きく減衰させることができる。
【0035】
また、軸ばね7の固有振動数を有する高周波(10Hz付近)の振動Q2は、振幅f1が小さい段階では、第2固定絞り52を通過する空気の流量(絞り流量)が少なく、第1補助空気室61内の圧力P1aと第2補助空気室62内の圧力P2aとの圧力差(|P1a-P2a|)が所定値△Pを越えないので、第2固定絞り52によって減衰させることができる。
【0036】
しかし、
図3(B)に示すように、軸ばね7の固有振動数を有する高周波(10Hz付近)の振動Q2の振幅f2が大きくなり、第2固定絞り52を通過する空気の流量(絞り流量)が増加して上記圧力差(|P1b-P2b|)が所定値△Pを超えた場合には、バイパス回路5Bのリリーフ弁54(54a、54b)が開放されて第3固定絞り53を通過する空気の圧力損失によって減衰させることができる。
【0037】
また、固定絞り51と第2固定絞り52と第3固定絞り53とが、いずれも絞り径が所定の大きさに設定された簡単な絞り構造であって、フィードバック制御を使用していないので、車体3の上下振動速度が速くなっても、可変絞り機構のように絞り径の追従遅れが生じなく、軸ばね7の固有振動数を有する高周波(10Hz付近)の領域で、空気ばね4の振動減衰性能を安定して確保することができる。
【0038】
よって、本鉄道車両の空気ばね装置10によれば、フィードバック制御を用いることなく簡単な構造で、空気ばね4の固有振動数を有する低周波の領域と軸ばね7の固有振動数を有する高周波の領域とでそれぞれ安定して振動減衰できる鉄道車両1の空気ばね装置10を提供することができる。
【0039】
また、本鉄道車両の空気ばね装置10においては、第1補助空気室61と第2補助空気室62とが、台車2の台車枠21内に形成され、バイパス回路5Bが、台車2の台車枠21外に形成されていることが好ましい。
【0040】
第1補助空気室61と第2補助空気室62とが、台車2の台車枠21内に形成されたことによって、台車枠21を構成するフレーム部材の内部空間を仕切り板で分割して、第1補助空気室61と第2補助空気室62とを簡単に形成することができる。また、バイパス回路5Bが、台車2の台車枠21外に形成されたことによって、台車枠21の外部に第3固定絞り53とリリーフ弁54(54a、54b)とを配管接続して、バイパス回路5Bを簡単な構造で形成することができる。そのため、台車枠21の外部からバイパス回路5Bを構成するリリーフ弁54等を簡単に点検でき、また、修理・交換等を行うことができる。
【0041】
また、本鉄道車両の空気ばね装置10においては、第2補助空気室62の容積は、第1補助空気室61の容積より大きく形成されていることが好ましい。例えば、第2補助空気室62の容積は、第1補助空気室61の容積の3~10倍程度の大きさに形成されていることが、より一層好ましい。なお、補助空気室6全体の容積は、空気ばね本体4Hの空気室4Sの容積の1.5~3倍程度の大きさに形成することが好ましい。
【0042】
この場合、車体3の振動Q1、Q2に伴って空気ばね本体4Hの空気室4Sから固定絞り51を通過する空気が、第1補助空気室61に滞留せずに、第2固定絞り52又は第3固定絞り53を通過して第2補助空気室62へ素早く移動することができる。そのため、空気ばね本体4Hの空気室4Sと第2補助空気室62とを第2固定絞り52又は第3固定絞り53を介して略直接的に連通させることができ、第2固定絞り52又は第3固定絞り53の減衰力の応答性を高めることができる。その結果、空気ばね4の振動減衰性能をより一層向上させることができる。
【0043】
次に、本鉄道車両の空気ばね装置10における振動の周波数と応答倍率との関係を表す振動減衰特性を、
図4を用いて説明する。
図4では、縦軸に応答倍率を示し、横軸に振動の周波数を示す。応答倍率は、軸ばね7のばね下変位に対する空気ばね4のばね上変位の比率を意味し、具体的には、輪軸8の上下動変位に対する車体3の上下動変位の比率を意味する。したがって、応答倍率が小さいほど、空気ばね装置における軸ばね共振周波数を含めた振動減衰性能が良くなる。ここでは、本鉄道車両の空気ばね装置10の振動減衰特性のシミュレーション結果と、その比較例として、空気ばねが固定絞りを介して補助空気室と連通された従来技術の空気ばね装置において、固定絞りの絞り径が、(大)、(中)、(小)の場合の振動減衰特性のシミュレーション結果を示す。
【0044】
図4に示すように、従来技術の空気ばね装置において、固定絞りの絞り径が(大)の場合、空気ばね4の固有振動数を有する低周波(1~2Hz付近)の領域で、応答倍率が大きく増加するが、軸ばね7の固有振動数を有する高周波(10Hz付近)の領域では、応答倍率は僅かに上昇する程度である。また、従来技術の空気ばね装置において、固定絞りの絞り径が(中)と(小)の場合、空気ばね4の固有振動数を有する低周波(1~2Hz付近)の領域で、固定絞りの絞り径が(大)の場合に比較して、応答倍率が大幅に低下するが、軸ばね7の固有振動数を有する高周波(10Hz付近)の領域では、固定絞りの絞り径が(大)の場合に比較して、応答倍率は大きく上昇する。
【0045】
すなわち、従来技術の空気ばね装置では、固定絞りの絞り径が大きいほど、軸ばね7の固有振動数を有する高周波(10Hz付近)の領域での振動減衰性能は高いが、空気ばね4の固有振動数を有する低周波(1~2Hz付近)の領域での振動減衰性能が低下し、また、固定絞りの絞り径が小さいほど、空気ばね4の固有振動数を有する低周波(1~2Hz付近)の領域での振動減衰性能が高いが、軸ばね7の固有振動数を有する高周波(10Hz付近)の領域での振動減衰性能は低下することになる。したがって、従来技術の空気ばね装置では、空気ばね4の固有振動数を有する低周波の領域と軸ばね7の固有振動数を有する高周波の領域との両方の領域でそれぞれ安定して振動減衰できないことが分かる。
【0046】
これに対して、本発明(本鉄道車両の空気ばね装置10)の場合、空気ばね4の固有振動数を有する低周波(1~2Hz付近)の領域で、従来技術の空気ばね装置における固定絞りの絞り径が(中)、(小)の場合と略同程度に、応答倍率が低下し、軸ばね7の固有振動数を有する高周波(10Hz付近)の領域で、従来技術の空気ばね装置における固定絞りの絞り径が(大)の場合と略同程度に、応答倍率が低下している。
【0047】
以上の結果から、本鉄道車両の空気ばね装置10によれば、空気ばね4の固有振動数を有する低周波(1~2Hz付近)の領域と軸ばね7の固有振動数を有する高周波(10Hz付近)の領域とで、それぞれ安定して振動減衰できることが分かった。
【0048】
<本鉄道車両の空気ばね装置の変形例>
次に、第1変形例に係る鉄道車両の空気ばね装置10Bと、第2変形例に係る鉄道車両の空気ばね装置10Cについて、
図5、
図6を用いて説明する。
図5に、
図1に示す鉄道車両の空気ばね装置における第1変形例の空気回路の概略構成図を示す。
図6に、
図1に示す鉄道車両の空気ばね装置における第2変形例の空気回路の概略構成図を示す。
【0049】
(第1変形例)
図5に示すように、本第1変形例に係る鉄道車両の空気ばね装置10Bは、補助空気室6には、車両右側に配置された空気ばね4Rと連通する右用の第1補助空気室61R及び右用の第2補助空気室62Rと、車両左側に配置された空気ばね4Lと連通する左用の第1補助空気室61L及び左用の第2補助空気室62Lとを備え、右用の第2補助空気室62Rと左用の第2補助空気室62Lとの間には、所定の圧力差が生じたとき連通させる第2のリリーフ弁55(55a、55b)を有する第2バイパス回路5Cが接続されている。
【0050】
なお、車両右側の空気ばね4Rは右用の固定絞り51Rを介して右用の第1補助空気室61Rと連通され、右用の第1補助空気室61Rは、右用の固定絞り51Rより絞り径が小さく形成された右用の第2固定絞り52Rを介して右用の第2補助空気室62Rと連通されている。また、右用の第1補助空気室61Rと右用の第2補助空気室62Rとの間には、絞り径が右用の固定絞り51Rより小さく右用の第2固定絞り52Rより大きく形成された右用の第3固定絞り53Rと所定の圧力差△Pが生じたとき連通させるリリーフ弁54R(54Ra、54Rb)とを有する右用のバイパス回路5RBが、右用の第2固定絞り52Rを有する右用の固定絞り回路5RAと並列状に接続されている。
【0051】
また、車両左側の空気ばね4Lは左用の固定絞り51Lを介して左用の第1補助空気室61Lと連通され、左用の第1補助空気室61Lは、左用の固定絞り51Lより絞り径が小さく形成された左用の第2固定絞り52Lを介して左用の第2補助空気室62Lと連通されている。また、左用の第1補助空気室61Lと左用の第2補助空気室62Lとの間には、絞り径が左用の固定絞り51Lより小さく左用の第2固定絞り52Lより大きく形成された左用の第3固定絞り53Lと所定の圧力差△Pが生じたとき連通させるリリーフ弁54L(54La、54Lb)とを有する左用のバイパス回路5LBが、左用の第2固定絞り52Lを有する左用の固定絞り回路5LAと並列状に接続されている。これらの構成は、前述した本鉄道車両の空気ばね装置10と同様であり、詳細な説明は割愛する。
【0052】
本第1変形例に係る鉄道車両の空気ばね装置10Bによれば、右用の第2補助空気室62Rと左用の第2補助空気室62Lとの間に、所定の圧力差が生じたとき連通させる第2のリリーフ弁55(55a、55b)を有する第2バイパス回路5Cが接続されているので、車体3が左右に傾斜(ローリング)すること等によって、右用の第2補助空気室62R内の圧力又は左用の第2補助空気室62L内の圧力が過剰に上昇し、所定の圧力差△Pが生じた場合、第2のリリーフ弁55(55a、55b)が開放して両者の圧力の均等化を図り、第2固定絞り52(52R、52L)又は第3固定絞り53(53R、53L)の減衰力の低下を抑制すると共に、第2固定絞り52(52R、52L)又は第3固定絞り53(53R、53L)の減衰力の均一化を図ることができる。
【0053】
(第2変形例)
図6に示すように、本第2変形例に係る鉄道車両の空気ばね装置10Cは、第1補助空気室61と第2補助空気室62との間には、絞り径が異なる第3固定絞り531、532と異なる圧力差で連通させるリリーフ弁541、542とを有する複数のバイパス回路5B1、5B2が並列状に接続されている。
【0054】
なお、補助空気室6には、空気ばね4の空気室4Sと固定絞り51を介して連通された第1補助空気室61と、当該第1補助空気室61と固定絞り51より絞り径が小さく形成された第2固定絞り52を介して連通された第2補助空気室62とを備えた点は、前述した鉄道車両の空気ばね装置10と同様であるので、詳細な説明は割愛する。
【0055】
また、リリーフ弁541、542は、第1補助空気室61内の圧力が第2補助空気室62内の圧力より所定の圧力差より大きくなったとき開放するリリーフ弁541a、542aと、第2補助空気室62内の圧力が第1補助空気室61内の圧力より所定の圧力差だけ大きくなったとき開放するリリーフ弁541b、542bとを備えている。
【0056】
そして、一方のバイパス回路5B1において、各リリーフ弁541a、541bが並列状に配置され、他方のバイパス回路5B2において、各リリーフ弁542a、542bが並列状に配置されている。また、一方のバイパス回路5B1におけるリリーフ弁541a、541bが開放する圧力差と、他方のバイパス回路5B2におけるリリーフ弁542a、542bが開放する圧力差は、異なる値に設定されている。ここでは、バイパス回路5B1、5B2は、2つの例が示されているが、バイパス回路5B1、5B2は、必ずしも2つに限らず、3つ以上でも良い。
【0057】
本第2変形例に係る鉄道車両の空気ばね装置10Cによれば、、第1補助空気室61と第2補助空気室62との間には、絞り径が異なる第3固定絞り531、532と異なる圧力差で連通させるリリーフ弁541、542とを有する複数のバイパス回路5B1、5B2が並列状に接続されているので、複数の固有振動数を有する高周波の振動に対して、複数のバイパス回路5B1、5B2が別々に作動して、それぞれの振動減衰性能を発揮することができる。そのため、例えば、橋梁やトンネル等の路線状況の異なる走行区間で生じる特有の振動に対しても、安定した振動減衰性能を確保することができる。
【0058】
<作用効果>
以上、詳細に説明した本実施形態に係る鉄道車両の空気ばね装置10、10B、10Cによれば、補助空気室6、6R、6Lには、空気ばね本体4Hの空気室4Sと固定絞り51、51R、51Lを介して連通された第1補助空気室61、61R、61Lと、当該第1補助空気室61、61R、61Lと固定絞り51、51R、51Lより絞り径が小さく形成された第2固定絞り52、52R、52Lを介して連通された第2補助空気室62、62R、62Lとを備え、第1補助空気室61、61R、61Lと第2補助空気室62、62R、62Lとの間には、絞り径が固定絞り51、51R、51Lより小さく第2固定絞り52、52R、52Lより大きく形成された第3固定絞り53、53R、53L、531、532と所定の圧力差△Pが生じたとき連通させるリリーフ弁54、54R、54L、541、542とを有するバイパス回路5B、5B1、5B2が、第2固定絞り52、52R、52Lを有する固定絞り回路5A、5RA、5LAと並列状に接続されているので、空気ばね4、4R、4Lの固有振動数を有する低周波(1~2Hz付近)と、軸ばね7の固有振動数を有する高周波(10Hz付近)の両方の領域の振動に対して、固定絞り回路5A、5RA、5LAとバイパス回路5B、5B1、5B2とが互いに役割分担して振動減衰性能を安定的に確保することができる。
【0059】
すなわち、空気ばね4、4R、4Lの固有振動数を有する低周波(1~2Hz付近)の振動Q1は、空気ばね本体4Hの空気室4Sと第1補助空気室61、61R、61Lとを連通させた固定絞り51、51R、51Lを通過後に、固定絞り51、51R、51Lより絞り径が小さく形成された第2固定絞り52、52R、52Lを通過する空気の圧力損失によって大きく減衰させることができる。また、軸ばね7の固有振動数を有する高周波(10Hz付近)の振動Q2は、振幅f1が小さい段階では、第2固定絞り52、52R、52Lを通過する空気の流量(絞り流量)が少なく、第1補助空気室61、61R、61L内の圧力P1aと第2補助空気室62、62R、62L内の圧力P2aとの圧力差(|P1a-P2a|)が所定値△Pを越えないので、第2固定絞り52、52R、52Lによって減衰させ、振幅f2が大きくなり上記圧力差(|P1a-P2a|)が所定値△Pを超えた場合には、リリーフ弁54(54a、54b)、54R、54L、541、542が開放されて第3固定絞り53、53R、53L、531、532を通過する空気の圧力損失によって減衰させることができる。
【0060】
また、固定絞り51と第2固定絞り52、52R、52Lと第3固定絞り53、53R、53L、531、532とが、いずれも絞り径が所定の大きさに設定された簡単な絞り構造であって、フィードバック制御を使用していないので、車体3の上下振動速度が速くなっても、可変絞り機構のように絞り径の追従遅れが生じなく、軸ばね7の固有振動数を有する高周波(10Hz付近)の領域で、空気ばね4の振動減衰性能を安定して確保することができる。
【0061】
よって、本実施形態によれば、フィードバック制御を用いることなく簡単な構造で、空気ばね4、4R、4Lの固有振動数を有する低周波の領域と軸ばね7の固有振動数を有する高周波の領域とでそれぞれ安定して振動減衰できる鉄道車両の空気ばね装置10、10B、10Cを提供することができる。
【0062】
また、本実施形態によれば、第1補助空気室61、61R、61Lと第2補助空気室62、62R、62Lとが、台車2の台車枠21内に形成されているので、台車枠21を構成するフレーム部材の内部空間を仕切り板で分割することによって、第1補助空気室61、61R、61Lと第2補助空気室62、62R、62Lとを簡単に形成することができる。また、バイパス回路5B、5B1、5B2が、台車2の台車枠21外に形成されているので、台車枠21の外部に第3固定絞り53、53R、53L、531、532とリリーフ弁54(54a、54b)、54R、54L、541、542とを配管接続してバイパス回路5B、5B1、5B2を簡単な構造で形成することができる。そのため、台車枠21の外部からバイパス回路5B、5B1、5B2を構成するリリーフ弁54(54a、54b)、54R、54L、541、542等を簡単に点検でき、また、修理・交換等を行うことができる。したがって、空気ばね4、4R、4Lの振動減衰性能をより一層安定して確保することができる。
【0063】
また、本実施形態によれば、第2補助空気室62、62R、62Lの容積は、第1補助空気室61、61R、61Lの容積より大きく形成されているので、車体3の振動に伴って空気ばね本体4Hの空気室4Sから固定絞り51、51R、51Lを通過する空気が、第1補助空気室61、61R、61Lに滞留せずに、第2固定絞り52、52R、52L又は第3固定絞り53、53R、53L、531、532を通過して第2補助空気室62、62R、62Lへ素早く移動することができる。そのため、空気ばね本体4Hの空気室4Sと第2補助空気室62、62R、62Lとを第2固定絞り52、52R、52L又は第3固定絞り53、53R、53L、531、532を介して略直接的に連通させることができ、第2固定絞り52、52R、52L又は第3固定絞り53、53R、53L、531、532の減衰力の応答性を高めることができる。その結果、空気ばね4、4R、4Lの振動減衰性能をより一層向上させることができる。
【0064】
また、本実施形態によれば、補助空気室6には、車両右側に配置された空気ばね4Rと連通する右用の第1補助空気室61R及び右用の第2補助空気室62Rと、車両左側に配置された空気ばね4Lと連通する左用の第1補助空気室61L及び左用の第2補助空気室62Lとを備え、右用の第2補助空気室62Rと左用の第2補助空気室62Lとの間には、所定の圧力差が生じたとき連通させる第2のリリーフ弁55(55a、55b)を有する第2バイパス回路5Cが接続されているので、車体3が左右に傾斜(ローリング)すること等によって、右用の第2補助空気室62R内の圧力又は左用の第2補助空気室62L内の圧力が過剰に上昇し、所定の圧力差△Pが生じた場合、第2のリリーフ弁55(55a、55b)が開放して両者の圧力の均等化を図り、第2固定絞り52(52R、52L)又は第3固定絞り53(53R、53L)の減衰力の低下を抑制すると共に、第2固定絞り52(52R、52L)又は第3固定絞り53(53R、53L)の減衰力の均一化を図ることができる。
【0065】
また、本実施形態によれば、第1補助空気室61、61R、61Lと第2補助空気室62、62R、62Lとの間には、絞り径が異なる第3固定絞り531、532と異なる圧力差で連通させるリリーフ弁541、542とを有する複数のバイパス回路5B1、5B2が並列状に接続されているので、複数の固有振動数を有する高周波の振動に対して、複数のバイパス回路5B1、5B2が別々に作動して、それぞれの振動減衰性能を発揮することができる。そのため、例えば、橋梁やトンネル等の路線状況の異なる走行区間で生じる特有の振動に対しても、安定した振動減衰性能を確保することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、空気ばねの固有振動数を有する低周波の領域と軸ばねの固有振動数を有する高周波の領域の両方の領域で振動減衰可能とした鉄道車両の空気ばね装置として利用できる。
【符号の説明】
【0067】
1 鉄道車両
2 台車
3 車体
4、4R、4L 空気ばね
4H 空気ばね本体
4S 空気室
5A 固定絞り回路
5B、5B1、5B2 バイパス回路
5RB、5LB バイパス回路
5C 第2バイパス回路
6 補助空気室
10、10B、10C 鉄道車両の空気ばね装置
21 台車枠
51、51R、51L 固定絞り
52、52R、52L 第2固定絞り
53、53R、53L 第3固定絞り
54、55 リリーフ弁
61、61R、61L 第1補助空気室
62、62R、62L 第2補助空気室
531、532 第3固定絞り
541、542 リリーフ弁