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特開2023-35522海面温度の連続遠隔測定方法または連続遠隔測定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035522
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】海面温度の連続遠隔測定方法または連続遠隔測定システム
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/00 20060101AFI20230306BHJP
   G08C 15/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
G01W1/00 Z
G08C15/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142434
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000180313
【氏名又は名称】四国計測工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】高木 裕史
(72)【発明者】
【氏名】横山 佳史
(72)【発明者】
【氏名】大西 祐生
【テーマコード(参考)】
2F073
【Fターム(参考)】
2F073AA02
2F073AA11
2F073AA19
2F073AB01
2F073AB04
2F073BB01
2F073BB04
2F073BB07
2F073BC01
2F073BC02
2F073CC03
2F073CC05
2F073CC08
2F073CC12
2F073CC14
2F073CD05
2F073CD11
2F073DE02
2F073DE06
2F073DE13
2F073EE01
2F073EF09
2F073FF01
2F073FF12
2F073FG01
2F073FG02
2F073FG11
2F073GG01
2F073GG02
(57)【要約】
【課題】陸上に設置されるサーマルカメラを用いて、海面温度を遠隔から連続して適切に測定する海面温度の連続遠隔測定方法を提供する。
【解決手段】旋回可能なサーマルカメラ11を用いた海面温度の連続遠隔測定方法であって、海面温度をサーマルカメラ11で3点以上測定する測定工程と、測定工程で測定した海面温度を補正するための補正値を算出する補正値算出工程と、測定した海面温度を補正値算出工程で算出した補正値に基づき補正して、補正された海面温度を記憶装置に記憶する補正工程と、測定工程および補正工程を連続して実行する連続測定工程と、を有する海面温度の連続遠隔測定方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回可能なサーマルカメラを用いた海面温度の連続遠隔測定方法であって、
海面温度を前記サーマルカメラで3点以上測定する測定工程と、
前記測定工程で測定した海面温度を補正するための補正値を算出する補正値算出工程と、
測定した海面温度を前記補正値算出工程で算出した補正値に基づき補正して、補正された海面温度を記憶装置に記憶する補正工程と、
前記測定工程および前記補正工程を連続して実行する連続測定工程と、
を有する海面温度の連続遠隔測定方法。
【請求項2】
前記補正工程において、前記サーマルカメラの撮像画像において、水平線から上の部分をマスク処理してから測定した海面の温度を補正する、請求項1に記載の海面温度の連続遠隔測定方法。
【請求項3】
前記サーマルカメラを水平方向に旋回しながら、前記連続測定工程を実行する、請求項1または2に記載の海面温度の連続遠隔測定方法。
【請求項4】
前記補正値算出工程において、各測定地点における前記補正値を、前記サーマルカメラから測定地点までの距離、または、前記サーマルカメラの測定地点に対する俯角に基づき算出する、請求項1ないし3のいずれかに記載の海面温度の連続遠隔測定方法。
【請求項5】
前記補正値算出工程において、各測定地点における前記補正値を、前記サーマルカメラで測定した海面温度に基づいて算出する、請求項1ないし4のいずれかに記載の海面温度の連続遠隔測定方法。
【請求項6】
前記補正値算出工程において、所定の基準補正値に、前記サーマルカメラから測定地点までの距離、または、前記サーマルカメラの測定地点に対する俯角に基づく第1調整値、および、前記サーマルカメラで測定した海面温度に基づく第2調整値を加えて、前記補正値を測定する、請求項1ないし3のいずれかに記載の海面温度の連続遠隔測定方法。
【請求項7】
測定した海面温度の日平均を算出する平均温度算出工程と、
同一測定地点で算出した海面温度の平均値が、前日の海面温度の平均値から一定以上上昇している場合には、急潮現象の兆候を示すアラートを発出するアラート工程と、
を有する、請求項1ないし6のいずれかに記載の海面温度の連続遠隔測定方法。
【請求項8】
前記サーマルカメラは、海抜30m~500mの場所に設置される、請求項1ないし7のいずれかに記載の海面温度の連続遠隔測定方法。
【請求項9】
前記サーマルカメラは、当該サーマルカメラから100m~3000mの距離における測定地点の海面温度を測定する、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の海面温度の連続遠隔測定方法。
【請求項10】
前記サーマルカメラは、俯角が1.8°以上に設定されている、請求項1ないし9のいずれかに記載の海面温度の連続遠隔測定方法。
【請求項11】
海面温度を3点以上測定する、旋回可能なサーマルカメラと、
前記サーマルカメラで測定した海面温度を補正するための補正値を算出し、前記サーマルカメラで測定した海面温度を前記補正値に基づいて補正する制御部と、を有し、
前記制御部は、前記サーマルカメラにより連続して測定された海面温度を、前記補正値で補正することで、前記海面温度を連続して測定する、連続測定システム。
【請求項12】
前記制御部は、前記サーマルカメラで測定した海面温度の日平均を算出し、同一測定地点で算出した海面温度の平均値が、前日の海面温度の平均値から一定以上上昇している場合には、急潮現象の兆候を示すアラートを発出する、請求項11に記載の連続測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海面温度を遠隔から連続して測定する海面温度の連続遠隔測定方法または連続遠隔測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、急潮(突発的に発生する潮の流れ)が、沿岸海域に設置した定置網を流失または破損する被害が報告されており、このような被害を防止するために、急潮現象の兆候を検出する技術の開発が進められている。
たとえば、非特許文献1では、急潮が海水温度の急上昇を伴うことが多いことから、海水温度の急上昇を検出することで、急潮を検知する方法を提案している。
また、海水温度の測定方法として、洋上に設置したクロージャ(測定ブイ)から温度センサーなどのセンサー群を導出して海水と接触させ、海水温度などの海洋環境情報を直接測定する装置が知られている(たとえば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】稲葉栄生、勝間田高明著、「水温急上昇で捉えた駿河湾の急潮」、「海-自然と文化」東海大学紀要海洋学部、第1巻、第1号、2003年
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-075956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、測定ブイを用いて海水温度を測定する場合、測定ブイが高価である一方、洋上の広い範囲で海水温度を測定することが困難な上に、洋上にあるためメンテナンスも困難であるという問題があった。さらに、測定ブイを設置するための設置場所も限定されるという問題があった。
そのため、発明者らは、陸上に設置され、遠隔から海面のサーモグラフィーを撮像するサーマルカメラを用いて、海水温度を検出する方法を検討した。しかしながら、陸上に設置したサーマルカメラを用いて洋上の広い範囲で海水温度を測定するためには、洋上から離れた位置にサーマルカメラを設置する必要があるが、この場合、洋上から放射される赤外線の一部を受光することができず、サーマルカメラにより測定される海水温度が、実際の海水温度よりも低い温度で測定されてしまうという問題があった。
また、海面は常に波で揺れているため、サーマルカメラで受光される赤外線の量も波の状況によって変化するため、サーマルカメラで測定する海面温度もばらついてしまうという問題もあった。
【0006】
本発明は、陸上に設置されるサーマルカメラを用いて、海面温度を遠隔から連続して適切に測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の海面温度の連続遠隔測定方法は、旋回可能なサーマルカメラを用いた海面温度の連続遠隔測定方法であって、海面温度を前記サーマルカメラで3点以上測定する測定工程と、前記測定工程で測定した海面温度を補正するための補正値を算出する補正値算出工程と、測定した海面温度を前記補正値算出工程で算出した補正値に基づき補正して、補正された海面温度を記憶装置に記憶する補正工程と、前記測定工程および前記補正工程を連続して実行する連続測定工程と、を有する。
上記海面温度の連続遠隔測定方法において、前記補正工程において、前記サーマルカメラの撮像画像において、水平線から上の部分をマスク処理してから測定した海面の温度を補正するように構成することができる。
上記海面温度の連続遠隔測定方法において、前記サーマルカメラを水平方向に旋回しながら、前記連続測定工程を実行するように構成することができる。
上記海面温度の連続遠隔測定方法において、前記補正値算出工程において、各測定地点における前記補正値を、前記サーマルカメラから測定地点までの距離、または、前記サーマルカメラの測定地点に対する俯角に基づき算出するように構成することができる。
上記海面温度の連続遠隔測定方法において、前記補正値算出工程において、各測定地点における前記補正値を、前記サーマルカメラで測定した海面温度に基づいて算出するように構成することができる。
上記海面温度の連続遠隔測定方法において、前記補正値算出工程において、所定の基準補正値に、前記サーマルカメラから測定地点までの距離、または、前記サーマルカメラの測定地点に対する俯角に基づく第1調整値、および、前記サーマルカメラで測定した海面温度に基づく第2調整値を加えて、前記補正値を測定するように構成することができる。
上記海面温度の連続遠隔測定方法において、測定した海面温度の日平均を算出する平均温度算出工程と、同一測定地点で算出した海面温度の平均値が、前日の海面温度の平均値から一定以上上昇している場合には、急潮現象の兆候を示すアラートを発出するアラート工程と、を有するように構成することができる。
上記海面温度の連続遠隔測定方法において、前記サーマルカメラは、海抜30m~500mの場所に設置されるように構成することができる。
上記海面温度の連続遠隔測定方法において、前記サーマルカメラは、当該サーマルカメラから100m~3000mの距離における測定地点の海面温度を測定するように構成することができる。
上記海面温度の連続遠隔測定方法において、前記サーマルカメラは、俯角が1.8°以上に設定されているように構成することができる。
本発明に係る連続遠隔測定システムは、海面温度を3点以上測定する、旋回可能なサーマルカメラと、前記サーマルカメラで測定した海面温度を補正するための補正値を算出し、前記サーマルカメラで測定した海面温度を前記補正値に基づいて補正する制御部と、を有し、前記サーマルカメラにより連続して測定された海面温度を、前記制御部により前記補正値で補正することで、前記海面温度を連続して測定する。
上記連続遠隔測定システムにおいて、前記制御部は、前記サーマルカメラで測定した海面温度の日平均を算出し、同一測定地点で算出した海面温度の平均値が、前日の海面温度の平均値から一定以上上昇している場合には、急潮現象の兆候を示すアラートを発出するように構成することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、サーマルカメラで測定された海面温度を適切に補正することができるため、陸上に設置されるサーマルカメラを用いて、海水温度を遠隔から連続して適切に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る急潮検知システムを示す構成図である。
図2】本実施形態に係るサーマルカメラの海面温度の測定範囲の一例を示す概要図である。
図3】サーマルカメラにより測定した海面温度のカメラ測定値と、接触式温度計により測定した海面温度の実測値との差の一例を示すグラフである。
図4】サーマルカメラから測定地点までの距離と、第1調整値との関係を示すグラフである。
図5】海面温度の暫定値(カメラ測定値の移動平均値)と、第2調整値との関係を示すグラフである。
図6】本実施形態に係る急潮現象の兆候を検知する方法の一例を説明するための図である。
図7】実測値、海面温度の暫定値(カメラ測定値の移動平均値)、実測値と海面温度の暫定値との温度差、および補正後の海面温度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を、図に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る急潮検知システム1を示す構成図である。図1に示すように、本実施形態に係る急潮検知システム1は、カメラ装置10と、制御装置20とから構成される。
【0011】
カメラ装置10は、図1に示すように、サーマルカメラ11と、投光器12と、カメラコントローラー13と、通信装置14とを有する。サーマルカメラ11は、サーモグラフィーを撮像するサーマルカメラ部と、カラー画像を撮像するカラーカメラ部とを有している。サーマルカメラ11により撮像された画像データ(サーモグラフィーおよびカラー画像のデータ)は、カメラコントローラー13に出力された後、通信装置14により、インターネット回線30を介して、制御装置20まで送信される。なお、本実施形態において、サーマルカメラ11は、1秒毎にサーモグラフィーおよびカラー画像を撮像し、撮像したサーモグラフィーおよびカラー画像のデータを、制御装置20に送信している。このように、本実施形態に係るカメラ装置10は、サーモグラフィーおよびカラー画像を1秒ごとに撮像することができるため、リアルタイムで海面温度を測定することが可能となっている。なお、投光器12は、夜間などに撮影対象箇所を照明するためのライトであり、カメラコントローラー13の制御に基づいて動作する。
【0012】
ここで、図2(A),(B)は、本実施形態に係るサーマルカメラ11の撮像範囲の一例を示す図である。サーマルカメラ11はレンズの画角内においてサーモグラフィーを撮像するため、図2(A),(B)に示すように、サーモグラフィーとして撮像される複数の測定地点の海面温度を一度に測定することができる。たとえば、図2(A),(B)に示す例において、サーマルカメラ11は、1つのサーモグラフィーから測定地点(a)~(e)の5か所の海面温度を同時に測定することができる。また、本実施形態に係るサーマルカメラ11は、カメラを左右方向(水平方向)に旋回(パン)することが可能となっており、左右方向におけるカメラの画角よりも広い範囲で海面を撮像することができる。同様に、サーマルカメラ11は、カメラを上下方向に旋回(チルト)することも可能であり、上下方向におけるカメラの画角よりも広い範囲で海面を撮像することができる。このように、サーマルカメラ11は、カメラを左右上下に旋回させることで、洋上の複数の測定地点の海面温度を測定することが可能となっている(図2(A),(B)に示す範囲よりも広い範囲で海面温度を測定することができる。)。また、サーモグラフィーでは、画像の中心位置ほど測定精度が高くなるため、サーマルカメラ11は、測定地点が画像の中心位置となるように、カメラを左右上下に旋回させる構成とすることもできる。
【0013】
また、海面温度を好適に測定するためには、サーマルカメラ11の測定地点に対する俯角が大きいほど好ましい(たとえば、俯角が90°となる場合に、サーマルカメラ11が海面と対抗する位置となり、海面から放射される赤外線をより多く受光することができるため、測定精度が最も高くなる。)。本実施形態では、サーマルカメラ11の測定地点に対する俯角を大きくするために、サーマルカメラ11(カメラ装置10)は、海抜30メートル以上に設置することが好ましく、海抜100メートル以上に設置することがより好ましい。一方で、サーマルカメラ11の設置位置が高くなり過ぎると海面からの距離が大きくなるため、サーマルカメラ11は海抜500m以下に設置することが好ましく、海抜300メートル以下に設置することが好ましい。また、サーマルカメラ11の設置においては、測定地点に対する俯角を計算し、俯角が1.8°以上、好ましくは2.5°以上となるように、サーマルカメラ11の設置位置を決定する構成とすることもできる。
【0014】
次に、制御装置20について説明する。制御装置20は、サーマルカメラ11から送信されたサーモグラフィーおよびカラー画像のデータを受信する。また、制御装置20は、サーモグラフィーにおける各測定地点の位置情報と、予め記憶しているカメラの画角やレンズサイズなどのカメラ情報とに基づいて、1または複数の測定地点の海面温度を、サーモグラフィーから取得し、制御装置20の記憶部に記憶する。なお、制御装置20は、処理負荷の軽減のため、水平線の上部分(空に相当する部分)をマスクし、水平線の下部分(海面に相当する部分)の温度のみを測定するように構成することができる。
【0015】
ここで、サーマルカメラ11で測定した海面温度の測定値(以下、カメラ測定値ともいう。)は、波などにより海面が揺らぐため、測定範囲外の海面からの入射光が多くなったり、測定範囲内の海面からの入射光が少なくなったりして、比較的短い時間内でも変動が生じることがわかった。そのため、本実施形態において、制御装置20は、最新のカメラ測定値を海面温度として用いるのではなく、直近のカメラ測定値の移動平均値を、海面温度の暫定値として算出する。
【0016】
たとえば、制御装置20は、サーマルカメラ11により毎秒撮像されるサーモグラフィーを逐次受信し、記憶部に蓄積する。そして、制御装置20は、たとえば直近12時間におけるカメラ測定値の移動平均値(サーモグラフィーを毎秒撮像する場合は43200回分の移動平均値)を、海面温度の暫定値として算出することができる。なお、上述した海面温度の暫定値は、直近12時間におけるカメラ測定値の移動平均値に限定されず、たとえば、直近12時間におけるカメラ測定値のデータとして43200回分の海面温度のデータを取得できない場合には、最大で24時間以内に測定された海面温度のデータから、43200回分の海面温度のデータを取得しその移動平均値を海面温度の暫定値として算出することができる。たとえば、サーマルカメラ11が2秒ごとにサーモグラフィーを撮像する場合は、直近24時間におけるカメラ測定値の移動平均値(43200回分の移動平均値)を海面温度の暫定値として算出することができる。
【0017】
また、制御装置20は、海面温度の暫定値(カメラ測定値の移動平均値)を、海面温度に実測値に近づけるため、補正する補正機能を有している。ここで、図3は、接触式温度計を実際に海面に接触させて海面温度を測定した測定値(以下、実測値ともいう)と、サーマルカメラ11で測定した海面温度のカメラ測定値との関係を示すグラフである。また、図3に示す例では、昼と夜の2回において実測値およびカメラ測定値を測定している。図3に示すように、サーマルカメラ11で測定した海面温度のカメラ測定値は、接触式温度計で測定した海面温度の実測値よりも7℃から10℃程度低くなることがわかった。また、後述するように、サーマルカメラ11から測定地点までの距離またはサーマルカメラ11の測定地点に対する俯角や、海面温度によっても、サーマルカメラ11で測定した海面温度のカメラ測定値と海面温度の実測値との差にバラツキが生じることがわかった。
【0018】
そこで、本実施形態に係る制御装置20では、以下のように、海面温度の暫定値(カメラ測定値の移動平均値)を補正するための補正値を算出する。具体的には、制御装置20は、(1)サーマルカメラ11で測定した海面温度の測定値と接触式温度計で測定した海面温度の実測値との差を低減するための基準補正値に、(2)サーマルカメラ11から測定地点までの距離またはサーマルカメラ11の測定地点に対する俯角に基づく第1調整値と、(3)測定地点の海面温度に基づく第2調整値とを加えて、海面温度の暫定値を補正するための補正値を算出する。
【0019】
ここで、基準補正値は、特に限定されず、図3に示すように、サーマルカメラ11で測定した海面温度のカメラ測定値と、接触式温度計で実際に測定した海面温度の実測値とを比較して適宜設定することができる。たとえば、図3に示す例において、サーマルカメラ11で測定した海面温度のカメラ測定値は海面温度の実測値よりも7℃から10℃程度低いため、基準補正値を7℃と予め設定することができるが、サーマルカメラ11の設置位置などに応じて適宜設定することが好ましい。
【0020】
また、制御装置20は、サーマルカメラ11から測定地点までの距離またはサーマルカメラ11の測定地点に対する俯角に基づいて、補正値を調整するための第1調整値を算出する。図4は、サーマルカメラ11から測定地点までの距離と、第1調整値との関係を示すグラフである。サーマルカメラ11から測定地点までの距離が遠いほど、あるいは、サーマルカメラ11の測定地点に対する俯角が小さいほど、測定地点からサーマルカメラ11に入射する入射光は少なくなるため、サーモグラフィーで検出される測定温度が低くなる傾向にある。そのため、制御装置20は、図4に示すように、サーマルカメラ11から測定箇所までの距離が遠くなるほど、補正値が大きくなるように、第1調整値を大きく算出する構成とすることができる。同様に、図示していないが、制御装置20は、サーマルカメラ11の測定地点に対する俯角と、第1調整値との関係を示すグラフ(関係式)を予め記憶しておき、当該グラフ(関係式)に基づいて、サーマルカメラ11の測定地点に対する俯角に基づいて、第1調整値を算出する構成とすることもできる。サーマルカメラ11から測定地点までの距離またはサーマルカメラ11の測定地点に対する俯角と、第1調整値との関係は、サーマルカメラ11の設置位置などに応じて変化するため、カメラ測定値と実測値に基づいて予め設定しておき、制御装置20の記憶部に記憶しておく。これにより、制御装置20は、サーマルカメラ11から測定地点までの距離またはサーマルカメラ11の測定地点に対する俯角に基づいて、第1調整値を算出することができる。なお、図4に示す例では、事前の検証により、600mよりも近い距離においては、基準補正値では補正量が大きくなるため、補正量を小さくするようにマイナスの数値としているが、サーマルカメラ11の設置位置などに応じて、第1調整値を適宜設定することができる(600mよりも近い距離においてもプラスの数値となる場合がある。)。また、サーマルカメラ11から測定箇所までの距離が一定距離以上、あるいは、サーマルカメラ11の測定地点に対する俯角が所定角度以下となると、距離あるいは俯角による海面温度への影響が小さくなる。そのため、たとえば、図4に示すように、サーマルカメラ11から測定箇所までの距離が一定距離以上(図4に示す例では800m以上)において、あるいは、サーマルカメラ11の測定地点に対する俯角が所定角度以下においては、第1調整値を一定値(たとえば図4に示す例では0.1)とすることができる。
【0021】
さらに、制御装置20は、サーマルカメラ11で測定した測定地点の海面温度の暫定値(カメラ測定値の移動平均値)に基づいて、第2調整値を算出する。図5は、海面温度の暫定値と、第2調整値との関係を示すグラフである。事前の検証において、サーマルカメラ11で測定される海面温度のカメラ測定値が高いほど、海面温度のカメラ測定値と海面温度の実測値との差が大きくなる傾向にあることがわかった。そこで、本実施形態において、制御装置20は、図5に示すように、サーマルカメラ11で測定した測定地点の海面温度の暫定値が高いほど、補正値が高く設定されるように、補正値を調整するための第2調整値を高く算出する。具体的には、一定の測定地点における海面温度の暫定値と実測値との関係から、海面温度の暫定値ごとの第2調整値を予め求めておき、海面温度の暫定値と第2調整値との関係を記憶部に記憶しておく。これにより、制御装置20は、サーマルカメラ11で測定した測定地点の海面温度の暫定値に基づいて、第2調整値を算出することができる。なお、海面温度の暫定値と第2調整値との関係は、図5に示すようなグラフ(テーブル)に基づいて算出する構成の他、海面温度の暫定値と第2調整値との関係に近似する一次方程式を算出しておき当該一次方程式により第2調整値を算出する構成とすることもできる。
【0022】
そして、制御装置20は、下記式に示すように、予め設定していた補正基準値に、算出した第1調整値および第2調整値を加えて、海面温度の暫定値(カメラ測定値の移動平均値)を補正するための補正値を算出する。
補正値 = 補正基準値 + 第1調整値 + 第2調整値
さらに、制御装置20は、下記式に示すように、海面温度の暫定値に、上記補正値を加算することで、海面温度の暫定値を補正する。
海面温度 = 海面温度の暫定値 + 補正値
また、制御装置20は、測定地点ごとに、海面温度の暫定値と補正値とを算出することで、各測定地点の海面温度を算出し、制御装置20の記憶部に記憶する。
【0023】
さらに、本実施形態に係る制御装置20は、各測定地点の海面温度(補正後の海面温度)に基づいて、急潮現象の兆候を検出する機能を有している。ここで、図6は、本実施形態に係る急潮現象の兆候を検出する方法の一例を説明するための図である。制御装置20は、まず、記憶部に記憶した各測定地点の海面温度の時系列データを読み出す。そして、制御装置20は、海面温度の時系列データに基づいて、急潮現象の兆候を検出する。ここで、急潮現象の兆候として海面温度が比較的急峻に上昇することが知られている。そこで、制御装置20は、図6に示すように、前日24時間における海面温度の平均値Aと、直近における海面温度の平均値B(たとえば直近30分における海面温度の平均値)とを算出し、前日における海面温度の平均値Aに対して、直近における海面温度の平均値Bが3℃以上高い場合に、急潮現象の兆候があるものとして、その旨の情報を出力する。なお、前日における海面温度の平均値は、毎日0時過ぎに計算し制御装置20の記憶部に記憶しておく構成とすることができる。
【0024】
また、図1に示すように、制御装置20は、モニター40と接続しており、サーマルカメラ11のカラーカメラ部で撮像したカラー画像や、急潮現象の兆候を検出した場合の警告を、モニター40のディスプレイに出力することができる。また、制御装置20は、パソコンなどの端末装置50とも接続しており、端末装置50を介して、管理者が、サーマルカメラ11を制御することや、サーマルカメラ11により測定され制御装置20で補正された海面温度の監視、サーマルカメラ11により撮像されたカラー画像に基づく密漁船などの監視を行うこともできる。
【0025】
さらに、制御装置20は、インターネット回線などの通信回線を介して、遠隔にある通信端末60とも接続することができ、端末装置50と同様に、遠隔地の通信端末60からでも急潮現象の兆候や密漁船などの監視を行うことができる。加えて、制御装置20は、電話通信回線やインターネット回線などの通信回線を介して、スマートフォンなどの携帯端末70と接続することができ、たとえば急潮現象の兆候が検出された場合に、携帯端末70に警告をメールなどで送信することができる。
【実施例0026】
次に、本発明の実施例について説明する。本実施例では、1台のサーマルカメラ11を用いて、サーマルカメラ11からの距離が300m、500m、600m、800m、1000m、1500m、2000m、2500m、3000mとなる9か所の測定地点の海面温度をカメラ測定値として測定した。また、同じ9か所の測定地点において、接触式温度計で海水温度を実測値として測定した。また、本実施例では、サーマルカメラ11による海面温度の測定と、接触式温度計による海水温度の測定とを2回に分けて行った。なお、本実施例では、サーマルカメラ11として、電気興業株式会社製の2眼式サーマルカメラ(型番DK-TPV-IAHDR35H)を海抜120m付近に設置して測定を行った。当該測定結果を、下記表1および図7に示す。なお、図7は、本実施例における実測値、海面温度の暫定値(カメラ測定値の移動平均値)、実測値と海面温度の暫定値との温度差、および補正後の海面温度を示すグラフである。
【表1】
【0027】
本実施例において、海面温度の暫定値(1),(2)は、サーマルカメラ11で測定した直近12時間におけるカメラ測定値の移動平均値を示している。また、海面温度の暫定値と実測値との温度差は、(実測値(1)+実測値(2)の平均値)-(海面温度の暫定値(1)+海面温度の暫定値(2)の平均値)として求めている。
【0028】
表1および図7に示すように、接触式温度計で測定した海面温度の実測値と、サーマルカメラ11の測定結果に基づく海面温度の暫定値とでは、6~8℃程度の温度差があった。そのため、本実施例において、制御装置20は、このような温度差を低減するために、海面温度の暫定値を補正するための補正値を算出する。具体的には、制御装置20は、まず、予め設定した基準補正値を記憶部から取得する。本実施例では、基準補正値は7℃として設定されているため、制御装置20は、基準補正値を7℃として取得することができる。
【0029】
また、制御装置20は、図4に示すように、サーマルカメラ11から測定地点までの距離またはサーマルカメラ11の測定地点に対する俯角に基づく第1調整値との関係に基づいて、補正値を調整するための第1調整値を算出する。本実施例では、サーマルカメラ11から測定地点までの距離と第1調整値とは、下記表2に示すように、300mにおいて-1.2℃、500℃において-0.7℃、600mにおいて0℃、800~3000mにおいて0.1℃と設定されている。なお、表2は、本実施例における基準補正値、第1調整値、第2調整値、および補正値を示すグラフである。
【表2】
【0030】
さらに、制御装置20は、海面温度に基づいて、第2調整値を算出する。本実施例では、制御装置20は、図5のグラフに示す海面温度のカメラ測定値と第2調整値とに近似する一次関数として、y=0.2729x-1.279(ただしyは第2調整値、xは海面温度の暫定値)を記憶しており、これにより、第2調整値を算出する。なお、表2に示す例では、説明の便宜のため、第2調整値として、小数点第2位を四捨五入した数値を示す。
【0031】
そして、制御装置20は、測定地点ごとに、基準補正値、第1調整値および第2調整値を合計し、補正値を算出する。本実施例では、上記表2に示すように、300mにおける補正値として6.4℃、500℃における補正値として6.8℃、600mにおける補正値として7.4℃などが算出される。
【0032】
さらに、制御装置20は、下記表3に示すように、海面温度の暫定値に、算出した補正値を加算して、海面温度を求める。本実施例においては、下記表3に示すように、接触式温度計で実際に測定した海面温度の実測値と、補正後の海面温度との差は、300~3000mにおいて1度未満となり、海面温度の実測値に近い温度を求めることができた。
【表3】
【0033】
以上のように、本実施形態に係る急潮検知システム1では、陸上に設置したサーマルカメラ11により複数の測定地点の海面温度を測定することができるため、高価な測定ブイなどが不要となり安価であり、かつ、陸上にあるためメンテナンスも容易となる。一方で、サーマルカメラ11を用いて海面温度を測定する場合、サーマルカメラ11で測定した海面温度と実際の海面温度とに誤差が生じるという問題がある。これに対して、本実施形態に係る急潮検知システム1では、サーマルカメラ11で測定した海面温度のカメラ測定値の移動平均値を海面温度の暫定値として求めることで、海面の揺らぎによる海面温度の変動の影響を小さくすることが可能となっている。また、基準補正値に加えて、サーマルカメラ11から測定地点までの距離またはサーマルカメラ11の測定地点に対する俯角に基づく第1調整値と、海面温度に基づく第2調整値を加味して、海面温度の暫定値を補正することで、実際の海面温度に近い海面温度を求めることが可能となっている。
【0034】
また、本実施形態に係るサーマルカメラ11は、カラー画像を撮像可能なカラーカメラ部を有しており、カラーカメラ部で撮像したカラー画像を制御装置20へと送信することができる。これにより、たとえば、監視者は、端末装置50を介して制御装置20にアクセスすることで、サーマルカメラ11で撮像したカラー画像に基づく映像を監視することができ、これにより、たとえば密漁船などの監視を行うこともできる。なお、密漁船の監視は、撮像した画像を画像解析し、あるいは、船舶画像を教師データとして機械学習することで、密漁船を自動で検出する構成とすることもできる。
【0035】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0036】
たとえば、上述した実施形態では、サーマルカメラ11が、サーモグラフィーを撮像するサーマルカメラ部と、カラー画像を撮像するカラーカメラ部とを有する構成を例示したが、サーマルカメラ部のみを有する構成とすることができる。また、カラーカメラ部に代えて、モノクロ画像(あるいはグレースケール画像など)を撮像するモノクロカメラ部を有する構成としてもよい。
【0037】
また、上述した実施形態に加え、天気や季節などを加味して、補正値を調整する構成とすることもできる。たとえば、天候や季節に応じて、サーマルカメラ11で測定した海面温度と海面温度の実測値の差が変わる場合は、予め天候や季節に応じた量だけ補正値を調整する構成とすることができる。さらに、気象庁の測定データなど、比較的長期間の海面温度データを蓄積し、測定地点ごと、日付ごとの海面温度データに基づいて、補正値を調整する構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0038】
1…急潮検知システム
10…カメラ装置
11…サーマルカメラ
12…投光器
13…カメラコントローラー
14…通信装置
20…制御装置
30…インターネット回線
40…モニター
50…端末装置
60…通信端末
70…携帯端末
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7