(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000358
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】肝毒性の評価方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/06 20060101AFI20221222BHJP
C12Q 1/48 20060101ALI20221222BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20221222BHJP
【FI】
C12Q1/06 ZNA
C12Q1/48
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101125
(22)【出願日】2021-06-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年11月2日 日本動物実験代替法学会第33回大会予稿集、令和2年11月12日 日本動物実験代替法学会第33回大会、令和3年5月10日 第1回Cell Based Assay Workshop、令和3年5月25日 第28回HAB学術年会予稿集、令和3年6月3日 第28回HAB学術年会にてそれぞれ発表した。
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】天野 仰
(72)【発明者】
【氏名】西條 任信
(72)【発明者】
【氏名】矢内 久陽
(72)【発明者】
【氏名】宮廻 寛
(72)【発明者】
【氏名】江刺家 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晃成
(72)【発明者】
【氏名】竹村 晃典
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA07
4B063QR77
4B063QR82
4B063QS28
4B063QS39
4B063QX01
4B063QX04
(57)【要約】
【課題】本発明は、培養肝細胞を用いた感度の高い毒性評価を行う方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、肝細胞αを培養して肝細胞βを得る工程1、前記工程1で得られた肝細胞βを被験物質の存在下および非存在下で培養する工程2、前記工程2の培養後の培地中または肝細胞β中の細胞毒性指標を分析する工程3、および前記細胞毒性指標を比較する工程4を含み、前記工程1および2が、培養表面の一部または全部が4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材から形成される培養容器中で行われる肝毒性の評価方法を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝細胞αを培養して肝細胞βを得る工程1、
前記工程1で得られた肝細胞βを被験物質の存在下および非存在下で培養する工程2、
前記工程2の培養後の培地中または肝細胞β中の細胞毒性指標を分析する工程3、および
前記細胞毒性指標を比較する工程4を含み、
前記工程1および2が、培養表面の一部または全部が4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材から形成される培養容器中で行われる
肝毒性の評価方法。
【請求項2】
前記工程2において、第1相薬物代謝酵素、第2相薬物代謝酵素およびトランスポーターから選ばれる少なくとも1種を阻害する阻害剤の存在下で前記肝細胞βを培養する、請求項1に記載の肝毒性の評価方法。
【請求項3】
前記4-メチル-1-ペンテン重合体(A)が、4-メチル-1-ペンテンの単独重合体、または、4-メチル-1-ペンテンと、エチレンおよび炭素数3~20のα―オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種との共重合体である、請求項1または2に記載の肝毒性の評価方法。
【請求項4】
前記工程1で得られた肝細胞βにおいて、第1相薬物代謝酵素、第2相薬物代謝酵素およびトランスポーターから選ばれる少なくとも1種の遺伝子発現が増加している、請求項1~3のいずれか一項に記載の肝毒性の評価方法。
【請求項5】
前記第1相薬物代謝酵素が、CYP1A、CYP3A、CYP2CおよびCYP2Dから選ばれる少なくとも1種のシトクロムP450サブファミリーに属する酵素である、請求項2~4のいずれか一項に記載の肝毒性の評価方法。
【請求項6】
前記第2相薬物代謝酵素が、UDP-グルクロニルトランスフェラーゼスーパーファミリー、スルホトランスフェラーゼスーパーファミリー、グルタチオントランスフェラーゼスーパーファミリーおよびアセチルトランスフェラーゼスーパーファミリーから選ばれる少なくとも1種に属する酵素である、請求項2~4のいずれか一項に記載の肝毒性の評価方法。
【請求項7】
前記トランスポーターが、NTCP、BSEP、MRPサブファミリーに属するトランスポーター、MDRサブファミリーに属するトランスポーターおよびOATPファミリーに属するトランスポーターから選ばれる少なくとも1種である、請求項2~4のいずれか一項に記載の肝毒性の評価方法。
【請求項8】
前記肝細胞βが凝集体を形成する、請求項1~7のいずれか一項に記載の肝毒性の評価方法。
【請求項9】
前記凝集体が毛細胆管を含む、請求項8に記載の肝毒性の評価方法。
【請求項10】
肝細胞を培養表面の一部または全部が4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材から形成される培養容器中で培養する工程を含む
請求項1~9のいずれか一項に記載の肝毒性の評価方法に使用される肝細胞の培養方法。
【請求項11】
培養表面の一部または全部が4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材から形成される培養容器と、
肝細胞βと、
第1相薬物代謝酵素、第2相薬物代謝酵素およびトランスポーターから選ばれる少なくとも1種を阻害する阻害剤と、
を含む、肝毒性の評価用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝毒性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内に取り込まれた食品および医薬品などに含まれる化学物質は、シトクロムP450などの第1相薬物代謝酵素、ならびに、硫酸、グルクロン酸およびグルタチオンなどを抱合する抱合酵素の第2相薬物代謝酵素などの、種々の薬物代謝酵素による一連の代謝反応によって、水溶性物質に変換されて体外に排出される。薬物代謝は肝臓、腎臓、および腸などで行われるが、薬物代謝酵素の多くが肝臓に存在しているため、肝臓は化学物質、特に毒物の代謝に重要な役割を果たしている。
【0003】
医薬品の開発などにおいては、医薬品候補品または医薬品の毒性や薬物感受性を評価するため、培養肝細胞を用いた薬物代謝試験が行われている。より正確な評価を行うため、培養肝細胞が生体内での環境を可能な限り再現していることが望まれている。
【0004】
生体内の肝臓は、肝細胞同士が3次元的なネットワークを形成して機能を発揮している。例えば、肝細胞を従来のプレート上で培養すると、シトクロムP450の活性が時間とともに低下することが報告されている(非特許文献1)。
【0005】
こうした中、培養した肝細胞が3次元的なネットワークを形成するような三次元培養法の開発が行われている。例えば、特許文献1は、4-メチル-1-ペンテン重合体(X)を含む所定の性質を有する培養材、該培養材で形成された培養容器、および該培養容器を用いた細胞などの培養方法を開示しており、該培養方法によれば肝細胞の三次元培養を行うことが可能であると報告している。しかし、該文献では、該培養方法で培養した肝細胞を用いた化学物質の毒性評価については提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2020/256079号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ulvestad et al.,Biochem Pharmacol. 2013;86:691-702.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、培養肝細胞を用いた感度の高い毒性評価を行う方法を提供することを課題とする。
本願発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、所定の培養容器を用いて培養した培養肝細胞を用いることで、従来の培養容器で培養された肝細胞を用いた場合に比べて、肝細胞の薬物代謝機能が高まり毒性感受性が強まることにより、化学物質に対して感度の高い毒性評価を行うことができることを見出し、本願発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は以下の[1]~[11]を含む。
[1] 肝細胞αを培養して肝細胞βを得る工程1、前記工程1で得られた肝細胞βを被験物質の存在下および非存在下で培養する工程2、前記工程2の培養後の培地中または肝細胞β中の細胞毒性指標を分析する工程3、および前記細胞毒性指標を比較する工程4を含み、前記工程1および2が、培養表面の一部または全部が4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材から形成される培養容器中で行われる肝毒性の評価方法。
[2]前記工程2において、第1相薬物代謝酵素、第2相薬物代謝酵素およびトランスポーターから選ばれる少なくとも1種を阻害する阻害剤の存在下で前記肝細胞βを培養する、[1]に記載の肝毒性の評価方法。
【0010】
[3]前記4-メチル-1-ペンテン重合体(A)が、4-メチル-1-ペンテンの単独重合体、または、4-メチル-1-ペンテンと、エチレンおよび炭素数3~20のα―オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種との共重合体である、[1]または[2]に記載の肝毒性の評価方法。
【0011】
[4]前記工程1で得られた肝細胞βにおいて、第1相薬物代謝酵素、第2相薬物代謝酵素およびトランスポーターから選ばれる少なくとも1種の遺伝子発現が増加している、[1]~[3]のいずれかに記載の肝毒性の評価方法。
[5]前記第1相薬物代謝酵素が、CYP1A、CYP3A、CYP2CおよびCYP2Dから選ばれる少なくとも1種のシトクロムP450サブファミリーに属する酵素である、[2]~[4]のいずれかに記載の肝毒性の評価方法。
[6]前記第2相薬物代謝酵素が、UDP-グルクロニルトランスフェラーゼスーパーファミリー、スルホトランスフェラーゼスーパーファミリー、グルタチオントランスフェラーゼスーパーファミリーおよびアセチルトランスフェラーゼスーパーファミリーから選ばれる少なくとも1種に属する酵素である、[2]~[4]のいずれか一項に記載の肝毒性の評価方法。
[7]前記トランスポーターが、NTCP、BSEP、MRPサブファミリーに属するトランスポーター、MDRサブファミリーに属するトランスポーターおよびOATPファミリーに属するトランスポーターから選ばれる少なくとも1種である、[2]~[4]のいずれかに記載の肝毒性の評価方法。
【0012】
[8]前記肝細胞βが凝集体を形成する、[1]~[7]のいずれかに記載の肝毒性の評価方法。
[9]前記凝集体が毛細胆管を含む、[8]に記載の肝毒性の評価方法。
【0013】
[10]肝細胞を培養表面の一部または全部が4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材から形成される培養容器中で培養する工程を含む[1]~[9]のいずれかに記載の肝毒性の評価方法に使用される肝細胞の培養方法。
【0014】
[11]培養表面の一部または全部が4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材から形成される培養容器と、肝細胞βと、
第1相薬物代謝酵素、第2相薬物代謝酵素およびトランスポーターから選ばれる少なくとも1種を阻害する阻害剤と、を含む、肝毒性の評価用キット。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、化学物質に対して感度の高い毒性評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、TプレートまたはPSプレートを用いて、CYP阻害剤である1-ABTの存在下または非存在下で、ロテノンに曝露させて肝細胞を培養したときのLDH活性を比較したグラフである。
【
図2】
図2は、TプレートまたはPSプレートを用いて、フェンホルミンに曝露させて肝細胞を培養したときのLDH活性を比較したグラフである。
【
図3】
図3は、TプレートまたはPSプレートを用いて、BSEP阻害剤であるシクロスポリンAの存在下または非存在下で、胆汁酸に曝露させて肝細胞を培養したときのLDH活性を比較したグラフである。
【
図4】
図4は、TプレートまたはPSプレートを用いて、CYP阻害剤である1-ABTの存在下または非存在下で、フルタミドまたはクロピドグレル(コントロールとしてDMSO)に曝露させて肝細胞を培養したときのLDH活性を比較したグラフである。
【
図5】
図5は、TプレートまたはPSプレートを用いて培養した肝細胞の、第1相薬物代謝酵素の遺伝子発現量および活性を比較したグラフである。
【
図6】
図6は、TプレートまたはPSプレートを用いて培養した肝細胞の、第2相薬物代謝酵素の遺伝子発現量および活性を比較したグラフである。
【
図7】
図7は、TプレートまたはPSプレートを用いて培養した肝細胞の、トランスポーターの遺伝子発現量を比較したグラフである。
【
図8】
図8は、TプレートまたはPSプレートを用いて培養した肝細胞を、毛細胆管構造の指標であるMRP2およびF-actinについて免疫染色したときの蛍光顕微鏡写真である。
【
図9】
図9は、TプレートまたはPSプレートを用いて培養した肝細胞から培地中に放出された乳酸量を比較したグラフである。横軸は培養日数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳述する。
本発明の第一の態様は、肝細胞αを培養して肝細胞βを得る工程1、前記工程1で得られた肝細胞βを被験物質の存在下および非存在下で培養する工程2、前記工程2の培養後の培地中または肝細胞β中の細胞毒性指標を分析する工程3、および前記細胞毒性指標を比較する工程4を含み、前記工程1および2が、培養表面の一部または全部が4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材から形成される培養容器中で行われる肝毒性の評価方法である。
【0018】
〔工程1〕
本発明の工程1は、肝細胞αを、培養表面の一部または全部が4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材から形成される培養容器(以下、「培養容器(T)」とも称す)で培養して肝細胞βを得る工程である。
【0019】
(肝細胞α)
本発明における肝細胞αは、肝実質細胞(Hepatocyte)を始め、肝臓中の細胞であればいかなる細胞であってもよく、具体的には血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、脂肪細胞、血球細胞、肝単核細胞、肝マクロファージ(クッパー細胞を含む)、肝星状細胞、肝内胆管上皮細胞、胚嚢線維芽細胞などを含む。前記肝細胞は、例えば20%以上、30%以上、40%以上または50%以上の肝実質細胞が含まれる細胞集団である。
【0020】
肝細胞αは、肝細胞以外の他の細胞種が含まれる細胞集団であってもよく、例えば20%以上、30%以上、40%以上または50%以上の肝細胞が含まれる細胞集団である。
【0021】
肝細胞αは、正常細胞、がん化細胞、初代培養肝細胞、株化継代肝細胞、iPS細胞やES細胞から分化誘導された肝細胞など、特に制限されないが、肝細胞αとしては初代培養肝細胞を用いるのが好ましい。株化継代肝細胞の種類は特に制限されないが、例えば、SSP-25,RBE,HepG2,TGBC50TKB,HuH-6,HuH-7,ETK-1,Het-1A,PLC/PRF/5,Hep3B,SK-HEP-1,C3A,THLE-2,THLE-3,HepG2/2.2.1,SNU-398,SNU-449,SNU-182,SNU-475,SNU-387,SNU-423,FL62891,DMS153などが挙げられる。
【0022】
肝細胞αは、哺乳動物由来の肝細胞が好ましく、ヒト、ウシ、イヌ、ネコ、ブタ、ミニブタ、ウサギ、ハムスター、ラット、又はマウスの由来の肝細胞がより好ましく、ヒト、ラット、マウス、又はウシ由来の肝細胞がさらに好ましい。
【0023】
(培養)
本発明で培養とは、肝細胞αおよび肝細胞β(以下、「肝細胞など」と称す)を増殖、維持させることだけでなく、肝細胞などの播種、継代、分化誘導、自己組織化誘導などのプロセスも含む広い意味で用いる。肝細胞などの培地中で培養する方法は特に制限されず、サンドイッチ培養など公知の方法に従って行えばよく、市販の培地や培養キットを用いてもよい。
【0024】
肝細胞などの培養は、接着培養、浮遊培養のいずれであってもよい。培養容器(T)では、4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材を介して培地中に酸素を効率的に供給できるので、好ましくは接着培養である。
【0025】
肝細胞などの培養に用いる培地は制限されず、肝細胞などの特性に応じた培地を選択すればよい。培地としては、例えば、任意の細胞培養基本培地や分化培地、初代培養専用培地など、具体的には、ウィリアムス培地E(WME)、イーグル最小必須培地(EMEM)、ダルベッコ改イーグル培地(DMEM)、α-MEM、グラスゴーMEM(GMEM)、IMDM、RPMI1640、ハムF-12、MCDB培地、ならびにこれらの混合培地などが挙げられる。さらに、血清、各種成長因子、分化誘導因子、抗生物質、ホルモン、アミノ酸、糖、塩類、ミネラル、金属、ビタミンなどを添加した培地を使用してもよく、糖を添加するのが好ましい。
【0026】
培地中の糖源は、特に制限なく使用することができるが、グルコース、ガラクトース、フルクトースおよびマンノースが好ましく、培地の入手容易性の点からグルコースがより好ましい。培養期間の途中に培地の種類を変更してもよく、例えば、グルコースを糖源とする培地からガラクトースを糖源とする培地に変更してもよく、ガラクトースを糖源とする培地からグルコースを糖源とする培地に変更してもよい。糖源置換は培養期間中に任意に設定することができる。また、これら糖源を2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0027】
肝細胞などの培養に用いる培地の量は特に制限されないが、培養容器(T)に添加した状態で、培養容器の培養面から、培地上面までの垂直方向での最長距離が、1mm以上30mm以下が好ましく、2mm以上20mm以下であることがより好ましく、2mm以上10mm以下であることがさらに好ましい。
【0028】
肝細胞αの培養期間は、培地の種類や培養条件によって適宜設定すればよいが、肝細胞αが2次元構造、または3次元構造を形成できる期間であればよい。培養期間は、好ましくは1~21日間であり、より好ましくは3~14日間であり、さらに好ましくは5~10日間である。
培養期間中の培地交換の頻度は、特に制限されないが、培地交換は毎日行うことが好ましい。
培養温度は特に制限されないが、通常は25~40℃程度で行う。
【0029】
(肝細胞β)
肝細胞βは、上記肝細胞αを培養して得られた肝細胞であり、大きさ、形態および細胞数は特に制限されないが、肝細胞βは凝集体を形成することが好ましい。凝集体とは、2つ以上の肝細胞αが2層以上積層し3次元的な形状を有する細胞の集合体をいい、細胞同士相互作用および細胞外マトリックスが発達して、より生体内の状態に近い。該凝集体には、毛細胆管が形成されていることが好ましい。毛細胆管形成の確認は、毛細胆管を形成している肝細胞に存在するトランスポーター、例えば、MRP2(Multidrug-resistant protein2)、BSEP(Bile salt export pump)、NTCP(Na+ taurocholate cotransporting polypeptide)、MDR1(Multidrug-resistant 1)、OATP(Organic anion transporting polypeptide)などに特異的な抗体を用いた免疫染色による顕微鏡観察によって確認することができる。
【0030】
肝細胞βは、好適には、第1相薬物代謝酵素、第2相薬物代謝酵素およびトランスポーターから選ばれる少なくとも1種の遺伝子発現の増加が認められる。遺伝子発現の増加は、例えば、本発明で使用する培養容器(T)の代わりに、ポリスチレン製細胞培養容器を用い、それ以外の条件は工程1および工程2の培養方法と同じである実験条件下において肝細胞を培養した際の、同じ遺伝子の発現量を比較対照として、該比較対照よりも発現量が高いことで判断でき、有意に発現量が高いことが好ましい。遺伝子の発現量は、公知の方法で測定することができ、例えば、定量RT-PCR法が挙げられる。
【0031】
肝細胞βは、好適には、第1相薬物代謝酵素および第2相薬物代謝酵素から選ばれる少なくとも1種の酵素活性の増加が認められる。酵素活性の増加は、例えば、本発明で使用する培養容器(T)の代わりに、ポリスチレン製細胞培養容器を用い、それ以外の条件は工程1および工程2の培養方法と同じである実験条件下において肝細胞を培養した際の、同じ酵素の活性を比較対照として、該比較対照よりも酵素活性が高いことで判断でき、有意に酵素活性が高いことが好ましい。酵素活性は、公知の方法で評価することができ、例えば、所定の代謝酵素に対して、被代謝化合物(親化合物)をプローブに用いて、代謝産物の生成量を、例えば、LC-MS/MSにより測定し、得られた生成量を活性評価の指標とすることができる。
【0032】
(第1相薬物代謝酵素)
第1相薬物代謝酵素は、対象物質の分子量を大きく変化させない、または分解により低減化させる第1相反応であって、エステルなどの加水分解反応、酸化反応、還元反応などに関与する酵素群である。第1相薬物代謝酵素としては、例えば、CYP1、CYP2、CYP3およびCYP4などのCYP(シトクロムP450)のファミリーに属する酵素が挙げられ、これらのサブファミリーに属する酵素および各分子種も含まれる。CYPのサブファミリーとしては、例えば、CYP1A、CYP1B、CYP2A、CYP2B、CYP2C、CYP2D、CYP2E、CYP2J、CYP3A、CYP4A、およびCYP4Bなどが挙げられる。CYPの分子種としては、例えば、CYP1A1、CYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C18、CYP2C19、CYP2D4、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A1、CYP3A4、CYP3A5、およびCYP3A7などが挙げられる。これらのうち、第1相薬物代謝酵素は、CYP1A、CYP1B、CYP2A、CYP2B、CYP2C、CYP2D、CYP2E、CYP2J、CYP3A、CYP4AおよびCYP4Bから選ばれる少なくとも一つのサブファミリーに属する酵素が好ましく、CYP1A、CYP3A、CYP2CおよびCYP2Dから選ばれる少なくとも1つのサブファミリーに属する酵素がより好ましく、CYP1A2、CYP2D4およびCYP3A1がさらに好ましい。
【0033】
後述する培養容器(T)を用いて肝細胞βを培養することで、肝毒性、例えば、ミトコンドリア毒性の評価を、高感度に行うことができる理由は不明であるが、以下のように推測される。通常、肝細胞に対して酸素供給が不十分な培養条件下においては、ミトコンドリアでのエネルギー産生が低下しているため、ミトコンドリア毒性に対する感受性が低下している。一方、容器(T)を用いて培養すると肝細胞への酸素供給が十分に行われ、ミトコンドリアでのエネルギー産生が増加し、ミトコンドリア毒性に対する感受性が高まると推測される。なお、肝細胞に対する酸素供給の指標としては、例えば、嫌気条件下で肝細胞が培地中に放出する乳酸量を指標とすることができる。
【0034】
(第2相薬物代謝酵素)
第2相薬物代謝酵素は、硫酸、酢酸、グルタチオン、グルクロン酸など内因性物質を付加し分子量は大きくさせる第2相反応(抱合反応)に関与する酵素群である。第2相薬物代謝酵素としては、特に限定されないが、UDP-グルクロニルトランスフェラーゼスーパーファミリー(UGTスーパーファミリー)、スルホトランスフェラーゼスーパーファミリー(SULTスーパーファミリー)、グルタチオントランスフェラーゼスーパーファミリー(GSTスーパーファミリー)およびアセチルトランスフェラーゼスーパーファミリー(NATスーパーファミリー)から選ばれる少なくとも1種に属する酵素が好ましい。
【0035】
UGTスーパーファミリーに属する酵素としては、UGT1、UGT2およびUGT3から選ばれる少なくとも1のファミリーに属する酵素が好ましく、UGT1A、およびUGT2Bから選ばれる少なくとも1のサブファミリーに属する酵素がより好ましく、UGT1A1、UGT1A3、UGT1A4、UGT1A6、UGT1A9、UGT2B7、およびUGT2B15から選ばれる少なくとも1種の酵素がより好ましい。
【0036】
スルホトランスフェラーゼスーパーファミリーに属する酵素としては、SULT1およびSULT2から選ばれる少なくとも1のファミリーに属する酵素が好ましく、SULT1A、SULT1B、SULT1C、SULT1E、およびSULT2Aから選ばれる少なくとも1のサブファミリーに属する酵素がより好ましく、SULT1A1、SULT1A2、SULT1A3、SULT1B1、SULT1C2、SULT1E1、およびSULT2A1から選ばれる少なくとも1種の酵素がより好ましい。
【0037】
グルタチオントランスフェラーゼスーパーファミリーに属する酵素としては、GSTA1、GSTA2、GSTM1およびGSTT1から選ばれる少なくとも1種のファミリーに属する酵素が好ましい。
【0038】
アセチルトランスフェラーゼスーパーファミリーに属する酵素としては、NAT1およびNAT2から選ばれる少なくとも1種のファミリーに属する酵素が好ましい。
【0039】
(トランスポーター)
トランスポーターは、血液から肝臓への薬物の取り込み、および肝臓から胆汁中への薬物および代謝物の排出に関連するタンパク質である。トランスポーターとしては、例えば、薬物を取り込むトランスポーターおよび胆汁を排泄するトランスポーターが挙げられる。前者としては、例えば、NTCP(Sodium taurocholate co transporting polypeptide)、OATP(Organic anion transporting polypeptide)ファミリーに属するトランスポーター、およびOCT(Organic anion transporter)サブファミリーに属するトランスポーターが挙げられ、後者としては、例えば、MRP(Multidrug resistance protein)サブファミリーに属するトランスポーター、BCRP(Brest cancer resistant Protein)、BSEP(Bile salt export pump)、およびMDR(Multidrug resistance protein)サブファミリーに属するトランスポーターが挙げられる。トランスポーターとしては、特に制限されないが、NTCP、BSEP、MRPサブファミリーに属するトランスポーター、MDRサブファミリーに属するトランスポーターおよびOATPファミリーに属するトランスポーターから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0040】
MRPサブファミリーに属するトランスポーターとしては、MRP2、MRP3およびMRP4が好ましい。MDRサブファミリーとしては、MDR1およびMDR3が好ましい。OATPファミリーとしては、例えば、OATP1、OATP2およびOATP4に属するトランスポーターが好ましく、OATP1B1およびOATP1B3がより好ましい。OCTサブファミリーに属するトランスポーターとしては、OCT1が好ましい。
【0041】
後述する培養容器(T)を用いて肝細胞βを培養すると、上記トランスポーターに関わる遺伝子の発現が増加し得るので、肝毒性のなかでも胆汁うっ滞型毒性の評価をより高感度に行うことができる。
【0042】
〔工程2〕
本発明の工程2は、上記工程1で得られた肝細胞βを被験物質の存在下および非存在下で培養する工程である。肝毒性を評価される被験物質は1種類であってもよく、2種以上であってもよい。2種類以上の被験物質を評価する場合は、被験物質ごとに肝細胞βと培養してもよいし、複数の被験物質を同時に肝細胞βと培養してもよい。
【0043】
第1相薬物代謝酵素、第2相薬物代謝酵素およびトランスポーターから選ばれる少なくとも1種を阻害する阻害剤の存在下で肝細胞βを培養してもよい。該阻害剤の存在下で後述する培養容器(T)を用いて肝細胞βを培養することにより、従来の培養容器を用いる場合に比べて、肝細胞βの毒性感受性がより増加し、低濃度の被験物質での肝毒性の評価が可能になる。上記阻害剤を被験物質として使用してもよく、その場合、被験物質として使用する阻害剤以外の、第1相薬物代謝酵素、第2相薬物代謝酵素およびトランスポーターから選ばれる少なくとも1種を阻害する阻害剤の存在下で肝細胞βを培養してもよい。
【0044】
第1相薬物代謝酵素の阻害剤としては、特に制限されないが、阻害するCYPの種類によって適宜選択すればよい。例えば、CYP1A2に対するフラフェリン、CYP2C9に対するスルファフェナゾール、CYP2D6に対するキニジン、CYP3A4に対するケトコナゾールなどが挙げられる。また、CYPファミリーが含有するヘム鉄に不可逆的に結合して酵素活性を阻害する1-アミノベンゾトリアゾール(1-ABT)を使用してもよい。
【0045】
第2相薬物代謝酵素の阻害剤としては、特に制限されないが、阻害する酵素の種類によって適宜選択すればよい。例えば、UGTに対するボルネオール、SULTに対するペンタクロロフェノール、GSTに対するエタクリン酸などが挙げられる。
【0046】
トランスポーターの阻害剤としては、特に制限されないが、阻害するトランスポーターの種類によって適宜選択すればよい。例えば、BSEPに対するシクロスポリンA、フルタミド(Flutamide)、およびクロピドグレル(Clopidogrel)、MDR1に対するベラパミルなどが挙げられる。
【0047】
培養方法は、肝細胞βを被験物質または対照物質に曝露させて培養できれば特に制限されないが、例えば、所定の濃度に調整した被験物質または対照物質を培地に添加してから肝細胞βを播種して培養してもよく、肝細胞βを培養している培地に所定の濃度になるように被験物質または対照物質を添加して培養してもよい。培地は、被験物質と肝細胞などの特性に応じた培地を選択すればよく、工程1で例示したものを使用することができる。
【0048】
培養時間は、特に制限されないが、例えば、6~168時間、好ましくは24~120時間、より好ましくは24~72時間である。
培養温度は特に制限されないが、通常は25~40℃程度で行う。
【0049】
〔工程3〕
工程3は、上記工程2の培養後の培地中または肝細胞β中の細胞毒性指標を分析する工程である。細胞毒性指標としては、特に制限されないが、例えば、LDH(乳酸脱水素酵素)活性、コハク酸塩テトラゾリウム還元酵素活性、およびエステラーゼ活性などが挙げられる。また、これらの活性の値から公知の方法で算出した細胞生存率を指標としても良い。
【0050】
LDH活性は公知の方法により測定することができるが、例えば、LDH Cytotoxicity Detection kit(タカラバイオ株式会社製)およびCytotoxicity LDH Assay Kit-WST(株式会社同仁化学研究所製)などの市販のキットを用いて測定してもよい。なお、LDH活性は細胞質に存在する酵素で、通常は細胞質に留まっているが、細胞膜がダメージを受けることで培地中に放出される。放出されたLDHは安定であり、死滅した細胞数または細胞膜にダメージを受けた細胞数を測る指標として測定される。つまり、LDH活性が高いことは、死滅もしくはダメージを受けた細胞数が多いことを示す。
【0051】
コハク酸塩テトラゾリウム還元酵素活性は、公知の方法により測定することができるが、例えば、CytoSelec(TM)MTT細胞増殖アッセイ(コスモバイオ株式会社製)およびMTT Cell Proliferation Kit(フナコシ株式会社製)などの市販のキットを用いて測定してもよい。
【0052】
エステラーゼ活性は公知の方法により測定することができるが、例えば、Cell Counting Kit-F(株式会社同仁化学研究所製)などの市販のキットを用いて測定してもよい。
【0053】
〔工程4〕
工程4は、細胞毒性指標を比較する工程であり、換言すると、工程3の分析によって得られた被験物質の存在下および非存在下における細胞毒性指標を比較考量し、被験物質の肝毒性の高低の判定を行う工程である。
判定の基準は、被験物質の存在下における細胞毒性指標が、被験物質の非存在下における細胞毒性指標と比較して高いまたは低いことを利用する。この際、例えば、1群3検体以上の細胞毒性指標の値を測定した結果について、t検定を行った場合に、P<0.05であることが好ましく、P<0.001であることより好ましく、P<0.0001であることがさらに好ましい。
【0054】
〔培養容器〕
本発明において、肝細胞などの培養に使用する培養容器(培養容器(T))は、培養表面の一部または全部が4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材から形成される。
【0055】
本発明において、培養容器とは、細胞の培養に用いられる容器全てを意味する。培養容器としては、公知の各種の培養容器を用いることができ、形状や大きさは特に制限されない。培養容器としては、例えば、ディッシュ、フラスコ、プレート、ボトル、バッグ、チューブなどが挙げられる。培養容器は通常、インキュベーター、大量培養装置、又は灌流培養装置などの装置内で用いられる。
【0056】
培養表面とは、細胞を培養する際に、培地および/又は細胞が接触している面、若しくは培地および/又は細胞が接触する予定の面を意味する。
【0057】
培養容器(T)は、培地を保持あるいは貯留するため、底面が培養面を含む培養容器であることが好ましい。培養容器(T)が、例えばディッシュ、フラスコ又はプレートの場合、底面が培養表面を含むので、これらの底面、側面、上面のうち、少なくとも、底面の一部又は全部は、4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材から形成されている。少なくとも、底面の一部又は全部が4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材から形成されていると、前記4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材を介して培地中に酸素を効率的に供給でき、培地中の肝細胞などの薬物代謝機能を維持又は向上させやすくなる。また、該機能を保持したまま、肝細胞などを高密度で培養しやすくなる。
【0058】
培養容器(T)は、培養表面全体が4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材から形成されていることが好ましい。すなわち、培養容器(T)が、例えばディッシュ、フラスコ又はプレートの場合、底面が培養表面を含むので、これらの底面、側面、上面のうち、底面の全部が4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材から形成されていることが好ましい。
【0059】
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材の厚さは特に限定されないが、好ましくは20μm~400μm、より好ましくは20μm~300μm、さらに好ましくは20μm~200μmの厚さである。4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材の厚さは、培養容器(T)の形態に応じて適宜選ばれるが、前記範囲に調整することで肝細胞などが増殖し薬物代謝機能を発現する上で必要な適度な培地中の酸素濃度が得られやすく、また、培養容器(T)としての強度も充分に得やすい。
【0060】
培養容器(T)は、少なくとも1つのウェルを有する培養容器であることが好ましく、少なくとも1つのウェルを有するプレートであることがさらに好ましく、6ウェル、12ウェル、24ウェル、48ウェル、96ウェル、384ウェル、1536ウェルなどのウェルを有するプレートであることがさらに好ましい。一般にウェルのようなくぼみ形状を底面に有する培養容器は、底面の複雑な形状を安定させるために底面を厚くする必要があり、肝細胞などへの酸素供給が充分に行われ難い。底面が4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材から形成されていると、1ウェル、6ウェル、12ウェル、24ウェル、48ウェル、96ウェル、384ウェル、1536ウェルなどのウェルを有するプレートであっても、形状が安定しており、肝細胞などへの酸素供給も充分である。
【0061】
培養容器(T)の底面の形状は特に制限されず、平底(F底)、丸底(U底)、円錐底(V底)、平底+カーブエッジなどが挙げられる。丸底(U底)、平底(F底)、円錐底(V底)、平底+カーブエッジなどに加工する場合には、一般の射出成形やプレス成形で一度に加工してもよいし、フィルム又はシートを作成しておき、真空成形や圧空成形などで2次加工を行い作成することも可能である。底面の形状は培養の目的に応じて選択されるが、肝細胞などを2次元培養する際には、平底(F底)であることが通常は望ましく、3次元培養する際には丸底(U底)又は円錐底(V底)であることが通常は望ましい。
【0062】
培養容器(T)の培養表面以外の部分は、4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材以外の材料で構成してもよい。前記材料は特に制限されず、公知の材料を用いることができる。かかる材料としては、例えば、ポリスチレン(PS)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、熱硬化性樹脂、環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー、ガラスなどが挙げられる。
【0063】
培養容器(T)は、少なくともその培養面を天然高分子材料、合成高分子材料、又は無機材料でコーティングしてもよい。コーティングは公知の方法により行うことができる。
【0064】
コーティングされた培養容器(T)は、肝細胞などの接着性、増殖性がより優れる。これは、培養表面にコーティングされている天然高分子材料、合成高分子材料、又は無機材料が、肝細胞などの足場となるためと考えられる。したがって、肝細胞などを付着させて培養する際には、培養容器(T)に天然高分子材料、合成高分子材料、又は無機材料をコーティングしてから用いることが好ましい一形態である。
【0065】
前記天然高分子材料、合成高分子材料、又は無機材料は特に制限されないが、天然高分子材料として、コラーゲン、ゼラチン、アルギン酸、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸などのグリコサミノグリカン、フィブロネクチン、ラミニン、フィブリノーゲン、オステオポンチン、テネイシン、ビトロネクチン、トロンボスポンジン、アガロース、エラスチン、ケラチン、キトサン、フィブリン、フィブロイン、糖類、合成高分子材料として、ポリグルコール酸、ポリ乳酸、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、合成ペプチド類、合成タンパク質類、ポリヒドロキシエチルメタクリラート、ポリエチレンイミン、無機材料として、β-リン酸三カルシウム、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
【0066】
前記天然高分子材料、合成高分子材料、又は無機材料としては、従来の細胞外マトリックス成分などのハイドロゲルをガラス化した後に再水和して得られるビトリゲルなども挙げられる。例えば、細胞外マトリックス成分の一つであるコラーゲンから作製された高密度のコラーゲン繊維網で構成されるコラーゲンビトリゲルも挙げられる。
【0067】
肝細胞などの接着性や増殖性を向上させる、肝細胞の薬物代謝機能をより長期に維持させる、などの観点から、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ポリリジンなどのタンパク質、又はペプチドによるコーティングが好ましく、ラミニン、コラーゲン又はポリリジンによるコーティング処理がより好ましく、コラーゲンによるコーティング処理がさらに好ましい。これらのコーティングは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて行ってもよい。
【0068】
培養容器(T)は、少なくともその培養表面を加工してもよい。表面の加工としては、例えば、凹凸構造の形成加工、親水化処理、疎水化処理などの表面改質処理が挙げられる。
【0069】
表面改質処理に用いる方法は特に限定されないが、例えばコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、紫外線処理などの親水化処理、エステル化、シリル化、フッ化などの疎水化処理、表面グラフト重合、化学蒸着、エッチング、又は、ヒドロキシル基、アミノ基、スルホン基、チオール基、カルボキシル基などの特定の官能基付加、シランカップリング、チタンカップリング、ジルコニウムカップリングなどの特定の官能基による処理、酸化剤などによる表面粗化、ラビングやサンドブラストなどの物理的処理などが挙げられる。これらの表面改質処理は、単独で行ってもよいし、2種以上を組み合わせて行ってもよい。なお、表面改質処理を行う場合には、少なくとも培養面に行うことが好ましい。
【0070】
培養容器(T)は、少なくともその培養表面を親水化処理することが好ましく、コロナ処理、又はプラズマ処理することがより好ましい。培養容器(T)の表面を親水化処理することで、培養容器(T)の表面の濡れ性が上がり、培養容器(T)と肝細胞などとの密着性が良くなり、培養容器(T)の表面で肝細胞などが均一に増殖できる。また、培養容器(T)の表面を親水化処理することで、培養容器(T)の培養面上に天然高分子材料、合成高分子材料、または無機材料をコーティングしやすくなる。特に、培養容器(T)の培養面上に均一に天然高分子材料、合成高分子材料、または無機材料を積載し、密着させやすくなり、また、積載処理後においても、生理食塩水による洗浄や、細胞培養の環境において、天然高分子材料、合成高分子材料、または無機材料が剥がれず、安定な初期状態を保って細胞培養に用いることができる。
【0071】
プラズマ処理を行う場合には、同伴させるガスとして、窒素、水素、ヘリウム、酸素、アルゴンなどが用いられ、好ましくは、窒素、ヘリウム、アルゴンから選択される少なくとも一種のガスが選ばれる。
【0072】
培養容器(T)は、コンタミネーション防止のために、消毒又は滅菌処理を施してもよい。消毒又は滅菌処理の方法としては、特に制限されず、流通蒸気法、煮沸法、間歇法、紫外線法などの物理的消毒法、オゾンなどの気体、エタノールなどの消毒薬を用いる化学的消毒法;高圧蒸気法、乾熱法などの加熱滅菌法;ガンマ線法、高周波法などの照射滅菌法;酸化エチレンガス法、過酸化水素ガスプラズマ法などのガス滅菌法などが挙げられる。中でも操作が簡便で、充分に滅菌が行えることから、エタノール消毒法、高圧蒸気滅菌法、ガンマ線滅菌法、又は酸化エチレンガス滅菌法が好ましい。これらの消毒又は滅菌処理は、1種単独で行ってもよいし、2種以上を組み合わせて行ってもよい。
【0073】
培養容器(T)の培養表面は、水接触角が50°~100°であることが好ましく、55°~100°であることがより好ましく、60°~100°であることがさらに好ましい。また、水接触角の好ましい別の態様としては、84°以下が挙げられ、50°~84°がより好ましい。
【0074】
培養容器(T)の培養表面の水接触角を上記範囲に調整することで、例えば、肝細胞などが培養面に接着しやすくなり、培養面で均一に増殖しやすい。また、培養容器(T)の培養面上に均一に天然高分子材料、合成高分子材料、または無機材料をコーティングし、密着させやすくなり、また、コーティング後においても、生理食塩水による洗浄や、細胞培養の環境において、天然高分子材料、合成高分子材料、または無機材料が剥がれず、安定な初期状態を保って細胞培養に用いることができる。
【0075】
水接触角の測定方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができるが、好ましくは静滴法である。水接触角は、例えば、日本工業規格JIS-R3257(基板ガラス表面のぬれ性試験方法)に準じて、25±5℃、50±10%の恒温恒湿条件下で水滴の形状を球形とみなせる4μL以下の容量の水滴を、培養容器あるいは培養容器と同一の材料を用いて作成された測定サンプルの表面に滴下し、静滴法により、測定サンプル表面に水滴が接触した直後から1分以内の測定サンプルと水滴の接触界面の角度を計測する方法で測定することができる。
【0076】
培養容器(T)の製造方法は、特に制限されず、製造に用いる機器も制限されない。培養容器の全部が4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材から形成される場合には、例えば、4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含むフィルム又はシートを形成し、必要に応じてそのフィルム又はシートを成形して所望の形状として培養容器を作製することができる。また、培養容器は、押出成形、溶液キャスト成形、射出成形、ブロー成形などの方法により、直接成形することによっても得られる。培養容器の一部が4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材から形成される場合には、例えば、4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含むフィルム又はシートを形成し、該フィルム又はシートと、その他の基材とを、適宜接合することにより培養容器を得ることができる。接合する方法としては特に制限はなく4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材と、その他の基材とを一体で形成してもよく、接着剤や粘着剤を介して密着させてもよい。
【0077】
前記フィルム又はシートを形成する方法としては、具体的には、例えば、通常のインフレーション法、T-ダイ押出法などが採用される。製造は通常加温して行う。T-ダイ押出法を採用する場合、押出温度は100℃~400℃が好ましく、200℃~300℃が特に好ましい。また、ロール温度は45℃~75℃が好ましく、55℃~65℃が特に好ましい。
【0078】
前記フィルム又はシートは4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を溶剤に溶解し、樹脂や金属上に流し、レベリングしながらゆっくりと乾かしフィルム化(シート化)する溶液キャスト法で製造してもよい。用いられる溶剤は特に制限ないが、シクロヘキサン、ヘキサン、デカン、トルエンなどの炭化水素溶剤を用いてもよい。また、溶剤は、前記4-メチル-1-ペンテン重合体(A)の溶解性や乾燥効率を考慮して2種類以上を混合してもよい。テーブルコート、スピンコート、ディップコート、ダイコート、スプレーコート、バーコート、ロールコート、カーテンフローコートなどの方法でポリマー溶液を塗布し、乾燥、剥離することでフィルム又はシートに加工することができる。
【0079】
(4-メチル-1-ペンテン重合体(A))
本発明において、4-メチル-1-ペンテン重合体(A)は、4-メチル-1-ペンテンの単独重合体、または、4-メチル-1-ペンテンと、エチレンおよび炭素数3~20のα―オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種との共重合体であることが好ましい。
【0080】
共重合体としては、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。4-メチル-1-ペンテンと、他のモノマーとの共重合体としては、4-メチル-1-ペンテンと、エチレンおよび炭素数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種のオレフィンとの共重合体が、強度が高く、基材として用いても破れにくく割れにくく、撓みも少ないため好ましい。
【0081】
前記オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンが挙げられる。前記オレフィンは、基材に必要な物性に応じて適宜選択することができる。例えば、前記オレフィンとしては、適度な酸素透過度と、優れた剛性という観点からは、炭素数8~18のα-オレフィンが好ましく、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセンおよび1-オクタデセンから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。オレフィンの炭素数が上記範囲にあると、重合体の加工性がより良好になり、クラックや端部の割れによる基材の外観不良が生じにくくなる傾向にある。また、基材の不良品発生率が低くなる。
【0082】
前記オレフィンは、1種又は2種以上を用いることができる。材料の強度の観点から、炭素数は2以上が好ましく、更に好ましくは炭素数10以上である。異なる2種以上のα-オレフィンを組み合わせる場合には、1-テトラデセンおよび1-ヘキサデセンから選ばれる少なくとも1種と、1-ヘプタデセンおよび1-オクタデセンから選ばれる少なくとも1種とを組み合わせることが特に好ましい。
【0083】
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)における4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量は、好ましくは60~100モル%、より好ましくは80~99.5モル%、さらに好ましくは85~98モル%である。
【0084】
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)が、4-メチル-1-ペンテンと、エチレンおよび炭素数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種のオレフィンとの共重合体である場合は、その共重合体におけるエチレンおよび炭素数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種のオレフィンから導かれる構成単位の含有量は、好ましくは0~40モル%、より好ましくは0.5~20モル%、さらに好ましくは2~15モル%である。なお、これら構成単位の含有量は、4-メチル-1-ペンテン重合体(A)中の全繰返し構成単位量を100モル%とする。構成単位の含有量が上記範囲内にあると、加工性に優れ均質な培養面が得られ、またフィルムの靭性と強度のバランスが良いため、撓みも少なくなる。
【0085】
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位および前記エチレンおよび炭素数3~20のα-オレフィンから導かれる構成単位以外の構成単位(以下「その他の構成単位」ともいう)を有してもよい。その他の構成単位の含有量は、例えば0~10.0モル%である。前記4-メチル-1-ペンテン重合体(A)がその他の構成単位を有する場合、その他の構成単位は、1種でも2種以上であってもよい。
【0086】
その他の構成単位を導くモノマーとしては、例えば、環状オレフィン、芳香族ビニル化合物、共役ジエン、非共役ポリエン、官能ビニル化合物、水酸基含有オレフィン、ハロゲン化オレフィンが挙げられる。環状オレフィン、芳香族ビニル化合物、共役ジエン、非共役ポリエン、官能ビニル化合物、水酸基含有オレフィンおよびハロゲン化オレフィンとしては、例えば、特開2013-169685号公報の段落[0035]~[0041]に記載の化合物を用いることができる。
【0087】
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)は、通常、融点200℃~240℃であり耐熱性が高い。また加水分解を起こさず、耐水性、耐沸水性、耐スチーム性が優れているため、4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材は高圧蒸気滅菌処理が可能である。4-メチル-1-ペンテン重合体(A)は、また可視光線透過率が高く(通常90%以上)、自家蛍光を発しない特徴を有するので、4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材から形成される培養容器は培養細胞の観察がしやすい。4-メチル-1-ペンテン重合体(A)は、ヒートシールが可能であり、自材同士の熱融着のみならず他の材料との熱接着も容易である。また、熱成形が可能であるため、任意の形状の培養容器に成形することが容易であり、例えばインプリント法やインサート法を用いた成形も容易である。
【0088】
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)の、標準ポリスチレンを基準物質としたゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される、重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10000~2000000、より好ましくは20000~1000000、さらに好ましくは30000~500000である。ここで、GPC測定の際の試料濃度は、例えば1.0~5.0mg/mlとすることができる。また、4-メチル-1-ペンテン重合体(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0~30、より好ましくは1.1~25、さらに好ましくは1.1~20である。GPCで用いられる溶剤は、オルトジクロロベンゼンが好ましい。
【0089】
重量平均分子量(Mw)を上記上限以下とすることにより、後述する4-メチル-1-ペンテン重合体(A)の成形法において、溶融成形で作製したフィルムは、ゲルなどの不具合の発生を抑制しやすく、表面が均一な製膜をしやすくなる。また、溶液キャスト法で作製する際は溶剤への溶解性をより良好にし、フィルムのゲルなどの不具合を抑制しやすく、表面均一な製膜がしやすくなる。
【0090】
また、重量平均分子量(Mw)を上記下限以上とすることにより、培養容器は強度が十分となる傾向にある。さらに、分子量分布を上記の範囲内とすることで、作製した培養容器表面のベタツキを抑えやすく、培養容器の靭性も充分となる傾向にあり、成形時の曲げや裁断時のクラックの発生などを抑制しやすくなる。
【0091】
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)は、4-メチル-1-ペンテン重合体(A)として、2種以上を用いた場合には、それぞれの、MwおよびMw/Mnが、上記範囲にあればよい。
【0092】
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)は、酸素透過係数が100~2500[cm3×mm/(m2×24h×atm)]であることが好ましく、1000~2500[cm3×mm/(m2×24h×atm)]であるとより好ましい。酸素透過係数が前記範囲にあると、酸素透過性に優れるので、肝細胞等は良好な形態を保ち、培養期間に応じて効率良く増殖しやすい。
【0093】
酸素透過係数は、具体的には以下の方法で測定できる。4-メチル-1-ペンテン重合体(A)で構成されるフィルムから測定サンプルを作成し、差圧式ガス透過率測定法により、温度23℃、湿度0%での酸素透過係数[cm3×mm/(m2×24h×atm)]を測定する。測定に用いる機器は差圧式ガス透過率測定法を用いたものであれば特に制限されないが、例えば東洋精機製作所製の差圧式ガス透過率測定装置MT-C3が挙げられる。測定サンプルは、4-メチル-1-ペンテン重合体(A)で構成される厚さ50μmのフィルムから90×90mmの試験片を切り出して作成し、測定部径は70mm(透過面積は38.46cm2)とすると好ましい。酸素透過度が大きいため、予めサンプルにアルミニウムマスクを施し、実透過面積を5.0cm2とすることがより好ましい。測定サンプルは、微細加工、表面改質処理を行ったものでもよいし、行っていないものでもよいが、何も処理を行っていないものが好ましい。酸素透過係数を基材の厚さ(μm)で除した値を酸素透過度[cm3/(m2×24h×atm)]とする。
【0094】
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0095】
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)としては市販品を使用することもできる。具体的には、三井化学(株)製のTPX MX001、MX002、MX004、MX0020、MX021、MX321、RT18、RT31又はDX845いずれも商標)などが挙げられる。また、その他のメーカー製でも上記の要件を満たす4-メチル-1-ペンテン重合体(A)であれば、好ましく使用できる。これらの市販品は1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合せて使用することもできる。
【0096】
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)は以上のような優れた特性を有しているので、培養表面の一部または全部が4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材で形成された培養容器は、培養に悪い影響を与えることも無く、また形状安定性、光透過性、成形加工性、酸素透過性が良好で、滅菌処理を行うことができ、肝細胞などを培養するために用いる培養容器として非常に優れている。
【0097】
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を製造する方法は、4-メチル-1-ペンテン、オレフィン、その他のモノマーを重合させられれば、いずれの方法であってもよい。また、分子量や分子量分布を制御するために連鎖移動剤、例えば水素を共存させてもよい。製造に用いる機器も制限されない。重合法は公知の方法でもよく、気相法、スラリー法、溶液法、バルク法であってもよい。好ましくはスラリー法、溶液法である。また、重合法は単段重合法、又は二段などの多段重合法で、分子量の異なる複数の重合体を重合系中にブレンドする方法であってもよい。単段、多段重合法の何れであっても、連鎖移動剤として水素を用いる場合には、一括投入しても、分割投入、例えば重合初期、中期、終期に投入してもよい。重合は常温で行ってもよく、必要に応じて加温してもよいが、重合の効率の観点から、20℃~80℃で行うことが好ましく、40℃~60℃で行うことが特に好ましい。製造に用いる触媒も制限されないが、重合の効率の観点から、例えば国際公開公報2006/054613に記載される固体状チタン触媒成分(I)を用いることが好ましい。
【0098】
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材が、4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む組成物である場合には、組成物100質量%中に、4-メチル-1-ペンテン重合体(A)が、好ましくは90質量%以上100質量%未満であり、より好ましくは95質量%以上100質量%未満であり、特に好ましくは99質量%以上100質量%未満である。4-メチル-1-ペンテン重合体(A)以外の成分を多量に含むと、酸素透過度の低下のみならず、透明性の低下や強度の低下を招く。4-メチル-1-ペンテン重合体(A)以外の成分としては、耐熱安定化剤、耐光安定化剤、加工助剤、可塑剤、酸化防止剤、滑剤、消泡剤、アンチブロック剤、着色剤、改質剤、抗菌剤、抗黴剤、防曇剤などの添加剤が挙げられる。
【0099】
本発明の一実施形態は、肝細胞を培養表面の一部または全部が4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材から形成される培養容器中で培養する工程を含む、上記肝毒性の評価方法に使用される肝細胞の培養方法である。該培養方法における培養容器で肝細胞を培養する工程は、上述した工程1および2を含む。各用語の定義は、上述した各用語と同義である。
【0100】
本発明の一実施形態は、培養表面の一部または全部が4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含む基材から形成される培養容器と、肝細胞βと、第1相薬物代謝酵素、第2相薬物代謝酵素およびトランスポーターから選ばれる少なくとも1種を阻害する阻害剤と、を含む、肝毒性の評価用キットである。各用語の定義は、上述した各用語と同義である。
【0101】
肝毒性の評価用キットには、任意に肝細胞βを培養する培地、阻害剤の濃度を調整するための溶媒などが含まれても良い。
【実施例0102】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0103】
[試験条件]
以下に、各試験条件を記載する。
〔LC-MS/MS〕
培養上清100μLに対して、2~20ng/mlの内部標準(フェニトインまたはクロルプロパミド)を含んだ1mLのMilliQ水を添加し混合した。リン酸緩衝液は、200mM NaH2PO4・2H2O(in MilliQ水)と200mM Na2HPO4(in MilliQ水)を混合しpH 7.0となるよう調整した。12000gにて4℃で10分間遠心分離を行った後、上清1mlを回収し、Oasis HLB cartridge (Waters製)を用いて固相抽出処理を行った。サンプルはProminence high-performance liquid chromatography(HPLC)instrument(島津製作所株式会社製)を接続したliquid chromatography-tandem mass spectrometry(LC-MS/MS)system(QTRAP 4500、Sciex社製)にて測定した。YMC-Triart C18 column(50×2.0mm internal diameter、3μm particle size;ワイエムシィ株式会社製)を用いて40℃下において分離を行った。速度は0.2mL/分に設定し、HPLCおよびMS分析条件は以下のように設定した。また得られたデータはMultiQuant software(Sciex製)を用いて解析した。
【0104】
(HPLC条件)
移動相A:0.1%ギ酸(in MilliQ水)
移動相B:0.1%ギ酸(in アセトニトリル)
【0105】
【0106】
【0107】
[製造例1]
(基材の製造)
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)であるTPX(登録商標)(三井化学株式会社製:分子量(Mw)=428000、分子量分布(Mw/Mn)=4.1)を使用し、基材層を押し出すフルフライト型のスクリューを備えたTダイ付き押出機へ投入し、押出し温度を270℃、ロール温度を60℃に設定し、ロール回転速度の条件を変えて押出し成形することで、厚さ50μmのフィルム1を得た。
【0108】
(培養プレートの作製)
上記フィルム1を8cm×12cmサイズにカットし、常圧プラズマ表面処理装置(積水化学工業製)を用いて、チャンバー内を窒素の気流で満たしプラズマ処理した(処理速度2m/min、出力4.5kW、2往復)。プラズマ処理済のフィルム1を測定サンプルとして、水接触角の測定を行った。水接触角の測定は、日本工業規格JIS-R3257(基板ガラス表面のぬれ性試験方法)に準じて行った。25±5℃、50±10%の恒温恒湿条件下で水滴の形状を球形とみなせる4μL以下の容量の水滴を、測定サンプルの表面に滴下し、静滴法により、測定サンプル表面に水滴が接触した直後から1分以内の測定サンプルと水滴の接触界面の角度を測定した。プラズマ処理済のフィルム1の水接触角は、60.3°であった。
【0109】
[製造例2]
(培養容器の作製)
ポリスチレン(PSとも称す)製24ウェル容器枠およびポリスチレン製96ウェル容器枠の底面に、プラズマ処理したフィルム1を医療用粘着剤(スリーエム製)を介して密着させて24ウェルの培養プレート1および96ウェルの培養プレート2をそれぞれ作製した。その後、耐ガンマ線袋に梱包して10kGyのガンマ線を照射し滅菌した。0.1Mの塩酸溶液(容量分析用、富士フイルム和光純薬)を注射用水(日本薬局方、大塚製薬)で100倍希釈し、0.001Mの塩酸溶液を調製してろ過滅菌をした。0.05mg/mLのコラーゲン溶液(セルマトリックスTypeI-P、ブタ腱由来、新田ゼラチン)を0.02Nの酢酸溶液を用いて調製した。厚み50μmのフィルム1から作製した培養プレート1および培養プレート2の各ウェルに、前記0.05mg/mLのコラーゲンコート溶液を500μLおよび100μLをそれぞれ塗布した後、余分なコラーゲンコート溶液を除去した。室温で60分間静置した後、ダルベッコPBS(-)で洗浄して、一晩、室温で乾燥させた。これら得られた培養プレートをTプレート(本発明で使用する培養容器(T))として、以下実施例に使用した。なお、培養プレート1および培養プレート2における1ウェルの培養面積は、それぞれ約2cm2および約0.4cm2であった
【0110】
[実施例1]
(ラット初代肝細胞の単離および精製)
Sprague-Dawley系雄性ラット(7~9週齢)を、メデトシン(0.05mg/体重)、ミダゾラム(0.2mg/体重)、ブトルファノール(0.25mg/体重)の腹腔内投与による麻酔後、二段階灌流法にて以下のようにして、ラット初代肝細胞を単離した。まず、ラット門脈よりPerfusion buffer(PB-1)(表3A1およびA2参照)を灌流後、Collagenase buffer(表3B参照)を灌流した。その後、遊離した細胞を120mesh、200meshのフィルターの順でろ過後、ろ液を50gにて3分間、4℃で遠心分離を行った。上清を捨て、24mLのWME(Williams’medium E:Life Technologies製)、21.6mLのPercoll(登録商標)(シグマアルドリッチ製)、2.4mLの10×HBSS(Ca2+free)(表3C参照)で再懸濁、転倒混和し、懸濁液を50gにて15分間、4℃で遠心分離を行った。得られたペレットをPlating用WME(表4A参照)で再懸濁し、200meshのフィルターでろ過後、ろ液を50gにて3分間、4℃で遠心分離を行った。肝細胞のviabilityはtripan blue exclusion法にて求めた。なお、肝細胞精製は全て無菌条件下で実験を行った。
【0111】
【0112】
(ラット初代肝細胞の培養)
製造例2で製造した本発明で使用するTプレートは、使用前にPBSで洗浄した。上記で単離および精製を行った肝細胞をplating用WME中に懸濁させ、24ウェルのTプレートおよび96ウェルのTプレートへ、それぞれ1.25×105cells/cm2の密度で播種した。
【0113】
約2時間後、接着しなかった肝細胞を取り除くため、plating用WMEを用いて培地交換を行った。播種後24時間でplating用WMEを除去し、Glucose-Based culture用WME(表4B参照)を用いて0.25mg/mLになるように希釈したMatrigelを、氷冷下で96ウェルのTプレートの各ウェルに100μL、24ウェルのTプレートの各ウェルに500μL加え、サンドイッチ培養を開始した。
【0114】
グルコース(Glu)条件で培養する場合、実験を行う培養4日目まで毎日、Glucose-Based culture用WMEで培地交換を行った。培養5日目まで肝細胞は37℃、CO2 incubator内にて培養を行い、ラット初代培養肝細胞を得た。
【0115】
なお、ガラクトース(Gal)条件で培養する場合は、播種後24時間でGlucose-Based culture用WMEからGalactose-Based culture用WME(表4C参照)に置換し、実験を行う培養4日目まで毎日、Galactose-Based culture用WMEで培地交換を行った。培養5日目まで肝細胞は37℃、CO2 incubator内にて培養を行った。
【0116】
【0117】
表4中、Fetal bovine serumはBio sera製、Antibiotic-antimycotic solutionはナカライテスク(株)製、ITS PremixはCorning製、Dexamethaoneは富士フイルム和光純薬(株)製、Gluta MAXはThermo Fisher Scientific製を使用した。
【0118】
[比較例1]
実施例1において、Tプレートの代わりに、ポリスチレン製Plateseal シーリングフィルムPS-PPO-100(株式会社イナ・オプティカ製)を用いてTプレートの底面を塞いで作製した比較例用のプレート(以下、「PSプレート」と称する)を使用した以外は、同様にしてラット初代培養肝細胞を得た。
【0119】
[実施例2]
〔毒性評価1〕
上記実施例1で培養したラット初代培養肝細胞をCYPの阻害剤である1-ABT(1-アミノベンゾトリアゾール)で処理した場合の、ロテノン(Rotenone)の毒性評価を、以下のようにしてLDH活性(LDH release)を細胞毒性の指標として行った。なお、ロテノンは、通常、生体内ではCYPにより代謝され分解されることが知られている。
【0120】
BSA(Bovine serum albumin)を含まないGlucose-Based culture用WMEを用い、Tプレートに播種後4日目のラット初代培養肝細胞を、0.0625μM、0.125μM、0.25μM、0.5μM、1μMまたは2μMのロテノンに24時間曝露した。DMSO濃度は1%以下となるようにした。また、1-ABT(終濃度250μM)はロテノン曝露30分前に前処置した後、ロテノンと共曝露した。
【0121】
上記で培養したプレートを100gで3分間遠心分離し、上清5μLを新しい96ウェルプレート(テストプレート96well平底PS製 nerbe plus社製)に回収し、55μLのMilliQ水で希釈した。LDH活性の測定はTaKaRa LDH cytotoxicity detection kit (TaKaRa Bio Inc.)を用いて行った。混合反応液を60μL添加し、培養上清が入った96ウェルプレートをShakerで攪拌しつつ、遮光で10分間反応させた。その後、反応停止液として1N HClを30μL加え、波長490nmで吸光度を測定した。測定機はLabsystems社製、Multiskan JX multiwell plate readerを使用した。LDH活性(LDH release)は0.25% Triton X-100を添加して肝細胞を培養した培養液の培養上清の吸光度をhigh control、最高1% DMSOを添加して肝細胞を培養した培養液の培養上清の吸光度をlow controlとし、以下の式に従って求めた。結果を
図1に示す。
【0122】
LDH release(%control)=(実験値-low control)/(high control-low control)×100
【0123】
[比較例2]
実施例1において、実施例1で培養したラット初代培養肝細胞の代わりに比較例1で培養したラット初代培養肝細胞を用い、かつTプレートの代わりにPSプレートを使用したこと以外は、実施例2と同様にして毒性評価を行った。結果を
図1に示す。
【0124】
実施例2および比較例2の結果から、1-ABTで肝細胞を処理しない場合においては、PSプレートよりもTプレートで培養した肝細胞のほうがLDH活性が低い(細胞生存率が高い)ことから、Tプレートで培養した肝細胞のほうがロテノン分解能が高く、より生体内の環境に近いことが示された。
また、1-ABTで処理してCYP活性阻害した場合であっても、低濃度のロテノンに対してはPSプレートよりもTプレートで肝細胞を培養したほうが、細胞生存率が高いことが示されたことから、Tプレート培養した肝細胞を用いることで、低濃度の被験物質に対して、より生体内に近い環境で薬物代謝を考慮した毒性評価を行えることが示された。
【0125】
[実施例3]
〔毒性評価2〕
実施例2において、1-ABTに曝露せず、ロテノンの代わりに、100μM、125μM、150μM、200μM、250μMまたは300μMのフェンホルミン(Phenformin)にラット初代培養肝細胞を曝露したこと以外は、実施例2と同様にして、フェンホルミンの毒性評価を行った。結果を
図2に示す。
【0126】
[比較例3]
比較例2において、1-ABTに曝露せず、ロテノンの代わりに、100μM、125μM、150μM、200μM、250μMまたは300μMのフェンホルミン(Phenformin)にラット初代培養肝細胞を曝露したこと以外は、比較例2と同様にして、フェンホルミンの毒性評価を行った。結果を
図2に示す。なお、フェンホルミンは、通常、生体内において肝臓での代謝を受けにくく、肝細胞に曝露した場合に多くが分解されずに細胞毒性を示すと考えられている。
【0127】
実施例3および比較例3の結果から、Tプレートを使用した方が、PSプレートを使用した場合に比べ、フェンホルミンによる細胞毒性によりLDH活性が上昇したことにより、より生体内に近い環境でより正確な毒性評価を行えることが示された。
【0128】
[実施例4]
〔毒性評価3〕
1-ABTおよびロテノンを添加する代わりに、トランスポーターであるBSEPの阻害剤であるシクロスポリンA(CysA)を終濃度で10μM、胆汁酸(BA)を下記表5に示した組成の胆汁酸mixture(in DMSO)(ヒト血清中胆汁酸)の50-200倍濃度になるように添加した以外は、実施例2と同様にラット初代培養肝細胞を培養し、LDH活性を算出した。結果を
図3に示す。
【0129】
【0130】
[比較例4]
1-ABTおよびロテノンを添加する代わりに、トランスポーターであるBSEPの阻害剤であるシクロスポリンA(CysA)を終濃度で10μM、胆汁酸(BA)を下記表5に示した組成の胆汁酸mixture(in DMSO)(ヒト血清中胆汁酸)の50-200倍濃度になるように添加した以外は、比較例2と同様にして毒性評価を行った。結果を
図3に示す。なお、胆汁酸の中には、例えば、グリケコノデオキシコール酸(Glycochenodeoxycholic acid)、デオキシコール酸(Deoxycholic acid)およびリトコール酸(Lithocholic acid)のような、毒性の高い胆汁酸が存在するが、通常、生体内ではBSEPのようなトランスポーターにより細胞内から胆汁中へ排出され、肝臓内の胆汁酸レベルは制御されている。
【0131】
実施例4および比較例4の結果から、肝細胞をシクロスポリンAで処理してBSEPを阻害した場合、Tプレートを使用した方が、PSプレートを使用した場合に比べ、低濃度の胆汁酸への感受性が高まり、LDH活性が上昇したことにより、より正確な毒性評価を行えることが示された。
【0132】
[実施例5]
〔毒性評価4〕
上記実施例1で培養した播種後4日目のラット初代培養肝細胞を、BSAを含まないGlucose-Based culture用WMEを用いて、Flutamide(東京化成工業(株)製)またはClopidogrel(LKT Laboratories製)、および胆汁酸に24時間曝露した。コントロール群のDMSO濃度は1%以下となるようにした。1-ABT(終濃度250μM)は上記曝露の前に30分間前処置した後、Clopidogrelおよび胆汁酸、またはFlutamideおよび胆汁酸、またはDMSOと共曝露した。胆汁酸の曝露濃度は上記表5に記載した胆汁酸mixtureの150倍に設定した。培養後、実施例2と同様にしてLDH活性を測定した。結果を
図4に示す。
【0133】
[比較例5]
上記比較例1で培養した播種後4日目のラット初代培養肝細胞を、BSAを含まないGlucose-Based culture用WMEを用いて、Flutamide(東京化成工業(株)製)またはClopidogrel(LKT Laboratories製)、および胆汁酸に24時間曝露した。コントロール群のDMSO濃度は1%以下となるようにした。1-ABT(終濃度250μM)は上記曝露の前に30分間前処置した後、Clopidogrelおよび胆汁酸、またはFlutamideおよび胆汁酸、またはDMSOと共曝露した。胆汁酸の曝露濃度は上記表5に記載した胆汁酸mixtureの150倍に設定した。培養後、比較例2と同様にしてLDH活性を測定した。結果を
図4に示す。
【0134】
実施例5および比較例5の結果から、Flutamideを曝露した系では、1-ABTの非暴露群に対する暴露群のLDH活性の増強傾向は、PSプレートを使用した場合より、Tプレートを使用した場合の方が顕著であった。ここで、Flutamideは代謝阻害により胆汁酸依存毒性が増強することが知られている。T-プレートを使用した場合において、1-ABTによって胆汁酸依存肝毒性の増強が認められたことから、被験物質の薬物代謝を加味した毒性評価がより正確に行えることが示された。
【0135】
また、Clopidogrelを曝露した系では、1-ABTの非暴露群に対する暴露群のLDH活性の減弱傾向が、Tプレートを使用した場合に認められた。
ここで、Clopidogrelは代謝阻害により胆汁酸依存毒性が減弱することが知られている。T-プレートを使用した場合において、1-ABTによって胆汁酸依存肝毒性の減弱が確認できたことから、T-プレートを使用することで、被験物質の代謝物による毒性評価がより正確に行えることが示された。
【0136】
[実施例6]
〔第1相薬物代謝酵素の遺伝子発現量測定および活性評価〕
(1)遺伝子発現量測定
以下のようにして、第1相薬物代謝酵素であるCYPの遺伝子発現量を測定した。実施例1で得られた培養肝細胞に対し、セパゾールを0.5mL/ウェルになるように加え、細胞を剥離させた後、エッペンドルチューブ(登録商標)に移し、室温で5分間静置した。ここに、クロロホルムを100μL加えて混和し、室温で5分間静置後、12000gにて4℃で15分間遠心分離を行った。上層の水層200μLを新しい遠心チューブに移し、200μLのイソプロパノールを加えて混和した。室温で10分間静置後、12000gにて4℃で10分間遠心分離を行った。上清を除去し、75%エタノールを500μL加え沈殿物を洗浄した。12000gにて4℃で5分間遠心分離を行った後、上清を捨て、沈殿物を完全に乾燥させた。適量のDEPC水を加え、total RNAの濃度が300-500ng/μLとなるよう調製した。
【0137】
Total RNAの逆転写は、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix (東洋紡株式会社製)を用いて、2μLの5×RT Master Mixと1μgのRNAtemplateを混合し、Nuclease-free waterで10μLに調製した反応液を、37℃を15分間、50℃を5分間、98℃を5分間および14℃で保持の条件で、LifeECO(Bioer Technology製)を使用して逆転写を行った。
【0138】
Real-time PCRは、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix(東洋紡株式会社製)を用いて、5μLのTHUNDERBIRD SYBR qPCR Mix、1μLのcDNA(逆転写産物をMilliQ水で10倍希釈したもの)、2μLPrimer Mix(表6のForward PrimerおよびReverse primerの最終濃度がそれぞれ1.5μMのMixture)および2μLのMilliQ水を混合して調製した反応液を、Real-timePCR用の8連チューブまたは96ウェルプレート(LightCycler480 Multiwell Plate 96well Roche社製)に加え、軽く攪拌して均一にした後、LightCycler Nano Real-Time PCR System(Roche Diagnostics製)を用いて、表7の条件で行った。結果を
図5の上段に示す。
【0139】
【0140】
【0141】
(2)酵素活性測定
CYPの薬物代謝活性評価は以下のようにして行った。表8の化合物を薬物代謝酵素のプローブとして用い、All free WME(WME without no supplement)を用いて各化合物を溶解させた。化合物はすべてDMSOに溶解されており、DMSO濃度は1%以下となるようにした。実施例1で得られた肝細胞に、該溶解液中の各化合物が表8の濃度になるようにして90分間曝露させた。その後、上清を回収し、生成した代謝物を上記の方法によりLC-MS/MSで測定して生成量を求め活性の指標とした。結果を
図5の下段に示す。
【0142】
【0143】
[比較例6]
実施例6において、実施例1で得られた培養肝細胞の代わりに比較例1で得られた培養肝細胞を使用したこと以外は、実施例6と同様にして遺伝子発現量および酵素活性を測定した。結果を
図5に示す。
【0144】
実施例6および比較例6の結果から、PSプレートで培養した場合に比べて、Tプレートで培養した肝細胞のほうがCYPの遺伝子発現量が上昇していた。また、培地中のグルコースをガラクトースに糖源置換した影響は認められなかった。また、PSプレートで培養した場合に比べて、Tプレートで培養した肝細胞のほうがCYPの活性が上昇していた。また、培地中のグルコースをガラクトースに糖源置換した影響は認められなかった。
【0145】
[実施例7]
〔第2相薬物代謝酵素の遺伝子発現量測定および活性評価〕
(1)遺伝子発現量測定
上記表6のプライマーを表9のプライマーに変えたこと以外は、実施例6と同様にして第2相薬物代謝酵素であるUGTsとSULTsの遺伝子発現量を測定した。結果を
図6の上段に示す。
【0146】
【0147】
(2)酵素活性
上記表8の条件を表10の条件にした以外は、実施例6と同様にして第2相薬物代謝酵素であるUGTsとSULTsの酵素活性を測定した。結果を
図6の下段に示す。
【0148】
【0149】
[比較例7]
実施例7において、実施例1で得られた培養肝細胞の代わりに比較例1で得られた培養肝細胞を使用したこと以外は、実施例7と同様にして遺伝子発現量および酵素活性を測定した。結果を
図6に示す。
【0150】
実施例7および比較例7の結果から、PSプレートで培養した場合に比べて、Tプレートで培養した肝細胞のほうが、いずれも酵素活性が上昇していた。また、培地中のグルコースをガラクトースに糖源置換した影響は認められなかった。
【0151】
[実施例8]
〔トランスポーター遺伝子の発現量測定〕
上記表6のプライマーを表11のプライマーに変えたこと以外は、実施例6と同様にしてトランスポーター遺伝子であるNtcp、BsepおよびOatp4の発現量を測定した。結果を
図7に示す。
【0152】
【0153】
[比較例8]
実施例8において、実施例1で得られた培養肝細胞の代わりに比較例1で得られた培養肝細胞を使用したこと以外は、実施例8と同様にしてNtcp、BsepおよびOatp4の発現量を測定した。結果を
図7に示す。
【0154】
実施例8および比較例8の結果から、PSプレートで培養した場合に比べて、Tプレートで培養した肝細胞のほうがいずれも遺伝子発現量が上昇していた。また、培地中のグルコースをガラクトースに糖源置換した影響は認められなかった。
【0155】
[実施例9]
〔毛細胆管構造の評価〕
実施例1で得られた培養肝細胞を用いて、毛細胆管に発現するトランスポーターであるMRP2と、細胞骨格であるF-actinの免疫染色を、表12の抗体および染色試薬を使用して、以下のようにして行った。
【0156】
【0157】
該肝細胞をPBSで2回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド(PFA)に15分間浸潤させ固定処理を行った。PBSにて2回洗浄後0.5%triton(in PBS)に10分間浸潤させ透過処理を行った。PBSにて2回洗浄後1%BSA(in PBS)に30分間浸潤処理しblocking処理した。0.1%BSA(in PBS)にて希釈した1次抗体を1時間室温で反応させた。PBSにて2回洗浄後、0.1%BSA(in PBS)にて希釈した2次抗体を1時間室温暗所で反応させた。反応後、PBSにて2回洗浄し、BZ-X710(キーエンス)を使用して画像を取得した。結果を
図8に示す。
【0158】
[比較例9]
実施例9において、実施例1で得られた培養肝細胞の代わりに比較例1で得られた培養肝細胞を使用したこと以外は、実施例9と同様にして毛細胆管構造の評価を行った。結果を
図8に示す。
【0159】
実施例9および比較例9の結果から、毛細胆管構造を示すMRP2(緑色)とF-actin(赤色)の共染色部位(橙~黄部分)が、PSプレートで培養した場合に比べて、Tプレートで培養した肝細胞のほうが顕著であり、Tプレートで培養することで、毛細胆管構造がより形成および伸長していることが示された。また、培地中のグルコースをガラクトースに糖源置換した影響は認められなかった。
【0160】
[試験例1]
〔細胞評価〕
実施例1と同様にして、24ウェルのTプレートで、グルコース条件またはガラクトースで糖源置換したガラクトース条件で培養した各肝細胞から、培地中に放出された乳酸量を、乳酸測定キット(株式会社同仁化学研究所製)を用いて、以下のようにして測定した。培養上清をMilliQ水で50倍希釈し25μLを96ウェルのTプレートに移した。各ウェルにworking solutionを25μL添加し、遮光しながらシェーカーで2分間攪拌した。その後37℃で30分間インキュベーションし、波長450mmで吸光度を測定した。結果を
図9に示す。
【0161】
[比較試験例1]
試験例例1において、実施例1で得られたラット初代培養肝細胞の代わりに比較例1で得られたラット初代培養肝細胞を使用したこと以外は、試験例1と同様にして細胞評価を行った。結果を
図9に示す。図中、PSはPSプレートおよびTはTプレートを示し、Gluはグルコール条件およびGalはガラクトース条件を示す。
【0162】
試験例1および比較試験例1の結果より、PSプレートで培養した肝細胞に比べ、Tプレートで培養した肝細胞のほうが乳酸量の値が低かったことから、PSプレートに比べてTプレートのほうが、細胞への酸素供給量が多くミトコンドリア機能が賦活化しており、培養した肝細胞が生体内での環境により近いことが示された。このことは、Tプレートで培養した際の糖源としてグルコースまたはガラクトースを用いても同様であった。