(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035881
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】複合フィラメントの製造方法及び複合フィラメント
(51)【国際特許分類】
D02G 3/40 20060101AFI20230306BHJP
D06M 15/05 20060101ALI20230306BHJP
D06M 15/507 20060101ALI20230306BHJP
D06M 101/06 20060101ALN20230306BHJP
【FI】
D02G3/40
D06M15/05
D06M15/507
D06M101:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125329
(22)【出願日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2021142375
(32)【優先日】2021-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】松本 紘宜
(72)【発明者】
【氏名】竹村 兼一
【テーマコード(参考)】
4L033
4L036
【Fターム(参考)】
4L033AA02
4L033AB01
4L033AB03
4L033AC15
4L033CA03
4L033CA45
4L036MA08
4L036MA37
4L036PA21
4L036PA26
4L036RA15
4L036RA24
4L036UA07
(57)【要約】
【課題】撚糸を芯として熱可塑性樹脂を複合化させた複合フィラメントにおいて、破断強度の改善された材料を提供する。
【解決手段】本発明の複合フィラメント1Aの製造方法は、撚糸1を芯として熱可塑性樹脂を複合化させた複合フィラメントの製造方法であって、上記撚糸にナノファイバーの水系分散液を付着させる付着工程と、一対の回転体で挟み込んで撚糸の撚りを解すニップツイスター3を通過させることにより、撚糸1を一時的に解撚しその後撚り戻しする解再撚工程と、上記解再撚工程を経た撚糸1に熱可塑性樹脂を含浸させる含浸工程と、を備え、上記解再撚工程において撚糸1がニップツイスター3を通過するまでに上記付着工程が完了することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撚糸を芯として熱可塑性樹脂を複合化させた複合フィラメントの製造方法であって、
前記撚糸にナノファイバーの水系分散液を付着させる付着工程と、
一対の回転体で挟み込んで撚糸の撚りを解すニップツイスターを通過させることにより、前記撚糸を一時的に解撚しその後撚り戻しする解再撚工程と、
前記解再撚工程を経た前記撚糸に熱可塑性樹脂を含浸させる含浸工程と、を備え、前記解再撚工程において前記撚糸がニップツイスターを通過するまでに前記付着工程が完了することを特徴とする複合フィラメントの製造方法。
【請求項2】
前記解再撚工程と前記含浸工程との間に、前記撚糸に付着した水系分散液に含まれる液体を蒸発させる加熱工程を備えることを特徴とする請求項1記載の複合フィラメントの製造方法。
【請求項3】
前記水系分散液中のナノファイバーの濃度が、0.5~1.5質量%であることを特徴とする請求項1記載の複合フィラメントの製造方法。
【請求項4】
前記ナノファイバーがセルロースナノファイバーである請求項1記載の複合フィラメントの製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂がポリ乳酸である請求項1記載の複合フィラメントの製造方法。
【請求項6】
前記撚糸がラミー糸であることを特徴とする請求項1記載の複合フィラメントの製造方法。
【請求項7】
撚糸を芯として熱可塑性樹脂が複合した複合フィラメントであって、前記撚糸にナノファイバーが付着することを特徴とする複合フィラメント。
【請求項8】
前記ナノファイバーの毛羽立ちが前記撚糸の表面に形成することを特徴とする請求項7記載の複合フィラメント。
【請求項9】
前記ナノファイバーがセルロースナノファイバーである請求項7記載の複合フィラメント。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂がポリ乳酸であることを特徴とする請求項7記載の複合フィラメント。
【請求項11】
前記撚糸がラミー糸である請求項7記載の複合フィラメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合フィラメントの製造方法及び複合フィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やガラス繊維のような繊維状の材料と樹脂材料とを組み合わせた複合材料は、近年、自動車産業や宇宙航空分野等を初めとして幅広い分野で利用されている。例えば、炭素繊維とエポキシ樹脂とを複合させた材料は、高い強度を備え、航空機や自動車のボディを構成する用途への応用が進んでいる。こうした材料が、高い強度を備えるだけでなく、鋼板等のようなこれまで使われてきた構造材料よりも遙かに軽量であるという優れた特徴を備えることは周知の通りである。
【0003】
こうした複合材料は、一般には、炭素繊維等の繊維材料に樹脂材料を含浸させたプリプレグを調製し、そのプリプレグを所望する形状に成形した上でこれを硬化させる等の手法で形成される。また、一方向に束ねた炭素繊維に熱可塑性樹脂を含浸させたUDテープを調製しておき、これを所望の形状に成形して自動車部品等のような強度と軽量が求められる部材を製造することもよく行われている。
【0004】
上記のように、プリプレグやUDテープのようなバルク材料を成形して複合材料を形成させるのとは別に、内部に繊維を含んだ樹脂フィラメントを用いて3Dプリンタによる造形を行い、任意の形状の複合材料を形成させることも提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
ところで、化学繊維の分野では、化学繊維の熱可塑性を利用してナイロンやポリエステル等のフィラメントに嵩高性や伸縮性を付与することを目的として、こうしたフィラメントにクリンプ(捲縮)形態を与えるために仮撚加工が行われることがある。仮撚とは、フィラメントである糸に撚りを掛けた状態で加熱及び冷却して撚り変形をフィラメントに固定し、その後撚りを解除する加工である。この仮撚を行うに際しては、二つの回転体が互いに角度を持って対向したニップツイスターと呼ばれる装置に糸を挟み、その糸を走行させることで撚りを加える方法が採用される。こうしたニップツイスターの一例として特許文献2に記載されたものを挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2018/151074号
【特許文献2】特開平07-042036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような、繊維材料と樹脂材料とを組み合わせた複合材料では、繊維材料と樹脂材料との密着性が重要になる。これら両者が互いに密着していないと、複合材料に応力が加わった際に繊維材料と樹脂材料との間で剥離が生じて破断に至る等、十分な強度が得られないためである。
【0008】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであり、撚糸を芯として熱可塑性樹脂を複合化させた複合フィラメントにおいて、破断強度の改善された材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、以上の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、撚糸を芯として熱可塑性樹脂を複合化させた複合フィラメントを調製する際、撚糸にセルロースナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等のようなナノファイバーを付着した状態でニップツイスターを通過させ、その後この撚糸に熱可塑性樹脂を複合化させると、上記のような処理を行わずに単に撚糸に熱可塑性樹脂を複合化させたときよりも引張強さが大きくなることを見出した。既に述べたように、ニップツイスターは化学繊維の仮撚を行う目的で用いられるのが一般的だが、上記のように、撚糸の撚りを解す方向でニップツイスターを回転させてこれに撚糸を通過させると、ニップツイスターよりも上流側では一時的に撚糸の撚りが解れてそれを構成する繊維の一本一本が解けた状態を作ることができる。そして、撚糸は、ニップツイスターを通過した後、今度は元のように撚りが掛かった状態に戻る。上記のように撚糸が解けた状態のとき、これにナノファイバーが付着していると、付着したナノファイバーは、撚りが戻った際にそのナノファイバーが撚糸の内部にも分配されるとともに、撚糸の表面から毛羽立ったようにナノファイバーが立ち上がった状態になる。この状態で撚糸の表面に熱可塑性樹脂を付着させて複合化させると、上記のように引張強さが大きくなる。その原理は必ずしも明らかではないものの、撚糸の内部から外部へ無数に立ち上がったナノファイバーが熱可塑性樹脂に取り込まれて、接着剤におけるアンカー効果のようなものを発現している可能性がある。
【0010】
本発明は、以上の知見により完成されたものであり、以下のようなものを提供する。
【0011】
(1)本発明は、撚糸を芯として熱可塑性樹脂を複合化させた複合フィラメントの製造方法であって、上記撚糸にナノファイバーの水系分散液を付着させる付着工程と、一対の回転体で挟み込んで撚糸の撚りを解すニップツイスターを通過させることにより、上記撚糸を一時的に解撚しその後撚り戻しする解再撚工程と、上記解再撚工程を経た上記撚糸に熱可塑性樹脂を含浸させる含浸工程と、を備え、上記解再撚工程において上記撚糸がニップツイスターを通過するまでに上記付着工程が完了することを特徴とする複合フィラメントの製造方法である。
【0012】
(2)また本発明は、上記解再撚工程と上記含浸工程との間に、上記撚糸に付着した水系分散液に含まれる液体を蒸発させる加熱工程を備えることを特徴とする(1)項記載の複合フィラメントの製造方法である。
【0013】
(3)また本発明は、上記水系分散液中のナノファイバーの濃度が、0.5~1.5質量%であることを特徴とする(1)項又は(2)項記載の複合フィラメントの製造方法である。
【0014】
(4)また本発明は、上記ナノファイバーがセルロースナノファイバーである(1)項~(3)項のいずれか1項記載の複合フィラメントの製造方法である。
【0015】
(5)また本発明は、上記熱可塑性樹脂がポリ乳酸である(1)項~(4)項のいずれか1項記載の複合フィラメントの製造方法である。
【0016】
(6)また本発明は、上記撚糸がラミー糸であることを特徴とする(1)項~(5)項のいずれか1項記載の複合フィラメントの製造方法である。
【0017】
(7)本発明は、撚糸を芯として熱可塑性樹脂が複合した複合フィラメントであって、上記撚糸にナノファイバーが付着することを特徴とする複合フィラメントでもある。
【0018】
(8)また本発明は、上記ナノファイバーの毛羽立ちが上記撚糸の表面に形成することを特徴とする(7)項記載の複合フィラメントである。
【0019】
(9)また本発明は、上記ナノファイバーがセルロースナノファイバーである(7)項又は(8)項記載の複合フィラメントである。
【0020】
(10)また本発明は、上記熱可塑性樹脂がポリ乳酸であることを特徴とする(7)項~(9)項のいずれか1項記載の複合フィラメントである。
【0021】
(11)また本発明は、上記撚糸がラミー糸である(7)項~(10)項のいずれか1項記載の複合フィラメントである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、撚糸を芯として熱可塑性樹脂を複合化させた複合フィラメントにおいて、破断強度の改善された材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施態様を表す模式図である
【
図2】
図2は、本発明の第2実施態様を表す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の複合フィラメントを表す模式的に示す側面図であり、(a)は、芯となる撚糸1とナノファイバー11との付着状態を示す模式図であり、(b)は、複合フィラメント1Aを示す模式図である。
【
図4】
図4は、ニップツイスターにラミー糸を通過させる場合の、R/Y比を変化させたときの撚糸の解撚効果を表すプロットであり、横軸がR/Y比を表し、縦軸がニップツイスター通過後の撚糸の撚り角を表すものである。
【
図5】
図5は、R/Y比を0、9.4又は18.8に変化させたときの実施例1~3の複合フィラメント、比較例1のポリ乳酸フィラメント及び比較例3の複合フィラメントの引張強さを示すグラフである。
【
図6】
図6(a)は、CNF0.5質量%スラリーを用いたときの撚糸の表面を観察した電子顕微鏡写真であり、
図6(b)は、CNF2質量%スラリーを用いたときの撚糸の表面を観察した電子顕微鏡写真である。
【
図7】
図7は、R/Y比を0、9.4又は18.8に変化させたときの実施例4~6の複合フィラメント、比較例1のポリ乳酸フィラメント及び比較例4の複合フィラメントの引張強さを示すグラフである。
【
図8】
図8(a)は、比較例4の複合フィラメント引張破断した後の破面観察画像であり、
図8(b)は、実施例5の複合フィラメント引張破断した後の破面観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の複合フィラメントの製造方法の第1実施態様及び第2実施態様、並びに本発明の複合フィラメントの一実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0025】
<複合フィラメントの製造方法の第1実施態様>
まずは、本発明の複合フィラメントの製造方法の第1実施態様について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1実施態様を表す模式図である。
【0026】
本実施態様は、撚糸を芯として熱可塑性樹脂を複合化させた複合フィラメントの製造方法であって、(1)上記撚糸にナノファイバーの水系分散液を付着させる付着工程と、(2)一対の回転体で挟み込んで撚糸の撚りを解すニップツイスターを通過させることにより、上記撚糸を一時的に解撚しその後撚り戻しする解再撚工程と、(3)上記解再撚工程を経た上記撚糸に熱可塑性樹脂を含浸させる含浸工程と、を備え、これら(1)~(3)の各工程をこの順番通りに行うものである。なお、(1)の工程と(2)の工程との順序を変更し、(2)の工程の途中で(1)の工程を実行するのが後述する第2実施態様となる。以下、これらの工程について説明する。
【0027】
[付着工程]
付着工程は、複合フィラメントの芯となる撚糸に、ナノファイバーの水系分散液を付着させる工程である。
【0028】
撚糸1は、製糸された複数本の糸を撚ったものであり、市販のものを特に限定無く用いることができる。撚糸1を構成する糸としては、麻や綿等の植物性のものであってもよいし、生糸や羊毛等の動物性のものであってもよいし、ポリエステルやナイロン等の化学繊維であってもよい。また、本発明で用いられる撚糸としては、複数本の糸が撚られてなるものであればよく、糸の撚り方向、糸撚の強さ等は特に限定されない。このような撚糸としては、麻を原料としたラミー糸が好ましく例示できるが、特に限定されない。
【0029】
撚糸1は、1本の撚糸でもよいし、複数本の撚糸を組み合わせたものでもよい。撚糸の本数が増えることにより、複合フィラメント中における撚糸1と熱可塑性樹脂との間の接触面積が増加して、撚糸1による複合フィラメントの補強効果が高まるので好ましい。複合フィラメント中における撚糸1の体積含有率としては、2~60体積%程度を好ましく挙げることができる。
【0030】
撚糸1は、
図1の右方向から左方向へ向けて走行し、図示しない巻き出し装置及び張力調節装置を経て、ナノファイバー適用装置2へ導入される。ナノファイバー適用装置2は、撚糸1を導入する入口と撚糸1を排出する出口とを備え、
図1の右方向から左方向へ向けて撚糸1がその内部を通過する。
【0031】
ナノファイバー適用装置2の内部には、ナノファイバーを含んだ水系スラリーを溜めておくプール(図示せず)が設けられており、撚糸1は、このプールの中を通過する。このため、撚糸1がナノファイバー適用装置2の内部を通過する際に、撚糸1にはナノファイバーの水系分散液が付着する。
【0032】
ナノファイバーは、直径が1nmから100nm程度で、長さが直径の100倍以上の繊維状物質である。このようなナノファイバーとしては、特に限定されないが、セルロースナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等が好ましく挙げられ、セルロースナノファイバーがより好ましく挙げられる。
【0033】
ナノファイバーは、水系溶媒と混合されることで上記の水系スラリーとなる。このときの水系溶媒としては、水、アルコール、及びこれらの混合物等が好ましく挙げられ、水がより好ましく挙げられる。水系スラリーを調製するに際しては、ナノファイバーと水系溶媒とを混合し、さらにホモジナイザーのようなハイシェアミキサーを用いて均一に混合することを好ましく挙げられる。ホモジナイザーを用いて混合する際の条件としては、5000rpmの高速回転を5分間行うことを例示できる。
【0034】
水系スラリー中のナノファイバー濃度としては、0.5質量%~2質量%程度を好ましく挙げられる。ナノファイバー濃度が0.5質量%以上であることにより、撚糸1に十分な量のナノファイバーが付着し、複合フィラメントの強度を良好なものにすることができる。また、ナノファイバーの濃度が2質量%以下であることにより、撚糸1の表面におけるナノファイバーの自己組織化が抑制され、撚糸1の表面でのナノファイバーの毛羽立ちが多くなるので好ましい。なお、ナノファイバーが撚糸1の表面で自己組織化すると、ナノファイバーが平面的な集合体として撚糸1の表面に付着し、その箇所ではナノファイバーの毛羽立ちが殆ど無い状態になる。水系スラリー中のナノファイバーの濃度としては、0.5質量%~1.5質量%がより好ましく挙げられ、0.5質量%~1.0質量%がさらに好ましく挙げられる。
【0035】
ナノファイバー適用装置2の内部で付着工程を経た撚糸1は、解再撚工程に付される。
【0036】
[解再撚工程]
解再撚工程は、一対の回転体で挟み込んで撚糸1の撚りを解すニップツイスター3を通過させることにより、撚糸1を一時的に解撚しその後撚り戻しする工程である。
【0037】
ナノファイバー適用装置2を経た撚糸1は、ニップローラー5を経て、ニップツイスター3へ送られ、その後ニップローラー6へ至る。ニップツイスター3は、繊維業界で仮撚装置の一部として広く用いられているものと同等のものであり(一例として、特開平07-042036号公報を参照。)、二つの回転体31、32が互いに角度をもって対向配置され、これらの間には撚糸1が走行するための間隙が設けられている。そして、ニップツイスター3は、二つのニップロール5、6に挟まれて設けられる。撚糸1は、二つの回転体31,32の間隙を通過する際に、これらの回転体と接触しながら走行することになり、その際、撚りを解す方向のねじれを受ける。その結果、ニップローラー5とニップツイスター3との間の区間では、撚糸1には撚りが解れる方向のねじれがかかる。反対に、ニップツイスター3とニップローラー6との間の区間では、撚糸1には撚りを戻す方向のねじれがかかる。そのため、ニップローラー5とニップツイスター3との間の区間を解撚区間Aと呼び、ニップツイスター3とニップローラー6との間の区間を撚戻区間Bと呼ぶ。なお、材料として用いる撚糸1の撚り方向にはS撚り又はZ撚りの二通りが考えられるが、上記のような解撚区間Aと撚戻区間Bとを生じるように二つの回転体31、32の回転方向が決定される。
【0038】
ニップツイスター3を構成する二つの回転体31、32は、上記のように、互いに角度をもって対向配置される。ニップツイスター3の交差角θは、撚糸1の解撚前の撚り角や糸の送り速度(ライン速度)に対して決定され、撚糸1の解撚度合いを調整することができる。交差角θの一例として45°程度を挙げることができるが、特に限定されない。回転体31、32は、回転するプーリーによって回転駆動するベルトで構成されることが好ましい。
【0039】
回転体31、32の回転速度は、撚糸1の送り速度に応じて決定されることが好ましい。このような回転速度を決定するためのパラメータとして、R/Y比を挙げることができる。ここで、Yは、撚糸1の送り速度(mm/s)であり、Rは、回転体31、32の周速度についての、撚糸1の走行方向に対して垂直成分方向となる速度(mm/s)である。このR/Y比が9以上となるように回転体31、32の回転速度を決定することが好ましい。本発明者の検討により、R/Y比が増加するにつれてニップツイスター3による撚糸1の解撚効果が高まるが、その解撚効果はR/Y比が9~11付近で頭打ちとなり、それ以上R/Y比を大きくしても解撚効果は高くならないことが明らかになっている。そして、このようにR/Y比を設定して撚糸1の解撚効果を最大とすることで、撚糸1からのナノファイバーの毛羽立ちを大きくすることができ、複合フィラメントの機械的特性を最適化することができる。なお、R/Y比は、回転体31、32の回転速度を調整することで増減させることも可能であるし、回転体31、32の交差角θを調整することで増減させることも可能であるし、撚糸1の送り速度を調整することで増減させることも可能である。
【0040】
解撚区間Aを走行する撚糸1は、撚りが解れて緩んだ状態となっている。そのため、この区間を走行する撚糸1では、付着工程で撚糸1に付着させたナノファイバーが撚糸1の内部へ入り込み易い状態となっており、さらに撚糸1が走行してニップツイスター3に至ると、二つの回転体31、32による機械的な力を受けて、より一層上記ナノファイバーが撚糸1の内部へ入り込み易い状態となる。
【0041】
そして、撚糸1がニップツイスター3を通過して、撚戻区間Bを走行するようになると、撚りの緩んでいた撚糸1に再び撚りが加わるようになる。このとき、一部が撚糸1の内部に入り込んでいたナノファイバーは、撚糸1に撚りが掛かって締まることにより、毛羽立ちのように撚糸1の表面に突き出した状態になる。この毛羽立ちを生じるのが本発明のポイントである。このような毛羽立ちが、撚糸1と熱可塑性樹脂とを複合化した際に、接着剤のおけるアンカー効果のように撚糸1と熱可塑性樹脂との間の密着性を高めると考えられる。
【0042】
撚糸1が解撚区間A、ニップツイスター3及び撚戻区間Bを順に経ることにより、解再撚工程は完了する。解再撚工程を経た撚糸1は、乾燥工程に付される。
【0043】
[乾燥工程]
乾燥工程は、上記解再撚工程を経た撚糸1に付着した水系溶媒を蒸発させ、撚糸1を乾燥させる工程である。
【0044】
上記付着工程にて撚糸1にナノファイバーの水系分散液を付着させたため、解再撚工程を経た撚糸1は、水系溶媒により湿った状態となっている。撚糸1が湿っていると、後述する含浸工程にて撚糸1への熱可塑性樹脂の付着状態が悪くなることも考えられるため、必要に応じて本乾燥工程が設けられる。
【0045】
本工程において、撚糸1は、内部に遠赤外線ヒーターを備えた乾燥機7の内部を通過する。これにより、撚糸1に付着していた水系溶媒が蒸発して取り除かれる。なお、乾燥はヒーターによるものに限定されず、送風乾燥等の手段であってもよい。
【0046】
乾燥工程を経た撚糸1は、含浸工程に付される。
【0047】
[含浸工程]
含浸工程は、上記乾燥工程を経た撚糸1に熱可塑性樹脂を含浸させる工程である。
【0048】
上記乾燥工程を経て乾燥機7を通過した撚糸1は、樹脂適用装置4へ導入される。樹脂適用装置4は、撚糸1を導入する入口と撚糸1を排出する出口とを備え、
図1の右方向から左方向へ向けて撚糸1がその内部を通過する。
【0049】
樹脂適用装置4の内部には、溶融した熱可塑性樹脂の満たされた空間(図示せず)があり、撚糸1は、その空間を通過する際に熱可塑性樹脂の付着を受ける。樹脂適用装置4の出口には、所望とする複合フィラメントの形状に合った口金が設けられ、これを通過することで、撚糸1には、その周りに固化した熱可塑性樹脂が一体となって形成される。
【0050】
熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、ABS樹脂、ASA樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリエステル等が好ましく挙げられ、これらの中でもポリエステルがより好ましく挙げられ、ポリ乳酸がさらに好ましく挙げられる。
【0051】
以上の各工程を経ることで、撚糸1は、撚糸1を芯としてその周りに熱可塑性樹脂が一体となって形成された複合フィラメント1Aとなる。
【0052】
<複合フィラメントの製造方法の第2実施態様>
次に、本発明の複合フィラメントの製造方法の第2実施態様について図面を参照しながら説明する。
図2は、本発明の第2実施態様を表す模式図である。なお、以下の説明において、上記第1実施態様と同内容のものについては、同じ符号を付してその説明を省略する。
【0053】
上記第1実施態様の説明でも述べたように、本発明のポイントは、撚糸1の撚りが緩み又は解れたときにその表面にナノファイバーを存在させておき、このナノファイバーを撚糸1の内部へ入り込ませることにある。第1実施態様では、ニップローラー5を通過する前、すなわち解再撚工程の前に付着工程を実行していたが、上記の観点からは、解再撚工程において撚糸1が解撚区間Aに存在するときに付着工程を実行してもよいことになる。つまり、少なくとも解再撚工程において撚糸1がニップツイスター3を通過するまでに上記付着工程が完了していればよく、撚糸1にナノファイバーを付着させてから解撚してもよいし、撚糸1を解撚してからナノファイバーを付着させてもよいことになる。これらのうち、前者が第1実施態様であり、後者が第2実施態様となる。
【0054】
第2実施態様では、付着工程を実行するためのナノファイバー適用装置2Aがニップローラー5とニップツイスター3との間に設けられる。すなわち、ナノファイバー適用装置2Aが解撚区間Aに設けられることになるので、本実施態様では、解再撚工程の最中に付着工程が行われることになる。このような態様も本発明の範囲に含まれる。
【0055】
ナノファイバー適用装置2Aは、第1実施態様におけるナノファイバー適用装置2と同じものであり、その設置される位置がナノファイバー適用装置2と異なるだけである。その他の事項については、第2実施態様と第1実施態様との間で違いは無いので、ここでの説明を省略する。
【0056】
<複合フィラメント>
上記複合フィラメントの製造方法で製造される複合フィラメントも本発明の一つである。本発明の複合フィラメントは、撚糸を芯として熱可塑性樹脂が複合した複合フィラメントであって、上記撚糸にナノファイバーが付着することを特徴とする。本発明の複合フィラメントは、樹脂単独のフィラメントよりも引張強度が大きく、これを例えば3Dプリンタの造形材として適用すれば強度の高い立体造形物を得ることができる。
【0057】
既に説明したように、本発明の製造方法で調製された複合フィラメント1Aの芯となる撚糸1では、
図3(a)に示すように、その表面に無数のナノファイバー11が毛羽立つように付着している。そのため、
図3(b)に示すように、撚糸1を芯としてその周囲に熱可塑性樹脂12を複合させて複合フィラメント1Aとしたときに、ナノファイバー11が熱可塑性樹脂12の層の内部へ取り込まれることになる。その結果、撚糸1と熱可塑性樹脂12との間の接着性が高まり、複合フィラメント1Aに応力が加わったときに、撚糸1と熱可塑性樹脂12との間の剥離が生じにくくなって破断強度が増すと考えられる。
【0058】
既に述べたように、ナノファイバー11は、セルロースナノファイバーであることが好ましく、熱可塑性樹脂12は、ポリ乳酸であることが好ましい。これらのことについては、既に説明した通りであるので、ここでの説明を省略する。
【実施例0059】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0060】
[ニップツイスターによる撚糸の最適解撚条件の検討]
撚糸をS撚りのラミー糸(20/1番手、直径約0.3mm)とし、撚糸の走行速度を1.8mm/s~12.8mm/sに変化させつつ、ニップツイスター3の交差角θを45°としてその回転体の速度を変化させながらこれにラミー糸を通過させることで、上述のR/Y比を変化させたときの撚糸の解撚効果を調べた。その結果を
図4に示す。
図4は、ニップツイスターにラミー糸を通過させる場合の、R/Y比を変化させたときの撚糸の解撚効果を表すプロットであり、横軸がR/Y比を表し、縦軸がニップツイスター通過後の撚糸の撚り角を表すものである。
【0061】
図4に示すように、R/Y比を大きくするにつれて撚糸の撚り角が小さくなってその解撚が進むと確認される一方で、R/Y比が11.3となる付近で撚糸の撚り角の低下が頭打ちとなることがわかる。このことから、ニップツイスターにより撚糸を解撚させる際の条件として、R/Y比を10付近とすればよいことがわかった。
【0062】
[ナノファイバースラリーの調製]
株式会社スギノマシン製のセルロースナノファイバー(CNF)を蒸留水へ0.5質量%、1.0質量%又は2.0質量%の濃度になるように加え、ホモジナイザーを用いて5000rpmで5分間分散させた。
【0063】
撚糸をラミー糸(20/1番手、直径約0.3mm)としてこれを1本用い、ナノファイバー適用装置2に適用する液体として表1に示すものを用いて、
図1に示す装置により複合フィラメントを調製した。このとき、熱可塑性樹脂としてポリ乳酸を用い、複合フィラメントの断面が直径約2mmの真円となるように樹脂適用装置4の口金を選択した。なお、撚糸の走行速度を0.55cm/sとして、ニップツイスター3の交差角θを45°とし、回転体31、32は、解撚区間Aでラミー糸が解撚するねじれを生じさせる方向に回転させ、そのときの回転速度は40rpmとした。このとき、上述のR/Y比は9.4となる。また、回転体の回転数を0rpm又は80rpmに変化させることでR/Y比を0又は18.8として、同様の手順で複合フィラメントを調製した。さらに、撚糸を用いず、同じ太さのポリ乳酸フィラメントを調製し、これを比較例1とした。
【0064】
【0065】
実施例1~3及び比較例1~3の各フィラメントのそれぞれについて、引張強さを測定した。その結果を
図5に示す。
図5は、R/Y比を0、9.4又は18.8に変化させたときの実施例1~3の複合フィラメント、比較例1のポリ乳酸フィラメント及び比較例3の複合フィラメントの引張強さを示すグラフである。
図5に示すように、R/Y比が0から9.4に変化することで、CNF濃度が0.5質量%又は1.0質量%となる実施例1又は2の複合フィラメントにて性能向上が見られた。このことは、R/Y比が10付近でニップツイスターによる解撚効果が最大となることと一致する。また、R/Y比が9.4のときの各サンプルの引張強さの数値を表2に示す。なお、比較例1については撚糸を用いていないためニップツイスターによる処理は行っておらず、その意味では、このサンプルのみR/Y比は0となる。表2に示すように、撚糸にCNFを適用した実施例1~3の複合フィラメントでは、撚糸にCNFを適用しなかった比較例2及び3の複合フィラメントよりも引張強さが大きかった。また、スラリー中のCNF濃度が0.5質量%~1質量%である実施例1及び2の複合フィラメントは、スラリー中のCNF濃度が2質量%である実施例3の複合フィラメントよりも引張強さが大きかった。
【0066】
【0067】
また、CNFを適用し、ニップツイスター3を通過した後の撚糸1の状態を電子顕微鏡で観察した。撚糸をラミー糸(20/1番手、直径約0.3mm)とし、ナノファイバー適用装置2に適用する液体をCNF0.5質量%スラリー又はCNF2質量%スラリーとし、ニップツイスター3の交差角θを45°としその回転数を80rpmとして、解再撚工程終了後の撚糸1を回収し、これを電子顕微鏡で観察した。その結果を
図6に示す。
図6(a)は、CNF0.5質量%スラリーを用いたときの撚糸の表面を観察した電子顕微鏡写真であり、
図6(b)は、CNF2質量%スラリーを用いたときの撚糸の表面を観察した電子顕微鏡写真である。
【0068】
図6(a)に示すように、CNF0.5質量%スラリーを用いた撚糸ではCNFによる毛羽立ちが撚糸の表面で観察されたのに対して、
図6(b)に示すように、CNF2質量%スラリーを用いた撚糸ではCNFが撚糸の表面に自己組織化して平面的に付着する様子が観察され、CNFによる毛羽立ちが乏しかった。上記のように、CNF0.5質量%~1質量%スラリーを用いた実施例1及び2に比べて、CNF2質量%スラリーを用いた実施例3がやや劣る引張強さを示した理由は、こうした毛羽立ちによるアンカー効果が不足したためと推察される。
【0069】
次に、撚糸を3本とし、かつナノファイバー適用装置2に適用する液体として表3に示すものを用いたことを除いて、上記と同様の手順で実施例4~6及び比較例4の複合フィラメントを調製した。そして、実施例4~6及び比較例4の複合フィラメントのそれぞれについて、引張強さを測定した。その結果を
図7に示す。
図7は、R/Y比を0、9.4又は18.8に変化させたときの実施例4~6の複合フィラメント、比較例1のポリ乳酸フィラメント及び比較例4の複合フィラメントの引張強さを示すグラフである。
図7に示すように、R/Y比が0から9.4に変化することで実施例4~6の複合フィラメントにて性能向上が見られ、特にCNF濃度が0.5となる実施例5の複合フィラメントでは10%以上の性能向上が見られた。このことは、R/Y比が10付近でニップツイスターによる解撚効果が最大となることと一致する。また、R/Y比が9.4のときの各サンプルの引張強さの数値を表4に示す。表4に示すように、0.5質量%以上のCNFスラリーを適用した実施例5及び6の複合フィラメントでは、撚糸にCNFを適用しなかった比較例4の複合フィラメントよりも引張強さが大きく、その差は、1本の撚糸を用いた実施例1~3及び比較例3の複合フィラメントにおけるものよりも大きかった。
【0070】
【0071】
【0072】
撚糸を3本用いた複合フィラメントとなる実施例5(CNF0.5質量%スラリー使用)と比較例4(CNFスラリー不使用)のそれぞれについて、引張破断した後の破面観察を走査電子顕微鏡(SEM)により行った。その画像を
図8に示す。
図8(a)は、比較例4の複合フィラメント引張破断した後の破面観察画像であり、
図8(b)は、実施例5の複合フィラメント引張破断した後の破面観察画像である。CNFスラリーを適用した実施例5(
図8(b))では、これを適用しない比較例4(
図8(a))よりも撚糸と熱可塑性樹脂との間の隙間が少なく、撚糸と熱可塑性樹脂との間の界面接着性が高くなっていることがわかる。