(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036461
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】塗装作業管理システムおよび塗装作業管理方法
(51)【国際特許分類】
B05B 12/00 20180101AFI20230307BHJP
B05D 1/02 20060101ALI20230307BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
B05B12/00 Z
B05D1/02 Z
B05D3/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021143525
(22)【出願日】2021-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】勝村 宣仁
【テーマコード(参考)】
4D075
4F035
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AA02
4D075AA04
4D075AA09
4D075AA76
4D075AA81
4D075AA82
4D075AA85
4D075BB02Z
4D075BB16X
4D075CA47
4D075CA48
4D075DC05
4D075DC11
4D075EA05
4F035AA03
4F035BA02
4F035BA22
4F035BB13
4F035BB21
4F035BB32
4F035BC06
(57)【要約】
【課題】塗装を作業者が人手で行う場合に、被塗装物に対して適正な塗料の膜厚を形成することを可能にする。
【解決手段】塗装作業管理システムは、塗装ガン、塗料供給装置、塗装ガンの位置、姿勢を計測する計測装置、被塗装物に対して、形成される膜厚形成パターンを算出する塗装作業管理装置からなる。塗装作業管理装置は、塗装条件に対応付けた膜厚パターンの情報を保持し、塗装条件に対応付けた膜厚パターンの情報と、ある塗装の時刻における塗装条件と、塗装の時刻における塗装ガン位置、姿勢とに基づいて、膜厚パターンを選択する。そして、塗装ガンの時々における位置、姿勢から、塗装ガンの移動速度を算出し、算出された塗装ガンの移動速度と、選択された膜厚パターンから、膜厚パターンの示す膜厚値を、一定期間の間積算し、被塗装物に形成される膜厚形成パターンと、その座標値を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装ガンにより塗料を吹き付けることにより被塗装物に対して塗装を行う塗装作業を管理する塗装作業管理システムであって、
前記塗装ガンに対して塗料を供給する塗料供給装置と、
前記塗装ガンの時々における位置、姿勢を計測する計測装置と、
前記塗料供給装置から塗料に関する情報と、前記塗装ガンの時々における位置、姿勢を計測する計測装置から塗装ガンに関する情報を入力して、前記被塗装物に対して、形成される膜厚形成パターンを算出する塗装作業管理装置とを備え、
前記塗装作業管理装置は、
塗装条件に対応付けた膜厚パターンの情報を保持し、
前記塗装作業管理装置は、
前記塗装条件に対応付けた膜厚パターンの情報と、ある塗装の時刻における塗装条件と、前記塗装の時刻における塗装ガン位置、姿勢とに基づいて、膜厚パターンを選択し、
前記塗装ガンの時々における位置、姿勢から、前記塗装ガンの移動速度を算出し、
前記算出された塗装ガンの移動速度と、前記選択された膜厚パターンから、前記膜厚パターンの示す膜厚値を、一定期間の間積算し、被塗装物に形成される膜厚形成パターンと、前記膜厚形成パターンの座標値を算出することを特徴とする塗装作業管理システム。
【請求項2】
請求項1記載の塗装作業管理システムにおいて、
前記塗装条件は、塗装に用いる塗料の情報、塗装ガンに関する情報、塗装ガンに送られるエア流量を含むことを特徴とする塗装作業管理システム。
【請求項3】
請求項1記載の塗装作業管理システムにおいて、
さらに、塗装作業の作業者に着用され、被塗装物と、塗装作業に必要な情報が表示されるヘッドマウントディスプレイを備え、
前記塗装作業管理装置は、膜厚形成パターンに示す膜厚の情報を前記ヘッドマウントディスプレイに出力し、
前記ヘッドマウントディスプレイは、入力された膜厚形成パターンに示す膜厚の情報を表示することを特徴とする塗装作業管理システム。
【請求項4】
塗装ガンにより塗料を吹き付けることにより被塗装物に対して塗装を行う塗装作業を管理する塗装作業管理システムの塗装作業管理方法であって、
塗装作業管理システムは、
前記塗装ガンに対して塗料を供給する塗料供給装置と、
前記塗装ガンの時々における位置、姿勢を計測する計測装置と、
前記塗料供給装置から塗料に関する情報と、前記塗装ガンの時々における位置、姿勢を計測する計測装置から塗装ガンに関する情報を入力して、前記被塗装物に対して、形成される膜厚形成パターンを算出する塗装作業管理装置と、
塗装作業の作業者に着用され、被塗装物と、塗装作業に必要な情報が表示されるヘッドマウントディスプレイとを備え、
前記塗装作業管理装置は、
塗装条件に対応付けた膜厚パターンの情報を格納する膜厚パターンテーブルと、
塗装の時刻と、前記塗装の時刻における塗装条件と、前記塗装の時刻における塗装ガン位置、姿勢と、前記膜厚パターンとを対応付けて格納する塗装条件テーブルと、
前記塗装ガンのある時刻における速度を格納する塗装ガン移動速度テーブルと、
塗装の時刻と、座標値と、膜厚形成パターンとを対応付けて格納する膜厚結果テーブルとを保持し、
前記塗装作業管理装置が、塗装の時刻における塗装条件と、前記塗装の時刻における塗装ガン位置、姿勢を前記塗装条件テーブルに格納するステップと、
前記塗装作業管理装置が、前記膜厚パターンテーブルと、前記塗装条件テーブルに格納された前記塗装の時刻における塗装条件と、前記塗装の時刻における塗装ガン位置、姿勢とに基づいて、膜厚パターンを選択するステップと、
前記塗装作業管理装置が、前記塗装の時刻における塗装ガンの移動速度を算出して、前記塗装ガン移動速度テーブルに格納するステップと、
前記塗装作業管理装置が、前記塗装ガン移動速度テーブルに格納された塗装ガンのある時刻における速度に基づいて、選択された膜厚パターンの示す膜厚値を、一定期間の間積算し、前記膜厚形成パターンと、前記膜厚形成パターンの座標値を算出し、前記膜厚結果テーブルに、塗装の時刻と、座標値と、膜厚形成パターンとを対応付けて格納するステップと、
前記塗装作業管理装置が、前記膜厚形成パターンの示す膜厚値に関する情報を含む前記ヘッドマウントディスプレイに表示するヘッドマウントディスプレイ用の表示データを編集データを編集し、前記ヘッドマウントディスプレイに出力するステップとを有することを特徴とする塗装作業管理方法。
【請求項5】
請求項4記載の塗装作業管理方法において、
膜厚パターンテーブルに格納された塗装条件に対応付けた膜厚パターンの情報は、実際の被塗装物に対してその塗装条件より塗装の実験を行い計測する、あるいは、数値計算やコンピュータシュミレーションより求められることを特徴とする塗装作業管理方法。
【請求項6】
請求項4記載の塗装作業管理方法において、
前記膜厚パターンを選択するステップにおいて、
前記膜厚パターンテーブルの示す塗装条件と、前記塗装条件テーブルに格納された前記塗装の時刻における塗装条件に対しての距離を算出して、その距離の近い前記膜厚パターンテーブルの膜厚パターンを選択することを特徴とする請求項4記載の塗装作業管理方法。
【請求項7】
請求項6記載の塗装作業管理方法において、
前記膜厚パターンテーブルの示す塗装条件と、前記塗装条件テーブルに格納された前記塗装の時刻における塗装条件に対しての距離の算出は、各条件に対しての重みづけした差分の二乗和により算出されることを特徴とする塗装作業管理方法。
【請求項8】
請求項7記載の塗装作業管理方法において、
前記距離の算出に用いられる重みづけの係数は、教師ありデータの学習により求められることを特徴とする塗装作業管理方法。
【請求項9】
請求項4記載の塗装作業管理方法において、
前記膜厚パターンは、それぞれの単位格子に単位時間において形成される塗料の膜厚値であり、
被塗装物の表面のx方向、y方向ごとに、前記膜厚パターンのそれぞれの単位格子の示す膜厚値に、前記単位格子の一辺の大きさをx方向の塗装ガンの移動速度を除した係数を掛け、前記単位格子の一辺の大きさをy方向の塗装ガンの移動速度を除した係数を掛けて、それぞれの時刻の増分ごとに、一定の期間の間積算した値を、前記膜厚形成パターンのそれぞれの単位格子の示す膜厚値とすることを特徴とする塗装作業管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装作業管理システムおよび塗装作業管理方法に係り、特に、作業者による塗装を行う際に、被塗装物に対して適切な塗料の膜厚を形成するのに好適な塗装作業管理システムおよび塗装作業管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物をはじめとする構造物の多くには、意匠性の付与や保護などを目的に塗装が施されている。特に、鉄道車両や自動車等の移動体においては、美観の付与や空力抵抗を低減するために、塗膜表面を平滑にする必要がある。
【0003】
塗膜は単層の場合もあるが、塗膜表面を平滑にするという特性を確保するため、複層にすることが多い。例えば、金属表面へ塗膜を形成する場合、金属表面をブラスト処理など荒らした後の錆止めプライマー塗布・乾燥、金属表面の凹凸を被覆して平滑性を確保するためのパテ付け・乾燥・研磨、パテ表面の微細な凹凸を被覆するためのサフェーサ塗布・乾燥・研磨、中塗り塗布・乾燥・研磨、最表面の意匠性付与のための上塗り塗布・乾燥・研磨といった手順で進められる。
【0004】
塗装は一般的に、作業者が人手で行なうか、ロボット等の自動機を用いて行なわれる。作業者が塗装を行なう場合には、スプレー、刷毛、ローラー等を用いるが、塗装時の塗装膜厚をリアルタイムまたは塗装直後に定量的に把握することは困難であり、作業者の熟練性に依存する面が強い。
【0005】
一方、ロボットを用いる場合には、設備投資が高価であり、有機溶剤を含む塗料を用いる場合は防爆仕様であることが必要であり、更に設備投資額が増大する。また、ロボットを設置する場所や被塗装物を加熱する場合は、ロボットを退避させる処理、あるいは、被塗装物を移動して加熱する処理が必要となる。
【0006】
ロボット塗装においては、シミュレーションにより塗装膜厚分布を取得する方法がある。例えば、特許文献1には、シミュレーション技術として、「塗装膜厚シミュレーション方法」が開示されている。特許文献1のシミュレーション方法によれば、塗装ガン位置における膜厚分布値を基準パターンに基づいて取得し、その膜厚分布値を積算して、被塗装物の膜厚分布値を取得する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の方法は、ロボット塗装に関するものであり、設備投資を必要とする。また、一般的に複雑な構造体に対する塗装は人手に頼るところが多く、塗装作業において人手は排除できない。
【0009】
一般に塗装を、作業者が人手で行う場合、ロボットを用いる場合いずれの場合においても、塗装を行う場合は塗装膜厚に注意する必要がある。所定膜厚よりも薄い場合は、塗装による保護が弱くなったり、必要な美観が得られない等の不具合が起こる。所定膜厚よりも厚い場合は、溶剤が塗装膜中に残存して気化することによって、いわゆるフクレや割れ等の不具合が発生したり、塗料を多量に使用することでコスト上昇を引き起こすことがある。また、これらが複合的に発生することで、ムラ等により美観を損なうことがある。これらを防止するには、適正膜厚を確保することが必要である。
【0010】
本発明の目的は、塗装を作業者が人手で行う場合に、被塗装物に対して適正な塗料の膜厚を形成することを可能にする塗装作業管理システムおよび塗装作業管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の塗装作業管理システムの構成は、好ましくは、塗装ガンにより塗料を吹き付けることにより被塗装物に対して塗装を行う塗装作業を管理する塗装作業管理システムであって、塗装ガンに対して塗料を供給する塗料供給装置と、塗装ガンの時々における位置、姿勢を計測する計測装置と、塗料供給装置から塗料に関する情報と、塗装ガンの時々における位置、姿勢を計測する計測装置から塗装ガンに関する情報を入力して、被塗装物に対して、形成される膜厚形成パターンを算出する塗装作業管理装置とを備え、塗装作業管理装置は、塗装条件に対応付けた膜厚パターンの情報を保持し、塗装作業管理装置は、塗装条件に対応付けた膜厚パターンの情報と、ある塗装の時刻における塗装条件と、塗装の時刻における塗装ガン位置、姿勢とに基づいて、膜厚パターンを選択し、塗装ガンの時々における位置、姿勢から、塗装ガンの移動速度を算出し、算出された塗装ガンの移動速度と、選択された膜厚パターンから、膜厚パターンの示す膜厚値を、一定期間の間積算し、被塗装物に形成される膜厚形成パターンと、膜厚形成パターンの座標値を算出するようにしたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、塗装を作業者が人手で行う場合に、被塗装物に対して適正な塗料の膜厚を形成することを可能にする塗装作業管理システムおよび塗装作業管理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】塗装作業管理装置のハードウェア・ソフトウェア構成図である。
【
図4】塗装作業情報テーブルの一例を示す図である。
【
図5】膜厚パターンテーブルの一例を示す図である。
【
図6A】膜厚パターンの各例を示す図である(その一)。
【
図6B】膜厚パターンの各例を示す図である(その二)。
【
図6C】膜厚パターンの各例を示す図である(その三)。
【
図6D】膜厚パターンの各例を示す図である(その四)。
【
図6E】膜厚パターンの各例を示す図である(その五)。
【
図8】塗装ガン移動速度テーブルの一例を示す図である。
【
図11】被塗装物の一例として鉄道車両の側面を示した図である。
【
図13】被塗装物と塗装ガンの関係について説明する図である。
【
図14A】塗装ガンの位置、塗装ガンの姿勢と、被塗装物の表面に形成される膜厚の関係を示した図である(その一)。
【
図14B】塗装ガンの位置、塗装ガンの姿勢と、被塗装物の表面に形成される膜厚の関係を示した図である(その二)。
【
図14C】塗装ガンの位置、塗装ガンの姿勢と、被塗装物の表面に形成される膜厚の関係を示した図である(その三)。
【
図15A】塗装作業管理装置の処理を示すフローチャートである(その一)。
【
図15B】塗装作業管理装置の処理を示すフローチャートである(その二)。
【
図16】膜厚パターンを選択する処理に用いられる式を説明する図である。
【
図17】膜厚形成パターンを算出する処理に用いられる式を説明する図である。
【
図18A】膜厚形成パターンを算出する処理を説明する図である(その一)。
【
図18B】膜厚形成パターンを算出する処理を説明する図である(その二)。
【
図18C】膜厚形成パターンを算出する処理を説明する図である(その三)。
【
図19】作業者がAR-HMDを使用したときの表示イメージの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、
図1ないし
図19を用いて説明する。
先ず、
図1ないし
図3を用いて塗装作業管理システムの構成について説明する。
【0015】
先ず、
図1を用いて塗装作業管理システムの全体構成について説明する。
塗装作業管理システムは、被塗装物10に対して、主に人手により塗装作業をするときにサポートするシステムである。作業者1は、塗装ガン40から塗料4を吐出させて吹き付けると同時に、塗装ガンを被塗装物10の塗装面に対して平行に移動させることにより、塗料4を、被塗装物10の塗装面に塗布する。なお、以下の実施形態では、被塗装物10が鉄道車両である場合を例に採り説明する。
【0016】
塗装作業管理システムは、
図1に示されるように、AR-HMD(Augmented Reality Head Mounted Display:拡張現実用ヘッドマウントディスプレイ)20、カメラ30(
図1では、30a、30bと表記)、塗装ガン40、塗装作業管理装置100、塗料供給装置300を有する。
【0017】
塗装ガン40は、コンプレッサー(図示せず)の圧縮空気を利用し、塗料4などの液体を霧状に噴射して対象に吹きつける塗装装置である。塗装ガン40の代表的な形態は、ピストルのような形状をしており、引き金を引くことで塗料がスプレーされるようにしたものである。
【0018】
塗装ガン40は、塗料供給装置300と、ホース50により接続されており、塗装ガン40から吐出される塗料の吐出量(塗料の流量)は、複数の塗料成分を自動混合する塗料供給装置により記録され、有線または無線のネットワークや接続線を介して、塗装作業管理装置100に報告される。また、本実施形態では、塗装ガン40が、エアガンの場合であるものとし、コンプレッサー(図示せず)とエアホースにより接続されており、塗料と同時に吐出される空気等とエア流量も記録され、塗装作業管理装置100に報告されるものとする。
【0019】
また、本実施形態の塗装ガン40には、被塗装物10に対する位置、向きが把握できるようなマーカー41が装着されている。マーカー41は、例えば、可視光、赤外線、電波を発信することにより、ガン位置を示すものであり、向きを示すために複数のマーカー(例えば、3箇所)が装着されている。
【0020】
そして、塗装ガン40の位置、向きは、塗装ガン40のマーカー41から受信した位置情報により計算される。受信方法としては、例えば、センサや複数のカメラ30により、マーカー41から発信された電波を捉える形態が考えられる。
【0021】
なお、本実施形態の塗装ガン40は、エアガン、エアレスガン、静電ガン等のいずれの形態でもよい。
【0022】
カメラ30は、作業者1の塗装作業を撮影して、その画像を有線または無線のネットワークにより、塗装作業管理装置100に転送する装置である。また、上述のようにカメラ30により塗装ガン40の位置、向きや移動速度を塗装作業管理装置100に送信してもよい。
【0023】
AR-HMD20は、作業者1の頭部に装着されて、塗装作業のための必要な情報を表示するためのディスプレイである。例えば、塗装作業管理装置100からの指示に従って、作業者1に、被塗装物10の現在の膜厚を知らしめ、塗装作業中に膜厚の過不足を生じないよう作業者に情報を表示する。なお、AR-HMD20が提供するユーザインタフェースの詳細は後に説明する。
【0024】
塗料供給装置300は、塗料原液と溶剤などの混合を行い、ホース50により塗装ガン40に塗料の供給を行う装置である。塗料の吐出量は、時々に記録され、ネットワークや接続線を介して塗装作業管理装置100に報告される。
【0025】
塗装作業管理装置100は、作業者1の塗装作業全般を管理し、AR-HMD20に必要な情報を表示する装置である。特に、塗装作業管理装置100は、被塗装物10に対する塗装の膜厚を、塗装ガン40から吐出される塗料流量、エア流量、および、被塗装物10に対する塗装ガン40の位置、向き、移動速度より算出する。なお、被塗装物10に対する塗装の膜厚の算出の仕方は、後に詳細に説明する。
【0026】
次に、
図2を用いて塗装作業管理装置の機能構成について説明する。
塗装作業管理装置100は、
図2に示されるように、塗装情報入力部101、塗装量・エア量IF(InterFace)部102、撮像情報IF部103、膜厚パターン検索部104、塗装ガン速度算出部105、膜厚算出部106、HMDデータ編集部107、HMDデータ出力部108、記憶部110の各機能部を有する。
【0027】
塗装情報入力部101は、塗装作業の作業者1または作業の管理者が塗装作業に関する情報を入力する機能部である。塗装量・エア量IF(InterFace)部102は、塗料供給装置300から塗料の吐出量やエア流量を受取る機能部である。撮像情報・センサ情報IF部103は、カメラ30から撮像情報を受け取ったり、各種センサから情報を受取る機能部である。膜厚パターン検索部104は、塗装に関する条件に基づいて、膜厚パターン(詳細は後述)を検索する機能部である。塗装ガン速度算出部105は、カメラ30やセンサなどの計測装置から入力される情報に基づいて、塗装ガン40の移動速度を計算する機能部である。膜厚算出部106は、膜厚パターンと塗装ガン40の移動速度に基づいて、被塗装物に形成される膜厚を算出する機能部である。HMDデータ編集部107は、AR-HMD20に表示される情報のためのデータを編集する機能部である。HMDデータ出力部108は、AR-HMD20にデータを出力する機能部である。記憶部110は、塗装作業管理装置100で使用されるデータを記憶する機能部である。
【0028】
記憶部110には、塗装作業情報テーブル500、膜厚パターンテーブル501、膜厚パターン502、塗装条件テーブル503、塗装ガン移動速度テーブル504、膜厚結果テーブル505、膜厚形成パターン506の各テーブル類が保持される。
【0029】
なお、各テーブルの詳細は後に説明する。
【0030】
次に、
図3を用いて塗装作業管理装置100のハードウェア・ソフトウェア構成を説明する。
塗装作業管理装置100のハードウェア構成としては、例えば、
図3に示されるパーソナルコンピュータのような一般的な情報処理装置で実現される。ただし、
図2に示した機能が実行できるのであれば、クラウドシステムにより機能を実行するシステムであってもよい。
【0031】
塗装作業管理装置100は、プロセッサ402、主記憶装置404、ネットワークI/F(InterFace)406、表示I/F408、入出力I/F410、補助記憶I/F412が、バスにより結合された形態になっている。
【0032】
プロセッサ402は、塗装作業管理装置100の各部を制御し、主記憶装置404に必要なプログラムをロードして実行する。プロセッサの一例としては、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)が考えられるが、所定の処理を実行する主体であれば他の半導体デバイスであってもよい。
【0033】
主記憶装置404は、通常、RAMなどの揮発メモリで構成され、CPU402が実行するプログラム、参照するデータが記憶される。
【0034】
ネットワークI/F406は、ネットワーク5と接続するためのインタフェースである。
【0035】
表示I/F408は、LCD(Liquid Crystal Display)などの表示装置420を接続するためのインタフェースである。
【0036】
入出力I/F410は、入出力装置を接続するためのインタフェースである。
図3の例では、キーボード430とポインティングデバイスのマウス432が接続されている。
【0037】
補助記憶I/F412は、HDD(Hard Disk Drive)450やSSD(Solid State Drive)などの補助記憶装置を接続するためのインタフェースである。
【0038】
HDD450は、大容量の記憶容量を有しており、本実施形態を実行するためのプログラムが格納されている。塗装作業管理装置100には、塗装情報入力プログラム461、塗装量・エア量IFプログラム462、撮像情報IFプログラム463、膜厚パターン検索プログラム464、塗装ガン速度算出プログラム465、膜厚算出プログラム466、HMDデータ編集プログラム467、HMDデータ出力プログラム468がインストールされている。
【0039】
塗装情報入力プログラム461、塗装量・エア量IFプログラム462、撮像情報IFプログラム463、膜厚パターン検索プログラム464、塗装ガン速度算出プログラム465、膜厚算出プログラム466、HMDデータ編集プログラム467、HMDデータ出力プログラム468は、それぞれ塗装情報入力部101、塗装量・エア量IF部102、撮像情報IF部103、膜厚パターン検索部104、塗装ガン速度算出部105、膜厚算出部106、HMDデータ編集部107、HMDデータ出力部108の機能を実現するプログラムである。
【0040】
各々のプログラムは、CD-ROM、DVD-ROMなどの記憶媒体により提供されてもよいし、インターネットなどを介してのプログラム配信サーバにより配信されてもよい。
【0041】
次に、
図4ないし
図10を用いて塗装作業管理システムで用いられるデータ構造について説明する。
【0042】
塗装作業情報テーブル500は、塗装作業を管理するための情報を保持するテーブルであり、
図4に示されるように、作業ID500a、作業者500b、塗装車種500c、塗装ガン品名500d、ノズル径500e、塗装箇所500f、塗料品名500g、希釈率h、作業開始日時500i、作業終了日時500j、膜厚下限500k、膜厚上限500l、作業後指示500mの各フィールドを有する。
【0043】
作業ID500aには、塗装作業を一意に識別するIDが格納される。作業者500bには、作業者を表す文字列または作業者のIDが格納される。塗装車種500cには、塗装作業に係る車両を表す文字列または車両のIDが格納される。塗装ガン品名500dには、塗装作業管理装置100の入力装置より入力される塗装ガン40の品名が格納される。ノズル径500eには、塗装ガン品名500dの塗装ガン40の吐出口の直径の値がmm単位で格納される。塗装箇所500fには、塗装作業に関係する車両の部位の情報が格納される。塗料品名500gには、塗料の品名の情報が格納される。作業開始日時500iには、作業が開始された日時の情報がyyyymmddhhmmの形式で格納される。作業終了日時500jには、作業が終了した日時の情報がyyyymmddhhmmの形式で格納される。膜厚下限500kには、塗装作業で規定される塗装の下限(これより膜厚が薄くなってはならないと規定される限界)の値がμm単位で格納される。膜厚上限500lには、塗装作業で規定される塗装の上限(これより膜厚が厚くなってはならないと規定される限界)の値がμm単位で格納される。作業後指示500mには、塗装作業後に必要があるときには、作業の内容を示す文字列またはIDが格納される。
【0044】
膜厚パターンテーブル501は、塗装条件と形成される膜厚パターンの対応を保持するテーブルであり、
図5に示されるように、塗料品名501a、希釈率501b、塗料流量501c、吐出しエア流量501d、制御エア流量501e、塗装ガン品名501f、ノズル径501g、ガン距離501h、水平角501i、鉛直角501j、膜厚パターン501kの各フィールドを有する。
【0045】
塗料品名501aには、塗料の品名の情報が格納される。希釈率501bには、塗料の希釈率が格納される。希釈率とは、一般的には、(塗料の原液の容量+希釈剤の容量)/(希釈剤の容量)と定義される。塗料流量501cには、塗料供給装置300で記録される単位時間あたりの塗料流量の値がmL/s単位で格納される。吐出しエア流量501dには、塗装ガン40から吐き出される単位時間あたりのエア流量の値がmL/s単位で格納される。制御エア流量501eには、塗料供給装置300で制御されるが単位時間あたりのエア流量の値がmL/s単位で格納される。塗装ガン品名501fには、塗装ガン40の品名が格納される。ノズル径501gには、塗装ガン40の吐出口の直径の値がmm単位で格納される。ガン距離501hには、塗装ガン40と被塗装物10との鉛直距離がm単位で格納される。水平角501iには、塗装ガン40の先端部の水平角の値が度数単位で格納される。鉛直角501jには、塗装ガン40の先端部の鉛直角の値が度数単位で格納される。膜厚パターン501kには、次に説明する膜厚パターンを一意的に示す文字列またはIDが格納される。
【0046】
なお、
図5の例では、塗料品名501a、希釈率501b、塗料流量501c、吐出しエア流量501d、制御エア流量501e、塗装ガン品名501f、ノズル径501g、ガン距離501h、水平角501i、鉛直角501jの各々の値を文字列として変換し、それらを「-」により連結した文字列を膜厚パターン501kの値としている。
【0047】
膜厚パターン502は、
図6Aないし
図6Eに示されるように、単位時間あたりに被塗装物10の表面に形成される塗装時の塗料の膜厚を、単位格子ごとにμm単位で示したデータ構造である。
図6Aないし
図6Eでは、単位時間として、1sをとり、単位格子が10mm四方の格子としている。そして、膜厚パターン502の中心が、塗装ガン40のノズル方向の延長線と、被塗装物10の表面との交点である。
【0048】
なお、このように塗装条件に関して、どのような膜厚パターンが形成されるかは、実際の被塗装物に対してその塗装条件より塗装の実験を行い膜厚計などの手段により計測する、あるいは、数値計算やコンピュータシュミレーションより求めることができる。
【0049】
塗装条件テーブル503は、実際の塗装作業における条件を保持するテーブルであり、
図7に示されるように、作業ID503a、日時503b、塗料品名503c、希釈率503d、ノズル径503e、塗装ガン品名503g、塗料流量503g、吐出しエア流量503h、制御エア流量503i、ガン位置(x)503j、ガン位置(y)503k、ガン距離503g、水平角503m、鉛直角503iの各フィールドを有する。
【0050】
作業ID503aには、塗装作業を一意に識別するIDが格納される。日時503bには、yyyymmddhhmmss形式で作業を行っている日時が格納される。塗料品名503cには、作業前に作業者または管理者から入力された塗料の品名の情報が格納される。希釈率503dには、塗装作業情報テーブル500に格納されている塗料の希釈率が格納される。ノズル径503eには、塗装作業情報テーブル500に格納されている塗装ガン40の吐出口の直径の値がmm単位で格納される。塗装ガン品名503gには、作業前に作業者または管理者から入力された塗装ガン40の品名が格納される。塗料流量503gには、塗料供給装置300に内蔵されたあるいは外付けの塗料流量計で計測された単位時間あたりの塗料流量の値がmL/s単位で格納される。吐出しエア流量503hには、エア流量計で計測された塗装ガン40から吐き出される単位時間あたりのエア流量の値がmL/s単位で格納される。制御エア流量503iには、コンプレッサ(図示せず)で供給される単位時間あたりのエア流量の値がmL/s単位で格納される。ガン位置(x)503jには、カメラ30あるいはセンサにより計測された塗装ガン40の基準点(例えば、塗装ガン40のノズル先端)のx座標の位置がm単位で格納される。ガン位置(y)503kには、カメラ30あるいはセンサにより計測された塗装ガン40の基準点のy座標の位置がm単位で格納される。ガン距離503gには、カメラ30あるいはセンサにより計測された塗装ガン40の基準点と被塗装物の表面までの位置(本実施形態では、z座標に等しくしている(詳細は後述))が格納される。水平角503mには、カメラ30あるいはセンサにより計測された塗装ガン40の先端部の水平角の値が度数単位で格納される。鉛直角503iには、カメラ30あるいはセンサにより計測された塗装ガン40の先端部の鉛直角の値が度数単位で格納される。
【0051】
塗装ガン移動速度テーブル504は、塗装ガン40の時刻情報と位置情報から算出される塗装ガン40の移動速度に関する情報を保持するテーブルであり、
図8に示されるように、作業ID504a、日時504b、移動速度(x方向)504c、移動速度(y方向)504d、移動速度(z方向)504eの各フィールドを有する。
【0052】
作業ID504aには、塗装作業を一意に識別するIDが格納される。日時504bには、yyyymmddhhmmss形式で塗装ガン40の移動速度を算出した日時が格納される。移動速度(x方向)504c、移動速度(y方向)504d、移動速度(z方向)504eには、塗装ガン40の時刻情報と位置情報から算出されたそれぞれx方向、y方向、z方今の塗装ガン40の移動速度の値がm/sの形式で格納される。
【0053】
膜厚結果テーブル505は、塗装条件、塗装ガン40の移動速度、膜厚パターンより算出した被塗装物10の表面に形成される塗料の膜厚に関する情報を保持するテーブルであり、
図9に示されるように、作業ID505a、日時505b、膜厚形成パターン505c、パターン座標505dの各フィールドを有する。
【0054】
作業ID505aには、塗装作業を一意に識別するIDが格納される。日時505bには、yyyymmddhhmmss形式で膜厚形成パターン505cに示す膜厚が形成されると算出された日時が格納される。膜厚形成パターン505cには、膜厚形成パターン505cを示す文字列またはIDが格納される。本実施形態では、膜厚形成パターンを生成するために用いた膜厚パターンを示す文字列に、プレフィックス(RS)を付加した文字列としている。パターン座標505dには、膜厚形成パターン505cの例えば、中心部を示すx座標、y座標のペアの値が格納される。
【0055】
膜厚形成パターン506は、
図10に示されるように、被塗装物10の表面に形成された塗装時の塗料の膜厚を、単位格子ごとにμm単位で示したデータ構造である。
図10の各単位格子は、
図6Aないし
図6Eに示した膜厚パターンの単位格子に対応している。
【0056】
次に、
図11ないし
図14Cを用いて塗装作業管理システムの処理について説明する。
【0057】
先ず、
図11を用いて被塗装物の一例として鉄道車両の構造を説明する。
図11に示した鉄道車両601の外壁605は、側面部と天井である上面部により形成されており、それらは金属板を加工した加工材により形成されている。鉄道車両の側面部には、開閉扉であるドア部603や窓部604が設けられている。また、鉄道車両の上面部には、パンタグラフ606が設けられている。鉄道車両は、台車部602により支えられ、レール上を車輪607が回転することにより、鉄道車両601を移動させる。
【0058】
鉄道車両の外壁には、本実施形態では、作業者が塗装ガン40により塗料を所定の膜厚の範囲内の仕様で吹きつけることにより、塗膜が形成される。金属材の表面を、実施形態の塗膜により被覆することで、金属材の表面が物理的に保護され、異物や雨水をはじめとする金属材表面への直接的な接触が防止される。このため、金属材表面における、金属腐食の発生を効果的に防止することができる。さらに、着色された上塗りを使用することにより、意匠性を鉄道車両に付与することができる。
【0059】
次に、
図12ないし
図14Cを用いて塗装作業管理装置が被塗装物に形成される塗装の膜厚を計算する前提について説明する。
【0060】
本実施形態では、
図12に示されるように、座標系として、被塗装物(鉄道車両)10の表面に直交座標系のx軸とy軸を配し、表面と鉛直の向きに、z軸を配する。したがって、被塗装物10の表面と塗装ガン40の先端のノズルとの距離は、z軸の値に等しくなる。
【0061】
また、
図13に示されるように、塗装ガン40にマーカー41を設定し、カメラ30またはセンサにより、時刻ごとの塗装ガン40の位置と姿勢を計測する。また、塗装ガン40に送られる単位時間あたりの塗料流量が塗料流量計で計測され、エア流量計で計測された塗装ガン40から吐き出される単位時間あたりのエア流量(吐出しエア流量)の値と、コンプレッサで供給される単位時間あたりのエア流量(制御エア流量)の値が計測される。
【0062】
作業者1は、塗装ガン40をx軸またはy軸の方向に移動させながら、被塗装物10の表面とある程度の距離を保ちながら、塗装ガン40により塗料を吹き付ける。このとき作業者1は、作業状況と共に塗装作業をサポートする情報をAR-HDM20により見ることができる。
【0063】
塗装ガン40と被塗装物10との距離、塗装ガン40の姿勢に関する関係は、
図14A~
図14Cに示されるようになる。
図14Aに示されるように、塗装ガン40と被塗装物10との距離が遠いと、被塗装物10の表面に形成される膜厚は薄くなり、
図14Bに示されるように、塗装ガン40と被塗装物10との距離が遠いと、被塗装物10の表面に形成される膜厚は薄くなる。また、
図14Cに示されるように、塗装ガン40が被塗装物10の表面に対して傾いた状態の場合には、膜厚が薄い部分と厚い部分が生じ、被塗装物10の表面に形成される膜厚が不均一となる。
【0064】
本実施形態の塗装作業管理装置100は、このように塗装ガン40の位置、姿勢とその他の塗装条件で塗装をするときに、単位時間あたりに形成される膜厚を示す膜厚パターンを保持している。
【0065】
【0066】
先ず、塗装作業の作業者1または管理者は、塗装作業管理装置100の表示装置に出力される入力画面(図示せず)またはコマンドラインにより、塗装車種、作業者に関する情報、塗装ガンの品名を入力する(S100)。
【0067】
次に、塗装作業管理装置100は、入力された情報に基づき、塗装作業仕様データ(図示せず)と、塗装ガン仕様データ(図示せず)を参照し、塗装作業情報テーブル500の塗装に関する情報と、塗装ガンに関する情報を設定する(S101)。
【0068】
塗装作業仕様データ、塗装ガン仕様データを参照して、塗装に関する情報と、塗装ガンに関する情報に関する情報が得られないとき(例えば、塗装車種がわかっても、塗料の品名が一意的に定まらないときなど)には、塗装作業の作業者1または管理者がそのような情報を塗装作業管理装置100に入力する。
【0069】
次に、塗装作業の作業者1が塗装作業を開始したときには、塗装作業管理装置100は、塗装作業情報テーブル500の作業開始日時500iに作業開始日時を設定する(S102)。
【0070】
次のS103、S104、S105~S113の処理は、並列処理である。
【0071】
塗装作業管理装置100は、ある時刻におけるカメラ3またはセンサから塗装ガン40の座標データ、姿勢を読み込む(S103)。
【0072】
また、塗装作業管理装置100は、塗料計より塗料流量、エア流量計よりエア流量(吐出しエア流量、制御エア流量)を読み込む(S104)。
【0073】
また、S103、S104の処理と並行して、S104、S104で読み込んだ値、塗装作業管理装置100のクロック情報、塗装作業情報テーブル500に設定された値に基づいて、塗装条件テーブル503に値を設定する(S105)。
【0074】
次に、塗装作業管理装置100は、塗装条件テーブル503に設定された値に基づき、膜厚パターンテーブル501に格納されている膜厚パターンから最適な膜厚パターンを選択する(S106)。
【0075】
膜厚パターンの選択の仕方は、例えば、
図16の(式1)で示される塗装作業情報テーブル500に設定された値との距離が一番小さい膜厚パターンテーブルのレコードの膜厚パターンを選択する。
【0076】
ここで、ei(塗装条件テーブルのフィールド値)は、塗装条件テーブル503のフィールド値の評価値、ei(膜厚パターンテーブルのフィールド値)は、膜厚パターンテーブルの501のフィールド値の評価値、ki(0≦ki≦1)は、評価のための重みづけ係数である。
【0077】
また、各項の膜厚パターンテーブル501のフィールドと塗装条件テーブル503のフィールドは、それぞれ対応するもの(塗料品名501a:塗料品名503c、希釈率501b:希釈率503d、塗料流量501c:塗料流量503g、吐出しエア流量501d:吐出しエア流量503h、制御エア流量501e:制御エア流量503i、塗装ガン品名501f:塗装ガン品名503e、ノズル径501g:ノズル径503f、ガン距離501h:ガン距離503l、水平角501i:水平角503m、鉛直角501j:鉛直角503n)をとる。
【0078】
塗装条件テーブル503のフィールド値と膜厚パターンテーブル501のフィールド値が等しいときには、その総和をとっている項の二乗は、0となり、値が掛け離れるほど、値が大きくなり、距離は大きくなる。そのため、塗料品名(塗料品名501a:塗料品名503c)、塗装ガン品名(塗装ガン品名501j:塗装ガン品名503f)の評価値は、仕様が似ている塗料、塗装ガンに対して、値が近い評価値を与えることが望ましい。
【0079】
また、それぞれの評価のための重みづけ係数kiは、教師あり機械学習の手法により、望ましい値を定めることができる。
【0080】
次に、塗装作業管理装置100は、各時刻におけるカメラ3またはセンサから塗装ガン40の座標データ、姿勢から、塗装条件テーブル503の日時503bの時刻における(x,y,z)における塗装ガン40の移動速度を算出し、塗装ガン移動速度テーブル504に値を設定する(S107)。
【0081】
次に、塗装作業管理装置100は、塗装ガン移動速度テーブル504の値と、S106で選択された膜厚パターンに基づいて、膜厚が形成される座標位置と膜厚を算出し、膜厚結果テーブル505に、膜厚形成パターンとその座標位置を設定する(S108)。
【0082】
膜厚が形成される座標位置は、塗装ガン40のノズル方向と、被塗装物10の表面の交点であり、それが膜厚形成パターンの中心位置ともなる。
【0083】
膜厚形成パターンの単位格子(i,j)における膜厚形成パターンの値は、
図17の(式2)により算出する。
(式2)のΣのkは、
図17の(式3)を満たす1以上の整数とする。
ここで、Tは、膜厚形成パターンを計算する時間のインタバル、Δtは、時刻の増分単位である。
また、(式2)r
x、r
yは、それぞれx方向、y方向の塗装能率係数であり、
図17の(式4)で示される。これは、時刻の増分単位Δt内で、一つの単位格子に対して、塗料が吹き付けられる時間に等しい。
【0084】
以下、
図18Aないし
図18Cを用いて膜厚形成パターンを算出する処理を具体的に説明する。
【0085】
この例では、x方向の移動により形成される膜厚形成パターンのみを示しており、膜厚形成パターンを計算する時間のインタバルT=60[s]=1[minute]であり、Δt=1/100[s]である。x方向の移動速度を、100[mm/s]としたときには、単位格子の一辺を、10mmとすると、rx=10[mm]/100[mm/s]=1/10[1/s]となり、これは、時刻の増分単位Δtで、塗装ガン40により塗料が吹き付けられる時間間隔である。
【0086】
したがって、膜厚パターンがある条件で、単位時間で形成される結果として形成される膜厚値を単位格子ごとに図示したものとしているので、膜厚形成パターンは、(式2)、
図18Cに示されるように、それぞれの対応する単位格子ごとにx方向の塗装能率係数r
x、y方向の塗装能率係数r
yを掛けて、足し合わせたものになる。
図18A~
図18Cでは、時刻:10:10:01:00~10:10:02:00における1/100[s]ごとの膜厚パターンA-1.0-7.5-5-2.5-G1-1.3-0.2-0-0から、時刻:10:10:02:00で、RS-A-1.0-7.5-5-2.5-G1-1.3-0.2-0-0の膜厚形成パターンが算出されることを示している。
【0087】
次に、塗装作業管理装置100は、塗装作業情報テーブル500、塗装条件テーブル503、膜厚結果テーブル505を参照し、AR-HMD20に出力するためのHMDデータを編集する(S109)。
【0088】
次に、塗装作業管理装置100は、S109で編集したHMDデータをAR-HMD20に出力する(S110)。
【0089】
次に、塗装作業管理装置100は、塗装作業が終了するか否かを判定する(S111)。塗装作業の終了する判定基準は、塗装作業の作業時間を予め定めておき、それと比較するようにしてもよいし、作業者または管理者が塗装作業の終了を判断し、塗装作業管理装置100のコマンドを入力するようにしてもよい。
【0090】
塗装作業が終了しないときには(S111:NO)、塗装作業管理装置100は、前回の処理よりインタバルTが経過したか否かを判定し(S113)、インタバルTが経過したときには(S113:YES)、S105に戻る。
【0091】
塗装作業が終了したときには(S111:YES)、塗装作業管理装置100は、塗装作業情報テーブル500の作業終了日時500jに作業終了日時を設定する(S120)。
【0092】
次に、塗装作業管理装置100は、塗装作業情報テーブル500の作業後指示500mに、塗装作業が終了したときの後の指示に関する情報を格納し、処理を終了する。
【0093】
例えば、以下の例が考えられる。
1)膜厚結果テーブル505の示す膜厚形成パターンにおいて、膜厚が膜厚規定の下限値に満たない単位格子が、所定の閾値よりも多いときには、所定箇所の塗りなおしを指示する。
2)膜厚結果テーブル505の示す膜厚形成パターンにおいて、膜厚が膜厚規定の上限値を越える単位格子が、所定の閾値よりも多いときには、塗料乾燥後に研磨する等の補修を指示する。
3)作業終了が、作業員の休憩時間が来たときが原因のときには、塗装作業の再開時刻を指示する。
【0094】
次に、
図19を用いて塗装の作業員に表示されるAR-HDMの表示イメージについて説明する。
AR-HDM20のHDM表示イメージ700として、
図19に示されように、時刻ビュー710、作業情報ビュー720、遠隔ビュー730、拡大ビュー740、塗装条件ビュー750、STATUSビュー760が表示される。
【0095】
時刻ビュー710には、作業者に現在の時刻と塗装を開始したときからの時間を表示する。作業情報ビュー720は、作業者に塗装作業情報テーブル500の中から必要な情報を表示する。遠隔ビュー730には、被塗装物10を視認したときの表示画像が表示される。拡大ビュー740には、膜厚結果テーブル505の示す膜厚形成パターンを参照し、被塗装物10における塗装の状況を拡大して表示する。例えば、
図19に示されるように、単位格子ごとに、膜厚が適正であるか、規定の仕様より超過しているか、規定の仕様に達していないかを色分けして表示する。例えば、膜厚仕様内の単位格子は、白抜き、膜厚下限に達していない単位格子は、青、膜厚上限を超過した単位格子は、赤で表示する。拡大ビュー740に表示される被塗装物10のエリアは、現在塗装中の領域の近傍を表示してもよいし、作業者が被塗装物10の見たいエリアを指定できるようにしてもよい。
【0096】
塗装作業管理装置100が、塗装の作業者1に塗装中に、膜厚仕様内の単位格子が所定の閾値以上発生するときには、重ね塗りの指示を出すことができる。また、膜厚上限を超えた箇所は、塗装中の拭き取りの指示を出すことができる。
【0097】
塗装条件ビュー750には、塗装条件テーブル503のから必要な情報を表示する。STATUSビュー760には、作業者に知らしめたい現在の状況、例えば、
図19に示されるように、塗装の膜厚が仕様の上限値を超えたときの警告表示などが表示される。あるいは、塗装の膜厚が仕様の下限値に満たないエリアが一定の面積以上発生したときには、その旨を警告する。
【0098】
AR-HDM20のHDM表示イメージ700として、常時、遠隔ビュー730のみ表示し、作業者1のコマンド入力により、必要なビューエリアを表示するようにしてもよい。
【0099】
以上、本実施形態によれば、塗装作業管理装置は、塗装作業により適用する膜厚パターンを選出し、塗装ガンの移動速度を考慮して、実際に、被塗装物に形成される塗装における膜厚形成パターンを算出し、作業者のAR-HDMにリアルタイムにその情報を表示する。
【0100】
これによって、作業者の人手による塗装において、塗装膜厚を均一にすることで塗装品質を向上し、所定膜厚の最小値を確保することで保護性、美観を確保し、かつ、塗料使用量を最小化することにより、塗装にかかるコストを最小化することができる。
【実施例0101】
〔膜厚パターンの作成〕
先ず、被塗装物10としてアルミニウム板を準備した。具体的には、Al-Mg-Si系合金(6000系アルミニウム合金)のうち、6N01合金で、平滑表面のものを用いた。サイズは、縦1m×横1.2m、厚さ2mmである。
【0102】
被塗装物10のアルミニウム板を垂直に建てて、プライマー塗装を行なった。プライマー塗装は、自動混合機を用いて、ユニエポック30プライマーNC赤さび塗料液(日本ペイント製)とユニエポック30プライマー硬化剤(日本ペイント製)を重量比6:1で混合するように設定した。塗料流量は、実施形態に示した
図5の膜厚パターンテーブル501の塗料流量501cに定義されている値に該当する5~30mL/秒の間で変化させた。また、吐出しエア流量も7.5~32.5mL/秒の間で変化させた。また、ノズル口径1.3mmの塗装ガン40を被塗装体のアルミニウム板から0.2~0.5m、水平角を0~30°、鉛直角を0~30°で変化させた。
【0103】
上記条件で塗装した塗装膜の膜厚を、塗装された膜の中心を原点として上下左右10mm間隔で、塗装膜が存在する範囲全面を渦電流式膜厚計を用いて膜厚測定した。
【0104】
それを、
図6Aないし
図6Eに示すような膜厚パターンとして、条件と対応させて、膜厚パターンテーブル501に保持した。
【0105】
〔被塗装体への塗装〕
先ず、被塗装物10として同様のアルミニウム板を準備した。具体的な仕様は、膜厚パターンの作成の場合と同様であり、Al-Mg-Si系合金(6000系アルミニウム合金)のうちの6N01合金であり、サイズは、縦1m×横1.2m、厚さ2mmであり、平滑表面のものを用いた。
【0106】
被塗装体と塗膜の密着を確保するために、ブラスト処理を行った。ブラスト処理は、研削材として粒子径0.5mmの鋼砕粒子を、投射速度35m/sにて、対象のアルミニウム板へ吹き付けることで行なった。吹き付け終了後は、エアブローを行い、研削材の残留が無いことを目視で確認した。
【0107】
塗装は、膜厚パターンの作成時と同要領で行った。プライマー塗装は、自動混合機を用いて、ユニエポック30プライマーNC赤さび塗料液(日本ペイント製)とユニエポック30プライマー硬化剤(日本ペイント製)を重量比6:1で混合するように設定した。
図7の塗装条件テーブル503の例に示されるように、塗料流量を5mL/秒、吐出しエア流量を7.5mL/秒と設定した。また、ノズル口径1.3mmのエア塗装ガンを被塗装体のアルミニウム板から0.2~0.3mの距離を保ち、変化域を水平角および鉛直角を0°±30°の間とした。
【0108】
塗装ガン40の座標位置、向きは、塗装ガン40にマーカー41として装着した3個のLED発光体のカメラ画像から計算した。また、時刻と計測された座標位置から移動速度を計算した。膜厚は、
図18Aないし
図18Cに示したように、塗装条件と同じ条件で作製された単位時間当たりの膜厚パターンを選択し、その膜厚を1/10にして、移動方向・移動速度に応じて座標位置を合わせて積算することにより、膜厚形成パターンを算出した。
【0109】
塗装の膜厚仕様値を40~50μmと設定した。また、AR-HMD20での表示は、膜厚仕様範囲であれば、白抜き表示、膜厚が40μm未満であれば青、膜厚が50μmよりも厚ければ赤と設定し、
図19で示すように、単位格子ごとに膜厚の数値と各色で表示した。塗装を複数回繰り返し、膜厚パターンも塗装回数に応じて複数を加算して、膜厚が35~55μmを示したところで塗装を完了した。
【0110】
塗装後の膜厚を渦電流方式の膜厚計で測定した。AR-HMD20で青表示された箇所の膜厚計での膜厚は35~39μm、白抜き表示された箇所の膜厚計での膜厚は40~50μm、赤表示された箇所の膜厚計での膜厚は50μmより厚いことが確認された。
1…作業者、20…AR-HMD(Augmented Reality Head Mounted Display:拡張現実用ヘッドマウントディスプレイ)、30…カメラ、40…塗装ガン、100…塗装作業管理装置、300…塗料供給装置
101…塗装情報入力部、102…塗装量・エア量IF(InterFace)部、103…撮像情報IF部、104…膜厚パターン検索部、105…塗装ガン速度算出部、106…膜厚算出部、107…HMDデータ編集部、108…HMDデータ出力部、110…記憶部
500…塗装作業情報テーブル、501…膜厚パターンテーブル、502…膜厚パターン、503…塗装条件テーブル、504…塗装ガン移動速度テーブル、505…膜厚結果テーブル、506…膜厚形成パターン