(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035590
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】硬化性樹脂充填剤およびそれを用いたコンクリート構造物の補修方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20230306BHJP
E21D 11/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
E04G23/02 B
E21D11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142574
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】黒田 健夫
(72)【発明者】
【氏名】刈茅 孝一
(72)【発明者】
【氏名】茅野 己矢和
(72)【発明者】
【氏名】植原 広平
(72)【発明者】
【氏名】水野 光一朗
【テーマコード(参考)】
2D155
2E176
【Fターム(参考)】
2D155BA05
2D155JA02
2D155KB12
2D155LA14
2D155LA16
2E176AA01
2E176BB14
2E176BB17
(57)【要約】
【課題】ジャンカ等の空隙内における充填を向上することが可能な硬化性樹脂充填剤を提供すること。
【解決手段】硬化性樹脂充填剤は、コンクリート構造物のジャンカの空隙、鉄筋周囲の空隙、または打ち継ぎ部の空隙に注入するための、チクソ性付与剤を含有する硬化性樹脂充填剤であって、23℃における回転粘度計の20rpm測定粘度が2,000mPa・s以上50,000mPa・s未満、2rpm測定粘度と20rpm測定粘度の比であるチクソトロピックインデックス(TI)が3以上8未満である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物のジャンカの空隙、鉄筋周囲の空隙、または打ち継ぎ部の空隙に注入するための、チクソ性付与剤を含有する硬化性樹脂充填剤であって、
23℃における、回転粘度計の20rpm測定粘度が2,000mPa・s以上50,000mPa・s未満、2rpm測定粘度と20rpm測定粘度の比であるチクソトロピックインデックス(TI)が3以上8未満である、硬化性樹脂充填剤。
【請求項2】
2液型エポキシ樹脂であることを特徴とする、請求項1に記載の硬化性樹脂充填剤。
【請求項3】
前記チクソ性付与剤が粒径100nm以下の無機粒子であることを特徴とする、請求項1または2に記載の硬化性樹脂充填剤。
【請求項4】
前記無機粒子がシリカ粒子であることを特徴とする請求項3に記載の硬化性樹脂充填剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の硬化性樹脂充填剤を、コンクリート構造物のジャンカの空隙、鉄筋周囲の空隙、または打ち継ぎ部の空隙に注入する、コンクリート構造物の補修方法。
【請求項6】
2液混合型吐出装置を用いることを特徴とする、
請求項5に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項7】
クラックが繋がっている前記コンクリート構造物のジャンカの空隙、鉄筋周囲の空隙、または打ち継ぎ部の空隙に、前記硬化性樹脂充填剤を注入する、
請求項5または6に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項8】
前記コンクリート構造物がトンネルである、
請求項5~7のいずれか1項に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,コンクリート構造物のジャンカ(豆板)の空隙、鉄筋周囲の空隙、または打ち継ぎ部の空隙に注入するための硬化性樹脂充填剤およびそれを用いたコンクリート構造物の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
戦後の高度経済成長期に多くのトンネルが建設され、その後の経年によって老朽化の進むトンネルが増え続けている。また、当時の工事事情に伴うジャンカ等の施工不良によって、経年以上の早期劣化が生じているトンネルも存在している。
【0003】
そのため、トンネルの維持管理の重要性が増しており、安全かつ効率の良い検査と、不良箇所の補修方法が数多く検討されているものの、未だ検査精度や補修方法には課題が多かった。
【0004】
例えば、特許文献1には、コンクリート構造物の亀裂部等にドリルで穴を穿孔し,該穴に高圧注入バルブのノズルを差し込み、エポキシ樹脂を注入して補修する高圧工法が開示されている。さらに、特許文献1には,注射器形状をした注入器において,シリンダとピストン間に弾性体を介在させ,同様にコンクリート構造物の亀裂部等にドリルで穴を穿孔し,該穴に注入器のノズルを差し込み弾性体の圧縮力でシリンダ内のエポキシ樹脂を注入して補修する工法に用いる樹脂の注入器が開示されている。
【0005】
また、特許文献2及び3には、コンクリート構造物のひび割れやジャンカや鉄筋周囲の空隙にエポキシ樹脂を注入することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-031661号公報
【特許文献2】特開2018-104996号公報
【特許文献3】特開2015-030987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等は、特許文献1~3に記載された接着剤をジャンカ(豆板)に注入した場合、ジャンカの砂利間の空隙を一度は接着剤が満たすものの、硬化までの時間に注入側や予期し得ない空隙からのダレや流出によって、ジャンカ内に十分充填が出来ないという問題を見いだした。
【0008】
本開示は上記状況に鑑みてなされたものであり、その目的はコンクリート構造物のジャンカ補修において、ジャンカ等の空隙内における充填を向上することが可能な硬化性樹脂充填剤及びそれを用いたコンクリート構造物の補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、粘度及びチクソトロピックインデックスが特定範囲にある硬化性樹脂充填剤をコンクリート構造物の補修に用いることで、上記課題を解決できることを見いだした。
【0010】
即ち本開示の要旨は下記の通りである。
【0011】
第1の開示にかかる硬化性樹脂充填剤は、コンクリート構造物のジャンカの空隙、鉄筋周囲の空隙、または打ち継ぎ部の空隙に注入するための、チクソ性付与剤を含有する硬化性樹脂充填剤であって、23℃における回転粘度計の20rpm測定粘度が2000mPa・s以上であり、2rpm測定粘度と20rpm測定粘度の比であるチクソトロピックインデックス(TI)が3以上8未満である。
【0012】
このように、本開示の硬化性樹脂充填剤は、所定の粘度およびチクソトロピックインデックスにより、圧送・注入時は流動してジャンカの空隙、鉄筋周囲の空隙、または打ち継ぎ部の空隙に良好に充填することができるとともに、充填されたあとはその場に留まるためダレや流出が低減できる。
【0013】
第2の開示にかかる硬化性樹脂充填剤は、第1の開示にかかる硬化性樹脂充填剤であって、2液型エポキシ樹脂である。
【0014】
このように、2液型を用いることによって、早く硬化するためダレや流出を低減することができる。
【0015】
第3の開示にかかる硬化性樹脂充填剤は、第1または2の開示にかかる硬化性樹脂充填剤であって、チクソ性付与剤が粒径100nm以下の無機粒子である。
【0016】
このような粒径により、小さい隙間に充填することが可能となる。また、無機粒子の含有量を変更することによって、チクソトロピックインデックスを調整することができる。
【0017】
第4の開示にかかる硬化性樹脂充填剤は、第1~3の開示にかかる硬化性樹脂充填剤であって、無機粒子がシリカ粒子である。
【0018】
シリカ粒子は化学的に安定な組成であるため、無機粒子にシリカ粒子を用いることによって、硬化反応に影響を及ぼすことを防止できる。
【0019】
第5の開示にかかるコンクリート構造物の補修方法は、第1~4のいずれかの開示にかかる硬化性充填剤を、コンクリート構造物のジャンカの空隙、鉄筋周囲の空隙、または打ち継ぎ部の空隙に注入する。
【0020】
このように、本開示の硬化性樹脂充填剤を注入することで、速やかに、ジャンカの空隙、鉄筋周囲の空隙、または打ち継ぎ部の空隙に侵入し、良好に充填することができる。
【0021】
第6の開示にかかるコンクリート構造物の補修方法は、第5の開示にかかるコンクリート構造物の補修方法であって、2液混合型吐出装置を用いることを特徴とする。
【0022】
このように、本開示の硬化性樹脂充填剤を2液混合吐出装置を用いて注入することで、混合直後、速やかに、ジャンカの空隙、鉄筋周囲の空隙、または打ち継ぎ部の空隙に樹脂を注入することができる。
【0023】
第7の開示にかかるコンクリート構造物の補修方法は、第5または第6の開示にかかるコンクリート構造物の補修方法であって、クラックが繋がっているコンクリート構造物のジャンカの空隙、鉄筋周囲の空隙、または打ち継ぎ部の空隙に、クラックを封止する前処理を行わずに硬化性樹脂充填剤を注入する。
【0024】
例えば天井面内部のジャンカへ注入する場合、ジャンカ部から表面にクラックが繋がっていると、ジャンカ部へ注入した注入材がクラックを通って表面に流出し、天井から下へダレ落ちてくる為、作業者にかかる危険があり、また床面を樹脂で汚してしまう。また流出する為に充填が充分にできないか余分に注入材が必要になる。すなわち、事前に注入範囲の天井面にシール材を塗布してクラックを封止するなどの前処理で防止が可能であるが、そのための工程、材料が必要になる。本開示では注入材が内部に留まる為、前処理なしでダレ落ちずに注入が出来る。
【0025】
第8の開示にかかるコンクリート構造物の補修方法は、第5~7のいずれかの開示にかかるコンクリート構造物の補修方法であって、コンクリート構造物がトンネルである。
【0026】
これによって、トンネルに発生したジャンカ等を補修することができる。
【発明の効果】
【0027】
本開示によれば、コンクリート構造物のジャンカ補修において、ジャンカ等の空隙内における充填を向上することが可能な硬化性樹脂充填剤及びそれを用いたコンクリート構造物の補修方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】トンネルに豆板(ジャンカ)および空隙が生じている状態を示す模式図。
【
図2】コンクリート構造物の鉄筋周辺に空隙が生じている状態を示す図。
【
図3】トンネルの豆板(ジャンカ)に樹脂を注入している状態を示す模式図。
【
図4】トンネルの豆板(ジャンカ)の補修方法を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本開示に係る実施形態の硬化性樹脂充填剤について図面を参照しながら説明する。
【0030】
本実施の形態の硬化性樹脂充填剤は、コンクリート構造物の打ち継ぎ部の空隙、ジャンカの空隙、または鉄筋周囲の空隙を補修するために充填される。
【0031】
図1は、コンクリート構造物の一例であるトンネル100におけるジャンカ102を示す模式図である。トンネル100としては、軌道用のトンネル、一般道路のトンネル、または高速道路のトンネル等を挙げることができる。ジャンカ(豆板)とは、トンネル覆工コンクリートの欠陥の一つである。ジャンカ(豆板)とは、トンネル築造時にコンクリートの流動性およびポンプ打設等の施工方法により影響を受けた初期不良である。原因としては、圧縮空気で圧送打設されたための材料分離などである。
【0032】
トンネル100は、地山200を掘削し、その内側にコンクリート覆工部101を設けることによって形成されている。図に示すように、コンクリート覆工部101にジャンカ102(豆板)が発生する場合がある。ジャンカ102としては、
図1の左から順に、トンネルの内側および地山200に貫通していないもの、トンネルの内側に貫通し地山200側に貫通していないもの、トンネルの内側に貫通せず地山200側に貫通しているもの、トンネルの内側と地山200側の双方に貫通しているものが挙げられる。また、
図1には、ジャンカ102からトンネル100の内部まで達したクラック103が示されている。クラック103は、トンネル100の内部空間に開口103aを有している。
【0033】
本実施の形態の硬化性樹脂充填剤を用いることによって、上述のようなジャンカ102およびクラック103を補修することができる。
【0034】
図2は、コンクリート構造物300における鉄筋301周辺の空隙302a、302bを示す図である。コンクリート構造物300の表面に空隙302aが生じると、水や二酸化炭素が浸透し、コンクリートの中性化が進行して空隙が広がる。空隙302bのように鉄筋301まで達した状態で放置すると、鉄筋301が腐食するおそれがある。
【0035】
本実施の形態の硬化性樹脂充填剤を用いることによって、上述のような空隙302a、302bを補修することができる。
【0036】
また、本実施の形態の硬化性樹脂充填剤を用いることによって、コンクリート構造物の打ち継ぎ部の空隙も補修することができる。打ち継ぎとは、硬化したコンクリートまたは硬化し始めたコンクリートに接して新たにコンクリートを打設した状態のことである。
【0037】
(硬化性樹脂充填剤)
本実施の形態の硬化性樹脂充填剤は、コンクリート構造物のジャンカの空隙、または鉄筋周囲の空隙、または打ち継ぎ部の空隙、を補修するために充填される。
【0038】
本実施の形態に用いる硬化性樹脂充填剤は、主剤と硬化剤を含む。硬化性樹脂充填剤は、2液を混合することによって硬化する2液型の樹脂である。本実施の形態の硬化性樹脂充填剤は、23℃における、回転粘度計の20rpm測定粘度が2,000mPa・s以上50,000mPa・s未満であり、2rpm測定粘度と20rpm測定粘度の比であるチクソトロピックインデックス(TI)が3以上8未満である。これにより、充填の際に吐出しやすく、吐出後はダレにくい。
【0039】
23℃における回転粘度計の20rpm測定粘度が2,000mPa・s未満の場合には、粘性が小さいため吐出後の液ダレが発生しやすく、50,000mPa・s以上の場合には、粘性が高くなり取り扱いが難しくなる。そのため、23℃における回転粘度計の20rpm測定粘度が2,000mPa・s以上50,000mPa・s未満に設定されている。
【0040】
23℃におけるチクソトロピックインデックス(TI)が、3より小さい場合には、吐出後の液ダレが発生しやすく、8以上の場合には、粘性が高くなり取り扱いが難しくなる。そのため、23℃におけるチクソトロピックインデックス(TI)が3以上8未満に設定されている。
【0041】
本開示の硬化性樹脂充填材は、硬化性樹脂およびチクソ性付与剤を含有する。
【0042】
上記硬化性樹脂の硬化形態は、硬化剤との混合による硬化、加熱による硬化、光の照射による硬化等が挙げられる。上記充填剤を注入箇所に充填してから硬化させる観点及び保存安定性の観点から、上記硬化性樹脂は、上記硬化剤との混合による硬化であることが好ましい。チクソ性付与剤は、主剤に含まれていてもよいし、硬化剤に含まれていてもよいし、主剤と硬化剤の双方に含まれていてもよい。
【0043】
硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、またはシリコーン樹脂等が挙げられる。
【0044】
例えば、上記エポキシ樹脂を形成するエポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、水添加ビスフェノールA型エポキシ化合物、ダイマー酸変性ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、ダイマー酸型エポキシ化合物、トリエポキシプロピルイソシアヌレート(トリグリシジルイソシアヌレート)、ヒダントインエポキシ化合物、脂肪族系エポキシ化合物、ジシクロ環型エポキシ化合物、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、及びグリシジルアミン型エポキシ化合物等が挙げられる。
【0045】
上記エポキシ樹脂の硬化剤(エポキシ硬化剤)としては、アミン化合物、イミダゾール化合物、アミド化合物、シアノ化合物、及び酸無水物等が挙げられる。上記アミン化合物としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、それらのアミンアダクト、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、及びジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。上記イミダゾール化合物としては、メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、エチルイミダゾール、イソプロピルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、フェニルイミダゾール、ウンデシルイミダゾール、ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、及び2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。上記アミド化合物としては、ポリアミド等が挙げられる。上記シアノ化合物としては、ジシアンジアミド等が挙げられる。上記酸無水物としては、無水マレイン酸及びその化合物、無水フタル酸及びその化合物等が挙げられる。
【0046】
上記エポキシ化合物と上記エポキシ硬化剤とを反応させることにより、エポキシ樹脂の硬化物を得ることができる。
【0047】
本開示の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記エポキシ化合物は、ビスフェノールA型エポキシ化合物、又はビスフェノールF型エポキシ化合物であることが好ましい。本開示の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記エポキシ硬化剤は、アミン系硬化剤(アミン化合物)、又は酸系硬化剤であることが好ましい。
【0048】
上記エポキシ化合物と上記エポキシ硬化剤との配合比は、エポキシ化合物とエポキシ硬化剤との種類の組み合わせによって適宜変更可能である。上記エポキシ化合物と上記エポキシ硬化剤との配合比は、例えば、エポキシ当量(活性水素当量)を基準にして、設定することができる。
【0049】
例えば、上記アクリル樹脂を形成するアクリル化合物としては、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸-i-プロピル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフリル、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート及びフェノキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸アミド及び(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミド等の(メタ)アクリル酸アミドなどが挙げられ、これらの重合体を含んでも良い。
【0050】
上記アクリル化合物の硬化剤としては、有機過酸化物等が挙げられる。上記有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、パーベンゾエート、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリルパーオキサイド、パーオキシエステル、及びパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0051】
例えば、上記ウレタン樹脂を形成するポリオール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、シクロヘキサンジオール、メチルシクロヘキサンジオール、イソホロンジオール、ジシクロヘキシルメタンジオール、ジメチルジシクロヘキシルメタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、多塩基酸と多価アルコールとを脱水縮合して得られる重合体、ε-カプロラクトン又はα-メチル-ε-カプロラクトンなどのラクトンを開環重合して得られる重合体等が挙げられる。
【0052】
上記ポリオール化合物の硬化剤としては、ポリイソシアネート化合物等が挙げられる。上記ポリイソシアネート化合物としては、芳香族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、及び脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。上記芳香族ポリイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジメチルジフェニルタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、及びポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等が挙げられる。上記脂環族ポリイソシアネートとしては、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、及びジメチルジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。上記脂肪族ポリイソシアネートとしては、メチレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、及びヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0053】
上記ポリオール化合物と上記ポリイソシアネート化合物とを硬化反応させることにより、ウレタン樹脂を得ることができる。
【0054】
本開示の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記ポリオール化合物は、ポリエステルポリオール、又はポリエーテルポリオールであることが好ましい。本開示の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記ポリオール化合物の硬化剤(ポリイソシアネート化合物)は、ジフェニルメタンジイソシアネート、又はトルエンジイソシアネートであることが好ましい。
【0055】
上記ポリオール化合物と上記ポリイソシアネート化合物との配合比は、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との種類の組み合わせによって適宜変更可能である。上記ポリイソシアネート化合物の配合量は、上記ポリオール化合物の水酸基量と、上記ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基量(NCO量)とが等量となる量であることが好ましい。
【0056】
例えば、上記ビニルエステル樹脂を形成するビニルエステル化合物としては、エポキシ化合物と不飽和一塩基酸との反応物等が挙げられる。上記エポキシ化合物としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル及びその高分子量同族体、ノボラック型ポリグリシジルエーテル及びその高分子量同族体、並びに1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等の脂肪族系グリシジルエーテル類等が挙げられる。上記不飽和一塩基酸としては、アクリル酸及びメタクリル酸等が挙げられる。上記エポキシ化合物と、上記アクリル酸及び上記メタクリル酸との反応物としては、エポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0057】
上記ビニルエステル化合物の硬化剤としては、有機過酸化物等が挙げられる。上記有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、パーベンゾエート、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリルパーオキサイド、パーオキシエステル、及びパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0058】
上記硬化性成分が上記ビニルエステル化合物を含む場合に、該硬化性成分は、ラジカル重合性不飽和単量体を含んでいてもよい。上記ラジカル重合性不飽和単量体としては、スチレンモノマー、スチレンのα-,o-,m-,p-アルキル,ニトロ,シアノ,アミド,エステル誘導体、クロルスチレン、ビニルトルエン、及びジビニルベンゼン島のスチレン系モノマー、ブタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、イソプレン、及びクロロプレン等のジエン類;(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸-i-プロピル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフリル、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート及びフェノキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸アミド及び(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミド等の(メタ)アクリル酸アミド;(メタ)アクリル酸アニリド等のビニル化合物;シトラコン酸ジエチル等の不飽和ジカルボン酸ジエステル;N-フェニルマレイミド等のモノマレイミド化合物;N-(メタ)アクリロイルフタルイミドなどが挙げられる。
【0059】
例えば、上記シリコーン樹脂を形成するシリコーン化合物としては、ケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。上記オルガノポリシロキサンの主鎖は、ジオルガノシロキサンの重合体が一般的であるが、一部枝分かれした構造又は環状の構造を有していてもよい。上記オルガノポリシロキサンが有するアルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、1-メチル-2-プロペニル基、ペテニル基、へキセニル基、オクテニル基、及びシクロへキセニル基等が挙げられる。
【0060】
上記シリコーン化合物の硬化剤(架橋剤)としては、SiH基を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン等が挙げられる。上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、フェニルメチルハイドロジェンポリシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、及び両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体等が挙げられる。
【0061】
硬化性樹脂に対するチクソ性付与剤の含有量によって、23℃における20rpm測定粘度およびチクソトロピックインデックス(TI)の値を調整することができる。硬化性樹脂に対するチクソ性付与剤の含有量を増やすことによって、23℃における20rpm測定粘度およびチクソトロピックインデックス(TI)の値を大きくすることができる。
【0062】
チクソ性付与剤としては、無機粒子を用いることができる。チクソ性付与剤の無機粒子の粒径は、100nm以下が好ましく、より好ましくは、5nm以上50nm以下である。無機粒子の粒径を100nm以下とすることによって、小さい空隙にも硬化性樹脂充電剤を注入することができる。また、粒子径が小さい方が、表面積が大きいため、増粘・チクソ付与効果が高い。そのため、添加量を少量に出来、硬化物の性状を大きく変えることなく粘度・チクソを調整することができる。ここでいう粒径は、一次粒子径であり、BET法で求められる比表面積から次式で求められるものである。
【0063】
d=6/(ρs) (d:粒子径、ρ:密度、s:比表面積)
また、電子顕微鏡観察によって確認する事が出来る。
【0064】
チクソ性付与剤として用いられる無機粒子は、例えば、シリカ粒子、表面処理炭酸カルシウム、水添ヒマシ油、有機ベントナイト、有機合成スメクタイト等が挙げられる。
【0065】
硬化性樹脂100重量部に対して、チクソ性付与剤としてのシリカ粒子は3~4.5重量部が好ましい。3重量部より少ないとチクソ性が十分得られず、ダレが発生する。4.5重量部より多いと粘度、チクソ性が高くなり、取り扱い性が低下するので好ましくない。
【0066】
硬化性樹脂充填剤の可使時間は、5分以上20分未満が好ましい。本実施の形態の硬化性樹脂充填剤は、制限が多く、施工難度も高くなるような短い可使時間に設定されている。
【0067】
(硬化性樹脂充填剤を用いた補修方法)
図3は、コンクリート構造物の一例として軌道のトンネル100のコンクリート覆工部101の内部におけるジャンカ102(豆板)の補修を行っている状態を示す図である。
図4は、トンネルの豆板(ジャンカ)の補修方法を示すフロー図である。
【0068】
なお、本実施の形態では、コンクリート構造物の一例としてトンネルを用いて説明するが、トンネルに限らなくてもよく、橋梁、道路等であってもよい。また、
図3では、地山200側およびトンネル内部側に貫通していないジャンカ102の補修を行っている状態を示しているが、
図1で示した他の種類のジャンカ102のいずれか、
図2で示した空隙302a、302b、若しくは打ち継ぎ部の空隙等に対して補修を行ってもよい。
【0069】
図3では、トンネル100(コンクリート構造物の一例)のコンクリート覆工部101の内部にジャンカ102による空隙部が生じている。
【0070】
はじめに、ステップS10において、ジャンカ102に向かってコンクリート覆工部101に注入孔が穿たれる。そして、ステップS20において、注入孔に、樹脂注入パイプ1が装着される。
【0071】
樹脂注入パイプ1の構造は特に限定されるものではないが、例えば、筒状であって、一端の開口にスタテックミキサー5が装着可能に構成されている。
【0072】
次に、ステップS30において、樹脂注入パイプ1に2液混合吐出装置が接続される。詳しくは、樹脂注入パイプ1には、スタテックミキサー5が接続される。スタテックミキサー5は、材料輸送ホース6a、6bを介して注入装置7に接続されている。注入装置7は、2液混合吐出装置である。
【0073】
ステップS30における接続後、ステップS40において、注入装置7によって主剤と硬化剤が所定の比率で、それぞれ材料輸送ホース6a、6bに吐出される。吐出された主剤と硬化剤は、材料輸送ホース6a、6bを通って、スタテックミキサー5に運ばれる、スタテックミキサー5において、主剤と硬化剤が攪拌され、攪拌された主剤と硬化剤が樹脂注入パイプ1を通って、樹脂注入パイプ1の他端から吐出されジャンカ102に充填される。ここで、
図3に示すようにジャンカ102にクラック103が繋がっている場合でも、本実施の形態の硬化性樹脂充填剤を用いることによって開口103aからの液ダレが抑制される。
【0074】
次に、ステップS50において、充填した硬化性樹脂充填剤が硬化するまで放置される。
【0075】
次に、ステップS60において、樹脂注入パイプ1のコンクリート覆工部101から突出している部分を石頭ハンマー等でたたき折ることによって、樹脂注入パイプ1がトンネル100のコンクリート覆工部101の内部で折れ、折れた部分にシール材を塗布し、注入穴が塞がれる。
【0076】
以上の動作によって、トンネル100のコンクリート覆工部101の内側に生じたジャンカ102に硬化性樹脂充填剤を注入して、ジャンカ102を補修することが出来る。
【0077】
また、本実施の形態では、上述したような所定範囲の粘性の硬化性樹脂充填剤を用いるため、充填前に、クラック103の開口103aに予めシール材を塗布してクラック103を封止するといった前処理が必要なく、ジャンカ102とともにクラック103も硬化性樹脂を充填でき注入することによって補修することができる。さらに、
図1で示したようなトンネルの内側に貫通しているジャンカ102に対しても液ダレの発生を抑制し補修を行うことができる。
【実施例0078】
次に、実施例を用いて説明する。
粘度はB型回転粘度計(東機産業社製TVB-15)で、23℃において、2rpmの1分後粘度、20rpmの1分後粘度を測定し、チクソトロピックインデックス(TI)は次式により算出した。
TI=[2rpm粘度]/[20rpm粘度]
ダレ性は、以下の方法で評価した。
底面に直径3mmの穴を開けた100mLのポリカップを、下面の穴をふさがないように置き、混合直後の充填剤をポリカップの上部から50gを投入した。ポリカップ下面の穴から充填剤が流出(落下)するかを目視観察し、投入後30分経過時点で充填剤の流出(落下)が無い場合を○、流出(落下)があった場合を×とした。
本実施例では、硬化性樹脂充填剤における無機粒子の含有量を変更することによって、硬化性樹脂充填剤の粘度、チクソトロピー性を変化させて、ダレ性と可使時間の評価を行った。
【0079】
硬化性樹脂は、2液混合型エポキシ樹脂を使用した。
実施例1~4、および比較例1~4はいずれも同一で、混合液粘度が2rpmおよび20rpmともに550mPa・s、TI=1であった。
比較例5で用いた2液混合型エポキシ樹脂は、混合液粘度が2rpmおよび20rpmともに3,400mPa・s、TI=1であった。
【0080】
無機粒子として、粒径約38nm(比表面積65~95m2/g)のシリカ粒子(商品名:アエロジルRY200S、日本アエロジル社製)を用いた。
【0081】
下記表に示すように、硬化性樹脂における無機粒子の含有量を増加することによって、23℃における20rpm測定粘度およびチクソトロピックインデックス(TI)の値を大きくすることができる。下記実施例1~4および比較例1~3より、チクソトロピックインデックス(TI)の値が、3より小さい場合には、硬化性樹脂の流出が発生し、8以上になると粘性が高くなり取り扱い性が悪くなる。そのため、23℃におけるチクソトロピックインデックス(TI)が3以上、8未満でダレ性が良好となり、取り扱いも良好となることがわかる。
【0082】