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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035832
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】出没式筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 24/04 20060101AFI20230306BHJP
   B43K 25/02 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
B43K24/04
B43K25/02 190
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098113
(22)【出願日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2021141353
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005511
【氏名又は名称】ぺんてる株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野村 恭平
【テーマコード(参考)】
2C041
2C353
【Fターム(参考)】
2C041AA06
2C041AB08
2C041AC02
2C041CC02
2C353HA01
2C353HC04
2C353HC10
2C353HC17
2C353HG04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】特許文献1に開示されている出没式筆記具では、環状突起を支点に軸筒内壁面に対して径方向のがたつきが生じやすく、カム機構の作動音が大きくなってしまうという問題があった。本発明は、より静かな出没機構の出没式筆記具を提供することを目的とする。
【解決手段】筆記具本体の外壁面に設けられた係止突起が、カム筒内壁面に設けられたカム部に係止することで、筆記具本体の前端に設けられた筆記部の突出状態が形成される出没式筆記具を要旨とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒内部に、少なくとも筆記具本体とカム筒とが配置された出没式筆記具であって、筆記具本体は、軸筒外部に露出したノック部の操作による前方への力と、弾発部材による後方への付勢力とにより、前後動可能に配置され、カム筒は、筆記具本体の前後動に伴い筆記具本体の外周を少なくとも回動可能に配置され、筆記具本体の外壁面に設けられた係止突起が、カム筒内壁面に設けられたカム部に係止することで、筆記具本体の前端に設けられた筆記部の、少なくとも軸筒前端開口部からの突出状態が形成される出没式筆記具。
【請求項2】
前記カム筒の前後方向両端部が、軸筒内壁面から突出した段部に挟持されることで前後動不可能である、請求項1に記載の出没式筆記具。
【請求項3】
前記筆記具本体が、筆記具本体外壁面又は軸筒内壁面に設けられた前後方向に延びる摺動溝に沿って、軸筒内壁面又は筆記具本体外壁面に設けられた摺動リブが摺動することで、回動不可能に配置された、請求項1又は請求項2に記載の出没式筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸筒内部に、前端に筆記部を有する筆記具本体が前後動可能に配置され、筆記部の、軸筒前端開口部からの突出及び没入を可能とした、所謂出没式筆記具に関するものである。以降、筆記部が突出する方向を前方、筆記部が没入する方向を後方とする。また、筆記部が軸筒前端開口部から突出して筆記可能になった状態を突出状態、筆記部が軸筒内部に没入した状態を没入状態とする。
【背景技術】
【0002】
出没式筆記具としては、出没機構の少なくとも一部に所謂カム機構が採用されているものが知られている。出没式筆記具におけるカム機構は、筆記具本体を軸筒内部で前後に異なる位置で係止させることができるよう、筆記具本体に係止突起が設けられる。係止突起の係止先として軸筒内部にはカム部が設けられる。カム部は、筆記具本体の前後動に伴い周方向に変位することで、筆記具本体を前後動させるのみで連続した単一の動作で筆記部の出没を可能とするものである。斯様な出没式筆記具においては、突出状態を形成するために、係止突起がカム部より前方に位置するまで筆記具本体を前進させる。その後、弾発部材の付勢力などの力によって筆記具本体が後退し、係止突起がカム部に係止することで、筆記具本体の後退が止まり突出状態を形成することができる。
【0003】
例えば特許文献1(実公昭54-38980号公報)には、軸筒内部に、弾発部材により後方に付勢された筆記具本体と、筆記具本体の外周を回動可能なカム筒とが配置された出没式筆記具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭54-38980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている出没式筆記具では、カム筒の一部であって、筆記具本体の前後動に伴い筆記本体のいずれかと当接してカム筒を回動させる力を受ける部分であるカム部が、カム筒の前後方向両端部に設けられている。カム部は係止突起の係止先でもあるため、カム筒の軸筒内部での前後方向への移動は少なからず制限される必要がある。そのためカム筒の外壁面に径方向外側に突出した環状突起が設けられている。当該環状突起の側壁が軸筒内部のいずれかの部分と前後方向に当接することで、カム筒の前後方向の移動が制限される。カム部よりも環状突起の方が前後方向の長さが短いため、環状突起を支点に軸筒内壁面に対して径方向のがたつきが生じやすく、カム機構の作動音が大きくなってしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、作動音が静かな出没機構の出没式筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、軸筒内部に、少なくとも筆記具本体とカム筒とが配置された出没式筆記具であって、筆記具本体は、軸筒外部に露出したノック部の操作による前方への力と、弾発部材による後方への付勢力とにより、前後動可能に配置され、カム筒は、筆記具本体の前後動に伴い筆記具本体の外周を少なくとも回動可能に配置され、筆記具本体の外壁面に設けられた係止突起が、カム筒内壁面に設けられたカム部に係止することで、筆記具本体の前端に設けられた筆記部の、少なくとも軸筒前端開口部からの突出状態が形成される出没式筆記具を第1の要旨とする。
【0008】
また、カム筒の前後方向両端部が、軸筒内壁面から突出した段部に挟持されることで前後動不可能である出没式筆記具を第2の要旨とする。
【0009】
さらに、筆記具本体が、筆記具本体外壁面又は軸筒内壁面に設けられた前後方向に延びる摺動溝に沿って、軸筒内壁面又は筆記具本体外壁面に設けられた摺動リブが摺動することで、回動不可能に配置された出没式筆記具を第3の要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の出没式筆記具は、カム部がカム筒の内壁面に設けられているため、カム筒の外壁面をカム部よりも前後方向に長くすることができる。カム筒の外壁面に軸筒内壁面に対して径方向のがたつきを生じさせる支点となり得る部分を設ける必要がないため、出没機構を構成するカム機構の作動音が静かな出没式筆記具を提供することができる。
【0011】
また第2の要旨にあっては、カム筒の前後方向両端部が、軸筒内壁面から突出した段部に挟持されることで前後動不可能なため、筆記具本体の前後動に伴う係止突起とカム部との衝突音以外にカム筒の作動音が生じにくくなり、より静かな出没機構の出没式筆記具とすることができる。
【0012】
さらに第3の要旨にあっては、筆記具本体が回動不可能であることで、カム筒を回動させるための力のロスを防ぐことができ、使用者はノック部を過剰な力で操作する必要がなくなり、より静かな出没機構の出没式筆記具とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ボールペン1の外観図
図2図1のA‐A’断面図
図3】(a)(b)カム筒4の外観斜視図
図4】没入状態におけるカム機構展開図
図5図4の状態から筆記具本体3を前進させた図
図6図5の状態から筆記具本体3を前進させた図
図7図6の状態から筆記具本体3を後退させた図
図8】突出状態におけるカム機構展開図
図9図8の状態から筆記具本体3を前進させた図
図10】ボールペンリフィル3a及び摺動子3bの結合部分近傍拡大断面図
図11】摺動子3の外観斜視図
図12】カム筒4の縦断面斜視図
図13】作動突起3baがカム部4aと接触する場合を示した図
図14図13の状態からカム筒4を前進させた図
図15図14の状態からカム筒4を前進させた図
図16】作動突起3baがカム筒4側壁の前方端面とは当椄しない場合を示した図
図17】クリップ6の軸筒2側外観図
図18】他の実施形態に係るクリップ6の軸筒2側外観図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ボールペン、シャープペンシル、筆ペン、フェルトペン、マーキングペンなどの筆記具であって、ボールペンチップなどの筆記部を軸筒前端開口部から出没可能な出没式筆記具として実施することができる。以降、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。
【0015】
図1は本発明の一実施形態に係る出没式筆記具であるボールペン1の外観図、図2図1のA‐A’断面図である。ボールペン1は、中空筒状の軸筒2内部に、筆記具本体3、カム筒4、弾発部材としてのコイルスプリング5が配置されている。
【0016】
軸筒2は、前軸2aと後軸2bとにより構成されている。前軸2aの後方開口端部が後軸2bの前端開口端部から挿入される。前軸2aの後方開口端部外壁面と後軸2bの前方開口端部内壁面には、それぞれ螺子部が設けられており、前軸2aと後軸2bとが螺子螺合により結合可能となっている。当該螺子螺合を解除することで、筆記具本体3やカム筒4などを簡単に配置、交換することができる。
【0017】
軸筒2は、本実施形態のように前後方向中腹で前軸と後軸との結合を解除可能なもの以外の構成も採用することができる。例えば、前後方向に亘って一部品で構成し、内部に各部材を配置可能にするための開口部を後端に設け、当該開口部を閉塞する尾栓を着脱自在に取り付ける構成とすることもできる。
【0018】
前軸2aは所謂2色成形品であり、前軸2aの径方向内側に位置する1次側がポリプロピレン樹脂、前軸2aの径方向外側に位置する2次側がスチレン系トリエチルホスフェート樹脂からなる部材である。前軸2aの外壁面には梨地加工が施されており、使用者が手で把持しやすくなるグリップとして機能する。
【0019】
前軸2aは、本実施形態のように2色成形品以外にも、公知の方法で所望の形状を構成することができる。グリップを別部材とし、前軸2aの外壁面に被覆する構成とすることもできる。
【0020】
前軸2aの材質としては、成形性や耐久性などを考慮して、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、塩化ビニル樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル樹脂、フッ素樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、シリコーン樹脂、エラストマー、又は、これらの樹脂を含む複合材などを適宜選択することができる。また、成形方法も本実施形態のような2色成形に限られず、公知の様々な方法を適宜選択することができる。
【0021】
後軸2bの後方側壁には、前後方向に延び、後軸2bの内部と外部とに貫通した窓孔2baが設けられている。筆記具本体3は、軸筒2外部に露出したノック部であるクリップ6と、窓穴2baを介して連結されている。クリップ6を窓穴2baに沿って後方から前方へ操作すると、連動して筆記具本体3が軸筒2内部を前進する、所謂サイドスライド式となっている。
【0022】
ノック部は、筆記具本体3と連動してさえいればよく、後軸2bの後端から露出させて前方に押圧して突出状態を形成する、所謂後端ノック式とすることもできる。
【0023】
後軸2bは、ポリカーボネート樹脂からなる部材である。後軸2bの材質としては他に、成形性や耐久性などを考慮して、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、塩化ビニル樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル樹脂、フッ素樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、シリコーン樹脂、エラストマー、又は、これらの樹脂を含む複合材などを適宜選択することができる。
【0024】
筆記具本体3は、ボールペンリフィル3aと摺動子3bとにより構成されている。ボールペンリフィル3aは、筆記部としてのボールペンチップ3aaと、内部にインキが収納されるパイプ3abとにより構成されている。パイプ3ab内部のインキがボールペンチップ3aaを介して被筆記面に吐出され、文字や絵などを筆記、描画することができる。
【0025】
ボールペンリフィル3aの後端は摺動子3bの前端開口部から有底の筒部に挿入される。ボールペンリフィル3aは摺動子3bの筒部内において固定されておらず、周方向に回転可能な程度に遊嵌されている。
【0026】
ボールペンリフィル3aは軸筒2内部を、先述の通りクリップ6を前進させることで前進させることができる。前軸2aの内壁面前方には周方向に連なった環状の突起である段部2aaが設けられている。パイプ3abの前端面が段部2aaに当接することで、筆記具本体3の前進が止まる。
【0027】
パイプ3abの外壁面には、コイルスプリング5の後端と当接する2本のコイルスプリング後端用突起3abaが周方向等間隔に設けられている。また、前軸2aの内壁面には、コイルスプリング5の前端と当接する6本のコイルスプリング前端用リブ2abが、周方向等間隔に設けられている(6本中2本を図示している)。コイルスプリング5は自然状態から縮んだ状態でコイルスプリング後端用突起3abaとコイルスプリング前端用リブ2abとにより挟持され、筆記具本体3を常時後方に付勢している。
【0028】
摺動子3bの外壁面には、作動突起3baと係止突起3bbとが設けられている。各突起が、後述するカム筒4のカム部4aに当接することで、軸筒2前端開口部からボールペンチップを出没させることができる。
【0029】
筆記具本体3は、本実施形態ではボールペンリフィル3aと摺動子3bとにより構成されているが、例えば作動突起3baや係止突起3bbに相当する突起をパイプ3abに直接設けるなどして、筆記具本体3とすることもできる。
【0030】
図3(a)(b)はカム筒4の外観斜視図である。図3(b)はカム筒4の外壁を透明にして、内壁面に設けられたカム部4aの一部を点線で図示している。カム筒4は、前後方向に貫通した貫通孔が設けられた筒状の部材である。当該貫通孔には筆記具本体3が挿通される。カム筒4の内壁面にはカム部4aが設けられている。筆記具本体3が前後動すると、作動突起3ba及び係止突起3bbがカム部4aに当接し、カム筒4が筆記具本体3の外周を回動することができる。カム部4は軸筒2内部において前後動が制限された部材である。
【0031】
カム部4aをカム筒4の内壁面に設けることで、カム筒4の外壁面の設計の自由度が高くなる。本実施形態では、カム筒4の外壁面をカム部4aよりも前後方向に長くすることができる。換言すれば、カム部4aの前後方向両端部が、貫通孔の両開口端部から前後方向に露出せず、カム筒4の内壁面の前後方向の範囲内に収まっている。カム筒4の外壁面に、カム筒4をカム機構の一部として機能させるための他の凹凸を設ける必要がない。よって、当該外壁面と当椄する軸筒内壁面に対して、径方向のがたつきを生じさせる支点となり得る部分を設ける必要がない。ひいては、出没機構を構成するカム機構の作動音が静かにすることができ好ましい。
【0032】
摺動子3及びカム筒4は、ポリアセタール樹脂からなる部材である。摺動子3及びカム筒4の材質としては他に、成形性や耐久性などを考慮して、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、塩化ビニル樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、シリコーン樹脂、エラストマー、またはこれらの樹脂を含む複合材などを適宜選択することができる。
【0033】
以降、図4から図9を参照しつつ、本実施形態における出没機構を構成するカム機構について説明する。図4から図9は、摺動子3とカム筒4との接触関係を視認できるよう、摺動子3とカム筒4とを周方向に展開して図示している。また、摺動子3とカム筒4との当接関係を理解しやすいよう、本来径方向に向き合う関係である両部材間を、同一平面上で図示している。具体的には、作動突起3ba及び係止突起3bbが図面奥側から手前側に向かって突出する視点で図示している。よってカム部4aは、カム筒4内壁面に設けられたカム部4aをカム筒4の外側から、換言すればカム部4aの根元側からの視点で図示している(視認性向上のためにカム部4aのハッチングは省略している)。以降、カム筒4の回動方向である図面右側に向かう方向を回動方向前方、回動方向前方と逆方向であり図面左側に向かう方向を回動方向後方とする。
【0034】
図4は、没入状態におけるカム機構展開図である。この状態が、筆記具本体3が軸筒2内部において最も後退した状態である。係止突起3bbとカム部4aは、それぞれ摺動子3の外壁面とカム筒4の内壁面において、周方向等間隔に4か所ずつ設けられている。没入状態において、係止突起3bbはカム部4a間に互い違いに位置する。作動突起3baは、摺動子3の外壁面に周方向等間隔に2か所設けられている。
【0035】
図5は、図4の状態から筆記具本体3を前進させた図である。作動突起3ba側壁の前方端面には、作動面3baaが設けられている。カム部4a側壁の後方端面であって回動方向前方には、作動面3baaと当接する前方作動面4aaが設けられている。作動面3baa及び前方作動面4aaは、回動方向前方に向かうに従って前後方向後方へ、回動方向後方に向かう従って前後方向前方へ傾斜した、互いに向かい合う平面となっている。
【0036】
図6は、図5の状態から筆記具本体3を前進させた図である。この状態が、筆記具本体3が軸筒2内部において最も前進した状態である。作動面3baaと前方作動面4aaとが当接した図4の状態から、筆記具本体3を更に前進させると、カム筒4は、前方作動面4aaを介して作動面3baaから周方向の力を受けて回動方向前方へ回動する。係止突起3bbはカム部4aから前方に離間するため、当該回動に干渉しない。パイプ3abの前端面が段部2abに当接して筆記具本体3の前進が止まると、カム筒4の回動も止まり、図6に示す状態となる。このとき、筆記具本体3の前進に伴いコイルスプリング5が最も縮むため、筆記具本体3が受ける後方への付勢力が最大となる。
【0037】
図7は、図6の状態から筆記具本体3を後退させた図である。係止突起3bb側壁の後方端面には、係止面3bbaが設けられている。カム部4a側壁の前方端面であって回動方向前方には、係止面3bbaと当接する突出係止面4acが設けられている。係止面3bba及び突出係止面4acは、回動方向前方に向かうに従って前後方向前方へ、回動方向後方に向かうに従って前後方向後方へ傾斜した、互いに向かい合う平面となっている。
【0038】
図8は、図7の状態から筆記具本体3を後退させた図であり、突出状態におけるカム機構展開図である。係止面3bbaと突出係止面4acとが当接した図6の状態から、筆記具本体3を更に後退させると、カム筒4は、突出係止面4acを介して係止面面3bbaから周方向の力を受けて回動方向前方へ回動する。作動突起3baはカム部4aから後方に離間するため、当該回動に干渉しない。突出係止面4baの回動方向後方には前後方向に沿って壁となる部位があり、係止突起3bb側壁の回動方向後方端面が当接することで、筆記具本体3の後退及びカム筒4の回動が停止し、図8に示す状態となる。
【0039】
図9は、図8の状態から筆記具本体3を前進させた図である。カム部4a側壁の後方端面であって回動方向後方には、作動面3baaと当接する後方作動面4abが設けられている。作動面3baa及び後方作動面4abは、回動方向前方に向かうに従って前後方向後方へ、回動方向後方に向かうに従って前後方向前方へ傾斜した、互いに向かい合う平面となっている。図8の状態から筆記具本体3を前進させると、作動面3baaと後方作動面4abとが当接する。筆記具本体3を更に前進させると、カム筒4は、後方作動面4abを介して作動面3baaから周方向の力を受けて回動方向前方へ回動する。係止突起3bbはカム部4aから前方に離間するため、当該回動に干渉しない。パイプ3abの前端面が段部2abに当接して筆記具本体3の前進が止まると、カム筒4の回動も止まる。
【0040】
図9の状態から筆記具本体3を後退させると、図4に示す没入状態に戻る。カム部4a側壁の前方端面であって回動方向後方には、係止面3bbaと当接する没入案内面4adが設けられている。没入案内面4adは、回動方向前方に向かうに従って前後方向前方へ、回動方向後方に向かうに従って前後方向後方へ傾斜した、係止面3bbaと向かい合う平面となっている。図8の状態から筆記具本体3を後退させると、係止面3bbaと没入案内面4adとが当接する。筆記具本体3を更に後退させると、カム筒4は、没入案内面4adを介して係止面3bbaから周方向の力を受けて回動方向前方へ回動する。カム筒4が、没入案内面4adと係止面3bbaとが当接しなくなるまで回動すると、係止突起3bbがカム部4a間に互い違いに位置する没入状態となる。以上が、本実施形態におけるカム機構であり、没入状態から突出状態を経て没入状態へと戻る仕組みである。
【0041】
図10は、ボールペンリフィル3a及び摺動子3bの結合部分近傍拡大断面図である。先述の通り、カム筒4は軸筒2内部において前後動が制限された部材であり、本実施形態においては前後動不可能に配置されている。後軸2bの内壁面には、前後方向に延びるリブ2bbが設けられている。リブ2bbは周方向等間隔に4本設けられている。各リブ2bbの前端面と前軸2aの後端面とが、軸筒2を組み立てた状態において、カム筒4の前後方向両端面と当接し、カム筒4が挟持される段部として機能する。これにより、カム筒4は軸筒2内部において前後動不可能に配置される。なお、前後動不可能とは、カム筒4が軸筒2内部において前後方向に全く動かない状態のみならず、成形上の公差や使用に伴う僅かな摩耗などによって生じた隙間分だけは前後動してしまう状態も含意するものとする。
【0042】
カム筒4が軸筒2内部において前後動不可能に配置されることで、カム機構の作動音である係止面3bbaと突出係止面4acとの衝突音以外に出没機構の作動音が生じにくくなり、より静かな出没機構のボールペン1とすることができ好ましい。詳細には、カム筒4は筆記具本体3の前後動に伴い回動するところ、カム筒4は前後動しないため、軸筒2内壁面のいずれかと衝突せず、筆記具本体3とのみ衝突することとなる。筆記具本体3の前後動は、コイルスプリング5による後方への付勢力と、当該付勢力に抗した使用者によるクリップ6の操作によってのみ行われる。筆記具本体3が前進した状態で、使用者がクリップ6から手、特に指を離すか、クリップ6に指を掛けたまま前方への力を、コイルスプリング5による後方への付勢力より弱めることで、筆記具本体3は後退する。筆記具本体3をいずれの方法で後退させても、出没機構を静かに作動させることができ好ましい。
【0043】
図11は、摺動子3の外観斜視図である。摺動子3の外壁面には、前後方向に延びる摺動溝3bcが設けられている。摺動溝3bcは、周方向等間隔に2本設けられている。また、後軸2bの内壁面に設けられた4本のリブ2bbのうち、周方向に向かい合う2本であって、摺動溝3bcに対応した位置におけるリブ2bbは、前後方向中腹から後方に向かって、前端面より径方向内側に突出した摺動リブ2bbaが延設されている。摺動リブ2bbaは摺動溝3bcに挿入される。摺動リブ2bbaの前端面が、摺動溝3bcの前端面に当接することで、筆記具本体3の後退が止まる。また、摺動リブ2bbaが摺動溝3bcに沿って摺動することで、摺動子3は軸筒2内部において回動不可能に配置される。引いては、筆記具本体3は軸筒2内部において回動不可能に配置されることとなる。なお、回動不可能とは、摺動子3が軸筒2内部において周方向に全く動かない状態のみならず、成形上の公差や使用に伴う僅かな摩耗などによって生じた隙間分だけは周方向に回動してしまう状態も含意するものとする。本実施形態では、ボールペンリフィル3aは摺動子3bの筒部内において固定されておらず、周方向に回動可能な程度に遊嵌されている。摺動子3のみ周方向への回動が制限されているため、例えば筆記部の出没に伴う何らかの衝撃によって、ボールペンリフィル3aのみが僅かに回動してしまう可能性もあるが、斯様な場合も本発明において筆記具本体3の回動不可能に含意するものとする。
【0044】
筆記具本体3が軸筒2内部において回動不可能に配置されることで、カム機構の作動の際に、筆記具本体3がカム筒4を回動させる力のロスを防ぐことができる。カム筒4は、筆記具本体3の前後方向の運動を回動方向へ変換して回動するものであり、逆に筆記具本体3がカム筒4から少なからず反力を受ける。この反力によって筆記具本体3が回動方向後方へ回動してしまうと、カム筒4を回動させるための力がロスしてしまい、さらに大きな力で筆記具本体3を前後動させる必要が生じてしまう。斯様な力のロスを防ぐことで、使用者はノック部を過剰な力で操作する必要がなくなり、より静かな出没機構のボールペンとすることができ好ましい。
【0045】
筆記具本体3を構成する摺動子3bの外壁面前端には環状突起3bdが設けられている。環状突起3bdの後方は係止突起3bbの前方と連なっている。環状突起3bdは径方向外側向かって鍔状に突出している。内壁面にカム部4aが設けられたカム筒4の貫通孔前方から摺動子3の後方を挿入していくと、径方向内側に突出したカム部4a側壁前方端面が最終的に環状突起3bd側壁の後方端面に当接する。そのため、摺動子3の前方からカム筒4が取り外し不可能となる。
【0046】
筆記具本体3を構成する摺動子3bは、後軸2b内部において後軸2b内部に配置される。摺動子3bは窓穴2baを介してクリップ6と連結されている。当該連結部分が窓孔2baを形成する縁部の前方と交差するため、クリップ6の前方移動が制限される。よって、摺動子3bも軸筒2内部において前方移動に制限があり、後軸2bの前端開口部からは取り外し不可能となる。
【0047】
斯様な構成であるため、使用者がインキの消費やインキ色の変更などに伴いボールペンリフィル3aを交換する際、前軸2aと後軸2bとの螺子螺合を解除しても、摺動子3b及びカム筒4が後軸2bの前端開口部から不意に脱落してしまうことがなく、使用者は簡単にボールペンリフィル3aを交換することができ、好ましい。
【0048】
図12はカム筒4の縦断面斜視図である。カム筒4の前後方向の断面図であって、カム筒4後方を図面奥側、カム筒4前方を図面手前側に傾斜した構図で示している。カム部4aの突出係止面4acと没入案内面4adとでは径方向の高さが異なっており、没入案内面4adの方が突出係止面4acより低くなっている。突出係止面4acの回動方向後方からは、前端面に没入案内面4adが設けられた突起が、前後方向前方へ延設された形状となっている。当該突起自体が前後方向に亘って突出係止面4acより径方向に低くなっており、当該突起の根元部分から径方向外側には、突出係止面4acと連続した後方作動突起案内面4aeが設けられている。後方作動突起案内面4aeも突出係止面4ac同様、回動方向前方に向かうに従って前後方向前方へ、回動方向後方に向かうに従って前後方向後方へ傾斜した平面となっている。
【0049】
図13から図16を参照しつつ、カム筒4の貫通孔に摺動子3bが挿通される様子について詳述する。図13から図16図4から図9同様、摺動子3とカム筒4との接触関係を視認できるよう、摺動子3とカム筒4とを周方向に展開して図示している。
【0050】
カム筒4の貫通孔前方から摺動子3bの後方を挿入していくと、カム筒4と摺動子3bとの周方向の位置関係によっては、作動突起3baがカム部4aと接触する場合と、作動突起3baがカム部4aと接触せず、そのまま周方向に隣り合うカム部4a間に入っていく場合とがある。
【0051】
図13は、作動突起3baがカム部4aと接触する場合を示した図である。作動突起3ba側壁の後方は、回動方向前方の前方案内面3babと、回動方向後方の後方案内面3bacとの2つの傾斜面によって構成されている。前方案内面3babは、回動方向前方に向かうに従って前後方向前方へ、回動方向後方に向かうに従って前後方向後方へ傾斜しており、突出係止面4ac及び後方作動突起案内面4aeと互いに向かい合う平面となっている。
【0052】
図14は、図13の状態からカム筒4を前進させた図である。前方案内面3babは、突出係止面4acから後方作動突起案内面4aeに亘るいずれかの面と当接する。前方案内面3babが突出係止面4acと当接した場合、カム筒4の前進に伴い互いの面に沿ってカム筒4が回動方向前方へ回動していく。ここで、作動突起3ba側壁の後方における径方向の高さは、前端面に没入案内面4adが設けられた突起の径方向の高さより、低くなっている。換言すれば、作動突起3ba側壁の後方における径方向の天面と、前方端面に没入案内面4adが設けられた突起の径方向の天面とが、互いに接触しない寸法となっている。これにより、カム筒4の前進及び回動方向前方への回動が進んでも、作動突起3baの後方と、前方端面に没入案内面4adが設けられた突起の回動方向前方とが衝突することがない。更にカム筒4の前進及び回動方向前方への回動が進んでも、前方案内面3babがスムーズに後方作動突起案内面4aeと当接することができる。カム筒4は、前方案内面3babを介して突出係止面4ac及び後方作動突起案内面4aeから周方向の力を受けて回動方向前方へ回動する。
【0053】
ここで、作動突起3ba側壁の径方向の高さは、作動面3baaが設けられた前方側と、前方案内面3bab及び後方案内面3bacが設けられた後方側とでも異なっており、前方側の方が高くなっている。これにより、作動子3をカム筒4の貫通孔に挿通させる際には、作動突起3ba側壁の後方側がカム部4の前方側に引っかかることなく、スムーズに挿通を進めることができつつ、先述の通り作動面3baaはカム部4と当椄可能でありカム機構として機能させることができ好ましい。
【0054】
図15は、図14の状態からカム筒4を前進させた図である。図14の状態からカム筒4を前進させると、図14の状態の時点で作動突起3baが当接していたカム部4aとの当接が解除される。当該作動突起3baは、当該カム部4aと、当該カム部4aより回動方向後方に位置するカム部4aとの間に案内される。更にカム筒4を前進させると、図3に示す状態となり、カム筒4の貫通孔への摺動子3bの挿通が完了する。
【0055】
図16は、図13とは異なり、作動突起3baがカム筒4側壁の前方端面とは当椄しない場合を示した図である。図16の状態で作動突起3baが当接するカム部4aの側壁であって、カム部4aのうち最も回動方向前方に延びた突起の前方には、前方作動突起案内面4afが設けられている。前方作動突起案内面4afの前後方向後方には前方作動面4aaが設けられている。後方案内面3bac及び前方作動突起案内面4afは、回動方向後方に向かうに従って前後方向前方へ、回動方向前方に向かうに従って前後方向後方へ傾斜した、互いに向かい合う平面となっている。
【0056】
後方案内面3bacと前方作動突起案内面4afとが当接すると、カム筒4は、前方作動突起案内面4afを介して後方案内面3bacから周方向の力を受けて回動方向後方へ回動する。そして、作動突起3baは、当該カム部4aと、当該カム部4aより回動方向前方に位置するカム部4aとの間に案内され、図15と同様の状態になる。更にカム筒4を前進させると、図3に示す状態となり、カム筒4の貫通孔への摺動子3bの挿通が完了する。
【0057】
図17は、クリップ6の軸筒2側外観図である。ポリカーボネート樹脂の成形品であるクリップ6の側壁には、成形時のゲート位置6aが設けられている。クリップ6の軸筒2側外壁面には、三又に分かれたリブ6bが設けられている。リブ6bの三又のうち2本のリブの端部でゲート位置6aを前後方向に挟み、残りの1本のリブが前後方向に対して直交する方向に延び、その延長線上にゲート位置6aが位置している。リブ6bが梁の役割をすることでクリップ6の強度が向上し、湾曲しても割れや折れに強くなり好ましい。
【0058】
図18は、他の実施形態に係るクリップ6の軸筒2側外観図である。図17同様、クリップ6はポリカーボネート樹脂の成形品である。クリップ6の側壁には、成形時のゲート位置6aが設けられている。クリップ6の軸筒2側外壁面には、四又に分かれたリブ6bが設けられている。リブ6bの四又のうち1本のリブが、前後方向に太く形成されており、当該前後方向範囲内に、ゲート位置6aが収まるよう設計されている。斯様な構成により、ゲート位置6a近傍の厚みが大きくなり、特にゲート位置6a近傍を起点とする割れや折れに強くなり好ましい。一般的に樹脂成形品は厚みが大きくなる程、成形品の表面に意図せず凹凸が生じる、いわゆるヒケが生じやすくなる。本実施形態においては、クリップ6の厚みが大きくなる箇所に、樹脂が金型に流れ込むゲート位置6aが配置されているため、当該箇所に十分な量の樹脂が充填され、ヒケが生じにくくなり好ましい。また本実施形態は、図17のリブ6bよりも、前後方向に対して直交する方向に延びるリブが1本多いため、クリップ6のねじれ方向への強度が向上し好ましい。
【符号の説明】
【0059】
1 ボールペン
2 軸筒
2a 前軸
2aa 段部
2ab コイルスプリング前端用リブ
2b 後軸
2ba 窓孔
2bb リブ
2bba 摺動リブ
3 筆記具本体
3a ボールペンリフィル
3aa ボールペンチップ
3ab パイプ
3aba コイルスプリング後端用突起
3b 摺動子
3ba 作動突起
3baa 作動面
3bab 前方案内面
3bac 後方案内面
3bb 係止突起
3bba 係止面
3bc 摺動溝
3bd 環状突起
4 カム筒
4a カム部
4aa 前方作動面
4ab 後方作動面
4ac 突出係止面
4ad 没入案内面
4ae 後方作動突起案内面
4af 前方作動突起案内面
5 コイルスプリング
6 クリップ
6a ゲート位置
6b リブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18