(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035952
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘するためのシステム及びその方法
(51)【国際特許分類】
G16B 15/20 20190101AFI20230306BHJP
【FI】
G16B15/20
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134617
(22)【出願日】2022-08-26
(31)【優先権主張番号】10-2021-0114968
(32)【優先日】2021-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】521229072
【氏名又は名称】スリービリエン
【氏名又は名称原語表記】3BILLION
【住所又は居所原語表記】14th floor, yeonbong building, 416, Teheran-ro, Gangnam-gu Seoul 06193, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】イ ジョンソル
(57)【要約】 (修正有)
【課題】病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘するためのシステム及びその方法を提供する。
【解決手段】病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘するためのシステムは、タンパク質の機能に異常を誘発する病原性変異に対する情報を含む病原性変異データ、及び前記タンパク質の遺伝子序列に対応される3次元構造に対する情報を含むタンパク質構造データを用いて、前記タンパク質の前記3次元構造のうち、前記病原性変異に対応される病原性変異位置を探知する病原性変異位置の探知部と、前記病原性変異位置に対応され、薬物が結合され得る薬物活性部位を探知する薬物活性部位の探知部と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質の機能に異常を誘発する病原性変異に対する情報を含む病原性変異データ、及び前記タンパク質の遺伝子序列に対応される3次元構造に対する情報を含むタンパク質構造データを用いて、前記タンパク質の前記3次元構造のうち、前記病原性変異に対応される病原性変異位置を探知する病原性変異位置の探知部と、
前記病原性変異位置に対応され、薬物が結合され得る薬物活性部位を探知する薬物活性部位の探知部と、
を含む、病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘するためのシステム。
【請求項2】
前記薬物活性部位は、
前記3次元構造の外部に直接露出される構造、または前記3次元構造の外部と連結される経路を介して外部に露出される構造のうち、少なくとも何れか一つ以上を含むことを特徴とする、請求項1に記載の病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘するためのシステム。
【請求項3】
前記薬物活性部位の探知部は、
前記タンパク質の3次元構造に含まれたそれぞれの原子に対応される立体構造で構成されたタンパク質モデルにおいて、前記病原性変異位置に隣接しており、前記薬物に対応される予め定められた体積よりも大きいか又は等しい体積を有しており、前記タンパク質モデルの外部と連結される中空空間を前記薬物活性部位として探知することを特徴とする、請求項1に記載の病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘するためのシステム。
【請求項4】
前記立体構造は、
前記それぞれの原子のファンデルワールス半径(Van der Waals Radius)の予め定められた比率を半径として有することを特徴とする、請求項3に記載の病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘するためのシステム。
【請求項5】
前記中空空間に含まれた第1座標は、前記タンパク質モデルと離隔された経路を介して、前記タンパク質モデルの外部に位置している第2座標と連結されることを特徴とする、請求項3に記載の病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘するためのシステム。
【請求項6】
タンパク質の機能に異常を誘発する病原性変異に対する情報を含む病原性変異データ、及び前記タンパク質の遺伝子序列に対応される3次元構造に対する情報を含むタンパク質構造データを用いて、前記タンパク質の前記3次元構造のうち、前記病原性変異に対応される病原性変異位置を探知する病原性変異位置を探知する段階と、
前記病原性変異位置に対応され、薬物が結合され得る薬物活性部位を探知する薬物活性部位を探知する段階と、
を含む、病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘する方法。
【請求項7】
前記薬物活性部位は、
前記3次元構造の外部に直接露出される構造、または前記3次元構造の外部と連結される経路を介して外部に露出される構造のうち、少なくとも何れか一つ以上を含むことを特徴とする、請求項6に記載の病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘する方法。
【請求項8】
前記薬物活性部位を探知する段階は、
前記タンパク質の3次元構造に含まれたそれぞれの原子に対応される立体構造で構成されたタンパク質モデルにおいて、前記病原性変異位置に隣接しており、前記薬物に対応される予め定められた体積よりも大きいか又は等しい体積を有しており、前記タンパク質モデルの外部と連結される中空空間を前記薬物活性部位として探知することを特徴とする、請求項6に記載の病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘する方法。
【請求項9】
前記立体構造は、
前記それぞれの原子のファンデルワールス半径(Van der Waals Radius)の予め定められた比率を半径として有することを特徴とする、請求項8に記載の病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘する方法。
【請求項10】
前記中空空間に含まれた第1座標は、前記タンパク質モデルと離隔された経路を介して、前記タンパク質モデルの外部に位置している第2座標と連結されることを特徴とする、請求項8に記載の病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘するためのシステム及びその方法に関し、より詳細には、薬物が結合することでタンパク質の機能を調節可能な薬物活性部位を発掘できる病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘するためのシステム及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は、アミノ酸間の相互作用とフォルディング(folding)を通じて、3次元の空間上で固有の形態の非定型的な形態で存在する。タンパク質の活性を抑制または活性化することでタンパク質の機能を調節する薬物は、標的タンパク質の一部領域のみで効果を示すことができる。すなわち、タンパク質の機能の調節は、タンパク質の構造上、特定の部位を通じてのみ可能であり、その他の部位には、たとえ化合物が結合するとしても、タンパク質の機能に影響を与えることができない。
【0003】
タンパク質の活性部位とは、タンパク質の3次元構造上の特定領域であって、該部位に化合物が結合する場合、タンパク質の機能が影響を受けることができる箇所を意味する。多数の化合物を用いて、化合物とタンパク質との結合力を、コンピュータを用いて計算することで見つけ出すバーチュアルスクリーニング(virtual screening)の分野において、タンパク質の活性部位の情報は非常に重要な情報である。
【0004】
化合物をタンパク質の3次元の空間上のどちらの部位に位置させても、タンパク質と化合物との間の結合エネルギーは計算可能である。ここで問題は、いくら強く結合するとしても、タンパク質の機能には影響を与えない位置が存在するという点である。これは、タンパク質に結合する化合物の結合エネルギー(または結合強度)のみを用いては、タンパク質の機能を調節可能な化合物を選別することができないということを意味する。
【0005】
バーチャルスクリーニングの前提条件は、標的タンパク質の活性部位を知っておくべきという点である。活性部位を予め分かっていればこそ、タンパク質の機能の調節の可能性の高い化合物を選別することができる。よって、タンパク質の活性部位を見つけ出すことは、薬物の開発において必須的である。但し、今まではタンパク質の活性部位を提示することができる適切な方法が提示されていないため、実験的に偶然に明かになる少数の活性部位のみに対して、活性部位を用いた薬物の開発を進行するしかなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の技術的課題は、このような点で着目されたものであって、本発明の目的は、タンパク質の機能を調節する位置である可能性が高い、病原性変異位置に対する3次元構造の分析を通じて、タンパク質の薬物活性部位を見つけ出すことができる病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘するためのシステム及びその方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した本発明の目的を実現するための一実施例に係る病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘するためのシステムは、タンパク質の機能に異常を誘発する病原性変異に対する情報を含む病原性変異データ、及び前記タンパク質の遺伝子序列に対応される3次元構造に対する情報を含むタンパク質構造データを用いて、前記タンパク質の前記3次元構造のうち、前記病原性変異に対応される病原性変異位置を探知する病原性変異位置の探知部と、前記病原性変異位置に対応され、薬物が結合され得る薬物活性部位を探知する薬物活性部位の探知部と、を含む。
【0008】
本発明の一実施例において、前記薬物活性部位は、前記3次元構造の外部に直接露出される構造、または前記3次元構造の外部と連結される経路を介して外部に露出される構造のうち、少なくとも何れか一つ以上を含むことができる。
【0009】
本発明の一実施例において、前記薬物活性部位の探知部は、前記タンパク質の3次元構造に含まれたそれぞれの原子に対応される立体構造で構成されたタンパク質モデルにおいて、前記病原性変異位置に隣接しており、前記薬物に対応される予め定められた体積よりも大きいか又は等しい体積を有しており、前記タンパク質モデルの外部と連結される中空空間を前記薬物活性部位として探知することができる。
【0010】
本発明の一実施例において、前記立体構造は、前記それぞれの原子のファンデルワールス半径(Van der Waals Radius)の予め定められた比率を半径として有することができる。
【0011】
本発明の一実施例において、前記中空空間に含まれた第1座標は、前記タンパク質モデルと離隔された経路を介して、前記タンパク質モデルの外部に位置している第2座標と連結され得る。
【0012】
上述した本発明の目的を実現するための一実施例に係る病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘する方法は、タンパク質の機能に異常を誘発する病原性変異に対する情報を含む病原性変異データ、及び前記タンパク質の遺伝子序列に対応される3次元構造に対する情報を含むタンパク質構造データを用いて、前記タンパク質の前記3次元構造のうち、前記病原性変異に対応される病原性変異位置を探知する病原性変異位置を探知する段階と、前記病原性変異位置に対応され、薬物が結合され得る薬物活性部位を探知する薬物活性部位を探知する段階と、を含む。
【0013】
本発明の一実施例において、前記薬物活性部位は、前記3次元構造の外部に直接露出される構造、または前記3次元構造の外部と連結される経路を介して外部に露出される構造のうち、少なくとも何れか一つ以上を含むことができる。
【0014】
本発明の一実施例において、前記薬物活性部位を探知する段階は、前記タンパク質の3次元構造に含まれたそれぞれの原子に対応される立体構造で構成されたタンパク質モデルにおいて、前記病原性変異位置に隣接しており、前記薬物に対応される予め定められた体積よりも大きいか又は等しい体積を有しており、前記タンパク質モデルの外部と連結される中空空間を前記薬物活性部位として探知することができる。
【0015】
本発明の一実施例において、前記立体構造は、前記それぞれの原子のファンデルワールス半径(Van der Waals Radius)の予め定められた比率を半径として有することができる。
【0016】
本発明の一実施例において、前記中空空間に含まれた第1座標は、前記タンパク質モデルと離隔された経路を介して、前記タンパク質モデルの外部に位置している第2座標と連結され得る。
【発明の効果】
【0017】
このような病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘するためのシステム及びその方法によると、病原性変異に対する情報が知られているタンパク質に対して、薬物活性部位を発掘することができる。
【0018】
なお、発掘された薬物活性部位を中心として薬物の探索を行い、新薬の発掘の確率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施例に係る病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘するためのシステムを示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施例に係る病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘する方法を示すフローチャートである。
【
図3】薬物活性部位を説明するための例示的なタンパク質の3次元のタンパク質モデルを示す図である。
【
図4】
図3の3次元のタンパク質モデルのうち、薬物活性部位を拡大して表示した図である。
【
図5】
図3の3次元のタンパク質モデルのうち、薬物活性部位として提示されることができない部位を拡大して表示した図である。
【
図6】
図3の3次元のタンパク質モデルのうち、薬物活性部位として提示されることができない部位を拡大して表示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下で、添付した図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。図面上の同じ構成要素に対しては同じ参照符号を付し、同じ構成要素に対して重複説明は省略する。
【0021】
図1は、本発明の一実施例に係る病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘するためのシステムを示すブロック図である。
図2は、本発明の一実施例に係る病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘する方法を示すフローチャートである。
【0022】
図1及び
図2を参照すれば、本発明の一実施例に係る病原性変異を用いたタンパク質の薬物活性部位を発掘するためのシステムは、病原性変異データベース100、タンパク質構造データベース200、タンパク質モデルの生成部300、病原性変異位置の探知部400、及び薬物活性部位の探知部500を含むことができる。
【0023】
病原性変異データベース100は、タンパク質の機能に異常を誘発する病原性変異に対する情報を含む病原性変異データを格納することができる。
【0024】
DNAには、生物の遺伝情報が含まれている。DNAの塩基序列のうち、遺伝形質の発現に関与する塩基序列を遺伝子と称し、遺伝形質の発現に関与しない部分を非符号化DNAと称する。
【0025】
遺伝子は、DNAの一定の区間に亘っている塩基序列の領域に対応され得る。遺伝子は、タンパク質の情報が含まれているエクソン区間と、タンパク質の情報が含まれておらず、発現の調節に関与するイントロン区間と、を含むことができる。
【0026】
塩基序列またはニュークレオタイド序列(base sequence or nucleotide sequence)とは、核酸DNAまたはRNA構成の基本単位であるニュークレオタイドの構成成分の一つである塩基を順序に並べた手順の配列を意味する。
【0027】
変異(遺伝子変異または塩基序列変異)とは、比較対象である標準的な人間の誘電体塩基序列とは相違している(例えば、序列上の差異を示す)塩基、または塩基らの配列を意味し、序列を構成する塩基の置換、付加、欠陥などを含むことができる。このような塩基の置換、付加、または欠陥は、様々な原因、例えば、染色体の突然変異、切断、欠陥、重複、逆位、または転座を含む構造的な差により発生することができる。
【0028】
病原性変異とは、変異のうち、疾病を引き起こすことができるほどの深刻な変異を意味することができる。一人の人間は、誘電体全体において平均的に約500万個の変異を有しており、タンパク質で発現されるエクソン領域には、平均的に約10万個の変異を有している。
【0029】
このような変異の大部分は、生体に与える影響が無いか又は僅かであり、変異のうち、極めて一部のみが深刻な症状を引き起こし得る。変異のうち、深刻な症状を引き起こす一部の変異を病原性変異と称する。
【0030】
病原性変異の一部は、該変異によってタンパク質序列の一部が変化され、タンパク質序列の変化によってタンパク質機能の異常が発生し、機能の異常によって疾病が発病することが知られている。変異の病原性は、変異によるタンパク質機能の異常に対する直接的な実験的検証のみならず、人口に対する該変異の極めて稀な発生頻度、類似症状を有する患者、あるいは家系での反復的な観測などを多角度で判別することで決定され得る。すなわち、実験的検証のみならず、追加的な多くの基準によって該変異の病原性が決定され得る。
【0031】
タンパク質序列の変化を引き起こす病原性変異が発生したということは、タンパク質序列の変化によるタンパク質機能の消失または過度な活性化につながり、これと係わる疾病が発生したことを意味することができる。よって、病原性変異によって発生したタンパク質序列の変化から、該変化が発生したタンパク質部位はタンパク質の機能において重要な箇所であることが分かり、このような箇所がタンパク質の活性部位であり得る。
【0032】
言い換えれば、タンパク質序列の変化を引き起こした多くの変異のうち、病原性変異ではないものは、該変異によってタンパク質序列の一部が変わってもタンパク質の機能が無理なく維持される部位である。このような部位(すなわち、序列の一部が変わってもタンパク質の機能が維持される部位)に結合する薬物は、タンパク質の機能を調節する確率が非常に希薄である。
【0033】
それに対し、病原性変異が発生したタンパク質の部位は、該変異によってタンパク質機能が深刻に変更されたことを意味するので、該部位(すなわち、病原性変異位置)に結合する化合物(例えば、薬物)は、タンパク質の機能を調節する可能性が非常に高い。よって、病原性変異が発生したタンパク質部位を該タンパク質の薬物活性部位として提示することができる。
【0034】
一実施例において、病原性変異データは、それぞれの遺伝子に対応される遺伝子変異及び病原性変異に対する種類、位置、発生頻度のうち、少なくとも何れか一つ以上の情報を含むことができる。
【0035】
病原性変異データは、公知された遺伝子変異データベース、例えば、ClinVar、HGMD(Human Gene Mutation Database)、KMD(Korean Mutation Database)、OMIM(Online Mendelian Inheritance in Man)、dbSNP(Single Nucleotide Polymorphism Database)などに基づいて構築され得る。
【0036】
タンパク質構造データベース200は、タンパク質の遺伝子(またはアミノ酸)序列に対応される3次元構造に対する情報を含むタンパク質構造データを格納することができる。
【0037】
タンパク質構造データは、それぞれのタンパク質に対するアミノ酸間の相互作用とフォルディング(folding)を通じて形成される3次元構造に対する情報を含むことができる。
【0038】
一実施例において、タンパク質構造データは、人工知能を用いたタンパク質構造の予測方法を用いて予測されたタンパク質の3次元構造を含むことができる。例えば、人工知能を用いたタンパク質構造の予測方法は、AlphaFoldまたはRoseTTaFoldのうち、少なくとも何れか一つ以上を用いて具現され得る。
【0039】
本発明に適用されるタンパク質構造の予測方法は、次の公知された先行技術文献によって具現されることができ、関連の詳細な説明は省略する。
【0040】
AlphaFold(Jumper、J.,Evans、R.,Pritzel、A. et al. Highly accurate protein structure prediction with AlphaFold. Nature(2021). https://doi.org/10.1038/s41586-021-03819-2)、RoseTTaFold(Minkyung Baek、Frank DiMaio、et al. Accurate prediction of protein structures and interactions using a three-track neural network. Science(2021). https://doi.org/10.1126/science.abj8754).
【0041】
タンパク質モデルの生成部300は、タンパク質構造データを用いてタンパク質モデルを生成することができる。具体的に、タンパク質モデルの生成部300は、タンパク質構造データを用いて、タンパク質のアミノ酸序列に対する3次元構造を構築し、構築された3次元構造に含まれたそれぞれの原子に対応される立体構造を用いてタンパク質モデルを生成(S100)可能である。
【0042】
一実施例において、それぞれの原子に対応される立体構造は、それぞれの原子のファンデルワールス半径(Van der Waals Radius)の予め定められた比率を半径として有する球(sphere)を含むことができるが、これに限定されるわけではなく、多様な構造の多面体を用いて構成され得る。よって、タンパク質モデルは、タンパク質を構成するそれぞれの原子のファンデルワールス半径の予め定められた比率で定義されるファンデルワールス表面を連結することで定義され得る。
【0043】
一実施例において、予め定められた比率は1/2を含むことができるが、これに限定されるわけではなく、タンパク質の種類、結合される薬物の種類、結合される化合物の種類に応じて多様な比率が設定され得る。
【0044】
病原性変異位置の探知部400は、病原性変異データ及びタンパク質構造データを用いて、タンパク質の3次元構造のうち、病原性変異に対応される病原性変異位置を探知可能である。病原性変異データは、タンパク質の機能に異常を誘発する病原性変異に対する情報を含むことができる。タンパク質構造データは、タンパク質の遺伝子序列に対応される3次元構造に対する情報を含むことができる。タンパク質の3次元構造は、タンパク質を構成するアミノ酸序列の3次元構造を含むことができる(S200)。
【0045】
一実施例において、病原性変異位置の探知部400は、タンパク質構造データを用いて形成されるタンパク質の3次元構造で病原性変異の塩基序列の位置に対応される病原性変異位置を探知することができる。
【0046】
一実施例において、病原性変異位置の探知部400は、タンパク質モデルの生成部300から生成されたタンパク質モデルにおいて、病原性変異の塩基序列の位置に対応される病気性変異の位置を探知することができる。
【0047】
図3は、薬物活性部位を説明するための例示的なタンパク質の3次元のタンパク質モデルを示す図である。
【0048】
図3に示されているタンパク質は、聴覚の損傷または甲状腺の異常を伴った聴覚の損傷の原因になるSLC26A4遺伝子により発現されるタンパク質である。
【0049】
SLC26A4遺伝子のアミノ酸序列は次のようであり、太字、下線、「<<」、及び「>>」を用いて表示された部分は、病原性変異として知られている変異の位置である。
【0050】
...MAAPGGRSEPPQLPEYSCSYMVSRPVYSELAFQQQHERRLQERKTLRESLAKCCSCSRKR AFGVLKTLVPILEWLPKYRVKEWLLSDVI<<S>>GVSTGLVATLQGMAYALLAAVPVGYGLYSAFFPILTYFIFGTS RHISVGPFPVVSLMVGSVVLSMAPDEHFLVSSSNGTVLNTTMIDTAARDTARVLIASALTLLVGIIQLIFGGLQIGF IVRYLADPLVGGFTTAAAFQVLVSQLKIVLNVSTKNYNGVLSIIYTLVEIFQNIGDTNLADFTAGLLTIVVCMAVKE LNDRFRHKIPVPIPIEVIVTIIATAISYGANLEKNYNAGIVKSIPRGFLPPELPPVSLFSEMLAASFSIAVVAYAIA VSVGKVYATKYDYTIDGNQEFIAFGISNIFSGFFSCFVATTALSR<<T>>AVQESTGGKTQVAGIISAAIVMIAILA LGKLLEPLQKSVLAAVVIANLKGMFMQLCDIPRLWRQNKIDAVIWVFTCIVSIILGLDL<<G>>LLAGLIFGLLTVV LRVQFPSWNGLGSIPSTDIYKSTKNYKNIEEPQGVKILRFSSPIFYGNVDGFKKCIKSTVGFDAIRVYNKRLKALRK IQKLIKSGQLRATKNGIISDAVSTNNAFEPDEDIEDLEELDIPTKEIEIQVDWNSELPVKVNVPKVPIHSLVLDCGAISFLDVVGVRS<<L>>RVIVKEFQRIDVNVYFASLQDYVIEKLEQCGFFDDNIRKDTFFLTV<<H>>DAILYLQNQV KSQEGQGSILETITLIQDCKDTLELIETELTEEELDVQDEAMRTLAS...
【0051】
図3を参照すれば、病原性変異位置の探知部400は、SLC26A4タンパク質から5個の病原性変異位置P1、P2を探知することができる。
【0052】
一実施例において、病原性変異位置の探知部400は、タンパク質構造データを用いて、SLC26A4遺伝子のアミノ酸序列に対する3次元構造を構築し、構築された3次元構造で病原性変異データを用いて獲得されたSLC26A4遺伝子の病気性変異である<<S>>、<<T>>、<<G>>、<<L>>、及び<<H>>の位置である病原性変異位置を特定及び探知することができる。
【0053】
一実施例において、病原性変異位置の探知部400は、タンパク質モデルの生成部300から生成されたSLC26A4遺伝子のタンパク質モデルにおいて、SLC26A4遺伝子の病原性変異である<<S>>、<<T>>、<<G>>、<<L>>、及び<<H>>の位置である病原性変異位置P1、P2を特定及び探知することができる。
【0054】
病原性変異位置は、外側に(言い換えれば、タンパク質構造の表面に)露出されている病原性変異位置P1、及び内側に埋め込まれている(言い換えれば、タンパク質構造の内部に位置している)病原性変異位置P2に区分され得る。
【0055】
薬物活性部位の探知部500は、タンパク質と薬物との間の結合エネルギーに基づいて病原性変異位置P1、P2に対応され、薬物が結合され得る薬物活性部位を探知(S300)することができる。
【0056】
薬物活性部位の探知部500は、薬物が結合可能になるように病原性変異位置P1、P2のうち、タンパク質モデルの表面に露出された位置を薬物活性部位として選択することができる。
【0057】
薬物活性部位の探知部500は、結合された薬物が結合状態を維持することが容易になるように、病原性変異位置P1、P2のうち、周辺の構造によって部分的に囲まれ得る位置を薬物活性部位として選択することができる。
【0058】
一実施例において、薬物活性部位は、タンパク質の3次元構造(すなわち、タンパク質モデル)の外部に直接露出される構造、またはタンパク質の3次元構造(すなわち、タンパク質モデル)の外部と連結される経路を介して外部に露出される構造のうち、少なくとも何れか一つ以上を含むことができる。
【0059】
言い換えれば、薬物活性部位は、3次元のタンパク質構造の表面に直接露出される構造、3次元のタンパク質構造の表面に露出されているところ、凹のように内側に窪まれている構造、または洞窟のような経路を介して接近できる構造などを含むことができる。
【0060】
薬物活性部位の探知部500は、タンパク質モデルにおいて、予め定められた条件を満たす中空空間を薬物活性部位として探知可能である。タンパク質モデルの中空空間は、タンパク質モデルの表面を基準として、立体構造の外部に形成される空間として定義されることができる。
【0061】
予め定められた条件を満たす中空空間は、病原性変異位置に隣接しており(第1条件)、化合物が存在可能な体積を有しており(第2条件)、タンパク質モデルの外部と連結されている(第3条件)の中空空間を含むことができる。
【0062】
薬物活性部位の探知部500は、病原性変異位置との距離に基づいて第1条件を判断することができる。
【0063】
薬物活性部位の探知部500は、中空空間の体積を、薬物に対応される予め定められた体積よりも大きいか又は等しいかを比較することで第2条件を判断することができる。具体的に、薬物活性部位の探知部500は、中空空間に、薬物に対応される仮想の単位球体を配置し、配置される少なくとも一つ以上の仮想の単位球体を用いて第2条件を判断することができる。例えば、中空空間に配置される少なくとも一つ以上の仮想の単位球体の数または配置構造のうち、少なくとも何れか一つ以上を用いて中空空間の体積が計算され、計算された中空空間の体積を予め定められた体積と比較することで第2条件が判断され得る。
【0064】
予め定められた体積は、タンパク質に結合される薬物または化合物の種類に応じて予め定められた値を含むことができる。例えば、予め定められた体積は、300angstrom3よりも大きいか又は等しいことがあるが、これに限定されない。
【0065】
薬物活性部位の探知部500は、中空空間に含まれた第1座標が、タンパク質モデルと離隔された経路を介してタンパク質モデルの外部に位置している第2座標と連結されるか否かを判断することで、第3条件を判断することができる。
【0066】
言い換えれば、中空空間に含まれた第1座標は、タンパク質モデルと離隔された経路を介して、タンパク質モデルの外部に位置している第2座標と連結され得る。
【0067】
ここで、タンパク質モデルと離隔される通路とは、タンパク質の3次元構造に含まれたそれぞれの原子のファンデルワールス半径(Van der Waals Radius)の予め定められた比率を半径として有する立体構造(例えば、球)に当接するか重畳されず、第1座標と第2座標とを連結する通路を含むことができる。
【0068】
図4は、
図3の3次元のタンパク質モデルのうち、薬物活性部位を拡大して表示した図である。
【0069】
図4を参照すれば、5個の病原性変異位置P1、P2のうち、外側に露出されている病原性変異位置P1に化合物が存在(すなわち、結合)可能な中空空間C1が探知され得る。
【0070】
図3ないし
図6において、タンパク質モデルの白色の表面は、外側に露出されている病原性変異位置P1を意味し、棒状の構造は、内側に埋め込まれている病原性変異位置P2を意味することができる。
【0071】
薬物活性部位の探知部500は、外側に露出されている病原性変異位置P1に対応される中空空間C1に対して仮想の単位球体(VS)を配置して体積を測定し、測定された体積を、薬物に対応される予め定められた体積と比較することができる。
【0072】
薬物活性部位の探知部500は、病原性変異位置P1に隣接しており、測定された体積が薬物に対応される予め定められた体積よりも大きいか又は等しく、外側に露出されている病原性変異位置に該当し、タンパク質モデルの外部と連結される中空空間C1を薬物活性部位として判断することができる。
【0073】
中空空間C1に対応される病原性変異は、アミノ酸が変更される場合、聴覚の異常を引き起こすほど、病原性の大きい変異として判明されたので、中空空間C1に対応されるタンパク質の構造を変更する場合、タンパク質の機能において大きい影響を与えると予測され得る。よって、中空空間C1は、薬物活性部位である可能性が高い位置であり、該部位を中心として薬物の探索を進行する場合、新薬の発掘の確率を高めることができる。
【0074】
図5は、
図3の3次元のタンパク質モデルのうち、薬物活性部位として提示されることができない部位を拡大して表示した図である。
【0075】
図5を参照すれば、タンパク質モデルは内側に窪まれている構造を有しており、化合物(薬物)とタンパク質との結合力を用いた薬物スクリーニングを行う場合、多数の薬物がタンパク質と充分な結合力を有すると判断され得る中空空間C2を含んでいる。
【0076】
このような中空空間C2は、化合物が存在可能な体積を有しており(第2条件が満足)、タンパク質モデルの外部と連結されている(第3条件が満足)の中空空間に該当するところ、近距離に病原性変異が存在していないため(第1条件が不満足)、該位置においてタンパク質の構造を変更させてもタンパク質の機能において大きい影響がないと予測可能である。よって、中空空間C2は、薬物活性部位として提示されることができない。
【0077】
図6は、
図3の3次元のタンパク質モデルのうち、薬物活性部位として提示されることができない部位を拡大して表示した図である。
【0078】
図6を参照すれば、タンパク質モデルは、内部に存在しており、外部で薬物のような化合物が接近できない病原性変異位置P2を含むことができる。
【0079】
タンパク質モデルの内部に存在している病原性変異位置P2は、病原性変異位置に隣接する条件(第1条件)は満たしているが、内部に位置して化合物が存在可能な中空空間がなく(第2条件が不満足)、内部に中空空間があるとしても、外部から内部に存在する中空空間に連結される通路あるいは経路がなく(第3条件が不満足)、薬物が病原性変異位置P2に接近することができない。よって、タンパク質モデルの内部に存在している病原性変異位置P2は、薬物活性部位として提示されることができない。
【0080】
以上、実施例を参照して説明したところ、該技術分野において熟練した当業者は、下記の特許請求の範囲に記載されている本発明の思想及び領域から脱しない範囲内で、本発明を多様に修正及び変更可能であることが理解できるはずである。
【符号の説明】
【0081】
100 病原性変異データベース
200 タンパク質構造データベース
300 タンパク質モデルの生成部
400 病原性変異位置の探知部
500 薬物活性部位の探知部