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  • 特開-過酢酸生成組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036427
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】過酢酸生成組成物
(51)【国際特許分類】
   C11C 3/00 20060101AFI20230307BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20230307BHJP
   A01N 37/46 20060101ALI20230307BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
C11C3/00
A01N59/00 A
A01N37/46
A01P1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021143480
(22)【出願日】2021-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】521389295
【氏名又は名称】伊藤 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 仁
【テーマコード(参考)】
4H011
4H059
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011BA02
4H011BB18
4H011BC06
4H011DA02
4H059AA03
4H059AA11
4H059BA26
4H059BA27
4H059BA42
4H059BC03
4H059BC13
4H059BC45
4H059CA74
(57)【要約】
【課題】過酸化物とアシル化剤の反応による過酢酸生成と、過酢酸による除菌効果の発揮の両立
【解決手段】水性媒体と接触させてpH8以上の条件で過酢酸を生成する組成物であって、過酸化物と、アシル化剤と、pH降下作用を有する固体組成物とを含み、前記固体組成物が、pH降下剤を含むセンター部と、油脂を50質量%以上含む被覆部とを有する、過酢酸生成組成物。
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体と接触させてpH8以上の条件で過酢酸を生成する組成物であって、
過酸化物と、アシル化剤と、pH降下作用を有する固体組成物とを含み、
前記のpH降下作用を有する固体組成物が、pH降下剤を含むセンター部と、油脂を50質量%以上含む被覆部とを有する、過酢酸生成組成物。
【請求項2】
前記過酸化物が、過炭酸ナトリウムであり、
前記アシル化剤が、テトラアセチルエチレンジアミンである、
請求項1に記載の過酢酸生成組成物。
【請求項3】
前記被覆部における油脂含有質量が90質量%以上であり、
前記被覆部における非イオン界面活性剤の含有質量が0.5質量%以下であり、
前記被覆部におけるカルボキシメチルセルロース塩の含有質量が0.5質量%以下である、請求項1又は2に記載の過酢酸生成組成物。
【請求項4】
前記pH降下剤が、クエン酸であり、
前記油脂の融点が35℃以上であり、
前記油脂が、極度硬化油及び/又は牛脂である、
請求項1~3の何れか一項に記載の過酢酸生成組成物。
【請求項5】
前記過酸化物を、15質量%以上45質量%以下の割合で含み、
前記アシル化剤を、15質量%以上45質量%以下の割合で含み、
前記pH降下剤を、20質量%以上70質量%以下の割合で含む、
請求項1~4の何れか一項に記載の過酢酸生成組成物。
【請求項6】
前記pH降下作用を有する固体組成物に対する前記被覆部の質量比が2質量%以上50質量%以下である、
請求項1~5の何れか一項に記載の過酢酸生成組成物。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の過酢酸生成組成物からなる、除菌剤。
【請求項8】
pH8以上の条件で過酢酸を生成する方法であって、
過酸化物と、アシル化剤と、pH降下作用を有する固体組成物とを水中で混合することを含み、前記固体組成物が、pH降下剤を含むセンター部と、油脂を50質量%以上含む被覆部とを有する、過酢酸の生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酢酸生成組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
過酢酸は一般的な除菌剤と比較して強い除菌効果を有していることが広く認められており、有機物の共存下やバイオフィルムに対しても除菌効果を発揮し、低濃度でも幅広い抗菌スペクトルを持つ除菌剤として知られている。(非特許文献1~4)。この特性を活かし、医療分野では内視鏡、食品分野ではペットボトル等に使用されている。
【0003】
また、過酸化物とアシル化剤とを反応させることにより、過酢酸が得られることが知られている。
例えば、特許文献1には、過酸化物および/またはアシル化剤を非イオン性界面活性剤で被覆した粒状体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-31513号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】浜本典男、他(昭和58年)「過酢酸のB.Subtilis胞子に対する殺菌効果」『食衛誌』Vol.25,No.2
【非特許文献2】Abel G. Rios-Castillo, et al.(2018)Bactericidal Efficacy of Hydrogen Peroxide-Based Disinfectants Against Gram-Positive and Gram-Negative Bacteria on Stainless Steel Surfaces, Journal of Food Science,82,2351-2356.
【非特許文献3】Marina J. Flores,et al.(2014)A novel approach to explain the inactivation mechanism of Escherichia coli employing a commercially available peracetic acid,Water Science & Technology,69,358-363.
【非特許文献4】Marina J. Flores, et al.(2016)Kinetic model of water disinfection using peracetic acid including synergistic effects,73,275-282.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
過酢酸組成物は、主に酢酸と過酸化水素の平衡混合物(液体組成物)として販売されている。ここで、酢酸と過酸化水素の平衡混合物(液体組成物)には、高濃度の過酢酸を含むために製品保管時や開封時に強い刺激臭を感じたり、過酸化水素が6%を超えて劇物指定となったり、過酢酸自体の強い酸化力のために容器破損などで液漏れが発生するなど、取り扱い上不便な点があった。
上記事情もあり、過酢酸は主に産業用として使用されており、一般消費者には使用されていなかった。
【0007】
また、過炭酸ナトリウムとアシル化剤の反応による過酢酸生成はアルカリ条件下で活性化することが知られている。そして、過酢酸の除菌効果は中性から酸性条件で発揮されることが知られている。すなわち、過酢酸の除菌効果を発揮する液性では、過炭酸ナトリウムとアシル化剤はほとんど反応しないことが当業者の技術常識としてあった。
そのため、過酢酸生成と、過酢酸による除菌効果の発揮の両立には、課題があった。
【0008】
ここで、本発明者は、過酸化物とアシル化剤と、油脂を50質量%以上含む被覆部を有するpH降下作用を有する固体組成物を含む形態とすることにより、過酸化物とアシル化剤が反応して過酢酸が生成した後にpH降下剤が溶解し、pHを下げることができることを見出した。
そして、過酢酸が生成した後にpHを下げる形態とすることにより、過酸化物とアシル化剤の反応の進行と、反応後の過酢酸の除菌効果の両立を一剤で達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、水性媒体と接触させてpH8以上の条件で過酢酸を生成する組成物であって、
過酸化物と、アシル化剤と、pH降下作用を有する固体組成物とを含み、
前記のpH降下作用を有する固体組成物が、pH降下剤を含むセンター部と、油脂を50質量%以上含む被覆部とを有する、過酢酸生成組成物である。
【0010】
本発明の過酢酸生成組成物によれば、固体であっても、一剤で、過酢酸生成、及び、過酢酸の除菌効果を発揮可能な組成物を提供することができる。
具体的には、上記の過酢酸生成組成物は、水性媒体と接触させることによって、過酸化物とアシル化剤とが反応し、過酢酸を生成する。ここで、pH降下作用を有する固体組成物が油脂を50質量%以上含む被覆部を有することによって、過酢酸生成組成物におけるpH降下剤のみが溶解遅延作用を発揮する。
そして、pH降下剤のみが溶解遅延作用を発揮することで、過酸化物とアシル化剤とが反応して十分量の過酢酸を生成した後に、被覆部内部のpH降下剤が溶け出し水性媒体のpHを降下させることができる(図2 参照)。
【0011】
また、本発明の好ましい形態では、前記過酸化物が過炭酸ナトリウムであり、前記アシル化剤がテトラアセチルエチレンジアミンである。
【0012】
また、本発明の好ましい形態では、
前記被覆部における油脂含有質量が90質量%以上であり、
前記被覆部における非イオン界面活性剤の含有質量が0.5質量%以下であり、
前記被覆部におけるカルボキシメチルセルロース塩の含有質量が0.5質量%以下である。
【0013】
また、本発明の好ましい形態では、前記pH降下剤がクエン酸であり、前記油脂の融点が35℃以上であり、前記油脂が極度硬化油及び/又は牛脂である。
【0014】
また、本発明の好ましい形態では、前記過酸化物を15質量%以上45質量%以下の割合で含み、前記アシル化剤を15質量%以上45質量%以下の割合で含み、前記pH降下剤を20質量%以上70質量%以下の割合で含む。
【0015】
また、本発明の好ましい形態では、前記pH降下作用を有する固体組成物に対する前記被覆部の質量比が2質量%以上50質量%以下である。
【0016】
また、本発明は、上記の過酢酸生成組成物からなる、除菌剤でもある。
【0017】
また、本発明は、pH8以上の条件で過酢酸を生成する方法であって、過酸化物と、アシル化剤と、pH降下作用を有する固体組成物とを水中で混合することを含み、前記固体組成物が、pH降下剤を含むセンター部と、油脂を50質量%以上含む被覆部とを有する、過酢酸の生成方法でもある。
【発明の効果】
【0018】
上記の過酢酸生成組成物は、水性媒体と接触させることによって、過酸化物とアシル化剤とが反応し、過酢酸を生成することができる。また、pH降下作用を有する固体組成物が油脂を50質量%以上含む被覆部を有することによって、過酸化物とアシル化剤とが反応して十分量の過酢酸を生成した後に、被覆部内部のpH降下剤が溶け出し水性媒体のpHを降下させることができる(図2 参照)。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の過酢酸生成組成物の縦断面を示す模式図である。
図2】発明の過酢酸生成組成物が水性媒体に接触したときの、pH降下作用を有する固体組成物が溶解遅延作用を発揮することを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明は、以下の具体的な実施形態に限定されるものではない。
【0021】
<過酢酸生成組成物>
(1)過酢酸生成組成物について
本発明は、水性媒体と接触させてpH8以上の条件で過酢酸を生成する組成物であって、過酸化物(図1 符号1)と、アシル化剤(図1 符号2)と、pH降下作用を有する固体組成物(図1 符号3)とを含む過酢酸生成組成物である。
また、前記のpH降下作用を有する固体組成物は、pH降下剤を含むセンター部(図1 符号31)と、油脂を50質量%以上含む被覆部(図1 符号32)とを有する。
【0022】
本発明の過酢酸生成組成物によれば、固体であっても、一剤で、過酢酸生成、及び、過酢酸の除菌効果を発揮可能な組成物を提供することができる。
具体的には、上記の過酢酸生成組成物は、水性媒体と接触させることによって、過酸化物とアシル化剤とが反応し、過酢酸を生成する。ここで、pH降下作用を有する固体組成物が油脂を50質量%以上含む被覆部を有することによって、過酢酸生成組成物におけるpH降下剤のみが溶解遅延作用を発揮する。
そして、pH降下剤のみが溶解遅延作用を発揮する態様であることで、過酸化物とアシル化剤とが反応して十分量の過酢酸を生成した後に、被覆部内部のpH降下剤が溶け出し水性媒体のpHを降下させることができる(図2 参照)。
【0023】
ここで、本実施形態における過酢酸生成組成物は、過酸化物からなる粉体と、アシル化剤からなる粉体と、pH降下作用を有する固体組成物(粉体)とを含む組み合わせた組成物である(図1 参照)。
【0024】
また、本発明の過酢酸組成物は、除菌剤であることが好ましい。
本発明の過酢酸組成物によれば、幅広い抗菌スペクトルを持つ除菌剤を提供することができる。
【0025】
ここで、本発明の過酢酸組成物の除菌対象は、医療機器(内視鏡装置等)、飲料用容器(ペットボトル)、食品(食肉、生食用野菜)とすることができる。そして、本発明は従来の過酸化水素と酢酸の平衡混合物とは異なり、強い刺激臭や劇物指定、容器破損などの課題を考慮する必要がないため、一般家庭向けの除菌剤としても広く利用することができる。除菌対象として、例えば衣類やリネン、シンクや包丁、食器類などの台所用品、歯ブラシや髭剃り刃などの衛生用品、洗濯機などの家電製品、ドアノブや手すり、床などの住宅建材などが挙げられる。また、本発明は環境負荷にも配慮しているため、水害などの被災地の泥水などを対象にすることもできる。
【0026】
以下、本発明の過酢酸生成組成物における、各構成についてより詳細を説明する。
【0027】
(2)過酸化物とアシル化剤
まず、本発明に係る過酢酸生成組成物は、過酸化物とアシル化剤の反応によって、過酢酸を生成する。
過酸化物と、前記アシル化剤の含有質量比は、好ましくは1:5~1:0.2、より好ましくは1:2~1:0.5である。
【0028】
(i)過酸化物(図1 符号1)
過酸化物とは、-O-O-基を持つ化合物を指す。
【0029】
また、本発明において、過酸化物は、好ましくは過酸化水素付加物である。
過酸化水素付加物とは、水に溶解して過酸化水素を遊離する化合物のことである。
【0030】
過酸化水素付加物として、過炭酸塩、過ホウ酸塩、及び過酸化尿素が挙げられるが、好ましくは過炭酸塩を用いる。
過炭酸塩として、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウムが挙げられるが、好ましくは過炭酸ナトリウムを用いる。なお、過炭酸ナトリウムは、炭酸ナトリウム過酸化水素付加物とも呼ばれる。また、過ホウ酸塩として、過ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸カリウムが挙げられる。
【0031】
過酢酸生成組成物全体における過酸化物の含有質量は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは18質量%以上である。また、過酢酸生成組成物全体における過酸化物の含有質量は、好ましくは45質量%以下、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。
過酸化物の含有質量を増加させると、pHが高くなりやすい傾向にある。
【0032】
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲において、過酸化物以外の成分を含む、固体組成物(以下、過酸化物を含む固体組成物と表記)を用いることができる。
過酸化物を含む固体組成物に含めることのできる過酸化物以外の成分として、炭酸塩、色素、香料、非イオン界面活性剤、キレート剤、工程剤、pH緩衝剤を好ましく挙げることができる。
【0033】
なお、過酸化物を含む固体組成物を用いる場合には、過酸化物を含む固体組成物中の過酸化物の質量に換算した値を用いることができる。
【0034】
以下、過酸化物を含む固体組成物を用いる場合における、より好ましい形態を説明する。
【0035】
過酸化物を含む固体組成物中の過酸化物の含有質量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上である。
【0036】
過酸化物を含む固体組成物は、好ましくは粉体組成物であり、その粒径は、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.05mm以上、さらに好ましくは0.1mm以上である。また、過酸化物を含む固体組成物の粒径は、好ましくは3mm以下、より好ましくは2mm以下である。
粒径を上記下限以上とすることで、粉舞が起きにくくなり、吸引などの安全上問題が起こりにくくなる。また、粒径を上記上限以下とすることで、水性媒体に溶けやすく、速やかに過酢酸を生成させることができる。
【0037】
(ii)アシル化剤(図1 符号2)
アシル化剤とは、前述の過酸化物とアルカリ条件下で反応し過酢酸を生成する剤である。
【0038】
アシル化剤として、テトラアセチルエチレンジアミン(TAED)、ジアセチルエチレンジアミン(DAED)、テトラアセチルグリコールウリルおよびジアセチルヘキサヒドロトリアジンジオン、アセチルサリチル酸、アセチルカプロラクタムなどのアセチル基を有する化合物が挙げられるが、好ましくはテトラアセチルエチレンジアミン(TAED)を用いることができる。
【0039】
過酢酸生成組成物全体におけるアシル化剤の含有質量は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは18質量%以上である。また、過酢酸生成組成物全体におけるアシル化剤の含有質量は、好ましくは45質量%以下、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。
【0040】
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲において、アシル化剤以外の成分を含む、固体組成物(以下、アシル化剤を含む固体組成物と表記)を用いることができる。
アシル化剤を含む固体組成物に含めることのできるアシル化剤以外の成分として、色素、香料、非イオン界面活性剤、セルロース系化合物、キレート剤、工程剤、pH緩衝剤を好ましく挙げることができる。
なお、アシル化剤を含む固体組成物を用いる場合には、アシル化剤を含む固体組成物中のアシル化剤の質量に換算した値を用いることができる。
【0041】
アシル化剤を含む固体組成物中のアシル化剤の含有質量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。
【0042】
アシル化剤を含む固体組成物は、好ましくは粉体組成物であり、その粒径は、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.05mm以上、さらに好ましくは0.1mm以上である。また、アシル化剤を含む固体組成物の粒径は、好ましくは3mm以下、より好ましくは2mm以下である。
粒径を上記下限以上とすることで、粉舞が起きにくくなり、吸引などの安全上問題が起こりにくくなる。また、粒径を上記上限以下とすることで、水性媒体に溶けやすく、速やかに過酢酸を生成させることができる。
【0043】
(3)pH降下作用を有する固体組成物(図1 符号3)
本実施例において、pH降下作用を有する固体組成物は、pH降下剤を含むセンター部と、油脂を50質量%以上含む被覆部とを有する。
pH降下作用を有する固体組成物が油脂を50質量%以上含む被覆部を有することによって、過酸化物とアシル化剤とが反応して過酢酸を生成した後にpH降下剤が溶解し、水性媒体のpHを降下させることができる。
【0044】
pH降下作用を有する固体組成物は、好ましくは粉体であり、その粒径は、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.05mm以上、さらに好ましくは0.1mm以上である。また、pH降下作用を有する固体組成物の粒径は、好ましくは3mm以下、より好ましくは2mm以下である。
粒径を上記下限以上とすることで、粉舞が起きにくくなり、吸引などの安全上問題が起こりにくくなる。また、粒径を上記上限以下とすることで、好ましい速度でpHを低下させることができる。
【0045】
以下、pH降下作用を有する固体組成物における、各構成の好ましい実施の形態を説明する。
【0046】
(i)センター部(図1 符号31)
本発明において、センター部は、pH降下剤を含む。
センター部は、pH降下剤のみから構成されていてもよいし、pH降下剤以外の成分を含んでいてもよい。
センター部におけるpH降下剤の含有質量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上である。
【0047】
pH降下剤は、pHを降下させるものであれば特に限定されないが、固体であることが好ましい。また、下記の配合割合で含む場合に、水性媒体のpHを3.5以上7.2以下に調整できるものであることが好ましい。
pHを7.2以下に調整することによって、生成した過酢酸が除菌作用を十分に発揮することができる。
pH降下剤として、好ましくは有機酸を用いることができる。有機酸として、例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、マロン酸、ソルビン酸、リン酸2水素ナトリウム、リン酸2水素カリウムが挙げられる。中でも、本発明のpH降下剤には、クエン酸を好ましく用いることができる。
【0048】
センター部に含まれるpH降下剤以外の成分として、色素、香料を好ましく挙げることができる。
【0049】
過酢酸生成組成物全体におけるpH降下剤の含有質量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上である。
また、過酢酸生成組成物全体におけるpH降下剤の含有質量は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。
pH降下剤の含有質量が多いほど、pHを低下させやすくなる。
また、過酸化物の含有質量を増加させるとpHが高くなりやすく、目的のpHに調整するためのpH降下剤の含有質量が必然的に増えていく。ただ、過酢酸生成組成物の全体量を大きくし過ぎないよう、過酸化物の含有質量に合わせて、本発明の効果を損しない範囲でpH降下剤の含有質量を少なくすることが好ましい。
【0050】
(ii)被覆部(図1 符号32)
本発明に係るpH降下作用を有する固体組成物は、油脂を50質量%以上含む被覆部を有する。
被覆部中の油脂組成物の含有質量は50質量%以上であり、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。
pH降下剤が油脂を50質量%以上含む被覆部によって被覆されていることによって、過酸化物とアシル化剤とが反応して十分量の過酢酸を生成した後に、被覆部内部のpH降下剤が溶け出し水性媒体のpHを降下させることができる(図2 参照)。
【0051】
被覆部は、油脂のみから構成されていてもよいし、油脂以外の成分を含んでいてもよい。
被覆部に含まれる油脂以外の成分として、色素、香料を好ましく挙げることができる。
【0052】
また、被覆部における非イオン界面活性剤の含有質量は極力少なくすることが好ましい。
被覆部における非イオン界面活性剤の含有質量は、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0質量%である。
【0053】
また、被覆部におけるカルボキシメチルセルロース塩(CMC)の含有質量は極力少なくすることが好ましい。
被覆部におけるカルボキシメチルセルロース塩(CMC)の含有質量は、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0質量%である。
【0054】
pH降下作用を有する固体組成物に対する被覆部の含有質量、及び被覆部の厚さは、pH降下作用を有する固体組成物を水性媒体に接触させてから、好ましくは60分以内、より好ましくは50分以内、さらに好ましくは40分以内に、水性媒体のpHを7.2以下にする厚さに調整することが好ましい。
また、pH降下作用を有する固体組成物に対する被覆部の含有質量、及び被覆部の厚さは、pH降下作用を有する固体組成物を水性媒体に接触させてから、好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上、さらに好ましくは5分以上経過してから、水性媒体のpHを8以下にする厚さに調整することが好ましい。
【0055】
具体的には、pH降下作用を有する固体組成物に対する被覆部の含有質量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。
また、pH降下作用を有する固体組成物に対する被覆部の含有質量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0056】
また、油脂の融点は、好ましくは35℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは42℃以上である。
【0057】
また、油脂の融点は、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。
【0058】
本発明の被覆部に用いる油脂は、植物油脂、動物油脂、石油由来のパラフィンワックスの何れであってもよい。
【0059】
ここで、植物油脂としては、植物性の極度硬化油を好ましく挙げることができる。
中でも、極度硬化油として、特に、菜種極度硬化油、パーム極度硬化油を好ましく用いることができる。
【0060】
また動物油脂としては、牛脂を用いることができる。
【0061】
油脂として菜種極度硬化油を用いる場合のpH降下作用を有する固体組成物に対する被覆部の含有質量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上である。
また、油脂として菜種極度硬化油を用いる場合のpH降下作用を有する固体組成物に対する被覆部の含有質量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0062】
また、油脂としてパーム極度硬化油を用いる場合のpH降下作用を有する固体組成物に対する被覆部の含有質量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。
また、油脂としてパーム極度硬化油を用いる場合のpH降下作用を有する固体組成物に対する被覆部の含有質量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0063】
また、油脂として牛脂を用いる場合のpH降下作用を有する固体組成物に対する被覆部の含有質量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。
また、油脂として牛脂を用いる場合のpH降下作用を有する固体組成物に対する被覆部の含有質量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0064】
また、被覆部の厚さは、好ましくは0.001mm以上0.025mm以下である。
また、被覆部の厚さは、pH降下作用を有する固体組成物の半径に対して、好ましくは0.7%以上16.7%以下である。
被覆部の厚さは、実質的に均一であることが好ましい。また、被覆部は、センター部が表面に露出しないように被覆するものであることが好ましい。
【0065】
pH降下作用を有する固体組成物に対する被覆部の含有質量を上記の下限以上とすることによって、pH降下剤が溶解して水性媒体のpHが8以下になる前に、過酸化物とアシル化剤が十分反応し、過酢酸を生成させることができる。
また、被覆部の厚さを、上記の下限以上とすることによって、pH降下剤が溶解して水性媒体のpHが8以下になる前に、過酸化物とアシル化剤が十分反応し、過酢酸を生成させることができる。
【0066】
また、pH降下作用を有する固体組成物に対する被覆部含有質量を上記の上限以下とすれば、過酢酸生成組成物を水性媒体に接触させてから過酢酸が除菌作用を発揮するpHにするまでの時間が上記の上限以下となるため、素早く除菌剤として使える状態にすることができる。
また、被覆部の厚さを上記の上限以下とすれば、過酢酸生成組成物を水性媒体に接触させてから過酢酸が除菌作用を発揮するpHにするまでの時間が上記の上限以下となるため、素早く除菌剤として使える状態にすることができる。
【0067】
(4)その他の成分
本発明の過酢酸生成組成物は、シクロデキストリンを含む形態とすることができる。シクロデキストリンを含む形態とすることによって、過酢酸の臭気を低減させることができる。シクロデキストリンとして、β―シクロデキストリン、α―シクロデキストリン、γ―シクロデキストリンを用いることができるが、特にβ―シクロデキストリンを好ましく用いることができる。
【0068】
また、本発明の過酢酸生成組成物は、生成される過酢酸とは別に、除菌作用を有する化合物を含む形態とすることができる。除菌作用を有する化合物を含む形態とすることによって、より強い除菌作用を発揮することができる。除菌作用を有する化合物として、第4級アンモニウム塩、クロルヘキシジン、両性界面活性剤、フェノール誘導体を用いることができるが、特に第4級アンモニウム塩、フェノール誘導体を好ましく用いることができる。例えば、ハイジェニア(登録商標)(タマ化学工業株式会社製)、またはイソプロピルメチルフェノール(大阪化成株式会社製、製品名:ビオゾール)を好ましく用いることができる。
【0069】
ここで、除菌作用を有する化合物は粉体組成物であることが好ましい。
【0070】
また、本発明の過酢酸生成組成物は、金属腐食防止剤を含む形態とすることができる。銅や真鍮などの金属は、酸化剤によって腐食されやすいが、金属腐食防止剤を含むことによって、腐食を防止することができる。
金属腐食防止剤として、ベンゾトリアゾール、アルキルベンゾトリアゾールを用いることができるが、特にベンゾトリアゾールを好ましく用いることができる。
【0071】
ここで、金属腐食防止剤は粉体組成物であることが好ましい。
【0072】
また、本発明の過酢酸生成組成物は、色素を含む形態とすることができる。色素を含む形態とすることによって、過酢酸生成組成物が水性媒体に投入されていることを視認しやすくなる。
【0073】
ここで、色素として、特に、pHによって色調が変化する色素を用いることが好ましい。本発明に係る過酢酸生成組成物を水性媒体に接触させるとpHが変化する。その際に、pHによって色調が変化する色素を含むことで、pHの変化を色調の変化によって視認することができるようになる。これにより、過酢酸生成に適したpHであることや、過酢酸による除菌に適したpHであることを視認できるようになる。
また、色素として、特に、弱アルカリ性から中性および弱酸性の変遷を視認することができる色素を用いることが好ましい。
pHによって色調が変化する色素として、アントシアニン系色素、アントラキノン系色素、クチナシ黄色素などのフラボノイド系色素が挙げられるが、特にアントシアニン系色素およびアントラキノン系色素を好ましく用いることができる。
【0074】
<過酢酸の生成方法>
上述の組成の過酢酸生成組成物を、水性媒体に接触させることで、過酢酸を生成させることができる。水性媒体は、好ましくは水である。
【0075】
過酢酸を生成させる際の、水性媒体に対する過酸化物の濃度は、好ましくは0.5mg/mL以上、より好ましくは0.7mg/mL以上である。また、過酢酸を生成させる際の、水性媒体に対する過酸化物の濃度は、好ましくは1.5mg/mL以下、より好ましくは1.2mg/mL以下である。
【0076】
また、過酢酸を生成させる際の、水性媒体に対する過酸化物の濃度は、好ましくは3mmol/L以上、より好ましくは4mmol/L以上である。また、過酢酸を生成させる際の、水性媒体に対する過酸化物の濃度は、好ましくは8mmol/L以下、より好ましくは7mmol/L以下である。
【0077】
過酢酸を生成させる際の、水性媒体に対するアシル化剤の濃度は、好ましくは0.3mg/mL以上、より好ましくは0.4mg/mL以上である。また、過酢酸を生成させる際の、水性媒体に対するアシル化剤の濃度は、好ましくは2.0mg/mL以下、より好ましく1.8mg/mL以下である。
【0078】
また、過酢酸を生成させる際の、水性媒体に対するアシル化剤の濃度は、好ましくは1mmol/L以上、より好ましくは1.4mmol/L以上である。また、過酢酸を生成させる際の、水性媒体に対するアシル化剤の濃度は、好ましくは8mmol/L以下、より好ましくは6mmol/L以下である。
【0079】
過酢酸を生成させる際の、水性媒体に対するpH降下剤の濃度は、好ましくは0.4mg/mL以上、より好ましくは0.5mg/mL以上である。また、過酢酸を生成させる際の、水性媒体に対するpH降下剤の濃度は、好ましくは4.0mg/mL以下、より好ましく3.5mg/mL以下である。
【0080】
また、過酢酸を生成させる際の、水性媒体に対するpH降下剤の濃度は、好ましくは2mmol/L以上、より好ましくは2.5mmol/L以上である。また、過酢酸を生成させる際の、水性媒体に対するpH降下剤の濃度は、好ましくは19mmol/L以下、より好ましくは18mmol/L以下である。
【0081】
各成分の濃度が上記の濃度となるように過酢酸生成組成物を水性媒体に投入した後、3分以上撹拌することが好ましい。
【0082】
<過酢酸生成組成物の製造方法>
pH降下剤を含むセンター部と油脂とを混合し、加熱により油脂を融解させることにより、pH降下剤を含むセンター部を油脂で被覆することができる。
得られたpH降下作用を有する固体組成物と、過酸化物と、アシル化剤とを、所定の割合で混合することにより、過酢酸生成組成物が得られる。
【0083】
<過ギ酸生成組成物、過プロピオン酸生成組成物、過酪酸生成組成物、過乳酸生成組成物>
また、本発明は、過ギ酸生成組成物、過プロピオン酸生成組成物、過酪酸生成組成物、過乳酸生成組成物に応用することができる。
【0084】
具体的には、前述の過酢酸生成組成物におけるアシル化剤を、対応するペルオキシ化合物を生成する化合物とすることで、過ギ酸、過プロピオン酸、過酪酸、過乳酸を生成することができる。
【0085】
ここで、過ギ酸生成組成物、過プロピオン酸生成組成物、過酪酸生成組成物、過乳酸生成組成物における好ましい実施の形態は、前述の説明を援用することができる。
【実施例0086】
<pH降下作用を有する固体組成物の製造>
(1)製造例
クエン酸(微粉;32メッシュスルー)100gをビーカーに投入し、加熱により融解させた油脂を、クエン酸全量に対して2%~50%の所定量(表1~4 各実施例 参照)投入し、クエン酸を油脂で被覆した。油脂として、菜種極度硬化油(融点60~70℃)、又はパーム極度硬化油(融点50~60℃)、又は牛脂(林純薬工業製)の何れかを用いた(表1~4 各実施例 参照)。以降、本製造例で得られた「油脂で被覆されたクエン酸」を、それぞれ菜種極度硬化油クエン酸、パーム極度硬化油クエン酸、牛脂クエン酸と呼ぶ。
【0087】
(2)参考製造例
クエン酸(ミヨシ製)15gを微小量流動層造粒機(ダルトン製;微少量流動層/造粒・コーティング装置(ドラフトチューブ付))に仕込み、給気温度70~80℃、液速0.5g/minに設定し、2.5%CMC-Na溶液(日本製紙製;サンローズF04HC)を噴霧コーティングし、3.99gのCMC-Naコーティングクエン酸(以下、CMC-Naクエン酸と呼称)を得た。このCMC-Naクエン酸は、クエン酸を70質量%、CMC-Naを30質量%含む。
【0088】
<試験例1:菜種極度硬化油によって被覆されたクエン酸による溶解遅延の性能評価>
製造例に記載の方法で製造した、菜種極度硬化油によって被覆されたクエン酸(菜種極度硬化油クエン酸)を使用して過酢酸生成用の試験試料を調製した。具体的には、表1に記載する重量でテトラアセチルエチレンジアミンおよび過炭酸ナトリウムとともに配合した試料を調製した。
ここで、テトラアセチルエチレンジアミンとして、Peractive(登録商標) AN(クラリアント製)を用いた。テトラアセチルエチレンジアミンの純度は86質量%である。また、過炭酸ナトリウムはアデカ製の製品(純度76質量%)を用いた。
また、比較例として、菜種極度硬化油クエン酸の代わりに、参考製造例で製造したCMC-Naクエン酸、及び被覆部のないクエン酸(被覆無しクエン酸)を用いた試験試料についても同様の試験を行った。
【0089】
【表1】
【0090】
(1)溶解性遅延の評価及び過酢酸濃度の測定方法
750mLの水道水(25℃)に各試験試料を投入し、2秒に1回転の速度で3分間混合した後に10分間静置し、その後再び混合することで過酢酸調製液とした。試験試料投入から60分後までのpH、及び試験試料投入から13分後、60分後の過酢酸濃度を測定した。
また、13分を超えた場合のpH測定については、その都度混合した上での測定とした。
なお、比較例1に関しては、クエン酸を含まないため、試験試料投入から13分までのpH、及び試験試料投入から13分後の過酢酸濃度を測定した。
結果を表1に示す。
【0091】
(A)pHの測定方法
JIS Z8802:2011に準拠して測定を行った。測定条件は以下の通りである。
・試料溶液の温度:25℃
・pH計の形式:ガラス電極
・pH標準液の品質:フタル酸塩pH4.01、中性りん酸塩pH6.86、ほう酸塩pH9.18(Nynell製)
・装置の名称:PH測定器 PH-0201(Wabisabi製)
・測定不確かさ:±0.01pH
【0092】
(B)過酢酸濃度の測定方法
50mLの精製水(健栄製薬製)に10%硫酸溶液を2mL加えて混合し、過酢酸調製液10gを加えて混合した。その後、0.1Nヨウ化カリウム溶液を2mL、1%でんぷん溶液を2mL加えて混合した後に0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定を行うことで、過酢酸濃度を測定した。0.1Nヨウ化カリウム溶液および1%でんぷん溶液を加えてから滴定を終えるまで1分以内に行った。過酢酸調製液に含まれる過酢酸濃度(ppm)は下式1をもとに算出した。ここで、Fは0.1Nチオ硫酸ナトリウムのファクターを表す。
過酢酸濃度(ppm)=滴定量×F×3800/過酢酸調製液量(g)・・・(式1)
【0093】
(2)結果及び、考察
表1に示すように、菜種極度硬化油クエン酸を用いた実施例1~10で、過酢酸の生成とpH降下の両立が確認できた。
【0094】
実施例1~10の試験試料(本発明における、過酢酸生成組成物に相当)は、水性媒体と接触させることによって、過炭酸ナトリウム(本発明における、過酸化物に相当)とテトラアセチルエチレンジアミン(本発明における、アシル化剤に相当)とが反応し、過酢酸を生成した。
ここで、菜種極度硬化油で被覆されたクエン酸(本発明におけるpH降下作用を有する固体組成物に相当)によって、実施例1~10の試験試料におけるクエン酸のみが溶解遅延作用を発揮したものと考えられる。
そして、クエン酸が溶解遅延作用を発揮することで、過炭酸ナトリウムとテトラアセチルエチレンジアミンとが反応して過酢酸を生成した後にクエン酸が溶解し、十分量の過酢酸が生成した後、水性媒体のpHを降下させることができたものと考えられる。
【0095】
ここで、浜本典男、他(昭和58年)「過酢酸のB.Subtilis胞子に対する殺菌効果」『食衛誌』Vol.25,No.2に記載されているように、過酢酸はpH7.8を超えた条件下では除菌効果が低下する。すなわち、実施例1~10の試験試料(本発明における、過酢酸生成組成物に相当)によれば、固体であっても、一剤で、過酢酸生成、及び、過酢酸の除菌効果を発揮可能な組成物を提供できることがわかった。
【0096】
一方、クエン酸を加えなかった比較例1は、試験試料投入から13分経過後もpHが9.55であった。
pH9.55は過酢酸の除菌作用が十分に発揮されないpH範囲であるため、除菌剤に適さない。
【0097】
また、被覆無しクエン酸を用いた比較例2は、試験試料投入から13分後、60分後の過酢酸濃度は15ppmであり、実施例1~10と比較して過酢酸生成量は少なかった。また、試験試料投入から0.5分後にはpHが5.69となった。
これは、クエン酸が被覆されていないことにより、投入と同時にクエン酸が溶解し、過酢酸が十分量生成する前にpHが降下したため、過酢酸生成量が少なくなったと考えられる。
【0098】
また、CMC-Naによって被覆したクエン酸を用いた比較例3では、試験試料投入から13分後、60分後ともに過酢酸の生成は認められなかった。また、試験試料投入から0.5分後にはpHが5.21となった。
これはCMC-Naによって被覆しても、投入と同時にクエン酸が溶解し、過酢酸が十分量生成する前にpHが降下したため、過酢酸生成量が少なくなったと考えられる。
【0099】
また、菜種極度硬化油で被覆したクエン酸中の菜種極度硬化油の割合を多くするほど、13分後、60分後の過酢酸濃度が高くなり、より多くの過酢酸を生成する傾向がみられた。
また、菜種極度硬化油で被覆したクエン酸中の菜種極度硬化油の割合を多くするほど、pHの降下が遅くなる傾向がみられた。より具体的には、菜種極度硬化油で被覆したクエン酸中の菜種極度硬化油の割合を多くするほど、pH8以上を維持する時間が長くなる傾向がみられた。
これは、菜種極度硬化油で被覆したクエン酸中の菜種極度硬化油の割合を多くするほど、クエン酸の溶解遅延作用が強く働き、過炭酸ナトリウムとテトラアセチルエチレンジアミンとの反応によって過酢酸を生成させることができるpH8以上を維持する時間が長くなり、結果として過酢酸をより多く生成するためと考えられる。
【0100】
特に、菜種極度硬化油を5%被覆した実施例1の試験試料と、菜種極度硬化油を10~50%被覆した実施例2~10の試験試料とを比較したときに、菜種極度硬化油を10%以上被覆した実施例2~10の試験試料の方が、13分後、60分後の過酢酸濃度が高く、より効率よく過酢酸を生成されている。
これは、菜種極度硬化油を10%以上被覆した実施例2~10の試験試料は、クエン酸の溶解遅延作用がより強く働き、過炭酸ナトリウムとテトラアセチルエチレンジアミンとの反応によって、過酢酸が十分量生成した後に、pHが8を下回ったためと考えられる。
【0101】
一方、菜種極度硬化油で被覆したクエン酸中の菜種極度硬化油の割合を少なくするほど、pHの降下が早くなる傾向がみられた。より具体的には、菜種極度硬化油で被覆したクエン酸中の菜種極度硬化油の割合を少なくするほど、pH7.2以下までpHが降下するのに要する時間が短くなる傾向がみられた。
これは、菜種極度硬化油で被覆したクエン酸中の菜種極度硬化油の割合を少なくするほど、クエン酸が早く溶解し、pHを早く降下させたためと考えられる。
【0102】
<試験例2:パーム極度硬化油によって被覆されたクエン酸による溶解遅延の性能評価>
製造例に記載の方法で製造した、パーム極度硬化油によって被覆されたクエン酸(パーム極度硬化油クエン酸)を使用して過酢酸生成用の試験試料を調製した。具体的には、表2に記載する重量でテトラアセチルエチレンジアミンおよび過炭酸ナトリウムとともに配合した試料を調製した。
【0103】
【表2】
【0104】
(1)溶解性遅延の評価及び過酢酸濃度の測定方法
試験例1と同様の方法で、試験試料投入から60分後までのpH、及び試験試料投入から13分後、60分後の過酢酸濃度を測定した。
結果を表2に示す。
【0105】
(2)結果及び、考察
表2に示すように、パーム極度硬化油クエン酸を用いた実施例11~17で、過酢酸の生成とpH降下の両立が確認できた。
【0106】
実施例11~17の試験試料(本発明における、過酢酸生成組成物に相当)は、水性媒体と接触させることによって、過炭酸ナトリウム(本発明における、過酸化物に相当)とテトラアセチルエチレンジアミン(本発明における、アシル化剤に相当)とが反応し、過酢酸を生成した。
ここで、パーム極度硬化油で被覆されたクエン酸(本発明におけるpH降下作用を有する固体組成物に相当)によって、実施例11~17の試験試料におけるクエン酸のみが溶解遅延作用を発揮したものと考えられる。
そして、クエン酸が溶解遅延作用を発揮することで、過炭酸ナトリウムとテトラアセチルエチレンジアミンとが反応して過酢酸を生成した後にクエン酸が溶解し、十分量の過酢酸が生成した後、水性媒体のpHを降下させることができたものと考えられる。
【0107】
また、パーム極度硬化油で被覆したクエン酸中のパーム極度硬化油の割合を多くするほど、13分後、60分後の過酢酸濃度が高くなり、より多くの過酢酸を生成する傾向がみられた。
また、パーム極度硬化油で被覆したクエン酸中のパーム極度硬化油の割合を多くするほど、pHの降下が遅くなる傾向がみられた。より具体的には、パーム極度硬化油で被覆したクエン酸中のパーム極度硬化油の割合を多くするほど、pH8以上を維持する時間が長くなる傾向がみられた。
これは、パーム極度硬化油で被覆したクエン酸中のパーム極度硬化油の割合を多くするほど、クエン酸の溶解遅延作用が強く働き、過炭酸ナトリウムとテトラアセチルエチレンジアミンとの反応によって過酢酸を生成させることができるpH8以上を維持する時間が長くなり、結果として過酢酸をより多く生成するためと考えられる。
【0108】
特に、パーム極度硬化油を2%被覆した実施例11の試験試料と、パーム極度硬化油を5~30%被覆した実施例12~17の試験試料とを比較したときに、パーム極度硬化油を5%以上被覆した実施例12~17の試験例の方が、13分後、60分後の過酢酸濃度が高く、より効率よく過酢酸を生成されている。
これは、パーム極度硬化油を5%以上被覆した実施例12~17の試験試料は、クエン酸の溶解遅延作用がより強く働き、過炭酸ナトリウムとテトラアセチルエチレンジアミンとの反応によって、過酢酸が十分量生成した後に、pHが8を下回ったためと考えられる。
【0109】
さらに、パーム極度硬化油を2~5%被覆した実施例11、12の試験試料と、パーム極度硬化油を10~30%被覆した実施例13~17の試験試料とを比較したときに、パーム極度硬化油を10%以上被覆した実施例13~17の試験試料の方が、13分後、60分後の過酢酸濃度が高く、より効率よく過酢酸を生成されている。
これは、パーム極度硬化油を10%以上被覆した実施例13~17の試験試料は、クエン酸の溶解遅延作用がより強く働き、過炭酸ナトリウムとテトラアセチルエチレンジアミンとの反応によって、過酢酸が十分量生成した後に、pHが8を下回ったためと考えられる。
【0110】
一方、パーム極度硬化油で被覆したクエン酸中のパーム極度硬化油の割合を少なくするほど、pHの降下が早くなる傾向がみられた。より具体的には、パーム極度硬化油で被覆したクエン酸中のパーム極度硬化油の割合を少なくするほど、pH7.2以下までpHが降下するのに要する時間が短くなる傾向がみられた。
これは、パーム極度硬化油で被覆したクエン酸中のパーム極度硬化油の割合を少なくするほど、クエン酸が早く溶解し、pHを早く降下させたためと考えられる。
【0111】
<試験例3:牛脂によって被覆されたクエン酸による溶解遅延の性能評価>
製造例に記載の方法で製造した、牛脂によって被覆されたクエン酸(牛脂クエン酸)を使用して過酢酸生成用の試験試料を調製した。具体的には、表3に記載する重量でテトラアセチルエチレンジアミンおよび過炭酸ナトリウムとともに配合した試料を調製した。
【0112】
【表3】
【0113】
(1)溶解性遅延の評価及び過酢酸濃度の測定方法
試験例1と同様の方法で、試験試料投入から60分後までのpH、及び試験試料投入から13分後、60分後の過酢酸濃度を測定した。
結果を表3に示す。
【0114】
(2)結果及び、考察
表3に示すように、牛脂クエン酸を用いた実施例18~23で、過酢酸の生成とpH降下の両立が確認できた。
【0115】
実施例18~23の試験試料(本発明における、過酢酸生成組成物に相当)は、水性媒体と接触させることによって、過炭酸ナトリウム(本発明における、過酸化物に相当)とテトラアセチルエチレンジアミン(本発明における、アシル化剤に相当)とが反応し、過酢酸を生成した。
ここで、牛脂で被覆されたクエン酸(本発明におけるpH降下作用を有する固体組成物に相当)によって、実施例18~23の試験試料におけるクエン酸のみが溶解遅延作用を発揮したものと考えられる。
そして、クエン酸が溶解遅延作用を発揮することで、過炭酸ナトリウムとテトラアセチルエチレンジアミンとが反応して過酢酸を生成した後にクエン酸が溶解し、十分量の過酢酸が生成した後、水性媒体のpHを降下させることができたものと考えられる。
【0116】
また、牛脂で被覆したクエン酸中の牛脂の割合を多くするほど、13分後、60分後の過酢酸濃度が高くなり、より多くの過酢酸を生成する傾向がみられた。
また、牛脂で被覆したクエン酸中の牛脂の割合を多くするほど、pHの降下が遅くなる傾向がみられた。より具体的には、牛脂で被覆したクエン酸中の牛脂の割合を多くするほど、pH8以上を維持する時間が長くなる傾向がみられた。
これは、牛脂で被覆したクエン酸中の牛脂の割合を多くするほど、クエン酸の溶解遅延作用が強く働き、過炭酸ナトリウムとテトラアセチルエチレンジアミンとの反応によって過酢酸を生成させることができるpH8以上を維持する時間が長くなり、結果として過酢酸をより多く生成するためと考えられる。
【0117】
特に、牛脂を2%被覆した実施例18の試験試料と、牛脂を5~25%被覆した実施例19~23の試験試料とを比較したときに、牛脂を5%以上被覆した実施例19~23の試験試料の方が、13分後、60分後の過酢酸濃度が高く、より効率よく過酢酸を生成されている。
これは、牛脂を5%以上被覆した実施例19~23の試験試料は、クエン酸の溶解遅延作用がより強く働き、過炭酸ナトリウムとテトラアセチルエチレンジアミンとの反応によって、過酢酸が十分量生成した後に、pHが8を下回ったためと考えられる。
【0118】
さらに、牛脂を2~5%被覆した実施例18、19の試験試料と、牛脂を10~25%被覆した実施例20~23の試験試料とを比較したときに、牛脂を10%以上被覆した実施例20~23の試験試料の方が、13分後、60分後の過酢酸濃度が高く、より効率よく過酢酸を生成されている。
これは、牛脂を10%以上被覆した実施例20~23の試験試料は、クエン酸の溶解遅延作用がより強く働き、過炭酸ナトリウムとテトラアセチルエチレンジアミンとの反応によって、過酢酸が十分量生成した後に、pHが8を下回ったためと考えられる。
【0119】
一方、牛脂で被覆したクエン酸中の牛脂の割合を少なくするほど、pHの降下が早くなる傾向がみられた。より具体的には、牛脂で被覆したクエン酸中の牛脂の割合を少なくするほど、pH7.2以下までpHが降下するのに要する時間が短くなる傾向がみられた。
これは、牛脂で被覆したクエン酸中の牛脂の割合を少なくするほど、クエン酸が早く溶解し、pHを早く降下させたためと考えられる 。
【0120】
<試験例4:安定性の評価>
実施例5-1および実施例13-1では、それぞれ実施例5および実施例13の試験試料を、タッパー(外寸法(mm):66×83×30)にシリカゲル(富士ゲル産業製)と一緒に投入し、さらにこのタッパーをアルミ箔ジップロック(登録商標)袋(WACCOMT Pack製、20cm×12cm)に投入して密閉した状態で、50℃で4週間加温した。
実施例5-2では、実施例5の試験試料を、タッパーに投入したのみの状態で、50℃で4週間加温した。
これらのサンプルについて、加温前後での溶解性遅延の評価および過酢酸濃度の測定を行った。結果を表4に示す。
【0121】
【表4】
【0122】
表4に示すように、50℃で4週間加温した後(実施例5-1、実施例5-2、実施例13-1)でも、油脂の被覆による溶解性遅延効果が認められた。また、過酢酸濃度も、実施例5-1では加温前に対して79%、実施例5-2では77%、実施例13-1では51%の濃度で過酢酸が生成していた。
上記は、実施例5-1、実施例5-2、実施例13-1のいずれにおいても十分に過酢酸を生成する能力を維持していることが認められた。そのため、長期間に渡って溶解性遅延効果及び過酢酸の生成能力を維持するという保存安定性に優れた過酢酸生成組成物を提供できることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明に係る過酢酸生成組成物は、除菌剤として利用することができる。
【符号の説明】
【0124】
1 過酸化物
2 アシル化剤
3 pH降下作用を有する固体組成物
31 センター部
32 被覆部
4 水性媒体

図1
図2