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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036397
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】吸音装置
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20230307BHJP
   B60R 13/08 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
G10K11/16 110
B60R13/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021143426
(22)【出願日】2021-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】308013436
【氏名又は名称】小島プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野田 諭之
(72)【発明者】
【氏名】小椎尾 一成
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 誠
(72)【発明者】
【氏名】早川 宗孝
(72)【発明者】
【氏名】松下 和哉
【テーマコード(参考)】
3D023
5D061
【Fターム(参考)】
3D023BA03
3D023BB21
3D023BD21
3D023BE05
3D023BE38
5D061AA06
5D061AA12
5D061AA23
5D061AA25
5D061BB35
5D061BB37
(57)【要約】      (修正有)
【課題】互いに周波数が異なる複数の騒音を双方とも吸音する吸音装置を提供する。
【解決手段】吸音装置1は、多層構造の吸音部10と、吸音部の縁部を支持する枠体20と、を備えている。吸音部は、第1騒音を吸音する第1吸音層11と、第1騒音とは異なる第2騒音を吸音する第2吸音層12と、を含む多層構造を有する。前1騒音と前記第2騒音とは、互いに周波数帯域が異なる音である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1騒音を吸音する第1吸音層と、前記第1騒音とは異なる周波数帯域の音である第2騒音を吸音する第2吸音層とを含む多層構造の吸音部と、
前記吸音部の縁部を支持する枠体と、
を備えることを特徴とする吸音装置。
【請求項2】
吸音部と前記吸音部の縁部を支持する枠体とを備える吸音装置であって、
前記吸音部は、所定形状の材料シートの単体または前記材料シートを分割した複数の分割体の一部によって構成され、
前記材料シートの単体によって構成される前記吸音部は、前記材料シートの単体と同じ所定形状をなし、
単一の前記材料シートから複数の前記吸音装置に跨って割り当てられた前記分割体によって構成される前記吸音部の集合体は、分割前の前記材料シートの所定形状をなす、
ことを特徴とする吸音装置。
【請求項3】
前記吸音部は、所定形状の材料シートの単体または前記材料シートを分割した複数の分割体の一部によって構成され、
前記材料シートの単体によって構成される前記吸音部は、前記材料シートの単体と同じ所定形状をなし、
単一の前記材料シートから複数の前記吸音装置に跨って割り当てられた前記分割体によって構成される前記吸音部の集合体は、分割前の前記材料シートの所定形状をなす、
ことを特徴とする請求項1に記載の吸音装置。
【請求項4】
前記吸音部は、
第1騒音を吸音する第1吸音層と、
前記第1騒音とは異なる周波数帯域の音である第2騒音を吸音する第2吸音層と、
を含む多層構造を有する、
ことを特徴とする請求項2に記載の吸音装置。
【請求項5】
前記枠体は、前記吸音部の厚さ方向に前記吸音部の縁部と重なる重なり部を備える、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の吸音装置。
【請求項6】
前記枠体の前記重なり部には、角無し形状の内面を有し、互いに離間する複数の貫通孔が形成されている、
ことを特徴とする請求項5に記載の吸音装置。
【請求項7】
前記吸音部の縁部は、前記吸音部をその厚さ方向に圧縮してなる圧縮部である、
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一つに記載の吸音装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両から発生する騒音を吸収する吸音装置が提案されている。例えば、特許文献1には、フェンダプロテクタまたはアンダーカバー等の車両用外装材として自動車に適用された吸音装置が開示されている。特許文献1に記載の吸音装置(車両用外装材)は、不織布等の吸音性を有する材料によって構成された吸音層を備え、当該吸音層により、所定の周波数の騒音を吸収するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-13538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、車両から発生する騒音には、車両のタイヤと路面との摺接によって発生するロードノイズや、車両のエンジン音等、様々なものがあり、しかも、これらの騒音の各周波数は互いに異なっている。このため、上述した従来の吸音装置では、ロードノイズおよびエンジン音等、互いに周波数が異なる複数の騒音のうち、いずれか一方の騒音しか吸音することができず、この結果、吸音されなかった騒音が車外騒音および車内騒音として残ってしまう。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、互いに周波数が異なる複数の騒音を双方とも吸音することができる吸音装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る吸音装置は、第1騒音を吸音する第1吸音層と、前記第1騒音とは異なる周波数帯域の音である第2騒音を吸音する第2吸音層とを含む多層構造の吸音部と、前記吸音部の縁部を支持する枠体と、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る吸音装置は、吸音部と前記吸音部の縁部を支持する枠体とを備える吸音装置であって、前記吸音部は、所定形状の材料シートの単体または前記材料シートを分割した複数の分割体の一部によって構成され、前記材料シートの単体によって構成される前記吸音部は、前記材料シートの単体と同じ所定形状をなし、単一の前記材料シートから複数の前記吸音装置に跨って割り当てられた前記分割体によって構成される前記吸音部の集合体は、分割前の前記材料シートの所定形状をなす、ことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る吸音装置は、上記の発明において、前記吸音部は、所定形状の材料シートの単体または前記材料シートを分割した複数の分割体の一部によって構成され、前記材料シートの単体によって構成される前記吸音部は、前記材料シートの単体と同じ所定形状をなし、単一の前記材料シートから複数の前記吸音装置に跨って割り当てられた前記分割体によって構成される前記吸音部の集合体は、分割前の前記材料シートの所定形状をなす、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る吸音装置は、上記の発明において、前記吸音部は、第1騒音を吸音する第1吸音層と、前記第1騒音とは異なる周波数帯域の音である第2騒音を吸音する第2吸音層と、を含む多層構造を有する、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る吸音装置は、上記の発明において、前記枠体は、前記吸音部の厚さ方向に前記吸音部の縁部と重なる重なり部を備える、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る吸音装置は、上記の発明において、前記枠体の前記重なり部には、角無し形状の内面を有し、互いに離間する複数の貫通孔が形成されている、ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る吸音装置は、上記の発明において、前記吸音部の縁部は、前記吸音部をその厚さ方向に圧縮してなる圧縮部である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る吸音装置によれば、互いに周波数が異なる複数の騒音を双方とも吸音することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の実施形態1に係る吸音装置の一構成例を示す模式図である。
図2図2は、図1に示す吸音装置の反対側の一構成例を示す模式図である。
図3図3は、本発明の実施形態1に係る吸音装置の吸音部の一構成例を示す模式図である。
図4図4は、本発明の実施形態1における吸音部の立体構造の一例を示す模式図である。
図5図5は、本発明の実施形態1における吸音部の断面構造の一例を示す模式図である。
図6図6は、本発明の実施形態1における吸音部の縁部と枠体との重なり構造の一例を示す模式図である。
図7図7は、本発明の実施形態1における吸音部と枠体とを一体成形するための成形金型の一構成例を示す断面模式図である。
図8図8は、成形金型内に設けられた複数の押圧ピンの各間を樹脂が流れる状態の一例を示す模式図である。
図9図9は、本発明の実施形態1に係る吸音装置の作用の一例を説明するための模式図である。
図10図10は、本発明の実施形態2に係る吸音装置の一構成例を示す模式図である。
図11図11は、本発明の実施形態2に係る吸音装置の吸音部の一構成例を示す模式図である。
図12図12は、本発明の実施形態2に係る吸音装置の吸音部と材料シートとの関係の一例を示す模式図である。
図13図13は、本発明の実施形態2に係る吸音装置の吸音部と材料シートとの関係の一変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係る吸音装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態により、本発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、各図面において、同一構成部分には同一符号が付されている。
【0016】
(実施形態1)
まず、本発明の実施形態1に係る吸音装置の構成について説明する。図1は、本発明の実施形態1に係る吸音装置の一構成例を示す模式図である。図1には、この吸音装置1を幅方向D2の一方側から見た図(側視図)が示されている。図2は、図1に示す吸音装置の反対側の一構成例を示す模式図である。図2には、図1に示す吸音装置1を幅方向D2の他方側(図1とは反対側)から見た側視図が示されている。本発明の実施形態1に係る吸音装置1は、例えば、車両用外装材の一例であるエプロンシールとして自動車に適用されるものであり、図1、2に示すように、車両から発生する騒音を吸収する吸音部10と、当該吸音部10を支持する枠体20とを備えている。
【0017】
なお、本明細書では、説明の便宜上、前後方向D1、幅方向D2および上下方向D3が設定されている。前後方向D1は、吸音装置1が適用される車両(自動車)の前後方向である。幅方向D2は当該車両の幅方向であり、上下方向D3は当該車両の上下方向である。これら3つの前後方向D1、幅方向D2および上下方向D3は、互いに直交する方向であり、車両に取り付けられた状態の吸音装置1についても同様である。また、本明細書において、車両といえば、特に説明がない限り、本発明に係る吸音装置(本実施形態1では吸音装置1)が適用される車両を意味する。
【0018】
吸音部10は、図1、2に示すように、第1騒音を吸音する第1吸音層11と、当該第1騒音とは異なる周波数帯域の音である第2騒音を吸音する第2吸音層12と、を含む多層構造体であり、第1吸音層11および第2吸音層12の各表面を露出させた態様で枠体20に設けられている。例えば、吸音部10は、図1に示すように幅方向D2の一方側に第1吸音層11の表面を露出させるとともに、図2に示すように幅方向D2の他方側に第2吸音層12の表面を露出させている。吸音部10は、この露出させた状態の第1吸音層11によって幅方向D2の一方側から第1騒音を吸音し、当該第1吸音層11とは反対側に露出させた状態の第2吸音層12によって幅方向D2の他方側から第2騒音を吸音する。
【0019】
また、吸音部10の縁部は、吸音部10の全領域うち、上述した第1吸音層11および第2吸音層12の吸音性能に寄与する領域よりも外側の領域である。図1、2に示すように、吸音部10の縁部のうち少なくとも一部は、枠体20との一体成形等によって枠体20と接合されている。吸音部10と枠体20との接合強度を高めるという観点から、吸音部10の縁部は、吸音部10の外周の全域に亘って連続的に枠体20と接合されることが好ましいが、吸音部10の外周に沿って断続的(間欠的)に枠体20と接合されてもよい。例えば、吸音部10の縁部と枠体20との接合領域は、吸音装置1に要求される吸音部10と枠体20との接合強度等によって設定される。また、図1、2に示すように、吸音部10の縁部は、多層構造の吸音部10をその厚さ方向に圧縮してなる圧縮部15であることが好ましい。なお、吸音部10の多層構造の詳細については、後述する。
【0020】
上述した吸音部10によって吸音される第1騒音および第2騒音は、双方とも車両から発生する騒音である。しかし、これら第1騒音および第2騒音の各周波数帯域は、互いに異なるものである。本発明において、「互いに周波数帯域が異なる」とは、例えば、周波数帯域に含まれる最大ピーク周波数が互いに異なること、或いは、周波数帯域の上限周波数同士または下限周波数同士が互いに異なることを意味する。これら第1騒音および第2騒音の各周波数帯域においては、その一部が互いに重なり合っていてもよいし、互いに重なり合う帯域がなくてもよい。上記第1騒音の具体例としては、車両のタイヤと路面との摺接によって発生するロードノイズ等が挙げられる。上記第2騒音の具体例としては、車両のエンジン音等、上記第1騒音に比べて高い騒音等が挙げられる。この具体例において、第2騒音の周波数帯域は、第1騒音の周波数帯域よりも高い。なお、周波数帯域同士の高低は、例えば、周波数帯域同士における最大ピーク周波数の高低によって決めることができる。
【0021】
枠体20は、吸音部10の縁部を支持するものである。詳細には、図1、2に示すように、枠体20は、吸音装置1の適用対象とする車両用外装材(本実施形態1では自動車のエプロンシール)の立体構造と、吸音部10の外形に対応する枠構造とを有するように、樹脂の射出成形等によって形成される。特に図示しないが、枠体20の枠構造は、上述した吸音部10の縁部(図1、2では圧縮部15)に対応する枠縁部と、当該枠縁部によって囲まれる内側領域を貫通する開口部と、を有するように構成される。枠体20の上記枠縁部には、図1、2に示すように、上記開口部を介して吸音部10の第1吸音層11および第2吸音層12の各表面を露出させた態様で、吸音部10の縁部が接合されている。枠体20は、このような吸音部10の縁部と上記枠縁部との接合により、吸音部10が枠体20の枠構造内に張設されるように吸音部10の縁部を支持する。
【0022】
また、枠体20は、図1に示すように、吸音部10の厚さ方向に吸音部10の縁部と重なる重なり部21を備えている。例えば、重なり部21は、枠体20の上記枠縁部によって構成される。また、枠体20の重なり部21には、図1に示すように、複数の貫通孔22が形成されている。なお、枠体20の重なり部21および貫通孔22の各構成の詳細については、後述する。
【0023】
また、図1、2に示すように、枠体20の上部23には、複数の取付部24が設けられている。これら複数の取付部24は、ボルト等の締結部材により、例えばエプロンシールとして吸音装置1を車体に取り付けるための構成部である。また、枠体20は、その下部から前後方向D1に延出する延出部25を備えている。延出部25は、例えば、サイドメンバ等の車体部材に吸音装置1を締結部材によって取り付けるための構成部である。
【0024】
(吸音部の構成)
つぎに、本発明の実施形態1における吸音部10の構成について説明する。図3は、本発明の実施形態1に係る吸音装置の吸音部の一構成例を示す模式図である。図3には、この吸音部10を幅方向D2の一方側(図1に示す吸音装置1と同じ視点)から見た図が示されている。図4は、本発明の実施形態1における吸音部の立体構造の一例を示す模式図である。図4には、この吸音部10を後方斜め上側から見た図が示されている。図5は、本発明の実施形態1における吸音部の断面構造の一例を示す模式図である。図5には、図1に示す吸音装置1のA-A線断面の模式図が示されている。
【0025】
吸音部10は、吸音性を有する所定形状の材料シートによって構成され、例えば金型を用いた成形加工等により、図3、4に示すように、山折りまたは谷折り等の折り目を含む立体構造に形成される。この吸音部10の立体構造は、例えばエプロンシールとして適用される吸音装置1の立体構造に応じたものとなっている。このような吸音部10を構成する上記材料シートとしては、例えば、不織布や繊維織物等、吸音性を有する多孔質材のシートが挙げられる。吸音性能およびコストの観点から、上記材料シートとして不織布のシートが好ましい。また、上記材料シートの素材繊維としては、例えば、ガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維等が挙げられる。
【0026】
また、材料歩留まりの向上の観点から、単一の吸音部10は、所定形状の材料シートの単体によって構成されることが好ましい。すなわち、材料シートの切り抜き等のトリミング加工が行われていない本来の材料シートの単体を成形(賦形)することにより、上記立体構造の吸音部10を形成することが好ましい。このように上記材料シートの単体によって構成される吸音部10は、上記材料シートの単体と同じ所定形状をなす。例えば、図3に示す吸音部10の成形前の形状は、その厚さ方向からの平面視で上記材料シートの単体と同じ所定形状(ここでは矩形形状)をなしている。なお、上記材料シートの単体がなす所定形状としては、例えば、矩形、台形、平行四辺形、ひし形、多角形等の各種形状が挙げられる。
【0027】
ここで、特開2020-82707号公報等の先行特許文献には、従来の吸音装置として、例えば、吸音性が付与されたアンダーカバー等の車両用外装材(車両用複合部材)が開示されている。このような従来の吸音装置では、吸音性を有する不織布等の多孔質シート材が車両用外装材の樹脂製枠内に展張され、これにより、当該車両用外装材に吸音性が付与され得る。しかしながら、従来の吸音装置では、上記車両用外装材の樹脂製枠内に多孔質シート材を設けて吸音層を構成するために、上記樹脂製枠の内部形状や内部寸法に応じて多孔質シート材をトリミング加工し、これにより、多孔質シート材の四隅角部等の部位を取り除かなければならない。このように多孔質シート材から取り除かれた部位は、当該多孔質シート材から吸音層を構成する際において材料ロスとなってしまい、この結果、当該吸音層を構成する際の材料歩留まりが悪化する。さらには、上記材料ロスとして多孔質シート材から取り除かれた部位が廃棄された場合、焼却等の廃棄処理が行われることから、環境に良くない恐れがある。
【0028】
これに対し、本発明の実施形態1に係る吸音装置1では、所定形状の材料シートの単体によって単一の吸音部10が構成され、当該単一の吸音部10が上記材料シートの単体と同じ所定形状をなすようにしている。このため、上記材料シートから吸音部10を構成する際に上記材料シートをトリミング加工する必要がなく、故に、吸音部10の構成時の材料ロスを低減することができ、この結果、吸音部10の構成時における材料歩留まりを向上できるとともに、材料シートの廃棄処理に起因する環境への悪影響を抑制することができる。
【0029】
また、図3、4に示すように、吸音部10は、互いに吸音性能が異なる第1吸音層11および第2吸音層12を含む多層構造を有する。詳細には、図5に示すように、吸音部10の多層構造は、上述した第1吸音層11および第2吸音層12と、これら2つの層の間に介在する中間層13とによって構成される。
【0030】
第1吸音層11は、不織布等の吸音性を有する材料シートによって構成され、図5に示すように、第2吸音層12とは吸音部10の厚さ方向(図5では幅方向D2)の反対側に設けられている。すなわち、第1吸音層11は、幅方向D2の一方側(図5では負側)に第1吸音面11aを露出させるように中間層13の一端面に設けられている。第1吸音面11aは、吸音部10の多層構造における第1吸音層11の露出面であり、具体的には図5に示すように、第1吸音層11の厚さ方向両端面のうち、中間層13とは反対側の表面である。第1吸音層11は、ロードノイズ等の第1騒音を第1吸音面11aから受け入れて振動することにより、この第1騒音を吸収する。
【0031】
このような第1吸音層11の吸音性能は、第1吸音層11の目付量を調整することにより、上記第1騒音の吸音に好適なものに設定され得る。第1吸音層11の目付量は、当該第1吸音層11の単位面積当たりの質量(g/m2)であり、第1吸音層11の構成素材の含有量や種類等をコントロールすることによって調整することが可能である。例えば、第1吸音層11の構成素材が不織布である場合、当該不織布を構成する繊維の含有量や種類、当該不織布において繊維同士を結合する樹脂の含有量や種類等をコントロールすることにより、第1吸音層11の吸音性能を上述のように設定することができる。
【0032】
また、第1吸音層11の吸音性能を、より低い周波数帯域の騒音の吸収に好適な吸音性能に設定する場合、第1吸音層11の目付量は、より多い目付量に調整される。第1吸音層11の吸音性能を、より高い周波数帯域の騒音の吸収に好適な吸音性能に設定する場合、第1吸音層11の目付量は、より少ない目付量に調整される。例えば、第1吸音層11の吸音対象となる第1騒音がロードノイズである場合、ロードノイズは第2吸音層12の吸音対象となるエンジン音等の第2騒音よりも低い周波集帯域の騒音であるから、第1吸音層11の目付量は、第2吸音層12よりも多い目付量に調整される。
【0033】
第2吸音層12は、不織布等の吸音性を有する材料シートによって構成され、図5に示すように、第1吸音層11とは吸音部10の厚さ方向の反対側に設けられている。すなわち、第2吸音層12は、幅方向D2の他方側(図5では正側)に第2吸音面12aを露出させるように中間層13の他端面に設けられている。第2吸音面12aは、吸音部10の多層構造における第2吸音層12の露出面であり、具体的には図5に示すように、第2吸音層12の厚さ方向両端面のうち、中間層13とは反対側の表面である。第2吸音層12は、エンジン音等の第2騒音を第2吸音面12aから受け入れて振動することにより、この第2騒音を吸収する。
【0034】
このような第2吸音層12の吸音性能は、第2吸音層12の目付量を調整することにより、上記第2騒音の吸音に好適なものに設定され得る。第2吸音層12の目付量は当該第2吸音層12の単位面積当たりの質量(g/m2)であるから、第2吸音層12の目付量の調整および吸音性能の設定は、上述した第1吸音層11の場合と同様の手法によって行うことができる。例えば、第2吸音層12の吸音対象となる第2騒音がエンジン音である場合、エンジン音は第1吸音層11の吸音対象となるロードノイズ等の第1騒音よりも高い周波集帯域の騒音であるから、第2吸音層12の目付量は、第1吸音層11よりも少ない目付量に調整される。
【0035】
中間層13は、上述した第1吸音層11および第2吸音層12を振動可能に支持するものである。詳細には、中間層13は、第1吸音層11および第2吸音層12と同様の材料シートによって構成され、図5に示すように、第1吸音層11と第2吸音層12との間に介在する。これらの第1吸音層11、第2吸音層12および中間層13は、中間層13を挟んで第1吸音層11および第2吸音層12が吸音部10の厚さ方向に積層された態様の多層構造を構成する。中間層13は、これらの第1吸音層11および第2吸音層12とともに、吸音部10の立体構造に成形される。
【0036】
また、図5に示すように、中間層13の厚さ方向両端面のうち、一方の端面(図5では幅方向D2の負側の端面)は、第1吸音層11の裏面と面接合される。なお、第1吸音層11の裏面は、第1吸音層11の厚さ方向両端面のうち第1吸音面11aとは反対側の面である。中間層13は、このように面接合された第1吸音層11を支持しながら、第1吸音層11の吸音時の振動を許容する。このようにして、中間層13は、第1吸音層11を振動可能に支持する。さらに、中間層13は、第1騒音を吸音する際の第1吸音層11とともに振動し、これにより、第1吸音層11の吸音を支援する。この際、中間層13は、例えば、第1吸音層11の吸音作用によって減衰した第1騒音をさらに吸音して減衰させる。或いは、中間層13は、第1吸音層11が吸音しきれなかった騒音を吸音して減衰させる。
【0037】
また、図5に示すように、中間層13の厚さ方向両端面のうち、他方の端面(図5では幅方向D2の正側の端面)は、第2吸音層12の裏面と面接合される。なお、第2吸音層12の裏面は、第2吸音層12の厚さ方向両端面のうち第2吸音面12aとは反対側の面である。中間層13は、このように面接合された第2吸音層12を支持しながら、第2吸音層12の吸音時の振動を許容する。このようにして、中間層13は、第2吸音層12を振動可能に支持する。さらに、中間層13は、第2騒音を吸音する際の第2吸音層12とともに振動し、これにより、第2吸音層12の吸音を支援する。この際、中間層13は、例えば、第2吸音層12の吸音作用によって減衰した第2騒音をさらに吸音して減衰させる。或いは、中間層13は、第2吸音層12が吸音しきれなかった騒音を吸音して減衰させる。
【0038】
上述したような中間層13の厚さは、吸音部10に要求される第1吸音層11および第2吸音層12の各吸音性能と、中間層13に掛かるコストと、中間層13に許容される質量とに基づいて設定される。
【0039】
具体的には、第1吸音層11および第2吸音層12の各吸音性能を要求に応じて高めるためには、第1吸音層11および第2吸音層12と各々面接合される中間層13の各端面を振動し易くすべく、中間層13の厚さを増やす必要がある。そして、中間層13の厚さを増やすためには、この中間層13の目付量を増やす必要がある。なお、中間層13の目付量の調整は、上述した第1吸音層11および第2吸音層12の場合と同様の手法によって行うことができる。一方、中間層13の目付量を増やした場合、中間層13の構成素材に含まれる繊維の含有量が増大し、この結果、中間層13のコストおよび質量が増大する。すなわち、第1吸音層11および第2吸音層12の各吸音性能の上昇は、中間層13のコストおよび質量の増大を引き起こすものであり、中間層13のコストおよび質量の低減とはトレードオフの関係にある。したがって、中間層13の厚さは、第1吸音層11および第2吸音層12の各々について要求される吸音性能の上昇の度合と、中間層13について許容されるコストおよび質量の各増大の度合とを加味して設定される。
【0040】
また、図3、4に示すように、吸音部10は、上述した枠体20(図1、2参照)によって支持される圧縮部15を備えている。圧縮部15は、吸音部10の縁部であり、多層構造の吸音部10をその厚さ方向に圧縮してなる。例えば、図3に示すように、圧縮部15は、吸音部10の外周の全域に亘って連続的に形成されることが好ましいが、吸音部10の外周に沿って断続的(間欠的)に形成されていてもよい。
【0041】
詳細には、図5に示すように、圧縮部15は、吸音部10の縁部における第1吸音層11と第2吸音層12と中間層13とを、これらの厚さ方向に圧縮することによって形成される。このような圧縮部15における第1吸音層11、第2吸音層12および中間層13においては、これらの各層に含まれる繊維同士の間隔が、圧縮されていない各層に比べて狭くなっている。これに加え、圧縮部15の各層の密度は、圧縮されていない各層の密度よりも大きくなっている。したがって、圧縮部15は、その縁端部14(すなわち吸音部10の縁部の外周端部)から樹脂等の流体が流入し難いとともに、圧縮されていない各層に比べて剛性が高いものとなる。このように高い剛性を有する圧縮部15は、吸音部10の意図しない曲げや弛みを抑制することが可能である。
【0042】
なお、上記「圧縮されていない各層」は、吸音部10のうち、圧縮部15によって囲まれる内側の多層構造の第1吸音層11、第2吸音層12および中間層13を意味する。これら内側の第1吸音層11、第2吸音層12および中間層13は、吸音部10の吸音性能に寄与するものである。一方、圧縮部15は、上述した第1吸音層11および第2吸音層12等を有しているが、吸音対象の第1騒音や第2騒音を吸音するものではない。すなわち、本発明において、第1吸音層11、第2吸音層12および中間層13といえば、特に説明がない限り、圧縮部15に囲まれる内側の各層を意味する。
【0043】
(吸音部と枠体との重なり構造)
つぎに、本発明の実施形態1における吸音部10と枠体20との重なり構造について説明する。枠体20は、上述した図1に示すように、吸音部10の縁部と重なる重なり部21を備えている。図6は、本発明の実施形態1における吸音部の縁部と枠体との重なり構造の一例を示す模式図である。図6には、図1に示した吸音装置1の破線で囲まれる領域を拡大した図が示されている。また、この重なり部21の断面構造の一例は、上述した図5に示されている。
【0044】
図5、6に示すように、重なり部21は、枠体20のうち、吸音部10の縁部をなす圧縮部15と厚さ方向に重なる領域であり、吸音部10の外周に沿って形成される。重なり部21は、吸音部10と枠体20との接合強度を高めるという観点から、吸音部10の外周の全域に亘って、吸音部10の圧縮部15と接合されるとともに当該圧縮部15と重なり合うことが好ましい。この場合、重なり部21は、図5に示すように圧縮部15の厚さ方向の一端面と重なっていてもよいし、特に図示していないが当該圧縮部15の厚さ方向の両端面と重なっていてもよい。なお、重なり部21は、吸音部10と枠体20との好適な接合強度を確保する限り、吸音部10の外周に沿って断続的に圧縮部15と重なり合っていてもよい。例えば、吸音部10の圧縮部15と枠体20の重なり部21との重なり幅は、吸音部10の外周端部(図5に示す縁端部14)と重なり部21の内周端部との間の距離であり、10mm以上20mm以下であることが好ましい。
【0045】
ところで、吸音部10は、不織布等の吸音性を有する材料によって構成されるため、表面に微細な孔を多数有している。これに対し、枠体20は、樹脂の射出成形等によって形成されているため、吸音部10に比べて表面の凹凸が少なく滑らかで、見栄えの良い表面を有している。したがって、吸音装置1の見栄えを良くするという観点から、重なり部21は、圧縮部15と接合されているか否かによらず、吸音部10の外周の全域に亘って圧縮部15を覆うように、当該圧縮部15と重なり合うことが好ましい。また、重なり部21は、吸音部10の厚さ方向両端面のうち、吸音装置1が設けられる車両の外側に露出する端面の縁部を覆うように、圧縮部15と重なることが好ましい。例えば、吸音装置1が吸音部10の第1吸音層11を車両の外側に露出させる態様で車両に取り付けられる場合、重なり部21は、図5、6に示すように、当該第1吸音層11側から圧縮部15と重なることが好ましい。
【0046】
また、図6に示すように、枠体20の重なり部21には複数の貫通孔22が形成されている。これら複数の貫通孔22の各々は、角無し形状(図6では円形状)の内面をなす貫通孔であり、互いに離間している。角無し形状としては、例えば、円形状、楕円形状、オーバル形状、角丸多角形等、角が無く丸みを帯びた形状が挙げられる。
【0047】
これら複数の貫通孔22の各々は、樹脂の射出成形によって吸音部10と枠体20とを一体成形する際の金型内の押圧ピンの外形に追従して形成される。図7は、本発明の実施形態1における吸音部と枠体とを一体成形するための成形金型の一構成例を示す断面模式図である。図7に示すように、この成形金型50は、例えば、第1金型51と第2金型55とを備えている。第1金型51は、樹脂が充填されるキャビティ面51aと、吸音部10の第1吸音層11を成形するためのキャビティ面51bと、複数の押圧ピン52とを有する。これら複数の押圧ピン52は、第1金型51のうち樹脂が充填されるキャビティ面51aに設けられている。第2金型55は、第1金型51のキャビティ面51aと対向するキャビティ面55aと、吸音部10の第2吸音層12を成形するためのキャビティ面55bとを有する。
【0048】
吸音部10と枠体20との一体成形において、成形金型50は、図7に示すように、第1金型51と第2金型55との間に吸音部10を挟み込み、これにより、吸音部10の目的とする立体構造をなすように第1吸音層11と第2吸音層12と中間層13とを成形する。これと同時に、第1金型51は、複数の押圧ピン52によって吸音部10の圧縮部15を第2金型55のキャビティ面55aに押し付ける。その後、第1金型51のキャビティ面51aと第2金型55のキャビティ面55aとの間の空間内へ樹脂30が射出される。樹脂30は、射出圧力によって当該空間内へ流入し、図7に示すように、成形金型50の内部に充填される。この際、樹脂30は、複数の押圧ピン52の各間を流れて、第1金型51のキャビティ面51aと圧縮部15との間に充填される。
【0049】
図8は、成形金型内に設けられた複数の押圧ピンの各間を樹脂が流れる状態の一例を示す模式図である。図8に示すように、複数の押圧ピン52の各々は、その横断面形状が角無し形状(図8では円形状)をなすものである。すなわち、これら複数の押圧ピン52の各々には、樹脂30の流れを阻害する原因となる角が無い。このような押圧ピン52の各間には、樹脂30が円滑に流入する。この結果、樹脂30は、第1金型51のキャビティ面51aと吸音部の圧縮部15との間において、射出の上流側から第1金型51のキャビティ面51aとキャビティ面51bとの境界部51c(図7、8参照)に至るまで、ムラ無く均等に充填される。このように充填された樹脂30は、吸音部10の圧縮部15と一体成形(例えばインサート成形)されるとともに、上述した枠体20の重なり部21を構成する。この重なり部21には、上述したように複数の押圧ピン52の各間を樹脂30が円滑に流入した結果として、これら複数の押圧ピン52の各外形に対応する複数の貫通孔22(図6参照)が形成されている。これら複数の貫通孔22の各々の中心間距離は、複数の押圧ピン52の各々のピッチに相当し、各貫通孔22間で均等であってもよいし、樹脂30の流れを阻害しない程度に異なっていてもよい。
【0050】
また、吸音部10の圧縮部15は、上述したように構成素材の間隔(含有する繊維同士の間隔)を狭めて流体が流入し難い状態にあるとともに、高い剛性を有している。したがって、吸音部10と枠体20とを一体成形すべく成形金型50の内部に樹脂30が射出によって圧入されても、圧縮部15は、樹脂30の射出圧力に抗して、第1金型51のキャビティ面51a、51b間の境界部51cを閉じた状態と、第2金型55のキャビティ面55aに面接触した状態とを維持する。これにより、圧縮部15と第1金型51のキャビティ面51bとの間に樹脂30が意図せず流入する事態と、圧縮部15と第2金型55のキャビティ面55a、55bとの間に樹脂30が意図せず流入する事態とを防止することができる。さらに、圧縮部15は、吸音部10の縁端部14から樹脂30が意図せず流入する事態を防止することができる。
【0051】
(吸音装置の作用)
つぎに、本発明の実施形態1に係る吸音装置1の作用について説明する。図9は、本発明の実施形態1に係る吸音装置の作用の一例を説明するための模式図である。図9に示すように、吸音装置1は、車両用外装材の一例であるエプロンシールとして、車両100に適用される。
【0052】
具体的には、図9に示すように、車両100は、ホイールハウスや車体を構成するフェンダーライナー101、エプロン102、エプロンシール(吸音装置1)、アンダーカバー105およびサイドメンバ106等の車両用外装材を備えている。また、車両100は、ホイール104に装着されたタイヤ103をホイールハウス内に備え、エンジン等の動力源107を車両の動力室内に備えている。例えば、エプロンシールとしての吸音装置1は、吸音部10の第1吸音層11を車両100の外側(車外側)に露出させ且つ吸音部10の第2吸音層12を車両100の内側(車内側)に露出させるように、サイドメンバ106とアンダーカバー105とに取り付けられている。なお、動力源107は、車両100の動力を発生させる装置であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関、電力によって駆動する電動機(モータ)、これらの内燃機関と電動機とを組み合わせたハイブリット機関等である。
【0053】
ここで、車両100が走行している際、車外側では、タイヤ103と路面との摺接によるロードノイズ等の第1騒音110が発生し、且つ、車内側では、動力源107から発生する騒音としての第2騒音120が発生する。なお、動力源107から発生する騒音としては、例えば、内燃機関から発生するエンジン音、電動機から発生するモータ音、ハイブリット機関から発生する複合音(エンジン音とモータ音とを組み合わせた音)等が挙げられる。これらの第1騒音110および第2騒音120は、互いに異なる周波数帯域の騒音である。具体的には、車外側の第1騒音110は、車内側の第2騒音120よりも周波数帯域が低い騒音である。
【0054】
図9に示すように、吸音装置1は、車外側を向く第1吸音層11で第1騒音110を受けるとともに、第1吸音層11の振動によって第1騒音110を吸音する。これにより、第1吸音層11は、ホイールハウス内での第1騒音110の反射(反響)と車内側への第1騒音110の伝播とを抑制する。これに並行して、吸音装置1は、車内側を向く第2吸音層12で第2騒音120を受けるとともに、第2吸音層12の振動によって第2騒音120を吸音する。これにより、第2吸音層12は、動力室内での第2騒音120の反射(反響)と車外側への第2騒音120の伝播とを抑制する。
【0055】
また、車両100が停止した状態であっても、動力源107が動作している限り、動力源107から第2騒音120が発生する。この場合においても、吸音装置1は、上記と同様に第2吸音層12によって第2騒音120を吸音し、これにより、車内側での第2騒音120の反射および車外側への第2騒音120の伝播を抑制する。
【0056】
以上、説明したように、本発明の実施形態1に係る吸音装置1は、多層構造の吸音部10と、当該吸音部10の縁部を支持する枠体20とを備え、吸音部10は、第1騒音を吸音する第1吸音層11と、前記第1騒音とは異なる周波数帯域の音である第2騒音を吸音する第2吸音層12とを含む多層構造を有している。
【0057】
上記の構成により、吸音部10の厚さ方向の一方側から第1吸音層11によって前記第1騒音を吸音するとともに、吸音部10の厚さ方向の他方側から第2吸音層12によって前記第2騒音を吸音することができる。このため、例えば、車両の車外側において発生するロードノイズ等の車外騒音と、当該車外騒音よりも高い周波数帯域の騒音であって車内側において発生するエンジン音等の車内騒音とを、双方とも反射せずに吸音することができる。したがって、互いに周波数帯域が異なる複数の騒音を双方とも吸音することができ、これら複数の騒音の反響および伝播を抑制することができる。特に、車外側から上記ロードノイズ等の車外騒音を受けるとともに車内側から上記エンジン音等の車内騒音を受ける車両用外装材に好適な吸音装置を実現することができる。
【0058】
また、本発明の実施形態1に係る吸音装置1では、吸音性を有する所定形状(例えば矩形形状)の材料シートの単体によって吸音部10を構成し、前記材料シートの単体によって構成される吸音部10は、前記材料シートの単体と同じ所定形状をなすようにしている。このため、前記材料シートから吸音部10を構成する際に前記材料シートをトリミング加工する必要がなく、故に、吸音部10の構成時の材料ロスを低減することができる。この結果、吸音部10の構成時における材料歩留まりを向上できるとともに、材料シートの廃棄量を減らして環境の保全および良化に寄与することができる。
【0059】
また、本発明の実施形態1に係る吸音装置1では、枠体20が、吸音部10の厚さ方向に吸音部10の縁部と重なる重なり部21を備えている。このため、吸音部10の縁部と枠体20との接合強度を、重なり部21の幅(吸音部10の縁部と枠体20との重なり幅)に応じて強化することができる。さらには、微細な凹凸を多数有する吸音部10の縁部を、凹凸が少なく滑らかな表面を有する枠体20によって覆うことができ、これにより、吸音装置1の見栄えを良くすることができる。
【0060】
また、本発明の実施形態1に係る吸音装置1では、角無し形状の内面を有して互いに離間する複数の貫通孔22が、枠体20の重なり部21に形成されるようにしている。すなわち、樹脂の射出成形によって吸音部10と枠体20とを一体成形するための成形金型50において、吸音部10の縁部を成形金型50のキャビティ面に押し付ける複数の押圧ピン52が、上記貫通孔22と同じ角無し形状の外形を有するように構成されている。このため、成形金型50のキャビティ内に射出した樹脂を複数の押圧ピン52の各間に円滑に流すことができ、これにより、成形金型50のキャビティ内に必要量の樹脂を充填して、枠体20の重なり部21をムラ無く形成することができる。
【0061】
また、本発明の実施形態1に係る吸音装置1では、吸音部10の縁部を、当該吸音部10がその厚さ方向に圧縮されてなる圧縮部15にしている。このため、吸音部10の縁部における構成素材の間隔(例えば含有する繊維同士の間隔)を狭めるとともに、当該縁部の剛性を高めることができる。したがって、吸音部10と枠体20とを一体成形すべく成形金型50の内部に樹脂を射出によって圧入しても、吸音部10の縁部である圧縮部15は、この樹脂の射出圧力によって変形することなく、成形金型50に応じた適正な成形形状を維持することができる。これにより、成形金型50のキャビティ面と圧縮部15との間に樹脂が意図せず流入する事態を防止することができ、この結果、吸音部10の第1吸音層11および第2吸音層12の各吸音面のうち少なくとも一方に樹脂が意図せず付着する事態を回避することができる。さらに、圧縮部15の外周端部(吸音部10の縁端部14)から樹脂が意図せず流入する事態を防止することができ、この結果、吸音部10の内部に樹脂が流入して吸音部10の吸音性能が低下する事態を回避することができる。
【0062】
(実施形態2)
つぎに、本発明の実施形態2に係る吸音装置について説明する。図10は、本発明の実施形態2に係る吸音装置の一構成例を示す模式図である。図10には、上述した図1と同様、この吸音装置1Aを幅方向D2の一方側から見た側視図が示されている。図10に示すように、この吸音装置1Aは、上述した実施形態1に係る吸音装置1の吸音部10に代えて吸音部10Aを備え、枠体20に代えて枠体20Aを備える。枠体20Aは、実施形態1における枠体20の重なり部21に代えて吸音部10Aの縁部形状に対応する重なり部21Aを備える。その他の構成は実施形態1と同じであり、同一構成部分には同一符号を付している。
【0063】
図11は、本発明の実施形態2に係る吸音装置の吸音部の一構成例を示す模式図である。図11には、上述した図3と同様、この吸音部10Aを幅方向D2の一方側から見た図が示されている。本実施形態2において、吸音部10Aは、所定形状の材料シートを分割した複数の分割体の一部(図11では、単一の分割体)によって構成される。なお、この材料シートの構成素材は、上述した実施形態1における吸音部10の材料シートと同様である。
【0064】
詳細には、図11に示すように、吸音部10Aは、単一の上記材料シートから吸音装置1A(図10参照)に割り当てられた単一の分割体をトリミング加工せずに成形(賦形)することにより、吸音装置1Aに応じた立体構造に形成される。このような吸音部10Aの成形前の形状は、上記単一の分割体と同じ形状である。なお、吸音部10Aは、上述した実施形態1における吸音部10とは外形が異なること以外、これと同様に構成されている。例えば、図11に示すように、吸音部10Aは、上述した実施形態1と同様の第1吸音層11および第2吸音層12を含む多層構造を有している。また、吸音部10Aの縁部は、上述した実施形態1と同様に圧縮部15である。
【0065】
また、本発明の実施形態2では、所定形状の材料シートを分割した複数の分割体の一部によって吸音部10Aが構成され、単一の上記材料シートから複数の吸音装置1Aに跨って割り当てられた分割体によって構成される吸音部10Aの集合体は、分割前の上記材料シートの所定形状をなしている。図12は、本発明の実施形態2に係る吸音装置の吸音部と材料シートとの関係の一例を示す模式図である。図12において、材料シート200は、本発明の実施形態2における所定形状の材料シートの一例であり、不織布や繊維織物等の吸音性を有する多孔質材からなるシートである。例えば図12では、材料シート200は、矩形形状をなしている。また、2つの吸音装置1A-1、1A-2は、順次製造される複数の吸音装置1Aの一例であり、例えば、図10に示した吸音装置1Aと同様の構成を各々有する。
【0066】
複数の吸音装置1Aの製造において、2つの吸音装置1A-1、1A-2の製造毎に単一の材料シート200が用いられる。例えば図12に示すように、単一の材料シート200は2つの分割体200a、200bに分割され、これら2つの分割体200a、200bは、双方ともトリミング加工されずに、2つの吸音装置1A-1、1A-2に各々割り当てられる。具体的には、1つの分割体200aは、目的とする立体構造に成形されて吸音部10A-1を構成するとともに、樹脂の射出成形によって枠体20A-1と一体成形される。これにより、1つの吸音装置1A-1が製造される。これと同様に、もう1つの分割体200bは、目的とする立体構造に成形されて吸音部10A-2を構成するとともに、樹脂の射出成形によって枠体20A-2と一体成形される。これにより、もう1つの吸音装置1A-2が製造される。
【0067】
ここで、単一の材料シート200から得られた2つの分割体200a、200bは、双方ともトリミング加工されることなく、2つの吸音装置1A-1、1A-2の各吸音部10A-1、10A-2を各々構成している。すなわち、一方の吸音部10A-1の成形前の外形は1つの分割体200aの外形と同じであり、また、他方の吸音部10A-2の成形前の外形はもう1つの分割体200bの外形と同じである。したがって、単一の材料シート200から2つの吸音装置1A-1、1A-2に跨って割り当てられた分割体200a、200bによって構成される吸音部10A-1、10A-2の集合体は、分割前の材料シート200の所定形状(図12では矩形形状)をなす。故に、単一の材料シート200から2つの吸音部10A-1、10A-2を構成する際における材料ロスを低減することができ、この結果、2つの吸音装置1A-1、1A-2の製造時における材料歩留まりを向上できるとともに、材料シート200の廃棄処理に起因する環境への悪影響を抑制することができる。
【0068】
なお、上述した実施形態2では、単一の材料シート200を分割した2つの分割体200a、200bのうち、1つの分割体200aによって一方の吸音部10A-1を構成し、もう1つの分割体200bによって他方の吸音部10A-2を構成していたが、本発明は、これに限定されない。例えば、単一の材料シート200を3つ以上の分割体に分割し、これら3つ以上の分割体を複数の吸音装置に跨って割り当てて、これら複数の吸音装置の各吸音部を構成してもよい。
【0069】
図13は、本発明の実施形態2に係る吸音装置の吸音部と材料シートとの関係の一変形例を示す模式図である。図13において、材料シート200は、3つ以上の分割体の一例として、4つの分割体200c-1、200c-2、200d-1、200d-2に分割されている。例えば、分割体200c-1および分割体200c-2は互いに外形が同じ分割体であり、分割体200d-1および分割体200d-2は互いに外形が同じ分割体である。分割体200c-1、200c-2と分割体200d-1、分割体200d-2とは、互いに外形が異なる分割体である。
【0070】
図13に示すように、単一の材料シート200から分割された4つの分割体200c-1、200c-2、200d-1、200d-2は、いずれもトリミング加工されずに、2つの吸音装置1A-1、1A-2に所定の組み合わせで割り当てられる。具体的には、1組の分割体200c-1、200d-1は、目的とする立体構造に成形されて吸音部10A-1を構成するとともに、樹脂の射出成形によって枠体20A-1と一体成形される。これにより、1つの吸音装置1A-1が製造される。これと同様に、もう1組の分割体200c-2、200d-2は、目的とする立体構造に成形されて吸音部10A-2を構成するとともに、樹脂の射出成形によって枠体20A-2と一体成形される。これにより、もう1つの吸音装置1A-2が製造される。
【0071】
ここで、単一の材料シート200から得られた4つの分割体200c-1、200c-2、200d-1、200d-2は、いずれもトリミング加工されることなく、上述した2組に分かれて2つの吸音装置1A-1、1A-2の各吸音部10A-1、10A-2を各々構成している。すなわち、一方の吸音部10A-1の成形前の外形は、1組の分割体200c-1、200d-1の組み合わせの外形と同じである。他方の吸音部10A-2の成形前の外形は、もう1組の分割体200c-2、200d-2の組み合わせの外形と同じである。したがって、単一の材料シート200から2つの吸音装置1A-1、1A-2に跨って割り当てられた分割体200c-1、200c-2、200d-1、200d-2によって構成される吸音部10A-1、10A-2の集合体は、分割前の材料シート200の所定形状(図13では矩形形状)をなす。故に、たとえ1つの吸音部を2つの分割体によって構成する場合でも、単一の材料シート200から2つの吸音部10A-1、10A-2を構成する際における材料ロスを低減することができる。この結果、2つの吸音装置1A-1、1A-2の製造時における材料歩留まりを向上できるとともに、材料シート200の廃棄処理に起因する環境への悪影響を抑制することができる。
【0072】
なお、上述した実施形態2の変形例では、単一の材料シート200を分割した4つの分割体200c-1、200c-2、200d-1、200d-2のうち、1組の分割体200c-1、200d-1によって一方の吸音部10A-1を構成し、もう1組の分割体200c-2、200d-2によって他方の吸音部10A-2を構成していたが、本発明は、これに限定されない。例えば、単一の材料シート200からは、上述した2つまたは4つの分割体が得られてもよいし、3つ以上の分割体が得られてもよい。また、単一の材料シート200から分割される複数の分割体は、外形が全て同じものでも異なるものでもよいし、互いに外形が同じものと異なるものとの組み合わせであってもよい。また、単一の材料シート200から吸音部を構成する分割体が割り当てられる吸音装置の数は、上述した2つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0073】
以上、説明したように、本発明の実施形態2および変形例では、吸音部と前記吸音部の縁部を支持する枠体とを備える吸音装置において、前記吸音部が、所定形状の材料シートを分割した複数の分割体の一部によって構成され、単一の前記材料シートから複数の前記吸音装置に跨って割り当てられた前記分割体によって構成される前記吸音部の集合体が、分割前の前記材料シートの所定形状をなすようにし、その他を実施形態1と同様に構成している。このため、上述した実施形態1と同様の作用効果を享受するとともに、単一の前記材料シートから複数の前記吸音装置の各吸音部を構成する際に、前記材料シートをトリミング加工する必要がなく、故に、当該各吸音部の構成時の材料ロスを低減することができる。この結果、複数の前記吸音装置の製造時における材料歩留まりを向上できるとともに、前記材料シートの廃棄量を減らして環境の保全および良化に寄与することができる。
【0074】
なお、上述した実施形態1、2および変形例では、吸音装置が適用される車両用外装材の一例としてエプロンシールを例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、本発明に係る吸音装置は、フェンダーライナーまたはアンダーカバー等、エプロンシール以外の車両用外装材(車両のホールハウスや床下構造を構成するための部品等)であってもよい。
【0075】
また、上述した実施形態1、2および変形例では、第1騒音を吸音する第1吸音層と、第2騒音を吸音する第2吸音層と、これらの間に介在する中間層との3層によって構成される多層構造の吸音部を例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、これら第1吸音層、第2吸音層および中間層は、それぞれ独立して、単層構造のものであってもよいし、多層構造のものであってもよい。すなわち、本発明に係る吸音装置の吸音部は、1層以上の第1吸音層と1層以上の第2吸音層と1層以上の中間層とからなる3層以上の多層構造を有していてもよい。
【0076】
また、上述した実施形態1、2および変形例では、第1吸音層によって吸音される第1騒音としてロードノイズを例示し、第2吸音層によって吸音される第2騒音として車両の動力源から発生するエンジン音等の騒音(動力源由来の騒音)を例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明において、これらの第1騒音および第2騒音は、上述したロードノイズや動力源由来の騒音であってもよいし、これら以外の騒音、例えば、車両と車外の物体(土砂、小石、水等)と衝突によって発生する衝突音等であってもよい。また、上記第1騒音は、上記第2騒音よりも周波数帯域が低い騒音に限定されず、上記第2騒音よりも周波数帯域が高い騒音であってもよい。
【0077】
また、上述した実施形態1、2および変形例では、所定形状の材料シートの単体または分割体によって吸音部を構成していたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1において、吸音部は、上記所定形状の材料シートの単品を複数に切り分けたものによって構成されてもよい。また、上述した実施形態2および変形例において、単一の上記材料シートから複数の吸音装置に跨って割り当てられる分割体の数は、吸音装置毎に、1つまたは2つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0078】
また、上述した実施形態1、2および変形例によって本発明が限定されるものではなく、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上述した実施形態1、2および変形例に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0079】
1、1A、1A-1、1A-2 吸音装置
10、10A、10A-1、10A-2 吸音部
11 第1吸音層
11a 第1吸音面
12 第2吸音層
12a 第2吸音面
13 中間層
14 縁端部
15 圧縮部
20、20A、20A-1、20A-2 枠体
21、21A 重なり部
22 貫通孔
23 上部
24 取付部
25 延出部
30 樹脂
50 成形金型
51 第1金型
51a、51b キャビティ面
51c 境界部
52 押圧ピン
55 第2金型
55a、55b キャビティ面
100 車両
101 フェンダーライナー
102 エプロン
103 タイヤ
104 ホイール
105 アンダーカバー
106 サイドメンバ
107 動力源
110 第1騒音
120 第2騒音
200 材料シート
200a、200b、200c-1、200c-2、200d-1、200d-2 分割体
D1 前後方向
D2 幅方向
D3 上下方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13