(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035729
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】陰圧室を有する住宅
(51)【国際特許分類】
E04H 1/02 20060101AFI20230306BHJP
【FI】
E04H1/02
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142786
(22)【出願日】2021-09-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】511313503
【氏名又は名称】株式会社ダイトー建設不動産
(74)【代理人】
【識別番号】100196391
【弁理士】
【氏名又は名称】萩森 学
(72)【発明者】
【氏名】中村 正実
(72)【発明者】
【氏名】飯田 敦
【テーマコード(参考)】
2E025
【Fターム(参考)】
2E025AA03
2E025AA25
(57)【要約】
【課題】感染症患者用の居室を有し、その居室から感染症患者から発散する病原体が室外に拡散することを防止できる仕組み及びその居室への人の出入りの際にも上記病原体が室外に漏出することを防止する仕組みを有しており、同居する家族への感染リスクが非常に低い住宅を提供する。
【解決手段】感染症患者の居室として陰圧室及びそれに接する前室を設置する。陰圧室の出入り口は前室に通ずる1ヵ所のみである。陰圧室には換気扇を2台設置し1台は出入り口から離れた場所に設置し常時連続運転し他の1台は出入り口の近傍に設置し人が陰圧室に出入りする時のみ運転する。前室の出入り口は陰圧室へ通ずる出入り口と廊下への出入り口の2か所のみである。前室に天井埋込形換気扇が設けられ常時連続運転する。該陰圧室のC値を1.0以下とすることが望ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
住宅であって、
陰圧室とその前室を有することを特徴とする住宅。
【請求項2】
上記陰圧室は給気口と換気扇および1か所の出入り口を有し、
該出入り口は上記前室に通じており、
該前室は換気扇と給気口と2か所の出入り口を有し、
該2か所の出入り口の内の1か所は上記陰圧室に通じており、もう一つの出入り口は該住宅内の廊下に通じており、
該2か所の出入り口は気密性ドアを有している
ことを特徴とする請求項1に記載の住宅。
【請求項3】
上記陰圧室は換気扇を2台有しており、そのうち1台は該陰圧室の出入り口から離れた場所に設置され、
他の1台の換気扇は該陰圧室の出入り口の近傍に設置されていることを特徴とする請求項2に記載の住宅。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は陰圧室を有する住宅に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2019年に発生した新型コロナウィルス感染は2020年には日本も含め世界中に蔓延し2021年には新型コロナウィルスワクチンの接種が日本でも開始されたが8月現在においても感染が拡大し続けている。2021年8月現在日本では感染した患者は重症の場合は病院に入院できるが、医療体制が逼迫するため中等症及び軽症者は入院できず自宅で療養せざるを得ない事態となっている。コロナウィルス患者を受け入れた病院では感染クラスターの発生を防ぐため患者は厳重に隔離されている。一方、自宅で療養する患者の場合はそのような隔離はできないので同居する家族や親族に感染してしまう危険が非常に大きい。
【0003】
本願発明の目的は、コロナウィルス感性症をはじめ空気感染や飛沫感染する感染症の患者が自宅療養する時、同居する家族や親族に感染する危険の少ない住宅を提供することである。すなわち、患者を隔離できるとともに患者が通常の生活に近い生活を送れる構造を有する住宅を提供する。
【0004】
室内や作業空間内の汚染物質や病原菌などを外部に拡散しないようにする技術はクリーンルーム(特許文献1)やクリーンベンチ(特許文献2)などで確立されているが、住宅において感染症患者が自宅療養する際に同居する家族や親族への感染を防ぐことができる構造は確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-320872
【特許文献2】再公表特許W02005/119131
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明が解決しようとする課題は感染症患者用の居室を有しその居室から感染症患者から発散するウィルス粒子や病原菌(以後ウィルス粒子や病原菌を総称して病原体と呼ぶ)が室外に拡散することを防止できる仕組み及びその居室への人の出入りの際にも病原体が室外に漏出し拡散することを防止する仕組みを有しており、同居する家族への感染リスクが非常に低い住宅を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は鋭意検討を重ねた結果、感染症患者の居住する部屋を陰圧に保ち、患者から発散する病原体を該部屋に設置した換気扇により住宅外に直接排出することにより、病原体が住宅内に拡散することを防止できることに思い至った。以後、この陰圧に保つ患者の居住用の部屋を陰圧室と呼ぶ。
【0008】
陰圧室には給気口と換気扇を設置する。換気扇は2台設置する。そのうち1台は陰圧室の出入り口から離れた場所に設置し一日24時間連続運転する。もう1台は陰圧室の出入り口の近傍に設置し陰圧室に人が出入りする時のみ運転する。陰圧室は陰圧を維持するため気密性を高くしC値を1以下にすることが望ましい。
【0009】
患者や家族など人が陰圧室に出入りする際に陰圧室内の病原体が人と共に陰圧室外に漏れ出て住宅内に拡散することを防ぐため、陰圧室に接して前室を設ける。陰圧室の出入り口は前室へ通じる1か所のみとし、陰圧室への出入りは前室を通してしかできないようにする。人が陰圧室から前室へ出入りする際は陰圧室の2台目の換気扇を運転することにより陰圧室が前室よりも陰圧となるため陰圧室の空気の前室への移動は極めて僅かとなる。従って陰圧室内の空気中に浮遊している病原体の前室への漏出は極めて僅かとなる。
【0010】
前室には換気扇を設ける。前室の空気は該換気扇により直接住宅外に排出される。前室は2か所の出入り口を有し、該2か所の出入り口の内の1か所は上記陰圧室に通じており、もう一つの出入り口は該住宅内の廊下に通ずるようにする。上記2か所の出入り口には気密性ドアを設ける。これによって前室内も陰圧となり人が前室から廊下に出入りする際の前室内の空気の廊下への移動は前室が陰圧であるため極めて僅かとなる。従って前室内の空気中に浮遊している可能性のある極めて僅かな病原体の廊下への漏出も極めて僅かとなる。
【0011】
第1の発明に係る住宅は陰圧室とその前室を有することを特徴とするものである。
【0012】
第2の発明に係る住宅は第1の発明に係る住宅であって、上記陰圧室は給気口と換気扇および1か所の出入り口を有し、該出入り口は上記前室に通じており、該前室は換気扇と2か所の出入り口を有し、該2か所の出入り口の内の1か所は該陰圧室に通じており、もう一つの出入り口は該住宅内の廊下に通じており、該2か所の出入り口は気密性ドアを有していることを特徴とするものである。
【0013】
第3の発明にかかる住宅は第2の発明に係る住宅であって、上記陰圧室は換気扇を2台有しており、そのうち1台は該陰圧室の出入り口から離れた場所に設置され、他の1台の換気扇は該陰圧室の出入り口の近傍に設置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本願発明に係る住宅においては、感染症の患者は陰圧室を専用の居住室とすることにより、患者から発散する病原体は陰圧室に設置された換気扇により直接住宅外へ排出され住宅内部に拡散することはなく、該陰圧室への人の出入りの際に病原体が陰圧室及び前室から住宅のそれ以外の部分へ漏出するリスクが極めて低いので、家族に感染させるリスクが極めて低い状態を保って自宅療養ができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1に係る住宅の2階の間取り図である。
【
図2】実施例1に係る住宅の1階の間取り図である。
【
図3】実施例1に係る住宅の陰圧室及び前室を通る垂直な面で切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
つぎに、本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において様々な変更や修正が可能であることは言うまでもない。
【実施例0017】
図1は本発明に係る住宅の一実施例の2階の間取り図である。また
図2は該実施例の1階の間取り図である。陰圧室1は2階の図の右上角に配置されている。陰圧室に接して前室2が設けられている。陰圧室の右側壁面に給気口3(自然給気口VGP100SF、マックス株式会社)が設置されている。陰圧室には換気扇が2台設置されており、1台は出入り口から最も離れた場所であるクローゼット5の天井に設置されている天井埋込形換気扇4-1(FY-24JG8V/15、パナソニックエコシステムズ株式会社であり)、もう一台は出入り口近傍の天井に設置されている天井埋込形換気扇4-2(FY-17J8V/56、パナソニックエコシステムズ株式会社)である。クローゼット内の天井埋込形換気扇4-1は常時連続運転し、出入り口前の天井埋込形換気扇4-2は人が出入りする時のみ運転する。なおクローゼット内に設置した換気扇4-1の換気性能は出入り口近傍の天井に設置した換気扇4-2および後述する前室2に設置した換気扇10の換気性能よりも高い。
【0018】
連続運転する換気扇4-1を陰圧室の出入り口から離れた場所に設置しているため患者から発散する病原体は出入り口付近に滞留することなく出入り口から離れた場所から住宅外に排出されていく。このため人が陰圧室に出入りする際に病原体が陰圧室から前室に漏出するリスクは極めて低くなる。また人が出入りする時のみ運転する換気扇4-2を出入り口近傍の天井に設置しているため患者が陰圧室に出入りする際患者の周囲の雰囲気に浮遊する病原体はこの換気扇4-2により住宅外に排出され前室に漏出あるいは残存するリスクが低減される。
【0019】
陰圧室と前室の間に気密性のドア7(防音ドア、アドバンスA AU0、大建工業株式会社)が設置されている。陰圧室の窓8にはA4等級のサッシ(エピソードII NEOたてすべり出し窓、CXV02609,YKKAP株式会社)が用いられている。陰圧室のC値(相当隙間面積)は1.0以下とすることが望ましい。陰圧室の気密性が高く天井埋込形換気扇4-1を常時連続運転することにより陰圧室の気圧は陰圧室外の気圧よりも低く維持され、また人が陰圧室に出入りする際は天井埋込形換気扇4‐2を運転することにより、病原体を含む飛沫は天井埋込形換気扇により住宅外に排出され、前室や住宅の陰圧室以外の部分に漏出するリスクを極めて低くすることができる。
【0020】
人が前室と陰圧室の間を出入りする際の天井埋込形換気扇4‐2の運転のオン、オフは、出入り口の陰圧室側と前室側にスイッチを設け、出入りする人がドア7を開く前にスイッチをオンにし、出入りした後にオフにする仕組みや、自動ドアの開閉のように人が前室あるいは陰圧室でドア7の前に立った時に自動的に天井埋込形換気扇4‐2がオンになり、人がドア7の前から去った時に自動的にオフになる仕組み、あるいは天井埋込形換気扇4‐2が、ドア7が開いた時に自動的にオンになりドア7が閉じたときに自動的にオフになる仕組みなどが採用できる。
【0021】
前室2の出入り口は陰圧室への出入り口と廊下12への出入り口の2か所のみである。廊下への出入り口にも気密性のドア9(防音ドア、アドバンスA AU0、大建工業株式会社)が設置されている。前室の天井には天井埋込形換気扇10(FY-17J8V/56、パナソニックエコシステムズ株式会社)が設置されている。また前室の廊下への出入り口近傍の天井に給気口11(自然給気口VGP100SF、マックス株式会社)が設置されている。天井埋込形換気扇10は常時連続運転する。このため前室の気圧は廊下の気圧よりも低いため廊下から前室に人が出入りする際に前室の空気の廊下への流出は僅かなものとなる。また病原体を含む飛沫が浮遊する空気は天井埋込形換気扇を通して住宅外に排出される。
【0022】
2階のトイレ17には換気扇20-1が設置されており1日24時間連続運転する。患者がトイレを使用する際患者から発散する病原体は住宅外に排出され、トイレから住宅内に拡散するリスクは低い。2階の階段室にも換気扇20-2が設置されており連続運転する。2階の陰圧室と前室以外の給気口(19-1,19-2,19-3)、窓21の位置は
図1に示す通りである。
【0023】
図2は本実施例の住宅の1階の間取り図である。1階の給気口(32-1,32-2、32-2)、換気扇(33-1,33-2、33-3,33-4)、窓34の位置は
図2に示す通りである。図の左上角に位置する浴室25および洗面脱衣室26にはそれぞれ換気扇(33-2,33-4)が設置されており、患者が浴室あるいは洗面脱衣室を使用する際患者から発散する病原体は住宅外に排出され、住宅内に拡散するリスクは低い。
【0024】
図3は実施例1に係る住宅の陰圧室及び前室を通る垂直な面で切断した断面図である。陰圧室1及び前室2、陰圧室給気口3,陰圧室クローゼット内天井埋込形換気扇(4-1)、陰圧室出入り口前天井埋込形換気扇(4-2)、陰圧室と前室の間の気密ドア7,陰圧室の窓8,前室と廊下の間の気密ドア9,前室の天井埋込形換気扇10,前室の給気口11,2階の陰圧室と前室以外の換気扇(20-1,20-2)と窓21、1階の給気口(32-1,32-2)、換気扇(33-2)、窓34の位置を示す。