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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035557
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】焼結体及び半導体製造装置用部材
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20230306BHJP
   C04B 35/505 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
C04B35/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142504
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】今井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康隆
【テーマコード(参考)】
5F004
【Fターム(参考)】
5F004AA16
5F004BB29
5F004DA01
5F004DA26
(57)【要約】
【課題】オキシフッ化イットリウム(YО)の焼結体の新たな用途を提供する。
【解決手段】オキシフッ化イットリウム(YО)からなる焼結体であって、当該焼結体の粉末X線回折のチャートにおいて、フッ化イットリウム(YF)結晶に基づくピークが確認されず、CFプラズマもしくはOプラズマ雰囲気下において使用されることを特徴とする焼結体。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシフッ化イットリウム(YО)からなる焼結体であって、当該焼結体の粉末X線回折のチャートにおいて、フッ化イットリウム(YF)結晶に基づくピークが確認されず、CFプラズマもしくはOプラズマ雰囲気下において使用されることを特徴とする焼結体。
【請求項2】
前記焼結体の粉末X線回折チャートは、粉末X線回折装置のX線がCuKα線であり、X線管球電圧が40kV、電流が20mAであり、走査範囲2θ=10~70°、走査速度10°/minの条件で計測されたものである請求項1に記載の焼結体。
【請求項3】
前記焼結体の粉末X線回折チャートには、オキシフッ化イットリウム(YО)結晶に基づくピークのみが確認される請求項1または2に記載の焼結体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の焼結体を備えることを特徴とする半導体製造装置用部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体及び半導体製造装置用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造における各工程、特に、ドライエッチング、プラズマエッチング及びクリーニングの工程ではフッ素系腐食性ガスを用いたプラズマが使用される。
【0003】
これらの腐食性ガスを用いたプラズマを使用すると、半導体製造装置の構成部材が腐食されたり、上記構成部材の表面からはく離した微細粒子(パーティクル)が半導体の表面に付着し、製品不良の原因となりやすい。そのため、半導体製造装置の構成部材には、フッ素系腐食性ガスを用いたプラズマに対して耐食性の高いセラミックスがバルク材料として使用される必要がある。
【0004】
このようなバルク材料として、イットリウムのオキシフッ化物を含む焼結体が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5911036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、イットリウムのオキシフッ化物としてのYOF焼結体のプラズマに対する耐食性は記載されているものの、YО焼結体については、プラズマに対する耐食性の検討はされておらず、どのようなプラズマ雰囲気下で使用するものか、何ら開示されていなかった。
【0007】
本発明では、上記課題を鑑み、オキシフッ化イットリウム(YО)の焼結体の新たな用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の焼結体は、オキシフッ化イットリウム(YО)からなる焼結体であって、当該焼結体の粉末X線回折のチャートにおいて、フッ化イットリウム(YF)結晶に基づくピークが確認されず、CFプラズマもしくはOプラズマ雰囲気下において使用されることを特徴とする。
【0009】
本発明者らは以下の事実を知見した。
オキシフッ化イットリウム(YО)からなる焼結体中に、フッ化イットリウム(YF)結晶粒子が、粉末X線回折により確認される程度まで存在している場合は、CFプラズマもしくはOプラズマにより、フッ化イットリウム(YF)結晶粒子およびフッ化イットリウム(YF)結晶粒子とオキシフッ化イットリウム(YО)との粒子境界が優先的にエッチングされてしまい、焼結体中にボイドが生じる。このボイドがさらにエッチングを加速させてしまうため、CFプラズマもしくはOプラズマに対する耐食性が低下してしまうのである。
【0010】
そこで、本発明では、オキシフッ化イットリウム(YО)からなる焼結体中のフッ化イットリウム(YF)結晶粒子の存在量を、粉末X線回折により確認されない程度にまで減らすことで、CFプラズマもしくはOプラズマによるフッ化イットリウム(YF)結晶粒子およびフッ化イットリウム(YF)結晶粒子とオキシフッ化イットリウム(YО)との粒子境界における選択的なエッチングの機会を無くし、焼結体中にボイドが発生することを防ぐことで、オキシフッ化イットリウム(YО)からなる焼結体をCFプラズマもしくはOプラズマ雰囲気中でも使用できることを新たに知見したのである。
【0011】
本発明の焼結体において、前記焼結体の粉末X線回折チャートは、粉末X線回折装置のX線がCuKα線であり、X線管球電圧が40kV、電流が20mAであり、走査範囲2θ=10~70°、走査速度10°/minの条件で計測されたものであることが望ましい。最も標準的な粉末X線回折チャートの計測条件だからである。
【0012】
本発明の焼結体では、前記焼結体の粉末X線回折チャートにおいて、オキシフッ化イットリウム(YО)結晶に基づくピークのみが確認されることが望ましい。フッ化イットリウム(YF)に限らず、オキシフッ化イットリウム(YО)以外の不純物結晶粒子は、オキシフッ化イットリウム(YО)との間で粒子境界を形成するため、この粒子境界からCFプラズマもしくはOプラズマにより腐食が進行しやすく、ボイドを形成するからである。
【0013】
本発明の半導体製造装置用部材は、上記オキシフッ化イットリウム(YО)の焼結体を備える。
上記オキシフッ化イットリウム(YО)の焼結体は、CFプラズマもしくはOプラズマに対し耐食性が高い。このため、耐食性および耐衝撃性に優れた半導体製造装置用部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例1に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体(YО)のCFプラズマ処理後の表面の電子顕微鏡写真である。
図2図2は、実施例1に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体(YО)のOプラズマ処理後の表面の電子顕微鏡写真である。
図3図3は、試験例1に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体(YО)のCFプラズマ処理後の表面の電子顕微鏡写真である。
図4図4は、試験例1に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体(YО)のOプラズマ処理後の表面の電子顕微鏡写真である。
図5図5は、試験例1に係る焼結体の粉末X線回折チャート図である。
図6図6は、実施例1に係る焼結体の粉末X線回折チャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(オキシフッ化イットリウム(YО)の焼結体)
本発明では、オキシフッ化イットリウム(YО)からなる焼結体中のフッ化イットリウム(YF)結晶粒子の存在量を、粉末X線回折により確認されない程度にまで減らすことで、CFプラズマもしくはOプラズマによる選択的なエッチングの機会を無くし、焼結体中にボイドが発生することを防いだ。これにより、オキシフッ化イットリウム(YО)からなる焼結体をCFプラズマもしくはOプラズマ雰囲気中で使用することを可能にしている。
【0016】
オキシフッ化イットリウム(YО)からなる焼結体中に、フッ化イットリウム(YF)結晶粒子が、粉末X線回折により確認される程度まで存在している場合は、CFプラズマもしくはOプラズマにより、フッ化イットリウム(YF)結晶粒子およびフッ化イットリウム(YF)結晶粒子とオキシフッ化イットリウム(YО)との粒子境界が優先的にエッチングされてしまい、焼結体中にボイドが生じる(図3図4参照)。このボイドがさらにエッチングを加速させてしまうため、CFプラズマもしくはOプラズマに対する耐食性が低下してしまうのである。
【0017】
本発明の焼結体において、前記焼結体の粉末X線回折チャートは、粉末X線回折装置のX線がCuKα線であり、X線管球電圧が40kV、電流が20mAであり、走査範囲2θ=10~70°、走査速度10°/minの条件で計測されたものであることが望ましい。最も標準的な粉末X線回折チャートの計測条件だからである。
フッ化イットリウム(YF)結晶に基づくピークが確認されない、とは、フッ化イットリウム(YF)の回折プロファイルであるJCPDSカード番号32-1431により特定されるピーク出現位置(2θ)に、ピークが確認されないか、ピークが確認されてもS/N比2未満であり、ピークが存在しないとして扱うことができる場合をいう。
また、粉末X線回折装置は、最も標準的な装置である株式会社リガク製 SmartLabを使用することができる。
【0018】
本発明では、焼結体の粉末X線回折チャートにおいて、オキシフッ化イットリウム(YО)結晶に基づくピークのみが確認されることが望ましい。フッ化イットリウム(YF)に限らず、オキシフッ化イットリウム(YО)以外の不純物結晶粒子は、オキシフッ化イットリウム(YО)との間で粒子境界を形成するため、この粒子境界からCFプラズマもしくはOプラズマにより腐食が進行しやすく、ボイドを形成するからである。
オキシフッ化イットリウム(YО)結晶に基づくピークのみが確認される、とは、オキシフッ化イットリウム(YО)の回折プロファイルであるJCPDSカード番号01-080-1124により特定されるピーク出現位置(2θ)にピークが確認され、それ以外の位置(2θ)に、ピークが確認されないか、ピークが確認されてもS/N比2未満となっており、ピークが存在しないとして扱うことができる場合をいう。
【0019】
(オキシフッ化イットリウムの焼結体の製造方法)
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体は、次のような製造方法により製造することができる。
本発明においては、原料としてYとYFとを組み合わせて焼結させることで、Yからなる焼結体を得ることができる。
【0020】
また、YとYFを組み合わせる場合には、モル比でY:YF=100:175~200が好ましい。
この原材料組成物を焼結させた焼結体であれば、Yマトリックス中のYF結晶粒子が生成しないか、生成しても粉末X線回折チャート上、YF結晶粒子に基づくピークが確認されない程度にまで抑制することができる。
【0021】
本発明の焼結体の原料としては、Y粉末とバインダおよび必要に応じて添加される焼結助剤のみを用いることができる。
しかしながら、Yの粉末とバインダのみを使用して製造した焼結体は、副反応により不純物結晶粒子が生成することがあり、Y結晶相と不純物結晶粒子との粒子境界がCFおよびOプラズマによって腐食されることが考えられるため、用途などを考慮して原料選定を行う必要がある。
【0022】
また、原材料組成物には、上記したY、及びYFなどのフッ化物のほか、有機バインダ、潤滑剤、分散媒液、成形助剤等の添加物を適宜加えてもよい。
有機バインダとしては特に限定されず、例えば、ポリアクリルニトリル(PAN)、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、イミド樹脂、フラン樹脂等が挙げられる。
上記潤滑剤としては特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン系化合物等が挙げられる。
【0023】
分散媒液としては特に限定されず、例えば、水、ベンゼン等の有機溶媒、メタノール等のアルコール等が挙げられる。
成形助剤としては特に限定されず、例えば、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等が挙げられる。
【0024】
原材料組成物を造粒して得られる粉末の粒子の大きさ(平均粒子径)は、例えば、10~200μmが好ましい。
【0025】
オキシフッ化イットリウムの焼結体を製造する工程を説明する。
前述した原材料組成物の粉末を仮成形して所定の形状に整え、仮成形体を作製する。仮成形の方法は、特に限定されるものではないが、型押し成形、CIP成形などを適用することができる。
【0026】
得られた成形体を脱脂し、焼成して粒子同士を結合させて焼結することによって、本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体を得ることができる。
焼成の温度、雰囲気は特に限定されないが、雰囲気は例えば、アルゴンなどの不活性雰囲気が好ましく、焼成温度は800~1100℃が好ましい。
また焼成時の圧力は常圧でもよいし、成形体を加圧しながら粒子を焼結させる熱間等方圧加圧法(HIP)や、機械的圧力とパルス通電加熱により粒子を焼結させる放電プラズマ焼結法(SPS)等を採用してもよい。
【0027】
本発明の半導体製造装置用部材は、上記のオキシフッ化イットリウム(Y)の焼結体を備えることを特徴とする。
オキシフッ化イットリウムの焼結体はYからなり、YF結晶粒子などの不従物結晶粒子の存在量を粉末X線回折チャート上知見されない程度まで抑制できるためCFプラズマやOプラズマに対し耐食性が高い。
このため、上記のオキシフッ化イットリウム(Y)の焼結体を用いることで、CFプラズマやOプラズマ雰囲気において使用される半導体製造装置用部材を提供することができる。
【0028】
具体的な本発明の半導体製造装置用部材は、特に限定されるものではないが、例えば、ウェハ等の半導体部材の載置台、静電チャック、ガス供給部、冷却材供給部、搬送アーム、チャンバ内壁材、上部電極、シャワープレート、フォーカスリング、エッジプレート等が挙げられる。
【実施例0029】
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
を46.2重量部、YFを53.8重量部(モル比はY:YF=100:179、すなわち焼成反応後の組成は、モル比でY:YF=100:2)、有機バインダとしてアクリル樹脂を3.0重量部、分散媒液としてアルコール系溶媒を40重量部、を混合した後、スプレードライヤーを用いて70℃で乾燥、造粒して、顆粒状の原材料組成物を調製した。
得られた顆粒状の造粒粒子について、粒子径80μm以上の粒子をカット(除去)し粒度調整した。なお、アルコール系溶媒は、エタノール86重量%、イソプロピルアルコール14重量%とした。
【0031】
次に、この造粒粒子をφ25mmの型に充填し、6MPaで一軸成形し全体の形状を整えた後、さらにゴムバックに詰め200MPaでCIP成形した。
【0032】
上記成形体を大気中、600℃で2時間、脱脂処理を行った後、アルゴン雰囲気中、1000℃で2時間焼成し、オキシフッ化イットリウムの焼結体を得た。
得られたオキシフッ化イットリウムの焼結体は、φ19mm、厚さ3mmの板状であった。
【0033】
(試験例1)
を36.3重量部、YFを63.7重量部(モル比はY:YF=100:270、すなわち焼成反応後の組成は、モル比でY:YF=100:35)、有機バインダとしてアクリル樹脂を3.0重量部、分散媒液としてアルコール系溶媒を40重量部、を混合した後、スプレードライヤーを用いて70℃で乾燥、造粒して、顆粒状の原材料組成物を調製した。
得られた顆粒状の造粒粒子について、粒子径80μm以上の粒子をカット(除去)し粒度調整した。なお、アルコール系溶媒は、エタノール86重量%、イソプロピルアルコール14重量%とした。
【0034】
次に、この造粒粒子をφ25mmの型に充填し、6MPaで一軸成形し全体の形状を整えた後、さらにゴムバックに詰め200MPaでCIP成形した。
【0035】
上記成形体を大気中、600℃で2時間、脱脂処理を行った後、アルゴン雰囲気中、950℃で2時間焼成し、オキシフッ化イットリウムの焼結体を得た。
得られたオキシフッ化イットリウムの焼結体は、φ19mm、厚さ3mmの板状であった。
【0036】
(実施例2)
を46.9重量部、YFを53.1重量部(すなわち焼成反応後の組成は、モル比でY:YF=100:0)を混合し、700℃で2時間焼成してYを合成し、この合成物を粉砕して平均粒子径1.1μmの大きさに粉末化した。この粉末100重量部と、有機バインダとしてアクリル樹脂を3.0重量部、分散媒液としてアルコール系溶媒を40重量部、をそれぞれ混合した後、スプレードライヤーを用いて70℃で乾燥、造粒して、顆粒状の原材料組成物を調製した。次に、この造粒粒子をφ25mmの型に充填し、6MPaで一軸成形し全体の形状を整えた後、さらにゴムバックに詰め200MPaでCIP成形した。
上記成形体を大気中、600℃で2時間、脱脂処理を行った後、アルゴン雰囲気中、21MPa、950℃の条件で、2時間ホットプレス焼成し、オキシフッ化イットリウム(Y)の焼結体を得た。
【0037】
(比較例1)
焼結体の板(西村陶業製N-100Y)をダイヤモンドカッターで大きさ20mm×20mmに切削し、さらにダイヤモンドラッピング研磨機を用いて厚さ1mmに研磨加工した。
【0038】
得られた実施例1~2、試験例1および比較例1の焼結体について、以下の条件にて、CFプラズマおよびO2プラズマによるエッチング処理を行い、比較例1のエッチング量を1とした場合のそれぞれのエッチング量を表1に記載した。
【0039】
(プラズマエッチング条件)
プラズマエッチング装置:神港精機株式会社製EXAM
エッチング方式:平行平板型(Capacitive Coupled Plasma-RIE)
なお、RIEはReactive Ion Etchingの略である。
基板温度:20℃
電源:高周波 13.56МHz
電力:350W
エッチング時間:6時間
サンプル:実施例1、実施例2、試験例1の焼結体についてはダイヤモンドラッピング研磨機により研磨して厚さを1mmに調整し、実施例1、実施例2、試験例1および比較例1の各焼結体のプラズマ接触面にマスキングテープ(カプトンテープ)を貼付けた。カプトンテープで被覆された領域はエッチングされないため、当該領域が基準面となる。基準面とエッチングされた領域の段差がエッチング量として計測される。段差は、レーザー顕微鏡(KEYENCE製 VK-X200 series)にて測定した。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示すように、比較例1にかかる焼結体のエッチング量が最も多く、試験例1にかかる焼結体のエッチング量が次に多く、実施例1及び2にかかる焼結体のエッチング量は少なくなっていた。すなわち、実施例1及び2にかかる焼結体はCFプラズマやOプラズマに対し耐食性が高い焼結体であるといえる。
【0042】
なお、実施例1および試験例1にかかる焼結体については、CFプラズマおよびOプラズマによりエッチング処理した後の表面状態を電子顕微鏡にて撮像した。それらの撮像結果を図1~4に記載した。電子顕微鏡の撮像条件は以下の通りである。
装置:株式会社日立ハイテク製S-4800
加速電圧:3.0kV
倍率:5000倍
【0043】
図1は、実施例1に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体(YО)のCFプラズマ処理後の表面の電子顕微鏡写真である。
図2は、実施例1に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体(YО)のOプラズマ処理後の表面の電子顕微鏡写真である。
図3は、試験例1に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体(YО)のCFプラズマ処理後の表面の電子顕微鏡写真である。
図4は、試験例1に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体(YО)のOプラズマ処理後の表面の電子顕微鏡写真である。
図1図3を比較すると、図3ではYF3結晶粒子と考えられる領域とYF3結晶粒子とYО結晶相との境界に大きなボイドが確認されるが、図1ではYF3結晶粒子は殆ど確認されず、焼結体中に存在する気孔を中心に若干の腐食が認められる。
図2図4を比較すると、図4では、YF結晶粒子と考えられる領域に大きなボイドが確認されるが、図2ではYF結晶粒子は殆ど確認されず、腐食によるボイドも認められなかった。
【0044】
さらに、実施例1、試験例1で得られた焼結体について以下の条件にて粉末X線回折(XRD)を実施し、粉末X線回折チャートを得た。図5は、試験例1に係る焼結体の粉末X線回折チャート図であり、図6は、実施例1に係る焼結体の粉末X線回折チャート図である。いずれのチャートにもYの結晶構造が確認された。また、図5に示す粉末X線回折チャートには、YFのピークが観察されたが、図6に示す粉末X線回折チャートには、YFに起因するピーク及び不純物結晶に起因するピークのいずれも観察されず、Yの結晶構造のみが確認された。
なお、図5、および図6におけるYの結晶構造の特定は、JCPDSカード番号01-080-1124を用いて行った。また、図5のYFの結晶構造の特定は、JCPDSカード番号32-1431を用いて行った。
【0045】
粉末X線回折の測定条件は以下の通りである。
装置:株式会社リガク製 SmartLab
電圧:40kV、電流:20mA
X線源:CuKα
走査範囲:2θ=10~70°
走査速度:10°/min
【0046】
表1および図5図6から理解されるように、実施例1に係るY焼結体は、YF結晶粒子等の不純物結晶粒子が存在しないか、その存在量が粉末X線回折により検出されない程度まで抑制されており、YF結晶等のY以外の不純物結晶粒子およびこのような不純物結晶粒子とYとの粒子境界で生じる、CFプラズマおよびO2プラズマによる優先的な腐食を防止することできるため、CFプラズマおよびO2プラズマ雰囲気での使用に適した焼結体と言える。
【0047】
また、同様の条件で、実施例2に係るY焼結体について、粉末X線回折により結晶構造を特定した。実施例2に係るY焼結体については、Y結晶以外に、S/N=3の、YF結晶以外であって、結晶構造を特定できない不純物結晶に基づく若干のピークが観察された。
粉末をホットプレス焼結させたため、焼結時に副反応が進行して、不純物結晶が生成してしまったと考えられる。このように不純物結晶を含む場合、不純物結晶とY粒子境界でCF、又はOプラズマにより優先的に腐食しやすいと考えられる。そのため、実施例2の焼結体は実施例1の焼結体に比べてエッチング量が多くなっていた。

図1
図2
図3
図4
図5
図6