(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036462
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】発熱装置および発熱素子の冷却方法
(51)【国際特許分類】
F24V 30/00 20180101AFI20230307BHJP
【FI】
F24V30/00 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021143527
(22)【出願日】2021-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】512261078
【氏名又は名称】株式会社クリーンプラネット
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 美登
(72)【発明者】
【氏名】岩村 康弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】吉野 英樹
(57)【要約】
【課題】発熱素子を速やかに冷却することができる発熱装置および発熱素子の冷却方法を提供する。
【解決手段】発熱装置1は、水素を吸蔵可能に形成され水素の量子拡散において生じる発熱反応を利用して発熱する発熱素子5と、発熱素子5を加熱し発熱素子5において水素の量子拡散を生じさせるヒータ6と、発熱素子5とヒータ6とを収容する容器2と、容器2の外周に設けられた循環経路33に抜熱媒体を流通させる抜熱媒体流通部35と、発熱素子5を冷却する不活性ガスを容器2内に供給する不活性ガス供給部41と、発熱素子5を冷却する冷却液を容器2内に供給する冷却液供給部51と、容器2を開放する容器開放部61と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を吸蔵可能に形成され、前記水素の量子拡散において生じる発熱反応を利用して発熱する発熱素子と、
前記発熱素子を加熱し前記発熱素子において前記水素の量子拡散を生じさせるヒータと、
前記発熱素子と前記ヒータとを収容する容器と、
前記容器の外周に設けられた循環経路に抜熱媒体を流通させる抜熱媒体流通部と、
前記発熱素子を冷却する不活性ガスを前記容器内に供給する不活性ガス供給部と、
前記発熱素子を冷却する冷却液を前記容器内に供給する冷却液供給部と、
前記容器を開放する容器開放部と、を備える、
発熱装置。
【請求項2】
前記冷却液供給部は、前記冷却液として含亜鉛溶液を前記容器内に供給する、
請求項1に記載の発熱装置。
【請求項3】
前記抜熱媒体流通部、前記不活性ガス供給部、前記冷却液供給部および前記容器開放部を制御する制御部を更に備え、
前記制御部は、前記抜熱媒体流通部により前記抜熱媒体の流量を増加させ、次いで、前記不活性ガス供給部により前記不活性ガスを前記容器内に供給し、その後、前記容器開放部により前記容器を開放すると共に前記冷却液供給部により前記冷却液を前記容器内に供給する、
請求項1又は2に記載の発熱装置。
【請求項4】
前記容器の内部の温度を測定する温度測定部を更に備え、
前記制御部は、前記温度測定部により計測された温度が予め定められた第1閾値に達したときに、前記抜熱媒体流通部により前記抜熱媒体の流量を増加させ、前記温度測定部により計測された温度が前記第1閾値よりも大きい第2閾値に達したときに、前記不活性ガス供給部により前記不活性ガスを前記容器内に供給し、前記温度測定部により計測された温度が前記第2閾値よりも大きい第3閾値に達したときに、前記容器開放部により前記容器を開放すると共に前記冷却液供給部により前記冷却液を前記容器内に供給する、
請求項3に記載の発熱装置。
【請求項5】
水素を吸蔵可能に形成されヒータの熱による前記水素の量子拡散において生じる発熱反応を利用して発熱する発熱素子を冷却する方法であって、
前記発熱素子を収容する容器の外周に設けられた循環経路に流通される抜熱媒体の流量を増加させ、
前記抜熱媒体の流量を増加させた後、前記発熱素子を冷却する不活性ガスを前記容器内に供給し、
前記不活性ガスを前記容器内に供給した後、前記容器を開放すると共に前記発熱素子を冷却する冷却液を前記容器内に供給する、
発熱素子の冷却方法。
【請求項6】
前記冷却液として、含亜鉛溶液を用いる、
請求項5に記載の発熱素子の冷却方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱装置および発熱素子の冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パラジウム合金等の水素吸蔵合金に水素を吸蔵させ、水素が量子拡散する過程に起きる発熱反応を利用して熱エネルギーを得ることが提案されている。特許文献1には、水素を吸蔵した発熱素子をヒータにより加熱すると共に真空引きすることにより水素を量子拡散させ、ヒータによる加熱温度以上の過剰熱を発生させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される発熱装置では、定常運転時には、ヒータの作動と停止を繰り返すことにより、発熱素子における発熱反応を制御して発熱素子の温度を予め定められた範囲内で制御する。
【0005】
しかしながら、発熱素子の発熱量は、様々な要因により大きくなりすぎることがある。この場合、ヒータを停止するだけでは、発熱素子における発熱反応を停止させることができず、発熱素子の温度が上昇し続けて発熱素子が溶解するおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、発熱素子を速やかに冷却することができる発熱装置および発熱素子の冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る発熱装置は、水素を吸蔵可能に形成され、前記水素の量子拡散において生じる発熱反応を利用して発熱する発熱素子と、前記発熱素子を加熱し前記発熱素子において前記水素の量子拡散を生じさせるヒータと、前記発熱素子と前記ヒータとを収容する容器と、前記容器の外周に設けられた循環経路に抜熱媒体を流通させる抜熱媒体流通部と、前記発熱素子を冷却する不活性ガスを前記容器内に供給する不活性ガス供給部と、前記発熱素子を冷却する冷却液を前記容器内に供給する冷却液供給部と、前記容器を開放する容器開放部と、を備える。
【0008】
また、本発明は、水素を吸蔵可能に形成されヒータの熱による前記水素の量子拡散において生じる発熱反応を利用して発熱する発熱素子を冷却する方法であって、前記発熱素子を収容する容器の外周に設けられた循環経路に流通される抜熱媒体の流量を増加させ、前記抜熱媒体の流量を増加させた後、前記発熱素子を冷却する不活性ガスを前記容器内に供給し、前記不活性ガスを前記容器内に供給した後、前記容器を開放すると共に前記発熱素子を冷却する冷却液を前記容器内に供給する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発熱素子を速やかに冷却することができる発熱装置および発熱素子の冷却方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明による発熱装置の構成を示す概略図である。
【
図2】(a)は、発熱素子の断面構成を示す断面図であり、(b)は、多層膜において生じる過剰熱の説明に供する概略図である。
【
図3】第1層と第2層と第3層とを有する第1変形例の発熱素子を説明するための説明図である。
【
図4】第1層と第2層と第3層と第4層とを有する第2変形例の発熱素子を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
【0012】
(1)本発明の発熱装置の全体構成
図1は、本発明の発熱装置1の構成を示す概略図である。
図1に示すように、発熱装置1は、発熱に寄与する水素系ガスが導入される容器2と、容器2の内部に設けられた発熱構造体3と、を有する。発熱装置1は、水素系ガスが容器2に導入された後に、発熱構造体3において発熱素子5(後述する)がヒータ6で加熱されることで、発熱素子5が加熱温度以上の過剰熱を発するものである。容器2に導入される水素系ガスとしては、重水素ガスおよび/または天然水素ガスを適用することができる。なお、天然水素ガスとは、軽水素ガスが99.985%以上含まれている、水素系ガスをいう。
【0013】
容器2は、例えばステンレス(SUS306やSUS316)等で形成されている。容器2は、筒状の容器本体2aと、容器本体2aの開口を開閉可能に容器本体2aに設けられた蓋部2bと、を有している。蓋部2bが容器本体2aの開口を閉じた状態では、容器2の内部を密閉空間とし得る。蓋部2bが容器本体2aの開口を開いた状態では、容器2が開放される。容器本体2aは、コバールガラス等の透明部材で形成された窓部2cを有しており、容器2内の密封状態を維持しつつ、容器2内の様子を作業者が直接目視確認し得るようになされている。
【0014】
容器本体2aは、水素系ガス導入路16を介して水素系ガス供給部15と接続されている。水素系ガス供給部15は、図示しないが、例えば水素系ガスを収容するタンクと、タンクに収容された水素系ガスを水素系ガス導入路16に送り出すポンプ等を有する。水素系ガス供給部15により、水素系ガス導入路16を通じて容器2の内部に水素系ガスが導入される。容器2の内部に一定量の水素系ガスが貯留されると、水素系ガス導入路16に設けられた調整弁17a,17bが閉じられ、水素系ガス導入路16から容器2の内部への水素系ガスの導入が停止される。
【0015】
また、容器本体2aは、排気経路18を介して真空排気部19と接続されている。真空排気部19は、図示しないが、例えばドライポンプを有する。真空排気部19の駆動により、容器2内のガスが排気経路18を通じて容器2の外へ排出される。このように、発熱装置1では、容器2の真空排気や圧力調整等を行え得る。排気経路18には調整弁17cが設けられており、調整弁17cが閉じられると、容器2からのガスの排出が停止される。
【0016】
容器2には、複数の温度測定部11a,11b,12が設けられており、温度測定部11a,11b,12によって容器2内の温度を測定可能である。この実施形態の場合、温度測定部11a,11bは、容器本体2aの内壁に沿って設けられており、当該内壁の温度を測定し得る。温度測定部12は、発熱構造体3において発熱素子5を保持するホルダー4に設けられており、ホルダー4における温度を測定し得る。
【0017】
ヒータ6は、例えば板状のセラミックヒータである。ヒータ6は、外部の加熱電源13に配線10a,10bを介して接続されており、発熱素子5を所定温度に加熱する。ヒータ6は、熱電対を内蔵しており、熱電対により温度測定を行い得る。ヒータ6は、対向する平面に、例えばSiO2等でなる基板7がそれぞれ設けられており、さらに、これら基板7表面に板状の発熱体5がそれぞれ設けられている。これにより、発熱構造体3は、ヒータ6が基板7を介して発熱体5で挟み込まれた構成を有する。配線10a,10bには、電流電圧計14が設けられており、ヒータ6に印加される入力電流・入力電力は、電流電圧計14により測定される。ヒータ6により発熱素子5を加熱する際の加熱温度は、発熱素子5を構成する水素吸蔵金属の種類により異なってくるが、少なくとも300℃以上、好ましくは500℃以上、さらに好ましくは600℃以上である。
【0018】
容器本体2aの外周には循環経路33が螺旋状に設けられている。循環経路33には、発熱素子5が発する熱により加熱される抜熱媒体が流通する。循環経路33は、容器本体2aに隣接して設けられる高温側経路と、高温側経路の外側に設けられる低温側経路と、を含んでいてもよい。
【0019】
循環経路33には、加熱された抜熱媒体の熱を熱電変換する熱電変換器34が設けられている。また、循環経路33には、循環経路33に抜熱媒体を流通させる抜熱媒体流通部35が設けられている。抜熱媒体流通部35は、図示しないが、例えば、抜熱媒体を循環経路33に送り出すポンプを有する。循環経路33を流通する抜熱媒体の流量は、抜熱媒体流通部35により変更可能である。抜熱媒体としては、気体または液体を用いることができ、熱伝導率に優れかつ化学的に安定したものが好ましい。気体としては、例えば、ヘリウムガス、アルゴンガス、水素ガス、窒素ガス、水蒸気、空気、二酸化炭素などが用いられる。液体としては、例えば、水、溶融塩(KNO3(40%)-NaNO3(60%)など)、液体金属(Pbなど)などが用いられる。また、抜熱媒体として、気体または液体に固体粒子を分散させた混相の抜熱媒体を用いてもよい。固体粒子は、金属、金属化合物、合金、セラミックスなどである。金属としては、銅、ニッケル、チタン、コバルトなどが用いられる。金属化合物としては、上記金属の酸化物、窒化物、ケイ化物などが用いられる。合金としては、ステンレス、クロムモリブデン鋼などが用いられる。セラミックスとしては、アルミナなどが用いられる。なお、循環経路33が高温側経路と低温側経路とを含む場合、高温側経路と低温側経路とで異なる抜熱媒体を流通させてもよい。
【0020】
(2)発熱素子について
次に、発熱素子5について、
図2を参照して説明する。
図2(a)は、発熱素子5の断面構成を示す断面図であり、
図2(b)は、多層膜25において生じる過剰熱の説明に供する概略図である。
【0021】
図2(a)に示すように、発熱素子5は、水素吸蔵金属、水素吸蔵合金またはプロトン導電体からなる台座22と、台座22の表面に成膜された多層膜25と、を有する。多層膜25は、台座22により支持されている。台座22となる水素吸蔵金属としては、Ni、Pd、V、Nb、Ta、Tiを適用でき、また、台座22となる水素吸蔵合金としては、LaNi
5、CaCu
5、MgZn
2、ZrNi
2、ZrCr
2、TiFe、TiCo、Mg
2Ni、Mg
2Cuを適用できる。プロトン導電体としては、例えば、BaCeO
3系(例えばBa(Ce
0.95Y
0.05)O
3-6)、SrCeO
3系(例えばSr(Ce
0.95Y
0.05)O
3-6)、CaZrO
3系(例えばCaZr
0.95Y
0.05O
3-α)、SrZrO
3系(例えばSrZr
0.9Y
0.1O
3-α)、β Al
2O
3、β Ga
2O
3を適用できる。
【0022】
多層膜25は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金からなる第1層23と、第1層23とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金またはセラミックスからなる第2層24と、を含む。第1層23と第2層24は交互に積層されており、第1層23と第2層24との間に異種物質界面26が形成されている。
【0023】
第1層23は、例えば、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金のうち、いずれかからなることが望ましい。第1層23の合金としては、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金でもよいが、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが特に望ましい。
【0024】
第2層24は、例えば、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金、SiCのうち、いずれかからなることが望ましい。第2層24の合金としては、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金でもよいが、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが特に望ましい。
【0025】
第1層23と第2層24との組み合わせとしては、元素の種類を「第1層23-第2層24」として表すと、Pd-Ni、Ni-Cu、Ni-Cr、Ni-Fe、Ni-Mg、Ni-Coであることが望ましい。また、第2層24をセラミックスとしたときには、「第1層23-第2層24」が、Ni-SiCであることが望ましい。
【0026】
第1層23および第2層24は、バルクの特性を示さないナノ構造を維持することが望ましいため、第1層23および第2層24の厚さは1000nm未満が好ましい。さらに、完全にバルクの特性を示さないナノ構造を維持するために、第1層23および第2層24の厚さは、500nm未満であることが、より望ましい。
【0027】
発熱素子5は、第1層23および第2層24がナノサイズ(1000nm未満)の膜厚でなり、これら第1層23および第2層24が交互に成膜された構成とすることで、第1層23および第2層24間の各異種物質界面26を水素(水素原子)が透過可能となる。
【0028】
図2(b)は、第1層23および第2層24を面心立法構造の水素吸蔵金属とし、第1層23における金属格子中の水素が、異種物質界面26を透過して第2層24の金属格子中に移動する様子を示した概略図である。
【0029】
容器2(
図1参照)の内部に水素系ガスが導入されると、発熱素子5の多層膜25および台座22に水素(重水素または軽水素)が吸蔵される。容器2の内部への水素系ガスの導入が停止されても、多層膜25および台座22は、水素を吸蔵した状態を維持する。ヒータ6(
図1参照)による発熱素子5の加熱が開始されると、多層膜25および台座22に吸蔵されている水素が放出され、多層膜25内をホッピングしながら量子拡散する。
【0030】
水素は軽く、ある物質Aと物質Bの水素が占めるサイト(オクトヘドラルやテトラヘドラルサイト)をホッピングしながら量子拡散していくことが分かっている。真空状態でヒータ6による発熱素子5の加熱が行われることで、第1層23および第2層24間の異種物質界面26を、水素が量子拡散により透過し、或いは、異種物質界面26を水素が拡散して、発熱素子5において加熱温度以上の過剰熱が発生する。換言すれば、発熱素子5は、水素の量子拡散において生じる発熱反応を利用して発熱する。
【0031】
図2に示す例では、複数の第1層23および複数の第2層24が交互に積層され、多層膜25が2つ以上の異種物質界面26を有している。本発明はこれに限らず、第1層23および第2層24が少なくとも1層ずつ設けられ、異種物質界面26が1つであってもよい。つまり、多層膜25は、異種物質界面26を1つ以上有していればよい。
【0032】
図2(a)および
図2(b)に示した発熱素子5は以下のようにして製造できる。先ず、板状の台座22を用意した後、蒸着装置を用いて、第1層23や第2層24となる水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を気相状態にして、凝集や吸着によって台座22上に、第1層23および第2層24を交互に成膜していく。これにより発熱素子5を製造できる。
【0033】
第1層23および第2層24を成膜する蒸着装置としては、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を物理的な方法で蒸着させる物理蒸着装置を適用できる。物理蒸着装置としては、台座22上に、スパッタリングにより水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を堆積させていくスパッタリング装置、あるいは真空蒸着装置、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置が好ましい。また、電気めっき法により台座22上に水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を析出させていき、第1層23および第2層24を交互に成膜していってもよい。
【0034】
なお、第1層23および第2層24間に自然酸化膜が形成されず異種物質界面26のみが形成されるように、発熱素子5の製造時に第1層23および第2層24が真空状態で連続的に成膜されることが望ましい。
【0035】
(3)発熱素子の冷却について
発熱装置1では、定常運転時には、ヒータ6の作動と停止を繰り返すことにより、発熱素子5における発熱反応を制御して発熱素子5の温度を予め定められた範囲内で制御する。しかしながら、発熱素子5の発熱量は、様々な要因により大きくなりすぎることがある。この場合、ヒータ6を停止するだけでは、発熱素子5における発熱反応を停止させることができず、発熱素子5の温度を下げることができない。
【0036】
発熱装置1では、以下に示す構成により、発熱素子5を速やかに冷却することができるようになっている。以下、発熱素子5を冷却する構成について、詳述する。
【0037】
図1に示すように、発熱装置1は、不活性ガス導入路42を介して容器本体2aに接続された不活性ガス供給部41と、冷却液導入路52を介して容器本体2aに接続された冷却液供給部51と、蓋部2bに連結された容器開放部61と、を備えている。
【0038】
不活性ガス供給部41は、図示しないが、例えば発熱素子5を冷却する不活性ガスを収容するタンクと、タンクに収容された不活性ガスを不活性ガス導入路42に送り出すポンプ等を有する。不活性ガス供給部41により、不活性ガス導入路42を通じて容器2の内部に不活性ガスが導入される。
【0039】
容器2の内部に不活性ガスが導入されると、発熱素子5から不活性ガスへ向かう放熱経路が形成される。つまり発熱素子5の放熱経路が追加される。その結果、発熱素子5からの輻射熱放出量が増え、発熱素子5が冷却される。不活性ガスは、酸素ガスと比較してはるかに反応性に乏しいガスを指し、例えば、窒素ガス、二酸化炭素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガス、ラドンガスを指す。
【0040】
冷却液供給部51は、図示しないが、例えば発熱素子5を冷却する冷却液を収容するタンクと、タンクに収容された冷却液を冷却液導入路52に送り出すポンプ等を有する。冷却液供給部51により、冷却液導入路52を通じて容器2の内部に冷却液が導入される。
【0041】
容器2の内部に冷却液が導入されると、発熱素子5から冷却液へ向かう放熱経路が形成される。つまり、発熱素子5の放熱経路が追加される。その結果、発熱素子5からの輻射熱放出量が増え、発熱素子5が冷却される。冷却液は、不活性ガスと比較して熱容量が大きいため、不活性ガスよりも冷却効果が高い。したがって、発熱素子5をより速やかに冷却することができる。
【0042】
冷却液は、亜鉛イオン(Zn+)を1E-3mol/dm3以上含む含亜鉛溶液であることが好ましい。亜鉛には、水素の量子拡散を阻害する性質があるため、含亜鉛溶液を容器2に導入することにより、発熱素子5の表面に亜鉛イオンが吸着し、水素の量子拡散を停止することができ、発熱素子5の発熱反応を停止することができる。したがって、発熱素子5をより速やかに冷却することができる。
【0043】
冷却液は、発熱素子5の冷却時に加熱されて相変化を起こし蒸気になることがある。この場合に容器2を密閉状態に保ち続けると、容器2の内圧が急上昇し、容器2が破裂するおそれがある。
【0044】
容器開放部61は、容器2の内圧の急上昇を防ぐために設けられる。容器開放部61は、図示しないが、例えば蓋部2bを開閉するアクチュエータを有する。容器開放部61により蓋部2bが開けられると、容器2が開放される。容器2を開放することにより、冷却液が蒸気になったとしても、容器2の内圧が急上昇するのを防ぐことができる。したがって、容器2の破損なく発熱素子5を冷却することができる。
【0045】
なお、循環経路33を流通する抜熱媒体の流量を抜熱媒体流通部35により増加させることによっても、発熱素子5の冷却が可能である。具体的には、抜熱媒体の流量を増加させることにより容器2の外壁が冷却されるため、発熱素子5からの輻射熱放出量が増える。その結果、発熱素子5が冷却される。
【0046】
このように、発熱装置1は、抜熱媒体流通部35、不活性ガス供給部41、冷却液供給部51および容器開放部61を備えている。そのため、発熱素子5における発熱量が大きくなりすぎたときにも、発熱素子5からの輻射熱放出量を増やすことができる。したがって、発熱素子5を速やかに冷却することができる。
【0047】
発熱装置1は、抜熱媒体流通部35、不活性ガス供給部41、冷却液供給部51および容器開放部61を制御する制御部70を更に備えている。制御部70は、例えば制御プログラム等を実行するCPU(Central Processing Unit)と、CPUにより実行される制御プログラムを記憶するROM(Read-Only Memory)と、CPUの演算結果等を記憶するRAM(Random Access Memory)と、を備えるマイクロコンピュータである。制御部70は、1つのマイクロコンピュータによって構成されていてもよいし、複数のマイクロコンピュータによって構成されていてもよい。
【0048】
制御部70は、温度測定部12により計測された温度に応じて、段階的に、抜熱媒体流通部35、不活性ガス供給部41、冷却液供給部51および容器開放部61を制御する。
【0049】
具体的には、制御部70は、温度測定部12により計測された温度が予め定められた第1閾値に達したときには、抜熱媒体流通部35により抜熱媒体の流量を増加させる。これにより、容器2が冷却され、発熱素子5からの輻射熱放出量が増える。したがって、第1閾値を超えた発熱素子5の温度の上昇を緩やかにすることができる。
【0050】
制御部70は、温度測定部12により計測された温度が第1閾値よりも大きい第2閾値に達したときには、不活性ガス供給部41により不活性ガスを容器2内に供給する。これにより、発熱素子5の放熱経路が追加され、発熱素子5からの輻射熱放出量がさらに増える。したがって、第2閾値を超えた発熱素子5の温度の上昇を更に緩やかにすることができる。
【0051】
制御部70は、温度測定部12により計測された温度が第2閾値よりも大きい第3閾値に達したときには、容器開放部61により容器2を開放すると共に冷却液供給部51により冷却液を容器2内に供給する。冷却液は、不活性ガスよりも熱容量が大きいため、発熱素子5からの輻射熱放出量がさらに増える。したがって、発熱素子5を速やかに冷却することができる。
【0052】
また、冷却液が導入される前に、抜熱媒体流通部35および不活性ガス供給部41により、発熱素子5の温度の上昇が緩やかにされている。そのため、冷却液による発熱素子5の冷却時に冷却液の急激な加熱を防止することができる。したがって、冷却液の蒸気化を抑制することができる。
【0053】
さらに、冷却液の導入時には、容器開放部61により容器2が開放される。したがって、冷却液の蒸気化に伴う容器2の内圧の急上昇を防ぐことができる。したがって、容器2の破損なく発熱素子5を冷却することができる。
【0054】
蒸気の制御において、温度測定部12により計測された温度が第2閾値に到達する前に下がり始めた場合、すなわち、抜熱媒体の流量を増加させるだけで発熱素子5の発熱が停止した場合には、不活性ガスの供給は不要である。同様に、温度測定部12により計測された温度が第3閾値に到達する前に下がり始めた場合、すなわち、不活性ガスを容器2内に供給するだけで発熱素子5の発熱が停止した場合には、冷却液の供給は不要である。
【0055】
なお、制御部70は、温度測定部12により計測された温度に応じて段階的に抜熱媒体流通部35、不活性ガス供給部41、冷却液供給部51および容器開放部61を制御する形態に限られず、時間の経過に伴って段階的に抜熱媒体流通部35、不活性ガス供給部41、冷却液供給部51および容器開放部61を制御する形態であってもよい。具体的には、抜熱媒体の流量を増加させ、所定時間経過した後、不活性ガスを容器2内に供給してもよい。同様に、不活性ガスを容器2内に供給し、所定時間経過した後、冷却液を容器2内に供給してもよい。
【0056】
また、循環経路33が高温側経路と低温側経路とを含む場合、定常運転時には、抜熱媒体流通部35により高温側経路を流れる抜熱媒体の流量を一定とし、低温側経路を流れる抜熱媒体の流量を増減することにより、発熱素子5からの輻射熱放出量を増減させて発熱素子5の温度を予め定められた範囲内で制御することができる。
【0057】
温度測定部12により計測された温度が予め定められた第1閾値に達したときには、高温側経路を流れる抜熱媒体と低温側経路を流れる抜熱媒体との各流量を最大とする(STEP1)。これにより、容器2が冷却され、発熱素子5からの輻射熱放出量が増え、発熱素子5の温度の上昇を緩やかにすることができる。
【0058】
温度測定部12により計測された温度が第1閾値よりも大きく、第2閾値よりも小さい第4閾値に達したときには、高温側経路および低温側経路を流れる抜熱媒体を、熱容量が大きく、かつ冷却効果が高い抜熱媒体(例えば水)に切り替える(STEP2)。これにより、発熱素子5からの輻射熱放出量がさらに増え、第4閾値を超えた発熱素子5の温度の上昇を更に緩やかにすることができる。
【0059】
温度測定部12により計測された温度が第4閾値よりも大きい第2閾値に達したときには、上記のように、不活性ガス供給部41により不活性ガスを容器2内に供給する(STEP3)。これにより、発熱素子5からの輻射熱放出量がさらに増え、第2閾値を超えた発熱素子5の温度の上昇を更に緩やかにすることができる。
【0060】
温度測定部12により計測された温度が第2閾値よりも大きい第3閾値に達したときには、上記のように、容器開放部61により容器2を開放すると共に冷却液供給部51により冷却液を容器2内に供給する(STEP4)。これにより、発熱素子5からの輻射熱放出量がさらに増え、発熱素子5を速やかに冷却することができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態および実施例について説明したが、本発明は上記の実施形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0062】
[第1変形例]
上記実施形態では、発熱素子5が第1層23および第2層24を交互に積層した多層膜25を有する例について説明したが、本発明はこれに限らず、
図3に示す発熱素子5Aであってもよい。発熱素子5Aは、第1層23および第2層24に加え、これら第1層23および第2層24とは異種の水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスからなる第3層24aを積層することによって形成された多層膜25Aを有している。第3層24aとしては、第1層23および第2層24と同様に、厚さが1000nm未満であることが望ましい。
【0063】
このような第3層24aを設けた発熱素子5Aは、台座22上に第1層23、第2層24、第1層23、および第3層24aの順番で積層し、第2層24および第3層24a間に第1層23を介在させた積層構成とし、この4層の積層構成を繰り返し設けた構成を有する。このような構成でも、第1層23および第2層24間の異種物質界面26や、第1層23および第3層24a間の異種物質界面を、水素が量子拡散により透過することで、加熱温度以上の過剰熱を発生させることができる。
【0064】
例えば、第3層24aとしては、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金、SiC、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのうちいずれかであることが望ましい。第3層24aの合金としては、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金でもよいが、特に好ましくは、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが望ましい。これらのうちCaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかからなる第3層24aを設けた場合には、発熱素子5での水素の吸蔵量が増加し、異種物質界面を透過する水素の量を増加でき、その分、高い過剰熱を得ることができる。
【0065】
ただし、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOは、水素を透過し難いことから、これらCaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかからなる第3層24aでは、厚さを1000nm未満、特に10nm以下として極めて薄く形成することが望ましい。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかからなる第3層24aは、完全な膜状に形成せずに、アイランド状に形成されていてもよい。また、第1層23および第3層24aも、真空状態を維持したまま連続的に成膜し、第1層23および第3層24a間に自然酸化膜を形成せずに異種物質界面を作製することが望ましい。
【0066】
なお、第3層24aを設けた発熱素子5Aとしては、
図3の第2層24および第3層24aの順番を換える等、第2層24および第3層24aを任意の順に積層し、かつ、第2層24および第3層24a間に第1層23を介在させた積層構成とし、この4層の積層構成を繰り返し設けた構成であってもよい。また、第3層24aは、発熱素子5Aに1層以上形成されていればよい。
【0067】
特に、第1層23、第2層24および第3層24aの組み合わせとしては、元素の種類を「第1層23-第3層24a-第2層24」として表すと、Pd-CaO-Ni、Pd-Y2O3-Ni、Pd-TiC-Ni、Pd-LaB6-Ni、Ni-CaO-Cu、Ni-Y2O3-Cu、Ni-TiC-Cu、Ni-LaB6-Cu、Ni-Co-Cu、Ni-CaO-Cr、Ni-Y2O3-Cr、Ni-TiC-Cr、Ni-LaB6-Cr、Ni-CaO-Fe、Ni-Y2O3-Fe、Ni-TiC-Fe、Ni-LaB6-Fe、Ni-Cr-Fe、Ni-CaO-Mg、Ni-Y2O3-Mg、Ni-TiC-Mg、Ni-LaB6-Mg、Ni-CaO-Co、Ni-Y2O3-Co、Ni-TiC-Co、Ni-LaB6-Co、Ni-CaO-SiC、Ni-Y2O3-SiC、Ni-TiC-SiC、Ni-LaB6-SiCであることが望ましい。
【0068】
[第2変形例]
図4に示す発熱素子5Bを用いてもよい。発熱素子5Bは、第1層23、第2層24および第3層24aに加えて、さらに、第1層23、第2層24および第3層24aとは異種の水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスからなる第4層24bを積層することによって形成された多層膜25Bを有している。第4層24bは、第1層23や第2層24、第3層24aと同様に厚さが1000nm未満でなることが望ましい。
【0069】
例えば、第4層24bとしては、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、CO、これらの合金、SiC、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのうちいずれかであってもよい。第4層24bの合金としては、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金でもよいが、特に好ましくは、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが望ましい。
【0070】
第4層24bを設けた発熱素子5Bは、第2層24、第3層24a、第4層24bが任意の順に積層し、かつ、これら第2層24、第3層24a、第4層24bのそれぞれの間に第1層23が設けられた積層構成とし、これら6層の積層構成を繰り返し設けた構成が望ましい。すなわち、
図4に示すような第1層23、第2層24、第1層23、第3層24a、第1層23、第4層24bの順や、その他、図示しないが、第1層23、第4層24b、第1層23、第3層24a、第1層23、第2層24の順等に積層させた発熱素子5Bであることが望ましい。また、第4層24bは、発熱素子5Bに1層以上形成されていればよい。
【0071】
特に、第1層23、第2層24、第3層24a、および第4層24bの組み合わせとしては、元素の種類を「第1層23-第4層24b-第3層24a-第2層24」として表すと、Ni-CaO-Cr-Fe、Ni-Y2O3-Cr-Fe、Ni-TiC-Cr-Fe、Ni-LaB6-Cr-Feであることが望ましい。
【0072】
CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかからなる第4層24bを設けた場合、発熱素子5Bでの水素の吸蔵量が増加し、異種物質界面を透過する水素の量を増加でき、その分、高い過剰熱を得ることができる。これらCaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかからなる第4層24bでは、厚さを1000nm未満、特に10nm以下として極めて薄く形成することが望ましい。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかからなる第4層24bは、完全な膜状に形成せずに、アイランド状に形成されていてもよい。また、第1層23および第4層24bでも、真空状態を維持したまま連続的に成膜し、第1層23および第4層24b間に自然酸化膜を形成せずに異種物質界面を作製することが望ましい。
【符号の説明】
【0073】
1 発熱装置
2 容器
5,5A,5B 発熱素子
6 ヒータ
11a,11b,12 温度測定部
33 循環経路
35 抜熱媒体流通部
41 不活性ガス供給部
51 冷却液供給部
61 容器開放部
70 制御部