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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035945
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】ねじの弛み止め構造
(51)【国際特許分類】
   F16B 39/282 20060101AFI20230306BHJP
   F16B 39/24 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
F16B39/282 C
F16B39/24 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134147
(22)【出願日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2021142085
(32)【優先日】2021-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591209246
【氏名又は名称】濱中ナット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091465
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 久夫
(72)【発明者】
【氏名】濱中 重信
【テーマコード(参考)】
3J034
【Fターム(参考)】
3J034BA04
3J034DA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】設計軸力による締結が維持されているかが外観上確実に判断できる弛み止め構造を提供する。
【解決手段】六角ナット30と六角ナット形状の座金20とから構成する。座金の頂面及び六角ナットの座面には複数の傾斜面21、31を形成し、複数の各傾斜面はねじ締付け方向前進側の座金の頂面高さが六角ナットに対して低くねじ締付け方向前進側の六角ナットの座面高さが座金に対して高くなるように傾斜しかつ座金の頂面高さの低くなった側の傾斜面端部及び六角ナットの座面高さの高くなった側の傾斜面端部に係合段部を形成する。座金及び六角ナットは係合段部が相互に係合されることによって相互に締付け方向への共回りが可能である。六角ナットに押接された座金が被接合部材を押接することによる締付け軸力によって座金の弛み方向の回転を規制し、座金と六角ナットの傾斜面によって六角ナットのゆるみ方向のリード角での螺旋回転を規制する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合部材の挿通穴にボルト軸部を挿通し、ボルト軸部の雄ねじにナットを螺合させて締め付けるようにしたねじの弛み止め構造において、
六角ナット(30)と該六角ナット(30)の座面が押接する六角ナット形状の座金(20)とを備え、
上記座金(20)の中心にはボルト軸部が挿通しえる挿通穴が形成されている一方、上記六角ナット(30)の内面には上記ボルト軸部の雄ねじと螺合し得る雌ねじが形成され、
上記座金(20)の頂面及び上記六角ナット(30)の座面には複数の傾斜面(21、31)が形成され、該複数の各傾斜面(21、31)はねじ締付け方向前進側の座金(20)の頂面高さが六角ナット(30)に対して低くなるとともにねじ締付け方向前進側の六角ナット(30)の座面高さが座金(20)に対して高くなるように傾斜しかつ座金(20)の頂面高さの低くなった側の傾斜面(21)端部及び六角ナット(30)の座面高さの高くなった側の傾斜面(31)端部に締付け回転時に相互に係合し得る角状の係合段部を有する形状をなし、
該複数の各傾斜面(21、31)の傾斜角はねじの弛み方向にねじのリード角の1.1倍以上の角度に設定されており、
上記座金(20)及び六角ナット(30)は係合段部が相互に係合されることによって相互に締付け方向への共回りが可能であるとともに相互に位置決めされている一方、
上記六角ナット(30)に押接された上記座金(20)が上記被接合部材(61)を押接することによる締付け軸力によって上記座金(20)の弛み方向の回転が規制されるとともに、上記座金(20)の傾斜面(21)と上記六角ナット(30)の傾斜面(31)の傾斜面角度によって上記六角ナット(30)のゆるみ方向のリード角での螺旋回転が規制されていることを特徴とするねじの弛み止め構造。
【請求項2】
被接合部材の挿通穴にボルト軸部を挿通し、ボルト軸部の雄ねじにナットを螺合させて締め付けるようにしたねじの弛み止め構造において、
六角ナット(30)と該六角ナット(30)の座面が押接する六角ナット形状の座金(20)とを備え、
上記座金(20)の中心にはボルト軸部が挿通しえる挿通穴が形成されている一方、上記六角ナット(30)の内面には上記ボルト軸部の雄ねじと螺合し得る雌ねじが形成され、
上記座金(20)の頂面及び上記六角ナット(30)の座面には複数の傾斜面(21、31)が形成され、該複数の各傾斜面(21、31)はねじ締付け方向前進側の座金(20)の頂面高さが六角ナット(30)に対して低くなるとともにねじ締付け方向前進側の六角ナット(30)の座面高さが座金(20)に対して高くなるように傾斜しかつ座金(20)の頂面高さの低くなった側の傾斜面(21)端部及び六角ナット(30)の座面高さの高くなった側の傾斜面(31)端部に締付け回転時に相互に係合し得る角状の係合段部を有する形状をなし、
該複数の各傾斜面(21、31)の傾斜角はねじの弛み方向にねじのリード角の1.1倍以上の角度に設定されており、
上記座金(20)及び六角ナット(30)は係合段部が相互に係合されることによって相互に締付け方向への共回りが可能であるとともに相互に位置決めされている一方、
上記六角ナット(30)に押接された上記座金(20)が上記被接合部材(61)を押接することによる締付け軸力によって上記座金(20)の弛み方向の回転が規制されるとともに、上記座金(20)の傾斜面(21)と上記六角ナット(30)の傾斜面(31)の傾斜面角度によって上記六角ナット(30)のゆるみ方向のリード角での螺旋回転が規制される一方、
上記座金(20)と上記被接合部材(61)との間にはワッシャー(200)が介設され、該ワッシャー(200)は軟鉄を用いて製作されていることを特徴とするねじの弛み止め構造。
【請求項3】
上記座金(20)と上記六角ナット(30)の側面稜線(22、32)の位置ずれから所定の設計軸力での締付けが維持されていることを視認され得るようになした請求項1又は2記載のねじの弛み止め構造。
【請求項4】
上記複数の傾斜面(21、31)はナット(30)の六角形状に対応して形成されている請求項1又は2記載のねじの弛み止め構造。
【請求項5】
上記傾斜面(21、31)の外辺が上記座金(20)の上側頂面及び六角ナット(30)の座面の面内において円弧状に形成されることによって、上記複数の傾斜面(21、31)の外形が円形状をなしている請求項1記載のねじの弛み止め構造。
【請求項6】
上記傾斜面(21、31)が上記座金(20)の上側頂面及び六角ナット(30)の座面の全面に形成されることによって、上記複数の傾斜面(21、31)の外形が六角形状をなしている請求項1記載のねじの弛み止め構造。
【請求項7】
上記傾斜面(21、31)が所定の摩擦力の面粗度を有する座金(20)と六角ナット(30)が熱間鍛造又は冷間鍛造によって量産可能である請求項1又は2記載のねじの弛み止め構造。
【請求項8】
上記傾斜面(21、31)が所定の摩擦力の面粗度を有するとともに、上記座金(20)及び上記六角ナット(30)の側面稜線(22、32)のずれから設計軸力での締付けが維持されていることを確認し得る座金(20)と六角ナット(30)が熱間鍛造又は冷間鍛造によって量産可能である請求項1又は2記載のねじの弛み止め構造。
【請求項9】
上記座金(20)と上記被接合部材(61)との間にはワッシャー(200)が介設され、該ワッシャー(200)はSS400相当の硬さを有する軟鉄を用いて製作されている一方、上記被接合部材(61)はHRC硬度で50以上に調質され研磨されている請求項2記載のねじの弛み止め構造。
【請求項10】
被接合部材の挿通穴にボルト軸部を挿通し、ボルト軸部の雄ねじにナットを螺合させて締め付けるようにしたねじの締結構造に用いられる座金であって、
上記座金(20)は六角ナット(30)の座面が押接される六角ナット形状をなし、
上記座金(20)の頂面には複数の傾斜面(21)が形成され、該複数の各傾斜面(21)はねじ締付け方向前進側の座金(20)の頂面高さが六角ナット(30)に対して低くなるように傾斜しかつ座金(20)の頂面高さの低くなった側の傾斜面(21)端部に六角ナット(30)の座面高さの高くなった側の傾斜面(31)端部の角状の係合段部と締付け回転時に相互に係合し得る角状の係合段部を有する形状をなし、
該座金(20)の複数の傾斜面(21)は上記六角ナット(30)の座面に形成された複数の傾斜面(31)に押接されるようになっており、
上記座金(20)の複数の各傾斜面(21)の傾斜角はねじの弛み方向にねじのリード角の1.1倍以上の角度に設定されており、
上記座金(20)は係合段部が六角ナット(30)の係合段部と相互に係合されることによって相互に締付け方向への共回りが可能であるとともに相互に位置決めされている一方、
上記六角ナット(30)に押接された上記座金(20)が上記被接合部材(61)を押接することによる締付け軸力によって上記座金(20)の弛み方向の回転が規制されるとともに、上記座金(20)の傾斜面(21)と上記六角ナット(30)の傾斜面(31)の傾斜面角度によって上記六角ナット(30)の弛み方向のリード角での螺旋回転が規制されるようになっていることを特徴とする六角ナット形状の座金。
【請求項11】
上記六角ナット(30)の側面稜線(22、32)の位置ずれから所定の設計軸力での締付けが維持されていることを視認され得るようになした請求項10記載の六角ナット形状の座金。
【請求項12】
上記傾斜面(21)の外辺が上記座金(20)の上側頂面の面内において円弧状に形成されることによって、上記傾斜面(21)の外形が円形状をなしている請求項10記載の六角ナット形状の座金。
【請求項13】
上記傾斜面(21)は上記座金(20)の上側頂面の全面に形成されることによって、上記六つの傾斜面(21)の外形が六角形状をなしている請求項10記載の六角ナット形状の座金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はねじの弛み止め構造に関し、特に弛み止めを確実に行うことができるとともに、設計軸力による締付けが維持されていることを外観上確実に判断できるようにした弛み止め構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、部材を締結する場合、部材に挿通穴を形成し、挿通穴にボルトを挿通し、ボルトの雄ねじにナットの雌ねじを螺合させ、ボルト・ナットを締めつけて締結する方式が一般的である。
【0003】
このボルト・ナットによる締結では振動、熱膨張、経年変化などの原因によって締結が弛むおそれがあることから、種々な弛み止め方式が提案されている。例えば、ナットの頂面又は座面のねじ穴周縁に弛み止め板を固定し、弛み止め板を弾性変形させてボルトのねじ山フランクに押しつけ、これによってナットに回転抵抗を付与するようにした弛み止め構造が知られている(特許文献1)。
【0004】
また、先端側がナット中心に向けて偏向された円弧状のロック部をナットの頂面に一体的に形成する一方、ボルトの雄ねじに凹所を形成し、凹所にロック部の先端を嵌入させることによりナットの弛み方向への廻り止めを行う一方、ロック部が弾性変形してロック部の先端が凹所から抜け出させることによりナットの締付け方向への回転を許容するようにした弛み止め構造が提案されている(特許文献2)。
【0005】
また、従来より、座金のナットとの接触部分よりも外側の部分に凹凸を形成し、ナットは座金の内側の平滑な面と接触してスムーズに回転し、座金の凹凸を被接合部材の座面と接触させることにより座金の共回りを防止するようにした技術が提案されている(特許文献3)。
【0006】
また、座金の被接合部材との接触面に凹凸を形成し、座金のボルトやナットと接する面は平滑とし、ボルトやナットを回転させたときに座金が共回りしないようにした技術が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-124043号公報
【特許文献2】特開2002-242921号公報
【特許文献3】特開2003-172332号公報
【特許文献4】特開2009-144883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1~4記載の構造では設計軸力による締結を確実に維持するためには高い加工精度を必要としていた。また、外観上、設計軸力による転結が持続しているのか否かが判断できなかった。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑み、弛み止めを確実に行うことができるとともに、設計軸力による締付けが維持されていることを外観上確実に判断できるようにした弛み止め構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明に係るねじの弛み止め構造は、被接合部材の挿通穴にボルト軸部を挿通し、ボルト軸部の雄ねじにナットを螺合させて締め付けるようにしたねじの弛み止め構造において、六角ナットと該六角ナットの座面が押接する六角ナット形状の座金とを備え、上記座金の中心にはボルト軸部が挿通しえる挿通穴が形成される一方、上記六角ナットの内面には上記ボルト軸部の雄ねじと螺合し得る雌ねじが形成され、上記座金の頂面及び上記六角ナットの座面には複数の傾斜面が形成され、該複数の各傾斜面はねじ締付け方向前進側の座金の頂面高さが六角ナットに対して低くなるとともにねじ締付け方向前進側の六角ナットの座面高さが座金に対して高くなるように傾斜しかつ座金の頂面高さの低くなった側の傾斜面端部及び六角ナットの座面高さの高くなった側の傾斜面端部に締付け回転時に相互に係合し得る角状の係合段部を有する形状をなし、該複数の各傾斜面の傾斜角はねじの弛み方向にねじのリード角の1.1倍以上の角度に設定されており、上記座金及び六角ナットは係合段部が相互に係合されることによって相互に締付け方向への共回りが可能であるとともに相互に位置決めされている一方、上記六角ナットに押接された上記座金が上記被接合部材を押接することによる締付け軸力によって上記座金の弛み方向の回転が規制されるとともに、上記座金の傾斜面と上記六角ナットの傾斜面の傾斜面角度によって上記六角ナットのゆるみ方向のリード角での螺旋回転が規制されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るねじの弛み止め構造は、被接合部材の挿通穴にボルト軸部を挿通し、ボルト軸部の雄ねじにナットを螺合させて締め付けるようにしたねじの弛み止め構造において、六角ナットと該六角ナットの座面が押接する六角ナット形状の座金とを備え、上記座金の中心にはボルト軸部が挿通しえる挿通穴が形成される一方、上記六角ナットの内面には上記ボルト軸部の雄ねじと螺合し得る雌ねじが形成され、上記座金の頂面及び上記六角ナットの座面には複数の傾斜面が形成され、該複数の各傾斜面はねじ締付け方向前進側の座金の頂面高さが六角ナットに対して低くなるとともにねじ締付け方向前進側の六角ナットの座面高さが座金に対して高くなるように傾斜しかつ座金の頂面高さの低くなった側の傾斜面端部及び六角ナットの座面高さの高くなった側の傾斜面端部に締付け回転時に相互に係合し得る角状の係合段部を有する形状をなし、該複数の各傾斜面の傾斜角はねじの弛み方向にねじのリード角の1.1倍以上の角度に設定されており、上記座金及び六角ナットは係合段部が相互に係合されることによって相互に締付け方向への共回りが可能であるとともに相互に位置決めされている一方、上記六角ナットに押接された上記座金が上記被接合部材を押接することによる締付け軸力によって上記座金の弛み方向の回転が規制されるとともに、上記座金の傾斜面と上記六角ナットの傾斜面の傾斜面角度によって上記六角ナットのゆるみ方向のリード角での螺旋回転が規制され、又上記座金と上記被接合部材との間にはワッシャーが介設され、該ワッシャーは軟鉄を用いて製作されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の特徴の1つは六角ナット形状の座金と六角ナットと備え、座金と六角ナットの側面稜線のずれから締結の弛みを視認、例えば写真などで視認できるようにした点にある。
これにより、ナットの設計軸力での締結が持続しているのか否かを外観上、確実に判断できる。
【0013】
本発明の第2の特徴は座金の頂面と六角ナットの座面に複数の傾斜面を形成し、複数の各傾斜面はねじ締付け方向前進側の座金の頂面高さが六角ナットに対して低く、ねじ締付け方向前進側の六角ナットの座面高さが座金に対して高くなるように傾斜しかつ座金の頂面高さの低くなった側の傾斜面端部及び六角ナットの座面高さの高くなった側の傾斜面端部に締付け回転時に相互に係合し得る角状の係合段部を有する形状となし、複数の各傾斜面の傾斜角をねじの弛み方向にねじのリード角の1.1倍以上の大きさの角度に設定した点にある。
【0014】
これにより、座金及び六角ナットは係合段部が相互に係合されることによって相互に締付け方向への共回りが可能であるとともに相互に位置決めできる。
また、六角ナットが被接合部材に対して弛み方向に回転しようとしても、六角ナットに押接された座金が被接合部材を押接することによって締付軸力に起因する摩擦抵抗によって座金の弛み方向の回転が規制され、座金と六角ナットの傾斜面の傾斜角がねじのリード角の1. 1倍以上に設定され、座金と六角ナットの傾斜面角度によって弛み方向のリード角度での螺旋回転が規制されるので、六角ナットの弛みが確実に阻止される。
【0015】
また、座金及び六角ナットの側面稜線のずれから設計軸力による締結が維持されているか否かを確認し得る座金と六角ナットを熱間鍛造又は冷間鍛造によって量産することができる。
特に、六角ナットの製造工程において雌ねじの加工工程を省略することによって本発明の特徴の1つである座金を製造できるので、製造工程を簡略化できる。
【0016】
さらに、本発明によれば、被接合部材の挿通穴にボルト軸部を挿通し、ボルト軸部の雄ねじにナットを螺合させて締め付けるようにしたねじの締結構造に用いられる座金であって、上記座金は六角ナットの座面が押接される六角ナット形状をなし、上記座金の頂面には複数の傾斜面が形成され、該複数の各傾斜面はねじ締付け方向前進側の座金の頂面高さが六角ナットに対して低くなるように傾斜しかつ座金の頂面高さの低くなった側の傾斜面端部に六角ナットの座面高さの高くなった側の傾斜面端部の角状の係合段部と締付け回転時に相互に係合し得る角状の係合段部を有する形状をなし、該座金の複数の傾斜面は上記六角ナットの座面に形成された複数の傾斜面に押接されるようになっており、上記座金の複数の各傾斜面の傾斜角はねじの弛み方向にねじのリード角の1.1倍以上の角度に設定されており、上記座金は係合段部が六角ナットの係合段部と相互に係合されることによって相互に締付け方向への共回りが可能であるとともに相互に位置決めされている一方、上記六角ナットに押接された上記座金が上記被接合部材を押接することによる締付け軸力によって上記座金の弛み方向の回転が規制されるとともに、上記座金の傾斜面と上記六角ナットの傾斜面の傾斜面角度によって上記六角ナットの弛み方向のリード角での螺旋回転が規制されるようになっていることを特徴とする六角ナット形状の座金を提供することができる。
【0017】
本発明によれば、以下のように効果を奏する。
六角ナットと座金が噛み合う角状の係合段差(係合段部)の効果により締付けトルクに応じ、被接合部材に必要な軸力を確実に与えることができる。
量産可能な鍛造効果での成形により費用のかかる2次加工を必要とせず、低コストでの弛み止め構造を提供できる。
六角成型された座金と六角成型された六角ナットの稜線の確認により締付けにおいて設計軸力での締付けが維持されていることを確認できる。
【0018】
本件発明者らの実験によれば、締付軸力が494MPa以上になると、締結が弛まないことが確認された。逆にいうと、締付軸力が494MPa未満では座金ごと回転してしまい、弛止め性能を発揮しない。
他方、平面研削して平坦度を出した軟鉄ワッシャーをギザ付き弛み止めナットに併用すると、HRC硬度で50以上に調質され研磨された部材に対しても軟質ワッシャーが密接するため、被接合部材に対する座金の回転が防止され、例えば297MPAの軸力であっても弛まなくなることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るねじの弛み止め構造の好ましい実施形態を示す概略斜視図である。
図2】上記実施形態を示す要部断面図である。
図3】上記実施形態における六角ナットの座面及び六角ナット形状座金の上側頂面を示す図である。
図4】上記実施形態における六角ナット及び六角ナット形状座金の係合状態を示す図である。
図5】上記実施形態における六角ナット及び六角ナット形状座金の係合状態における一部断面図である。
図6】上記実施形態における製造工程(a)及びその工程の要部(b)を示す図である。
図7】上記実施形態における六角ナット形状座金の上側頂面を加工するためのフォーミングパンチの要部の1例(b)及び他の例(a)を示す図である。
図8】第2の実施形態における六角ナット(a)及び六角ナット形状座金(b)を示す概略斜視図である。
図9】上記実施形態における六角ナット及び六角ナット形状座金の係合状態を示す図である。
図10】第3の実施形態を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1ないし図2は本発明に係るねじの弛み止め構造の好ましい実施形態を示す。図において、被結部材60、61の挿通穴には六角ボルト50のボルト軸部51が挿通され、本例の弛み止め構造によって所定の設計軸力による締結力によって弛み止め締結されている。
【0021】
本例の弛み止め構造は六角ナット形状の座金20及び六角ナット30から構成され、座金20の座面(下側座面)は被接合部材61に押接され、六角ナット30の下側座面は座金20の上側頂面に押接されている。
【0022】
座金20には中心に六角ボルト50のボルト軸部51が挿通し得る挿通穴が形成され、六角ナット30の内面には六角ボルト50のボルト軸部51の雄ねじと螺合し得る雌ねじが形成されている。
【0023】
また、座金20の上側頂面及び六角ナット30の下側座面には図3(a)(b)に示されるように傾斜面21、31がナットの六角形状に対応して形成されている。この六つの各傾斜面21、31は図5に示されるように、ねじ締付け方向前進側の座金20の頂面高さが六角ナット30に対して低く、ねじ締付け方向前進側の六角ナット30の座面高さが座金20に対して高くなるように傾斜し、かつ座金20の頂面高さの低くなった側の傾斜面21端部及び六角ナット30の座面高さの高くなった側の傾斜面31端部に締付け回転時に相互に係合し得る角状の係合段部を有する形状に形成され、又六つの各傾斜面21、31の傾斜角はねじの弛み方向にねじのリード角の1.1倍以上の角度に設定される。
【0024】
これにより、座金20及び六角ナット30は係合段部が相互に係合されることによって、相互に締付け方向への共回りが可能であるとともに、相互に位置決めされている。
【0025】
また、六角ナット30に押接された座金20が被接合部材61を押接することによる締付け軸力によって座金20の弛み方向の回転が規制され、又座金20の傾斜面21と六角ナット30の傾斜面31の傾斜面角度がねじの弛み方向にねじのリード角の1.1倍以上の角度に設定されていることによって、六角ナット30の弛み方向のリード角での螺旋回転が規制されている。
【0026】
また、座金20と六角ナット30の係合時に座金20の側面稜線22と六角ナット30の側面稜線32が図4(b)に示されるように位置合わせされ、六角ナット30の締結にゆるみが起こると、図4(a)に示されるように側面稜線22、32のずれが発生するので、側面稜線22、32から設計軸力での締結力が維持されていることを確認し得るようになっている。
【0027】
座金20及び六角ナット30は炭素鋼やステンレス鋼などの公知の材料を用い、材料に対応した温度域に加熱し、ナット圧造機によって荷重を加えてナット外形状の中心に下穴をあけたナットブランクを圧造した後、焼入れ焼き戻しの熱処理を行い、座金20の下穴はそのまま挿通穴として用い、六角ナット30の下穴についてはタップ及び転造タップを用いて雌ねじを刻設する。
【0028】
その際、座金20の上側頂面及び六角ナット30の下側座面には図7(b)に示されるようなフォーミングパンチ121を用いて円形帯状の傾斜面21を加工し、六角ナット30の下側座面についても同様のフォーミングパンチを用いて円形帯状の傾斜面32を加工する。
詳細には、六つの傾斜面21、31の外側辺及び内側辺を各々同一曲率の円弧状とすることによって傾斜面21、31の外形及び内径を円形状に形成し、全体として円形帯状に形成している。
【0029】
以上の熱間鍛造によって、つまり、切削加工を用いることなく、傾斜面21、31を所望の摩擦力を得ることのできる面粗度に製造するとともに、側面稜線22、32のずれから締結の弛みを確認し得る座金20及び六角ナット30を量産することができる。
勿論、熱間鍛造に代え、冷間鍛造によって製造することもできる。
【0030】
例えば、六角ナットを熱間鍛造によって製造する場合、図5(a)に示されるように、素材70を切断しアップセット素材80をアップセットによって製造する。
【0031】
次に、図5(b)に示されるように、フォーミングダイ111、フォーミングパンチ112、エジェクタースリーブ113、センターパンチ114及びノックアウトピン115によって成形ナット90を成形し、抜打ちナット100を抜き打ち加工する。これらの工程で1分間に100個以上の速度で量産することができる。
【0032】
本例では図7(b)に示す端面を成形したフォーミングパンチ121を傾斜面成形用に成形することにより、汎用六角ナットと同じ速度で、六面に傾斜面をつけた座金と六角ナットを製造でき、量産性が優れている。
【0033】
頂面に成形された六面の傾斜面21を有する六角形状座金20は六角ナット30の座面の傾斜面31に相対して組み合わせることにより、六角ナット30を締付ける際には係合段部が十分に引っ掛かって共回転させることができ、六角ボルト40に通常のナットと同じ軸力を発生させた状態で座金20を被接合部材61に押し付けて弛み止めすることができるとともに、座金20と六角ナット30を相互に位置決めすることができる。
【0034】
今、六角ナット30が被接合部材61に対して弛み方向に回転しようとしても、座金20が被接合部材61に押接されることにより弛み方向の回転を規制されるとともに、座金20と六角ナット30の傾斜面21、31の傾斜角がねじのリード角の1. 1倍以上に設定され、座金20と六角ナット30の傾斜面21、31の傾斜面角度によって弛み方向のリード角での螺旋回転が規制されるので、六角ナット30の弛みが確実に阻止される。
【0035】
また、座金20と六角ナッ30とから構成し、ナット20と六角ナット30の側面稜線22、32を位置合わせしているので、側面稜線22、32に相互の位置ずれがあると、六角ナット30の設計軸力による締結が弛んでいることを外観上、確実に判断できる。
【0036】
六角ナット30を弛める場合には座金20と六角ナット30を適切な工具で一緒に把持して弛み方向に回せばよい。
【0037】
図8及び図9は第2の実施形態を示し、本例では例えば図7(a)に示されるフォーミングパンチ120を用いることによって、傾斜面21、31を座金20の上側頂面及び六角ナット30の座面の全面に形成し、これによって六つの傾斜面21、31の外形を六角形状に形成している。
【0038】
本件発明者は本例の座金及び六角ナットを製造し、振動試験を行って締結の弛みを確認した。材料にはS45Cを用い、M20のサイズの座金及び六角ナットを所定の温度域で熱間鍛造によって製造した。六角ナット及び座金の硬さはHRCで28.6であった。
【0039】
座金及び六角ナットの傾斜面を加工するため、銅電極に傾斜面に対応して傾斜面を加工した。傾斜面の段差は0.06mmであった。加工した傾斜面の傾斜角度はリード角換算で2.6°であるのに対し、M20のねじのリード角は2. 3°であった。
【実施例0040】
振動試験は次のように行った。治具はM20ボルト用の治具を使用し、振動振幅は11mm、振動数1750rpm、ゆるみ促進ストロークを19mm、加速度を18.5G、試験時間を17分とした。
【0041】
使用したボルトはSMC435、強度区分10.9、サイズはM20×60の六角ボルトであった。
【0042】
締付けは次のように行った。F10Tの高力ボルトの標準ボルト張力(=設計ボルト張力×1.1);182KN、トルク係数値を0.2として締付けトルク=0.2×20×182=728N・m、設計ボルト張力=0.75×降伏強さ×有効断面積としたが、実際には700N・mは万力とトルクレンチでは掛けられず、500N・mで締付けた。
【0043】
試験の結果、試験時間17分いっぱいが経過したが、弛みが発生しなかった。市場に流通している最高性能のロックナットと同等の弛み止め性能が確認された。
【実施例0044】
実施例1で弛み止め効果の評価に使用した振動試験機はNAS(NATIONAL AERSPACE STANDARD)3350規格相当機として広く使用されている。この試験機で使用する振動子はHRC硬度で50に焼入れした後に最大高さ6.3μm以下にまで研磨仕上げされている。
このため試験に使用した六角ナット(以下、試作ナットともいう)と振動子の間で回転が発生し、弛み発生の原因になっていた。
振動子と試作ナットの間の回転防止のため、図10に示されるように、平面研磨した軟鉄(例えば、SS400相当)を平面研磨した金具(ワッシャー)200を入れて試験した。なお、図10において、20は座金、30は試作ナット、200はワッシャー、61は振動治具(被接合部材に相当)である。
【0045】
試作ナットは、 S45C M12 N110-030 C♯1M33351であった。試作ナットの硬さは平均HRCで30-31であった。振動験機による弛み止め効果の試験方法は以下の通りであった。振動試験要領:振動治具はM12ボルト用 焼入、焼戻し(HRC52,1 52.0) 研磨仕上げ(RZ1.78,2.09)であった。振動振幅は11mmとし、振動数は1750rpmとし、弛み促進ストロークは19mm、加速度は19.5Gとし、試験時間は 17分とした。使用したボルトはSCM435 強度区分10.9 M12×70六角穴付きボルトである。
使用したナットはS45C M12 N110-030 C♯1M35571を使用し、使用した座金はM12軟鉄ワッシャーで、平面研磨をした。300MPa軸力(強度区分5.8での耐力400MPaの0.75倍)締め付けでも弛まない方法は以下の通りである。
弛みが発生した従来方法は以下の通りである。M12の有効断面積 84.3mm2、締め付け軸力 25.5KN 強度区分5.8の耐力75%×有効断面積、トルク係数値 0.20(一般的な油潤滑のトルク係数値)とし、締め付けトルクは60N・m、締め付け方法は WNLOCKのワッシャーで振動治具を直接締め付けた。
弛み発生防止効果のある方法は以下の通りとした。WNLOCKK ワッシャナットと振動治具の間に平面研磨で平坦銅を出した軟鉄ワッシャーを入れて締め付けた。
【0046】
試験結果は以下の通りであった。
【0047】
試験結果から、軟質ワッシャーを入れない場合には締付け応力が692MPa、494MPaでは弛みが発生しなかったが、297MPaでは1440回、1271回で弛みが発生した。
これに対し、軟質ワッシャーを入れた場合には締付け応力297MPaであっても弛みが発生しないことが確認された。
【符号の説明】
【0048】
20 座金
30 六角ナット
21 傾斜面
31 傾斜面
22 側面稜線
32 側面稜線
60 被接合部材
61 被接合部材
70 切断素材
80 アップセット素材
90 成型ナット
100 打ち抜きナット
111 フォーミングダイ
112 フォーミングパンチ
113 エジェクタースリーブ
114 センターパンチ
115 ノックアウトピン
120、121 傾斜面を形成したフォーミングパンチ112の要部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10