(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035698
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】水洗式便器
(51)【国際特許分類】
E03D 5/10 20060101AFI20230306BHJP
E03D 11/02 20060101ALI20230306BHJP
E03D 9/00 20060101ALI20230306BHJP
E03D 9/08 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
E03D5/10
E03D11/02 Z
E03D9/00 Z
E03D9/08 Z
E03D9/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142736
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳田 真希
【テーマコード(参考)】
2D038
2D039
【Fターム(参考)】
2D038AA03
2D038GA00
2D038KA11
2D038KA14
2D038KA22
2D039AA01
2D039BA05
2D039DB00
2D039FC00
2D039FD01
(57)【要約】
【課題】 温水の洗浄水が供給される場合に、便鉢の急激な温度変化を抑制する技術を提供する。
【解決手段】 水洗式便器は、便鉢を有する便器本体と、特定温度の洗浄水を前記便鉢表面に供給する供給部と、前記特定温度の前記洗浄水が前記便鉢に供給される前に、便鉢表面を、前記便鉢表面の表面温度よりも高く前記特定温度よりも低い温度に加熱する加熱部と、を備えていてもよい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
便鉢を有する便器本体と、
特定温度の洗浄水を便鉢表面に供給する供給部と、
前記特定温度の前記洗浄水が前記便鉢に供給される前に、前記便鉢表面を、前記便鉢表面の表面温度よりも高く前記特定温度よりも低い温度に加熱する加熱部と、を備える、水洗式便器。
【請求項2】
前記加熱部は、前記表面温度と前記特定温度との間の複数の温度の水を、温度が徐々に上昇するように前記便鉢表面に供給することによって、前記便鉢表面を加熱する、請求項1に記載する水洗式便器。
【請求項3】
前記供給部は、前記便器本体の上端周縁から前記洗浄水を前記便鉢表面に供給し、
前記加熱部は、前記供給部から前記表面温度と前記特定温度との間の温度の水を前記便鉢表面に供給することによって、前記便鉢表面を加熱する、請求項1から2のいずれか一項に記載する水洗式便器。
【請求項4】
前記加熱部は、前記便鉢表面に水を射出するノズルを備え、前記ノズルから前記表面温度と前記特定温度との間の温度の水を前記便鉢表面に射出することによって、前記便鉢表面を加熱する、請求項1から3のいずれか一項に記載する水洗式便器。
【請求項5】
前記加熱部は、前記便鉢表面に空気を送る送風部を備え、前記送風部から前記表面温度と前記特定温度との間の温度の空気を吹きかけることによって、前記便鉢表面を加熱する、請求項1から4のいずれか一項に記載する水洗式便器。
【請求項6】
便鉢を有する便器本体と、
第1温度の洗浄水を便鉢表面に供給する供給部と、
前記便鉢表面を加熱する加熱部と、
前記供給部と前記加熱部とを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記加熱部に、前記便鉢表面の温度に関連する第2温度と前記第1温度との間の温度に、前記便鉢表面を加熱するように、前記第2温度より高い熱媒体を前記便鉢表面に供給させ、
前記熱媒体の供給後に、前記供給部に、前記第1温度の前記洗浄水を前記便鉢表面に供給させる、水洗式便器。
【請求項7】
前記水洗式便器は、前記便鉢内の溜水の水位を低下させる水位調整部を、さらに備え、
前記制御部は、
前記水位調整部に、前記溜水の水位を低下させ、
前記水位の低下後に、前記加熱部によって、前記熱媒体を前記便鉢表面に供給させる、請求項6に記載の水洗式便器。
【請求項8】
前記制御部は、前記第1温度の前記洗浄水を前記便鉢表面に供給させた後、前記加熱部に、前記第1温度と前記第2温度との間の温度に、前記便鉢表面を冷却するように、前記第1温度未満の熱媒体を前記便鉢表面に供給させる、請求項6から7のいずれか一項に記載の水洗式便器。
【請求項9】
前記水洗式便器は、情報を出力する出力部をさらに備え、
前記制御部は、前記出力部に、前記前記第1温度の前記洗浄水を前記便鉢表面に供給させた後の所定期間において前記水洗式便器の使用を禁止するための情報を出力させる、請求項6から8のいずれか一項に記載の水洗式便器。
【請求項10】
前記制御部は、前記第1温度と前記第2温度との温度差が所定値以上である場合に、前記加熱部に、m回(2≦mの整数)に亘って、前記熱媒体の温度を上昇させながら前記熱媒体を前記便鉢表面に供給させ、
前記制御部は、前記温度差が前記所定値未満である場合に、前記加熱部に、n回(1≦n<mの整数)に亘って、前記熱媒体を前記便鉢表面に供給させる、請求項6から9のいずれか一項に記載の水洗式便器。
【請求項11】
前記供給部は、前記第1温度の前記洗浄水を供給する際に、前記便鉢表面に洗剤を供給する、請求項6から10のいずれか一項に記載の水洗式便器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、温水を利用して便鉢を洗浄する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、便器装置のボウル部に温水の洗浄水を供給することによって、便器装置を洗浄する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば雰囲気温度が低いために便鉢の温度が低く、便鉢の温度と洗浄水の温度との差が大きい状況で高温の洗浄水が便鉢に供給されると、便鉢に急激な温度変化が生じる場合がある。この結果、便鉢が破損する可能性がある。
【0005】
本明細書では、洗浄水が供給される際に便鉢の急激な温度変化を抑制する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示の技術は、水洗式便器に関する。水洗式便器は、便鉢を有する便器本体と、特定温度の洗浄水を前記便鉢表面に供給する供給部と、前記特定温度の前記洗浄水が前記便鉢に供給される前に、便鉢表面を、前記便鉢表面の表面温度よりも高く前記特定温度よりも低い温度に加熱する加熱部と、を備えていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】水洗式便器の制御系統の構成ブロック図を示す。
【
図3】第1実施形態の高温洗浄処理のフローチャートを示す。
【
図4】
図3に続く高温洗浄処理のフローチャートを示す。
【
図5】水洗式便器の便鉢表面及び温水の温度の時間変化を表すグラフを示す。
【
図7】第2実施形態の高温洗浄処理のフローチャートを示す。
【
図8】第3実施形態の高温洗浄処理のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
(水洗式便器の構成)
図1及び
図2に示すように、水洗式便器10は、便器本体18と、便座装置16と、操作装置40と、制御部50と、温度センサ100と、水温センサ102と、タンク(図示省略)と、を備える。便器本体18は、陶器である。便器本体18は、利用者の屎尿を受け入れる便鉢32と、便鉢32の上端縁に沿って配置されるリム30と、を備える。リム30は、中空に形成されている。リム30は、便鉢32に向かって解放される開口を有する。タンクは、便器本体18の後方に配置される。タンクは、外部の水道管から供給される水を貯水する。タンクは、便器本体18を洗浄すべき場合に、水を便器本体18に供給する。タンクから供給される水は、便器本体18の背面部を通過して、リム30内に流入する。リム30に流入された水は、リム30の中空部分に設けられる通水路を流れ、リム30の開口から便鉢32に供給される。便鉢32内の溜水は、便器本体18に設けられる配管を通過して、便器本体18の外部に排出される。
【0009】
便座装置16は、便蓋12と、便座14と、機能部20と、カバー29と、を備える。便蓋12と便座14とは、便器本体18に回転可能に配置されている。便座14は、便器本体18の上端において、リム30上に配置される。便蓋12は、便座14の上方に配置される。便蓋12は、便座14の上方から便鉢32を覆う。便座14の後方には、機能部20が配置されている。機能部20は、タンク内の水を加熱せずに便鉢32に供給して屎尿を水洗する通常の水洗機能以外の付加機能を利用者に提供するための装置である。機能部20は、便座14を加熱する暖房機能、人体の臀部を洗浄するシャワー機能、利用者に付着した水分を乾燥する乾燥機能、及び、脱臭機能等の付加機能を実行可能である。機能部20は、付加機能のうちの少なくとも1個の機能を実行可能であってもよい。機能部20は、付加機能を実行するための種々の構成を有する。具体的には、
図2に示すように、機能部20は、ノズル22、貯水槽23、ヒータ24、洗剤貯留槽25、送風機26及びアクチュエータ28を備える。
【0010】
ノズル22は、利用者に向けて上方に水を射出する。ノズル22は、アクチュエータ28によって、前後方向に伸縮可能に配置される。貯水槽23は、リム30に連通している。貯水槽23は、水道管に連通している。貯水槽23は、水道管から供給される水を貯留する。貯水槽23は、リム30側の開口を開閉するために開閉弁を有する。送風機26は、便器本体18に向けて空気を送るためのモータ及びファンを有する。送風機26は、便器本体18に加えて、さらに、人体に向けて空気を送ってもよい。ヒータ24は、貯水槽23内の水、ノズル22から射出される水、送風機26で送風される空気、及び、便座14を加熱する。洗剤貯留槽25は、利用者によって供給される洗剤を貯留する。機能部20は、樹脂製のカバー29に覆われている。
【0011】
機能部20は、制御部50によって制御される。制御部50は、CPU及びメモリを有する。制御部50は、予めメモリに格納されているコンピュータプログラムに従った処理をCPUが実行することによって、機能部20を制御する。制御部50は、機能部20に隣接して配置される。制御部50は、カバー29に覆われている。制御部50の位置は、特に限定されない。例えば、制御部50は、タンク周辺に配置されていてもよい。
【0012】
制御部50は、さらに、温度センサ100及び水温センサ102と通信可能に接続されている。温度センサ100は、水洗式便器10が配置されているトイレ空間内に配置される。温度センサ100は、トイレ空間内の気温を検出する。制御部50は、温度センサ100からトイレ空間内の気温を表す信号を取得する。水温センサ102は、タンク内に配置される。水温センサ102は、タンクに貯留されている水の温度を検出する。制御部50は、水温センサ102からタンクに貯留されている水の温度を表す信号を取得する。
【0013】
制御部50は、さらに、操作装置40と通信可能に接続されている。操作装置40は、トイレ空間の壁に取り付けられる。操作装置40は、複数のボタン42と、表示部44と、を備える。複数のボタン42は、水洗機能及び付加機能を水洗式便器10に実行させるためのボタンを含む。利用者は、操作装置40を操作することによって、水洗式便器10に様々な機能を実行させることができる。
【0014】
(高温洗浄処理)
複数のボタン42は、高温洗浄機能に対応するボタンを含む。制御部50は、利用者によって高温洗浄機能に対応するボタンが操作されると、操作装置40から操作に対応する信号を受信し、高温洗浄処理を実行する。
図3に示すように、高温洗浄処理では、S12において、制御部50は、水温センサ102からタンクに貯留されている水の温度(以下「水温TW」と呼ぶ)を取得する。タンクに貯留されている水は、水洗式便器10が使用されると、便鉢32に供給される。タンクに貯留されている水の水温TWは、便鉢32の表面温度に近似する可能性が高い。S16では、制御部50は、高温洗浄に利用する洗浄水の温度(以下「水温TH」と呼ぶ)を特定する。具体的には、制御部50は、予め水洗式便器10の製造者等によって制御部50のメモリに格納されている水温THを読み出す。
【0015】
S18では、制御部50は、水温TWが所定の水温T1以上であるか否かを判断する。水温T1は、予め水洗式便器10の製造者等によって制御部50のメモリに格納されている。水温T2、T3も同様である。水温TWが所定の水温T1未満であると判断される場合(S18でNO)、S20において、制御部50は、ヒータ24に、貯水槽23に貯留されている水を水温T1に加熱させる。S22では、制御部50は、貯水槽23に、所定期間に亘って、水温T1に加熱済みの水を便鉢32の表面に供給させる。具体的には、貯水槽23に開閉弁を開弁させる。これにより、貯水槽23に貯留されている水がリム30の通水路を通過して、便鉢32の表面に供給される。
【0016】
便鉢32の表面は、水温T1の水によって加熱されて昇温する。貯水槽23に貯留され、便鉢32の表面に供給される水は、便鉢32の表面を加熱する熱媒体ということができる。以下の記載及び図面では、便鉢32内を洗浄するために便鉢32の表面に供給される洗浄水と区別するために、貯水槽23に貯留され、便鉢32の表面に供給される水を「熱媒体」と呼ぶ。所定期間は、温度T1の熱媒体が供給されることによって、便鉢32の表面温度が温度T1に近似する期間であってもよく、例えば1分であってもよい。S22の処理が終了すると、S26に進む。
【0017】
S18において、水温TWが所定の水温T1以上であると判断される場合(S18でYES)、S24において、制御部50は、水温TWが所定の水温T2以上であるか否かを判断する。水温T2は、水温T1よりも高い。水温TWが所定の水温T2未満であると判断される場合(S24でNO)S26に進み、水温TWが所定の水温T2以上であると判断される場合(S24でYES)S30に進む。
【0018】
S26では、制御部50は、ヒータ24に、貯水槽23内の熱媒体を水温T2に加熱させる。S28では、制御部50は、S22と同様に、水温T2の熱媒体を便鉢32の表面に供給させる。便鉢32の表面は、水温T2の熱媒体によってさらに加熱されて昇温される。S28の処理が終了すると、S32に進む。
【0019】
S30では、制御部50は、水温TWが所定の水温T3以上であるか否かを判断する。水温T3は、水温T2よりも高い。水温TWが所定の水温T3未満であると判断される場合(S30でNO)S32に進み、水温TWが所定の水温T3以上であると判断される場合(S30でYES)S36に進む。
【0020】
S32では、制御部50は、ヒータ24に、貯水槽23内の熱媒体を水温T3に加熱させる。S34では、制御部50は、S22と同様に、水温T3の熱媒体を便鉢32の表面に供給させる。便鉢32の表面は、水温T3の熱媒体によってさらに加熱されて昇温される。S34の処理が終了すると、S36に進む。
【0021】
S36では、制御部50は、ヒータ24に、貯水槽23に貯留されている水を水温THに加熱させる。S38では、制御部50は、S22と同様に、貯水槽23に貯留されている水温THの水を便鉢32の表面に供給させる。S39では、制御部50は、水温THの水の供給が継続されている間に、洗剤貯留槽25に、洗剤貯留槽25に貯留されている洗剤を便鉢32の表面に供給させる。具体的には、洗剤貯留槽25に排出口に配置されている排出弁を開弁させる。これにより、洗剤貯留槽25の排出口から洗剤貯留槽25に貯留されている水がリム30内を通過して、便鉢32の表面に供給させる。制御部50は、S38及びS39の処理を、3分以上の所定期間に亘って継続して、S40に進む。
【0022】
図4に示すように、S40では、制御部50は、表示部44に、水洗式便器10の利用を禁止することを示す禁止情報を表示させる。これにより、利用者が水洗式便器10の利用することを回避することができる。水温THの高温の洗浄水が供給された直後に、便鉢32の表面に、比較的に低温の洗浄水が供給されることを防止することができる。
【0023】
S42では、制御部50は、S12で取得される水温TWが水温T3未満であるか否かを判断する。水温TWが水温T3未満である場合(S42でYES)、S44において、制御部50は、貯水槽23内の熱媒体を水温T3に調整する。具体的には、制御部50は、熱媒体の温度が水温T3より低い場合に、ヒータによって加熱させる。制御部50は、熱媒体の温度が水温T3より高い場合に、水道管より貯水槽23に水を供給して熱媒体を冷却させる。S46では、制御部50は、S22と同様に、水温T3の熱媒体を便鉢32の表面に供給させて、S48に進む。水温TWが水温T3以上である場合(S42でNO)、S60に進む。S48では、制御部50は、S12で取得される水温TWが水温T2未満であるか否かを判断する。水温TWが水温T2未満であると判断される場合(S48でYES)、S50に進む。水温TWが水温T2以上であると判断される場合(S48でNO)、S60に進む。
【0024】
S50では、制御部50は、S44と同様に、貯水槽23内の熱媒体を水温T2に調整する。S52では、制御部50は、S22と同様に、水温T2の熱媒体を便鉢32の表面に供給させて、S55に進む。S54では、制御部50は、S12で取得される水温TWが水温T1未満であるか否かを判断する。水温TWが水温T1未満であると判断される場合(S54でYES)、S56に進む。水温TWが水温T1以上であると判断される場合(S54でNO)、S60に進む。
【0025】
S56では、制御部50は、S44と同様に、貯水槽23内の熱媒体を水温T1に調整する。S58では、制御部50は、S22と同様に、水温T1の熱媒体を便鉢32の表面に供給させて、S60に進む。S60では、制御部50は、表示部44に、水洗式便器10の利用を可能することを示す利用可能情報を表示させる。これにより、便鉢32の表面温度をタンク内の洗浄水に近似させることができる。便鉢32の急激な温度変化を抑制することができる。
【0026】
高温洗浄処理では、高温の水温THの洗浄水が便鉢32の表面に供給される。水温THは、例えば、80℃である。水は、温度が高くなるほど表面張力が低下する。これにより、高温の洗浄水と洗剤とをともに供給すると、洗剤の濡れ性が向上し、洗浄性能の向上が期待できる。
【0027】
高温の洗浄水が供給されることによって、便鉢32を除菌することができる。高温の洗浄水の供給を3分以上継続することによって、高い除菌性能が期待できる。
【0028】
高温洗浄処理では、高温の洗浄水を供給する前に、タンク内の水温TWと高温の洗浄水の水温THとの間の温度T1~T3のうちの少なくとも1個の温度の熱媒体が、便鉢32の表面に供給される。比較的に低温の便鉢32の表面に、高温の洗浄水が供給される事態を回避することができる。便鉢32の急激な温度変化によって、便器本体18に割れが発生することを抑制することができる。
図5には、便鉢32の表面温度TSの時間変化が、熱媒体及び洗浄水の温度TMとともに示されている。表面温度TSは、熱媒体の温度TMに追従して上昇する。熱媒体の温度TMを、温度T1~T3のように徐々に上げることによって、便鉢32の表面温度TSの時間に対する温度勾配を、熱媒体を供給せずに高温の洗浄水を供給する場合の便鉢32の表面温度TEの時間に対する温度勾配よりも緩くすることができる。
図5では、理解を容易にするために、表面温度TSが直線的に上昇し、熱媒体TMの温度に一致するように図示されている。実際の表面温度TSの変化は雰囲気温度等によって変動し、熱媒体の温度TMと一致しない場合がある。しかしながら、表面温度TSの時間変化は、比較例の表面温度TEの時間変化よりも緩い。同様に、高温の洗浄水が供給された後、熱媒体の温度TMを温度T3~T1のように徐々に下げることによって、便鉢32の表面温度TSの時間に対する温度勾配よりも緩くすることができる。
【0029】
高温洗浄処理では、水温TWが水温T1、T2、T3のいずれかよりも高い場合、水温TWよりも低い水温の熱媒体が供給されない。熱媒体によって、便鉢32の温度が低下する事態を回避することができる。熱媒体の供給回数を抑制することによって、高温洗浄処理を短縮することができる。変形例では、制御部50は、水温T1、T2、T3の熱媒体を、順に供給してもよい。この場合、水温TWを取得しなくてもよい。水温THの洗浄水が供給された後も同様である。変形例では、水温THの洗浄水が供給された後では、水温T1、T2、T3以外の水温の熱媒体が供給されてもよい。水温THの洗浄水が供給された後の熱媒体の供給回数が、水温THの洗浄水が供給される前の熱媒体の供給回数よりも少なくてもよい。
【0030】
(第2実施形態)
第1実施形態と異なる点を説明する。
図6に示すように、第2実施形態では、水洗式便器10は、水洗式便器10の各構成に加えて、温度センサ258及び排水機構240と、を備える。温度センサ258は、便鉢32の裏面の温度を検出して、制御部50に供給する。排水機構240は、排水ポンプ242と、排水管244と、を備える。排水管244は、便鉢32の底部と、便器本体18の外側の排水管と、を連通する。制御部50は、排水ポンプ242を駆動させて、便鉢32内の溜水を排出可能である。第2実施形態では、水洗式便器10は、
図6に示す射水部250を備えていなくてもよい。
【0031】
第2実施形態では、第1実施形態と比較して、高温洗浄処理の内容が異なる。具体的には、
図7に示すように、制御部50は、S12の処理後、S214において、排水ポンプ242を駆動させて、便鉢32内の溜水を排出する。制御部50は、便鉢32内の溜水の水位を低下させる。制御部50は、S16、S18の処理を実行する。S18でNOの場合は
図3に示すS20及びS22が実行され、S18でYESの場合はS24が実行される。S22の処理後、制御部50は、S222において、温度センサ258から便鉢32の温度TBを取得する。S223では、制御部50は、S222で取得済みの温度TBが温度T1に達したか否かを判断する。温度TBが温度T1に達した状態は、温度TBが温度T1に等しい状態であってもよい。温度TBが温度T1に達した状態は、温度TBが例えば温度(T1-5)℃以上であって温度(T1+5)℃以上のように、温度T1から所定の範囲内である状態であってもよい。温度TBが温度T2に達した状態及び温度T3に達した状態も同様である。
【0032】
制御部50は、温度TBが温度T1に達するまで、熱媒体を供給し続ける。制御部50は、温度TBが温度T1に達する(S223でYES)と、S26に進む。S24でNOの場合も、S26に進む。S24でYESの場合、S30に進む。
図3に示すS26及びS28の処理が実行されると、S28において温度T2の熱媒体が便鉢32に供給される。S228では、制御部50は、S222と同様に温度TBを取得する。S229では、制御部50は、S223と同様に、S228で取得済みの温度TBが温度T2に達したか否かを判断する。制御部50は、温度TBが温度T2に達するまで、熱媒体を供給し続ける。
【0033】
制御部50は、温度TBが温度T2に達する(S229でYES)と、S32に進む。S30でNOの場合、S32に進む。S30でYESの場合、S36に進む。
図3に示すS32及びS34の処理が実行されると、S34において温度T3の熱媒体が便鉢32に供給される。S234において、制御部50は、S222と同様に温度TBを取得する。S235では、制御部50は、S223と同様に、S234で取得済みの温度TBが温度T3に達したか否かを判断する。制御部50は、温度TBが温度T3に達するまで、熱媒体を供給し続ける。
【0034】
制御部50は、温度TBが温度T3に達する(S234でYES)と、熱媒体の供給を停止させて、S36に進む。制御部50は、
図3及び
図4に示すS36~S60の処理を実行して、高温洗浄処理を終了する。変形例では、制御部50は、タンク内の水を便鉢32に供給することによって、便鉢32の溜水の水位を上昇させてもよい。
【0035】
本実施形態の高温洗浄処理では、S214において、熱媒体の供給前に、便鉢32に溜まっている水が排出される。熱媒体の熱エネルギーが便鉢32内の溜水に奪われることを回避することができる。これにより、便鉢32を効率的に昇温させることができる。
【0036】
本実施形態の高温洗浄処理では、温度センサ258によって便鉢32の温度を検出し、便鉢32の温度に応じて、熱媒体の温度を変化させる。これにより、便鉢32の温度を適切に昇温させることができる。変形例では、S42~S58の処理、即ち、便鉢32の温度を降温させる処理において、S46、S52及びS58において熱媒体を供給させている間、温度センサ258から便鉢32の温度TBを取得し、温度TBが熱媒体の温度に達したと判断される場合に、処理を進めてもよい。
【0037】
(第3実施形態)
第1実施形態と異なる点を説明する。第3実施形態では、第1実施形態と比較して、高温洗浄処理の内容が異なる。具体的には、
図8に示すように、制御部50は、S12の処理後、S314において、温度センサ100で検出されるトイレ空間内の気温TTを取得する。S315において、制御部50は、S12で取得される水温TWとS314で取得される気温TTとの低い方の温度TLを特定する。制御部50は、S16の処理後、S316において、水温THからS315で特定された水温TWと気温TTの低い方の温度TLを減算することによって、温度差DTを算出する。
【0038】
S318では、制御部50は、熱媒体を供給する回数NSを決定する。回数NSは、温度差DTによって変動する。温度差DTが大きいほど、回数NSが多くなるように決定される。具体的には、制御部50は、S316で算出された温度差DTが温度差DT1以下の場合、回数NS=1と決定する。制御部50は、S316で算出された温度差DTがDT1<DT≦DT2の場合、回数NS=2と決定する。制御部50は、DT2<DT≦DT3の場合に回数NS=3、DT3<DT≦DT4の場合に回数NS=4、及び、DT4<DT≦DT5の場合に回数NS=5と決定する。例えば、DT1、DT2、DT3、DT4及びDT5は、それぞれ、20℃、40℃、60℃及び80℃であってもよい。
【0039】
S320では、制御部50は、1回の熱媒体供給における熱媒体の上昇温度TXを決定する。具体的には、制御部50は、温度TX=温度差DT/回数NSを演算する。S322では、制御部50は、S20と同様に、貯水槽23に貯留されている熱媒体を加熱して、温度TXだけ昇温させる。S324では、制御部50は、S22と同様に、熱媒体を便鉢32の表面に供給させる。熱媒体の供給が終了すると、S326において、制御部50は、S318で決定された回数NSに亘って、S322及びS324の処理が実行済みか否かを判断する。回数に亘って、S322及びS324の処理が実行済みでない場合(S326でNO)、S322に戻る。
【0040】
回数NSに亘って、S322及びS324の処理が実行済みである場合(S326でYES)、
図3に示すS36、S38、S39及びS40の処理が実行される。S340において、制御部50は、S44と同様の処理によって、貯水槽23内の熱媒体を温度(TH-TX)に調整する。S342において、制御部50は、S22と同様に、貯水槽23に熱媒体を便鉢32の表面に供給させる。S344では、制御部50は、S316で決定された回数に亘って、S340及びS342の処理が実行済み否かを判断する。回数に亘って、S340及びS342の処理が実行済みでない場合(S344でNO)、S340に戻る。S340では、制御部50は、熱媒体の温度を、前回の熱媒体の温度から温度TXが減算された温度に調整する。例えば、2回目のS340の処理では、熱媒体は、温度(TH-2TX)に調整される。
【0041】
回数NSに亘って、S340及びS342の処理が実行済みである場合(S344でYES)、制御部50は、S60の処理を実行して、高温洗浄処理を終了する。
【0042】
(第4実施形態)
第3実施形態と異なる点を説明する。第4実施形態では、第2実施形態と同様に、温度センサ258を備える。高温洗浄処理では、S324において熱媒体が便鉢32の表面に供給されると、制御部50は、S223と同様に温度TBを取得し、取得済みの温度TBがS324で供給が開始された熱媒体の温度に達したか否かを判断する。制御部50は、温度TBが熱媒体の温度に達するまで、熱媒体を供給し続ける。温度TBが熱媒体の温度に達すると、S326に進む。
【0043】
(第5実施形態)
第5実施形態では、ノズル22が下方に向けて熱媒体を射出する。第5実施形態の高温洗浄処理は、第1から第4実施形態のいずれの実施形態と同様である。
【0044】
(第6実施形態)
第6実施形態では、送風機26が便鉢32の表面に向けてヒータ24によって加熱された温風を送風する。第6実施形態の高温洗浄処理は、第1から第4実施形態のいずれの実施形態と同様である。
【0045】
(第7実施形態)
第7実施形態では、
図6に示すように、機能部20は、射水部250を備える。射水部250は、貯水槽23に連通される配管254と、ポンプ252と、を備える。制御部50は、ポンプ252を駆動させることによって、貯水槽23内の熱媒体を、配管254を介して圧送する。熱媒体は、射水口256から便鉢32の表面に向けて射出される。第7実施形態の高温洗浄処理は、第1から第4実施形態のいずれの実施形態と同様である。
【0046】
具体的な実施形態を詳細に説明した。これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。上述の実施形態の変形例を以下に列挙する。
【0047】
(1)水洗式便器10は、スピーカ及び無線通信装置の少なくとも一方を備えていてもよい。高温洗浄処理において、制御部50は、スピーカに、禁止情報及び使用可能情報の少なくとも一方の情報を表す音声を出力させてもよい。高温洗浄処理において、制御部50は、無線通信装置に、禁止情報及び使用可能情報の少なくとも一方の情報を、無線通信装置を介して水洗式便器10と通信可能に接続される携帯端末、PC等に送信してもよい。情報を受信した携帯端末等は、受信済みの情報を携帯端末等の表示部に表示してもよいし、受信済みの情報を表す音声を携帯端末等のスピーカから出力してもよい。この場合、水洗式便器10は、表示部44を備えていなくてもよい。
【0048】
(2)水洗式便器10は、便鉢32を直接的に加熱する便鉢ヒータを備えていてもよい。便鉢ヒータは、便鉢32の裏面に配置されていてもよい。高温洗浄処理において、制御部50は、熱媒体を供給するとともに便鉢ヒータに便鉢32を加熱させてもよい。制御部50は、熱媒体を供給するのに替えて、便鉢ヒータに便鉢32を加熱させてもよい。
【0049】
(3)水洗式便器10には、水洗式便器10の外部から温水が供給されてもよい。水洗式便器10は、ヒータ24及び水洗式便器10の外部から供給される低温の水の少なくとも一方を利用して、熱媒体の温度を調整してもよい。外部から水温THよりも高い水温の温水が供給される場合、水洗式便器10は、熱媒体を加熱するヒータを備えていなくてもよい。
【0050】
(4)洗浄水の水温THが予め格納されていなくてもよい。制御部50は、洗浄水の水温THを、タンク内の水温TW、便鉢32の表面温度、トイレ空間の気温TTのいずれか1個の温度を用いて決定してもよい。例えば、制御部50は、水温TWに、例えば40℃である所定温度を加算して、水温THを算出してもよい。水洗式便器10では、利用者が水温THを設定可能であってもよい。
【0051】
(6)高温洗浄処理において、複数の洗浄モードに切り替え可能であってもよい。操作装置40は、複数の洗浄モードのうち、実行すべき1個の洗浄モードを利用者に選択させるためのボタンを備えていてもよい。高温洗浄処理において、制御部50は、実行すべき洗浄モードに応じて、水温TH、洗浄水の供給時間、熱媒体の温度等を変更してもよい。例えば、実行すべき洗浄モードが、除菌を優先するモードであれば、水温THを60℃以上に調整し、洗浄を優先するモードであれば、水温THを40℃から60℃の範囲に調整してもよい。
【0052】
(7)水温THがトイレ空間内の気温のような雰囲気温度に応じて変更されてもよい。
【0053】
(8)制御部50は、熱媒体の温度を、連続的に昇温させながら便鉢32に供給してもよい。
【0054】
(9)高温洗浄処理において、制御部50は、熱媒体の温度上昇の回数を、3回に限らず、1回以上実行してもよい。
【0055】
(10)水洗式便器10は、高温洗浄処理において、洗浄水を便鉢32に供給する前に、洗剤を混ぜてもよい。言い換えると、洗浄水は、洗剤が混入していてもよい。
【0056】
(11)第1実施形態、第3実施形態から第7実施形態のいずれか1個の実施形態では、水洗式便器10は、第2実施形態と同様に、排水機構240を備えていてもよい。高温洗浄処理では、第2実施形態と同様に、制御部50は、熱媒体の供給前に、便鉢32内の溜水を排出することによって、便鉢32内の溜水の水位を下げてもよい。制御部50は、便鉢32内の溜水の一部を、便鉢32に残していてもよい。
【0057】
(12)高温洗浄処理を開始するトリガは、高温洗浄機能に対応するボタンの操作に限られない。例えば、制御部50は、1週間毎、1か月毎等、予め設定されたタイミングで高温洗浄処理を実行してもよい。例えば、水洗式便器10は、便座装置16に、高温洗浄機能に対応するボタンを備えていてもよいし、無線通信装置を備えていてもよい。利用者は、無線通信装置を介して水洗式便器10に接続される携帯端末等を操作することによって、温洗浄処理を実行させてもよい。
【0058】
(13)高温洗浄処理において、制御部50は、洗浄水を便鉢32に供給する際に、洗浄水を一定期間供給した後、一定期間停止し、さらに、一定期間供給するように、供給と停止を繰り返し実行してもよい。
【0059】
(14)第3実施形態と第4実施形態の少なくとも1個の実施形態では、S315において、トイレ空間の気温TTに替えて、あるいは、気温TTとともに、便鉢32の裏面側の温度TB、及び、便鉢32の表面側の温度の少なくとも1個の温度と、水温TWと、のうちの最も低い温度TLを特定してもよい。便鉢32の表面側の温度は、例えば、便座14の裏面に取り付けられた赤外線式の温度センサ等を用いて検出してもよい。
【0060】
(15)第2実施形態では、便鉢32の裏面の温度に替えて、あるいは、便鉢32の裏面の温度とともに、便鉢32の表面側の温度を検出してもよい。便鉢32の表面側の温度は、便座14の裏面、便蓋12の裏面及びトイレ空間内の少なくとも1つの個所に取り付けられた赤外線式の温度センサ等を用いて検出してもよい。高温洗浄処理では、制御部50は、S223において、便鉢32の裏面の温度に替えて、便鉢32の表面側の温度が所定温度に達したか否かを判断してもよい。S229、S235の処理も同様であってもよい。
【0061】
(16)第3実施形態及び第4実施形態の少なくとも1個の実施形態では、上記した変形例(15)と同様に、便鉢32の表面側の温度を検出してもよい。高温洗浄処理では、S324で熱媒体が供給された後、S326の処理が実行される前に、便鉢32の表面側の温度が所定温度TPに達したか否かを判断してもよい。便鉢32の表面側の温度が所定温度TPに達した場合、S326に進んでもよい。便鉢32の表面側の温度が所定温度TPに達していない場合、S324に戻ってもよい。所定温度TPは、S324で供給される温度に応じて決定されてもよい。
【0062】
(17)上記各実施形態では、高温洗浄処理において、S40で、表示部44に禁止情報が表示された後、便鉢32を冷却するための熱媒体を供給しなくてもよい。本変形例では、S38において水温THの水が便鉢32に供給された後、特定の期間に亘って、利用者によって低温の洗浄水が便鉢32に供給されることを禁止してもよい。例えば、制御部50は、利用者によって操作装置40が操作されても、タンク内の洗浄水を便鉢32に供給しなくてもよい。特定の期間は、予め制御部50に格納されていてもよい。特定の期間は、雰囲気温度、タンク内の洗浄水温度及び水温THの少なくとも1つの温度を用いて、制御部50によって決定されてもよい。制御部50は、雰囲気温度、タンク内の洗浄水温度及び水温THの少なくとも1つの温度と、予め制御部50に格納されているアルゴリズムと、を用いて、特定の期間を決定してもよい。制御部50は、S38の処理後、便鉢32の表面及び裏面の少なくとも一方の温度を繰り返し検出し、検出温度が予め決められた温度まで低下する場合、低温の洗浄水の供給禁止を解除してもよい。
【0063】
以上、本開示の具体例を詳細に説明した。これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書及び図面の少なくとも一方に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。本明細書及び図面の少なくとも一方に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0064】
10:水洗式便器、12:便蓋、14:便座、16:便座装置、18:便器本体、20:機能部、22:ノズル、23:貯水槽、24:ヒータ、25:洗剤貯留槽、26:送風機、30:リム、32:便鉢、40:操作装置、42:ボタン、44:表示部、50:制御部、100:温度センサ、102:水温センサ、240:排水機構、250:射水部