(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035626
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 31/02 20060101AFI20230306BHJP
B23K 1/19 20060101ALI20230306BHJP
B23K 1/20 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
B23K31/02 310B
B23K1/19 F
B23K1/20 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142627
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100186912
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 淳浩
(72)【発明者】
【氏名】稲見 規夫
(72)【発明者】
【氏名】小山 真司
(72)【発明者】
【氏名】篠原 勇人
(57)【要約】
【課題】不活性ガスの使用量を可能な限り低減しつつ、実用上充分な接合強度が得られる、金属材料の接合方法を提供する。
【解決手段】本開示は、第一部材と第二部材の接合方法である。本開示の接合方法は、前記第一部材と前記第二部材の間に、インサート材を配置すること、及び不活性ガスを供給しつつ、前記第一部材及び前記第二部材の少なくとも一方を介して、前記インサート材に荷重を負荷し、前記第一部材、前記インサート材、及び前記第二部材を加熱し、前記インサート材の液相形成によって、前記第一部材と前記第二部材を接合すること、を含む。前記インサート材は、前記第一部材及び前記第二部材よりも低融点を有しており、かつ前記インサート材が、液相を形成した後に、前記不活性ガスの供給量を減少させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一部材と第二部材を接合する方法であって、
前記第一部材と前記第二部材の間に、インサート材を配置すること、及び
不活性ガスを供給しつつ、前記第一部材及び前記第二部材の少なくとも一方を介して、前記インサート材に荷重を負荷し、前記第一部材、前記インサート材、及び前記第二部材を加熱し、前記インサート材の液相形成によって、前記第一部材と前記第二部材を接合すること、
を含み、
前記インサート材が、前記第一部材及び前記第二部材よりも低融点を有しており、かつ
前記インサート材が、液相を形成した後に、前記不活性ガスの供給量を減少させる、
接合方法。
【請求項2】
前記インサート材が、前記第一部材及び前記第二部材と共晶反応する金属又は合金で構成されており、前記インサート材が共晶反応により液相を形成した後に、前記不活性ガスの供給量を減少させる、請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
前記インサート材の液相形成を、前記インサート材に負荷した荷重の反力の変化、又は前記インサート材の厚さの変化により検知する、請求項1又は2に記載の接合方法。
【請求項4】
第一部材及び第二部材の少なくとも一方が、アルミニウム合金で構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項5】
前記インサート材が、金属亜鉛又は亜鉛合金で構成されている、請求項4に記載の接合方法。
【請求項6】
前記インサート材の片面又は両面に、予め、ギ酸塩被膜を形成する、請求項5に記載の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、接合方法に関する。本開示は、特に、インサート材を用いる接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、材料、特に金属材料の様々な接合方法が検討されている。接合方法のうち、被接合部材の間にインサート材を配置して、被接合部材を接合する方法がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、インサート材(ろう材)として、シリコン、マグネシウム、亜鉛、及びアルミニウムから選ばれる一種以上の金属又は合金粉末を用いて、アルミニウム合金部材を接合する方法が開示されている。また、特許文献1には、接合時に接合部が酸化することを回避又は抑制するためには、不活性ガス雰囲気中又は真空中で接合する必要があることを開示している。
【0004】
特許文献2には、不活性ガス雰囲気中又は真空中でアルミニウム合金部材を接合するためのブレージングシート(ろう接用シート)が開示されている。また、特許文献2には、ブレージングシートがマグネシウムを含有することにより、ブレージングシート表面の酸化皮膜が接合を阻害することを回避又は抑制することができることを開示している。
【0005】
特許文献3には、インサート材(ろう材)を用いたアルミニウム合金部材の接合に際し、所定のタイミングで真空排気から不活性ガス導入に切り替えることによって、接合表面の再酸化を回避又は抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-44208号公報
【特許文献2】特開2018-35386号公報
【特許文献3】特開2019-155453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3のいずれの接合方法においても、金属材料の接合に際し、実用上充分な接合強度を得るには、接合工程全てにわたって、あるいは、接合工程の大部分にわたって、不活性ガスを供給する必要があった。そのため、不活性ガスは高価であるにもかかわらず、接合に際し、多量の不活性ガスを使用していた。このことから、不活性ガスの使用量を可能な限り低減しつつ、実用上充分な接合強度が得られる、金属材料の接合方法が求められている、という課題を本発明者らは見出した。
【0008】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものである。すなわち、本開示は、不活性ガスの使用量を可能な限り低減しつつ、実用上充分な接合強度が得られる、材料の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ね、本開示の接合方法を完成させた。本開示の接合方法は、次の態様を含む。
〈1〉第一部材と第二部材を接合する方法であって、
前記第一部材と前記第二部材の間に、インサート材を配置すること、及び
不活性ガスを供給しつつ、前記第一部材及び前記第二部材の少なくとも一方を介して、前記インサート材に荷重を負荷し、前記第一部材、前記インサート材、及び前記第二部材を加熱し、前記インサート材の液相形成によって、前記第一部材と前記第二部材を接合すること、
を含み、
前記インサート材が、前記第一部材及び前記第二部材よりも低融点を有しており、かつ
前記インサート材が、液相を形成した後に、前記不活性ガスの供給量を減少させる、
接合方法。
〈2〉前記インサート材が、前記第一部材及び前記第二部材と共晶反応する金属又は合金で構成されており、前記インサート材が共晶反応により液相を形成した後に、前記不活性ガスの供給量を減少させる、〈1〉項に記載の接合方法。
〈3〉前記インサート材の液相形成を、前記インサート材に負荷した荷重の反力の変化、又は前記インサート材の厚さの変化により検知する、〈1〉又は〈2〉項に記載の接合方法。
〈4〉第一部材及び第二部材の少なくとも一方が、アルミニウム合金で構成されている、〈1〉~〈3〉項のいずれか一項に記載の接合方法。
〈5〉前記インサート材が、金属亜鉛又は亜鉛合金で構成されている、〈4〉項に記載の接合方法。
〈6〉前記インサート材の片面又は両面に、予め、ギ酸塩被膜を形成する、〈5〉項に記載の接合方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、インサート材が液相を形成するまでは不活性ガスを供給し、その後は不活性ガスの供給量を減少させることによって、不活性ガスの使用量を可能な限り低減しつつ、実用上充分な接合強度が得られる、金属材料の接合方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の接合方法の一態様を示す断面模式図である。
【
図2】
図2は、実施例及び比較例1~2の試料接合時の接合圧力と接合温度の時間変化を示す。
【
図3】
図3は、実施例1及び比較例1~2の試料の接合強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の接合方法の態様を詳細に説明する。なお、以下に示す態様は、本開示の接合方法を限定するものではない。
【0013】
理論に拘束されないが、本開示の拡散接合において、不活性ガスの使用量を可能な限り低減しつつ、実用上充分な接合強度が得られる理由について説明する。
【0014】
接合雰囲気中の酸素により、第一部材及び第二部材それぞれとインサート材の接合面が酸化されると、高融点の酸化皮膜によって、インサート材の融液の濡れが劣化する。そして、インサート材の融液の一部が第一部材及び第二部材それぞれの接合面と相互拡散することなく、接合部の外部へ排出され、酸化皮膜が接合部内に残存する。そのようにして得た接合接手の接合部に荷重が負荷されると、酸化皮膜内で脆性破壊が発生する。そのため、接合強度が低下する。そこで、第一部材及び第二部材それぞれとインサート材の接合面が、インサート材が溶融して液相を形成するまでは、不活性ガスを供給する。そして、インサート材が液相を形成した後は、接合面が液相で覆われるため、接合雰囲気中の酸素が接合面と接触し難くなる。そのため、インサート材が液相を形成した後は、不活性ガスの供給量を減少させることができる。
【0015】
これまでに説明した知見等によって完成された、本開示の接合方法の構成要件を、次に説明する。
【0016】
《接合方法》
本開示の接合方法は、インサート材配置工程及び接合工程を含む。また、本開示の接合方法は、任意で、ギ酸塩被膜付加工程を含んでもよい。以下、それぞれの工程について、図面を用いて説明する。
図1は、本開示の接合方法の一態様を示す断面模式図である。
【0017】
〈インサート材配置工程〉
図1に示したように、第一部材11及び第二部材12の間に、インサート材20を配置する。第一部材11及び第二部材12が被接合部材である。
【0018】
第一部材11及び第二部材12それぞれとインサート材20の組み合わせは、インサート材20が、第一部材11及び第二部材12よりも低融点を有しており、第一部材11と第二部材12が、インサート材20を用いて接合することができれば、特に制限はない。第一部材11と第二部材12は、同じ材料でできていてもよいし、異なる材料でできていてもよい。
【0019】
典型的には、第一部材11及び第二部材12は金属材料で構成されており、インサート材20は第一部材11及び第二部材と合金化が可能な金属材料で構成されている。特に断りのない限り、本明細書では、「金属材料」とは、金属又は合金を意味する。「金属」とは合金化されていない単体の金属を意味し、「合金」とは二種類以上の元素を含有し、それらが互いに合金化している組成物を意味する。「構成されている」とは、当該材料以外の材料を含有し得ることを意味し、当該材料の含有量は、例えば、質量%で、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上であってよい。
【0020】
第一部材11、第二部材12、及びインサート材20が、酸化しやすく、酸化皮膜が接合に悪影響を及ぼしやすい金属材料であるとき、本開示の接合方法は特に有用である。このような金属材料としては、例えば、金属アルミニウム及びアルミニウム合金等が挙げられる。
【0021】
金属アルミニウムの純度は、質量%で、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上であってよく、100%であってもよい。なお、例えば、純度が90%以上の金属アルミニウムは、90%以上のアルミニウムを含有しており、残部が不可避的不純物である、ということができる。純度が、95%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の場合も同様である。本明細書では、「不可避的不純物」とは、原材料に含まれる不純物、あるいは、製造工程で混入してしまう不純物等、その含有を回避することができない、あるいは、回避するためには著しい製造コストの上昇を招くような不純物のことをいう。製造工程で混入してしまう不純物等には、製造上の都合により、接合強度等に影響を与えない範囲で含有させる物質を含む。
【0022】
接合性に特段の困難性を伴わなければ、アルミニウム合金の種類に特に制限はない。本開示の接合方法は、インサート材20が、第一部材11及び第二部材12と共晶反応する合金で構成されていることが好ましい。この観点からは、第一部材11及び第二部材12は、さらに典型的には、シリコンを含有するアルミニウム合金で構成されていてよい。このようなアルミニウム合金は、接合時に酸化しやすく、本開示の接合方法の酸化抑制効果の有用性の観点からも好ましい。このようなアルミニウム合金としては、例えば、シリコンを含有する展伸材用アルミニウム合金及び鋳造用アルミニウム合金等が挙げられる。特に断りがない限り、本明細書では、展伸材用アルミニウム合金には鍛造用アルミニウム合金を含み、鋳造用アルミニウム合金にはダイカスト用アルミニウム合金を含む。
【0023】
シリコンを含有する展伸材用アルミニウム合金及び鋳造用アルミニウム合金においては、シリコンの含有割合は、例えば、質量%で、0.1%以上、0.5%以上、0.7%以上、1.0%以上、1.5%以上、2.0%以上、4.0%以上、6.0%以上、又は8.0%以上であってよく、24.0%以下、22.0%以下、20.0%以下、18.0%以下、16.0%以下、14.0%以下、12.0%以下、又は10.0%以下であってよい。展伸材用及び鋳造用アルミニウム合金のいずれも、時効硬化性、耐食性、耐熱性、及び/又は耐摩耗性等の向上のために、その用途によって、シリコンの他に、例えば、銅、マグネシウム、亜鉛、鉄、マンガン、ニッケル、チタン、鉛、錫、及びクロム等を含有していてもよい。そして、シリコン以外のそれら元素の合計含有割合は、例えば、質量%で、0.05%以上、0.1%以上、0.5%以上、1.0%以上、3.0%以上、又は5.0%以上であってよく、15.0%以下、13.0%以下、10.0%以下、又は7.0%以下であってよい。そして、残部がアルミニウム及び不可避的不純物であってよい。
【0024】
展伸材用アルミニウム合金としては、例えば、質量%で、0.01~5.0%の銅、0.1~1.5%のシリコン、0.01~3.0%のマグネシウムを含有し、亜鉛、鉄、マンガン、ニッケル、チタン、鉛、錫、及びクロムを、合計で、0~2.0%含有し、残部がアルミニウム及び不可避的不純物である合金が挙げられる。特に、展伸材用アルミニウム合金としては、例えば、日本産業規格の1000系、2000系、3000系、4000系、6000系、又は7000系等であってよく、特に、4000系、6000系、又は7000系等であってよい。
【0025】
鋳造用アルミニウム合金としては、例えば、質量%で、0.10~5.0%の銅、4.0~24.0%のシリコン、0.1~2.0%のマグネシウムを含有し、亜鉛、鉄、マンガン、ニッケル、チタン、鉛、錫、及びクロムを、合計で、0~5.0%含有し、残部がアルミニウム及び不可避的不純物である合金が挙げられる。特に、鋳造用アルミニウム合金は、例えば、日本産業規格のAC2A、AC2B、AC2C、AC3A、AC4B、AC4C、AC4CH、AC4D、AC8A、AC8B、AC8C、AC9A、又はAC9B等であってよい。
【0026】
特に、AC2Cは、例えば、質量%で、0.5~1.1%の銅、6.5~7.5%のシリコン、0.2~0.4%のマグネシウム、0~0.1%の亜鉛、0~0.1%のマンガン、0~0.1%ニッケル、及び0~0.1%の錫を含有し、残部がアルミニウム及び不可避的不純物であってよい。なお、本明細書で、特に断りがない限り、0%とは、当該成分を含有しなくてもよいことを意味する。
【0027】
鋳造用アルミニウム合金は、ダイカスト用合金であってもよく、例えば、質量%で、0.10~5.0%の銅、5.0~20.0%のシリコン、0~2.0%のマグネシウムを含有し、亜鉛、鉄、マンガン、ニッケル、チタン、鉛、錫、及びクロムを、合計で、0~5.0%含有し、残部がアルミニウム及び不可避的不純物である合金が挙げられる。特に、ダイカスト用アルミニウム合金は、例えば、日本産業規格のADC3、ADC10、ADC10Z、ADC12、ADC12Z、又はADC14等であってよく、特に、ADC10、ADC12、及びADC14等であってよい。
【0028】
特に、ADC12は、例えば、質量%で、1.5~3.5%の銅、9.6~12.0%のシリコン、0~0.3%のマグネシウム、0~0.3%の亜鉛、0~0.5%のマグネシウム、0~0.5%のニッケル、及び0~0.3%の錫を含有し、残部がアルミニウム及び不可避的不純物であってよい。
【0029】
インサート材20は、上述したように、第一部材11及び第二部材12よりも低融点を有している材料であれば、特に制限はない。インサート材20としては、ろう付及び液相拡散接合等で用いることができる周知の材料を用いることができる。このようなインサート材20は、第一部材11及び第二部材12と共晶反応する金属又は合金で構成されていることが好ましい。これにより、一般的には、インサート材20は、より低い融点を有する。その結果、接合時に、より低い温度で、第一部材11及び第二部材12の接合部がインサート材20の液相で包囲されるため、接合部の酸化抑制効果が向上する。
【0030】
第一部材11及び第二部材12が、金属アルミニウム又はアルミニウム合金の場合には、上述のようなインサート材20は、例えば、金属亜鉛又は亜鉛合金で構成されていてよい。
【0031】
インサート材20が金属亜鉛で構成されている場合には、金属亜鉛の純度は、質量%で、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上であってよく、100%であってもよい。なお、例えば、純度が90%以上の金属亜鉛は、90%以上の亜鉛を含有しており、残部が不可避的不純物である、ということができる。純度が、95%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の場合も同様である。
【0032】
インサート材20は亜鉛合金で構成されていてもよい。亜鉛合金とは、亜鉛の他に、亜鉛と合金化する元素を含有している組成物を意味する。このような合金化元素の含有割合は、質量%で、0.1%以上、0.5%以上、1%以上、又は3%以上であってよく、15%以下、10%以下、7%以下、又は5%以下であってよい。複数の合金化元素を含有する場合には、その合計の含有割合である。このような合金化元素としては、例えば、銅、アルミニウム、チタン、鉛、錫、カドミウム、及び鉄等が挙げられる。なお、このような亜鉛合金は、質量%で、0.1~15%の合金化元素を含有し、残部が亜鉛及び不可避的不純物である、ということができる。
【0033】
インサート材20の厚さについては、接合後の接合部に、インサート材20に由来する物質が残存して、接合強度に悪影響を及ぼさないように、接合条件等を考慮して、適宜決定すればよい。インサート材20の厚さは、0.2mm以上、0.4mm以上、又は0.6mmであってよく、1.6mm以下、1.4mm以下、1.2mm以下、1.0mm以下、又は0.8mm以下であってよい。
【0034】
〈接合工程〉
図1に示したように、第一部材11と第二部材12の間にインサート材20を配置した状態から、第一部材11及び第二部材12の少なくとも一方を介して、インサート材20に荷重を負荷する。そのとき、第一部材11、第二部材12、及びインサート材20を加熱して、インサート材20の液相を形成し、それにより、第一部材11と第二部材12を接合する。その際、インサート材20が液相を形成するまでは、インサート材20を配置した箇所及びその近傍に不活性ガスを供給する。そして、インサート材20が液相を形成した後は、不活性ガスの供給量を減少させる。これにより、接合部の酸化を抑制しつつ、第一部材11と第二部材12の接合に要する不活性ガスの供給量を低減することができる。なお、荷重の負荷方向は、インサート材20の厚さを圧縮する方向であり、第一部材11及び第二部材12でインサート材20を挟持する方向と同じである。
【0035】
上述したように、本開示の接合方法では、インサート材20が液相を形成するまでは不活性ガスを供給し、インサート材20が液相を形成した後は不活性ガスの供給量を減少させる。インサート材20が、第一部材11及び第二部材12と共晶反応する金属又は合金で構成されている場合には、インサート材20が共晶反応により液相を形成した後に、不活性ガスの供給量を減少させればよい。
【0036】
不活性ガスの供給量は、第一部材11及び第二部材12の酸化のし易さ、接合温度、並びに不活性ガスの種類等を考慮して、接合中、特に、インサート材20が液相を形成するまでに、第一部材11及び第二部材12の接合部の酸化を抑制するよう、適宜決定すればよい。不活性ガスの供給量は、インサート材20が液相を形成するまでは、標準状態で、例えば、0.001~1.000m3/分であってよい。インサート材20が液相を形成した後は、不活性ガスの供給量は、インサート材20が液相を形成する前を基準として、例えば、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、又は10%以下であってよく、0%であってよい。「インサート材20が液相を形成した後は、不活性ガスの供給量は、インサート材20が液相を形成する前を基準として、0%にする」とは、不活性ガスの供給を完全に遮断することを意味する。
【0037】
接合に用いる装置は、周知の装置を適用することができる。例えば、第一部材11及び第二部材12並びにインサート材20をチャンバー内に格納して、第一部材11と第二部材12を接合することが挙げられる。典型的には、チャンバーに真空ポンプと不活性ガス供給源を連結し、チャンバー内を真空ポンプで減圧した後に、不活性ガスを供給する。不活性ガスの供給時には、典型的には、真空ポンプの動作を停止し、真空ポンプを連結している配管を開放しておく。
【0038】
不活性ガスの種類は、第一部材11及び第二部材12の酸化のし易さ、接合温度、並びに不活性ガスの供給量等を考慮して、第一部材11及び第二部材12の接合部の酸化を抑制するよう、適宜決定すればよい。不活性ガスとしては、典型的には、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、及びクリプトンガス等の希ガス、窒素ガス、並びに二酸化炭素ガス等が挙げられる。これらを組み合わせた混合ガスであってもよい。また、不活性ガスとして、前述のガスに還元性ガスを加えた混合ガスであってもよい。還元性ガスは、典型的には水素ガスである。
【0039】
インサート材20の液相が形成されたことの検知方法は、それを確実に検知できれば、特に制限はなく、例えば、目視による検知、又は撮像装置を用いた検知であってもよい。あるいは、例えば、次のような方法で検知してもよいが、これに限られない。
【0040】
上述したように、接合時には、第一部材11及び第二部材12の少なくとも一方を介して、インサート材20の厚さを圧縮する方向に、荷重を負荷する。そのためには、例えば、第一部材11及び第二部材12の少なくとも一方に、例えば、液圧シリンダ等を連結して、インサート材20に荷重を負荷する。インサート材20に荷重を負荷しているとき、それと同じ荷重の大きさの反力を、第一部材11及び第二部材12が受ける。インサート材20が溶融して液相を形成したとき、その反力が減少する。この反力の変化(減少)を検知することによって、インサート材の液相形成を検知してもよい。反力の測定方法としては、第一部材11及び/又は第二部材12と液圧シリンダの間にロードセル等を配置する方法等が挙げられる。
【0041】
あるいは、インサート材20の少なくとも一部が溶融して液相を形成したとき、インサート材20の溶融物の少なくとも一部は、第一部材11と第二部材12で挟まれた空間から排出される。その結果、インサート材20の厚さが変化する。この厚さの変化を検知することによって、インサート材の液相形成を検知してもよい。インサート材20の厚さの変化の測定方法としては、例えば、液圧シリンダのストロークを測定する方法等が挙げられる。
【0042】
接合温度は、第一部材11及び第二部材12並びにインサート材20の種類等により、適宜決定すればよい。典型的には、接合温度は、インサート材20の融点以上、第一部材11及び第二部材12の融点以下、好ましくは、接合部の溶体化温度以下である。第一部材11及び第二部材12がアルミニウム合金、特に、鋳造用アルミニウム合金で構成されており、インサート材が金属亜鉛又は亜鉛合金で構成されている場合には、アルミニウムと亜鉛の共晶温度である380℃以上、接合部の溶体化温度以下であってよい。具体的には、接合温度は、例えば、380℃以上、400℃以上、又は450℃以上であってよく、660℃以下、650℃以下、600℃以下、550℃以下、又は500℃以下であってよい。
【0043】
インサート材に負荷する荷重は、接合圧力で制御することができる。接合圧力は、第一部材11及び第二部材12でインサート材20を挟持しても、インサート材20が位置ずれしない圧力以上、接合部が大きく変形しない圧力以下で、適宜決定すればよい。接合圧力は、典型的には、1MPa以上、2MPa以上、3MPa以上、又は4MPa以上であってよく、25MPa以下、20MPa以下、15MPa以下、10MPa以下、又は5MPa以下であってよい。
【0044】
接合時間は、インサート材20が第一部材11及び第二部材12と共晶反応により液相形成することにより、あるいは、インサート材20が融点に達して溶融することにより、インサート材20が接合部外周に排出されることで接合部に残存しないような時間で適宜決定すればよい。また、第一部材11及び第二部材12が合金で構成されており、合金元素の少なくとも一部が固溶化する場合には、溶体化(固溶化)する時間も考慮して適宜決定すればよい。接合時間としては、例えば、10分以上、30分以上、60分以上、90分以上、120分以上、又は150分以上であってよく、300分以下、270分以下、240分以下、210分以下、又は180分以下であってよい。
【0045】
〈ギ酸塩被膜付加工程〉
第一部材11及び第二部材12が金属アルミニウム又はアルミニウム合金で構成されており、インサート材20が金属亜鉛又は亜鉛合金で構成されている場合には、インサート材の片面又は両面に、予め、ギ酸塩被膜を形成してもよい。ギ酸塩被膜により、接合面での酸化皮膜を除去することができ、また、接合面の再酸化を回避又は抑制することができる。その結果、接合強度を向上させることができる。理論に拘束されないが、これは、接合時にギ酸塩被膜が熱分解して、第一部材11及び第二部材12の接合面の酸化皮膜を除去するためであると考えられる。
【0046】
ギ酸塩被膜の形成方法としては、例えば、インサート材20用の箔材又は板材を、沸騰させたギ酸中に1~5分にわたり浸漬した後、水洗する方法が挙げられる。
【0047】
これまで説明してきたこと以外でも、本開示の接合方法は、特許請求の範囲に記載した内容の範囲内で種々の変形を加えることができる。
【実施例0048】
以下、本開示の接合方法を実施例及び比較例により、さらに具体的に説明する。なお、本開示の接合方法は、以下の実施例で用いた条件に限定されない。
【0049】
《接合接手試料の準備》
次の要領で、接合接手試料を準備した。
【0050】
〈実施例〉
図1に示すように、第一部材11と第二部材12の間にインサート材20を配置し、第一部材11及び第二部材12を接合して、実施例の接合接手試料を得た。
【0051】
第一部材11及び第二部材12は、いずれも、日本産業規格AC2C-F鋳造用アルミニウム合金でできており、この合金は、質量%で、0.5~1.1%の銅、6.5~7.5%のシリコン、0.2~0.4%のマグネシウム、0.1%未満の亜鉛、0.1%未満のマンガン、0.1%未満のニッケル、及び0.1%未満の錫を含有し、残部がアルミニウム及び不可避的不純物である組成を有していた。第一部材11と第二部材12の接合面(インサート材20と接触する面)は、接合前に、#1200の研磨紙を用いて粗面化しておいた。
【0052】
インサート材20は、厚さが0.4mmの亜鉛合金箔であった。亜鉛合金箔は、質量%で、0.30%の銅、0.002%のアルミニウム、0.02%のチタン、0.02%未満の鉛、0.01%未満のカドミウム、及び0.01%未満の鉄を含有し、残部が亜鉛及び不可避的不純物である組成を有していた。
【0053】
インサート材20の両面には、予め、ギ酸塩被膜を形成しておいた。ギ酸塩被膜は、亜鉛合金箔を、沸騰したギ酸に2分間にわたり浸漬して形成した。
【0054】
液相拡散接合条件は、下記のとおりであった。
接合温度:500℃
接合圧力:5MPa
接合時間:180分
供給ガス:窒素
供給量:0.005m3/分
【0055】
そして、インサート材20が液相を形成した時点で、窒素ガスの供給を停止した。液相の形成は、インサート材に負荷した荷重(接合圧力)の反力で検知した。
図2に、接合時の接合圧力と接合温度の時間変化を示す。なお、接合圧力は、第一部材11に連結した液圧シリンダに取り付けたロードセルで測定した反力(圧力)である。
【0056】
〈比較例1〉
窒素ガスを接合開始から接合終了まで供給し続けたことを除き、実施例と同様に、比較例1の接合接手試料を得た。
【0057】
〈比較例2〉
窒素ガスを供給せずに、大気中で接合したことを除き、実施例と同様に、比較例2の接合接手試料を得た。
【0058】
《評価》
各接合接手試料を引張試験し、接合強度(破断強度)を測定した。引張方向は、インサート材20の圧縮方向と略反対であった。引張速度は、10mm/分であった。また、走査型電子顕微鏡を用いて、各接合接手試料の引張試験後の破面を観察し、EDXを用いて、酸素について面分析を行った。
【0059】
接合強度の測定結果を
図3に示す。
図3から、窒素ガスを接合開始から接合終了まで供給し続けた比較例1の試料と比べて、実施例の試料では接合強度が低下するものの、実施例の試料は、実用上充分な接合強度を有していることを確認できた。これに対し、窒素ガスを供給せずに、大気中で接合した比較例2の試料では、大幅に接合強度が低下していることを確認できた。これらのことから、実施例のように、インサート材の液相が形成した時点で窒素ガスの供給を停止しても、実用上充分な接合強度が得られることを確認できた。また、引張試験後の破面の面分析の結果、比較例2の試料と比較して、実施例の試料の酸素量は少なく、実施例の試料準備の際に、接合部の酸化を抑制できていることを確認できた。
【0060】
以上の結果から、本開示の接合方法の効果を確認できた。