(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036224
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】油性ゲル状組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/55 20060101AFI20230307BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20230307BHJP
A61K 8/39 20060101ALI20230307BHJP
A61K 8/31 20060101ALI20230307BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20230307BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
A61K8/55
A61K8/02
A61K8/39
A61K8/31
A61K8/81
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021143142
(22)【出願日】2021-09-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2021年3月5日 日本薬学会第141年会(広島)一般学術(ポスター)発表 発表番号 27P01-177 web要旨集 (https://confit.atlas.jp/guide/event/pharm141/subject/27PE1_02-19/advanced?eventCode=pharm141)において、文書をもって発表。 2021年3月27日 日本薬学会第141年会(広島)一般学術(ポスター)発表 発表番号 27P01-177 ポスターにて発表。
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(71)【出願人】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋崎 要
(72)【発明者】
【氏名】藤井 まき子
(72)【発明者】
【氏名】山城 晶
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA122
4C083AC021
4C083AC022
4C083AC421
4C083AC422
4C083AD021
4C083AD022
4C083AD571
4C083AD572
4C083BB11
4C083BB13
4C083CC02
4C083DD30
4C083DD41
4C083EE01
4C083EE06
4C083EE07
(57)【要約】
【課題】レシチン含量を抑え、かつ適度な粘性を備え、また、ゲル化した後も長期間安定な油性ゲル組成物及びその製造方法の提供を課題とする。
【解決手段】65~90%の未水添レシチンとポリグリセリン脂肪酸エステルを含む油性ゲル組成物において、油剤として水添ジデセン、スクワラン、水添ポリデセン、及び、オレフィンオリゴマーからなる群から選ばれる1種又は2種以上の油剤を組み合わせ、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしてHLBを3.0~8.0の範囲のものにすることにより、適度な粘性および保存安定性に優れた油性ゲル組成物を提供できることを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスファチジルコリン含量65~90重量%の未水添レシチンと、
HLBが3.0~8.0のポリグリセリン脂肪酸エステルと、
水添ジデセン、スクワラン、水添ポリデセン、及び、オレフィンオリゴマーからなる群から選ばれる1種又は2種以上の油剤と、
を含むことを特徴とする油性ゲル状組成物。
【請求項2】
粘度・粘弾性測定において求められるゼロシア粘度が2Pa・s以上である、請求項1に記載の油性ゲル状組成物。
【請求項3】
皮膚化粧料として用いられる請求項1又は2に記載の油性ゲル状組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油性ゲル状組成物に関する。さらに詳しくは、レシチン及びポリグリセリン脂肪酸エステルを含む油性ゲル状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
油性ゲル状組成物は、ゲル形成剤と油相成分とを混合することで油相がゲル化することにより得られる。ゲル形成剤としては、一般的に少量の添加で目的とする油相成分をゲル化できること、かつ、得られたゲル状組成物が用途に応じた適度な粘性を有し、長期間安定性を有することが要求される。ゲル形成剤として、逆紐状ミセルを形成するものが知られている。
逆紐状ミセルとは、界面活性剤の形成する自己集合体の一種であり、油相成分中で網目構造を形成することによりゲルの形成を引き起こすことが知られている。
【0003】
この逆紐状ミセルを形成する代表的な系として、レシチン/水/各種油相成分の3成分混合系が知られている(非特許文献1)。通常、レシチンは油相成分中で逆球状ミセルあるいは逆楕円状ミセルを形成するが、これに少量の水等を添加すると、これがレシチンのリン酸基に水素結合し、分子集合体の界面曲率が減少するために逆紐状ミセルの成長が起こると考えられている。逆紐状ミセルは内部に親水的な環境を有しているために水溶性の薬物や酵素等を内包することが可能であり、化粧品や医療の分野において様々な性質を付与することができると期待されている。
【0004】
しかし、上記の逆紐状ミセルを形成する代表的な系は、水を含むため、加水分解を受けやすい薬物を配合することが難しいという問題があった。これを解決するために、水の代替としてショ糖脂肪酸エステルを配合したオイルゲル化剤(特許文献1)、糖類を配合したオイルゲル化剤(特許文献2)、尿素を配合したオイルゲル化剤(特許文献3)等により逆紐状ミセルを形成してなるゲル状組成物が知られている。また、特許文献4には、レシチン/ポリグリセリン脂肪酸エステル/油相成分の3成分混合系を用いて逆紐状ミセルからなるゲル形成を介した増粘ゲル状組成物を得ることに成功したことが開示されている。
【0005】
すなわち、特許文献4には、レシチン100重量部に対して、炭素数14以下の脂肪酸残基を有し、HLB15以上、グリセリン単位の重合度が8-40である特定のポリグリセリン脂肪酸エステルを30~150重量部配合したゲル形成剤と油剤とを含む油性ゲル状組成物について、所望の透明度、長期間の安定性、レオロジー測定による適度な弾性を有するゲル状組成物が得られたことが開示されている。一方で、特許文献4には、HLBが15未満のポリグリセリン脂肪酸エステルを使った場合には、増粘度が足りなかったことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2010/082487号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2010/122694号パンフレット
【特許文献3】特開2010-270299号公報
【特許文献4】特開2012-250919号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】P. L. Luisi et al., Colloid & Polymer Science, vol. 268, p. 356 (1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献4の油性ゲル状組成物に含まれているレシチンはホスファチジルコリン(以下、単にPCということがある)の含有量が95重量%もあり、実際にこのようなPC含量の高いレシチンを使うと固いゲルができる一方、経時で離油するという問題点があることがわかった。また、PC含量の高いレシチンは高価であるため経済的ではないという問題点もある。
以上の問題点に鑑み、レシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、油剤を含む油性ゲル状組成物において、レシチン中のPC含量を抑え、ゲル化しやすく、かつ皮膚に塗布しやすい適度な粘性を備え、また、ゲル化した後も長期間安定な油性ゲル状組成物の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するためのものであり、PC含量を90重量%未満としたレシチンを用いた上で、油相をゲル化しやすくし、また、得られた油性ゲル状組成物に適度な粘性と、保存安定性を付与することを目的とし、各種油剤との組み合わせ、組み合わせるポリグリセリン脂肪酸エステルの特性について鋭意検討を行った。その結果、PC含量が90%未満の未水添レシチンとポリグリセリン脂肪酸エステル、油剤を含む油性ゲル状組成物において、油剤として水添ジデセン、スクワラン、水添ポリデセン、及び、オレフィンオリゴマーからなる群から選ばれる1種又は2種以上の油剤を組み合わせ、ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBを3.0~8.0の範囲のものにすることにより、適度な粘性および保存安定性に優れた油性ゲル組成物を提供できることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下の構成を有する。
(1)ホスファチジルコリン含量65~90重量%の未水添レシチンと、
HLBが3.0~8.0のポリグリセリン脂肪酸エステルと、
水添ジデセン、スクワラン、水添ポリデセン、及び、オレフィンオリゴマーからなる群から選ばれる1種又は2種以上の油剤と、
を含むことを特徴とする油性ゲル状組成物。
(2)粘度・粘弾性測定において求められるゼロシア粘度が2Pa・s以上である 、(1)に記載の油性ゲル状組成物。
(3)皮膚化粧料として用いられる(1)又は(2)に記載の油性ゲル状組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ホスファチジルコリン(PC)含量が65~90重量%の未水添レシチンとポリグリセリン脂肪酸エステルを含む油性ゲル組成物において、油剤として水添ジデセン、スクワラン、水添ポリデセン、及び、オレフィンオリゴマーからなる群から選ばれる1種又は2種以上の油剤を組み合わせ、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしてHLBを3.0~8.0の範囲のものにすることにより、高価な高純度PC含量のレシチンを用いることなく、逆紐状ミセルを形成してなる油性ゲル状組成物を提供することができる。また、当該油性ゲル状組成物は適度な粘性及び保存安定性に優れることから特に化粧品分野などにおいて有効に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(レシチン)
レシチンは、ホスファチジルコリン(PC)を主成分とする脂質製品であり、天然の動物、植物、微生物など生体に広く分布するもので、肝臓、卵黄、大豆、酵母等に多く含まれることが知られている。代表的なレシチンとして、卵黄レシチン、大豆レシチンなどが挙げられる。レシチンは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。本発明に用いるレシチンのPC含有量は65~90重量%であり、好ましくは、65~75重量%である。65~90重量%の範囲内であれば、先行特許文献のようなPC高含有レシチンを使った場合に比べて、油相をゲル化しやすく、当該ゲルは適度な粘性があり、PC高含有レシチンを用いるよりも短時間で溶解でき、化粧品として用いた場合には、肌になじませやすく、つけたときに流れ落ちたりもせず、良好な使用感が得られる。
天然のレシチンは、L-α-形のみであるが、それ以外のものも使用可能である。天然のレシチンは酸化されやすく不安定のため、公知の方法により水素添加されて用いられることがあるが、本発明に用いられるレシチンは未水添レシチンであり、水素添加されたレシチンは含まない。
【0012】
PCは、グリセロール(グリセリン)を少なくとも1つの不飽和脂肪酸及びリン酸と反応させることにより得られるエステルを意味し、該リン酸のプロトンはアミン官能基としてのコリンで置換されている。本発明の未水添レシチンは、すなわち、水素添加されていないPCを含むレシチンを意味し、PCは天然由来又は合成品のいずれであってもよい。
【0013】
「天然」由来のPCは、動物源又は植物源、例えば大豆、ヒマワリ、又は卵からの抽出により得られ得る。天然物から、例えば大豆から得られた水素化されていないホスファチジルコリンは、一般的にグリセロールをエステル化する脂肪酸としてパルミチン酸、ステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、及びおそらくC20~22の脂肪酸を含む。
【0014】
(ポリグリセリン脂肪酸エステル)
本発明に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLBが3.0以上8.0以下の範囲内であるものであればいずれでもよく公知の方法により製造することができ、また市販品を用いることもできる。HLBの範囲はより好ましくは、3.5以上6.5以下である。HLBが3未満であると、ゲル化するものの、油性ゲル状組成物の流動性がゆるくゲル状態を安定に保つことができない。また、HLBが7より大きいと、ゲル化せず、2相に分離してしまい、安定性に欠ける。なお、HLBとは、有機概念図から計算されるHLBを意味し、下記式(A)によって得られた値とする。
HLB=Σ無機性/Σ有機性×10 (A)
(参考文献:日本エマルジョン(株)「有機概念図による乳化処方設計」)
本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルは、上記範囲内のHLBのものであれば単独でもあるいは異なるものを複数組み合わせて使用することもできる。このうちでも、ポリグリセリン脂肪酸エステルを複数組み合わせる場合は、単独でそれぞれが上記範囲内に入らなくても下記式(B)によって求めたHLBA+Bが上記範囲内に含まれれば用いることができる。
HLBA+B=(HLBA×WA+HLBB×WB)/(WA+WB) (B)
HLBA;界面活性剤AのHLB値
HLBB;界面活性剤BのHLB値
WA;界面活性剤Aの重量
WB;界面活性剤Aの重量
(参考文献:日本医薬アカデミー「最新薬剤師国試対策2薬剤学」平成元年(初版))
【0015】
本発明に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルの市販品としては、トリイソステアリン酸ポリグリセリル-2(HLB3.0、EMALEX TISG-2)、ペンタステアリン酸ポリグリセリル-10(HLB3.5、NIKKOL Decaglyn 5-SV)、ペンタイソステアリン酸ポリグリセリル-10(HLB3.5、NIKKOL Decaglyn 5-ISV)、ペンタオレイン酸ポリグリセリル-10(HLB3.5 、NIKKOL Decaglyn 5-OV)、ステアリン酸ポリグリセリル-2(HLB5、NIKKOL DGMS)、オレイン酸ポリグリセリル-2(HLB5.5、NIKKOL DGMO-CV)、イソステアリン酸ポリグリセリル-2(HLB5.5、 NIKKOL DGMIS)、ステアリン酸ポリグリセリル-4(HLB6、 NIKKOL Tetraglyn 1-SV)、オレイン酸ポリグリセリル-4(HLB6 、NIKKOL Tetraglyn 1-OV)、オレイン酸ポリグリセリル-2(HLB6.5 、NIKKOL DGMO-90V)、トリオレイン酸ポリグリセリル-10(HLB7、NIKKOL Decaglyn 3-OV)、トリステアリン酸ポリグリセリル-10(HLB7.5、NIKKOL Decaglyn 3-SV)などが挙げられるがこの限りではない。
【0016】
また、本発明に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルはすでに公知の方法を用いて製造することもできる。例えば、(1)グリセリンにグリシドールを付加重合した後、これに脂肪酸でエステル化する方法、(2)グリシドールを脂肪酸に付加する方法、またこれに関連して(3)水酸基を保護したグリシドールをグリセリンに付加した後、脱保護をし、これを任意の重合度になるまで繰り返したあと、これに脂肪酸でエステル化する方法、(4)グリセリンをアルカリ存在下熱縮合させたあと、これに脂肪酸でエステル化する方法が挙げられる。このうち、最も好ましい製造方法は(1)の方法であり、当該油性ゲル状組成物に好適に用いることができる。
【0017】
本発明の油性ゲル状組成物全体の中での未水添レシチン含量は、ゲル形成が行われ、安定にゲル状態が維持される量であればよく、1~50重量%の範囲が好ましく、5~40重量%の範囲が特に好ましい。レシチンの含有量が少ないとゲル形成不良となりやすく、安定な油性ゲル状組成物を得ることができない。また、含有量が多すぎる場合は、ゲル形成力、保湿・保水効果が頭打ちとなるために多量に用いるメリットがない。なお、油性ゲル状組成物全体の中でのホスファチジルコリンの含量は、例えば、0.5~15重量%、好ましくは5~10重量%である。
【0018】
該ポリグリセリン脂肪酸エステルの、油性ゲル状組成物全体の中での含有量は、0.1~30重量%の範囲となるような範囲が好ましく、0.5~5重量%の範囲が好ましく、1~3重量%の範囲が特に好ましい。該ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が少ないと、安定な油性ゲル状組成物を得ることができず、含有量が多すぎる場合は、ゲル形成力、保湿・保水効果が頭打ちとなるために多量に用いるメリットがない。
【0019】
本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルとレシチンの配合量(重量%)の比率は、ポリグリセリン脂肪酸エステル:レシチンは、1:500~30:1が好ましく、1:80~1:1がよりいっそう好ましい。
【0020】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとレシチンの合計量は、油性ゲル状組成物全体に対して、1~50重量%含ませることができ、1~30重量%含ませることが好ましく、5~20重量%含ませることがさらに好ましく、特に6~15重量%含ませるのが粘性の観点でよりいっそう好ましい。油性ゲル状組成物全体に対するレシチンとポリグリセリン脂肪酸エステルの総量が少ないとゲル形成不良となり、安定な油性ゲル状組成物を得ることができない。また、油性ゲル状組成物全体に対するポリグリセリン脂肪酸エステルとレシチンの配合量の含有量が多いと、ゲル形成力、保湿・保水効果が頭打ちとなるために多量に用いるメリットがない。
【0021】
(油剤)
本発明で用いる油剤は、水添ジデセン、スクワラン、水添ポリデセン、及び、オレフィンオリゴマーからなる群から選ばれる油剤である。これらの油剤は1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
水添ジデセンとは、デセンの2量体であり、例えばCAS番号68649-11-6で示される成分が挙げられる。市販品としてはシンセラン2(日光ケミカルズ株式会社)等が知られている。
スクワランとは、チョウザメの肝臓、オリーブなど天然由来のスクワレンを還元して得られた半合成品であってもよく、また化学合成によって得られた合成品であってもよい。半合成品のスクワランは、サメ類等の深海産の魚類や、オリーブ油、コメヌカ油、小麦麦芽油、ゴマ油、綿実油等に含まれるスクワレンを還元することによって得ることができ、また、合成品のスクワランは、ゲラニルアセトン及びアセチレン化合物を原料として合成することにより得ることができる。本発明の油剤に用いられるスクワランとしては、医薬品、医薬部外品または化粧品分野において一般的に用いられるものであれば特に限定されず、市販品としては、商品名「スクワラン」(マルハニチロ食品社製)、商品名「オリーブスクワラン」(高級アルコール工業社製)、商品名「フィトスクワラン」(SOPHIM社製)、商品名「NIKKOL シュガースクワラン」(日光ケミカルズ社製)、商品名「スクワラン-SK」(クラレ社製)等が挙げられる。
水添ポリデセンとは、ポリデセンを水素添加したものであり、例えばCAS番号68037-01-4で示される成分が挙げられる。市販品としてはノムコートHP-30VE(日清オイリオ)が知られている。
オレフィンオリゴマーとは、炭素数4~12のα-オレフィンを重合した後、水素添加して得られる側鎖を有する炭化水素で、その重合度は3~6であるものをいう。市販品としてはNIKKOLシンセラン4SP(日光ケミカルズ株式会社)が知られている。
これら油剤の含有量は、油性ゲル状組成物全量に対し、70~98重量%の範囲が好ましく、85~95重量%がより好ましい。油剤の含有量が70重量%より少ないとレシチン及びポリグリセリン脂肪酸エステルの量が多くなりすぎ、また、98重量%を越えるとゲルの安定性が悪くなり、さらに経済的でない。
【0022】
(その他の成分)
本発明の油性ゲル状組成物中には、上記の各成分の他に、通常の一般化粧料に使用される成分を配合することができる。例えば、香料、色素、防腐剤、抗酸化剤、抗炎症剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、pH調整剤等が挙げられ、さらに必要に応じて、種々の薬効成分、例えば、ヒアルロン酸、アラントイン、ビタミン類、アミノ酸、胎盤エキス等を挙げることができ、単独であるいは組み合わせて適宜配合することができる。
【0023】
本発明の油性ゲル状組成物中におけるレシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、油剤以外の成分の含有量は、通常29重量%以下であり、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0024】
(安定性、粘性、流動性)
本発明の油性ゲル状組成物は上記の組成によりレシチン及びポリグリセリン脂肪酸エステルを油剤と混合すると、ゲル化しやすく、得られた油性ゲル状組成物は長期にわたり安定である。また、レオロジー測定において適度な粘性を有していることが確認されたことから、肌への塗布がしやすく、塗布後も液だれしにくくハンドリング性が良い。
【0025】
本発明の油性ゲル状組成物は、主に化粧料として使用される場合、適度な粘性及び流動性を有することが望ましく、ゼロシア粘度の下限は2Pa・s以上であることが好ましい。2Pa・s未満では、粘性が十分に発揮されないからである。また、ゼロシア粘度の上限は、2400Pa・s以下であることが好ましく、200Pa・s以下であることがより好ましい。200Pa・sを超えると流動性が失われてくるからである。したがって、液状化粧料として優れた使用感を得るためには、本発明の油性ゲル状組成物のゼロシア粘度は2Pa・s~2400Pa・sの範囲が好ましく、2Pa・s~200Pa・sの範囲がより好ましい。
また、本発明の油性ゲル状組成物を液状化粧料ではなく塗り付けて使用する化粧料や製剤として使用する場合には、そのゼロシア粘度は200Pa・sを超えても適する場合がある。
【0026】
(皮膚化粧料)
本発明の油性ゲル状組成物は、適度な流動性及び保存安定性に優れることから洗浄剤、化粧料、医薬、食品、消臭剤、入浴剤、芳香剤、脱臭剤等として常温でゲル状を呈する各種製品として用いることができる。そのうちでも特に皮膚化粧料として有効に利用することができる。皮膚化粧料としては、クリ-ム、クレンジング料、保湿化粧料、血行促進・マッサージ剤、パック化粧料、頭髪化粧料等が挙げられる。
【実施例0027】
[実施例1]
1.試験に用いた材料
(1)レシチン
ホスファチジルコリン(PC)含量が65~75重量%であるSLP-PC70(辻製油社製)を用いた。
(2)ポリグリセリン脂肪酸エステル
NIKKOL Decaglyn 3-SV(HLB 7.5)
(3)油剤
油剤として以下を用いた。一般名称、製品名、分子量(かっこ内)を示す。
スクワラン・・・オリーブスクワラン(422.8)
【0028】
2.油性ゲル状組成物の調製方法
(i)スクリュー管にレシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、油剤を表1に示す各処方量を量りとり、撹拌子を入れた後蓋をし、ホットスターラーにて60℃に加熱しながら完全に溶解するまで撹拌を行った。
(ii)試料の溶解を目視で確認した後、撹拌したまま室温まで冷却し、油性ゲル状組成物を製造した。
【0029】
3.油性ゲル状組成物の評価方法
3-1.粘性の確認
胴径24mmのスクリュー管を傾けたときの状態を目視で確認し、以下に照らし合わせ分類した。評価結果が○又は◎であればゲル状組成物として適度な粘性があると判断できる。但し、調製後すぐに分離した場合は測定せず「-」と記載した。
<評価基準>
○:逆さにしても垂れ落ちない
◎:傾けて流れる際に粘性が観察される
×:傾けた際に粘性が殆ど観察されない
【0030】
3-2.ゼロシア粘度の測定
コーンプレートセンサー(直径40mm、アングル(deg : min : sec: 0 59 46)を使用)とペルチェ温度コントローラーを装着した粘度・粘弾性測定装置(レオメーター AR-G2、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を用いて行った。測定は全て25℃条件下、定常流粘度測定モードで実施し、せん断速度を対数きざみで0.001~100(s-1)まで変化させて粘度を測定し、粘度曲線を得た。また各プロットは装置のトルク値変動が5%範囲内に収まり、データが安定した時点での値を採用した。
ゼロシア粘度は上記で得られた粘度曲線から求めた。即ち、せん断速度が限りなくゼロに近い領域では、非ニュートン流体であっても、ニュートン流体に近似できる領域があり、その領域における粘度は変動がなく、ある一定の値を示す。この時の粘度ηはゼロシア粘度η0とみなすことができる。また、今回測定した油性ゲル状組成物の粘度曲線から、0.1(s-1)以下で粘度は一定の値となり、その値をゼロシア粘度η0とした。
ゼロシア粘度が2Pa・s以上であると化粧料の使用感として優れる。ゼロシア粘度が200Pa・s以下の場合、粘性がありながら流動性を示す。ゼロシア粘度が200Pa・sを超えると、粘性が高いので流動性が低くなる。
【0031】
3-3.流動複屈折の有無
直交する2枚の偏光板の間にサンプル瓶を配置し、偏光板の後ろから光を当て、サンプル瓶を振った際に複屈折が見られるか(光るか)を確認した。評価基準は以下に示すとおりである。但し、調製後すぐに分離した場合は測定せず「-」と記載した。
<評価基準>
〇 流動複屈折あり(振った際に複屈折が確認される)
× 流動複屈折なし(振った際の複屈折が確認されない)
【0032】
3-4.経時安定性(状態確認)
油性ゲル状組成物を製造後約1週間経過し平衡に達した後に、目視観察により組成物の分離や白濁状態について評価を行った。評価基準は以下に示すとおりである。
<評価基準>
○:透明に溶解している
△:白濁した
×:分離した
【0033】
4.評価結果及び考察
評価結果を表1に示す。
ホスファチジルコリン(PC)含量が65~90重量%の未水添レシチンをスクワラン及びHLB値が7.5のポリグリセリン脂肪酸エステルと組み合わせた場合、いずれのレシチン濃度においても、容易にゲル化し、適度な粘性及び保存安定性を有する油性ゲル状組成物を得ることができた。また、粘性については処方1、2、8~11において、ゼロシア粘度が2~200Pa・sの範囲であったことから、粘性がありながら流動性も示し、化粧料としての使用感に優れたものとなる。
【0034】
【0035】
[実施例2]
1.試験に用いた材料
(1)レシチン
ホスファチジルコリン(PC)含量が65~75重量%であるSLP-PC70(辻製油社製)を用いた。
(2)ポリグリセリン脂肪酸エステル
表2に示す各HLBのポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた。
(3)油剤
油剤として以下を用いた。一般名称、製品名、分子量(かっこ内)を示す。
(i)水添ジデセン・・・シンセラン2(200~300)
(ii)スクワラン・・・オリーブスクワラン(422.8)
(iii)水添ポリデセン・・・ノムコートHP-30VE(450)
(iv)オレフィンオリゴマー・・・NIKKOLシンセラン4SP(400~600)
(v)トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル・・・Myritol 318 JP (387.5)
(vi)トリエチルヘキサノイン・・・IOTG (470.68)
(vii)マカデミア種子油・・・マカデミアナッツ油
【0036】
2.油性ゲル状組成物の調製方法
(i)スクリュー管にレシチン10重量%、ポリグリセリン脂肪酸エステル1重量%、油剤89重量%を量りとり、撹拌子を入れた後蓋をし、ホットスターラーにて60℃に加熱しながら完全に溶解するまで撹拌を行った。
(ii)試料の溶解を目視で確認した後、撹拌したまま室温まで冷却し、油性ゲル状組成物を製造した。
【0037】
3.油性ゲル状組成物の評価方法
3-1.粘性の確認
実施例1と同様に評価を行った。
3-2.流動複屈折の有無
実施例1と同様に評価を行った。
3-3.経時安定性(状態確認)
実施例1と同様に評価を行った。
【0038】
4.評価結果及び考察
各油剤及び各HLB値のポリグリセリン脂肪酸エステルを組み合わせて調製した油性ゲル状組成物の評価結果を表2に示す。
本結果によれば、ホスファチジルコリン(PC)含量が65~90重量%の未水添レシチンを水添ジデセン、スクワラン、水添ポリデセン、及び、オレフィンオリゴマーとHLB値が3.0以上7.0以下のポリグリセリン脂肪酸エステルと組み合わせた場合に、容易にゲル化し、良好な粘性及び保存安定性を有する油性ゲル状組成物を得ることができた。
一方で、他の油剤を用いた場合には、どのようなHLB値のポリグリセリン脂肪酸エステルと組み合わせてもゲル化できず(マカデミア種子)、あるいはゲル化できても適度な粘性が得られず、流動複屈折が確認できなかった(トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリエチルヘキサノイン)。
以上より、PC含量が65~90重量%の未水添レシチンを用いて油性ゲルを製造するためには、水添ジデセン、スクワラン、水添ポリデセン、及び、オレフィンオリゴマーとHLB値が3.0以上7.0以下のポリグリセリン脂肪酸エステルとを組み合わせた場合に初めて容易にゲル化し、かつ適度な粘性及び保存安定性を有する油性ゲル状組成物が得られることがわかった。
なお、正常ヒト繊維芽細胞を用いたコラーゲンゲル法により安全性試験を行ったところ、細胞生存率はいずれもほぼ100%以上であり本発明のゲル状組成物は安全性が高いことを確認した(データ示さず)。
【0039】
本発明によれば、高価な高純度PC含量のレシチンを用いることなく、PC低含有レシチンを用いて油性ゲル状組成物を提供することができる。また、当該油性ゲル状組成物は適度な粘性、保存安定性及び安全性に優れることから化粧品分野において有効に利用することができる。