(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003578
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】堤体の浸食抑制構造およびその構造の構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20230110BHJP
E02B 3/04 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
E02D17/20 101
E02B3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104735
(22)【出願日】2021-06-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公益社団法人 日本地下水学会 秋季講演会講演予稿(オンライン講演会)p.122-p.125 2020年(令和2年)10月29日発行(閲覧可能日)(http://www.jagh.jp/jp/g/activities/meeting/sorf/2020online.html) 〔刊行物等〕オンライン(zoom)開催 セッション6(https://zoom.us/j/91258622803?pwd=b29wY1J4SmN3TElGN3kwcXVrRTFOQT09) 公益社団法人 日本地下水学会 2020年秋季講演会(リモート大会) 2020年11月 5日開催 〔刊行物等〕公益社団法人土木学会土木学会論文集B3(海洋開発),2020年76巻2号I_1001-I_1006 2020年9月28日発行
(71)【出願人】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(71)【出願人】
【識別番号】503275129
【氏名又は名称】りんかい日産建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521278265
【氏名又は名称】株式会社開発計画研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100082658
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 儀一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221615
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 祐子
(72)【発明者】
【氏名】小林 薫
(72)【発明者】
【氏名】釜土 則幸
(72)【発明者】
【氏名】大和田 繁
(72)【発明者】
【氏名】大埜 明日香
(72)【発明者】
【氏名】安原 一哉
【テーマコード(参考)】
2D044
2D118
【Fターム(参考)】
2D044CA00
2D044DA00
2D044DC00
2D118AA10
2D118BA20
2D118DA01
(57)【要約】
【課題】本発明は、越水しても決壊しにくく、決壊するまでの時間を少しでも引き延ばせる「粘り強い堤防」の発明要請に応え、越水時の堤防裏法面の浸食と、法尻保護のためのコンクリートブロックの裏面地盤の吸出しを抑制・防止できる堤体の浸食抑制構造およびその構造の構築方法を提供する。
【解決手段】本発明は扁平粒径形状敷設物3を、下り傾斜を有する堤体裏法面2に所定厚さに敷設して堤体裏法面浅層部に第1敷設層4を形成し、該第1敷設層4の上層には表土を敷設施工して表土層となる第2敷設層6を形成してなり、前記第1敷設層4の形成は、前記扁平粒径形状敷設物3の扁平面配置方向が水平となるよう及び/又は前記下り傾斜を有する堤体裏法面2と平行となるように積層して敷設形成したことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
扁平粒径形状敷設物を、下り傾斜を有する堤体裏法面に所定厚さに敷設して堤体裏法面浅層部に第1敷設層を形成し、該第1敷設層の上層には表土を敷設施工して表土層となる第2敷設層を形成してなり、
前記第1敷設層の形成は、前記扁平粒径形状敷設物の扁平面配置方向が水平となるよう及び/又は前記下り傾斜を有する堤体裏法面と平行となるように積層して敷設形成した、
ことを特徴とする堤体の浸食抑制構造。
【請求項2】
扁平粒径形状敷設物を、下り傾斜を有する堤体裏法面に所定厚さに敷設して堤体裏法面浅層部に第1敷設層を形成し、該第1敷設層の上層には表土を敷設施工して表土層となる第2敷設層を形成し、前記第1敷設層の形成は、前記扁平粒径形状敷設物の扁平面配置方向が水平となるよう及び/又は前記下り傾斜を有する堤体裏法面と平行となるように積層して敷設形成すると共に、前記第1敷設層表面側には、植生された植物の根と一体化された中間敷設層を前記第1敷設層と第2敷設層の間に形成した、
ことを特徴とする堤体の浸食抑制構造。
【請求項3】
前記扁平粒径形状敷設物の厚みは0.3mm乃至3mmである、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の堤体の浸食抑制構造。
【請求項4】
前記扁平粒径形状敷設物の粒径は、0.7mm乃至100mmである、
ことを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3記載の堤体の浸食抑制構造。
【請求項5】
前記扁平粒径形状敷設物は貝殻を破砕して形成した、
ことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4記載の堤体の浸食抑制構造。
【請求項6】
前記貝殻を破砕して形成した扁平粒径形状敷設物は、内部摩擦角が35°以上である、
ことを特徴とする請求項5記載の堤体の浸食抑制構造。
【請求項7】
前記貝殻はホタテ、カキの貝殻である、
ことを特徴とする請求項6記載の堤体の浸食抑制構造。
【請求項8】
堤体の下り斜面状裏法面に扁平粒径形状敷設物をそれぞれの扁平面が重なり合うよう積層敷設して第1敷設層を形成し、次いで、この第1敷設層表面に土を有して構成された第2敷設層を積層して形成してなり、
前記第1敷設層の形成は、扁平粒径形状敷設物の扁平面配置方向が水平となるよう及び/又は前記下り傾斜を有する堤体裏法面と平行となるように積層して敷設形成した、
ことを特徴とする堤体の浸食抑制構造の構築方法。
【請求項9】
堤体の下り斜面状裏法面に扁平粒径形状敷設物をそれぞれの扁平面が重なり合うよう積層敷設して第1敷設層を形成し、次いで、この第1敷設層表面に植物の種子を混在させた土、あるいは植物が植生された土を敷設して第2敷設層を形成し、
前記第2敷設層における植物の根が第1敷設層の表面近くまで重力方向に延び、その後第1敷設層の表層面近くを這って横方向に延び、植生した根と第1敷設層の表面近くの土部分が一体化されて中間敷設層が形成される、
ことを特徴とする堤体の浸食抑制構造の構築方法。
【請求項10】
前記植物の種子は、匍匐茎(ほふくけい、ストロン/stolon)あるいは走出枝(ランナー/Runner)に属する植物の種子である、
ことを特徴とする請求項9記載の堤体の浸食抑制構造の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は河川堤防のみならずため池堤防や鉄道あるいは道路の盛土における堤体のガリ浸食などを抑制防止する堤体の浸食抑制構造およびその構造の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、気候変動に伴う短時間大雨の増加と共に、特に河川堤防の決壊も増加傾向を示している。最近では、関東・東北豪雨では鬼怒川で、北海道豪雨では常呂川で、越水を一因とした堤防決壊が発生した。
【0003】
また、近年の台風では、例えば140箇所で発生した国・県管理河川の堤防決壊の原因のうち86%が越水によるものであったと報告されている。今後も、気候変動に伴う水災害の更なる頻発化・激甚化が予想されており、もって、越水しても決壊しにくく、決壊するまでの時間を少しでも引き延ばせる「粘り強い堤防」の必要性がこれまで以上に要請されている。そのためには、越水時の堤防裏法面の浸食と、法尻保護のためのコンクリートブロックの裏面地盤の吸出しを抑制・防止することが課題となる。
【0004】
そして、前記河川堤防に関する越水時の堤防裏法面の浸食などの課題は、ため池堤防や鉄道あるいは道路盛土における浸食の抑制・防止に関して同様の課題があるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記従来の課題を解決するために創案されたものであり、越水しても決壊しにくく、決壊するまでの時間を少しでも引き延ばせる「粘り強い堤防」の発明要請に応え、越水時の堤防裏法面の浸食と、法尻保護のためのコンクリートブロックの裏面地盤の吸出しを抑制・防止できる堤体の浸食抑制構造およびその構造の構築方法を提供することを目的とするものである。
【0007】
ところで、我が国のように海に囲まれているエリアにおいては、ホタテ、カキなど貝の漁獲高が極めて多い。しかしながら、ホタテやカキなど貝の身を採った後は、貝殻が大量に残るため、このホタテ、カキなどの貝殻を利活用する方法も従来から要請されている。
例えば、大量のホタテやカキの貝殻が沿岸域に野積みにされ、悪臭や景観悪化といった環境問題を引き起こしているからである。これら課題解決を目的に、ホタテやカキ貝殻の建設資材への利活用が以前から図られているが、利活用できる量は未だ限定的である。
よって、ホタテ貝殻を大量に利活用する新たな方法を見出すことは、広くは「海洋環境の保全・開発」、循環型社会やSDGsへの貢献に繋がることにもなる。
【0008】
また、破砕したホタテ貝殻は、せん断強さが比較的大きいと報告されている。さらに、扁平形状の破砕貝殻は、流水圧を受けにくく、かつ、破砕貝殻間の摩擦抵抗も大きいものである。
よって、堤防裏法面浅層部に破砕貝殻層を敷設すれば、越水に対する浸食および保護ブロック裏面地盤の吸出し抑制効果が発揮されることにもなる。
【0009】
この様に本発明は、「海洋環境の保全・開発」、循環型社会やSDGsへ貢献できるとの目的も有している。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
扁平粒径形状敷設物を、下り傾斜を有する堤体裏法面に所定厚さに敷設して堤体裏法面浅層部に第1敷設層を形成し、該第1敷設層の上層には表土を敷設施工して表土層となる第2敷設層を形成してなり、
前記第1敷設層の形成は、前記扁平粒径形状敷設物の扁平面配置方向が水平となるよう及び/又は前記下り傾斜を有する堤体裏法面と平行となるように積層して敷設形成した、
ことを特徴とし、
または、
扁平粒径形状敷設物を、下り傾斜を有する堤体裏法面に所定厚さに敷設して堤体裏法面浅層部に第1敷設層を形成し、該第1敷設層の上層には表土を敷設施工して表土層となる第2敷設層を形成し、前記第1敷設層の形成は、前記扁平粒径形状敷設物の扁平面配置方向が水平となるよう及び/又は前記下り傾斜を有する堤体裏法面と平行となるように積層して敷設形成すると共に、前記第1敷設層表面側には、植生された植物の根と一体化された中間敷設層を前記第1敷設層と第2敷設層の間に形成した、
ことを特徴とし、
または、
前記扁平粒径形状敷設物の厚みは0.3mm乃至3mmである、
ことを特徴とし、
または、
前記扁平粒径形状敷設物の粒径は、0.7mm乃至100mmである、
ことを特徴とし、
または、
前記扁平粒径形状敷設物は貝殻を破砕して形成した、
ことを特徴とし、
または、
前記貝殻を破砕して形成した扁平粒径形状敷設物は、内部摩擦角が35°以上である、
ことを特徴とし、
または、
前記貝殻はホタテ、カキの貝殻等である、
ことを特徴とし、
または、
堤体の下り斜面状裏法面に扁平粒径形状敷設物をそれぞれの扁平面が重なり合うよう積層敷設して第1敷設層を形成し、次いで、この第1敷設層表面に土を有して構成された第2敷設層を積層して形成してなり、
前記第1敷設層の形成は、扁平粒径形状敷設物の扁平面配置方向が水平となるよう及び/又は前記下り傾斜を有する堤体裏法面と平行となるように積層して敷設形成した、
ことを特徴とし、
または、
堤体の下り斜面状裏法面に扁平粒径形状敷設物をそれぞれの扁平面が重なり合うよう積層敷設して第1敷設層を形成し、次いで、この第1敷設層表面に植物の種子を混在させた土、あるいは種子のみではなく芝生などの植物が植生された土を敷設して第2敷設層を形成し、
前記第2敷設層における植物の根が第1敷設層の表面近くまで重力方向に根が延び、その後は第1敷設層の表層面近くを這って横方向に延び、植生した根と第1敷設層の表面近くの土部分が一体化されて中間敷設層が形成される、
ことを特徴とし、
または、
前記植物の種子は、匍匐茎(ほふくけい、ストロン/stolon)あるいは走出枝(ランナー/Runner)に属する植物の種子である、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、越水しても決壊しにくく、決壊するまでの時間を少しでも引き延ばせる「粘り強い堤防」あるいは「粘り強い盛土」の構築ができ、もって、越水時の堤防あるいは盛土裏法面の浸食と、法尻保護のためのコンクリートブロックの裏面地盤の吸出しを抑制・防止できるとの優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】第1敷設層の形成を説明する説明図(1)である。
【
図3】第1敷設層の形成を説明する説明図(2)である。
【
図4】第2敷設増と中間敷設層の形成を説明する説明図である。
【
図5】破砕貝殻により成層した第1敷設層の越流実験を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を図に示す実施例に基づいて説明する。
図1は本発明の一実施例であり、本発明を堤防に実施したものである。すなわち、堤防の裏法面2に本発明を適用した例である。
本発明では大量の扁平粒径形状敷設物3を生成し、これを積層する方向に上下面が向くよう整えて積層敷設する。該扁平粒径形状敷設物3は、大量に残存する貝殻により生成できる。例えばホタテ貝の残存貝殻などから生成する。
【0014】
近年、大量のホタテ貝など食用貝から身を採った後に残る貝殻が沿岸域に野積みにされており、悪臭や景観悪化といった環境問題を引き起こしている。この問題解決を目的に、ホタテ貝殻など残存貝殻の建設資材への利活用が以前から図られているが、利活用できる量は未だ限定的である。
ゆえに、ホタテ貝などの貝殻を大量に利活用する新たな方法を見出すことも極めて重要課題となっている。
【0015】
これら大量の貝殻は、例えば重機などを使用し踏みつけるなどして破砕し、もって大量の扁平粒径形状敷設物3を生成する。そして、破砕した貝殻は、ふるいなどにより所定の粒径ごとに仕分けすることもできる。なお、所定の粒径ごとに仕分けしないで使用することもできる。
【0016】
例えば、粒径0.85乃至2.0mmの扁平粒径形状敷設物3、次に粒径2.0乃至4.75mmの扁平粒径形状敷設物3、さらに粒径9.5乃至19.0mmの扁平粒径形状敷設物3、さらには100mmまでの粒径の扁平粒径形状敷設物3に分けるなどが考えられる。
【0017】
そして、前記貝殻から生成し、それぞれの粒径に仕分けされた扁平粒径形状敷設物3を前記堤防1の裏法面2の浅層部に、前述したごとく積層方向に扁平粒径形状敷設物3の上下面が向くよう整えて積層敷設し、第1敷設層4を形成する。
【0018】
ところで本発明では貝殻から扁平粒径形状敷設物3を生成したが、貝殻は薄過ぎず、厚過ぎない材料 (厚さは t=0. 3~3mm 程度)で、表面の摩擦力が大きい(破砕した貝殻の内部摩擦角φ≧35°で大きい)材料でもあり、裏法面2の浅層部に積層敷設し、第1敷設層4を形成するには適しているといえる。
なお、扁平粒径形状敷設物3の生成に当たってはガラスや陶磁器などの人工物の破砕片を使用してもかまわない。しかしながら、薄過ぎず、厚過ぎない材料 (厚さは t=0.3~3mm程度)で、表面の摩擦力が大きい(内部摩擦角φ≧35°で大きい)材料であることが好ましい。
【0019】
この第1敷設層4の積層形成については
図2に示す積層形成例が一例としてあげられる。
すなわち、堤防1の裏法面2の表面側に密接させて、扁平粒径形状敷設物3を所定の厚さにして水平方向にその上下面を向けて積層敷設した積層体層5を形成していくものである。そして、所定の厚さに生成した積層体層5の表面をバックホーなどの排土板などで締め固めていく。次いでその上に、扁平粒径形状敷設物3を所定の厚さに積層させた次の積層体層5を生成して積み重ねていく。順次積み重ねた積層体層5の表面もバックホーなどの排土板などで締め固める。このように順次所定厚さの積層体層5を生成し、これら積層体層5を積み重ね、堤防1の最上部まで積層敷設していく。
【0020】
ここで、積層敷設された複数の積層体層5の一方側端部は階段状になる。そのため、これを裏法面2の傾斜面と同様の傾斜面にすべく成層する必要がある。裏法面2の浅層部に裏法面2の傾斜面と同様の傾斜面を有する第1敷設層4を形成しなければならないからである。
【0021】
この際、第1敷設層4の表面側近傍に敷設される扁平粒径形状敷設物3の積層方向は、裏法面2の傾斜面と平行する方向に向くように成層することが好ましいとされている(
図3参照)。
【0022】
ところで、積層体層5の生成に使用される大量の扁平粒径形状敷設物3は、当初、すべてその扁平面上下面が水平方向になるよう、すなわち、積層方向に扁平粒径形状敷設物3の扁平面上下面が向くように積層敷設されている。たとえ堤防1の裏法面2を越える越流水が生じたとしても、越流水の流れに抗して裏法面2における第1敷設層4の崩壊を防止できるからである。
【0023】
しかし、階段状になっている複数の積層体層5の一方側端部については、裏法面2の傾斜面と同様の傾斜面にすべく成層する必要があり、その際に、積層体層5内の扁平粒径形状敷設物3についてその向きを裏法面2の傾斜面と同様の傾斜面を有するべく積層されるよう扁平粒径形状敷設物3の扁平面上下面の向きを変更することができる。
【0024】
すなわち、水平方向に積層された状態から裏法面2の傾斜面と平行方向に向きを変えて積層敷設した層を形成して成層するのが好ましいのである。これにより後述する植生根の第1敷設層4内への大量侵入をより阻止することができるとの利点がある。
【0025】
この場合、第1敷設層4の形成については、奥側に積層方向に扁平粒径形状敷設物3の扁平面上下面が向くように積層敷設されている層を形成し、表側に扁平粒径形状敷設物3についてその向きを裏法面2の傾斜面と同様の傾斜面を有するべく積層されるよう扁平粒径形状敷設物3の扁平面上下面の向きを変更した層を形成し、これら2層で第1敷設層4とするのである。
【0026】
なお、第1敷設層4の形成については、扁平粒径形状敷設物3のすべてを裏法面2の傾斜面と平行向きにして積層敷設することもできる。この場合には例えばジオセルなどが採用される。裏法面2の傾斜面と平行向きにして扁平粒径形状敷設物3を積層敷設した場合、裏法面2を越える越流水が生じても、該越流水の流れと同じ方向にすべての扁平粒径形状敷設物3が積層敷設されているので、越流水の抵抗が少なくてすみ、もって第1敷設層4の崩壊を防止することもできる。
【0027】
前述したいずれの積層敷設を採用するかは、現場の堤防1の安定状況やどのような越流水の越流状態が生じるかなどの状況を見極めておのおの検討しても構わない。
【0028】
上記のごとく、下り傾斜を有する堤防1の裏法面2に所定厚さに積層敷設して裏法面2の浅層部に第1敷設層4を形成した後、該第1敷設層4の上層には表土を敷設施工して表土層となる第2敷設層6が形成される。
【0029】
この第2敷設層6の形成は、例えば吹き付け機などを使用し、土を第1敷設層4の上に所定の厚みで吹き付けることが考えられる。そして、吹き付け後、締め固めを行い、前記第2敷設層6が形成される。
【0030】
この第2敷設層6の形成は、例えば、土を第1敷設層4の上に所定の厚みでまき出し、そして、第1敷設層4である破砕貝殻層と同様にバックホーの排土板などで締固めを行って形成する。その後、さらに、前記締め固めした土の上に例えば、植物の種子を混在させた土を所定の厚みで吹き付け機などを用いて吹き付けを行い、もって第2敷設層6の最終仕上げを行うのである。
【0031】
なお、前記第2敷設層6の最終仕上げ形成に際しては、植物の種子を混在させた土を用いるだけではなく、あらかじめ芝生などの植物が植生された土を貼り付けて前記第2敷設層6の最終仕上げとすることもできる。
【0032】
前述のように第1敷設層4となる破砕貝殻層の上層に覆土として相対的に細粒な土層である第2敷設層6を敷設すると、キャピラリーバリア地盤として、堤防1の内部への降雨浸透抑制機能も常時期待でき、堤防内部を不飽和状態に保つことにもなる。
【0033】
また、第1敷設層4である破砕貝殻層は扁平粒径の敷設物を積層させるべく使用しているため、覆土の混入防止シート等を用いなくても覆土材が混入しにくいとの特長もあり、さらなるキャピラリーバリア効果の保持が期待できる。
【0034】
ところで、前述したように、本発明では、第2敷設層6の形成に際し、例えば吹き付ける土に芝、ミズナなど植物8の種子を混在させて吹き付け、あるいはあらかじめ芝生などの植物が植生された土を貼り付けて前記第2敷設層6の最終仕上げとしている。前記植物8の種子、あるいは、あらかじめ土に植生される植物としては、匍匐茎(ほふくけい、ストロン/stolon)あるいは走出枝(ランナー/Runner)に属するものであることが考えられる。
【0035】
すなわち、地上近くを横に這って伸びる茎を有する植物8であること、あるいは親株から出た茎が地表面を横に這うように長く伸びて、先端の節から芽や根が生じ、子株になる植物8であることが好ましいのである。
芝など匍匐茎(ほふくけい、ストロン/stolon)あるいは走出枝(ランナー/Runner)に属する植物の種子は、土で構成されている第2敷設層6内で発芽する。
【0036】
そして、前記発芽した根、あるいは土にあらかじめ植生された植物の根は、第1敷設層4の表面近くまで根が重力方向に延び、その後は第1敷設層4の表層面這う様に横に根を張る。あるいは親株から出た茎が地表面を横に這うように長く互いに密接して伸び、先端の節から芽や根が生じ、子株を有する。
【0037】
このように、第1敷設層4の表面近くまで重力方向に根が延び、その後は第1敷設層4の表層面近くを這って横方向に延び、植生した根と第1敷設層4の表面近くの土部分が一体化され、一体化された層により強固な中間敷設層7が形成されるものとなる。そして、この中間敷設層7の形成によって、堤防1の裏法面2が越流水によって浸食を抑制して、決壊するまでの時間を引き延ばせるものとなる。
【0038】
すなわち、第2敷設層6内で植生の根が成長し、更に表土層となる第2敷設層6と破砕貝殻層である第1敷設層4の層境界面で、この層境界面と平行して成長した一体化層となった中間敷設層7が形成され、該中間敷設層7と破砕貝殻層である第1敷設層4とが強固な複合層を形成することとなり、これによって、堤防1の裏法面2は越流水によっての浸食が抑制・阻止できるのである(
図4参照)。
【0039】
なお、本発明では、自然材料(貝殻)の堤防裏法面の浸食および保護ブロック裏面の吸出しを抑制する効果を確認することを目的に、小型土槽を用いた室内実験を行った。
【0040】
その結果、堤防の裏法面浅層部または保護ブロック裏面に破砕貝殻層を敷設すると、越水に対する浸食および吸出し抑制効果を発揮することが明確となった。その実験結果を
図5に示す。
この
図5に示すように、堤防の裏法面浅層部または保護ブロック裏面に破砕貝殻層を敷設すると、越水に対する浸食および吸出し抑制効果を発揮することが明確となった。
【0041】
(実験結果)
越水に対する浸食抵抗(堤体の安定性)に関する結果
図5に、越水に伴う経時的な堤体裏法面表層の浸食と堤体変形の違いを示す。Case1の場合、堤体天端から破砕貝殻層をほぼ真下に通過して浸透が進み、浸透水が砂粒子を運ぶことで、堤体の半断面が崩壊した。次に、貝殻粒径が0.85~2.0mm(Case2)の場合、表面流下水により破砕貝殻粒子が表面から徐々に流され、破砕貝殻層の分断・移動に至った後、破砕貝殻は金網で補強した法尻部へ堆積した。破砕貝殻層の移動中は、堤体裏法面浅層の砂粒子が破砕貝殻層の分断部から法尻側へ流出し、堤体の浸食が進んだ。なお、破砕貝殻層の間隙は小さいため、破砕貝殻層の間隙通過による砂粒子流出は抑えられていた。その後、破砕貝殻層の移動、および破砕貝殻層分断部からの砂粒子流出が終わると浸食が弱まった。また、貝殻粒径2.0~4.75mm(Case3)の場合、Case2と同様に、破砕貝殻層以下の浸透水が砂粒子を運んでも、破砕貝殻層の間隙通過による砂粒子流出は抑えられたため、180秒後でも堤体の形状は維持された。さらに、貝殻粒径9.5~19.0mm(Case4)の場合、越流水が天端端部から破砕貝殻層をほぼ真下に通過して浸透した。Case4では、破砕貝殻層の間隙が大きく、砂粒子が破砕貝殻層の間隙を通って、浸透水と共に流出したため、堤体の浸食が進んだ。加えて、Case4では破砕貝殻層が堤体の浸食と共に変形せず、破砕貝殻層と堤体の間の空洞が拡大していく様子が顕著であったが、180秒頃には破砕貝殻層が崩れ、空洞は無くなった。Case4は、Case1と類似した挙動を示したが、同時刻での浸食量については、Case4の方が小さかった。
【0042】
(考察)
無対策のCase1と破砕貝殻層による対策有の他Caseを比較した場合、対策有では、裏法面浅層部の砂粒子の流出を抑えること(堤体の浸食を抑えること)について有意な差が見受けられ、破砕貝殻層の浸食抑制効果の可能性を示すことができた。また、対策有の中で貝殻粒径の異なるCase2~Case4を比較した場合、貝殻粒径が小さいCase2では、表面流下水によって破砕貝殻層自体が浸食・分断した。さらに、貝殻粒径が大きいCase4では、越流水が堤体天端端部から破砕貝殻層をほぼ真下に通過して堤体地盤へ浸透し、無対策のCase1と類似した浸透挙動を示した。加えて、本実験において、中間的な貝殻粒径であるCase3では、越流水の堤防裏法面浅層地盤への浸透の分散を確認できた。以上のような浸透の仕方の違いに伴い、堤体の浸食量にも違いが生じた。このことから、作製する破砕貝殻層の貝殻粒径を変化させると、堤防裏法面浅層地盤への浸透挙動、さらには浅層地盤の耐浸食性や、堤体の経時的な変形挙動も大きく異なることが確認できた。以上より、堤防を決壊させないことが一番であるが、実現性等から、少なくとも決壊までの時間を引き延ばすという効果を得るためには、適した粒径の破砕貝殻を用いることが必要かつ重要であることが明らかになった。
【0043】
(まとめ)
小型土槽越流実験を行い、堤防裏法面浅層の破砕貝殻層の耐浸食性および堤体の変形挙動(安定性)について以下の知見を得た。
1) 破砕貝殻層を敷設しない無対策と敷設した対策有を比較すると、対策有では越流水の堤防裏法面浅層地盤への浸透位置をより下流側へ移動・分散できる場合もあると分かった。
2) 破砕貝殻層を敷設しない無対策と敷設した対策有を比較した場合、対策有では珪砂6号の粒子の流出を抑えることができたと共に、堤体の浸食量を抑制することができた。
3) 貝殻粒径を変化させると、堤防裏法面浅層地盤への浸透の仕方も異なり、粒径により3パターンに大別することができた。
4) 貝殻粒径の違いに伴って堤体の浸食の仕方も異なり、特に粒径2.0~4.75mmの破砕貝殻では、堤体の浸食を最も防ぐことができた。
5) 今回の実験条件に限れば、浸透が分散され、かつ、浸食も抑えられたことから、粒径2.0~4.75mmの破砕貝殻が決壊までの時間を引き延ばすために最も適したものであると分かった。
【0044】
上記のように、堤防裏法面浅層部に破砕貝殻層を敷設する堤防強化策であることで、既存堤防にも比較的容易に適用でき、かつ、維持管理面、環境面および経済性・耐震性にも優れたCB耐越水侵食型堤防の実現性を示すことができた。
【0045】
以上の実験結果は破砕貝殻層についての実験であり、上記したように破砕貝殻層の上に植生の根と土とが結合して形成される中間敷設層7を形成すれば、さらに堤防1の裏法面2を強固にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
前記したように、本発明は河川堤防についての適用のほか、一般的なため池堤防、あるいは鉄道、道路盛土などにおけるガリ浸食の抑制についても適用されるものである。
【符号の説明】
【0047】
1 堤防
2 裏法面
3 扁平粒径形状敷設物
4 第1敷設物
5 積層体層
6 第2敷設層
7 中間敷設層
8 植物