(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035440
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】乗客コンベア用床蓋
(51)【国際特許分類】
B66B 31/00 20060101AFI20230306BHJP
B66B 23/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
B66B31/00 A
B66B23/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142291
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下村 周平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 哲也
(72)【発明者】
【氏名】竹本 啓輔
【テーマコード(参考)】
3F321
【Fターム(参考)】
3F321AA11
3F321CD14
3F321CD16
3F321FA01
3F321FA16
(57)【要約】
【課題】 運転方向変更時に、床蓋の交換することなく、床蓋の表示を変更可能な乗客コンベア用床蓋を提供する。
【解決手段】 搬送方向の両端部それぞれの床と、両端部の少なくとも一方に駆動装置を配設された機械室の上蓋と、を兼用する乗客コンベア用床蓋であって、進行方向に交差する複数の溝と、溝の側面に対する視線方向別に複数の表示領域を備え、表示領域を有する側面の法面角度は、両端部を通行する乗客からの視線方向に応じて設定される。また、法面角度は、溝に対する視線方向別に2種類が設定された。また、表示領域には、階数を表示する数字を視線方向に応じた正立状態で2種類の文字が描かれている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送方向の両端部それぞれの床と、前記両端部の少なくとも一方に駆動装置を配設された機械室の上蓋と、を兼用する乗客コンベア用床蓋であって、
進行方向に交差する複数の溝と、
溝の側面に対する視線方向別に複数の表示領域を備え、
該表示領域を有する前記側面の法面角度は、前記両端部を通行する乗客からの視線方向に応じて設定される、
乗客コンベア用床蓋。
【請求項2】
前記法面角度は、前記溝に対する前記視線方向別に2種類が設定された、
請求項1に記載の乗客コンベア用床蓋。
【請求項3】
前記表示領域には、階数を表示する数字を前記視線方向に応じた正立状態で2種類の文字が描かれている、
請求項1又は2に記載の乗客コンベア用床蓋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベア用床蓋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の乗客コンベア用床蓋において、乗客への注意喚起等のため、床蓋の表面に浮き彫りのように直接加工して視認容易な階床文字を形成したものが知られている。それに類似した目的で異なる構造のものとして、表示器を埋め込まれた床蓋もある。
【0003】
例えば、1つの乗客コンベアの運転方向を時刻等に応じて逆転させる場合、運転方向に応じた乗客の視線方向に適合して、どちら方向からでも常に正立状態の階数文字を表示させたいという要望がある。
【0004】
この要望に応じるには、乗客コンベアの出入り口の床蓋上で階床文字を適切に変化させられる表示機能が必要である。これを実現させるため、乗客コンベア用床蓋に電子的画像表示器を配設し、その表示内容を電子駆動回路で制御するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、階床文字が表面に彫刻された床蓋は、表示を変更するためには床蓋の交換が必要となる。これに対し、特許文献1のような電子的画像表示器は、乗客コンベアの運転方向に連動して文字方向を変更する等、必要に応じて表示内容を瞬時に変化させられる代わりに、簡素でなくなるという欠点がある。すなわち、電子的画像表示器には、表示器の分だけ床蓋の総重量が重くなるだけでなく、専用の制御装置と配線が必要であるほか、電力消費が生じる等の課題もある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、床蓋の交換することなく、運転方向に応じて、床蓋の表示を変更可能な乗客コンベア用床蓋を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は、搬送方向の両端部それぞれの床と、両端部の少なくとも一方に駆動装置を配設された機械室の上蓋と、を兼用する乗客コンベア用床蓋であって、進行方向に交差する複数の溝と、溝の側面に対する視線方向別に複数の表示領域を備え、表示領域を有する側面の法面角度は、両端部を通行する乗客からの視線方向に応じて設定される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、運転方向変更時に、床蓋の交換することなく、床蓋の表示を変更可能な乗客コンベア用床蓋を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る乗客コンベア用床蓋(以下、「本床蓋」)の適用対象を説明するための概略構成図である。
【
図2】
図1に示した本床蓋の溝底面に対する溝側面の勾配角度(法面角度)について、運転方向の上下の別による乗口と、降口と、に応じた違いを示す模式説明図である。
【
図3】
図2に示した勾配角度を有効にする乗客の視線について、運転方向の上下の別による乗口と、降口と、に応じた違いを示す模式説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して実施例について説明する。
図1は、本床蓋12A,12Bの適用対象を説明するための乗客コンベアの概略構成図である。なお、上部床蓋12Aと、下部床蓋12Bと、区別しない場合、床蓋12と総称する。
図1に示すように、乗客コンベア装置の一形態であるエスカレーター1は、枠体2と、複数のステップ4と、機械室5と、駆動装置6と、左右一対の欄干7と、無端状のハンドレール8と、制御装置9と、駆動チェーン10と、ターミナルギア11と、を備える。
【0012】
枠体2は、建築構造物に設置され、一方の床と他方の床との間に架設される。また、枠体2は、上部水平枠2Aと下部水平枠2Bと中間傾斜部枠2Cとを備える。機械室5は、この上部水平枠2Aに設けられる。
【0013】
複数のステップ4は、枠体2内に収納され、無端状に連結されて上部乗降口3Aと下部乗降口3Bとの間を循環移動する。駆動装置6は、機械室5内に設けられ、ステップ4を駆動する。駆動装置6の詳細は、後述する。左右一対の欄干7は、ステップ4の移動方向に沿って枠体2に立設される。エンドレール8は、欄干7の周縁に案内され、ステップ4と同期して駆動される。
【0014】
ターミナルギア11は、駆動装置6により駆動チェーン10を介して駆動される。制御装置9は、機械室5に設置され、駆動装置6を制御する。制御装置9の制御により駆動装置6が駆動すると、駆動装置6の出力が駆動チェーン10およびターミナルギア11を介してステップ4およびハンドレール8に伝達され、ステップ4およびハンドレール8が、周回運動を伴いながら上昇方向又は下降方向に移動する。
【0015】
ステップ4は、ハンドレール8と同期して移動し、エレベーターの下降運転時には、上部乗降口3Aから下部乗降口3Bへ乗客を搬送し、エレベーターの上昇運転時には、下部乗降口3Bから上部乗降口3Aへ乗客を搬送する。
【0016】
つぎに、
図2及び
図3を用いて、本床蓋12の構成及び機能を説明する。
図2は、
図1に示した本床蓋12A,12Bの溝底面(
図3の24参照)に対する溝側面の勾配角度(法面角度)について、運転方向の上下の別による乗口と、降口と、に応じた違いを示す模式説明図である。
図2に示すように、エスカレーター1が上昇運転(UP運転)するときと、下降(DN運転)するときと、によって、本床蓋12を見る乗客の視線が異なる。
【0017】
図3は、
図2に示した勾配角度α,β,γを有効にする乗客の視線について、運転方向の昇降の別による乗口と、降口と、に応じた違いを示す模式説明図である。
図3に示すように、本床蓋12は、その表面22に描かれた表示内容を異なる視線の角度に応じて変えられる。すなわち、溝の片方の側面だけに統一表示された内容は、見る方向に応じて一方側面だけの表示内容が見える。
【0018】
なお、水平面に対する溝側面の勾配角度(ここでは、単に「角度」ともいう)α,β,γについて、数学的定義でいう「溝の法(のり)面勾配」を適用した場合、通常は鋭角αで表示されるが、計測容易な鈍角26で対応しても良い。なお、鋭角αと鈍角26とは、補角の関係であり、両者を足すと180°になる角度をいう。
【0019】
図2及び
図3を参照しながら、角度α,β,γについて、より詳しく説明する。角度αは、DN運転しているエスカレーター降口における、踏段(ステップ)側に向いた溝側面の水平面に対する角度である。角度βは、UP/DN何れの運転方向に関わらず、エスカレーター乗口における、踏段(ステップ)から遠い側に向いた溝側面の水平面に対する角度である。
【0020】
一方、角度γは、UP運転しているエスカレーター降口における、踏段(ステップ)側に向いた溝側面の水平面に対する角度であり、角度α,βに比べて90°に近い。なお、計測容易な鈍角26で対応する場合、溝底面(
図3の24参照)に対する溝側面(
図3の25A参照)の角度を用いても良い。その場合、溝底面を水平面とみなして良く、厳格である必要は無い。
【0021】
これらの定義において、角度α,β,γ相互の大小関係は、α<β<γとする。ここで、α≒βとすれば、α≒β<γの大小関係で示すような2種類の法面角度が設定されると良い。本床蓋12は、このように構成されたことにより、運転方向変更時に、床蓋12の交換することなく、床蓋12の表面22に描かれた表示を乗降客の視線に適合させて変更することが可能である。
【0022】
図3に示すように、床蓋12の表面22には、凸部23及び凹部24が設けられ、凹部24が延在して形成された溝の両側面の文字印刷部25A,25B(両方をまとめて「表示領域25」ともいう)を形成する。
【0023】
文字印刷部25Aは、
図3の左方からの視線27Aに直交する勾配角度αに設定され、床文字28Aを良好に視認できる。文字印刷部25Bは、
図3の右方からの視線27Bに直交する勾配角度βに設定され、床文字28Bを良好に視認できる。
【0024】
上述のように、これらの床文字28A,28Bは、視認する人の進行方向で定まる視線において、それぞれが正立文字として視認される。本床蓋12は、このように構成されたことにより、運転方向に応じた乗客の視線方向に適合して、どちら方向からでも常に正立状態の表示に見せられる階数文字を表示できる。
【0025】
本発明の実施形態に係る乗客コンベア用床蓋(本床蓋)12は、つぎのように総括できる。
[1]本床蓋12は、搬送方向の両端部それぞれの床と、両端部の少なくとも一方に駆動装置6を配設された機械室5の上蓋と、を兼用する乗客コンベア用床蓋12であって、進行方向に交差する複数の溝と、溝の側面に対する視線方向別に複数の表示領域25を備え、表示領域25を有する側面の法面角度α,β,γは、両端部における乗客からの視線方向に応じて形成される。
【0026】
本床蓋12は、このように構成されたことにより、乗客コンベアの出入り口の床蓋12の前後にわたって移動する乗客からの視線方向に応じて、異なる表示に見せられる。すなわち、運転方向変更時に、床蓋12の交換することなく、床蓋12の表示を変更可能である。
【0027】
[2]この乗客コンベア用床蓋は、溝に対する視線方向別に、2種類の法面角度が設定されると良い。例えば、DN運転時の降口では法面勾配角度αとする。UP/DN運転時の乗口では法面勾配角度βとする。UP運転時の降口では法面勾配角度γとする。
【0028】
まず、DN運転時の降口において、下り方向の乗客は、高い視点から下方の床蓋12Bを見下ろすような視線方向である。この視線方向に対応して、床蓋の表面における溝の側面に描かれた文字を鮮明に見易くするため、法面勾配角度αに設定される。
【0029】
また、UP/DN運転時の乗口において、乗客は自分の身長くらいの高さの視点から、下方の床蓋12Bを見下ろすような視線方向である。この視線方向に対応して、床蓋の表面における溝の側面に描かれた文字を鮮明に見易くするため、法面勾配角度βに設定される。
【0030】
一方、UP運転時の降口において、登り方向の乗客は、低い視点から上方の床蓋12Aを見上げるような視線方向である。この視線方向に対応して、床蓋12の表面22における溝の側面に描かれた文字を鮮明に見易くするため、法面勾配角度γに設定される。
【0031】
これらの定義において、α<β<γとする。ここで、α≒βとすれば、α≒β<γの大小関係で示すような2種類の法面角度が設定されると良い。本床蓋は、このように構成されたことにより、運転方向変更時に、床蓋の交換することなく、床蓋の表示を変更可能である。
【0032】
[3]この乗客コンベア用床蓋において、表示領域には、階数を表示する数字を視線方向に応じた正立状態で2種類の文字が描かれていると良い。本床蓋12は、このように構成されたことにより、運転方向に応じた乗客の視線方向に適合して、どちら方向からでも常に正立状態の表示に見せられる階数文字を表示できる。したがって、運転方向変更時に、床蓋の交換することなく、床蓋の表示を変更可能である。
【0033】
このように、本床蓋12は、階数等を表示可能な電気式表示器が埋め込まれた乗客コンベアの床蓋に対し、それを簡素化して同等機能を果たせる。すなわち、乗客コンベアにおいて、運転方向の昇降逆転に応じた乗客の視線方向に適合して、どちら方向からでも常に正立状態に表示させて見易くできる。
【符号の説明】
【0034】
1 エスカレーター、2 枠体、2A 上部水平枠、2B 下部水平枠、2C 中間傾斜部枠、3A 上部乗降口、3B 下部乗降口、4 ステップ、5,5A 機械室、6 駆動装置、7 欄干、8 ハンドレール、9 制御装置、10 駆動チェーン、11 ターミナルギア、12A 上部床蓋、12B 下部床蓋、12,12A,12B 床蓋、22 (床蓋12の)表面、23 (床蓋12の表面22の)凸部、24 (床蓋12の表面22の)凹部、25,25A,25B (床蓋12の表面22の)文字印刷部、27,27A,27B 視線、28,28A,28B 床文字