(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036169
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】封止方法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/26 20060101AFI20230307BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20230307BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20230307BHJP
B05B 12/00 20180101ALI20230307BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20230307BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
B05D1/26 Z
B05C5/00 101
B05C11/10
B05B12/00 A
B05D7/00 K
B05D7/24 301N
B05D7/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021143043
(22)【出願日】2021-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓也
(72)【発明者】
【氏名】内藤 英治
【テーマコード(参考)】
4D075
4F035
4F041
4F042
【Fターム(参考)】
4D075AC02
4D075AC88
4D075AC91
4D075AC94
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA07
4D075DA31
4D075DC12
4D075EA05
4D075EA39
4D075EB51
4F035AA04
4F035BC02
4F041AA04
4F041AA17
4F041AB01
4F041BA05
4F041BA12
4F041BA22
4F042AA09
4F042AA28
4F042AB00
4F042BA04
4F042BA08
4F042BA10
(57)【要約】
【課題】ワークの開口部を簡便に封止するのに有効な封止方法を提供する。
【解決手段】常温下で流動性を有し、常温下で塗布後の形状を保持するための静置粘度を有する、樹脂系のシール剤Sを使用し、シール剤Sを吐出ノズル10から連続的に吐出してワーク3に付着させた状態で、シール剤Sの吐出を継続したまま吐出ノズル10をワーク3に対して開口部4を横切る送り方向Aに移動させることにより開口部4をシール剤Sで封止する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの開口部を封止する封止方法であって、
常温下で流動性を有し、常温下で塗布後の形状を保持するための静置粘度を有する、樹脂系のシール剤を使用し、
上記シール剤を吐出ノズルから連続的に吐出して上記ワークに付着させた状態で、上記シール剤の吐出を継続したまま上記吐出ノズルを上記ワークに対して上記開口部を横切る送り方向に移動させることにより上記開口部を上記シール剤で封止する、封止方法。
【請求項2】
上記シール剤は、常温下での静置粘度相当である、せん断速度4.2s-1時の粘度が120[Pa.s]以上である、請求項1に記載の封止方法。
【請求項3】
上記吐出ノズルは、ノズル高さが目標とする設定膜厚相当もしくはそれ以下でノズル幅が上記開口部の開口径以上となる吐出口を有し、上記吐出口から上記シール剤を帯状に吐出する幅広ノズルであり、上記幅広ノズルの上記ノズル高さに沿った方向を上吐出ノズルの上記送り方向とする、請求項1または2に記載の封止方法。
【請求項4】
上記吐出ノズルを上記開口部の開口平面に対して傾斜させた状態で上記送り方向に移動させる、請求項3に記載の封止方法。
【請求項5】
上記ワークに複数の上記開口部が互いに間隔を隔てて直線状に配列されている場合、上記複数の上記開口部の配列方向を上記吐出ノズルの上記送り方向とする、請求項3または4に記載の封止方法。
【請求項6】
上記シール剤の吐出条件と、上記吐出ノズルの上記送り方向の移動速度と、を予め設定する準備ステップと、
上記準備ステップで設定した上記吐出条件で上記吐出ノズルから上記ワークに向けて上記シール剤を連続的に吐出しながら、上記準備ステップで設定した上記移動速度で上記吐出ノズルを上記送り方向に移動させる封止ステップと、
を有し、
上記吐出条件は、上記ワークと上記吐出ノズルの吐出口との間の離間距離と、上記シール剤の吐出流量と、上記シール剤の吐出速度と、のうちの少なくとも1つである、請求項1~5のいずれか一項に記載の封止方法。
【請求項7】
上記吐出ノズルをロボットアームで保持し、上記シール剤の吐出時に上記吐出ノズルが上記送り方向に移動するように上記ロボットアームを制御する、請求項1~6のいずれか一項に記載の封止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの開口部を封止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体などのワークには、電着塗料抜き目的の開口孔や、部材の溶接用位置決めに使用される開口孔など、種々の開口部が設けられている。これらの開口部を通じて雨水や塵埃及び音などが侵入するのを防止するために、樹脂材料やゴム材料などからなる弾性変形可能な封止部品が用いられる。この封止部品をワークの開口部に押し込んで嵌め込むことによって開口部が封止される。このような封止部品は、一般的に「プラグ」と称される。
【0003】
また、下記の特許文献1には、発泡剤を含むシール材を開口孔に埋め込み、シール材を発泡させて閉塞する封止方法が開示されている。このような封止方法は、異なる大きさの開口孔のサイズに合わせて予め複数種類のプラグを準備する必要がなく、プラグの部品コストを削減できるという利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記の封止方法を採用する場合、作業者はシール材を掴んだ状態で開口孔毎に毎回手を伸ばして、このシール材を開口孔に埋め込む作業を手作業で行う必要がある。このため、封止作業に要する作業者の負担が大きいという問題が生じ得る。とりわけ、自動車の車体などに設けられている開口孔の数が多く、作業者が同じ姿勢を繰り返すことになるため、このような問題がより顕著にあらわれる。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、ワークの開口部を簡便に封止するのに有効な封止方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
ワークの開口部を封止する封止方法であって、
常温下で流動性を有し、常温下で塗布後の形状を保持するための静置粘度を有する、樹脂系のシール剤を使用し、
上記シール剤を吐出ノズルから連続的に吐出して上記ワークに付着させた状態で、上記シール剤の吐出を継続したまま上記吐出ノズルを上記ワークに対して上記開口部を横切る送り方向に移動させることにより上記開口部を上記シール剤で封止する、封止方法、
にある。
【発明の効果】
【0008】
上述の態様の封止方法において、ワークの開口部を封止するのに、樹脂系のシール剤を使用する。このシール剤は、常温下で流動性を有し、常温下で塗布後の形状を保持するための静置粘度を有する。このシール剤を、吐出ノズルから連続的に吐出してワークに付着させた状態で、吐出ノズルをワークに対して開口部を横切る送り方向に移動させる。このとき、吐出ノズルからのシール剤の吐出を継続したままにすることにより、シール剤を初期の付着点からワークの開口部を塞ぐように連続的に延ばすことができ、ワークのうち開口部とその周辺領域にシール剤を付着させることができる。
【0009】
ここで、シール剤は、常温下で塗布後の形状を保持するための静置粘度を有しているため、このシール剤が重力や振動などの影響を受けてもワークから剥がれたり垂れ落ちたりする現象が起こりにくい。したがって、ワークの開口部をシール剤で封止し、且つその封止状態を維持することができる。
【0010】
吐出ノズルからシール剤を吐出するようにすれば、作業者がワークの開口部まで手を伸ばすことなく封止作業を行うことができ作業者の負担を抑えることができる。また、シール剤の吐出条件を変更することで、ワークにおける開口部の位置、大きさ、形状等に応じた封止作業が可能になる。さらに、プラグのような封止部品を開口部の種類ごとに準備して使用する必要がないため、多種類の封止部品が不要であり、封止部品の部品コストを削減することができる。
【0011】
以上のごとく、上述の態様によれば、ワークの開口部を簡便に封止するのに有効な封止方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態にかかる封止設備の全体構成を示す側面図。
【
図2】シール剤のチクソ特性について説明するための図。
【
図3】
図1中の吐出ノズルを吐出口側から見た斜視図。
【
図5】吐出ノズルの位置を固定したときのシール剤の吐出軌跡について説明するための図。
【
図6】吐出ノズルを送り方向に移動させたときのシール剤の吐出軌跡について説明するための図。
【
図7】吐出ノズルから吐出したシール剤がワークに付着したときの様子を示す図。
【
図8】
図7において吐出ノズルからのシール剤の吐出を継続してワークの開口部を封止したときの様子を示す図。
【
図9】ワークの複数の開口部を1つの吐出ノズルを使用して一度に封止したときの様子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述の態様の好ましい実施形態について以下に説明する。
【0014】
上述の態様の封止方法において、上記シール剤は、常温下での静置粘度相当であるせん断速度4.2s-1時の粘度が120[Pa.s]以上であることが好ましい。
【0015】
この封止方法によれば、シール剤の塗布後の形状保持性について優れた効果を発揮する。せん断速度4.2s-1時の粘度が120[Pa.s]以上であるシール剤は、さらにチクソ性を有することで、シール剤を吐出するのに汎用性に高い安価なポンプを使用することが可能になる。これにより、封止方法を実行するための封止設備に要するコストを低く抑えることができる。
【0016】
上述の態様の封止方法において、上記吐出ノズルは、ノズル高さが目標とする設定膜厚相当もしくはそれ以下でノズル幅が上記開口径以上となる吐出口を有し、上記吐出口から上記シール剤を帯状に吐出する幅広ノズルであり、上記幅広ノズルの上記ノズル高さに沿った方向を上吐出ノズルの上記送り方向とするのが好ましい。
【0017】
この封止方法によれば、幅広ノズルである吐出ノズルのノズル高さが吐出後の帯状のシール剤の厚みに相当するため、ワークの開口部のシール厚みが概ね一定となるように制御するのに有効である。このとき、ワークのうち開口部とその周辺にシール剤を拡散させずにムラ無く付着させることができるため、開口部のシール性能を高めるのに有効である。
【0018】
上述の態様の封止方法において、上記吐出ノズルを上記開口部の開口平面に対して傾斜させた状態で上記送り方向に移動させるのが好ましい。
【0019】
この封止方法によれば、吐出ノズルをワークの開口部の開口平面に対して傾斜させて移動させることによって、シール剤がワークに付着する際の供給バランスの調節が容易になる。
【0020】
上述の態様の封止方法において、上記ワークに複数の上記開口部が互いに間隔を隔てて直線状に配列されている場合、上記複数の上記開口部の配列方向を上記吐出ノズルの上記送り方向とするのが好ましい。
【0021】
この封止方法によれば、ワークに設けられた複数の開口部の配列方向に吐出ノズルを移動させることによって、吐出ノズルを一方向に移動させるのみでワークの複数の開口部を一度に封止することが可能になる。また、開口部毎にシール剤を吐出する場合は、シール剤を節約することが可能である。
【0022】
上述の態様の封止方法は、上記シール剤の吐出条件と、上記吐出ノズルの上記送り方向の移動速度と、を予め設定する準備ステップと、
上記準備ステップで設定した上記吐出条件で上記吐出ノズルから上記ワークに向けて上記シール剤を連続的に吐出しながら、上記準備ステップで設定した上記移動速度で上記吐出ノズルを上記送り方向に移動させる封止ステップと、
を有し、
上記吐出条件は、上記ワークと上記吐出ノズルの吐出口との間の離間距離と、上記シール剤の吐出流量と、上記シール剤の吐出速度と、のうちの少なくとも1つであるのが好ましい。
【0023】
この封止方法によれば、準備ステップにおいて、シール剤の吐出条件と、吐出ノズルの送り方向の移動速度と、が予め設定される。そして、その後の封止ステップにおいて、準備ステップで設定した吐出条件及び移動速度を使用して、実際に吐出ノズルからワークに向けてシール剤を連続的に吐出しながら吐出ノズルを送り方向に移動させる。準備ステップを予め実行して条件を前もって設定することにより、その後の封止ステップで開口部の封止不良等の不具合が発生するのを防ぐことが可能になる。
【0024】
上述の態様の封止方法において、上記吐出ノズルをロボットアームで保持し、上記シール剤の吐出時に上記吐出ノズルが上記送り方向に移動するように上記ロボットアームを制御するのが好ましい。
【0025】
この封止方法によれば、ロボットアームを制御して吐出ノズルを送り方向に移動させることにより、ワークの開口部の封止作業の自動化及び高速化を図ることが可能になる。自動化により作業者の負担の大きい姿勢での封止作業を廃止できる。
【0026】
以下、自動車の車体であるワークに設けられた開口部を封止する技術の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0027】
なお、本実施形態を説明するための図面では、特にことわらない限り、水平方向である第1方向を矢印Xで示し、第1方向と直交する上下方向である第2方向を矢印Yで示すものとする。
【0028】
図1に示されるように、本実施形態にかかる封止設備1は、車体2を構成するワーク3の水平面に開口形成されている開口部4を封止するためのものである。ここで、ワーク3として、典型的には、車体2のアンダーボディを構成するメンバーやリーンフォースなどの基材が挙げられる。
【0029】
ワーク3は、第1方向Xに概ね水平に延在している。ワーク3に設けられる開口部4として、典型的には、開口孔、貫通孔、凹部などが挙げられる。本実施形態では、平面視の形状が円形である貫通孔(開口径d)を開口部4として例示している。
【0030】
封止設備1は、吐出ノズル10と、ポンプ11と、供給管12と、ロボット20と、制御装置30と、を備えている。
【0031】
吐出ノズル10は、供給管12を介してポンプ11に接続されている。ポンプ11は、流動性のある樹脂系のシール剤Sを高圧化して吐出するように構成されている。このポンプ11で吐出されたシール剤Sは、供給管12を通じて吐出ノズル10まで圧送されこの、吐出ノズル10の吐出口10aから外部へ吐出される。
【0032】
吐出ノズル10は、ロボット20のロボットアーム21のアーム先端部22に保持されている。ロボット20は、ロボットアーム21に複数の駆動軸が設けられた多軸ロボットとして構成されている。このロボット20及びポンプ11はいずれも、制御装置30に電気的に接続されている。
【0033】
制御装置30は、既知のCPU、メモリ、入出力部等によって構成されている。この制御装置30は、ロボット制御部31及びポンプ制御部32を備えている。
【0034】
ロボット制御部31は、ロボット20を制御する機能を有する。このロボット制御部31によれば、ロボットアーム21のアーム先端部22が予め教示された移動軌跡にしたがって動くようにロボット20が制御される。これにより、吐出ノズル10を所望に姿勢に調節することができる。
【0035】
ポンプ制御部32は、ポンプ11を制御する機能を有する。このポンプ制御部32によれば、吐出ノズル10から吐出するシール剤Sの吐出流量(流量制御によりノズル開口からの圧力と速度は変動)が制御される。
【0036】
シール剤Sは、常温下で流動性を有し、常温下で塗布後の形状を保持するための静置粘度を有する、樹脂(例えば、塩化ビニール等の樹脂)系のシール剤である。このシール剤Sは、常温下での静置粘度相当である、せん断速度4.2s-1時の粘度が120[Pa.s]以上であるのが好ましい。さらに、このシール剤Sは、常温下での流動性向上のためチクソ性を有すると好ましい。ここでいう「常温」として、典型的には、20~30[℃]の範囲内の温度が挙げられる。
【0037】
図2に示されるように、シール剤Sの「チクソ特性」とは、剪断速度の低下に伴って粘度が低下する特性をいう。このようなチクソ特性によれば、シール剤Sの剪断速度が相対的に高い領域ではそのシール剤Sの粘度が低くなる一方で、シール剤Sの剪断速度が相対的に低い領域ではそのシール剤Sの粘度が高くなる。
【0038】
チクソ特性を有する場合、吐出ノズル10からのシール剤Sの吐出時においては、ポンプ11による吐出圧がかかることで吐出ノズル10内のシール剤Sが流動しシール剤Sのせん断速度が高くなる。このとき、チクソ特性を有するシール剤Sはその粘度が一時的に低くなるため、このシール剤Sの一定レベルの流動性を維持できる。したがって、吐出ノズル10におけるシール剤Sの吐出性能を向上させることができる。
【0039】
チクソ性を有するシール剤Sは、吐出ノズル10から吐出されてワーク3に付着した付着時においては、シール剤Sに外力が作用しないため、吐出時に比べてシール剤Sの剪断速度が低くなる。このとき、チクソ特性を有するシール剤Sはその粘度が高くなるため、シール剤Sの所望の付着性能と形状維持性能を確保することができる。即ち、ワーク3に一旦付着したシール剤Sは、ワーク3から剥がれたり垂れ落ちたりする現象が起こりにくい。
【0040】
図3に示されるように、吐出ノズル10は、その吐出口10aのノズル高さ方向D1のノズル高さhが目標とする設定膜厚相当もしくはそれ以下で、且つその吐出口10aのノズル幅方向D2のノズル幅wが開口部4の開口径d(
図1を参照)以上となるように構成されている。即ち、この吐出ノズル10は、横長の吐出口10aからシール剤Sを吐出方向Bに帯状に吐出する幅広ノズルである。このため、例えば、吐出ノズル10の吐出口10aを上向きに配置した場合、吐出口10aから連続的に吐出した帯状のシール剤Sは、重力の影響を受けるとその吐出先端側が垂れ下がるように湾曲する。
【0041】
開口部4の開口径dの値は特に限定されるものではないが、一般的な車体2には、φ10程度の開口径dの開口部4をはじめ、φ10からφ25までの開口径dの開口部4が比較的多く設けられている。対象となる開口部4の開口径dに応じて、吐出ノズル10の吐出口10aのノズル幅wが定まる。
【0042】
なお、開口部4は、その平面視の形状が円形以外(例えば、楕円形、多角形などの形状)であってもよい。この場合には、開口径dを開口部4の最大開口径と読み替えて、吐出ノズル10を、その吐出口10aが、ノズル高さhが目標とする設定膜厚相当もしくはそれ以下、且つノズル幅wが最大開口径以上となるように構成することができる。
【0043】
次に、
図1、
図4~
図9を参照しつつ、上記構成の封止設備1を使用して、ワーク3の開口部4を封止する封止方法について説明する。
【0044】
図1に示されるように、封止設備1を使用する場合、制御装置30のロボット制御部31からロボット20に制御信号を出力してロボットアーム21の姿勢を調節する。これにより、吐出ノズル10をワーク3の下方からを近づけることができる。そして、吐出ノズル10は、その吐出口10aがワーク3の開口部4の周辺領域に向かうように上向きに配置される。
【0045】
図4に示されるように、本実施形態の封止方法には、準備ステップS101と、封止ステップS102と、が含まれている。
【0046】
準備ステップS101は、シール剤Sの吐出条件と、吐出ノズル10の送り方向Aの移動速度Vと、を予め設定するためのステップである。
図5に示されるように、この準備ステップS101では、実際のワーク3に向けてシール剤Sを吐出するのではなく、ワーク3があることを想定した仮想ワーク3A(実際には存在しない)に向けてシール剤Sを吐出するテストを行う。
【0047】
このテストでは、吐出ノズル10をその吐出口10aが上向きになるように配置し、且つ吐出ノズル10を開口部4の開口平面Cに対して傾斜させた状態にする。このとき、開口平面Cに対するシール剤Sの吐出方向Bの吐出角度αが概ね70°から90°までの範囲に入るように、吐出ノズル10を傾斜させるのが好ましい。
【0048】
ここで、
図5に示されるように、吐出ノズル10を移動させずに位置を固定した状態で、この吐出ノズル10からシール剤Sを実際に吐出してシール剤Sの吐出軌跡Tを検証する。このとき、吐出軌跡Tの頂点Taと仮想ワーク3Aの上面との間の距離を補正距離Eと定義している。吐出ノズル10から吐出されたシール剤Sは、上向きの吐出圧力と下向きに作用する重力とのバランスに基づいて吐出軌跡Tを形成する。したがって、吐出軌跡Tは、吐出ノズル10の吐出角度αと、ワーク3と吐出ノズル10の吐出口10aとの間の離間距離Fと、シール剤Sの吐出流量Q(或いは、シール剤Sの吐出速度)と、によって定まる。なお、下向き吐出及び横向き向吐出時はそこから重力分を補正して定めることができる。
【0049】
そこで、本例では、吐出ノズル10の吐出角度αを固定した状態で、離間距離F及び吐出流量Qを種々変化させて、補正距離Eが予め設定された初期値に概ね一致するときの、離間距離F及び吐出流量Qを求める。そして、これにより求めた離間距離F及び吐出流量Qを封止ステップS102で使用する。必要に応じて、吐出流量Qに代えて吐出速度を使用するようにしてもよい。
【0050】
次に、
図6に示されるように、吐出ノズル10を送り方向Aに移動させると、吐出ノズル10の位置を固定したときのシール剤Sの吐出軌跡Tが吐出ノズル10を移動させたことの影響によって吐出軌跡T’へと変化する。即ち、吐出軌跡Tの頂点Taの位置が吐出軌跡T’の頂点Taの位置まで下がる。シール剤Sのこのような吐出軌跡T’を形成させることができれば、シール剤Sが開口部4を突き抜けない最小限の勢いで、吐出ノズル10の吐出口10aからシール剤Sを吐出させることができる。
【0051】
そこで、本例では、補正距離E(
図5を参照)が概ねゼロになる(即ち、吐出軌跡T’の頂点Taの位置がワーク3の上面に概ね一致する)ときの、吐出ノズル10の送り方向Aの移動速度Vを求める。そして、これにより求めた移動速度Vを封止ステップS102で使用する。
【0052】
封止ステップS102は、準備ステップS101の後に、実際のワーク3の開口部4を封止するためのステップである。この封止ステップS102では、吐出ノズル10をロボット20のロボットアーム21で保持し、シール剤Sの吐出時に吐出ノズル10が送り方向Aに移動するようにロボットアーム21を制御する。
【0053】
準備ステップS101の場合と同様に、吐出ノズル10をその吐出口10aが上向きになるように配置し、且つ吐出ノズル10を開口部4の開口平面Cに対して傾斜させた状態にする。また、幅広ノズルである吐出ノズル10のノズル高さh(
図3を参照)に沿った方向を吐出ノズル10の送り方向Aとする。
【0054】
図7に示されるように、封止ステップS102では、先ず、第1位置P1にある上向きの姿勢の吐出ノズル10からシール剤Sを連続的に吐出してワーク3のうち開口部4の周辺箇所に付着させる。このときのシール剤Sの付着点が初期の付着点Saとなる。
【0055】
その後、
図8に示されるように、シール剤Sをワーク3に付着させた状態で、シール剤Sの吐出を継続したまま傾斜状態の吐出ノズル10をワーク3に対して開口部4を横切る送り方向Aに移動させる。即ち、吐出ノズル10を第1位置P1から第2位置P2まで送り方向Aに移動させる。これにより、初期の付着点Saから延びているシール剤Sでワーク3の開口部4を塞いで樹脂封止することができる。
【0056】
シール剤Sは、吐出ノズル10の吐出口10aの形状に応じた厚みの閉塞部Sbを形成する。閉塞部Sbの形状は、吐出ノズル10の吐出口10aから吐出されたシール剤Sの厚みと、開口部4の最大開口径と、塗着信頼性確保の為の吐出の圧力により若干押し込み状態で形成される。したがって、閉塞部Sbの領域においては、シール剤Sが押し込まれることによる初期の付着点Saよりも微量ではあるが薄肉化されたシール層を形成する傾向がある。
【0057】
このとき、準備ステップS101で予め求めた離間距離F、吐出流量Q、及び移動速度Vを封止ステップS102で使用することによって、ワーク3の開口部4の向こう側(上面側)に当て板などの別部材を設置してシール剤Sが開口部を突き抜けるのを防ぐような対策を講ずることなく、開口部4をシール剤Sで簡単に封止することが可能になる。
【0058】
図9に示されるように、ワーク3に設けられた複数の開口部4を連続して封止することもできる。ここで、複数の開口部4には、第1開口部4Aと、第2開口部4Bと、第3開口部4Cと、が含まれている。3つの開口部4A,4B,4Cは、互いに間隔を隔てて直線状に配列されている。このため、3つの開口部4A,4B,4Cの配列方向を吐出ノズル10の送り方向Aとする。
【0059】
複数の開口部4を連続して封止するとき、吐出ノズル10を、第1位置P1から第2位置P2及び第3位置P3を順次経て第4位置P4まで一定の移動速度Vで送り方向Aに移動させる。吐出ノズル10が第2位置P2まで達すると第1開口部4Aがシール剤Sで封止される。引き続きこの吐出ノズル10が第3位置P3まで達すると第2開口部4Bがシール剤Sで封止される。最終的にこの吐出ノズル10が第4位置P4まで達すると残りの第3開口部4Cもシール剤Sで封止される。
【0060】
このように、ワーク3に設けられた複数の開口部4の配列方向に吐出ノズル10を移動させることによって、1つの吐出ノズル10を一方向に移動させるのみでワーク3の複数の開口部4を一度に封止することが可能になる。また、開口部4毎にシール剤Sを吐出する場合は、シール剤Sを節約することが可能である。
【0061】
なお、開口部4の数は3つに限定されるものではなく、必要に応じて3つ以外の数であってもよい。また、複数の開口部4を吐出ノズル10によってそれぞれのタイミングで個別に封止するようにしてもよい。
【0062】
上述の実施形態によれば、以下のような作用効果が得られる。
【0063】
本実施形態の封止方法において、ワーク3の開口部4を封止するのに、樹脂系のシール剤Sを使用する。このシール剤Sは、前述のように、常温下で流動性を有し、常温下で塗布後の形状を保持するための静置粘度を有するシール剤であれば足りる。このシール剤Sを、吐出ノズル10から連続的に吐出してワーク3に付着させた状態で、吐出ノズル10をワーク3に対して開口部4を横切る送り方向Aに移動させる。このとき、吐出ノズル10からのシール剤Sの吐出を継続したままにすることにより、シール剤Sを初期の付着点Saからワーク3の開口部4を塞ぐように連続的に延ばすことができ、ワーク3のうち開口部4とその周辺領域にシール剤Sを付着させることができる。
【0064】
ここで、このシール剤Sは、さらにチクソ性を有する場合、吐出ノズル10からの吐出時に剪断速度が一時的に上昇して粘度が低くなる。このとき、シール剤Sの流動性が一時的に高まるため、吐出ノズル10から吐出したシール剤Sをワーク3に付着させ易くなる。一方で、シール剤Sは、ワーク3に付着した後は剪断速度が吐出時よりも低下して粘度が高くなる。このとき、ワーク3に付着したシール剤Sはその粘度に応じて流動性が下がるため形状維持性能が向上し、このシール剤Sが重力や振動などの影響を受けてもワーク3から剥がれたり垂れ落ちたりする現象が起こりにくい。したがって、ワーク3の開口部4をシール剤Sで封止し、且つその封止状態を維持することができる。
【0065】
吐出ノズル10からシール剤Sを吐出するようにすれば、作業者がワーク3の開口部4まで手を伸ばすことなく封止作業を行うことができ作業者の負担を抑えることができる。また、シール剤Sの吐出条件を変更することで、ワーク3における開口部4の位置、大きさ、形状等に応じた封止作業が可能になる。ワーク3に凹凸がある場合でも影響を受けることなく封止作業を行うことができる。さらに、プラグのような封止部品を開口部4の種類ごとに準備して使用する必要がないため、多種類の封止部品が不要であり、封止部品の部品コストを削減することができる。
【0066】
従って、ワーク3の開口部4を簡便に封止するのに有効な封止方法を提供することができる。
【0067】
本実施形態の封止方法によれば、シール剤の塗布後の形状保持性について優れた効果を発揮する。せん断速度4.2s-1時の粘度が120[Pa.s]以上であるシール剤は、さらにチクソ性を有する場合、シール剤Sを吐出するのに汎用性に高い安価なポンプ11を使用することが可能になる。これにより、封止方法を実行するための封止設備1に要するコストを低く抑えることができる。
【0068】
本実施形態の封止方法によれば、幅広ノズルである吐出ノズル10のノズル高さhが吐出後の帯状のシール剤Sの厚みに相当するため、ワーク3の開口部4のシール厚みが概ね一定となるように制御するのに有効である。このとき、ワーク3のうち開口部4とその周辺にシール剤Sを拡散させずにムラ無く付着させることができるため、開口部4のシール性能を高めるのに有効である。
【0069】
本実施形態の封止方法によれば、吐出ノズル10をワーク3の開口部4の開口平面Cに対して傾斜させて移動させることによって、シール剤Sがワーク3に付着する際の供給バランスの調節が容易になる。
【0070】
本実施形態の封止方法によれば、準備ステップS101において、シール剤Sの吐出条件と、吐出ノズル10の送り方向Aの移動速度Vと、が予め設定される。そして、その後の封止ステップS102において、準備ステップS101で設定した吐出条件(ワーク3と吐出ノズル10の吐出口10aとの間の離間距離F、シール剤Sの吐出流量Q)及び移動速度Vを使用して、実際に吐出ノズル10からワーク3に向けてシール剤Sを連続的に吐出しながら吐出ノズル10を送り方向Aに移動させる。準備ステップS101を予め実行して条件を前もって設定することにより、その後の封止ステップS102で開口部4の封止不良等の不具合が発生するのを防ぐことが可能になる。
【0071】
なお、シール剤Sの供給過多によってシール剤Sがワーク3に波状に付着するときには、シール剤Sの吐出流量Qを減らすか、或いは吐出ノズル10の移動速度Vを上げるのが好ましい。また、シール剤Sの供給過少によってシール剤Sがワーク3に予定よりも薄肉状に付着するときには、シール剤Sの吐出流量Qを増やすか、或いは吐出ノズル10の移動速度Vを下げるのが好ましい。これにより、ワーク3に付着したシール剤Sの厚みが概ね一定となるように調節できる。
【0072】
本実施形態の封止方法によれば、ロボット20のロボットアーム21を制御して吐出ノズル10を送り方向Aに移動させることにより、ワーク3の開口部4の封止作業の自動化及び高速化を図ることが可能になる。自動化により作業者の負担の大きい姿勢での封止作業を廃止できる。
【0073】
本発明は、上述の典型的な実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変更が考えられる。例えば、上述の実施形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0074】
上述の実施形態では、ロボットアーム21を使用して吐出ノズル10を送り方向Aに移動させる場合について例示したが、これに代えて、吐出ノズル10をスライドレール(図示省略)に沿って送り方向Aにスライドさせる駆動装置を採用することもできる。また、必要に応じて、作業者が吐出ノズル10を手指で把持して送り方向Aに動かすようにしてもよい。
【0075】
上述の実施形態では、水平方向に延在するワーク3の下面側から上向きの吐出ノズル10でシール剤Sを上向きに吐出する場合について例示したが、これに代えて、水平方向に延在するワーク3の上面側から下向きの吐出ノズル10でシール剤Sを下向きに吐出する構造や、垂直方向に延在するワークの側面側から横向きの吐出ノズル10でシール剤Sを横向きに吐出する構造などを採用することもできる。
【0076】
上述の実施形態では、吐出ノズル10として横長の吐出口10aを有する幅広ノズルを使用する場合について例示したが、吐出口10aの形状はこれに限定されるものではなく、必要に応じて吐出口10aの形状を適宜に変更することができる。
【0077】
上述の実施形態では、吐出ノズル10を開口部4の開口平面Cに対して傾斜させた状態で送り方向Aに移動させる場合について例示したが、必要に応じて、吐出ノズル10を開口部4の開口平面Cに対して垂直に配置した状態(
図5中の傾斜角度αが概ね90°の状態)で送り方向Aに移動させるようにしてもよい。
【0078】
上述の実施形態では、車体2のアンダーボディを構成するワーク3の開口部4をシール剤Sで封止する技術について例示したが、封止箇所はこれに限定されるものではなく、この技術を、車体2のうちアンダーボディ以外の要素を構成する部品の開口部をシール剤Sで封止する技術や、自動車以外の対象物を構成する部品に設けられた開口部をシール剤Sで封止する技術に適用することもできる。
【符号の説明】
【0079】
3 ワーク
4,4A,4B,4C 開口部
10 吐出ノズル
10a 吐出口
21 ロボットアーム
A 送り方向
C 開口平面
d 開口径
E 補正距離
F 離間距離
h ノズル高さ
Q 吐出流量
S シール剤
T,T’ 吐出軌跡
Ta 頂点
V 移動速度
w ノズル幅
α 吐出角度