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特開2023-36484固体表面の金属成分を検出する検出材、検出システムおよび検出方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036484
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】固体表面の金属成分を検出する検出材、検出システムおよび検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20230307BHJP
   G01N 31/22 20060101ALI20230307BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
G01N31/00 U
G01N31/22 121G
G01N31/22 121N
G01N21/78 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021143567
(22)【出願日】2021-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(72)【発明者】
【氏名】高橋 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】木菱 隆志
(72)【発明者】
【氏名】大角 空ノ輔
【テーマコード(参考)】
2G042
2G054
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BC13
2G042CA03
2G042CB06
2G042DA08
2G042EA01
2G042FA01
2G042FA02
2G042FA04
2G042FA05
2G042FA11
2G042FB07
2G042FC03
2G042FC07
2G054AA02
2G054AA04
2G054CE01
2G054CE02
2G054EA03
2G054EA04
2G054EA06
2G054GB02
2G054GB05
(57)【要約】
【課題】呈色反応による発色シグナルで固体表面の金属成分を高感度で検出が可能な、検出材、検出システムおよび検出方法を提供する。
【解決手段】有機比色試薬微粒子を多孔質体表面に担持付着させた検出材と固体表面の金属成分をイオン化する成分を含んだゲルを組み合わせて使用することで、このゲルと固体表面を接触させ、かつ検出剤を使用し検出流体を毛細管現象により流すことで固体表面から抽出された金属イオンがゲルから多孔質体表面上の有機比色試薬微粒子の層へ拡散しながら呈色反応し発色することで、固体表面の金属成分を検出および定量できる。
【選択図】 図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の多孔質体と、検出部と、金属イオン抽出部と、金属イオン供給部と、給水部とを備える固体表面の金属成分を検出する検出材であって、
前記検出部は有機比色試薬微粒子を有して前記多孔質体の表面上に配置され、
前記金属イオン抽出部は、前記固体表面の金属成分をイオン化するイオン化成分を有するゲルを備え、
前記金属イオン供給部は、前記検出部と少なくとも一部が接して配置され、
前記イオン化成分によりイオン化した金属イオンは前記金属イオン抽出部から前記金属イオン供給部に供給され、
前記給水部は、前記多孔質体の一端側に配置され、
前記多孔質体は、検出流体が前記給水部から前記給水部と反対端に向かって前記多孔質体中を毛細管現象により流れる構造を有し、
前記検出流体によって前記金属イオン供給部から前記検出部に拡散した前記金属イオンと前記有機比色試薬微粒子とが呈色反応し発色する、
ことを特徴とする検出材。
【請求項2】
前記検出部は、湿潤剤を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の検出材。
【請求項3】
前記金属イオン抽出部は、抽出向上剤を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の検出材。
【請求項4】
前記金属イオン供給部と前記給水部が同一である、
ことを特徴とする請求項1に記載の検出材。
【請求項5】
前記検出流体は、感度向上剤を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の検出材。
【請求項6】
請求項1に記載の検出材を用いた固体表面の金属成分の検出システムであって、
前記呈色反応により発色した色を元に前記金属イオンの種類及び前記金属イオンの溶出量を判定可能な判定部を備える、
ことを特徴とする検出システム。
【請求項7】
固体表面の金属成分の検出方法であって、
有機比色試薬微粒子を有して多孔質体の表面上に配置される検出部と、
前記固体表面の金属成分をイオン化するイオン化成分を有するゲルからなる金属イオン抽出部と、
前記検出部と少なくとも一部が接して配置され、前記イオン化成分によりイオン化した金属イオンが前記金属イオン抽出部から供給される金属イオン供給部と、
前記多孔質体の一端側に配置される給水部と、
検出流体が前記給水部から前記給水部と反対端に向かって前記多孔質体中を毛細管現象により流れる構造を有する前記多孔質体を備える検出材を用いて、
前記固体表面に前記金属イオン抽出部を接触させる接触ステップと、
前記金属イオンを前記金属イオン供給部に供給する供給ステップと、
前記給水部から前記検出流体を流し、前記金属イオンを前記検出部に拡散する拡散ステップと、
前記金属イオンが前記有機比色試薬微粒子と呈色反応し発色する反応ステップと、
前記呈色反応により発色した色を元に前記金属イオンの種類及び前記金属イオンの溶出量を判定する判定ステップと、
を有することを特徴とする検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体表面の金属成分を検出する検出材、検出システムおよび検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の金属イオン検出材として、例えば特許文献1に記載される検出材がある。これは金属イオンを検出可能な有機比色試薬のナノ粒子薄膜からなり、有機比色試薬が最表面に局在し、独立した固相で、かつナノ粒子であるため、液体試料に対し反応性が高い検出材である。他にも、例えば特許文献2に記載される金属材料の分析用シートがある。これは透明なハイドロゲルで金属成分と反応して発色する発色剤および酸を含み、簡便に金属材料の成分を分析することができる。
【0003】
本発明の発明者らは、特許文献1の検出材を利用し固体試料に対しても金属イオンを検出可能にするため、例えば非特許文献1に記載の検出材を開発している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4185982号公報
【特許文献2】特開2010-14500号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本分析化学会第67年会講演予稿集vol67,p241(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固体試料の表面の金属成分を検出する上では、ラボでの機器分析が一般的であるが、日常的な現場分析の需要の観点から、機器分析に依らない現場で簡易に固体表面の金属成分を分析する技術が望まれている。
【0007】
しかしながら、その実現のためには、表面分析装置などを用いない高感度な分析デバイスが必要という課題を見い出した。特許文献1の検出材では水溶液サンプルのみを扱い、水溶性のイオン種のみを検出するため、固体表面の金属成分を検出することはできない。また特許文献2の分析用シートでは、発色剤を内含したゲルシートを金属表面に付着させるため、固体表面の金属について定性分析は可能であるが定量分析は困難であり、かつ妨害成分からの物質分離もしくはシグナル分離ができないため、多種多様に存在する合金などへの汎用性が低い。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、呈色反応による発色シグナルで固体表面の金属成分を高感度で検出が可能な、検出材、金属イオン検出システムおよび金属イオン検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の本発明者らは、上記課題について鋭意検討を行っていたところ、有機比色試薬微粒子を多孔質体表面に担持付着させた検出材と固体表面の金属成分をイオン化する成分を含んだゲルを組み合わせて使用することで、このゲルと固体表面を接触させ、かつ検出材を使用し検出流体を毛細管現象により一方向に流すことで固体表面から抽出された金属イオンがゲルから多孔質体表面上の有機比色試薬微粒子の層へ拡散しながら呈色反応し発色することで、固体表面の金属成分を検出および定量できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、上記課題を解決する本発明の一観点に係る検出材は、
シート状の多孔質体と、検出部と、金属イオン抽出部と、金属イオン供給部と、給水部とを備える固体表面の金属成分を検出する検出材であって、検出部は有機比色試薬微粒子を有して多孔質体の表面上に配置され、金属イオン抽出部は、固体表面の金属成分をイオン化するイオン化成分を有するゲルを備え、金属イオン供給部は、検出部と少なくとも一部が接して配置され、イオン化成分によりイオン化した金属イオンは金属イオン抽出部から金属イオン供給部に供給され、給水部は、多孔質体の一端側に配置され、多孔質体は、検出流体が給水部から該給水部と反対端に向かって多孔質体中を毛細管現象により流れる構造を有し、検出流体によって金属イオン供給部から検出部に拡散した金属イオンと有機比色試薬微粒子とが呈色反応し発色することを特徴とする検出材である。
【0011】
本発明の他の一観点に係る検出システムは、
上記検出材を用いた固体表面の金属成分の検出システムであって、呈色反応により発色した色を元に金属イオンの種類及び金属イオンの溶出量を判定可能な判定部を備えることを特徴とする検出システムである。
【0012】
本発明の他の一観点に係る検出方法は、
固体表面の金属成分の検出方法であって、有機比色試薬微粒子を有して多孔質体の表面上に配置される検出部と、固体表面の金属成分をイオン化するイオン化成分を有するゲルを備える金属イオン抽出部と、検出部と少なくとも一部が接して配置され、金属イオン抽出部からイオン化した金属イオンが供給される金属イオン供給部と、多孔質体の一端側に配置される給水部と検出流体が給水部から給水部と反対端に向かって多孔質体中を毛細管現象により流れる構造を有する多孔質体を備える検出材を用いて、固体表面に金属イオン抽出部を接触させる接触ステップと、金属イオンを金属イオン供給部に供給する供給ステップと、給水部から検出流体を流し、金属イオンを検出部に拡散する拡散ステップと、金属イオンが有機比色試薬微粒子と呈色反応し発色する反応ステップと、呈色反応により発色した色を元に金属イオンの種類及び金属イオンの溶出量を判定する判定ステップとを有することを特徴とする検出方法である。
【発明の効果】
【0013】
以上、本発明によって、呈色反応による発色シグナルで固体表面の金属成分を高感度で検出が可能な、検出材、金属イオン検出システムおよび金属イオン検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ゲルを金属イオン抽出部として搭載した金属成分検出材(実施形態1:ゲル一体型)の構造の一例を示す。
図2】ゲルを搭載していない金属成分検出材(実施形態2:ゲル分離型)の構造の一例を示す。
図3】金属イオン供給部と給水部が同じ部位に配設された検出材(実施形態3:イオン供給-給水併合型)の構造の一例を示す。
図4】検出材での金属成分を検出する概念図を示す。
図5】検出材を用いた検出システムの概念図を示す。
図6】検出システムでの金属成分を検出するフロー図を示す。
図7】実施例11~16に係る検出材を使用した金属への接触時間と呈色距離の関係図である(TLC分析)。
図8】実施例11~16に係る検出材を使用した金属への接触時間と呈色面積の関係図である(TLC分析)。
図9】実施例11~16に係る検出材を使用した金属への接触時間と検出金属量の関係図である(ICP-OES)。
図10】比較例10、実施例11~16に係る検出材を使用した呈色距離と検出金属量の関係図である(ICP-OES)。
図11】比較例10、実施例11~16に係る検出材を使用した呈色面積と検出金属量の関係図である(ICP-OES)。
図12】実施例41~45に係る検出材を使用した金属への接触時間と呈色距離の関係図である(ImageJ分析)。
図13】実施例41~45に係る検出材を使用した金属への接触時間と呈色面積の関係図である(ImageJ分析)。
図14】実施例51~55に係る検出材を使用した金属への接触時間と呈色距離の関係図である(ImageJ分析)。
図15】実施例51~55に係る検出材を使用した金属への接触時間と呈色面積の関係図である(ImageJ分析)。
図16】実施例61~65に係る検出材を使用した金属への接触時間と呈色距離の関係図である(ImageJ分析)。
図17】実施例61~65に係る検出材を使用した金属への接触時間と呈色面積の関係図である(ImageJ分析)。
図18】金属イオン抽出部が無い、金属イオン供給部への金属の接触前後における反射吸収スペクトルの図である。
図19】比較例121~124に係る検出材を使用した金属への接触時間と呈色面積の関係図である(ImageJ分析)。
図20】実施例131のタッチテストデバイスの写真およびImageJによるRGB分析(表面)
図21】実施例131のタッチテストデバイスの写真およびImageJによるRGB分析(裏面)
図22】比較例130の含浸濾紙の写真およびImageJによるRGB分析(表面)
図23】比較例130の含浸濾紙の写真およびImageJによるRGB分析(裏面)
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例において言及する具体的な例示にのみ限定されるわけではない。
【0016】
(検出材の構成と検出原理)
本実施形態に係る検出材は、図1図3に示すようなシート状の多孔質体40と、検出部10と、金属イオン抽出部50と、金属イオン供給部20と、給水部30とを備え、金属イオン抽出部50から金属イオン供給部20を経て供給される金属イオンが、給水部30から給水部と反対端に向かって多孔質体40および多孔質体40の表面上に担持付着する検出部10を毛細管現象により流れる検出流体によって拡散し、有機比色試薬微粒子と呈色反応により発色することで固体表面の金属成分を検出することができる。
【0017】
(多孔質体)
多孔質体は、検出流体が給水部から該給水部と反対端に向かって多孔質体中を毛細管現象により流れる構造を有していることが好ましい。多孔質体の材質は、ナイロン、ニトロセルロース、酢酸セルロース、セルロース混合エステル、ポリエーテルサルフォン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフロライド、ポリカーボネイト、ポリエチレンなど等が好適である。
【0018】
したがって多孔質体としては、メンブレンフィルターや、ニトロセルロース、酢酸セルロース、セルロース混合エステルおよびポリエチレンテレフタラート製のバッキング材からなるイムノメンブレン、アルミナやシリカ等の無機系フィルター、セルロース繊維の濾紙、ガラスフィルター等の公知のものを用いることができる。
【0019】
多孔質体にメンブレンフィルターを使用する場合、メンブレンフィルターの孔径は0.005μm以上10μm以下が好ましい。多孔質体にイムノメンブレンを使用する場合、イムノメンブレンは40mmあたりのラテラルフローの吸水時間が50秒以上300秒以下のメンブレンが好ましい。多孔質体に濾紙やガラスフィルターを使用する場合、濾紙やガラスフィルターの保留粒子径が1μm以上5μm以下であるものが好ましい。
【0020】
また、「ラテラルフロー」は、本明細書中使用される場合、検出流体が多孔質体または検出部の面に沿って長手方向の一端から他端へ流動する状態を意味する。
【0021】
上記多孔質体は、後述する検出部を担持可能な平坦な表面を持つものが好ましい。表面平坦度としては表面粗さRaが1μm以内であれば作製の観点で好適である。また多孔質体は、後述する検出流体が多孔質体中を毛細管現象により流れる構造を有していることが好ましく、シート状に整形されているものが好ましい。毛管現象により検出流体が流れる構造を有するシート状の多孔質体を使用することで検出速度、検出感度において優れた検出材となる。
【0022】
(検出部)
検出部は有機比色試薬微粒子を有して多孔質体の表面上に配置されることが好ましい。また、検出部は、湿潤剤を含むことが好ましい。
有機比色試薬微粒子を構成する有機比色試薬は金属イオン抽出部から移動した金属イオンと反応し呈色する顔料もしくは染料であり、顔料の場合には有機比色試薬だけが凝集した粒子である。染料の場合は微粒子形成剤と一緒に染料がナノ粒子化した粒子である。
【0023】
有機比色試薬としての顔料には公知の物質を用いることができる。例えば試薬群としては、ジチゾン、ジフェニルカルバジド、ポルフィリン、ピリジルアゾレゾルシノール、チアゾリルアゾナフトール、カルセイン、ニトロソナフトール、ニトロソフェノール、フェナントロリン、バソフェナントロリン、ビピリジン、トリピリジルトリアジン、フェニレンジアミン、フェニレンジチオール、ピロカテコール、クロマゾール、キシレノールオレンジ、8-キノリノール、クルクミン、フラボノール、フラボン、アントシアニン、アリザリン等を用いることができる。
【0024】
有機比色試薬としての染料には公知の物質を用いることができる。染料は特定のpHの水または混合溶媒に溶解可能である。例えば試薬群としては、アニオン性試薬のスルホン酸基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、チオール基、リン酸基を一つ又はそれ以上有するもの、カチオン性試薬のアミノ基、トリアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、N-メチルピリジル基等を一つ又はそれ以上有するものが例示される。加えて試薬群としては、フェニルフルオロン、ピロカテコールバイオレッド、ピロガロールレッド、ブロモピロガロールレッド、クロマゾール、タイロン、クプフェロン、クロモトロープ酸、ジニトロナフタレンジオール、モリン、アリザリンレッド、スチルバゾ、エリクロームブラックT、カルコンカルボン酸、カルガマイト、ヒドロキシナフトールブルー、ガリオン、スパドンス、ベリリロンII、カルシクローム、マゴン、シパン、フェナゾ、アルセナゾ、クロポスフォナゾIII、スルフォナゾ、ジニトロスルフォナゾIII、アルセナゾK、スルフォクロロフェノールS、スルファセザン、ピリジルアゾナフトール、ピリジルアゾレソルシノール、チアゾリルアゾフェノール、チアゾリルアゾナフトール、5-ブロモ-PAPS、5-ブロモ-PAPAP、5-ブロモ-DMPAP、ニトロソ-PAPS、5-クロロ-PADAP、TAMB、BTMB、3,5-ジブロモ-PAMB、TAMSMB、5-クロロ-PADAB、5-ブロモ-PMDAB、5-ブロモ-PADAB、5-ブロモ-PSAA、3,5-ジブロモ-PAESA、フタレインコンプレキサン、チモールフタレインコンプレキサン、カルセイン、メチルカルセイン、カルセインブルー、クイン2、フラ2、インド1、ロッド2、フルオ3、キシレノールオレンジ、メチルチモールブルー、メチルキシレノールブルー、グリシンクレゾールレッド、グリシンチモールブルー、サルコシンクレゾールレッド、アリザリンコンプレクソン、8-キノリノール、オキシン-5-スルフォニックアシッド、アゾメチンH、GHA、SAPH,SABF、3-OH-PAA、ジンコン、ムレキシド、2-ニトロソ-1-ナフトール-4-スルホン酸、ニトロソR酸、ニトロソ-DMAP、ニトロソ-ESAP、ニトロソ-PSAP、2,2’-ビピリジン、1,10-フェナントロリン、バソフェナントロリンジスルホン酸、トリピリジルオリアジン、ピリジルジフェニルトリアジン、バソプロインジスルホン酸、BCA、ジメチルグリオキシム、ニオキシム、DAB、DAN、o-フェニレンジアミン、5-クロロ-1,2-フェニレンジアミン、5-ニトロ-1,2-フェニレンジアミン、TPPS、T(3-MPy)P、T(4-MPy)P、T(5-MPy)P、TTMAPP、ジチゾン、チオキシン、DDTC、APDC、ビスムチオールII、インジゴカーミン、2,6-ジクロロインドフェノール、ニュートラルレッド、ガロシアニン、メチレンブルー、バリアミンブルーB、3,3’-ジメチルナフチジンなどを用いることができる。
【0025】
特定の金属イオンを検出するためには、Cdに対しては2-(5-ブロモ-2-ピリジルアゾ)-5-(ジエチルアミノ)フェノールもしくはα,β,γ,δ-テトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィリンを用いると効果的である。
【0026】
Pbに対してはメチルチモールブルーもしくはα,β,γ,δ-テトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィリンを用いると効果的である。
【0027】
Hgに対してはジチゾンを用いると効果的である。
【0028】
Niに対しては2-(3,5-ジブロモ-2-ピリジルアゾ)-5-(ジエチルアミノ)フェノールもしくは2-(5-ブロモ-2-ピリジルアゾ)-5-(ジエチルアミノ)フェノールを用いると効果的である。
【0029】
Znに対してはジンコンを用いると効果的である。
【0030】
Mnに対しては2-(3,5-ジブロモ-2-ピリジルアゾ)-5-(ジエチルアミノ)フェノールもしくは2-(5-ブロモ-2-ピリジルアゾ)-5-(ジエチルアミノ)フェノールを用いると効果的である。
【0031】
Feに対してはバソフェナントロリンもしくはバソフェナントロリンスルホン酸ナトリウムを用いると効果的である。
【0032】
Fに対してはフラボノール-2‘-スルホン酸ナトリウムもしくはフラボノール、フィセチン、モリンを用いると効果的である。
【0033】
Bに対してはクロモトノープ酸もしくはクルクミンを用いると効果的である。
【0034】
微粒子形成剤は、ラテックス、ポリスチレンなどの有機ポリマーもしくは、シリカ、アルミナ、ジルコニウム等の金属酸化物を用いることができ、大きさ1nm以上1000nm以下であり、好ましくは3nm以上500nm以下で有機比色試薬である染料が吸着しうるものである。
【0035】
顔料タイプの有機比色試薬を粒子状で備える場合には、平均粒径が10nm以上500nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは20nm以上200nm以下であり、更に好ましくは50nm以上150nm以下である。これにより有機比色試薬が十分に多孔質体に担持可能となり、検出部の厚さを繰り返し精度良く作製できる。平均粒径は電子顕微鏡観察により、算術平均で求められる。
【0036】
染料タイプの有機比色試薬は、微粒子形成剤によって当該微粒子形成剤の表面に吸着させることで微粒子の凝集を誘発し、形成された凝集体が十分に多孔質体表面に担持可能な大きさとなり、検出部を繰り返し精度良く作製できる。
【0037】
有機比色試薬微粒子は疎水性が高く、検出部が検出流体にて金属イオンの拡散や検出に十分な水の浸透性を得るためには、検出部には検出流体で湿潤させるための湿潤剤を含むことが好ましい。そのため検出部には湿潤剤として後述のゲル化剤、水溶性高分子、低分子保湿剤の少なくともいずれか1つを添加すると好適である。
【0038】
ゲル化剤としては、例えば、ゼラチン、コラーゲン分解物、ペクチン、カラギナン、グルコマンナン、有機電解質オリゴマー、相互侵入高分子網目等、水性溶媒を含有可能な公知の物質を用いることができる。
【0039】
水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩、ポリアネトールスルホン酸塩、デンドロンなどを用いることができる。
【0040】
低分子保湿剤としては公知のところのアミノ酸、尿素、グリセリンなどが挙げられ、これらはイオン化に十分な水分を含有でき、これにより金属イオンを安定にゲル層に保持できるようになる。
【0041】
有機比色試薬微粒子と湿潤剤との割合は、有機比色試薬微粒子:湿潤剤の重量比で100:1から1:100000であればよく、好ましくは10:1から1:1000、さらに好ましくは1:1から1:1000である。
【0042】
検出部の厚さは半定量もしくは定量分析の観点から100nm以上20μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは200nm以上3μm以下であり、更に好ましくは400nm以上1μm以下である。これにより呈色反応の十分なシグナル強度が得られ、検出流体の毛細管現象による拡散によって、高感度でばらつきが少なく再現性が高い高精の定量分析が可能となる。検出部の厚さは電子顕微鏡観察とデジタルマイクロスコープでの観察で求められる。
【0043】
(検出部作製方法)
検出部の作製については、多孔質体に粒子状の有機比色試薬の分散液もしくは微粒子形成剤と有機比色試薬の凝集体の分散液を吸引濾過することで、多孔質体表面上に直接作製することができる。分散液の濃度によって検出部の厚さが調節可能である。このような作製方法により金属イオンの検出感度の調整が可能である。
【0044】
(金属イオン抽出部)
金属イオン抽出部は、固体表面の金属成分をイオン化するイオン化成分を有するゲルを備えることが好ましい。具体的には、金属イオン抽出部は、固体表面の金属成分をイオン化して、その金属イオンを抽出可能で保持することができ、かつ金属イオン供給部と接したときに検出流体によって金属イオンが金属イオン供給部を経て検出部に移動することが可能なゲルを備えることが好ましい。
【0045】
金属イオン抽出部は、ゲルを把持できる支持フレームを有してもよく、ゲル自体で形を維持できる強度を有している場合には支持フレームは不要であるが、少なくとも固体試料の表面にゲルの少なくとも一部が直接接触可能な形態であることが好ましい。
【0046】
イオン化成分としては、水分を主とした抽出向上剤を用いることが好ましい。
【0047】
ゲルとしては親水性であることが好ましく、例えば、ゼラチン、コラーゲン分解物、寒天、ペクチン、カラギナン、グルコマンナン、有機電解質オリゴマー、相互侵入高分子網目等、水性溶媒を含有可能な公知の物質を用いることができる。これにより金属成分のイオン化に十分な水分を含有でき、金属イオンを安定にゲル層に保持できるようになる。ゲルは抽出向上剤としての機能を果たす場合もある。
【0048】
抽出向上剤としては、イオン化剤、抽出剤、イオン強度調整剤、マスキング剤の少なくともいずれか一つを含ませることが好ましい。
【0049】
金属イオンの検出に十分な量の金属成分をイオン化するために、水分に加えて、イオン化剤を含ませることが好ましい。イオン化剤としては、酸、アルカリ、酸化剤や還元剤が挙げられ、硝酸、塩酸、硫酸、過塩素酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどが好適である。
【0050】
イオン化剤でイオン化が困難な金属に対しては、目的の金属成分に適した抽出剤を用いることが好ましい。抽出剤としては、溶媒抽出用の試薬などを用いることができ、ジチゾン、ジエチルジチチオカルバミン酸、キサントゲン酸、8-キノリノール、α-ジオキシム、クロロペン、β-ジケトン、アセチルアセトン、テノイルトリフルオロアセトン、1-ニトロソ-2-ナフトール、1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトール、エチレンジアミン四酢酸、1,10-フェナントロリン、ネオクプロイン、2,2‘-ジピリジル、リン酸トリブチル、クラウンエーテル類などが挙げられる。
【0051】
目的の金属成分以外がイオン化し、検出の際の妨害となる場合は、妨害成分除去の目的でマスキング剤を用いることが好適である。マスキング剤としては、チオ尿素、エチレンジアミン四酢酸、シアン化カリウム、トリエタノールアミン、アセチルアセトン、2,3-ジメルカプトプロパノール、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、3-メルカプトプロピオン酸、2-アミノエタンチオール、チオグリコール酸、ユニチオール、シュウ酸、酒石酸、クエン酸、サリチル酸、タイロン、アスコルビン酸、ヨウ化カリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫化ナトリウム、フッ化アンモニウム、リン酸アンモニウム、ヒドロキシルアミン、1,10-フェナントロリン、過酸化水素等が挙げられ、目的の金属成分に応じて選択し、含有させることが好ましい。
【0052】
また金属イオン抽出部には、金属イオンの抽出率を安定化するため、イオン強度調整剤を含ませることが好適である。イオン強度調整剤としては、塩類を添加する場合がある。塩類の例としては、塩化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、臭化ナトリウム、フッ化ナトリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、過塩素酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム等、目的に適したものを選択することが好ましい。
【0053】
金属イオン抽出部では、イオン化剤、抽出剤、イオン強度調整剤、マスキング剤から目的の金属成分の検出に適した物質を選択し、適した濃度で混合させることで、積極的に目的の金属成分を溶解させ抽出でき、固体表面分析に活用することができる。あるいは抽出向上剤の成分を組み合わせることで、固体表面の環境暴露試験や負荷試験等を行うことができる。例えば塩害の環境評価、酸性雨などによる影響予測、アレルギー物質の溶解調査、赤ちゃん用おもちゃの安全調査などに活用することができる。
【0054】
(金属イオン供給部)
金属イオン供給部は、検出部と少なくとも一部が接して配置される。イオン化成分によりイオン化した金属イオンは金属イオン抽出部から金属イオン供給部に供給される。すなわち金属イオン供給部は、金属イオン抽出部で抽出された目的の金属成分を検出部へ供給するため、金属イオン供給部の一部が検出部に接するよう配置される。あるいは検出部の一部を金属イオン供給部として使用することも好ましく、金属イオン供給部が検出部に面で接することが最も好ましい。
【0055】
金属イオン抽出部は常に金属イオン供給部に接触していても良く(ゲル一体型)、金属イオン供給部が金属イオンの供給を受けるときだけ金属イオン抽出部を金属イオン供給部に接触していても良い(ゲル分離型)。また金属イオン抽出部に取り込んだ金属イオンを別のゲルやイオン透過性シートなど別の物質を介して金属イオン供給部に供給してもよく、固体表面から抽出し金属イオン抽出部に取り込んだ金属イオンを金属イオン供給部に供給することができればその形態は問わない。
【0056】
(給水部)
給水部は、多孔質体の一端側に配置されることが好ましい。あるいは金属イオン供給部と給水部が同一の部位に配置することも好ましい。給水部は、検出流体を供給する部分である。給水部は、多孔質体の一端を使用しても良い。もしくは他の多孔質体や繊維等を接続して構成しても良い。あるいは金属イオン供給部の少なくとも一部を給水部として使用しても良い。給水部を構成する材質は特には限定されないが、多孔質体と同じ材質であることが好ましい。
【0057】
(検出流体)
検出流体は、金属イオン供給部を湿潤させかつ給水部から当該給水部と反対端に向かって多孔質体および検出部を一方向に流れることを特徴とする。検出流体が流動する駆動力は多孔質体の微細構造および揮発に起因した毛細管現象による検出流体のラテラルフローを主とする。
【0058】
検出流体の構成成分は特に規定はされないが、固体表面からイオンとして溶出させイオンを安定に存在させるために水性溶媒であると目的の金属成分のイオン化において有利である。
【0059】
さらに検出流体は、感度向上剤を含むことが好ましい。すなわち検出流体には、検出部でのイオンの移動を促進または安定化することで、後述する呈色部を伸長させ検出感度を向上させるために感度向上剤を添加することが好適である。
【0060】
感度向上剤は、前述の湿潤剤、抽出向上剤の他、pH緩衝成分やイオン対試薬などが挙げられる。
【0061】
(呈色反応)
検出部において、検出流体によって金属イオン供給部から検出部に拡散した金属イオンと有機比色試薬微粒子とが呈色反応し発色する。すなわち、固体表面から溶出した金属イオンが有機比色試薬微粒子と反応することで、金属イオンを検出することができる。検出部内で呈色反応により発色した範囲を呈色部と呼ぶ。
【0062】
(実施形態1:ゲル一体型による金属成分の抽出)
図1にゲルを金属イオン抽出部として搭載した、ゲル一体型の金属成分を検出する検出材の構造図の一例を示す。この形態の検出材の場合、金属成分の抽出は、多孔質体を把持して金属イオン抽出部を分析したい固体表面に接触させる。この構成とすることで検出材を直接金属表面に接触させることができることから可搬性に優れた検出材となる。加えて検出操作時のコンタミネーションも防止でき、金属表面に存在する金属成分を的確に検出することが可能となる。
【0063】
(実施形態2:ゲル分離型による金属成分の抽出)
図2にゲルを搭載していない、ゲル分離型の金属成分を検出する検出材の構造図の一例を示す。この形態の検出材の場合、金属成分の抽出は、分析したい固体表面に金属イオン抽出部を接触させた後に、金属イオン供給部に接触させる。この構成とすることで、プラスチック製ピンセットもしくは非金属製のへらなどを用いて狭い空間に位置する金属表面や孔の裏側表面の金属成分を検出することができることから複雑な形状の固体表面に対して適用可能となる。加えて、ゲル分離型では検出部への影響を気にすることがなくなり、ゲル成分の選択肢が格段に増えることから、多種多用な固体サンプルへの対応が可能となり、固体表面の環境暴露試験や負荷試験等に好適である。特に、ゲル成分の有機比色試薬微粒子への影響がある場合は、検出時のみの接触であるため、その影響を最小限に抑えることができ、検出直前までの検出材の保存を的確に行うことができる。
【0064】
(実施形態3:イオン供給-給水併合型による金属成分の抽出)
図3に金属イオン供給部と給水部を同一の部位に配置した検出材の構造図の一例を示す。この形態の検出材の場合、金属イオン抽出部のゲルに金属成分を検出部に拡散させるために十分な量の検出流体をあらかじめ含ませることで、ゲルから滲み出した検出流体が検出部の一端から多端へ向かって一方向のラテラルフローとなり金属成分を検出できる。この構成とすることで、他に検出流体を準備することなく簡便性に優れ、安全性の高い検出材となる。尚、金属イオン抽出部は実施形態1もしくは2のいずれでも構わない。
【0065】
本発明の金属成分を検出する検出材は、本明細書においてタッチテストデバイスと呼ぶこともある。
【0066】
(金属イオンの検出)
図4にゲル一体型およびゲル分離型でゲルを固体表面と接触させた後の状態で、検出流体を用いたラテラルフローでのタッチテストデバイスの金属成分検出概念を図示する。ある一定長さまで検出流体が浸透した後のソルベントフロント12で給水部からの検出流体の給水を止め、その時間までの検出部および呈色部を色分析する。すなわち検出部の中に設けられるソルベントフロント12は、検出流体の流れを停止させる目安となるラインであり、目的の金属成分に応じて設置位置が異なる。
【0067】
金属イオン抽出部に抽出される金属イオンの種類と量は、抽出部のゲルに含まれる抽出向上剤によって選択、制御が可能である。金属イオンの抽出は、一般的には酸性水溶液を用いているが、本実施形態ではゲルという固体で金属イオンの抽出を行うことにより本検出材の簡便性および汎用性を高めている。酸性溶液と比較して本抽出部のゲルはより多種の抽出向上剤を保持可能であり、ゲルの構成成分である高分子も抽出向上剤となりうる。
【0068】
金属イオン抽出部に抽出された金属イオンは、給水部から金属イオン供給部を通り検出部へと通り抜けるように流れる検出流体によって、検出部の中を徐々に拡散する。ここでは、給水部からのラテラルフローで流れる検出流体が金属イオン供給部近隣の金属イオンを流し去り、それを駆動力として金属イオン抽出部から供給部へ金属イオンが拡散され、さらにそれを流体が流し去る、という過程が連続的に起こり、結果、検出流体のラテラルフローにより金属イオン抽出部から連続的に検出部に金属イオンが拡散、供給されると考えられる。このようにして検出部に供給された金属イオンは、一部の金属イオンが近接する有機比色試薬微粒子と反応し拡散を停止するが、未反応の金属イオンが更に検出部の内部をラテラルフローで拡散し別の位置に存在する有機比色試薬微粒子と反応する。このような反応がラテラルフローにより検出部の一端から多端に沿って繰り返されることで発色した呈色部の範囲が広がり、任意に設定されたソルベントフロントによってラテラルフローが停止されるまで起こると考えられる。
【0069】
呈色部の長さや面積、また呈色部の吸光度や色相、明度、彩度や検出部と呈色部でのそれらの差などは、1つもしくは2つ以上の要素と固体表面からの金属イオン溶出量との相関があり、ここから固体表面の目的金属の定性もしくは定量分析が可能となると考えられる。
【0070】
従来技術による検出材(例えば、非特許文献1および特許文献2)は、金属イオンの濃度は呈色部の色の濃淡で判定していたため、検出感度領域が狭く定性は可能であるが定量には難があり、妨害成分などの影響を受ける。本実施形態の検出材では、金属イオン抽出部や検出流体による妨害成分の除去が可能で、ラテラルフローにより一方向に展開させることで目的成分を呈色部の長さや面積、吸光度や色相、明度、彩度などの要素を加えることができるため高感度かつ定量範囲の拡大に繋がり、広い範囲での定量が可能となる。さらに長さや面積などの要素が加わっているため、目視によっても精度を高く判定が可能となりかつ分析作業が容易となり、従来の検出材よりも現場分析での使用に適している。
【0071】
(検出システム)
図5は金属イオン検出システムの概念図である。検出部10において呈色反応により発色した色を元に金属イオンの種類及び溶出した金属イオンの溶出量を判定可能な判定部60を備える。
判定部60には色を検出可能な公知の技術を用いることができる。具体的には、目視もしくは色を検出できる色彩計などの光学分析器、カメラ、スキャナ、TLCスキャナ、光ファイバ分光器等を用い、色データをコンピュータや携帯端末等に取り込むことで金属イオンの種類及び溶出した金属イオンの溶出量が判定できる。判定は、コンピュータや携帯端末等に予めインストールされている色解析ソフトもしくは表計算ソフトなどで取り込んだ色データを適宜解析し判定することができる。目視による判定の場合には、予め用意した判定見本と色や呈色長さ、呈色面積などを比較し判定することができる。
【0072】
(検出方法)
図6は本実施形態のタッチテストデバイスを用いた固体表面の金属を検出する方法の手順を示す図である。
金属イオンの検出には金属イオン抽出部に備えるゲルに水分を含ませることでゲルを湿潤させる湿潤ステップと、固体表面に金属イオン抽出部に接触させる接触ステップと、金属イオンを金属イオン供給部に供給する供給ステップと、給水部から検出流体を流し金属イオンを検出部に拡散する拡散ステップと、金属イオンが有機比色試薬微粒子と呈色反応し発色する反応ステップと、呈色反応により発色した色を元に金属イオンの種類及び溶出した金属イオンの溶出量を判定する判定ステップを有する。
【0073】
(湿潤ステップ:S1、S1’)
湿潤ステップは、金属イオン抽出部に備えるゲルに水分を含ませる段階である(S1はゲル一体型、S1’はゲル分離型)。
【0074】
(接触ステップ:S2、S2’)
接触ステップは、固体表面に、該固体表面の金属成分をイオン化して、その金属イオンを金属イオン抽出部に保持することができ、かつ金属イオン接触部と接したときに検出流体によって金属イオンが検出部に移動することが可能となるよう、ゲルを固体表面に接触させる段階である。ゲルが乾燥している場合は適宜水性溶媒で湿らせてから接触させる(S1はゲル一体型、S1’はゲル分離型)。
【0075】
(供給ステップ:S3、S3’)
供給ステップは、金属イオンを金属イオン供給部に移動させる段階である。接触ステップで適時接触の後、ゲル一体型では固体表面からゲルを離すことで適量の金属イオンを供給することができる。もしくは固体表面からゲルを離し、給水部からの検出流体と金属イオン供給部が接触することが駆動力となり金属イオン供給部に金属イオンを供給することができる。ゲル分離型では、まずゲルを固体表面に接触させ金属イオンをゲルに溶出させ、金属イオン抽出部を金属イオン供給部に載せることで適量の金属イオンを供給することができる。もしくは金属イオン抽出部を金属イオン供給部へ載せた後で、給水部からの検出流体と金属イオン供給部が接触することが駆動力となり金属イオン供給部に金属イオンを供給することができる。
【0076】
(拡散ステップ:S4)
拡散ステップは、供給ステップの後に、給水部からの検出流体が、供給部の浸漬したりや供給部への滴下する、もしくはイオン供給-給水併合型では十分な量の検出流体をゲル中に含ませておいたりすることで提供され、ラテラルフローで、給水部と反対端に向かって一方向に検出流体の流れが生じ、その流れにより金属イオン供給部の金属イオンが検出部に拡散される段階である。
【0077】
(反応ステップ:S5)
反応ステップは、拡散ステップで検出部に拡散された金属イオンが、検出部の有機比色試薬微粒子と反応し、呈色する段階である。反応ステップは、検出流体が浸透しソルベントフロント位置まで検出流体が拡散した時点で給水部からの検出流体の給水を止める。
【0078】
(判定ステップ:S6)
判定ステップでは、反応ステップにおいて金属イオンが有機比色試薬微粒子と反応した時間までの検出部および呈色部の色データを判定部で取得する。色データの取得には、目視もしくは色を検出できる色彩計などの光学分析器、カメラ、スキャナ、TLCスキャナ、光ファイバ分光器等を用い、色データをコンピュータや携帯端末等に取り込むことができる。コンピュータや携帯端末等に予めインストールされている色解析ソフトもしくは表計算ソフトなどでデータを読み込んで適宜解析し、検出しても良い。
【実施例0079】
ここで、上記実施形態に係る検出材、金属イオン検出システムおよび金属イオン検出方法について、以下具体的に説明する。表1は実施例および比較例の一覧である。
【0080】
【表1】
【0081】
(実施例11~16:概要)
ジチゾンナノ繊維膜を検出部とし、牛骨アルカリ処理ゼラチンのゲルを金属イオン抽出部としたタッチテストデバイス(検出材)による、実施形態2のゲル分離型での固体金属スズの接触分析を行った。
【0082】
(実施例11~16:検出部の作製)
顔料であるジチゾンは、1000rpmで攪拌している0.25M L-アスコルビン酸水溶液9.9mlに2mM ジチゾンアセトン溶液をマイクロシリンジで100μl射出後、2分間静置してナノ粒子分散液を作製した。湿潤剤のコラーゲンペプチド10g/Lおよび3mM 4-メトキシフェノールを含み、塩酸でpH2.0に調整した溶液10mlを別途準備し、ナイロンメンブレンフィルター(孔径0.20μm)をセットしたろ過器にジチゾンナノ粒子分散液とともに注ぎ、減圧濾過した。ジチゾンナノ繊維はメンブレンフィルターに青灰色の薄膜状に存在する。乾燥後におおよそ30から40mmの長さで3mm幅にカットすることでジチゾンナノ薄膜を検出部とし、ナイロンメンブレンフィルターを多孔質体とするタッチテストデバイスを作製した。
【0083】
(実施例11~16:給水部)
本実施例ではナイロンメンブレンフィルターの一端を給水部として使用した。尚、以降の全ての実施例と比較例についても同じく多孔質体の一端を給水部として使用した。
【0084】
(実施例11~16:金属イオン抽出部の作製)
50g/L 牛骨由来ゼラチン溶液にイオン化剤である塩酸を加えpH2.0に調整した。この溶液をプラスチックシャーレに10ml加え、冷蔵庫で冷やし固め、3×3mmにカットしゼラチンゲルを作製した。このゼラチンゲルをキムワイプ(日本製紙クレシア株式会社製)で拭いた後にISFET電極(イオン感応性電界効果トランジスタ電極)を用いてpHを測定した。ゲルのpHは2.024であった。
【0085】
(実施例11~16:金属イオン供給部)
本実施例では検出部の一端を金属イオン供給部として使用した。尚、以降の全ての実施例と比較例についても同じく検出部の一端を金属イオン供給部として使用した。
【0086】
(実施例11~16:金属イオンの検出)
タッチテストデバイスは両面テープを貼ったプラ板に貼り付け固定した。カットしたゼラチンは金属スズに10から600秒接触させてから、接触させた面が検出部に接するように金属イオン供給部(検出部)にのせ、給水部からpH2.0の塩酸水溶液を検出流体として展開し、金属イオン供給部の端から25mmの部分までソルベントフロントが達したところで検出流体をとめた。比較例として金属イオン抽出部のゼラチンを金属スズに接触しないで金属イオン供給部に接触させた(比較例10)。給水部から検出流体を給水し、金属イオン供給部の端から25mmの部分にソルベントフロントが達するまでの展開時間は、7分9秒、7分5秒、7分49秒、8分27秒、7分21秒で、平均7分34秒±34秒であった。検出部はピンク色に呈色した。
【0087】
(実施例11~16:金属イオンの判定)
展開および呈色後のタッチテストデバイスは、薄層クロマトグラフィー(TLC)スキャナにて、610nmの1mm×2mmのビームをスキャンさせ反射吸光度を測定した。併せてゼラチンとタッチテストデバイスを濃硝酸で湿式分解し、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)にてスズを定量した。
TLC分析による、接触時間と呈色部の長さ(呈色距離)、ソルベントフロントから求めたRf値、またTLCから求めた呈色面積(呈色部の610nmにおける反射吸光度の面積)を表2に示す。尚、Rf=呈色距離/金属イオン供給部の上流端からソルベントフロントまでの距離で求められる値である。
【0088】
【表2】
【0089】
ICP-OES分析による、タッチテストデバイスの金属イオン抽出部のゼラチンおよび検出材中のそれぞれスズの物質量およびこれらの合計量を表3に示す。
【0090】
【表3】
【0091】
TLC分析による接触時間と呈色距離のプロットを図7、接触時間と呈色面積のプロットを図8に示す。ICP-OESによる接触時間と溶出したスズ量のプロットを図9に示す。また呈色距離と溶出したスズの物質量との関係を図10に、接触面積と溶出したスズの物質量とのプロットを図11に示す。
【0092】
TLC分析より、ゼラチンゲルと金属スズの接触時間に応じて、呈色距離およびRf値は伸長し、呈色面積は増加し、相関が確認された(表2、図7図8)。ICP分析によるゼラチンゲルと金属スズの接触時間に応じて、溶出するスズ量は増加し、相関が確認された(図9)。本タッチテストデバイスを用いたスズ分析では、図10および図11より呈色距離や呈色面積からスズの定量分析が可能である。本実施例によれば、数nmolから数十nmolの固体表面からの溶出が定量分析できる。
【0093】
(実施例21~23:概要)
実施例11に準拠して作製されたジチゾンナノ薄膜を検出部とするタッチテストデバイスによる、実施形態1のゲル一体型での固体金属スズの接触分析を行った。
【0094】
(実施例21~23:タッチテストデバイス(ゲル一体型)の作製)
実施例11の検出部の一端側に、幅3mmの長方形の穴をあけた厚さ0.25mmのプラ板をのせ、スパチュラのヘラで潰した実施例11と同じゼラチンゲルをスクリーン塗布した。
【0095】
(実施例21~23:金属イオンの検出)
タッチテストデバイスの固定は実施例11に準拠し、金属スズに60、180、300秒接触させ続けた。接触後、給水部からpH2.0の塩酸水溶液を検出流体として展開し、金属イオン供給部の端から25mmの部分までソルベントフロントが達したところで検出流体をとめた。検出部はピンク色に呈色した。
【0096】
(実施例21~23:金属イオンの判定)
スキャナにて検出材全体の画像を取り込み、取り込んだ画像を画像処理ソフトウェアであるImageJで処理した。3mm幅のデバイスの中心線から±1mmの範囲(幅2mm)と検出材の長さで囲まれた範囲でRGB分析した。それらのプロットの青灰色の検出部とピンク色の呈色部の差に基づいて、呈色距離および呈色面積(S、S、S)を求め、表4に示す。
【0097】
【表4】
【0098】
ImageJ分析より、ゲル一体型のタッチテストデバイスでもゲル分離型と同様に、接触時間に応じて、呈色距離およびRf値は伸長し、呈色面積は増加し、相関が確認された。
【0099】
(実施例31~33:概要)
実施例11に準拠して作製されたジチゾンナノ薄膜を検出部とするゲル分離型のタッチテストデバイスによる、イオン供給-給水併合型による固体金属スズの分析を行った。
【0100】
(実施例31~33:タッチテストデバイス(イオン供給-給水併合型)の作製)
実施例11の検出部の作製で作製されたタッチテストデバイスの一端に検出部が露出するように多孔質体を切断成形した。
【0101】
(実施例31~33:金属イオンの検出)
3×3mmのゼラチンを金属スズに60、180、600秒接触させてから、ゼラチンの接触させた面が多孔質体の一端側に設けた金属イオン供給部(検出部)に接するようにのせ20分間放置した。
【0102】
(実施例31~33:金属イオンの判定)
検出材全体の画像をスキャナによりデータを取り込みRGB値として解析した。20分間放置した後のソルベントフロントの距離は、2.850cm、2.850cm、2.815cmであった。ラテラルフローの繰り返し精度がよい。
ImageJ分析により求めた呈色距離、ソルベントフロントから求めたRf値、またおよびR、G、Bの成分ごとの面積強度(S、S、S)を表5に示す。
【0103】
【表5】
【0104】
多孔質体がラテラルフローに微小量の水しか必要でない、ナイロンメンブレンフィルターのような場合は、金属イオン検出部のゲルにラテラルフローに必要な量より多い水分をあらかじめ含んでいれば、その水分を検出流体として利用でき、ゲルから滲み出した検出流体が検出部の一端から多端へ向かって一方向のラテラルフローとなり金属成分を検出できる。予め含ませた量以上の検出流体を必要としないため、サンプル固体への接触のみで検出が可能となる。
【0105】
(実施例41~45:概要)
実施例11に準拠して作製されたジチゾンナノ薄膜を検出部とするタッチテストデバイスを使用し、スズを含んだ合金にゲルを接触させ金属成分の検出を行った。
【0106】
(実施例41~45:タッチテストデバイス)
タッチテストデバイスは実施例11と同じものを使用した。
【0107】
(実施例41~45:金属イオンの検出)
スズを含んだ合金サンプルとして、スズ45%鉛55%のはんだを使用した。20gを耐熱容器に入れ、ホットプレートを用いておよそ300℃で溶解後、放冷し固めた。
3×3mmのゼラチン(pH2.036)を合金サンプルに10、30、60、180、600秒接触させてから、接触させた面が検出部に接するように金属イオン供給部(検出部)にのせ、給水部からpH2.0の塩酸水溶液を検出流体として展開し、金属イオン供給部の端から25mmの部分までソルベントフロントが達したところで検出流体をとめた。
【0108】
(実施例41~45:金属イオンの判定)
実施例21と同様に、データを取り込み、ImageJを用いてRGB値として解析した。呈色距離、Rf値、呈色面積(S、S、S)を表6に、またImageJ分析による接触時間と呈色距離のプロットを図12および接触時間と呈色面積Sのプロットを図13に示す。
【表6】
【0109】
本タッチテストデバイスにより、合金サンプル中のスズを検出可能であることがわかった。
【0110】
(実施例51~55:概要)
3,5-diBrPADAPナノ薄膜を検出部に有し、金属イオン抽出部が水とゼラチンのみのゲルを使用したタッチテストデバイスによる、100円硬貨からのニッケルの接触分析を行った。
【0111】
(実施例51~55:検出部の作製)
顔料である3,5-diBrPADAPは、1000rpmで攪拌している超純水10mlに2mM,5-diBrPADAPアセトン溶液100μlをマイクロシリンジで射出後、2分間静置してナノ粒子分散液とした。ナイロンメンブレンフィルター(孔径0.20μm)をセットしたろ過器に3,5-diBrPADAPナノ粒子分散液を注ぎ、減圧濾過した。3,5-diBrPADAPナノ粒子はメンブレンフィルターにオレンジ色の薄膜状に存在する。乾燥後に3mm幅にカットすることで3,5-diBrPADAPナノ薄膜を検出部とし、ナイロンメンブレンフィルターを多孔質体とするタッチテストデバイスを作製した。
【0112】
(実施例51~55:金属イオン抽出部の作製)
50g/L牛骨由来ゼラチン溶液を超純水に溶かした溶液をプラスチックシャーレに10ml加え、冷蔵庫で冷やし固め、3×3mmにカットし、水とゼラチンのみから構成されるゲルを作製した。このゼラチンゲルをキムワイプで拭いた後にISFET電極を用いてpHを測定した。ゲルのpHは6.099であった。
【0113】
(実施例51~55:金属イオンの検出)
実施例11と同様にタッチテストデバイスは両面テープを貼ったプラ板に貼り付け固定した。カットしたゼラチンは100円硬貨に10から300秒接触させてから、接触させた面が検出部に接するように金属イオン供給部(検出部)にのせ、給水部から0.01mol/Kgほう酸塩緩衝液(pH9.18)を検出流体として展開し、金属イオン供給部の端から25mmの部分までソルベントフロントが達したところで検出流体をとめた。呈色部は赤紫色に呈色した。
給水部から検出流体を給水し、金属イオン供給部の端から25mmの部分にソルベントフロントが達するまでの展開時間は、2分12秒、1分56秒、2分15秒、2分5秒、2分19秒で、平均2分9秒±9秒であった。
【0114】
(実施例51~55:金属イオンの判定)
実施例21と同様に、スキャナでデータを取り込み、ImageJを用いてRGB値として解析した。それらのプロットのオレンジ色の検出部と赤紫色の呈色部の差に基づいて、呈色距離、Rf値、呈色面積(S、S、S)を表7に、またImageJ分析による接触時間と呈色距離のプロットを図14および接触時間と呈色面積Sのプロットを図15に示す。
【0115】
【表7】
【0116】
金属イオン抽出部に水のみでも固体表面から金属イオンの抽出が可能であることが分かった。
【0117】
(実施例61~65:概要)
3,5-diBrPADAPナノ薄膜を検出部に有し、金属イオン抽出部に水とゼラチン以外に人工汗およびマスキング剤としてチオ尿素を含んだゲルを使用したタッチテストデバイスによる、100円硬貨からのニッケルの接触分析を行った。
【0118】
(実施例61~65:タッチテストデバイスの作製)
50g/L牛骨由来ゼラチン溶液に、塩化ナトリウム31mM、塩化カリウム6.1mM、乳酸14.0mM、尿素10mM、アンモニア5.3mMおよびマスキング剤であるチオ尿素5.3mMとなるように超純水に溶かし、水酸化ナトリウム水溶液でpH調整し、pH5.5~5.7の酸性汗の範囲になるように調整した。尚塩化ナトリウムはここではイオン強度調整剤として、また乳酸は湿潤剤であり、尿素はニッケルイオンとの錯形成定数が大きいため抽出向上剤としての役割も担う。この溶液をプラスチックシャーレに10ml加え、冷蔵庫で冷やし固め、3×3mmにカットし、人工汗およびマスキング剤を含んだゲルを作製した。このゼラチンゲルをキムワイプで拭いた後にISFET電極を用いてpHを測定した。ゲルのpHは5.442であった。実施例11と同様にタッチテストデバイスは両面テープを貼ったプラ板に貼り付け固定した。
【0119】
(実施例61~65:金属イオンの検出)
カットしたゼラチンは100円硬貨に10から300秒接触させてから、接触させた面が検出部に接するように金属イオン供給部(検出部)にのせ、給水部から0.01mol/Kgほう酸塩緩衝液(pH9.18)を検出流体として展開し、金属イオン供給部の端から25mmの部分までソルベントフロントが達したところで検出流体をとめた。ほう酸緩衝液は発色を至適pHで行うための感度向上剤である。呈色部は赤紫色に呈色した。
【0120】
(実施例61~65:金属イオンの判定)
実施例21と同様に、スキャナでデータを取り込み、ImageJを用いてRGB値として解析した。それらのプロットのオレンジ色の検出部と赤紫色の呈色部の差に基づいて、呈色距離、Rf値、呈色面積(S、S、S)を表8に、またImageJ分析による接触時間と呈色距離のプロットを図16および接触時間と呈色面積Sのプロットを図17に示す。
【0121】
【表8】
【0122】
金属イオン抽出部に人工汗成分を再現でき、この分析は金属アレルギー対象の評価法となり得る。またイオン強度調整剤や抽出向上剤、湿潤剤などを内含したデバイスは実施例51のそれらを含まない水のみの場合と比較し、接触時間がある程度長くなるまで抽出量は増え続けていることがわかる。
【0123】
(実施例71~74:概要)
金属イオン抽出部として使用可能なκ-カラギーナンゲルおよび寒天ゲルを用いた場合の固体金属表面からの金属イオンの溶出挙動を調査した。
【0124】
(実施例71、72:金属イオン抽出部の作製1)
κ-カラギーナンは、0.2gに超純水を19.98ml加え、ホットプレートで加熱しながら溶解し、撹拌しながら1M塩化カリウム溶液を20μl滴下、さらに塩酸を加えて攪拌pH1.5に調整した。このゾルをプラスチックシャーレに10ml入れ、冷蔵庫で冷やしゲル化し、3×3mmにカットした。このゼラチンゲルをキムワイプで拭いた後にISFET電極を用いてpHを測定した。ゲルのpHは1.543であった。
【0125】
(実施例71、72:金属イオンの溶出確認1)
やすりで研磨した金属スズにκ-カラギーナンゲルを30、180秒接触させた後濃硝酸を用いて湿式分解した。比較例としておよび金属スズに未接触のκ-カラギーナンゲルも濃硝酸を用いて湿式分解した(比較例70)。乾固寸前まで濃硝酸を蒸発させた後、1M塩酸を20ml加え試料溶液を作製し、ICP-OESにてスズの分析を行った。結果、30秒の金属スズへの接触で3×3mmのゲル中に3.34×10-9mol、180秒の接触で5.91×10-9molのスズが抽出された。未接触のゲルからはスズは検出されなかった。
【0126】
(実施例73、74:金属イオン抽出部の作製2)
寒天は、20g/Lの濃度でpH2となるよう調整した後、このゾルをプラスチックシャーレに10ml入れ、冷蔵庫で冷やしてゲル化し、3×3mmにカットした。このゼラチンゲルをキムワイプで拭いた後にISFET電極を用いてpHを測定した。ゲルのpHは2.00であった。
【0127】
(実施例73、74:金属イオンの溶出確認2)
100円硬貨に30および60秒接触させ、濃硝酸を用いて湿式分解した。乾固寸前まで濃硝酸を蒸発させた後、pH2.0の硝酸溶液を20ml加え試料溶液を作製し、ICP-OESにて100円硬貨に含まれるニッケルの分析を行った。結果、30秒の100円玉への接触で3×3mmのゲル中に3.71×10-10mol、60秒の接触で8.28×10-10molのニッケルが抽出された。
【0128】
カラギーナンゲルおよび寒天ゲル(酸性の水性ゲル)で固体表面から金属イオンを溶解、抽出が可能であり、タッチテストデバイスの金属イオン抽出部として利用できることがわかった。
【0129】
(実施例81、82:概要)
異種の架橋性高分子が相互侵入した網目構造(Interpenetrating Polymer Network: IPN)を持つヒドロゲル(IPNヒドロゲル)は、機械的強度の高いゲルを形成し網目構造に水を保持できるため高い保水性を有するため、金属イオン抽出部としての挙動を調査した。調査は、ポリビニルアルコール(PVA)と、イタコン酸を架橋剤N,N’-メチレンビスアクリルアミドと重合開始剤過硫酸アンモニウムを加えてポリマー化したものが絡み合ったPVA-イタコン酸IPNヒドロゲルおよび、カルボキシメチルセルロース(CMC)とデンプンをカルシウムイオンで架橋したポリマーが絡み合ったCMC-デンプンIPNヒドロゲルの2つで行った。
【0130】
(実施例81:タッチテストデバイスの作製1)
PVAを0.15gとり超純水5mlに溶解し、イタコン酸2.07gとMBA0.16gを加えて、その後過硫酸アンモニウム0.02gを加えて撹拌し、この溶液を実施例51と同様な方法でセルロース系メンブレンフィルター(孔径0.10μm)を多孔質体とした3,5-diBrPADAPナノ粒子を検出部とする検出材にディップコートし、80℃のオーブンで重合させIPNヒドロゲルを載せた一体型のタッチテストデバイスを作製した。
【0131】
(実施例82:タッチテストデバイスの作製2)
CMCをおよびさつまいもデンプンを超純水に溶かし撹拌し、シャーレに流し込み、これを80℃の湯浴で1分半加熱した後に水浴し30分冷却した。ここに塩化カルシウム溶液を添加し24時間ゲル化させた。最終濃度は、CMC1.14wt%、さつまいもデンプンを13.1wt%、超純水を85.7wt%、塩化カルシウム0.06wt%となるよう調整した。固まったゲルは型から切り抜き、上記検出材にのせて、ゲル一体型のタッチテストデバイスとした。
【0132】
(比較例80:金属イオン抽出部を有しない検出材)
IPNヒドロゲルを載せない検出材を比較対照とし、実施例61の人工汗をIPNヒドロゲルを載せない検出材に染み込ませて100円硬貨への接触を3分間行った。
【0133】
(実施例81、82、比較例80:金属イオンの検出)
PVA-イタコン酸IPNヒドロゲルおよびCMC-デンプンIPNヒドロゲルを金属イオン抽出部に有する検出材は、検出部に紫色の呈色部が現れたが、比較対照のIPNヒドロゲルを載せない検出材では、検出部はオレンジ色のままで呈色反応が起きなかった。IPNヒドロゲルが金属イオン抽出部として機能していることがわかる。
【0134】
(比較例90:概要)
金属イオン抽出部の役割を調査するため、ジチゾンナノ繊維膜を検出部とした検出材による固体金属スズの接触分析で、ゼラチンゲルなしの場合の検出挙動を調査した。
【0135】
(比較例90:検出部の作製)
実施例11に準拠して作製した。
【0136】
(比較例90:金属表面への接触)
検出部の一部を金属イオン供給部として使用した。金属スズに金属イオン供給部を直接接触させ、パラフィルムで包み30分間放置した。接触前後において色彩計で金属イオン供給部の反射吸収スペクトルを測定した。結果を図18に示す。
【0137】
(比較例90:金属イオンの検出)
図18の結果より、金属イオン抽出部であるゲルがない場合、金属イオン供給部への金属接触では検出部の色変化が見らなかった。これはスズイオンが溶出していないため検出部のジチゾンと反応していないことを示している。
【0138】
(実施例101~103:概要)
顔料であるピリジルアゾレゾルシノールナノ粒子を検出部とするタッチテストデバイスによる、500円硬貨による亜鉛の接触分析を行った。
【0139】
(実施例101~103:タッチテストデバイスの作製)
多孔質体としてイムノメンブレンを用いた。1000rpmで攪拌している10mlの超純水に、顔料の3mMピリジルアゾレゾルシノール(PAN)100μlを射出し、1分間静置してナノ粒子分散液を作製した。イムノメンブレン上にPANナノ粒子薄膜を形成させた。乾燥後に3mm幅にカットすることでPANナノ粒子薄膜を黄色の検出部とし、イムノメンブレンを多孔質体とするタッチテストデバイスを作製した。ゲルは実施例11に準拠して作製した。ゼラチンゲルのpHは2.00であった。
【0140】
(実施例101~103:金属イオンの検出)
ゲル分離型にて、ゲルを20秒500円硬貨に接触させた後に、3つの検出流体、0.025mol/Kg中性りん酸塩pH緩衝溶液(pH6.86)、0.05mol/Kgフタル酸塩pH緩衝溶液(pH4.01)、0.01mol/Kgほう酸塩pH緩衝溶液(pH9.18)にて検出を行った。金属イオン供給部の端から25mmの部分までソルベントフロントが達したところで検出流体をとめた。
給水部から検出流体を給水し、pH4.01、6.86、9.18のとき、それぞれ1分31秒、1分30秒、1分38秒で、平均1分33秒であった。
【0141】
(実施例101~103:金属イオンの判定)
金属イオン抽出部では500円硬貨から金属イオン抽出部への亜鉛(II)イオンの抽出が進行し、Zn(II)―PAN錯体の生成に基づく赤色の呈色部が現れた。呈色距離はpH6.86、9.18が長くpH4.01が短かった。これはZn(II)―PAN錯体の生成pHと相関している。また多孔質体であるイムノメンブレンは25mmの距離を約1分半というラテラルフローであり、この場合でも十分に検出が可能である。
【0142】
(実施例111、112、比較例110:概要)
染料と微粒子形成剤からなる有機比色試薬微粒子を検出部として用いた場合のゲル分離型タッチテストデバイスでの鉄板の接触分析を行った。
【0143】
(実施例111、112、比較例110:検出部の作製)
10mlの超純水に、染料の2mMバソフェナントロリンジスルホン酸(Bath-s)100μlおよび微粒子形成剤であるトリメチルアミノ化されたラテックスナノ粒子(平均100nm、25mg/ml)100μlを加え2分間振り混ぜて、アニオンのBath-sを正に帯電したラテックスナノ粒子上に静電吸着させることで凝集を誘起し、イムノメンブレン上にBath-s/LatexN(CH3)3ナノコンポジット薄膜を形成させた。乾燥後に3mm幅にカットすることでBath-s/LatexN(CH3)3ナノコンポジット薄膜を無色の検出部とし、イムノメンブレンを多孔質体とするタッチテストデバイスを作製した。
【0144】
(実施例111、112、比較例110:金属イオン抽出部の作製)
50g/L牛骨由来ゼラチン溶液に、イオン化剤のL-アスコルビン酸0.1Mを溶かした。この溶液をプラスチックシャーレに10ml加え、冷蔵庫で冷やし固め、3×3mmにカットし、人工汗およびマスキング剤としてチオ尿素を含んだゲルを作製した。このゼラチンゲルをキムワイプで拭いた後にISFET電極を用いてpHを測定した。ゲルのpHは3.557であった。
【0145】
(実施例111、112、比較例110:金属イオンの検出)
実施例11と同様にタッチテストデバイスは両面テープを貼ったプラ板に貼り付け固定、カットしたゼラチンは鉄板に接触させてから、接触させた面が検出部に接するように金属イオン供給部(検出部)にのせ、給水部から0.1Mクエン酸緩衝液(pH3.0)を検出流体として展開した。鉄板の接触時間は60秒(比較例110)、180秒(実施例111)、600秒(実施例112)とした。クエン酸緩衝液は発色を至適pHで行うための感度向上剤である。ラテラルフローで40mm進む時間が180秒のイムノメンブレンを用いたため金属イオン供給部の端から25mm進むための時間は1分30秒であり、検出部が透明であるためソルベントフロントではなく検出流体を1分30秒流した時点で検出流体をとめた。呈色部は赤色に呈色した。
【0146】
(実施例111、112、比較例110:金属イオンの判定)
実施例21と同様に、スキャナでデータを取り込み、ImageJを用いてRGB値として解析した。結果、60秒では呈色が確認できず、180秒で呈色距離0.41cm、S1034、S894、S966、600秒でS1059、S763、S865となった。
Bath-sはFe(II)イオンとのみ特異的に反応し赤色の錯体を形成することが知られている。鉄板の表面の鉄は酸化されており、この表面に金属イオン抽出部を接触させることで含まれる還元剤かつ酸であるL-アスコルビン酸によりFe(II)イオンが溶解し、Bath-s/LatexN(CHナノコンポジット薄膜の検出部で赤色のFe(II)―Bath-s錯体として検出されたことがわかる。ただし、鉄板の表面が酸化されているため、60秒の接触では十分量抽出できず、呈色距離が伸びなかったと考えられる。接触時間が増加すると赤色も強くなった。
【0147】
(比較例121~124:概要)
検出流体の流れ方、すなわち一方向フローであるラテラフルローと比較するため、検出流体を同心円状フローとして測定した。
【0148】
(比較例121~124:タッチテストデバイスの作製)
実施例11に準拠して作製されたジチゾンナノ薄膜を検出部とし多孔質体が棒状ではなく円状に成形した検出材において、イオン供給-給水併合型によるタッチテストデバイスにおいて検出流体の供給を行い固体金属スズの分析を行った。
【0149】
(比較例121~124:金属イオンの検出)
タッチテストデバイスによる金属イオンの抽出および供給は実施例11に準拠し、金属イオンの抽出に対してはゲル分離型で行った。ゲルのpHは2.023であった。
カットしたゼラチンを金属スズに30、60、180、600秒接触させてから、接触させた面が金属イオン供給部(検出部)に接するように、円形の検出材の中心部におき、そのまま10分間放置した。10分間の放置により、中心のゲルから同心円状にピンク色が広がった。
【0150】
(比較例121~124:金属イオンの判定)
実施例21に準拠し画像をImageJで処理した。円形で呈色面積からゲルの中心を0としたときの半径r(呈色距離)やソルベントフロント、Rf値、呈色面積(S、S、S)を表9に示す。また接触時間と呈色面積Sの関係を図19に示す。
【0151】
【表9】
【0152】
表9および図19から、接触時間が長くなると呈色距離および呈色面積が減少する現象が見られた。これは実施例11などにはなく、測定可能範囲(ダイナミックレンジ)が狭い事を示している。
【0153】
(実施例131、比較例130:概要)
検出部が有機比色試薬微粒子で構成され多孔質体の表面上に配置される必要性を示すため、有機比色試薬を含浸させることで分子として多孔質体に分散させた濾紙(含浸濾紙)を比較例として作製し、検出特性を比較した。タッチテストデバイスの作製は実施例11に準拠した。
【0154】
(比較例130:含浸濾紙の作製)
有機比色試薬を分子として含浸させた多孔質体は、プラ板の上で3×40mmに切断した濾紙(5C濾紙)を置き、1.25mMジチゾンアセトン溶液20μlを濾紙の一端からもう一端へと4回に分けて(5μlずつ)吸わせることで含浸させ、アセトンを乾燥させ作製した。この含浸濾紙では、実施例11のタッチテストデバイスと保持させたジチゾンの物質量が同じになるように調整した。
【0155】
(実施例131、比較例130:金属イオン抽出部の作製)
金属イオン抽出部のゼラチンの作製方法は実施例11に準拠した。
【0156】
(実施例131、比較例130:金属イオンの検出)
ゼラチン(pH2.036)を金属スズに10分接触後、タッチテストデバイスおよび含浸濾紙に載せ、接触させた面が検出部に接するように金属イオン供給部(検出部)にのせ、給水部からpH2.0の塩酸水溶液を検出流体として展開し、25mm部分までソルベントフローが展開したら、フローを止めるためにセラミックばさみで切断した。
【0157】
(実施例131、比較例130:金属イオンの判定)
展開および呈色後はスキャナにて画像を取り込み、取り組んだ画像を色分析ソフトimageJで処理した。サイズ2×35mmの長方形でRGB分析を行った。
タッチテストデバイスの表面のスキャナ写真とimageJによる解析を図20に、裏面のスキャナ写真とimageJによる解析を図21に示した。含浸濾紙のスキャナ写真とimageJによる解析を図22に、裏面のスキャナ写真とimageJによる解析を図23に示した。
【0158】
検出前のタッチテストデバイスと含浸濾紙では、前者が濃い青灰色で、表面のみにジチゾンの微粒子が薄膜状に存在し、裏面からは色が見えないが、後者では上から見た色が薄くかつ裏面も同様な色であり、濾紙では厚み方向全体にジチゾンが分子として分散して存在していることがわかる。検出後は、タッチテストデバイスは表面のみに呈色部(ピンク色)が検出部同様に明確に観察されR値が明確に増加しており(図20)、裏面からは色が見えない(図21)が、含浸濾紙では呈色は表面(図22)と裏面(図23)にありかつシグナルは薄い。ピンクの呈色に由来するR値の変化から、タッチテストデバイスでは検出部と呈色部の境目が明確かつ強度が大きく、長さや面積の判定が容易である。一方、含浸濾紙では境目が不明瞭で、長さや面積の判定が難しく、固体表面の金属分析に適さないことがわかる。呈色長さもタッチテストデバイスでは21.7mmで、含浸濾紙では7.7mmであった。含浸濾紙では試薬が濾紙の厚み方向で分子状に分散しているため、シグナルも厚み方向に分散してしまい、定量が困難である要因となっている。タッチテストデバイスでは微粒子として薄膜状に全て検出可能なシグナルとして存在するため、すべての目的金属イオンが薄膜中に存在しシグナルが厚み方向に分散することなく、これより感度も高くなりかつ定量範囲も広くなることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明は機器分析に依らない迅速な固体表面分析に有用で固体表面上金属成分の日常的な現場分析に使用できる。
【符号の説明】
【0160】
1・・・・・検出材
2・・・・・検出システム
10・・・・検出部
11・・・・呈色部
12・・・・ソルベントフロント
20・・・・金属イオン供給部
30・・・・給水部
40・・・・多孔質体
50・・・・金属イオン抽出部
60・・・・判定部


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23