(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035691
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】洗濯機
(51)【国際特許分類】
D06F 37/12 20060101AFI20230306BHJP
【FI】
D06F37/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142728
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】512128645
【氏名又は名称】青島海爾洗衣机有限公司
【氏名又は名称原語表記】QINGDAO HAIER WASHING MACHINE CO.,LTD.
(71)【出願人】
【識別番号】307036856
【氏名又は名称】アクア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 雅直
(74)【代理人】
【識別番号】100129377
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬川 耕司
(72)【発明者】
【氏名】川口 智也
(72)【発明者】
【氏名】永井 孝之
【テーマコード(参考)】
3B165
【Fターム(参考)】
3B165AA15
3B165AE02
3B165BA08
3B165BA24
3B165CA01
3B165CB01
3B165CB31
3B165CB44
3B165CB47
3B165CB55
3B165CB59
3B165CE01
3B165DW05
3B165GA02
3B165GA12
3B165GA25
3B165JM02
(57)【要約】
【課題】脱水槽内の容積が小さくなる問題及び洗濯物が傷む問題を解消する。
【解決手段】本発明の洗濯機は、外槽内に配置された脱水槽と、脱水槽の内周面に対して周方向に等間隔で配置される3つ以上の注水部と、注水部の各々に調整水を注水可能な注水装置とを備え、注水部8の内部には、脱水槽の下部において注水部の外壁部から径方向内側に向かって突出する第1水受け板と、脱水槽の上部において注水部の外壁部から径方向内側に向かって突出する第2水受け板とが設けられており、第2水受け板の突出量は、第1水受け板の突出量よりも小さい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外槽内に配置された脱水槽と、
前記脱水槽の内周面または外周面に対して周方向に等間隔で配置される3つ以上の注水部と、
前記注水部の各々に調整水を注水可能な注水装置とを備え、
前記注水部の内部には、
前記脱水槽の下部において当該注水部の外壁部から径方向内側に向かって突出する第1水受け板と、
前記脱水槽の上部において当該注水部の外壁部から径方向内側に向かって突出する第2水受け板とが設けられており、
前記第2水受け板の突出量は、前記第1水受け板の突出量よりも小さいことを特徴とする洗濯機。
【請求項2】
前記注水部の内部には、高さ方向について前記第1水受け板と前記第2水受け板との間に配置された1または複数の第3水受け板が設けられており、
前記第1水受け板、前記第2水受け板及び前記第3水受け板は、それらの突出量が下方から上方にいくにつれて小さくなるように設けられることを特徴とする請求項1に記載の洗濯機。
【請求項3】
前記注水部が、前記脱水槽の外側に形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯脱水槽の回転を継続したまま洗濯脱水槽のアンバランスを解消して、脱水時における洗濯脱水槽の偏心による振動や騒音を抑制可能な洗濯機に関する。
【0002】
従来より、洗濯脱水槽の内周面において周方向に等間隔に配置されたバッフルを有する洗濯機がある(例えば、特許文献1参照)。各バッフルは、洗濯脱水槽の底部から上端部に亘って上下方向に延びるように形成される。バッフルの下端部に、洗濯脱水槽の底部近傍で開口する開口部が形成され、バッフルの上端部に、循環水口が形成される。そのため、洗い工程では、パルセータの下羽根部で撹拌された洗濯水が開口部より浸入してバッフル内をかけあがり、循環水口より吐出され、衣類がシャワー洗いされる。
【0003】
洗濯機では、洗い工程の後で脱水工程が行われるのが一般的であるが、脱水時に洗濯物の偏りが大きい場合、回転時の洗濯脱水槽の偏心が大きくなり、回転に大きなトルクが必要となるので脱水運転を開始することができない。そこで、特許文献1には、脱水時に洗濯脱水槽内の衣類のアンバランス量およびアンバランス位置を検出し、アンバランスがある場合には、洗濯脱水槽の周方向に均等に複数設けられたバッフルへの注水を行うことにより洗濯脱水槽のアンバランス状態を積極的に解消しようとする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の洗濯機において、バッフルは、洗濯脱水槽の内周面から内側に向かって突出するように形成され、洗濯脱水槽のアンバランス状態を解消するために調整水が注水される注水管としての役割も有している。そのため、バッフルの内部にその外壁部から径方向内側に向かって突出する水受け板が形成される。洗濯脱水槽が回転した状態でバッフル内に調整水が注水されると、調整水は、遠心力によりバッフルの外壁部に貼りついて水受け板により下方に流れないように保持される。
【0006】
ここで、洗濯脱水槽の上部近傍にある偏芯荷重によるアンバランスがある状態で洗濯脱水槽の回転数が共振回転数を通過する際に、そのアンバランスを解消するために偏芯荷重に対向するバッフル内に調整水が注水される場合を考える。
【0007】
図12(a)に示すように、洗濯脱水槽502の回転数が比較的低い共振通過時においてバッフル506内に調整水が注水されると、調整水は、遠心力によりバッフル506の外壁部に貼りついて水受け板516の上方に保持される。そのとき、調整水の水面位置は、調整水に作用する重力と遠心力との合力で決まるため、水受け板516の上面と水面との角度θ(水面の水平線に対する角度θ)は、洗濯脱水槽502の回転数に応じて変化する。洗濯脱水槽502の回転数が比較的低いときには、上記角度θが比較的小さくなり、調整水の重心位置が低くモーメントが小さいため、洗濯脱水槽502の上部にあるモーメントの大きな偏芯荷重を打ち消すことができず、脱水を立ち上げることができない場合がある。なお、
図12において、上記角度θは、洗濯脱水槽502の回転数が比較的低い所定回転数に対応した角度θを示している。
【0008】
そのため、バッフル506を洗濯脱水槽502の内周面に形成する場合、
図12(b)に示すように、バッフル506の内壁部の下端近傍の突出量を上端近傍の突出量よりも大きくして、水受け板516の径方向に沿う高さを高くする必要がある。すると、洗濯脱水槽502の回転数が比較的低い共振通過時においてバッフル506内に調整水が注水されたときに、上記角度θが比較的小さくても、調整水の重心位置が高くなりモーメントが大きいため、洗濯脱水槽502の上部にあるモーメントの大きな偏芯荷重を打ち消すことができて、脱水を適正に立ち上げることができる。
【0009】
このように、水受け板516の高さを高くするために、バッフル506の内壁部の下端近傍の突出量を上端近傍の突出量よりも大きくする必要があるが、その場合、洗濯脱水槽502内の容積が小さくなるとともに、洗い工程で洗濯物が洗濯脱水槽502内を回転する際に、洗濯脱水槽502内のバッフル506に引っ掛かって洗濯物が傷みやすい問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、脱水槽内の容積が小さくなる問題及び洗濯物が傷む問題を解消しつつ、脱水槽の上部近傍にある偏芯荷重によるアンバランスがある状態でも脱水を適正に立ち上げることが可能な洗濯機を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る洗濯機は、外槽内に配置された脱水槽と、前記脱水槽の内周面または外周面に対して周方向に等間隔で配置される3つ以上の注水部と、前記注水部の各々に調整水を注水可能な注水装置とを備え、前記注水部の内部には、前記脱水槽の下部において当該注水部の外壁部から径方向内側に向かって突出する第1水受け板と、前記脱水槽の上部において当該注水部の外壁部から径方向内側に向かって突出する第2水受け板とが設けられており、前記第2水受け板の突出量は、前記第1水受け板の突出量よりも小さいことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る洗濯機において、前記注水部の内部には、高さ方向について前記第1水受け板と前記第2水受け板との間に配置された1または複数の第3水受け板が設けられており、前記第1水受け板、前記第2水受け板及び前記第3水受け板は、それらの突出量が下方から上方にいくにつれて小さくなるように設けられることが好適である。
【0013】
本発明に係る洗濯機において、前記注水部が、前記脱水槽の外側に形成されることが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、各注水部内の第1水受け板より上方に第2水受け板が設けられており、各注水部に注水された調整水は、まず第2水受け板の上方に保持されるようになる。そのため、脱水槽の回転数が比較的低い共振通過時において、注水部に注水された調整水の重心位置が高くなりモーメントが大きいため、脱水槽上部にあるモーメントの大きな偏芯荷重がある場合でも、その偏芯荷重を打ち消すことができて、脱水を適正に立ち上げることができる。これにより、脱水を適正に立ち上げるために、脱水槽の内周面に設けた注水部の内壁部の下端近傍の突出量を上端近傍の突出量よりも大きくする必要が無くなり、脱水槽内の容積が小さくなるのを抑制できるとともに、洗い工程において注水部が脱水槽内の洗濯物に引っ掛かって洗濯物が傷むのを抑制できる。
【0015】
本発明によれば、各注水部に注水される調整水の量を調整することにより、脱水槽上部にある偏芯荷重の位置に応じて調整水の重心位置の高さを変化させることができる。
【0016】
本発明によれば、調整水が注水される注水部が脱水槽の外側に配置されるため、注水部が脱水槽の内周面に形成される場合と比べて、脱水槽の投入口が大きくなり且つ脱水槽内の容積が大きくなるとともに、洗い工程で脱水槽が回転する際に注水部が脱水槽内の洗濯物に引っ掛かって洗濯物が傷むのを防止できる。また、耐久性と清潔性を高めたステンレス脱水槽を採用した場合でも、注水部が脱水槽の内周面に形成される場合のように脱水槽の内周面の大部分が注水部により隠れることがないため、脱水槽の内周面の全体を清潔に維持することができる。また、調整水が各注水部に注水された際に、注水部が脱水槽の内周面に形成される場合と比べて、注水部と脱水槽の回転軸との距離が大きくなる。そのため、注水部内の調整水に作用する遠心力が大きくなり、偏芯荷重を効果的に打ち消すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る洗濯機1の外観を示す斜視図である。
【
図5】注水部8内に注水された調整水が保持される状態を示す図である。
【
図6】
図6(a)は、脱水槽2の上部にある偏芯荷重を打ち消すために注水部8内に注水された調整水の状態を示す図であり、
図6(b)は、脱水槽2の下部にある偏芯荷重を打ち消すために注水部8内に注水された調整水の状態を示す図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係る洗濯機101の構成を示す模式図である。
【
図9】
図7の洗濯機101の内部の縦断面図である。
【
図10】第1水受け板116及び第2水受け板118により注水部108内に注水された調整水が保持される状態を示す図である。
【
図11】本発明の第1実施形態の変形例に係る洗濯機201において注水部8内に注水された調整水が保持される状態を示す図である。
【
図12】従来の洗濯機502に設けられた水受け板516を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態の洗濯機について、図に基づいて詳細に説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係る縦型の洗濯機1の外観を示す斜視図である。
図2は、本実施形態の洗濯機1の構成を示す模式図である。
図3は、本実施形態の洗濯機1の内部の上面図であり、
図4は、洗濯機1の内部の縦断面図である。
【0020】
本実施形態の洗濯機1は、洗濯機本体1aと、脱水槽2と、外槽3と、注水装置30と、駆動部50とを備える。
【0021】
図1に示す洗濯機本体1aは、略直方体形状である。洗濯機本体1aの上面には、洗濯脱水槽2に対して洗濯物を出し入れするための開口11が形成されるとともに、この開口11を開閉可能な開閉蓋11aが取り付けられる。
【0022】
外槽3は、洗濯機本体1aの内部に配置された有底筒状の部材であり、内部に洗濯水を貯留可能である。外槽3の底面には、排水配管3nが接続される。
図2に示すように、外槽3の外周面3aには、水平と垂直の2方向の加速度を検出可能な加速度センサ58が取り付けられる。本実施形態では、加速度センサ58により外槽3の加速度が検出されるが、洗濯脱水槽2の加速度は、外槽3の加速度と略同一であるとする。
【0023】
脱水槽2は、洗濯槽を兼ねるものであり、外槽3内において外槽3と同軸に配置されるとともに、回転自在に支持される有底筒状の部材である。脱水槽2は、内部に洗濯物を収容可能で、その壁面に多数の通水孔2t(
図4参照)を有する。
【0024】
このような脱水槽2の底部2c中央には、パルセータ(撹拌翼)4が回転自在に配置される。
図2に示すように、パルセータ4は、略円盤形状のパルセータ本体4aと、パルセータ本体4aの上面に形成される複数の上羽根部4bと、パルセータ本体4aの下面に形成される複数の下羽根部4cとを有する。このようなパルセータ4は、外槽3内に貯留された洗濯水を撹拌して水流を発生させる。
【0025】
注水装置30は、後述する3つの注水部8に個別に調整水を注水するものである。注水装置30は、3つの注水部8にそれぞれ接続された3本の注水ホース30aを有し、注水ホース30aには、給水バルブ31aがそれぞれ配置される。注水ホース30aは、3つの注水部10と同数だけ設けられ、3つの注水部10と連通する受水リングユニット5の上方に配置される。本実施形態では、調整水として水道水が用いられる。
【0026】
受水リングユニット5は、
図2に示すように、上方に向けて開放された環状の導水樋5a,5b,5cを有しており、脱水槽2の上端部に固定される。導水樋5a,5b,5cは、径方向に三層重層されて構成されており、単独で何れかの注水部8に調整水を流せるように形成される。
【0027】
図2に示す駆動部50は、モータ51によりプーリー52およびベルト53を回転させるとともに、脱水槽2の底部2cに向けて延出する駆動軸54を回転させて、脱水槽2やパルセータ4に駆動力を与え、脱水槽2やパルセータ4を回転させる。洗濯機1は、洗い工程では主としてパルセータ4のみを回転させ、脱水工程では脱水槽2とパルセータ4とを一体的に高速で回転させる。また、一方のプーリー53の近傍には、プーリー52に形成されたマーク52aの通過を検出できる近接スイッチ55が設けられる。
【0028】
脱水槽2の内周面2aには、
図3に示すように、脱水工程において脱水槽2のアンバランス状態を解消するために調整水が注水される注水部8が3つ設けられる。注水部8は、脱水槽2の外周面2bに周方向に等間隔(等角度)で設けられる。各注水部8は、中空状であり、横断面形状が円弧状に形成される。
【0029】
各注水部8の上端には、調整水を注水するための注水管8aが取り付けけられており、注水管8aは、受水リングユニット5の導水樋5a,5b,5cの何れかに接続される。
【0030】
注水部8の内部には、
図4に示すように、その外壁部から径方向内側に向かって突出する第1水受け板16及び第2水受け板18が設けられる。第1水受け板16及び第2水受け板18は何れも、その左右方向の全体にわたって同一幅の板状部材であり、注水部8の左右方向の全体にわたって円弧状に湾曲している。第1水受け板16及び第2水受け板18は、その上面が略水平となるようにそれぞれ形成される。
【0031】
第1水受け板16は、脱水槽2の下部において注水部8の外壁部から径方向内側に向かって突出しており、第2水受け板18は、脱水槽2の上部(詳しくは、上下方向中央部近傍)において注水部8の外壁部から径方向内側に向かって突出する。
【0032】
本実施形態において、「脱水槽2の下部」とは、脱水槽2の下端部から脱水槽2の上下方向中央部までの範囲を意味し、「脱水槽2の上部」とは、脱水槽2の上下方向中央部から脱水槽2の上端部までの範囲を意味する。なお、脱水槽2の上下方向中央部は、「脱水槽2の上部」に含まれる。
【0033】
このように、第1水受け板16及び第2水受け板18は、注水部8の内部において外壁部から内側に向かって突出するが、第1水受け板16の突出量(径方向長さ)は、注水部8の径方向長さ(内周側壁の突出量)よりも小さい。そのため、注水部8の下端部において、第1水受け板16の先端(径方向内側端部)と注水部8の内壁部との間には、
図5(a)に示すように、第1空隙16aが形成され、注水部8の内部の第1水受け板16より上方にある調整水は、その第1空隙16aを介して第1水受け板16より下方に流れる。
【0034】
また、第2水受け板18の突出量(径方向長さ)は、第1水受け板16の突出量(径方向長さ)よりも小さい。そのため、注水部8の上下方向中央部近傍において、第2水受け板18の先端(径方向内側端部)と注水部8の内壁部との間には、
図5(b)に示すように、第2空隙18aが形成され、注水部8の内部の第2水受け板18より上方にある調整水は、その第2空隙18aを介して水受け板18より下方に流れる。
【0035】
そのため、脱水工程において脱水槽2が比較的低い回転数で回転している状態で、調整水が注水部8に注水されると、
図5(a)に示すように、調整水は、遠心力により注水部8の外壁部に貼りつくため、まず、調整水が注水部8内の第2水受け板18より上方に保持される。なお、
図5において、水受け板16,18の上面と水面との角度θ(水面の水平線に対する角度θ)は、脱水槽2の回転数が比較的低い所定回転数に対応した角度θ(ただし、0<θ<90°)を示している。
【0036】
その後、さらに調整水が注水部8に注水されると、
図5(b)に示すように、注水部8内の第2水受け板18より上方に保持可能な水量を超えるため、調整水は、第2空隙18aを介して水受け板18より下方に流れて、調整水が、注水部8内の第2水受け板18より上方に保持されるとともに、注水部8内の第1水受け板16より上方にも保持されるようになる。
【0037】
このように、脱水槽2の回転数が比較的低い共振通過時において、
図6(a)に示すように、脱水槽2の上部に偏芯荷重がある場合、注水部8に注水された比較的少ない量の調整水は、注水部8内の第2水受け板18より上方に保持されるため、注水部8に注水された調整水の重心位置Tが高くなりモーメントが大きくなる。これにより、脱水槽2の上部にあるモーメントの大きな偏芯荷重がある場合でも、その偏芯荷重を打ち消すことができる。
【0038】
これに対して、脱水槽2の回転数が比較的低い共振通過時において、
図6(b)に示すように、脱水槽2の下部に偏芯荷重がある場合、注水部8に注水された比較的多い量の調整水は、注水部8内の第2水受け板18より上方に保持されるとともに、注水部8内の第1水受け板16より上方に保持される。
【0039】
その場合、注水部8に注水された調整水全体の重心位置Tは、注水部8内の第2水受け板18より上方に保持される調整水の重心位置Taと、注水部8内の第1水受け板16より上方に保持される調整水の重心位置Tbとの間に配置される。そのため、
図6(a)に示すように調整水が注水部8内の第2水受け板18より上方のみに保持される場合と比べて、調整水全体の重心位置Tが低くなる。これにより、脱水槽2の下部に偏芯荷重がある場合でも、その偏芯荷重を打ち消すことができる。なお、脱水槽2の偏芯荷重がある高さに応じて、注水部8に注水される調整水の量を調整することにより、注水部8内の調整水全体の重心位置Tの高さを調整することも考えられる。
【0040】
これに対して、脱水工程において脱水槽2の回転数が小さくなると遠心力が小さくなると、第1水受け板16または第2水受け板18の上方に保持されていた調整水は、注水部8の外周側壁に貼り付かなくなり、第1水受け板16の先端と注水部8の内壁部との間の第1空隙16aまたは第2水受け板18の先端と注水部8の内壁部との間の第2空隙18aを介して下方に向かって流れる。
【0041】
本実施形態の洗濯機1では、近接スイッチ55がマーカー52a(
図2参照)を検知すると、加速度センサ58からの水平方向と垂直方向の加速度の大きさからアンバランス量が算出されるとともに、加速度センサ58からの水平方向と垂直方向の加速度を示す信号と近接スイッチ55から入力されたマーカー52aの位置を示す信号からアンバランス方向の角度を算出する。
【0042】
アンバランス量とアンバランス位置を示す信号に基づいて、脱水槽2内の何れの注水部8に給水を行うかおよびその給水量を予め格納される制御プログラムに基づいて判断する。なお、脱水槽2内の何れの注水部8に給水を行うかについては、脱水槽2内においてアンバランスの要因となっている洗濯物の塊がある位置と対向する位置にある注水部8が選定される。そして選定した注水部8に接続された給水バルブ31aを開き、調整水の注水を行い、注水部8によりアンバランスが解消されたとき、調整水の注水を停止する。
【0043】
以上説明したように本実施形態の洗濯機1は、外槽3内に配置された脱水槽2と、脱水槽2の内周面2aに対して周方向に等間隔で配置される3つ以上の注水部8と、注水部8の各々に調整水を注水可能な注水装置30とを備え、注水部8の内部には、脱水槽2の下部において注水部8の外壁部から径方向内側に向かって突出する第1水受け板16と、脱水槽2の上部において注水部8の外壁部から径方向内側に向かって突出する第2水受け板18とが設けられており、第2水受け板18の突出量は、第1水受け板16の突出量よりも小さい。
【0044】
このような構成であると、各注水部8内の第1水受け板16より上方に第2水受け板18が設けられており、各注水部8に注水された調整水は、まず第2水受け板18の上方に保持されるようになる。そのため、脱水槽2の回転数が比較的低い共振通過時において、注水部8に注水された調整水の重心位置が高くなりモーメントが大きいため、脱水槽2の上部にあるモーメントの大きな偏芯荷重がある場合でも、その偏芯荷重を打ち消すことができて、脱水を適正に立ち上げることができる。これにより、脱水を適正に立ち上げるために、脱水槽2の内周面2aに設けた注水部8の内壁部の下端近傍の突出量を上端近傍の突出量よりも大きくする必要が無くなり、脱水槽2内の容積が小さくなるのを抑制できるとともに、洗い工程において注水部8が脱水槽2内の洗濯物に引っ掛かって洗濯物が傷むのを抑制できる。
【0045】
(第2実施形態)
本実施形態の洗濯機101が、第1実施形態の洗濯機1と異なる点は、第1実施形態では、注水部8が脱水槽2の内側に設けられるのに対して、本実施形態では、注水部108が脱水槽102の外側に設けられる点である。なお、本実施形態の洗濯機101の構成で、第1実施形態の洗濯機1の構成と同様である部分については、詳細な説明を省略する。
【0046】
図7は本発明の第2実施形態に係る縦型の洗濯機101の構成を示す模式図である。
図8は、本実施形態の洗濯機101の内部の上面図であり、
図9は、洗濯機101の内部の縦断面図である。
【0047】
本実施形態の洗濯機101において、
図8及び
図9に示すように、脱水槽102の内周面102aには、周方向に等間隔(等角度)でバッフル106が3つ設けられる。各バッフル106は、中空状であり、横断面形状が円弧状に形成される。各バッフル106は、
図7に示すように脱水槽102の底部102cから上端部に亘って上下方向に延び、脱水槽102の内周面102aから脱水槽102の回転軸S1に向けて突出して形成される。バッフル106の上端部には、横長の循環水口106aが形成される。
【0048】
また、バッフル106の下端部には、脱水槽102の底部102c近傍、より具体的にはパルセータ本体4aよりも下方で開口する開口部106cが形成される。各バッフル106は、洗い工程においてパルセータ4の下羽根部4cで撹拌された洗濯水を脱水槽102の上端部に向かって通過させて循環水口106aから吐出する。
【0049】
また、脱水槽102の外周面102bには、
図8に示すように、脱水工程において脱水槽102のアンバランス状態を解消するために調整水が注水される注水部108が3つ設けられる。注水部108は、脱水槽102の外周面102bに周方向に等間隔(等角度)で設けられる。各注水部108は、中空状であり、横断面形状が円弧状に形成される。注水部108の周方向中央部は、バッフル106の周方向中央部の径方向外側に配置される。各注水部108と各バッフル106とは、別々の空間として形成される。なお、具体的には、その内側面が開放されたカバー部材が脱水槽102の外周面に取り付けられることにより、注水部8は、カバー部材の内周面と脱水槽102の外周面2bとの間に形成される。
【0050】
注水部108の内部には、
図9に示すように、その外壁部から径方向内側に向かって突出する第1水受け板116及び第2水受け板118が設けられる。第1水受け板116及び第2水受け板118は何れも、その左右方向の全体にわたって同一幅の板状部材であり、注水部108の左右方向の全体にわたって円弧状に湾曲している。第1水受け板116及び第2水受け板118は、その上面が略水平となるようにそれぞれ形成される。
【0051】
第1水受け板116は、脱水槽102の下部において注水部108の外壁部から径方向内側に向かって突出しており、第2水受け板118は、脱水槽102の上部(詳しくは、上下方向中央部近傍)において注水部108の外壁部から径方向内側に向かって突出する。
【0052】
このように、第1水受け板116及び第2水受け板118は、注水部108の内部において外壁部から内側に向かって突出するが、第1水受け板116の突出量(径方向長さ)は、注水部108の径方向長さよりも小さい。そのため、注水部108の下端部において、第1水受け板116の先端(径方向内側端部)と注水部108の内壁部との間には、
図10(a)に示すように、第1空隙116aが形成され、注水部108の内部の第1水受け板116より上方にある調整水は、その第1空隙116aを介して第1水受け板116より下方に流れる。
【0053】
また、第2水受け板118の突出量(径方向長さ)は、第1水受け板116の突出量(径方向長さ)よりも小さい。そのため、注水部108の上下方向中央部近傍において、第2水受け板118の先端(径方向内側端部)と注水部108の内壁部との間には、
図10(b)に示すように、第2空隙118aが形成され、注水部108の内部の第2水受け板118より上方にある調整水は、その第2空隙118aを介して水受け板118より下方に流れる。
【0054】
このように、注水部108に注水された調整水は、まず、注水部108内の第2水受け板118より上方に保持されるため、脱水槽102の回転数が比較的低い共振通過時において、注水部108に注水された調整水の重心位置が高くなりモーメントが大きくなる。これにより、脱水槽102の上部にあるモーメントの大きな偏芯荷重がある場合でも、その偏芯荷重を打ち消すことができる。なお、
図10において、水受け板116,118の上面と水面との角度θ(水面の水平線に対する角度θ)は、脱水槽102の回転数が比較的低い所定回転数に対応した角度θを示している。
【0055】
以上説明したように本実施形態の洗濯機101は、外槽3内に配置された脱水槽102と、脱水槽102の外周面2bに対して周方向に等間隔で配置される3つ以上の注水部108と、注水部108の各々に調整水を注水可能な注水装置30とを備え、注水部108の内部には、脱水槽102の下部において注水部108の外壁部から径方向内側に向かって突出する第1水受け板116と、脱水槽102の上部において注水部108の外壁部から径方向内側に向かって突出する第2水受け板118とが設けられており、第2水受け板118の突出量は、第1水受け板116の突出量よりも小さい。
【0056】
本実施形態の洗濯機101では、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0057】
本実施形態の洗濯機101において、注水部108が、脱水槽102の外側に形成される。
【0058】
このような構成であると、調整水が注水される注水部108が脱水槽102の外側に配置されるため、注水部108が脱水槽102の内周面102aに形成される場合と比べて、脱水槽102の投入口が大きくなり且つ脱水槽102内の容積が大きくなるとともに、洗い工程で脱水槽102が回転する際に注水部108が脱水槽102内の洗濯物に引っ掛かって洗濯物が傷むのを防止できる。また、耐久性と清潔性を高めたステンレス脱水槽を採用した場合でも、注水部108が脱水槽102の内周面102aに形成される場合のように脱水槽102の内周面102aの大部分が注水部108により隠れることがないため、脱水槽102の内周面102aの全体を清潔に維持することができる。また、調整水が各注水部108に注水された際に、注水部108が脱水槽102の内周面102aに形成される場合と比べて、注水部108と脱水槽102の回転軸との距離が大きくなる。そのため、注水部108内の調整水に作用する遠心力が大きくなり、偏芯荷重を効果的に打ち消すことができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本実施形態の構成は上述したものに限定されず、種々の変形が可能である。
【0060】
上記第1実施形態では、注水部8の内部に、脱水槽2の下部に配置された第1水受け板16と、脱水槽2の上部に配置された第2水受け板18とが設けられるが、それに限られない。例えば、注水部8の内部に、3つ以上の水受け板が設けられてもよい。その点は、上記第2実施形態についても同様である。
【0061】
上記第1実施形態では、第1水受け板16及び第2水受け板18は何れも、その左右方向の全体にわたって同一幅の板状部材であるが、それに限られない。第1水受け板16及び第2水受け板18の形状は、それらの上方に調整水を保持可能な形状であればよい。また、第1水受け板16及び第2水受け板18の配置(脱水槽2の高さ方向の何れの高さに配置されるか)は、任意である。
【0062】
第1実施形態の変形例に係る洗濯機201は、
図11に示すように、例えば注水部8の内部に、高さ方向について第1水受け板16と第2水受け板18との間に配置された第3水受け板218が設けられている。第3水受け板218の突出量(径方向長さ)は、第1水受け板16の突出量(径方向長さ)よりも小さいとともに、第2水受け板18の突出量(径方向長さ)は、第3水受け板218の突出量(径方向長さ)よりも小さい。
【0063】
上記第1実施形態の変形例に係る洗濯機201において、注水部8の内部には、高さ方向について第1水受け板16と第2水受け板18との間に配置された第3水受け板218が設けられており、それらの突出量が下方から上方にいくにつれて小さくなるように設けられる。
【0064】
このような構成であると、各注水部8に注水される調整水の量を調整することにより、脱水槽2の上部にある偏芯荷重の位置に応じて調整水の重心位置の高さを変化させることができる。
【0065】
また、上記変形例において、高さ方向について第1水受け板16と第2水受け板18との間に配置された第3水受け板218が複数設けられており、第1水受け板16、第2水受け板18及び複数の第3水受け板218は、それらの突出量が下方から上方にいくにつれて小さくなるように設けられていてもよい。その点は、上記第2実施形態についても同様である。
【0066】
上記第1実施形態では、脱水槽2の内側に、脱水槽2の内側に設けられた3つの注水部8が設けられているが、それに限られない。脱水槽2の内側に設けられる注水部8の数は任意である。また、脱水槽2の内側に設けられた3つの注水部8が、上記第2実施形態のバッフル106と同様の構成を兼用するように設けられてもよい。
【0067】
上記第2実施形態では、脱水槽102の外側に、脱水槽102の内側に設けられた3つのバッフル106と同数の3つの注水部108が設けられているが、それに限られない。脱水槽102の外側に設けられる注水部108の数は任意である。また、注水部108は、その左右方向中央部がバッフル106の左右方向中央部の径方向外側に配置されているが、注水部108及びバッフル106の位置は任意である。注水部108の数とバッフル106の数とは異なってもよい。また、バッフル106が設けられてない脱水槽102の外側に、注水部108が設けられてもよい。その点は、上記第2実施形態についても同様である。
【0068】
上記第2実施形態では、その内側面が開放されたカバー部材が脱水槽102の外周面に取り付けられることにより、注水部108がカバー部材の内周面と脱水槽102の外周面102bとの間に形成されるが、それらに限られない。例えば、箱状のカバー部材が脱水槽102の外周面に取り付けられることにより、注水部108が脱水槽102の外側に設けられてもよい。その場合、上記第2実施形態と同様に、注水部108の内部に、第1水受け板116及び第2水受け板118が設けられてもよい。
【0069】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 洗濯機
2 脱水槽
2a 脱水槽の内周面
3 外槽
8 注水部
16 第1水受け板
18 第2水受け板
30 注水装置
101 洗濯機
102 脱水槽
102b 脱水槽の外周面
108 注水部
116 第1水受け板
118 第2水受け板
201 洗濯機
218 第3水受け板