(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036186
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】軸受用シェル部材の製造方法及び軸受の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/64 20060101AFI20230307BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20230307BHJP
B21D 53/10 20060101ALI20230307BHJP
B21D 51/10 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
F16C33/64
F16C19/26
B21D53/10 Z
B21D51/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021143080
(22)【出願日】2021-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100177910
【弁理士】
【氏名又は名称】木津 正晴
(72)【発明者】
【氏名】萩原 信行
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA13
3J701AA14
3J701AA24
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA63
3J701DA09
3J701DA20
3J701FA44
(57)【要約】 (修正有)
【課題】一対のシェルフランジを有する軸受用シェル部材を良好に製造する。
【解決手段】軸受用シェル部材の製造方法は、円筒状のシェル本体と、一対のシェルフランジと、を有する軸受用シェル部材の製造方法である。軸受用シェル部材の製造方法は、円環状のワーク本体21と、ワーク本体における径方向の内端から軸方向の第1側に延在する内側ワークフランジ22と、ワーク本体における径方向の外端から第1側に延在する外側ワークフランジ23と、を有するワーク部材20を、第1側に配置されたパンチ41と、第1側とは反対側の第2側に配置されたダイス42とによって挟み込んで変形させる反転加工を行う反転工程を備える。反転工程では、バックアップブロック43によって内側ワークフランジを径方向の内側から外側へ押しながら、パンチによって外側ワークフランジを第1側から第2側へ押すことにより、反転加工を行う。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のシェル本体と、前記シェル本体における軸方向の両端から径方向の外側にそれぞれ延在する一対のシェルフランジと、を有する軸受用シェル部材の製造方法であって、
円環状のワーク本体と、前記ワーク本体における径方向の内端から軸方向の第1側に延在する内側ワークフランジと、前記ワーク本体における径方向の外端から前記第1側に延在する外側ワークフランジと、を有するワーク部材を、前記第1側に配置されたパンチと、前記第1側とは反対側の第2側に配置されたダイスとによって挟み込んで変形させる反転加工を行う反転工程を備え、
前記反転工程では、バックアップブロックによって前記内側ワークフランジを径方向の内側から外側へ押しながら、前記パンチによって前記外側ワークフランジを前記第1側から前記第2側へ押すことにより、前記反転加工を行う、軸受用シェル部材の製造方法。
【請求項2】
円筒状のシェル本体と、前記シェル本体における軸方向の両端から径方向の内側にそれぞれ延在する一対のシェルフランジと、を有する軸受用シェル部材の製造方法であって、
円環状のワーク本体と、前記ワーク本体における径方向の内端から軸方向の第1側に延在する内側ワークフランジと、前記ワーク本体における径方向の外端から前記第1側に延在する外側ワークフランジと、を有するワーク部材を、前記第1側に配置されたパンチと、前記第1側とは反対側の第2側に配置されたダイスとによって挟み込んで変形させる反転加工を行う反転工程を備え、
前記反転工程では、バックアップブロックによって前記外側ワークフランジを径方向の外側から内側へ押しながら、前記パンチによって前記内側ワークフランジを前記第1側から前記第2側へ押すことにより、前記反転加工を行う、軸受用シェル部材の製造方法。
【請求項3】
前記バックアップブロックは、周方向に沿って並べられた複数のブロック部材を含んでいる、請求項1又は2に記載の軸受用シェル部材の製造方法。
【請求項4】
前記バックアップブロックにおける前記ワーク部材との接触面は、前記第2側に向かうほど前記ワーク部材に近づくように傾斜している、請求項1~3のいずれか一項に記載の軸受用シェル部材の製造方法。
【請求項5】
前記反転工程の後の前記ワーク本体における前記内側ワークフランジの側の第1部分と前記外側ワークフランジの側の第2部分との間の厚さの差が低減されるように、前記反転工程の前に、前記第1部分と前記第2部分との間に厚さの差が生じるように前記ワーク本体を変形させるサイジング工程を更に備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の軸受用シェル部材の製造方法。
【請求項6】
前記反転工程の前に、インナーダイス及びアウターダイス上に前記インナーダイスと前記アウターダイスとの間に架け渡されるように配置された円環状の加工部材を、前記インナーダイスと前記アウターダイスとの間に入り込むように移動するバーリングパンチによって変形させるバーリング加工を行うことにより前記ワーク部材を得るバーリング工程を更に含み、
前記バーリング工程では、前記加工部材に前記バーリングパンチとは反対側から接触する変形抑制部材を用い、前記バーリングパンチ及び前記変形抑制部材によって前記加工部材を挟みながら、前記バーリング加工を行う、請求項1~5のいずれか一項に記載の軸受用シェル部材の製造方法。
【請求項7】
前記反転工程の前に、後方押し出し成形により前記ワーク部材を成形する後方押し出し工程を更に備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の軸受用シェル部材の製造方法。
【請求項8】
前記反転工程の前に、後方押し出し成形により前記ワーク部材を成形する後方押し出し工程を更に備え、
前記後方押し出し工程では、前記反転工程の後の前記ワーク本体における前記内側ワークフランジの側の第1部分と前記外側ワークフランジの側の第2部分との間の厚さの差が低減されるように、前記第1部分と前記第2部分との間に厚さの差が存在する前記ワーク部材を成形する、請求項1~4のいずれか一項に記載の軸受用シェル部材の製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の軸受用シェル部材の製造方法により前記軸受用シェル部材を得る工程と、
複数の転動体と、前記複数の転動体を転動可能に保持する保持器とを、前記保持器が前記軸受用シェル部材によって保持されると共に前記複数の転動体が前記シェル本体上を転動可能となるように前記軸受用シェル部材に組み付ける工程と、を備える、軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受用シェル部材の製造方法及び軸受の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、円筒状の本体部と、本体部における軸方向端部の外周面から径方向外側に突出した突出部とを備える円筒部材の製造方法が記載されている。この製造方法では、円環状の中間素材に、径方向の内側部分を拡径させると共に径方向の外側部分を縮径させて断面形状を90度回転させる反転加工を施す工程を経て、円筒部材が形成される。この円筒部材は、例えば転がり軸受の外輪として用いられる。また、特許文献2~5にも、軸受用の軌道輪を反転加工により形成する点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-22987号公報
【特許文献2】特開2006-123003号公報
【特許文献3】特開2006-341255号公報
【特許文献4】特開2006-090407号公報
【特許文献5】特許第4572644号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、軸受において軌道輪である外輪又は内輪として用いられる軸受用シェル部材の中には、円筒状のシェル本体における軸方向の両端から径方向の同一側に延在する一対のシェルフランジを有するものがある。上述したような製造方法では、そのようなコ字状又は逆コ字状(C字状又は逆C字状)の断面を有する軸受用シェル部材を製造することは難しい。
【0005】
そこで、本発明は、一対のシェルフランジを有する軸受用シェル部材を良好に製造することができる軸受用シェル部材の製造方法、及びそのような軸受用シェル部材を備える軸受を良好に製造することができる軸受の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の軸受用シェル部材の製造方法は、円筒状のシェル本体と、シェル本体における軸方向の両端から径方向の外側にそれぞれ延在する一対のシェルフランジと、を有する軸受用シェル部材の製造方法であって、円環状のワーク本体と、ワーク本体における径方向の内端から軸方向の第1側に延在する内側ワークフランジと、ワーク本体における径方向の外端から第1側に延在する外側ワークフランジと、を有するワーク部材を、第1側に配置されたパンチと、第1側とは反対側の第2側に配置されたダイスとによって挟み込んで変形させる反転加工を行う反転工程を備え、反転工程では、バックアップブロックによって内側ワークフランジを径方向の内側から外側へ押しながら、パンチによって外側ワークフランジを第1側から第2側へ押すことにより、反転加工を行う。
【0007】
この軸受用シェル部材の製造方法では、反転工程において、ワーク本体から軸方向の第1側に延在する内側ワークフランジ及び外側ワークフランジを有するワーク部材を、第1側に配置されたパンチと、第1側とは反対側の第2側に配置されたダイスとによって挟み込んで変形させる反転加工が行われる。そのような形状を有するワーク部材に単に反転加工を施すと、ワーク部材が良好に立ち上がらず、ワーク部材が曲がってしまうことがある。対して、この軸受用シェル部材の製造方法の反転工程では、バックアップブロックによって内側ワークフランジを径方向の内側から外側へ押しながら、パンチによって外側ワークフランジを第1側から第2側へ押すことにより、反転加工を行う。これにより、反転加工時にワーク部材を立ち上げ易くなり、ワーク部材を良好に立ち上げることができる。よって、この軸受用シェル部材の製造方法によれば、一対のシェルフランジを有する軸受用シェル部材を良好に製造することができる。
【0008】
本発明の軸受用シェル部材の製造方法は、円筒状のシェル本体と、シェル本体における軸方向の両端から径方向の内側にそれぞれ延在する一対のシェルフランジと、を有する軸受用シェル部材の製造方法であって、円環状のワーク本体と、ワーク本体における径方向の内端から軸方向の第1側に延在する内側ワークフランジと、ワーク本体における径方向の外端から第1側に延在する外側ワークフランジと、を有するワーク部材を、第1側に配置されたパンチと、第1側とは反対側の第2側に配置されたダイスとによって挟み込んで変形させる反転加工を行う反転工程を備え、反転工程では、バックアップブロックによって外側ワークフランジを径方向の外側から内側へ押しながら、パンチによって内側ワークフランジを第1側から第2側へ押すことにより、反転加工を行う。
【0009】
この軸受用シェル部材の製造方法の反転工程では、バックアップブロックによって外側ワークフランジを径方向の外側から内側へ押しながら、パンチによって内側ワークフランジを第1側から第2側へ押すことにより、反転加工を行う。これにより、反転加工時にワーク部材を立ち上げ易くなり、ワーク部材を良好に立ち上げることができる。よって、この軸受用シェル部材の製造方法によれば、一対のシェルフランジを有する軸受用シェル部材を良好に製造することができる。
【0010】
バックアップブロックは、周方向に沿って並べられた複数のブロック部材を含んでいてもよい。この場合、バックアップブロックによってワーク部材を良好に立ち上げることができる。
【0011】
バックアップブロックにおけるワーク部材との接触面は、第2側に向かうほどワーク部材に近づくように傾斜していてもよい。この場合、バックアップブロックによってワーク部材を良好に立ち上げることができる。
【0012】
本発明の軸受用シェル部材の製造方法は、反転工程の後のワーク本体における内側ワークフランジの側の第1部分と外側ワークフランジの側の第2部分との間の厚さの差が低減されるように、反転工程の前に、第1部分と第2部分との間に厚さの差が生じるようにワーク本体を変形させるサイジング工程を更に備えてもよい。この場合、反転工程の後のワーク本体における第1部分と第2部分との間の厚さの差を低減することができ、軸受用シェル部材のシェル本体を真っ直ぐに形成することができる。
【0013】
本発明の軸受用シェル部材の製造方法は、反転工程の前に、インナーダイス及びアウターダイス上にインナーダイスとアウターダイスとの間に架け渡されるように配置された円環状の加工部材を、インナーダイスとアウターダイスとの間に入り込むように移動するバーリングパンチによって変形させるバーリング加工を行うことによりワーク部材を得るバーリング工程を更に含み、バーリング工程では、加工部材にバーリングパンチとは反対側から接触する変形抑制部材を用い、バーリングパンチ及び変形抑制部材によって加工部材を挟みながら、バーリング加工を行ってもよい。この場合、バーリングパンチによって押圧される箇所において加工部材が曲がってしまうことを抑制することができ、ワーク部材のワーク本体を真っ直ぐに形成することができる。
【0014】
本発明の軸受用シェル部材の製造方法は、反転工程の前に、後方押し出し成形によりワーク部材を成形する後方押し出し工程を更に備えてもよい。この場合、例えばバーリングによってワーク部材を得る場合と比べて、ワーク本体と内側ワークフランジ及び外側ワークフランジとの間の湾曲の程度を小さくすることができ、その結果、軸受用シェル部材の強度を大きく確保することができる。
【0015】
本発明の軸受用シェル部材の製造方法は、反転工程の前に、後方押し出し成形によりワーク部材を成形する後方押し出し工程を更に備え、後方押し出し工程では、反転工程の後のワーク本体における内側ワークフランジの側の第1部分と外側ワークフランジの側の第2部分との間の厚さの差が低減されるように、第1部分と第2部分との間に厚さの差が存在するワーク部材を成形してもよい。この場合、反転工程の後のワーク本体における第1部分と第2部分との間の厚さの差を低減することができ、軸受用シェル部材のシェル本体を真っ直ぐに形成することができる。
【0016】
本発明の軸受の製造方法は、上記軸受用シェル部材の製造方法により軸受用シェル部材を得る工程と、複数の転動体と、複数の転動体を転動可能に保持する保持器とを、保持器が軸受用シェル部材によって保持されると共に複数の転動体がシェル本体上を転動可能となるように軸受用シェル部材に組み付ける工程と、を備える。この軸受の製造方法によれば、上述した理由により、一対のシェルフランジを有する軸受用シェル部材を備える軸受を良好に製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、一対のシェルフランジを有する軸受用シェル部材を良好に製造することができる軸受用シェル部材の製造方法、及びそのような軸受用シェル部材を備える軸受を良好に製造することができる軸受の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係る転がり軸受の一例を示す断面図である。
【
図2】実施形態に係る転がり軸受の別の例を示す断面図である。
【
図3】(a),(b),(c)及び(d)は、内輪として用いられる軸受用シェル部材の製造方法を説明するための断面図である。
【
図4】(a)及び(b)は、バーリング工程を説明するための断面図である。
【
図5】(a)及び(b)は、サイジング工程を説明するための断面図である。
【
図6】(a)及び(b)は、反転工程を説明するための断面図である。
【
図10】(a)及び(b)は、第1変形例に係る反転工程を説明するための断面図である。
【
図11】第1変形例に係る反転工程を説明するための断面図である。
【
図12】(a)及び(b)は、第2変形例に係る反転工程を説明するための断面図である。
【
図13】第3変形例に係る後方押し出し工程を説明するための断面図である。
【
図14】(a)及び(b)は、外輪として用いられる軸受用シェル部材の製造方法を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
[転がり軸受]
【0020】
図1に示される転がり軸受1は、例えば、車両の変速装置等においてハウジングと回転するシャフトとの間に組み込まれて用いられる。転がり軸受1は、複数の転動体2と、保持器3と、外輪シェル(軸受用シェル部材)4と、を備えている。各転動体2は、例えば円筒状のころであるが、これに限定されず、任意の転動体であってよい。例えば、転動体2は、円錐状のころ又は針状のころ(ニードル)であってもよいし、玉であってもよい。すなわち、転がり軸受1は、例えば円筒ころ軸受、円錐ころ軸受、ニードル軸受、玉軸受等であってよい。複数の転動体2は、保持器3によって転動可能に保持されており、周方向に沿って等間隔に配列されている。保持器3は、円環状に形成されている。保持器3には、転動体2が配置される複数のポケット(開口)3aが形成されている。
【0021】
保持器3は、外輪シェル4によって保持されている。外輪シェル4は、転がり軸受1の外輪として用いられる軸受用シェル部材である。外輪シェル4は、シェル本体11と、一対のシェルフランジ12と、を有している。シェル本体11は、円筒状に形成されており、径方向の内側に軌道面11aを有している。シェル本体11の厚さ(最大厚さ)は、例えば約2mmである。
【0022】
一対のシェルフランジ12は、シェル本体11における軸方向の両端から径方向の内側にそれぞれ延在している。すなわち、一方のシェルフランジ12は、シェル本体11における軸方向の一端から径方向の内側に突出しており、他方のシェルフランジ12は、シェル本体11における軸方向の他端から径方向の内側に突出している。各シェルフランジ12は、略円環板状に形成されている。この例では、各シェルフランジ12は、シェル本体11から湾曲して立ち上がっており、各シェルフランジ12とシェル本体11との間には湾曲部分(R部)が形成されている。つまり、各シェルフランジ12は、シェル本体11から湾曲して立ち上がったカール部でもある。
【0023】
複数の転動体2及び保持器3は、外輪シェル4に組み付けられている。より具体的には、複数の転動体2が保持器3によって保持されると共に、保持器3が外輪シェル4の内側に嵌められることで、複数の転動体2及び保持器3が外輪シェル4によって保持されている。この状態においては、保持器3によって保持された複数の転動体2がシェル本体11の軌道面11aに接触し、軌道面11a上を転動可能となっている。転がり軸受1は、例えば、外径側にハウジングが位置し且つ内径側にシャフトが位置するように組み付けられて用いられる。
【0024】
図2に示される転がり軸受1は、外輪シェル4に代えて内輪シェル5を備えている。内輪シェル5は、転がり軸受の内輪として用いられる軸受用シェル部材である。内輪シェル5は、シェル本体51と、一対のシェルフランジ52と、を有している。シェル本体51は、円筒状に形成されており、径方向の外側に軌道面51aを有している。
【0025】
一対のシェルフランジ52は、シェル本体51における軸方向の両端から径方向の外側にそれぞれ延在している。すなわち、一方のシェルフランジ52は、シェル本体51における軸方向の一端から径方向の外側に突出しており、他方のシェルフランジ52は、シェル本体51における軸方向の他端から径方向の外側に突出している。各シェルフランジ52は、略円環板状に形成されている。この例では、各シェルフランジ52は、シェル本体51から湾曲して立ち上がっており、各シェルフランジ52とシェル本体51との間には湾曲部分(R部)が形成されている。つまり、各シェルフランジ52は、シェル本体51から湾曲して立ち上がったカール部でもある。
【0026】
図2に示される転がり軸受1は、複数の転動体2及び保持器3が外径側に位置するように内輪シェル5に組み付けられる点を除いて、上述した
図1に示される転がり軸受1と同様に構成されている。すなわち、この転がり軸受1では、複数の転動体2が保持器3によって保持されると共に、保持器3が内輪シェル5の外側に嵌められることで、複数の転動体2及び保持器3が内輪シェル5によって保持されている。この状態においては、保持器3によって保持された複数の転動体2がシェル本体51の軌道面51aに接触し、軌道面51a上を転動可能となっている。
[軸受用シェル部材の製造方法]
【0027】
以下、内輪シェル5を製造する製造方法について説明するが、後述するように、同様の製造方法により外輪シェル4を製造することもできる。
【0028】
図3に示されるように、実施形態に係る内輪シェル5(軸受用シェル部材)の製造方法は、打ち抜き工程(
図3(a))と、バーリング工程(
図3(b))と、サイジング工程(
図3(c))と、反転工程(
図3(d))と、をこの順に備えている。概略的には、この製造方法では、打ち抜き工程、バーリング工程及びサイジング工程により得られた略円環板状のワーク部材20に、反転工程において反転加工を施すことにより、内輪シェル5が得られる。反転加工では、ワーク部材20の断面形状が90度回転させられる。以下、各工程について説明する。なお、
図3では径方向の中央側の一部が省略して示されているが、各部材は径方向に関して一様な形状を有している。この点は
図4~
図7、
図10~
図14についても同様である。
【0029】
まず、板状の金属材料を打ち抜くことにより、円環板状の加工部材6を得る(打ち抜き工程、
図3(a))。続いて、加工部材6を略U字状の断面形状に変形させるバーリング加工を行うことにより、ワーク部材20を得る(バーリング工程、
図3(b))。
【0030】
ワーク部材20は、円環板状のワーク本体21と、内側ワークフランジ22と、外側ワークフランジ23と、を有する。内側ワークフランジ22は、ワーク本体21における径方向の内端から軸方向の第1側(
図3中の上側)に延在する。外側ワークフランジ23は、ワーク本体21における径方向の外端から軸方向の第1側に延在する。内側ワークフランジ22及び外側ワークフランジ23は、略円筒状に形成されている。ワーク本体21、内側ワークフランジ22及び外側ワークフランジ23は、反転工程後に内輪シェル5のシェル本体51及び一対のシェルフランジ52となる部分であり、シェル本体51及び一対のシェルフランジ52に対応した形状を有している。
【0031】
バーリング工程では、まず、
図4(a)に示されるように、離間して配置されたインナーダイス31及びアウターダイス32上に、インナーダイス31とアウターダイス32との間に架け渡されるように加工部材6が配置される。続いて、
図4(b)に示されるように、バーリングパンチ33がインナーダイス31とアウターダイス32との間に入り込むように移動することで、加工部材6の断面形状が円環板状から略U字状に変形する。
【0032】
より具体的には、バーリング工程では、加工部材6にバーリングパンチ33とは反対側から接触する変形抑制部材34を用い、バーリングパンチ33及び変形抑制部材34によって加工部材6を挟みながら、バーリング加工を行う。変形抑制部材34は、バネ34aを内部に有しており、バーリングパンチ33の移動に伴って、バーリングパンチ33との間で加工部材6を挟んだ状態を維持しつつ移動する。バーリングパンチ33がインナーダイス31とアウターダイス32との間に入り込んだ
図4(b)の状態においては、バーリングパンチ33が移動する前の
図4(a)の状態と比べてバネ34aの収縮量が大きくなっており、加工部材6に作用する付勢力が大きくなっている。バーリング加工においては加工部材6が強く挟まれるが、変形抑制部材34がクッションとして機能することで、バーリングパンチ33によって押圧される箇所において加工部材6(ワーク部材20)が曲がってしまうことを抑制することができる。
【0033】
バーリング工程に続いて、ワーク部材20の形状を調整するサイジング工程が実施される(
図3(c))。サイジング工程について
図5を参照しつつ説明する。上述したとおり、反転加工では、水平状態にあったワーク部材20を垂直状態に立てるように、ワーク部材20の断面形状が90度回転させられる。反転加工では、ワーク本体21における内側ワークフランジ22側の第1部分21a(径方向の内側部分)が拡径されると共に、ワーク本体21における外側ワークフランジ23側の第2部分21b(径方向の外側部分)が縮径される。そのため、
図5(a)に示されるように、反転工程前の状態においてワーク本体21の厚さが均一であると、反転工程によって第1部分21aが薄くなると共に第2部分21bが厚くなるため、第1部分21aの厚さと第2部分21bとの間に差が生じてしまう。
【0034】
そこで、サイジング工程では、
図5(b)に示されるように、反転工程後のワーク本体21における第1部分21aと第2部分21bとの間の厚さの差が低減されるように(例えば厚さの差が実質的に無くなるように)、第1部分21aと第2部分21bとの間に厚さの差が生じるようにワーク本体21を変形させる。この例では、第1部分21aを厚くすると共に第2部分21bを薄くする加工を行う。これにより、反転工程後のワーク本体21における第1部分21aと第2部分21bとの間の厚さの差を低減することができ(例えば厚さの差を無くすことができ)、ワーク本体21(内輪シェル5のシェル本体51)を真っ直ぐに形成することができる。サイジング工程におけるワーク本体21を変形させる加工は、例えば、金型又はローラを用いてワーク本体21を押圧することによって行われる。
【0035】
サイジング工程に続いて、ワーク部材20に反転加工を施す反転工程が実施される(
図3(d))。反転工程では、
図6及び
図7に示されるように、軸方向の第1側(
図6及び
図7中の上側)に配置されたパンチ(プールパンチ)41と、第1側とは反対側の第2側(
図6及び
図7中の下側)に配置されたダイス42とによってワーク部材20を挟み込んで変形させる。以下、説明の便宜上、第1側、第2側を上側、下側ともいう。
【0036】
図6(a)に示されるように、初期状態においてはワーク本体21がダイス42上に載置されている。その後、
図6(b)及び
図7に示されるように、パンチ41が下側に移動して外側ワークフランジ23を押圧することでワーク部材20が外側に向けて立ち上がり、ワーク部材20の断面形状が90度回転させられる。その結果、ワーク本体21、内側ワークフランジ22及び外側ワークフランジ23が、それぞれ内輪シェル5のシェル本体51及び一対のシェルフランジ52となり、内輪シェル5が得られる。
【0037】
反転工程では、バックアップブロック43によって内側ワークフランジ22を径方向の内側から外側へ押しながら、パンチに41よって外側ワークフランジ23を上側から下側へ押すことにより、反転加工が行われる。
図8に示されるように、バックアップブロック43は、全体として円環状に形成されている。バックアップブロック43は、周方向に沿って等間隔に並べられた複数(この例では8つ)のブロック部材43aを含んでいる。各ブロック部材43aは、例えば環状扇形に形成されている。各ブロック部材43aは、ダイス42上に配置されており、ダイス42に沿って径方向に移動可能となっている。ブロック部材43aが径方向の外側に移動することで、バックアップブロック43は内側ワークフランジ22を径方向の外側へ押す。この押す力としては、例えばバネ、油圧、エアー、モータ、カム等の任意の機構又は動力源からの力が用いられてよい。
【0038】
また、反転工程では、引掛部44を有するパンチ41が用いられ、引掛部44を外側ワークフランジ23(カール部)に引っ掛けて、反転加工が行われる。
図9に示されるように、パンチ41は、平面視において(軸方向から見た場合に)円環状に形成されている。パンチ41は、周方向に沿って等間隔に並べられた複数(この例では8つ)の分割部分45を含んでいる。各分割部分45は、平面視において例えば環状扇形に形成されており、径方向に移動可能となっている。
【0039】
この例では、引掛部44は、各分割部分45に設けられている。すなわち、各分割部分45は、本体部45aと、本体部45aにおける上端部から径方向の内側に突出した突出部45bと、を有しており、突出部45bが引掛部44として機能する。換言すれば、引掛部44は、周方向に沿って並べられた複数の部分(突出部45b)を含んでいる。
【0040】
反転工程では、引掛部44は、径方向の内側に移動しながら下側(第2側)に移動する。具体的には、パンチ41の下側には、カム46が配置されている。カム46は、パンチ41と向かい合う傾斜した案内面46aを有している。パンチ41(各分割部分45)は、案内面46aに対応した傾斜面41aを有している。傾斜面41a及び案内面46aは、下側に向かうほど径方向内側に向かうように傾斜している。反転加工時には、押し治具Jによってパンチ41が下側へ押されて傾斜面41aが案内面46aに接触し、傾斜面41aが案内面46aによって案内される。これにより、パンチ41が径方向の内側かつ下側に、斜めに移動する。
【0041】
反転加工時には、このようなパンチ41の動きにより、
図6(b)及び
図7に示されるように、引掛部44が外側ワークフランジ23に引っ掛かり、外側ワークフランジ23が径方向の内側に引き込まれる。この引っ掛かり動作において、引掛部44は、外側ワークフランジ23の内面に接触する。この引っ掛かり動作と並行して、内径側においては上述したようにバックアップブロック43によって内側ワークフランジ22が外側へ押される。
図7に示されるように、パンチ41は最後に下側に真っ直ぐに移動し、これにより反転加工が完了する。その後、パンチ41は、上側に移動して反転加工前の位置に戻る。
【0042】
以上の工程により、内輪シェル5が得られる。その後、例えば内輪シェル5を備える転がり軸受を製造する場合には、複数の転動体2と保持器3とが、保持器3が内輪シェル5によって保持されると共に複数の転動体2がシェル本体51上を転動可能となるように、内輪シェル5に組み付けられる。これにより、転がり軸受が得られる。
[作用及び効果]
【0043】
以上説明した軸受用シェル部材の製造方法では、反転工程において、ワーク本体21から軸方向の第1側に延在する内側ワークフランジ22及び外側ワークフランジ23を有するワーク部材20を、第1側に配置されたパンチ41と、第1側とは反対側の第2側に配置されたダイス42とによって挟み込んで変形させる反転加工が行われる。そのような形状を有するワーク部材20に単に反転加工を施すと、ワーク部材20が良好に立ち上がらず、ワーク部材20が曲がってしまうことがある。例えば、パンチが外側ワークフランジ23における意図しない箇所に接触してしまうことで、外側ワークフランジ23が曲がってしまうことがある。上述したような軸受用シェル部材の製造においては、ワーク部材20(内輪シェル5)が極めて薄く、外側ワークフランジ23に座屈による曲げが生じ易いために、そのような意図しない変形が発生し易い。対して、この軸受用シェル部材の製造方法の反転工程では、バックアップブロック43によって内側ワークフランジ22を径方向の内側から外側へ押しながら、パンチに41よって外側ワークフランジ23を上側から下側へ押すことにより、反転加工を行う。これにより、反転加工時にワーク部材20を立ち上げ易くなり、ワーク部材20を良好に立ち上げることができる。よって、この軸受用シェル部材の製造方法によれば、一対のシェルフランジ52を有する内輪シェル5(軸受用シェル部材)を良好に製造することができる。
【0044】
バックアップブロック43が、周方向に沿って並べられた複数のブロック部材43aを含んでいる。これにより、バックアップブロック43によってワーク部材20を良好に立ち上げることができる。
【0045】
反転工程の後のワーク本体21における内側ワークフランジ22の側の第1部分21aと外側ワークフランジ23の側の第2部分21bとの間の厚さの差が低減されるように、反転工程の前に、第1部分21aと第2部分21bとの間に厚さの差が生じるようにワーク本体21を変形させるサイジング工程が実施される。これにより、反転工程の後の第1部分21aと第2部分21bとの間の厚さの差を低減することができ、内輪シェル5のシェル本体51を真っ直ぐに形成することができる。
【0046】
反転工程の前に、インナーダイス31及びアウターダイス32上にインナーダイス31とアウターダイス32との間に架け渡されるように配置された円環状の加工部材6を、インナーダイス31とアウターダイス32との間に入り込むように移動するバーリングパンチ33によって変形させるバーリング加工を行うことによりワーク部材20を得るバーリング工程が実施される。バーリング工程では、加工部材6にバーリングパンチ33とは反対側から接触する変形抑制部材34を用い、バーリングパンチ33及び変形抑制部材34によって加工部材6を挟みながら、バーリング加工が行われる。これにより、バーリングパンチ33によって押圧される箇所において加工部材6が曲がってしまうことを抑制することができ、ワーク部材20のワーク本体21を真っ直ぐに形成することができる。
[変形例]
【0047】
図10及び
図11に示される第1変形例のように、バックアップブロック43におけるワーク部材20(内側ワークフランジ22)との接触面43bは、下側(第2側)に向かうほどワーク部材20に近づくように傾斜していてもよい。この例では、接触面43bは、下側に向かうほど径方向外側に向かうように傾斜したテーパ面である。また、第1変形例では、パンチ41が、本体部47と、本体部47に対して移動可能である引掛部(引掛治具)44と、引掛部44の移動を案内する案内部材(押出治具)48と、を有している。本体部47は、例えば平面視において円環状に形成された1つの部材により構成されている。
【0048】
引掛部44は傾斜面44aを有しており、案内部材48は傾斜した案内面48aを有している。傾斜面44a及び案内面48aは、下側に向かうほど径方向内側に向かうように傾斜している。反転加工時には、
図10(b)に示されるように、押し治具Jによって引掛部44が下側へ押されて傾斜面44aが案内面48aによって案内され、引掛部44が径方向の内側かつ下側に、斜めに移動する。これにより、引掛部44が本体部47から突き出る(飛び出す)。この突き出し動作と並行して、内径側においてはバックアップブロック43によって内側ワークフランジ22が外側へ押される。その後、
図11に示されるように、引掛部44の先端部44bが外側ワークフランジ23に引っ掛かり、外側ワークフランジ23の内面を下側に押す。これにより、反転加工が完了する。その後、引掛部44は、上側に移動して反転加工前の位置に戻る。引掛部44は、例えば、径方向に沿って等間隔に並べられた複数の部材によって構成されている。パンチ41は、案内部材48において受け部材49に接触する。
【0049】
このような第1変形例によっても、上記実施形態と同様に、一対のシェルフランジ52を有する内輪シェル5(軸受用シェル部材)を良好に製造することができる。また、バックアップブロック43におけるワーク部材20との接触面43bが下側(第2側)に向かうほどワーク部材20に近づくように傾斜しているため、バックアップブロック43によってワーク部材20を良好に立ち上げることができる。
【0050】
図12に示される第2変形例のように、反転工程では、引掛部を有しないパンチ41が用いられてもよい。第2変形例では、パンチ41は周方向に分割されておらず、1つの部材により構成されている。このような第2変形例によっても、上記実施形態と同様に、一対のシェルフランジ12を有する軸受用シェル部材を良好に製造することができる。
【0051】
第3変形例として、バーリング工程(
図3(b)参照)に代えて後方押し出し工程が実施されてもよい。第3変形例では、打ち抜き工程、後方押し出し工程、サイジング工程及び反転工程がこの順に実施される。後方押し出し工程では、型内に配置された加工部材6をパンチによって後方に(パンチの移動方向とは反対側に)押し出すことにより、例えば
図13に示される形状のワーク部材20が得られる。
【0052】
このような第3変形例によっても、上記実施形態と同様に、一対のシェルフランジ52を有する内輪シェル5(軸受用シェル部材)を良好に製造することができる。また、例えばバーリングによってワーク部材20を得る場合と比べて、ワーク本体21と内側ワークフランジ22及び外側ワークフランジ23との間の湾曲の程度を小さく(例えば略直角に)することができ、その結果、軸受用シェル部材の強度を大きく確保することができる。また、打ち抜き工程により形成される破断面が後方押し出し工程における塑性変形によって潰れることで、反転加工においてワーク部材20が割れてしまう不具合の発生を抑制することができる。
【0053】
また、第3変形例の後方押し出し工程において用いられるパンチの形状をサイジング工程後のワーク本体21と同一にすることで、サイジング工程を省略することができる。すなわち、後方押し出し工程では、反転工程の後のワーク本体21における内側ワークフランジ22の側の第1部分21aと外側ワークフランジ23の側の第2部分21bとの間の厚さの差が低減されるように、第1部分21aと第2部分21bとの間に厚さの差が存在するワーク部材20を成形してもよい。換言すれば、後方押し出し工程では、
図5(b)の左側に示される形状にワーク部材20を成形してもよい。この場合、反転工程の後の第1部分21aと第2部分21bとの間の厚さの差を低減することができ、内輪シェル5のシェル本体51を真っ直ぐに形成することができる。
【0054】
上記実施形態及び第1~第3変形例では内輪シェル5の製造方法を説明したが、上記実施形態及び第1~第3変形例の製造方法は、外輪シェル4の製造にも適用することができる。
図14には、外輪シェル4を製造する場合の反転工程におけるパンチ41及びダイス42の動きが示されている。この反転工程では、パンチ41が内側ワークフランジ22を押圧することでワーク部材20が内側に向けて立ち上がり、ワーク部材20の断面形状が90度回転させられる。その結果、ワーク本体21、内側ワークフランジ22及び外側ワークフランジ23が、それぞれ外輪シェル4のシェル本体11及び一対のシェルフランジ12となり、外輪シェル4が得られる。
【0055】
外輪シェル4を製造する場合の反転工程においては、バックアップブロック43によって外側ワークフランジ23を径方向の外側から内側へ押しながら、パンチに41よって内側ワークフランジ22を上側から下側へ押すことにより、反転加工が行われる。バックアップブロック43は、周方向に沿って並べられた複数のブロック部材43aを含んでいてもよい。バックアップブロック43におけるワーク部材20(外側ワークフランジ23)との接触面43bは、下側(第2側)に向かうほどワーク部材20に近づくように傾斜していてもよい。この場合、接触面43bは、下側に向かうほど径方向内側に向かうように傾斜したテーパ面である。
【0056】
外輪シェル4を製造する場合の反転工程においては、引掛部44を有するパンチ41が用いられ、引掛部44を内側ワークフランジ22(カール部)に引っ掛けて、反転加工が行われてもよい。この場合、引掛部44が径方向の外側に移動しながら下側(第2側)に移動してもよい。例えば、上述したパンチ41の傾斜面41a及びカム46の案内面46aを実施形態とは逆に下側に向かうほど径方向外側に向かうように傾斜させることで、反転加工時にパンチ41を径方向の外側かつ下側に、斜めに移動させることができる。反転加工時には、このようなパンチ41の動きにより、引掛部44が内側ワークフランジ22に引っ掛かり、内側ワークフランジ22が径方向の外側に引き込まれてもよい。この引っ掛かり動作において、引掛部44は、内側ワークフランジ22の内面に接触してもよい。この引っ掛かり動作と並行して、外径側においては上述したようにバックアップブロック43によって外側ワークフランジ23が外側へ押されてもよい。
【0057】
このような外輪シェル4の製造方法によれば、一対のシェルフランジ12を有する外輪シェル4(軸受用シェル部材)を良好に製造することができる。
【0058】
本発明は、上記実施形態及び変形例に限られない。例えば、各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。
【0059】
反転工程において、バックアップブロック43は、反転加工の開始と同時に内側ワークフランジ22又は外側ワークフランジ23の押圧を開始してもよいし、反転加工の途中から内側ワークフランジ22又は外側ワークフランジ23の押圧を開始してもよい。バックアップブロック43におけるワーク部材20との接触面43bは、ワーク本体21と内側ワークフランジ22又は外側ワークフランジ23との間のR部に入り込むような形状であればよく、テーパ形状に代えて曲線形状となっていてもよい。
【0060】
上述した軸受用シェル部材の製造方法を深溝玉軸受において内輪又は外輪として用いられるシェル部材の製造方法に適用する場合、サイジング工程においてワーク部材20にボール溝を形成してもよい。同様に、上述した軸受用シェル部材の製造方法を円錐ころ軸受の内輪として用いられるシェル部材の製造方法に適用する場合、サイジング工程においてワーク部材20に溝を形成してもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…転がり軸受、2…転動体、3…保持器、4…外輪シェル(軸受用シェル部材)、5…内輪シェル(軸受用シェル部材)、6…加工部材、11,51…シェル本体、12,52…シェルフランジ、20…ワーク部材、21…ワーク本体、21a…第1部分、21b…第2部分、22…内側ワークフランジ、23…外側ワークフランジ、31…インナーダイス、32…アウターダイス、33…バーリングパンチ、34…変形抑制部材、41…パンチ、42…ダイス、43…バックアップブロック、43a…ブロック部材、43b…接触面。