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特開2023-36287放射性廃棄物の固化処理方法、放射性廃棄物固化体、及び、放射性廃棄物固化体の埋設方法
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  • 特開-放射性廃棄物の固化処理方法、放射性廃棄物固化体、及び、放射性廃棄物固化体の埋設方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036287
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】放射性廃棄物の固化処理方法、放射性廃棄物固化体、及び、放射性廃棄物固化体の埋設方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/16 20060101AFI20230307BHJP
   G21F 9/34 20060101ALI20230307BHJP
   G21F 9/30 20060101ALI20230307BHJP
   G21F 9/36 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
G21F9/16 571C
G21F9/34 C
G21F9/30 515F
G21F9/36 511F
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021143266
(22)【出願日】2021-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596025250
【氏名又は名称】株式会社テクノ中部
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188765
【弁理士】
【氏名又は名称】赤座 泰輔
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100136995
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 千織
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 博光
(72)【発明者】
【氏名】大村 幸一郎
(72)【発明者】
【氏名】大澤 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】菊池 弘樹
(57)【要約】
【課題】放射性廃棄物の流出を抑制することができる放射性廃棄物の固化処理方法を提供すること。
【解決手段】放射性廃棄物固化体3は、放射性廃棄物の処理対象物と処理対象物を包含する包含樹脂とが混合された包含樹脂固化物1と、包含樹脂固化物を被覆する被覆樹脂から形成される被覆樹脂層2と、を備える。放射性廃棄物の固化処理方法は、溶融させた包含樹脂と、包含樹脂に包含させる放射性廃棄物の処理対象物と、を混合し、包含樹脂固化物を形成する包含樹脂固化物形成工程と、包含樹脂固化物に、包含樹脂固化物を被覆する被覆樹脂を用いて被覆樹脂層を形成させ、包含樹脂固化物と被覆樹脂層からなる放射性廃棄物固化体を形成する放射性廃棄物固化体形成工程と、を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融させた包含樹脂と、該包含樹脂に包含させる放射性廃棄物の処理対象物と、を混合し、包含樹脂固化物を形成する包含樹脂固化物形成工程と、
該包含樹脂固化物に、該包含樹脂固化物を被覆する被覆樹脂を用いて被覆樹脂層を形成させ、該包含樹脂固化物と該被覆樹脂層からなる放射性廃棄物固化体を形成する放射性廃棄物固化体形成工程と、
を有することを特徴とする放射性廃棄物の固化処理方法。
【請求項2】
前記放射性廃棄物が酸性の廃水溶液であり、
包含樹脂固化物形成工程の前に、
該廃水溶液を中和する中和工程と、
中和された該廃水溶液を加熱して、前記処理対象物としての塩を析出する塩析工程と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の放射性廃棄物の固化処理方法。
【請求項3】
前記廃水溶液がSr(ストロンチウム)分析で使用した塩酸水溶液であることを特徴とする請求項2に記載の放射性廃棄物の固化処理方法。
【請求項4】
前記包含樹脂がパラフィンであることを特徴とする請求項1に記載の放射性廃棄物の固化処理方法。
【請求項5】
前記被覆樹脂がエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の放射性廃棄物の固化処理方法。
【請求項6】
放射性廃棄物の処理対象物と該処理対象物を包含する包含樹脂とが混合された包含樹脂固化物と、該包含樹脂固化物を被覆する被覆樹脂から形成される被覆樹脂層と、を備えることを特徴とする放射性廃棄物固化体。
【請求項7】
前記放射性廃棄物が酸性の廃水溶液であり、前記処理対象物が該廃水溶液の中和水溶液から析出された塩であることを特徴とする請求項6に記載の放射性廃棄物固化体。
【請求項8】
前記廃水溶液がSr(ストロンチウム)分析で使用した塩酸水溶液であることを特徴とする請求項7に記載の放射性廃棄物固化体。
【請求項9】
前記包含樹脂がパラフィンであることを特徴とする請求項6に記載の放射性廃棄物固化体。
【請求項10】
前記被覆樹脂がエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項6に記載の放射性廃棄物固化体。
【請求項11】
請求項1に記載の放射性廃棄物の固化処理方法で形成された放射性廃棄物固化体、又は、請求項6に記載の放射性廃棄物固化体、の埋設方法であって、
金属容器に、前記放射性廃棄物固化体を搬入し、結合材を注入して封入する、封入工程と、
該放射性廃棄物固化体が封入された該金属容器を地中に埋設する、埋設工程と、
を有することを特徴とする放射性廃棄物固化体の埋設方法。
【請求項12】
前記結合材がポルトランドセメント(JIS R 5210-2019)を含有することを特徴とする請求項11に記載の放射性廃棄物固化体の埋設方法。
【請求項13】
前記埋設工程がピット処分(核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物の第二種廃棄物埋設の事業に関する規則に規定されるピット処分)であることを特徴とする請求項11に記載の放射性廃棄物固化体の埋設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、原子力施設などから発生する放射性廃棄物の固化処理方法、固化処理された放射性廃棄物固化体、及び、放射性廃棄物固化体の埋設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、放射性廃棄物の固化処理方法として、放射性廃棄物をセメントなどの水硬性材料とともにドラム缶などの容器に充填し、固化させる固化処理方法が知られている(例えば、特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-064334号公報
【特許文献2】特開2020-187030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の放射性廃棄物の固化処理方法は、放射性廃棄物を直接、セメントなどの水硬性材料によって固化させるため、放射性廃棄物との反応や中性化などによってセメント硬化体(モルタル)が腐食した際に、放射性廃棄物が流出するおそれがあるという課題があった。
【0005】
本明細書の技術が解決しようとする課題は、上述の点に鑑みてなされたものであり、放射性廃棄物の流出を抑制することができる放射性廃棄物の固化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書の実施形態に係る放射性廃棄物の固化処理方法は、
溶融させた包含樹脂と、該包含樹脂に包含させる放射性廃棄物の処理対象物と、を混合し、包含樹脂固化物を形成する包含樹脂固化物形成工程と、
該包含樹脂固化物に、該包含樹脂固化物を被覆する被覆樹脂を用いて被覆樹脂層を形成させ、該包含樹脂固化物と該被覆樹脂層からなる放射性廃棄物固化体を形成する放射性廃棄物固化体形成工程と、
を有することを特徴とする。
【0007】
本明細書の実施形態に係る放射性廃棄物の固化処理方法によれば、放射性廃棄物の処理対象物は、包含樹脂と混合されて包含樹脂固化物が形成され、包含樹脂に固定される。包含樹脂固化物は、被覆樹脂に被覆され、被覆樹脂層が形成される。放射性廃棄物の処理対象物は、包含樹脂に固定され、さらに、被覆樹脂に被覆されるため、放射性廃棄物固化体からの流出を抑制されたものとすることができる。
【0008】
ここで、上記放射性廃棄物の固化処理方法において、前記放射性廃棄物が酸性の廃水溶液であり、
前記包含樹脂固化物形成工程の前に、
該廃水溶液を中和する中和工程と、
中和された該廃水溶液を加熱して、前記処理対象物としての塩を析出する塩析工程と、
を有するものとすることができる。
【0009】
これによれば、放射性廃棄物の酸性の廃水溶液について、処理対象物としての量を減らすことができる。
【0010】
また、上記放射性廃棄物の固化処理方法において、前記廃水溶液がSr(ストロンチウム)分析で使用した塩酸水溶液とすることができる。
【0011】
これによれば、Sr分析で使用した塩酸水溶液を好適に処理することができる。
【0012】
また、上記放射性廃棄物の固化処理方法において、前記包含樹脂がパラフィンであるとすることができる。
【0013】
これによれば、包含樹脂としてのパラフィンを容易に溶融させることができる。
【0014】
また、上記放射性廃棄物の固化処理方法において、前記被覆樹脂がエポキシ樹脂であるとすることができる。
【0015】
これによれば、エポキシ樹脂が硬化特性に優れるため、包含樹脂固化物を適切に被覆することができる。
【0016】
ここで、本明細書の実施形態に係る放射性廃棄物固化体は、放射性廃棄物の処理対象物と該処理対象物を包含する包含樹脂とが混合された包含樹脂固化物と、該包含樹脂固化物を被覆する被覆樹脂から形成される被覆樹脂層と、を備えることを特徴とする。
【0017】
本明細書の実施形態に係る放射性廃棄物固化体によれば、放射性廃棄物の処理対象物は、包含樹脂に固定され、さらに、被覆樹脂に被覆されるため、放射性廃棄物固化体からの流出を抑制することができる。
【0018】
また、上記放射性廃棄物固化体において、前記放射性廃棄物が酸性の廃水溶液であり、前記処理対象物が該廃水溶液の中和水溶液から析出された塩であるものとすることができる。
【0019】
これによれば、放射性廃棄物の酸性の廃水溶液について、処理対象物としての量を減らすことができる。
【0020】
また、上記放射性廃棄物固化体において、前記廃水溶液がSr(ストロンチウム)分析で使用した塩酸水溶液であるとすることができる。
【0021】
これによれば、Sr分析で使用した塩酸水溶液から析出された塩を適切に固化することができる。
【0022】
また、上記放射性廃棄物固化体において、前記包含樹脂がパラフィンであるとすることができる。
【0023】
これによれば、包含樹脂としてのパラフィンが疎水性であるため、処理対象物の水分への流出を抑制することができる。
【0024】
また、上記放射性廃棄物固化体において、前記被覆樹脂がエポキシ樹脂であるとすることができる。
【0025】
これによれば、エポキシ樹脂が高い強度を有しているため、放射性廃棄物固化体を耐衝撃性に優れるものとすることができる。
【0026】
ここで、本明細書の実施形態に係る放射性廃棄物の埋設方法は、上記の放射性廃棄物の固化処理方法で形成された放射性廃棄物固化体、又は、上記の放射性廃棄物固化体、の埋設方法であって、
金属容器に、前記放射性廃棄物固化体を搬入し、結合材を注入して封入する、封入工程と、
該放射性廃棄物固化体が封入された該金属容器を地中に埋設する、埋設工程と、
を有することを特徴とする。
【0027】
これによれば、放射性廃棄物固化体から、放射性廃棄物の流出を抑制して埋設することができる。
【0028】
また、上記放射性廃棄物固化体の埋設方法において、前記結合材がポルトランドセメント(JIS R 5210-2019)を含有するものとすることができる。
【0029】
これによれば、金属容器の腐食を抑制することができる。
【0030】
また、上記放射性廃棄物固化体の埋設方法において、前記埋設工程がピット処分(核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物の第二種廃棄物埋設の事業に関する規則に規定されるピット処分)であるものとすることができる。
【0031】
これによれば、放射性廃棄物を適切に処分することができる。
【発明の効果】
【0032】
本明細書の放射性廃棄物の固化処理方法によれば、放射性廃棄物の処理対象物は、包含樹脂に固定され、被覆樹脂に被覆されるため、放射性廃棄物固化体からの流出を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】実施形態の放射性廃棄物の固化処理方法の包含樹脂固化物の形成工程のフロー図である。
図2】同固化処理方法の放射性廃棄物固化体の形成工程のフロー図である。
図3】(A)は放射性廃棄物固化体の斜視図、(B)は図3(A)のIIIB-IIIB線位置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本明細書の実施形態に係る放射性廃棄物の固化処理方法、及び、放射性廃棄物固化体について説明する。なお、本発明の範囲は、実施形態で開示される範囲に限定されるものではない。図3に示すように、実施形態に係る放射性廃棄物固化体3は、放射性廃棄物の処理対象物と処理対象物を包含する包含樹脂とが混合された包含樹脂固化物1と、包含樹脂固化物1を被覆する被覆樹脂から形成される被覆樹脂層2と、を備える。
【0035】
実施形態の放射性廃棄物とは、原子力施設などから発生する放射性廃棄物である。別の実施形態として低レベル放射性廃棄物とすることができ、さらに別の実施形態として放射性レベルの比較的低い廃棄物としての廃液とすることができる。廃液(廃水溶液)として、放射性廃液、例えば、Sr(ストロンチウム)分析で使用した高濃度塩酸水溶液がある。
【0036】
放射性廃棄物の処理対象物とは、放射性廃棄物のうち、実際に包含樹脂に包含させて固化処理するものであり、例えば、固体の放射性廃棄物そのもの、又は、液体の放射性廃棄物(例えば、廃水溶液)から水分を揮発させた不揮発分、若しくは、塩がある。
【0037】
実施形態の包含樹脂とは、放射性廃棄物の処理対象物を包含する樹脂である。包含樹脂として、パラフィン(脂肪族飽和炭化水素)、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレンプロピレン共重合樹脂、ポリアミド、ポリスチレン、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、アクリルアミド樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン共重合体)、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などを使用することができる。別の実施形態として包含樹脂は、パラフィンを使用することができる。パラフィンは、放射能遮蔽性に優れ、かつ、疎水性であるため、処理対象物の水分への流出を抑制し、後述する金属容器に対して、放射性廃棄物の処理対象物を無害化することができるためである。
【0038】
包含樹脂の滴点は、80~150℃とすることができる。好適に放射性廃棄物の処理対象物を包含することができるためである。包含樹脂の滴点が80℃未満だと、後に述べるコンクリート(セメント)での封入の際に樹脂が軟化するおそれがある。一方、150℃を超えると樹脂を溶融させる際にエネルギーを要し熱効率が劣るおそれがある。別の実施形態として、包含樹脂の滴点は、90~130℃とすることができ、さらに別の実施形態として、包含樹脂の滴点は、100~120℃とすることができる。
【0039】
実施形態の処理対象物と包含樹脂との混合比率は、包含樹脂100質量部に対して処理対象物が200~400質量部とすることができる。処理対象物を好適に包含させることができるためである。包含樹脂100質量部に対して処理対象物が200未満である場合には、包含させる処理対象物が少なく、不経済となるおそれがある。一方、包含樹脂100質量部に対して処理対象物が400質量部を超えると、包含樹脂固化物1の表面に処理対象物が析出するおそれがある。別の実施形態として、処理対象物と包含樹脂との混合比率は、包含樹脂100質量部に対して処理対象物が250~360質量部とすることができ、さらに別の実施形態として、包含樹脂100質量部に対して処理対象物が300~340質量部とすることができる。
【0040】
実施形態の被覆樹脂とは、放射性廃棄物の処理対象物と包含樹脂とが固化した包含樹脂固化物1を被覆する樹脂である。被覆樹脂として、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、アクリルアミド樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン共重合体)、塩化ビニル樹脂、パラフィン(脂肪族飽和炭化水素)、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレンプロピレン共重合樹脂、ポリアミド、ポリスチレンなどを使用することができる。別の実施形態として、被覆樹脂は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂などの反応硬化型樹脂を使用することができる。反応硬化型樹脂は、強度を有しているため、包含樹脂固化物1を適切に保護することができるためである。さらに別の実施形態として、被覆樹脂は、エポキシ樹脂を使用することができる。エポキシ樹脂は、ポットライフ(可使時間)が10分程度あり、硬化特性に優れるためである。
【0041】
被覆樹脂から形成される被覆樹脂層2の厚みは、0.5~2.0cmとすることができる。好適に包含樹脂固化物1を被覆することができるためである。被覆樹脂層2の厚みが0.5cm未満である場合には、被覆樹脂層2の強度が不足して、放射性廃棄物固化体3が衝撃を受けた際に、被覆樹脂層2に割れが生じるおそれがある。一方、被覆樹脂層2の厚みが2.0cmを超えると、過剰な厚みであり、不経済となるおそれがある。別の実施形態として、被覆樹脂から形成される被覆樹脂層2の厚みは、0.7~1.5cmとすることができ、さらに別の実施形態として、0.8~1.2cmとすることができる。なお、実施例で示される包含樹脂固化物1が390gの場合には、使用する被覆樹脂(主剤と硬化剤の合計量)は、130~600gとすることができる。別の実施形態として、使用する被覆樹脂は、180~400gとすることができ、さらに別の実施形態として、200~330gとすることができる。
【0042】
次に、実施形態の放射性廃棄物固化体の埋設方法について説明する。実施形態の放射性廃棄物固化体の埋設方法では、金属容器にドラム缶(200Lオープンヘッドドラム)、結合材にモルタルスラリ(ポルトランドセメント(JIS R 5210-2019)、砂及び水の混合物)であるものを例に説明する。
【0043】
実施形態の放射性廃棄物固化体の埋設方法は、ドラム缶に、放射性廃棄物固化体3を搬入しモルタルスラリを注入して封入する封入工程と、放射性廃棄物固化体3が封入されたドラム缶を地中にピット処分(核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物の第二種廃棄物埋設の事業に関する規則)によって埋設する埋設工程と、から構成される。
【0044】
封入工程では、ドラム缶に、放射性廃棄物固化体3を搬入して敷き詰め、放射性廃棄物固化体3の隙間に、モルタルスラリを注入して封入した。このとき、モルタルスラリのポルトランドセメントの水和熱により、ドラム缶内が80℃程度まで上昇することが想定されるが、パラフィンの滴点が80℃以上であれば、パラフィンが溶融するおそれは少ない。
【0045】
ピット処分によって埋設する埋設工程では、ドラム缶を、核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物の第二種廃棄物埋設の事業に関する規則に従い、地中に埋設させた。このとき、結合材がポルトランドセメントを主体とするモルタルスラリであるため、長期的に、ドラム缶が腐食されるのを抑制することができる。
【実施例0046】
実施例の放射性廃棄物固化体3は、以下のように作成した。実施例の放射性廃棄物の固化処理方法(放射性廃棄物固化体3の作成方法)では、放射性廃棄物がSr(ストロンチウム)分析で使用した塩酸水溶液(濃度約18%)、包含樹脂がパラフィン(滴点約110℃)、被覆樹脂はエポキシ樹脂、を使用した。
【0047】
実施例の放射性廃棄物固化体3の作成は、1.塩酸水溶液を中和する中和工程、2.中和水溶液から塩を析出する塩析工程、3.包含樹脂と塩とを混合して包含樹脂固化物を形成する包含樹脂固化物形成工程、4.包含樹脂固化物に被覆樹脂を被覆させて放射性廃棄物固化体を形成する放射性廃棄物固化体形成工程、を経て作成した。
【0048】
1.中和工程では、塩酸水溶液にアルカリ溶液(水酸化ナトリウム水溶液)を滴下して、pH6以上となるまで中和した。Sr(ストロンチウム)分析で使用した塩酸水溶液は、2011年度に追加された原子力学会の分析標準(イオン交換法)で排出されるものであり、全国の原子力設備などから発生するものである。
【0049】
2.塩析工程は、中和工程で中和された塩酸水溶液を加熱して、水分を揮発させて、塩を析出させた。
【0050】
3.包含樹脂固化物形成工程では、図1に示す手順で、パラフィンを加熱容器中で加熱し、溶融させ、溶融させたパラフィンに、塩析工程で得られた塩を混合させ、塩が混合されたパラフィンをシリコン製容器に流し込み、固化させることによって、包含樹脂固化物1を形成した。パラフィンには、LICOLUB H4(クラリアントジャパン株式会社製)を使用した。混合量は、パラフィン90gに塩を300gとした。シリコン製容器に流し込んだパラフィンと塩の混合物(包含樹脂固化物1)は、固化するまでに2~3時間要し、固化後に、シリコン製容器から取り出し、表面張力によってシリコン製容器の縁に固化した余分なパラフィンをそぎ落とした。パラフィンに塩は溶けないため、塩は沈殿し、縁に固化したパラ粉には塩は含まれず、縁に固化した余分なパラフィンをそぎ落とすことにより、次の工程で使用する被覆樹脂の使用量を削減することができるためである。
【0051】
4.放射性廃棄物固化体形成工程では、図2に示す手順で、包含樹脂固化物1に被覆樹脂を被覆させて、放射性廃棄物固化体3を形成した。放射性廃棄物固化体形成工程では、包含樹脂固化物形成工程で使用したシリコン製容器よりひと回り大きいポリプロピレン製容器(PP容器)を使用し、包含樹脂固化物1を被覆する被覆樹脂は、底面、前後左右の側面及び天面の順に分けて被覆させた。被覆樹脂は、2液反応硬化型のエポキシ樹脂(主剤(EPOXY RESIN XNR7425)及び硬化剤(HARDNER HY956)(ともにナガセケムテックス株式会社製))を使用し、包含樹脂固化物1の390gに対して、260g(主剤及び硬化剤の合計量)使用した。主剤:硬化剤の混合比率は、5:1である。被覆樹脂の硬化条件は、被覆樹脂の硬化条件に従うが、実施形態では、後述する耐熱試験の結果より、PP容器に被覆樹脂注入後冷水で15時間以上冷却し、その後加熱養生(40℃以上・5時間以上)とすることができる。
【0052】
このようにして作成した放射性廃棄物固化体3について、塩溶出試験、圧縮強度試験及び耐熱試験を行ない、その評価を行なった。
【0053】
塩溶出試験
塩溶出試験は、上記の通り作成された放射性廃棄物固化体3と、被覆樹脂が被覆されていない放射性廃棄物固化体3(つまり、包含樹脂固化物1)について行った。
【0054】
放射性廃棄物固化体3の塩溶出試験は、放射性廃棄物固化体3を1Lの脱塩水中に沈め、100時間の塩溶出試験を行った。試験液はイオンクロマトグラフで塩化物イオンとして定量した。試験結果を表1に記載する。試験の結果、0.1~0.4mg/Lの塩化物イオンが検出されたものの、この塩分は、樹脂成型時の剥離剤や、エポキシ樹脂に含まれている成分が由来しているものと推察する。放射性廃棄物として処分するドラム缶内面は、元来、海風による塩分の影響で数mg/m2の塩化物が含まれているため、本試験結果の塩分は問題ない数値と言える。この結果、パラフィンの疎水性効果と樹脂による保護によって、内容物の塩分は、完全に埋包され、塩を無害化出来ている結果を得られた。
【0055】
包含樹脂固化物1の塩溶出試験は、包含樹脂固化物1の3体を2.5Lの脱塩水中に沈め、100時間の塩溶出試験を行った。試験は前後重量で評価した。試験結果を表2に記載する。試験の結果、塩溶出率は3.3~4.0%となった。試験後のパラフィン固化物は全て原型を留めており、大部分の塩を保持していることから、パラフィンの疎水性が有効に働いている結果が得られた。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
圧縮強度試験
圧縮強度試験は、上記の通り作成された放射性廃棄物固化体3について行った。結果を表3に記載する。
【0058】
【表3】
圧縮強度試験では、92.4~311.0N/cm2の結果が得られた。仮にドラム缶底部に放射性廃棄物固化体3を置いた場合、モルタルスラリの重量から受ける水頭圧は1.8N/cm2であるため、十分な強度を有していると言える。
【0059】
耐熱試験
耐熱試験は、上記の通り作成された放射性廃棄物固化体3を、封入工程におけるモルタルスラリのポルトランドセメントの水和熱を想定した高温試験(80℃・5時間)と、寒冷地でのピット処分を想定した低温試験(-18℃・80時間)、を行ない、変形や割れなどの異常の発生の有無を確認した。
【0060】
結果は、被覆樹脂の養生条件によって異なるものとなった。PP容器に被覆樹脂注入後冷水で15時間冷却した試験体の高温試験では、被覆樹脂層2の内部にクラックが発生していた。被覆樹脂の硬化が不十分であったためと考えられる。PP容器に被覆樹脂注入後冷水で15時間冷却し、その後加熱養生(40℃・5時間)させた試験体は、高温試験と低温試験ともに、変形や割れなどの異常の発生は確認されなかった。このため、加熱養生することにより、放射性廃棄物固化体3は、封入工程におけるポルトランドセメントの水和熱によって、異常は発生せず、寒冷地でのピット処分でも異常は発生しないことが確認された。
【符号の説明】
【0061】
1…包含樹脂固化物、2…被覆樹脂層、3…放射性廃棄物固化体。
図1
図2
図3