(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036021
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】カチオン効果を用いた無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のアニオン交換方法
(51)【国際特許分類】
C01G 21/00 20060101AFI20230306BHJP
【FI】
C01G21/00
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137003
(22)【出願日】2022-08-30
(31)【優先権主張番号】10-2021-0116319
(32)【優先日】2021-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】314000442
【氏名又は名称】高麗大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】145, Anam-ro Seongbuk-gu Seoul 02841, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】呉 昇柱
(72)【発明者】
【氏名】安 駿▲ヒュク▼
(72)【発明者】
【氏名】李 龍民
(57)【要約】
【課題】常温でCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子の光学的バンドエネルギーを調節すると同時に、光学安定性を向上させることができる、カチオン効果ベースのアニオン交換法を提供する。
【解決手段】欠陥(Defect)が形成された第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子を合成し、ハロゲン塩と極性溶媒とを混合した溶液を準備し、第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子を溶液に添加して、第2無機ハライドペロブスカイトナノ粒子を合成し、ハロゲン塩のC-X’間の結合よりも、第2無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のAB-X’
3間の結合がさらに強いので、第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のアニオンXがハロゲン塩のアニオンX’で置換されることを特徴とする、無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のアニオン交換方法である。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
欠陥(Defect)が形成された下記化学式1の第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子を合成するステップと、
下記化学式2のハロゲン塩と極性溶媒とを混合した溶液を準備するステップと、
前記第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子を前記溶液に添加して、下記化学式3の第2無機ハライドペロブスカイトナノ粒子を合成するステップとを含み、
前記ハロゲン塩のC-X’間の結合よりも、第2無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のAB-X’3間の結合がさらに強いので、前記第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のアニオンXが前記ハロゲン塩のアニオンX’で置換されることを特徴とする、無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のアニオン交換方法。
ABX3 (化学式1)
CX’ (化学式2)
ABX’3 (化学式3)
(前記化学式1~3において、Aは、Cs又はCH3NH、Bは、Pb又はSnであり、X及びX’はハロゲンアニオンであり、前記Cは、Cs+、Na+、K+、NH4
+及びTBA+から選択されたいずれか1つであり、前記XとX’は互いに異なる。)
【請求項2】
前記第2無機ハライドペロブスカイトナノ粒子を合成するステップにおいて、前記第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子の欠陥に前記ハロゲン塩のカチオンが付着されて核形成点(nucleation site)となることを特徴とする、請求項1に記載の無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のアニオン交換方法。
【請求項3】
前記第2無機ハライドペロブスカイトナノ粒子は、結晶粒度(grain size)が10nm~20nmであることを特徴とする、請求項1に記載の無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のアニオン交換方法。
【請求項4】
前記第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子を合成するステップは、10℃~30℃で行われることを特徴とする、請求項1に記載の無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のアニオン交換方法。
【請求項5】
化学式1の第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子はCsPbBr3であることを特徴とする、請求項1に記載の無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のアニオン交換方法。
【請求項6】
前記ハロゲン塩は、NaIまたはNH4Clであることを特徴とする、請求項1に記載の無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のアニオン交換方法。
【請求項7】
前記ハロゲン塩の濃度は10mM~100mMであることを特徴とする、請求項1に記載の無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のアニオン交換方法。
【請求項8】
前記極性溶媒はIPAであることを特徴とする、請求項1に記載の無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のアニオン交換方法。
【請求項9】
前記第2無機ハライドペロブスカイトナノ粒子はコロイド安定性を示し、前記極性溶媒中で前記ナノ粒子の表面のリガンドの分布が60%~90%維持されることを特徴とする、請求項1に記載の無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のアニオン交換方法。
【請求項10】
請求項1によってアニオンが交換された無機ハライドペロブスカイトナノ粒子において、
前記アニオンが交換された無機ハライドペロブスカイトナノ粒子がCsPbI3である、無機ハライドペロブスカイトナノ粒子。
【請求項11】
請求項1によってアニオンが交換された無機ハライドペロブスカイトナノ粒子において、
前記アニオンが交換された無機ハライドペロブスカイトナノ粒子がCsPbCl3である、無機ハライドペロブスカイトナノ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願との相互参照〕
本出願は、2021年09月01日付の韓国特許出願第10-2021-0116319号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のアニオン交換方法に関し、詳細には、カチオン効果及びHSAB理論を活用した無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のアニオン交換方法に関する。
【背景技術】
【0003】
最近は、無機ハライドペロブスカイトナノ粒子が非常に脚光を浴びている。その中でABX3、例えば、CsPbX3(Xは、Cl、BrまたはI)組成のペロブスカイトナノ粒子は、直接遷移(direct bandgap)を有する立方体(cubic phase)であるので、光学的物性(発光強度、Photoluminescence(PL) intensity)及び量子効率(quantum yields)が良く、ペロブスカイトの組成によって容易に光学的バンドエネルギーを調整できるという利点がある。このような特徴を中心として、ハライド組成に応じて、400nmから800nmまでの可視光領域の光を放出することができる。これは、つまり、LEDs(light-emitting diodes)、光検出器(PDs、photodetectors)、カラーフィルタ(color-filters)などに使用され、様々な光学及び光電素子の作製に使用することが容易であるということを意味する。実際にCsPbX3ペロブスカイトナノ粒子をベースとしてLEDs、PDs、太陽電池、発光トランジスタなどを作製する研究が活発に進められている。
【0004】
CsPbX3ペロブスカイトのハライド組成のためには、大きく2つの方法があるところ、第1に、合成のための前駆体(precursor)の組成を異ならせてバンドギャップが調節されたCsPbX3ペロブスカイトナノ粒子を合成する方法があり、第2に、合成後にハライドを処理する後続工程を用いる方法がある。
【0005】
前駆体の組成を異ならせて作製する方式は構造的安定性の問題が台頭するが、CsPbBr3とは異なって、CsPbCl3及びCsPbI3ペロブスカイトナノ粒子は、常温で立方型(cubic)構造を維持しにくいため、光学的物性が望まない物性に容易に変化することがある。2つの物質は、格子不整合(lattice mismatch)により応力が発生するようになって再配列が起こる。これは、立方型構造から、光学的物性を示さない単斜晶系(monoclinic)、正方晶系(tetragonal)、そして、ペロブスカイトではない構造(non-perovskite structure)への自発的な変化を伴う。
【0006】
後続工程を通じてバンドギャップの調節を行う方法のうち、代表的な戦略にはアニオン交換法(anion exchange)がある。この方式は、合成したCsPbBr3ペロブスカイトナノ粒子の立方型構造は維持させ、ハライド組成のみを変更する方式である。この方式を通じて作製されたCsPbCl3及びCsPbI3は立方型構造が変更されないので、放出される光の色のみが異なるまま、高い効率を示す。しかし、アニオンが交換されたペロブスカイトは、酸化安定性及びコロイド安定性が、合成直後のCsPbX3ペロブスカイトよりも相対的に低いため、依然として効果的なアニオン交換法が求められている。
【0007】
アニオン交換のために、多くの研究陣は様々な方法を試みている。ハライド溶液の分散液は、ペロブスカイトナノ粒子の構造を変形させやすいため、溶液との接触を減少させることができる気相置換法や、CsPbX3ペロブスカイトナノ粒子を高分子構造に嵌め込んで安定性を大きく向上させた後、ハライド溶液を入れる方式などが存在する。しかし、このような方式は、反応に長い時間が要求されたり、高い温度での加熱などを必要としたりするため、CsPbX3ペロブスカイトナノ粒子の構造の維持及び高い光学的物性を有する素子を作製するには効果的ではない。
【0008】
本研究陣は、上述した問題を解決するために、常温でCsPbBr3ペロブスカイトナノ粒子の光学的バンドエネルギーを調節すると同時に、光学安定性を向上させることができる、カチオン効果ベースのアニオン交換法を開発した。ハロゲンイオンの場合、ペロブスカイトナノ粒子のX-siteにあるBrイオンと交換されてバンドギャップを調節し、アルカリ金属イオン(Cs+、Na+、K+など)及びアンモニウム(NH4
+)イオンは、ペロブスカイトナノ粒子の表面にくっついて表面欠陥(defect)を減少させることができる。それだけでなく、カチオン-アニオンの組み合わせに応じて、ハロゲンイオンをペロブスカイトナノ粒子に提供できる程度が変わるようになるが、本研究では、これを最適化して、アニオン交換及び安定性の向上に適したカチオン-アニオン対を提示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国登録特許公報第10-1986641号、“ハロゲン化物ペロブスカイトナノ結晶のアニオン交換方法”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の一目的は、既存の光学的バンドギャップの調節のためのアニオン交換法において要求される苛酷な条件(Harsh conditions)及び長い工程時間による問題点を解決することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、光学的安定性、及び常温で効果的にアニオン交換を行う方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施例に係る無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のアニオン交換方法は、下記化学式1による欠陥(Defect)が形成された第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子を合成するステップと、下記化学式2によるハロゲン塩と極性溶媒とを混合した溶液を準備するステップと、前記第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子を前記溶液に添加して、下記化学式3による第2無機ハライドペロブスカイトナノ粒子を合成するステップとを含み、前記ハロゲン塩のC-X’間の結合よりも、第2無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のAB-X’3間の結合がさらに強いので、第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のアニオンXが前記ハロゲン塩のアニオンX’で置換されることを特徴とする。
【0013】
ABX3 (化学式1)
CX’ (化学式2)
ABX’3 (化学式3)
(前記化学式1~3において、Aは、Cs又はCH3NH、Bは、Pb又はSnであり、X及びX’はハロゲンアニオンであり、前記Cは、Cs+、Na+、K+、NH4
+及びTBA+から選択されたいずれか1つであり、前記XとX’は互いに異なる。)
【0014】
一実施形態によれば、前記第2無機ハライドペロブスカイトナノ粒子を合成するステップにおいて、前記第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子の欠陥に前記ハロゲン塩のカチオンが付着されて核形成点(nucleation site)となり得る。
【0015】
一実施形態によれば、前記第2無機ハライドペロブスカイトナノ粒子は、結晶粒度(grain size)が10nm~20nmであってもよい。
【0016】
一実施形態によれば、前記第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子を合成するステップは、10℃~30℃で行われてもよい。
【0017】
一実施形態によれば、前記ABX3の組成の第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子はCsPbBr3であってもよい。
【0018】
一実施形態によれば、前記ハロゲン塩は、NaIまたはNH4Clであってもよい。
【0019】
一実施形態によれば、前記ハロゲン塩の濃度は10mM~100mMであってもよい。
【0020】
一実施形態によれば、前記極性溶媒はIPAであってもよい。
【0021】
一実施形態によれば、前記第2無機ハライドペロブスカイトナノ粒子はコロイド安定性を示し、前記極性溶媒中で前記ナノ粒子の表面のリガンドの分布が60%~90%維持されてもよい。
【0022】
本発明の実施例に係るアニオンが交換されたペロブスカイトナノ粒子において、前記アニオンが交換された無機ハライドペロブスカイトナノ粒子はCsPbI3である。
【0023】
本発明の実施例に係るアニオンが交換されたペロブスカイトナノ粒子において、前記アニオンが交換された無機ハライドペロブスカイトナノ粒子はCsPbCl3である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、無機ハライドペロブスカイトベースの光及び光電素子の性能を向上させることができる。
【0025】
本発明によれば、ペロブスカイトベースの光及び光電素子の作製に必要なコストを大幅に節減することができる。
【0026】
本発明によれば、ペロブスカイトナノ粒子のコロイド安定性が維持されるので、溶液工程を通じた薄い薄膜型及び大面積の素子を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1A】CsPbX
3ペロブスカイトのハロゲン組成の変化による発光色特性を示す写真である。
【
図1B】CsPbX
3ペロブスカイトの立方体構造の模型である。
【
図1C】CsPbX
3ペロブスカイトを活用した写真である。
【
図2】実施例1によるリガンドを用いた再結晶化法(ligand-assisted re-crystallization method)を用いた第1無機ハライドペロブスカイトCsPbBr
3の合成方法を図で示したものである。
【
図3】ハロゲン塩のカチオン及びアニオンに対してsoft/hardの程度を比較した図である。
【
図4】CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子の時間の経過による相対的な発光強度を示したグラフである。
【
図5A】アニオン交換前の第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子、及びアニオンが交換された第2無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のX線回折パターン(XRD)を示したグラフである。
【
図5B】アニオン交換前の第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子、及びアニオンが交換された第2無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のX線回折パターン(XRD)を示したグラフである。
【
図6A】CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子、及びCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子にClアニオンを含むハロゲン塩を加えた場合の吸収スペクトルである。
【
図6B】CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子、及びCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子にClアニオンを含むハロゲン塩を加えた場合の光発光スペクトルを示したグラフである。
【
図7A】CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子、及びCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子にIアニオンを含むハロゲン塩を加えた場合の吸収スペクトルである。
【
図7B】CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子、及びCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子にIアニオンを含むハロゲン塩を加えた場合の光発光スペクトルを示したグラフである。
【
図8】CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子の光発光(Photoluminescence)を測定したグラフである。
【
図9A】各ハロゲン塩を濃度別に加えた場合の光発光スペクトルである。
【
図9B】各ハロゲン塩を濃度別に加えた場合の光発光スペクトルである。
【
図10】CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子に加えられたハロゲン塩のカチオンが欠陥(defect)に作用する原理を示した図である。
【
図11】実施例に係る無機ハライドペロブスカイトナノ粒子の透過電子顕微鏡写真である。
【
図12】容器内でCsPbBr
3及びアニオン交換が起こったCsPbBr
3が光発光する写真である。
【
図13A】ペロブスカイトナノ粒子の吸収スペクトルである。
【
図13B】ペロブスカイトナノ粒子の吸収スペクトルである。
【
図13C】ペロブスカイトナノ粒子の吸収スペクトルである。
【
図13D】ペロブスカイトナノ粒子の吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付の図面及び添付の図面に記載された内容を参照して、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明が実施例によって制限又は限定されるものではない。
【0029】
本明細書で使用された用語は、実施例を説明するためのものであり、本発明を制限しようとするものではない。本明細書において、単数形は、文句で特に言及しない限り、複数形も含む。明細書で使用される「含む(comprises)」及び/又は「含む(comprising)」は、言及された構成要素、段階、動作及び/又は素子は、一つ以上の他の構成要素、段階、動作及び/又は素子の存在又は追加を排除しない。
【0030】
本明細書で使用される「実施例」、「例」、「側面」、「例示」などは、記述された任意の態様(aspect)又は設計が他の態様又は設計よりも良好であるか、または利点があるものと解釈すべきものではない。
【0031】
また、「又は」という用語は、排他的論理和「exclusive or」よりは、包含的な論理和「inclusive or」を意味する。すなわち、特に言及しない限り、または文脈から明らかでない限り、「xがa又はbを用いる」という表現は、包含的な自然順列(natural inclusive permutations)のいずれか一つを意味する。
【0032】
また、本明細書及び特許請求の範囲で使用される単数表現(「a」又は「an」)は、特に言及しない限り、または単数形態に関するものであることが文脈から明らかでない限り、一般的に「一つ以上」を意味するものと解釈しなければならない。
【0033】
「欠陥(defect)」は、原子の周期的な配列からなるペロブスカイト結晶において原子配列の周期性が崩れる部分を意味する。
【0034】
本発明のアニオン交換において、「交換」と「置換」は同じ意味で使用される。
【0035】
以下、添付の図面を参照して、本発明を詳細に説明する。
【0036】
図1Aは、Joule,2018,2(10),2105-2116から引用し、
図1Cは、Nature Nanotechnology,2014,9,687-692から引用した。
【0037】
ペロブスカイトは、光学分野で脚光を浴びている物質であって、バンドギャップの調整を通じて、
図1Aのように様々な可視光領域の光を発光する。
【0038】
図1Bを参照すると、無機ハライドペロブスカイトCsPbX
3(X=Cl、Br、I)は、立方型の構造を有し、八面体の外部の球はCs、八面体の内部の球はPb、八面体の各頂点の球はXを示す。
【0039】
無機ハライドペロブスカイトCsPbX
3は、
図1C(左側:赤色で発光、右側:緑色で発光)のように、LED、そして太陽電池などに適用可能である。CsPbX
3は、高発光量子収率(PLQY)、高いイオン移動性(Ion mobility)及び立方構造(Cubic structure)により、直接遷移(Direct bandgap)を有するという利点がある。すなわち、直接遷移により非放射性再結合(non-radiative recombination)が発生しないので、CsPbX
3は高い発光効率を示す。しかし、赤色を発するCsPbI
3及び青色を発するCsPbCl
3は、既存の高温注入法(hot-injection)で合成時に熱力学的に立方構造を有さず、このような構造的な問題により、常温で間接遷移(Indirect bandgap)及び電子損失(Electron loss)が生じる。これにより、発光効率が低くなる。
【0040】
アニオンが交換された無機ハライドペロブスカイトナノ粒子CsPbCl3及びCsPbI3は、光検出器(photodetector)に利用され得る。併せて、安定性が確保されたCsPbI3ペロブスカイトは、多層構造を有するので、様々な物質の処理に耐えなければならないLED、太陽電池(solar cell)にも利用可能である。
【0041】
したがって、アニオン交換法を通じたバンドギャップ調節方法が必要である。アニオン交換法を用いる場合、CsPbBr3の直接遷移を維持し、全可視光範囲をカバーすることができ、ハライドの比率を容易に調節することができる。アニオン交換は、一般的に溶液状態で発生する。このとき、交換のターゲットとなるハライド溶質をイオン化させるために極性溶媒を使用し、ペロブスカイトナノ粒子は不動態化(passivation)されなければならない。
【0042】
一方、無機ペロブスカイトは、物質自体の欠陥(defect)による素子の性能が減少する問題があるため、高性能のペロブスカイト太陽電池を製造するためには欠陥制御が必須である。既存に知られているアニオン交換方法は、極性溶媒によって欠陥が発生するため、安定性に問題がある。欠陥を制御するためにドーピングのような付加的な過程が必要であるため、工程が長くなり、非効率的である。アニオン交換と同時に欠陥制御を図るために、本発明では、ハード-ソフト酸-塩基理論(Hard-soft acid-base(HSAB) theory)を用いる。以下、HSAB理論と称する。HSAB理論を用いることによって、ターゲットハライドのカチオンでペロブスカイトを不動態化させて相変化が起こることを防止し、表面リガンドには影響を与えないので、コロイド安定性を維持させることができる。
【0043】
具体的に、本発明の無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のアニオン交換方法は、2つのステップに大別される。第1のステップは、ABX3(Aは、Cs又はCH3NH、Bは、Pb又はSnであり、Xはハロゲンアニオン)の組成を有する欠陥(defect)が形成された第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子を合成するステップである。第2のステップは、CX’(前記Cは、Cs+、Na+、K+、NH4
+及びTBA+から選択されたいずれか1つであり、X’はハロゲンアニオンであり、前記XとX’は互いに異なる)の組成を有するハロゲン塩と極性溶媒を混合した溶液を準備し、第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子を前記溶液に添加して、ABX’3の組成を有する第2無機ハライドペロブスカイトナノ粒子を合成するステップである。このような無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のアニオン交換方法を通じて、ハロゲン塩のC-X’間の結合よりも、第2無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のAB-X’3間の結合がさらに強いので、第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のアニオンXが前記ハロゲン塩のアニオンX’で置換される反応が起こる。
【0044】
第1のステップである第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子を合成するステップにおいて、ABX3の組成の第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子は、好ましくはCsPbBr3であってもよい。合成は10℃~30℃で行われ、好ましくは25℃で行われる。無機ハライドペロブスカイトの合成が常温で行われる理由は、リガンドを用いた再結晶化法(ligand-assisted re-crystallization method)を用いて第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子の表面に多数の欠陥を誘導するためである。
【0045】
欠陥の多い無機ハライドペロブスカイトは酸化安定性(oxidative stability)が良くないため、ペロブスカイトの結晶構造が一日も維持されず、極性溶媒が投入されると、数分も耐えられずに構造が破壊されるが、本発明では、カチオン効果を通じてこれを克服する。まとめると、カチオン効果をさらに極大化するために、常温溶液工程法で欠陥を人為的に誘導することが本発明ならではの特徴である。
【0046】
第2のステップである第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子をハロゲン塩及び極性溶媒を混合した溶液に添加して第2無機ハライドペロブスカイトナノ粒子を合成するステップにおいて、ハロゲン塩は、NaIまたはNH4Clであってもよい。ハロゲン塩のカチオン-アニオンの組み合わせとしてNaIまたはNH4Clを使用する場合にアニオン交換が良好に起こる理由は、HSAB理論で説明することができる。前記理論によれば、TBAC(tetrabutylammonium chloride)またはNaIはイオン化が良好に行われるので、カチオンは第1無機ハライドペロブスカイトの欠陥においてカチオン効果を示し、アニオン置換に適する。但し、これは、NaIには適用される説明であるが、実際にTBACを使用する場合にはアニオン交換が起こらない。その理由は、TBA+の大きな分子サイズにより、ペロブスカイト表面の欠陥を不動態化(passivation)することができないためである。したがって、その次にイオン化が良好に行われる組み合わせであるNH4Clがアニオン交換に選択される。
【0047】
また、前記ハロゲン塩の濃度は10mM~100mMであり、好ましくは20mM~40mMである。ハロゲン塩の濃度が10mM以下である場合は、ペロブスカイトナノ粒子の表面欠陥がハロゲン塩のカチオンによって保護されないため、前記ナノ粒子が不安定で破壊されることがあり、そのため、ペロブスカイトのアニオン交換が良好に起こらない。反面、ハロゲン塩の濃度が100mM以上である場合は、高い濃度によりアニオン交換が過度に早く発生し、無機ハライドペロブスカイトのハロゲン組成を制御することが難しい。
【0048】
前記ハロゲン塩及び極性溶媒を混合した溶液において、極性溶媒は、好ましくはIPAである。水の極性が100であるとき、IPAは54程度の適当な極性を有するので、IPAは、極性溶媒及び無極性溶媒の両方の特性を有する。また、IPAは、RO-の形態に解離されて溶質のイオン化及びカチオン効果を促進させることができるので、他の極性溶媒とは異なって、アニオン交換に役立ち得る。
【0049】
アニオンが交換される過程において、前記第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子の欠陥(defect)に前記ハロゲン塩のカチオンが付着して核形成点(nucleation site)として作用する。前記第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子の核形成点となった前記カチオンは、第2無機ハライドペロブスカイトナノ粒子の追加的な成長点となる。このように成長した第2無機ハライドペロブスカイトナノ粒子は、結晶粒度(grain size)が10nm~20nmである。太陽電池のような電子/正孔移動度(electron/hole mobility)は、素材の結晶粒度(grain size)が非常に重要であるところ、前記のような成長は結晶粒度を増加させ、光及び光電素子の性能を向上させることができる。
【0050】
これに加え、前記カチオンは、表面欠陥を減らすことによってペロブスカイト構造の安定性を増加させる役割を果たす。上述したようなカチオンの役割を総称して“カチオン効果”という。前記第2無機ハライドペロブスカイトナノ粒子は、カチオン効果によって、極性溶媒中でもコロイド安定性(colloidal stability)を示し、“コロイド安定性”とは、溶液中でペロブスカイトナノ粒子が、合成時に使用されたオレイン酸(OA)及びオレイルアミン(OAm)リガンドで良好に囲まれていることを意味する。元々ペロブスカイトナノ粒子は、酸素環境で酸素がオレイン酸又はオレイルアミンと結合すべきであった部位を占めたものであるため、コロイド安定性が非常に良くなく、ペロブスカイトが合成された後、1日~1週間内にバルク物質に変わったり分解されたりする。
【0051】
本発明では、極性溶媒中で第2無機ハライドペロブスカイト粒子の表面の前記リガンドの分布が60%~90%維持されるという点から、コロイド安定性が維持されることが分かる。このように、ペロブスカイトナノ粒子のコロイド安定性が維持されることにより、ペロブスカイトの合成時に溶液工程を用いることができる。すなわち、望みの基板上に溶液を振りかけた後、スピンコーティングを通じて簡単に薄膜型素子を作製することができ、これを用いて大面積の素子も作製可能である。
【0052】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は、本発明をより具体的に説明するためのもので、本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0053】
[比較例1]CsPbBr3ナノ粒子の合成-高温
CsCO3200mg、1-オクタデセン(1-Octadecene、1-ODE)10ml及びオレイン酸(Oleic acid、OA)0.6mlを、25mlの3口フラスコに投入した後、撹拌し、120℃で1時間真空を維持した。その後、Arを流しながら、150℃で20分間温度を維持してCs-オレエート(Cs-oleate)を合成し、温度を70~110℃に下げた。
【0054】
PbBr2655mg、1-ODE50ml、オレイン酸5ml、及びオレイルアミン(Oleylamine、OAm)5mlを、100mlの3口フラスコに投入した後、撹拌し、120℃で1時間真空を維持した。その後、Arを流しながら130~170℃に上昇させた後、以前に合成したCs-オレエートを注入して10分間温度を維持し、加熱を終了した。
【0055】
合成されたペロブスカイトCsPbBr3ナノ粒子は、過量の反溶媒で遠心分離して沈殿させた後、上澄み液を除去し、有機溶媒に分散させた。
【0056】
前記比較例1は、高温注入法(Hot injection method)を用いたCsPbBr3ペロブスカイトの合成方法であって、高温で合成するので欠陥が非常に少なく、安定性が高い合成方法である。
【0057】
[実施例1]CsPbBr3ナノ粒子の合成-常温
CsBrとPbBr2をN,N-ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide;DMF)溶媒に投入した後、1日以上撹拌してCsPbBr3前駆体を準備した。前記CsPbBr3前駆体は、有機リガンドであるオレイン酸(oleic acid)及びオレイルアミン(oleylamine)と混合し、有機溶媒であるトルエン(toluene)に投入して混合溶液を製造した。前記混合溶液を2分間撹拌してコロイド状態のCsPbBr3ペロブスカイトナノ粒子を合成した。
【0058】
前記コロイド状態のCsPbBr3ペロブスカイトナノ粒子が均一な大きさを有するように、前記ナノ粒子を酢酸メチル溶媒と混合して遠心分離を行った。その後、沈殿したペロブスカイトナノ粒子は捨て、均一な大きさの粒子を集めた。均一なペロブスカイトナノ粒子をヘキサン(hexane)に分散させてコロイドCsPbBr3ペロブスカイトナノ粒子溶液を準備した。
【0059】
前記ヘキサンは無極性溶媒であるため、長い炭素鎖により無極性を帯びるオレイン酸及びオレイルアミンで取り囲まれたペロブスカイトナノ粒子を良好に分散させ、これにより、後でデバイスの作製時に均一な薄膜を作ることができた。
【0060】
前記実施例1によって合成されたCsPbBr
3ナノ粒子は、表面に欠陥を有し、欠陥が形成された様子は、
図10の右側の円状の点線を参照。
【0061】
[比較例2-1]アニオン交換-TBAC
実施例1によって合成されたペロブスカイトナノ粒子のアニオン交換のために、ハロゲン塩TBACを準備した。各ハロゲン塩溶質をIPA(iso-propanol)溶媒に30mMの濃度で溶解させた。溶解されたハライド溶液を、有機溶媒であるヘキサン(hexane)に溶けているコロイドCsPbBr3ペロブスカイトナノ粒子溶液と混合した。
【0062】
[比較例2-2]アニオン交換-NaCl
前記比較例2-1において、ハロゲン塩として、TBACの代わりにNaClを使用した以外は、比較例2-1と同一である。
【0063】
[比較例2-3]アニオン交換-TBAI
前記比較例2-1において、ハロゲン塩として、TBACの代わりにTBAIを使用した以外は、比較例2-1と同一である。
【0064】
[比較例2-4]アニオン交換-NH4I
前記比較例2-1において、ハロゲン塩として、TBACの代わりにNH4Iを使用した以外は、比較例2-1と同一である。
【0065】
[実施例2-1]アニオン交換-NH4Cl
前記比較例2-1において、ハロゲン塩として、TBACの代わりにNH4Clを使用した以外は、比較例2-1と同一である。
【0066】
[実施例2-2]アニオン交換-NaI
前記比較例2-1において、ハロゲン塩として、TBACの代わりにNaIを使用した以外は、比較例2-1と同一である。
【0067】
比較例2-1~比較例2-4、実施例2-1、実施例2-2によってアニオン交換を行った結果を説明すると、実施例2-1(ハロゲン塩としてNH4Clを使用)及び実施例2-2(ハロゲン塩としてNaIを使用)の場合にのみアニオン交換が成功して、それぞれCsPbI3、CsPbBr3ペロブスカイトナノ粒子となり、残りの混合溶液ではアニオン交換反応が現れなかった。
【0068】
図2は、実施例1による再結晶化法(ligand-assisted re-crystallization method)を用いた第1無機ハライドペロブスカイトCsPbBr
3の合成方法を図で示したものである。無機ハライドペロブスカイトの合成方法のうち高温注入法(Hot injection method)は、150℃以上で合成し、欠陥(defect)が非常に少なく生成されるので、安定性が高いペロブスカイトを合成できる方法である。本発明では、これとは異なって、約25℃の常温及び大気条件で合成する常温溶液工程法であり、これは、人為的に欠陥を誘導してカチオン効果をより一層極大化するためである。前記溶液工程により、ペロブスカイトベースの光及び光電素子の作製時に大量生産が容易であり、大面積化が可能であるので、コストを大幅に節減することができる。
【0069】
図2を参照すると、左側は、CsBrとPbBr
2をDMF(dimethylformamide)溶媒に投入した後、有機リガンドであるオレイン酸(oleic acid、OA)及びオレイルアミン(oleylamine、OAm)と混合し、有機溶媒であるトルエン(toluene)に投入して製造する混合溶液を示した図である。前記混合溶液を撹拌すると、右側の図におけるコロイド状態のCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子(CPB)が合成される。合成されたCsPbBr
3ナノ粒子は、表面に多くの欠陥を有する。
【0070】
図3では、種々のイオンに対してsoft/hardの程度を比較した。大きさが小さく、高い電荷状態を有し、弱い極性を帯びる化合物を“Hard”であるといい、大きさが大きく、低い電荷状態を有し、強い極性を帯びる化合物を“Soft”であるという。HSAB(Hard-soft acid-base)理論によれば、soft酸(acid)はsoft塩基(base)とさらに早く反応してさらに強い結合を作り、hard酸とhard塩基にも同一に適用される。
【0071】
図3を参照すると、TBA
+、NH4
+、Na
+の順にhard塩基(hardカチオン)であり、I
-、Br
-、Cl
-の順にhard酸(hardアニオン)であることがわかる。これにHSAB理論を適用すると、hardカチオン-hardアニオンまたはsoftカチオン-softアニオンの組み合わせは強い結合をするのでイオン化されにくく、反対に、hardカチオン-softアニオンまたはsoftアニオン-hardカチオンの組み合わせを有する際に、イオン化が良好に行われると予想できる。
【0072】
したがって、Clアニオンを含むカチオン-アニオンの組み合わせ(ハロゲン塩の組み合わせ)のうち、TBAC、NH4Cl、NaClの順にイオン化が良好に起こり、Iアニオンを含むカチオン-アニオンの組み合わせ(ハロゲン塩の組み合わせ)のうち、NaI、NH4I、TBAIの順にイオン化が良好に起こるはずである。イオン化が良好に行われるほど、無機ハライドペロブスカイトにハロゲンアニオンをさらに良好に提供することができる。
【0073】
図4は、時間の経過による相対的な発光強度を示したグラフである。グラフを参照すると、コロイド状CPB PeNCsは、溶液中に分散しているCsPbBr
3ペロブスカイトを意味する。CPB PeNCsにIPAを添加は、コロイド状態のCsPbBr
3ペロブスカイトにIPAを添加したことを意味する。前記コロイド状態のCsPbBr
3ペロブスカイトは、時間が経過しても発光強度の変化がほとんどない。反面、IPAを添加したCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子は、時間が経過するに伴って発光強度が急激に弱くなることを確認することができる。一般に、メタノール、エタノール、IPAなどの極性溶媒は、CsPbBr
3ペロブスカイトの構造に欠陥(defect)を発生させ、結局、ペロブスカイトナノ粒子を破壊させるハーシュケミカル(harsh chemicals)と考えられる。ここで、「破壊」は、次の意味を有する。前記欠陥によって、オレイン酸及びオレイルアミンリガンドが前記ナノ粒子の表面に結合できず、これにより、ナノ粒子が凝集して数マイクロメートル以上のバルク物質になることを意味する。また、ナノ粒子が分解されて特定の物性あるいは特定の構造が現れないことを意味する。
【0074】
本発明において、IPAは2つの役割を果たしており、第1の役割は、説明したように、極性溶媒であるIPAがペロブスカイトの構造に欠陥を誘導して欠陥サイト(defect site)を多く生成することによって、ハロゲン塩のカチオンが不動態化(passivation)をさらに活発に進行するようにすることである。第2の役割は、IPAがハロゲン塩をカチオンとアニオンにイオン化させると同時に、IPAは中間程度の極性を有するので、無極性であるヘキサン(hexane)溶液中のオレイン酸及びオレイルアミンリガンドと結合されたペロブスカイトナノ粒子に前記カチオン、アニオンが接近できるようにする役割を果たす。
【0075】
以下の図面において、
図9A、
図9B及び
図13A乃至
図13Dにおいて、CPBはCsPbBr
3、CPCはCsPbCl
3、CPIはCsPbI
3を意味する。
【0076】
図13A乃至
図13Dにおいて、PeNCsは、Perovskite Nanocrystals(ペロブスカイトナノ粒子)を意味する。
【0077】
【0078】
図5A、
図6A及び
図6Bにおいて、TBAC処理(TBACで処理した)は、CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子をTBACで処理したものであって、比較例2-1に該当する。
【0079】
図5A、
図6A及び
図6Bにおいて、NaCl処理(NaClで処理した)は、CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子をNaClで処理したものであって、比較例2-2に該当する。
【0080】
図5B、
図7A及び
図7Bにおいて、TBAI処理(TBAIで処理した)は、CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子をTBAIで処理したものであって、比較例2-3に該当する。
【0081】
図5B、
図7A及び
図7Bにおいて、NH
4I処理(NH
4Iで処理した)は、CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子をNH
4Iで処理したものであって、比較例2-4に該当する。
【0082】
図5A、
図6A、
図6B、
図11、
図13C及び
図13Dにおいて、NH
4Cl処理(NH
4Clで処理した)は、CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子をNH
4Clで処理したものであって、実施例2-1に該当する。
【0083】
【0084】
図8において、TBABで処理したは、CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子をTBABで処理したものである。
【0085】
図8において、KBrで処理したは、CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子をKBrで処理したものである。
【0086】
図8において、NaBrで処理したは、CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子をNaBrで処理したものである。
【0087】
図8において、NH
4Brで処理したは、CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子をNH
4Brで処理したものである。
【0088】
図9Aにおいて、0.3mM NH
4Clで処理したCPBは、CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子を0.3mMのNH
4Clで処理したものである。
【0089】
図9Aにおいて、3mM NH
4Clで処理したCPBは、CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子を3mMのNH
4Clで処理したものである。
【0090】
図9Aにおいて、30mM NH
4Clで処理したCPBは、CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子を30mMのNH
4Clで処理したものである。
【0091】
図9Bにおいて、0.3mM NaIで処理したCPBは、CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子を0.3mM NaIで処理したものである。
【0092】
図9Bにおいて、3mM NaIで処理したCPBは、CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子を3mMのNaIで処理したものである。
【0093】
図9Bにおいて、30mM NaIで処理したCPBは、CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子を30mMのNaIで処理したものである。
【0094】
図5A及び
図5Bは、アニオン交換前の第1無機ハライドペロブスカイトナノ粒子、及びアニオンが交換された第2無機ハライドペロブスカイトナノ粒子のX線回折パターン(XRD)を示したグラフである。左側のグラフを参照すると、上からNH
4Cl、NaCl及びTBACをそれぞれ加えたCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子、及びハロゲン塩を加える前のCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子の順にX線回折パターンが示されている。右側のグラフを参照すると、上からNH
4I、NaI及びTBAIをそれぞれ加えたCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子、及びハロゲン塩を加える前のCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子の順にX線回折パターンが示されている。NH
4ClとNaIを処理した場合、アニオン交換が行われたCsPbCl
3とCsPbI
3は、CsPbBr
3と同じ立方構造(cubic structure)のピークを示すが、TBACとTBAIを処理した場合には、構造がすべて破壊されて分解され、そのため、いかなるピークも現れない。NaClとNH
4Iを処理した場合には、立方構造が破壊され、斜方晶系(orthorhombic system)など他の構造に変形されたと見られる。
【0095】
図6Aは、CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子、及びCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子にClアニオンを含むハロゲン塩を加えた場合の吸収スペクトルを示したグラフである。
図6Bは、CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子、及びCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子にClアニオンを含むハロゲン塩を加えた場合の光発光(PL)スペクトルを示したグラフである。
図6Bの右上の写真は、光発光中の無機ハライドペロブスカイトである。
【0096】
図6A及び
図6Bを参照すると、ハロゲン塩を加える前のCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子と、TBAC、NH
4Cl及びNaClをそれぞれ加えたCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子との吸収及び光発光スペクトルが示されている。
図6A及び
図6Bにおいて、NH
4Clを加えたCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子は、450nm付近の波長でピークが現れるので、青色を帯びるはずであり、これは、
図6Bの右上の写真中の中央で確認できる。NaClを加えたCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子と、ハロゲン塩を加える前のCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子は、500nm付近の波長でピークが現れるため、緑色で発光するはずであり、これは、写真の右側で確認できる。TBACを加えたCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子は、アニオン交換が発生するが、TBA
+の大きなサイズのため、欠陥不動態化(defect passivation)が不可能であるので早く破壊される。したがって、400nm付近の波長で識別し難いほどに小さいピークが現れる。
図6B上のTBAC-treatedのピークの場合、ノーマライズ(normalize)をしたので、紫色の波長でピークが目立って見えるものであり、実際には写真の左側に見えるように、色が現れない。
【0097】
無機ハライドペロブスカイトは、保有したハロゲンの種類に応じてバンドギャップが調整され、発光する光の色が変化する。したがって、吸収する光の波長を介して、アニオン交換が成功裏に行われたかを知ることができる。緑色を帯びるCsPbBr3ペロブスカイトナノ粒子にNH4Clを加えると、青色を帯び、これは、アニオンがBr-からCl-に交換されてCsPbCl3ペロブスカイトナノ粒子になったためである。しかし、NaClを加えたときは、Cl-にアニオンが交換されないため、既存のCsPbBr3ペロブスカイトの緑色が現れ、TBACを加えたときは、ペロブスカイト構造が破壊されて色が現れない。
【0098】
このとき、HSAB理論に基づくと、TBACを加えたときにアニオン交換が最も良好に行われなければならないが、TBA+は、大きな分子サイズにより、前記ペロブスカイトの欠陥を不動態化(passivation)することができず、その次にイオン化が良好に行われるNH4Clを加えたときにアニオン交換が容易に行われた。これを通じて、カチオン効果には分子サイズも影響を及ぼすことを確認することができる。それに加えて、NaClを加えた場合にはhard酸-hardアニオンの組み合わせであるため、ハロゲンアニオンの提供が良好に起こらないので、アニオン交換が失敗した。
【0099】
図7Aは、CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子、及びCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子にIアニオンを含むハロゲン塩を加えた場合の吸収スペクトルを示したグラフである。
図7Bは、CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子、及びCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子にIアニオンを含むハロゲン塩を加えた場合の光発光(PL)スペクトルを示したグラフである。
図7Bの右上の写真は、光発光中の無機ハライドペロブスカイトである。
【0100】
図7A及び
図7Bを参照すると、TBAI及びNH
4Iをそれぞれ加えたCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子、ハロゲン塩を加える前のCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子、及びNaIを加えたCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子の吸収及び光発光スペクトルが示されている。
図7A及び
図7Bにおいて、TBAIを加えたCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子及びNH
4Iを加えたCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子は、ピークが現れない。ハロゲン塩を加える前のCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子は、500nm付近の波長でピークが現れるので緑色、NaIを加えたCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子は、660nm付近の波長でピークが現れるので赤色で発光するということが分かる。これは、
図7Bの右上の写真でも確認できる。左側から順にTBAI、NH
4I、NaIであり、TBAI及びNH
4Iは発光せず、NaIは赤色を示す。
【0101】
HSAB理論に従って、イオン化が良好に行われるNaIをCsPbBr3ペロブスカイトナノ粒子に加えたとき、Iアニオン交換が成功裏に行われ、赤色を帯びるCsPbI3ペロブスカイトナノ粒子に組成が変化したことを確認することができる。TBAIは、TBA+の大きなサイズにより欠陥を不動態化することができず、NH4Iは、イオン化が良好に起こらないため、欠陥サイトを充填することができず、極性溶媒によって粒子が破壊されたため、ピークが現れない。
【0102】
図8は、CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子の光発光(Photoluminescence)を測定したグラフである。
【0103】
図8は、CsPbBr
3のハライドイオンであるBrイオンを有し、カチオンが異なる物質TBAB、KBr、NaBr、NH
4Brを投入した結果である。グラフのy軸は、光発光(PL)で波長が既存のピークよりもレッドシフト(Red shift)された場合に+で、ブルーシフト(Blue shift)された場合に-で示されるようになる。ペロブスカイトのハライドの変化がないときにナノ粒子がレッドシフトされることは、ナノ粒子のサイズが大きくなることを意味し、ブルーシフトされることは、粒子が小さくなることを意味する。CsPbBr
3ペロブスカイトにKBr、NaBr、NH
4Brを投入したときには非常に微細なレッドシフトが発生し、これを通じて、前記ハロゲン塩のカチオンがCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子の欠陥サイト(Defect site)に結合して微細な成長をしたことが分かる。一方、TBABを投入したときにはブルーシフトされ、これを通じて、TBA
+の大きなサイズにより、TBA
+がペロブスカイトの欠陥サイトに結合できず、ペロブスカイト粒子が破壊されたことが分かる。
【0104】
図9Aを参照すると、0.3mM、3mM及び30mMのNH
4Clを使用しており、CsPbBr
3ペロブスカイトに0.3mM及び3mMのNH
4Clを加えたときは、ハロゲン塩を加えていないCsPbBr
3ペロブスカイトの光発光グラフと類似の形態を示し、Clアニオン交換が起こらなかったことが分かる。反面、30mMのNH
4Clを加えたときは、グラフのピークが緑色を帯びる510nmから青色を帯びる480nm付近に移動したことからみて、CsPbCl
3にアニオン交換が起こったことが分かる。
【0105】
図9Bを参照すると、0.3mM、3mM及び30mMのNaIを使用しており、CsPbBr
3ペロブスカイトに0.3mM及び3mMのNaIを加えたときは、ハロゲン塩を加えていないCsPbBr
3ペロブスカイトの光発光グラフと類似の形態を示し、Iアニオン交換が起こらなかったことが分かる。反面、30mMのNaIを加えたときは、グラフのピークが緑色を帯びる510nmから赤色を帯びる650nm付近に移動したことからみて、CsPbI
3にアニオン交換が起こったことが分かる。
【0106】
図10は、CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子に加えられたハロゲン塩のカチオンが欠陥(defect)に作用する原理を示した図である。
図10を参照すると、前記カチオンがCsPbBr
3ペロブスカイトの表面欠陥に結合して不動態化(passivation)させることによって、極性溶媒の浸透を防ぎ、さらに、ペロブスカイト粒子の成長を通じて表面保護を可能にする。
【0107】
図11は、実施例に係る無機ハライドペロブスカイトナノ粒子の透過電子顕微鏡写真である。1番目の写真は、実施例1によって合成されたCsPbBr
3ナノ粒子であり、2番目の写真は、実施例2-1によってNH
4Clが加えられ、CsPbBr
3がCsPbCl
3にアニオン交換された場合であり、3番目の写真は、実施例2-2によってNaIが加えられ、CsPbBr
3がCsPbI
3にアニオン交換された場合である。
図11を参照すると、アニオン交換によって格子間隔が変化したことを確認できる。CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子の格子間隔は0.58nm、Clアニオン交換されたCsPbCl
3ペロブスカイトナノ粒子の格子間隔は0.57nmに減少し、Iアニオン交換されたCsPbI
3ペロブスカイトナノ粒子の格子間隔は0.59nmに増加した。ナノ粒子の格子間隔は、Cl、Br及びIイオンの大きさに応じて変化した。
【0108】
カチオン効果を通じて、ハロゲン塩のカチオンがペロブスカイトナノ粒子の欠陥を充填し、核形成点(nucleation site)として作用して、前記粒子の成長が起こる。これによって、ペロブスカイトナノ粒子の表面が不動態化(passivation)され、コロイド安定性(colloidal stability)も向上する。
【0109】
カチオン効果によって、欠陥のあるペロブスカイトナノ粒子は、IPA中でもコロイド安定性が維持される。
図12の2番目及び4番目の写真を参照すると、一つの容器内で3つの色が全て現れており、コロイド安定性が維持されていることを確認できる。1番目の写真の青色は、CsPbBr
3からアニオンが交換されたCsPbCl
3、3番目の写真の緑色はCsPbBr
3、5番目の写真の赤色は、CsPbBr
3からアニオンが交換されたCsPbI
3である。
【0110】
図13A乃至
図13Dは、CsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子のFT-IRグラフである。溶液中でコロイド安定性が維持されることは、FT-IRを通じて知ることができる。
図13Aは、アニオン交換前のCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子の吸収スペクトルである。
図13Bは、NaIが加えられたCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子の吸収スペクトルであって、Na
+のピークを示し、
図13Cは、NH
4Clが加えられたCsPbBr
3ペロブスカイトナノ粒子の吸収スペクトルであって、NH
4
+のピークを示すことからみて、アニオン交換が成功裏に起こったことが分かる。
【0111】
図13Dは、
図13A乃至
図13Cにおける2900~3100nm
-1区間のピークを合わせたものである。3つのグラフの全てにおいて2900~3100nm
-1のピークが現れ、これは、C-Hストレッチボンディング(stretch bonding)が存在することを意味する。すなわち、アニオン交換が起こった後にもC-Hストレッチボンディングがそのまま維持された。アニオンが交換されるということは、コロイド安定性が維持されることを意味し、コロイド安定性が維持されるためには、溶液中でペロブスカイトナノ粒子がオレイン酸(OA)及びオレイルアミン(OAm)リガンドで良好に取り囲まれていなければならないので、前記ボンディング(bonding)は、オレイン酸及びオレイルアミンのC-Hストレッチボンディング(stretch bonding)であることが分かる。
【0112】
以上のように、本発明は、限定された実施例と図面によって説明されたが、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者なら、このような記載から様々な修正及び変形が可能である。したがって、本発明の範囲は説明された実施例に限定されて定められてはならず、後述する特許請求の範囲だけでなく、この特許請求の範囲と均等なものによって定められなければならない。