(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035799
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極および非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20230306BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20230306BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230306BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230306BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20230306BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230306BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230306BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20230306BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/136
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/58
H01M4/36 E
H01M4/36 C
H01M10/052
H01M10/0566
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057561
(22)【出願日】2022-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2021141981
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 勇太
(72)【発明者】
【氏名】井上 智哉
(72)【発明者】
【氏名】林 義哉
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM07
5H029BJ04
5H029BJ12
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ05
5H029HJ08
5H050AA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA09
5H050EA08
5H050EA10
5H050EA24
5H050EA28
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA08
(57)【要約】
【課題】急激な短絡が発生した場合でも発熱を抑制する非水電解質二次電池用正極および非水電解質二次電池を提供すること。
【解決手段】本発明に係る非水電解質二次電池用正極は、正極集電体、および、該正極集電体の表面に形成された正極合剤層を含む非水電解質二次電池用正極であって、正極合剤層は、下式(1)に示す一般式で表される層状化合物である第1の正極活物質と、下式(2)に示す一般式で表され、オリビン構造を有するリン酸化合物の表面に、炭素材料からなる被膜が形成される第2の正極活物質と、導電材と、を含み、第1の正極活物質のメディアン径が、第2の正極活物質のD90よりも大きい。
Li
aNi
xCo
yM1
1-x-yO
2(0<a≦1.2、0<x≦0.9、0<y≦0.5、0<x+y<1)・・・(1)
LiMn
zM2
bFe
1-z-bPO
4(0<z≦0.9、0≦b≦0.1、0<z+b<1)・・・(2)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体、および、該正極集電体の表面に形成された正極合剤層を含む非水電解質二次電池用正極であって、
前記正極合剤層は、
下式(1)に示す一般式で表される層状化合物である第1の正極活物質と、
LiaNixCoyM11-x-yO2(ただし、0<a≦1.2、0<x≦0.9、0<y≦0.5、0<x+y<1)・・・(1)
下式(2)に示す一般式で表され、オリビン構造を有するリン酸化合物の表面に、炭素材料からなる被膜が形成される第2の正極活物質と、
LiMnzM2bFe1-z-bPO4(ただし、0<z≦0.9、0≦b≦0.1、0<z+b<1)・・・(2)
導電材と、
を含み、
前記第1の正極活物質のメディアン径が、前記第2の正極活物質のD90よりも大きい、
ことを特徴とする非水電解質二次電池用正極。
ただし、上式(1)において、M1は、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Mn、Ca、Sr、Cr、Fe、B、Ga、In、Si、Mo、Y、Sn、Cu、Ag、Ce、Pr、Ge、Bi、Ba、Er、La、Sm、Yb、Sb、Bi、SおよびZnから選ばれる少なくとも1種であり、
上式(2)において、M2は、Ni、Co、Ti、Cu、Zn、Mg、Zr、Ca、Y、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd、Gd、Al、GaおよびSrから選ばれる少なくとも1種である。
【請求項2】
前記第2の正極活物質は、タップ密度が、0.70g/cc以上1.00g/cc以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項3】
前記第2の正極活物質のメディアン径は、前記第1の正極活物質のメディアン径の1/100以上1/5以下である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
前記第2の正極活物質のメディアン径は、0.1μm以上1.0μm以下である、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項5】
前記第1の正極活物質と前記第2の正極活物質との総重量に対する前記第2の正極活物質の重量の割合は、10%以上30%以下である、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一つに記載の非水電解質二次電池用正極と、
負極と、
セパレータと、
リチウム塩および非水溶媒を含む非水電解液と、
を備えることを特徴とする非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極および非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、電解質中のイオンが電気伝導を担っている。この非水電解質二次電池の一つであるリチウム二次電池は、デジタルカメラ、ノート型パソコン等の小型電子機器、車両等の電源として搭載されている。リチウム二次電池は、正極、負極、セパレータで構成されている。このうち、正極は、正極集電体と、正極集電体の表面に塗工され、正極活物質、導電材および結着材を含む正極合剤層とを備える。
【0003】
非水電解質二次電池の正極活物質には、LiFePO4もしくはその一部をMnで置換したオリビン化合物、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiCoNiO2、LiCoMO2、LiNiMO2、これら正極活物質の一部元素が異種元素で置換されたもの、または、Co、NiもしくはMnを含む三成分系の層状化合物等が用いられる。特に、層状化合物は、高容量かつ高電圧であるため、エネルギー密度が重視される用途に適している。しかし層状化合物は充電状態における熱安定性が劣るため、非水電解質二次電池とした場合に、短絡したときに熱暴走による発熱が起こりやすくなり安全性が十分でないことがある。そのため、非水電解質二次電池の安全性を確保するために、層状化合物にLiFePO4、またはその一部をMnで置換したオリビン化合物を混合する技術が開発されてきた。なかでもLiFePO4の一部をMnで置換したオリビン化合物は作動電位が層状化合物と大きく変わらないことから、混合した場合にエネルギー密度を大幅に下げることなく安全性を確保しやすくなることが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1では、熱的安定性を得るため、正極活物質において、体積分率で5~100%を占め、粒子が0.1~3μm程度の粒子径を有するオリビン化合物と、リチウム金属酸化物等の層状化合物とを混合している。また、特許文献2では、正極活物質において、層状化合物と、層状化合物よりも平均粒径が小さいオリビン化合物とを混合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6813487号公報
【特許文献2】特許第5574239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本願発明者が検討を行った結果、近年の非水電解質二次電池に求められるような急激な短絡に対する安全性という観点では、これらの先行技術では十分でないことがあると判明した。特に組電池として複数の非水電解質二次電池を並列接続して用いる場合には組電池全体での抵抗が小さくなるため、同じ短絡の仕方であっても非水電解質二次電池を単体で用いる場合と比較して急激に短絡電流が流れやすい傾向があり、対策が求められてきた。具体的には、非水電解質二次電池の温度が、セパレータのメルトダウンが確実に発生するような高温になると、非水電解質二次電池内部でさらなる短絡が発生し連鎖的な発熱に繋がってしまう。このため、急激な短絡が発生した場合でも発熱を抑制できる非水電解質二次電池の開発が望まれている。
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、急激な短絡が発生した場合でも発熱を抑制する非水電解質二次電池用正極および非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る非水電解質二次電池用正極は、正極集電体、および、該正極集電体の表面に形成された正極合剤層を含む非水電解質二次電池用正極であって、前記正極合剤層は、下式(1)に示す一般式で表される層状化合物である第1の正極活物質と、下式(2)に示す一般式で表され、オリビン構造を有するリン酸化合物の表面に、炭素材料からなる被膜が形成される第2の正極活物質と、導電材と、を含み、前記第1の正極活物質のメディアン径が、前記第2の正極活物質のD90よりも大きいことを特徴とする。
LiaNixCoyM11-x-yO2(ただし、0<a≦1.2、0<x≦0.9、0<y≦0.5、0<x+y<1)・・・(1)
LiMnzM2bFe1-z-bPO4(ただし、0<z≦0.9、0≦b≦0.1、0<z+b<1) ・・・(2)
ただし、上式(1)において、M1は、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Mn、Ca、Sr、Cr、Fe、B、Ga、In、Si、Mo、Y、Sn、Cu、Ag、Ce、Pr、Ge、Bi、Ba、Er、La、Sm、Yb、Sb、Bi、SおよびZnから選ばれる少なくとも1種であり、
上式(2)において、M2は、Ni、Co、Ti、Cu、Zn、Mg、Zr、Ca、Y、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd、Gd、Al、GaおよびSrから選ばれる少なくとも1種である。
【0009】
また、本発明に係る非水電解質二次電池用正極は、上記の発明において、前記第2の正極活物質は、タップ密度が、0.70g/cc以上1.00g/cc以下であるとよい。
【0010】
また、本発明に係る非水電解質二次電池用正極は、上記の発明において、前記第2の正極活物質のメディアン径は、前記第1の正極活物質のメディアン径の1/100以上1/5以下であるとよい。
【0011】
また、本発明に係る非水電解質二次電池用正極は、上記の発明において、前記第2の正極活物質のメディアン径は、0.1μm以上1.0μm以下であるとよい。
【0012】
また、本発明に係る非水電解質二次電池用正極は、上記の発明において、前記第1の正極活物質と前記第2の正極活物質との総重量に対する前記第2の正極活物質の重量の割合は、10%以上30%以下であるとよい。
【0013】
また、本発明に係る非水電解質二次電池は、上記の発明に係る非水電解質二次電池用正極と、負極と、セパレータと、リチウム塩および非水溶媒を含む非水電解液と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、急激な短絡であっても熱暴走による発熱を抑制しうる非水電解質二次電池用正極および非水電解質二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1に係る非水電解質二次電池用正極を備える非水電解質二次電池の構成を説明するための断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態2に係る非水電解質二次電池用正極を備える非水電解質二次電池の構成を説明するための分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。また、本実施形態には種々の変更または改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0017】
詳しくは後述するが、
図1は、ラミネート型非水電解質二次電池の断面図であり、
図2は、コイン型非水電解質二次電池の構成を説明するための分解斜視図である。
なお、
図1や
図2では実施の形態の一例としてラミネート型非水電解質二次電池やコイン型非水電解質二次電池の場合の構成例を示しているが、本発明における非水電解質二次電池の形状は特に制限されず、扁平型、円筒型、角型、もしくは、コイン型などであってもよい。また、非水電解質二次電池の外装体も特に限定されず、ラミネートフィルム、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレスなど公知のものを使用することができる。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る非水電解質二次電池用正極を備える非水電解質二次電池の構成を説明するための断面図である。
図1に示す非水電解質二次電池1は、正極と、負極と、セパレータとを組として、複数組を積層してなる積層型の非水電解質二次電池である。
【0019】
非水電解質二次電池1は、ラミネートフィルムからなる袋状の外装体2を備える。外装体2内には、積層構造の電極群3が収納されている。ラミネートフィルムは、例えば複数枚(例えば2枚)のプラスチックフィルムを重ね、隣り合うプラスチックフィルムの間にアルミニウム箔等の金属箔を挟んで積層した構造を有する。2枚のプラスチックフィルムのうち、一方のプラスチックフィルムは熱融着性樹脂フィルムが用いられる。外装体2は、2枚のラミネートフィルムを熱融着性樹脂フィルムが互いに対向するように重ね、これらのラミネートフィルム間に電極群3と、非水電解液とを収納し、電極群3周辺の2枚のラミネートフィルム部分を互いに熱融着して封止することにより、電極群3および非水電解液を気密に収納する。
【0020】
電極群3は、正極4と、負極5と、セパレータ6と、正極リード7と、正極タブ8と、負極リード9と、負極タブ10とを有する。セパレータ6は、正極4と負極5との間に介在する。電極群3は、負極5が最外層に位置するとともに、負極5と外装体2の内面の間にセパレータ6が位置するように複数積層した構造を有する。
【0021】
正極4は、正極集電体41と、当該正極集電体41の一面または両面に形成される正極合剤層42とから構成される。
【0022】
正極集電体41は、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、チタン、その他合金等を用いて構成される。なかでも、電子伝導性や電池作動電位の観点からアルミニウムを用いることが好ましい。
【0023】
正極合剤層42は、第1の正極活物質および第2の正極活物質と、導電材と、結着材とを含む。
第1および第2の正極活物質は、それぞれリチウムを吸蔵および脱離することが可能である。
【0024】
第1の正極活物質は、下式(1)に示す一般式で表される層状化合物である。層状化合物は、シート状の粒子が層をなして構成されるリチウム(Li)・ニッケル(Ni)・コバルト(Co)含有複合金属酸化物である。
LiaNixCoyM11-x-yO2 ・・・(1)
ただし、一般式(1)において、M1は、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、リン(P)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、モリブデン(Mo)、イットリウム(Y)、スズ(Sn)、銅(Cu)、銀(Ag)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、バリウム(Ba)、エルビウム(Er)、ランタン、(La)、サマニウム(Sm)、イッテルビウム(Yb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、硫黄(S)および亜鉛(Zn)から選ばれる少なくとも1種であり、0<a≦1.2、0<x≦0.9、0<y≦0.5、0<x+y<1を満たす。
【0025】
第2の正極活物質は、下式(2)に示す一般式で表され、オリビン構造を有するリン酸化合物(オリビン化合物)の表面に、炭素材料からなる被膜が形成される化合物である。
LiMnzM2bFe1-z-bPO4 ・・・(2)
ただし、一般式(2)において、M2はニッケル(Ni)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、カルシウム(Ca)、イットリウム(Y)、モリブデン(Mo)、バリウム(Ba)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)およびストロンチウム(Sr)から選ばれる少なくとも1種であり、0<z≦0.9、0≦b≦0.1、0<z+b<1を満たす。
【0026】
炭素材料は、導電性の炭素材料である。第2の正極活物質は、第2の正極活物質の表面に存在する炭素材料からなる被膜によって、少なくとも一部の一次粒子の表面の少なくとも一部が炭素材料で被膜されている。炭素の純度や炭素被膜の厚さは任意に選択できるが、第2の正極活物質全体の重量に対して炭素材料の重量の割合が0.1%以上5%以下であるように制御することが好ましい。
【0027】
また、第2の正極活物質のタップ密度が0.7g/cc以上1.00g/cc以下であることが好ましく、0.8g/cc以上であることがさらに好ましい。タップ密度が1.00g/cc以下となっている場合は第2の正極活物質の一次粒子が高密度な造粒体または二次粒子を形成しておらず嵩高い形状であるため、第2の正極活物質が第1の正極活物質の周囲を従来のものより隙間なく取り囲むことができ、短絡した場合に第1の正極活物質と非水電解液とが直接接触することによる発熱反応を低減することができると考えられる。その結果、短絡時の熱暴走による発熱を抑制することができる。一方、タップ密度が1.00g/ccより大であると第2の正極活物質が高密度に造粒した状態となっているため第1の正極活物質の周囲を第2の正極活物質が取り囲みにくくなると考えられ、短絡時の非水電解質二次電池の温度上昇が防げず、膨れ、開裂や破裂も起こりやすくなる。また、タップ密度が0.70g/cc未満になると、正極合剤層42のスラリー作製時の第2の正極活物質の分散性が低下してダマになりやすく、正極作製時のスジ引きを誘発するため、均一な品質の正極を作製することが難しくなる。また、タップ密度が0.80g/cc以上であればスラリー作製時の第2の正極活物質の分散性がより良好となる。
【0028】
第2の正極活物質のメディアン径は、第1の正極活物質のメディアン径の1/100以上1/5以下であることが好ましい。また、第2の正極活物質のメディアン径は、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましい。これらの要件を満たす場合は、さらに第1の正極活物質の周囲を第2の正極活物質が従来のものより隙間なく取り囲むことができ、短絡時の熱暴走による発熱をより抑制することができると考えられる。そのため、短絡時に非水電解質二次電池の温度が上がりにくくなるだけでなく、温度上昇による第1の正極活物質表面での電解液分解による膨れ、開裂や破裂なども起こりにくくなる。ここで、第2の正極活物質のメディアン径が第1の正極活物質のメディアン径と比して極端に小さいと、正極合剤層42のスラリー作製時の第2の正極活物質の分散性が低下してダマになりやすく、正極作製時のスジ引きを誘発するため、均一な品質の正極を作製することが難しくなる。また、第2の正極活物質のメディアン径が0.1μmに満たないようにしようとすると、第2の正極活物質自体の結晶性が極端に低くなりやすいため材料合成そのものが困難となる。第2の正極活物質のメディアン径が、第1の正極活物質のメディアン径の1/20以上であるか、第2の正極活物質のメディアン径が0.5μm以上であればスラリー作製時の第2の正極活物質の分散性がより良好となる。なお、本明細書中において、メディアン径をD50と記載することもある。
【0029】
正極合剤層42において、第1の正極活物質のメディアン径は、第2の正極活物質のD90よりも大きい。レーザ回折・散乱法などによって測定される、第1の正極活物質のメディアン径が第2の正極活物質のD90よりも小さい場合、第1の正極活物質よりも粒子径の大きい第2の正極活物質の割合が多くなってしまい、第1の正極活物質の周囲を第2の正極活物質が隙間なく取り囲むことができなくなってしまう。その結果、第1の正極活物質が電解液と接触する面積が大きくなるため、短絡時の熱暴走が起きやすくなりセルの発熱量が増大する。
【0030】
特許文献2を含めた従来技術では、第1の正極活物質と第2の正極活物質とのメディアン径に着目されることが多かった。しかし、メディアン径の定義上、実際にはメディアン径よりも粒子径の大きい第2の正極活物質が50%も存在するため、単にメディアン径に着目するのみでは第1の正極活物質よりも粒子径の大きい第2の正極活物質が多数存在してしまうことがある。しかし、本発明では第2の正極活物質のD90に着目したため、大多数の第2の正極活物質が第1の正極活物質よりも粒子径が小さい状態を確保することができ、上述のように第1の正極活物質の周囲を第2の正極活物質が隙間なく取り囲む構造を実現することができる。
【0031】
なお、上述したメディアン径やD90、タップ密度は非水電解質二次電池を作製した後の正極合剤層42内における値を指しているが、正極を作製する前の第1の正極活物質および第2の正極活物質のメディアン径やD90、タップ密度と概ね同等の値となるため、作製前の第1の正極活物質および第2の正極活物質のメディアン径やD90、タップ密度の値が本発明における要件を満たしていれば作製された正極も本発明の要件を満たすと考えることができる。
【0032】
また、作製した後の正極合剤層における第1の正極活物質および第2の正極活物質のメディアン径やD90、タップ密度の値が本発明の要件を満たしているかどうか、および、第1の正極活物質と第2の正極活物質との総重量に対する第2の正極活物質の重量の割合は、例えば下記の方法によって確かめることができる。アルゴンを充填したグローブボックスで非水電解質二次電池を分解し、正極4を取り出す。この正極4を適切な溶媒(例えばジメチルカーボネートなど)で洗浄した後に真空乾燥を行って溶媒を除去する。次いで正極をN-メチル-2-ピロリドンなどの溶媒に浸漬させて超音波をかけることで、正極合剤層42を正極集電体41から分離できる。分離した正極合剤層42が分散された溶媒を遠心分離にかけることによって、正極合剤層42内の各物質を分離することができる。分離された第1の正極活物質および第2の正極活物質について、例えばレーザ回折・散乱法でメディアン径やD90を測定することができ、例えば容器に入れ、容器をタップして粒子間の隙間を詰めた体積で重量を割った値を測定することでタップ密度を測定することができる。また、分離した第1の正極活物質および第2の正極活物質の重量から、総重量に対する第2の正極活物質の重量の割合を算出することができる。なお、上記で用いる非水電解質二次電池は任意の工程で初期活性化や充放電サイクルが行われていてもよく、正極4を取り出す際には事前に製造者が想定している下限電圧まで完全に放電した状態にすることが好ましい。
【0033】
また、第1の正極活物質と第2の正極活物質との総重量に対する第2の正極活物質の重量の割合は、10%以上30%以下であることが好ましい。第2の正極活物質の重量比が30%を超えると、非水電解質二次電池1の充放電曲線が多段となる傾向が強くなる(変曲点が増大する)ため、充放電時の電圧値や電流値から充電深度や劣化状態の推定が行いにくくなり実用性が低下する。また、第2の正極活物質の重量比が10%を下回ると、十分に第1の正極活物質の周囲を第2の正極活物質が取り囲みづらくなると考えられる。第2の正極活物質による第1の正極活物質の被覆が不十分であると、第1の正極活物質表面において電解液分解が生じ、短絡時に熱暴走が起きやすくなる。
【0034】
導電材は、正極における電子の伝導を補助する。導電材は、特に限定されるものではなく、公知のものを使用することができる。導電材の例は、アセチレンブラック、ケッチェンブラックのようなカーボンブラックカーボンブラックなどの導電性カーボン粉や、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン、活性炭、黒鉛などが挙げられる。導電材は、一種類の材料からなるものであってもよいし、複数種類の材料(例えば、第1の導電材および第2の導電材)からなるものであってもよい。
【0035】
結着材は、正極集電体や正極活物質や導電材を結びつける。結着材は、特に限定されるものではなく、公知または市販のものを使用することができる。結着材として、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PolyVinylideneDiFluoride:PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PolyTetraFluoroEthylene:PTFE)、ポリビニルピロリドン(PolyVinylPyrrolidone:PVP)、ポリ塩化ビニル(PolyVinylChloride:PVC)、ポリエチレン(PolyEthylene:PE)、ポリプロピレン(PolyPropylene:PP)、エチレン-プロピレン共重合体、スチレンブタジエンゴム(Styrene-Butadiene Rubber:SBR)、ブタジエンゴム、ポリビニルアルコール(PolyvinylAlcohol:PVA)、カルボキシメチルセルロース(CarboxyMethylCellulose:CMC)、ブチルゴム、ポリ(メタ)アクリレート(PolyMethylMethAcrylate:PMMA)、ポリエチレンオキサイド(PolyeEthyleneOxide:PEO)、ポリプロピレンオキサイド(PolypropyleneOxide:PO)、ポリエピクロロヒドリン(Epichlorohydrin)、ポリフォスファゼン(Polyphosphazene)、ポリアクリロニトリル(Polyacrylonitrile)、ヘキサフルオロプロピレン(hexanuopropylene:HFP)およびこれらの共重合体などのうちの1つ、または2つ以上の混合物等が挙げられる。
【0036】
負極5は、負極集電体51と、当該負極集電体51の一面または両面に形成された負極活物質を含む負極合剤層52または金属リチウム(図示せず)とから構成される。
【0037】
負極集電体51としては特に限定されないが、金属を用いることが好ましい。そのような金属は、例えばアルミニウム箔や銅が好適であり、用途によっては多孔質アルミニウム集電体等も用いられる。なかでも、電子伝導性や電池作動電位の観点から銅が好ましい。
【0038】
負極合剤層52は、例えばリチウム、リチウム合金、チタンニオブ合金、または黒鉛、非晶質炭素、遷移金属複合酸化物(例えばLi4Ti5O12、またはTiNb2O7等)、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、または、シリコンから選ばれる少なくとも1種以上を活物質として含む。これらの中でも、黒鉛は金属リチウムに極めて近い作動電位を有し、高い作動電圧で充放電を行うことが可能であり、更にサイクル特性に優れるため、好ましい。また、黒鉛と他の負極活物質を組み合わせて用いてもよい。また、負極合剤層52は、導電材、結着材を含む。この導電材および結着材は、正極4において用いられる材料と同等の材料を用いることができる。
【0039】
セパレータ6は、正極と負極との間に設けられ、非水電解液の成分が通過可能な多孔質性を有する。セパレータ6は、例えばポリマーや繊維からなる多孔性シートのセパレータや不織布セパレータ等を用いて構成される。セパレータ6は、ポリエチレンやポリプロピレン、アラミド、ポリイミドなどからなる素材でできていてもよく、これらを含む異なる素材の複数の層を有してもよいが、発熱時のシャットダウン機能を付与するという観点からポリエチレンを含む層を有していることが好ましい。セパレータ6の孔径は0.01~10μmであることが好ましく、厚さは5~30μmであることが好ましい。また、セパレータ6は、耐熱絶縁層としてのセラミック層が多孔質基体に積層されたものであってもよい。非水電解質に固体電解質が用いられる場合、セパレータ6は存在しないこともある。
【0040】
正極リード7は、正極合剤層42の例えば
図1の下側にそれぞれ延出する。各正極リード7は、一例として、正極集電体41の正極合剤層42が未塗布の部分である。各正極リード7は、外装体2内において正極合剤層42側とは反対側の端部で束ねられ、互いに接合されている。
【0041】
正極タブ8は、一端が正極リード7に接合され、他端が外装体2の封止部を経て外部に延出する。
【0042】
負極リード9は、負極合剤層52の例えば
図1の上側にそれぞれ延出する。正極リード7と接触しなければ、正極リード7と同じ方向に延出しても良い。各負極リード9は、一例として、負極集電体51の負極合剤層52が未塗布の部分である。各負極リード9は、外装体2内において負極合剤層52側とは反対側の端部で束ねられ、互いに接合されている。
【0043】
負極タブ10は、一端が負極リード9に接合され、他端が外装体2の封止部を経て外部に延出する。
【0044】
非水電解質には、非水電解液や固体電解質を用いることができる。特に非水電解液について記載する。非水電解液は、外装体2内に封入されている。外装体2の非水電解液注入箇所は、非水電解液の注入後に封止される。非水電解液は、電解質および非水溶媒を含む。
【0045】
電解質は、特に限定されるものではなく、非水電解質二次電池で一般に用いられるリチウム塩を用いることができる。例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CmF2m+1SO2)(CnF2n+1SO2)(m、nは1以上の整数)、LiC(CpF2p+1SO2)(CqF2q+1SO2)(CrF2r+1SO2)(p、q、rは1以上の整数)、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、リチウムビスオキサラートボラート等を用いることができる。これらの電解質は、一種類で使用してもよく、二種類以上組み合わせて使用してもよい。また、この電解質は、リチウムイオン伝導性や電解液の粘性、導電率の温度特性などの観点から、0.1~3モル/L、好ましくは0.5~1.5モル/Lの濃度にすることが望ましい。
【0046】
非水溶媒は、主成分として環状カーボネートおよび/または鎖状カーボネートを含有する。環状カーボネートは、エチレンカーボネート(EthyleneCarbonate:EC)、プロピレンカーボネート(PropyleneCarbonate:PC)、およびブチレンカーボネート(ButyleneCarbonate:BC)から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。鎖状カーボネートは、ジメチルカーボネート(DiMethylCarbonate:DMC)、ジエチルカーボネート(DiEthylCarbonate:DEC)、およびエチルメチルカーボネート(EthylMethylCarbonate:EMC)等から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。環状カーボネートは、電解質成分の解離度に関係し、鎖状カーボネートは、電解液粘度に関係している。
【0047】
また、充放電時の還元分解による負極活物質表面上への良質な被膜形成などを目的として、上記リチウム塩以外の添加物を含んでもよい。添加物としては特に限定されないが、例えば、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、1,3,2-ジオキサチオラン2,2-ジオキシド(MMDS)、1,5,2,4-ジオキサジチアン2,2,4,4-テトラオキシド、亜リン酸トリス(トリメチルシリル)、1-プロペン1,3-スルトン、Li2PO2F2、などが挙げられる。これらの添加物は単独または二つ以上混合して使用してもよい。また、これ以外の添加物と混合して用いてもよい。さらに、これ以外の添加物を単独で用いてもよい。
【0048】
本実施の形態1では、非水電解質二次電池1の正極4において、正極合剤層42が、一般式(1)で表される第1の正極活物質と、一般式(2)で表される化合物を含む第2の正極活物質とを有し、第1の正極活物質のメディアン径が、第2の正極活物質のD90よりも大きくなるようにした。正極合剤層42において、上記の条件を満たすことによって、大多数の第2の正極活物質が第1の正極活物質よりも小さい状態を確保することができ、第2の正極活物質が第1の正極活物質をより確実に被覆して第1の正極活物質表面における電解液分解が抑制されるため、短絡時の熱暴走が起きにくくなる。本実施の形態1によれば、急激な短絡が発生した場合でも発熱を抑制する正極4および非水電解質二次電池1を得ることができる。
【0049】
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態2に係る非水電解質二次電池用正極を備える非水電解質二次電池の構成を説明するための分解斜視図である。非水電解質二次電池1Aは、ケース110と、板ばね111と、正極集電体112と、正極合剤層113と、セパレータ114と、負極115と、ガスケット116と、キャップ117とを備える。正極集電体112および正極合剤層113によって正極118が構成される。
【0050】
非水電解質二次電池1Aは、カシメ等によってケース110とキャップ117とが固着され、内部には非水電解液が充填される。非水電解質二次電池1Aでは、ケース110、ガスケット116およびキャップ117によって液密に封止される。また、正極集電体112、正極合剤層113、セパレータ114および負極115は、板ばね111によってキャップ117側に付勢される。これにより、各部材が互いに密着した状態が維持される。
【0051】
正極集電体112は、正極集電体41と同様の材料を用いて構成される。
正極合剤層113は、正極合剤層42と同様の構成を有する。
【0052】
セパレータ114は、正極と負極115との間に設けられ、多孔質性の円板状をなす。セパレータ114は、セパレータ6と同様の構成を有する。
【0053】
非水電解質は、実施の形態1の非水電解質を用いることができる。
【0054】
負極115は、負極5と同様の構成を有する。
【0055】
本実施の形態2では、非水電解質二次電池1Aの正極118において、正極合剤層113が、一般式(1)で表される第1の正極活物質と、一般式(2)で表される化合物を含む第2の正極活物質とを有し、第1の正極活物質のメディアン径が、第2の正極活物質のD90よりも大きくなるようにした。正極合剤層113において、上記の条件を満たすことによって、第2の正極活物質が第1の正極活物質を被覆し、第1の正極活物質表面における電解液分解が抑制されるため、短絡時の熱暴走が起きにくくなる。本実施の形態2によれば、急激な短絡が発生した場合でも発熱を抑制する正極118および非水電解質二次電池1Aを得ることができる。
【実施例0056】
以下に、実施例を例示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0057】
<正極の作製方法>
第1の正極活物質としてLiNi0.5Co0.2Mn0.3O2(NCM)を75.2重量%、第2の正極活物質としてLiMn0.7Fe0.3PO4(LMFP)を18.8重量%、第1の導電材として黒鉛を2重量%、第2の導電材としてアセチレンブラックを3重量%、結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を1重量%、および粘度調整溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量混合して、正極活物質スラリーを調製した。第1の正極活物質と第2の正極活物質との総重量に対する第2の正極活物質の重量の割合は、前述のような分離による計算も可能であるが、スラリー作製時の第1の正極活物質と第2の正極活物質の重量%から計算することもできる。
【0058】
得られた正極活物質スラリーを、正極集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に塗布、乾燥して正極合剤層を形成した。このときの正極合剤層の片面あたりの塗工量は99g/m2とした。続いて正極にプレス加工を施して、正極合剤層の密度を2.7g/cm3とした。その後に、正極合剤層が塗工されている部分の長方形の一辺から塗工されていない部分が正極リードとして矩形状に突出した形状になるように切断した。突出部は、正極合剤層が形成されず、正極リードとして機能する。
【0059】
<負極の作製方法>
負極活物質として黒鉛を96.7重量%、導電材としてアセチレンブラックを0.3重量%、結着材としてスチレンブタジエンゴムを1.5重量%、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを1.5重量%、および粘度調整溶媒としてイオン交換水を適量混合して、負極活物質スラリーを調製した。
【0060】
調製した負極活物質スラリーを、負極集電体である厚さ10μmの銅箔の両面に塗布、乾燥して負極合剤層を形成し、負極を作製した。このときの負極合剤層の片面あたりの塗工量は58g/m2とした。続いて、負極にプレス加工を施して負極合剤層の密度を1.2g/cm3とした。その後に、負極合剤層が形成されている部分の長方形の一辺から塗工されていない部分が負極リードとして矩形状に突出するように切断した。突出部は、負極合剤層が形成されず、負極リードとして機能する。
【0061】
<非水電解液の調製>
エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジメチルカーボネートを体積比2:5:3の割合で混合した混合溶媒に、リチウム塩としてLiPF6を1.3mol/L、添加物としてビニレンカーボネートを3重量%の割合で溶解させたものを非水電解液として用いた。
【0062】
<電極素子の作製>
次に、正極集電リードを有する正極と、負極集電リードを有する負極とを、つづら折り状に繋がったセパレータに交互に積層することにより電極素子を作製した。セパレータは、ポリエチレンからなる基材層の両面にポリプロピレンからなる表面層が配置されているもの(PE/PP/PE)を用いた。セパレータの厚さは20μmである。続いて、正極リードおよび負極リードをそれぞれ集束して、集束した正極リードに正極端子を超音波溶接により接続し、集束した負極リードに負極端子を超音波溶接により接続した。作製した電極素子は、厚さが3.0mm、定格容量が4.8Ahであった。なお、ここでいう「定格容量」は、上限電圧4.2V、電流値0.5Cの定電流―定電圧充電(カットオフ電流:0.05C)を行った後に下限電圧2.7V、電流値0.2Cで定電流放電を行ったときの放電容量を指す。
【0063】
<非水電解質二次電池の作製>
外装体として、ポリオレフィンからなる熱融着樹脂部と、アルミニウム箔からなる金属層と、ナイロン樹脂およびポリエステル樹脂からなる保護層とがこの順番で積層した構造を有するラミネートフィルムを2枚用意した。2枚のラミネートフィルムの熱融着樹脂部を互いに対向して配置して、2つの収容凹部内に電極群が収納されるように、ラミネートフィルムの接着面が合わさるように重ね合わせた。2枚のラミネートフィルムの周縁間には、各端子の熱融着樹脂部が形成される部分が通過し、各端子の一部が外部に露出するように電極群を配置した。この状態で、それらラミネートフィルムの各タブが延出する2辺を含む3辺において、ラミネートフィルムの周縁同士の熱融着樹脂部を熱融着した。続いて、外装体の熱融着していない1辺から、上記にて調製した電解液を注入した。次に、減圧環境下で、外装体の残りの1辺を熱融着して、非水電解質二次電池(セル)を作製した。
【0064】
<粒子径の測定>
NCM、LMFPのメディアン径は、JIS規格Z8825:2013に記載のレーザ回折・散乱法によって測定された相対粒子量が50%を示す粒子径(D50)の値を用いた。また、同様にして、LMFPのD90は、相対粒子量が90%を示す粒子径(D90)の値を用いた。測定には、レーザ回折式粒子径分布測定装置SALD-2300(株式会社島津製作所製)を使用した。
【0065】
<タップ密度>
JIS規格Z2504:2020の記載の通り、粉体状のLMFPを容器に入れた。その後、容器を100回タップして粒子間の隙間を詰めた体積で重量を割った値を測定し、これをタップ密度とした。測定には、振とう比重測定器を用いた。
【0066】
<釘刺し試験>
作製した非水電解質二次電池(セル)は事前に上限電圧4.2V、電流値0.5Cの定電流―定電圧充電(カットオフ電流:0.05C)を行った。このセルに対し、釘刺し速度を0.1mm/秒、釘刺し深さを貫通直前まで(3.0mm)としてセル中央に釘(ステンレス製、直径3mm)を刺し、釘刺し後のセルの表面温度の最大値(以下、「表面温度」と表記する)を測定した。また、釘刺しの1時間後にセルの外観を確認し、釘刺し部分以外における開裂の有無を確認した。本試験は、国際規格IEC TR 62660-4を参考にしながらも、国際規格IEC TR 62660-4より発熱しやすいように釘刺し深さを深くしてより多くの正極、負極が同時に短絡するような条件を設定しており、非常に激しい短絡状態を想定した試験となっている。
【0067】
(実施例1)
正極合剤層として表1に示す物性値を有する正極を用いて非水電解質二次電池を作製した。釘刺し試験後、セルの開裂はなく、表面温度は78℃であった。
【表1】
【0068】
(実施例2)
正極合剤層として表1に示す物性値を有する正極を用いて非水電解質二次電池を作製した。LMFPのD90が3.4μm、D50が1.0μm、タップ密度が1.04g/ccである以外は、実施例1と同様である。釘刺し試験後、セルが開裂し、表面温度は154℃であった。
【0069】
(実施例3)
正極合剤層として表1に示す物性値を有する正極を用いて非水電解質二次電池を作製した。LMFPのD90が4.5μm、タップ密度が0.81g/ccである以外は、実施例1と同様である。釘刺し試験後、セルの開裂はなく、表面温度は99℃であった。
【0070】
(実施例4)
正極合剤層として表1に示す物性値を有する正極を用いて非水電解質二次電池を作製した。NCMのD50が4.3μm、LMFPのD90が3.7μmである以外は、実施例1と同様である。釘刺し試験後、セルが開裂し、表面温度は160℃であった。
【0071】
(実施例5)
正極合剤層として表1に示す物性値を有する正極を用いて非水電解質二次電池を作製した。LMFPのD90が4.9μm、LMFPのD90が3.7μmである以外は、実施例1と同様である。釘刺し試験後、セルの開裂はなく、表面温度は101℃であった。
【0072】
(実施例6)
正極合剤層として表1に示す物性値を有する正極を用いて非水電解質二次電池を作製した。LMFPのD90が9.5μm、D50が4.3μm、タップ密度が0.91g/ccである以外は、実施例1と同様である。釘刺し試験後、セルが開裂し、表面温度は122℃であった。
【0073】
(実施例7)
正極合剤層として表1に示す物性値を有する正極を用いて非水電解質二次電池を作製した。LMFPのD90が4.3μm、D50が1.1μm、タップ密度が0.88g/ccである以外は、実施例1と同様である。釘刺し試験後、セルが開裂し、表面温度は131℃であった。
【0074】
(実施例8)
正極合剤層として表1に示す物性値を有する正極を用いて非水電解質二次電池を作製した。LMFPのD90が7.6μm、D50が0.8μm、タップ密度が0.76g/ccである以外は、実施例1と同様である。釘刺し試験後、セルの開裂はなく、表面温度は84℃であった。
【0075】
(実施例9)
正極合剤層として表1に示す物性値を有する正極を用いて非水電解質二次電池を作製した。LMFPのD90が6.9μm、D50が0.8μm、タップ密度が0.69g/ccである以外は、実施例1と同様である。釘刺し試験後、セルの開裂はなく、表面温度は87℃であった。しかし、正極には多数のスジ引きがあり、連続生産に不適であり、工業的には望ましくない状態であった。
【0076】
(実施例10)
正極合剤層として表1に示す物性値を有する正極を用いて非水電解質二次電池を作製した。NCMのD50が14.0μm、LMFPのD90が7.6μm、D50が0.8μm、タップ密度が0.76g/ccである以外は、実施例1と同様である。釘刺し試験後、セルの開裂はなく、表面温度は90℃であった。
【0077】
(実施例11)
正極合剤層として表1に示す物性値を有する正極を用いて非水電解質二次電池を作製した。NCMのD50が51.4μm、LMFPのD90が7.2μm、D50が0.5μm、タップ密度が0.79g/ccである以外は、実施例1と同様である。釘刺し試験後、セルの開裂はなく、表面温度は75℃であった。しかし、正極には多数のスジ引きがあり、連続生産に不適であり、工業的には望ましくない状態であった。
【0078】
(実施例12)
正極合剤層として表1に示す物性値を有する正極を用いて非水電解質二次電池を作製した。LMFPのD90が7.2μm、D50が0.5μm、タップ密度が0.79g/ccである以外は、実施例1と同様である。釘刺し試験後、セルの開裂はなく、表面温度は86℃であった。
【0079】
(実施例13)
正極合剤層として表1に示す物性値を有する正極を用いて非水電解質二次電池を作製した。LMFPの割合が5%である以外は、実施例1と同様である。釘刺し試験後、セルは開裂し、表面温度は136℃であった。
【0080】
(実施例14)
正極合剤層として表1に示す物性値を有する正極を用いて非水電解質二次電池を作製した。LMFPの割合が10%である以外は、実施例1と同様である。釘刺し試験後、セルの開裂はなく、表面温度は107℃であった。
【0081】
(実施例15)
正極合剤層として表1に示す物性値を有する正極を用いて非水電解質二次電池を作製した。LMFPの割合が30%である以外は、実施例1と同様である。釘刺し試験後、セルの開裂はなく、表面温度は69℃であった。
【0082】
(比較例1)
正極合剤層として表1に示す物性値を有する正極を用いて非水電解質二次電池を作製した。LMFPのD90が12.1μm、D50が4.8μm、タップ密度が0.98g/ccである以外は、実施例1と同様である。釘刺し試験後、セルが開裂し、表面温度は457℃であった。
【0083】
(比較例2)
正極合剤層として表1に示す物性値を有する正極を用いて非水電解質二次電池を作製した。LMFPのD90が12.4μm、D50が5.1μm、タップ密度が1.20g/ccである以外は、実施例1と同様である。釘刺し試験後、セルが開裂し、表面温度は511℃であった。
【0084】
(比較例3)
正極合剤層として表1に示す物性値を有する正極を用いて非水電解質二次電池を作製した。NCMのD50が6.2μmである以外は、実施例1と同様である。釘刺し試験後、セルが開裂し、表面温度は532℃であった。
【0085】
表1に示す通り、実施例1~15は、釘刺し後の表面温度は160℃以下であった。一方、比較例1~3は、セルが開裂し、表面温度も450℃以上と高温であった。比較例1~3では、セパレータのメルトダウンが発生し、セル内部で短絡が発生し連鎖的に発熱したと考えられる。これらの結果から、実施例1~7は、短絡時に熱暴走による発熱を抑制しており、熱安定性を有するといえる。その中でも実施例1、3、5、8~12、14、15はセルの開裂も見られなかったことから、特に優れた熱安定性を有するといえる。