(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035720
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】CO2を燃料に変換するシステム、及び、その方法
(51)【国際特許分類】
C10L 3/08 20060101AFI20230306BHJP
F28D 20/02 20060101ALI20230306BHJP
F28D 20/00 20060101ALI20230306BHJP
C07C 9/04 20060101ALI20230306BHJP
C07C 1/12 20060101ALI20230306BHJP
C09K 5/06 20060101ALI20230306BHJP
C10G 2/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C10L3/08
F28D20/02 D
F28D20/00 G
C07C9/04
C07C1/12
C09K5/06
C09K5/06 A
C10G2/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142771
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉政 昌俊
(72)【発明者】
【氏名】軍司 章
【テーマコード(参考)】
4H006
4H129
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB44
4H006AC90
4H006BE20
4H006BE41
4H129AA01
4H129BA12
4H129BB07
4H129BC45
4H129BC46
4H129KB03
4H129KC03Y
4H129KD24Y
4H129NA20
4H129NA43
(57)【要約】
【課題】CO
2の炭化水素化反応と水蒸気電解とを組み合わせて、変動する再生可能エネルギー電力から高効率で安定して炭化水素を生成可能なシステムを提供する。
【課題解決手段】本発明のシステムは、再生可能エネルギー由来の変動電力を利用して水蒸気を電解することにより水素を生成する水電解装置と、CO
2を水素と反応させて炭化水素を生成する反応器と、反応器に於ける反応の発生熱によって水を蒸発させて水蒸気を生成する蒸発器と、水蒸気を水電解装置からの排気で加熱して当電解装置に供給する熱交換器と、反応器用の蓄熱部であって、炭化水素化の発生熱を蓄熱する蓄熱材料を有する当該蓄熱部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CO2を燃料に変換するシステムであって、
再生可能エネルギー由来の変動電力を利用して水蒸気を電解することにより水素を生成する水電解装置と、
CO2を前記水素と反応させて炭化水素を生成する反応器と、
前記反応器に於ける前記反応の発生熱によって水を蒸発させて水蒸気を生成する蒸発器と、
前記水蒸気を前記水電解装置からの排気で加熱して当該水電解装置に供給する熱交換器と、
前記反応器用の蓄熱部であって、前記反応の発生熱を蓄熱する蓄熱材料を有する当該蓄熱部と、
を備えるシステム。
【請求項2】
さらに、前記熱交換器の熱を蓄熱する蓄熱材料を有する、前記熱交換器用蓄熱部を有する、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記反応器用蓄熱部と前記熱交換器用蓄熱部とは夫々相変化もしくは化学変化することで蓄熱する前記材料を有する、請求項2記載のシステム。
【請求項4】
前記反応器用蓄熱部の蓄熱材料の相変化温度領域が、前記熱交換器用蓄熱部の蓄熱材料の相変化温度領域よりも低い、請求項3記載のシステム。
【請求項5】
前記反応器用蓄熱部は前記変動電力が低下した際、当該反応器の温度を前記反応に適する温度域に維持可能である、請求項1記載のシステム。
【請求項6】
前記熱交換器用蓄熱部は、前記変動電力が低下した際、当該熱交換器の温度を水蒸気から水素を生成する電解反応に適する温度域に維持可能である、請求項1記載のシステム。
【請求項7】
前記反応器用蓄熱部の蓄熱材料の融点が、200~500℃の範囲である、請求項4記載のシステム。
【請求項8】
前記熱交換器用蓄熱部の蓄熱材料の融点が、400~800℃の範囲である、請求項4記載のシステム。
【請求項9】
前記反応器用蓄熱部の蓄熱材料は、
硝酸塩もしくは水酸化物塩と、
Zn、Al、Mg、Ag、Sn、Cuのいずれか一つもしくは複数からなる合金と、
の少なくとも何れかを含む、
請求項1記載のシステム。
【請求項10】
前記熱交換器用蓄熱部の蓄熱材料は、
塩化物塩もしくは水酸化物塩と、
Al、Mg、Cu、Siのいずれか一つもしくは複数からなる合金と、
の少なくとも何れかを含む、
請求項2記載のシステム。
【請求項11】
CO2を燃料に変換する方法であって、
再生可能エネルギー由来の変動電力を利用して水蒸気を電解することにより水素を生成する電解ステップと、
CO2を前記水素と反応させて炭化水素を生成する炭化水素化ステップと、
前記炭化水素を生成する反応の発生熱によって水を蒸発させて水蒸気を生成する水蒸気生成ステップと、
当該水蒸気生成ステップで生成され水蒸気を前記電解ステップで発生した高温ガスで加熱した後、当該電解ステップに供給する水蒸気加熱ステップと、
前記炭化水素化ステップで発生した熱を蓄熱材で蓄熱し、前記変動電力が低下した際、当該蓄熱材から放熱して前記炭化水素ステップと前記水蒸気生成ステップを継続させる蓄熱ステップと、
を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CO2をグリーン水素と反応させて炭化水素に変換するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
CO2を利用しながら再生可能エネルギーを貯蔵する技術として、再生可能エネルギー由来の電力によって水を電気分解し、得られたグリーン水素をCO2と反応させて、CO2をメタンに変換するプロセスが知られている。例えば、特表2018-537532号公報には、電気分解に要される電気エネルギーが再生可能エネルギー源、たとえば風力エネルギーから取り出され、その際、メタン化に使用される触媒が、好ましくはハニカム構造物として形成された、高い蓄熱能を有するキャリア構造物上に配置され、キャリア構造物がメタン化中に発生する反応熱の蓄熱材料として使用される方法が開示されている。さらに、特開2018-116834号公報には、蒸気電解と蒸気燃料電池発電とのハイブリッド利用に蓄熱材を組みわせて高温を維持することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2018-537532号公報
【特許文献2】特開2018-116834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既述のメタン化反応のためのシステムは、水素とCO2と反応させる反応器に水を供給してメタン化反応に適した温度が維持されるようにしている。さらに、このシステムは、反応器の温度調整の過程で水から発生した水蒸気を、再生可能エネルギー由来の変動電力を利用する高温蒸気電解場に供給して水素を発生させ、この水素を反応器に供給している。
【0005】
しかしながら、変動電力であるが故に電力が低下すると、水蒸気の電解が進まず水素生成量が不足し、反応器でのメタンの生成量が低下する。それに伴い水蒸気量も低下して水蒸気の電解が一層進まないという課題がある。この課題は既述の従来技術では配慮されていない。そこで、本発明は、CO2の炭化水素化反応と水蒸気電解とを組み合わせて、変動する再生可能エネルギー電力から高効率で安定して炭化水素を生成可能なシステムと方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は、CO2を燃料に変換するシステムであって、再生可能エネルギー由来の変動電力を利用して水蒸気を電解することにより水素を生成する水電解装置と、CO2を前記水素と反応させて炭化水素を生成する反応器と、前記反応器に於ける前記反応の発生熱によって水を蒸発させて水蒸気を生成する蒸発器と、前記水蒸気を前記水電解装置からの排気で加熱して当該水電解装置に供給する熱交換器と、前記反応器用の蓄熱部であって、前記反応の発生熱を蓄熱する蓄熱材料を有する当該蓄熱部と、を備えるシステムである。
【0007】
さらに本発明は、CO2を燃料に変換する方法であって、再生可能エネルギー由来の変動電力を利用して水蒸気を電解することにより水素を生成する電解ステップと、CO2を前記水素と反応させて炭化水素を生成する炭化水素化ステップと、前記炭化水素を生成する反応の発生熱によって水を蒸発させて水蒸気を生成する水蒸気生成ステップと、当該水蒸気生成ステップで生成され水蒸気を前記電解ステップで発生した高温ガスで加熱した後、当該電解ステップに供給する水蒸気加熱ステップと、前記炭化水素化ステップで発生した熱を蓄熱材で蓄熱し、前記変動電力が低下した際、当該蓄熱材から放熱して前記炭化水素ステップと前記水蒸気生成ステップを継続させる蓄熱ステップと、を備える方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、CO2の炭化水素化反応と水蒸気電解とを組み合わせて、変動する再生可能エネルギー電力から高効率で安定して炭化水素を生成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態に係るCO
2変換システムのブロック図である。
【
図5】
図5はCO
2変換システムの他の実施形態に係るブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るCO
2変換システムのブロック図である。このシステムは、再生可能エネルギー由来の変動電力111によって、蒸発器101から供給された水蒸気109を電気分解して、水素(電解水素)106を発生させるSOEC(固体酸化物形電解セル:水電解装置)102と、SOEC102から供給される水素106とCO
2105とを触媒下で反応させてCO
2を炭化水素(燃料)107に変換する、管状の反応器(反応管)100と、反応器100に於ける反応発熱によって、液体の水108を水蒸気化する蒸発器101と、蒸発器101からの水蒸気109をSOEC102の排気110で加熱し、加熱した水蒸気をSOEC102に供給する熱交換器104と、を備える。CO
2105の一例は、例えば、石炭火力発電所の排ガスでよい。
【0011】
反応器100と蒸発器101とは蓄熱部103を備えて組み合わされ、例えば、一体化されている。蓄熱部103は後述の蓄熱材料を備える。熱交換器104にも蓄熱部103Aが設けられている。蒸発器101で生成された水蒸気109は熱交換器104に入力され、SOEC102からの高温ガス110と熱交換されることでより高温となり、SOEC102に供給される。
【0012】
反応器100には、水素106によってCO2105を炭化水素107に変換する触媒が実装されている。炭化水素の構造は触媒の種類に応じて変化する。例えば、Ni/Al2O3を触媒とした場合には、水素とCO2とからメタンが生成される。CO2に代えてCOでもよく、又は、両方でもよい。CO2、及び、COを総称して炭化水素化反応のための反応ガス、又は、炭素源ガスと称してもよい。
【0013】
水素とCO2とから炭化水素を生成する反応は発熱反応であり、反応の進行に伴い温度が上昇すると炭化水素化反応が促進される。一方、反応が高温域に達すると、炭化水素よりCOの生成が主反応となる。炭化水素化反応の発熱は、蒸発器101が水を水蒸気に変化させる際の気化熱によって冷却されるため、反応器100は炭化水素化反応に適した温度に制御される。
【0014】
一例として、メタン化反応の場合は、200℃付近からメタン化反応が開始され、500℃付近からはCOの生成の方が主となるため、反応器100は炭化水素化反応を200~500℃に制御する。より好ましくは、反応生成物でのメタンの割合が過半を超える250~400℃に制御されることが好ましい。
【0015】
SOEC102は、蒸気による高温電解を高効率なプロセスとして実行する。SOEC102は電気分解を600~900℃の高温で実行するために、熱交換器104はSOEC102からの高温排気(400~800℃)の熱を水蒸気109に熱交換して水蒸気を高温に維持してSOEC102に供給している。
【0016】
再生可能エネルギーに由来の変動電力が低下するとSOEC102での電気分解が抑制されて水素量106が低下する。水素量の低下によって、反応器100の温度が下降して炭化水素化反応が停止してしまうことを防ぐため、蒸発器101に供給される水の供給量が、炭化水素化反応に適した温度域を下回らないように、制限される必要がある。なお、変動電力が予測範囲よりも増加した際には、水108の供給量を増加させればよい。
【0017】
水の供給量の制限によって、蒸発器101によって生成される水蒸気量が少なくなるとSOEC102への水蒸気量が低下し、電力の低下と相まって、SOEC102の電気分解がさらに抑制される。さらに、SOEC102から熱交換器104へのガス量が低下して水蒸気に熱交換される熱量も減少し水蒸気の昇温が不足する。SOEC102の蒸気電解部の温度が急激に低下すると蒸気電解部が損傷するおそれもある。
【0018】
そこで、反応器100に対する蓄熱部103は、炭化水素化反応の反応熱に基づいて蓄えていた熱量を、変動電力111が低下している間炭化水素化反応の環境に提供して、その結果、水の供給量を制限しなくても炭化水素化反応に適した温度が維持されるようにしている。
【0019】
さらに、熱交換器104の蓄熱部103Aも、変動電力111が低下する以前に、SOEC102からの排気ガス110の熱に基づいて蓄えていた熱量を、変動電力が低下している間水蒸気109に提供して水蒸気109の温度低下を抑制する。
【0020】
図1のシステムは、温度制御が必要である領域としての、反応器100と熱交換器104との少なくとも一つに、蓄熱材料を有する蓄熱部103を提供している。蓄熱材料の蓄熱方式には様々な種類があり、大別すると、顕熱蓄熱、潜熱蓄熱、化学蓄熱が存在する。顕熱蓄熱は、物質の比熱を利用したものであり、潜熱蓄熱は、物質の相変化、転移に伴う転移熱(潜熱)を利用したもので、転移熱を熱物質の相変化、転移に伴う転移熱(潜熱)を利用したものであり、化学蓄熱は、化学反応(吸収、混合、水和)時の吸熱、発熱を利用したものである。
【0021】
潜熱蓄熱は、顕熱蓄熱に比べて、蓄熱密度が高く、相転移温度の一定温度で熱供給が可能であり、そして、化学蓄熱に比べて、基本的には安定・安全・安価な物質の相転移を繰り返すだけなので容易であり、耐久性の面でも優れている。反応器100は250~400℃、熱交換器104は400℃以上(400℃~600℃)に温度制御されるため、温度変化の大きな顕熱型の蓄熱材料より、潜熱型の蓄熱材料が好ましく、また、化学蓄熱でもよい。反応器100のメタン化反応で生じた熱を反応器内部の触媒担体の顕熱で蓄熱することもあるが、この蓄熱量では反応器100の温度低下を補うことは困難である。
【0022】
潜熱型の蓄熱材料は、利用する温度領域で選択できる材料が限られる。特に、250℃以上の高温領域では、有機物の選択肢が乏しいため、無機物、特に塩化合物またはもしくは金属材料を選択することが好ましい。
【0023】
反応器100用蓄熱部103には250~400℃の範囲で相転移する無機物を選択すればよい。例えば、融点が307℃のKNO3、融点が337℃のNaNO3などの硝酸塩系の塩化合物を用いるとよい。特定の材料を1種類で用いてもよいが、他の材料と混合することで融点を調整できるため、混合材料としてもよい。混合する材料としてはLiNO3、NaNO2などが挙げられる。さらに、融点が318℃のNaOHなどの水酸化物を用いてもよい。
【0024】
また、金属材料として、例えば、金属単体では融点327.5℃の鉛が挙げられるが、鉛は毒性のため好ましくない。金属は他の金属と合金を形成することで融点が調整できるため、合金として利用することが好ましい。反応器100の温度制御が必要な領域で活用できる金属材料としては、例えばZn、Al、Mg、Ag、Sn、Cuなどの合金が挙げられる。融点が650℃のMgと融点が419℃のZnを49:51重量パーセントで混合したMg-Zn系合金では融点が342℃付近になるため、蓄熱材料として利用可能である。
【0025】
熱交換器104用蓄熱部103Aには温度制御に必要な400℃以上で、SOECから入力されるガス温度400~800℃の範囲内で相転移する無機物を選択すればよい。
【0026】
例えば、融点が714℃のMgCl2、770℃のKClなどの塩化物を用いるとよい。特定の材料を1種類で用いてもよいが、他の材料と混合することで相変化温度域を調整できるため、混合材料として用いてもよい。また、金属では、融点が660℃のAlや650℃のMgが挙げられる。またAl、Mg、Cu、Siなどの合金を用いてもよい。
【0027】
既述のとおり、蓄熱部103,103Aは、夫々、融点の温度が異なる相変化型の材料を含有することによって、反応器100と熱交換器104とを夫々最適な温度に維持する。蓄熱部は高温流体から低温流体に熱を移送できれば、その形状、形態は制限されない。
【0028】
図2に蓄熱部103,103Aの断面構造の一例を示す。蓄熱領域300は、高温流体の流れる高温流体流通部201と低温流体の流れる低温流体流通部202とに挟まれた空間を占めており、蓄熱領域300の内部空間には既述の蓄熱材料が充填されている。蓄熱材料の充填量は、蓄熱容量の目標値、又は、設計値に合わせて、適宜設定されてよい。
【0029】
蓄熱部103の高温流体流通部201は、水素と二酸化炭素とが触媒下で反応して生成された炭化水素203を流通させる。低温流体流通部202は水204(
図1の108)を流通させ、蓄熱領域300を介して高温流体からの熱によって、水を水蒸気に変換させる。熱交換器104では、SOEC102からの高温ガス203(
図1の110)が高温流体流通部201を流れ、水蒸気204(
図1の109)が低温流体流通部202を流れる。
【0030】
蓄熱領域300中の蓄熱材料の占有体積は、材料によっては固体、液体の相変化による体積変化が異なるため、蓄熱材料の体積膨張時に蓄熱領域300、そして、蓄熱領域に隣接する両側の流体流通部201,202を破壊しない範囲に限定される。
【0031】
高温および低温流体流通部201,202の表面は、熱伝導効率を上げるために高比表面積にするための処理が施されている、もしくは、高比表面積の構造が設置されていてもよい。表面ラフネスを上げるために、表面を機械的に荒らしてもよく、エッチングなどで化学的に荒らしてもよい。またフィンやハニカムなどの構造体を設置してもよい。蓄熱材料は、粉体、又は、ペレット等に成形されていてもよい。
【0032】
図3Aに蓄熱部103,103Aの断面構造の他の例を示す。蓄熱材料を融点の高いセラミクスもしくは金属の球体205の内部に含有させて、これを蓄熱領域300の内部空間に充填させている。球体の存在によって、蓄熱材料の熱容量は減少するが、熱伝導率は一定に保持されるため、高温流体の流通量が減少した場合でも安定な熱伝導が期待される。
【0033】
流体流通部に球体205を充填することにより、蓄熱領域300と流体流通部とを一体化することも可能である。複数の球体の表面を直接に流体が流通するため、伝導効率の向上が図られる。
図3Bは高温流体流通部201に球体205を充填した形態を示している。低温流体流通部202に球体を充填してもよい。両方の流通部に球体を充填してもよい。球体を充填していない流体流通部の表面の熱伝導効率を上げるために、表面の比表面積の向上対策、例えば、表面ラフネスの増加、表面の化学エッチング処理、フィンやハニカムの追加等を適用してもよい。
【0034】
図4Aは蓄熱部103,103Aの一形態の斜視図を示し、
図4Bは蓄熱部103,103Aの他の形態の斜視図を示す。
図4Aのように、蓄熱領域300と流体流通部201,202は円筒形でも、
図4Bのように矩形でもよい。
図4Aにおいて、蓄熱領域300は中空円筒状を呈し、内周に低温流体流通部202が挿入され、蓄熱領域300の外周に円筒状を成す高温流体流通部201が存在する。高温流体流通部201の外周部を断熱材で覆い、熱が外部に漏洩しない構造としてもよい。なお、蓄熱領域300の内周側に高温流体流通部201を、外周側に低温流体流通部202を配置してもよい。
【0035】
図4Bにおいて、蓄熱領域300、及び、流体流通部201,202は夫々矩形であり、高温流体流通部201と低温流体流通部202とに蓄熱領域300が挟まれている。
図4A,4Bに示す、蓄熱部の形態によれば、蓄熱領域300の対向する二つの面(
図4Aでは内周面と外周面、
図4Bでは正面と背面)の夫々の全体が高温流体流通部、又は、低温流体流通部に接触しているため、流体流通部と蓄熱領域との間の熱伝導が効率よく行われる。
【0036】
図5に
図1のシステムの他の形態を示す。
図5のシステムが
図1のシステムと異なる点は、
図1の蒸発器(101)の代わりに、低温油(冷媒)402を反応器100に供給し、炭化水素化反応の反応場を冷却して高温油403を送出する冷却器101と、高温油403と水108との熱交換を実行して水蒸気109を送出する熱交換器401と、を備えていることである。このように、循環型の冷媒によって反応器100の温度制御を実行しても
図1と同様の効果を達成できる。
【0037】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。
<実施例1>
蓄熱材料として、反応器100向けにはKNO
3、熱交換器104向けには融点が520℃付近にあるAl-Si-Cu合金を使用した。蓄熱材料の形状をペレットとし、蓄熱部103,103Aに充填した。蓄熱部103,103Aの構造は円筒型(
図4A)とした。
【0038】
SOEC102は再生可能エネルギー由来の15kWの電力の入力により最大流量60L/minのH2を生成でき、H2と流量15L/minのCO2によって、反応器100は、流量15L/minのメタンを生成できる。この時、反応器100から約110kJ/minの発熱が生じる。この熱量により、蒸発器101は90g/minの水を水蒸気に変換できる。蓄熱部103に充填された蓄熱材料(KNO3:6.5kg)は、反応器100の温度を、メタン化反応に適した範囲に所定時間維持できる。
【0039】
60L/minのH2と15L/minのCO2を250℃に加熱して、反応器100に入力したところ反応器100の出口ではメタンの合成を確認できた。メタン生成量が既述の値にとなった時点での反応器100の温度は約300℃であり、メタン化反応の温度が制御できていることを確認した。蒸発器101に液体の水を噴霧して導入すると、蒸気の発生を確認した。
【0040】
SOEC102を750℃で運転し、熱交換器104にSOEC102から発生した酸素ガスを入力した。熱交換器104ではほぼ520℃で温度制御ができていた。水蒸気109を熱交換器104に入力すると、熱交換器104は約600℃程度まで昇温した。
【0041】
この状態で、入力電力を1/10の1.5kWに減少させたところ、H2の発生が6L/minに減少した。H2の発生量に合わせてCO2も1/10にして反応器に入力したところ、メタン発生量が減少した。蓄熱部によって反応器100の温度を10分間維持できた。さらに、入力電力の変動に合わせて水の入力量も1/10にしたところ、約100分間反応器100の温度を維持できることを確認した。これよりSOEC102の蒸気電解部の破損の抑制に必要な1時間以上の間、水蒸気を発生させることができることを確認した。
【0042】
以上より、既述のシステムは、再生可能エネルギーの変動により入力電力が変動しても、その間、CO2変換を継続しながら、SOEC102に高温水蒸気を供給できた。
【0043】
<実施例2>
蓄熱材料として、反応器100向けにMg-Al合金を含有したセラミクス球体を、熱交換器104向けに融点が580℃付近Al-Si合金を含有したセラミクス球体を使用した。蓄熱部の構造を板型(
図4B)とした。実施例1と同じ結果を得ることができた。
【0044】
<比較例1>
蓄熱部103,103Aに蓄熱材料を充填せず、それ以外は実施例1と同じくしてシステムを構築した。H2とCO2を体積比で4:1となる混合ガスを作製し、250℃に加熱して、反応器100に導入したところ反応器100の出口ではメタンの生成を確認した。メタン化反応の進行により、反応器の温度が上昇して550℃を超えた蒸発器101に液体の水を噴霧したところ、蒸気の発生を確認した。次に、電力111を1/10にしたところ、反応器100の温度が急速に低下してメタン化反応が停止した。水蒸気の発生も停止したため、SOEC102への水蒸気109の入力もなくなり、SOEC102も停止させることとなった。
【0045】
<比較例2>
図5のシステムを利用した以外は、比較例1と同様な条件、そして、状態にした。比較例1と同様に入力電力を1/10倍にしたところ、油による冷却効果が大きくなるため、比較例1と同様に、反応器100の温度が急速に低下してメタン化反応が停止した。
【0046】
実施形態の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更及び修正が可能である。
【符号の説明】
【0047】
100 反応器(反応管)
101 蒸発器
102 SOEC
103 蓄熱部
104 熱交換器
105 CO2
106 H2
107 炭化水素
108 液体形状の水
109 水蒸気
110 SOEC発生ガス