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特開2023-35845塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体、内装材およびカバー部材
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  • 特開-塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体、内装材およびカバー部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035845
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体、内装材およびカバー部材
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20230306BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20230306BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20230306BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20230306BHJP
   C08K 3/11 20180101ALI20230306BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C08L27/06
C08L33/06
C08L23/10
C08K5/098
C08K3/11
C08K3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108956
(22)【出願日】2022-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2021141882
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】兼原 克樹
(72)【発明者】
【氏名】星加 典久
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB06Y
4J002BD03W
4J002BG03X
4J002DA037
4J002DE137
4J002EG036
4J002EZ018
4J002FD038
4J002FD097
4J002FD176
4J002FD17Y
4J002GL00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】パール調をなす塗膜を形成することなく、パール調をなす外観が付与された塩化ビニル系樹脂成形体を得ることができる塩化ビニル系樹脂組成物、かかる塩化ビニル系樹脂組成物を用いて成形された塩化ビニル系樹脂成形体、かかる塩化ビニル系樹脂成形体を備える内装材およびカバー部材を提供すること。
【解決手段】本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、ポリ塩化ビニル系樹脂とアクリル系ポリマーとスズ系安定剤と滑剤とパール顔料とを含有するものであり、このものから成形された塩化ビニル系樹脂成形体に対して、マルチアングル測色計を用いて、25°および75°傾斜した角度から入射させた光の各反射光を測定し、各反射光におけるJIS Z 8781-4で規定されるL***表色系のLの値を、それぞれ、25°Lおよび75°Lとしたとき、関係式25°L/75°Lは、1.30以上3.00以下を満足する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤としてのポリ塩化ビニル系樹脂と、
補強剤としてのアクリル系ポリマーと、
安定剤としてのスズ系安定剤と、
滑剤と、
色剤としてのパール顔料とを含有する塩化ビニル系樹脂組成物であって、
当該塩化ビニル系樹脂組成物を用いて、表面粗さRzが50μm以上300μm以下のシート状をなす塩化ビニル系樹脂成形体を成形した後に、
前記塩化ビニル系樹脂成形体の法線方向に対して、25°および75°傾斜した角度からマルチアングル測色計の各光源からの光を独立して入射させ、前記法線方向に反射する各反射光をそれぞれ測定し、
各前記反射光における、JIS Z 8781-4で規定されるL***表色系のLの値を、それぞれ、25°Lおよび75°Lとしたとき、
これらの関係式25°L/75°Lは、1.30以上3.00以下であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】
当該塩化ビニル系樹脂組成物は、さらに、可塑剤を含有する請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】
当該塩化ビニル系樹脂組成物は、滑剤としてエチレン酢酸ビニル共重合体および脂肪族モノカルボン酸の金属塩を含有する請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項4】
当該塩化ビニル系樹脂組成物は、色剤として、さらに、カーボンブラックまたは酸化チタンを含有する請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記パール顔料の含有量は、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、1.0重量部以上10.0重量部以下である請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1または5に記載の塩化ビニル系樹脂組成物を用いて成形されたことを特徴とする塩化ビニル系樹脂成形体。
【請求項7】
当該塩化ビニル系樹脂成形体は、シート状をなしている請求項6に記載の塩化ビニル系樹脂成形体。
【請求項8】
主剤としてのポリ塩化ビニル系樹脂と、
補強剤としてのアクリル系ポリマーと、
安定剤としてのスズ系安定剤と、
滑剤と、
色剤としてのパール顔料とを含有する塩化ビニル系樹脂成形体であって、
当該塩化ビニル系樹脂成形体を、表面粗さRzが50μm以上300μm以下のシート状をなすものとして成形した後に、
前記シート状をなす前記塩化ビニル系樹脂成形体の法線方向に対して、25°および75°傾斜した角度からマルチアングル測色計の各光源からの光を独立して入射させ、前記法線方向に反射する各反射光をそれぞれ測定し、
各前記反射光における、JIS Z 8781-4で規定されるL***表色系のLの値を、それぞれ、25°Lおよび75°Lとしたとき、
これらの関係式25°L/75°Lは、1.30以上3.00以下であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂成形体。
【請求項9】
請求項6に記載の塩化ビニル系樹脂成形体を備えることを特徴とする内装材。
【請求項10】
請求項6に記載の塩化ビニル系樹脂成形体を備えることを特徴とするカバー部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体、内装材およびカバー部材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に示すように、自動車、バス、鉄道のような車両、船舶、航空機等の輸送機器、建築物等の内装材、および、医療機器、OA機器、家電機器等のカバー部材には、塩化ビニル系樹脂組成物を成形することで得られる塩化ビニル系樹脂成形体が適用されている。
【0003】
かかる塩化ビニル系樹脂組成物は、加工性に優れ、さらに、得られる塩化ビニル系樹脂成形体が耐衝撃性、耐薬品性および難燃性等に優れることから、前記内装材およびカバー部材等として、好ましく用いられている。
【0004】
このような内装材およびカバー部材として用いられる塩化ビニル系樹脂成形体に、装飾効果を付与することを目的に、真珠光沢すなわちパール調をなす塗膜を、塩化ビニル系樹脂成形体に形成することが提案されている。
【0005】
しかしながら、このように塩化ビニル系樹脂成形体に、パール調をなす塗膜を形成する構成とすると、この塗膜の形成に時間と手間を要したり、内装材およびカバー部材としての成形時や、その使用に伴う経年により、塗膜に亀裂および剥離のうちの少なくとも一方が生じると言う問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-265373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、パール調をなす塗膜を形成することなく、パール調をなす外観が付与された塩化ビニル系樹脂成形体を得ることができる塩化ビニル系樹脂組成物、かかる塩化ビニル系樹脂組成物を用いて成形された塩化ビニル系樹脂成形体、かかる塩化ビニル系樹脂成形体を備える内装材およびカバー部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)~(10)に記載の本発明により達成される。
(1) 主剤としてのポリ塩化ビニル系樹脂と、
補強剤としてのアクリル系ポリマーと、
安定剤としてのスズ系安定剤と、
滑剤と、
色剤としてのパール顔料とを含有する塩化ビニル系樹脂組成物であって、
当該塩化ビニル系樹脂組成物を用いて、表面粗さRzが50μm以上300μm以下のシート状をなす塩化ビニル系樹脂成形体を成形した後に、
前記塩化ビニル系樹脂成形体の法線方向に対して、25°および75°傾斜した角度からマルチアングル測色計の各光源からの光を独立して入射させ、前記法線方向に反射する各反射光をそれぞれ測定し、
各前記反射光における、JIS Z 8781-4で規定されるL***表色系のLの値を、それぞれ、25°Lおよび75°Lとしたとき、
これらの関係式25°L/75°Lは、1.30以上3.00以下であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂組成物。
【0009】
(2) 当該塩化ビニル系樹脂組成物は、さらに、可塑剤を含有する上記(1)に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【0010】
(3) 当該塩化ビニル系樹脂組成物は、滑剤としてエチレン酢酸ビニル共重合体および脂肪族モノカルボン酸の金属塩を含有する上記(1)または(2)に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【0011】
(4) 当該塩化ビニル系樹脂組成物は、色剤として、さらに、カーボンブラックまたは酸化チタンを含有する上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【0012】
(5) 前記パール顔料の含有量は、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、1.0重量部以上10.0重量部以下である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【0013】
(6) 上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂組成物を用いて成形されたことを特徴とする塩化ビニル系樹脂成形体。
【0014】
(7) 当該塩化ビニル系樹脂成形体は、シート状をなしている上記(6)に記載の塩化ビニル系樹脂成形体。
【0015】
(8) 主剤としてのポリ塩化ビニル系樹脂と、
補強剤としてのアクリル系ポリマーと、
安定剤としてのスズ系安定剤と、
滑剤と、
色剤としてのパール顔料とを含有する塩化ビニル系樹脂成形体であって、
当該塩化ビニル系樹脂成形体を、表面粗さRzが50μm以上300μm以下のシート状をなすものとして成形した後に、
前記シート状をなす前記塩化ビニル系樹脂成形体の法線方向に対して、25°および75°傾斜した角度からマルチアングル測色計の各光源からの光を独立して入射させ、前記法線方向に反射する各反射光をそれぞれ測定し、
各前記反射光における、JIS Z 8781-4で規定されるL***表色系のLの値を、それぞれ、25°Lおよび75°Lとしたとき、
これらの関係式25°L/75°Lは、1.30以上3.00以下であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂成形体。
【0016】
(9) 上記(6)ないし(8)のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂成形体を備えることを特徴とする内装材。
【0017】
(10) 上記(6)ないし(8)のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂成形体を備えることを特徴とするカバー部材。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、塩化ビニル系樹脂組成物を用いて塩化ビニル系樹脂成形体を成形することで、この成形体にパール調をなす塗膜を形成することなく、パール調をなす外観を有するものとして得ることができる。また、塩化ビニル系樹脂成形体を用いて、内装材およびカバー部材を成形したとしても、この成形時に、パール調をなす外観が損なわれるのを的確に抑制または防止して、内装材およびカバー部材を成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の塩化ビニル系樹脂成形体の実施形態を示す縦断面図である。
図2】所定の角度からの反射光の測定に用いられるマルチアングル測色計の模式図である。
図3図1に示す塩化ビニル系樹脂成形体を製造する製造装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体、内装材およびカバー部材を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0021】
まず、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物を説明するのに先立って、この塩化ビニル系樹脂組成物を用いて成形された、シート状をなす塩化ビニル系樹脂成形体1について説明する。
【0022】
<塩化ビニル系樹脂成形体>
本発明の塩化ビニル系樹脂成形体1は、主剤としてのポリ塩化ビニル系樹脂と、補強剤としてのアクリル系ポリマーと、安定剤としてのスズ系安定剤と、滑剤と、色剤としてのパール顔料とを含有するものであり、この塩化ビニル系樹脂成形体1を、表面粗さRzが50μm以上300μm以下のシート状をなすものとして成形した後に、このシート状をなす塩化ビニル系樹脂成形体1の法線方向に対して、25°および75°傾斜した角度からマルチアングル測色計の各光源からの光を独立して入射させ、前記法線方向に反射する各反射光をそれぞれ測定し、各前記反射光における、JIS Z 8781-4で規定されるL***表色系のLの値を、それぞれ、25°Lおよび75°Lとしたとき、これらの関係式25°L/75°Lは、1.30以上3.00以下であることを特徴とする。
【0023】
このように、本発明では、塩化ビニル系樹脂成形体1(以下、単に「成形体1」と言うこともある。)自体が、色剤としてパール顔料を含有していることから、この成形体1に対するパール調をなす塗膜の形成を省略したとしても、成形体1にパール調をなす外観が付与される。そして、成形体1に対する塗膜の形成が省略されていることから、この塗膜の形成に時間と手間を要するのを、確実に防止することができる。さらに、この成形体1を用いた、内装材およびカバー部材の成形時や、その使用に伴う経年による、塗膜における亀裂および剥離の発生が確実に防止される。そのため、成形体1、ひいては内装材およびカバー部材を、優れた信頼性を備えるものとし得る。
【0024】
また、表面粗さRzが50μm以上300μm以下であるシート状をなす塩化ビニル系樹脂成形体1において、前記関係式25°L/75°Lが1.30以上3.00以下であることを満足しており、優れた真珠光沢すなわちパール調が成形体1に付与されていると言うことができる。そのため、例えば、この成形体1を用いた内装材およびカバー部材の成形時に、得られる内装材およびカバー部材の表面に、表面粗さRzが25μm以上200μm以下程度となっているシボ面(柄面)が形成され、その表面粗さRzが小さくなる方向で表面粗さRzに変化が生じたとしても、このシボ面におけるパール調が低減するのを的確に抑制または防止することができる。
【0025】
以下、本発明の塩化ビニル系樹脂成形体1を、シート状をなし、構成材料として、主剤としてのポリ塩化ビニル系樹脂と、補強剤としてのアクリル系ポリマーと、安定剤としてのスズ系安定剤と、滑剤と、色剤としてのパール顔料と、加工助剤と、を含有するものに適用した場合を一例に説明する。
【0026】
図1は、本発明の塩化ビニル系樹脂成形体の実施形態を示す縦断面図、図2は、所定の角度からの反射光の測定に用いられるマルチアングル測色計の模式図である。
【0027】
なお、図1および図2では、上側を「上方」または「上」と言い、下側を「下方」または「下」とも言う。
【0028】
<<ポリ塩化ビニル系樹脂>>
ポリ塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル系樹脂成形体1に、その主剤(主材料)として含まれる。
【0029】
ポリ塩化ビニル系樹脂は、-CH-CHCl-で表される基を繰り返し単位として、複数有するポリマーであり、具体的には、塩化ビニルの単独重合体、塩化ビニルと共重合可能なビニル系単量体(重合性モノマー)との共重合体が挙げられ、また、後塩素化塩化ビニル重合体も含まれ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、単独重合体を用いるのが一般的である。
【0030】
なお、塩化ビニルと共重合可能なビニル系単量体との共重合体としては、例えば、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-アクリル共重合体等が挙げられる。
【0031】
また、単独重合体の塩素化度は、好ましくは50重量%以上75重量%以下、より好ましくは55重量%以上70重量%以下に設定される。これにより、塩化ビニル系樹脂成形体の発煙および発熱抑制効果をより確実に得ることができる。
【0032】
また、ポリ塩化ビニル系樹脂は、数平均重合度が400以上1200以下のものであるのが好ましく、600以上1000以下のものであるのが好ましい。数平均重合度が前記上限値を超えると、他の構成材料との組み合わせ等によっては、可塑剤を添加しないと加工性が悪く、そのために可塑剤を多量に添加すると柔軟温度の低下をもたらすおそれがある。一方、平均重合度が前記下限値より低くなると、他の構成材料との組み合わせ等によっては、成形された塩化ビニル系樹脂成形体1の耐熱性が低下するおそれがある。
【0033】
<<補強剤>>
補強剤は、主として塩化ビニル系樹脂成形体1の耐衝撃性の向上を図るため、さらには、塩化ビニル系樹脂成形体1の成形時における成形性の向上を図るために、塩化ビニル系樹脂成形体1に含まれる。
【0034】
この補強剤として、本発明では、塩化ビニル系樹脂成形体1に、優れた耐久性を付与することを目的に、アクリル系ポリマーが用いられる。
【0035】
アクリル系ポリマー(多成分アクリルゴム系樹脂)としては、特に限定されず、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸オクチルのようなアクリル酸エステルを主体として、これらのモノマーと、2-クロロエチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、アクリル酸、スチレン、アクリロニトリル、ブタジエン等との共重合体であり、例えば、カネカ社製「カネエースFM」、クレハ社製「クレハKM-334」等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
また、アクリル系ポリマーの重量平均分子量は、1.0×10以上1.0×10以下のものであるのが好ましく、1.0×10以上7.0×10以下のものであるのがより好ましい。
【0037】
アクリル系ポリマーの含有量は、主材料であるポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、5.0重量部以上20.0重量部以下であるのが好ましく、7.0重量部以上14.0重量部以下であるのがより好ましい。これにより、塩化ビニル系樹脂成形体1の耐衝撃性を確実に高めることができる。
【0038】
<<安定剤>>
安定剤は、塩化ビニル系樹脂成形体1の熱や光による分解や着色を抑制するために、塩化ビニル系樹脂成形体1に含まれる。
【0039】
この安定剤としては、本発明では、塩化ビニル系樹脂成形体1に、熱や光に対する安定性をより確実に付与することを目的に、スズ系安定剤としての有機スズ系化合物が用いられる。
【0040】
スズ系安定剤(有機スズ系化合物)としては、特に限定されず、例えば、モノブチルスズ・トリメチルマレート、ジブチルスズ・ジラウレート、ジブチルスズマレート、ジブチルスズメルカプタイドまたはこれらの金属塩等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
また、安定剤としては、スズ系安定剤の他に、さらに、二塩基性ステアリン酸鉛、ステアリン酸カドミウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウムのような金属石鹸、三塩基性硫酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛のような鉛系安定剤等の他の安定剤が含まれていてもよい。
【0042】
安定剤の含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上10.0重量部以下であることが好ましく、0.5重量部以上8.0重量部以下であることがより好ましい。これにより、塩化ビニル系樹脂成形体1の機械的強度を維持しつつ、塩化ビニル系樹脂成形体1の熱や光に対する安定性を図ることができる。
【0043】
<<滑剤>>
滑剤は、塩化ビニル系樹脂成形体1の成形時において、金型やローラー等に対して優れた滑り性を発揮させて、成形性の向上を図るために、塩化ビニル系樹脂成形体1に含まれる。
【0044】
この滑剤としては、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、モンタン酸のような脂肪族モノカルボン酸(好ましくは炭素数16以上の脂肪族モノカルボン酸)およびこれらの金属塩等の誘導体、エチレン酢酸ビニル共重合体、メタクリル酸アルキル-アクリル酸アルキル共重合体、金属石鹸類、カルナバワックス、キャンデリアワックスのような天然ワックス類、パラフィンワックスのような石油系ワックス類等が挙げられ、これらのうちの、1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、中でも、エチレン酢酸ビニル共重合体および脂肪族モノカルボン酸の金属塩のうちの少なくとも1種であることが好ましい。これにより、成形された塩化ビニル系樹脂成形体1の外観を、確実に優れたものとし得る。
【0045】
なお、脂肪族モノカルボン酸の金属塩における金属としては、例えば、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛等が挙げられる。
【0046】
滑剤の含有量は、上述した滑剤の種類によっても若干異なるが、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.05重量部以上5.00重量部以下であるのが好ましく、0.30重量部以上3.00重量部以下であるのがより好ましい。これにより、上述した効果を確実に発揮させることができる。
【0047】
<<色剤>>
色剤は、塩化ビニル系樹脂成形体1に着色することを目的に、塩化ビニル系樹脂成形体1に含まれる。
【0048】
そして、本発明では、塩化ビニル系樹脂成形体1に、着色による装飾効果を付与するために、すなわち、パール調の外観を付与するために、色剤として、パール顔料が塩化ビニル系樹脂成形体1に含まれている。
【0049】
このように、塩化ビニル系樹脂成形体1がパール顔料を含有し、これにより、成形体1自体に、パール調の外観が付与されている。すなわち、本発明では、パール調をなす塗膜を形成することなく、パール調の外観が成形体1自体に付与されていることから、この塗膜の形成に時間と手間を要するのを、確実に防止することができる。さらに、この成形体1を用いた内装材およびカバー部材の成形時や、その使用に伴う経年による、塗膜における亀裂および剥離の発生が確実に防止される。そのため、塩化ビニル系樹脂成形体1、ひいては内装材およびカバー部材を、優れた信頼性を備えるものとし得る。
【0050】
パール顔料(真珠光沢顔料)としては、成形体1の表面にパール調の外観を付与し得るものであれば、特に限定されないが、例えば、天然パールエッセンス、塩基性炭酸鉛、酸性ヒ酸鉛、塩化酸化ビスマス、雲母(マイカ)の表面を酸化チタンで被覆したもののような金属酸化物被覆雲母等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、中でも、金属酸化物被覆雲母であることが好ましい。これにより、成形体1の耐候性および耐熱性の向上が図られる。また、後に詳述する関係式25°L/75°Lの大きさを、比較的容易に1.30以上3.00以下に設定することができる。
【0051】
また、金属酸化物被覆雲母における、雲母に対する金属酸化物による被覆率は、例えば、10%以上50%以下であるのが好ましく、15%以上35%以下であるのがより好ましい。これにより、パール顔料(真珠光沢顔料)として金属酸化物被覆雲母を用いることにより得られる効果を、より顕著に発揮させることができる。
【0052】
パール顔料は、成形体1における含有量が、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、好ましくは1.0重量部以上10.0重量部以下、より好ましくは1.5重量部以上5.0重量部以下の範囲内に設定される。パール顔料の含有量をかかる範囲内設定することにより、成形体1に優れた成形性を発揮させ得るとともに、パール調の外観を、成形体1に確実に付与することができる。
【0053】
また、パール顔料は、成形体1において、その平均粒子径が、36.0μm以上100.0μm以下であることが好ましく、44.0μm以上75.0μm以下であることがより好ましい。パール顔料の平均粒子径が、成形体1において、かかる範囲内に設定されることにより、成形体1中にパール顔料をより均一に分散させた状態とすることができる。そのため、パール調の外観を、成形体1に確実に付与することができる。すなわち、関係式25°L/75°Lの大きさを、確実に1.30以上3.00以下の範囲内に設定することができる。なお、本明細書中において、パール顔料の前記平均粒子径は、パール顔料の一次粒子と、その一次粒子の粉砕物と、一次粒子が凝集した二次粒子とから算出される平均粒子径のことを言い、パール顔料の平均粒子径が前記範囲内に設定されることで、成形体1におけるパール顔料の二次粒子の存在比率が的確に低減(抑制)されていると言うことができる。そのため、パール顔料の平均粒子径を前記範囲内に設定することで、成形体1中に、パール顔料をより均一に分散させた状態とすることができる。
【0054】
また、塩化ビニル系樹脂成形体1には、パール顔料により付与されたパール調の外観の色調を調整することを目的に、色剤として、パール顔料とは異なる、他の色材がさらに含まれていてもよい。
【0055】
この色剤としては、パール顔料とは異なる顔料が好ましく用いられ、さらに、顔料としては、要求される塩化ビニル系樹脂成形体1の色調に応じて選択され、例えば、カーボンブラック、酸化チタンの他、アゾ系、ベンズイミダゾロン系、ジアリライド系、キナクリドン系、イソインドリノン系、バット系、フタロシアニン系、ジオキサン系等の有機顔料や、チタンイエロー、黄鉛等の無機顔料が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、中でも、カーボンブラック、酸化チタンのうちの少なくとも1種であることが好ましい。これにより、塩化ビニル系樹脂成形体1の表面における、真珠光沢すなわちパール調をなす外観の濃淡の調整を、比較的容易に実施することができる。
【0056】
パール顔料以外の他の顔料の含有量は、要求される色調に応じて設定されるが、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.005重量部以上1.500重量部以下であるのが好ましく、0.010重量部以上0.800重量部以下であるのがより好ましい。これにより、上述した効果を確実に発揮させることができる。
【0057】
<<加工助剤>>
加工助剤は、塩化ビニル系樹脂成形体1の成形時における成形性の向上を図るために、塩化ビニル系樹脂成形体1に含まれることが好ましい。
【0058】
この加工助剤としては、例えば、アクリル系加工助剤が好ましく用いられ、具体的には、2-エチルヘキシルアクリレート・ブチルアクリレート共重合体等のアクリル酸エステルの高分子量共重合体、およびメチルメタアクリレートとアクリル酸エステルとの共重合体等が挙げられる。
【0059】
また、加工助剤の重量平均分子量は、1.0×10以上5.0×10以下のものであるのが好ましく、1.0×10以上2.0×10以下のものであるのが好ましい。
【0060】
加工助剤の含有量は、主材料であるポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、1.0重量部以上15.0重量部以下であるのが好ましく、2.0重量部以上10.0重量部以下であるのがより好ましい。これにより、塩化ビニル系樹脂成形体1の成形時における成形性を確実に高めることができる。
【0061】
なお、塩化ビニル系樹脂成形体1に対する、加工助剤の添加は、塩化ビニル系樹脂成形体1に含まれる構成材料の組み合わせ等によっては、省略することもできる。
【0062】
また、塩化ビニル系樹脂成形体1は、上述した、ポリ塩化ビニル系樹脂、補強剤、安定剤、滑剤、色剤ならびに加工助剤の他に、例えば、抗菌剤、難燃剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を含んでいてもよい。
【0063】
以上のような構成をなしている塩化ビニル系樹脂成形体1は、図1に示すようにシート状をなすものとし、さらに、その表面粗さRzを50μm以上300μm以下の範囲内に設定したとき、本発明では、シート状をなす塩化ビニル系樹脂成形体1の法線方向NDに対して、25°および75°傾斜した角度からマルチアングル測色計50の各光源21、22からの光を独立して入射させ、法線方向NDに反射する各反射光をそれぞれ測定し、各前記反射光における、JIS Z 8781-4で規定されるL***表色系のLの値を、それぞれ、25°Lおよび75°Lとすると、これらの関係式25°L/75°Lが、1.30以上3.00以下であることを満足する。
【0064】
ここで、マルチアングル測色計50は、図2に示すように、受光部30と、光源21、22、23とを有している。受光部30は、シート状をなす塩化ビニル系樹脂成形体1の表面(上面)に対して法線方向NDの延長線上に位置しており、光源21は、法線方向NDに対して25°の角度で傾斜する方向の延長線上に位置し、光源22は、法線方向NDに対して45°の角度で傾斜する方向の延長線上に位置し、光源23は、法線方向NDに対して75°の角度で傾斜する方向の延長線上に位置している。これにより、マルチアングル測色計50は、対象物である塩化ビニル系樹脂成形体1に対して異なる複数方向(本実施形態では、異なる3方向)から光を入射(照射)し、塩化ビニル系樹脂成形体1で反射した光(反射光)を、法線方向NDの1方向で受光する多方向照明一方向受光式の測色計を構成している。
【0065】
かかる構成をなすマルチアングル測色計50において、各光源21、22、23から独立して順次、成形体1に向かって出射された光(出射光)は、それぞれ、成形体1の表面で反射され、この反射した光(反射光)のうち、法線方向NDに沿った方向(平行)をなす光(反射光)が、受光部30で受光される。そして、マルチアングル測色計50が備える処理部(図示せず)において、受光部30で受光された光(反射光)に基づいて、この反射光における、JIS Z 8781-4で規定されるL***表色系のL、a、bの値が算出されることで、各光源21、22、23から成形体1に向かって出射された出射光に対応した各反射光のL***表色系における色が判定される。
【0066】
以上のようにして、マルチアングル測色計50を用いて測定される、成形体1の法線方向NDに対して、25°、45°および75°傾斜した角度から独立して入射された入射光が、成形体1から前記法線方向NDに反射する各反射光25°、45°、75°のL***表色系のL、a、bの値のうち、各反射光25°、45°、75°のLの値を、それぞれ、25°L、45°Lおよび75°Lとしたとき、本発明では、関係式25°L/75°Lは、1.30以上3.00以下であることを満足している。
【0067】
このように、成形体1の法線方向NDに対して25°傾斜した角度から入射された入射光に対応する反射光25°のL値である25°Lと、成形体1の法線方向NDに対して75°傾斜した角度から入射された入射光に対応する反射光75°のL値である75°Lとの関係式25°L/75°Lが1.30以上3.00以下を満足することは、L***表色系において明度を示すL値の大きさが、25°傾斜した角度から入射された入射光に基づく反射光25°と、75°傾斜した角度から入射された入射光に基づく反射光75°との間でバラツキが生じていると言え、そして、そのバラツキの大きさである関係式25°L/75°Lが、1.30以上3.00以下の範囲内に設定されていることで、成形体1にパール調の外観が確実に付与されていると言うことができる。
【0068】
特に、表面粗さRzが50μm以上300μm以下である成形体1において、前記関係式25°L/75°Lが1.30以上3.00以下の範囲内に設定されているために、例えば、この成形体1を用いた内装材およびカバー部材の成形時に、得られる内装材およびカバー部材の表面に、表面粗さRzが25μm以上200μm以下程度となっているシボ面(柄面)が形成され、その表面粗さRzが小さくなる方向で表面粗さRzに変化が生じたとしても、このシボ面におけるパール調が低減するのを的確に抑制または防止することができる。
【0069】
また、関係式25°L/75°Lは、1.30以上3.00以下の範囲内に設定されていれば良いが、1.40以上2.80以下を満足するのが好ましく、1.40以上2.50以下を満足するのがより好ましい。これにより、関係式25°L/75°Lを前記範囲内に設定することにより得られる効果を、確実に発揮させることができる。
【0070】
さらに、成形体1は、各反射光25°、75°の前記関係式25°L/75°Lが1.30以上3.00以下を満足する他、各反射光25°、75°の各L値の大きさ25°L、75°Lの関係を示す関係式(25°L-75°L)/75°L)が0.30以上2.00以下であることが好ましく、0.40以上1.10以下であることがより好ましい。関係式25°L/75°Lばかりでなく、各反射光25°、75°の関係式(25°L-75°L)/75°L)が前記範囲内に設定されることにより、成形体1に、パール調の外観を、より確実に付与することができる。
【0071】
また、以上のような塩化ビニル系樹脂成形体1は、本実施形態のように、シート状をなす場合、その厚さが、好ましくは0.5mm以上8.0mm以下、より好ましくは1.0mm以上5.0mm以下に設定される。塩化ビニル系樹脂成形体1の厚さがかかる範囲内に設定されることで、塩化ビニル系樹脂成形体1の軽量化を図りつつ、優れた強度を有する塩化ビニル系樹脂成形体1とすることができる。
【0072】
以上のように、前記関係式25°L/75°Lが1.30以上3.00以下であることを満足する、塩化ビニル系樹脂成形体1は、例えば、以下に示すような塩化ビニル系樹脂成形体の製造方法を経て製造される。
【0073】
<塩化ビニル系樹脂成形体の製造方法>
まず、本発明の塩化ビニル系樹脂成形体の製造方法を説明するのに先立って、塩化ビニル系樹脂成形体1の製造に用いる製造装置10について説明する。
【0074】
図3は、図1に示す塩化ビニル系樹脂成形体を製造する製造装置の側面図である。
なお、図3では、上側を「上方」または「上」と言い、下側を「下方」または「下」とも言う。また、図3では、一部を誇張して図示しており、実際の寸法とは大きく異なる。
【0075】
図1に示す平板状をなす塩化ビニル系樹脂成形体1は、本実施形態では、塩化ビニル系樹脂成形体1の構成材料として上述した、主剤としてのポリ塩化ビニル系樹脂と、補強剤としてのアクリル系ポリマーと、安定剤としてのスズ系安定剤と、滑剤と、色剤としてのパール顔料と、加工助剤との他に、さらに可塑剤を含有する塩化ビニル系樹脂組成物(本発明の塩化ビニル系樹脂組成物)を用いて、製造装置10で成形することにより製造される。
【0076】
この製造装置10は、図3に示すように、供給部100と、押出機200と、成形部300と、冷却部400と、切断部500とを有している。
【0077】
供給部100は、塩化ビニル系樹脂組成物が貯留されており、貯留された塩化ビニル系樹脂組成物を押出機200に供給するものである。供給部100では、塩化ビニル系樹脂組成物が混合(混練)された状態で貯留されている。
【0078】
押出機200は、供給部100から供給された塩化ビニル系樹脂組成物を押出法によりシートとして押し出すものである。押出機200は、塩化ビニル系樹脂組成物が通過する流路と、流路内に設けられたスクリューとを有している。スクリューが回転することにより、塩化ビニル系樹脂組成物がシートとして押し出される。
【0079】
成形部300は、本実施形態では、3つのローラー301、302、303を有している。各ローラー301~303は、鉛直方向に並んで配置されており、互いに独立して回転するよう構成されている。これらローラー301~303には、押し出されたシート材が掛け回され、ローラー301~303の間でシート材がそれぞれ挟持されて均一な厚さに成形される。
【0080】
冷却部400は、複数の冷却ローラー401を有している。各冷却ローラー401が成形されたシートの一方の面と当接し、これにより、このシートが冷却される。
【0081】
切断部500は、刃部501を有し、該刃部501によってシートを所定の長さに切断するものである。
【0082】
このような製造装置10を用いて、以下のようにして、塩化ビニル系樹脂成形体1が製造される。
【0083】
[1]まず、主剤としてのポリ塩化ビニル系樹脂を含有する粉体に、補強剤としてのアクリル系ポリマーと、安定剤としてのスズ系安定剤と、滑剤と、色剤としてのパール顔料と、加工助剤と、可塑剤とを添加し、その後、スーパーミキサーやヘンシェルミキサー、ブレンダー等を用いて混練することで塩化ビニル系樹脂組成物(本発明の塩化ビニル系樹脂組成物)を調製する。
【0084】
なお、この調製がなされた塩化ビニル系樹脂組成物は、上記の通り混錬した混錬物を加熱することで濃縮させてペレット化したものを粉砕して粉砕物とし、その後、この粉砕物を、再度、混錬(再混練)することで得られたものであってもよい。また、このペレット化と、粉砕と、再混錬とは、1回だけでなく、2回以上の複数回繰り返して実施するようにしてもよい。このように、塩化ビニル系樹脂組成物を、ペレット化して粉砕する条件、また、その後、粉砕物を再混錬する条件、また、ペレット化と粉砕と再混錬とを繰り返す回数等を適宜設定することにより、次工程[2]において得られる塩化ビニル系樹脂成形体1に含まれるパール顔料の平均粒子径の大きさを所望の大きさに設定することができる。
【0085】
このように、本実施形態では、塩化ビニル系樹脂組成物に、塩化ビニル系樹脂成形体1に構成材料として含まれる、主剤としてのポリ塩化ビニル系樹脂と、補強剤としてのアクリル系ポリマーと、安定剤としてのスズ系安定剤と、滑剤と、色剤としてのパール顔料と、加工助剤との他に、さらに可塑剤を含有する。
【0086】
<<可塑剤>>
可塑剤は、塩化ビニル系樹脂組成物中、ひいては塩化ビニル系樹脂組成物を成形して得られる塩化ビニル系樹脂成形体1中におけるパール顔料の分散性の向上を図るために、塩化ビニル系樹脂組成物に含まれている。そして、この分散性が向上することで、塩化ビニル系樹脂成形体1における、前記関係式25°L/75°Lの値を、比較的容易に、1.30以上3.00以下の範囲内に設定することができる。
【0087】
ここで、塩化ビニル系樹脂組成物に含まれる可塑剤は、揮発性を有する。そのため、後工程[2]において、塩化ビニル系樹脂組成物を用いた成形体1の成形時に、塩化ビニル系樹脂組成物から揮発する。そのため、成形された成形体1には、可塑剤は、含まれないか、含まれていたとしても成形体1の構成材料を分析する分析機器の検出限界以下となっている。なお、本明細書中において、成形体1の構成材料として、可塑剤が含まれないとは、可塑剤が分析機器の検出限界以下に成形体1に含まれている場合も包含することとする。
【0088】
この可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、DOP(ジオクチルフタレート)、DBP(ジブチルフタレート)、DIBP(ジイソブチルフタレート)、DHP(ジヘプチルフタレート)のようなフタル酸エステル系可塑剤、DOA(ジ-2-エチルヘキシルアジペート)、DIDA(ジイソデシルアジペート)、DOS(ジ-2-エチルヘキシルセバセート)のような脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、エチレングリコールのベンゾエート類のような芳香族カルボン酸エステル系可塑剤、およびTOTM(トリオクチルトリメリテート)のようなトリメリット酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0089】
塩化ビニル系樹脂組成物中における可塑剤の含有率は、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して0.01重量部以上0.5重量部以下で配合されることが好ましく、0.05重量部以上0.3重量部以下で配合されることがより好ましい。これにより、塩化ビニル系樹脂組成物中におけるパール顔料の分散性を確実に向上させることができるため、前記関係式25°L/75°Lの大きさを、容易に前記範囲内に設定することができる。
【0090】
[2]次に、調製した塩化ビニル系樹脂組成物を、製造装置10を用いて成形することで塩化ビニル系樹脂成形体1を得る。
【0091】
上述した製造装置10を用いた製造方法では、供給部100から供給された塩化ビニル系樹脂組成物が押出機200によって連続的にシート材が押し出され、その後、塩化ビニル系樹脂組成物から可塑剤が揮発するとともに、成形部300によって、表面が平坦化されて所定の厚さに成形される。そして、冷却部400と当接して冷却され、切断部500によって所定の長さに切断されて塩化ビニル系樹脂成形体1が得られる。
【0092】
なお、本実施形態では、切断されたシートを塩化ビニル系樹脂成形体1として説明したが、シートを切断するのを省略し、塩化ビニル系樹脂成形体1は、シートをロール状に巻回されたものであってもよい。
【0093】
また、製造装置10では、ローラー301、302、303に冷却機能を付与し、成形部300を冷却部として機能させてもよい。
【0094】
以上のような製造装置10によって、塩化ビニル系樹脂組成物を成形することで、塩化ビニル系樹脂成形体1を得ることができる。
【0095】
また、この塩化ビニル系樹脂成形体1(本発明の塩化ビニル系樹脂成形体)は、自動車、バス、鉄道のような車両、船舶、航空機、宇宙船等の輸送機器、建築物等の内装材や、医療機器、OA機器、家電機器等の筐体としてのカバー部材等に適用可能である。
【0096】
以上、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体、内装材およびカバー部材について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、塩化ビニル系樹脂組成物には、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0097】
また、本発明の塩化ビニル系樹脂成形体は、その形状が上述したシート状をなす場合に限定されず、例えば、棒状、筒状、円環状等いかなる形状をなすものに成形されていてもよい。
【実施例0098】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。
1.原材料の準備
(ポリ塩化ビニル系樹脂(PVC))
・ポリ塩化ビニル樹脂(塩化ビニルの単独重合体、信越化学工業社製、「TK-800Q」、重合度800)
【0099】
(補強剤)
・アクリル系ポリマー(メチルメタクリレート-ブチルアクリレート共重合体、分子量300万)
【0100】
(安定剤)
・ジブチルスズ系化合物(ジブチルスズ・マレイン酸塩、日東化成社製、「BM-N」)
【0101】
(滑剤)
・エチレン酢酸ビニル共重合体
・メタクリル酸アルキル-アクリル酸アルキル共重合体
・ステアリン酸(花王社製、「S-70V」)
・脂肪族モノカルボン酸カルシウム塩(日東化成社製、「BK-25」)
【0102】
(可塑剤)
・フタル酸エステル系可塑剤(シェルケミカルズ社製、「DL911P」)
【0103】
(顔料)
・カーボンブラックを含有する黒色顔料(大日精化工業社製、「DAP4744」、カーボンブラック含有率;約35重量%)
・青色顔料(大日精化工業社製、「DAP4660」)
・赤色顔料(大日精化工業社製、「DAEP4121」)
【0104】
(パール顔料)
・パール顔料A(平均粒径25μm、天然マイカの表面に酸化チタンを被覆させたもの)
・パール顔料B(平均粒径40μm、合成マイカの表面に酸化チタンを被覆させたもの)
【0105】
2.塩化ビニル系樹脂成形体の製造
[実施例1]
[1]まず、ポリ塩化ビニル系樹脂としてポリ塩化ビニル樹脂;6.0重量部、パール顔料として、パール顔料A;3.0重量部を、それぞれ秤量した後に、これらをヘンシェルミキサーにて、攪拌混合し、ペレット化用樹脂組成物を調製した。次に、調製されたペレット化用樹脂組成物を、押出機により混錬し、ペレット化したものを、粉砕機を用いて粉砕して粉砕物を得た。続いて、ポリ塩化ビニル系樹脂としてポリ塩化ビニル樹脂;94.0重量部、補強剤としてアクリル系ポリマー;15.0重量部、安定剤としてジブチルスズ系化合物;3.0重量部、滑剤として、エチレン酢酸ビニル共重合体1.0重量部、メタクリル酸アルキル-アクリル酸アルキル共重合体;0.2重量部、ステアリン酸;0.5重量部および脂肪族モノカルボン酸カルシウム塩;1.5重量部、顔料として、カーボンブラック;0.008重量部および青色顔料;0.05重量部、ペレット化用樹脂組成物からなる粉砕物;9.0重量部(ポリ塩化ビニル樹脂;6.0重量部と、パール顔料A;3.0重量部とからなる混錬物)とを、それぞれ秤量した後に、これらをスーパーミキサーにて、100℃まで昇温しながら攪拌混合し、その後、30℃まで冷却することにより塩化ビニル系樹脂組成物を調製した。
【0106】
[2]次に、調製された塩化ビニル系樹脂組成物を、図3に示す製造装置10が備える押出機200に収納し、押出すことで、溶融状態とされたシートを得た。そして、溶融状態とされたシートをローラー301~303に掛け回し、挾持することで、平坦化し、その後、冷却部400にて冷却した。そして、切断部500によって所定長さで切断することにより、縦5cm×横5cm×厚さ3.0mmのシート状をなす、実施例1の塩化ビニル系樹脂成形体1を得た。
【0107】
なお、JIS B 0601に準拠して測定される、塩化ビニル系樹脂成形体1の表面粗さRzは、149μmであった。
【0108】
また、JIS Z 8827-1に準拠した静的画像解析法による粒子径解析により計測される、塩化ビニル系樹脂成形体1に含まれるパール顔料の平均粒子径は、36.0μmであった。
【0109】
[実施例2~8、比較例1、2]
前記工程[1]において、塩化ビニル系樹脂組成物を調製する際に用いる構成材料の種類およびその含有量を表1に示すように変更すること、および、調製した塩化ビニル系樹脂組成物をペレット化した後に粉砕して粉砕物とした後に、この粉砕物を再混錬する工程を1回以上追加することのうち一方または双方を選択したこと以外は、前記実施例1と同様にして、実施例2~8、比較例1、2の塩化ビニル系樹脂成形体1を得た。
【0110】
3.評価
各実施例および比較例の塩化ビニル系樹脂成形体1について、それぞれ、以下に示すような方法を用いて評価した。
【0111】
3-1.塩化ビニル系樹脂成形体1におけるL、a、b値の測定
各実施例および比較例の塩化ビニル系樹脂成形体1について、それぞれ、マルチアングル測色計50が備える各光源21、22、23から独立して順次、成形体1に向かって出射光を出射させ、これら出射光が成形体1の表面で反射された反射光のうち、法線方向NDに沿った方向をなす反射光を、受光部30で受光した。そして、受光部30で受光された反射光について、JIS Z 8781-4で規定されるL***表色系のL、a、bの値を算出した。なお、マルチアングル測色計50としては、コニカミノルタ社製、「CM512m3a」を使用した。
【0112】
また、各実施例および比較例の塩化ビニル系樹脂成形体1において、各反射光25°、45°、75°について算出されたL、a、bの値のうち、各反射光25°、45°、75°のLの値を、それぞれ、25°L、45°Lおよび75°Lとしたときの、関係式25°L/75°Lおよび関係式(25°L-75°L)/75°Lの大きさを求めた。
【0113】
3-2.シボ面におけるバール調をなす外観の評価
各実施例および比較例のシート状をなす塩化ビニル系樹脂成形体1について、それぞれ、湾曲部を備えるものに成形することで、表面粗さRzが100μmとなっているシボ面が形成された成形体とし、その後、形成されたシボ面における外観を、以下の判定基準を用いて評価した。
【0114】
<判定基準>
◎:シボ面において、バール調をなす外観を鮮明に視認し得る
○:シボ面において、バール調をなす外観を視認し得る
×:シボ面において、バール調をなす外観を視認することができない
【0115】
以上のようにして得られた各実施例および比較例の塩化ビニル系樹脂成形体1における評価結果を、それぞれ、下記の表1に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
表1に示したように、各実施例における塩化ビニル系樹脂成形体1では、前記関係式25°L/75°Lが、1.30以上3.00以下の範囲内に設定され、これにより、その外観がパール調を示し、さらに、塩化ビニル系樹脂成形体1の成形により塩化ビニル系樹脂成形体1にシボ面を形成したとしても、このシボ面において、パール調の外観を低減させることなく視認することができた。
【0118】
これに対して、比較例における塩化ビニル系樹脂成形体1では、前記関係式25°L/75°Lが、1.30以上3.00以下であることを満足しておらず、そのため、塩化ビニル系樹脂成形体1の成形により塩化ビニル系樹脂成形体1にシボ面を形成すると、このシボ面において、パール調の外観を視認することができない結果を示した。
【符号の説明】
【0119】
1 塩化ビニル系樹脂成形体(成形体)
10 製造装置
21 光源
22 光源
23 光源
30 受光部
50 マルチアングル測色計
100 供給部
200 押出機
300 成形部
301 ローラー
302 ローラー
303 ローラー
400 冷却部
401 ローラー
500 切断部
501 刃部
ND 法線方向
図1
図2
図3