(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036234
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】焼結摺動部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/12 20060101AFI20230307BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20230307BHJP
F16C 33/14 20060101ALI20230307BHJP
F16C 33/20 20060101ALI20230307BHJP
B22F 5/00 20060101ALI20230307BHJP
B22F 3/11 20060101ALI20230307BHJP
C22C 1/08 20060101ALI20230307BHJP
F16C 33/10 20060101ALI20230307BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20230307BHJP
C22C 9/00 20060101ALN20230307BHJP
【FI】
F16C33/12 B
F16C17/02 Z
F16C33/14 A
F16C33/20 Z
B22F5/00 S
B22F5/00 C
B22F3/11 A
C22C1/08 F
F16C33/10 D
C22C38/00 304
C22C9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021143164
(22)【出願日】2021-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】306000315
【氏名又は名称】株式会社ダイヤメット
(71)【出願人】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】田村 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】福田 亮介
(72)【発明者】
【氏名】竹添 真一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 佳苗
(72)【発明者】
【氏名】樋口 基樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勇介
【テーマコード(参考)】
3J011
4K018
【Fターム(参考)】
3J011AA07
3J011BA02
3J011DA01
3J011DA02
3J011JA01
3J011JA02
3J011KA02
3J011MA02
3J011PA02
3J011QA05
3J011RA03
3J011SE06
4K018AA04
4K018AA25
4K018AA29
4K018BA02
4K018BA13
4K018BA20
4K018BC12
4K018CA02
4K018CA11
4K018DA21
4K018FA02
4K018FA05
4K018FA44
4K018FA45
4K018FA46
4K018KA02
4K018KA03
4K018KA22
4K018KA70
(57)【要約】
【課題】摺動性を向上でき、かつ、その摺動性を長期間にわたって維持できる焼結摺動部品及びその製造方法を提供することこと。
【解決手段】摺動対象を摺動可能に支持する摺動面が形成された焼結金属からなる多孔質の焼結部品本体を有する焼結摺動部品であって、摺動面には、固体潤滑剤を含む固体潤滑相と、焼結部品本体の多数の気孔が開口した地肌面とが分散して形成され、固体潤滑相の摺動面における面積比率が10%以上60%以下であるとともに、固体潤滑相の一部は、焼結部品本体内に浸透している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動対象を摺動可能に支持する摺動面が形成された焼結金属からなる多孔質の焼結部品本体を有する焼結摺動部品であって、
前記摺動面には、固体潤滑剤を含む固体潤滑相と、前記焼結部品本体の多数の気孔が開口した地肌面とが分散して形成され、前記固体潤滑相の前記摺動面における面積比率が10%以上60%以下であるとともに、前記固体潤滑相の一部は、前記焼結部品本体内に浸透していることを特徴とする焼結摺動部品。
【請求項2】
前記摺動面の粗さRz(JIS B 0601 2001)が5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の焼結摺動部品。
【請求項3】
前記固体潤滑相の前記焼結部品本体への浸透深さが50μm以上であることを特徴とする請求項2に記載の焼結摺動部品。
【請求項4】
前記固体潤滑相は、樹脂を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の焼結摺動部品。
【請求項5】
前記焼結部品本体の主成分は、鉄系金属であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の焼結摺動部品。
【請求項6】
前記固体潤滑剤は、へき開性を有する物質や前記摺動対象よりも柔らかい物質を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の焼結摺動部品。
【請求項7】
前記気孔の少なくとも一部に潤滑油が含浸されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の焼結摺動部品。
【請求項8】
前記固体潤滑相は、親油性を有することを特徴とする請求項7に記載の焼結摺動部品。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の焼結摺動部品の製造方法であって、
原料粉末を成形金型に充填して加圧し、圧粉体を成形する成形工程と、この圧粉体を焼結して焼結体を形成する焼結工程と、前記焼結体に固体潤滑剤が混合された希釈液を含浸させる含浸工程と、前記含浸工程後の前記焼結体を加熱して前記希釈液の液体分を揮発させる加熱工程と、前記加熱工程後の前記焼結体をサイジングして焼結部品本体とするサイジング工程と、を備えることを特徴とする焼結摺動部品の製造方法。
【請求項10】
前記希釈液には、前記固体潤滑剤及び樹脂バインダーを混合することを特徴とする請求項9に記載の焼結摺動部品の製造方法。
【請求項11】
前記サイジング工程後に潤滑油を含浸させる潤滑油含浸工程をさらに備えることを特徴とする請求項9又は10に記載の焼結摺動部品の製造方法。
【請求項12】
前記含浸工程では、前記摺動面における前記気孔の開口径より小さい粒径を含む前記固体潤滑剤が混合された前記希釈液を前記焼結体に含浸させることを特徴とする請求項9から11のいずれか一項に記載の焼結摺動部品の製造方法。
【請求項13】
前記含浸工程前に前記焼結体における前記摺動面となる領域以外の領域を加工して、前記気孔の少なくとも一部を目潰しする目潰し工程を備えることを特徴とする請求項9から12のいずれか一項に記載の焼結摺動部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に潤滑油を含浸させて潤滑を円滑に行わせることができる焼結含油軸受等の焼結摺動部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結摺動部品として、比較的柔らかい青銅系や黄銅系の銅系軸受又は強度の高い鉄を含む鉄系軸受、これらの中間的な軸受である鉄銅系軸受が知られており、摺動速度や荷重の大きさにより使い分けされている。例えば、銅系軸受は、主に高速摺動・低荷重仕様に用いられ、鉄系軸受は低速摺動・高荷重仕様に用いられ、鉄銅系軸受はこれらの中間として用いられている。
【0003】
このような各種軸受の摩擦抵抗を限りなく小さくするため、必要に応じて固体潤滑剤を含ませた特許文献1に記載の鉄銅系焼結摺動部品が知られている。
この鉄銅系焼結摺動部品は、その摺動性を向上させるため、ベースとなる金属粉末に黒鉛や二硫化モリブデン(MoS2)等の固体潤滑剤粉末を混合し、焼結させることにより遊離黒鉛を分散させるとともに、表層部の銅成分を高めるとともに、黒鉛と鉄とが反応したパーライト相等の反応相を含むバックメタル層により表層部を支持することにより、強度が高く、かつ、摺動性を高めた焼結摺動部品を提供している。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の鉄銅系焼結摺動部品では、黒鉛を固体潤滑剤として用いた場合、金属粉末と固体潤滑剤粉末との焼結時に鉄と黒鉛の反応によってセメンタイトなどの高強度組織が発生し、この高強度組織が表層部に設けられると、高強度組織により摺動対象を傷付けてしまう場合がある。また、MoS2を固体潤滑剤として用いた場合、焼結時の高温によってMoS2が分解されるので、焼結体内にMoS2の状態で存在させることが難しい。
また、固体潤滑剤を配合して焼結すると、焼結性を阻害することに繋がり、軸受の強度や硬さが低下する。さらに、摺動対象のシャフト等が一般的に鉄系の材料が用いられるため、焼結摺動部品が鉄系粉末を含む構成であると、同種金属同士の摺動(いわゆる、ともがね)により凝着摩耗が生じたり焼付きが生じたりするおそれがある。
【0005】
上述したような問題を解消するため、金属粉末の焼結体に固体潤滑剤を含浸させて固体潤滑剤含有金属層を形成する方法として、例えば、特許文献2に記載の焼結含油軸受の製造方法が知られている。
この特許文献2に記載の焼結含油軸受の製造方法では、焼結して得た軸受本体(焼結体)をサイジングして、摺動受け面に表出させるべき所望の平均孔径となる油孔よりも大きな平均孔径を有する油孔を摺動受け面に形成し、この摺動受け面に固体潤滑剤含有金属層を設けるとともに、この固体潤滑剤含有金属層により油孔の縁を覆って、摺動受け面に所望の平均孔径となる油孔を形成している。
【0006】
また、金属粉末の焼結体にPTFE等のフッ素系樹脂からなる低摩擦層を形成する方法として、例えば、特許文献3に記載の焼結含油軸受の製造方法が知られている。
この特許文献3に記載の焼結含油軸受の製造方法では、焼結金属の表面を加圧して成形した後、成形面に樹脂皮膜を形成して低摩擦層を形成し、かつ、低摩擦層に表面開孔の少なくとも一部を残すようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-94167号公報
【特許文献2】特開2005-147201号公報
【特許文献3】特開2010-249242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、表面に形成された固体潤滑剤含有金属層及び低摩擦層は、いずれも層構造を有しているため、長期間にわたって摺動対象が摺動すると、固体潤滑剤含有金属層又は低摩擦層が摩耗し、耐久性が低下する懸念がある。このため、長期間にわたって摺動性を維持することが難しい。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、摺動性を向上でき、かつ、その摺動性を長期間にわたって維持できる焼結摺動部品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の焼結摺動部品は、摺動対象を摺動可能に支持する摺動面が形成された焼結金属からなる多孔質の焼結部品本体を有する焼結摺動部品であって、前記摺動面には、固体潤滑剤を含む固体潤滑相と、前記焼結部品本体の多数の気孔が開口した地肌面とが分散して形成され、前記固体潤滑相の前記摺動面における面積比率が10%以上60%以下であるとともに、前記固体潤滑相の一部は、前記焼結部品本体内に浸透している。
【0011】
本発明では、摺動面に地肌面を残存させているので、固体潤滑相により潤滑作用を高めつつ、固体潤滑相よりも高強度な素地部分(地肌面)により、摺動対象からの荷重を支持することで、摺動性を大幅に向上させることができる。また、固体潤滑相の一部が焼結部品本体に浸透しているので、摺動対象により摺動面の表面が摩耗した場合でも、摺動性が低下することを抑制でき、長期的にわたって摺動性を維持できる。
なお、固体潤滑相の摺動面における面積比率が10%未満であると、摩擦係数が大きくなり、60%を超えると、地肌面の面積が小さくなり、摺動により固体潤滑相が削れやすいことから、摩擦係数が大きくなるので、耐荷重性能(荷重支持作用)が低下する。
【0012】
本発明の焼結摺動部品の好ましい態様としては、前記摺動面の粗さRz(JIS B 0601 2001)が5μm以下であるとよい。
上記態様では、摺動面の粗さがやや大きい状態においても、表面に付着した固体潤滑相による凹凸が主であるから、固体潤滑相の存在により摺動特性が著しく低下することは無い。逆になじみ性が向上し、良好な摺動面を形成することが出来、耐焼付き性向上効果や、低摩擦効果が期待できる可能性もある。
なお、摺動面の粗さRz(JIS B 0601 2001)が5μmを超えると、摺動初期のなじみ時の過度の摩耗粉の発生によって摺動面の摩擦が大きくなる可能性がある。
【0013】
本発明の焼結摺動部品の好ましい態様としては、前記固体潤滑相の前記焼結部品本体への浸透深さが50μm以上であるとよい。
固体潤滑相の焼結部品本体への浸透深さが50μm未満であると長期間にわたって摺動性を向上しにくい。
【0014】
本発明の焼結摺動部品の好ましい態様としては、前記固体潤滑相は、樹脂を含むとよい。
上記態様では、固体潤滑相に焼結部品本体や摺動対象よりも柔らかい樹脂が含まれているので、摺動対象の摺動により固体潤滑相が摩耗しても、その摩耗粉により焼結部品本体や摺動対象を傷付けることを抑制できる。
【0015】
本発明の焼結摺動部品の好ましい態様としては、前記焼結部品本体の主成分は、鉄系金属であるとよい。
上記態様では、焼結摺動部品が鉄系金属を主成分としているので、焼結摺動部品の強度を高め、かつ、製造コストを低減することができる。
【0016】
本発明の焼結摺動部品の好ましい態様としては、前記固体潤滑剤は、へき開性を有する物質や前記摺動対象よりも柔らかい物質を含むとよい。
なお、上記へき開性を有する物質や摺動対象よりも柔らかい物質としては、黒鉛、二硫化モリブデン、フッ化カルシウム、タルク、窒化ホウ素、フッ化黒鉛等を例示できる。
【0017】
本発明の焼結摺動部品の好ましい態様としては、前記気孔の少なくとも一部に潤滑油が含浸されるとよい。
上記態様では、摺動面に多数の気孔が開口した地肌面を残存させていることから、摺動対象の摺動に伴いこれらの気孔から潤滑油が排出されるので、焼結摺動部品の摺動性をより向上できる。また、気孔内の固体潤滑剤と気孔内に含浸された潤滑油が混濁し、摺動面に少しずつ供給されるため、さらに焼結摺動部品の摺動性を向上できる。
【0018】
本発明の焼結摺動部品の好ましい態様としては、前記固体潤滑相は、親油性を有するとよい。
上記態様では、焼結部品本体内に形成された固体潤滑相により、気孔内に含浸した潤滑油が外部に排出されることを抑制できる。
【0019】
本発明の焼結摺動部品の製造方法は、上記焼結摺動部品の製造方法であって、原料粉末を成形金型に充填して加圧し、圧粉体を成形する成形工程と、この圧粉体を焼結して焼結体を形成する焼結工程と、前記焼結体に固体潤滑剤が混合された希釈液を含浸させる含浸工程と、前記含浸工程後の前記焼結体を加熱して前記希釈液の液体分を揮発させる加熱工程と、前記加熱工程後の前記焼結体をサイジングして焼結部品本体とするサイジング工程と、を備える。
【0020】
本発明では、焼結工程の後に固体潤滑相を形成するので、焼結時に固体潤滑剤が焼結体を構成する金属成分と反応して高強度組織が発生することや、焼結時の高温によって固体潤滑剤が分解されることを抑制できる。このため、固体潤滑剤の選択の幅を広げることができる。
ここで、焼結体にサイジングを施した後に固体潤滑相を形成すると、表面に付着する固体潤滑相の厚さムラにより、寸法精度や表面粗さの維持が難しくなるとともに、サイジングにより焼結体の表面に形成された気孔の開口径が小さくなるため、固体潤滑剤が気孔内に入り込みにくい。
これに対し、本発明では、含浸工程及び加熱工程の後にサイジング工程が実施されるので、含浸工程において固体潤滑剤を気孔内に入り込みやすくでき、これにより、固体潤滑相を焼結部品本体の内部にも形成することができる。
【0021】
本発明の焼結摺動部品の製造方法の好ましい態様としては、前記希釈液には、前記固体潤滑剤及び樹脂バインダーを混合するとよい。
上記態様では、固体潤滑相を固体潤滑剤及び樹脂により形成できる。この樹脂は、焼結部品本体や摺動対象よりも柔らかいため、摺動対象の摺動により固体潤滑相が摩耗しても、その摩耗粉により焼結部品本体や摺動対象を傷付けることを抑制できる。
【0022】
本発明の焼結摺動部品の製造方法の好ましい態様としては、前記サイジング工程後に潤滑油を含浸させる潤滑油含浸工程をさらに備えるとよい。
上記態様では、焼結摺動部品に潤滑油を含浸させることで、焼結含油摺動部品(例えば、焼結含油軸受)を提供できる。
【0023】
本発明の焼結摺動部品の製造方法の好ましい態様としては、前記含浸工程では、前記摺動面における前記気孔の開口径より小さい粒径を含む前記固体潤滑剤が混合された前記希釈液を前記焼結体に含浸させるとよい。
上記態様では、固体潤滑剤の粒径が気孔の開口径よりも小さい粒子を含むので、固体潤滑剤を気孔内に容易に入り込ませることができる。このため、気孔内に固体潤滑相を形成しやすくできる。さらに、気孔内に潤滑油が含浸されている場合には、気孔内の固体潤滑相と混濁し、摺動面に排出されるため、摺動性をさらに高めることができる。
【0024】
本発明の焼結摺動部品の製造方法の好ましい態様としては、前記含浸工程前に前記焼結体における前記摺動面となる領域以外の領域を加工して、前記気孔の少なくとも一部を目潰しする目潰し工程を備えるとよい。
上記態様では、含浸工程を浸漬法により行う場合などに、摺動面となる領域以外の領域に固体潤滑相となる固体潤滑剤が入り込むことを抑制でき、製造コストを低減できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、焼結摺動部品の摺動性を向上することができ、かつ、その摺動性を長期間にわたって維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態に係る焼結摺動部品(焼結含油軸受)の断面図である。
【
図2】
図1に示す焼結含油軸受の断面SEM画像を示す図である。
【
図3】
図2に示す断面SEM画像の部分拡大図である。
【
図4】上記実施形態の焼結摺動部品の製造方法を示すフローチャートである。
【
図5】実施例における焼結含油軸受の摺動面表面の元素分析を実行した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0028】
[焼結含油軸受の概略構成]
本実施形態の焼結含油軸受1は、本発明の焼結摺動部品に相当し、焼結金属からなる多孔質の軸受本体10(焼結部品本体)に、潤滑油を含浸させてなる筒状の軸受である。この焼結含油軸受1には、摺動対象である軸(図示省略)が挿通され、この軸の外周面を支持する摺動面12を有する軸受孔11が形成されている。この軸受孔11は、挿通された軸を摺動自在に支持する。
【0029】
この焼結含油軸受1は、金属粉末(例えば、鉄系の金属粉末を主成分とする金属粉末)の焼結体により形成されていることから、内部に多数の気孔が形成された多孔質体により形成されている。この焼結含油軸受1(軸受本体10)における開放気孔率(JIS Z 2501 2000)は、14vol%~25vol%に設定されており、軸受本体10の気孔内に潤滑油が含浸される。
なお、開放気孔率とは、軸受本体10に対する潤滑油等の流体を含侵可能な気孔の体積比率である。この開放気孔率は、軸受本体10の体積に対する百分率で表し、完全含浸後の油の体積を軸受本体10の体積で除し、100を乗じて求められる。つまり、開放気孔率は、軸受本体10の体積に対する含油率と略同じである。
【0030】
この気孔内に含浸された潤滑油は、軸が摺動して軸受本体10の温度が上昇することにより、潤滑油が膨張する他、軸の摺動により軸受本体の気孔内の潤滑油が吸い出されるポンプ作用により、摺動面12に形成された多数の気孔から漏れ出し、軸の摺動が止まって焼結含油軸受1の温度が低下すると漏れ出した潤滑油が軸受本体10内に引き込まれて回収される。
【0031】
[摺動面の構成]
このような摺動面12には、上述した軸受本体10の多数の気孔が開口する地肌面と、固体潤滑剤を含む固体潤滑相とが混在されて形成されている。この固体潤滑相は、へき開性を有する物質や摺動対象である軸よりも柔らかい物質と、樹脂とからなる。具体的には、このような物質としては、例えば、黒鉛、二硫化モリブデン、フッ化カルシウム、タルク、窒化ホウ素、及びフッ化黒鉛等を例示でき、固体潤滑剤は、これらの少なくとも1つと、樹脂とからなる。
なお、固体潤滑相は、親油性を有することが好ましい。固体潤滑相が親油性を有していれば、気孔内に適切に潤滑油を含侵させることが可能となり、また、気孔内に含浸した潤滑油が外部に排出されることを抑制可能となるためである。このため、固体潤滑剤が撥油性を有する場合でも、樹脂が含まれることにより、固体潤滑相自体が親油性を有すればよい。なお、本明細書では、親油性とは、固体潤滑相を付与した軸受本体10の気孔内に潤滑油を保持できるものをいう。この親油性は、例えば、潤滑油未含浸状態で油を滴下した際に軸受内部への吸い込みの有無により判断する。吸い込む場合は、親油性があるものと判断し、表面上に球を作り、吸い込まないものは親油性無しと判断する。
【0032】
固体潤滑相が樹脂を含むのは、樹脂が軸受本体10や軸よりも柔らかく、樹脂を含む固体潤滑相の摩耗時に生じる摩耗粉により、本体や軸を傷付けることを抑制可能であるためである。なお、樹脂は必ずしも固体潤滑相に含まれなくてもよく、固体潤滑剤のみにより形成されていてもよい。
【0033】
また、固体潤滑剤の粒径は、摺動面12における気孔の開口径より小さいものを含む。例えば、摺動面12における気孔の開口径は、5μm~100μmに設定された場合、固体潤滑材の粒径は、それよりも小さい粒子を含んだものを使用する。つまり、固体潤滑剤の粒径は、気孔の開口径より小さい粒子が含まれていればよく、一部、それより大きい粒子を含んでいてもよいし、固体潤滑剤の粒径がすべて気孔の開口径より小さくてもよい。このため、固体潤滑剤からなる固体潤滑相は、軸受本体10の表面(摺動面12)のみならず、気孔内に形成される。
【0034】
このような固体潤滑相は、摺動面12の摺動性の向上に寄与し、
図2に示すように、摺動面12の表面の一部及び軸受本体10内に形成されている。具体的には、固体潤滑相の摺動面12における面積比率は、10%以上60%以下とされ、固体潤滑相以外の領域が地肌面とされている。例えば、摺動面12の表面は、
図5に示す例では、固体潤滑相は、黒色で表示される部分であり、白色及び灰色で表示される地肌面と混在して配置されている。
なお、固体潤滑相の摺動面12における面積比率が10%未満であると、摺動面12の摩擦係数が大きくなり、60%を超えると、摺動面12における地肌面の面積が小さくなり、地肌面による荷重支持作用が低下する。
【0035】
また、固体潤滑相の軸受本体10への浸透深さは、50μm以上であることが好ましい。具体的には、
図2に示すように、固体潤滑相は、軸受本体10内に分散した状態で配置されている。
図3は、
図2の枠状に囲まれた部分のSEM画像の拡大図であり、
図3における矢印で示した部分が固体潤滑相である。これら
図2及び
図3から、固体潤滑相が上記範囲内で軸受本体10内に浸透しており、これにより、軸の摺動により摺動面12が摩耗した場合に摺動性が低下することを抑制している。
なお、固体潤滑相の軸受本体10への浸透深さが50μm未満であると長期間にわたって摺動性を維持しにくい。
【0036】
一方、固体潤滑相が形成された後の軸受本体10の開放気孔率は、14vol%以上25vol%以下であることが好ましい。これにより、焼結含油軸受1に潤滑油を十分に含浸させることができ、摺動性を向上させることができる。また、固体潤滑相が軸受本体10に含浸し過ぎることを抑制することで、製造コストを低減できる。
なお、固体潤滑相が焼結体本体内に含浸し過ぎて、軸受本体10の開放気孔率が14vol%未満に低下すると、含浸させる潤滑油の量が少なくなることから、自己給油可能な焼結含油軸受1としての機能を低下させてしまうおそれがある。また、固体潤滑相が過含浸となると、製造コストが増加する可能性がある。
【0037】
このような固体潤滑相が形成された摺動面12の粗さRz(JIS B 0601 2001)は、5μm以下、好ましくは2μm以下であることが好ましい。粗さは摺動部材としては小さい方がよいが、本構成では、表面に付着した固体潤滑相により若干の凹凸が生じることがあるが、ほとんどが固体潤滑相を主成分とするため摺動特性は著しく低下しない。
なお、摺動面12の粗さRz(JIS B 0601 2001)が5μmを超えると、摺動初期のなじみ時の過度の摩耗粉の発生によって、摺動面12の摩擦係数が大きくなる可能性がある。
【0038】
[焼結含油軸受の製造方法]
焼結含油軸受1は、原料粉末を成形金型に充填して加圧し、筒状の圧粉体を成形する成形工程(ステップS11)と、この圧粉体を焼結して焼結体を形成する焼結工程(ステップS12)と、焼結体に固体潤滑剤が混合された希釈液を含浸させる含浸工程(ステップS13)と、含浸工程後の焼結体を加熱して希釈液の液体分を揮発させる加熱工程(ステップS14)と、加熱工程後の焼結体をサイジングして軸受本体10とするサイジング工程(ステップS15)と、サイジング工程後に軸受本体10に潤滑油を含浸させる潤滑油含浸工程(ステップS16)と、を備えている。以下、
図4に示すフローチャートに沿って、工程ごとに説明する。
【0039】
(成形工程)
焼結含油軸受1の材料となる金属としては、特に限定されるものではないが、原料粉末は、鉄系粉末や鉄銅系粉末を用いるのが好適である。
鉄系粉末は、主成分が鉄や鉄合金からなる鉄粉であり、融点が焼結温度以下である低融点金属粉を含有してもよい。この場合、銅系粉末が0.5質量%~70質量%、低融点金属粉末が0.5質量%~10質量%、残部が鉄系粉末の組み合わせからなる。なお、鉄合金系材料においては、銅を低融点金属として利用することもある。
【0040】
成形工程では、成形用金型(図示省略)が用いられ、成型用金型内により形成される空間内に原料粉末を投入し、上方から円筒状の成形用上パンチを挿入して成形用下パンチと成形用上パンチとの間隔を狭めて原料粉末を100MPa~800MPaで圧縮することにより、圧粉体を形成する。
【0041】
(焼結工程)
次に、焼結工程では、この圧粉体を600℃~1150℃の温度で焼結する。これにより、圧粉体が焼結されて焼結体となる。なお、最高温度の保持時間は、5分~30分であるとよい。
なお、この時点における焼結体の開放気孔率は、15vol%~30vol%である。この開放気孔率は、焼結体に対する潤滑油等の流体を含侵可能な気孔の体積比率であり、焼結体の体積に対する百分率で表し、完全含浸後の油の体積を焼結体の体積で除し、100を乗じて求められる。
【0042】
(含浸工程)
含浸工程では、例えば、黒鉛、二硫化モリブデン、フッ化カルシウム、タルク、窒化ホウ素、フッ化黒鉛等の固体潤滑剤の少なくとも1つと、樹脂バインダーとを溶剤で希釈した希釈液を焼結体に含浸させる。これら固体潤滑剤は、親油性を有することが好ましく、その平均粒径は、焼結体の摺動面12となる領域の表面における気孔の平均開口径より小さいことが好ましい。なお、固体潤滑剤としては、例示した上記各物質に限らず、へき開性を有する物質や摺動対象よりも柔らかい物質であれば、どのような固体潤滑剤を用いてもよい。
本実施形態では、例えば、二硫化モリブデン10mass%及びエポキシ系樹脂バインダー10mass%を有機溶剤に投入し、攪拌することにより、希釈液を製造する。そして、焼結体を希釈液に所定時間(例えば、5分~30分)浸漬させることにより、焼結体に希釈液を含浸させる。このとき、固体潤滑剤の粒径は、焼結体の表面に形成された気孔の開口径より小さい粒子を含んでいるので、固体潤滑剤の一部が気孔内に入り込む。
なお、固体潤滑相の摺動面12における面積比率を10%以上60%以下、摺動面12の粗さRz(JIS B 0601 2001)を5μm以下、固体潤滑相の軸受本体10への浸透深さを50μm以上とするためには、希釈液の固体潤滑剤及び樹脂バインダーの希釈濃度を20mass%~30mass%とし、焼結体をこの希釈液に3秒~30分浸漬させることが好ましい。
【0043】
なお、上記実施形態では、焼結体を希釈液に浸漬させることにより希釈液を含浸させることとしたが、これに限らず、例えば、蒸着、スプレー等による塗装及びめっき浴等により希釈液を含浸させてもよい。
【0044】
(加熱工程)
加熱工程では、希釈液が含浸された焼結体を加熱する。この加熱工程の加熱温度は、固体潤滑剤が加熱時に分解しない温度であり、かつ、希釈液の液体分を揮発させることが可能な温度であることが好ましい。例えば、加熱工程の加熱条件は、焼結体を150℃~250℃で30分~120分保持される。
【0045】
(サイジング工程)
サイジング工程では、焼結体の内周面、外周面、及び両端面を矯正用金型(図示省略)で挟持することにより、焼結体のサイズを矯正して、軸受本体10を形成する。
【0046】
(潤滑油含浸工程)
そして、軸受本体10の気孔内に潤滑油を浸油させる。これにより、焼結含油軸受1が製造される。
【0047】
本実施形態では、摺動面12に多数の気孔が開口する地肌面を残存させているので、固体潤滑相による潤滑作用と、地肌面の荷重支持作用とが相まって、摺動性を大幅に向上させることができる。また、固体潤滑相が軸受本体10に浸透しているので、摺動対象(軸)により摺動面12の表面が摩耗した場合でも、摺動性が低下することを抑制でき、また、気孔内の固体潤滑剤と気孔内に含浸された潤滑油が混濁し、摺動面12に少しずつ供給されるため、長期的にわたって摺動性を維持できる。さらに、摺動面12の粗さRzが小さく、摺動面12に突出した凹凸がなく平坦に形成されているので、摺動面12の過度な摩耗粉の発生を抑制することができ、摺動面の摩擦を低減できる。
【0048】
また、固体潤滑相に軸受本体10や摺動対象よりも柔らかい樹脂が含まれており、この固体潤滑相を樹脂とともに形成する固体潤滑剤にへき開性を有する物質や摺動対象よりも柔らかい物質(例えば、黒鉛、二硫化モリブデン、フッ化カルシウム、タルク、窒化ホウ素、フッ化黒鉛等)が含まれているので、摺動対象の摺動により固体潤滑相が摩耗しても、その摩耗粉により軸受本体10や摺動対象を傷付けることを抑制できる。
さらに、焼結含油軸受1が鉄系金属を主成分としているので焼結含油軸受1の強度を高め、かつ、製造コストを低減することができる。
また、摺動面12に多数の気孔が開口した地肌面を残存させていることから、摺動対象の摺動に伴いこれらの気孔から潤滑油が排出されるので、焼結含油軸受1の摺動性をより向上できる。この場合、固体潤滑相が親油性を有しているので、軸受本体10内に形成された固体潤滑相により、気孔内に含浸した潤滑油が外部に排出されることを抑制できる。
【0049】
本実施形態の焼結含油軸受1の製造方法では、焼結工程の後に固体潤滑相を形成するので、焼結時に固体潤滑剤が焼結体を構成する金属成分と反応して高強度組織が発生することや、焼結時の高温によって固体潤滑剤が分解されることを抑制できる。このため、固体潤滑剤の選択の幅を広げることができる。
ここで、焼結体にサイジングを施した後に固体潤滑相を形成すると、表面に付着する固体潤滑相の厚さムラにより、寸法精度や表面粗さの維持が難しくなるとともに、サイジングにより焼結体の表面に形成された気孔の開口径が小さくなるため、固体潤滑剤が気孔内に入り込みにくい。
これに対し、本実施形態では、含浸工程及び加熱工程の後にサイジング工程が実施されるので、含浸工程において固体潤滑剤を気孔内に入り込みやすくでき、これにより、固体潤滑相を軸受本体10の内部にも形成することができる。
【0050】
また、固体潤滑剤の粒径が気孔の開口径よりも小さい粒子を含むので、固体潤滑剤を気孔内に容易に入り込ませることができる。このため、気孔内に固体潤滑相を形成しやすくできる。さらに、気孔内に潤滑油が含浸されているので、摺動対象である軸の摺動に伴い、潤滑油が気孔内の固体潤滑相と混濁し、摺動面12に排出されるため、焼結含油軸受1の摺動性をさらに高めることができる。
【0051】
なお、本発明は上記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、焼結工程の直後に含浸工程を実行することとしたが、これに限らない。例えば、含浸工程前に焼結体における摺動面12となる領域以外の領域(軸受本体10の両端面及び外周面)を加工して、気孔の少なくとも一部を目潰しする目潰し工程を備えてもよい。この目潰し工程により、含浸工程を浸漬法により行う場合などに、摺動面12となる領域以外の領域に固体潤滑相となる固体潤滑剤が入り込むことを抑制でき、製造コストを低減できる。
【0052】
上記実施形態では、焼結含油軸受のベースとなる金属粉末として、鉄系金属粉末を例示したが、これに限らず、種々の焼結金属を用いてもよい。
【0053】
上記実施形態では、固体潤滑相を形成するため、二硫化モリブデン及び樹脂バインダーを混合した有機溶剤からなる希釈液を用いることとしたが、これに限らず、上述した黒鉛、二硫化モリブデン、フッ化カルシウム、タルク、窒化ホウ素、フッ化黒鉛等の固体潤滑剤の2つ以上と、樹脂バインダーを混合した有機溶剤を希釈液として用いてもよい。また、固体潤滑剤は、固体潤滑剤として例示した上記各物質に限らず、へき開性を有する物質や摺動対象よりも柔らかい物質であれば、どのような固体潤滑剤を用いてもよい。
【0054】
上記実施形態では、焼結摺動部品として、潤滑油を含浸させた焼結含油軸受を例示して説明したが、これに限らず、ドライ系の焼結軸受も本発明の権利範囲に含む。この場合、潤滑油含浸工程はなくてもよい。
また、使用条件に適合可能な特性を保有する焼結含油軸受を提供するため、使用する金属材料(金属粉の配合)や、製造工程における各種条件を適宜変更してもよい。
また、焼結摺動部品の形状は軸受形状に限らず、摺動対象を支持可能な摺動面を有していれば、その形状は問わない。
【実施例0055】
本発明の効果を実証するために行った試験結果について説明する。
実施例1~7及び比較例1、2では、原料粉末として鉄、銅、錫等を混合した鉄銅系粉末を用いた。鉄銅系粉末からなる原料粉末は、鉄粉が48質量%、錫粉が2質量%、そして残部を銅粉として調整した。そして、成形工程において原料粉末を300MPaで圧縮成形して圧粉体を成形し、焼結工程において900℃の温度で焼結して焼結体を形成した。なお、固体潤滑相の面積比率、浸透深さ、摺動面粗さについては、固体潤滑相付与工程にて使用する希釈液の希釈濃度を20mass%~30mass%とし、浸漬時間を3秒~30分とすることにより調整した。実施例1、3及び5では、二硫化モリブデン10mass%及びエポキシ系樹脂バインダー10mass%を有機溶剤に投入し、攪拌することにより、希釈液を製造し、焼結体を希釈液に30分間浸漬させることにより、焼結体に希釈液を含浸させた後、200℃で60分加熱することにより、希釈液の液体分を揮発させ、試料の摺動面及びその内部に固体潤滑相を形成した後、サイジングして、軸受本体の直径が16mm、軸受孔の直径が8mmの焼結軸受を形成した。そして、焼結軸受にISOグレードVG68(40℃における動粘度が68cst)の鉱物油を含浸させて焼結含油軸受(以下、試料という)を形成した。
また、実施例2では、実施例1における焼結体を希釈液に浸漬させる時間を15分として、上記実施例1と同様の方法で試料を形成した。さらに、実施例4及び7では、希釈液を二硫化モリブデン15mass%及びエポキシ系樹脂バインダー15mass%を有機溶剤に投入し、攪拌して製造し、その他の工程については、実施例1と同様の方法で試料を形成した。また、実施例6では、希釈液に浸漬させる時間を3秒とした以外は実施例1と同様の方法で試料を作成した。
【0056】
一方、比較例1では、焼結工程の直後にサイジングをして上記形状の焼結軸受を形成した。また、比較例2では、実施例4と同じ希釈液を用いて、焼結体を希釈液に30分浸漬させることにより、焼結体に希釈液を含浸させた後、200℃で60分加熱した後、再度、希釈液に30分浸漬させた後、200℃で60分加熱し、その他の工程については、実施例1と同様の方法で試料を形成した。
このような各試料の固体潤滑相の表面厚さ、浸透深さ、摺動面における固体潤滑相の面積率、粗さRz(JIS B 0601 2001)、含油率(開放気孔率)、摩擦係数及び耐久性の評価は、表1に示すとおりである。
【0057】
(表面厚さの測定)
固体潤滑相の表面厚さは、固体潤滑相が形成された各試料の内径から固体潤滑相を形成する前の焼結体の内径を減ずることにより求めた。具体的には、(固体潤滑相が形成された各試料の内径-固体潤滑相の内径)/2を算出した。
【0058】
(浸透深さの測定)
固体潤滑相の浸透深さは、各試料を軸方向に沿って切断し、内周表面側の断面を電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)にて観察した。固体潤滑相は、固体潤滑剤として二硫化モリブデン(MoS2)を用いているため、Mo及びSを抽出元素としてマッピングを行うことにより浸透深さを確認した。
【0059】
(面積率の測定)
各試料(焼結含油軸受)を軸方向に2つに分断し、任意の一か所についてSEMにて試料の摺動面表面の元素分析を行い、Mo及びSを抽出元素としてマッピングし、画像処理ソフトを用いて画像を二値化し(
図5参照)、Mo及びS元素が検出された面積を画像全体の面積との比で表し、面積率とした。
【0060】
(粗さRz(JIS B 0601 2001)の測定)
粗さ計(株式会社小坂研究所社製のSE700)を用いて、粗さRz(JIS B 0601 2001)を測定した。触診は、Rが1mmのチーゼルタイプのスタイラスを用い、可能な限り気孔の測定値への影響を排除した。
【0061】
(含油率の測定)
含油率は、JIS Z 2501にならい測定した。
【0062】
(摩擦係数の測定)
各試料のそれぞれに、軸方向を重力方向に直交している方向に配置した各試料の軸受孔に、摺動対象としてのS45Cからなるシャフト(軸)を挿入して、軸を回転させ、各試料の摩擦係数を評価した。室温で、軸に対する荷重を3MPa、回転速度100m/minの条件で馴染み運転および計測を実施した。摩擦係数はなじみ後、安定した時点の摩擦係数を測定値とした。なお、摩擦係数は、軸受に発生するトルクをロードセル(ミネベアミツミ社製UT-1K)にて荷重として測定したのち、測定位置との距離を換算して摩擦係数を得た。
【0063】
(耐久性の評価)
耐久性の評価は、表1に示す含油率の各試料について、室温で、軸に対する面圧を3MPa、摺動速度(回転速度)100m/minの条件で、150時間連続運転したときの耐久性を評価した。この評価において、焼付きが生じたり、摩耗粉が生じたりして停止した場合を「停止」と判断し、150時間連続運転ができた場合を「異常なし」と判断した。この評価結果については、表1に示すとおりである。
【0064】
【0065】
表1に示すように、潤滑相が摺動面に分散しており、潤滑相の一部が内部に浸透している実施例1~7では、摩擦係数が0.125以下と低いことから、摺動性を向上できることが分かった。また、実施例1~7の試料は、150時間連続運転しても異常が認められなかったため、高い摺動性を維持できた。これらのうち、実施例1、3及び5は、固体潤滑相の摺動面における面積比率が10%以上60%以下であり、固体潤滑相の焼結部品本体(軸受本体)への浸透深さが50μm以上であり、かつ、摺動面の粗さRz(JIS B 0601 2001)が5μm以下であったため、摩擦係数が0.089以下と特に小さく、摺動性をより向上できることがわかった。
【0066】
一方、比較例1は、固体潤滑相が形成されていないため、摩擦係数が0.153と高く、摺動性を向上できなかった。また、比較例1では、固体潤滑相が形成されていないたことから、3時間の運転で表面が焼付き、運転が停止した。また、比較例2は、摺動面の全面に固体潤滑相が形成されていたことから、潤滑油の摺動面への供給不足や強度の低い固体潤滑相のみでの軸を支持することとなったので、過度の摩耗粉の発生により摩擦係数が0.193と高く、摺動性を向上できなかった。また、摺動面の摩耗進行が早く、25時間の運転で摩耗粉が堆積し、運転を停止した。