IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋建設株式会社の特許一覧

特開2023-36309浚渫施工管理システム及び浚渫施工管理方法
<>
  • 特開-浚渫施工管理システム及び浚渫施工管理方法 図1
  • 特開-浚渫施工管理システム及び浚渫施工管理方法 図2
  • 特開-浚渫施工管理システム及び浚渫施工管理方法 図3
  • 特開-浚渫施工管理システム及び浚渫施工管理方法 図4
  • 特開-浚渫施工管理システム及び浚渫施工管理方法 図5
  • 特開-浚渫施工管理システム及び浚渫施工管理方法 図6
  • 特開-浚渫施工管理システム及び浚渫施工管理方法 図7
  • 特開-浚渫施工管理システム及び浚渫施工管理方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036309
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】浚渫施工管理システム及び浚渫施工管理方法
(51)【国際特許分類】
   E02F 3/88 20060101AFI20230307BHJP
   E02F 3/90 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
E02F3/88 H
E02F3/90 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021143293
(22)【出願日】2021-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 克昌
(72)【発明者】
【氏名】延田 篤彦
(72)【発明者】
【氏名】草刈 成直
(57)【要約】
【課題】オペレータの技量や経験の如何に関わらず、ポンプ浚渫を安定して高精度に行うと共に、作業負担を軽減する。
【解決手段】浚渫施工管理システム10は、位置を計測する位置計測手段12と、潮位を計測する潮位計18と、姿勢を計測する複数のセンサ14と、演算及び情報の管理を行う演算管理手段24と、カッターの深度及び凹路幅方向の位置を調整する制御手段28とを含み、演算管理手段24は、手動浚渫作業時の操作に係る操作ログを記録する学習モードと、操作ログに基づいて制御手段28へ送信する制御データを算出する自動制御モードとに切り替え可能に構成されている。これにより、熟練オペレータの操作を再現しながら浚渫することができるため、オペレータの技量や経験の如何に関わらず、ポンプ浚渫を安定して高精度に行うことが可能となり、また、作業時の負担を軽減することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の側端が法面で形成される凹路を水底に構築するために、上下方向に揺動可能に船首に取り付けられたラダーを、船尾に設けられたスパッドを中心として船体ごと前記凹路の幅方向にスイングしながら、前記ラダーの先端に設けられたカッターにより水底の土砂を掘削し、掘削した土砂をポンプにより吸い込んで圧送するポンプ浚渫船の浚渫施工管理システムであって、
前記ポンプ浚渫船の位置を計測する位置計測手段と、
施工範囲近傍の潮位を計測する潮位計と、
前記ポンプ浚渫船の姿勢を計測する複数のセンサと、
前記位置計測手段と前記潮位計と前記複数のセンサとの計測結果に基づいて、前記カッターの位置及び深度を算出することを含む、当該システムの運用に必要な演算及び情報の管理を行う演算管理手段と、
該演算管理手段から受信する制御データに基づき、前記ラダーを揺動させるためのラダーウィンチ及び前記ラダーをスイングさせるためのスイングウィンチを制御して、前記カッターの深度及び前記幅方向の位置を調整する制御手段と、を含み、
前記演算管理手段は、前記ラダーウィンチ及び前記スイングウィンチが手動で操作された手動浚渫作業時に、前記ラダーウィンチ及び前記スイングウィンチの操作に係る操作ログを記録する学習モードと、前記手動浚渫作業時の前記カッターの動きを再現しながら、設計浚渫深度に従って浚渫されるように、前記操作ログに基づいて前記制御データを算出する自動制御モードと、に切り替え可能に構成されていることを特徴とする浚渫施工管理システム。
【請求項2】
前記演算管理手段は、前記凹路を前記幅方向に沿って複数のエリアへ仮想的に分割し、前記学習モードにおいて前記エリア毎に前記操作ログを記録すると共に、前記自動制御モードにおいて前記エリア毎に前記制御データを算出することを特徴とする請求項1記載の浚渫施工管理システム。
【請求項3】
前記演算管理手段は、少なくとも、前記凹路の法面の法肩位置、及び前記凹路の法面の法尻位置を、前記複数のエリアの分割位置に利用することを特徴とする請求項2記載の浚渫施工管理システム。
【請求項4】
前記演算管理手段は、前記操作ログとして、前記ラダーウィンチの上昇指令、前記ラダーウィンチの下降指令、前記ラダーウィンチの速度設定、スイング方向、スイング速度設定、前記スイングウィンチの張力設定、及び前記スイングウィンチの回転速度のうち、少なくとも1つを記録することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の浚渫施工管理システム。
【請求項5】
前記演算管理手段は、前記学習モード時と前記自動制御モード時との浚渫土砂の土質の違い、前記学習モード時と前記自動制御モード時との浚渫土厚の違い、前記学習モード時と前記自動制御モード時との前記スイングウィンチに接続されたスイングワイヤの前記ポンプ浚渫船に対する打ち込み位置の違い、及び前記自動制御モード時の波浪及び/又は風の影響のうち、少なくとも1つを加味して前記制御データを算出することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の浚渫施工管理システム。
【請求項6】
前記演算管理手段は、前記制御データを送信してから該制御データが前記カッターの深度及び位置に反映されるまでのタイムラグを加味したタイミングで、前記制御データを前記制御手段へ送信することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の浚渫施工管理システム。
【請求項7】
少なくとも一方の側端が法面で形成される凹路を水底に構築するために、上下方向に揺動可能に船首に取り付けられたラダーを、船尾に設けられたスパッドを中心として船体ごと前記凹路の幅方向にスイングしながら、前記ラダーの先端に設けられたカッターにより水底の土砂を掘削し、掘削した土砂をポンプにより吸い込んで圧送するポンプ浚渫船の浚渫施工管理方法であって、
前記ポンプ浚渫船の位置と、施工範囲近傍の潮位と、前記ポンプ浚渫船の姿勢とを計測すること、
該計測結果に基づいて、前記カッターの位置及び深度を算出すること、
制御データに基づき、前記ラダーを揺動させるためのラダーウィンチ及び前記ラダーをスイングさせるためのスイングウィンチを制御して、前記カッターの深度及び前記幅方向の位置を調整すること、
前記凹路を前記幅方向に沿って複数のエリアへ仮想的に分割すること、
前記ラダーウィンチ及び前記スイングウィンチを手動で操作した手動浚渫作業時に、前記ラダーウィンチ及び前記スイングウィンチの操作に係る操作ログを前記エリア毎に記録すること、
前記手動浚渫作業時の前記カッターの動きを再現しながら、設計浚渫深度に従って浚渫するように、前記操作ログに基づいて前記エリア毎に前記制御データを算出すること、を含むことを特徴とする浚渫施工管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ浚渫船の浚渫施工管理システム及び浚渫施工管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポンプ浚渫船を用いたポンプ浚渫工では、船首に取り付けられたラダーを船体ごとスイングしながら、ラダー先端に設けられたカッターにより水底を掘削して浚渫するため、スイング管理とラダー深度管理とを同時に行う必要がある。スイング管理では、浚渫土厚に合わせてスイング速度をコントロールし、ラダー深度管理では、潮位に合わせてラダー深度をコントロールする。特に法面を施工する際には、横移動するスイング速度と縦移動するラダーの上下動の速度とを細かく調整し、設計ラインに合わせて施工を行う。従来、このような双方のコントロールは、オペレータが手動操作で行っていた。そこで、本発明者らは、主にラダー深度を自動で制御するシステムを開発した(引用文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-056250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、スイング速度やラダー深度のコントロールは、オペレータが複数の計器類やシステム表示を確認しながら、設計ラインに合わせて繊細な操作を行うため、集中力が必要であり、作業時の負担が大きい。更に、オペレータの技量や経験に応じて、施工精度に差が生じる虞がある。上述した本発明者らが開発したシステムでは、ラダー深度を自動で制御するものの、改善の余地がある。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、オペレータの技量や経験の如何に関わらず、ポンプ浚渫を安定して高精度に行うと共に、作業負担を軽減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0006】
(1)少なくとも一方の側端が法面で形成される凹路を水底に構築するために、上下方向に揺動可能に船首に取り付けられたラダーを、船尾に設けられたスパッドを中心として船体ごと前記凹路の幅方向にスイングしながら、前記ラダーの先端に設けられたカッターにより水底の土砂を掘削し、掘削した土砂をポンプにより吸い込んで圧送するポンプ浚渫船の浚渫施工管理システムであって、前記ポンプ浚渫船の位置を計測する位置計測手段と、施工範囲近傍の潮位を計測する潮位計と、前記ポンプ浚渫船の姿勢を計測する複数のセンサと、前記位置計測手段と前記潮位計と前記複数のセンサとの計測結果に基づいて、前記カッターの位置及び深度を算出することを含む、当該システムの運用に必要な演算及び情報の管理を行う演算管理手段と、該演算管理手段から受信する制御データに基づき、前記ラダーを揺動させるためのラダーウィンチ及び前記ラダーをスイングさせるためのスイングウィンチを制御して、前記カッターの深度及び前記幅方向の位置を調整する制御手段と、を含み、前記演算管理手段は、前記ラダーウィンチ及び前記スイングウィンチが手動で操作された手動浚渫作業時に、前記ラダーウィンチ及び前記スイングウィンチの操作に係る操作ログを記録する学習モードと、前記手動浚渫作業時の前記カッターの動きを再現しながら、設計浚渫深度に従って浚渫されるように、前記操作ログに基づいて前記制御データを算出する自動制御モードと、に切り替え可能に構成されている浚渫施工管理システム(請求項1)。
【0007】
本項に記載の浚渫施工管理システムは、ポンプ浚渫船によって、少なくとも一方の側端が法面で形成される凹路を水底に構築する浚渫施工を管理するものである。管理対象とする浚渫施工では、ポンプ浚渫船の船首に上下方向に揺動可能に取り付けられたラダーを、船尾に設けられたスパッドを中心として船体と共に、水底に構築する凹路の幅方向にスイングしながら、ラダーの先端に設けられたカッターにより水底の土砂を掘削し、掘削した土砂をポンプ浚渫船に搭載されたポンプにより吸い込んで圧送することが行われる。そして、当該システムの構成要素として、位置計測手段、潮位計、複数のセンサ、演算管理手段、及び制御手段を含んでいる。
【0008】
位置計測手段はポンプ浚渫船の位置(平面位置)を計測するもの、潮位計は施工範囲近傍の潮位を計測するもの、複数のセンサはポンプ浚渫船の姿勢を計測するものであり、これらの計測が施工中に継続的に行われることで、各計測結果に常に最新の状況が反映される。演算管理手段は、当該システムの運用に必要な演算及び情報の管理を行うものであり、演算の1つとして、位置計測手段と潮位計と複数のセンサとの計測結果に基づき、カッターの位置(平面位置)及び深度の算出を実行する。このとき、カッターの位置は、位置計測手段により計測されるポンプ浚渫船の位置に、演算管理手段に予め設定されるポンプ浚渫船の各部位(船体、ラダー等)の大きさ、複数のセンサにより計測されるポンプ浚渫船の姿勢等が加味されて算出される。また、カッターの深度は、潮位計により計測される施工範囲近傍の潮位、ポンプ浚渫船の姿勢、ポンプ浚渫船のラダーの大きさ等から算出される。このようなカッターの位置及び深度の算出が、施工中に継続的に行われることで、カッターの現在の位置及び深度がリアルタイムに把握されるものである。
【0009】
制御手段は、ラダーを上下方向に揺動させるようにポンプ浚渫船に搭載されたラダーウィンチを制御することで、ラダーの傾斜角度(揺動角度)を変化させ、ラダー先端に設けられたカッターの深度を調整する。更に、制御手段は、ラダーの先端近傍から凹路の幅方向の両側へ張設された2本スイングワイヤを、巻き取り及び繰り出しするようにポンプ浚渫船に搭載されたスイングウィンチを制御することで、スパッドを中心として船体をラダーと共にスイングさせ、カッターの凹路幅方向の位置を調整する。このとき、制御手段は、演算管理手段から受信する制御データに基づいて、ラダーウィンチ及びスイングウィンチの双方を制御する。
【0010】
すなわち、演算管理手段は、制御手段がラダーウィンチ及びスイングウィンチの制御のために使用する制御データを算出して送信する。そのために、演算管理手段は、学習モードと自動制御モードとに切り替え可能に構成されている。学習モードにおいて、演算管理手段は、深度調整に係るラダーウィンチとスイング調整に係るスイングウィンチとが、オペレータにより手動で操作された手動浚渫作業時に、ラダーウィンチ及びスイングウィンチの操作に係る操作ログを記録する。このため、通常は、経験が豊富で優れた技量を有する熟練のオペレータが、上記のように手動で操作したときの操作ログが記録される。また、自動制御モードにおいて、演算管理手段は、予め設定された設計浚渫深度に従って浚渫されるように、学習モードで記録した操作ログに基づいて、制御手段へ送信する制御データを算出する。
【0011】
すなわち、演算管理手段は、記録した操作ログから、上記のような手動浚渫作業時のカッターの動きが再現されるような制御データを算出する。しかも、演算管理手段は、上述したように算出するカッターの位置及び深度を確認しながら、設計浚渫深度通りに浚渫されるように、制御データに調整を加えるものである。これにより、浚渫施工時には、熟練のオペレータが操作したカッターの動きが再現されつつ、設計浚渫深度通りに浚渫されるものとなるため、当該システムを利用するオペレータの技量や経験の如何に関わらず、ポンプ浚渫が安定して高精度に行われるものとなる。更に、オペレータは、スイング速度やラダー深度の操作といった集中力を要する繊細な操作から解放されるため、作業時の負担が大幅に軽減されるものである。
【0012】
(2)上記(1)項において、前記演算管理手段は、前記凹路を前記幅方向に沿って複数のエリアへ仮想的に分割し、前記学習モードにおいて前記エリア毎に前記操作ログを記録すると共に、前記自動制御モードにおいて前記エリア毎に前記制御データを算出する浚渫施工管理システム(請求項2)。
本項に記載の浚渫施工管理システムは、演算管理手段が、水底に構築される凹路を、例えば形状が変化する位置などに基づいて、凹路の幅方向に沿って複数のエリアへ仮想的に分割する。そして、演算管理手段は、学習モードにおいて操作ログを記録する際に、分割したエリア毎に操作ログを記録し、自動制御モードにおいて制御データを算出する際に、分割したエリア毎に制御データを算出する。これにより、各エリアに特有の形状などの特徴が反映されるように記録及び算出されるため、施工時のポンプ浚渫の精度が向上されるものとなる。
【0013】
(3)上記(2)項において、前記演算管理手段は、少なくとも、前記凹路の法面の法肩位置、及び前記凹路の法面の法尻位置を、前記複数のエリアの分割位置に利用する浚渫施工管理システム(請求項3)。
本項に記載の浚渫施工管理システムは、演算管理手段が、少なくとも一方の側端に法面を有する凹路を複数のエリアに分割する際の、分割位置に利用する位置を規定するものである。具体的に、演算管理手段は、少なくとも、凹路の法面の法肩位置と、凹路の法面の法尻位置とを、複数のエリアの分割位置に利用する。すなわち、凹路の両側端に法面を有する場合は、凹路の一側端の法面の法肩位置、凹路の一側端の法面の法尻位置、凹路の他側端の法面の法尻位置、及び凹路の他側端の法面の法肩位置を、複数のエリアの分割位置に利用する。また、凹路の一方の側端に法面を有する場合は、その法面の法肩位置と法尻位置とを、複数のエリアの分割位置に利用する。これにより、幅方向についての形状が大きく変化する位置において、凹路が複数のエリアへと分割されることになるため、施工時に各エリアの形状が精度よく再現されるものとなる。
【0014】
(4)上記(1)から(3)項において、前記演算管理手段は、前記操作ログとして、前記ラダーウィンチの上昇指令、前記ラダーウィンチの下降指令、前記ラダーウィンチの速度設定、スイング方向、スイング速度設定、前記スイングウィンチの張力設定、及び前記スイングウィンチの回転速度のうち、少なくとも1つを記録する浚渫施工管理システム(請求項4)。
本項に記載の浚渫施工管理システムは、演算管理手段が学習モードで記録する操作ログとして、以下のうちの少なくとも1つを記録するものである。すなわち、ラダーウィンチの上昇指令、ラダーウィンチの下降指令、ラダーウィンチの速度設定、スイング方向、スイング速度設定、スイングウィンチの張力設定、及びスイングウィンチの回転速度である。このような様々な操作の要素が記録されることで、自動制御モード時により細かい動きが再現されるものとなるため、施工精度がより向上されるものとなる。
【0015】
(5)上記(1)から(4)項において、前記演算管理手段は、前記学習モード時と前記自動制御モード時との浚渫土砂の土質の違い、前記学習モード時と前記自動制御モード時との浚渫土厚の違い、前記学習モード時と前記自動制御モード時との前記スイングウィンチに接続されたスイングワイヤの前記ポンプ浚渫船に対する打ち込み位置の違い、及び前記自動制御モード時の波浪及び/又は風の影響のうち、少なくとも1つを加味して前記制御データを算出する浚渫施工管理システム(請求項5)。
本項に記載の浚渫施工管理システムは、演算管理手段が学習モード時に記録した操作ログに基づいて自動制御モードで浚渫施工するにあたり、記録時と施工時との主に外的要因の条件の相違によって生じる、カッターの位置や深度のズレなどを補正するものである。
【0016】
すなわち、演算管理手段は、学習モード時と自動制御モード時との浚渫土砂の土質の違い、学習モード時と自動制御モード時との浚渫土厚の違い、学習モード時と自動制御モード時とのスイングウィンチに接続されたスイングワイヤのポンプ浚渫船に対する打ち込み位置の違い、及び自動制御モード時の波浪及び/又は風の影響のうち、少なくとも1つを加味して制御データを算出する。上記のうち学習モード時の各条件は、学習モード時やその際の施工に先立つ調査時に操作ログと一緒に記録しておけばよく、自動制御モード時の各条件は、自動制御モード時やその際の施工に先立つ調査時に把握すればよい。これにより、外的要因によるカッターの位置や深度のズレなどが補正されるように、演算管理手段によって制御データが算出されるため、ポンプ浚渫の施工精度がより一層向上されることとなる。
【0017】
(6)上記(1)から(5)項において、前記演算管理手段は、前記制御データを送信してから該制御データが前記カッターの深度及び位置に反映されるまでのタイムラグを加味したタイミングで、前記制御データを前記制御手段へ送信する浚渫施工管理システム(請求項6)。
本項に記載の浚渫施工管理システムは、演算管理手段が、制御データを制御手段へ送信してから、その制御内容がカッターの深度及び位置に実際に反映されるまでのタイムラグを加味したタイミングで、制御データを制御手段へ送信するものである。これにより、主に機械の応答遅れによるタイムラグの影響が抑制されるため、これによってもポンプ浚渫の施工精度が向上されるものである。
【0018】
(7)少なくとも一方の側端が法面で形成される凹路を水底に構築するために、上下方向に揺動可能に船首に取り付けられたラダーを、船尾に設けられたスパッドを中心として船体ごと前記凹路の幅方向にスイングしながら、前記ラダーの先端に設けられたカッターにより水底の土砂を掘削し、掘削した土砂をポンプにより吸い込んで圧送するポンプ浚渫船の浚渫施工管理方法であって、前記ポンプ浚渫船の位置と、施工範囲近傍の潮位と、前記ポンプ浚渫船の姿勢とを計測すること、該計測結果に基づいて、前記カッターの位置及び深度を算出すること、制御データに基づき、前記ラダーを揺動させるためのラダーウィンチ及び前記ラダーをスイングさせるためのスイングウィンチを制御して、前記カッターの深度及び前記幅方向の位置を調整すること、前記凹路を前記幅方向に沿って複数のエリアへ仮想的に分割すること、前記ラダーウィンチ及び前記スイングウィンチを手動で操作した手動浚渫作業時に、前記ラダーウィンチ及び前記スイングウィンチの操作に係る操作ログを前記エリア毎に記録すること、前記手動浚渫作業時の前記カッターの動きを再現しながら、設計浚渫深度に従って浚渫するように、前記操作ログに基づいて前記エリア毎に前記制御データを算出すること、を含む浚渫施工管理方法(請求項7)。
本項に記載の浚渫施工管理方法は、上記(2)項の浚渫施工管理システムにより実行されることで、上記(2)項の浚渫施工管理システムと同等の作用を奏するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明は上記のような構成であるため、オペレータの技量や経験の如何に関わらず、ポンプ浚渫を安定して高精度に行うことができると共に、作業負担を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システムの構成の一例を示すブロック図である。
図2図1の浚渫施工管理システムの一部の構成要素の設置イメージ図である。
図3図1の浚渫施工管理システムを搭載するポンプ浚渫船の側面図及び平面図である。
図4図1の浚渫施工管理システムを用いて実行される、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理方法の手順の一例を示すフロー図である。
図5】凹路をその幅方向に沿って複数のエリアへ仮想的に分割した様子を示すイメージ図である。
図6図1の浚渫施工管理システムで表示する管理画面の一例を示している。
図7】操作ログと自動運転とでエリアが異なる場合の例を示す表である。
図8】自動運転時に行う補正の例を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づき説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略することとし、また、図面の全体にわたって、同一部分若しくは対応する部分は、同一の符号で示している。
図1にその構成の一例が示されている本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10は、例えば図3に示すようなポンプ浚渫船36による浚渫施工を管理するものである。ポンプ浚渫船36による浚渫施工では、例えば、港湾へと続く航路を造成するために、港湾から沖側へと延在し、幅方向の側端が法面で形成される凹路66(図5参照)を水底に構築する。
【0022】
まず、図3を参照してポンプ浚渫船36の構成を簡単に説明すると、船首にラダー42が設けられており、このラダー42は、先端側(図中右側)が上下方向に揺動するように、基端側(図中左側)が船体に軸支されている。ラダー42の先端側は、吊り下げワイヤ50及びロッド52を介してラダーシャース48から吊り下げられており、ウィンチ室41に設置されたラダーウィンチ44(図1及び図2参照)によって吊り下げワイヤ50の繰り出し及び巻き取りが行われることで、基端側を軸として、上下方向に揺動するようになっている。ラダー42の先端には、水底を掘削するためのカッター54と、掘削した土砂を吸引するための吸引口(図示省略)が設けられている。
【0023】
一方、ポンプ浚渫船36の船尾には、2本のスパッド56(56A、56B)が設けられており、それらの何れか1本が浚渫施工時に水底に打ち込まれる。また、浚渫施工時には、図3(b)に示すように、ラダー42の先端近傍から凹路66の幅方向(図中上下方向)の両側へ向けて、2本のスイングワイヤ58が張設され、各スイングワイヤ58の先端が、アンカー等によって水底に固定される。そして、各スイングワイヤ58の基端側が、ウィンチ室41に設置されたスイングウィンチ60(図1参照)によって繰り出し及び巻き取りされることで、水底に打ち込まれた何れか1本のスパッド56を中心として、船体と共にラダー42が図3(b)における上下方向にスイングされるようになっている。なお、図3に符号38で示されているのはブリッジである。
【0024】
そして、上述したような構成のポンプ浚渫船36は、浚渫施工の際、図3(a)に示すように、ラダー42が下方へと傾けられ(仮想線参照)、ラダー42の先端に設けられたカッター54により水底を掘削すると共に、掘削した土砂をラダー42先端の吸引口からポンプ(図示省略)を利用して吸い込み、図示しない排送管を介して陸側の排砂池まで圧送する。更に、水底の掘削及び土砂の吸引は、ポンプ浚渫船36の船体と共にラダー42が、形成すべき凹路66の幅方向にスイングされた状態で行われる。例えば、図3(b)の例では、2本のスパッド56A、56Bのうちスパッド56Aが打ち込まれた状態で、図中下方のスイングワイヤ58がスイングウィンチ60により巻き取られて、図中上方のスイングワイヤ58がスイングウィンチ60により繰り出されることで、スパッド56Aを中心として、船体と共にラダー42が図中下方にスイングされる。
【0025】
更に、今現在スパッド56が打ち込まれた位置での浚渫作業が終わり、ポンプ浚渫船36を前進させる場合には、2本のスパッド56A、56Bの打ち替えが行われることで、ポンプ浚渫船36が前進される。例えば、図3(b)の例では、ラダー42の先端が、水底に形成する凹路66の側端を越える位置まで、ポンプ浚渫船36が図中下方向にスイングされた状態で、スパッド56Aが抜かれると共にスパッド56Bが打ち込まれる。続いて、図中上方向へとスイングされることで、ポンプ浚渫船36は、スイングの幅方向の略中心を通る方向に沿って、僅かに前進することになる。
【0026】
次に、図1を参照して、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10の構成について説明する。なお、ポンプ浚渫船36の構成については、適宜、図3を参照のこと。
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10は、位置計測手段12、複数のセンサ14、深度計測手段16、潮位計18、演算管理手段24、表示手段26、及び制御手段28を含んでいる。位置計測手段12は、ポンプ浚渫船36の位置(平面位置)を計測するものであり、本実施形態ではGNSSが用いられ、ポンプ浚渫船36の適切な位置にGNSSのアンテナや受信器が設置される。位置計測手段12による計測は、浚渫施工中に継続的に行われ、位置計測手段12によって計測されたポンプ浚渫船36の位置情報が、演算管理手段24へと送信される。
【0027】
複数のセンサ14は、ポンプ浚渫船36の姿勢を計測するものであり、本実施形態では喫水計14Aと傾斜計14Bとを含んでいる。喫水計14Aは、ポンプ浚渫船36の喫水を計測するものであって、例えば図2で確認できるように、喫水を計測可能なポンプ浚渫船36の適切な位置に設置され、喫水計14Aには任意の喫水計を利用することができる。傾斜計14Bは、図2で確認できるように、ポンプ浚渫船36のラダー42に取り付けられ、ラダー42の傾斜角度を計測するものであって、傾斜計14Bには任意の傾斜計が利用される。これら複数のセンサ14(14A、14B)による計測は、浚渫施工中に継続的に行われ、これらによって計測されたポンプ浚渫船36の姿勢に係る情報が、演算管理手段24へと送信される。
【0028】
深度計測手段16は、ポンプ浚渫船36から現在の水底の形状(深度)を計測するものであり、本実施形態ではマルチビームソナーが用いられ、水底の形状を計測可能なポンプ浚渫船36の適切な位置に取り付けられる。深度計測手段16による計測が、浚渫施工中に継続的に行われることで、浚渫施工中に変化する施工範囲の現在の水底形状が、深度計測手段16から演算管理手段24へと送信される。潮位計18は、施工範囲近傍の潮位を計測するものであり、例えば図2で確認できるように、施工範囲近傍の、波等の影響で動揺しない固体位置20(例えば岸、突堤、人工島等)に設置される。潮位計18による計測は、浚渫施工中に継続的に行われ、潮位計18によって計測された施工範囲近傍の潮位が、送信器22を介してポンプ浚渫船36まで無線で送信され、ポンプ浚渫船36のブリッジ38に設置された演算管理手段24へと伝達される。潮位計18には、潮位を計測可能な各種の計測装置が利用される。
【0029】
演算管理手段24は、浚渫施工管理システム10の運用に必要な各種の演算及び情報の管理を行うものであり、上述したようにポンプ浚渫船36のブリッジ38に設置されている。具体的に、演算管理手段24は、位置計測手段12、複数のセンサ14(喫水計14A、傾斜計14B)、深度計測手段16、及び潮位計18の各々による計測結果を取り込み、情報として管理する。更に、演算管理手段24には、施工範囲の施工前の水底深度、施工範囲の設計浚渫深度、施工範囲のカッター管理深度、及び、ポンプ浚渫船36の各部位の大きさ等が予め設定され、これらのデータも管理する。なお、施工前の水底深度とは、施工前に計測された施工範囲の水底形状であり、設計浚渫深度とは、浚渫によって形成すべき形状(凹路形状)を示すものであり、カッター管理深度とは、設計浚渫深度通りに浚渫するために、カッター54を最終的に移動させるべき深度を示している。
【0030】
また、演算管理手段24は、上記のように管理する各種の情報に基づいて、様々な演算を実行する。例えば、演算管理手段24は、位置計測手段12により計測されるポンプ浚渫船36の現在位置、傾斜計14Bにより計測されるラダー42の傾斜角度、予め設定されるポンプ浚渫船36の各部位の大きさ等の情報に基づき、カッター54の位置(平面位置)を算出する。また、演算管理手段24は、喫水計14Aにより計測されるポンプ浚渫船36の喫水、傾斜計14Bにより計測されるラダー42の傾斜角度、潮位計18により計測される施工範囲近傍の潮位、予め設定されるポンプ浚渫船36の各部位の大きさ等の情報に基づき、カッター54の深度を算出する。
【0031】
更に、演算管理手段24は、学習モードと自動制御モードとに切り替え可能に構成されており、詳しくは後述するが、学習モードでは、ラダーウィンチ44やスイングウィンチ60が手動で操作された手動浚渫作業時に、それらの操作に係る操作ログを記録する。また、自動制御モードでは、学習モード時に記録した操作ログに基づいて、制御手段28へ送信するための制御データを算出する。加えて、演算管理手段24は、詳しくは後述するが、自動制御モードにおける制御データの算出時に、波浪などの外的要因による影響を抑制するような補正を行う。上述したような演算管理手段24による演算や情報管理は、浚渫施工中に継続的に行われ、演算結果や管理情報の一部が、表示手段26や制御手段28へ送信される。なお、演算管理手段24は、各種のコンピュータにより構成することができる。
【0032】
表示手段26は、演算管理手段24と同じくポンプ浚渫船36のブリッジ38に設置され、演算管理手段24によって演算及び管理される情報を表示するものである。例えば、表示手段26は、図6に示されるような、ブリッジ38のオペレータに対して表示される管理画面82を表示するが、この表示内容については後程詳しく説明する。表示手段26による各表示は、演算管理手段24によって表示内容が常に最新の情報に更新されながら、浚渫施工中に継続的に行われる。表示手段26には、各種の表示装置を用いることができ、例えば、演算管理手段24を構成するコンピュータのディスプレイ装置であってもよい。
【0033】
制御手段28は、演算管理手段24から取得する制御データに基づいて、ラダーウィンチ44及びスイングウィンチ60を制御することで、ラダー42の先端に設けられたカッター54の、深度と凹路66幅方向の位置とを調整するものである。具体的に、制御手段28は、演算管理手段24により算出されたカッター54の位置及び深度を確認しながら、演算管理手段24に設定されたカッター管理深度通りの深度にカッター54が位置するように、制御データに従ってラダーウィンチ44及びスイングウィンチ60を制御する。本実施形態では、ラダーウィンチ44は機関室40に設置されたラダー制御盤46を介して制御され、スイングウィンチ60は機関室40に設置されたスイング制御盤62を介して制御される。制御手段28によるラダーウィンチ44及びスイングウィンチ60の制御は、浚渫施工中に継続的に行われる。制御手段28は、各種のコンピュータや制御機構により構成され、例えばブリッジ38に設置される。
【0034】
続いて、図4に示すフロー図を参照しながら、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10を利用してポンプ浚渫を施工する際の、具体的な手順や制御の流れについて説明する。浚渫施工管理システム10やポンプ浚渫船36の構成については、適宜、図1図3を参照のこと。なお、図4に示すフロー図は、具体的な手順や制御を説明するための手順の一例を示したものである。従って、施工の手順は、図4のフロー図に限定されるものではなく、例えば、浚渫施工管理システム10の構成や状況などに応じて、図4に示したステップの一部が削除、変更、ないし適宜追加されたフローであってもよいものである。
【0035】
S10(オペレータ操作開始):上述したように、演算管理手段24は、学習モードにおいて操作ログを記録する必要があるため、ここでは、演算管理手段24が操作ログを記録する際の手順について概略的に説明する。まず、演算管理手段24による操作ログの記録のために、オペレータがラダーウィンチ44及びスイングウィンチ60の手動操作を開始する。この手動での操作の際には、実際に、水底に凹路66を構築するポンプ浚渫を行う。オペレータが具体的に行う操作は、例えば、ラダーウィンチ44に係る操作として、ラダー42の下降スイッチ操作、ラダー42の上昇スイッチ操作、ラダー42の下降又は上昇の速度調整、ラダー42の下降又は上昇の停止操作などが挙げられる。また、スイングウィンチ60に係る操作として、スイング方向(左又は右)の選択操作、スイング速度調整のノッチ操作、スイングの停止操作などが挙げられる。このような操作ログの記録のための手動浚渫作業時は、熟練のオペレータが操作を行うことが好ましい。
【0036】
S20(記録開始):オペレータによる手動操作が開始されたら、学習モードに切り替えられた演算管理手段24により、ラダーウィンチ44及びスイングウィンチ60の操作に係る操作ログの記録を開始する。例えば、演算管理手段24は、操作ログとして、ラダーウィンチ44の上昇指令、ラダーウィンチ44の下降指令、ラダーウィンチ44の速度設定、スイング方向、スイング速度設定、スイングウィンチ60による2本のスイングワイヤ58の各々の張力設定、スイングウィンチ60の回転速度設定、及びスイングウィンチ60の制御電流値などを記録する。更に、演算管理手段24は、カッター54の制御電流値、ポンプの吸入負圧、及びポンプの吐出圧などを操作ログとして記録してもよい。これらの操作ログは、例えば1秒周期で記録される。
【0037】
また、演算管理手段24は、上記のような操作ログの記録を、複数のエリアに分割された凹路66のエリア毎に行う。ここで、図5を参照すると、水底に構築される凹路66が、その幅方向を左右方向として図示されており、凹路66は、図中左側の一側端に法面68が形成され、図中右側の他側端に法面74が形成される。図5の凹路66は、その幅方向に沿ってA~Jの10個のエリアに分割されている。このため、本実施形態の演算管理手段24は、10個のエリアA~Jのエリア毎に操作ログを記録する。すなわち、操作ログを記録する際に、カッター54がどのエリアに位置しているのかを同時に記録することで、各エリアに紐付けて操作ログを記録する。
【0038】
図5では、10個のエリアA~Jの分割位置として、一側端の法面68の法肩70の位置S1、一側端の法面68の中途位置S2、一側端の法面68の法尻72の位置S3、一側端の法面68の法尻72から所定距離離れた位置S4、凹路66の幅方向中心位置S5、他側端の法面74の法尻78から所定距離離れた位置S6、他側端の法面74の法尻78の位置S7、他側端の法面74の中途位置S8、及び他側端の法面74の法肩76の位置S9が利用されている。これら9個の分割位置S1~S9のうち、法肩70の位置S1、法尻72の位置S3、法尻78の位置S7、及び法肩76の位置S9は、凹路66の幅方向で形状が大きく変わる位置である。
【0039】
法面68の中途位置S2は、図中右方向へのスイングの際は位置S3におけるエリアCからDへの切り替えのための準備位置、図中左方向へのスイングの際は位置S1におけるエリアBからAへの切り替えのための準備位置であって、法面68の任意の位置に設定される。同様に、法面74の中途位置S8は、図中右方向へのスイングの際は位置S9におけるエリアIからJへの切り替えのための準備位置、図中左方向へのスイングの際は位置S7におけるエリアHからGへの切り替えのための準備位置であって、法面74の任意の位置に設定される。また、法尻72から所定距離離れた位置S4は、主に図中左方向へのスイングの際に位置S3におけるエリアDからCへの切り替えのための準備位置であって、法尻72から任意の距離の位置に設定される。同様に、法尻78から所定距離離れた位置S6は、主に図中右方向へのスイングの際に位置S7におけるエリアGからHへの切り替えのための準備位置であって、法尻78から任意の距離の位置に設定される。凹路66の幅方向中心位置S5は、主に位置合わせの指標などとして使用される。
【0040】
更に、演算管理手段24による操作ログの記録時には、例えば図6に示すような管理画面82を表示手段26によって表示する。図示のように、管理画面82は、記録パターン指定部84、運転パターン指定部86、初動指示部88、深度表示部90、及びスイング表示部92を含んでいる。記録パターン指定部84は、1~10のボタンと記録のON/OFFボタンとを備えており、1~10のボタンは、それぞれ操作ログが記録されるパターンを示している。すなわち、本実施形態では、記録パターン1~10の10パターンの操作ログが記録可能であり、操作ログの記録時には、オペレータによって記録パターン指定部84の1~10のボタンの何れかが選択されることで、選択されたボタン番号に対応した記録パターンとして、現在操作されている操作ログが記録される。また、オペレータによって記録パターン指定部84の記録ONボタンが押下されることで、演算管理手段24が学習モードに切り替わるようになっていてもよい。なお、管理画面82のその他の表示要素については後述する。
【0041】
S30(オペレータ操作終了):上記S10で手動操作を開始したオペレータが、水底に凹路66を形成するための操作を終了する。このとき、図5に示したような10個のエリアA~J全てでの操作を行っていることが好ましく、また、左右それぞれの方向へのスイングを行っていることが好ましい。
S40(記録終了):オペレータによる手動操作が終了したら、演算管理手段24による操作ログの記録を終了する。このとき、上記S20で記録を開始した記録パターンに、図5に示したような10個のエリアA~J全てでの操作ログが記録されることが好ましい。すなわち、記録パターン1~10の各々には、10個のエリアA~Jでの一連の操作ログが記録可能になっている。
【0042】
S50(操作ログ判定):オペレータなどにより、演算管理手段24によって操作ログを十分に記録したか否かを判定する。このとき、記録パターン1~10の全てに記録されたか、施工条件が異なる様々なパターンの操作ログが記録されたか、などを考慮して判定すればよい。そして、操作ログを十分に記録したと判定した場合(YES)はS60へ移行し、操作ログを未だ十分に記録していないと判定した場合(NO)は、上記S10へ復帰して、十分に記録したと判定するまで、上記S10~S40を繰り返し実行する。
S60(モード切り替え):上記S10~S50により、十分な操作ログが記録されたため、ここからは、浚渫施工管理システム10による自動浚渫作業について説明する。まず、オペレータにより、演算管理手段24を自動制御モードへと切り替える。この自動制御モードへの切り替えは、図6の管理画面82に示した運転パターン指定部86の、後述する運転ONボタンが押下されるタイミングで実行されるようになっていてもよい。なお、自動制御モードを用いる現場は、学習モード時と同じ施工現場であってもよく、異なる施工現場であってもよい。
【0043】
S70(運転パターン選択):オペレータにより、現在の施工現場に適した運転パターンを選択する。図6に示すように、管理画面82の運転パターン指定部86には、1~10のボタンと記録のON/OFFボタンとが設けられており、1~10のボタンが記録パターン指定部84の1~10のボタンに対応している。例えば、運転パターン指定部86の1のボタン(運転パターン1)が選択されると、記録パターン1として記録された操作ログが使用され、運転パターン指定部86の7のボタン(運転パターン7)が選択されると、記録パターン7として記録された操作ログが使用される。この運転パターンの選択は、現在の施工現場と学習モード時の施工現場との様々な条件(凹路66の形状の類似性など)を考慮して、記録パターン1~10に紐付いた運転パターン1~10の中から選択すればよい。ここでは、記録パターン1に対応する運転パターン1が選択されたものとして、以降の説明を続ける。
【0044】
S80(スイング方向選択):オペレータにより、船体と共にラダー42をスイングさせる方向(凹路66の幅方向の左又は右)を選択する。スイング方向の選択は、例えば図6に示した管理画面82の初動指示部88において実行すればよい。ここでは、図5における左から右へ向かうスイング方向が選択されたものとして、以降の説明を続ける。
ここで、図6に示された管理画面82において、深度表示部90は、カッター54の現在深度、目標深度(カッター管理深度)、及びそれらの間の差を表示し、更にラダー42の移動方向を上又は下の矢印で表示するものである。また、スイング表示部92は、スイング距離及びスイング速度を表示し、更にスイング方向を左又は右の矢印で表示するものである。なお、管理画面82は、図6に示した表示の一部がないものや、図6に示されていない別の表示が追加されたものであってもよい。
【0045】
S90(操作ログから算出した制御データで運転開始):例えば、オペレータにより、管理画面82の運転パターン指定部86の運転ONボタンを押下することで、現在選択されている運転パターン1での自動浚渫作業を開始する。ここで、演算管理手段24は、記録された操作ログに基づいて、手動浚渫作業時のカッター54の動きを再現するように、図5に示したエリア毎に制御データを算出する。このため、記録パターン1として記録された操作ログのうち、まずはエリアAでの操作ログを使用して、演算管理手段24により制御データを算出する。このとき、演算管理手段24は、現在の施工現場の設計浚渫深度に従って浚渫されるように、換言すれば、カッター管理深度通り深度にカッター54が位置するように、カッター54の現在の深度や位置を確認しながら、制御データを調整する。
【0046】
また、演算管理手段24は、常に計測されるカッター54の現在位置と、予め設定される凹路66の設計位置などとを比較して、カッター54が構築中の凹路66のどのエリアに現在位置しているのかを把握する。そして、カッター54が現在位置しているエリアが切り替わったと判定したタイミングで、制御データの算出に使用している操作ログを、切り替わり前のエリアのものから切り替わり後のエリアものへと変更して、制御データを算出する。例えば、カッター54が分割位置S1に達したと判定した場合は、記録パターン1のエリアAに対応する操作ログから、記録パターン1のエリアBに対応する操作ログへと変更して、制御データの算出を続行する。このようにして算出された制御データを、演算管理手段24から制御手段28へ送信し、制御手段28により、受信した制御データに基づいて、ラダーウィンチ44及びスイングウィンチ60を制御することで、浚渫作業を進める。
【0047】
S100(エリア一致判定):演算管理手段24により、制御データの算出に現在使用している操作ログのエリアと、自動運転中のカッター54が現在位置しているエリアとが、一致しているか否かを判定する。前者のエリアは、操作ログと共に記録されているエリアから把握され、後者のエリアは、常に計測しているカッター54の位置から把握される。その結果、双方のエリアが一致していると判定した場合(YES)はS140へ移行し、双方のエリアが一致していないと判定した場合(NO)はS110へ移行する。
S110(先行判定):演算管理手段24により、制御データの算出に現在使用している操作ログのエリアが、自動運転中のカッター54が現在位置しているエリアよりも先行しているか否かを判定する。すなわち、上記S100で一致していないと判定された2つのエリアは、何れか一方が先行していると考えられるため、それを明確にするための判定を行う。
【0048】
図7には、操作ログのエリアが自動運転のエリアよりも先行している例を、スイング速度を調整するノッチの位置で示している。なお、図7の表における時間は、その数字順によって時間の流れを示すものであり、実際の時間の大きさを示すものではない。図7に示すように、時間1及び2では、操作ログのエリアと自動運転のエリアとが双方とも「C」で一致しており、自動運転のノッチ位置が操作ログのエリアCのノッチ位置と同じ「5」に設定されている。これに対し、時間3のタイミングでは、操作ログのエリアが「D」であり、自動運転のエリアが「C」と、操作ログのエリアの方が先行している。すなわち、施工中のカッター54はまだエリアCに位置しているにも関わらず、使用している操作ログのエリアが「C」から「D」へと切り替わっている。このような事象は、例えば、使用している操作ログを記録したときのエリアCの大きさが、現在の施工現場のエリアCの大きさよりも小さい場合などに発生し得る。この例のように、操作ログのエリアが自動運転のエリアよりも先行していると判定した場合(YES)はS120へ移行し、自動運転のエリアが操作ログのエリアよりも先行していると判定した場合(NO)はS130へ移行する。
【0049】
S120(先行前の操作ログから制御データを算出):演算管理手段24により、上記S110でエリアが先行していると判定された操作ログではなく、エリアが先行する前の操作ログから制御データを算出する。例えば図7に示すように、時間3では、操作ログのエリアが「C」から「D」へ切り替わっているが、自動運転のエリアは未だエリア「C」であるため、操作ログのエリアが先行する前のエリア「C」に対応する操作ログを使用して、制御データ、ここではノッチ位置を算出する。エリア「C」に対応する操作ログのノッチ位置は、時間1及び2に示されるように「5」であるため、時間3の自動運転では、ノッチ位置を時間1及び2からかわらず「5」のままとする。そして、図7の例では、時間5のタイミングで、施工中のカッター54がエリアDへ移動したため、自動運転のエリアが「C」から「D」へと切り替わり、操作ログのエリアと自動運転のエリアとが再び一致している。
【0050】
S130(施工中のエリアに対応した操作ログから制御データを算出):本ステップに至るのは、自動運転のエリアが操作ログのエリアよりも先行している場合であり、これは、上記S90に記載したように、自動制御モードの演算管理手段24による通常の処理で発生し得る事象である。すなわち、演算管理手段24は、カッター54が現在位置しているエリアが切り替わったと判定したタイミングで、使用する操作ログを、切り替わり前のエリアのものから切り替わり後のエリアものへと変更するため、その変更直後の事象である。従って、本ステップでは、切り替わった施工中のエリアに対応した操作ログから制御データを算出する通常処理を行い、上記S100へ復帰する。
【0051】
S140(操作ログから算出した制御データで運転続行):例えば図7の時間1、2、5、6のように、操作ログのエリアと自動運転のエリアとが一致しているため、その一致しているエリアに対応する操作ログから算出した制御データを使用する自動運転を、そのまま続行する。
ここで、上記S90、S120、S130、及びS140における、演算管理手段24による制御データの算出は、外的要因による影響を抑制するために、補正を行ってもよい。すなわち、操作ログを記録しているとき(学習モード時)と自動運転を行っているとき(自動制御モード時)との、浚渫土砂の土質の違い、浚渫土厚の違い、スイングワイヤ58のポンプ浚渫船36に対する打ち込み位置の違いなどを加味して、それらの影響を抑制するように制御データを算出してもよい。また、自動運転中の波浪や風の影響を加味して、制御データを算出してもよい。
【0052】
更に、演算管理手段24による制御データの算出及び制御手段28への送信は、ラダーウィンチ44やスイングウィンチ60などの機械の応答遅れを加味したタイミングで実行することが好ましい。すなわち、演算管理手段24から制御手段28へ制御データを送信してから、その制御データによる制御内容がカッター54の深度及び位置に実際に反映されるまでは、タイムラグがあるため、そのタイムラグを予め考慮したタイミングで、制御データを送信することが好ましい。図8には、浚渫施工管理システム10の試験において、上記のような補正やタイミング調整により、自動運転での誤差が改善される様子が示されており、図8(a)は改善前の状態、図8(b)は改善後の状態である。図8における上下方向が深度、左右方向が凹路66の幅方向に対応し、破線で示されているのが設計浚渫深度、実線で示されているのが自動運転での浚渫深度である。図示のように、図8(a)では左右の法面に遅れがあり、更に左の法尻が大きくズレているのに対し、図8(b)では左の法面の遅れが殆どなくなると共に、左の法尻のズレも解消され、右の法面の遅れも改善されていることが分かる。
【0053】
S150(浚渫エリア判定):演算管理手段24により、全てのエリアを浚渫したか否かを判定する。すなわち、図5に示したような10個のエリアA~Jを、上記S80で選択されたスイング方向に沿って全て浚渫したかを判定する。その結果、全て浚渫したと判定した場合(YES)は、ここでの浚渫施工管理システム10による自動浚渫作業の説明は終了となり、未だ全て浚渫していないと判定した場合(NO)は、全てのエリアを浚渫するまで、上記S100へ復帰して浚渫作業を続行する。なお、ここでは1回のスイング分の自動運転について説明したが、ポンプ浚渫船36を前進させて再度スイングさせる場合は、上記S70へ復帰して浚渫作業を続行すればよい。
【0054】
ここで、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10、及びその浚渫施工管理システム10が適用されるポンプ浚渫船36は、図1図8に示した構成に限定されるものではなく、別の構成であってもよい。例えば、位置計測手段12は、ポンプ浚渫船36の位置を計測できるものであれば、GNSS以外の計測装置であってもよく、深度計測手段16は、施工範囲の現在の水底深度を計測できるものであれば、マルチビームソナー以外の計測装置であってもよい。また、複数のセンサ14は、喫水計14A及び傾斜計14Bの構成に限定されず、ポンプ浚渫船36の姿勢を計測するものであれば、他の計測装置を含んでいてもよい。更に、演算管理手段24及び制御手段28は、それらを実際に構成するハードウェア(ソフトウェアを含む)の単位で分けたものではなく、説明の便宜のために機能的に分けたものである。従って、上述したような演算管理手段24の機能と制御手段28の機能とを、1つのハードウェアで実現してもよく、2つや3つ以上のハードウェアで実現してもよい。そして、各ハードウェアへ割り当てる具体的な機能や、ハードウェア間で通信するデータ内容などは、演算管理手段24及び制御手段28の機能を満たす範囲で、任意に設定される。
【0055】
また、表示手段26が2つ以上の構成であってもよく、同じ表示手段26において複数種類の表示画面を切り替えて表示してもよく、表示画面の種類に対応した数の表示手段26を設置し、表示手段26毎に異なる表示画面を表示してもよい。更に、表示手段26により、図6に示した管理画面82に加えて、他の画面を表示してもよい。例えば、表示手段26は、演算管理手段24により管理されている各種の深度情報、すなわち、施工前の水底深度、設計浚渫深度、カッター管理深度、及び現在の水底深度などを、深度に応じて色を変化させながら、ポンプ浚渫船36のイメージ表示など共に3次元で表示してもよい。また、図8に示したような、凹路66の断面のイメージ表示を、設計浚渫深度や現在の水底深度などで表示してもよい。更に、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10が利用されて水底に構築される凹路66は、図5のような両側端に法面68、74を有する凹路66に限定されることなく、一方の側端のみに法面を有する凹路66であってもよい。
【0056】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10は、図1図3に示すように、位置計測手段12、潮位計18、複数のセンサ14、演算管理手段24、及び制御手段28を含んでいる。位置計測手段12はポンプ浚渫船36の位置(平面位置)を計測するもの、潮位計18は施工範囲近傍の潮位を計測するもの、複数のセンサ14はポンプ浚渫船36の姿勢を計測するものであり、これらの計測が施工中に継続的に行われることで、各計測結果に常に最新の状況が反映される。
【0057】
演算管理手段24は、当該システム10の運用に必要な演算及び情報の管理を行うものであり、演算の1つとして、位置計測手段12と潮位計18と複数のセンサ14との計測結果に基づき、カッター54の位置(平面位置)及び深度の算出を実行する。このとき、カッター54の位置は、位置計測手段12により計測されるポンプ浚渫船36の位置に、演算管理手段24に予め設定されるポンプ浚渫船36の各部位(船体、ラダー42等)の大きさ、複数のセンサ14により計測されるポンプ浚渫船36の姿勢等が加味されて算出される。また、カッター54の深度は、潮位計18により計測される施工範囲近傍の潮位、ポンプ浚渫船36の姿勢、ポンプ浚渫船36のラダー42の大きさ等から算出される。このようなカッター54の位置及び深度の算出を、施工中に継続的に行うことで、カッター54の現在の位置及び深度をリアルタイムに把握することができる。
【0058】
制御手段28は、ラダー42を上下方向に揺動させるようにポンプ浚渫船36に搭載されたラダーウィンチ44を制御することで、ラダー42の傾斜角度(揺動角度)を変化させ、ラダー42先端に設けられたカッター54の深度を調整する。更に、制御手段28は、ラダー42の先端近傍から凹路66の幅方向の両側へ張設された2本スイングワイヤ58を、巻き取り及び繰り出しするようにポンプ浚渫船36に搭載されたスイングウィンチ60を制御することで、スパッド56を中心として船体をラダー42と共にスイングさせ、カッター54の凹路幅方向の位置を調整する。このとき、制御手段28は、演算管理手段24から受信する制御データに基づいて、ラダーウィンチ44及びスイングウィンチ60の双方を制御する。
【0059】
すなわち、演算管理手段24は、制御手段28がラダーウィンチ44及びスイングウィンチ60の制御のために使用する制御データを算出して送信する。そのために、演算管理手段24は、学習モードと自動制御モードとに切り替え可能に構成されている。学習モードにおいて、演算管理手段24は、深度調整に係るラダーウィンチ44とスイング調整に係るスイングウィンチ60とが、オペレータにより手動で操作された手動浚渫作業時に、ラダーウィンチ44及びスイングウィンチ60の操作に係る操作ログを記録する。このため、通常は、経験が豊富で優れた技量を有する熟練のオペレータが、上記のように手動で操作したときの操作ログが記録される。また、自動制御モードにおいて、演算管理手段24は、予め設定された設計浚渫深度に従って浚渫されるように、学習モードで記録した操作ログに基づいて、制御手段28へ送信する制御データを算出する。
【0060】
すなわち、演算管理手段24は、記録した操作ログから、上記のような手動浚渫作業時のカッター54の動きが再現されるような制御データを算出する。しかも、演算管理手段24は、上述したように算出するカッター54の位置及び深度を確認しながら、設計浚渫深度通りに浚渫されるように、制御データに調整を加えるものである。これにより、浚渫施工時には、熟練のオペレータが操作したカッター54の動きを再現しつつ、設計浚渫深度通りに浚渫することができるため、当該システム10を利用するオペレータの技量や経験の如何に関わらず、ポンプ浚渫を安定して高精度に行うことが可能となる。更に、オペレータは、スイング速度やラダー深度の操作といった集中力を要する繊細な操作から解放されるため、作業時の負担を大幅に軽減することができる。
【0061】
また、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10は、図5に示すように、演算管理手段24が、水底に構築される凹路66を、例えば形状が変化する位置などに基づいて、凹路66の幅方向に沿って複数のエリア(A~J)へ仮想的に分割する。そして、演算管理手段24は、学習モードにおいて操作ログを記録する際に、分割したエリア毎に操作ログを記録し、自動制御モードにおいて制御データを算出する際に、分割したエリア毎に制御データを算出する。これにより、各エリアに特有の形状などの特徴が反映されるように記録及び算出することができるため、施工時のポンプ浚渫の精度を向上させることが可能となる。
【0062】
また、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10は、演算管理手段24が、両側端に法面68、74を有する凹路66を複数のエリアに分割する際の分割位置に、以下の位置を利用するものである。すなわち、演算管理手段24は、少なくとも、凹路66の一側端の法面68の法肩70の位置S1、凹路66の一側端の法面68の法尻72の位置S3、凹路66の他側端の法面74の法尻78の位置S7、及び凹路66の他側端の法面74の法肩76の位置S9を、複数のエリアの分割位置に利用する。これにより、幅方向についての形状が大きく変化する位置において、凹路66を複数のエリアへと分割することができるため、施工時に各エリアの形状を精度よく再現することが可能となる。
【0063】
更に、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10は、演算管理手段24が学習モードで記録する操作ログとして、以下のうちの少なくとも1つを記録するものである。すなわち、ラダーウィンチ44の上昇指令、ラダーウィンチ44の下降指令、ラダーウィンチ44の速度設定、スイング方向、スイング速度設定、スイングウィンチ60の張力設定、及びスイングウィンチ60の回転速度である。このような様々な操作の要素を記録することで、自動制御モード時により細かい動きを再現することができるため、施工精度をより向上させることが可能となる。
【0064】
また、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10は、演算管理手段24が学習モード時に記録した操作ログに基づいて自動制御モードで浚渫施工するにあたり、記録時と施工時との主に外的要因の条件の相違によって生じる、カッター54の位置や深度のズレなどを補正してもよいものである。すなわち、演算管理手段24は、学習モード時と自動制御モード時との浚渫土砂の土質の違い、学習モード時と自動制御モード時との浚渫土厚の違い、学習モード時と自動制御モード時とのスイングウィンチ60に接続されたスイングワイヤ58のポンプ浚渫船36に対する打ち込み位置の違い、及び自動制御モード時の波浪及び/又は風の影響のうち、少なくとも1つを加味して制御データを算出する。これにより、外的要因によるカッター54の位置や深度のズレなどを補正するように、演算管理手段24によって制御データを算出することができるため、ポンプ浚渫の施工精度をより一層向上させることができる。
【0065】
更に、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10は、演算管理手段24が、制御データを制御手段28へ送信してから、その制御内容がカッター54の深度及び位置に実際に反映されるまでのタイムラグを加味したタイミングで、制御データを制御手段28へ送信してもよいものである。これにより、主に機械の応答遅れによるタイムラグの影響を抑制することができるため、これによってもポンプ浚渫の施工精度を向上させることができる。しかも、図4のS100やS110などに関連して説明したように、制御データの算出に現在使用している操作ログのエリアと、自動運転中のカッター54が現在位置しているエリアとのズレにも対応するため、浚渫のスタート位置の変更や、浚渫作業の途中での切り上げ及び再開などにも柔軟に対応することができる。
なお、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理方法は、上述した本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10により実行されることで、浚渫施工管理システム10と同等の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0066】
10:浚渫施工管理システム、12:位置計測手段、14:複数のセンサ、18:潮位計、24:演算管理手段、28:制御手段、36:ポンプ浚渫船、42:ラダー、44:ラダーウィンチ、54:カッター、56(56A、56B):スパッド、58:スイングワイヤ、60:スイングウィンチ、66:凹路、68:一側端の法面、70:法肩、72:法尻、74:他側端の法面、76:法肩、78:法尻、S1~S9:分割位置、A~J:エリア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8