(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035900
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】動的に構成されたサイドスリップ限界に基づく車両制御
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20230306BHJP
B60W 40/064 20120101ALI20230306BHJP
B60W 40/10 20120101ALI20230306BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W40/064
B60W40/10
B62D6/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022129361
(22)【出願日】2022-08-15
(31)【優先権主張番号】21194181.0
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】ヤンイェン・ガオ
(72)【発明者】
【氏名】レオン・ヘンダーソン
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー・ゴードン
【テーマコード(参考)】
3D232
3D241
【Fターム(参考)】
3D232CC20
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3D232DA24
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3D241DD12Z
(57)【要約】 (修正有)
【課題】安全で、効率的で、頑健な(ロバストな)方法で車両制御を容易にする制御ユニット及び方法を提供する。
【解決手段】大型車両(100)の運動を制御するために車両制御ユニット(130,140)で実施されるコンピュータ実装式方法は、目標曲率(c
req)及び目標加速度(a
req)を示す車両運動要求を取得すること、車両運動要求に基づいて、MSD(運動サポートデバイス)制御割り当て(T
i/λ
i/ω
i/δ
i)を決定すること、車両運動要求に基づいて、目標加速度(a
req)の減少に応じて増加する動的車輪スリップ角度限界(α
lim)を決定すること、及び、動的車輪スリップ角度限界(α
lim)によって制限されたMSD制御割り当てに基づいて、大型車両(100)の運動を制御すること、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型車両(100)の運動を制御するために車両制御ユニット(130,140)で実施されるコンピュータ実装式方法であって、
目標曲率(creq)及び目標加速度(areq)を示す車両運動要求を取得すること(S1)、
前記車両運動要求に基づいて、MSD(motion support device:運動サポートデバイス)制御割り当て(Ti/λi/ωi/δi)を決定すること(S2)、
前記車両運動要求に基づいて、前記車両の少なくとも1つの車輪について、目標加速度(areq)の減少に応じて増加する動的車輪スリップ角度限界(αlim)を決定すること(S3)、及び、
前記動的車輪スリップ角度限界(αlim)によって制限された前記MSD制御割り当てに基づいて、前記大型車両(100)の運動を制御すること(S4)、
を含む、コンピュータ実装式方法。
【請求項2】
運転者入力から、及び/又は、自律的又は半自律的TSM(traffic situation management:トラフィック状況管理)機能(270)から、前記車両運動要求を取得すること(S11)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
B行列制御割り当て法に基づいて、前記MSD制御割り当て(Ti/λi/ωi/δi)を決定すること(S21)を含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記MSD制御割り当てを、少なくとも部分的に目標車輪トルク(Ti)として決定すること(S22)を含む、請求項1~請求項3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記MSD制御割り当てを、少なくとも部分的に目標縦車輪スリップ(λi)又は地面に対する車輪速度(ωi)として決定すること(S23)を含む、請求項1~請求項4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記MSD制御割り当てを、少なくとも部分的に目標操舵角度(δi)として決定すること(S24)を含む、請求項1~請求項5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記車両運動要求に起因する縦車輪スリップを予測すること、及び、前記予測された縦車輪スリップに基づいて前記動的車輪スリップ角度限界(αlim)を決定すること(S31)を含む、請求項1~請求項6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記車両運動要求に基づいて発生される、要求される縦力(Fx)を予測すること、及び、前記予測された要求される縦力(Fx)に基づいて前記動的車輪スリップ角度限界(αlim)を決定すること(S32)を含む、請求項1~請求項7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記動的車輪スリップ角度限界(αlim)及び車両状態に基づいて動的操舵角度限界(δlim)を決定すること(S33)を含む、請求項1~請求項8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
前記動的車輪スリップ角度限界(α
lim)及び車両状態に基づいて動的操舵角速度限界
【数1】
を決定すること(S34)を含む、請求項1~請求項9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
MHA(modified Hamiltonian algorithm:修正ハミルトニアンアルゴリズム)を実行すること(S35)によって、前記動的車輪スリップ角度限界(αlim)を決定することを含む、請求項1~請求項10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
前記MHAは、1つ又は複数の車輪においてローカルハミルトニアン関数を最小化すること(S36)を含み、各最小化は、タイヤ力曲線の線形探索を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記動的車輪スリップ角度限界(αlim)を横車輪力能力及び縦車輪力能力の関数として決定すること(S37)を含む、請求項1~請求項12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
前記関数は、発生される横力の増加に対応する、発生される縦力の予測される減少における所定の限界に基づく、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記車両(100)の最大許容可能ヨーモーメント(Mz)を含む安定条件に基づいて、動的縦車輪スリップ限界(λlim/ωlim)を決定すること(S38)を含む、請求項1~請求項14のいずれか1つに記載の方法。
【請求項16】
現在の操舵ホイール角度が、前記動的車輪スリップ角度限界(αlim)を超えるサイドスリップ角度を発生する場合、車両操舵ホイールに対してトルクオーバーレイをトリガーすること(S41)を含む、請求項1~請求項15のいずれか1つに記載の方法。
【請求項17】
現在の操舵ホイール角度が、前記動的車輪スリップ角度限界(αlim)を超えるサイドスリップ角度を発生する場合、前記車両(100)の運転者に通知する警告信号をトリガーすること(S42)を含む、請求項1~請求項16のいずれか1つに記載の方法。
【請求項18】
コンピュータプログラム(1220)であって、前記プログラムが制御ユニット(130,140)の処理回路部(1110)上又はコンピュータ上で実行されると、請求項1~請求項17のいずれか1つに記載のステップを実施するプログラムコード手段を含む、コンピュータプログラム(1220)。
【請求項19】
コンピュータプログラム(1220)を保持するコンピュータ可読媒体(1210)であって、前記プログラム製品が制御ユニット(130,140)の処理回路部(1110)上又はコンピュータ上で実行されると、請求項1~請求項17のいずれか1つに記載のステップを実施するプログラムコード手段を含む、コンピュータ可読媒体(1210)。
【請求項20】
制御ユニット(130,140)であって、
処理回路部(1110)と、
前記処理回路部(1110)に結合されたインターフェース(1130)と、
前記処理回路部(1110)に結合されたメモリ(1130)と、
を含み、
前記メモリは、機械可読コンピュータプログラム命令を含み、
前記機械可読コンピュータプログラム命令は、前記処理回路部によって実行されると、
目標曲率(creq)及び目標加速度(areq)を示す車両運動要求を取得する(S1)操作と、
前記車両運動要求に基づいて、MSD(motion support device:運動サポートデバイス)制御割り当て(Ti/λi/ωi/δi)を決定する(S2)操作と、
前記車両運動要求に基づいて、目標加速度(areq)の減少に応じて増加する動的車輪スリップ角度限界(αlim)を決定する(S3)操作と、
前記動的車輪スリップ角度限界(αlim)によって制限された前記MSD制御割り当てに基づいて、前記大型車両(100)の運動を制御する(S4)操作と、
を前記制御ユニットに実施させる、
制御ユニット(130,140)。
【請求項21】
請求項20に記載の制御ユニット(130,140)を備える、大型車両(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、大型車両のための車両運動管理、すなわち、サービスブレーキ、推進デバイス、及びパワーステアリング等の運動サポートデバイスの協調制御に関する。本発明は、掘削機(excavators)及び輸送車(haulers)等の建設機械やトラック及びバス等の大型車両(ヘビーデューティ車両)において適用され得る。本発明は、半トレーラー車両及びトラック等の貨物輸送車両に関して主に説明されるが、本発明は、この特定のタイプの車両に限定されるのではなく、自動車等の他のタイプの車両において使用されることもできる。
【背景技術】
【0002】
車両は、機械工学、空気力学、流体力学、電子工学、及びソフトウェアの観点からますます複雑になっている。最新の大型車両は、燃焼機関、電気機械、摩擦ブレーキ、回生ブレーキ、ショックアブソーバー、空気ベローズ、及びパワー操舵ポンプ等の広い範囲の異なる物理デバイスを備えることができる。これらの物理デバイスは、運動サポートデバイス(MSD:Motion Support device)として一般に知られている。MSDは、例えば、摩擦ブレーキが、1つの車輪に適用され得(すなわち、負トルク)、一方、車両上の、おそらくは更に同じ車輪車軸上の別の車輪が、電気機械によって正トルクを発生するために同時に使用されるように、個々に制御可能であり得る。
【0003】
例えば、中央車両制御ユニット(VCU:vehicle control unit)上で実施される、又は、電子制御ユニット(ECU:electronic control unit)のネットワークを通じて配信される、最近提案された車両運動及びパワー管理(VMPM:vehicle motion and power management)ファンクショナリティは、車両安定性、費用効率性、及び安全性を同時に維持しながら、所望の運動効果を取得するため車両を操作するためにMSDの組み合わせに依存する。国際公開第2019/072379号は、1つのそのような例を開示し、車輪ブレーキは、大型車両による旋回操作を支援するために選択的に使用される。VMPM制御は、VMPMからMSD制御ユニットに送信される車輪速度要求又は車輪スリップ要求に有利に基づくことができ、MSD制御ユニットは、要求された車輪スリップ又は車輪速度値にできる限り近い車輪挙動を維持することを目指した低遅延-高帯域幅制御ループによって種々のMSDを制御する。VMPM制御は、VMPMからMSD制御ユニットに送信されるより多くの従来のトルクベース要求を含むこともできる。
【0004】
国際公開第2021/144065号もまた、車輪スリップを制限するために配置された車両運動管理システムを開示する。
【0005】
少なくとも部分的に、これらの高度運動管理機能に内在する複雑さによって、更なる安全機構が、しばしば所望される。例えば、これらの高度運動管理機能が不注意に過剰の車輪スリップをもたらすことを防止することができる方法及び制御アーキテクチャについての必要性が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
安全で、効率的で、頑健な(ロバストな)方法で車両制御を容易にする制御ユニット及び方法を提供することが本開示の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、大型車両の運動を制御するために車両制御ユニットにて実施されるコンピュータ実装式方法によって少なくとも部分的に達成される。方法は、車両運動要求を取得することを含み、車両運動要求は、目標曲率及び目標加速度を示す。方法は、車両運動要求に基づいて運動サポートデバイス(MSD)制御割り当て(control allocation)を決定すること、及び、車両運動要求に基づいて車両の少なくとも1つの車輪について動的車輪スリップ角度限界を決定することを含み、動的車輪スリップ角度限界は、目標加速度が減少するほど増加し(目標加速度の減少に応じて増加し)、方法は、動的車輪スリップ角度限界によって制限されたMSD制御割り当てに基づいて、大型車両の運動を制御することも更に含む。
【0008】
こうして、MSD制御割り当ては、結果として得られる車輪挙動が、動的に設定(構成)された車輪スリップ限界内にある限り、車両制御スタック内のより高次の層からの車両運動要求を満たすために自由に決定され得、そのことは、MSD割り当てに関わる、要求される計算を大幅に簡略化する。例えば、MSD制御割り当ては、車輪スリップと車輪力との間の線形関係の仮定の下で決定され得、そのことは、非線形効果が割り当てにおいて考慮される必要がないため、計算を簡略化する。車輪挙動が、課されたスリップ限界を超えて外れるとすぐに、動的縦車輪スリップ限界によって表現される制御介入機能がトリガーされ、例えば、車輪力対車輪スリップの線形関係を維持するために、車輪制御を担う。動的縦車輪スリップ限界が、目標曲率の減少に応じて増加すること(目標曲率の減少と共に増加すること)は利点である。その理由は、こうして、全体の制御の自由が、例えば、固定された動的スリップ限界が、曲率を考慮するために大きいマージンを伴って設定される場合、又は、動的スリップ限界が、道路摩擦条件に応じて設定されるが、所望の車両運動を考慮しない場合と比較して増加するからである。その結果、車輪スリップ限界によって示唆される安全マージンは、本明細書で開示する技法によって減少する可能性があり、そのことは利点である。例えば、真っ直ぐな道路上での急ブレーキは、ここでは、より高いスリップ限界を伴って実施され得、より大きい縦力が利用可能になることを意味する。その理由は、曲率要求が、この場合、小さくなるからである。
【0009】
本明細書で開示する方法は、横(lateral)と縦(longitudinal)の両方の車輪スリップ限界の動的構成(動的設定)のために適用可能である。興味深いことには、以下で示すように、両者は、互いに対してトレードオフされ得る。本明細書で開示する方法は、横車輪スリップに対する要件に対して縦車輪スリップに対する要件をバランスさせるために使用され得る。
【0010】
態様によれば、車両運動要求は、運転者入力から及び/又は自律的又は半自律的トラフィック状況管理(TSM:traffic situation management)機能から取得される。そのため、方法は、自律的、半自律的、及び手動の両方の運転アプリケーションについて利点を伴って適用可能である。
【0011】
態様によれば、方法は、B行列制御割り当て法に基づいて、MSD制御割り当てを決定することを含む。B行列制御割り当て法は、よく知られており、大型車両の制御において一般に適用される。本明細書で開示する技法が、これらのタイプの制御法と組み合わせ可能であることは利点である。
【0012】
態様によれば、方法は、MSD制御割り当てを、少なくとも部分的に、目標車輪トルクとして及び/又は目標縦車輪スリップ又は地面に対する車輪速度として決定することを含む。そのため、本明細書で開示する技法が、アプリケーションが汎用的であり、広い範囲の異なるアプリケーションのために適合され得ることが理解される。方法は、MSD制御割り当てを、少なくとも部分的に目標操舵角度として決定することを含むこともできる。
【0013】
態様によれば、方法は、車両運動要求に起因する縦車輪スリップを予測すること、及び、予測された縦車輪スリップに基づいて動的車輪スリップ角度限界を決定することを含む。そのため、有利には、車輪スリップ角度限界は、予想される縦車輪スリップに従って決定され、車両スリップ全体が所望の範囲内にとどまることを意味する。方法は、車両運動要求に基づいて発生される、要求される縦力を予測すること、及び、予測された要求される縦力に基づいて動的車輪スリップ角度限界を決定することを含むこともできる。縦車輪スリップと同様に、要求される縦力は、動的車輪スリップ角度限界を決定するときに考慮され得る。
【0014】
方法は、動的車輪スリップ角度限界及び車両状態に基づいて動的操舵角度限界を決定すること、及び、動的車輪スリップ角度限界及び車両状態に基づいて動的操舵角速度限界を決定することも更に含むことができる。
【0015】
好ましい実装形態によれば、方法は、修正ハミルトニアンアルゴリズム(MHA:modified Hamiltonian algorithm)を実行することによって、動的車輪スリップ角度限界を決定することを含む。このハミルトニアンアルゴリズムの詳細は、以下でより詳細に論じられる。MHAは、例えば、1つ又は複数の車輪においてローカルハミルトニアン関数を最小化することを含むことができ、各最小化は、タイヤ力曲線の線形探索を含む。
【0016】
方法は、動的車輪スリップ角度限界を横車輪力能力及び縦車輪力能力の関数として決定することを更に含むことができる。そのため、スリップ限界は、能力を超えないことを保証して、能力に応じて設定され、そのことは、もちろん、望ましくないことになる。横車輪力能力及び縦車輪力能力の関数は、例えば、発生される横力の増加に対応する、発生される縦力の予測される減少における所定の限界に基づくことができる。
【0017】
方法は、車両の最大許容可能ヨーモーメントを含む安定条件に基づいて、動的縦車輪スリップ限界を決定することを更に含むことができる。そのため、有利には、本明細書で提示される方法は、車両が過剰のヨーモーメントを経験しないことを保証するために使用され得、そのことは利点である。
【0018】
方法は、現在の操舵ホイール角度が、動的車輪スリップ角度限界を超えるサイドスリップ角度を発生する場合、車両操舵ホイールに対してトルクオーバーレイ(torque overlay)をトリガーすることを含むこともできる。そのため、運転者は、望ましくない操舵操作に即座に気づき、そのことは利点である。同様に、現在の操舵ホイール角度が、動的車輪スリップ角度限界を超えるサイドスリップ角度を発生する場合、車両の運転者に通知する警告信号がトリガーされ得る。
【0019】
上記で論じた利点に関連するコンピュータプログラム、コンピュータ可読媒体、コンピュータプログラム製品、及び車両も本明細書で開示される。
【0020】
一般に、特許請求の範囲で使用される全ての用語は、本明細書で別段に明示的に規定されない限り、技術分野においてそれらの通常の意味に従って解釈される。「1つの/その要素、装置、コンポーネント、手段、ステップ等」に対する全ての参照は、別段に明示的に述べられない限り、要素、装置、コンポーネント、手段、ステップ等の少なくとも1つのインスタンスを参照するものとして非限定的に解釈される。本明細書で開示される任意の方法のステップは、明示的に述べられない限り、開示される厳密な順序で実施される必要はない。本発明の更なる特徴及び本発明に関する利点は、添付の特許請求の範囲及び以下の説明を調査すると明らかになる。本発明の異なる特徴が組み合わされて、本発明の範囲から逸脱することなく、以下で説明する実施形態以外の実施形態を作ることができることを当業者は認識する。
【0021】
添付図面を参照して、例として挙げる本発明の実施形態のより詳細な説明が以下に続く。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】運動サポートデバイス配置構成を概略的に示す図である。
【
図3】縦車輪スリップの関数としてのタイヤ力を示すグラフである。
【
図4】車両制御機能アーキテクチャを示す図である。
【
図5】車両制御機能アーキテクチャを示す図である。
【
図6】スリップ角度の関数としての車輪横力を示すグラフである。
【
図7】縦タイヤ力と横タイヤ力との相互作用(インタラクション)を概略的に示す図である。
【
図8】車輪スリップ角度の関数としての例の横タイヤ力を示すグラフである。
【
図9】車輪スリップ角度の関数としての例の横タイヤ力を示すグラフである。
【
図10】車輪スリップ角度の関数としての横及び縦車輪力を示す図である。
【
図11】異なるサイドスリップ角度についての車輪力を例示するグラフである。
【
図12】異なるスリップ角度についての車輪力を例示するグラフである。
【
図13】ハミルトニアンベースの制御法の例を示す図である。
【
図16】例のコンピュータプログラム製品を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、ここで、本発明の特定の態様が示される添付図面を参照して以降でより完全に説明される。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で具現化され得、本明細書で述べる実施形態及び態様に限定されるものと解釈されるべきでない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が、徹底的であり完全であるように、また、本発明の範囲を当業者に完全に伝えるように例によって提供される。同様の数字は、説明全体を通して同様の要素を指す。
【0024】
本発明が、本明細書で説明され、図面において示される実施形態に限定されないことが理解される。むしろ、多くの変更及び修正が、添付特許請求の範囲内で行われ得ることを当業者は認識するであろう。
【0025】
図1は、本明細書で開示される技法が利点を伴って適用され得る貨物輸送のための例の車両100を示す。車両100は、前車輪150及び後車輪160で支持されたトラクター又はけん引車両110を備え、これらの車輪のうちの少なくとも一部は被駆動車輪であり、これらの車輪のうちの少なくとも一部は被操舵車輪である。必ずではないが通常、トラクターの全ての車輪は被制動車輪である。トラクター110は、知られている方法で、第五輪連結(フィフスホイール連結)によって、トレーラー車輪170に支持された第1のトレーラーユニット120をけん引するように構成される。トレーラー車輪は、通常、被制動車輪であるが、1つ又は複数の車軸で被駆動車輪を備えることもできる。一部のトレーラーは、操縦性を改善するために被操作車輪も備える。
【0026】
本明細書で開示される方法及び制御ユニットが、引っ張り棒接続を有するトラック、建設機械、バス、及び同様なもの等の他のタイプの大型車両(ヘビーデューティ車両)においても、利点を伴って適用され得ることが理解される。車両100は、3つ以上の車両ユニットを備えることもでき、すなわち、ドーリー車両ユニットが、2つ以上のトレーラーをけん引するために使用され得る。
【0027】
トラクター110は、種々の種類の機能を制御するための、すなわち、推進(駆動)、制動(ブレーキング)、及び操舵(ステアリング)を達成するための、車両制御ユニット(VCU:vehicle control unit)130を備える。或るトレーラーユニット120も、トレーラー車輪の制動、並びに時として、トレーラー車輪推進及び操舵等のトレーラーの種々の機能を制御するVCU140を備える。VCU130,140は、電子制御ユニット(ECU:electronic control unit)としばしば呼ばれる幾つかの処理回路にわたって分散化されるか又は集中化され得る。車両制御機能の一部は、遠隔で、例えば、無線リンク180及び無線アクセスネットワーク185を介して車両100に接続されたリモートサーバ190上で実行されることもできる。
【0028】
トラクター110上のVCU130(及びおそらくは、トレーラー120上のVCU140)は、階層化機能アーキテクチャに従って編成される車両制御法を実行するように構成され得、階層化機能アーキテクチャにおいて、或るファンクショナリティは、より高次の層内のトラフィック状況管理(TSM:traffic situation management)ドメイン内に含まれ得、一部の他の機能は、より低次の機能層に存在する車両運動管理(VMM:vehicle motion management)ドメイン内に含まれ得る。車両パワー管理も扱うVMM機能は、本明細書で、車両運動及びパワー管理(VMPM:vehicle motion and power management)機能と呼ばれることになる。VMM機能が、一般性を失うことなく、独立型機能として又はVMPM機能の一部として働くことができることが理解される。
【0029】
図2は、ここでは摩擦ブレーキ220(ディスクブレーキ又はドラムブレーキ等)、推進デバイス250、及び操舵装置(ステアリング装置)295を備える幾つかの例のMSDによって、車両100上の車輪210を制御する機能200を概略的に示す。摩擦ブレーキ220及び推進デバイスは車輪トルク発生デバイスの例であり、車輪トルク発生デバイスは、1つ又は複数の運動サポートデバイス制御ユニット230によって制御され得る。制御は、例えば、車輪速度センサ240から、及び、レーダー(radar)センサ、ライダー(lidar)センサ等の他の車両状態センサ280から、及び同様に、カメラセンサ及び赤外線検出器等のビジョンベースセンサ(視覚ベースセンサ)から取得される測定データに基づく。MSD制御ユニット230は、1つ又は複数のアクチュエータを制御するために配置され得る。例えば、MSD制御ユニット230が車軸上の両方の車輪を制御するために配置されることは珍しいことではない。
【0030】
機能200は、パワー操舵装置(パワーステアリング装置)295による操舵角度(ステアリング角度)の制御を含む。MSD制御ユニット230は、現在の操舵角度に関連する情報を、操舵角度センサ290から直接、又は、MSD制御ユニット230によって発生する操舵角度制御入力の関数としての操舵角度のモデルを介して間接的に受信する。MSD制御ユニット230による操舵の制御は、操舵角度δの直接制御であるか、又は、何らかの他の操舵角度制御ユニット又は装置に課される操舵角度限界によるものとすることができる。
【0031】
TSM機能270は、10秒くらいの時間範囲(計画対象期間)を有する運転操作を計画する。この時間枠(期間)は、例えば、車両100がカーブ又は同様なものをうまく曲がるのにかかる時間に対応する。TSMによって計画され実行される車両操縦は、所与の操縦について維持される、車両前方向における所望の目標車両速度及び旋回を記述する加速度プロファイル及び曲率プロファイルに関連付けられ得る。TSMは、VMPM機能260から所望の加速度プロファイルareq及び曲率プロファイルcreqを連続して要求し、VMPM機能260は、TSMからの要求を満たすために、力割り当てを安全かつ頑健な方法で実施する。VMPM機能260は、車両の現在の能力を、例えば、発生され得る力、最大速度、及び加速度に関して詳述するTSM機能に対して、能力情報を連続してフィードバックする。VMPM機能は、1秒くらいより短いタイムスケール(期間)で働き、以下でより詳細に論じられる。
【0032】
加速度プロファイルareq及び曲率プロファイルcreqは、操舵ホイール(ステアリングホイール:ハンドル)、アクセルペダル、及びブレーキペダル等の通常制御入力デバイスを介して大型車両の運転者から取得されることもできる。所望の曲率は、その時、操舵ホイール入力の関数であり、一方、所望の加速度は、アクセル及びブレーキペダル入力の関数である。前記加速度プロファイル及び曲率プロファイルの情報源は、本開示の範囲内ではなく、従って、本明細書でより詳細に論じられない。
【0033】
車輪210は、縦速度成分vx及び横速度成分vyを有する。縦車輪力Fx及び横車輪力Fyが存在する。別段に明示的に述べられない限り、車輪力は車輪の座標系において規定され、すなわち、縦力は車輪の転動面内で方向付けられ、一方、横車輪力は車輪の転動面に垂直に方向付けられる。車輪は、回転速度ωx及び半径Rを有する。
【0034】
縦車輪スリップλ
xは、SAE J670(SAE Vehicle Dynamics Standards Committee January 24, 2008)に従って、
【数1】
として規定され得、ここで、Rはメートル単位の有効車輪半径であり、ω
xは車輪の角速度であり、ν
xは車輪の縦速度である(車輪の座標系において)。そのため、λ
xは、-1と1との間で境界付けられ、道路表面に対して車輪がどれだけスリップしているかを定量化する。車輪スリップは、本質的に、車輪と車両との間で測定される速度差である。そのため、本明細書で開示される技法は、任意のタイプの車輪スリップ規定と共に使用するために適合され得る。車輪の座標系において、車輪スリップ値が、表面にわたる車輪の速度を考慮して車輪速度値と同等であることも理解される。
【0035】
VMPM260及び任意選択で同様にMSD制御ユニット230は、(車輪の基準座標系での)νxに関する情報を維持し、一方、車輪速度センサ240又は同様なものはωx(車輪の回転速度)を決定するために使用され得る。
【0036】
車輪(又はタイヤ)が車輪力を生成するために、スリップが起こらなければならない。より小さいスリップ値の場合、スリップと発生する力との間の関係は、ほぼ線形であり、比例定数は、タイヤのスリップ剛性としてしばしば示される。タイヤ210は、縦力(longitudinal force)Fx、横力(lateral force)Fy、及び法線力(normal force)Fzを受ける。法線力Fzは、幾つかの重要な車両特性を決定することに対するキーである。例えば、法線力は、大方の場合、車輪による達成可能な横タイヤ力Fyを決定する。その理由は、通常、Fx≦μFzであるからであり、ここで、μは道路摩擦条件に関連する摩擦係数である。所与の横スリップについての最大利用可能横力は、「Tyre and vehicle dynamics」, Elsevier Ltd. 2012, ISBN 978-0-08-097016-5, by Hans Pacejkaに記載される、いわゆるマジックフォーミュラ(Magic Formula)によって説明され得る。
【0037】
図3は、縦車輪スリップの関数としての達成可能タイヤ力の例300を示すグラフである。縦タイヤ力F
xは、小さい車輪スリップについてのほぼ線形に増加する部分310と、それに続く、より大きい車輪スリップについてのより非線形な挙動を有する部分320を示す。取得可能な横タイヤ力F
yは、比較的小さい縦車輪スリップにおいてさえも、急速に減少する。車両操作を線形領域310内に維持することが望ましく、そこでは、適用されるブレーキコマンドに応答する取得可能な縦力を予測するのがより容易であり、また、十分な横タイヤ力が必要に応じて発生され得る。この領域での操作を保証するために、例えば0.1のオーダーの車輪スリップ限界λ
limが、所与の車輪に課され得る。例えば0.1を超えるより大きい車輪スリップの場合、より非線形の領域320が見られる。この領域における車両の制御は、難しい場合があり、従って、しばしば回避される。その車両の制御は、けん引制御のためのより大きいスリップ限界が好ましい、オフロード条件及び同様な条件におけるけん引について関心を引くが、オンロード操作については関心を引かない。
【0038】
車両が、非線形領域320に入り込まず、例えば、コーナリング操縦を実施するのに十分な横力を発生することができることを保証するために、安全マージンがスリップ限界と共にしばしば使用される。この安全マージンは、もちろん、スリップ限界を減少させ、そのことは、次に、車両の力発生能力が減少することを意味する。この安全マージンをできる限り小さく保つことが望ましい。
【0039】
本明細書で、車輪スリップ角度又はサイドスリップ角度αは、車輪が目指す方向と車輪が実際に走行する方向との間の角度を示す。このスリップ角度は、力、コーナリング力をもたらし、それは、コンタクトパッチ(接触面)の平面内にあり、コンタクトパッチと車輪の中央平面との交差部に垂直である。コーナリング力は、スリップ角度の最初の数度についてほぼ線形に増加し、その後、減少し始める前に、最大値まで非線形に増加する。
【0040】
スリップ角度αは
【数2】
として規定される。本明細書で説明する技法の一部は、ほとんどの車両操縦について及びほとんどの車両状態について、車両操縦能力がそれを超えると低下するスリップ角度αが存在する、すなわち、更なるスリップ角度増加が、より悪い車両操縦性につながるだけであることになる「大きければ大きいほどより悪い(more is worse)」という認識に依存する。車両100の或る車輪の現在のサイドスリップ角度が限界値に近づくと、操舵角度を更に増加させることはもはや意味がない。その理由は、サイドスリップが、その後大きくなり過ぎるからである。以下で論じるように、大き過ぎるサイドスリップ角度は、縦力を発生する能力の喪失をしばしばもたらす。同様に、小さい縦車輪スリップにおいて、大き過ぎるサイドスリップ角度は、タイヤによる発生した横力の減少を更に示唆する場合がある。本明細書で開示する技法は、一方向における現在のスリップ条件が、他の方向においてスリップ限界を課すという認識に基づく。そのため、車両が、大きい縦力を発生する必要がある場合、相応して、大きい縦車輪スリップが必要とされ、そのことが、車両が操縦中に有することができる許容可能なサイドスリップ角度に限界を課すことを必要とするであろう。一方、縦車輪スリップをサポートすることに対する要件が小さい場合、より大きいサイドスリップ角度が許容され得る。
【0041】
本開示のキー概念は、車両の現在の状態に基づいて、及び、車両による所望の運動に基づいて、すなわち、より高次の層の制御機能からの運動要求に基づいて、操舵角度、又は同様に、操舵角速度(操舵角度レート)について限界を設定することである。
【0042】
本明細書で説明する幾つかの他の技法は、一部の操縦について、大きい横力が、コーナリング中等に発生され得ることが必要不可欠であるという認識に依存する。しかしながら、TSM機能が、関連する曲率要求なしで、真っ直ぐな道路上での急ブレーキを要求する場合、実質的な量の横力は要求されないことになる。これは、現在のスリップ限界λlimがTSM層からの要求に応じて決定されるように、縦車輪スリップ限界(longitudinal wheel slip limit)を動的な方式で構成(設定)することも有利とすることができることを意味する。こうして、縦スリップ限界は、目標曲率の減少に応じて増加し、目標曲率の増加に応じて減少するように構成(設定)され得(減少する目標曲率と共に増加し、増加する目標曲率と共に減少するように構成(設定)され得)、従って、より大きい縦車輪力が操縦中に発生されることを可能にし、そのことは、かなりの横車輪力を必要としない。これは、旋回操縦に入る車両が、大きい横力が必要とされない真っ直ぐな道路上を運転する車両と比較して、必要とされる横力を発生するために構成(設定)されるより低いスリップ限界を有することになることを意味する。
【0043】
図3に示すタイヤモデル300のタイプは、或る車輪において所望のタイヤ力を発生するためにVMPM260によって使用され得る。所望のタイヤ力に対応するトルクを要求する代わりに、VMPMは、所望のタイヤ力を同等の車輪スリップ(又は、同様に、対地速度に対する車輪速度)に変換し、代わりにこのスリップを要求することができる。主要な利点は、MSD制御デバイス230が、例えば、車輪速度センサ240から取得された、車両速度ν
x及び車輪回転速度ω
xを使用して、操作を所望の車輪スリップに維持することによって、ずっと広い帯域幅を有する要求されたトルクを送出することができることになるということである。車両速度ν
xは、全地球測位システム(GPS:global positioning system)受信機及び同様なものと組み合わせて、レーダー、ライダー、及びビジョンベースセンサ等の種々の車両センサから取得され得る。
【0044】
制御ユニット130,140は、所定のインバースタイヤモデル(所定の逆タイヤモデル)f-1を、例えばルックアップテーブルとしてメモリに記憶するために配置され得る。インバースタイヤモデルは、車輪210の現在の操作条件の関数としてメモリに記憶されるために配置される。これは、インバースタイヤモデルの挙動が、車両の操作条件に応じて調整されることを意味し、そのことは、操作条件を考慮しないモデルと比較してより正確なモデルが取得されることを意味する。メモリに記憶されるモデルは、実験及び試行に基づいて、又は、分析的導出に基づいて、又は、両者の組み合わせに基づいて決定され得る。例えば、制御ユニットは、現在の操作条件に応じて選択される異なるモデルのセットにアクセスするように構成され得る。1つのインバースタイヤモデルは、法線力が大きい高負荷運転のために調節され得、別のインバースタイヤモデルは、道路摩擦が低い滑りやすい道路条件のために調節され得る、等である。使用するモデルの選択は、選択規則の所定のセットに基づくことができる。メモリに記憶されたモデルは、少なくとも部分的に、操作条件の関数とすることもできる。そのため、モデルは、例えば、法線力又は道路摩擦を入力パラメータとして取り、それにより、車輪210の現在の操作条件に応じてインバースタイヤモデルを取得するように構成され得る。操作条件の多くの態様がデフォルト操作条件パラメータによって近似され得、一方、操作条件の他の態様が、より少数のクラスに粗く分類され得ることが理解される。そのため、車輪210の現在の操作条件に応じてインバースタイヤモデルを取得することは、多数の異なるモデルが記憶される必要があること、又は、操作条件の変動をきめ細かく考慮することができる複雑な分析機能を必ずしも意味しない。むしろ、操作条件に応じて選択されるのは、2つ又は3つの異なるモデル、例えば、車両が重く負荷をかけられているときに使用される1つのモデル及びそうでないときに使用される別のモデルで十分である場合がある。全ての場合に、タイヤ力と車輪スリップとの間のマッピングは、操作条件に応じて何らかの方法で変化し、そのことは、マッピングの精度を改善する。
【0045】
インバースタイヤモデルは、車両の現在の操作条件に自動的に又は少なくとも半自動的に適応するように構成される適応的モデルとして少なくとも部分的に実装されることもできる。これは、所与の車輪スリップ要求に応答して発生する車輪力に関して所与の車輪の応答を絶えずモニターすることによって及び/又は車輪スリップ要求に応答する車両100の応答をモニターすることによって達成され得る。そして、適応的モデルは、車輪からの所与の車輪スリップ要求に応答して取得される車輪力をより正確にモデル化するために調整され得る。
【0046】
インバースタイヤモデルは、例えば、ソフトウェア更新として、リモートサーバ190から自動的に構成(設定)され得、又は、車両ルーチンサービス(定期点検等)を実施する技術者によって手動で構成(設定)され得る。
【0047】
図4は、例の車両制御機能アーキテクチャを示し、TSM層270又は運転者は、所望の車両ユニット加速度a
req及び車両曲率c
reqを含むことができる車両運動要求275、又は、所望の速度プロファイルで所望の経路に沿う車両による所望の運動を共に記述する他のタイプの車両運動要求を発生する。成功裏に操縦を達成するために発生される必要がある、要求される量の縦力を決定又は予測するためのベースとして運動要求が使用され得ることが理解される。成功裏に操縦を達成するために発生される必要がある、要求される量の横力を決定又は予測するためのベースとして運動要求が使用され得ることも理解される。運動要求275は、車両運動要求410として動的スリップ限界設定モジュール(動的スリップ限界構成モジュール)440に、及び、対応する車両運動要求420としてMSD調整器機能450に、双方に送信される。
【0048】
動的スリップ限界設定モジュール440は、車両100のMSD制御機能に送信される、サイドスリップ角度限界等の適切なMSD制御限界460を決定し、MSD制御限界460は車輪挙動を制限するために使用される。動的スリップ限界設定モジュール440は、任意選択で、縦車輪スリップに対する制限も設定する。一般に、スリップ限界は、運動要求が成功裏に達成することができることを保証する方法で、TSM層270からの要求に基づいて決定される。この文脈における重要な関係は、高いスリップ角度で大きい縦車輪力を発生する能力の減少である。本明細書で開示する動的スリップ限界設定モジュール440は、TSM層270からの運動要求に基づいて、及び、車両の現在の状態、例えば、その現在の速度及びヨー運動に基づいて、サイドスリップ角度に対する動的限界、すなわち時間変動性限界を発生する。動的スリップ限界設定モジュール440は、サイドスリップ角度を、課されたサイドスリップ角度限界未満に維持するために、操舵角度及び/又は操舵角速度に対する限界を設定する。操舵角度限界と車輪スリップ限界との間の相互作用は、車両操縦性を改善する利点を伴って使用され得る。例えば、操舵角度に対する限界は、制動による操舵等の他の手段によってヨーモーメントを発生するようにMSD調整器機能450を促すことができる。本質的に、これは、動的車輪スリップ角度限界αlimが、目標加速度areqの減少に応じて増加すること(減少する目標加速度areqと共に増加すること)を意味する。そのため、実質的な縦車輪力が発生される必要がない場合、より大きいサイドスリップ角度が許容され、またその逆も同様である。
【0049】
この文脈における別の重要な関係は、
図3に示すように、高い縦車輪スリップで横力を発生する能力の減少である。十分な横力が常に発生され得ることを保証する1つの方法は、上記で述べたように、保守的な縦スリップ限界、すなわち、例えば
図3における0.05のオーダーのマージ安全マージンを使用することであるが、これは、縦力発生能力も制限することになり、そのことは、もちろん、望ましくない。本明細書で開示する技法によれば、動的に構成(設定)される縦車輪スリップ限界は、目標曲率要求の減少に応じて増加することができる(減少する目標曲率要求と共に増加することができる)、すなわち、所与の操縦について横力が必要とされない場合、スリップ限界は、より大きい縦力が発生されることを可能にするために増加することができる。例えば、第1のシナリオにおいて、車両が真っ直ぐな道路上を運転しており、突然、急ブレーキをかける必要があると仮定する。制動中に大きい横力を発生させる必要性が存在しないため、より高い車輪スリップ限界が、操縦中に使用され得る。一方、第2のシナリオは、比較的速い速度のコーナリングを含む場合があり、かなりの横力が必要とされる。ここで、TSM層270からの要求が成功裏に達成されるように十分な横力が発生され得ることを確実にするために、動的スリップ限界設定モジュール440によって、より低い縦スリップ限界が課されることになる。
【0050】
MSD調整器機能450は、TSM層270から又は運転者からの運動要求を満たすために必要とされる全体的な(グローバルな)力を発生するためにMSD調整を実施する。このMSD調整は任意の力調整ルーチンに基づくことができる。有利には、力調整は、例えば、力対スリップの関係がほぼ線形であり、横力が運転シナリオ及び車両操縦から独立して発生され得るという仮定の下で実施され得る。
【0051】
図4は、MSD調整器機能450と動的スリップ限界設定モジュール440との間の任意選択の安全信号相互接続430も示す。この接続は、エラーメッセージ及び他のステータス信号を交換する利点を伴って使用され得る。例えば、MSD調整器機能450が、成功裏に力を割り当てることができないこと等の何らかの理由で失敗する、又は、何らかの他の失敗モードに陥る場合、メッセージが、動的スリップ限界設定モジュール440に送信され得、動的スリップ限界設定モジュール440は、その後、スリップ限界設定機能に加えてMSD調整器機能の役割を担うことができる。修正ハミルトニアンに基づく車両運動制御の例は、Gao, Yangyan, Mathias Lidberg, and Timothy Gordon 「Modified Hamiltonian algorithm for optimal lane change with application to collision avoidance」 MM Science Journal (2015): 576-584に挙げられている。車両運動制御のハミルトニアン理論の更なる応用は、Gao, Yangyan, and Timothy Gordon 「Optimal control of vehicle dynamics for the prevention of road departure on curved roads」 IEEE Transactions on Vehicular Technology 68.10 (2019): 9370-9384、並びに、Gao, Yangyan, Timothy Gordon, and Mathias Lidberg 「Optimal control of brakes and steering for autonomous collision avoidance using modified Hamiltonian algorithm」 Vehicle system dynamics 57.8 (2019): 1224-1240に記載されている。
【0052】
そのため、幾つかの態様によれば、動的スリップ限界設定モジュール440は、冗長MSD調整器として配置される。1次MSD調整器機能が何らかの理由で失敗する場合、動的スリップ限界設定モジュール440は、介入し、MSD制御を担う。このMSD制御は、任意選択で、安全操縦を実施すること、すなわち、レーンを変更し安全な場所で停止することを伴うことができる。
【0053】
図5は、
図1に関連して上記で論じた車両100等の大型車両の運動を制御するのに適する例の制御アーキテクチャを示す。この例において、動的スリップ限界設定モジュール440は、
図8及び
図9に関連して以下でより詳細に論じられる修正ハミルトニアンアルゴリズムとして実装される。上記で論じた任意選択の安全信号相互接続430に留意されたい。
【0054】
VMPM機能260は、1秒くらいの時間範囲(計画対象期間)で働き、TSM層270からの加速度プロファイルareq及び曲率プロファイルcreqを、車両運動機能を制御する制御コマンドに連続して変換し、制御コマンドは、次に、車両制御における制約として使用される。ここで、制御コマンドは、VMPMに能力を折り返し報告する車両100の異なるMSD220,250によって作動される。VMPM機能260は、車両状態又は運動推定510を実施する。すなわち、VMPM機能260は、車両100に配置されてMSD220,250としばしば接続状態にあるがそうでない場合もある種々のセンサ550を使用して操作をモニターすることによって、車両組み合わせにおける異なるユニットの位置、速度、加速度、及び連結角度を含む車両状態sを連続して決定(特定)する。
【0055】
運動推定510の結果、すなわち、推定された車両状態sは、力発生モジュール520への入力であり、力発生モジュール520は、要求される加速度及び曲率プロファイルareq,creqに従って車両100を運動させるために、異なる車両ユニットについての要求される全体的力(global forces)V=[V1,V2]を決定する。要求される全体的力ベクトルVはMSD調整機能530への入力であり、MSD調整機能530は、車輪力を割り当て、操舵(ステアリング)及びサスペンション等の他のMSDを調整する。MSD調整機能は、i番目の車輪についてMSD制御割り当て(制御配分)を出力し、MSD制御割り当ては、トルクTi、縦車輪スリップλi、車輪回転速度ωi、及び/又は車輪操舵角度δiのうちの任意のものを含むことができる。調整されたMSDは、その後、車両組み合わせ100による所望の運動を取得するために、車両ユニット上の所望の横力Fy及び縦力Fx並びに要求されるモーメントMzを共に提供する。
【0056】
例えば、全地球測位システム、ビジョンベースセンサ、車輪速度センサ、レーダーセンサ、操舵角度センサ、及び/又はライダーセンサを使用して車両ユニット運動を決定(特定)し、この車両ユニット運動を(例えば、縦及び横速度成分に関して)所与の車輪210のローカル座標系に変換することにより、車輪基準座標系内の車両ユニット運動を車輪210に関連して配置された車輪速度センサ240から取得されたデータと比較することによって、車輪スリップを正確にリアルタイムに推定することが可能になる。
【0057】
図3に関連して上記で論じたタイヤモデルは、所与の車輪iについての所望の縦タイヤ力Fx
iとその車輪についての同等の縦車輪スリップλ
iとの間で変換するために使用され得る。縦車輪スリップは、車輪回転速度と対地速度との差に関連し、以下でより詳細に論じられる。車輪速度ωは、例えば、回転/分(rpm)の単位で与えられた車輪の回転速度、或いは、ラジアン/秒(rad/sec)又は度/秒(deg/sec)による角速度である。本明細書で、タイヤモデルは、上記で論じたように、車輪スリップの関数としての、縦方向(転動方向)及び/又は横方向(縦方向に垂直)に発生した車輪力を記述する車輪挙動のモデルである。「タイヤ及び車両運動力学(Tyre and vehicle dynamics)」Elsevier Ltd. 2012, ISBN 978-0-08-097016-5において、Hans Pacejkaはタイヤモデルの基本をカバーしている。例えば、車輪スリップと縦力との間の関係が論じられている第7章を参照されたい。
【0058】
要約すると、本開示の幾つかの態様によれば、VMPM機能260は、力発生とMSD調整の両方を管理する。すなわち、VMPM機能260は、TSM機能270からの要求を達成するために、例えば、TSMによって要求される被要求加速度プロファイルに従って車両を加速するために、及び/又は、TSMによって同様に要求される車両による特定の曲率運動を発生するために、車両ユニットにおいて要求されるのがどの力かを決定する。この力は、例えば、ヨーモーメントMz、縦力Fx、及び横力Fy、並びに、異なる車輪に加えられる異なるタイプのトルクを含むことができる。
【0059】
車両の車輪にトルクを送出することが可能なVMPMとMSDとの間のインターフェース265は、従来から、車輪スリップを考慮することなく、VMPMから各MSDへのトルクベース要求に的を絞ってきた。しかしながら、このアプローチは、かなりの性能限界を有する。セーフティクリティカルな又は過剰のスリップ状況が生じる場合、別個の制御ユニットに対して働く関連する安全機能(けん引制御、アンチロックブレーキ等)が、通常介入し、スリップを制御に戻すためにトルクオーバライド(torque override)を要求する。このアプローチに関する問題は、アクチュエータの主制御(一次制御)とアクチュエータのスリップ制御とが異なる電子制御ユニット(ECU:electronic control unit)に割り当てられるため、それらの間での通信に関わるレイテンシー(待ち時間、遅延時間)が、スリップ制御性能を著しく制限することである。更に、実際のスリップ制御を達成するために使用される2つのECUにおいて行われたスリップ仮定と、関連するアクチュエータとは、不適合であるとすることができ、これは、次に、次善最適性能につながる可能性がある。有意の利益は、VMPMと1つ又は複数のMSDコントローラ230との間のインターフェース265上で車輪速度又は車輪スリップベース要求を代わりに使用することによって達成され得、それにより、困難なアクチュエータ速度制御ループを、VMPM機能のサンプルタイムと比較してずっと短いサンプルタイムで一般に動作するMSDコントローラにシフトさせる。そのようなアーキテクチャは、トルクベース制御インターフェースと比較してずっと良好な外乱除去を提供することができ、従って、タイヤ道路コンタクトパッチにおいて発生する力の予測可能性を改善する。
【0060】
図6は、スリップ角度の関数としての車輪横力を示すグラフである。
図6は、典型的な純粋な横スリップ特徴を示し、この場合、ゼロ縦スリップを有する。純粋なスリップ条件は、縦又は横スリップが単独で起こる状況として本明細書で規定される。
図3において立証される組み合わせ式スリップ条件の場合、横力は、縦スリップと共に著しく下がる。組み合わせ式スリップ条件、縦及び横タイヤ力相互作用のより例証的な表現は、
図7に示される。ここで、法線タイヤ力F
z=2kN及び5度のチャンバー角度γについての例が示され、同じ特徴が、全ての負荷及びチャンバー条件について適用される。
図7に示すように、縦及び横タイヤ力が、いわゆる「摩擦円(friction circle)」内に境界付けられると、横タイヤ力は、縦力の増加と共に減少し、またその逆も同様である。
【0061】
本明細書で開示する技法は、現在の車両状態及び所望の運動に基づいて、すなわち、上記で論じたより高次の層の制御機能からの運動要求に基づいて、サイドスリップ角度に対して(又は同様に、操舵角度に対して、及び/又は、操舵角速度に対して)限界を設定することを含む。車両モデルは、所与の制御入力に応答してサイドスリップ角度を予測するために使用され得る。そして、このモデルは、好ましくは複雑度が低い。その理由は、このモデルが車両操縦中にリアルタイムに実行することが可能でなければならないからである。
【0062】
シミュレーションモデルは、過渡的車両応答の考えを得るために前もってチェックするために使用され得る。方法は、両者の組み合わせを含むことができる。
【0063】
車両モデル及び操舵入力は、各タイヤにおいてどのようなスリップ角度が予想されるかをシステムに伝える。縦車輪スリップ、横車輪スリップ、垂直負荷、及び道路表面摩擦を有する組み合わせ式非線形スリップモデルを使用するタイヤデマンドモニターが実装され得る。
【0064】
図8を参照すると、ゼロ縦スリップ、すなわちλ
x=0の場合、問題は単純である:1次元タイヤ曲線800は、「大きければ大きいほどより悪い」に基づく限界を示す。すなわち、スリップ角度増加が、この付着ピークをタイヤに超えさせるときに、横力が減少する。そして、限界α
limは、上限として使用され、又は、操舵レートは、α
limに近づくにつれて制限される。限界が表面摩擦と垂直負荷との両方に依存するが、これらの両方のパラメータについての値が、静的な所定のパラメータ又は動的に構成(設定)されるパラメータと見なされ得ることに留意されたい。
【0065】
この種のスリップ角度限界は、既存の制動又は運転が存在する場合に、すなわち、縦車輪スリップが存在するときに拡張され得る。
図9は、λ
x>0である例の曲線900を示す。この場合、曲線は増加し続ける。すなわち、より大きいサイドスリップ角度はより大きい横力を意味する。しかしながら、発生した横力のこの増加は、発生した縦力を犠牲にして取得される。そのため、同じ原理:「『大きければ大きいほどより悪い』ときはいつでもスリップ角度を制限する」を使用する組み合わせ式スリップアプローチが必要とされる。選択された任意の車輪に関して、F
yの増加が、F
xの減少によってオフセットする量を決定することが可能である。
図10は、このトレードオフを示す。αの小さい値の場合、曲線1000の傾斜(傾き、勾配)が非常に急峻であるため、スリップを増加することを可能にする価値がある。しかし、大きいαの場合、傾斜はより小さくなり、F
yの増加は、F
xの減少より小さい。そのため、α
limは、例えば、
【数3】
であるポイントとして、曲線1000の勾配に基づいて決定され得る。これは、曲線1000に対する接線上の45度の角度に対応する。しかしながら、そのポイントは、もちろん、調節可能パラメータとして選択されることもできる。サイドスリップに関する限界は、車両の全ての車輪に適用され得、操舵角度の抑制は、任意の1つの車輪がサイドスリップ限界に近づくと適用され得る。
【0066】
図10は、サイドスリップ角度の関数としての横車輪力能力(lateral wheel force capability)及び縦車輪力能力(longitudinal wheel force capability)の関数を示す。そのため、動的車輪スリップ角度限界α
limが横車輪力能力及び縦車輪力能力のそのような関数に基づいて決定され得ることが理解される。例えば、
図10に例示するように、サイドスリップ角度限界は、横タイヤ力の増加が、そこで縦力の減少をもたらす値に動的に構成(設定)され得、その減少は許容可能な減少量より大きい。
【0067】
複雑度が低い定常状態の車両モデルが、しばしば、操舵限界データを提供するのに十分であり得る。
図10を参照すると、例えば、タイヤ座標において全ての車輪についてスリップ限界及び車輪力限界を設定することが可能である。ルックアップテーブルは、計算効率的な実装を取得するために計算において使用され得る。
【0068】
図11は、サイドスリップ角度の関数としての、縦車輪力と横車輪力との間の幾つかの例の関係1100を示す。各曲線1110,1120,1130は、固定縦車輪スリップλ
xを示し、サイドスリップ角度は0度から90度までスイープされた。縦車輪スリップが非常に小さいとき、サイドスリップ角度に関する限界が比較的高く設定され得、一方、より大きい縦車輪スリップの場合、縦車輪力を発生する能力を維持するために、サイドスリップ角度がより低く設定されなければならないことが見られ得る。
【0069】
図12は、異なるスリップ角度についての車輪力マップを示すグラフである。それぞれの実線曲線1210は、所与のスリップ角度について、制動トルクの変化によって利用可能な力の範囲を示し、終端値はロックされた車輪に対応する。例えば、曲線1210は、ほぼ全くトルクが加えられないAにて開始する。ますます高い制動トルクが、その後、最大縦力が発生されるBまで加えられる。このポイント後に、更に大きい制動トルクが加えられる場合、非線形挙動が、縦力を減少させる。グラフは、ハミルトニアン値に対応する曲線も示す。
図12のグラフは、「Vehicle Motion and Stability Control at the Limits of Handling via the Modified Hamiltonian Algorithm: Methodology and Applications」 doctoral thesis, Gao Yangyan, University of Lincoln, College of Science, School of Engineering, August 2018においてより詳細に説明されている。
【0070】
例えば、
図4に示す動的スリップ限界設定モジュール440におけるスリップ限界の動的構成(動的設定)は、修正ハミルトニアン(MHA:modified Hamiltonian)フレームワークを使用して、有利に実装され得る。
図13は、スリップ限界を決定するときにMHAがどのように働くことができるかの例のシステムダイヤグラムを示す。3自由度(3DOF:three degrees of freedom)車両モデルについてのハミルトニアン関数を考慮し、車両操作条件が摩擦の限界にある、従って、終端コスト関数Jのみが存在すると仮定する。ハミルトニアン関数は、仮想制御入力(F
x,F
y,M
z),H=P
xF
x+P
yF
y+λMzにおいて線形であり、ここで、P
x,P
y,λは、各状態(ここでは、全体的な力及びモーメント)に関して勾配コストを反映する動的システムの時間変動性ラグランジュ乗数又は共状態である。ポントリャーギンの最小原理(Pontryagin's minimum principle)によれば、各タイムステップにおけるスカラーハミルトニアン関数Hの最小化は、最適化継続期間全体についてコスト関数Jを最小化することと同等である。状態(states)及び共状態(co-states)は、オフラインで数値的に解かれ得、そのことは、しばしば2点境界値問題と呼ばれる。しかしながら、特に、動的システムの自由度が大きくなるときに、そのような最適化問題を解くために、オンボード電子制御ユニット(ECU)に実装されることは、しばしば計算コストがかかり過ぎる。MHA法において、共状態値は、高レベル基準(全体的な縦及び横力)を満たすために、代わりに推定される。従って、P
x,P
yは、(ハミルトニアン関数の最小化を達成するために)F
x及びF
yと反対方向を指すべきである。そのため、
p=[P
x,P
y]=-a
d/|a
d|
であり、かつ、
【数4】
であり、ここで、Mは車両総質量(kg単位)であり、a
dは所望の加速度ベクトルであり、F
x及びF
yは、TSM層270の運動要求から導出される全体的力基準である。車両運動制御アプリケーションにおいて、重要であるのは、全体的力要件だけでなく、車両の安定性もである。ここで、共状態λは、ヨーモーメントM
zに関連付けられ、具体的に言うと、λは、車両の安定性を保証するため、所望のヨーモーメントM
z,dを追跡するために連続して更新される。M
z,dの定式化は、異なる安定性要件等に応じて或る程度変動する可能性がある。その定式化は、しばしば、基準ヨーレートからのヨーレート誤差及び重心位置のサイドスリップ角度に関連する。ハミルトニアン関数は、スカラー関数であり、仮想制御に関して線形であるため、グローバル座標(上付き文字gはグローバル座標系における値を示す)から車両座標(代わりに、上付き文字νで示す)に書き換えられ得る:
【数5】
ここで、
【数6】
は車両座標における共状態を示す:
【数7】
ここで、ψは車両のヨー角度を示し、R(ψ)は、ψによる回転についての回転行列である。
【数8】
及び
【数9】
が共に、重心位置で行使されることに留意されたい。タイヤからの全ての寄与力を含むようにハミルトニアン関数Hを拡張することによって、
【数10】
【数11】
は、各タイヤに関連する共状態ベクトルであり、各タイヤについてのローカルハミルトニアン関数(車両座標における)は、
【数12】
と書かれ得る。
【0071】
スカラー積H
iは、タイヤ及び車両座標において同じであるため、H
iを、タイヤ座標系(上付き文字tで示す)で書き直すことが可能である。
【数13】
として回転行列R(δ
i)を適用する。ここで、
【数14】
である。ここで、グローバルハミルトニアン関数(H)を最小化することは、ローカルハミルトニアン関数(H
i)を最小化することと同等になる。
【0072】
図12は、時間的反復にわたってハミルトニアン関数H
iがどのように最小化されるかの実際の例を示す。上記で述べたように、一連のタイヤ曲線は、或る範囲のタイヤサイドスリップ角度についての制動トルクの変化によって利用可能なタイヤ力の範囲を示す。各計算時刻(各計算時間瞬間)において、すなわち、各反復において、ローカル共状態
【数15】
は、一連の直線1220で示される、ハミルトニアン関数の傾斜を決定する式に従って推定される。H
i最急降下方向は、定数H
iラインに垂直である。タイヤの現在のスリップ角度(例えば、3.5度)を考慮して、最小H
iは、およそ-1250Nの制動力及び縦スリップ比(上記タイヤモデルによって決定される)に対応する円マーカに達する。実際の実装において、スリップ比の範囲[-0.2:0.001:0]は、定数H
iを計算するために、スリップ角度α、タイヤ法線負荷F
z(共に、オンフライで推定され得る)等の他の入力と共に、組み合わせ式スリップタイヤモデルに対する最適制御変数としてスイープされる。最小H
iを見出すために、線形1次元探索が実施される。このプロセスは、車両100の車輪のそれぞれについて、各反復で、典型的にはおよそ10msで繰り返される。こうして決定された最適な縦スリップは、動的スリップ限界を提供し、動的スリップ限界は制御割り当て器(制御配分器)450の出力を構成する。
【0073】
H
iの更なる低減は、スリップ角度αを変更することによって達成され得る。
図12の例において、更なるH
i最小化は、スリップ角度αを増加することによって達成され得る。小さい擾乱(pertubation)εは、「スター(star)」ポイント、すなわち、現在のサイドスリップについての最適値のまわりに導入され得る。
【数16】
車両サイドスリップ角度βが小さいとき、
【数17】
であり、ここで、
【数18】
は車両ヨーレートであり、ν
xは縦方向車両速度であり、x
iは車両ユニット重心と車輪中心の位置との間の縦距離である。
【0074】
以下の例において、車両構成が前車軸操舵のみであることが仮定される。他の操舵組み合わせは、同様の論理を適用することができる。操舵によるハミルトニアン関数最小化は、
【数19】
として表され得る。そのため、現在の操舵ホイール角度がH
δ=0を提供する場合、現在の操舵ホイール角度が最適である。その理由は、現在の操舵ホイール角度がハミルトニアン関数を最小化するからである:|H
δ|>0である場合、ハミルトニアン関数は、その最小値にはなく、そのことは、次に、ハミルトニアンH値を更に低減するために、1つ又は複数の車軸が、H
δの反対方向に操舵されるべきであることを意味する。前車軸操舵アクチュエータについて有効レート限界k
δを仮定すると、制御法則によって、Hの値がローカルに低減される:
【数20】
すなわち、その考えは、H値を更に低減するために、H
δの反対方向に車両を操舵することである。しかしながら、H
δが小さいときに起こる場合があるチャタリング挙動を回避するために、閾値Tがここで導入される。そのような操舵レートは、例えば、制御割り当て器のB行列タイプからの操舵角度出力を制限するために、又は代替的に、
【数21】
を単に使用して、操舵角度限界を見出すために、動的レート制限器として直接使用され得る。ここで、Δtは、コントローラタイムステップ又は逆更新周波数(更新周波数の逆数)である。
【0075】
B行列(Bマトリクス)制御割り当て法は、制御入力uを或る形態の制御効果にマッピングするために線形モデルを使用する任意の方法とすることができる。制御割り当てアプリケーションの一般的な定式化は、
【数22】
であり、ここで、
【数23】
は状態xの時間微分(時間導関数)であり、uは制御入力であり、dは或る形態の歪み(distortion)である。A及びBは、モデルを規定する行列である。他の定式化も、もちろん可能である。
【0076】
図14は、上記の議論の少なくとも一部を要約する方法を示すフローチャートである。大型車両100の運動を制御するための、車両制御ユニット130,140において実施されるコンピュータ実装式方法が示される。方法は、車両運動要求を取得すること(S1)を含み、車両運動要求は、目標曲率c
req及び目標加速度a
req,c
reqを示す。この運動要求は、例えば、
図2、
図4、及び
図5に関連して上記で論じられたように、運転者入力から、及び/又は、自律的又は半自律的TSM機能270から、取得され得る(S11)。
【0077】
方法は、車両運動要求に基づいてMSD制御割り当てT
i/λ
i/ω
i/δ
iを決定すること(S2)も含む。このMSD制御割り当ては、
図2及び
図5に関連して上記で論じられ、より高次の層の制御機能からの運動要求に従って車両運動を発生する力割り当てとして決定され得る。複数の態様によれば、方法は、車両運動要求を進化させる最適化及び車両の運動モデルに基づくB行列制御割り当て法に基づいて、i番目の車輪についてのMSD制御割り当てT
i/λ
i/ω
i/δ
i(トルクT
i、縦車輪スリップλ
i、車輪回転速度ω
i、及び/又は操舵角度δ
i)を決定すること(S21)を含む。B行列制御割り当て法は、一般に知られており、従って、本明細書でより詳細に論じられない。MSD制御は、少なくとも部分的に目標車輪トルクT
iとして決定され得る(S22)。摩擦ブレーキ及び種々の推進デバイス等のMSDは、目標トルクに基づいて制御され得る。この目標トルクは、それぞれのMSDコントローラにトルク要求として提示され、それから、MSDコントローラは、トルク要求に対応する実際のトルクを発生するためにMSDを制御する。他の態様によれば、方法は、MSD制御割り当てを、少なくとも部分的に目標縦車輪スリップλ
i又は対地車輪速度ω
iとして決定すること(S23)を含む。このタイプの制御は幾つかの利点に関連する。例えば、制御された車両スタートは、効率的な方法で達成され得る。その理由は、より従来的な形態のトルクベース制御と対照的に、制御が、車輪スリップ、又は、車両の速度に対する車輪速度差に直接基づくからである。制御は、その後、1つ又は複数の推進ユニットに向かいかつ中央車両制御から離れるようにシフトされ、そのことは利点である。その理由は、より高い帯域幅の制御ループ(より速いループ)がこうして実現され得るからである。予期しない抵抗及び過渡事象は、制御帯域幅の増加によって中央的によりもローカルによりよく扱われ得る。MSD制御割り当ては、MSD制御割り当てを少なくとも部分的に目標操舵角度δ
iとして決定すること(S24)を含むこともできる。この目標操舵角度は、取得された車両運動要求に従って横力を発生することになる。目標操舵角度が、予想されるサイドスリップに応じて有利に制御され得ることが留意される。サイドスリップは、
図6及び
図8に関連して上記で論じたように、幾つかの場合、車輪力を発生する可能性に大きい影響を及ぼすことができる。幾つかのシナリオにおいて、操舵角度及び代わりに制動による操舵を低減する、すなわち、ヨーモーメントを発生させるために車両ユニットの両側で異なるトルクを加えることが有益であるとすることができる。
【0078】
方法は、車両運動要求に基づいて動的車輪スリップ角度限界α
limを決定すること(S3)も含み、動的車輪スリップ角度限界α
limは、目標加速度a
reqが減少するほど増加する(目標加速度a
reqの減少に応じて増加する)。方法のこの部分は、上記で論じた主要な利点を取得するためのキーである。サイドスリップ限界を動的に構成(設定)することによって、少なくとも、実質的な縦車輪力が要求されない限り、より小さいマージンが使用され得る。本明細書で開示する技法は、適切なスリップ限界を決定することができる方法の例を提供し、適切なスリップ限界は、要求される車輪力の発生を可能にし、例えば、縦車輪力を発生する能力を必ずしも制限しない。従って、方法は、
図1に関連して上記で論じた車両100等の大型車両の操縦性を増加させる。その結果、動的縦車輪スリップ限界によって制限されたMSD制御割り当てに基づいて大型車両100の運動を制御すること(S4)は、車両100による改善された性能を示唆する。任意選択で、方法は、動的車輪スリップ角度限界α
lim及び車両状態に基づいて動的操舵角度限界δ
limを決定すること(S33)、及び/又は、動的車輪スリップ角度限界α
lim及び車両状態に基づいて動的操舵角速度限界(動的操舵角度レート限界)
【数24】
を決定すること(S34)を含む。
【0079】
幾つかの態様によれば、方法は、車両運動要求に起因する縦車輪スリップを予測すること、及び、予測された縦車輪スリップに基づいて動的車輪スリップ角度限界α
limを決定すること(S31)を含む。これらの機構は、
図6~
図11に関連して上記で論じられた。
【0080】
方法は、車両運動要求に基づいて発生される、要求される縦力Fxを予測すること、及び、予測された要求される縦力Fxに基づいて動的車輪スリップ角度限界αlimを決定すること(S32)を含むこともできる。
【0081】
方法は、修正ハミルトニアンアルゴリズム(MHA)を実行すること(S35)によって、動的縦車輪スリップ限界λ
lim/ω
limを決定することを含むこともでき、MHAは、任意選択で、1つ又は複数の車輪においてローカルハミルトニアン関数を最小化すること(S36)を含み、各最小化は、タイヤ力曲線の線形探索(リニアサーチ)を含む。車輪スリップ限界を決定するこのアプローチは、
図12に関連して上記で詳細に論じられた。このアプローチの一部として、方法は、車両100の最大許容可能ヨーモーメントM
zを含む安定条件に基づいて、動的縦車輪スリップ限界λ
lim/ω
limを決定すること(S38)を含むこともできる。
【0082】
方法は、動的車輪スリップ角度限界α
limを横車輪力能力及び縦車輪力能力の関数として決定すること(S37)を含むこともできる。これの例は
図10に関連して上記で詳細に論じられた。例えば、関数は、発生される横力の増加に対応する、発生される縦力の予測される減少における所定の限界に基づくことができる。
【0083】
方法は、任意選択で、現在の操舵ホイール角度が、動的車輪スリップ角度限界αlimを超えるサイドスリップ角度を発生する場合、車両操舵ホイールに対してトルクオーバーレイをトリガーすること(トルク付加をもたらすこと)(S41)、及び/又は、現在の操舵ホイール角度が、動的車輪スリップ角度限界αlimを超えるサイドスリップ角度を発生する場合、車両100の運転者に通知する警告信号をトリガーすること(警告信号を発生させること)(S42)を含む。もちろん、サイドスリップ角度限界は、全車両制御システムを通して有利に送信され、限界は、例えば、VMPMモジュールによって、車両制御のために使用され得る。
【0084】
図15は、VCU130,140等の制御ユニットのコンポーネントを、幾つかの機能ユニットによって概略的に示す。制御ユニットは、本明細書の議論の実施形態による、TSM270、VMPM260、及び/又はMSD制御機能230の上記で論じた機能の1つ又は複数を実装することができる。制御ユニットは、大型車両100の制御のための、上記で論じた機能のうちの少なくとも一部を実行するように構成される。処理回路部1510は、例えば、記憶媒体1520の形態のコンピュータプログラム製品に記憶されたソフトウェア命令を実行することが可能な、適切な中央処理ユニット(CPU:central processing unit)、マルチプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサ(DSP:digital signal processor)等のうちの1つ又は複数の任意の組み合わせを使用して設けられる。処理回路部1510は、少なくとも1つの特定用途向け集積回路(ASIC:application specific integrated circuit)又はフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA:field programmable gate array)として更に設けられ得る。
【0085】
特に、処理回路部1510は、
図14に関連して論じた方法等のステップ又は操作のセットを制御ユニット101に実施させるように構成される。例えば、記憶媒体1520は操作のセットを記憶することができ、処理回路部1510は、操作のセットを制御ユニット130,140に実施させるために、記憶媒体1520から操作のセットを取り出すように構成され得る。操作のセットは、実行可能命令のセットとして提供され得る。そのため、処理回路部1510は、それにより、本明細書で開示される方法を実行するために配置される。
【0086】
記憶媒体1520は永続的ストレージを備えることもでき、永続的ストレージは、例えば、磁気メモリ、光メモリ、固体メモリ(ソリッドステートメモリ)、又は更に遠隔搭載式メモリのうちの任意の単一メモリ又は組み合わせとすることができる。
【0087】
制御ユニット130,140は、少なくとも1つの外部デバイスと通信するためのインターフェース1530を更に備えることができる。従って、インターフェース1530は、アナログ及びデジタルコンポーネント並びに有線及び無線通信用の適切な数のポートを備える、1つ又は複数の送信機及び受信機を備えることができる。
【0088】
処理回路部1510は、例えば、データ及び制御信号をインターフェース1530及び記憶媒体1520に送信することによって、インターフェース1530からデータ及びレポートを受信することによって、そして、記憶媒体1520からデータ及び命令を取り出すことによって、制御ユニット130,140の全体操作(作動)を制御する。制御ノードの他のコンポーネント並びに関連する機能は、本明細書で提示される概念を曖昧にしないために省略される。
【0089】
図16は、コンピュータプログラムを保持するコンピュータ可読媒体1610を示し、コンピュータプログラムは、前記プログラム製品がコンピュータ上で実行されると、
図14に示す方法を実施するプログラムコード手段1620を含む。コンピュータ可読媒体及びコード手段は共に、コンピュータプログラム製品(computer program product)1600を形成することができる。
【外国語明細書】