(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035923
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】撹拌装置
(51)【国際特許分類】
B01F 33/452 20220101AFI20230306BHJP
B01F 35/222 20220101ALI20230306BHJP
【FI】
B01F33/452
B01F35/222
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131794
(22)【出願日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2021140905
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】500273355
【氏名又は名称】有限会社マグネオ技研
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 慎一
(72)【発明者】
【氏名】松井 里美
【テーマコード(参考)】
4G036
4G037
【Fターム(参考)】
4G036AC23
4G037DA30
4G037EA10
(57)【要約】
【課題】非接触で回転力を伝達する磁気カップリング及びこの機能を応用して撹拌子を撹拌槽内で揺動的に回転させる撹拌装置を提供する。
【解決手段】平面状の底面7が形成され、被撹拌材料が注入された液体6が充填された容器5を備える撹拌槽と、その容器5内に配設された撹拌子110及び容器5外に撹拌子110を回転させる駆動部150を備える撹拌装置100と、からなる撹拌器10である。撹拌子110を容器5である撹拌槽内に対して非接触で、公転運動および自転運動を実現できる。すなわち、この構成による撹拌装置100は、公転運動によって生ずる遠心力と、自転運動によるせん断応力によって、被撹拌材料を混合し、均一な撹拌をすることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面状の底面が形成され、液体が充填された容器内に配設された撹拌子と、該容器外に該撹拌子を回転させる駆動部と、を備える撹拌装置であって、
前記撹拌子は、
前記底面に対して垂直方向に延伸した自転軸と、
該自転軸の前記底面側の一方端部に、前記底面と並行するように、前記自転軸を中心とした自転用同心円の円周を外縁として前記自転軸から放射状に延在し、前記自転用同心円の円周方向に対して間隔を空けて複数の第1磁石が配設された被駆動磁石部と、
該自転軸の他方端部側に備えられ、前記撹拌子を液面まで浮上させる水密のフロートと、を備え、
前記駆動部は、
前記底面を臨むように公転軸を中心に回動し、前記公転軸を中心とした公転用同心円の円周を外縁として前記公転軸から放射状に延在し、前記公転用同心円の円周方向に対して間隔を空けて第1磁石と対極となる複数の第2磁石が配設された円盤状の駆動磁石部と、
該駆動磁石部を回転駆動させる回転駆動装置と、を備え、
前記自転用同心円の直径は、前記公転用同心円の直径と異なる直径とされており、
前記フロートの浮力は、前記被駆動磁石部が前記容器の底面に接触しないように調整されている、ことを特徴とする撹拌装置。
【請求項2】
平面状の底面が形成され、液体が充填された容器内に配設された撹拌子と、該容器外に該撹拌子を回転させる駆動部と、を備える撹拌装置であって、
前記撹拌子は、
前記底面に対して垂直方向に延伸した自転軸と、
該自転軸の前記底面側の一方端部に、前記底面と並行するように、前記自転軸を中心とした自転用同心円の円周を外縁として前記自転軸から放射状に延在し、前記自転用同心円の円周方向に対して間隔を空けて少なくとも二つの磁性を有する複数の多極磁石である第3磁石が配設された被駆動磁石部と、
該自転軸の他方端部側に備えられ、前記撹拌子を液面まで浮上させる水密のフロートと、を備え、
前記駆動部は、
前記底面を臨むように公転軸を中心に回動し、前記公転軸を中心とした公転用同心円の円周を外縁として前記公転軸から放射状に延在し、前記公転用同心円の円周方向に対して間隔を空けて、複数の第4磁石と、該第4磁石と磁性の異なる複数の第5磁石が、交互に間隔をおいて配設された円盤状の駆動磁石部と、
該駆動磁石部を回転駆動させる回転駆動装置と、を備え、
前記自転用同心円の直径は、前記公転用同心円の直径と異なる直径とされており、
前記フロートの浮力は、前記被駆動磁石部が前記容器の底面に接触しないように調整されている、ことを特徴とする撹拌装置。
【請求項3】
間隔を空けて隣り合う前記第3磁石の、相互に相手方を臨める側の磁性が同じである、ことを特徴とする請求項2に記載の撹拌装置。
【請求項4】
前記自転用同心円の直径は、前記公転用同心円の直径と比べて小さくされている、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の撹拌装置。
【請求項5】
前記自転軸には、自転の回転の放射方向に延伸した、1または2以上の羽根が取り付けられている、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の撹拌装置。
【請求項6】
前記フロートは、前記自転軸に沿って、上下に移動できる、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の撹拌装置。
【請求項7】
前記フロート内には、前記液体に応じた液体もしくは気体が充填されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の撹拌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触で回転力を伝達する磁気カップリング及びこれを適用した撹拌装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
撹拌槽内の液体を撹拌する場合において、槽内の撹拌翼部を回転させる際の摩擦・摩耗・潤滑に起因する不純物の混入及び、細胞等がダメージを受けない様に極力回避する必要がある。そこで、槽外から非接触状態で動力を伝達し、撹拌子を回転駆動させる撹拌技術が開示されている。
【0003】
非接触状態で撹拌子に動力を伝達することで、撹拌子が容器内壁に触れることなく撹拌槽内で回転させることができる。したがって、撹拌部と容器との接触部分でおこる摩擦磨耗に起因する被撹拌物への損傷等のリスク及び不純物の混入がないという利点を有する。
【0004】
このような撹拌子を非接触で回転させて、撹拌槽の内部に貯留した液体を撹拌する装置としては、撹拌槽の内部に配設した撹拌翼(被回転体)と、撹拌槽の外部に配設したモータ等の駆動部の出力軸(回転体)との間に磁気カップリングを適用し、駆動部の回転力を非接触で撹拌翼に伝達するようにしたものがある(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
この種の磁気カップリングでは、撹拌翼と駆動部の出力軸との互いに対向する部位に吸引用磁石ユニットと反発用磁石ユニットとを配設し、反発用磁石ユニットの反発力により撹拌槽の内部で撹拌翼を浮上させた状態に維持し、かつ吸引用磁石ユニットの吸引力によって非接触で回転力を伝達するようにしている。
【0006】
一方、超電導バルク体による磁気浮上機能と磁気カップリング機能を併せ持つ撹拌子によって、撹拌子を浮上、回転させる技術が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-035098号公報
【特許文献2】特開2013-013216号公報
【特許文献3】特開2009-148709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1,2にて開示された技術は、磁気カップリングによる磁力を調整しつつ、撹拌子を回転運動させるための動力を伝達するとともに、撹拌子を撹拌槽に接触させないようにするため、微妙な磁力・距離等の制御が必須となった。例えば、特許文献1では、撹拌翼と出力軸との間の軸心に沿った相互間距離が増大した後においては、もはや両者を接近させる力が作用することはなく、そのまま相互間距離が増大して回転力を伝達することが困難となる可能性があった。
【0009】
特許文献2では、特許文献1のように被回転体と回転体との間の軸心に沿った相互間距離が増大した場合にも、継続して非接触で動力を伝達することのできる磁気カップリング及び撹拌装置が開示されている。しかしながら、この技術は回転体と被回転体との間の軸心に沿った相互間距離が予め設定した閾値よりも小さい場合に反発用磁石ユニットの反発力が吸引用磁石ユニットの吸引力を上回り、かつ相互間距離が閾値を超えて増大した場合に吸引用磁石ユニットの吸引力が反発用磁石ユニットの反発力を上回るようにそれぞれの磁力を設定する必要があり、磁石ユニットの微妙な調整を必要とした。
【0010】
また、特許文献3にて開示された非接触撹拌装置の技術は、撹拌槽の外部に動力源を配し、槽内のバルク超伝導体で形成された撹拌翼を磁気浮上させるとともに回転させるものであり、期待される作用効果を奏するものの、材料・設備等にかかるコストが大きくなる可能性があった。
【0011】
さらに、特許文献1,2,3にて開示された技術は、撹拌槽の外部に設置された出力軸と撹拌子の回転軸とは一致する構成となっている。しかしながら、固定された回転軸での撹拌よりも撹拌層内を万遍なく撹拌した方が、槽内の液体をよりよく混合できるため、撹拌子は回転するとともに、揺動することが好ましい。
【0012】
本発明は、前記背景におけるこれらの実情に鑑みてなされたものであり、超電導バルク体や複雑な磁石ユニットの磁力を必要とする磁気カップリングによらない、非接触で回転力を伝達する磁気カップリング及びこの機能を応用して撹拌子を撹拌槽内で揺動的に回転させる撹拌装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、平面状の底面が形成され、液体が充填された容器内に配設された撹拌子と、該容器外に該撹拌子を回転させる駆動部と、を備える撹拌装置である。本発明の一態様である、前記撹拌子は、前記底面に対して垂直方向に延伸した自転軸と、該自転軸の前記底面側の一方端部に、前記底面と並行するように、前記自転軸を中心とした自転用同心円の円周を外縁として前記自転軸から放射状に延在し、前記自転用同心円の円周方向に対して間隔を空けて複数の第1磁石が配設された被駆動磁石部と、該自転軸の他方端部側に備えられ、前記撹拌子を液面まで浮上させる水密のフロートと、を備えている。そして、前記駆動部は、前記底面を臨むように公転軸を中心に回動し、前記公転軸を中心とした公転用同心円の円周を外縁として前記公転軸から放射状に延在し、前記公転用同心円の円周方向に対して間隔を空けて第1磁石と対極となる複数の第2磁石が配設された円盤状の駆動磁石部と、該駆動磁石部を回転駆動させる回転駆動装置と、を備えている。そして記自転用同心円の直径は、前記公転用同心円の直径と異なる直径とされており、前記フロートの浮力は、前記被駆動磁石部が前記容器の底面に接触しないように調整されている、構成としている。
【0014】
前記構成は、撹拌槽内の撹拌子が自ら備えたフロートによる浮力と、撹拌子の撹拌槽底面側に備えた磁石と撹拌槽底面に備えた駆動部に備えた磁石とが引き合う磁力と、が撹拌子を撹拌槽内に浮遊させた状態で、かつ撹拌子の位置が磁気カップリングによって規制される。そして、駆動部の公転用同心円と撹拌子の自転用同心円のサイズを異ならせることで、撹拌子の自転軸は公転用同心円上を回転させることができる。さらに、駆動部の駆動磁石部を回転させると、駆動磁石部に備えた第2磁石によって撹拌子の第1磁石が引き寄せられて撹拌子が公転運動を開始するとともに自転をさせる。公転運動をする撹拌子は、撹拌子周りの液体の抵抗によって、公転方向と逆方向の自転を行う。このように前記構成によれば、撹拌槽内で撹拌子がいわゆる遊星運動を行わせることができる。
【0015】
前記構成によれば、撹拌子を撹拌槽内に対して非接触で、公転運動および自転運動を実現できる。すなわち、この構成による撹拌装置は、公転運動によって生ずる遠心力による撹拌液の拡散効果と、自転運動によるせん断応力によって、被撹拌材料を混合し、均一な撹拌をすることができる。また、撹拌中のモータの回転方向を切り替えるだけで自転運動と公転運動の回転方向を変更することができる。そして、非接触で遊星運動を実現させることで、撹拌部と容器との接触部分でおこる摩擦磨耗に起因する損傷等のリスク及び被撹拌物への不純物の混入を防止できる。この構成は、特許文献1、2、3と比較して、簡単な構成かつ調整が容易となり、コスト低減、調整・調節に伴う生産性向上を実現させる。
【0016】
本発明の別の態様としては、平面状の底面が形成され、液体が充填された容器内に配設された撹拌子と、該容器外に該撹拌子を回転させる駆動部と、を備える撹拌装置である。本発明の一態様である、前記撹拌子は、前記底面に対して垂直方向に延伸した自転軸と、該自転軸の前記底面側の一方端部に、前記底面と並行するように、前記自転軸を中心とした自転用同心円の円周を外縁として前記自転軸から放射状に延在し、前記自転用同心円の円周方向に対して間隔を空けて少なくとも二つの磁性を有する複数の多極磁石である第3の磁石が配設された被駆動磁石部と、該自転軸の他方端部側に備えられ、前記撹拌子を液面まで浮上させる水密のフロートと、を備える。そして、前記駆動部は、前記底面を臨むように公転軸を中心に回動し、前記公転軸を中心とした公転用同心円の円周を外縁として前記公転軸から放射状に延在し、前記公転用同心円の円周方向に対して間隔を空けて、複数の第4の磁石と、該第4の磁石と磁性の異なる複数の第5の磁石が、交互に間隔をおいて配設された円盤状の駆動磁石部と、該駆動磁石部を回転駆動させる回転駆動装置と、を備える。前記自転用同心円の直径は、前記公転用同心円の直径と異なる直径とされており、前記フロートの浮力は、前記被駆動磁石部が前記容器の底面に接触しないように調整されている、構成としている。
【0017】
前記構成は、撹拌槽内の撹拌子が自ら備えたフロートによる浮力と、撹拌子の下部となる撹拌槽底面側に備えた磁石と撹拌槽底面に備えた駆動部に備えた磁石とが引き合う磁力と、が撹拌子を撹拌槽内に浮遊した状態で、かつ撹拌子の位置を規制する。そして、駆動部の公転用同心円と撹拌子の自転用同心円のサイズを異ならせることで、撹拌子の自転軸は公転用同心円上を回転させることができる。さらに、駆動部の駆動磁石部を回転させると、駆動磁石部に間隔をおいて配設された第4の磁石および第5の磁石と、被駆動磁石部に間隔をおいて配設された複数の多極磁石とが、公転開始前の撹拌子が駆動磁石部のそれぞれの対極となる磁石に引き寄せられた状態から、駆動磁石部の回転に伴い、撹拌子は、駆動磁石の回転方向と反対の公転運動を開始する。公転運動をする撹拌子は、撹拌子周りの液体の抵抗によって、公転方向と同方向もしくは逆方向の自転を行う。撹拌子の自転に伴い、第3の磁石と第4の磁石および第5の磁石との磁気カップリングによって引き寄せ、反発が繰り返され、撹拌子の自転の回転速度を上昇させる。このように前記構成によれば、撹拌槽内で撹拌子がいわゆる遊星運動を行わせることができる。
【0018】
前記構成によれば、撹拌子を撹拌槽内に対して非接触で、公転運動および自転運動を実現できる。すなわち、この構成による撹拌装置は、公転運動によって生ずる遠心力と、自転運動によるせん断応力によって、被撹拌材料を混合し、均一な撹拌をすることができる。ここで、第3の磁石と第4の磁石および第5の磁石との配置を調整することで撹拌子の自転の回転速度を調整することができる。そして、非接触で遊星運動を実現させることで、撹拌部と容器との接触部分でおこる摩擦磨耗に起因する被撹拌物への不純物の混入を防止できる。また、この構成は、特許文献1、2、3と比較して、簡単な構成かつ調整が容易となり、コスト低減、調整・調節に伴う生産性向上を実現させる。さらに、第3~5磁石の配置を工夫することで自転の回転速度を調整して、被撹拌材料に応じた撹拌を実現させる。
【0019】
前記構成において、間隔を空けて隣り合う前記第3磁石の、相互に相手方を臨める側の磁性が同じである、ように構成することができる。
【0020】
前記構成は、間隔を空けて隣り合う第3磁石の相互に相手方を臨める側の磁性を同じとすることで、一つの磁石によるものと比べて当該間隔の領域により広くかつ強度の高い同じ磁性の磁界を形成することができる。そして、撹拌子の自転に伴い、この形成された磁界と第4の磁石および第5の磁石との磁気カップリングによって引き寄せ、反発が繰り返され、撹拌子の自転の回転速度を上昇させる。
【0021】
前記構成によれば、単体の第3の磁石の磁界に比べて、広く強い磁界となるため、磁気カップリングによる引き寄せ、反発という過渡的な状態変化及び撹拌子と駆動磁石部との位置関係に対して、安定した磁気結合を維持することができる。したがって、この構成によって撹拌子の公転軌道からの離脱を防止して、自転及び公転の回転速度を高めることができ、撹拌能力を向上させることができる。
【0022】
前記態様の撹拌装置において、前記自転用同心円の直径は、前記公転用同心円の直径と比べて小さくされている、ように構成することができる。
【0023】
前記構成によれば、公転用同心円の方が自転用同心円よりも大きくすることで、撹拌子が公転用同心円の軌道を逸脱して、撹拌槽の側面方向に揺動することを防止することができる。この構成によれば、撹拌子の揺動範囲に対して撹拌槽のサイズの余裕がない場合に、側面に接触するおそれを回避するために好適となる。なお、公転用同心円の方が自転用同心円よりも小さくした場合であっても、駆動磁石部と被駆動磁石部との間の磁力を調整することで、撹拌機能を奏することはできることは言うまでもない。この場合は、撹拌子の揺動運動に対して、撹拌槽のサイズが大きい場合に有効となり、例えば複数の本構成に係る撹拌装置を備えた撹拌槽とすることもできる。
【0024】
前記態様の撹拌装置において、前記自転軸には、自転の回転の放射方向に延伸した、1または2以上の羽根が取り付けられている、ように構成することができる。
【0025】
撹拌子と周囲の液体(被撹拌材料)との摩擦だけでは流体の抵抗は少ない。この構成によれば、撹拌子の自転軸に羽根を付加することで、撹拌の性能を向上させるとともに、撹拌子の自転運動を促進する。羽根を装着する箇所は、撹拌子の自転軸の外側(自転軸の放射方向)でも、上側・下側でも良い。例えば、ラジアルタービン状の羽根を回転殻の上もしくは下に取り付けることでも、外側に羽根を付加することができる。また羽根の装着を対称位置とすることで撹拌子の回転時のバランスをとることができる。
【0026】
なお、多少構成が複雑になるが、撹拌子に通信系・制御系・駆動系の機器を搭載して、羽根の角度等を外部から可動させることで、撹拌槽内にて撹拌子を浮上させたり、沈降させたり、揺動範囲を変えたり、することもできる。
【0027】
前記態様の撹拌装置において、前記フロートは、前記自転軸に沿って、上下に移動できる、ように構成することができる。
【0028】
前記構成によれば、撹拌槽に充填された被撹拌材料の液体の水位が変化しても、撹拌槽の底面に接触しないようにフロート位置を調整することで撹拌子の位置を調整することができる。
【0029】
前記態様の撹拌装置において、前記フロート内には、前記液体に応じた液体もしくは気体が充填されている、ように構成することができる。
【0030】
前記構成によれば、被撹拌材料に応じて、フロートのサイズは変えずに、フロート内に必要な浮力に応じて気体もしくは液体を充填・注入することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、超電導バルク体や複雑な磁石ユニットの磁力を必要とする磁気カップリングによらない、非接触で回転力を伝達する磁気カップリング及びこれを適用し、撹拌子を揺動的に回転させる撹拌装置を提供することができる。
【0032】
現在、細胞培養等の被撹拌材料を均一に混合するための撹拌装置の需要が高まっている。細胞培養等には、細胞にせん断応力がかからず、ゆっくりと全体を撹拌することが望ましい。また、異物の混入がないように、摩擦・摩耗が生じずにかつ、外部から完全に密閉されることが求められている。本発明に係る撹拌装置は、係る要求に合致する撹拌作用を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る撹拌装置の側断面を示す全体説明図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る撹拌子の一態様の側断面を示す説明図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る被駆動磁石部の平面図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る駆動磁石部の平面図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る撹拌子の動作説明図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る被駆動磁石部の平面図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係る駆動磁石部の平面図である。
【
図8】本発明の第2実施形態に係る撹拌子の動作説明図である。
【
図9】本発明の第3実施形態に係る被駆動磁石部の平面図である。
【
図10】本発明の第3実施形態に係る撹拌子の動作説明図である。
【
図11】本発明の第4実施形態に係る撹拌子の説明図である。
【
図12】本発明の一実施例に係る撹拌子の説明図である。
【
図13】本発明の一実施例の動作の動画からキャプチャーされた画像である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照しながら、本発明の非接触で回転力を伝達する磁気カップリング及びこれを適用した撹拌装置に係る好適な実施の形態について説明する。以下の説明において、異なる図面においても同じ符号を付した構成は同様のものであるとして、その説明を省略する場合がある。
【0035】
本発明に係る一態様である平面状の底面が形成され、液体が充填された容器内に配設された撹拌子と、該容器外に該撹拌子を回転させる駆動部と、を備える撹拌装置において、前記撹拌子は、前記底面に対して垂直方向に延伸した自転軸と、該自転軸の前記底面側の一方端部に、前記底面と並行するように、前記自転軸を中心とした自転用同心円の円周を外縁として前記自転軸から放射状に延在し、前記自転用同心円の円周方向に対して間隔を空けて複数の第1磁石が配設された被駆動磁石部と、該自転軸の他方端部側に備えられ、前記撹拌子を液面まで浮上させる水密のフロートと、を備えている。そして、前記駆動部は、前記底面を臨むように公転軸を中心に回動し、前記公転軸を中心とした公転用同心円の円周を外縁として前記公転軸から放射状に延在し、前記公転用同心円の円周方向に対して間隔を空けて第1磁石と対極となる複数の第2磁石が配設された円盤状の駆動磁石部と、該駆動磁石部を回転駆動させる回転駆動装置と、を備えている。そして記自転用同心円の直径は、前記公転用同心円の直径と異なる直径とされており、前記フロートの浮力は、前記被駆動磁石部が前記容器の底面に接触しないように調整されている、構成であれば、その具体的態様はいかなるものであっても構わない。
【0036】
また、本発明に係る別の態様である平面状の底面が形成され、液体が充填された容器内に配設された撹拌子と、該容器外に該撹拌子を回転させる駆動部と、を備える撹拌装置において、前記撹拌子は、前記底面に対して垂直方向に延伸した自転軸と、該自転軸の前記底面側の一方端部に、前記底面と並行するように、前記自転軸を中心とした自転用同心円の円周を外縁として前記自転軸から放射状に延在し、前記自転用同心円の円周方向に対して間隔を空けて少なくとも二つの磁性を有する複数の多極磁石である
第3の磁石が配設された被駆動磁石部と、該自転軸の他方端部側に備えられ、前記撹拌子を液面まで浮上させる水密のフロートと、を備えている。そして、前記駆動部は、前記底面を臨むように公転軸を中心に回動し、前記公転軸を中心とした公転用同心円の円周を外縁として前記公転軸から放射状に延在し、前記公転用同心円の円周方向に対して間隔を空けて、複数の第4の磁石と、該第4の磁石と磁性の異なる複数の第5の磁石が、交互に間隔をおいて配設された円盤状の駆動磁石部と、該駆動磁石部を回転駆動させる回転駆動装置と、を備えている。そして、前記自転用同心円の直径は、前記公転用同心円の直径と異なる直径とされており、前記フロートの浮力は、前記被駆動磁石部が前記容器の底面に接触しないように調整されている、構成であれば、その具体的態様はいかなるものであっても構わない。
【0037】
(第1実施形態の説明)
はじめに、
図1~5を参照して本発明に係る一実施形態を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る撹拌装置の側断面を示す全体説明図である。
図2は、本発明の第1実施形態に係る撹拌子の一態様の側断面を示す説明図である。
図3は、本発明の第1実施形態に係る被駆動磁石部の平面図である。
図4は、本発明の第1実施形態に係る駆動磁石部の平面図である。
図5は、本発明の第1実施形態に係る撹拌子の動作説明図である。
【0038】
図1~4を参照すると、本実施形態は、平面状の底面7が形成され、被撹拌材料が混入された液体6が充填された容器5を備える撹拌槽と、その容器5内に配設された撹拌子110及び容器5外に撹拌子110を回転させる駆動部150を備える撹拌装置100と、からなる撹拌器10である。
【0039】
撹拌槽となる容器5の形状については、撹拌装置100が備えられる範囲において平面状の底面7が形成されているものであれば、円筒状であっても、直方体や立方体であっても本実施形態を適用することができる。また、容器5の材料については、非磁性体(磁石が吸着しない材質)であれば、一般的な撹拌槽を適用することができる。
【0040】
撹拌子110は、底面7に対して垂直方向に延伸した自転軸130と、自転軸130の底面7側の一方端部に、底面7と並行するように、自転軸130を中心とした自転用同心円125の円周を外縁として自転軸130から放射状に延在し、自転用同心円125の円周方向に対して間隔を空けて複数の第1磁石122が配設された被駆動磁石部120と、自転軸130の他方端部側に備えられ、撹拌子110を液面まで浮上させる水密のフロート140と、を備えている。
【0041】
撹拌子110を構成する自転軸130、被駆動磁石部120、フロート140については、被撹拌材料が混入された液体6への溶融等の悪影響を及ぼさないものであれば材料・形状に関して特に制限はされない。
【0042】
被駆動磁石部120は、自転軸130に固着されており、
図3に示すように、円盤状の形状として第1磁石122を配置するものでも、後述する実施例の
図10のように自転軸130から放射状に延出した腕状の形状として、その先端方向に第1磁石122は配置するように、第1磁石122の部分だけの板状の形態としても良い。なお、円盤状であっても腕状であっても、自転用同心円125の円周を外縁とするように構成されている。また、第1磁石122を配置する個数は、公転のための磁気カップリングがされていれば良く、限定はされないが、少なくとも対角に2つ備えた構成が好ましい。
【0043】
複数の第1磁石122は、第2磁石162と対極となる極性を有するものであれば良く、
図3では一例として、平面視でN・S極のN極が臨めるように配置している。また、複数の第1磁石122の数については、予測しやすい回転運動を実現させるためには等角の間隔で配置する方が好ましいが、故意に不規則な揺動をさせるために間隔を変えて配置しても良い。
【0044】
フロート140は、
図1に示すように、撹拌子110の全長HLと液深HBとの関係に基づき、被駆動磁石部120が容器5の底面7に接触しないように磁気カップリングによる引き合う力FMD、FMUに対して浮力FBが調整されている。
【0045】
このように本実施形態では、特許文献1~3のように、磁気カップリングによって浮遊位置の調整とともに回転駆動力を伝達するという難しい調整を必要としない。すなわち、フロート140は、撹拌子110自身を浮遊させること、と併せて磁気カップリングによる引き合う力FMD,FMUに対抗するように浮力FBを調整するだけとなる。
【0046】
例えば、容器5が空の状態で、撹拌子110を容器5内の底面7に載置しておき、容器5内に非撹拌材料と溶液を注入していくと、溶液の量が液深HBに達したとき、撹拌子110はフロート140の浮力FBによって液体6内で浮上する。その後、撹拌時の公転・自転に応じた被駆動磁石部120と底面7とが所定の距離となったときに、撹拌を開始することができる。
【0047】
フロート140内には、液体6の比重に応じた液体もしくは気体を充填することで浮力FBを調整することができる。この構成によれば、被撹拌材料に応じて、フロート140のサイズは変えずに、フロート140内に必要な浮力に応じて気体もしくは液体を充填・注入することができる。
【0048】
なお、
図1,2ではフロート140の形状を円錐台としているが、例えば、円筒であっても、円盤であっても、逆の円錐台であっても良く、特に形状は限定されない。
【0049】
図2を参照すると、フロート140と被駆動磁石部120との間に羽根145を備える構成とすることもできる。羽根145は、被撹拌材料が混合された液体6への溶融等の悪影響を及ぼさないものであれば材料に関して特に制限はされない。
【0050】
羽根145は、撹拌子110が公転を開始した際に、液体から受ける抵抗を大きくすることで自転の回転を促進させることができる。羽根145の形状については、自転の回転や、撹拌程度に応じて設定することができ、特に限定はされない。
【0051】
駆動部150は、底面7を臨むように公転軸170を中心に駆動磁石部160を回動させる。そして、駆動磁石部160には公転軸170を中心とした公転用同心円165の円周を外縁として公転軸170から放射状に延在し、公転用同心円165の円周方向に対して間隔を空けて第1磁石122と対極となる複数の第2磁石162が配設される。この駆動磁石部160は、回転駆動装置であるモータ180によって回転駆動される。
【0052】
駆動磁石部160は、公転軸170に固着されており、
図4に示すように、円盤状の形状として第2磁石162を配置するものでも、公転軸170から放射状に延出した腕状の形状として、その先端方向に第2磁石162が配置されるように、第2磁石162の部分だけの板状の形態としても良い。なお、円盤状であっても腕状であっても、公転用同心円165の円周を外縁とするように構成されていればよい。また、第2磁石162を配置する個数は、公転のための磁気カップリングがされていれば良く、限定はされないが、少なくとも対角に2つ備えた構成が好ましい。
【0053】
複数の第2磁石162は、第1磁石122と対極となる極性を有するものであれば良く、
図4では一例として、平面視でS極が臨めるように配置している。また、複数の第2磁石162の数については、予測しやすい回転運動を実現させるためには等角の間隔で配置する方が好ましいが、故意に不規則な揺動をさせるために間隔を変えて配置しても良い。
【0054】
図5も併せて参照して、撹拌子110の公転、自転について説明する。なお、
図5は、
図1の状態に撹拌子110および駆動部150が配置されているものとしており、上方から見たものである。
【0055】
駆動磁石部160がモータ180によって、公転軸170を中心として公転回転RBをする。撹拌子110の第1磁石122と、駆動部150の第2磁石162とは磁気カップリングされていることから、撹拌子110は公転軌道175に沿って公転回転RBを開始する。
【0056】
公転回転RBによって、撹拌子110は液体6の抵抗を受ける。このとき自転軸130と公転軸170とは偏心していることから、撹拌子110には公転回転RBの回転方向とは逆向きの力が働き、撹拌子110は、自転回転RFを開始する。
【0057】
撹拌子110の公転軌道175は、第1磁石122が配設される被駆動磁石部120の自転用同心円125と、第2磁石162が配設される駆動磁石部160の公転用同心円165とで決定される。
【0058】
本実施形態によれば、撹拌子110を容器5である撹拌槽内に対して非接触で、公転運動および自転運動を実現できる。すなわち、この構成による撹拌装置100は、公転運動によって生ずる遠心力と、自転運動によるせん断応力によって、被撹拌材料を混合し、均一な撹拌をすることができる。
【0059】
そして、非接触で遊星運動を実現させることで、撹拌装置100と容器5との接触部分でおこる摩擦磨耗に起因する被撹拌物への不純物の混入を防止できる。また、この構成は、従来技術と比較して、簡単な構成かつ調整が容易となり、コスト低減、調整・調節に伴う生産性向上を実現させる。
【0060】
(第2実施形態の説明)
次に、本発明に係る第2実施形態について
図1、2、6~8に参照して説明する。
図6は、本発明の第2実施形態に係る被駆動磁石部の平面図である。
図7は、本発明の第2実施形態に係る駆動磁石部の平面図である。
図8は、本発明の第2実施形態に係る撹拌子の動作説明図である。なお、以下の説明において、第1実施形態と同様な構成についての説明は省き、差異のある構成のみについて説明する。
【0061】
図1,2,6を参照すると、第2実施形態に係る撹拌装置200の撹拌子210は、底面7に対して垂直方向に延伸した自転軸230と、自転軸230の底面7側の一方端部に、底面7と並行するように、自転軸230を中心とした自転用同心円225の円周を外縁として自転軸230から放射状に延在し、自転用同心円225の円周方向に対して間隔を空けて少なくとも二つの磁性を有する複数の多極磁石である第3磁石222,224が配設された被駆動磁石部220と、自転軸230の他方端部側に備えられ、撹拌子210を液面まで浮上させる水密のフロート140と、を備えている。
【0062】
そして、
図7も併せて参照すると、駆動部250は、底面7を臨むように公転軸270を中心に回動し、公転軸270を中心とした公転用同心円272の円周を外縁として公転軸270から放射状に延在し、公転用同心円272の円周方向に対して間隔を空けて、複数の第4磁石266と、第4磁石266と磁性の異なる複数の第5磁石264が、交互に間隔をおいて配設された円盤状の駆動磁石部260と、駆動磁石部260を回転駆動させるモータ180と、を備えている。
【0063】
自転用同心円225の直径は、公転用同心円272の直径よりも小さい直径とされており、フロート140の浮力は、被駆動磁石部220が容器5の底面7に接触しないように調整されている。
【0064】
図8も併せて参照して、撹拌子210の公転、自転について説明する。なお、
図7は、
図1の状態に撹拌子210および駆動部250が配置されているものとしている。
【0065】
駆動磁石部260がモータ180によって、公転軸270を中心として公転回転RBをする。撹拌子210の第3磁石222、224と、駆動部250の第4磁石266もしくは第5磁石264のいずれかとは磁気カップリングされていることから、撹拌子210は公転軌道275に沿って公転回転RBを開始する。
【0066】
公転回転RBによって、撹拌子210は液体6の抵抗を受ける。このとき自転軸230と公転軸270とは偏心していることから、撹拌子210には公転回転RBの回転方向とは逆向きの力が働き、撹拌子210は、自転回転RSを開始する。
【0067】
撹拌子210の公転軌道275は、第3磁石222、224が配設される被駆動磁石部220の自転用同心円225と、第4磁石266および第5磁石264が配設される駆動磁石部260の公転用同心円265とで決定される。
【0068】
さらに、第2実施形態では
図8(A)、(B),(C)に示すように、液体6の抵抗による回転に加えて、第3磁石222と第4磁石266および第5磁石264との間で磁気カップリングによる引き合う力と、回転のずれによって反発する力が交互に発生する。
【0069】
メカニズムを詳しく説明する。容器5である撹拌槽内の撹拌子210が自ら備えたフロート140による浮力FBと、撹拌子210の撹拌槽底面7側に備えた磁石と撹拌槽底面に備えた駆動部250に備えた第4磁石266もしくは第5磁石264とが引き合う磁力と、が撹拌子210を容器5内に浮遊した状態で、かつ撹拌子210の位置を規制する。
【0070】
そして、駆動部250の公転用同心円272と撹拌子210の自転用同心円225のサイズを異ならせることで、撹拌子210の自転軸230は公転軌道275上を遊星運動として回転させることができる。さらに、駆動部250の駆動磁石部260を回転させると、駆動磁石部260に間隔をおいて配設された第4磁石266および第5磁石264と、被駆動磁石部220に間隔をおいて配設された複数の多極磁石である第3磁石222,224とが、公転開始前の撹拌子210が駆動磁石部260のそれぞれの対極となる磁石に引き寄せられた状態から、駆動磁石部260の回転に伴い、撹拌子が公転運動を開始する。
【0071】
その後、公転運動をする撹拌子210は、撹拌子210周りの液体6の抵抗によって、公転方向と逆方向の自転を行う。撹拌子210の自転に伴い、
図8の(A)~(C)に示すように、第3磁石224と第4磁石266および第5磁石264との磁気カップリングによって引き寄せ、反発が繰り返され、撹拌子210の自転の回転速度を上昇させる。このように本実施形態によれば、撹拌槽内で撹拌子210を遊星運動させることができるとともに、自転回転速度を増減速させることができる。
なお、公転方向と自転方向との関係は、自転用同心円225の中心が公転軌道275の内周側、もしくは外周側を通過することで変化させることができるとともに、初期的な回転や羽根による水の抵抗等の力の関係で変化させることができる。
【0072】
このように、第2実施形態は第1実施形態の液体の抵抗のみによる自転回転RFと比べて、非撹拌材料に応じて磁気カップリングを利用して自転回転速度RSを制御することができる。
【0073】
(第3実施形態の説明)
次に、本発明に係る第3実施形態について
図9、10を参照して説明する。
図9は、本発明の第3実施形態に係る被駆動磁石部の平面図である。
図10は、本発明の第3実施形態に係る撹拌子の動作説明図である。
図9は、本発明の第3実施形態に係る撹拌子の説明図である。なお、以下の説明において、第1、2実施形態と同様な構成についての説明は省き、差異のある構成のみについて説明する。
【0074】
第2実施形態では
図8の動作図で示すように、一つの第3磁石、例えばN極の磁性を有する第3磁石222(
図6)の磁界は、その第3磁石が臨める位置にあるS極の磁性を有する第3磁石224の方向に広がっている。しかし、第3磁石(N極)222と第3磁石(S極)224の磁界強度が同等であるならば、第3磁石(N極)222の磁界は、相手方の第3磁石(S極)224との間の領域の一部にしか及ばない。このように第2実施形態は、磁気カップリングの強弱をスムーズにするとともに、撹拌子210が揺動に近い動きを実現し、撹拌にとって好適な動きを実現することができるが、公転の回転速度を上げると公転軌道275を離脱するおそれがある。
【0075】
第3実施形態は、
図6~8を参照して説明した第2実施形態の撹拌子210において磁性の異なる第3磁石222,224の配置、磁石の向きを変更している。
【0076】
図9を参照すると第3実施形態に係る撹拌装置500の撹拌子510は、S極磁界領域527の間隔を空けて隣り合う第3A磁石(S極)522及びN極磁界領域526の間隔を空けて隣り合う第3B磁石(N極)524を配置しており、相互に相手方を臨める側の磁性が同じである、ように構成されている。
【0077】
図9では、自転軸230から放射状に等間隔で8本の腕状の磁石が延出しており、それぞれの腕には第3A磁石522と第3B磁石524とが周方向に隣り合わせに配置されている。このように配置することで、間隔を空けて隣り合う第3A磁石522,第3B磁石524の相互に相手方を臨める側の磁性を同じとする構成とすることができる。
【0078】
間隔を空けて隣り合う第3A磁石522,第3B磁石524の相互に相手方を臨める側の磁性を同じとすることで、第2実施形態のように一つの磁石によるものと比べて当該間隔の領域により広くかつ強度の高い同じ磁性の磁界であるN極磁界領域526、S極磁界領域527を形成することができる。
【0079】
図10を参照すると、自公転のメカニズムは第2実施形態と同様となる。すなわち、撹拌子510の自転に伴い、この形成された磁界と第4の磁石264および第5の磁石266との磁気カップリングによって引き寄せ、反発が繰り返され、撹拌子の自転RSの回転速度を上昇させる。
【0080】
しかしながら、第2実施形態における単体の第3の磁石222,224の磁界に比べて、N極磁界領域526、S極磁界領域527という広く強い磁界となる。そのため、磁気カップリングによる引き寄せ、反発という過渡的な状態変化及び撹拌子と駆動磁石部との位置関係に対して、安定した磁気結合を維持することができる。この構成によって撹拌子の公転軌道275からの離脱を防止して、自転及び公転RBの回転速度を高めることができ、撹拌能力を向上させることができる。
【0081】
なお、
図9では第3A磁石522,第3B磁石524を一組として、放射状に8本の腕状に配置しているが、これは一例であり、腕の本数や腕の間隔は、撹拌層内の状態、槽内の液体6の種類、要求される自公転RS,RBの回転速度等に応じた磁気カップリングを実現させるべく適宜設定することができる。
【0082】
ここで、第2実施形態と第3実施形態の作用の差異について詳しく説明する。
第2実施形態の磁石配置は、第3実施形態と比べ一つの磁性に係る磁束密度が低くなる。したがって、撹拌子を拘束する力は磁石から離れるにつれて急激に減少する。
一方、第3実施形態では、同極の磁石間の磁束密度が高く、撹拌子を拘束する力の減少は第2実施形態と比べて小さくなる。第2実施形態のように拘束が少なければ、公転軌道に対して、内側、外側へ揺れるような運動となる。
【0083】
このように外形的な特徴(円柱や、十字型等)に依存するのではなく磁石の配置(磁性を考慮した)によって、第2実施形態、第3実施形態、それぞれの特徴が現れる。「撹拌効率」に関して言えば、(1)第2実施形態:揺動運動によって、羽根等によって撹拌する領域が大きい。すなわち、ゆったりとした回転でより広い領域を直接撹拌する。(2)第3実施形態:自転公転の回転速度を上げて撹拌できる。すなわち、回転による撹拌を求められているときに、回転数の制御範囲が広い、というそれぞれの作用効果を奏する。
【0084】
撹拌には、被撹拌材料に応じた剪断力が重要な要素となる。例えば、ファインケミカル系は相応の撹拌子の回転が要求される一方、バイオケミカル系は、細胞等を傷つけないように剪断力を抑える必要がある。第2実施形態の場合、回転数を上げることは難しいが、より広い範囲を撹拌子が自公転することで、大きな剪断力を発生させずに撹拌することができる。一方、第3実施形態の場合は、必要に応じて、磁界の領域を設定することで自公転の回転を上げて剪断力を大きくすることができる。このように、被撹拌材料に応じて、第2,3実施形態を使い分けることが好適となる。
【0085】
(第4実施形態の説明)
次に、本発明に係る第4実施形態について
図11を参照して説明する。
図11は、本発明の第4実施形態に係る撹拌子の説明図である。なお、以下の説明において、第1、2、3実施形態と同様な構成についての説明は省き、差異のある構成のみについて説明する。
【0086】
本実施形態に係る撹拌装置300は撹拌子310の変形例である。すなわち、第1実施形態及び第2実施形態の撹拌装置100,200を構成するフロート140を、自転軸に沿って、上下に移動できる、移動フロート340にしたものである。
【0087】
本構成によれば、移動フロート340は、例えば
図1の液深HBに合わせて、
図11(A)もしくは(B)に示すようにフロート位置を可変できるようにしている。可変する機構については、機械的であっても、後から自転軸130に移動フロート340を取り付けるものであっても、特に限定はされない。
【0088】
この構成によれば、撹拌槽に充填された被撹拌材料の液体の水位が変化しても、撹拌槽の底面に接触しないようにフロート位置を調整することで撹拌子の位置を調整することができる。
【0089】
(第2実施形態に係る一実施例の説明)
次に
図12、13を参照して、本発明の第2実施形態に係る一実施例について説明する。
図12は、本発明の一実施例に係る撹拌子の説明図である。
図13は、本発明の一実施例の動作の動画からキャプチャーされた画像である。
【0090】
図12を参照すると、一実施例に係る撹拌装置400の撹拌子410は、自転軸430と、この自転軸430の上方に配設された逆円錐台状のフロート140と、自転軸430から放射状に延設された羽根445と、自転軸430の下方に配設された被駆動磁石部420と、からなる。なお、駆動部等の基本的な構成については第2実施形態と同様であることから省略する。
【0091】
本実施例の仕様、構成及び諸元、試験内容を箇条書きとして以下に示す。
・撹拌子に4枚の羽根が自転軸から放射状に突出した形状とする。
・4枚の羽根と同位置に矩形の被駆動磁石部が4枚自転軸から放射状に延設する形態とする。
・被駆動磁石部の下面は水槽底面に対して並行となるように構成する。
・それぞれの被駆動磁石部の下面の突出部先端近くに双極の磁石が配設(先端は自転軸から約40mm)され、自転用同心円の直径は約70mmとする。
・公転用同心円の直径は約130mmとする。
・初めに、アクリル製の方形型水槽(高さ300mm×幅300mm×奥行300mm)に約16~17L(リットル)の水を充填する。
・駆動磁石部と水槽底面(槽外)との距離を約20mmになるように設定する。
・被駆動磁石部と水槽底面(槽内)との距離を約10mmとなるようにフロートを調整する。
・駆動磁石部と被駆動磁石部とが磁気結合していることを確認する。
・駆動磁石部を回転(150rpm)させる。
【0092】
本実施例の実験結果の状況を、撮影した動画のキャプチャー画像を
図13(A),(B)に示す。
図13に示すように、本実施例は、撹拌子410を容器5である撹拌槽内に対して非接触で、公転運動および自転運動(遊星運動)を実現できることが確認された。すなわち、この構成による撹拌装置400は、公転運動によって生ずる遠心力と、自転運動によるせん断応力によって、被撹拌材料を混合し、均一な撹拌をすることができることが確認された。なお、実験において、公転の回転数は12rpm、自転の回転数は66rpmという結果であった。
【0093】
以上説明したように、本発明は、超電導バルク体や複雑な磁石ユニットの磁力を必要とする磁気カップリングによらない、非接触で回転力を伝達する磁気カップリング及びこれを適用し、撹拌子を揺動的に回転させる撹拌装置を提供することができる。
【0094】
現在、細胞培養等の被撹拌材料を均一に混合するための撹拌装置の需要が高まっている。細胞培養等には、細胞にせん断応力がかからず、ゆっくりと全体を撹拌することが望ましい。また、異物の混入がないように、摩擦・摩耗が生じずにかつ、外部から完全に密閉されることが求められている。本発明に係る撹拌装置は、係る要求に合致する撹拌作用を提供することができる。
【符号の説明】
【0095】
5・・・容器
6・・・液体
7・・・底面
10・・・撹拌器
100、200、300、400、500・・・撹拌装置
110、210、310、410、510・・・撹拌子
120、220、520・・・被駆動磁石部
122・・・第1磁石
125、225・・・自転用同心円
130、230、430・・・自転軸
140・・・フロート
145、445・・・羽根
150、250・・・駆動部
160、260・・・駆動磁石部
162・・・第2磁石
165、272・・・公転用同心円
170、270・・・公転軸
175、275・・・公転軌道
180・・・モータ
224・・・第3磁石
264・・・第5磁石
266・・・第4磁石
340・・・移動フロート
522・・・第3A磁石
524・・・第3B磁石
526・・・N極磁界領域
527・・・S極磁界領域