IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社大和化成研究所の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035665
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】金属材の表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/48 20060101AFI20230306BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20230306BHJP
   C23F 11/00 20060101ALI20230306BHJP
   C23F 11/04 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C25D5/48
C23C26/00 A
C23F11/00 D
C23F11/00 F
C23F11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142684
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】593002540
【氏名又は名称】株式会社大和化成研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大賀 佑太
(72)【発明者】
【氏名】浪川 一敏
(72)【発明者】
【氏名】中尾 誠一郎
【テーマコード(参考)】
4K024
4K044
4K062
【Fターム(参考)】
4K024AA10
4K024AB02
4K024BA09
4K024BB10
4K024BC01
4K024DB03
4K024GA04
4K044AA06
4K044AB02
4K044BA06
4K044BA08
4K044BA21
4K044BB03
4K044BC02
4K044BC14
4K044CA18
4K044CA53
4K062AA01
4K062BA10
4K062BB21
4K062BB22
4K062CA03
4K062DA05
4K062FA09
4K062GA01
(57)【要約】
【課題】銀または銀合金めっきにおける高温加熱後の変色、反射率の低下または上昇、及び接触電気抵抗値の増大を抑制することが可能な、銀または銀合金めっきを施した金属材の表面処理方法を提供する。
【解決手段】銀または銀合金めっきを施した金属材の表面処理方法であって、
メルカプト基とスルホン酸基とを有する有機化合物と、
アルミニウム塩、ジルコニウム塩、モリブデン酸塩またはバナジン酸塩と、
ヨウ化物と、
を水に溶解または分散させ、pHを7.0以下に調整した表面処理液、及び、銀または銀合金めっきを施した金属材を接触させて、前記銀または銀合金めっきの表面に被膜を形成する工程を含む、金属材の表面処理方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀または銀合金めっきを施した金属材の表面処理方法であって、
メルカプト基とスルホン酸基とを有する有機化合物と、
アルミニウム塩、ジルコニウム塩、モリブデン酸塩またはバナジン酸塩と、
ヨウ化物と、
を水に溶解または分散させ、pHを7.0以下に調整した表面処理液、及び、銀または銀合金めっきを施した金属材を接触させて、前記銀または銀合金めっきの表面に被膜を形成する工程を含む、金属材の表面処理方法。
【請求項2】
前記アルミニウム塩が、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、または水酸化アルミニウムであり、
前記ジルコニウム塩が、硫酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、または酢酸ジルコニウムであり、
前記モリブデン酸塩が、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸アンモニウムであり、
前記バナジン酸塩が、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸カリウム、またはオキシ硫酸バナジウムである、請求項1に記載の金属材の表面処理方法。
【請求項3】
前記ヨウ化物が、ヨウ化ナトリウム、またはヨウ化カリウムである、請求項1または2に記載の金属材の表面処理方法。
【請求項4】
前記表面処理液中の、前記メルカプト基とスルホン酸基とを有する有機化合物の濃度が、0.05~50.0g/Lである、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属材の表面処理方法。
【請求項5】
前記表面処理液中の、前記アルミニウム塩、ジルコニウム塩、モリブデン酸塩またはバナジン酸塩の濃度が、0.25~100.0g/Lである、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属材の表面処理方法。
【請求項6】
前記表面処理液中の、前記ヨウ化物の濃度が、0.005~2.0g/Lである、請求項1~5のいずれか一項に記載の金属材の表面処理方法。
【請求項7】
前記金属材は、
(1)金属基材と、前記金属基材の表面に設けられた銀または銀合金めっきと、を有する、または、
(2)金属基材と、前記金属基材の表面に設けられた、銅、ニッケル、パラジウム、またはそれらの合金で構成された下地めっきと、前記下地めっきの表面に設けられた、銀または銀合金めっきと、を有する、
請求項1~6のいずれか一項に記載の金属材の表面処理方法。
【請求項8】
前記金属材が、電気・電子部品である、請求項1~7のいずれか一項に記載の金属材の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材の表面処理方法に関し、より詳細には、銀または銀合金めっきを施した金属材の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀または銀合金めっきは、電気伝導性、低接触抵抗、はんだ付け性、反射率などの特性に優れており、各種スイッチ、接点、端子、コネクタ、リードフレーム等を形成する被膜として、電気・電子部品に広く利用される。これら電気・電子部品は、主に、黄銅やリン青銅の表面に銅、ニッケル、パラジウムの下地めっきを施し、さらにその上に銀または銀合金めっきを施した材料が使用されている。
【0003】
銀または銀合金めっきは、空気中の硫黄成分と反応して変色しやすく、また高温加熱することで結晶状態が変化して各種特性が低下するという性質をもっている。
【0004】
このような問題に対し、特許文献1には、インヒビターとして所定の式で示されるベンゾトリアゾール系化合物、所定の式で示されるメルカプトベンゾチアゾール系化合物、及び所定の式で示されるトリアジン系化合物からなる群から選ばれた1種もしくは2種以上の化合物を0.01~0.15g/Lと、ヨウ化物及び/又は臭化物を0.1~20g/Lとを水に溶解または分散させ、pHを4~7に調製したことを特徴とする耐熱性の高い皮膜を金属上に形成するための表面処理剤が開示されている。そして、当該表面処理剤によれば、耐熱性に優れ、LED製造工程での加熱処理や、使用時に与えられる高温環境下に曝されても変色防止効果が高く、ワイヤーボンディング特性に優れた皮膜を金属上に形成することができ、かつ表面処理による反射率の劣化がない金属の表面処理剤を提供することができると記載されている。
【0005】
特許文献2には、亜鉛イオン及び硝酸イオンを含有する水溶液からなる変色防止処理用組成物中で、銀系材料を含む被処理物を陰極として、液温55℃以下及び陰極電流密度0.01~2mA/cm2の条件で電解処理を行うことを特徴とする、銀系材料の変色防止方法が開示されている。そして、当該銀系材料の変色防止方法によれば、処理後の銀系材料について、反射率、光沢等の外観劣化が生じ難く、しかもワイヤーボンディング性、ハンダ付け性などの各種の性能の低下も抑制することができると記載されている。
【0006】
特許文献3には、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、パラジウム、及び、パラジウム合金よりなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属を下地金属として、銀めっき皮膜、銀合金めっき皮膜、金めっき皮膜、金合金めっき皮膜、パラジウムめっき皮膜、又は、パラジウム合金めっき皮膜を最外層に有する金属体の、該最外層の変色及び/又は腐食を抑制して外観を維持する外観保護剤であって、ベンゾトリアゾール環化合物、並びに、所定の式で表されるアミン化合物及び/又は所定の式で表されるアンモニウムカチオンを有するアンモニウム化合物を含有することを特徴とする外観保護剤が開示されている。そして、当該外観保護剤によれば、銀めっき皮膜、銀合金めっき皮膜、金めっき皮膜、金合金めっき皮膜、パラジウムめっき皮膜、パラジウム合金めっき皮膜に対して、変色や腐食を防止し外観を維持し、また、優れた耐熱性を提供することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5473135号公報
【特許文献2】特許第5888696号公報
【特許文献3】特開2019-2062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
各種スイッチ、接点、端子、コネクタ、リードフレーム等の電気・電子部品の表面被膜として用いられる銀または銀合金めっきには、近年、多様な特性が求められている。中でも、高温加熱後の変色、反射率の低下または上昇、及び接触電気抵抗値の増大が抑制されていることは各種用途にとって非常に重要な特性である。このような各特性を同時に満たす銀または銀合金めっきが施された金属材については、未だ改善の余地がある。
【0009】
このような問題に鑑み、本発明は、銀または銀合金めっきにおける高温加熱後の変色、反射率の低下または上昇、及び接触電気抵抗値の増大を抑制することが可能な、銀または銀合金めっきを施した金属材の表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、メルカプト基とスルホン酸基とを有する有機化合物と、所定の金属塩と、ヨウ化物とを含む表面処理液を用いて銀または銀合金めっきの表面に被膜を形成することで、上記効果が得られることを見出した。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は以下のように特定される。
[1]銀または銀合金めっきを施した金属材の表面処理方法であって、
メルカプト基とスルホン酸基とを有する有機化合物と、
アルミニウム塩、ジルコニウム塩、モリブデン酸塩またはバナジン酸塩と、
ヨウ化物と、
を水に溶解または分散させ、pHを7.0以下に調整した表面処理液、及び、銀または銀合金めっきを施した金属材を接触させて、前記銀または銀合金めっきの表面に被膜を形成する工程を含む、金属材の表面処理方法。
[2]前記アルミニウム塩が、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、または水酸化アルミニウムであり、前記ジルコニウム塩が、硫酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、または酢酸ジルコニウムであり、前記モリブデン酸塩が、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸アンモニウムであり、前記バナジン酸塩が、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸カリウム、またはオキシ硫酸バナジウムである、[1]に記載の金属材の表面処理方法。
[3]前記ヨウ化物が、ヨウ化ナトリウム、またはヨウ化カリウムである、[1]または[2]に記載の金属材の表面処理方法。
[4]前記表面処理液中の、前記メルカプト基とスルホン酸基とを有する有機化合物の濃度が、0.05~50.0g/Lである、[1]~[3]のいずれかに記載の金属材の表面処理方法。
[5]前記表面処理液中の、前記アルミニウム塩、ジルコニウム塩、モリブデン酸塩またはバナジン酸塩の濃度が、0.25~100.0g/Lである、[1]~[4]のいずれかに記載の金属材の表面処理方法。
[6]前記表面処理液中の、前記ヨウ化物の濃度が、0.005~2.0g/Lである、[1]~[5]のいずれかに記載の金属材の表面処理方法。
[7]前記金属材は、
(1)金属基材と、前記金属基材の表面に設けられた銀または銀合金めっきと、を有する、または、
(2)金属基材と、前記金属基材の表面に設けられた、銅、ニッケル、パラジウム、またはそれらの合金で構成された下地めっきと、前記下地めっきの表面に設けられた、銀または銀合金めっきと、を有する、
[1]~[6]のいずれかに記載の金属材の表面処理方法。
[8]前記金属材が、電気・電子部品である、[1]~[7]のいずれかに記載の金属材の表面処理方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、銀または銀合金めっきにおける高温加熱後の変色、反射率の低下または上昇、及び接触電気抵抗値の増大を抑制することが可能な、銀または銀合金めっきを施した金属材の表面処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<金属材>
本発明の実施形態に係る、処理対象となる金属材について説明する。金属材は、表面に銀または銀合金めっきが施された金属基材からなり、また、金属基材が表面に下地めっきを有し、当該下地めっきの表面に銀または銀合金めっきが施されていてもよい。
【0014】
金属基材としては、導電性を有している限り特に限定されず、例えば、アルミニウム及びアルミニウム合金、鉄及び鉄合金、チタン及びチタン合金、ステンレス、銅及び銅合金等を挙げることができるが、なかでも、電導性・熱伝導性・展延性に優れているという理由から、銅及び銅合金を用いることが好ましい。
【0015】
銀または銀合金めっきとしては、純銀のめっきであってもよく、銀と、銅、錫、ニッケル、コバルト、セレン、アンチモン、テルル及びビスマスから選択される1または2以上の金属元素との合金めっきであってもよい。
【0016】
下地めっきとしては、銅、ニッケル、パラジウム、またはそれらの合金で構成されているのが好ましい。
【0017】
<金属材の表面処理方法>
次に、本発明の実施形態に係る銀または銀合金めっきを施した金属材の表面処理方法について詳述する。
まず、表面処理液を準備する。表面処理液は、メルカプト基とスルホン酸基とを有する有機化合物と、アルミニウム塩、ジルコニウム塩、モリブデン酸塩またはバナジン酸塩と、ヨウ化物とを水に溶解または分散させることで作製する。
【0018】
表面処理液に含まれる有機化合物は、メルカプト基(-SH)及びスルホン酸基(-SO3 -)を有しており、銀または銀合金めっきの表面に被膜成分として含まれていることで、銀または銀合金めっきの耐熱性が良好となる。また、銀または銀合金めっきを加熱した後の結晶状態の変化を抑制することができ、その結果、銀または銀合金めっきが光沢めっきであれば光沢の低下(反射率の低下)を抑制し、無光沢めっきであれば光沢の上昇(反射率の上昇)を抑制し、さらに電気抵抗値の増大を抑制することができる。また、メルカプト基とスルホン酸基とを有する有機化合物は、水和物であってもよい。
【0019】
メルカプト基とスルホン酸基とを有する有機化合物の具体例としては、ジメルカプトプロパンスルホン酸、メルカプトメタンスルホン酸、2-メルカプトエタンスルホン酸、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、4-メルカプト-1-ブタンスルホン酸、5-メルカプトペンタン-1-スルホン酸、10-メルカプト-1-デカンスルホン酸、11-メルカプト-1-ウンデカンスルホン酸、12-メルカプトドデカン-1-スルホン酸ナトリウム、15-メルカプト-1-ペンタデカンスルホン酸、2-メルカプト-1-ペンタンスルホン酸、2-メルカプト-5-ベンズイミダゾールスルホン酸ナトリウム、3-メルカプトベンゼンメタンスルホン酸、4-メルカプトフェニルメタンスルホン酸、4-メルカプトベンゼンスルホン酸等が挙げられる。
【0020】
表面処理液中の、メルカプト基とスルホン酸基とを有する有機化合物の濃度は、0.05~50.0g/Lであるのが好ましい。メルカプト基とスルホン酸基とを有する有機化合物の濃度が50.0g/L超であると、処理ムラが出やすくなる。メルカプト基とスルホン酸基とを有する有機化合物の濃度が0.05g/L未満であると、加熱後の変色抑制効果が不十分となる。さらには、メルカプト基とスルホン酸基とを有する有機化合物の濃度は、0.1~10.0g/Lであるのがより好ましい。
【0021】
また、アルミニウム塩、ジルコニウム塩、モリブデン酸塩またはバナジン酸塩が銀または銀合金めっきの表面に被膜成分として含まれていることで、銀または銀合金めっきの耐熱性が良好となる。また、銀または銀合金めっきを加熱した後の結晶状態の変化を抑制することができ、その結果、銀または銀合金めっきが光沢めっきであれば光沢の低下(反射率の低下)を抑制し、無光沢めっきであれば光沢の上昇(反射率の上昇)を抑制し、さらに電気抵抗値の増大を抑制することができる。アルミニウム塩としては、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、または水酸化アルミニウム等が挙げられる。ジルコニウム塩としては、硫酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、または酢酸ジルコニウム等が挙げられる。モリブデン酸塩としては、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸アンモニウム等が挙げられる。バナジン酸塩としては、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸カリウム、またはオキシ硫酸バナジウム等が挙げられる。
【0022】
表面処理液中の、アルミニウム塩、ジルコニウム塩、モリブデン酸塩またはバナジン酸塩の濃度は、0.25~100.0g/Lであるのが好ましい。アルミニウム塩、ジルコニウム塩、モリブデン酸塩またはバナジン酸塩の濃度が100.0g/L超であると、処理ムラが出やすくなり、液安定性が悪くなる。アルミニウム塩、ジルコニウム塩、モリブデン酸塩またはバナジン酸塩の濃度が0.25g/L未満であると、加熱後の変色抑制効果が不十分となる。さらには、アルミニウム塩、ジルコニウム塩、モリブデン酸塩またはバナジン酸塩の濃度は、0.5~20.0g/Lであるのがより好ましい。
【0023】
また、ヨウ化物が銀または銀合金めっきの表面に被膜成分として含まれていることで、銀または銀合金めっきの耐熱性が良好となる。また、銀または銀合金めっきを加熱した後の表面の硫化を抑制することができ、その結果、銀または銀合金めっき表面の変色を抑制することができる。ヨウ化物としては、ヨウ化ナトリウム、またはヨウ化カリウム等が挙げられる。
【0024】
表面処理液中の、ヨウ化物の濃度は、0.005~2.0g/Lであるのが好ましい。ヨウ化物の濃度が2.0g/L超であると、処理後に黄変が生じやすくなる。ヨウ化物の濃度が0.005g/L未満であると、加熱後の硫化の抑制効果が低下する。さらには、ヨウ化物の濃度は、0.01~1.0g/Lであるのがより好ましい。
【0025】
メルカプト基とスルホン酸基とを有する有機化合物と、アルミニウム塩、ジルコニウム塩、モリブデン酸塩またはバナジン酸塩と、ヨウ化物とを水に溶解または分散させる方法は、特に限定されず公知の方法が用いられる。水は、イオン交換水(脱イオン水)、蒸留水等の純水の使用が好ましい。
【0026】
当該表面処理液を、pH7.0以下に調整し、銀または銀合金めっきを施した金属材を当該表面処理液と接触させて、前記銀または銀合金めっきの表面に被膜を形成する。具体的には、pHを7.0以下に調整した表面処理液中に、銀または銀合金めっきを施した金属材を所定時間浸漬させることで被膜を形成する。または、当該表面処理液を、銀または銀合金めっきを施した金属材の表面に所定時間噴霧することで被膜を形成する。表面処理液と金属材とを接触させて銀または銀合金めっきの表面に被膜を形成した後、水洗及び乾燥を行う。
【0027】
表面処理液のpHが7.0以下であるため、加熱後の変色抑制効果及び表面処理液の安定性が良好となる。また、表面処理液のpHは1~4であるのがより好ましい。
【0028】
表面処理液と金属材との接触時間は、表面処理液の濃度等によって適宜調整することができるが、良好に被膜を形成する観点から、10秒~5分であるのが好ましく、30秒~3分であるのがより好ましい。表面処理液の温度は20~60℃であるのが好ましい。表面処理液の温度が60℃超であると、水分が揮発しやすくなり濃度管理し難くなる。また、表面処理液の温度が20℃未満であると、処理時間が長くなり生産性が低下する。
【0029】
上述のように、本発明の実施形態に係る金属材の表面処理方法によれば、処理対象となる銀または銀合金めっきを施した金属材を、表面処理液と接触させる(表面処理液中に浸漬する、または、表面処理液を噴霧する等)のみで、銀または銀合金めっきの表面に所望の被膜を形成することができる。このため、製造方法の効率が良好となる。また、本発明の実施形態に係る金属材の表面処理方法によって、銀または銀合金めっきにおける高温加熱後の変色、反射率の低下または上昇、及び接触電気抵抗値の増大を抑制することができる。このため、各種スイッチ、接点、端子、コネクタ、リードフレーム等の種々の電気・電子部品の表面処理方法として非常に有用である。
【実施例0030】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0031】
<金属材の表面処理試験>
1.試験片の準備
縦×横×厚み=2.5cm×2.5cm×0.3mmの銅板(タフピッチ銅板:C1100P)に、下地めっきとして、公知の製法に基づきニッケルめっきを3μm形成し、さらにニッケルめっきの表面に公知の製法に基づき光沢銀めっきを5μm形成し、金属材とした。金属材の表面は水洗した。
【0032】
(実施例1~13の試験片)
次に、後述の表1に示す成分を有する表面処理液をそれぞれ準備した。当該表面処理液は、純水中に、既知の濃度の各成分を適切な量だけ添加して混合することで作製した。また、当該表面処理液は、塩酸を添加してpHを2.0に調製した。次に、当該表面処理液中に金属材を40℃で1分間浸漬した。表面処理液中のメルカプト基(-SH)及びスルホン酸基(-SO3 -)を有する有機化合物は、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、または、2-メルカプト-5-ベンズイミダゾールスルホン酸ナトリウム(二水和物)を用いた。
【0033】
続いて、表面処理液から金属材を取り出し、水洗及び乾燥することで、それぞれ銀めっきの表面に被膜が形成された実施例1~13に係る試験片とした。
【0034】
(比較例1の試験片)
6-アニリノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール溶液を超純水で希釈し、リン酸を用いてpHを6.0に調製し、表面処理液とした。また、表面処理液中の6-アニリノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール濃度は0.07g/Lであった。当該表面処理液の組成を後述の表2に示す。
次に、表面処理液に、金属材を常温で10分浸漬して、金属材を取り出し、水洗及び乾燥することで、銀めっきの表面に被膜が形成された比較例1に係る試験片とした。
【0035】
(比較例2の試験片)
トリアジン-2,4,6-トリチオール溶液を超純水で希釈し、ヨウ化カリウム、界面活性剤、溶解助剤を加え、さらにリン酸水素ナトリウムを用いてpHを5.5に調製し、表面処理液とした。また、表面処理液中のトリアジン-2,4,6-トリチオール濃度は0.1g/Lであり、ヨウ化カリウム濃度は10g/Lであり、リン酸水素ナトリウム濃度は0.1g/Lであった。また、界面活性剤はオレイルアルコールエトキシレートを用い、濃度を0.1g/Lとした。また、溶解助剤はブチルプロピレングリコールを用い、濃度を10g/Lとした。当該表面処理液の組成を後述の表2に示す。
次に、表面処理液に、金属材を40℃で40秒浸漬して、金属材を取り出し、水洗及び乾燥することで、銀めっきの表面に被膜が形成された比較例2に係る試験片とした。
【0036】
(比較例3、4の試験片)
後述の表2に示す成分を有する表面処理液をそれぞれ準備した。当該表面処理液は、純水中に、既知の濃度の各成分を適切な量だけ添加して混合することで作製した。また、当該表面処理液は、塩酸を添加してpHを2.0に調製した。次に、当該表面処理液中に金属材を40℃で1分間浸漬した。
続いて、表面処理液から金属材を取り出し、水洗及び乾燥することで、それぞれ銀めっきの表面に被膜が形成された比較例3、4に係る試験片とした。
【0037】
2.評価試験
(熱処理後の外観評価試験)
アズワン株式会社製、ハイパワーデジタルホットプレート「HP-01SA」を使用し、プレート部の温度が260℃になるように表面温度計で温度を測定し、プレート部に試験片を載せて30分間の熱処理を行った。
続いて、熱処理後の試験片の変色面積を目視で観察し、以下の基準で評価した。
A:変色面積が全体面積の20%未満
B:変色面積が全体面積の20%以上40%未満
C:変色面積が全体面積の40%以上
【0038】
(反射率評価試験)
日本電色工業株式会社製、デンシトメーター(反射濃度計)ND-11を使用し、熱処理前後の試験片表面の反射率を測定した。熱処理としては、上述したアズワン株式会社製、ハイパワーデジタルホットプレート「HP-01SA」を使用し、プレート部の温度が260℃になるように表面温度計で温度を測定し、プレート部に試験片を載せて10分間の熱処理を行った。
反射率の評価基準を以下に示す。
計算式:X=[(加熱後の反射率)/(加熱前の反射率)]×100(%)
A:Xが80%以上
B:Xが60%以上80%未満
C:Xが60%未満
【0039】
(硫化水素評価試験)
上述したアズワン株式会社製、ハイパワーデジタルホットプレート「HP-01SA」を使用し、プレート部の温度が260℃になるように表面温度計で温度を測定し、プレート部に試験片を載せて30分間の熱処理を行った。
続いて、試験片を硫化水素ガス3ppmの雰囲気下、40℃で4時間放置した。
続いて、試験片の変色面積を目視で観察し、以下の基準で評価した。
A:変色面積が全体面積の20%未満
B:変色面積が全体面積の20%以上40%未満
C:変色面積が全体面積の40%以上
【0040】
(接触電気抵抗評価試験)
上述した硫化水素評価試験後の試験片の接触電気抵抗を、株式会社山崎精機研究所製、電気接点シミュレーターCRS-1を使用し、直流電流10mA、荷重5gfで測定した。
接触電気抵抗の評価基準を以下に示す。
A:0.002Ω未満
C:0.002Ω以上
各評価結果を表1、2に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
(考察)
実施例1~13は、いずれもメルカプト基とスルホン酸基とを有する有機化合物と、アルミニウム塩、ジルコニウム塩、モリブデン酸塩またはバナジン酸塩と、ヨウ化物とを含む表面処理液によって銀めっきを施した金属材を処理したため、高温加熱後の変色、反射率の低下または上昇、及び接触電気抵抗値の増大を抑制することができた。
一方、比較例1、2は、表面処理液の有機化合物がスルホン酸基を有しておらず、高温加熱後の変色、反射率の低下または上昇、及び接触電気抵抗値の増大を抑制することができなかった。
比較例3は、表面処理液に所定の金属塩を含んでおらず、高温加熱後の変色、反射率の低下または上昇の抑制が、実施例1~13に比べて劣っていた。
比較例4は、表面処理液にメルカプト基とスルホン酸基とを有する有機化合物を含んでおらず、高温加熱後の変色、反射率の低下または上昇の抑制が、実施例1~13に比べて劣っていた。
【0044】
また、試験片として、上述の光沢銀めっきの代わりに、公知の製法に基づいて無光沢銀めっきを形成することで金属材とした以外は、実施例1~7と同様にして試験を実施したところ、いずれも熱処理後の外観評価試験:A、反射率評価試験:A、硫化水素評価試験:A、接触電気抵抗評価試験:Aの評価を得た。このため、本発明に係る金属材の表面処理方法は、光沢銀めっき及び無光沢銀めっきのいずれにも有効であることがわかった。