(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035480
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】ハロゲン含有有機物の分解方法およびハロゲン含有物の分解システム
(51)【国際特許分類】
B09B 3/40 20220101AFI20230306BHJP
B01J 21/06 20060101ALI20230306BHJP
B01J 23/745 20060101ALI20230306BHJP
B01J 27/232 20060101ALI20230306BHJP
C08J 11/16 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
B09B3/00 302A
B01J21/06 M
B01J23/745 M
B01J27/232 M
C08J11/16 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142364
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大橋 利正
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】可児 祐子
【テーマコード(参考)】
4D004
4F401
4G169
【Fターム(参考)】
4D004AA08
4D004AB06
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4G169CA04
4G169CA07
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4G169CA11
4G169DA05
(57)【要約】
【課題】
ハロゲンを含有する有機物を分解する際の熱処理温度を従来よりも低くすることが可能な、ハロゲン含有有機物の分解方法およびハロゲン含有物の分解システムを提供する。
【解決手段】
本発明のハロゲン含有有機物の分解方法は、ハロゲンを含む有機物である処理対象物に第1の化合物および第2の化合物を接触させる接触工程(S1)と、第1の化合物および第2の化合物を接触させた処理対象物を、酸素を含む雰囲気で加熱して分解する加熱工程(S2)と、を有する。第1の化合物は、酸化物半導体を含み、第2の化合物は、処理対象物に含まれるハロゲンと反応してハロゲン化物を生成する元素を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲンを含む有機物である処理対象物に第1の化合物および第2の化合物を接触させる接触工程と、
前記第1の化合物および前記第2の化合物を接触させた前記処理対象物を、酸素を含む雰囲気で加熱して分解する加熱工程と、を有し、
前記第1の化合物は、酸化物半導体を含み、
前記第2の化合物は、前記処理対象物に含まれる前記ハロゲンと反応してハロゲン化物を生成する元素を含むことを特徴とするハロゲン含有有機物の分解方法。
【請求項2】
前記加熱工程において、前記処理対象物に含まれる前記ハロゲンと前記第2の化合物に含まれる前記元素とが化合して前記ハロゲン化物を生成する反応が、前記処理対象物が熱分解してハロゲン化水素を生成する反応よりも優先的に起こることを特徴とする請求項1に記載のハロゲン含有有機物の分解方法。
【請求項3】
前記第2の化合物の前記元素は、前記元素が前記ハロゲン化物となる際のギブスエネルギーが、酸化物となる際のギブスエネルギーよりも低いことを特徴とする請求項1に記載のハロゲン含有有機物の分解方法。
【請求項4】
前記第2の化合物に含まれる前記元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Fe、Cu、AgおよびCrから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項3に記載のハロゲン含有有機物の分解方法。
【請求項5】
前記第2の化合物が、前記第2の化合物に含まれる前記元素の酸化物、水酸化物または炭酸塩であることを特徴とする請求項3に記載のハロゲン含有有機物の分解方法。
【請求項6】
前記第1の化合物の前記酸化物半導体が、バンドギャップが2.5eV以上3.5eV以下の酸化物半導体であることを特徴とする請求項1に記載のハロゲン含有有機物の分解方法。
【請求項7】
前記第1の化合物の前記酸化物半導体が、TiO2、ZnO、SrTiO3、BaTiO3、Cr2O3、Nb2O5、SnO2、In2O3およびWO3から選択される1種類以上を使用することを特徴とする請求項1に記載のハロゲン含有有機物の分解方法。
【請求項8】
前記加熱工程の加熱温度が250℃以上500℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のハロゲン含有有機物の分解方法。
【請求項9】
前記加熱工程の後に、前記加熱工程後に生じた残渣を、前記第1の化合物、前記第2の化合物および不燃廃棄物に分離する固体分離工程を有することを特徴とする請求項1に記載のハロゲン含有有機物の分解方法。
【請求項10】
前記加熱工程の後に、前記加熱工程後に排出された排ガスのうちのハロゲン含有ガスを分離する気体分離工程を有することを特徴とする請求項1に記載のハロゲン含有有機物の分解方法。
【請求項11】
前記加熱工程により排出される排ガスと、前記酸素を含む雰囲気との間で熱交換を行うことを特徴とする請求項1に記載のハロゲン含有有機物の分解方法。
【請求項12】
前記処理対象物が、ハロゲンを含有する廃プラスチックであることを特徴とする請求項1に記載のハロゲン含有有機物の分解方法。
【請求項13】
ハロゲンを含む有機物である処理対象物と、第1の化合物と、第2の化合物と、を接触させる反応槽と、
前記反応槽の内部を加熱する加熱装置と、
前記反応槽内へ酸素を含む気体を供給する気体供給部と、
を備え、
前記第1の化合物は、酸化物半導体を含み、
前記第2の化合物は、前記処理対象物に含まれる前記ハロゲンと反応してハロゲン化物を生成する元素を含み、前記元素は、前記元素が前記ハロゲン化物となる際のギブスエネルギーが、前記元素が酸化物となる際のギブスエネルギーよりも低く、
前記反応槽において、前記加熱装置による熱処理によって、前記処理対象物に含まれる前記ハロゲンと前記第2の化合物に含まれる前記元素とが化合して前記ハロゲン化物を生成する反応が、前記処理対象物が熱分解してハロゲン化水素を生成する反応よりも優先的に起こることを特徴とするハロゲン含有有機物の分解システム。
【請求項14】
前記反応槽に、前記処理対象物の熱処理後の残渣と、前記第1の化合物および前記第2の化合物とを分離する固体分離装置が設けられていることを特徴とする請求項13に記載のハロゲン含有有機物の分解システム。
【請求項15】
前記反応槽は、前記気体供給部から供給された酸素を含む気体を前記反応槽内に供給する送気口と、前記反応槽内から前記処理対象物の反応により生じた排ガスを排出する排気口と、を有し、
前記反応槽の前記排気口に接続され、前記反応槽から排出される前記排ガス中のハロゲン含有ガスを回収するトラップを有することを特徴とする請求項13に記載のハロゲン含有有機物の分解システム。
【請求項16】
前記反応槽の前記送気口と前記排気口にそれぞれ接続され、前記送気口に供給する前記気体と前記排気口から排出される前記排ガスとを熱交換する熱交換器が設けられていることを特徴とする請求項15に記載のハロゲン含有有機物の分解システム。
【請求項17】
前記反応槽の前記送気口に接続され、前記送気口に供給する前記気体とプラントから排出される排ガスとを熱交換する熱交換器が設けられていることを特徴とする請求項15に記載のハロゲン含有有機物の分解システム。
【請求項18】
前記反応槽の前記送気口に供給する前記気体の一部として、プラントから排出される水蒸気を利用することを特徴とする請求項17に記載のハロゲン含有有機物の分解システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン含有物の分解方法およびハロゲン含有物の分解システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)およびポリ塩化ビニル(PVC)は汎用プラスチックとして知られている。これらの汎用プラスチックは、世界のプラスチック生産量の64%を占める。その内訳は、PEが30%(低密度ポリエチレン:16%、高密度ポリエチレン:14%)、PPが18%、PSが6%、PVCが10%である。
【0003】
これらの汎用プラスチックを含む廃棄物は、従来から、燃焼させることにより分解し、減容処理されている。ただし、低温で燃焼させた場合、燃焼が不完全になり、残渣が多く残り十分な減容効果が得られない場合があった。また、PVCのように塩素を含む高分子は、300℃程度の低温で燃焼するとダイオキシンが生成するため、800℃を超える高温で処理する必要があった。しかしながら、このような高温で燃焼させた場合、大量のエネルギーを消費し、運転コストが大きくなってしまう問題があった。
【0004】
そこで、上記汎用プラスチック等の有機物を含む廃棄物を処理する際に、従来よりも低い温度で燃焼させて処理する方法が研究されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、被分解化合物(ポリカーボネート等の有機化合物)を、酸素の存在下、TiO2等の半導体粉末に100℃から600℃の温度で加接触させて被分解化合物を酸化分解する方法が提案されている。
【0006】
特許文献2には、被処理物(硫黄、ハロゲン、ケイ素を成分として含む)の表面に、熱活性作用を備える半導体をコートする工程と、表面に半導体がコートされた被処理物を、空気雰囲気下において、半導体が熱活性作用を生じる温度以上に加熱することにより、被処理物を水と炭酸ガスとに分解する分解処理工程を有する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-139440号公報
【特許文献2】特開2015-48427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、PVC等のハロゲンを含有する有機高分子は、有機化合物の中でも安定な化合物であり、燃え尽きるためには500~600℃の加熱が必要になる。本発明者の研究の結果、特許文献1および特許文献2のように、PVC等のハロゲンを含有する有機物に、半導体粉末を接触させる方法を適用しても、燃焼温度を下げる効果が十分ではないことがわかった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、ハロゲンを含有する有機物を分解する際の熱処理温度を従来よりも低くすることが可能な、ハロゲン含有有機物の分解方法およびハロゲン含有物の分解システムを提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明の上記の目的およびその他の目的と本発明の新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面によって明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、ハロゲンを含む有機物である処理対象物に第1の化合物および第2の化合物を接触させる接触工程と、第1の化合物および第2の化合物を接触させた処理対象物を、酸素を含む雰囲気で加熱して分解する加熱工程と、を有し、第1の化合物は、酸化物半導体を含み、第2の化合物は、処理対象物に含まれるハロゲンと反応してハロゲン化物を生成する元素を含むハロゲン含有有機物の分解方法である。
【0012】
また、上記目的を達成するための本発明の他の態様は、ハロゲンを含む有機物である処理対象物と、第1の化合物と、第2の化合物とを接触させる反応槽と、反応槽の内部を加熱する加熱装置と、反応槽内へ酸素を含む気体を供給する気体供給部と、を備え、第1の化合物は、酸化物半導体を含み、第2の化合物は、処理対象物に含まれる前記ハロゲンと反応してハロゲン化物を生成する元素を含み、該元素は、該元素がハロゲン化物となる際のギブスエネルギーが、該元素が酸化物となる際のギブスエネルギーよりも低く、上記反応槽において、処理対象物に含まれるハロゲンと第2の化合物に含まれる元素とが化合してハロゲン化物を生成する反応の方が、加熱装置による熱処理において処理対象物が熱分解してハロゲン化水素を生成する反応よりも優先的に起こることを特徴とするハロゲン含有有機物の分解システムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のハロゲン含有有機物の分解方法および分解システムによれば、ハロゲンを含有する有機物を分解する際の熱処理温度を従来よりも大幅に低くすることが可能な、ハロゲン含有有機物の分解方法およびハロゲン含有物の分解システムを提供できる。
【0014】
なお、上述した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1のハロゲン含有有機物分解方法のフローチャート
【
図2】実施例1のハロゲン含有有機物分解システムの概略構成図
【
図3】サンプルA(PVC)熱重量分析の測定結果を示すグラフ
【
図4】
図3の測定時のサンプルの温度変化を示すグラフ
【
図5】サンプルB(PVCにTiO
2を接触させたサンプル)の熱重量分析の測定結果を示すグラフ
【
図6】
図5の測定時のサンプルの温度変化を示すグラフ
【
図7】サンプルC(PVCにTiO
2とFe
2O
3を接触させたサンプル)の熱重量分析の測定結果を示すグラフ
【
図8】
図7の測定時のサンプルの温度変化を示すグラフ
【
図9】サンプルD(PVCにTiO
2とNa
2CO
3を接触させたサンプル)の熱重量分析の測定結果を示すグラフ
【
図10】
図9の測定時のサンプルの温度変化を示すグラフ
【
図11】実施例2のハロゲン含有有機物の分解方法のフローチャート
【
図12】実施例2のハロゲン含有有機物の分解システムの概略構成図
【
図13】実施例3のハロゲン含有有機物の分解方法のフローチャート
【
図14】実施例3のハロゲン含有有機物分解システムの概略構成図
【
図15】実施例4のハロゲン含有有機物分解システムの概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施の形態および実施例について、文章もしくは図面を用いて説明する。ただし、本発明に示す構造、材料、その他具体的な各種の構成等は、ここで取り上げた実施の形態や実施例に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。また、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0017】
なお、以下の説明において、「ハロゲン含有有機物の分解方法」を単に「分解方法」と称し、「ハロゲン含有有機物の分解システム」を単に「分解システム」と称することがある。
【0018】
上述したように、本発明のハロゲン含有有機物の分解方法は、ハロゲンを含有する処理対象物に酸化物半導体を含む第1の化合物と、処理対象物に含まれるハロゲンと反応してハロゲン化物を生成する元素を含む第2の化合物を接触させ、酸素を含む雰囲気中で加熱するものである。本発明者の鋭意検討の結果、ハロゲン含有有機物に上記第1の化合物および第2の化合物の両方を接触させることで、従来よりも低温(250℃)でハロゲン含有有機物を分解できることが見出された。
【0019】
上記第1の化合物および第2の化合物のそれぞれの技術的意義を説明する。第1の化合物に含まれる酸化物半導体を加熱すると、熱励起によって酸化物半導体内部に正孔(h+)と電子(e-)が生じる。熱励起によって生じたh+は酸化力が強く、酸化物半導体と接触したハロゲン含有有機物を燃焼しやすい低分子に分解する。これによりハロゲン含有有機物の低温燃焼が可能になる。
【0020】
ただし、ハロゲン含有有機物は加熱によってハロゲン化水素が脱離し、二重結合を持つ安定な高分子に変化する。また、このハロゲン化水素の脱離反応は吸熱反応であるため、周囲から熱を奪い、燃焼を阻害する。例えば、ハロゲン含有有機物がPVCである場合、吸熱反応によりHClが生じる。この安定化および吸熱反応の影響により、ハロゲン含有有機物は、第1の化合物に含まれる酸化物半導体と接触させて加熱しただけでは、燃焼温度を低下させる効果が十分ではなくなる。
【0021】
そこで、第1の化合物とともに、処理対象物に含まれるハロゲンと反応してハロゲン化物を生成する元素を含む第2の化合物をハロゲン含有有機物に接触させる。第2の化合物中の元素とハロゲン含有有機物中のハロゲンとが化合してハロゲン化物を生成する反応は発熱反応であり、ハロゲン化水素の脱離よりも優先的に起きるため、上述した安定化および吸熱反応を抑制しながら、酸化物半導体の作用によってハロゲン含有有機物を燃焼しやすい低分子に分解する。これにより低温燃焼が可能になる。
【0022】
以上のように、第1の化合物と第2の化合物を、ハロゲン含有有機物を分解する際の触媒として組み合わせることで、ハロゲンを含有する有機高分子の燃焼促進し、処理温度を従来よりも大幅に低下(250℃)させることができる。
【0023】
処理温度の低下の程度と発熱量は、前述したように、酸化物半導体および第2の化合物が含むハロゲンと反応してハロゲン化物を生成する元素の種類や量によって変わるが、発熱によって、従来よりも大幅に低い温度で処理を行うことができる。次の関係を満たすように、第1の化合物(酸化物半導体)、第2の化合物を選択することにより、処理温度を低下させることができる。
第1の化合物と第2の化合物の両方を使用した際の発熱量>処理対象物の温度を、低分子化していないハロゲン含有有機物が燃焼する温度(PVCであれば500℃)まで昇温するのに必要な発熱量>第1の化合物(酸化物半導体)単独の場合の発熱量
【0024】
例えば、ハロゲン含有有機物としてPVC、酸化物半導体としてTiO2、第2の化合物が含む、ハロゲンと反応してハロゲン化物を生成する元素としてFeを選定した場合、PVCにTiO2とFe2O3を接触させることにより、250℃程度まで加熱温度を低下させることができる。そして、処理温度を低下させることにより、加熱処理を、500℃以下の温度、好ましくは200℃~500℃の範囲内の温度で行うことが可能になる。
【0025】
酸化物半導体は、その酸化物半導体内の電子が励起されやすく、つまりバンドギャップが広すぎず、かつ、電子の励起によって生成する正孔の酸化力が十分に大きい、つまりバンドギャップが狭すぎないことが望ましい。そのため、酸化物半導体としては、バンドギャップが2.5eV以上3.5eV以下の酸化物半導体が望ましく、これらの酸化物半導体から選ばれる1種以上を使用する。例えば、TiO2、ZnO、SrTiO3、BaTiO3、Cr2O3、Nb2O5、SnO2、In2O3およびWO3等が挙げられる。これらの酸化物半導体を使用することにより、ハロゲンを含有する有機高分子の分解を促進し、処理温度を十分に低下させることができる。
【0026】
第2の化合物に含まれる、ハロゲン含有有機物中のハロゲンと化合してハロゲン化物を生成する元素としては、酸化物のギブスエネルギーよりも、ハロゲン化物のギブスエネルギーが低い元素が好ましい。例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Fe、Cu、AgおよびCr等が挙げられる。この中でも特に、分解処理によって酸化物となることで再び第2の化合物として利用しやすい元素が好ましく、Fe、Cu、AgおよびCrから選ばれる1種以上を含む酸化物、水酸化物または炭酸塩が望ましい。
【0027】
第2の化合物に含まれる上記元素が、ハロゲン含有有機物と優先的に反応してハロゲン化物を生成することにより、ハロゲン含有有機物からのハロゲン化水素の脱離を抑制し、ハロゲン含有有機物分解を促進して処理温度を十分に低下させることができる。
【0028】
本発明において、処理対象物となるハロゲン含有有機物を含む廃棄物としては、PVCやポリ塩化ビニリデンのように塩素を含有する高分子や、ポリフッ化ビニルのようにフッ素を含有する高分子等、各種のハロゲンを含有する有機高分子を含む廃棄物が挙げられる。また、PVCと他の有機高分子とが混在したもの等のように、複数の種類の有機高分子が混在したものであってもよい。
【0029】
対象となる廃棄物において、有機物以外の物質(例えば、高融点の無機物等)は、できる限り少ないことが望ましい。有機物以外の物質が混在していると、ハロゲン含有有機物と、第1の化合物および第2の化合物との接触面積が低下し、ハロゲン含有有機物の熱分解反応が起こりにくくなる。さらに、有機物以外の物質が混在していると、ハロゲン含有有機物の熱分解反応によって生じる熱が、この有機物以外の物質を温めるためにも消費されてしまい、分解対象とするハロゲン含有有機物の温度上昇が十分に起こらず、熱分解反応を維持するために、より高温での加熱が必要となってしまう。
【0030】
このため、加熱工程を行う前に、ハロゲン含有有機物以外の物質を処理対象物から分離しておくことが望ましい。例えば、ハロゲン含有有機物であるPVCの破片と、鉄鋼材のような金属の破片の混合物を処理する場合、比重や磁性の違いによって分離することができる。
【0031】
しかし、分離ができなかった状態で加熱工程を行い、残渣を処分する場合もありうる。例えば、ハロゲン含有有機物であるPVCで炭素繊維やガラス繊維の表面を覆った複合材料を処理する場合、複合材料を第1の化合物および第2の化合物と接触させて、酸素を含む雰囲気中で加熱することで、複合材料中のPVCを熱分解させることができ、処理後にはPVCが除去されて繊維だけが残る。 この繊維は、不燃廃棄物として処理する。このように、本発明は処理対象物にハロゲン含有有機物以外の物が含まれている場合であっても、ハロゲン含有有機物を熱分解することができる。
【0032】
加熱工程で使用する酸素を含む雰囲気としては、例えば、酸素ガス、空気および水蒸気を用いることができる。これら酸素を含む成分は、第1の化合物に含まれる酸化物半導体を活性化させて熱分解反応を起こすために必要であり、濃度は高い方がよい。例えば酸素ガスを用いる場合、空気中の酸素濃度(約20%)よりも高い濃度で供給することが望ましい。
【0033】
また、ガスを供給し続けることで酸素を含む雰囲気に制御する場合、ガスの流量が多いと、熱分解反応時に発生する熱を奪うため、処理対象物の温度上昇が十分に起こらず、熱分解反応を維持するためにより高温での加熱が必要になる。そのため、ガスを供給し続けることで酸素を含む雰囲気に制御する場合、ガスの流量は、雰囲気を維持できる範囲で少ない方が望ましい。
【0034】
第1の化合物および第2の化合物をハロゲン含有有機物に接触させる方法としては、例えば、第1の化合物および第2の化合物の粒子(粉末)を、ハロゲン含有有機物と混合する方法(固相法)、第1の化合物および第2の化合物の原料となる溶液に、ハロゲン含有有機物を添加して加熱により析出させる方法(液相法)等が挙げられる。液相法の方が、ハロゲン含有有機物と第1の化合物および第2の化合物の接触面積をより高められ好ましい。
【0035】
また、第1の化合物および第2の化合物の粒子(粉末)を反応槽に入れてハロゲン含有有機物と混合して接触させる方法の他に、第1の化合物および第2の化合物を反応槽の壁面や攪拌翼に付着させておいて、付着させた第1の化合物および第2の化合物をハロゲン含有有機物に接触させることもできる。ここで、ハロゲン含有有機物の熱分解反応は、ハロゲン含有有機物と第1の化合物および第2の化合物の接触部分を起点に反応が始まるので、接触面積は大きい方がよい。そのため、第1の化合物および第2の化合物は、反応槽の壁面や攪拌翼に付着させておくよりも、粒子(粉末)の状態でハロゲン含有有機物と混合することで接触させることがより好ましい。
【0036】
上述した本発明のハロゲン含有有機物の分解方法によれば、従来の高温で燃焼する分解方法と比較して、大幅に加熱温度を低くすることができ(250℃)、かつ、従来と同程度の減容率を実現できる。加熱温度を低くできることから、運転エネルギーを低減できるので、運転コストを低減することができる。また、加熱温度が250℃程度まで低下できることにより、発電プラント等の排熱を本発明のハロゲン含有有機物の分解方法の加熱工程に利用できる。
【実施例0037】
以下、実施例に基づいて、本発明の実施形態についてより詳細に説明する。
本実施例のハロゲン含有有機物の分解方法によれば、処理対象物101に第1の化合物102および第2の化合物103を接触させて、その後、雰囲気ガス104中において処理対象物101を加熱する。これにより、ハロゲン含有有機物を含む処理対象物の分解温度を低減し、減容することができる。
また、送気口5には、酸素を含む気体を供給する気体供給部3を接続する。気体供給部3の具体的な構成としては、例えば、水蒸気を発生させる気化器、ガスボンベ(酸素ボンベ等)、空気を供給するコンプレッサーおよびガスの精製装置等が挙げられる。そして、送気口5は、気体供給部3から供給された酸素を含む気体を、反応槽6内へ供給する。
加熱装置4は、気体供給部3から供給された酸素を含む気体を加熱することで、反応槽6内を加熱し、反応槽6内に収容された処理対象物を、雰囲気ガスと反応させて分解させる。
次に、この状態で、加熱を行う。加熱は、送気口5から反応槽6内へ酸素を含む気体を供給しながら、加熱装置4により前記気体を加熱することで、反応槽6内を加熱する。これにより、処理対象物2が前記気体と反応して分解され、残渣と排ガスが発生する。
加熱が終了したら、反応槽6内に残る残渣(および第1の化合物と第2の化合物の混合物1)を除去する。このようにして、処理対象物を分解することができる。次の分解処理では、反応槽6内に、第1の化合物および第2の化合物の混合物1と、ハロゲン含有有機物を含む処理対象物2を再び収容して、加熱を行う。
また、加熱装置4および送気口5を備えているので、送気口5から酸素を含む気体を供給し、反応槽6内に収容した第1の化合物および第2の化合物の混合物1と処理対象物2とを酸素を含む雰囲気で加熱し、分解することができる。
ここで、ハロゲン含有有機物の熱分解反応では、完全に熱分解が進んだ場合、エネルギーの収支は発熱となる。そのため、一度熱分解反応が始まると、熱分解反応で生じた熱が加熱に寄与するため、加熱のために加えるエネルギーを少なくすることができる。また、場合によっては、一度熱分解反応が始まると、反応で生じた熱のみで十分加熱できることもあり、この場合は加熱装置4による加熱は反応開始時だけでよいことになる。
また、排気口7および回収装置8を備えているので、加熱により発生した排ガスを排気口7から反応槽6の外部に排出し、回収装置8で回収することができる。そして、反応槽6において、酸素を含む雰囲気下で、第1の化合物および第2の化合物の混合物1と、ハロゲン含有有機物を含む処理対象物2を接触させた状態で、加熱装置4により加熱することにより、ハロゲン含有有機物を含む処理対象物の分解温度を低減し、減容することができる。
上述したサンプルA~Dを使用して、室温から800℃までの熱天秤(TG:Thermogravimetry)測定を行った。昇温速度は、10℃/minとした。各試料は空気中で加熱した。