IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立製作所の特許一覧

特開2023-3645電力系統制御装置、電力系統制御システムおよび電力系統制御方法
<>
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御システムおよび電力系統制御方法 図1
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御システムおよび電力系統制御方法 図2
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御システムおよび電力系統制御方法 図3
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御システムおよび電力系統制御方法 図4
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御システムおよび電力系統制御方法 図5
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御システムおよび電力系統制御方法 図6
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御システムおよび電力系統制御方法 図7
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御システムおよび電力系統制御方法 図8
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御システムおよび電力系統制御方法 図9
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御システムおよび電力系統制御方法 図10
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御システムおよび電力系統制御方法 図11
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御システムおよび電力系統制御方法 図12
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御システムおよび電力系統制御方法 図13
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御システムおよび電力系統制御方法 図14
  • 特開-電力系統制御装置、電力系統制御システムおよび電力系統制御方法 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003645
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】電力系統制御装置、電力系統制御システムおよび電力系統制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20230110BHJP
   G06Q 50/06 20120101ALI20230110BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/00 130
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104841
(22)【出願日】2021-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】末永 晋也
(72)【発明者】
【氏名】内海 将人
(72)【発明者】
【氏名】多田 泰之
【テーマコード(参考)】
5G066
5L049
【Fターム(参考)】
5G066AA02
5G066AA03
5L049CC06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】予測誤りによって発生する電力系統状態の適正範囲からの逸脱を適切に評価し、これら逸脱の影響を低減できるような高信頼かつ効率的な制御案を立案する電力系統制御装置を提供する。
【解決手段】電力系統制御システム1において、電力系統制御装置2は、制御部10と、記録部20と、を有する。記録部は、過去の電力需要を示す電力需要データ203と、過去の電力需要の要因となりうる情報を含む因子データ204と、過去に因子データに基づいて予測した電力需要205の、実際の電力需要に対する予測誤りの傾向を示す予測誤りデータ206と、を保持する。制御部は、電力需要データと、因子データとに基づいて、将来の電力需要を予測し、予測した将来の電力需要に基づいて、電力系統3における計測値が第2の制約条件を満たすように電力系統を制御するために電気機器に設定される数値を算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御部と、記録部と、を有する電力系統制御装置であって、
前記記録部は、過去の電力需要を示す電力需要データと、前記過去の電力需要の要因となりうる情報を含む因子データと、過去に前記因子データに基づいて予測した電力需要の、実際の電力需要に対する予測誤りの傾向を示す予測誤りデータと、を保持し、
前記制御部は、
前記電力需要データと、前記因子データとに基づいて、将来の電力需要を予測し、
前記予測した将来の電力需要に基づいて、電力系統における計測値が第1の制約条件を満たすように前記電力系統を制御するために前記電力系統を構成する電気機器に設定される数値を算出し、
前記予測誤りデータに基づいて、将来の電力需要の予測誤りを推定し、
前記電気機器に前記算出された数値が設定され、前記推定した予測誤りが発生した場合の前記電力系統における計測値の前記第1の制約条件からの逸脱量を算出し、
前記推定した予測誤りが発生した場合の前記電力系統における計測値の前記第1の制約条件からの逸脱量が小さくなるように、前記電気機器に設定される数値の算出に用いる前記第1の制約条件を変更した第2の制約条件を生成し、
前記予測した将来の電力需要に基づいて、前記電力系統における計測値が前記第2の制約条件を満たすように前記電力系統を制御するために前記電気機器に設定される数値を算出することを特徴とする電力系統制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力系統制御装置であって、
前記予測誤りデータは、前記電力需要の測定地点と、前記予測誤りの発生タイミングと、前記予測誤りの量と、を示す情報を含み、
前記制御部は、前記予測誤りの発生タイミング及び前記予測誤りの量に基づいて、同時に発生する可能性があり、かつ、大きな前記計測値の変動につながると判定された2以上の予測誤りが同時に発生した場合の前記逸脱量を算出することを特徴とする電力系統制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力系統制御装置であって、
前記制御部は、前記逸脱量に基づいて危険度を算出し、
前記危険度が所定の閾値を超える場合に、前記第2の制約条件を生成することを特徴とする電力系統制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電力系統制御装置であって、
前記制御部は、過去に計算した前記危険度の累積値が所定の閾値を超える場合に、前記第2の制約条件を生成することを特徴とする電力系統制御装置。
【請求項5】
請求項3に記載の電力系統制御装置であって、
前記制御部は、前記危険度が前記所定の閾値を超えないように、前記第2の制約条件を生成することを特徴とする電力系統制御装置。
【請求項6】
請求項3に記載の電力系統制御装置であって、
前記制御部は、
前記電気機器に前記第2の制約条件に基づいて算出された数値が設定され、前記推定した予測誤りが発生した場合の前記電力系統における計測値の前記第1の制約条件からの逸脱量を算出し、
当該逸脱量に基づいて算出した前記危険度が前記閾値を超える場合に、前記第1の制約条件に対する変更量を追加した前記第2の制約条件を生成し、
前記危険度が前記閾値を超えない値となるまで、前記第1の制約条件に対する変更量の追加及び前記第2の制約条件に基づく前記逸脱量の算出を繰り返すことを特徴とする電力系統制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の電力系統制御装置であって、
前記制御部は、
前記電力需要データの1単位時間ごとの差分値に基づいて突発的な需要変動を検出した場合に、前記電力需要データから前記突発的な需要変動を取り除くことによって第1の補正データを生成する第1の補正処理と、
前記第1の補正データから、前記因子データに含まれる情報の時間粒度より短い周期で変動する成分を取り除くことによって第2の補正データを生成する第2の補正処理と、
前記第2の補正データに、前記電力需要データのうち現在に近い所定の時間範囲内のデータから検出された需要変動に応じた値を追加することによって第3の補正データを生成する第3の補正処理と、を実行し、
前記第3の補正データと、前記因子データとに基づいて、将来の電力需要を予測することを特徴とする電力系統制御装置。
【請求項8】
請求項1に記載の電力系統制御装置であって、
前記制御部は、
前記電力需要データの1単位時間ごとの差分値に基づいて突発的な需要変動を検出した場合に、前記電力需要データから前記突発的な需要変動を取り除くことによって第1の補正データを生成する第1の補正処理と、
前記第1の補正データから、前記因子データに含まれる情報の時間粒度より短い周期で変動する成分を取り除くことによって第2の補正データを生成する第2の補正処理と、を実行し、
前記第2の補正データと、前記因子データとに基づいて、前記因子データから将来の電力需要を予測する予測モデルを生成し、
前記予測モデルの出力に、前記電力需要データのうち現在に近い所定の時間範囲内のデータから検出された需要変動に応じた値を追加した値を、将来の電力需要を予測した結果として出力する第3の補正処理を実行することを特徴とする電力系統制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載の電力系統制御装置であって、
前記計測値は電圧であり、
前記第1の制約条件及び前記第2の制約条件は電圧範囲であることを特徴とする電力系統制御装置。
【請求項10】
請求項1に記載の電力系統制御装置であって、
前記因子データは、気象に関する情報、燃料の取引に関する情報、発電機の稼働状況に関する情報、暦日に関する情報、突発事象の発生有無に関する情報、及び経済状況に関する情報の少なくともいずれかを含むことを特徴とする電力系統制御装置。
【請求項11】
電力系統と、通信ネットワークを介して前記電力系統に接続された電力系統制御装置と、を含む電力系統制御システムであって、
前記電力系統は、複数の計測機器と、複数の電気機器とを含み、
前記電力系統制御装置は、制御部と、記録部と、通信部と、を有し、
前記通信部は、前記通信ネットワークに接続され、
前記記録部は、過去の電力需要を示す電力需要データと、前記過去の電力需要の要因となりうる情報を含む因子データと、過去に前記因子データに基づいて予測した電力需要の、実際の電力需要に対する予測誤りの傾向を示す予測誤りデータと、を保持し、
前記制御部は、
前記電力需要データと、前記因子データとに基づいて、将来の電力需要を予測し、
前記予測した将来の電力需要に基づいて、電力系統における計測値が第1の制約条件を満たすように前記電力系統を制御するために前記電気機器に設定される数値を算出し、
前記予測誤りデータに基づいて、将来の電力需要の予測誤りを推定し、
前記電気機器に前記算出された数値が設定され、前記推定した予測誤りが発生した場合の前記電力系統における計測値の前記第1の制約条件からの逸脱量を算出し、
前記推定した予測誤りが発生した場合の前記電力系統における計測値の前記第1の制約条件からの逸脱量が小さくなるように、前記電気機器に設定される数値の算出に用いる前記第1の制約条件を変更した第2の制約条件を生成し、
前記予測した将来の電力需要に基づいて、前記電力系統における計測値が前記第2の制約条件を満たすように前記電力系統を制御するために前記電気機器に設定される数値を算出し、
前記通信部を介して、前記算出された数値を前記電気機器に設定することを特徴とする電力系統制御システム。
【請求項12】
制御部と、記録部と、を有する電力系統制御装置が実行する電力系統制御方法であって、
前記記録部は、過去の電力需要を示す電力需要データと、前記過去の電力需要の要因となりうる情報を含む因子データと、過去に前記因子データに基づいて予測した電力需要の、実際の電力需要に対する予測誤りの傾向を示す予測誤りデータと、を保持し、
前記電力系統制御方法は、
前記制御部が、前記電力需要データと、前記因子データとに基づいて、将来の電力需要を予測する手順と、
前記制御部が、前記予測した将来の電力需要に基づいて、電力系統における計測値が第1の制約条件を満たすように前記電力系統を制御するために前記電力系統を構成する電気機器に設定される数値を算出する手順と、
前記制御部が、前記予測誤りデータに基づいて、将来の電力需要の予測誤りを推定する手順と、
前記制御部が、前記電気機器に前記算出された数値が設定され、前記推定した予測誤りが発生した場合の前記電力系統における計測値の前記第1の制約条件からの逸脱量を算出する手順と、
前記制御部が、前記推定した予測誤りが発生した場合の前記電力系統における計測値の前記第1の制約条件からの逸脱量が小さくなるように、前記電気機器に設定される数値の算出に用いる前記第1の制約条件を変更した第2の制約条件を生成する手順と、
前記制御部が、前記予測した将来の電力需要に基づいて、前記電力系統における計測値が前記第2の制約条件を満たすように前記電力系統を制御するために前記電気機器に設定される数値を算出する手順と、を含むことを特徴とする電力系統制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力系統を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発電設備、送電設備、変電設備、配電設備、需要家設備といった電力の生産から消費までを行う設備全体(以下、電力系統と適宜称する。)が知られている。電力系統において高品質な電力供給を維持するために、電力系統監視制御システムが存在する。電力系統の運用者は、電力系統監視制御システムを利用して、電力系統における特定の計測点の電圧、周波数、電力等を計測し、変動する需要家の電力消費に対して、電圧、周波数、潮流等が定められた適正値になるように、電力系統設備の監視制御を行う。さらに近年、最適潮流計算などの最適化計算によって、より満足度の高い制御値を決定する試みも見られる。
【0003】
また、電力を監視制御する機器では、予測した将来の需要を基に制御計画を立案するなど、予測値に基づく制御立案がなされている。特開2020-54085号公報(特許文献1)には、再生可能エネルギーの託送計画を予測値に基づき策定する際に、予測値と実際値との比較結果を利用して補正する制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-54085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、予測値と実際値との乖離によって発生した制御のズレを補正することが可能であるが、予測値と実際値との乖離によって発生する動作条件の逸脱については抑制できないという課題があった。電力系統の将来の状態の予測を基に制御量を演算して各装置に適用するシステムにおいて、予測誤りの発生によって前提としていた将来の電力系統状態からの差異が発生した場合、演算した制御量を適用した電力系統の状態が、演算時の設定した適正範囲から逸脱してしまう可能性がある。例えば変電所の電圧を制御するような場合、変電所または需要家毎の需要予測が誤っていると、変電所の電圧が想定値から変動し、変動が大きい場合には電圧範囲条件を逸脱してしまい、電力系統の信頼性が保てないといった問題が発生する。
【0006】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、将来の電力系統状態の予測に基づき効率的な制御を立案し適用する場合であっても、予測誤りによって発生する電力系統状態の適正範囲からの逸脱を適切に評価し、これら逸脱の影響を低減できるような高信頼かつ効率的な制御案を立案する電力系統制御装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。例えば、制御部と、記録部と、を有する電力系統制御装置であって、前記記録部は、過去の電力需要を示す電力需要データと、前記過去の電力需要の要因となりうる情報を含む因子データと、過去に前記因子データに基づいて予測した電力需要の、実際の電力需要に対する予測誤りの傾向を示す予測誤りデータと、を保持し、前記制御部は、前記電力需要データと、前記因子データとに基づいて、将来の電力需要を予測し、前記予測した将来の電力需要に基づいて、電力系統における計測値が第1の制約条件を満たすように前記電力系統を制御するために前記電力系統を構成する電気機器に設定される数値を算出し、前記予測誤りデータに基づいて、将来の電力需要の予測誤りを推定し、前記電気機器に前記算出された数値が設定され、前記推定した予測誤りが発生した場合の前記電力系統における計測値の前記第1の制約条件からの逸脱量を算出し、前記推定した予測誤りが発生した場合の前記電力系統における計測値の前記第1の制約条件からの逸脱量が小さくなるように、前記電気機器に設定される数値の算出に用いる前記第1の制約条件を変更した第2の制約条件を生成し、前記予測した将来の電力需要に基づいて、前記電力系統における計測値が前記第2の制約条件を満たすように前記電力系統を制御するために前記電気機器に設定される数値を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、予測した将来の電力系統状態に基づき、最適化によって効率的な制御を行う運用システムにおいて、予測誤りによって発生する電力系統状態の適正範囲からの逸脱の適切な評価に基づき、効率的かつ信頼性の高い制御案を立案し、適用することができる。前述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例1の電力系統制御システムの構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施例1の電力系統の特定の測定ポイントにおける環境状態データの一例を示す説明図である。
図3】本発明の実施例1の電力系統に接続された電気機器の機器設定データの一例を示す説明図である。
図4】本発明の実施例1の電力系統に接続された電気機器の機器状態データの一例を示す説明図である。
図5】本発明の実施例1の電力系統における送電線の電力系統構成データの一例を示す説明図である。
図6】本発明の実施例1における、予測処理部が電力系統予測データを作成する処理の一例を示すフローチャートである。
図7】本発明の実施例1における特定の測定ポイントの電力系統予測データの一例を示す説明図である。
図8】本発明の実施例1における特定の測定ポイントの予測誤りデータの一例を示す説明図である。
図9】本発明の実施例1における電力系統を所定の状態にするための電力系統制御データの一例を示す説明図である。
図10】本発明の実施例1の制御生成実行部が、電力系統状態への制御を生成する処理の一例を示すフローチャートである。
図11】本発明の実施例1における逸脱対策データの一例を示す説明図である。
図12】本発明の実施例1において表示される予測誤り表示画面の一例を示す説明図である。
図13】本発明の実施例1において表示される逸脱対策表示画面の一例を示す説明図である。
図14】本発明の実施例2におけるデータ補正部の構成の一例を示すブロック図である。
図15】本発明の実施例2におけるデータ補正部の構成の別の例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下図面について、本発明の実施の形態を詳述する。
【実施例0011】
図1は、本発明の実施例1の電力系統制御システム1の構成を示すブロック図である。
【0012】
電力系統制御システム1は、電力系統制御装置2および電力系統3を備え、電力系統制御装置2と電力系統3とは通信ネットワーク4を介して通信可能に接続される。
【0013】
電力系統制御装置2は、CPU(Central Processing Unit)、マイクロプロセッサ等のコントローラと、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置と、通信装置とを備えた、回路、プリント基板、サーバ、または情報処理装置などである。電力系統制御装置2は、各種の制御を行う制御部10と、各種の情報を記録(記憶)する記録部20と、所定の条件下での最適解を演算する最適演算部30と、通信ネットワーク4を介して各種の機器と通信を行う通信部40と、各種の情報を入力する入力部50と、各種の情報を出力する出力部60とを備える。
【0014】
制御部10および最適演算部30は、記憶装置に記憶された各種のプログラムに従ってコントローラが処理を行うソフトウェアによって実現されてもよいし、回路等のハードウェアによって実現されてもよい。また、制御部10および最適演算部30の機能は、単一の装置で実現されるものに限られるものではなく、相互に通信可能に接続された複数の装置により実現されてもよい。制御部10および最適演算部30の機能は、それぞれ別のハードウェアによって実現されてもよいし、例えば同一のプロセッサがそれぞれの機能を実現するためのプログラムを実行するなどによって、同一のハードウェアによって実現されてもよい。
【0015】
記録部20は、記憶装置によって実現される。本実施例の記録部20には、電力系統状態データ201、電力系統構成データ202、需要データ203、因子データ204、電力系統予測データ205、予測誤りデータ206、系統制御データ207および逸脱対策データ208が保持される。これらの詳細については後述する。
【0016】
通信部40は、通信装置によって実現される。入力部50は、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、タッチパネル、音声指示装置などであり、それらの少なくとも1つを含んで実現される。出力部60は、ディスプレイ装置、プリンタ、音声出力装置などであり、それらの少なくとも1つを含んで実現される。
【0017】
電力系統制御装置2は、通信部40に接続された通信ネットワーク4を介して、電力系統3の計測機器5から電力系統3の計測データを取得することができる。また、電力系統制御装置2は、電力系統3の電気機器6に制御指令を送信することで、電気機器6の動作状態を制御することができる。制御指令によって動作状態が制御される際、全て自動で制御されても良いし、一部人手による操作が含まれていても良い。
【0018】
電力系統3は、発電装置を用いて発電を行う発電設備(例えば発電所)と、発電設備が発生した電力を消費する需要家設備と、発電設備から需要家設備までの電力を送る電力流通設備(送電設備、変電設備、配電設備等)と、これらの設備の状態を計測する計測機器5とを含む。発電装置は、火力発電、水力発電、原子力発電、地熱発電、太陽光発電、風力発電等を行う装置であるが、他にも様々な発電方法で発電を行う装置であってもよい。電力流通設備としては、架空送電線、地中送電線、変圧器、遮断器、開閉器、調相設備、母線を含むが、他にも送配電に関わる様々な設備が含まれてもよい。
【0019】
計測機器5は、電力系統3の特定の測定ポイントにおける状態を計測する複数の計測装置を示す。計測項目としては、電力系統3の電圧、位相、電力などの電力項目と、気温、風速、風向、降水量、日射量などの気象項目と、電気機器6の設定状態および動作状態の項目と、電力流通設備、発電装置等の電力潮流状態を変化させる機器の動作状態の項目とを含み、他にも様々な項目が計測項目となり得る。測定ポイントは、発電設備の母線、変電設備の母線、電力流通設備、需要家設備等を含み、1つの測定ポイントに対する計測装置は、単数であてもよいし、複数であってもよい。計測機器5が計測した値は、通信ネットワーク4を介して、電力系統制御装置2に送信される。このとき、計測機器5は、計測した値と共に、計測日時の情報を付加して送信してもよい。
【0020】
電気機器6は、電力系統3を構成する機器のうち、発電装置、変圧器、遮断器、調相設備などの電力系統3の電力潮流状態を変更するための装置であるが、他にも様々な装置を含んでもよい。また、電気機器6は、電力系統制御装置2が通信ネットワーク4を介して送信した制御指令を直接もしくは途中人手を介して間接的に受信すると、制御指令に応じて動作状態を変更することができる。
【0021】
電力系統制御装置2の制御部10は、主制御部101、電力系統状態取得部102、予測処理部103、制御生成実行部104、逸脱算出部105、および逸脱対策作成部106を備える。
【0022】
電力系統状態取得部102は、定期的(例えば5分間隔で)または制御部10からの指示時(例えばユーザが所望する時間)に、計測機器5が送信した各種データを、通信部40を介して取得し、記録部20に電力系統状態データ201として計測日時と共に記録する。
【0023】
図1に示すように、電力系統状態データ201には、環境状態データ211、機器設定データ212、および機器状態データ213が含まれる。
【0024】
環境状態データ211には、負荷(電力系統3において電力を消費する電気機器)に流れる有効電力および無効電力、発電装置が発電する有効電力および無効電力、ならびに、装置設置場所の気温等の情報が含まれる。
【0025】
図2は、本発明の実施例1の電力系統3の特定の測定ポイントにおける環境状態データ211の一例を示す説明図である。
【0026】
図2に示すように、環境状態データ211は、例えば、通し番号D101、日時D102、気温D103、有効電力D104、および無効電力D105等の情報を含む。環境状態データ211には、特定の測定ポイントの値(測定値)が時系列で格納される。なお、計測日時D102、気温D103、有効電力D104、および無効電力D105は、測定に係る項目であり、各項目の値は、測定ポイントにおける測定に応じて適宜変更される。気温D103は因子データの例であり、その他の因子データで代替したり、追加したりしても良い。他の因子データの例については後述する。
【0027】
機器設定データ212には、電気機器6の設定状態の情報が含まれる。
【0028】
図3は、本発明の実施例1の電力系統3に接続された電気機器6の機器設定データ212の一例を示す説明図である。
【0029】
図3に示すように、機器設定データ212は、例えば、通し番号D201、計測日時D202、調相設備R1の投入量D203、調相設備R2の投入量D204、変圧器T1のタップ位置D205、および変圧器T2のタップ位置D206等の情報を含む。機器設定データ212には、電気機器6の設定を示す情報(設定値)が時系列で格納される。なお、調相設備R1の投入量D203、調相設備R2の投入量D204、変圧器T1のタップ位置D205、および変圧器T2のタップ位置D206は、電気機器6の設定に係る項目の一例であり、機器設定データ212に含まれる情報として計測機器5から取得可能な項目の組合せを適宜に採用可能である。
【0030】
機器状態データ213には、電気機器6である電力流通設備および発電装置等の電力潮流状態を変化させる機器の動作状態を示す情報(動作状態情報)が含まれる。
【0031】
図4は、本発明の実施例1の電力系統3に接続された電気機器6の機器状態データ213の一例を示す説明図である。
【0032】
図4に示すように、機器状態データ213は、例えば、通し番号D301、計測日時D302、調相設備R1の動作状態D303、調相設備R2の動作状態D304、変圧器T1の動作状態D305、および変圧器T2の動作状態D306等の情報を含む。機器状態データ213には、電気機器6の動作状態情報が時系列で格納される。調相設備R1の動作状態D303、調相設備R2の動作状態D304、変圧器T1の動作状態D305、および変圧器T2の動作状態D306には、遮断器、開閉器などの開閉装置の開閉状態、送電線の送電ステータス等の項目が含まれてもよい。また、機器状態データ213の項目は、電力流通設備、発電装置等の電力潮流状態を変化させる機器の動作状態の項目、計測機器5から取得したその他の機器の動作状態の項目の組合せであってもよい。
【0033】
電力系統構成データ202は、記録部20に予め記録される。電力系統構成データ202には、電力系統3の構成に係る情報が含まれる。
【0034】
図5は、本発明の実施例1の電力系統3における送電線の電力系統構成データ202の一例を示す説明図である。
【0035】
電力系統構成データ202は、例えば、通し番号D401、名称D402、定格電圧D403、基準容量D404、線路長D405、抵抗D406、およびリアクタンスD407等の情報を含み、送電線ごとに格納される。電力系統構成データ202には、電力系統3の解析に必要な情報のうち、電力系統3を構成する機器の電気的な特性、送電容量および電圧範囲などの運用上の条件、ならびに、機器の相互の電気的な接続形態など、通常は短時間では変化しない項目等の情報が含まれる。図5は、送電線の場合を取り上げて示しているが、他の機器の場合には、異なる項目を設けてもよい。
【0036】
図6は、本発明の実施例1における、予測処理部103が電力系統予測データを作成する処理の一例を示すフローチャートである。
【0037】
まず、予測処理部103は、指定された将来日時(以下、これを指定日時とも記載する)の電力系統予測データの作成要求を受信すると、過去からの需要情報などから構成される需要データ203を記録部20から取得する(ステップS101)。次に、予測処理部103は、需要の変動と関連性のある情報から構成される因子データ204を記録部20から取得する(ステップS102)。次に、予測処理部103は、取得した需要データ203と因子データ204の統計的な相関関係から将来の需要を予測した電力系統予測データ205を生成する(ステップS103)。
【0038】
ステップS101において、需要データ203は、記録部20内の他のテーブル内データとリンクした仮想的なデータテーブルであって良く、需要が格納されている環境状態データ211と同じものであっても良い。
【0039】
ステップS102において、因子データ204とは例えば気温、湿度、日射量、風速、または気圧などの気象データ、原油または天然ガスなどの取引量または取引価格などの燃料データ、送電線の送電容量などの送電線データ、発電機の運転または保守スケジュールなどの発電機稼働状況データ、年月日、曜日、または任意に設定した日の種別を示すフラグ値などの暦日データ、台風またはイベントなどの突発事象の発生有無を示すデータ、電力の消費者数、産業動向または景況指数などの経済状況を示すデータである。また、因子データ204は、上記の予測対象自身の過去の観測データそのもの、あるいは予測対象の予測対象日時における予測値自体などを含んでも良い。
【0040】
需要データ203とは例えば、変電所毎もしくは変電所のラインごとの有効電力もしくは無効電力、または、複数の変電所もしくは複数のラインの有効電力もしくは無効電力の合算値などを含んでよい
【0041】
ステップS103において、予測処理部103は、これらの需要データ203と因子データ204との統計的な関係を利用して、将来の需要に関する予測データを生成する。例えば、需要データ203として有効電力、因子データ204として気温を取り上げ、一定期間の因子データ204に対する需要データ203の時系列パターンを作成し、将来時点に対応する因子データ204を入力として、将来の需要データを予測しても良い。あるいは、さらに、その他公知の統計演算またはメタヒューリスティックな手法によって、需要予測を生成しても良い。将来の日時の需要を予測できれば、予測の手法は限定しない。
【0042】
公知の手法とは、例えば、重回帰モデル、一般化線形モデルまたはLasso回帰などのパラメトリックモデルと呼ばれる手法であってもよいし、サポートベクトル回帰、ガウス過程回帰またはランダムフォレストなどの回帰木を使うノンパラメトリックモデルと呼ばれる手法であってもよい。また、予測対象のポイントの識別および相互関係の把握など、需要予測に必要であれば、電力系統状態データ201に加え、電力系統構成データ202を利用しても良い。
【0043】
図7は、本発明の実施例1における特定の測定ポイントの電力系統予測データ205の一例を示す説明図である。
【0044】
電力系統予測データ205は、特定の測定ポイントでの予測値を複数格納するデータであり、項目として、電力系統予測データを特定するためのユニークなID D501、予測の演算を行った日時を示す予測実施日時D502、予測の対象日時を示す予測日時D503、予測される気温を示す気温D504、予測される有効電力を示す有効電力D505、および予測される無効電力を示す無効電力D506が含まれる。気温D504は因子データの例であり、その他の因子データで代替したり、追加したりしても良いし、電力系統予測データ205が因子データを含まなくても良い。
【0045】
図8は、本発明の実施例1における特定の測定ポイントの予測誤りデータ206の一例を示す説明図である。
【0046】
予測誤りデータ206には、指定測定ポイントで発生する予測誤りの推定を複数格納するデータであり、項目として、通し番号D601、測定ポイントID D602、予測誤り期間の繰返し単位D603、開始日時D604、終了日時D605、予測誤りの発生確率D606、典型的な有効電力誤り量D607、および典型的な無効電力誤り量D608が含まれる。予測誤りデータは記録部20に事前に格納されていても良いが、外部のサーバから通信ネットワーク4を介して取得しても良い。
【0047】
このデータの例において、繰返し単位が毎日かつ6:00から8:00で発生確率が高で記載されている場合に、毎日同時刻帯に一定程度高い可能性で、指定した誤り量の予測誤差が発生することを示していると解して良い。ただし、予測誤りが発生しやすい時間もしくは時間帯、予測誤りが発生しやすい予測対象の電力系統上の位置、予測誤りの発生確率、または予測誤りの大きさなどの想定もしくは推定が表現できれば、予測誤りデータは図8に示したものと異なる項目を含んでも良いし、異なる形態のデータであっても良い。
【0048】
また、このデータでは同一の繰返し単位で発生する予測誤りは同時に発生すると解して良い。例えば、図8に例示した測定ポイントA1における毎日の6:00から8:00までの予測誤りと、測定ポイントA1における毎日の6:00から10:00までの予測誤りのうち6:00から8:00の部分とは同時に発生すると解される。
【0049】
ただし、同時発生の確率についての想定または推定が表現できれば、予測誤りデータは図8に示したものと異なる項目を含んでも良いし、異なる形態のデータであっても良い。これによって、過去に電圧逸脱の原因となった予測誤り、および、運用知見として重大な電圧逸脱を招きやすい予測誤りを事前に登録しておくことが可能となる。
【0050】
なお、本実施例では予測誤りに起因する電圧逸脱の影響を低減する制御を説明する。しかし、電圧逸脱は電力系統状態を示す計測値の一例であり、電圧以外にも電力量などの任意の計測値の所定の範囲からの逸脱の影響を低減するために本実施例を適用することができる。
【0051】
制御生成実行部104は、指定日時に対する、最適な電力系統状態の演算への電力系統制御データ207を生成し、電力系統制御データ207に記載された設定値を実現する制御指令を生成し、電力系統3の各対象電気機器6に送信する。上記指定日時は、事前の設定による一定または不定の間隔で指定された日時であっても良いし、入力部50を介した指示によって適宜指定された日時であっても良い。
【0052】
図9は、本発明の実施例1における電力系統3を所定の状態にするための電力系統制御データ207の一例を示す説明図である。
【0053】
電力系統制御データ207には、例えば、それぞれのデータを識別するID D701、適用日時D702、および、制御対象の設備の設定値D703~D708が含まれる。制御対象の設備の設定値D703~D708は、機器設定データ212の設定値D203~D206と同様のものであっても良い。制御対象の設備は、電気機器6に含まれる制御の対象であり、例えば、遮断器および開閉器などであっても良いし、その他の機器の組合せであっても良い。適用日時D702には、電力系統制御データを適用する日時が記録される。
【0054】
図10は、本発明の実施例1の制御生成実行部104が、電力系統状態への制御を生成する処理の一例を示すフローチャートである。
【0055】
制御生成実行部104は、指定時間に関する電力系統状態データ201と電力系統構成データ202、電力系統予測データ205とを最適演算部30へ提供して、演算された最適な電力系統状態を達成するための電力系統案を取得し、電力系統制御データ207として格納する(ステップS201)。
【0056】
次に、制御生成実行部104は、逸脱算出部105に対し、電圧逸脱量の算定を指示すると、予測誤りデータ206を取得し(ステップS202)、指定日時で大きな電圧変動につながる1以上の同時発生する予測誤りを抽出する(ステップS203)。
【0057】
次に、制御生成実行部104は、電力系統状態データ201、電力系統構成データ202、電力系統予測データ205、電力系統制御データ207、およびS203にて抽出した複数の予測誤り量から、指定日時での最適な電力系統状態で予測誤りが発生した際の電圧の逸脱量を計算し、逸脱対策データ208へ格納する(ステップS204)。
【0058】
次に、制御生成実行部104は、逸脱対策作成部106に対し、保存された逸脱量および過去の履歴などのデータを基に、当該逸脱の危険度を算出し、算出された危険度が閾値以上のものが存在するかを判定する(ステップS205)。算出された危険度が閾値以上のものが存在する場合には(ステップS205:Y)、制御生成実行部104は、当該危険度が閾値以下となるような電圧範囲の変更設定を逸脱対策データ208へ格納する(ステップS206)。
【0059】
次に、制御生成実行部104は、逸脱対策データ208から電圧範囲の変更設定を取得し、当該変更設定を適用したデータを利用して、再度S201と同様の処理で最適な装置設定を再計算し、電力系統制御データ207へ上書きする(ステップS207)。最後に、制御生成実行部104は、電力系統制御データ207の適用日時が近づいたら、該当する設備に対し、これらの設定を適用する(S208)。
【0060】
図11は、本発明の実施例1における逸脱対策データ208の一例を示す説明図である。
【0061】
逸脱対策データ208は、条件が設定されている箇所の推定逸脱量とその対策に係るデータである。条件が設定されている箇所は例えば母線であるがその他の項目であっても良い。図11は、母線の電圧についての例である。図11に示す逸脱対策データ208には、通し番号を示すID D801、対策の適用日時D802、母線IDD803、推定逸脱項目D804、推定逸脱量D805、推定危険度D806、危険度の閾値D807、および逸脱への対策内容D808が含まれる。
【0062】
ステップS203において、制御生成実行部104は、単純に同時刻に発生確率が高いと指定されている変動を一律に取り込んでも良い。また例えば、制御生成実行部104は、一つのポイントで相反する変動の発生が格納されるような場合には、同時発生確率の高い予測誤りの内、電力系統の接続ネットワークを基に、大きな電圧変動につながる予測誤りを抽出する方法を利用しても良い。このような抽出は例えば、母線の接続ネットワーク上の周辺に位置する複数の負荷の有効電力および無効電力が共に小さくなる方向で予測誤りが発生すると、電圧上昇の変動がより大きくなり電圧逸脱が発生しやすくなることを利用し、各負荷の予測誤りの発生確率および有効電力誤り量と無効電力誤り量の符号から、このような予測誤りを抽出することで実現できる。このような手順によって、例えば、同時発生の可能性が極めてまれな予測誤りに対する電圧変動を排除することで、より実用的な逸脱対策を実現できる。
【0063】
また、制御生成実行部104は、電圧が小さくなる方向の予測誤りや、異なる同時発生の予測誤りの組についても別途抽出し、ステップS204にて電圧変動を評価する。このようにすることで、一つ以上の予測誤りによって発生する電圧逸脱を適切に評価できる。
【0064】
ステップS204において電圧の逸脱量を計算する際に、制御生成実行部104は、ステップS203で抽出した予測誤りの組について、各々逸脱量を計算し、全ての逸脱量を計算する。
【0065】
ステップS205において逸脱の危険度を計算する際に、制御生成実行部104は、例えば、逸脱対策データ208において、適用日時における推定電圧逸脱量が0以外の場合は推定危険度10ポイント、そうでない場合は0ポイントととし、閾値を5ポイントとすることで、予測誤りによって電圧が所定の範囲から外れる場合については危険であると判定することができる。
【0066】
また、運用条件が余裕をもって設定されるような場合には、これらの条件に適した形で危険度を計算しても良い。例えば、逸脱が一定期間継続すると危険とみなすような運用条件である場合、過去に計算した逸脱量または危険度の累積値が所定の閾値を超えたときに、閾値以上の危険度の逸脱が存在すると判定してもよい。
【0067】
ステップS206において、危険度が閾値以下となるように電圧範囲を変更する方法として、例えば、推定逸脱項目が電圧上限であり、推定逸脱量が0.02である場合には、対策内容としては電圧上限を-0.02とする方法を利用しても良い。この範囲変更方法によって、ステップS207で再計算した最適な装置設定が実現する電力系統断面は、予測誤りによって0.02の逸脱が発生した場合でも、電圧を範囲内に留めることができる。電圧範囲の変更の方法は、さらに例えば、電圧上限の-0.001と、S205で実施した危険度計算とを繰返し実施し、危険度が閾値以下になった際の範囲変更を採用するなど、S205での危険度の演算方法に応じた方法を利用しても良く、危険度が閾値以下となるように電圧範囲を変更する方法であれば良い。
【0068】
図12は、本発明の実施例1において表示される予測誤り表示画面の一例を示す説明図である。
【0069】
予測誤り表示画面1200は、メニュー画面から呼び出され、予測誤りデータ206の内容を表示する。予測誤り表示画面1200で表示される予測誤りデータ206の内容は、図8で説明したものと同じであるため、詳細の説明は省略する。また、予測誤り表示画面1200では、予測誤りデータ206の一部を表示しても良いし、予測誤りデータ206に含まれないデータを併せて表示しても良い。予測誤り表示画面1200は、予測誤りの一部の情報をユーザが変更するための[変更]ボタン、および、画面を閉じて、呼出元のメニュー画面に戻るための[戻る]ボタンを含んでも良い。
【0070】
図13は、本発明の実施例1において表示される逸脱対策表示画面の一例を示す説明図である。
【0071】
逸脱対策表示画面1300は、メニュー画面から呼び出され、逸脱対策データ208の内容を表示する。逸脱対策表示画面1300で表示される逸脱対策データ208の内容は、図11で説明したものと同じであるため、詳細の説明は省略する。また、逸脱対策表示画面1300では、逸脱対策データ208の一部を表示しても良いし、逸脱対策データ208に含まれないデータを併せて表示しても良い。逸脱対策表示画面1300は、閾値などの逸脱対策の一部の情報をユーザが変更するための[変更]ボタン、および、画面を閉じて、呼出元のメニュー画面に戻るための[戻る]ボタンを含んでもよい。
【0072】
次に、最適演算部30による演算を説明する。最適演算部30は、電力損失低減または電圧安定性向上等の所定の目的に対し、目的に最適な電力系統3の状態を演算するものである。最適演算部30は、目的を表す指標が改善されるように、電力系統3の変数を決定する。例えば、最適演算部30は、電力損失低減を表現する目的関数を与え、電力系統3の潮流方程式の制約条件と、電圧範囲、機器制御可不可等のその他の等式制約条件および不等式制約条件とを満足する変数の組合せの中から、上記目的関数を最小または最大とする変数の組合せを演算する。変数としては、各母線の電圧、調相設備の投入量、変圧器のタップ位置などが利用される。
【0073】
最適演算部30の演算は、最適潮流計算等の公知技術を用いて行うことができるが、所望の目的に対して、最適な電力系統3の状態を演算する方法であれば、その他の方法を用いてもよい。
【0074】
以上の実施例1によれば、将来の予測された電力系統状態に基づき効率的な制御を立案し適用する場合であっても、予測誤りによって発生する電力系統状態の適正範囲からの逸脱を適切に評価し、適切な回避策を立案することで、効率的かつ信頼性の高い制御案を立案することができる。
【実施例0075】
実施例2では、電力系統制御装置2は、実施例1の構成および機能に加え、予測処理部103において使用する需要データの補正を行うデータ補正部107を設けた構成となる。以下に説明する相違点を除き、実施例2のシステムの各部は、図1図13に示された実施例1の同一の符号を付された各部と同一の機能を有するため、それらの説明は省略する。
【0076】
図14は、本発明の実施例2におけるデータ補正部107の構成の一例を示すブロック図である。
【0077】
実施例2の制御部10は、実施例1と同様の主制御部101から逸脱対策作成部106に加えて、さらに、補正部107を備える。補正部107は、第一の補正部171、第二の補正部172および第三の補正部173を備える。
【0078】
まず、第一の補正部171は、需要データ203の入力を受け、需要データ203における突発的な需要変動を補正する。具体的に第一の補正部171は、時系列データである需要データ203の1時刻差分値を算出し、算出した1時刻差分値の標準偏差を算出する。そして第一の補正部171は、算出した標準偏差の所定の倍数を超える1時刻差分値を有する日時を突発的な需要変動が生じた日時として検出する。そして第一の補正部171は、検出した日時における1時刻差分値のみを時系列に累積し、累積した値を需要データ203から除算することで第一の補正データを出力する。
【0079】
次いで第二の補正部172は、第一の補正データおよび因子データ204の入力を受け、第一の補正データにおける短周期の変動成分を補正する。具体的に第二の補正部172は、第一の補正データを所定の時間粒度で区切ることで複数の標本に分割する。所定の時間粒度とは、例えば24時間粒度などである。そして第二の補正部172は、各標本について周波数成分を抽出する。周波数成分の抽出は公知の手法を適用してよく、公知の手法とは例えばフーリエ変換またはウェーブレット変換である。
【0080】
次いで第二の補正部172は、因子データ204における所定の因子の観測時間粒度を取得し、前述の周波数成分における前述の観測時間粒度未満の周波数成分をすべてゼロに修正する。そして第二の補正部172は、前述の周波数成分を原波形に復元することで第二の補正データを出力する。
【0081】
そして第三の補正部173は、需要データ203および第二の補正データの入力を受け、需要データ203の最新日時における計測値に、同一日時における第二の補正データの値が一致するよう第二の補正データを補正し、図示されない第三の補正データ209として出力する。以上を以て、データ補正部107の処理を終了する。
【0082】
またさらに、第一の補正部171は、検知した突発的な需要変動が生じた日時と変動幅を記録し、繰返し発生する変動について、変動期間および発生確率を計算することで、予測誤りデータ206の一部を自動で生成しても良い。
【0083】
また、図14を用いて説明した構成では、予測処理部103に入力する前にすべての補正処理を完了させるものとして説明したが、これに限らず、予測処理部103の出力を第三の補正部173で補正する構成であってもよい。この構成について図15を用いて説明する。
【0084】
図15は、本発明の実施例2におけるデータ補正部107の構成の別の例を示すブロック図である。
【0085】
図15における第一の補正部171および第二の補正部172は、図14を用いて説明した上述の各補正部と同様である。ここで図15の構成では、第二の補正部172の補正データを予測処理部103に入力する。予測処理部103は、入力された補正データに基づいて、予測対象日時および観測データが存在する過去の所定期間にわたる予測データを出力する。そして予測処理部103が出力した予測データを第三の補正部173に入力する。第三の補正部173は、上記の観測データが存在する過去の所定期間における需要データ203の計測値に一致、または偏差が最小となるように、予測処理部103が出力した予測データを補正し、新たな予測データとして出力する。
【0086】
以上の実施例2によれば、将来の予測された電力系統状態に基づき効率的な制御を立案し適用する場合であっても、予測誤りによって発生する電力系統状態の適正範囲からの逸脱を適切に評価し、適切な回避策を立案することで、効率的かつ信頼性の高い制御案を立案することができる。さらに、実施例2には後述の効果もある。
【0087】
第一の補正部171において突発的な需要変動データを補正することによって、予測処理部103での予測モデルの同定における突発的な需要変動データの影響によるモデル化誤差悪化を軽減することができる。これによって、予測処理部103が出力する予測値の精度をより向上することができる。また、突発的な需要変動を予測誤りデータ206として自動的に生成することができる。
【0088】
また、第二の補正部172において、第一の補正データから因子データ204の観測時間粒度未満の周波数成分を除去することで、因子データ204の観測時間粒度ではモデル化が困難な需要データ203の短周期変動成分を除去することができる。これによって、予測処理部103におけるモデル化誤差悪化を軽減することができる。
【0089】
また、第三の補正部173において、需要データ203での最新観測日時における観測値に、同一日時における第二の補正データの値が一致するよう第二の補正データを補正することで、最新観測日時において突発的な需要変動が生じていた場合での予測モデルの追従を可能とすることができる。これによって、突発的な需要変動時における予測精度をより高めることができる。
【0090】
また、本発明の実施形態のシステムは次のように構成されてもよい。
【0091】
(1)制御部(例えば制御部10)と、記録部(例えば記録部20)と、を有する電力系統制御装置例えば電力系統制御装置2)であって、記録部は、過去の電力需要を示す電力需要データ(例えば需要データ203)と、過去の電力需要の要因となりうる情報を含む因子データ(例えば因子データ204)と、過去に因子データに基づいて予測した電力需要の、実際の電力需要に対する予測誤りの傾向を示す予測誤りデータ(例えば予測誤りデータ206)と、を保持し、制御部は、電力需要データと、因子データとに基づいて、将来の電力需要を予測し(例えばステップS101~S103)、予測した将来の電力需要に基づいて、電力系統における計測値が第1の制約条件を満たすように電力系統を制御するために電力系統を構成する電気機器に設定される数値を算出し(例えばステップS201)、予測誤りデータに基づいて、将来の電力需要の予測誤りを推定し(例えばステップS202~S203)、電気機器に算出された数値を設定し、推定した予測誤りが発生した場合の電力系統における計測値の第1の制約条件からの逸脱量を算出し(例えばステップS204)、推定した予測誤りが発生した場合の電力系統における計測値の第1の制約条件からの逸脱量が小さくなるように、電気機器に設定される数値の算出に用いる第1の制約条件を変更した第2の制約条件を生成し(例えばステップS206)、予測した将来の電力需要に基づいて、電力系統における計測値が第2の制約条件を満たすように電力系統を制御するために電気機器に設定される数値を算出する(例えばステップS207)。
【0092】
これによって、予測した将来の電力系統状態に基づき、最適化によって効率的な制御を行う運用システムにおいて、予測誤りによって発生する電力系統状態の適正範囲からの逸脱の適切な評価に基づき、効率的かつ信頼性の高い制御案を立案し、適用することができる。
【0093】
(2)上記(1)において、予測誤りデータは、電力需要の測定地点(例えばD602)と、予測誤りの発生タイミング(例えばD603~D605)と、予測誤りの量(例えばD607~D608)と、を示す情報を含み、制御部は、予測誤りの発生タイミング及び予測誤りの量に基づいて、同時に発生する可能性があり、かつ、大きな計測値の変動につながると判定された2以上の予測誤りが同時に発生した場合の逸脱量を算出する(例えばステップS203~S204)。
【0094】
これによって、対応する必要性が高い予測誤りを対象として、適切な制御を行うことができる。
【0095】
(3)上記(1)において、制御部は、逸脱量に基づいて危険度を算出し、危険度が所定の閾値を超える場合に、第2の制約条件を生成する(例えばステップS205:Y、S206)。
【0096】
これによって、危険度が高い逸脱の発生を防ぐために適切な制御を行うことができる。
【0097】
(4)上記(3)において、制御部は、過去に計算した危険度の累積値が所定の閾値を超える場合に、第2の制約条件を生成する。
【0098】
これによって、危険度が高い逸脱の発生を防ぐために適切な制御を行うことができる。
【0099】
(5)上記(3)において、制御部は、危険度が所定の閾値を超えないように、第2の制約条件を生成する(例えばステップS206)。
【0100】
これによって、危険度が高い逸脱の発生を防ぐために適切な制御を行うことができる。
【0101】
(6)上記(3)において、制御部は、電気機器に、第2の制約条件に基づいて算出された数値を設定し、推定した予測誤りが発生した場合の電力系統における計測値の第1の制約条件からの逸脱量を算出し、当該逸脱量に基づいて算出した危険度が閾値を超える場合に、第1の制約条件に対する変更量を追加した第2の制約条件を生成し、危険度が閾値を超えない値となるまで、第1の制約条件に対する変更量の追加及び第2の制約条件に基づく逸脱量の算出を繰り返す(例えばステップS206~S207の繰り返し)。
【0102】
これによって、危険度が高い逸脱の発生を防ぐために適切な制御を行うことができる。
【0103】
(7)上記(1)において、制御部は、電力需要データの1単位時間ごとの差分値に基づいて突発的な需要変動を検出した場合に、電力需要データから突発的な需要変動を取り除くことによって第1の補正データを生成する第1の補正処理(例えば第一の補正部171の処理)と、第1の補正データから、因子データに含まれる情報の時間粒度より短い周期で変動する成分を取り除くことによって第2の補正データを生成する第2の補正処理(例えば第二の補正部172の処理)と、第2の補正データに、電力需要データのうち現在に近い所定の時間範囲内のデータから検出された需要変動に応じた値を追加することによって第3の補正データを生成する第3の補正処理(例えば図14の第三の補正部173の処理)と、を実行し、第3の補正データと、因子データとに基づいて、将来の電力需要を予測する。
【0104】
これによって、精度の高い予測モデルを生成することができる。
【0105】
(8)上記(1)において、制御部は、電力需要データの1単位時間ごとの差分値に基づいて突発的な需要変動を検出した場合に、電力需要データから突発的な需要変動を取り除くことによって第1の補正データを生成する第1の補正処理と、第1の補正データから、因子データに含まれる情報の時間粒度より短い周期で変動する成分を取り除くことによって第2の補正データを生成する第2の補正処理と、を実行し、第2の補正データと、因子データとに基づいて、因子データから将来の電力需要を予測する予測モデルを生成し、予測モデルの出力に、電力需要データのうち現在に近い所定の時間範囲内のデータから検出された需要変動に応じた値を追加した値を、将来の電力需要を予測した結果として出力する第3の補正処理(例えば図15の第三の補正部173の処理)を実行する。
【0106】
これによって、精度の高い予測モデルを生成することができる。
【0107】
(9)上記(1)において、計測値は電圧であり、第1の制約条件及び第2の制約条件は電圧範囲である。
【0108】
これによって、所定の範囲からの電圧の逸脱を防ぐために適切な制御を行うことができる。
【0109】
(10)上記(1)において、因子データは、気象に関する情報、燃料の取引に関する情報、発電機の稼働状況に関する情報、暦日に関する情報、突発事象の発生有無に関する情報、及び経済状況に関する情報の少なくともいずれかを含む。
【0110】
これによって、種々の要因に基づく電力需要の予測の誤りを対象として適切な制御を行うことができる。
【0111】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明のより良い理解のために詳細に説明したのであり、必ずしも説明の全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることが可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0112】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によってハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによってソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、不揮発性半導体メモリ、ハードディスクドライブ、SSD(Solid State Drive)等の記憶デバイス、または、ICカード、SDカード、DVD等の計算機読み取り可能な非一時的データ記憶媒体に格納することができる。
【0113】
また、制御線及び情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線及び情報線を示しているとは限らない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0114】
1 電力系統制御システム
2 電力系統制御装置
3 電力系統
4 通信ネットワーク
5 計測機器
6 電気機器
10 制御部
20 記録部
30 最適演算部
40 通信部
50 入力部
60 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15