IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-オレフィン重合体の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036372
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】オレフィン重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 10/00 20060101AFI20230307BHJP
   C08F 232/00 20060101ALI20230307BHJP
   C08F 236/20 20060101ALI20230307BHJP
   C08F 212/06 20060101ALI20230307BHJP
   C08F 2/06 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
C08F10/00
C08F232/00
C08F236/20
C08F212/06
C08F2/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021143387
(22)【出願日】2021-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏羽
(72)【発明者】
【氏名】金子 将寿
【テーマコード(参考)】
4J011
4J100
【Fターム(参考)】
4J011AA01
4J011AA04
4J011AB02
4J011AB04
4J011AB07
4J011AB08
4J011HA03
4J011HB02
4J011HB04
4J011HB05
4J011HB22
4J100AA02P
4J100AA03Q
4J100AA04Q
4J100AA07Q
4J100AA09Q
4J100AA15Q
4J100AA16Q
4J100AA17Q
4J100AA18Q
4J100AA19Q
4J100AA20Q
4J100AA21Q
4J100AB02R
4J100AB04R
4J100AR05R
4J100AR11R
4J100AR15R
4J100AR16R
4J100AR17R
4J100AR21R
4J100AR22R
4J100AS11R
4J100AS15R
4J100BB01R
4J100BB03R
4J100BB07R
4J100BC02R
4J100BC26R
4J100BC27R
4J100BC36R
4J100DA01
4J100DA04
4J100DA09
4J100EA01
4J100FA01
4J100FA04
4J100FA10
4J100FA12
4J100FA19
4J100FA28
4J100FA29
4J100FA30
4J100JA28
(57)【要約】
【課題】重合反応容器の上部に達するような泡の発生を防止しつつ、高い生産性で低分子量オレフィン重合体を安定的に製造する方法を提供すること。
【解決手段】炭化水素化合物とオレフィン重合用触媒の存在下、溶液重合法で、下記(I)および(II)の範囲内の条件でオレフィンの重合を行う、オレフィン重合体の製造方法:(I)重合反応溶液の粘度が、2.5~150センチポイズである。(II)得られる重合体の極限粘度[η]が、0.03~0.50dl/gである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素化合物とオレフィン重合用触媒の存在下、溶液重合法で、下記(I)および(II)の範囲内の条件でオレフィンの重合を行う、オレフィン重合体の製造方法:
(I)重合反応溶液の粘度が、2.5~150センチポイズである。
(II)得られる重合体の極限粘度[η]が、0.03~0.50dl/gである。
【請求項2】
前記重合反応溶液の粘度が、5~100センチポイズである請求項1に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【請求項3】
前記重合体の極限粘度[η]が、0.05~0.45dl/gである請求項1または2に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【請求項4】
前記重合反応溶液の重合体濃度が、31~90重量%である請求項1~3のいずれか1項に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として合成潤滑油として用いられ、耐熱酸化安定性、高い粘度指数、低温粘度特性、剪断安定性に優れるとされているエチレン系共重合体や、ワックスなどの用途に好適とされる低分子量オレフィン重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グリース用潤滑油、エンジン油、ギヤ油、作動油等の用途の製品には、多様な性能が要求され、しかも近年、内燃機関の高性能化、高出力化、運転条件の過酷化等に伴い、内燃機関各部の耐摩耗性、耐熱性、耐スラッジ性、潤滑油消費特性、省燃費性等の高度な性能が要求されてきている。特に、ロングドレイン化(長寿命化)が求められており、そのために、潤滑油の蒸発損失、剪断に起因する低粘度化を一層低減する必要が生じている。一方で、省燃費性の確保のため、ワイドレンジ化が進んでおり、良好な潤滑油の低温粘度性状が必要となっている。従って、グリース用潤滑油、エンジン油、ギヤ油、作動油等の製品には、長寿命、すなわち低蒸発性であって、かつ良好な温度粘度特性を有するものが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、エチレン・α-オレフィン共重合体は、粘度指数、酸化安定性、剪断安定性、耐熱性に優れる合成潤滑油として使用可能であることが記載されている。
【0004】
合成潤滑油として使用されるエチレン・α-オレフィン共重合体の製造方法として、従来、特許文献2及び特許文献3に記載されているようなバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなるバナジウム系触媒による方法が使用されてきた。このようなエチレン・α-オレフィン共重合体として、特にエチレン・プロピレン共重合体が主に使用されている。
【0005】
また、高い重合活性で共重合体を製造する方法として、特許文献4及び特許文献5に記載されているようなジルコノセン等のメタロセン化合物と有機アルミニウムオキシ化合物(アルミノキサン)からなる触媒系を用いる方法等が知られており、特許文献6には特定のメタロセン触媒とアルミノキサンを組み合わせた触媒系を用いることにより得られるエチレン・α-オレフィン共重合体からなる合成潤滑油の製造方法が開示されている。
【0006】
また、低分子量の結晶性のオレフィン重合体は、成形助剤、離型付与剤、耐ブロッキング剤などの用途が有り、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4-メチル-1-ペンテン等のオレフィン系重合体と組み合せた組成物として、広く利用されている(例えば、特許文献7,8)。代表的なものとして、ポリエチレンワックス類、ポリプロピレンワックス類を例示できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭57-117595号公報
【特許文献2】特公平2-1163号公報
【特許文献3】特公平2-7998号公報
【特許文献4】特開昭61-221207号公報
【特許文献5】特公平7-121969号公報
【特許文献6】特許第2796376号公報
【特許文献7】特許第5489729号公報
【特許文献8】特開2014-18807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記の様なオレフィン系の重合体は、相対的に安価であり、用途が多岐にわたるため、大量生産によるコストダウンが求められ易い製品でもある。この様な重合体は、連続重合法で製造することが好ましく、重合体の分子量等の要因で、溶液重合で生産するのが好適な方法の一つである。
効率的に生産するには単位時間当たり、単位体積当たりの重合体の生産量を高めることが必要であることは自明である。また、溶液としての重合体濃度を高めることが有効な方策であることも当業者であれば想起することも容易である。そこで、本発明者らは上記のような低分子量や液状のオレフィン重合体の生産性を高めるために、溶液重合の際のオレフィン重合体濃度を高める検討を行った。
【0009】
しかしながら、次第に濃度を高めていくと反応系内で泡が発生し始め、泡の成長によって反応容器上部(気相部)に一部の溶液が運ばれ、次いで溶媒が気化して反応容器の上部内壁や反応容器上部に設置されているセンサー等の表面に、重合体が付着する場合があることが分かった。また、本来、未反応ガスの回収、循環、熱交換などを目的とするガス用配管に重合体が混入することもある。この様な重合体の付着や混入は、冷却効率の低下、センサー機能低下や、配管の任意の箇所に重合体が滞留してしまうという問題に繋がり、安定した連続重合運転の実施を妨げる場合があることも判明した。
【0010】
発泡現象に関して、石鹸水を例に挙げると、高濃度とすることで粘度が上昇して泡立ちが増す傾向にある。一方で、通常、液状オレフィン重合体や低分子量オレフィン重合体の製造に用いられる炭化水素溶媒は、表面張力が低い化合物であり、重合反応中に泡ができ難い傾向にあると考えられるため、上記の課題は予想外の現象であると言える。特に、上述したセンサーなどが設置されている反応容器上部に達するような泡の発生は予想していなかった。
【0011】
上記の観点から、本発明の課題は、上述した泡の発生を防止しつつ、高い生産性で前記の低分子量オレフィン重合体を安定的に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、溶液重合法において、特定の極限粘度範囲の重合体を、特定の溶液粘度の範囲内で製造することにより、前記の課題を解決できることを見出した。本発明は、以下の要件によって特定される。
【0013】
(1)炭化水素化合物とオレフィン重合用触媒の存在下、溶液重合法で、下記(I)および(II)の範囲内の条件でオレフィンの重合を行うオレフィン重合体の製造方法:
(I)重合反応溶液の粘度が2.5~150センチポイズである。
(II)得られる重合体の極限粘度[η]が、0.03~0.50dl/gである。
(2)前記重合反応溶液の粘度が5~100センチポイズである(1)に記載のオレフィン重合体の製造方法。
(3)前記重合体の極限粘度[η]が、0.05~0.45dl/gである(1)または(2)に記載のオレフィン重合体の製造方法。
(4)前記重合反応溶液の重合体濃度が、31~90重量%である(1)~(3)のいずれかに記載のオレフィン重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のオレフィン重合体の製造方法によれば、オレフィン重合体の極限粘度を特定の範囲の条件とし、重合反応溶液粘度も特定の範囲とすることで、重合反応中の泡の発生を防ぐことができるため、前記の用途などに用いることができるオレフィン重合体を安定して高い生産性で製造することができる。それゆえ、既存の技術と比較しても本発明の工業的意義は大きいといえる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一態様である、オレフィン重合用触媒と各種オレフィンとを供給して、エチレン/プロピレン共重合を実施する製造装置の一構成例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のオレフィン重合体の製造方法は、特定の溶液粘度となる条件下で、特定の極限粘度のオレフィン重合体を製造することを特徴とする。これは、前記の通り、特定の極限粘度のオレフィン重合体を製造する際に、重合反応溶液が予想外の泡立ちが起こり、反応装置に重合体が付着や混入することで、除熱、温度センサーなどに重合体が付着するなどの現象が起こり、その機能を低下させる場合があるという新たな課題に基づく発明である。
【0017】
本発明のオレフィン重合体の製造方法では、比較的低分子量のオレフィン重合体を製造する。具体的には、(II)極限粘度[η]が、0.03~0.50dl/gの範囲である。好ましい下限値は0.05dl/g、より好ましくは0.07dl/g、さらに好ましくは0.09dl/g、特に好ましくは0.10dl/gである。一方、好ましい上限値は、0.45dl/g、より好ましくは0.40dl/g、さらに好ましくは0.35dl/gである。前記の重合体は、潤滑油、成形助剤、離型性付与剤などの、所謂オイル、ワックス用途への適用を一例とする製品と考えてもよい。
上記の範囲を外れた重合体の極限粘度では、そもそも本発明に至る課題である泡立ちが発生し難い傾向があるので、課題自体が存在しない可能性が高い。
【0018】
本発明のオレフィン重合体は、所謂溶液重合法でオレフィンを重合することを特徴とする。その際の重合反応溶液の粘度が特定の範囲にあることが肝要である。具体的には、(I)重合反応溶液の粘度は、2.5~150センチポイズである。好ましい下限値は5センチポイズ、より好ましくは7センチポイズ、さらに好ましくは9センチポイズ、特に好ましくは10センチポイズである。一方、好ましい上限値は、130センチポイズ、より好ましくは120センチポイズ、さらに好ましくは100センチポイズ、特に好ましくは80センチポイズである。
【0019】
極めて低い溶液粘度で発泡現象が起こり難いことは自明であるが、上記範囲の下限値よりも低い重合反応溶液粘度では、前記のような予想外の現象である発泡現象が起こる場合がある。一方で、前記下限値よりも高い重合反応溶液粘度範囲では発泡が生じないことが本発明者らによって見出された。上記の溶液粘度範囲は、比較的流動性の良い粘度範囲であり、効率的な工業生産にも適している領域である。
上記の溶液粘度範囲を超える場合でも発泡はしないが、溶液の流動性が低下するので生産性が低下する場合がある。
【0020】
本発明の前記重合反応溶液の溶液粘度は、前記の重合体の極限粘度[η]の他、重合体濃度の影響も受ける。
本発明において、好ましい重合反応溶液の重合体濃度は31~90重量%である。より好ましい下限値は32重量%、さらに好ましくは33重量%、特に好ましくは34重量%である。一方、より好ましい上限値は80重量%、さらに好ましくは70重量%、特に好ましくは65重量%である。
【0021】
溶液重合は、生産性の他、溶液としてのハンドリング、流動性等を考慮して、一般的に好ましい重合体濃度は30重量%以下と言われている。しかしながら、本発明の方法で生産する重合体は、比較的低分子量であるので高い重合体濃度であることが好ましい。但し、前記の通り、重合反応溶液の粘度によっては、泡が発生し、反応を長時間安定して制御することができなくなる場合がある。
【0022】
本発明のオレフィン重合体の製造方法に用いる炭化水素化合物は、公知の炭化水素化合物を制限なく用いることができる。具体的にはベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、シメン等の芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、ヘキサデカン、オクタデカン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン、メチルシクロペンタン等の脂環族炭化水素、ガソリン、灯油、軽油等の石油留分を挙げることができる。これらの化合物は、常温常圧で液体であることが好ましい。勿論メタン、エタン、プロパン、ブタン等、加圧することで液状になる炭化水素化合物も液状である限り用いることができる。
【0023】
本発明において、オレフィン重合体の重合形式は、バッチ重合、連続重合、セミ連続重合の何れの形式も採用できる。本発明の製造方法は、その特徴から連続重合プロセスを用いた場合に有用である。
上記のバッチ重合、セミ連続重合の場合は、重合開始初期の段階では、前記(I)の重合反応溶液の粘度の範囲を外れる時間帯が存在するが、前記の重合反応工程全体の好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上の時間帯で前記(I)の範囲内であればよい。前記(II)の重合体の極限粘度の範囲に関しても同様である。
重合を行う反応装置は、SUS製等の反応容器に、撹拌翼を有する回転可能な撹拌軸が備えられている反応装置を挙げることができる。また該撹拌翼としては、傾斜パドル翼、タービン翼、アンカー翼、ヘリカルリボン翼、大型の板翼等が例示される。
【0024】
本発明に用いられる反応器、反応装置のサイズは、好ましくは1リットル~1000立方メートルの範囲である。より好ましい下限値は5リットル、さらに好ましくは10リットルである。一方、より好ましい上限値は800立方メートル、さらに好ましくは700立方メートルである。
本発明の場合、上記の反応装置が満液状態で溶液重合を行った場合、前記の課題が存在しない場合があることは自明であるが、反応プロセスの一部では満液でない場合もある。その様な場合にもしも発泡が発生すると、連続運転の際の安定性に影響が出る可能性もあるので、満液状態での反応においても、本発明のオレフィン重合体の製造方法は適用可能である。一方で、液相と気相が共存する重合反応環境の方が本発明の効果が顕著であると考えることができる。本発明の反応装置における液相部が占める割合は、好ましくは10~95体積%である。より好ましい下限値は12体積%、さらに好ましくは14体積%、特に好ましくは15体積%である。一方、より好ましい上限値は80体積%、さらに好ましくは60体積%、特に好ましくは50体積%である。
【0025】
本発明のオレフィン重合体の製造方法であれば、重合反応時の発泡現象が抑制される理由は不明であるが、本発明者らは以下の様に推測している。
一般に、重合反応を均一に進行させるには、撹拌などによって反応場を均一に保つ必要がある。本発明におけるオレフィン重合反応で生成するオレフィン重合体は、極性が低く表面張力も低い傾向があるので、発泡し難い傾向にある重合体溶液であると解される。前記のように解されるため、特定のオレフィン重合体の極限粘度範囲であれば、ある溶液粘度(或いは重合体濃度)の範囲内において、粘度上昇の影響で炭化水素化合物(溶媒)の蒸発無しでも、撹拌等の運動によってガスを巻き込み、ある程度の膜厚を持った泡が形成され易い範囲が存在すると推測している。また、前記溶液粘度の範囲よりもさらに高い溶液粘度であれば、その高過ぎる粘度によって、薄い膜が形成され難くなるので、泡を瞬間的に形成できても自重で消滅するのであろうと推測できる。
このようにして、特定の重合反応溶液の粘度においては、発泡の抑制された環境下でのオレフィン重合反応が可能となると考えられる。
【0026】
本発明のオレフィンの重合方法は、前記(I)および(II)の範囲の条件であれば、公知のオレフィン重合方法の条件を制限なく適用することができる。以下、本発明の製造方法のその他の態様について詳細に説明する。具体的には、オレフィン重合体の製造に用いられるオレフィン、触媒、その他反応に用いられる成分、重合条件について説明する。
【0027】
I.本発明に用いられるオレフィン
本発明においては、エチレンの他、α-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン、ビニルシクロヘキサン等の炭素数3~20の直鎖状又は分岐状のα-オレフィンを例示することができる。α-オレフィンとしては、炭素数3~10の直鎖状又は分岐状のα-オレフィンが好ましく、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン及び1-オクテンがより好ましく、得られる共重合体を用いた潤滑油の剪断安定性の点からプロピレンが最も好ましい。これらのα-オレフィンは1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0028】
(α―オレフィン以外の他のオレフィン)
本発明においては、エチレンとα-オレフィンに加えて、他の共重合可能なオレフィン性モノマーを用いて、共重合をおこなってもよい。該オレフィン性モノマーとしては、ポリエン、ビニル芳香族化合物、ビニル脂環式化合物、環状オレフィン等を挙げることができる。
【0029】
ポリエンとしては、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、1,5-ヘプタジエン、1,6-ヘプタジエン、1,6-オクタジエン、1,7-オクタジエン、1,7-ノナジエン、1,8-ノナジエン、1,8-デカジエン、1,9-デカジエン、1,12-テトラデカジエン、1,13-テトラデカジエン、3-メチル-1,4-ヘキサジエン、3-メチル-1,5-ヘキサジエン、3-エチル-1,4-ヘキサジエン、3-エチル-1,5-ヘキサジエン、3,3-ジメチル-1,4-ヘキサジエン、3,3-ジメチル-1,5-ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、2,5-ノルボルナジエン、7-メチル-2,5-ノルボルナジエン、7-エチル-2,5-ノルボルナジエン、7-プロピル-2,5-ノルボルナジエン、7-ブチル-2,5-ノルボルナジエン、7-ペンチル-2,5-ノルボルナジエン、7-ヘキシル-2,5-ノルボルナジエン、7,7-ジメチル-2,5-ノルボルナジエン、7,7-メチルエチル-2,5-ノルボルナジエン、7-クロロ-2,5-ノルボルナジエン、7-ブロモ-2,5-ノルボルナジエン、7-フルオロ-2,5-ノルボルナジエン、7,7-ジクロロ-2,5-ノルボルナジエン、1-メチル-2,5-ノルボルナジエン、1-エチル-2,5-ノルボルナジエン、1-プロピル-2,5-ノルボルナジエン、1-ブチル-2,5-ノルボルナジエン、1-クロロ-2,5-ノルボルナジエン、1-ブロモ-2,5-ノルボルナジエン等を挙げることができる。
【0030】
また、ポリエンとしては、下記の構造の化合物も挙げることができる。
【化1】
【0031】
ポリエンは、1種以上用いられ、好ましくは、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5-ビニルノルボルネン、ノルボルナジエンである。
【0032】
ビニル芳香族化合物としては、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン等を挙げることができる。また、ビニル脂環式化合物としては、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロオクタン等を挙げることができる。環状オレフィンとしては、シクロヘキセン、2-ノルボルネン等を挙げることができる。
【0033】
本発明では、得られる重合体の分子量を調節するための分子量調節剤として、通常、水素を用いる。水素はエチレンとともに反応装置へ供給される。
【0034】
II.オレフィン重合用触媒
本発明では、オレフィン重合用触媒としては、遷移金属化合物と有機金属化合物とを組み合わせた触媒を用いる。
前記の遷移金属化合物としては、主として周期律表3~7族の遷移金属を含む遷移金属化合物が挙げられる。より好ましくは、周期律表の4~5族の元素を含む遷移金属化合物である。中でも、遷移金属錯体である態様が好ましく、遷移金属錯体として用いる場合は4族元素であることが好ましい。具体的な例としては、例えば特開2010-248526号公報や国際公開2013/140991号公報等に開示された様な、様々な遷移金属錯体を好適な例として挙げることができる。本発明に用いることができる特に好適かつ具体的な遷移金属錯体の例は後述する。
【0035】
前記の有機金属化合物としては、例えば、遷移金属化合物と反応して以下のイオン対を形成する化合物を挙げることができる。(本発明においては、ホウ素も金属元素とみなす場合がある。)
【0036】
遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物)
前記した遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物としては、特表平1-501950号公報、特表平1-502036号公報、特開平3-179005号公報、特開平3-179006号公報、特開平3-207703号公報、特開平3-207704号公報、USP-5321106号等に記載されたルイス酸、イオン性化合物、ボラン化合物及びカルボラン化合物等を挙げることができる。
【0037】
具体的には、ルイス酸としては、BR3(Rは、フッ素、メチル基、トリフルオロメチル基等の置換基を有していてもよいフェニル基又はフッ素である。)で示される化合物が挙げられ、例えばトリフルオロボロン、トリフェニルボロン、トリス(4-フルオロフェニル)ボロン、トリス(3,5-ジフルオロフェニル)ボロン、トリス(4-フルオロメチルフェニル)ボロン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボロン、トリス(p-トリル)ボロン、トリス(o-トリル)ボロン、トリス(3,5-ジメチルフェニル)ボロン、トリメチルボロン、トリイソブチルボロン等が挙げられる。
イオン性化合物としては、例えば下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0038】
【化2】
【0039】
式中、Re+としては、H+、カルベニウムカチオン、オキソニウムカチオン、アンモニ
ウムカチオン、ホスホニウムカチオン、シクロヘプチルトリエニルカチオン、遷移金属を有するフェロセニウムカチオン等が挙げられる。Rf~Riは、互いに同一でも異なっていてもよく、有機基、好ましくはアリール基又は置換アリール基である。
【0040】
前記カルベニウムカチオンとして具体的には、トリフェニルカルベニウムカチオン、トリス(メチルフェニル)カルベニウムカチオン、トリス(ジメチルフェニル)カルベニウムカチオン等の三置換カルベニウムカチオン等が挙げられる。
前記アンモニウムカチオンとして具体的には、トリメチルアンモニウムカチオン、トリエチルアンモニウムカチオン、トリ(n-プロピル)アンモニウムカチオン、トリイソプロピルアンモニウムカチオン、トリ(n-ブチル)アンモニウムカチオン、トリイソブチルアンモニウムカチオン等のトリアルキルアンモニウムカチオン、N,N-ジメチルアニリニウムカチオン、N,N-ジエチルアニリニウムカチオン、N,N-2,4,6-ペンタメチルアニリニウムカチオン等のN,N-ジアルキルアニリニウムカチオン、ジイソプロピルアンモニウムカチオン、ジシクロヘキシルアンモニウムカチオン等のジアルキルアンモニウムカチオン等が挙げられる。
【0041】
前記ホスホニウムカチオンとして具体的には、トリフェニルホスホニウムカチオン、トリス(メチルフェニル)ホスホニウムカチオン、トリス(ジメチルフェニル)ホスホニウムカチオン等のトリアリールホスホニウムカチオン等が挙げられる。
前記のうち、Re+としては、カルベニウムカチオン、アンモニウムカチオン等が好ましく、特にトリフェニルカルベニウムカチオン、N,N-ジメチルアニリニウムカチオン、N,N-ジエチルアニリニウムカチオンが好ましい。
【0042】
前記カルベニウムカチオンからなるカルベニウム塩として具体的には、トリフェニルカルベニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルベニウムテトラキス(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリス(4-メチルフェニル)カルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリス(3,5-ジメチルフェニル)カルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等を挙げることができる。
【0043】
前記アンモニウムカチオンからなるアンモニウム塩としては、トリアルキル置換アンモニウム塩、N,N-ジアルキルアニリニウム塩、ジアルキルアンモニウム塩等を挙げることができる。
トリアルキル置換アンモニウム塩として具体的には、トリエチルアンモニウムテトラフェニルボレート、トリプロピルアンモニウムテトラフェニルボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムテトラフェニルボレート、トリメチルアンモニウムテトラキス(p-トリル)ボレート、トリメチルアンモニウムテトラキス(o-トリル)ボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリエチルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリプロピルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリプロピルアンモニウムテトラキス(2,4-ジメチルフェニル)ボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムテトラキス(3,5-ジメチルフェニル)ボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムテトラキス(4-トリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムテトラキス(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムテトラキス(o-トリル)ボレート、ジオクタデシルメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、ジオクタデシルメチルアンモニウムテトラキス(p-トリル)ボレート、ジオクタデシルメチルアンモニウムテトラキス(o-トリル)ボレート、ジオクタデシルメチルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジオクタデシルメチルアンモニウムテトラキス(2,4-ジメチルフェニル)ボレート、ジオクタデシルメチルアンモニウムテトラキス(3,5-ジメチルフェニル)ボレート、ジオクタデシルメチルアンモニウムテトラキス(4-トリフルオロメチルフェニル)ボレート、ジオクタデシルメチルアンモニウムテトラキス(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、ジオクタデシルメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0044】
N,N-ジアルキルアニリニウム塩として具体的には、N,N-ジメチルアニリニウムテトラフェニルボレート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、N,N-ジエチルアニリニウムテトラフェニルボレート、N,N-ジエチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N-ジエチルアニリニウムテトラキス(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、N,N-2,4,6-ペンタメチルアニリニウムテトラフェニルボレート、N,N-2,4,6-ペンタメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
ジアルキルアンモニウム塩として具体的には、ジ(1-プロピル)アンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジシクロヘキシルアンモニウムテトラフェニルボレート等が挙げられる。
【0045】
さらに遷移金属化合物としては、フェロセニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルベニウムペンタフェニルシクロペンタジエニル錯体、N,N-ジエチルアニリニウムペンタフェニルシクロペンタジエニル錯体、あるいは下記式(2)又は(3)で表されるボレート化合物、又は下記式(4)で表される活性水素を含むボレート化合物、又は下記式(5)で表されるシリル基を含むボレート化合物等を挙げることもできる。
【0046】
【化3】
【0047】
(式中、Etはエチル基を示す。)
【0048】
【化4】
【0049】
活性水素を含むボレート化合物:
[B-Qn(Gq(T-H)r)z]-+…(4)
ここで、Bはホウ素を表す。Gは多結合性ヒドロカーボンラジカルを表し、好ましい多結合性ヒドロカーボンとしては炭素数1~20を含むアルキレン、アリレン、エチレン、アルカリレンラジカルであり、Gの好ましい例としては、フェニレン、ビスフェニレン、ナフタレン、メチレン、エチレン、プロピレン、1,4-ブタジエン、p-フェニレンメチレンが挙げられる。多結合性ラジカルGはr+1の結合、すなわち一つの結合はボレートアニオンと結合し、Gのその他の結合rは(T-H)基と結合する。A+はカチオンである。
【0050】
前記一般式中のTはO、S、NRj、又はPRjを表し、Rjはヒドロカルバニルラジカル、トリヒドロカルバニルシリルラジカル、トリヒドロカルバニルゲルマニウムラジカル、又はハイドライドを表す。qは1以上の整数で好ましくは1である。T-H基としては、-OH、-SH、-NRH、又はPRjHが挙げられ、ここでRjは炭素数1~18好ましくは炭素数1~10のヒドロカルビニルラジカル又は水素である。好ましいRjはアルキル、シクロアルキル、アリル、アリルアルキル又は炭素数1~18を有するアルキルアリルである。-OH、-SH、-NRjH又はPRjHは、例えば、-C(O)-OH、-C(S)-SH-C(O)-NRjH、及びC(O)-PRjHでもかまわない。最も好ましい活性水素を有する基は-OH基である。Qは、ハイドライド、ジヒドロカルビルアミド、好ましくはジアルキルアミド、ハライド、ヒドロカルビルオキシド、アルコキシド、アリルオキシド、ハイドロカルビル、置換ハイドロカルビルラジカル等である。ここでn+zは4である。
【0051】
前記一般式(4)の[B-Qn(Gq(T-H)r)z]として、例えば、トリフェニル(ヒドロキシフェニル)ボレート、ジフェニルージ(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリフェニル(2,4-ジヒドロキシフェニル)ボレート、トリ(p-トリル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(2,4-ジメチルフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(3,5-ジメチルフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス〔3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェニル〕(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(2-ヒドロキシエチル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(4-ヒドロキシブチル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(4-ヒドロキシシクロヘキシル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)〔4-(4-ヒドロキシフェニル)フェニル〕ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)ボレート等が挙げられ、最も好ましくはトリス(ペンタフルオロフェニル)(4-ヒドキシフェニル)ボレートである。さらに前記ボレート化合物の-OH基を-NHRj(ここで、Rjはメチル、エチル、t-ブチルを表す)で置換したものも好ましい。
【0052】
ボレート化合物の対カチオンであるA+としては、カルボニウムカチオン、トロピルリウムカチオン、アンモニウムカチオン、オキソニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ホスホニウムカチオン等が挙げられる。またそれ自身が還元されやすい金属の陽イオンや有機金属の陽イオンも挙げられる。これらカチオンの具体例としては、トリフェニルカルボニウムイオン、ジフェニルカルボニウムイオン、シクロヘプタトリニウム、インデニウム、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、ジプロピルアンモニウム、ジシクロヘキシルアンモニウム、トリオクチルアンモニウム、N,N-ジメチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、2,4,6-ペンタメチルアンモニウム、N,N-ジメチルフェニルアンモニウム、ジ-(i-プロピル)アンモニウム、ジシクロヘキシルアンモニウム、トリフェニルホスホニウム、トリホスホニウム、トリジメチルフェニルホスホニウム、トリ(メチルフェニル)ホスホニウム、トリフェニルホスホニウムイオン、トリフェニルオキソニウムイオン、トリエチルオキソニウムイオン、ピリニウム、銀イオン、金イオン、白金イオン、銅イオン、パラジュウムイオン、水銀イオン、フェロセニウムイオン等が挙げられる。なかでも特にアンモニウムイオンが好ましい。
【0053】
シリル基を含むボレート化合物:
[B-Qn(Gq(SiRklm)r)z]-+…(5)
ここで、Bはホウ素を表す。Gは多結合性ヒドロカーボンラジカルを表し、好ましい多結合性ヒドロカーボンラジカルとしては炭素数1~20を含むアルキレン、アリレン、エチレン、アルカリレンラジカルであり、Gの好ましい例としては、フェニレン、ビスフェニレン、ナフタレン、メチレン、エチレン、プロピレン、1,4-ブタジエン、p-フェニレンメチレンが挙げられる。多結合性ラジカルGはr+1の結合、すなわち一つの結合はボレートアニオンと結合し、Gのその他の結合rは(SiRklm)基と結合する。A+はカチオンである。
【0054】
前記一般式中のRk、Rl、Rmはヒドロカルバニルラジカル、トリヒドロカルバニルシリルラジカル、トリヒドロカルバニルゲルマニウムラジカル、水素ラジカル、アルコキシラジカル、ヒドロキシラジカル又はハロゲン化合物ラジカル、を表す。Rk、Rl、Rmは互いに独立していて、同一でも異なる基でも良い。Qは、ハイドライド、ジヒドロカルビルアミド、好ましくはジアルキルアミド、ハライド、ヒドロカルビルオキシド、アルコキシド、アリルオキシド、ハイドロカルビル、置換ハイドロカルビルラジカル等であり、さらに好ましくはペンタフルオロベンジルラジカルである。ここでn+zは4である。
【0055】
前記一般式(5)中の[B-Qn(Gq(SiRklm)r)z]-として、例えば、トリフェニル(4-ジメチルクロロシリルフェニル)ボレート、ジフェニルージ(4-ジメチルクロロシリルフェニル)ボレート、トリフェニル(4-ジメチルメトキシシリルフェニル)ボレート、トリ(p-トリル)(4-トリエトキシシリルフェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(4-ジメチルクロロシリルフェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(4-ジメチルメトキシシリルフェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(4-トリメトキシシリルフェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(6-ジメチルクロロシリル-2ナフチル)ボレート等が挙げられる。ボレート化合物の対カチオンであるA+は前記式(4)中のA+と同じものが挙げられる。
【0056】
ボラン化合物として具体的には、デカボラン(14)、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕ノナボレート、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕デカボレート、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕ウンデカボレート、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕ドデカボレート、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕デカクロロデカボレート、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕ドデカクロロドデカボレート等のアニオンの塩、トリ(n-ブチル)アンモニウムビス(ドデカハイドライドドデカボレート)コバルト酸塩(III)、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕ビス(ドデカハイドライドドデカボレート)ニッケル酸塩(III)等の金属ボランアニオンの塩等が挙げられる。
【0057】
カルボラン化合物として具体的には、4-カルバノナボラン(14)、1,3-ジカルバノナボラン(13)、6,9-ジカルバデカボラン(14)、ドデカハイドライド-1-フェニル-1,3-ジカルバノナボラン、ドデカハイドライド-1-メチル-1,3-ジカルバノナボラン、ウンデカハイドライド-1,3-ジメチル-1,3-ジカルバノナボラン、7,8-ジカルバウンデカボラン(13)、2,7-ジカルバウンデカボラン(13)、ウンデカハイドライド-7,8-ジメチル-7,8-ジカルバウンデカボラン、ドデカハイドライド-11-メチル-2,7-ジカルバウンデカボラン、トリ(n-ブチル)アンモニウム1-カルバデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウム1-カルバウンデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウム1-カルバドデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウム1-トリメチルシリル-1-カルバデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムブロモ-1-カルバドデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウム6-カルバデカボレート(14)、トリ(n-ブチル)アンモニウム6-カルバデカボレート(12)、トリ(n-ブチル)アンモニウム7-カルバウンデカボレート(13)、トリ(n-ブチル)アンモニウム7,8-ジカルバウンデカボレート(12)、トリ(n-ブチル)アンモニウム2,9-ジカルバウンデカボレート(12)、トリ(n-ブチル)アンモニウムドデカハイドライド-8-メチル-7,9-ジカルバウンデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムウンデカハイドライド-8-エチル-7,9-ジカルバウンデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムウンデカハイドライド-8-ブチル-7,9-ジカルバウンデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムウンデカハイドライド-8-アリル-7,9-ジカルバウンデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムウンデカハイドライド-9-トリメチルシリル-7,8-ジカルバウンデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムウンデカハイドライド-4,6-ジブロモ-7-カルバウンデカボレート等のアニオンの塩;トリ(n-ブチル)アンモニウムビス(ノナハイドライド-1,3-ジカルバノナボレート)コバルト酸塩(III)、トリ(n-ブチル)アンモニウムビス(ウンデカハイドライド-7,8-ジカルバウンデカボレート)鉄酸塩(III)、トリ(n-ブチル)アンモニウムビス(ウンデカハイドライド-7,8-ジカルバウンデカボレート)コバルト酸塩(III)、トリ(n-ブチル)アンモニウムビス(ウンデカハイドライド-7,8-ジカルバウンデカボレート)ニッケル酸塩(III)、トリ(n-ブチル)アンモニウムビス(ウンデカハイドライド-7,8-ジカルバウンデカボレート)銅酸塩(III)、トリ(n-ブチル)アンモニウムビス(ウンデカハイドライド-7,8-ジカルバウンデカボレート)金酸塩(III)、トリ(n-ブチル)アンモニウムビス(ノナハイドライド-7,8-ジメチル-7,8-ジカルバウンデカボレート)鉄酸塩(III)、トリ(n-ブチル)アンモニウムビス(ノナハイドライド-7,8-ジメチル-7,8-ジカルバウンデカボレート)クロム酸塩(III)、トリ(n-ブチル)アンモニウムビス(トリブロモオクタハイドライド-7,8-ジカルバウンデカボレート)コバルト酸塩(III)、トリス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕ビス(ウンデカハイドライド-7-カルバウンデカボレート)クロム酸塩(III)、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕ビス(ウンデカハイドライド-7-カルバウンデカボレート)マンガン酸塩(IV)、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕ビス(ウンデカハイドライド-7-カルバウンデカボレート)コバルト酸塩(III)、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕ビス(ウンデカハイドライド-7-カルバウンデカボレート)ニッケル酸塩(IV)等の金属カルボランアニオンの塩等が挙げられる。
【0058】
尚、前記のような遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物は、2種以上混合して用いることができる。
【0059】
前記の有機金属化合物としては、上記の「イオン対を形成する化合物」の他にも以下の様な化合物を例示できる。
周期律表の1族、2族を含む有機金属化合物を用いることもできる。また、周期律表の13族金属を含む有機金属化合物が用いられる。中でも、特開2010-248526号公報に記載された以下の有機アルミニウム化合物を例示することができる。
【0060】
(有機アルミニウム化合物)
有機アルミニウム化合物としては、例えば下記一般式(6)で表される有機アルミニウム化合物、下記一般式(7)で表される第1族金属とアルミニウムとの錯アルキル化物、又は有機アルミニウムオキシ化合物等を挙げることができる。
【0061】
a mAl(ORbnpq…(6)
(式中、Ra及びRbは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数が1~15、好ましくは1~4の炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示し、mは0<m≦3、nは0≦n<3、pは0≦p<3、qは0≦q<3の数であり、かつm+n+p+q=3である。)
【0062】
2AlRa 4…(7)
(式中、M2はLi、Na又はKを示し、Raは炭素原子数が1~15、好ましくは1~4の炭化水素基を示す。)
【0063】
前記一般式(6)で表される有機アルミニウム化合物としては、例えば下記一般式(8)、(9)、(10)、又は(11)で表される化合物等を例示できる。
【0064】
a mAl(ORb3-m…(8)
(式中、Ra及びRbは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数が1~15、好ましくは1~4の炭化水素基を示し、mは好ましくは1.5≦m≦3の数である。)
【0065】
a mAlX3-m…(9)
(式中、Raは炭素原子数が1~15、好ましくは1~4の炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示し、mは好ましくは0<m<3である。)
【0066】
a mAlH3-m…(10)
(式中、Raは炭素原子数が1~15、好ましくは1~4の炭化水素基を示し、mは好ましくは2≦m<3である。)
【0067】
a mAl(ORbnq…(11)
(式中、Ra及びRbは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数が1~15、好ましくは1~4の炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示し、mは0<m≦3、nは0≦n<3、qは0≦q<3の数であり、かつm+n+q=3である。)
【0068】
前記一般式(8)、(9)、(10)、又は(11)で表されるアルミニウム化合物として、より具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリn-ブチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリペンチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウム等のトリn-アルキルアルミニウム;トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリsec-ブチルアルミニウム、トリtert-ブチルアルミニウム、トリ2-メチルブチルアルミニウム、トリ3-メチルブチルアルミニウム、トリ2-メチルペンチルアルミニウム、トリ3-メチルペンチルアルミニウム、トリ4-メチルペンチルアルミニウム、トリ2-メチルヘキシルアルミニウム、トリ3-メチルヘキシルアルミニウム、トリ2-エチルヘキシルアルミニウム等のトリ分岐鎖アルキルアルミニウム;トリシクロヘキシルアルミニウム、トリシクロオクチルアルミニウム等のトリシクロアルキルアルミニウム;トリフェニルアルミニウム、トリトリルアルミニウム等のトリアリールアルミニウム;ジイソプロピルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド等のジアルキルアルミニウムハイドライド;一般式(i-C49xAly(C510z(式中、x、y、zは正の数であり、z≧2xである。)等で表されるイソプレニルアルミニウム等のアルケニルアルミニウム;イソブチルアルミニウムメトキシド、イソブチルアルミニウムエトキシド、イソブチルアルミニウムイソプロポキシド等のアルキルアルミニウムアルコキシド;ジメチルアルミニウムメトキシド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジブチルアルミニウムブトキシド等のジアルキルアルミニウムアルコキシド;エチルアルミニウムセスキエトキシド、ブチルアルミニウムセスキブトキシド等のアルキルアルミニウムセスキアルコキシド;一般式Ra 2.5Al(ORb0.5等で表される平均組成を有する部分的にアルコキシ化されたアルキルアルミニウム;ジエチルアルミニウムフェノキシド、ジエチルアルミニウム(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)、ジイソブチルアルミニウム(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)等のアルキルアルミニウムアリーロキシド;ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジブチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド、ジイソブチルアルミニウムクロリド等のジアルキルアルミニウムハライド;エチルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキブロミド等のアルキルアルミニウムセスキハライド;エチルアルミニウムジクロリド、プロピルアルミニウムジクロリド、ブチルアルミニウムジブロミド等のアルキルアルミニウムジハライド等の部分的にハロゲン化されたアルキルアルミニウム;ジエチルアルミニウムヒドリド、ジブチルアルミニウムヒドリド等のジアルキルアルミニウムヒドリド;エチルアルミニウムジヒドリド、プロピルアルミニウムジヒドリド等のアルキルアルミニウムジヒドリド等その他の部分的に水素化されたアルキルアルミニウム;エチルアルミニウムエトキシクロリド、ブチルアルミニウムブトキシクロリド、エチルアルミニウムエトキシブロミド等の部分的にアルコキシ化及びハロゲン化されたアルキルアルミニウム等を挙げることができる。
【0069】
また、前記一般式(6)で表される化合物に類似する化合物も使用することができ、例えば窒素原子を介して2以上のアルミニウム化合物が結合した有機アルミニウム化合物を挙げることができる。このような化合物として具体的には、(C252AlN(C25)Al(C252等を挙げることができる。
【0070】
前記一般式(7)で表される化合物としては、例えば、LiAl(C254、Li
Al(C7154等を挙げることができる。
【0071】
また重合系内で前記有機アルミニウム化合物が形成されるような化合物、例えばハロゲン化アルミニウムとアルキルリチウムとの組み合わせ、又はハロゲン化アルミニウムとアルキルマグネシウムとの組み合わせ等を使用することもできる。これらのうち、有機アルミニウム化合物が好ましい。
【0072】
前記一般式(6)で表される有機アルミニウム化合物、又は前記一般式(7)で表される第1族金属とアルミニウムとの錯アルキル化物は、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0073】
本発明で用いられる有機アルミニウムオキシ化合物は、従来公知のアルミノキサンであってもよく、また特開平2-78687号公報に例示されているようなベンゼン不溶性の有機アルミニウムオキシ化合物であってもよい。
【0074】
従来公知のアルミノキサンは、例えば下記のような方法によって製造することができ、通常、炭化水素溶媒の溶液として得られる。
(1)吸着水を含有する化合物又は結晶水を含有する塩類、例えば塩化マグネシウム水和物、硫酸銅水和物、硫酸アルミニウム水和物、硫酸ニッケル水和物、塩化第1セリウム水和物等の炭化水素媒体懸濁液に、トリアルキルアルミニウム等の有機アルミニウム化合物を添加して、吸着水又は結晶水と有機アルミニウム化合物とを反応させる方法。
(2)ベンゼン、トルエン、エチルエーテル、テトラヒドロフラン等の媒体中で、トリアルキルアルミニウム等の有機アルミニウム化合物に直接水、氷又は水蒸気を作用させる方法。
(3)デカン、ベンゼン、トルエン等の媒体中でトリアルキルアルミニウム等の有機アルミニウム化合物に、ジメチルスズオキシド、ジブチルスズオキシド等の有機スズ酸化物を反応させる方法。
【0075】
なお該アルミノキサンは、少量の有機金属成分を含有してもよい。また回収された前記のアルミノキサンの溶液から溶媒又は未反応有機アルミニウム化合物を蒸留して除去した後、溶媒に再溶解又はアルミノキサンの貧溶媒に懸濁させてもよい。
アルミノキサンを調製する際に用いられる有機アルミニウム化合物として具体的には、前記一般式(8)で表される有機アルミニウム化合物として例示したものと同様の有機アルミニウム化合物を挙げることができる。
【0076】
これらのうち、トリアルキルアルミニウム、トリシクロアルキルアルミニウムが好ましく、トリメチルアルミニウムが特に好ましい。
【0077】
前記のような有機アルミニウム化合物は、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。なお、トリメチルアルミニウムから調製されるアルミノキサンは、メチルアルミノキサンあるいはMAOと呼ばれ、特によく用いられる化合物である。
【0078】
アルミノキサンの調製に用いられる溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、シメン等の芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、ヘキサデカン、オクタデカン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン、メチルシクロペンタン等の脂環族炭化水素、ガソリン、灯油、軽油等の石油留分又は前記芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素のハロゲン化物とりわけ、塩素化物、臭素化物等の炭化水素溶媒が挙げられる。さらにエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類を用いることもできる。これらの溶媒のうち特に芳香族炭化水素又は脂肪族炭化水素が好ましい。
【0079】
また本発明で用いられるベンゼン不溶性の有機アルミニウムオキシ化合物は、60℃のベンゼンに溶解するAl成分がAl原子換算で通常10%以下、好ましくは5%以下、特に好ましくは2%以下であり、ベンゼンに対して不溶性又は難溶性である。
【0080】
本発明で用いられる有機アルミニウムオキシ化合物としては、下記一般式(12)で表されるボロンを含んだ有機アルミニウムオキシ化合物を挙げることもできる。
【0081】
【化5】
【0082】
(式中、Rcは炭素原子数が1~10の炭化水素基を示す。Rdは、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子又は炭素原子数が1~10の炭化水素基を示す。)
【0083】
前記一般式(12)で表されるボロンを含んだ有機アルミニウムオキシ化合物は、下記一般式(13)で表されるアルキルボロン酸と有機アルミニウム化合物とを、不活性ガス雰囲気下に不活性溶媒中で、-80℃~室温の温度で1分~24時間反応させることにより製造できる。
【0084】
cB(OH)2…(13)
(式中、Rcは前記と同じ基を示す。)
【0085】
前記一般式(13)で表されるアルキルボロン酸の具体的なものとしては、メチルボロン酸、エチルボロン酸、イソプロピルボロン酸、n-プロピルボロン酸、n-ブチルボロン酸、イソブチルボロン酸、n-ヘキシルボロン酸、シクロヘキシルボロン酸、フェニルボロン酸、3,5-ジフルオロフェニルボロン酸、ペンタフルオロフェニルボロン酸、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸等が挙げられる。これらの中では、メチルボロン酸、n-ブチルボロン酸、イソブチルボロン酸、3,5-ジフルオロフェニルボロン酸、ペンタフルオロフェニルボロン酸が好ましい。これらは1種単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0086】
このようなアルキルボロン酸と反応させる有機アルミニウム化合物として具体的には、前記一般式(6)又は(7)で表される有機アルミニウム化合物として例示したものと同様の有機アルミニウム化合物を挙げることができる。
【0087】
これらのうち、トリアルキルアルミニウム、トリシクロアルキルアルミニウムが好ましく、特にトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムが好ましい。これらは1種単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
本発明で用いられる有機アルミニウムオキシ化合物は、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
以上、説明した有機アルミニウム化合物の中では、有機アルミニウムオキシ化合物を好適な化合物として挙げることができる。
【0088】
III.その他反応に用いられる成分
本発明では、重合反応は、通常、炭化水素媒体中で実施される。このような炭化水素媒体として具体的には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、エチレンクロリド、クロルベンゼン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素、ガソリン、灯油、軽油等の石油留分等を挙げることができる。さらに、重合に用いるオレフィンを用いることもできる。
その他、重合反応に有用とされる公知の成分を組み合わせて使用しても良い。例えば、フッ素含有化合物(アルコール系化合物など)を挙げることができる。
【0089】
(遷移金属錯体)
前述した本発明で用いることができる好適かつ具体的な遷移金属錯体の例としては、下記一般式[A1]で表される化合物が挙げられる(以下「遷移金属錯体(1)」と言うことがある。)。
【0090】
【化6】
【0091】
〈R 1 ~R 8
式[A1]中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、それぞれ独立に水素原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、硫黄含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、およびスズ含有基から選ばれ、同一でも互いに異なっていてもよく、隣接する基が互いに結合して環を形成していてもよい。
【0092】
炭化水素基としては、たとえば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基およびアリールアルキル基が挙げられる。アルキル基としては、たとえばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、ノニル基、ドデシル基およびエイコシル基が挙げられる。シクロアルキル基としては、たとえばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基およびアダマンチル基が挙げられる。アルケニル基としては、たとえばビニル基、プロペニル基およびシクロヘキセニル基などが挙げられる。アリール基としては、たとえばフェニル基、トリル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ビフェニル基、α-またはβ-ナフチル基、メチルナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ベンジルフェニル基、ピレニル基、アセナフチル基、フェナレニル基、アセアントリレニル基、テトラヒドロナフチル基、インダニル基およびビフェニリル基が挙げられる。アリールアルキル基としては、たとえばベンジル基、フェニルエチル基およびフェニルプロピル基が挙げられる。
【0093】
〈Y〉
式[A1]において、Yは、二つの配位子を結合する二価の基であり、具体的には、二価の基であって、炭素数1~20の炭化水素基、ならびにハロゲン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基およびスズ含有基から選ばれる基であり、好ましくは、炭素数1~20の二価の炭化水素基、または二価のケイ素含有基である。
【0094】
二価の炭化水素基としては、アルキレン基、置換アルキレン基およびアルキリデン基が挙げられ、その具体例としては、
メチレン、エチレン、プロピレンおよびブチレンなどのアルキレン基;
イソプロピリデン、ジエチルメチレン、ジプロピルメチレン、ジイソプロピルメチレン、ジブチルメチレン、メチルエチルメチレン、メチルブチルメチレン、メチル-t-ブチルメチレン、ジヘキシルメチレン、ジシクロヘキシルメチレン、メチルシクロヘキシルメチレン、メチルフェニルメチレン、ジフェニルメチレン、ジトリルメチレン、メチルナフチルメチレン、ジナフチルメチレン、1-メチルエチレン、1,2-ジメチルエチレンおよび1-エチル-2-メチルエチレンなどの置換アルキレン基;ならびに
シクロプロピリデン、シクロブチリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、シクロヘプチリデン、ビシクロ[3.3.1]ノニリデン、ノルボルニリデン、アダマンチリデン、テトラヒドロナフチリデンおよびジヒドロインダニリデンなどのシクロアルキリデン基ならびにエチリデン、プロピリデンおよびブチリデンなどのアルキリデン基
が挙げられる。
【0095】
二価のケイ素含有基としては、
シリレン;ならびに
メチルシリレン、ジメチルシリレン、ジイソプロピルシリレン、ジブチルシリレン、メチルブチルシリレン、メチル-t-ブチルシリレン、ジシクロヘキシルシリレン、メチルシクロヘキシルシリレン、メチルフェニルシリレン、ジフェニルシリレン、ジトリルシリレン、メチルナフチルシリレン、ジナフチルシリレン、シクロジメチレンシリレン、シクロトリメチレンシリレン、シクロテトラメチレンシリレン、シクロペンタメチレンシリレン、シクロヘキサメチレンシリレンおよびシクロヘプタメチレンシリレンなどのアルキルシリレン基
が挙げられ、特に好ましくは、ジメチルシリレン基およびジブチルシリレン基などのジアルキルシリレン基が挙げられる。
【0096】
〈M〉
式[A1]において、Mは、第4族遷移金属であり、好ましくはTi、ZrまたはHfであり、より好ましくはZrまたはHfであり、特に好ましくはZrである。
〈X〉
式[A1]において、Xは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有炭化水素基、ケイ素含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基およびリン含有基から選ばれる原子または基であり、好ましくはハロゲン原子または炭化水素基である。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられ、特に好ましくは塩素が挙げられる。
前記遷移金属錯体(1)の具体例としては、特開2013-224408号公報の[0077]に列挙された化合物が挙げられる。
【0097】
前記一般式[A1]の一態様である、好ましい遷移金属錯体の例として、下記一般式[A2]で表される化合物が挙げられる。(以下「遷移金属錯体(2)」と言うことがある。)。
【0098】
【化7】
【0099】
〈R 1 、R 2 、R 5 、R 6 、およびR 11 ~R 18
式[A2]中、R1、R2、R5、R6、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17およびR18は、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、硫黄含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基およびスズ含有基から選ばれ、同一でも互いに異なっていてもよく、また隣接する2個の基が互いに連結して環を形成してもよい。
炭化水素基としては、上述した式[A1]においてR1~R8として挙げた炭化水素基が挙げられる。
1、R2、R5、R6、およびR11~R18は、それぞれ独立に、好ましくは水素原子または炭化水素基であり、より好ましくは水素原子または炭素数1~20のアルキル基である。
【0100】
〈Y〉
式[A2]において、Yは、二つの配位子を結合する二価の基であり、具体的には、二価の基であって、炭素数1~20の炭化水素基、ならびにハロゲン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基およびスズ含有基から選ばれる基であり、好ましくは、炭素数1~20の二価の炭化水素基、または二価のケイ素含有基である。
これらの基としては、上述した式[A1]においてYとして挙げた二価の基が挙げられる。
【0101】
〈M〉
式[A2]において、Mは、第4族遷移金属であり、好ましくはTi、ZrまたはHfであり、より好ましくはZrまたはHfであり、特に好ましくはZrである。
〈X〉
式[A2]において、Xは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有炭化水素基、ケイ素含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基およびリン含有基から選ばれる原子または基であり、好ましくはハロゲン原子または炭化水素基である。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられ、特に好ましくは塩素が挙げられる。
【0102】
前記遷移金属錯体(2)の具体例としては、特開2013-224408号公報の[0071]に列挙された化合物が挙げられる。
【0103】
また、前記一般式[A1]の一態様である、その他の遷移金属錯体の好ましい例としては、下記一般式[A3]で表される化合物が挙げられる。(以下「遷移金属錯体(3)」と言うこともある。)
【0104】
【化8】
【0105】
〈R 1 ~R 4 、R 21 ~R 30
式[A3]中、R1、R2、R3、R4、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、R29およびR30はそれぞれ独立に水素原子、炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基またはケイ素含有基であり、R1からR4までの置換基のうち、任意の2つの置換基は互いに結合して環を形成していてもよく、R21からR28までの置換基のうち、任意の2つの置換基は互いに結合して環を形成していてもよく、R29とR30とは互いに結合して環を形成していてもよい。
【0106】
1~R4、R21~R30における炭化水素基としては、例えば、直鎖状炭化水素基、分岐状炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、飽和炭化水素基が有する1または2以上の水素原子を環状不飽和炭化水素基に置換してなる基が挙げられる。炭化水素基の炭素数は、通常1~20、好ましくは1~15、より好ましくは1~10である。
【0107】
直鎖状炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デカニル基等の直鎖状アルキル基;アリル基等の直鎖状アルケニル基が挙げられる。
【0108】
分岐状炭化水素基としては、例えば、イソプロピル基、tert-ブチル基、tert-アミル基、3-メチルペンチル基、1,1-ジエチルプロピル基、1,1-ジメチルブチル基、1-メチル-1-プロピルブチル基、1,1-プロピルブチル基、1,1-ジメチル-2-メチルプロピル基、1-メチル-1-イソプロピル-2-メチルプロピル基等の分岐状アルキル基が挙げられる。
【0109】
環状飽和炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、メチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ノルボルニル基、アダマンチル基、メチルアダマンチル基等の多環式基が挙げられる。
環状不飽和炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、アントラセニル基等のアリール基;シクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基;5-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エニル基等の多環の不飽和脂環式基が挙げられる。
【0110】
飽和炭化水素基が有する1または2以上の水素原子を環状不飽和炭化水素基に置換してなる基としては、例えば、ベンジル基、クミル基、1,1-ジフェニルエチル基、トリフェニルメチル基等のアルキル基が有する1または2以上の水素原子をアリール基に置換してなる基が挙げられる。
【0111】
1~R4、R21~R30におけるヘテロ原子含有炭化水素基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリールオキシ基、フリル基などの酸素原子含有炭化水素基;N-メチルアミノ基、N,N-ジメチルアミノ基、N-フェニルアミノ基等のアミノ基、ピリル基などの窒素原子含有炭化水素基;チエニル基などの硫黄原子含有炭化水素基が挙げられる。ヘテロ原子含有炭化水素基の炭素数は、通常1~20、好ましくは2~18、より好ましくは2~15である。ただし、ヘテロ原子含有炭化水素基からはケイ素含有基を除く。
【0112】
1~R4、R21~R30におけるケイ素含有基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、トリフェニルシリル基等の式-SiR3(式中、複数あるRはそれぞれ独立に炭素数1~15のアルキル基またはフェニル基である。)で表される基が挙げられる。
【0113】
1~R4、R21~R30までの置換基のうち、任意の2つの置換基、例えば隣接した2つの置換基(例:R1とR2、R2とR3、R3とR4、R21とR22、R22とR23、R23とR24、R25とR26、R26とR27、R27とR28、R29とR30)は互いに結合して環を形成していてもよい。前記環形成は、分子中に2箇所以上存在してもよい。
【0114】
本明細書において、2つの置換基が互いに結合して形成された環(付加的な環)としては、例えば、脂環、芳香環、ヘテロ環が挙げられる。具体的には、シクロヘキサン環;ベンゼン環;水素化ベンゼン環;シクロペンテン環;フラン環、チオフェン環等のヘテロ環およびこれに対応する水素化ヘテロ環が挙げられ、好ましくはシクロヘキサン環;ベンゼン環および水素化ベンゼン環である。また、このような環構造は、環上にアルキル基等の置換基をさらに有していてもよい。
【0115】
21、R24、R25およびR28は、好ましくは水素原子である。
22、R23、R26およびR27は、好ましくは水素原子、炭化水素基、酸素原子含有炭化水素基または窒素原子含有炭化水素基であり、より好ましくは炭化水素基である。R22とR23が互いに結合して環を形成し、かつR26とR27が互いに結合して環を形成していてもよい。以上のようなフルオレニル基部分の構造としては、例えば、下式で表されるものが挙げられる。
【0116】
【化9】
【0117】
29およびR30は、好ましくは炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基またはケイ素含有基であり、さらに好ましくはアリール基または置換アリール基(ヘテロ原子含有炭化水素基またはケイ素含有基を有するアリール基)である。
【0118】
〈Y〉
式[A3]において、Yは炭素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子またはスズ原子であり、好ましくは炭素原子である。
【0119】
〈M、Q、j〉
式[A3]において、Mは、第4族遷移金属であり、好ましくはTi、ZrまたはHfであり、より好ましくはZrまたはHfである。
Qはハロゲン原子、炭化水素基、アニオン配位子または孤立電子対で配位可能な中性配位子であり、jが2以上の整数であるとき、Qは同一または異なる組み合わせで選ばれる。
Qにおけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
Qにおける炭化水素基としては、R1~R4、R21~R30における炭化水素基と同様の基が挙げられ、好ましくは直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基等のアルキル基である。
Qにおけるアニオン配位子としては、例えば、メトキシ、tert-ブトキシ等のアルコキシ基;フェノキシ等のアリールオキシ基;アセテート、ベンゾエート等のカルボキシレート基;メシレート、トシレート等のスルホネート基;ジメチルアミド、ジイソプロピルアミド、メチルアニリド、ジフェニルアミド等のアミド基が挙げられる。
Qにおける孤立電子対で配位可能な中性配位子としては、例えば、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン等の有機リン化合物;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテルが挙げられる。
Qは、少なくとも1つがハロゲン原子またはアルキル基であることが好ましい。
jは1~4の整数であり、好ましくは2である。jが2以上の整数であるとき、Qは同一または異なる組合せで選んでもよい。
【0120】
前記遷移金属錯体(3)の具体例としては、国際公開第2004/87775号の第29~43頁に列挙された化合物、国際公開第2006/25540号の第9~37頁に列挙された化合物、国際公開第2015/122414号の[0117]に列挙された化合物、国際公開第2015/122415号の[0143]に列挙された化合物が挙げられる。
【0121】
(重合温度)
本発明において、エチレン系共重合体を製造する際の好ましい重合温度は20~200℃である。より好ましい下限値は40℃、さらに好ましくは50℃である。一方、より好ましい上限値は、190℃であり、さらに好ましくは180℃である。本発明の課題である高い生産性を考慮すると、できるだけ高温とすることが好ましい。一方、前述の触媒の種類によっては、高温にし過ぎると重合活性が低下し、生産性が低くなる場合がある。前記の様な範囲の温度であれば、高い重合活性で、所望のエチレン系共重合体を生産することができる傾向がある。
【0122】
(重合圧力)
本発明において、エチレン系共重合体を製造する際の重合圧力(P)は、0.1~10MPaが好ましく、より好ましい下限値は0.2MPaであり、さらに好ましくは0.3MPaである。一方、より好ましい上限値は8MPaであり、さらに好ましくは6MPaである。
この様な範囲の重合圧力であれば、高い重合活性で、所望のエチレン系共重合体を生産することができる傾向がある。
【0123】
(原料の供給について)
本発明において、エチレン、α-オレフィン、水素の反応装置への供給速度は、後述する触媒量や、反応装置の除熱能力等を考慮して決められる。これらの中で、エチレンとα-オレフィンとの供給量比は0.001~1,000が好ましく、0.01~100がより好ましく、さらに好ましくは0.1~10である。これらの比率は何れもモル比である。
【0124】
エチレンと水素との供給量比は0.0001~10000が好ましく、0.001~1000がより好ましく、さらに好ましくは0.005~500である。これらの比率は何れもモル比である。
好ましい滞留時間は、1分~10時間であり、より好ましくは、2分~8時間であり、さらに好ましくは5分~5時間である。エチレン系共重合体の製造方法が連続重合の場合、滞留時間をこの重合時間と見做すこともできる。
【0125】
本発明では、前記のようなオレフィン重合用触媒の存在下に重合を行うが、この際には、前記遷移金属化合物は、重合反応系内の遷移金属原子の濃度として通常、10-8~10-2グラム原子/リットル、好ましくは10-7~10-3グラム原子/リットルの範囲の量で用いられる。
【0126】
また、前記遷移金属化合物と組み合わせて用いられる周期律表の第13族元素を含む有機金属化合物は、前記遷移金属化合物中の遷移金属原子1モルに対して、「金属原子換算で、通常0.1~100モル、好ましくは0.5~50モルとなるような量で用いられる。
なお、前述のオレフィン重合用触媒は、後述する図1に示す反応装置では、エチレンとは別々に供給される。
【0127】
(反応装置の一態様)
以上説明したエチレン系共重合体の製造は、例えば、図1に示されるような、液相部(液相)と気相部(気相)とを有する反応装置にて行なわれる。
当該反応装置では、図1に示されるように、エチレンと水素等のガスを、例えば前記の比率の範囲内で反応装置内に供給する。
【0128】
図1で示される反応装置では、オレフィン重合体の製造は、連続重合プロセスで行う。連続重合プロセスでは、未反応のガスを循環させて再利用することもできる。以下、この再利用される未反応ガスを「循環ガス」ともいう。具体的には、図1に示されるように、原料エチレンや水素等のガスは、コンプレッサーにより圧力を調整された前記の循環ガスに適量加えて、反応系の液相部に供給することが好ましい。このような方法を取ることによって、容易に供給ガス組成を好ましい範囲に制御することができる。
【0129】
V.本発明で製造されるオレフィン重合体
本発明のオレフィン重合体の製造方法で得られるオレフィン重合体は、従来公知の重合体を安定して高い生産性で製造することができる。前記のオレフィン重合体は、例えばエンジンオイル等の潤滑油の基油成分や、粘度調整剤等の用途に好適に用いられる。また成形助剤、離型性付与剤などの所謂ワックスとしての用途にも好適である。
前記エチレン系共重合体の分子量は、極限粘度[η]や、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で特定される重量平均分子量や数平均分子量で表されることが多い。
【0130】
本発明の重合体の重量平均分子量は1,000~20,000の範囲であることが好ましく、より好ましくは1,000~17,000、さらに好ましくは1,000~15,000、特に好ましくは1,000~13,000である。前記範囲にあると、潤滑油に用いた場合の基油に対する増粘性と剪断安定性、またワックスとしての性能等に優れる。
【0131】
本発明の重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、特に前記の潤滑油用途の場合、2.5以下であることが好ましく、より好ましくは1.1~2.5の範囲であり、さらに好ましくは1.2~2.2の範囲である。前記範囲にあれば、得られる潤滑油組成物の剪断安定性が優れる。
【0132】
本発明のオレフィン重合体の数平均分子量および重量平均分子量は、分子量既知の標準物質(単分散ポリスチレン(PSt))を用いて較正されたGPCによって測定することができ、これらの結果より分子量分布(Mw/Mn)を算出することができる。分子量分布が広いと、α-オレフィン(共)重合体中に含まれる所望の分子量から外れたより高分子量の成分及び/又は低分子量の成分が増加し、高分子量の成分は上述の理由により剪断安定性を低下させる。
本発明におけるGPCの測定は、公知の条件で実施することができる。
本発明における、オレフィン重合体の極限粘度[η]は、JIS K7367規格に準じて、135℃のデカリン中で測定し、決定される。
【0133】
本発明のオレフィン重合体の製造方法において、主に潤滑油用途に好適とされるエチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとを共重合して得られるエチレン系共重合体は、エチレン由来の構造単位を、好ましくは20~80モル%含んでおり、より好ましくは25~75モル%、さらに好ましくは30~70モル%含んでいる。また、α-オレフィン由来の構造単位を、好ましくは20~80モル%含んでおり、より好ましくは25~75モル%、さらに好ましくは30~70モル%含んでいる。各構造単位の組成が前記範囲にあることにより、得られるエチレン系共重合体を用いた潤滑油として優れた温度・粘度特性を発揮することができる。
【実施例0134】
下記実施例および比較例等において、エチレン/α-オレフィン共重合体の物性や溶液粘度は以下の方法で測定した。
【0135】
<溶液粘度>
下記式(14)によって、溶液粘度μを算出した。下記ポリマー単味の粘度は、BROOLFIELD社製のDV-II-PROを用いて、6gのポリマーを100℃、100rpmの条件で測定した。溶媒単味の粘度は、周知の値を使用した(溶剤ハンドブック(講談社)の他、ウィキペディア等でも開示されている。)。
【0136】
【数1】
(式(14)中、μは溶液粘度[センチポイズ(cP)]、Xpは重合体濃度[wt%]、μpは重合体単味の粘度[cP]、μsは溶媒単味の粘度[cP]を表す。)
【0137】
<極限粘度[η]>
前記の通り、JIS K7367規格に準じて、135℃のデカリン中で測定した。
【0138】
<重合体濃度>
重合反応溶液を一定量採取し、その質量(M0[g])を測定する。
上記の重合反応溶液を減圧下、60℃以上でロータリーエバポレーターを用いて溶媒留去操作を行い、炭化水素化合物を除去した後、その質量(M1[g])を測定する。
重合体濃度は、下記式によって算出される。
重合体濃度=100 × (M1) / (M0)
【0139】
<実施例1>
温度制御のできるジャケットを付した内容積100Lの攪拌翼付耐圧反応器に、未反応ガスを循環できる様なコンプレッサーとバルブを付したライン(以下「循環ライン」と言うことがある。)、溶媒(n-ヘキサン)のフィードライン、原料ガス(エチレンおよび水素)のフィードライン、プロピレンのフィードライン、触媒(遷移金属触媒、ホウ素系助触媒およびトリイソブチルアルミニウム)のフィードライン、内容(生成)物抜出しラインを付した装置を用いて、エチレンとプロピレンとの重合を行った。この中で、エチレンと水素のフィードラインは、前記の循環ラインと連結した形状とした。
反応器には、高さ方向に、順に複数の温度センサーを設置した。前記センサーは、通常、反応器内の温度分布や液面の高さを把握でき、本願発明においては、後述する発生する泡の高さの決定にも利用した。
【0140】
重合条件は、以下の通りとし、循環ラインのバルブの開度を調節して未反応ガス(エチレン、プロピレン、水素)を循環させ、定常条件となる様に調整した。
重合条件の詳細および結果を以下に記載する。
【0141】
(重合条件)
重合温度:130℃
各反応材料の供給速度
・n-ヘキサン:4.4L/時間
・遷移金属触媒(国際公開第2015/147215号の実施例1と同様の化合物):0.0004mmol/時間
・ホウ素系助触媒((N,N-)ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート:0.004mmol/時間
・トリイソブチルアルミニウム:5mmol/時間
・エチレン:3.6kg/時間
・プロピレン:5.1kg/時間
・水素:90NL/時間
圧力:3.0MPa
重合体濃度:35重量%
重合反応溶液粘度:12センチポイズ
反応溶液の体積:28L
生産速度:8kg/時間
(エチレン系共重合体)
重合体の極限粘度[η]:0.14dl/g
(結果)
泡の高さの割合:装置高の30%(重合用液面の高さを0%、装置の最高点を100%とし、前述の複数の温度センサーが示す温度の値とその位置により算出した。以下、「泡の高さの割合」は、同様に算出した。)
【0142】
<実施例2>
実施例1の方法に準じ、以下の条件で実施した。結果を併せて示す。
【0143】
(重合条件)
重合温度:130℃
各反応材料の供給速度
・n-ヘキサン:6L/時間
・遷移金属触媒(国際公開第2015/147215号の実施例1と同様の化合物):0.0004mmol/時間
・ホウ素系助触媒((N,N-)ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート):0.004mmol/時間
・トリイソブチルアルミニウム:5mmol/時間
・エチレン:3.6kg/時間
・プロピレン:4.9kg/時間
・水素:90NL/時間
圧力:3.0MPa
重合体濃度:60重量%
重合反応溶液粘度:20センチポイズ
反応溶液の体積:28L
生産速度:8kg/時間
(エチレン系共重合体)
重合体の極限粘度[η]:0.14dl/g
(結果)
泡の高さの割合:装置高の15%以下
【0144】
<比較例1>
実施例1の方法に準じ、以下の条件で実施した。結果を併せて示す。
【0145】
(重合条件)
重合温度:130℃
各反応材料の供給速度
・n-ヘキサン:19.1L/時間
・遷移金属触媒(国際公開第2015/147215号の実施例1と同様の化合物):0.0004mmol/時間
・ホウ素系助触媒((N,N-)ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート):0.004mmol/時間
・トリイソブチルアルミニウム:5mmol/時間
・エチレン:3.7kg/時間
・プロピレン:6.5kg/時間
・水素:100NL/時間
圧力:3.0MPa
重合体濃度:35重量%
重合反応溶液粘度:2センチポイズ
反応溶液の体積:28L
生産速度:8kg/時間
(エチレン系共重合体)
重合体の極限粘度[η]:0.14dl/g
(結果)
泡の高さの割合:装置高の60%
【0146】
上記の結果を表1にまとめた。
【0147】
【表1】
【0148】
上記の通り、本発明の条件(I)および(II)の範囲内で重合を行えば、反応中の発泡を抑制しつつ、安定してオレフィン重合体を製造できることが分かる。
【符号の説明】
【0149】
1 コンプレッサー
2 バルブ
3 供給部(供給口)
4 攪拌軸
5 攪拌翼
6 反応装置
7 エチレン,水素
8 プロピレン
9 n-ヘキサン,触媒
10 未反応ガス(循環ガス)
11 生成物
12 気相部(気相)
13 液相部(液相)
図1