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特開2023-35432タレット、クランプ状態の検出方法、およびクランプ状態の検出プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035432
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】タレット、クランプ状態の検出方法、およびクランプ状態の検出プログラム
(51)【国際特許分類】
   B23B 29/24 20060101AFI20230306BHJP
   B23Q 3/155 20060101ALI20230306BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
B23B29/24 A
B23Q3/155 A
B23Q3/155 F
B23Q17/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142276
(22)【出願日】2021-09-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185719
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170748
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100150072
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 賢司
(72)【発明者】
【氏名】栗谷 龍彦
(72)【発明者】
【氏名】疋田 功男
(72)【発明者】
【氏名】水越 健一
【テーマコード(参考)】
3C002
3C029
3C046
【Fターム(参考)】
3C002AA03
3C002KK01
3C002LL03
3C029EE05
3C046NN01
3C046NN27
(57)【要約】      (修正有)
【課題】タレットに対する工具ホルダーのクランプ状態を検出することが可能な技術を提供する。
【解決手段】第1の軸AX1を回転中心として旋回可能に構成される旋回部33Aと、旋回部33Aが第1の軸AX1を回転中心として旋回可能なように旋回部33Aを支持するための支持部33Bとを備える。旋回部33Aは、工具ホルダー121をクランプすることが可能なクランプ機構131を含む。クランプ機構131は、工具ホルダー121をクランプする際に当該工具ホルダー121と連動する連動部材191を有する。支持部33Bは、検出可能範囲内において物体の有無を検出することが可能なセンサ113を含む。センサ113は、工具ホルダー121がクランプ機構131にクランプされたときに、連動部材191が検出可能範囲の内外間を移動するように支持部33Bに設けられている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の軸を回転中心として旋回可能に構成される旋回部と、
前記旋回部が前記第1の軸を回転中心として旋回可能なように前記旋回部を支持するための支持部とを備え、
前記旋回部は、工具ホルダーをクランプすることが可能なクランプ機構を含み、
前記クランプ機構は、前記工具ホルダーをクランプする際に当該工具ホルダーと連動する連動部材を有し、
前記支持部は、検出可能範囲内において物体の有無を検出することが可能なセンサを含み、
前記センサは、前記工具ホルダーが前記クランプ機構にクランプされたときに、前記連動部材が前記検出可能範囲の内外間を移動するように前記支持部に設けられている、タレット。
【請求項2】
前記支持部の外周面には、前記第1の軸を中心とする周方向において周回溝が設けられており、
前記支持部は、さらに、
モータと、
前記第1の軸に直交する第2の軸を回転中心として前記モータによって回転駆動される回転部分とを含み、
前記回転部分は、前記周回溝の一部を構成し、
前記工具ホルダーは、前記クランプ機構にクランプされたときに前記回転部分に連結される、請求項1に記載のタレット。
【請求項3】
前記連動部材は、前記第1の軸の直交方向に移動可能に構成されるピンであり、
前記ピンの先端は、前記工具ホルダーが前記クランプ機構にクランプされたときに前記周回溝の内側に位置する、請求項2に記載のタレット。
【請求項4】
前記センサは、前記検出可能範囲が前記周回溝の内側に含まれるように前記支持部に設けられている、請求項2または3に記載のタレット。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のタレットと、
前記旋回部に保持されている交換対象の工具ホルダーを、当該工具ホルダーとは異なる工具ホルダーと交換するための自動工具交換装置とを備える、工作機械。
【請求項6】
前記工作機械は、さらに、当該工作機械を制御するための制御部を備え、
前記センサは、距離センサを有し、前記距離センサは、前記検出可能範囲にある物体と当該距離センサとの間の距離を検出し、
前記連動部材は、前記工具ホルダーが前記クランプ機構にクランプされたときに、前記検出可能範囲に含まれるテーパー部分を有し、
前記制御部は、前記距離センサによって検出された距離が予め定められた範囲内である場合に、前記工具ホルダーが前記クランプ機構に正常にクランプされていると判断する、請求項5に記載の工作機械。
【請求項7】
タレットに対する工具ホルダーのクランプ状態を検出するための検出方法であって、
前記タレットは、
第1の軸を回転中心として旋回可能に構成される旋回部と、
前記旋回部が前記第1の軸を回転中心として旋回可能なように前記旋回部を支持するための支持部とを備え、
前記旋回部は、前記工具ホルダーをクランプすることが可能なクランプ機構を含み、
前記クランプ機構は、前記工具ホルダーをクランプする際に当該工具ホルダーと連動する連動部材を有し、
前記支持部は、検出可能範囲内において物体の有無を検出することが可能なセンサを含み、
前記センサは、前記工具ホルダーが前記クランプ機構にクランプされたときに、前記連動部材が前記検出可能範囲の内外間を移動するように前記支持部に設けられており、
前記検出方法は、
前記工具ホルダーが前記クランプ機構に装着されたことに基づいて、前記センサの出力値を取得するステップと、
前記出力値が予め定められた条件を満たした場合に、前記工具ホルダーが前記クランプ機構に正常にクランプされていると判断するステップとを備える、検出方法。
【請求項8】
タレットに対する工具ホルダーのクランプ状態を検出するための検出プログラムであって、
前記タレットは、
第1の軸を回転中心として旋回可能に構成される旋回部と、
前記旋回部が前記第1の軸を回転中心として旋回可能なように前記旋回部を支持するための支持部とを備え、
前記旋回部は、前記工具ホルダーをクランプすることが可能なクランプ機構を含み、
前記クランプ機構は、前記工具ホルダーをクランプする際に当該工具ホルダーと連動する連動部材を有し、
前記支持部は、検出可能範囲内において物体の有無を検出することが可能なセンサを含み、
前記センサは、前記工具ホルダーが前記クランプ機構にクランプされたときに、前記連動部材が前記検出可能範囲の内外間を移動するように前記支持部に設けられており、
前記検出プログラムは、コンピュータに、
前記工具ホルダーが前記クランプ機構に装着されたことに基づいて、前記センサの出力値を取得するステップと、
前記出力値が予め定められた条件を満たした場合に、前記工具ホルダーが前記クランプ機構に正常にクランプされていると判断するステップとを実行させる、検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タレット、クランプ状態の検出方法、およびクランプ状態の検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2021-070133号公報(特許文献1)は、タレットを備える工作機械を開示している。当該タレットは、複数の工具ホルダーを保持可能なように構成されている。各工具ホルダーは、クランプ機構によってクランプされることでタレットに固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-070133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
工具ホルダーは、自動工具交換装置(ATC:Automatic Tool Changer)や作業者によってタレットに取り付けられる。このとき、工具ホルダーがクランプ機構によって正常にクランプされていないことがある。工具ホルダーがクランプ機構によって正常にクランプされていない状態でワークの加工が行われると、ワークの加工精度が低下したり、工具が破損したりする可能性がある。したがって、タレットに対する工具ホルダーのクランプ状態を検出することが可能な技術が望まれている。なお、特許文献1は、当該技術に関しては開示していない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一例では、タレットは、第1の軸を回転中心として旋回可能に構成される旋回部と、上記旋回部が上記第1の軸を回転中心として旋回可能なように上記旋回部を支持するための支持部とを備える。上記旋回部は、工具ホルダーをクランプすることが可能なクランプ機構を含む。上記クランプ機構は、上記工具ホルダーをクランプする際に当該工具ホルダーと連動する連動部材を有する。上記支持部は、検出可能範囲内において物体の有無を検出することが可能なセンサを含む。上記センサは、上記工具ホルダーが上記クランプ機構にクランプされたときに、上記連動部材が上記検出可能範囲の内外間を移動するように上記支持部に設けられている。
【0006】
本開示の一例では、上記支持部の外周面には、上記第1の軸を中心とする周方向において周回溝が設けられている。上記支持部は、さらに、モータと、上記第1の軸に直交する第2の軸を回転中心として上記モータによって回転駆動される回転部分とを含む。上記回転部分は、上記周回溝の一部を構成する。上記工具ホルダーは、上記クランプ機構にクランプされたときに上記回転部分に連結される。
【0007】
本開示の一例では、上記連動部材は、上記第1の軸の直交方向に移動可能に構成されるピンである。上記ピンの先端は、上記工具ホルダーが上記クランプ機構にクランプされたときに上記周回溝の内側に位置する。
【0008】
本開示の一例では、上記センサは、上記検出可能範囲が上記周回溝の内側に含まれるように上記支持部に設けられている。
【0009】
本開示の一例では、工作機械は、上記タレットと、上記旋回部に保持されている交換対象の工具ホルダーを、当該工具ホルダーとは異なる工具ホルダーと交換するための自動工具交換装置とを備える。
【0010】
本開示の一例では、上記工作機械は、さらに、当該工作機械を制御するための制御部を備える。上記センサは、距離センサを有する。上記距離センサは、上記検出可能範囲にある物体と当該距離センサとの間の距離を検出する。上記連動部材は、上記工具ホルダーが上記クランプ機構にクランプされたときに、上記検出可能範囲に含まれるテーパー部分を有する。上記制御部は、上記距離センサによって検出された距離が予め定められた範囲内である場合に、上記工具ホルダーが上記クランプ機構に正常にクランプされていると判断する。
【0011】
本開示の他の例では、タレットに対する工具ホルダーのクランプ状態を検出するための検出方法が提供される。上記タレットは、第1の軸を回転中心として旋回可能に構成される旋回部と、上記旋回部が上記第1の軸を回転中心として旋回可能なように上記旋回部を支持するための支持部とを備える。上記旋回部は、上記工具ホルダーをクランプすることが可能なクランプ機構を含む。上記クランプ機構は、上記工具ホルダーをクランプする際に当該工具ホルダーと連動する連動部材を有する。上記支持部は、検出可能範囲内において物体の有無を検出することが可能なセンサを含む。上記センサは、上記工具ホルダーが上記クランプ機構にクランプされたときに、上記連動部材が上記検出可能範囲の内外間を移動するように上記支持部に設けられている。上記検出方法は、上記工具ホルダーが上記クランプ機構に装着されたことに基づいて、上記センサの出力値を取得するステップと、上記出力値が予め定められた条件を満たした場合に、上記工具ホルダーが上記クランプ機構に正常にクランプされていると判断するステップとを備える。
【0012】
本開示の他の例では、タレットに対する工具ホルダーのクランプ状態を検出するための検出プログラムが提供される。上記タレットは、第1の軸を回転中心として旋回可能に構成される旋回部と、上記旋回部が上記第1の軸を回転中心として旋回可能なように上記旋回部を支持するための支持部とを備える。上記旋回部は、上記工具ホルダーをクランプすることが可能なクランプ機構を含む。上記クランプ機構は、上記工具ホルダーをクランプする際に当該工具ホルダーと連動する連動部材を有する。上記支持部は、検出可能範囲内において物体の有無を検出することが可能なセンサを含む。上記センサは、上記工具ホルダーが上記クランプ機構にクランプされたときに、上記連動部材が上記検出可能範囲の内外間を移動するように上記支持部に設けられている。上記検出プログラムは、コンピュータに、上記工具ホルダーが上記クランプ機構に装着されたことに基づいて、上記センサの出力値を取得するステップと、上記出力値が予め定められた条件を満たした場合に、上記工具ホルダーが上記クランプ機構に正常にクランプされていると判断するステップとを実行させる。
【0013】
本発明の上記および他の目的、特徴、局面および利点は、添付の図面と関連して理解される本発明に関する次の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】工作機械の内部構造を示す斜視図である。
図2】工具交換位置を説明するための図である。
図3】ワーク加工位置を説明するための図である。
図4】工作機械における駆動機構の構成例を示す図である。
図5図1に示される軸AX1の方向からタレットを表わした側面図である。
図6】タレットの一部である支持部の外観を示す図である。
図7図2中のVII-VII線上の矢視方向に見たタレットを示す断面図である。
図8】ピンの位置と、近接センサの出力値との関係を示す図である。
図9】アンクランプ時におけるクランプ機構内の様子を示す図である。
図10】空クランプ時におけるクランプ機構内の様子を示す図である。
図11図3中のXI-XI線上の矢視方向に見たタレットを示す断面図である。
図12】CNC(Computer Numerical Control)ユニットのハードウェア構成の一例を示す図である。
図13】クランプ機構による工具ホルダーのクランプ状態を検出する処理の一例を示すフローチャートのである。
図14】クランプ機構による工具ホルダーのクランプ状態を検出する処理の他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明に従う各実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、これらについての詳細な説明は繰り返さない。なお、以下で説明される各実施の形態および各変形例は、適宜選択的に組み合わされてもよい。
【0016】
<A.工作機械10>
まず、図1を参照して、実施の形態に従う工作機械10について説明する。図1は、工作機械10の内部構造を示す斜視図である。
【0017】
工作機械10は、回転するワークに工具を接触させることによって、ワーク加工を行なう旋盤である。工作機械10には、停止するワークに回転する工具を接触させることによって、ワークの加工を行なうミーリング機能が備えられている。
【0018】
まず、工作機械10の全体構造について説明する。工作機械10は、ベッド11と、後述の自動工具交換装置18(ATC:Automatic Tool Changer)(図2参照)と、主軸台21と、刃物台31とを有する。
【0019】
ベッド11は、主軸台21、刃物台31および自動工具交換装置18などを支持するためのベース部材であり、工場などの床面上に設置される。ベッド11は、鋳鉄などの金属から形成されている。
【0020】
主軸台21は、ベッド11に取り付けられている。主軸台21は、主軸(図示しない)を有する。主軸は、水平方向に延びるZ軸に平行な軸AX0を中心に回転駆動する。主軸の先端には、ワークを保持可能に構成されているチャック機構が設けられている。チャック機構に保持されたワークは、主軸の回転駆動に伴って、軸AX0を中心に回転する。
【0021】
刃物台31は、カバー体(図示しない)によって区画形成される加工エリア内に設けられている。刃物台31は、タレット型刃物台であり、Z軸に平行な軸AX1を中心に旋回可能である。
【0022】
刃物台31は、刃物台ベース32と、タレット33とを有する。刃物台ベース32には、刃物台31を旋回駆動させるためのモータなどが搭載されている。刃物台ベース32は、後述する横送り台に取り付けられている。
【0023】
タレット33は、刃物台ベース32から、Z軸方向において主軸台21に近接する方向に突出するように設けられている。タレット33は、軸AX1の軸方向が厚み方向となる円盤形状を有する。
【0024】
タレット33は、旋回部33Aと、支持部33Bとで構成されている。旋回部33Aは、軸AX1(第1の軸)を回転中心として旋回可能に構成される。支持部33Bは、刃物台ベース32に固定されており、旋回部33Aが軸AX1を回転中心として旋回可能なように旋回部33Aを支持する。
【0025】
タレット33には、複数の工具ホルダー121が装着され得る。複数の工具ホルダー121は、ボルトを用いてタレット33に締結されている。複数の工具ホルダー121は、軸AX1を中心とする周方向に並んで設けられている。各工具ホルダー121は、工具を保持可能なように構成されている。
【0026】
刃物台31は、サドル16および横送り台(図示しない)を介して、ベッド11に取り付けられている。サドル16は、各種の送り機構や案内機構、サーボモータなどによって、Z軸方向に移動可能である。横送り台は、Z軸に直交し、鉛直方向に対して傾斜するX軸方向に移動可能に構成される。サドル16および横送り台が、それぞれ、Z軸方向およびX軸方向に移動することによって、工具ホルダー121に保持された工具によるワークの加工位置をZ軸-X軸平面内で移動させることができる。
【0027】
<B.工具交換位置およびワーク加工位置>
次に、図2および図3を参照して、タレット33における工具交換位置と、タレット33におけるワーク加工位置とについて説明する。図2は、工具交換位置Jを説明するための図である。図3は、ワーク加工位置Kを説明するための図である。図2および図3には、図1に示される工作機械10をZ方向から見た側面図が示されている。
【0028】
図2に示されるように、工作機械10には、自動工具交換装置18が設けられている。自動工具交換装置18は、たとえば、刃物台31の機械前方側に設けられている。自動工具交換装置18は、工具を把持可能なダブルアームなどを有している。当該ダブルアームは、加工エリア内の刃物台31と、加工エリア外の工具マガジン(図示しない)との間で工具を交換可能なように構成されている。
【0029】
より具体的には、まず、工作機械10は、使用済みの工具ホルダーが工具交換位置Jに位置するように旋回部33Aを旋回する。その後、自動工具交換装置18のダブルアームは、使用済みの工具ホルダーを旋回部33Aから抜き取るとともに、使用予定の工具ホルダーを工具マガジンから抜き取る。その後、自動工具交換装置18は、ダブルアームを半回転する。続いて、自動工具交換装置18のダブルアームは、使用済みの工具ホルダーを工具マガジンに収納するとともに、使用予定の工具ホルダーを旋回部33Aに装着する。これにより、自動工具交換装置18は、旋回部33Aに保持されている交換対象の工具ホルダーを、当該工具ホルダーとは異なる新たな工具ホルダーと交換する。このように、自動工具交換装置18は、工具交換位置Jにおいて工具ホルダーの交換を行う。
【0030】
一方で、工作機械10は、工具を用いてワークWを加工する際には、当該工具を保持している工具ホルダーをワーク加工位置Kに位置させる。その後、工作機械10は、回転するワークWに当該工具を接触させ、ワーク加工位置KにおいてワークWを加工する。あるいは、工作機械10は、回転する工具をワークWに接触させ、ワーク加工位置KにおいてワークWを加工する。
【0031】
なお、工具交換位置Jおよびワーク加工位置Kの各位置は、特に限定されるものではない。たとえば、自動工具交換装置18が機械後方側に設けられる場合、工具交換位置Jは、図3に示されるワーク加工位置Kから180°ずれた位置であってもよい。
【0032】
<C.工作機械10の駆動機構>
次に、図4を参照して、工作機械10における各種の駆動機構について説明する。図4は、工作機械10における駆動機構の構成例を示す図である。
【0033】
図4に示されるように、工作機械10は、制御部50と、モータドライバ111A,111Bと、モータ112A,112Bと、近接センサ113とを含む。
【0034】
本明細書でいう「制御部50」とは、工作機械10を制御する装置を意味する。制御部50の装置構成は、任意である。制御部50は、単体の制御ユニットで構成されてもよいし、複数の制御ユニットで構成されてもよい。一例として、制御部50は、CNCユニットを含む。
【0035】
モータドライバ111Aは、制御部50から目標回転速度の入力を受け、モータ112Aを制御する。モータ112Aは、軸AX1を回転中心としてタレット33の旋回部33Aを回転駆動する。モータ112Aは、交流モータであってもよいし、ステッピングモータであってもよいし、サーボモータであってもよいし、その他の種類のモータであってもよい。
【0036】
モータドライバ111Bは、制御部50から目標回転速度の入力を受け、モータ112Bを制御する。モータ112Bは、軸AX1に直交する軸(後述の軸AX3)を回転中心として、上述のワーク加工位置Kにある工具を回転駆動する。モータ112Bは、交流モータであってもよいし、ステッピングモータであってもよいし、サーボモータであってもよいし、その他の種類のモータであってもよい。
【0037】
近接センサ113は、検出可能範囲内において物体の有無を検出するためのセンサである。制御部50は、近接センサ113の出力値に基づいて、タレット33に対して工具ホルダーが正常にクランプされているか否かを判断する。近接センサ113を用いたクランプ状態の検出方法の詳細については後述する。
【0038】
ATCドライバ111Nは、たとえば、2軸一体型のドライバであり、上述のATC18に接続される第1,第2モータ(図示しない)の駆動を制御する。より具体的には、ATCドライバ111Nは、第1モータの目標回転速度の入力と、第2モータの目標回転速度の入力とのそれぞれをCNCユニット30から受け、第1,第2モータのそれぞれを制御する。当該第1モータは、ATCドライバ111Nからの出力電流に従ってATC18のダブルアームを送り駆動し、工具ホルダーをタレット33から抜く方向に当該ダブルアームを駆動する。上記第2モータは、ATCドライバ111Nからの出力電流に従ってATC18のダブルアームを回転駆動し、任意の回転角度に当該ダブルアームを駆動する。
【0039】
<D.タレット33>
次に、図5および図6を参照して、図1に示されるタレット33について説明する。図5は、図1に示される軸AX1の方向からタレット33を表わした側面図である。図6は、タレット33の一部である支持部33Bの外観を示す図である。
【0040】
説明の便宜のために、以下では「前端」と「後端」との用語を用いる。「後端」とは、タレット33を構成する各部品の一端の内、軸AX1により近い側の一端を示す。「前端」とは、タレット33を構成する各部品の一端の内、軸AX1からより遠い側の一端を示す。
【0041】
タレット33は、旋回部33Aと、支持部33Bとを含む。図5および図6に示されるように、支持部33Bの外周面には、軸AX1を中心とする周方向において周回溝115が形成されている。周回溝115の中心(すなわち、軸AX1)は、旋回部33Aの回転中心(すなわち、軸AX1)と同じである。その結果、旋回部33Aは、周回溝115に沿って旋回する。
【0042】
旋回部33Aには、複数のクランプ機構131が設けられている。図5の例では、12個のクランプ機構131が旋回部33Aに設けられている。各クランプ機構131は、たとえば、軸AX1を中心とする周方向に沿って等間隔に旋回部33Aに設けられている。クランプ機構131の各々は、工具ホルダー121をクランプ可能に構成される。
【0043】
クランプ機構131の後端には、連通孔が形成されている。工具ホルダー121がクランプ機構131に装着された時に、工具ホルダー121の後端は、クランプ機構131の連通孔に挿入される。その結果、工具ホルダー121の後端は、支持部33Bの周回溝115に突出する。旋回部33Aが旋回した際には、工具ホルダー121の後端は、周回溝115内を移動する。
【0044】
支持部33Bの内部には、上述のモータ112Bが設けられている。モータ112Bは、支持部33Bの回転部分114に連結されている。回転部分114は、周回溝115の一部を構成し、軸AX1に直交する軸AX2を回転中心としてモータ112Bによって回転駆動される。また、工具ホルダー121の後端は、クランプ機構131にクランプされているときに回転部分114に連結する。その結果、モータ112Bの駆動力は、回転部分114を介して、工具ホルダー121に伝えられる。これにより、停止するワークに回転する工具を接触させることによってワークの加工を行なうミーリング加工が実現される。
【0045】
クランプ機構131には、連動部材191が設けられている。連動部材191は、クランプ機構131が工具ホルダー121をクランプする際に工具ホルダー121と連動する。より具体的には、工具ホルダー121がクランプ機構131に正常に取り付けられた時には、連動部材191の後端は周回溝115の内側に位置する。一方で、工具ホルダー121がクランプ機構131に取り付けられていない時には、連動部材191の後端は、周回溝115の外側に位置する。
【0046】
周回溝115には、近接センサ113が設けられている。近接センサ113は、所定の検出可能範囲を有し、当該検出可能範囲内において物体の有無を検出する。近接センサ113の種類は特に限定されない。近接センサ113は、たとえば、近接センサ113から物体までの距離を検出可能な距離センサ、物体の有無に応じた磁界の変化を検出可能な磁気センサ、または、近接センサ113の近傍にある物体を検出可能なその他のセンサである。
【0047】
また、近接センサ113の数は、1つ以上であればよい。一例として、近接センサ113は、工具交換位置Jに対応する周回溝115内の位置と、ワーク加工位置Kに対応する周回溝115内の位置とに設けられ、それら以外の周回溝115内の位置には設けられない。
【0048】
近接センサ113は、工具ホルダー121がクランプ機構131にクランプされたときに、連動部材191が近接センサ113の検出可能範囲の内外間を移動するように支持部33Bに設けられている。一例として、連動部材191は、工具ホルダー121がクランプ機構131にクランプされたときに、近接センサ113の検出可能範囲外から近接センサ113の検出可能範囲内に移動する。これにより、工作機械10は、近接センサ113の出力値に基づいて、クランプ機構131による工具ホルダー121のクランプ状態を検出することができる。
【0049】
典型的には、近接センサ113は、自身の検出可能範囲が周回溝115の内側に含まれるように支持部33Bに設けられている。これにより、近接センサ113は、周回溝115において連動部材191を検出することができる。
【0050】
なお、連動部材191の形状は、クランプ機構131が工具ホルダー121をクランプする際に工具ホルダー121と連動可能に構成されていれば任意である。一例として、連動部材191は、軸AX1の径方向に移動可能に構成されるピンである。
【0051】
当該ピンの後端は、工具ホルダー121がクランプ機構131にクランプされたときに周回溝115の内側に位置する。より具体的には、当該ピンの前端は、工具ホルダー121がクランプ機構131に装着された際に工具ホルダー121によって押される。これにより、当該ピンが軸AX1に近付くように移動し、当該ピンの後端は、周回溝115の内側に突出する。近接センサ113は、当該突出したピンの後端を検出する。
【0052】
このように、工具ホルダー121の後端部分のために設けられている周回溝115の内側の空間が、連動部材191の後端部分を検出するための空間としても利用される。これにより、クランプ機構131に対する工具ホルダー121のクランプ状態を検出するために新たな空間を設ける必要がなくなる。結果として、タレット33を小型化することができる。
【0053】
<E.クランプ機構131の内部構造>
次に、図7を参照して、クランプ機構131の内部構造について説明する。図7は、図2中のVII-VII線上の矢視方向に見たタレット33を示す断面図である。
【0054】
図7に示される軸AX3は、上述の軸AX1(図2参照)の径方向の内、工具交換位置J(図2参照)を通る軸を示す。図7に示されるように、タレット33内のクランプ機構131は、ベアリングハウジング56と、フロントハウジング57とを有する。
【0055】
ベアリングハウジング56とフロントハウジング57と間には、油圧シリンダ(図示しない)が設けられている。当該油圧シリンダは、第1ピストン61と、第2ピストン71と、油圧室81~83とを有する。
【0056】
第1ピストン61の後端には、上述の連動部材191の一例であるピン191Aが接続されている。ベアリングハウジング56には軸AX3方向に貫通している連通孔56H1が形成されており、第2ピストン71には軸AX3方向に貫通している連通孔71Hが形成されており、ピン191Aは、第1ピストン61に連動して連通孔56H1,71H内を軸AX3方向に移動可能に構成される。
【0057】
第2ピストン71には、上述の連動部材191の一例であるピン191Bが接続されている。ベアリングハウジング56には軸AX3方向に貫通している連通孔56H2が形成されており、ピン191Bは、第2ピストン71に連動して連通孔56H2内を軸AX3方向に移動可能に構成される。
【0058】
油圧室81~83は、油圧シリンダによって区画形成される。油圧室81~83の各々は、バルブ86を介して、油圧供給源87に接続されている。バルブ86が開閉制御されることによって、油圧供給源87からの油圧が、油圧室81~83のいずれかに供給される。バルブ86の開閉制御は、たとえば、工作機械10の制御部50によって制御される。
【0059】
<F.クランプ機構131のクランプ状態>
次に、図7図11を参照して、クランプ機構131による工具ホルダー121のクランプ状態について説明する。
【0060】
クランプ機構131による工具ホルダー121のクランプ状態は、正常クランプ状態と、アンクランプ状態と、空クランプ状態と、ミスクランプ状態と、工具回転可能状態とを含む。
【0061】
正常クランプ状態は、工具を保持している工具ホルダー121がクランプ機構131に正常にクランプされている状態を示す。
【0062】
アンクランプ状態は、工具ホルダー121がクランプ機構131にクランプされておらず、工具ホルダー121をクランプ機構131から抜くことが可能な状態を示す。
【0063】
空クランプ状態は、工具を保持していない工具ホルダー121がクランプ機構131にクランプされている状態を示す。
【0064】
ミスクランプ状態は、工具を保持している工具ホルダー121がクランプ機構131に異常にクランプされている状態を示す。
【0065】
以下では、クランプ機構131による工具ホルダー121の各クランプ状態について説明する。
【0066】
なお、説明の便宜のために、以下では、上述の軸AX1(図5参照)の径方向の内、軸AX1により近い方向を「軸AX1の径方向内側」と称する。一方で、上述の軸AX1の径方向の内、軸AX1からより離れる方向を「軸AX1の径方向外側」と称する。
【0067】
また、以下では、2つの近接センサ113(近接センサ113A,113B)を用いてクランプ機構131による工具ホルダー121のクランプ状態を検出する例について説明を行うが、タレット33に設けられる近接センサ113の数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0068】
同様に、以下では、2つの連動部材191(ピン191A,191B)を用いてクランプ機構131による工具ホルダー121のクランプ状態を検出する例について説明を行うが、タレット33に設けられる連動部材191の数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。典型的には、連動部材191は、近接センサ113と同数設けられる。
【0069】
(F1.正常クランプ状態)
まず、上述の図7を参照して、クランプ機構131による工具ホルダー121の正常クランプ状態について説明する。図7には、正常クランプ時におけるクランプ機構131内の様子が示されている。
【0070】
図7に示されるように、油圧室81は、軸AX3方向において、フロントハウジング57と第1ピストン61との間に形成されている。油圧室81に油圧が供給されると、第1ピストン61は、軸AX1の径方向内側に押される。その結果、第1ピストン61に繋がっているピン191Aは、連通孔56H1から周回溝115に突出する。
【0071】
また、第1ピストン61が軸AX1の径方向内側に押されると、第1ピストン61は、第2ピストン71と接触し、軸AX1の径方向内側に第2ピストン71を押す。その結果、第2ピストン71に繋がっているピン191Bは、連通孔56H2から周回溝115に突出する。
【0072】
また、第1ピストン61には、凹部62が設けられている。凹部62は、第1ピストン61の内周面から、軸AX3の径方向外側に向けて窪む凹形状をなしている。凹部62は、軸AX3の周方向に延びる環状溝である。凹部62は、工具ホルダー121の凸部135と係合している。第1ピストン61が軸AX1の径方向内側に押されることで、第1ピストン61の凹部62は、軸AX1の径方向内側に工具ホルダー121の凸部を押し込む。結果として、工具ホルダー121は、軸AX1の径方向内側に押し込まれ、クランプ機構131にクランプされる。
【0073】
図7に示されるように、正常クランプ状態では、ピン191Aが近接センサ113Aの前に突出し、ピン191Bが近接センサ113Bの前に突出する。そこで、工作機械10の制御部50は、近接センサ113Aがピン191Aを検出し、かつ、近接センサ113Bがピン191Bを検出した場合に、工具ホルダー121が工具を保持した状態でクランプ機構131に正常にクランプされていると判断する。
【0074】
好ましくは、近接センサ113A,113Bの少なくとも一方は、物体までの距離を検出結果として出力する距離センサである。この場合、工作機械10の制御部50は、当該距離に基づいて、正常クランプ状態を判別する。以下では、近接センサ113Aが距離センサであり、ピン191Aがテーパー部分を有する場合を例に挙げて、距離データに基づく正常クランプ状態の判別方法について説明する。
【0075】
図8は、ピン191Aの位置と、近接センサ113Aの出力値との関係を示す図である。距離センサとしての近接センサ113Aは、自身の検出可能範囲にある物体と近接センサ113Aとの間の距離を検出する。
【0076】
本例では、ピン191Aは、テーパー部分を有する。一例として、当該テーパー部分は、ピン191Aの後端に形成されており、ピン191Aの径は、軸AX1の径方向内側に向かうほど短くなる。その結果、近接センサ113から出力される距離は、ピン191Aの位置に応じて変わる。
【0077】
工作機械10の制御部50は、近接センサ113Aによって検出された距離が予め定められた範囲内である場合に、クランプ機構131のクランプ状態が正常クランプ状態であると判断する。当該予め定められた範囲は、たとえば、閾値th1以下でかつ閾値th2以上である。閾値th1は、閾値th2よりも大きい。閾値th1,th2は、予め設定されていてもよいし、ユーザによって任意に設定されてもよい。
【0078】
これにより、制御部50は、クランプ機構131による工具ホルダー121の正常クランプ状態をより正確に判別することができる。
【0079】
なお、上述では、ピン191Aの先端がテーパー形状である前提で説明を行ったが、ピン191Aの先端の形状は、テーパー形状に限定されない。近接センサ113Aの出力値は、ピン191Aまでの距離だけでなく、近接センサ113Aの前にあるピン191Aの体積によっても変化する。そのため、ピン191Aの形状は、ピン191Aの体積(断面積)が径方向内側に向かうほど小さくなる形状であってもよい。
【0080】
(F2.アンクランプ状態)
次に、図9を参照して、クランプ機構131による工具ホルダー121のアンクランプ状態について説明する。図9は、アンクランプ時におけるクランプ機構131内の様子を示す図である。
【0081】
図9に示されるように、油圧室83は、軸AX3方向において、ベアリングハウジング56と第2ピストン71との間に形成されている。油圧室83に油圧が供給されると、第2ピストン71は、軸AX1の径方向外側に押される。その結果、第2ピストン71に繋がっているピン191Bは、軸AX1の径方向外側に引っ込む。
【0082】
また、第2ピストン71は、軸AX1の径方向外側に押されると第1ピストン61と接触し、軸AX1の径方向外側に第1ピストン61を押す。その結果、第1ピストン61に繋がっているピン191Aは、軸AX1の径方向外側に引っ込む。
【0083】
また、第2ピストン71は、軸AX1の径方向外側に押されることで、工具ホルダー121の凸部135に接触する。その後、凸部135が軸AX1の径方向外側に押され、工具ホルダー121がクランプ機構131にアンクランプされる。
【0084】
図9に示されるように、アンクランプ状態では、ピン191Aは近接センサ113Aの前に位置しておらず、ピン191Bは近接センサ113Bの前に位置していない。そこで、工作機械10は、近接センサ113Aがピン191Aを検出しておらず、かつ、近接センサ113Bがピン191Bを検出していない場合に、工具ホルダー121がクランプ機構131からアンクランプされていると判断する。
【0085】
(F3.空クランプ状態)
次に、図10を参照して、クランプ機構131による工具ホルダー121の空クランプ状態について説明する。図10は、空クランプ時におけるクランプ機構131内の様子を示す図である。
【0086】
工具を保持している工具ホルダー121がクランプ機構131に装着される際には、工具は、工具ホルダー121内のコレット(図示しない)によって軸AX1の径方向内側に引き込まれる。このとき、軸AX1の径方向内側における工具ホルダー121の引き込みは、当該工具と工具ホルダー121との係合により途中で止まる。
【0087】
一方で、工具を保持していない空の状態で工具ホルダー121がクランプ機構131に装着される場合には、当該工具は、工具ホルダー121内のコレットと係合しない。その結果、工具ホルダー121は、軸AX1の径方向内側においてより引き込まれる。
【0088】
そのため、空クランプ時におけるピン191A,191Bの移動量は、正常クランプ時におけるピン191Aの移動量よりも多くなる。その結果、ピン191Aの後端は近接センサ113Aの前を過ぎ、ピン191Bの後端は近接センサ113Bの前を過ぎる。
【0089】
以下では、近接センサ113Aが距離センサであり、ピン191Aがテーパー部分を有する場合を例に挙げて、距離データに基づく空クランプ状態の判別方法について説明する。
【0090】
上述の図8を参照して、ピン191Aの後端が近接センサ113Aの前を過ぎた場合には、近接センサ113Aとピン191Aとの間の距離が短くなる。そこで、工作機械10の制御部50は、近接センサ113Aによって検出された距離が閾値th2よりも小さい場合に、クランプ機構131のクランプ状態が空クランプ状態であると判断する。
【0091】
(F4.ミスクランプ状態)
次に、上述の図8を参照して、クランプ機構131による工具ホルダー121のミスクランプ状態について説明する。
【0092】
ワークの切り屑などの異物が工具ホルダー121とクランプ機構131との間に侵入している場合には、工具ホルダー121は、クランプ機構131に十分に挿入されない。その結果、ピン191A,191Bは、近接センサ113の前まで突き出ない。
【0093】
一例として、工作機械10の制御部50は、近接センサ113Aによって検出された距離が閾値th1よりも大きい場合に、クランプ機構131のクランプ状態がミスクランプ状態であると判断する。
【0094】
(F5.工具回転可能状態)
次に、図11を参照して、クランプ機構131による工具ホルダー121の工具回転可能状態について説明する。図11は、図3中のXI-XI線上の矢視方向に見たタレット33を示す断面図である。
【0095】
図11に示されるように、油圧室82は、第1ピストン61と第2ピストン71との間に設けられている。油圧室82に油圧が供給されると、第1ピストン61は軸AX1の径方向内側に押され、第2ピストン71は軸AX1の径方向外側に押される。すなわち、第1ピストン61および第2ピストン71は、互いに反対方向に動く。
【0096】
その結果、第1ピストン61および第2ピストン71は、回転部材から離れる(図11の楕円形の破線部分参照)。これにより、工具ホルダー121に保持されている工具が軸AX2を回転中心として回転可能な状態になる。
【0097】
油圧が油圧室82に供給されると第1ピストン61および第2ピストン71が互いに反対に押されるため、工具回転可能状態においては、ピン191Bのみが近接センサ113Dの前に突出する。そこで、工作機械10の制御部50は、近接センサ113Cがピン191Aを検出せず、かつ、近接センサ113Dがピン191Bを検出した場合に、クランプ機構131のクランプ状態が工具回転可能状態であると判断する。
【0098】
<G.CNCユニット30のハードウェア構成>
次に、図12を参照して、図2に示される制御部50の一例であるCNCユニット30のハードウェア構成について説明する。図12は、CNCユニット30のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0099】
CNCユニット30は、制御回路301と、ROM302と、RAM303と、通信インターフェイス305と、通信インターフェイス305と、補助記憶装置320とを含む。これらのコンポーネントは、内部バス309に接続される。
【0100】
制御回路301は、たとえば、少なくとも1つの集積回路によって構成される。集積回路は、たとえば、少なくとも1つのCPU、少なくとも1つのASIC、少なくとも1つのFPGA、またはそれらの組み合わせなどによって構成され得る。
【0101】
制御回路301は、加工プログラム322や検出プログラム324などの各種プログラムを実行することでCNCユニット30の動作を制御する。加工プログラム322は、ワーク加工を実現するためのプログラムである。検出プログラム324は、クランプ機構131による工具ホルダー121のクランプ状態を検出するためのプログラムである。制御回路301は、各プログラムの実行命令を受け付けたことに基づいて、ROM302からRAM303にプログラムを読み出す。RAM303は、ワーキングメモリとして機能し、プログラムの実行に必要な各種データを一時的に格納する。
【0102】
通信インターフェイス305は、LAN、WLAN、またはBluetooth(登録商標)などを用いた通信を実現するためのインターフェイスである。一例として、CNCユニット30は、通信インターフェイス305または他の通信インターフェイスを介して、ワーク加工のための各種駆動ユニット(たとえば、上述のモータドライバ111A,111Bおよび上述のATCドライバ111Nなど)との通信を実現する。
【0103】
補助記憶装置320は、たとえば、ハードディスクやフラッシュメモリなどの記憶媒体である。補助記憶装置320は、加工プログラム322、検出プログラム324、および制御パラメータ326などを格納する。制御パラメータ326は、加工プログラム322や検出プログラム324で参照される各種の設定値を規定している。一例として、制御パラメータ326は、上述の閾値th1,th2(図8参照)などを規定している。
【0104】
加工プログラム322、検出プログラム324、および制御パラメータ326の格納場所は、補助記憶装置320に限定されず、制御回路301の記憶領域(たとえば、キャッシュメモリ)、ROM302、RAM303、外部機器(たとえば、サーバー)などに格納されていてもよい。
【0105】
なお、検出プログラム324は、単体のプログラムとしてではなく、任意のプログラムの一部に組み込まれて提供されてもよい。この場合、本実施の形態に従う各種の処理は、任意のプログラムと協働して実現される。このような一部のモジュールを含まないプログラムであっても、本実施の形態に従う検出プログラム324の趣旨を逸脱するものではない。さらに、検出プログラム324によって提供される機能の一部または全部は、専用のハードウェアによって実現されてもよい。さらに、少なくとも1つのサーバーが検出プログラム324の処理の一部を実行する所謂クラウドサービスのような形態でCNCユニット30が構成されてもよい。
【0106】
<H.フローチャート>
次に、図13を参照して、上述のクランプ状態を検出するための検出処理の流れについて説明する。図13は、クランプ機構131による工具ホルダー121のクランプ状態を検出する処理の一例を示すフローチャートのである。
【0107】
図13に示される処理は、制御部50が上述の検出プログラム324を実行することにより行われる。なお、図13に示される処理の一部または全部は、回路素子またはその他のハードウェアによって実行されてもよい。
【0108】
以下では、1つの近接センサ113と1つの連動部材191とを用いてクランプ機構131による工具ホルダー121のクランプ状態を検出する例について説明を行う。
【0109】
ステップS110において、制御部50は、工具ホルダー121のクランプ状態を検出するタイミングが到来したか否かを判断する。当該タイミングとしては、たとえば、工作機械10の電源が入れられたタイミング、タレット33の旋回が実行されたタイミング、上述のATC18による工具交換が行われたタイミング、または、ワークの加工が開始される前のタイミングなどが挙げられる。制御部50は、工具ホルダー121のクランプ状態を検出するタイミングが到来したと判断した場合(ステップS110においてYES)、制御をステップS112に切り替える。そうでない場合には(ステップS110においてNO)、制御部50は、ステップS110の処理を再び実行する。
【0110】
ステップS112において、制御部50は、近接センサ113の出力値を取得する。
【0111】
ステップS120において、制御部50は、近接センサ113の出力値が上述の閾値th1(図8参照)よりも大きいか否かを判断する。制御部50は、近接センサ113の出力値が上述の閾値th1よりも大きいと判断した場合(ステップS120においてYES)、制御をステップS122に切り替える。そうでない場合には(ステップS120においてNO)、制御部50は、制御をステップS130に切り替える。
【0112】
ステップS122において、制御部50は、工具ホルダー121のクランプ状態がミスクランプ状態であると判断し、ミスクランプ状態を示す警告を出力する。当該警告の出力方法は、任意である。一例として、当該警告は、メッセージとして工作機械10のディスプレイ(図示しない)に表示される。他の例として、当該警告は、音声で出力されてもよい。ミスクランプ状態が検出された際には、制御部50は、ワークの加工を停止してもよい。
【0113】
ステップS130において、制御部50は、近接センサ113の出力値が上述の閾値th2(図8参照)よりも小さいか否かを判断する。制御部50は、近接センサ113の出力値が上述の閾値th2よりも小さいと判断した場合(ステップS130においてYES)、制御をステップS132に切り替える。そうでない場合には(ステップS130においてNO)、制御部50は、制御をステップS142に切り替える。
【0114】
ステップS132において、制御部50は、工具ホルダー121のクランプ状態が空クランプ状態であると判断し、空クランプ状態を示す警告を出力する。当該警告の出力方法は、任意である。一例として、当該警告は、メッセージとして工作機械10のディスプレイ(図示しない)に表示される。他の例として、当該警告は、音声で出力されてもよい。空クランプ状態が検出された際には、制御部50は、ワークの加工を停止してもよい。
【0115】
ステップS142において、制御部50は、工具ホルダー121のクランプ状態が正常であると判断する。この場合、制御部50は、何も実行しなくてもよいし、正常であることを出力してもよい。
【0116】
<I.変形例>
次に、上述の図14に示されるフローチャートの変形例について説明する。図14は、クランプ機構131による工具ホルダー121のクランプ状態を検出する処理の他の例を示すフローチャートである。
【0117】
図14に示される処理は、制御部50が上述の検出プログラム324を実行することにより行われる。なお、図14に示される処理の一部または全部は、回路素子またはその他のハードウェアによって実行されてもよい。
【0118】
上述の13では、1つの近接センサ113と1つの連動部材191とを用いてクランプ状態を検出する方法について説明を行った。これに対して、本例では、2つの近接センサ113(近接センサ113A,113B)と2つの連動部材191(ピン191A,191B)を用いて工具ホルダー121のクランプ状態を検出する。
【0119】
なお、以下では、近接センサ113Aが物体までの距離を出力するセンサであり、近接センサ113Bが物体の有無を2値で示すセンサである前提で説明を行う。近接センサ113Bの出力値が「0」であることは、近接センサ113Bの前に物体がないことを示す。近接センサ113Bの出力値が「1」であることは、近接センサ113Bの前に物体があることを示す。
【0120】
ステップS210において、制御部50は、工具ホルダー121のクランプ状態を検出するタイミングが到来したか否かを判断する。当当該タイミングとしては、たとえば、工作機械10の電源が入れられたタイミング、タレット33の旋回が実行されたタイミング、上述のATC18による工具交換が行われたタイミング、または、ワークの加工が開始される前のタイミングなどが挙げられる。制御部50は、工具ホルダー121のクランプ状態を検出するタイミングが到来したと判断した場合(ステップS210においてYES)、制御をステップS212に切り替える。そうでない場合には(ステップS210においてNO)、制御部50は、ステップS210の処理を再び実行する。
【0121】
ステップS212において、制御部50は、近接センサ113A,113Bの各々の出力値を取得する。
【0122】
ステップS220において、制御部50は、近接センサ113A,113Bの出力値が共に物体未検出であるか否かを判断する。一例として、制御部50は、近接センサ113Aの出力値が上述の閾値th1(図8参照)以上であり、かつ、近接センサ113Bの出力値が「0」を示す場合に、近接センサ113A,113Bの出力値が共に物体未検出であると判断する。制御部50は、近接センサ113A,113Bの出力値が共に物体未検出であると判断した場合(ステップS220においてYES)、制御をステップS222に切り替える。そうでない場合には(ステップS220においてNO)、制御部50は、制御をステップS230に切り替える。
【0123】
ステップS222において、制御部50は、工具ホルダー121のクランプ状態がアンクランプ状態であると判断し、アンクランプ状態を示す警告を出力する。当該警告の出力方法は、任意である。一例として、当該警告は、メッセージとして工作機械10のディスプレイ(図示しない)に表示される。他の例として、当該警告は、音声で出力されてもよい。アンクランプ状態が検出された際には、制御部50は、ワークの加工を停止してもよい。
【0124】
ステップS230において、制御部50は、近接センサ113Aの出力値が上述の閾値th1(図8参照)よりも大きいか否かを判断する。制御部50は、近接センサ113Aの出力値が上述の閾値th1よりも大きいと判断した場合(ステップS230においてYES)、制御をステップS232に切り替える。そうでない場合には(ステップS230においてNO)、制御部50は、制御をステップS240に切り替える。
【0125】
ステップS232において、制御部50は、工具ホルダー121のクランプ状態がミスクランプ状態であると判断し、ミスクランプ状態を示す警告を出力する。当該警告の出力方法は、任意である。一例として、当該警告は、メッセージとして工作機械10のディスプレイ(図示しない)に表示される。他の例として、当該警告は、音声で出力されてもよい。ミスクランプ状態が検出された際には、制御部50は、ワークの加工を停止してもよい。
【0126】
ステップS240において、制御部50は、近接センサ113Aの出力値が上述の閾値th2(図8参照)よりも小さいか否かを判断する。制御部50は、近接センサ113Aの出力値が上述の閾値th2よりも小さいと判断した場合(ステップS240においてYES)、制御をステップS242に切り替える。そうでない場合には(ステップS240においてNO)、制御部50は、制御をステップS252に切り替える。
【0127】
ステップS242において、制御部50は、工具ホルダー121のクランプ状態が空クランプ状態であると判断し、空クランプ状態を示す警告を出力する。当該警告の出力方法は、任意である。一例として、当該警告は、メッセージとして工作機械10のディスプレイ(図示しない)に表示される。他の例として、当該警告は、音声で出力されてもよい。空クランプ状態が検出された際には、制御部50は、ワークの加工を停止してもよい。
【0128】
ステップS252において、制御部50は、工具ホルダー121のクランプ状態が正常であると判断する。この場合、制御部50は、何も実行しなくてもよいし、正常であることを出力してもよい。
【0129】
なお、図14には、上述の工具回転可能状態を判断する処理が示されていないが、工具回転可能状態を判断する処理が図14に示されるフローチャートに追加されてもよい。一例として、制御部50は、上述の近接センサ113C(図11参照)が物体未検出を示し、かつ上述の近接センサ113D(図11参照)が物体検出を示す場合に、工具ホルダー121のクランプ状態が工具回転可能状態であると判断する。そうでない場合には、制御部50は、工具ホルダー121のクランプ状態が工具回転可能状態でないと判断し、警告を出力してもよい。
【0130】
当該警告の出力方法は、任意である。一例として、当該警告は、メッセージとして工作機械10のディスプレイ(図示しない)に表示される。他の例として、当該警告は、音声で出力されてもよい。当該警告が出力された際には、制御部50は、ワークの加工を停止してもよい。
【0131】
<J.まとめ>
以上のようにして、タレット33のクランプ機構131には、連動部材191が設けられている。連動部材191は、クランプ機構131が工具ホルダー121をクランプする際に工具ホルダー121と連動する。
【0132】
また、タレット33の支持部33Bには、近接センサ113が設けられている。近接センサ113は、工具ホルダー121がクランプ機構131にクランプされたときに、連動部材191が近接センサ113の検出可能範囲の内外間を移動するように支持部33Bに設けられている。その結果、連動部材191は、工具ホルダー121がクランプ機構131にクランプされたときに、近接センサ113の検出可能範囲外から検出可能範囲内に移動する。これにより、工作機械10は、近接センサ113の出力値に基づいて、クランプ機構131による工具ホルダー121のクランプ状態を検出することができる。
【0133】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0134】
10 工作機械、11 ベッド、16 サドル、18 自動工具交換装置、21 主軸台、30 CNCユニット、31 刃物台、32 刃物台ベース、33 タレット、33A 旋回部、33B 支持部、50 制御部、56 ベアリングハウジング、56H1 連通孔、56H2 連通孔、57 フロントハウジング、61 第1ピストン、62 凹部、71 第2ピストン、71H 連通孔、81 油圧室、82 油圧室、83 油圧室、86 バルブ、87 油圧供給源、111A モータドライバ、111B モータドライバ、111N ATCドライバ、112A モータ、112B モータ、113 近接センサ、113A 近接センサ、113B 近接センサ、113C 近接センサ、113D 近接センサ、114 回転部分、115 周回溝、121 工具ホルダー、131 クランプ機構、135 凸部、191 連動部材、191A ピン、191B ピン、301 制御回路、302 ROM、303 RAM、305 通信インターフェイス、309 内部バス、320 補助記憶装置、322 加工プログラム、324 検出プログラム、326 制御パラメータ。
図1
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