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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035833
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】耐震補強構造及び建物
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20230306BHJP
   E04B 1/26 20060101ALI20230306BHJP
   F16F 15/073 20060101ALI20230306BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
E04G23/02 D
E04B1/26 F
F16F15/073
E04H9/02 321B
E04H9/02 321F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098149
(22)【出願日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2021139918
(32)【優先日】2021-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521383282
【氏名又は名称】康和建工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】三村 康久
【テーマコード(参考)】
2E139
2E176
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC23
2E139BB22
2E139BD13
2E176AA09
2E176BB28
2E176BB29
3J048AB02
3J048BC04
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】取設対象の木質系構造材を傷つけたり劣化させたりするおそれのない耐震補強構造を提供する。
【解決手段】
少なくとも2の木質系構造材3と、この木質系構造材3同士の間に介設される補強用構造物2と、上記木質系構造材3に上記補強用構造物2を固定するための固定構造8Aと、を備え、上記補強用構造物2は、この補強用構造物2の一部をなし、取設対象である木質系構造材3に並設される補強材2aを備え、上記固定構造8Aは、上記補強材2aと取設対象である木質系構造材3の間に介設され、外力が加わった際に弾性変形する緩衝手段4と、補強材2aと緩衝手段4と木質系構造材3が重なる部分の外回りに巻回又は周設されてこれらを間接的に一体化する固定手段5と、を備えてなる耐震補強構造1による。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2の木質系構造材と、
前記木質系構造材同士の間に介設される補強用構造物と、
前記木質系構造材に前記補強用構造物を固定するための固定構造と、を備え、
前記補強用構造物は、
前記補強用構造物の一部をなし、取設対象である前記木質系構造材に並設される補強材を備え、
前記固定構造は、
前記補強材と前記木質系構造材の間に介設され、外力が加わった際に弾性変形する緩衝手段と、
前記補強材と前記緩衝手段と前記木質系構造材が重なる部分の外回りに巻回又は周設されてこれらを間接的に一体化する固定手段と、を備えていることを特徴とする耐震補強構造。
【請求項2】
前記緩衝手段は、チタン製で断面形状が波状又はジグザグ状をなす板バネであることを特徴とする請求項1に記載の耐震補強構造。
【請求項3】
前記木質系構造材と前記緩衝手段の間に介設される保護手段を備えていることを特徴とする請求項2に記載の耐震補強構造。
【請求項4】
前記固定手段は、チタン箔であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の耐震補強構造。
【請求項5】
前記固定手段は、樹脂繊維又は炭素繊維からなる帯状シート又はバンド又は紐であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の耐震補強構造。
【請求項6】
前記固定手段は、
第1の固定手段であるチタン箔と、
第2の固定手段である樹脂繊維又は炭素繊維からなる帯状シート又はバンド又は紐と、を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の耐震補強構造。
【請求項7】
前記補強材を含む前記補強用構造物は、ラチス構造又はトラス構造を有していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の耐震補強構造。
【請求項8】
建物を構成する軸組みに請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の耐震補強構造を備えていることを特徴とする建物。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造軸組工法による建物、又は木造軸組工法と他の工法を組み合わせてなる混構造の建物、に取設される耐震補強構造及びそれを備えた建物に関する。
【0002】
近年、地震等の自然災害に対する備えとして、社寺建築への耐震補強工事の必要性が高まっている。
その一方で、現存する社寺建築は、築100年を超えるものも少なくなく、文化財としての価値を損なわないために、既存の柱や梁等の木質系構造材を傷付けることなく耐震補強工事を行うことが望まれている。
本発明と関連する技術分野の先行技術としては、例えば以下に示すようなものが知られている。
【0003】
特許文献1には「構築物の壁の補強に使用される接続装置、壁の補強方法および補強構造」という名称で、構築物の壁の補強に使用される接続装置、壁の補強方法および補強構造に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示される発明は、角筒状を有し、構築物の壁の補強を行うため、壁の隅角部または壁の梁との隣接部に配置される接続装置および帯状シート材である補強材を準備し、構築物の上記接続装置を設置すべき壁の隅角部の少なくとも斜め対向する隅角部または壁の梁との隣接部に、準備した接続装置の形状に対応した孔をあけここに該接続装置を設置し、この接続装置の1辺と柱または梁を上記補強材で巻き込むとともに、この接続装置の他辺を利用して、斜め対向する接続装置または水平に対向する接続装置との間に、補強材を斜材状または水平材状に設置することを特徴とするものである。
また、特許文献1に開示される接続装置は、同文献中の図5乃至図7に示すように木造建築の補強にも用いることができる。
そして、上記構成の特許文献1に開示される発明である接続装置と補強材を木造建築の軸組みに用いることで、柱と梁の抜け出しを防止することができる。加えて、特許文献1に開示される発明において、筋交い状に設置した補強材は、木質系構造材における軸組みのせん断変形に対して抵抗力を発揮させることができる。
【0004】
特許文献2には「木造建築物における柱体の補強具」という名称で、木造建築物の耐震強度を高めるための柱体の補強具に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示される発明は、同文献中の図1中に記載される符号をそのまま用いて説明すると、交差した柱体(1)の交差部分に沿って設置すべく構成したL字状の金属帯体(3)と、同金属帯体(3)のL字状の縦辺(3a)とL字状の横辺(3b)との間にはすかい状に介設した板ばね帯体(4,4',4'')からなり、合わせ緊締具(5)により金属帯体(3)と柱体(1)とを抱きかかえ状態で包被して、L字状の金属帯体(3)の縦辺(3a)と横辺(3b)とを柱体(1)に密着固定して用いるものである。
上記構成の特許文献2に開示される発明によれば、既存の木造建築物にも簡単に取り付けることができ、取り付けることによって木造建築物の耐震性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-63669号公報
【特許文献2】特開2002-146908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1に開示される発明の場合は、接続装置と補強材を木造建築の軸組みに付加することで、軸組みのせん断変形を抑制するという効果が期待できるものの、上記効果を確実に発揮させるためには、軸組みを構成する全ての柱間に当該発明を設置する必要があると考えられる。
すなわち、特許文献1に開示される発明である接続装置と補強材を、木造建築の軸組みを構成する任意の柱間で、かつこの柱間に壁を有していない部分に局所的に設置した場合は、この柱間の空間を押し縮めるような外力には対抗することができないという課題があった。
【0007】
また、上述の特許文献2に開示される発明の場合も、個々の柱の仕口周辺を補強して、土台や梁(又は桁)からの抜けを防止できると考えられるものの、やはり柱間の空間を押し縮めるような外力には対抗することが難しいという課題があった。
【0008】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものでありその目的は、木造建築における木質系構造材にボルトやビス等の従来公知の金物を用いることなく取設することができ、かつ木質系構造材同士の間隔を押し縮めるように作用する外力に対抗することができ、しかも上記外力が本発明の取設対象である軸組みに伝達された場合でも、取設対象である木質系構造材が損傷し難い耐震補強構造及びそれ備えた建物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための第1の発明である耐震補強構造は、少なくとも2の木質系構造材と、この木質系構造材同士の間に介設される補強用構造物と、上記木質系構造材に上記補強用構造物を固定するための固定構造と、を備え、上記補強用構造物は、上記補強用構造物の一部をなし、取設対象である木質系構造材に並設される補強材を備え、上記固定構造は、上記補強材と取設対象である木質系構造材の間に介設され、外力が加わった際に弾性変形する緩衝手段と、補強材と緩衝手段と木質系構造材が重なる部分の外回りに巻回又は周設されてこれらを間接的に一体化する固定手段と、を備えていることを特徴とするものである。
上記構成の第1の発明において、木質系構造材同士の間に配置される補強用構造物は、スペーサとして作用する。この場合、補強用構造物の取設対象である木質系構造材同士の間を押し縮めるように外力が作用した際に、この外力に抗って木質系構造材同士の間隔を保持し、建物の損傷等を妨げるという作用を有する。
また、補強用構造物を構成する補強材は、補強用構造物の取設対象である木質系構造材に並設されることで、この木質系構造材を直接補強するという作用を有する。
さらに、緩衝手段は、地震等の発生時に補強用構造物から木質系構造材に対して作用する外力(例えばせん断力)により弾性変形してこの外力を緩和するという作用を有する。
加えて、固定手段は、補強用構造物を構成する補強材、緩衝手段及び木質系構造材を束ねて一体化することで間接的に固定するという作用を有する。つまり、補強材、緩衝手段及び木質系構造材は、それぞれ隣り合うパーツと接触しているものの、互いに接合されていない。
この場合、地震等が発生するなどして第1の発明に係る固定構造に外力(例えばせん断力等)が作用した際に、固定構造を構成する各パーツが互いに位置ずれを起こすことが許容される。
これにより、補強用構造物の取設対象である木質系構造材に作用するせん断力や引張力が緩和されて、固定構造を構成する木質系構造材が折れたり損傷したりするのを防ぐという作用を有する。
【0010】
第2の発明である耐震補強構造は、上述の第1の発明であって、緩衝手段は、チタン製で断面形状が波状又はジグザグ状をなす板バネであることを特徴とするものである。
上記構成の第2の発明は、上述の第1の発明による作用と同じ作用を有する。さらに、第2の発明において緩衝手段としてチタン製の板バネを用いることで、第2の発明に係る耐震補強構造の設置場所に寒暖差が生じた場合でも、板バネに結露が生じない。この場合、板バネに生じる結露(水分)を利用して木材腐朽菌が繁殖するのを防ぐという作用を有する。これにより、第2の発明において板バネと接触する部分の木質系構造材が腐朽して劣化する等の不具合が生じるのを防ぐという作用を有する。
また、第2の発明では、緩衝手段の形態を断面形状が波状又はジグザグ状をなす板バネに特定することで、緩衝手段の全体の厚みが均一化される。この結果、第2の発明によれば、補強用構造物の表面において緩衝手段が配設される領域全体で外力を受け止めることができる。この場合、第2の発明において、補強用構造物を介して木質系構造材に外力が伝達される際に、木質系構造材の局所に外力が集中しない。よって、第2の発明によれば、補強用構造物を介して木質系構造材に外力が作用する際に、その取設対象である木質系構造材が折れたり、損傷したりするのを好適に抑制するという作用を有する。
【0011】
第3の発明である耐震補強構造は、上述の第1又は第2の発明であって、木質系構造材と緩衝手段の間に介設される保護手段を備えていることを特徴とするものである。
上記構成の第3の発明は、上述の第1又は第2の発明による作用と同じ作用を有する。さらに、第3の発明において保護手段は、緩衝手段が木材又は木質系材料よりも硬い材質からなる場合に、緩衝手段が木質系構造材に押し付けられることで、木質系構造材の表面が損傷するのを防ぐという作用を有する。
【0012】
第4の発明である耐震補強構造は、上述の第1乃至第3のいずれかの発明であって、固定手段は、チタン箔であることを特徴とするものである。
上記構成の第4の発明は、上述の第1乃至第3のそれぞれの発明による作用と同じ作用を有する。さらに、第4の発明において固定手段であるチタン箔は、木質系構造材に補強用構造物を構成する補強材を間接的に固定するとともに、木質系構造材と補強材の重なり部分に巻回されるチタン箔によっても補強するという作用を有する。
さらに、第4の発明では、固定手段の材質をチタンに特定することで、第4の発明に係る耐震補強構造の設置場所において寒暖差が生じた際に、固定手段の表面に結露が生じるのを防ぐという作用を有する。この場合、固定手段に生じた結露(水分)を利用して木材腐朽菌が繁殖するのを防ぐという作用を有する。これにより、第4の発明において固定手段と接触する部分の木材又は木質系材料、より具体的には木質系構造材が腐朽して劣化する等の不具合が生じるのを防ぐという作用を有する。
【0013】
第5の発明であるである耐震補強構造は、上述の第1乃至第3のいずれかの発明であって、固定手段は、樹脂繊維又は炭素繊維からなる帯状シート又はバンド又は紐であることを特徴とするものである。
上記構成の第5の発明は、上述の第1乃至第3のそれぞれの発明による作用と同じ作用を有する。さらに、第5の発明において固定手段である樹脂繊維又は炭素繊維からなる帯状シート又はバンド又は紐は、木質系構造材に補強材を有する補強用構造物を間接的に固定するという作用を有する。
さらに、第5の発明では、固定手段の材質を樹脂繊維又は炭素繊維に特定することで、第5の発明に係る耐震補強構造の設置場所において寒暖差が生じた際に、固定手段に結露が生じるのを防ぐという作用を有する。この場合、固定手段に生じた結露(水分)を利用して木材腐朽菌が繁殖するのを防ぐという作用を有する。これにより、第5の発明において固定手段と接触する部分の木材又は木質系材料、より具体的には木質系構造材が腐朽して劣化する等の不具合が生じるのを防ぐという作用を有する。
【0014】
第6の発明である耐震補強構造は、上述の第1乃至第3のいずれかの発明であって、固定手段は、第1の固定手段であるチタン箔と、第2の固定手段である樹脂繊維又は炭素繊維からなる帯状シート又はバンド又は紐と、を備えていることを特徴とするものである。
上記構成の第6の発明は、上述の第1乃至第3のそれぞれの発明による作用と同じ作用を有する。さらに、第6の発明において固定手段として第1の固定手段であるチタン箔を備えることによる作用は、上述の第4の発明において固定手段としてチタン箔を備えることによる作用と同じである。
また、第6の発明において固定手段として第2の固定手段である樹脂繊維又は炭素繊維からなる帯状シート又はバンド又は紐を備えることによる作用は、上述の第5の発明において固定手段として樹脂繊維又は炭素繊維からなる帯状シート又はバンド又は紐を備えることによる作用と同じである。
そして、第6の発明の態様が、例えば固定手段として第1の固定手段であるチタン箔を木質系構造材と補強材の重なり部に巻回した後に、さらに巻回されたチタン箔の外回りを第2の固定手段により緊縛するという態様である場合は、接着剤等の樹脂成分の塗布や、ボルトやビス等の従来公知の金物の埋め込みを一切行うことなく木質系構造材に補強用構造物を固定することができる。
この場合は、第6の発明に係る耐震補強構造の取設対象である木質系構造材を含む軸組み(又はそれを備えた建物)が例えば文化財として指定されており、この木質系構造材に対して接着剤等の塗布や、ビス又はボルト等の金物の埋め込みを行うことができない場合でも、第6の発明である耐震補強構造を支障なく取設することができる。
さらに、第6の発明の態様は、木質系構造材、補強用構造物を構成する補強材及び緩衝手段の重なり部分に、第1の固定手段が巻回された部分と、第2の固定手段が巻回された部分を並設するというものでもよい。
この場合は、第1の固定手段が巻回された部分に万一緩みが生じても、その近傍に第2の固定手段が巻回された部分が配設されるため、木質系構造材に対する補強用構造物の固定効果が低下するのを抑制するという作用を有する。
【0015】
第7の発明である耐震補強構造は、上述の第1乃至第6のいずれかの発明であって、補強材を含む補強用構造物は、ラチス構造又はトラス構造を有していることを特徴とするものである。
上記構成の第7の発明は、上述の第1乃至第6のそれぞれの発明による作用と同じ作用を有する。さらに、第7の発明において補強用構造物が、ラチス構造又はトラス構造を有していることで補強用構造物自体の剛性が高まる。この結果、地震等の発生時に、第7の発明に係る補強構造物が配設された木質系構造材同士の間隔を狭めるように外力が作用した場合でも、これらの間に介設される補強構造物によりこの外力に抗って木質系構造材同士の間隔を保持するという作用を有する。
【0016】
第8の発明である建物は、上述の第1乃至第7のいずれかの発明である耐震補強構造を、建物を構成する軸組みに備えていることを特徴とするものである。
上記構成の第8の発明である建物は、上述の第1乃至第7のそれぞれの発明である耐震補強構造を軸組みに備えた建物を物の発明として特定したものである。
そして、第8の発明における耐震補強構造の作用は、上述の第1乃至第7のそれぞれの発明による作用と同じである。
また、第8の発明によれば、建物の軸組みが上述のような耐震補強構造を備えていることで、その建物の耐震性が向上される。
【発明の効果】
【0017】
上述のような第1の発明によれば、木質系構造材同士の間に補強用構造物を設置する際に、木質系構造材と補強用構造物を構成する補強材の間に緩衝手段を介設することで、地震等の発生時にせん断力(外力)が補強用構造物から木質系構造材に伝達される際に、このせん断力を緩衝手段により緩衝して緩和することができる。
さらに、第1の発明では、補強用構造物を構成する補強材が、その取設対象である木質系構造材に接合されておらず、固定手段により束ねられた状態で間接的に一体化されている。このため、地震等が発生して、第1の発明における木質系構造材と補強用構造物との固定構造に大きな外力(せん断力等)が作用した場合、上記緩衝手段により外力を緩和しつつ、固定構造において木質系構造材と補強用構造物との間に位置ずれを生じさせることによってもこの外力を緩和することができる。
この結果、地震等が発生した際に、第1の発明に係る補強用構造物が配設される木質系構造材同士の空間が押し潰されて、建物が破損するのを防止できる。
さらに、第1の発明では、木質系構造材に補強用構造物を連結して一体化するにあたり、ビスやボルト等の従来公知の金物を木質系構造材に埋め込む必要がない。このため、第1の発明の場合は、その設置に伴い、木質系構造材を構成する繊維の一部が破壊されることがない。このため、第1の発明によれば、その設置に伴う木質系構造材の損傷や劣化を防ぐことができる。
加えて、第1の発明によれば、木質系構造材と補強用構造物を構成する補強材は、直接接合されることなく固定手段により束ねられて一体化されているだけである。このため、地震等が発生して、これらの固定構造において位置ずれが生じた場合でも、その補修や修復を容易に行うことができる。
したがって、第1の発明によれば、その取設対象である木質系構造材に対して、接着剤等の樹脂成分の塗布や、ボルトやビス等の従来公知の金物の埋め込みを一切行うことなく補強用構造物を取設することができるとともに、第1の発明における固定構造に大きな外力(例えばせん断力や引張力)が作用した場合でも、取設対象である木質系構造材に損傷又は破損が起こりにくい耐震補強構造を提供することができる。
【0018】
第2の発明は、上述の第1の発明による効果と同じ効果を有する。さらに、第2の発明では、緩衝手段として特にチタン製の板バネを用いることで、緩衝手段と接触する木質系構造材が腐朽するなどして劣化するのを防ぐことができる。
この場合、第2の発明を木質系構造材に取設したせいで、その取設対象である木質系構造材に損傷や劣化が生じてしまい、第2の発明による耐震性の向上効果が発揮されなくなるのを防止できる。
つまり、第2の発明によれば、その設置による耐震性向上効果を確実に発揮させることができる。
【0019】
第3の発明は、上述の第1又は第2の発明による効果と同じ効果を有する。さらに、第3の発明では、木質系構造材の表面を保護手段により被覆して保護することができる。この場合、第3の発明の設置時に、あるいは第3の発明の設置後に地震等が発生した際に、木質系構造材の表面に緩衝手段が押し付けられて木質系構造材の表面が損傷するのを防ぐことができる。
よって、第3の発明によれば、設置対象である木質系構造材を保護しながら、その耐震性を向上させることができる。
よって、第3の発明によれば、例えば文化財として指定されている建物にも設置し易い耐震補強構造を提供することができる。
【0020】
第4の発明は、上述の第1乃至第3のそれぞれの発明による効果と同じ効果を有する。さらに、第4の発明によれば、固定手段としてチタン箔を用いることで、木質系構造材への補強用構造物の固定と、これらの連結部分の補強を同時に行うことができる。
しかも、チタン箔は、その設置環境において寒暖差が生じても結露を生じないので、チタン箔と接触する部分の木質系構造材が腐朽し難い。この結果、第4の発明によれば、第4の発明の取設対象である木質系構造材の腐朽による劣化を防ぐことができる。
この場合、第4の発明を木質系構造材に取設したせいで、その取設対象である木質系構造材に損傷や劣化が生じてしまい、第4の発明による耐震性の向上効果が発揮されなくなるのを防止できる。
つまり、第4の発明によれば、その設置による耐震性向上効果を確実に発揮させることができる。
【0021】
第5の発明は、上述の第1乃至第3のそれぞれの発明による効果と同じ効果を有する。さらに、第5の発明では、固定手段として樹脂繊維又は炭素繊維からなる帯状シート又はバンド又は紐を用いることで、その設置環境において寒暖差が生じた際に、固定手段の表面に結露が生じない。
このため、第5の発明によれば、固定手段である樹脂繊維又は炭素繊維からなる帯状シート又はバンド又は紐と接触する部分の木質系構造材が腐朽し難い。この結果、第5の発明によれば、第5の発明の取設対象である木質系構造材の腐朽による劣化を防ぐことができる。
この場合、第5の発明を木質系構造材に取設したせいで、その取設対象である木質系構造材に損傷や劣化が生じてしまい、第5の発明による耐震性の向上効果が発揮されなくなるのを防止できる。つまり、第5の発明によれば、その設置による耐震性向上効果を確実に発揮させることができる。
さらに、第5の発明の場合は、固定手段として金属箔又は金属製シートを用いる場合に比べて、固定手段の端部の始末が容易である。つまり、第5の発明によれば、固定手段である樹脂繊維又は炭素繊維からなる帯状シート又はバンド又は紐の端部に結び目を形成するだけで、その端部の処理を完了することができる。
この結果、取設対象への第5の発明の設置を迅速に行うことができる。
【0022】
第6の発明は、上述の第1乃至第3のそれぞれの発明による効果と同じ効果を有する。
さらに、第6の発明において、固定手段として第1の固定手段であるチタン箔と、第2の固定手段である樹脂繊維又は炭素繊維からなる帯状シート又はバンド又は紐の両者を用いる場合で、かつ第1の固定手段が巻回された部分の外回りを第2の固定手段により緊縛固定する場合は、接着剤等の樹脂成分の塗布や、ボルトやビス等の従来公知の金物の埋め込みを行うことなく一切行うことなく木質系構造材に補強用構造物を固定することができるという効果を奏する。
また、第6の発明において、固定手段として第1の固定手段であるチタン箔と、第2の固定手段である樹脂繊維又は炭素繊維からなる帯状シート又はバンド又は紐の両者を用いる場合で、かつ木質系構造材、補強用構造物を構成する補強材及び緩衝手段の重なり部分に、第1の固定手段が巻回された部分と、第2の固定手段が巻回された部分を並設する場合は、万一第1の固定手段が巻回された部分に緩みが生じた場合でも、木質系構造材に対する補強用構造物の固定効果が低下するのを防ぐという効果を奏する。
さらに、いずれの場合も、第6の発明の設置後に、経年変化に伴って第6の発明を構成する補強用構造物や固定手段(第1の固定手段及び/又は第2の固定手段)に劣化や損傷が生じた場合でも、第6の発明の設置対象である木質系構造材を損傷することなく、補強用構造物や固定手段を交換したり補修したりすることができる。
したがって、第6の発明によれば、その構成要素の一部又は全部を定期的に又は必要に応じて交換又は補修することで、その設置対象である木質系構造材を損傷することなく、しかも恒久的に耐震補強効果を発揮させることができる耐震補強構造を提供することができるという効果も有する。
【0023】
第7の発明は、上述の第1乃至第6のそれぞれの発明による効果と同じ効果を有する。さらに、第7の発明では、補強用構造物がラチス構造又はトラス構造を有していることで補強用構造物の剛性を高めることができる。
よって、第7の発明によれば、補強用構造物の構造がシンプルで、かつ耐震性の向上効果が優れた耐震補強構造を提供することができる。
【0024】
第8の発明である建物は、上述の第1乃至第7のそれぞれの発明である耐震補強構造を備えた建物を物の発明として特定したものである。
したがって、第8の発明による効果は、上述の第1乃至第7のそれぞれの発明による効果と同じである。
よって、第8の発明によれば、建物全体の又は所望箇所の耐震性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施形態に係る耐震補強構造の斜視図である。
図2】本実施形態に係る耐震補強構造における固定構造の斜視図である。
図3】本実施形態に係る耐震補強構造における固定構造の第1の変形例を示す斜視図である。
図4】本実施形態に係る耐震補強構造における固定構造の第2の変形例を示す斜視図である。
図5】本実施形態に係る耐震補強構造における固定構造の第3の変形例を示す斜視図である。
図6】(a)本実施形態に係る耐震補強構造の固定構造に用いられる緩衝手段の第1の変形例を示す斜視図であり、(b)同固定構造に用いられる緩衝手段の第2の変形例を示す斜視図である。
図7】本実施形態の第5の変形例に係る固定構造を分解した状態の斜視図である。
図8】本実施形態の第5の変形例に係る固定構造の要部を示す斜視図である。
図9】(a)本実施形態に係る耐震補強構造における補強用構造物の仕口を分解した状態の部分斜視図であり、(b)同仕口を組立てた状態の部分斜視図である。
図10】本実施形態に係る耐震補強構造における補強用構造物の第1の変形例を示す斜視図である。
図11】本実施形態に係る耐震補強構造における補強用構造物の第2の変形例を示す斜視図である。
図12】本実施形態に係る耐震補強構造における固定構造の他の態様を示す斜視図である。
図13】本実施形態に係る耐震補強構造を備えた社寺建築(建物)の床下部分の平面図である。
図14】本実施形態に係る耐震補強構造を備えた木造住宅(建物)の軸組みを妻側から見た側面図である。
図15】本実施形態に係る耐震補強構造における固定構造の別の態様を示す部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態に係る耐震補強構造及びそれを備えた建物について図1乃至図15を参照しながら説明する。
【0027】
<1-1;本発明の基本構成について>
はじめに、図1及び図2を参照しながら本発明の実施形態に係る耐震補強構造の基本構成について説明する。
図1は本実施形態に係る耐震補強構造の斜視図である。また、図2は同耐震補強構造における固定構造の斜視図である。
本実施形態に係る耐震補強構造1は、例えば図1に示すように、木質系構造材3である2本の柱3a,3aと、例えば格子状の構造物であり、柱3a,3aの間に介設される補強用構造物2と、柱3aに補強用構造物2の端縁を固定するための固定構造8(例えば固定構造8A)とを備えてなるものである。なお、本実施形態では複数種類の固定構造8を例示しているが、これらをまとめて指し示す場合は「固定構造8」と表記する。
また、上述のような本実施形態に係る耐震補強構造1における補強用構造物2は、この補強用構造物2の一部をなし、取設対象である柱3a(木質系構造材3)に並設される補強材2aを備えている。
さらに、上述のような本実施形態に係る耐震補強構造1における固定構造8は、例えば図1及び図2に示すように、補強用構造物2を構成する補強材2aと柱3aの間に介設され、外力が加わった際に弾性変形する例えば板バネ4a等からなる緩衝手段4と、柱3aと板バネ4aと補強材2aが重なる部分の外回りに巻回又は周設されて、柱3aと板バネ4aと補強材2aを間接的に一体化する固定手段5とを備えている。
なお、図1及び図2に示す本実施形態に係る耐震補強構造1では、固定手段5として、第1の固定手段5a(例えば金属製シートや金属箔等)と、第2の固定手段5b(例えば、樹脂製繊維又は炭素繊維からなるバンド等)の両者を備える場合(固定構造8A)を例に挙げて説明しているが、固定手段5は第1の固定手段5a又は第2の固定手段5bのいずれかのみでもよい。あるいは、柱3aと板バネ4aと補強材2aが重なる部分の外回りに、第1の固定手段5aが巻回されている部分と、第2の固定手段5bが巻回されている部分を、これらが重ならないように並設してもよい。この点については、固定構造8の細部構造として後段において図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
さらに、図1では本実施形態に係る耐震補強構造1を、建物の床下に、すなわち木造軸組みにおける大引き51の鉛直下方側に設置する場合を例に挙げて説明しているが、耐震補強構造1の設置場所は建物の床下以外でもよい。この点についても後段において図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
<1-2;本発明の設置方法について>
上述のような本実施形態に係る耐震補強構造1は、以下に示すような手順により木質系構造材3である柱3a間に取設することができる。
より具体的には、まず、本実施形態に係る耐震補強構造1の設置に際し、木質系構造材3同士の間でスペーサとして機能する補強用構造物2を準備する。この補強用構造物2は、例えば図1及び図2に示すような、木材又は木質系材料(例えば集成材等)を格子状に組立ててなるものを用いてもよいし、あるいは金属製のL字アングルを格子状に成形(図示せず)してなるものを用いてもよい。
次に、本実施形態に係る耐震補強構造1の取設対象である2本の柱3a間に補強用構造物2を配設する。より詳細には、補強用構造物2の一部をなし、かつ補強用構造物2の端縁に配設される補強材2aを、その取設対象である柱3aの横に並べて配置する。この時、補強用構造物2は必要に応じて作業用の「馬」等を利用するなどして支えておくとよい。
また、木質系構造材3である柱3aに補強用構造物2を構成する補強材2aを併設する際に、柱3aと補強材2aの間に緩衝手段4である例えば板バネ4aを介設する。
この後、柱3aと板バネ4aと補強材2aが重なる部分に固定手段5である第1の固定手段5a又は第2の固定手段5bのいずれか、あるいはこれら両方を巻回して、固定手段5により間接的に柱3aと板バネ4aと補強材2aを一体化すればよい。
また、補強用構造物2の他の端部(補強材2aを備える側)についても同様にして木質系構造材3である例えば柱3等に固定構造8により固定すればよい。
【0030】
なお、固定手段5やその端部の処理(始末)については、以下に示すような方法を適宜選択することができる。
まず、固定手段5として例えば第1の固定手段5a(例えば金属製シート)のみを用いる場合は、柱3aと板バネ4aと補強材2aが重なる部分に巻回されて積層された固定手段5aの最上層に配される端部を、樹脂等からなる接着剤で固定すればよい(端部固定方法A)。
この場合、金属製シートからなる第1の固定手段5aの終端部が、この終端部に続く同金属製シート上に接着剤で固定されることになるので、第1の固定手段5aは、柱3aや補強材2aには直接接合されない。つまり、柱3a、板バネ4a、補強材2a及び第1の固定手段5aは、互いに接触していても接合されていないので、固定構造8に外力が作用した際に、それぞれのパーツ間でのある程度のずれが許容される。
【0031】
また、固定手段5として例えば第1の固定手段5a(例えば金属製シート)を用いる場合、その端部の固定方法は上述の端部固定方法A以外の方法を採用することもできる。
より具体的には、柱3a、板バネ4a、補強材2aが重なる部分の外回りに巻回された第1の固定手段5aのさらに外回りに、図示しない金属製の固定具を周設してボルト等によりこの固定具を締め付け固定してもよい(端部固定方法B)。
この場合も、第1の固定手段5aの終端部をこの終端部に続く同金属製シート上に固定することができる。
また、上記端部固定方法Bを採用する場合は、第1の固定手段5aの終端部の固定に接着剤を用いないので、接着剤が硬化するまでの待ち時間等を設ける必要がない。このため、本実施形態に係る耐震補強構造1の設置作業の作業性を向上させることができる。
【0032】
さらに、固定手段5として例えば第2の固定手段5b(例えば樹脂繊維又は炭素繊維からなる帯状シート又はバンド又は紐等)のみを用いる場合は、柱3a、板バネ4a及び補強材2aが重なる部分の外回りに巻回された第2の固定手段5bの端部同士を結んで固定してもよい(端部固定方法C)。つまり、この端部固定方法Cを採用する場合は、柱3a、板バネ4a及び補強材2aが重なる部分が、第2の固定手段5bにより緊縛されて一体化される。
また、この場合、第2の固定手段5bの始端部と終端部の始末の仕方としては、結び目がほどけ難い又はほどけない従来公知の「ころし」や「男結び」等を採用するとよい。
【0033】
加えて、固定手段5として、図1及び図2に示すように、第1の固定手段5a及び第2の固定手段5bの両者を備えてもよい。この場合は、例えば柱3a、板バネ4a及び補強材2aが重なる部分の外回りに第1の固定手段5aである金属製シートを巻回した後、さらにその外回りに第2の固定手段5bである樹脂繊維又は炭素繊維からなるバンド等を巻回してその端部を上記端部固定方法Cにより固定してもよい。
【0034】
さらに、固定手段5として、第1の固定手段5a及び第2の固定手段5bの両者を備える場合は、上記以外の態様、すなわち例えば図1及び図2に示すような固定構造8A以外の態様としてもよい。
より具体的には、例えば柱3a、板バネ4a及び補強材2aが重なる部分の外回りに、第1の固定手段5a(例えば金属製シート)が巻回される部分と、第2の固定手段5b(例えば樹脂繊維又は炭素繊維からなるバンド等)が巻回される部分を並設してもよい。
より詳細には、このような固定構造は、例えば柱3a、板バネ4a及び補強材2aが重なる部分の外回りの少なくとも1箇所を、より好ましくは2箇所以上を第2の固定手段5bにより緊縛固定し、さらに第2の固定手段5bが巻回されていない部分に、第1の固定手段5aを巻回してその端部を上述の端部固定方法A又は端部固定方法Bにより固定したものでもよい(後段における図5中の固定構造8Eを参照)。
【0035】
<1-3;本発明の基本構成による作用・効果について>
本実施形態に係る耐震補強構造1において、2本の柱3a同士の間に介設される補強用構造物2はスペーサとして作用する。つまり、木質系構造材3である例えば柱3a,3a間を押し縮めるように外力が作用した場合に、補強用構造物2を備えていることでこの外力に抗って柱3a,3aの間隔を保持することができる。
この結果、本実施形態に係る耐震補強構造1を備えた建物が損傷するのを防ぐことができる。
また、本実施形態に係る耐震補強構造1において、補強用構造物2を構成する補強材2aが、柱3aに並設されることで、柱3aを直接補強するという効果も有する。
【0036】
さらに、本実施形態に係る耐震補強構造1は、補強用構造物2を構成する補強材2aと柱3aの間に緩衝手段4(例えば板バネ4a等)を備えていることで、地震等の発生時に補強用構造物2から柱3aに対してせん断力が作用した際に、緩衝手段4が弾性変形することで、このせん断力を緩和することができる。この結果、固定構造8における柱3a(木質系構造材3)が折れる又は損傷するのを防ぐことができる。
加えて、本実施形態に係る耐震補強構造1が固定手段5を備えていることで、補強用構造物2を構成する補強材2a、緩衝手段4、並びに柱3aを束ねた状態で間接的に一体化して固定することができる。
この場合、地震等が発生するなどして本実施形態に係る耐震補強構造1の固定構造8に外力が作用した際に、固定構造8を構成するそれぞれのパーツが、すなわち柱3a、緩衝手段4、補強材2a及び固定手段5のそれぞれが互いに位置ずれを起こすことで、この外力を緩和することができる。この場合、固定構造8を構成する柱3aが折れたり損傷したりするリスクを大幅に低減することができる。
【0037】
そして、木造建築物における軸組みが本実施形態に係る耐震補強構造1を備えていることで、地震等が発生した際に、耐震補強構造1を構成する緩衝手段4を弾性変形させて木質系構造材3である例えば柱3aの損傷や破損を防止しつつ、固定構造8を構成する各パーツ間に位置ずれを生じさせることによっても木質系構造材3である例えば柱3aの損傷や破損を防止することができる。
この結果、本実施形態に係る耐震補強構造1が取設された木質系構造材3である例えば柱3a,3aの間の空間が圧潰して、建物が損傷又は破損するのを防止できる。
【0038】
さらに、本実施形態に係る耐震補強構造1では、木質系構造材3である例えば柱3aに補強用構造物2を連結するにあたり、接着剤等の樹脂成分を柱3aの表面に塗布したり、ビスやボルト等の従来公知の金物を柱3aに埋め込んだりする必要がない。
このため、本実施形態に係る耐震補強構造1を備える場合は、その設置に伴って木質系構造材3である例えば柱3aの表面が樹脂成分等により汚損されたり、柱3aを構成する繊維の一部がビスやボルト等の金物で破壊されたりするおそれがない。
したがって、本実施形態に係る耐震補強構造1によれば、その設置に伴う木質系構造材3の損傷やそれに伴う木質系構造材3の劣化が起こるのを防ぐことができる。
【0039】
加えて、本実施形態に係る耐震補強構造1における固定構造8では、木質系構造材3である例えば柱3a、緩衝手段4である例えば板バネ4a及び補強用構造物2を構成する補強材2aの三者が、固定手段5により束ねられて間接的に一体化されている。このことは、万一地震等が発生して、固定構造8を構成する各パーツ間にずれが生じた場合でも、その補修や修復を容易に行うことができることを意味している。しかも、その場合でも木質系構造材3である例えば柱3aの表面が汚損されたり、その繊維の一部が破壊されたりすることはない。
したがって、本実施形態に係る耐震補強構造1を用いることで、例えば文化財として指定されている建築物に対しても、その軸組みである木質系構造材3を汚損又は破壊することなくその耐震性を向上させることができる。
【0040】
<2;本発明の細部構造について>
[2-1;固定構造の細部構造について]
続いて、図3乃至図5を参照しながら本実施形態に係る耐震補強構造1における固定構造8の変形例について説明する。
図3は本実施形態に係る耐震補強構造における固定構造の第1の変形例を示す斜視図である。また、図4は本実施形態に係る耐震補強構造における固定構造の第2の変形例を示す斜視図である。さらに、図5は本実施形態に係る耐震補強構造における固定構造の第3の変形例を示す斜視図である。なお、図1又は図2に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
本実施形態に係る耐震補強構造1における固定構造8は、例えば図3に示すように固定手段5として第1の固定手段5aを用いてなる第1の変形例に係る固定構造8Bでもよい(任意選択構成要素)。
そして、固定手段5として例えば第1の固定手段5a(例えば、金属製シート)を用いる場合は、木質系構造材3である例えば柱3aに補強用構造物2を間接的に固定するという効果に加えて、柱3a、板バネ4a及び補強材2aの重なり部分を第1の固定手段5a(例えば、金属製シート)によってさらに補強するという効果を有する。
【0041】
また、固定手段5として特に第1の固定手段5aを用いる場合は、この第1の固定手段5aとしてチタン箔を用いてもよい(任意選択構成要素)。
この場合、本実施形態に係る耐震補強構造1の設置場所が、降雨のない屋外でありかつ寒暖差が生じる場所である場合でも、第1の固定手段5aであるチタン箔の表面には結露が生じない。
他方、第1の固定手段5aとして例えばチタン以外の金属製シートを用いる場合は、その設置環境によっては第1の固定手段5aの表面に結露が生じてしまう場合がある。この場合、金属製シートの表面に生じた結露(水分)を利用して第1の固定手段5aと木質系構造材3の接触部分において木材腐朽菌が繁殖し易くなる可能性がある。
この場合、第1の固定手段5aと接触する木材又は木質系材料である木質系構造材3の腐朽が促進されて、木質系構造材3の劣化が進み木質系構造材3である例えば柱3aの強度が低下してしまうという不具合が生じる懸念がある。
その一方で、第1の変形例に係る固定構造8Bでは、固定手段5として例えばチタン箔を用いることで、上述のような不具合の発生を好適に抑制することができる。
したがって、本実施形態に係る耐震補強構造1が第1の変形例に係る固定構造8Bを備える場合は、その設置対象である木質系構造材3(例えば柱3a等)が腐朽して劣化するのを防ぐことができる。この結果、本実施形態に係る耐震補強構造1を設置することによる耐震性向上効果を確実に発揮させることができる。
なお、本実施形態に係る耐震補強構造1における固定構造8の設置場所が、金属製パーツの表面に結露を生じない又は生じ難い環境である場合は、第1の固定手段5aの材質がチタン以外の金属でも特に問題はない。
【0042】
さらに、本実施形態に係る耐震補強構造1における固定構造8は、図4に示すように固定手段5として第2の固定手段5bを用いてなる第2の変形例に係る固定構造8Cでもよい(任意選択構成要素)。
このように、固定手段5として例えば第2の固定手段5b(例えば、樹脂繊維又は炭素繊維からなる帯状シート又はバンド又は紐)を用いる場合は、固定手段5として第1の固定手段5aを用いる場合(図3を参照)と比較して、第2の固定手段5bを巻回することによる柱3a、板バネ4a、補強材2aが重なる部分の補強効果がやや劣る。
その一方で、固定手段5として第2の固定手段5bを用いる場合は、その始端部及び終端部の始末に、上述のような接着剤等の樹脂成分や別体として設けられる固定具を用いる必要がない。このことは、第2の固定手段5bのみを使用して、固定構造8Cの形成作業を完了することができることを意味している。
この結果、固定構造8Cを形成するのに必要な資材や作業時間を節約することができる。
【0043】
また、固定手段5として特に第2の固定手段5bを用いる場合、この第2の固定手段5bとして特に帯状のビニロン紡績糸織物(株式会社クラレ製)又は炭素繊維を用いてなる織物を使用してもよい(任意選択構成要素)。
上述のビニロン紡績糸織物は、ビニロン繊維(PVA繊維:ポリビニルアルコール繊維)の紡績糸を用いてなる織物であり、耐候性・耐薬品性に優れている。
また、上述の炭素繊維を用いてなる織物は、機械的性能(高比強度、高比弾性率)と、その材質が炭素質であることから得られる特徴(低密度、低熱膨張率、耐熱性、化学的安定性、自己潤滑性など)を併せ持っている。
【0044】
そして、第2の固定手段5bとして上述のようなビニロン紡績糸織物又は炭素繊維を用いてなる織物を用いる場合は、第2の変形例に係る固定構造8Cを形成する際に、木質系構造材3である例えば柱3aと、緩衝手段4、及び補強用構造物2を構成する補強材2aの重なり部分に第2の固定手段5bを巻回し、その始端部と終端部を結んで結び目6を形成すればよい。
このように、本実施形態に係る耐震補強構造1における第2の固定手段5bとして特にビニロン紡績糸織物又は炭素繊維を用いてなる織物を用いる場合は、これらの材質以外の材質からなる織物を用いる場合に比べて、木質系構造材3に対して補強用構造物2をより強固に緊縛固定できる上、数十年単位の耐久性を発揮させることができる。
【0045】
加えて、第2の固定手段5bとして樹脂製の繊維からなる帯状シート又はバンド又は紐を用いる場合は、この樹脂製の繊維として特に、水等の湿潤収縮能力を発揮し得る液体との接触によって収縮する湿潤収縮能力を有する繊維を用いてもよい(任意選択構成要素)。
この場合は、木質系構造材3である例えば柱3aと、緩衝手段4、及び補強用構造物2を構成する補強材2aの重なり部分に湿潤収縮能力を有する第2の固定手段5bを巻回して、その始端部と終端部を結んで結び目6を形成した後に(例えば図4を参照)、第2の固定手段5bが巻回される部分に水等の湿潤収縮能力を発揮し得る液体をかけて第2の固定手段5bを収縮させればよい。
この場合、湿潤収縮能力を有する第2の固定手段5bを、その巻回位置において第2の固定手段5bの長さ方向に収縮させることができる。そして、湿潤収縮能力を有する第2の固定手段5bが長さ方向(長辺方向)に収縮することで、第2の固定手段5bにより緊縛された部分がより強く締め付けられて、木質系構造材3に補強用構造物2をより強固に固定することができる。
なお、水等によって収縮する湿潤収縮能力を有する繊維からなる第2の固定手段5bは、第2の変形例に係る固定構造8C以外にも、第2の固定手段5bを備える他の固定構造8や、後段に示す補強用構造物2’や補強用構造物2’’にも使用できる。
【0046】
このように、本実施形態に係る耐震補強構造1の固定構造8として第2の変形例に係る固定構造8Cを採用する場合も、その使用環境に寒暖差が生じた際に、第2の固定手段5bの表面に結露を生じない。このため、第2の変形例に係る固定構造8Cによれば、第1の変形例に係る固定構造8Bの場合と同様の効果、すなわち第2の固定手段5bと木質系構造材3の接触部分の腐朽による劣化を防止するという効果を発揮させることができる。
【0047】
さらに、本実施形態に係る耐震補強構造1の固定構造8は、第1の固定手段5a(例えば、金属製シート)と、第2の固定手段5b(例えば、樹脂繊維又は炭素繊維からなる帯状シート又はバンド又は紐)の両者を備えていてもよい。
より具体的には、例えば柱3a、板バネ4a及び補強材2aの重なり部分に巻回される第1の固定手段5aの外回りを、第2の固定手段5bにより緊縛固定してなる固定構造8A(図1及び図2を参照)でもよい(任意選択構成要素)。
この場合は、第1の固定手段5aを巻回することによる柱3a、板バネ4a及び補強材2aの重なり部分の補強効果と、第2の固定手段5bの始端部及び終端部の始末を容易できるという効果を同時に発揮させることができる。
つまり、固定構造8が固定手段5として第1の固定手段5aと第2の固定手段5bの両者を備える場合で、かつ第1の固定手段5a上にさらに第2の固定手段5bを配設する場合は、第2の固定手段5bの始端部及び終端部の始末に、上述のような接着剤や別体の固定具を用いる必要がない。このため、本実施形態に係る耐震補強構造1の取設作業を、迅速かつ容易に行うことができるという効果を奏する。
【0048】
また、本実施形態に係る耐震補強構造1における固定構造8が固定手段5として第1の固定手段5aと第2の固定手段5bの両者を備える場合の態様は、上述の形態、すなわち先の図1及び図2に示す固定構造8A以外の態様でもよい。
より具体的には、例えば図5に示すように柱3a、板バネ4a及び補強材2aが重なる部分の外回りに、第1の固定手段5aが巻回される部分と、第2の固定手段5bが巻回される部分を並設してなる第3の変形例に係る固定構造8Eを採用してもよい(任意選択構成要素)。
先の図1及び図2に示す固定構造8Aを採用する場合、第1の固定手段5aである金属製シートを隙間なく密着させながら巻回することが技術的にやや難しい。このため、第1の固定手段5a(例えば金属製シート)が巻回された部分の外回りを、第2の固定手段5bで緊縛固定する際に、意図しない緩みが生じる懸念がある。
これに対して、図5に示すような第3の変形例に係る固定構造8Eでは、第1の固定手段5aによる固定部分と、第2の固定手段5bによる緊縛固定部分が重ならないので、上述のような不具合は生じない。
つまり、第3の変形例に係る固定構造8Eでは、万一第1の固定手段5aを巻回した部分に多少の緩みが生じても、その近傍を第2の固定手段5bによりしっかりと緊縛固定しておくことができるので、柱3a等の木質系構造材3に対する補強用構造物2の固定効果が低下することがない。
【0049】
加えて、本実施形態に係る耐震補強構造1における固定構造8が固定手段5として第1の固定手段5aと第2の固定手段5bの両者を備える場合は、第1の固定手段5aをチタン箔に、また第2の固定手段5bを帯状のビニロン紡績糸織物又は炭素繊維を用いてなる織物に、それぞれ特定してもよい(任意選択構成要素)。
このように、固定構造8における第1の固定手段5aをチタン箔(第1の固定手段5a)に、また第2の固定手段5bをビニロン紡績糸織物又は炭素繊維を用いてなる織物(第2の固定手段5b)に特定したものが、第4の変形例に係る固定構造である。なお、第4の変形例に係る固定構造の外観は、先の図1及び図2に示す固定構造8A、又は先の図5に示す固定構造8Eと同じである。
そして、本実施形態に係る耐震補強構造1が第4の変形例に係る固定構造を備える場合は、第1の固定手段5aとしてチタン箔を用いる場合の効果と、第2の固定手段5bとしてビニロン紡績糸織物又は炭素繊維を用いてなる織物を用いる場合の効果を併せた効果を奏する。
なお、上述の第3の変形例に係る固定構造8Eや、第4の変形例に係る固定構造を採用する場合は第2の固定手段5bとして、水等によって収縮する湿潤収縮能力を有する繊維からなる第2の固定手段5bを用いてもよい。
【0050】
[2-2;緩衝手段の変形例について]
ここで、図6を参照しながら本実施形態に係る耐震補強構造1の固定構造8に用いられる緩衝手段4の変形例について説明する。
図6(a)は本実施形態に係る耐震補強構造の固定構造に用いられる緩衝手段の第1の変形例を示す斜視図であり、(b)は同固定構造に用いられる緩衝手段の第2の変形例を示す斜視図である。なお、図1乃至図5に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
本実施形態に係る固定構造8に用いられる緩衝手段4である板バネの材質は、強度と耐久性の観点から金属製のものを用いるとよい。
そして、特に本実施形態に係る耐震補強構造1の設置場所が、雨水に晒されない屋外であり、かつ寒暖差が生じる場所である場合は、緩衝手段4である板バネをチタン製にするとよい。
【0051】
先にも述べた通り、本実施形態に係る耐震補強構造1を構成するパーツ(例えば固定手段5等)が特にチタン製である場合、本実施形態に係る耐震補強構造1の設置環境において寒暖差が生じても、そのパーツの表面に結露が生じない。つまり、木質系構造材3である例えば柱3aに接触する緩衝手段4として特にチタン製の板バネ4aを用いることで、板バネ4aの表面に結露が生じるのを防ぐことができる。
この結果、チタン製の板バネ4aと木質系構造材3の接触部分から木材の腐朽が進行するのを防ぐことができる。これにより、本実施形態に係る耐震補強構造1の取設対象である木質系構造材3(例えば柱3a等)の強度が低下するのを防止できる。
したがって、本実施形態に係る耐震補強構造1による耐震性の向上効果を確実にかつ持続的に発揮させることができる。
【0052】
また、先の図1乃至図5では、本実施形態に係る固定構造8における板バネ4aとして、断面形状が波状である板バネ4aを用いる場合を例に挙げて説明しているが、板バネ4aの形態は先の図1乃至図5に示す形態に特定される必要はない。
より具体的には、緩衝手段4である板バネは、例えば図6(a)や図6(b)に示されるような断面形状がジグザグ状をなす板バネ4bや板バネ4cでもよい(任意選択構成要素)し、緩衝手段4として、板バネの他にも緩衝作用があるバネであれば、例えば中心に孔の開いた円盤状の板を円錐状に成形した皿バネのようなバネを並べたり連ねたりして設けてもよい(任意選択構成要素)。
【0053】
特に、緩衝手段4として図6(a)に示す板バネ4bを用いる場合は、木質系構造材3である例えば柱3aと、補強用構造物2の一部をなす補強材2aの間に介設した際に、木質系構造材3と板バネ4bの接触面積を小さくすることができる。
この場合、例えばチタン以外の金属製の板バネ4bを用いる場合で、かつ本実施形態に係る耐震補強構造1の設置環境において寒暖差が生じる場合に、木質系構造材3に腐朽が生じるリスクを低減することができる。
また、緩衝手段4として図6(b)に示す板バネ4cを用いる場合は、板バネ4cの表面に形成される平坦面11が、木質系構造材3である例えば柱3aの表面に接触する。
この場合、緩衝手段4として図6(a)に示す板バネ4bを用いる場合と比較して、木質系構造材3の表面に板バネ4cが強く押し当てられた際に、木質系構造材3の表面が凸凹状に傷つくのを防ぐことができる。
よって、本実施形態に係る耐震補強構造1において固定構造8を構成する緩衝手段4として特に図6(b)に示す板バネ4cを用いる場合は、板バネ4aや板バネ4bを用いる場合と比較して、木質系構造材3の表面の保護効果が優れた耐震補強構造を提供することができる。
【0054】
[2-3;固定構造の他の変形例について]
続いて、図7及び図8を参照しながら固定構造8の第5の変形例について説明する。
図7は本実施形態の第5の変形例に係る固定構造を分解した状態の斜視図である。また、図8は本実施形態の第5の変形例に係る固定構造の要部を示す斜視図である。なお、図1乃至図6に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。また、図7及び図8では、固定手段5の記載を省略している。
本実施形態に固定構造8として例えば図1乃至図5に示すような断面形状が波状の板バネ4aや、図6(a),(b)に示すような断面形状がジグザグ状をなす板バネ4bや板バネ4cを用いる場合は、固定手段5により柱3aと緩衝手段4と補強材2aの重なり部分を緊縛した際に、木質系構造材3の表面に凸凹状の傷が生じる懸念がある。
【0055】
このような不具合の発生を防止するため本実施形態に係る耐震補強構造1では、図7及び図8に示すように、緩衝手段4である板バネ4a(又は板バネ4b又は板バネ4c)と木質系構造材3の間に保護手段7を介設してなる第5の変形例に係る固定構造8Dを採用してもよい(任意選択構成要素)。
この場合、木質系構造材3である例えば柱3aの表面に板バネ4a(又は板バネ4b又は板バネ4c)が強く押し付けられた際に、板バネ4a(又は板バネ4b又は板バネ4c)により木質系構造材3の表面が傷つくのを防止できる。
【0056】
また、保護手段7の材質は、木質系構造材3に対して板バネ4a(又は板バネ4b又は板バネ4c)が強く押し付けられた場合でも容易に破損しない材質であり、しかも数十年単位の耐久性を有する材質であればどのような材質を用いてもよい。
さらに、保護手段7の材質として特にチタン箔7aを用いることもできる(任意選択構成要素)。
この場合は、本実施形態に係る耐震補強構造1の設置場所に寒暖差が生じても保護手段7であるチタン箔7aの表面に結露が生じない。このため、チタン箔7aと板バネ4a(又は板バネ4b又は板バネ4c)の接触部分において木材又は木質系材料の腐朽が起こりにくく、木質系構造材3の劣化に伴う強度の低下を好適に防ぐことができる。
また、保護手段7として特にチタン箔7aを用いる場合は、板バネ4a(又は板バネ4b又は板バネ4c)が直接木質系構造材3に接触しないので、板バネ4a(又は板バネ4b又は板バネ4c)としてチタン以外の材質のものを使用することができる。
したがって、本実施形態に係る耐震補強構造1に係る固定構造8として図7及び図8に示すような第5の変形例に係る固定構造8Dを採用する場合は、木質系構造材3の表面の保護効果が特に優れ、しかも耐震性の向上効果を確実にかつ持続的に発揮させることができる耐震補強構造を提供することができる。
【0057】
加えて、本実施形態に係る耐震補強構造1において補強用構造物2の一部をなす補強材2aが木材又は木質系材料(例えば集成材等)である場合は、例えば図7及び図8に示すように、板バネ4a(又は板バネ4b又は板バネ4c)と補強材2aの間に上述のような保護手段7を備えていてもよい(任意選択構成要素)。
補強用構造物2を構成する補強材2aについては、その表面が多少損傷しても特に問題はないが、補強材2aが腐朽してその強度が低下することは好ましくない。
したがって、板バネ4a(又は板バネ4b又は板バネ4c)と補強材2aの間に上述のような保護手段7を備えることで、本実施形態に係る耐震補強構造1の取設に伴う耐震性の向上効果をより確実にかつ持続的に発揮させることができる。
また、板バネ4a(又は板バネ4b又は板バネ4c)と補強材2aの間に介設される保護手段7は、上述のチタン箔7aでもよい。
この場合、木質系構造材3と板バネ4a(又は板バネ4b又は板バネ4c)の間にチタン箔7aを設ける場合と同様の作用・効果を奏する。
【0058】
[2-4;補強用構造物について]
ここで、本実施形態に係る耐震補強構造1における補強用構造物2について図1図9乃至図11を参照しながら説明する。
図9(a)は本実施形態に係る耐震補強構造における補強用構造物の仕口を分解した状態の部分斜視図であり、(b)は同仕口を組立てた状態の部分斜視図である。なお、図1乃至図8に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
本実施形態に係る耐震補強構造1における補強用構造物2を木材又は木質系材料(例えば集成材等)により形成する場合、補強用構造物2を構成する材同士の連結方法として従来公知の技術を支障なく使用することができる。
また、このような従来公知の連結技術としては、例えば図9(a)に示すように、補強用構造物2を構成する補強材2aの端部にホゾ9aを突設しておくとともに、この補強材2aに対して直交するように配される接続対象2bにホゾ9aを挿入するためのホゾ穴9bを形成しておき、補強材2a側のホゾ9aを接続対象2b側のホゾ穴9bに挿入してこれらを一体化してもよい(任意選択構成要素)。
さらに、図9(a),(b)に示すように、ホゾ9aとホゾ穴9bの重なり部分に挿入孔9dを穿設しておき、この挿入孔9dに棒状の込み栓9cを挿設してもよい(任意選択構成要素)。
このように、補強材2aと接続対象2bの連結部分に込み栓9cを挿設することで、これらの連結状態を一層強固にすることができる。
【0059】
また、本実施形態に係る耐震補強構造1における補強用構造物2は、図1に示すようなトラス構造や、図示しないラチス構造を有していてもよい(任意選択構成要素)。
この場合、トラス構造やラチス構造を有しない補強用構造物2を用いる場合に比べて、補強用構造物2の剛性が高まる。この結果、木質系構造材3同士の間に補強用構造物2を介設した際のスペーサとしての機能が向上される。
したがって、補強用構造物2がトラス構造やラチス構造を有する場合は、本実施形態に係る耐震補強構造1を設置することによる建物の耐震補強効果を向上させることができる。
【0060】
ここで、図10を参照しながら本実施形態に係る耐震補強構造1における補強用構造物2の変形例について説明する。
図10は本実施形態に係る耐震補強構造における補強用構造物の第1の変形例を示す斜視図である。また、図11は本実施形態に係る耐震補強構造における補強用構造物の第2の変形例を示す斜視図である。なお、図1乃至図9に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
本実施形態の第1の変形例に補強用構造物2’は、例えば図10に示すように、先の図1に示す補強用構造物2の外回りの所望箇所に、固定手段5と同じ構成要素を巻回して補強したものでもよい(任意選択構成要素)。
また、上述の第1の変形例に係る補強用構造物2’において、固定手段5と同じ構成要素の巻回対象である補強用構造物2は、材同士の連結部分に込み栓9c(先の図9を参照)を備えていてもよいし、込み栓9cを備えていなくともよい。
また、補強用構造物2’に巻回される固定手段5と同じ構成要素の端部の固定方法は、先に述べた固定手段5の端部の固定方法(例えば端部固定方法A~C等)と同じである。
【0061】
また、図10に示す第1の変形例に係る補強用構造物2’では、補強用構造物2の外回りに巻回する補強材として第2の固定手段5bと同じ構成要を用いる場合を例に挙げて説明しているが、この補強材は第1の固定手段5aと同じ構成要素でもよい。
そして、本実施形態に係る耐震補強構造1において上述のような第1の変形例に係る補強用構造物2’を用いる場合は、補強用構造物2’に大きな外力が作用した際に、補強用構造物2’が分解するのを防ぐことができる。
よって、本実施形態に係る耐震補強構造1が上述のような補強用構造物2’を備える場合は、建物の耐震補強効果を一層向上させることができる。
【0062】
さらに、本実施形態の第2の変形例に補強用構造物2’’は、例えば図11に示すように、先の図1に示す補強用構造物2の外回りの所望箇所に、第1の固定手段5aと同じ構成要素が巻回された部分と、第2の固定手段5bと同じ構成要素が巻回された部分と、が並設されてなるものでもよい。(任意選択構成要素)。
また、上述の第2の変形例に係る補強用構造物2’’において、第1の固定手段5aと同じ構成要素、及び第2の固定手段5bと同じ構成要素、の巻回対象である補強用構造物2は、材同士の連結部分に込み栓9c(先の図9を参照)を備えていてもよいし、込み栓9cを備えていなくともよい。
このような第2の変形例に補強用構造物2’’では、先にも述べたが第1の固定手段5aと同じ構成要素が巻回された部分に緩みが生じる懸念がある。
このため、第1の固定手段5aと同じ構成要素が巻回された部分の近傍に、第2の固定手段5bと同じ構成要素が巻回された部分を並設しておくことで、万一第1の固定手段5aと同じ構成要素を巻回した部分に緩みが生じても、その近傍を第2の固定手段5bと同じ構成要素によりしっかりと緊縛固定しておくことができる。
よって、図11に示すような第2の変形例に補強用構造物2’’によれば、先の図10に示す第1の変形例に補強用構造物2’と比較して、より剛性が高くて、分解又は破損し難い補強用構造物を提供することができる。
したがって、第2の変形例に補強用構造物2’’を備えてなる本実施形態に係る耐震補強構造1によれば、より優れた耐震補強効果を発揮させることができる。
【0063】
[2-5;固定構造の他の態様について]
ここで、図12を参照しながら本実施形態に係る耐震補強構造における固定構造8の他の態様について説明する。
図12は本実施形態に係る耐震補強構造における固定構造の他の態様を示す斜視図である。なお、図1乃至図11に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。また、図12では特に固定構造8として固定構造8Aを採用する場合を例に挙げて説明している。
先の図1乃至図5、並びに図7及び図8では、1本の柱3a(木質系構造材3)に1つの補強用構造物2を固定構造8により連結する場合を例に挙げて説明しているが、1本の柱3a(木質系構造材3)に2以上の補強用構造物2を固定構造8により連結することもできる(任意選択構成要素)。
この場合、例えば図12に示すように、柱3a(木質系構造材3)の所望の側面のそれぞれに対向するように補強用構造物2を構成する補強材2aを配置するとともに、これらの間に緩衝手段4及び必要に応じて保護手段7を配置し、さらにこれらの重なり部分に固定手段5を巻回して固定構造8を形成することで本実施形態に係る耐震補強構造1とすることができる。
この場合、図12に示すように、1本の柱3a(木質系構造材3)を中心として、その周囲に2以上の補強材2a(補強用構造物2)が寄せ集まった状態になる。
【0064】
そして、図12に示すように、1本の柱3a(木質系構造材3)に2以上の強用構造物2を、固定構造8を介して連結する場合は、柱3a(木質系構造材3)を介して複数の補強用構造物2を間接的に一体化することができる。
この結果、本実施形態に係る耐震補強構造1を備えた建物の耐震補強効果を一層向上させることができる。
【0065】
さらに、図15を参照しながら本実施形態に係る耐震補強構造における固定構造8の別の態様について説明する。
図15は本実施形態に係る耐震補強構造における固定構造の別の態様を示す部分斜視図である。なお、図1乃至図14に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。また、図15では例えば補強用構造物2’を、木質系構造材3である柱3aに第2の固定手段5bを用いて緊縛固定する場合を例に挙げて説明する。なお、言うまでもないが、木質系構造材3と補強用構造物2’の間には、緩衝手段4(板バネ4a等)が介設されている。
図15に示すように、補強用構造物2’を木質系構造材3である柱3aに、例えば第2の固定手段5bを用いて固定する場合、第2の固定手段5bの巻回予定位置の周辺に障害物62が存在する場合がある。
この場合は、補強用構造物2’を構成する補強材2a付近に配され、かつラチス構造又はトラス構造を形成する傾斜材63aの位置や向きを適宜調整して、例えば図15に示すように、木質系構造材3である柱3a周辺の障害物62を避けながら、第2の固定手段5bにより補強用構造物2’を木質系構造材3(柱3a)に緊縛固定することができる(第6の変形例に係る固定構造8F(8))。
この結果、木質系構造材3である柱3a周辺に障害物62が存在している場合でも、木質系構造材3に本実施形態に係る耐震補強構造1aを設置することが可能になる。これにより、主に木造軸組み工法からなる建物(例えば社寺建築等)において、本実施形態に係る耐震補強構造1a(図15を参照)を設置可能な場所が増えるので、建物の耐震性や対候性を一層向上させることができる。
【0066】
さらに、図15に示すような第6の変形例に係る固定構造8F(8)のみにより木質系構造材3に補強用構造物2’を固定する場合は、補強用構造物2’を構成する補強材2aとその鉛直上方側に配される接続対象2bからなる角部64付近が、柱3a(木質系構造材3)に固定されていない状態になってしまう。この場合は、柱3a(木質系構造材3)に対する補強用構造物2’の固定が不十分になってしまうおそれがある。
そのような場合は、上述のような第6の変形例に係る固定構造8F(8)を形成することに加えて、例えば図15に示すように、横架材である例えば大引き51に近接する位置に補強用構造物2’を配するとともに、この大引き51に、補強用構造物2’を構成する接続対象2bを、第2の固定手段5bを用いて緊縛固定してもよい(第1の連結補強構造12a)。
この場合、補強用構造物2’が柱3aに加えて大引き51にも第2の固定手段5bにより緊縛固定される(第1の連結補強構造12a)ため、木質系構造材3(柱3aや大引き51)に補強用構造物2’をより強固に固定することができる。
【0067】
あるいは、上述のような第6の変形例に係る固定構造8F(8)に加えて第1の連結補強構造12aを形成することに代えて、例えば図15に示すように、補強用構造物2’の補強材2a付近に配され、かつラチス構造又はトラス構造を形成する傾斜材63bの配置や向きを適宜調整するとともに、この傾斜材63b及び接続対象2b(補強用構造物2’)の両者を、横架材である例えば大引き51に、第2の固定手段5bにより緊縛固定してもよい(第2の連結補強構造12b)。
このように、第6の変形例に係る固定構造8F(8)が第1の連結補強構造12aに代えて、第2の連結補強構造12bを備える場合も、補強用構造物2’を木質系構造材3(柱3aや大引き51)に第2の固定手段5bによりしっかりと緊縛固定することができる。
この結果、木質系構造材3(例えば柱3aや大引き51等)に対して補強用構造物2’をより強固に固定することができる。
【0068】
なお、本実施形態に係る耐震補強構造1aが、例えば図15に示すような第6の変形例に係る固定構造8F(8)を有する場合は、上記第1の連結補強構造12a及び第2の連結補強構造12bを同時に備えてもよい(任意選択構成要素)。この場合は、木質系構造材3に対する補強用構造物2’の固定をより強固にかつ確実に行うことができる。
【0069】
さらに、柱3a(木質系構造材3)の周囲に障害物62が存在し、かつ横架材である大引き51から離間した位置に補強用構造物2’を配置することができる場合は、図15に示す第6の変形例に係る固定構造8F(8)と同様の構造を、補強用構造物2’の鉛直上方側の角部64寄りにも形成してよい(図示せず)。
この場合は、柱3a(木質系構造材3)周辺に障害物62が存在していても、上述の第1の連結補強構造12aや第2の連結補強構造12bを利用することなく、木質系構造材3に対してしっかりと補強用構造物2’を固定することができる。
【0070】
なお、図15では、補強用構造物2’を第6の変形例に係る固定構造8F(8)により床下の木質系構造材3(柱3a等)に固定する場合を例に挙げて説明しているが、補強用構造物2’の設置場所は床上や小屋組みでもよく、その場合、横架材の大引き51は図示しない桁や梁に置き換えることができる。
また、図15では補強用構造物2’を用いる場合を例に挙げて説明しているが、補強用構造物2’に代えて補強用構造物2や補強用構造物2’’を用いてもよい(任意選択構成要素)。この場合も、補強用構造物2’を用いる場合と同様の作用・効果を発揮させることができる。
さらに、必要に応じて第6の変形例に係る固定構造8F(8)、並びに第1の連結補強構造12a及び/又は第2の連結補強構造12bを構成する第2の固定手段5bの下層側に、先に述べたような材質からなる第1の固定手段5aを巻回してもよい(任意選択構成要素)。この場合は、補強用構造物2’による木質系構造材3の補強効果を一層向上させることができる。
加えて、図15に示すような第6の変形例に係る固定構造8F(8)では、緩衝手段4として板バネ4aを用いる場合を例に挙げて説明しているが、板バネ4aに代えて先の図6に示すような板バネ4bや板バネ4cを用いてもよい(任意選択構成要素)。この場合も、第6の変形例に係る固定構造8F(8)と同様の作用・効果を発揮させることができる。
また、図15に示すような第6の変形例に係る固定構造8F(8)を形成する場合、緩衝手段4である板バネ4a等と木質系構造材3(柱3a等)の間に、必要に応じて図7に示すような薄板状又はシート状の保護手段7(例えばチタン箔7a等)を介設してもよい(図示せず、任意選択構成要素)。この場合は、第6の変形例に係る固定構造8F(8)を木質系構造材3に取設した際に、木質系構造材3の表面が緩衝手段4により損傷するのを好適に防ぐことができる。
なお、図15に示すような第6の変形例に係る固定構造8F(8)を構成する第2の固定手段5bの材質は、先に述べたような樹脂製繊維又は炭素繊維が特に適している。
また、図15に示すような第6の変形例に係る固定構造8F(8)を構成する緩衝手段4や保護手段7の材質としては、先にも述べた通り金属性であることが好ましく、より好ましくはチタンが適している。
【0071】
<3;本発明の設置場所について>
本実施形態に係る耐震補強構造1等の設置場所について図1及び図13、並びに図14を参照しながら説明する。なお、以下の記載において「耐震補強構造1等」と記載する場合は、本実施形態に係る耐震補強構造として、先に図1乃至図12を参照しながら説明した耐震補強構造1に加えて、先の図15に示すような耐震補強構造1aを含んでいる。
図13は本実施形態に係る耐震補強構造を備えた社寺建築(建物)の床下部分の平面図である。また、図14は本実施形態に係る耐震補強構造を備えた木造住宅(建物)の軸組みを妻側から見た側面図である。なお、図1乃至図12、及び図15に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
本実施形態に係る耐震補強構造1等は、先にも述べた通り、その設置に際し取設対象である木質系構造材3(例えば柱3a等)を損傷するリスクが低い。このため、本実施形態に係る耐震補強構造1等は、特に文化財として指定されている建築物や、耐震補強構造の設置に伴う建物の外観の変化が望まれないような建築物に対する耐震補強手段として特に適している。
【0072】
さらに、本実施形態に係る耐震補強構造1等は木造建築物である社寺の耐震補強手段として特に適している。
そして、本実施形態に係る耐震補強構造1を木造建築物である社寺建築の耐震補強手段として用いる場合は、例えば先の図1図13、あるいは図15に示すような床下に設置することができる。
通常、図13に示すような古い社寺建築10Aでは、一般的な住宅建築とは異なり、人が歩いて移動できるような床下空間を有している場合が多い。さらに、古い社寺建築10Aでは、地表面上に基礎50となる玉石を置き、この玉石(基礎50)上に柱3aを立設するとともに、この柱3a同士の間に大引き51を配設して、その上に床面を形成している(図1を参照)。
したがって、古い社寺建築10Aの床下には、本実施形態に係る耐震補強構造1等の取設対象である木質系構造材3(例えば柱3a)が裸出状態で存在していることが多い。
【0073】
そして、本実施形態に係る耐震補強構造1等を社寺建築10Aの床下に設置する場合は、例えば図13に示すように、耐震補強構造1を、社寺建築10Aを平面視した際に線対称をなすように配置してもよい(任意選択構成要素)。
この場合、社寺建築10Aを平面視した際の本実施形態に係る耐震補強構造1の配置が線対称をなさない場合に比べて、より優れた耐震補強効果を発揮させることができる。
また、本実施形態に係る耐震補強構造1の設置対象である社寺建築10Aの床下空間が鉛直方向に十分に大きい場合は、図13中に示す平面図において格子状に配置される耐震補強構造1とは異なる高さ(レベル)に、他の耐震補強構造1’を火打ち梁状に配設してもよい(任意選択構成要素)。
この場合、社寺建築10Aの耐震補強効果を一層向上させることができる。
なお、図13では、社寺建築10Aの床下に本実施形態に係る耐震補強構造1に加えて耐震補強構造1’を設ける場合を例に挙げて説明しているが、社寺建築10Aの床下に格子状に配設される耐震補強構造1を設けることなく、火打ち梁状に配設される耐震補強構造1’のみを設けてもよい(任意選択構成要素)。
この場合は、耐震補強構造1と耐震補強構造1’を両方備える場合に比べて、社寺建築10Aの耐震補強効果が劣るものの、社寺建築10Aの軸組みの強度を向上させることができる。
さらに、木質系構造材3である柱3aの周辺に、耐震補強構造1と耐震補強構造1’の設置の妨げになるような障害物62が存在する場合は、先の図15に示すような耐震補強構造1aを採用することで、必要箇所に耐震補強構造1等を設置できる。
【0074】
また、本実施形態に係る耐震補強構造1等は、文化財として指定されている木造建築物や社寺建築10A以外に、従来公知の木造住宅10Bにも支障なく取設することができる。
より具体的には、図14に示すような従来公知の木造住宅10Bの軸組みにおいて、一階の土台54上に、又は二階の梁55(又は桁56)上に立設される木質系構造材3(例えば柱3a)同士の間に、一段(図14に示す木造住宅10Bの二階部分を参照)又は必要に応じて複数段(図14に示す木造住宅10Bの一階部分を参照)設けてもよい(任意選択構成要素)。
あるいは、図14に示すような従来公知の木造住宅10Bの軸組みにおいて小屋組みを構成する小屋束59(木質系構造材3)同士の間に本実施形態に係る耐震補強構造1等を設置してもよい(任意選択構成要素)。
いずれの場合も、従来公知の木造住宅10B(建物)の耐震性を向上させることができる。
【0075】
さらに、特に図示しないが、本実施形態に係る耐震補強構造1は社寺建築10Aや木造住宅10Bを構成する梁(木質系構造材3)同士又は桁(木質系構造材3)同士の間に設置してもよい(任意選択構成要素)。
この場合も、木造建築物の軸組みを本実施形態に係る耐震補強構造1により好適に補強することができるので、建物の耐震性を向上させることができる。
【0076】
<4;その他>
本実施形態に係る耐震補強構造1等を構成する固定手段5や緩衝手段4、あるいは必要に応じて設けられる保護手段7が、チタン箔や、チタン製の平板体又はシートである場合、これらの厚みや、板バネ4a(又は板バネ4b又は板バネ4c)に成形した際の全体の厚み等についは具体的に言及しないが、これらの設置対象である木質系構造材3の材質(無垢材又は集成材等)、寸法、強度、あるいは劣化状態等に応じて適宜設定すればよい。
さらに、ここでは本実施形態に係る耐震補強構造1等を木造軸組み工法による建物(社寺建築10Aや木造住宅10B)に設置する場合を例に挙げて説明しているが、建物一部が木造軸組み工法からなる建築物(混構造の建物)の軸組みに本実施形態に係る耐震補強構造1等を取設してもよい。
この場合は、混構造の建物を構成する軸組み部分の耐震性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上説明したように本発明は、木造軸組工法による建物、又は木造軸組工法と他の工法を組み合わせてなる混構造の建物、に設置することができ、設置時又は設置後のいずれにおいても設置対象の木質系構造材を損傷するおそれがない耐震補強構造及びそれを備えた建物であり、建築に関する技術分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0078】
1,1’,1a…耐震補強構造 2,2’,2’’…補強用構造物 2a…補強材 2b…接続対象 3…木質系構造材 3a…柱 4…緩衝手段 4a,4b,4c…板バネ 5…固定手段 5a…第1の固定手段 5b…第2の固定手段 6…結び目 7…保護手段 7a…チタン箔 8,8A,8B,8C,8D,8E,8F…固定構造 9…接続構造 9a…ホゾ 9b…ホゾ穴 9c…込み栓 9d…挿入孔 10A…社寺建築 10B…木造住宅 11…平坦面 12a…第1の連結補強構造 12b…第2の連結補強構造 50,50’…基礎 51…大引き 52…根太 53…床束 54…土台 55…梁 56…桁 57…小屋梁 58…小屋桁 59…小屋束 60…母屋 61…垂木 62…障害物 63a,63b…傾斜材 64…角部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15