(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036546
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】ヒートシール性水系樹脂組成物、膜、積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 93/04 20060101AFI20230307BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20230307BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20230307BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20230307BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20230307BHJP
【FI】
C08L93/04 ZBP
C08L67/00
C08L29/04 B
C08K5/00
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133712
(22)【出願日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2021142845
(32)【優先日】2021-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡田 圭介
(72)【発明者】
【氏名】黒田 海斗
(72)【発明者】
【氏名】松本 麻由
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 輝彰
【テーマコード(参考)】
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4J002AF022
4J002BE023
4J002CF031
4J002CF191
4J002EC056
4J002EF036
4J002EN116
4J002ET016
4J002FD206
4J002GF00
4J002GG00
4J002GJ00
4J002GT00
4J200AA04
4J200AA06
4J200AA27
4J200BA05
4J200BA07
4J200BA18
4J200BA20
4J200BA25
4J200CA01
4J200CA02
4J200CA04
4J200DA17
4J200DA18
4J200DA22
4J200DA24
4J200EA04
4J200EA21
(57)【要約】
【課題】本開示で解決しようとする課題は、環境への影響を低減した製造方法及び組成を採用しつつ、良好な低温ヒートシール性を示すヒートシール性水系樹脂組成物、膜、積層体及びその製造方法を提供することである。
【解決手段】本開示で提供する解決手段は、
ロジン系樹脂(A)、
一般式(1)の構造を有する樹脂及び/又は一般式(2)の構造を有する樹脂(b1)を含む生分解性樹脂(B)及び、
平均けん化度75mol%以上85mol%以下のポリビニルアルコール(C)を含み、
(b1)成分の含有量が、(A)成分及び(B)成分の合計含有量を100質量%とした場合、50質量%超である、ヒートシール性水系樹脂組成物である。
一般式(1):-O-(CH2)x-O-CO-(CH2)y-CO-
(一般式(1)中、x及びyはそれぞれ異なっていてもよく、1以上10以下の整数である。)
一般式(2):-O-(CH2)z-CO-
(一般式(2)中、zは3以上10以下の整数である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジン系樹脂(A)、
一般式(1)の構造を有する樹脂及び/又は一般式(2)の構造を有する樹脂(b1)を含む生分解性樹脂(B)及び、
平均けん化度75mol%以上85mol%以下のポリビニルアルコール(C)を含み、
(b1)成分の含有量が、(A)成分及び(B)成分の合計含有量を100質量%とした場合、50質量%超である、ヒートシール性水系樹脂組成物。
一般式(1):-O-(CH2)x-O-CO-(CH2)y-CO-
(一般式(1)中、x及びyはそれぞれ異なっていてもよく、1以上10以下の整数である。)
一般式(2):-O-(CH2)z-CO-
(一般式(2)中、zは3以上10以下の整数である。)
【請求項2】
単糖、二糖、糖アルコール、有機酸、アミノ酸、及び尿素類からなる群から選択される1種以上の化合物(D)を含む、請求項1に記載のヒートシール性水系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のヒートシール性水系樹脂組成物の膜。
【請求項4】
請求項3に記載の膜及び基材を含む積層体。
【請求項5】
(A)成分及び(B)成分の混合物を、無溶剤かつ常圧下又は1MPa以下の加圧下で反転乳化する工程を含む、ヒートシール性水系樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒートシール性水系樹脂組成物、膜、積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、飲料品、医薬品、衣類、雑貨、日用品等を内包するための包装資材を接着するためのヒートシール性樹脂組成物として、ポリオレフィン系樹脂を含んだものを使用することが知られている。例えば、特許文献1には、メタロセン系α―オレフィン共重合ポリエチレンを使用したヒートシール性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のヒートシール性樹脂組成物は難分解性のプラスチック(ポリオレフィン系樹脂等)を多く含んでいる。これら難分解性のプラスチックは、例えば、不適切な廃棄により土壌や水の汚染を引き起こすことが指摘されていることから、より環境への負荷が軽減された成分を用いることが求められている。
【0005】
一方で、生分解性樹脂を含んだヒートシール性樹脂組成物も知られている。そのようなヒートシール性樹脂組成物であっても、その製造方法において、1MPaを超える強い圧力をかけてエマルジョン化する方法、各種溶剤に生分解性樹脂等を分散させエマルジョン化した後脱溶剤化する方法の少なくとも一方を用いることが多い。前者の方法はエネルギーを大量消費し、後者の方法は溶剤を使用していることから、脱溶剤工程にエネルギーを要したり、使用した溶剤による環境への影響が少なからず存在する等の問題がある。
【0006】
また、ヒートシールを行う際の省エネルギー化も求められており、低温で良好にヒートシールする性質(本開示において、「低温ヒートシール性」ともいう。)を有する樹脂組成物が求められている。
【0007】
本開示で解決しようとする課題は、環境への影響を低減した製造方法及び組成を採用しつつ、良好な低温ヒートシール性を示すヒートシール性水系樹脂組成物、膜、積層体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討の結果、所定のヒートシール性水系樹脂組成物、膜、積層体及びその製造方法によって、上記課題が解決されることを見出した。なお、本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0009】
本開示により以下の項目が提供される。
(項目1)
ロジン系樹脂(A)、
一般式(1)の構造を有する樹脂及び/又は一般式(2)の構造を有する樹脂(b1)を含む生分解性樹脂(B)及び、
平均けん化度75mol%以上85mol%以下のポリビニルアルコール(C)を含み、
(b1)成分の含有量が、(A)成分及び(B)成分の合計含有量を100質量%とした場合、50質量%超である、ヒートシール性水系樹脂組成物。
一般式(1):-O-(CH2)x-O-CO-(CH2)y-CO-
(一般式(1)中、x及びyはそれぞれ異なっていてもよく、1以上10以下の整数である。)
一般式(2):-O-(CH2)z-CO-
(一般式(2)中、zは3以上10以下の整数である。)
(項目2)
単糖、二糖、糖アルコール、有機酸、アミノ酸、及び尿素類からなる群から選択される1種以上の化合物(D)を含む、項目1に記載のヒートシール性水系樹脂組成物。
(項目3)
項目1又は2に記載のヒートシール性水系樹脂組成物の膜。
(項目4)
項目3に記載の膜及び基材を含む積層体。
(項目5)
(A)成分及び(B)成分の混合物を、無溶剤かつ常圧下又は1MPa以下の加圧下で反転乳化する工程を含む、ヒートシール性水系樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示で提供するヒートシール性水系樹脂組成物及びその膜は、生分解性の素材を多く使用しているため、環境への負荷が軽減されている。また、本開示で提供するヒートシール性水系樹脂組成物の製造方法は環境への影響を低減した方法を採用している。さらに、本開示で提供するヒートシール性水系樹脂組成物、膜及び積層体は良好な低温ヒートシール性を示すことが可能であることから省エネルギー化にも寄与し、短時間でのシールも可能となることから生産効率も格段に向上する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の全体にわたり、各物性値、含有量等の数値の範囲は、適宜(例えば下記の各項目に記載の上限及び下限の値から選択して)設定され得る。具体的には、数値αについて、数値αの下限がA1、A2、A3等が例示され、数値αの上限がB1、B2、B3等が
例示される場合、数値αの範囲は、A1以上、A2以上、A3以上、B1以下、B2以下、B3以下、A1~B1、A1~B2、A1~B3、A2~B1、A2~B2、A2~B3、A3~B1、A3~B2、A3~B3等が例示される。なお、本開示において「~」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0012】
<(A)成分>
ロジン系樹脂(A)(本開示において、「(A)成分」ともいう。)として、各種公知のものを使用できる。(A)成分として、未変性ロジン、水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、α,β-不飽和カルボン酸変性ロジン、又はこれらのエステル化物、ロジンフェノール樹脂等が例示される。当該エステル化物として、未変性ロジンエステル、水添ロジンエステル、不均化ロジンエステル、重合ロジンエステル、α,β-不飽和カルボン酸変性ロジンエステル等が例示される。
【0013】
未変性ロジンとして、天然ロジン、精製ロジン等が例示される。天然ロジンとして、馬尾松、スラッシュ松、メルクシ松、思茅松、湿地松、テーダ松及び大王松等に由来する天然ロジン(ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン)等が例示される。精製ロジンとして、天然ロジンを減圧蒸留法、水蒸気蒸留法、抽出法、再結晶法等で精製して得られるものが例示される。未変性ロジンエステルは、上記未変性ロジンにアルコール類を反応させて得られる。上記アルコール類として、1価のアルコール類、多価アルコール類(2価のアルコール類、3価のアルコール類、4価のアルコール類、6価のアルコール類等)等が例示される。1価のアルコール類として、メタノール、エタノール、プロパノール、ステアリルアルコール等が例示される。2価のアルコール類として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ダイマージオール等が例示される。3価のアルコール類として、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等が例示される。4価のアルコール類として、ペンタエリスリトール、ジグリセリン等が例示される。6価のアルコール類として、ジペンタエリスリトール等が例示される。当該アルコール類は、好ましくは多価アルコール類であり、より好ましくはジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトールである。未変性ロジンと、アルコール類との反応は、未変性ロジン及びアルコール類を溶剤の存在下又は不存在下に、必要によりエステル化触媒を加え、250~280℃程度で、1~8時間程度で行う方法等が例示される。
【0014】
水添ロジンは未変性ロジンを水素化反応させて得られる。水添ロジンを得る方法として、各種公知の方法が例示される。具体的には、水素化触媒の存在下、水素圧2~20MPa程度(好ましくは5~20MPa程度)、100~300℃程度(好ましくは150~300℃程度)で未変性ロジンを加熱する方法等が例示される。水素化触媒として、担持触媒、金属粉末等が例示される。担持触媒として、パラジウム-カーボン、ロジウム-カーボン、ルテニウム-カーボン、白金-カーボン等が例示される。金属粉末として、ニッケル、白金等が例示される。水素化触媒は、未変性ロジンの水素化率が高くなり、水素化時間が短くなるという観点から、好ましくはパラジウム、ロジウム、ルテニウム、及び白金系触媒である。水素化触媒の使用量は、未変性ロジン100質量部に対して、通常0.01~5質量部程度であり、好ましくは0.01~2質量部程度である。水添ロジンエステルは、水添ロジンにアルコール類を反応させて得られる。水添ロジンと、アルコール類との反応は、水添ロジン及びアルコール類を溶剤の存在下又は不存在下に、必要によりエステル化触媒を加え、250~280℃程度で、1~8時間程度で行えばよい。水素化反応とエステル化反応の順番は、エステル化反応の後に、水素化反応を行ってもよいし、水素化反応の後に、エステル化反応を行ってもよい。
【0015】
不均化ロジンは、未変性ロジンを不均化反応させて得られる。不均化ロジンを得る方法として、各種公知の方法が例示される。具体的には、未変性ロジンを不均化触媒の存在下に加熱して反応させる方法が例示される。不均化触媒として、担持触媒、金属粉末、ヨウ化物等が例示される。担持触媒として、パラジウム-カーボン、ロジウム-カーボン、白金-カーボン等が例示される。金属粉末として、ニッケル、白金等が例示される。ヨウ化物として、ヨウ素、ヨウ化鉄等が例示される。不均化触媒の使用量は、原料となるロジン100質量部に対して通常0.01~5質量部程度、好ましくは0.01~1質量部程度である。不均化反応の際の反応温度は、通常100~300℃程度、好ましくは150℃~290℃程度である。不均化ロジンエステルは、不均化ロジンに、更にアルコール類を反応させてエステル化させて得られる。不均化ロジンと、アルコール類との反応は、不均化ロジン及びアルコール類を溶剤の存在下又は不存在下に、必要によりエステル化触媒を加え、250~280℃程度で、1~8時間程度で行えばよい。不均化反応とエステル化反応の順番は、エステル化反応の後に、不均化反応を行ってもよいし、不均化反応の後に、エステル化反応を行ってもよい。
【0016】
重合ロジンは、未変性ロジンを重合させて得られる。重合ロジンとは、二量化された樹脂酸を含むロジン誘導体である。重合ロジンを得る方法として、各種公知の方法が例示される。具体的には、未変性ロジンを触媒(硫酸、フッ化水素、塩化アルミニウム、四塩化チタン等)を含む溶剤(トルエン、キシレン等)中で、反応温度40~160℃程度で、1~5時間程度反応させる方法等が例示される。重合ロジンエステルは、重合ロジンにアルコール類を反応させて得られる。重合ロジンと、アルコール類との反応は、重合ロジン及びアルコール類を溶剤の存在下又は不存在下に、必要によりエステル化触媒を加え、250~280℃程度で、1~8時間程度で行えばよい。重合ロジンに、さらなる変性(水素化、不均化、α,β-不飽和カルボン酸変性(アクリル化、マレイン化及びフマル化等)等)を行ってもよい。重合反応とエステル化反応の順番は、エステル化反応の後に、重合反応を行ってもよいし、重合反応の後に、エステル化反応を行ってもよい。
【0017】
α,β-不飽和カルボン酸変性ロジンとして、アクリル化ロジン、マレイン化ロジン、フマル化ロジン等が例示される。α,β-不飽和カルボン酸変性ロジンを得る方法として、各種公知の方法が例示される。具体的には、未変性ロジン又は不均化ロジンにα,β-不飽和カルボン酸を付加反応させる方法等が例示される。α,β-不飽和カルボン酸として、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ムコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水ムコン酸等が例示される。α,β-不飽和カルボン酸は、好ましくはマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸である。α,β-不飽和カルボン酸の使用量は、乳化性の観点から、通常未変性ロジン又は不均化ロジン100質量部に対して1~20質量部程度、好ましくは1~3質量部程度である。α,β-不飽和カルボン酸変性ロジンの製造方法として、加熱下で溶融させた未変性ロジン又は不均化ロジンに、α,β-不飽和カルボン酸を加えて、温度180~240℃程度で、1~9時間程度で反応させる方法等が例示される。当該反応は、密閉した反応系内に不活性ガス(窒素等)を吹き込みながら行っても良い。当該反応では、ルイス酸触媒(塩化亜鉛、塩化鉄、塩化スズ等)、ブレンステッド酸触媒(パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等のブレンステッド酸等)を使用してもよい。当該触媒の使用量は、未変性ロジン又は不均化ロジンに対して通常0.01~10質量%程度である。α,β-不飽和カルボン酸変性ロジンエステルは、α,β-不飽和カルボン酸変性ロジンに、アルコール類を反応させて得られる。得られたα,β-不飽和カルボン酸変性ロジンには、未変性ロジン又は不均化ロジン由来の樹脂酸が含まれてもよく、その含有量は通常10質量%未満である。α,β-不飽和カルボン酸変性ロジンと、アルコール類との反応として、加熱下で溶融させたα,β-不飽和カルボン酸変性ロジンに、アルコール類を加えて、温度250~280℃程度で、15~20時間程度で反応させる方法が例示される。当該反応は、密閉した反応系内に不活性ガス(窒素等)を吹き込みながら行ってもよい。当該反応では、ルイス酸触媒、ブレンステッド酸触媒を使用してもよい。
【0018】
(A)成分は、ロジン系樹脂のエステル化物を含むことで、ヒートシール性に優れる傾向にある。(A)成分を100質量%(固形分換算)とした場合のロジン系樹脂のエステル化物の含有量(質量%、固形分換算)の上限は、100、99、95、90、80、70、60、50、40、30、20、10、5等が例示され、下限は99、95、90、80、70、60、50、40、30、20、10、5、1等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分を100質量%(固形分換算)とした場合のロジン系樹脂のエステル化物の含有量(質量%、固形分換算)は、好ましくは1~100程度である。
【0019】
(A)成分の軟化点(℃)の上限は、200、190、180、170、160、150、140、130、120、110、100、90、80、70、60等が例示され、下限は、190、180、170、160、150、140、130、120、110、100、90、80、70、60、50等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分の軟化点(℃)は、好ましくは50~150程度である。本開示において、軟化点は、環球法(JIS K 5902)により測定した値である。
【0020】
(A)成分の酸価(mgKOH/g)の上限は、300、280、260、240、220、200、180、160、140、120、100、80、60、40、20、10、1、0.5等が例示され、下限は、280、260、240、220、200、180、160、140、120、100、80、60、40、20、10、1、0.5、0.1等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分の酸価(mgKOH/g)は、好ましくは300以下程度である。本開示において、酸価は、JIS K 0070により測定した値である。
【0021】
(A)成分の重量平均分子量の上限は、5,000、4,000、3,000、2,000、1,000、500、400、300、200等が例示され、下限は、4,000、3,000、2,000、1,000、500、400、300、200、100等が例示される。本開示において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算値である。
【0022】
(A)成分の色数(ガードナー)の上限は、10、8、6、4、2等が例示され、下限は8、6、4、2、1等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分の色数(ガードナー)は、好ましくは10以下程度である。(A)成分の色数(ハーゼン)の上限は、200、175、150、125、100、80、60等が例示され、下限は175、150、125、100、80、60、40等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分の色数(ハーゼン)は、好ましくは200以下程度である。本開示において、色数は、JIS K0071-1、JIS K0071-2に準じて、ガードナー単位、ハーゼン単位で測定されたものである。
【0023】
本開示の(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の固形分換算100質量%に対する(A)成分の含有量(質量%、固形分換算)の上限は、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、3等が例示され、下限は、45、40、35、30、25、20、15、10、5、3、1等が例示される。1つの実施形態において、本開示の(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の固形分換算100質量%に対する(A)成分の含有量(質量%、固形分換算)は、好ましくは1~50程度である。
【0024】
<(B)成分>
一般式(1)の構造を有する樹脂及び/又は一般式(2)の構造を有する樹脂(b1)(本開示において、「(b1)成分」ともいう。)を含む生分解性樹脂(B)(本開示において、「(B)成分」ともいう。)として、各種公知のものを使用できる。なお、本開示において(B)成分の生分解性樹脂には(C)成分を含まないものとする。また、一般式(1)の構造を有する樹脂中には複数の一般式(1)の構造が存在していてもよく、各一般式(1)のx及びyはそれぞれ異なっていてもよい。同様に、一般式(2)の構造を有する樹脂中には複数の一般式(2)の構造が存在していてもよく、各一般式(2)のzはそれぞれ異なっていてもよい。
【0025】
一般式(1):-O-(CH2)x-O-CO-(CH2)y-CO-
(一般式(1)中、x及びyはそれぞれ異なっていてもよく、1以上10以下の整数である。)
【0026】
一般式(1)のx及びyの上限は、それぞれ、10、9、8、7、6、5、4、3、2等が例示され、下限は、それぞれ、9、8、7、6、5、4、3、2、1等が例示される。1つの実施形態において、一般式(1)のx及びyは、それぞれ、好ましくは1~10である。
【0027】
一般式(1)の構造を有する樹脂として、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンサクシネートラクテート(PBSL)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリエチレンサクシネート(PES)等が例示される。
【0028】
一般式(2):-O-(CH2)z-CO-
(一般式(2)中、zは3以上10以下の整数である。)
【0029】
一般式(2)のzの上限は、それぞれ、10、9、8、7、6、5、4等が例示され、下限は、それぞれ、9、8、7、6、5、4、3等が例示される。1つの実施形態において、一般式(2)のzは、それぞれ、好ましくは3~10である。
【0030】
一般式(2)の構造を有する樹脂として、ポリカプロラクトン等が例示される。
【0031】
(B)成分には、(b1)成分以外の生分解性樹脂(b2)(本開示において、「(b2)成分」ともいう。)を含んでもよい。(b2)成分として、ポリエステル構造を有する生分解性樹脂、糖由来の構造を有する生分解性樹脂等が例示される。
【0032】
ポリエステル構造を有する生分解性樹脂として、ポリヒドロキシブチレート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸等が例示される。本開示のヒートシール性水系樹脂組成物にポリ乳酸を含む場合、本開示の製造方法では樹脂成分と水が混ざり合いにくい(離水)状態となる傾向にあることから、本開示のヒートシール性水系樹脂組成物には可能な限りポリ乳酸を含まないことが好ましい。
【0033】
糖由来の構造を有する生分解性樹脂として、デンプン、セルロース、キトサン、エステル化デンプン、酢酸セルロース等が例示される。
【0034】
(B)成分の重量平均分子量の上限は、300,000、200,000、100,000、90,000、80,000、70,000、60,000、50,000、40,000、30,000、20,000、10,000、9,000、8,000、7,000、6,000等が例示され、下限は200,000、100,000、90,000、80,000、70,000、60,000、50,000、40,000、30,000、20,000、10,000、9,000、8,000、7,000、6,000、5,000等が例示される。1つの実施形態において、(B)成分の重量平均分子量は、好ましくは5,000~300,000程度である。本開示において重量平均分子量は、ゲルパーメーションクロマトグラフィー法によるポリスチレン換算値である。(B)成分の重量平均分子量は高い程低温ヒートシール性が良好となる傾向にある。また、(B)成分の重量平均分子量は低い程乳化が良好となったり、シール時の流動性が良好となる傾向にある。このことから、(B)成分の重量平均分子量は上記範囲が好ましい。
【0035】
(B)成分の分子量分布(Mw/Mn)の上限は、10、9、7.5、5、2.5、2等が例示され、下限は、9、7.5、5、2.5、2、1.5等が例示される。1つの実施形態において、(B)成分の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.5~10である。
【0036】
(B)成分の融点(℃)の上限は、200、190、180、170、160、150、140、130、120、110、100、90、80、70、60、50、40等が例示され、下限は、190、180、170、160、150、140、130、120、110、100、90、80、70、60、50、40、30等が例示される。1つの実施形態において、(B)成分の融点(℃)は、好ましくは30~200程度である。本開示において、融点は、JIS K 7121に記載の融解温度に関する方法で測定した値である。
【0037】
(B)成分のガラス転移温度(℃)の上限は、100、90、80、70、60、50、40、30、20、10、0、-10、-20、-30、-40、-50、-60、-70、-80、-90等が例示され、下限は、90、80、70、60、50、40、30、20、10、0、-10、-20、-30、-40、-50、-60、-70、-80、-90、-100等が例示される。1つの実施形態において、(B)成分のガラス転移温度(℃)は、好ましくは-100~100程度である。本開示において、ガラス転移温度(℃)は、JIS K 7121に記載の方法で測定した値である。
【0038】
(B)成分の結晶化温度(℃)の上限は、100、90、80、70、60、50、40、30、20、10、0、-10、-20、-30、-40、-50、-60、-70、-80、-90等が例示され、下限は90、80、70、60、50、40、30、20、10、0、-10、-20、-30、-40、-50、-60、-70、-80、-90、-100等が例示される。1つの実施形態において、(B)成分の結晶化温度(℃)は、好ましくは-100~100である。本開示において、結晶化温度(℃)は、JIS K 7121に記載の方法で測定した値である。
【0039】
本開示の(A)成分及び(B)成分の固形分換算100質量%に対する(b1)成分の含有量(固形分換算、質量%)の上限は、99、95、90、85、80、75、70、65、60、55、51等が例示され、下限は、95、90、85、80、75、70、65、60、55、51、50等が例示される。1つの実施形態において、本開示の(A)成分及び(B)成分の固形分換算100質量%に対する(b1)成分の含有量(固形分換算、質量%)は、好ましくは50超99以下程度である。
【0040】
本開示の(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の固形分換算100質量%に対する(B)成分の含有量(質量%、固形分換算)の上限は、99、95、90、85、80、75、70、65、60、55等が例示され、下限は、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50等が例示される。1つの実施形態において、本開示の(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の固形分換算100質量%に対する(B)成分の含有量(質量%、固形分換算)は、50~99程度が好ましい。
【0041】
<(C)成分>
平均けん化度75mol%以上85mol%以下のポリビニルアルコール(C)(本開示において、「(C)成分」ともいう。)として、各種公知のものを使用できる。本開示において、平均けん化度とは(C)成分全体のけん化度の平均値のことである。
【0042】
(C)成分の平均重合度の上限は、4,000、3,500、3,000、2,500、2,000、1,500、1,000、500、250、200、150等が例示され、下限は、3,500、3,000、2,500、2,000、1,500、1,000、500、250、200、150、100等が例示される。1つの実施形態において、(C)成分の平均重合度は、好ましくは100~4,000程度である。本開示において、ポリビニルアルコールの平均重合度は、JIS K 6726に記載の方法で測定された値である。
【0043】
(C)成分の平均けん化度(mol%)の上限は、85、84、83、82、81、80、79、78、77、76等が例示され、下限は、84、83、82、81、80、79、78、77、76、75等が例示される。1つの実施形態において、(C)成分の平均けん化度(mol%)は、75~85程度である。平均けん化度(mol%)が85を超えると、低温でのヒートシール性が劣るため好ましくない。本開示において、ポリビニルアルコールのけん化度(mol%)は、JIS K 6726に記載の方法で測定された値である。
【0044】
本開示の(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の固形分換算100質量%に対する(C)成分の含有量(質量%、固形分換算)の上限は、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1等が例示され、下限は、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0.5等が例示される。1つの実施形態において、本開示の(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の固形分換算100質量%に対する(C)成分の含有量(質量%、固形分換算)は、好ましくは0.5~20程度である。
【0045】
<(D)成分>
単糖、二糖、糖アルコール、有機酸、アミノ酸、及び尿素類からなる群から選択される1種以上の化合物(D)(本開示において、「(D)成分」ともいう。)として、各種公知のものを使用できる。なお、(D)成分に(A)成分は含まれない。
【0046】
単糖として、アルドース、ケトース等が例示される。アルドースとして、アルドトリオース、アルドテトロース、アルドペントース、アルドヘキソース等が例示される。アルドトリオースとして、グリセルアルデヒド等が例示される。アルドテトロースとして、エリトロース、トレオース等が例示される。アルドペントースとして、リボース、キシロース、アラビノース等が例示される。アルドヘキソースとして、グルコース、マンノース、ガラクトース等が例示される。ケトースとして、ケトトリオース、ケトテトロース、ケトペントース、ケトヘキソース等が例示される。ケトトリオースとして、ジヒドロキシアセトン等が例示される。ケトテトロースとして、エリトロース等が例示される。ケトペントースとして、キシルロース、リブロース等が例示される。ケトヘキソースとして、フルクトース等が例示される。
【0047】
二糖として、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース等が例示される。
【0048】
糖アルコールとして、グリセリン、エリスリトール、トレイトール、アラビニトール、キシリトール、リビトール、イジトール、ソルビトール、ガラクチトール、マンニトール、ボレミトール、ペルセイトール、エリトロガラクトオクチトール、イソマルト、ラクチトール、マルチトール等が例示される。
【0049】
有機酸として、ギ酸、鎖状脂肪族構造を有する有機酸(クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸、酢酸、グリコール酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、αーケトグルタル酸等)、芳香環構造を有する有機酸(サリチル酸、p-クマル酸、コーヒー酸、フェルラ酸、クロロゲン酸)、脂環構造を有する有機酸(キナ酸等)、複素環構造を有する有機酸(オロト酸等)等が例示される。鎖状脂肪族構造とは、環構造を有さない脂肪族のことであり、2つ以上の炭素原子を有する構造のことである。有機酸の種類や量によって、本開示のヒートシール性水系樹脂組成物のpHを調整することも考えられる。当該有機酸にはロジンに含まれる有機酸(樹脂酸)を含まないこととする。
【0050】
アミノ酸として、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、中性アミノ酸等が例示される。酸性アミノ酸として、アスパラギン酸、グルタミン酸等が例示される。塩基性アミノ酸として、リシン、アルギニン、ヒスチジン等が例示される。中性アミノ酸として、側鎖が水素又は炭化水素基である中性アミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、プロリン等)、極性側鎖(OH、NH、NH2、SH等)を有する中性アミノ酸(セリン、チロシン、トリプトファン、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン)等が例示される。その他のアミノ酸として、テアニン、シスチン等が例示される。アミノ酸の種類や量によって、本開示のヒートシール性水系樹脂組成物のpHを調整することも考えられる。
【0051】
尿素類として、尿素、N,N-ジメチル尿素等が例示される。
【0052】
(D)成分の分子量の上限は、500、450、400、350、300、250、200、150、100、50、40等が例示され、下限は、450、400、350、300、250、200、150、100、50、40、30等が例示される。1つの実施形態において、(D)成分の分子量は、好ましくは500以下であり、より好ましくは10以上500以下である。本開示において、単に「分子量」と記載する場合、原子量基準で計算した値を指す。
【0053】
本開示の(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の固形分換算100質量%に対する(D)成分の含有量(質量%、固形分換算)の上限は、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1等が例示され、下限は、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0.5等が例示される。1つの実施形態において、本開示の(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の固形分換算100質量%に対する(D)成分の含有量(質量%、固形分換算)は、好ましくは0.5~20程度である。
【0054】
<ヒートシール性水系樹脂組成物>
本開示のヒートシール性水系樹脂組成物には、所望の特性を損なわない限り、必要に応じて架橋剤、消泡剤、増粘剤、充填剤、酸化防止剤、耐水化剤、造膜助剤、pH調整剤、溶剤(水溶性有機溶剤、非水溶性有機溶剤)、乳化剤、分散剤、防腐剤、印刷適性向上剤、粘度調整剤、顔料、填料、耐油化剤、バリア剤、粘着付与剤等を含めてもよい。水溶性有機溶剤として、アルコール類、ケトン類等が例示される。アルコール類として、メタノール、エタノール、i-プロパノール、n-ブタノール、n-オクタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等が例示される。ケトン類として、アセトン、メチルエチルケトン等が例示される。本開示のヒートシール性水系樹脂組成物には非水溶性有機溶剤を含めることは可能ではあるものの、含まなくても本開示のヒートシール性水系樹脂組成物は得られること、及び環境への影響も考慮すると、好ましくは本開示のヒートシール性水系樹脂組成物には非水溶性有機溶剤を含めない。非水溶性有機溶剤として、トルエン、キシレン等が例示される。
【0055】
本開示のヒートシール性水系樹脂組成物には、保管安定性が良好となることから、分散剤を含めることが好ましい。分散剤として、セルロースナノファイバー、カルボキシメチルセルロース、澱粉、キトサン、アルギン酸、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸及びそれらの塩等が例示される。これらの中でも、セルロースナノファイバー、カルボキシメチルセルロース、澱粉、キトサン、アルギン酸、及びそれらの塩は、自然由来でありかつ生分解性があるので好ましい。
【0056】
本開示のヒートシール性水系樹脂組成物は、水系エマルジョンの形態で使用される。本開示の(A)成分、(B)成分、(C)成分並びに必要に応じて使用される(D)成分及びその他の成分を含む組成物を水系エマルジョンにする方法として、反転乳化法が例示される。反転乳化法として、常圧下にて(必要に応じて1MPa以下の加圧を行い)(A)成分及び(B)成分の混合物を100℃以上200℃以下程度に昇温した後、(C)成分を練り込み熱水を徐々に添加して転相乳化させてエマルジョン化する方法が例示される。(D)成分は、(A)成分と(B)成分の混合物を作る際に同時、又はその前後において混ぜてもよく、(C)成分を配合する際に同時、又はその前後において混ぜてもよい。そのようにして得られた本開示の水系エマルジョンの外観は、白色又は乳白色又は淡黄色である。本開示の反転乳化法は、好ましくは常圧で行われる。なお、(C)成分を練りこむ際には、(C)成分を水に溶かした状態であってもよく、水に溶かしていない状態であってもよい。また、本開示の反転乳化法では、無溶剤で実施することが可能である。本開示の反転乳化法における「無溶剤」とは、原料由来の微量の溶剤以外の溶剤を含まないという意味である。ゆえに、原料由来の微量の溶剤を含んだ場合の本開示のヒートシール性水系樹脂組成物中に含まれる溶剤の量(質量%)の上限は、ヒートシール性水系樹脂組成物の固形分換算100質量%に対して、1、0.5、0.1、0.05、0.01、0.001等が例示され、下限は、0.5、0.1、0.05、0.01、0.001、0.0001等が例示される。1つの実施形態において、本開示のヒートシール性水系樹脂組成物中に含まれる溶剤の量(質量%)は、1以下である。
【0057】
本開示のヒートシール性水系樹脂組成物の濃度(質量%)の上限は、99、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5等が例示され、下限は、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、1等が例示される。1つの実施形態において、本開示のヒートシール性水系樹脂組成物の濃度(質量%)は、好ましくは1~99質量%程度であり、より好ましくは1~60質量%である。
【0058】
本開示のヒートシール性水系樹脂組成物の体積平均粒子径(μm)の上限は、10、8、6、4、2、1.5、1、0.7、0.5、0.3、0.1、0.05等が例示され、下限は、8、6、4、2、1.5、1、0.7、0.5、0.3、0.1、0.05、0.01等が例示される。1つの実施形態において、本開示のヒートシール性水系樹脂組成物の体積平均粒子径(μm)は、好ましくは0.01~10μm程度である。本開示のヒートシール性水系樹脂組成物は、大部分は2μm以下の粒子として均一に分散しているが、貯蔵安定性の点から、その体積平均粒子径が1.5μm以下であることが好ましい。
【0059】
本開示のヒートシール性水系樹脂組成物の温度25℃、濃度40質量%における粘度(mPa・s)の上限は、1,000、750、500、250、100、75、50、25等が例示され、下限は、750、500、250、100、75、50、25、10等が例示される。1つの実施形態において、本開示のヒートシール性水系樹脂組成物の温度25℃、濃度40質量%における粘度(mPa・s)は、好ましくは10~1,000程度である。
【0060】
本開示のヒートシール性水系樹脂組成物のpHの上限は、10、9、8、7、6、5、4、3等が例示され、下限は、9、8、7、6、5、4、3、2等が例示される。1つの実施形態において、本開示のヒートシール性水系樹脂組成物のpHは、好ましくは2~10程度である。本開示のヒートシール性水系樹脂組成物は、必要に応じて、無機酸(塩酸、硫酸、リン酸等)、アルカノールアミン(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等)、脂肪族アミン(エチルアミン、n-ブチルアミン、トリエチルアミン等)、アルカリ金属水酸化物(水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等)、アルカリ土類金属水酸化物(水酸化カルシウム等)等を適宜添加して、pHを調整してもよい。
【0061】
本開示のヒートシール性水系樹脂組成物の膜は2つの基材を接着することができる。本開示のヒートシール性水系樹脂組成物を用いて2つの基材を接着する方法として、
(1)本開示のヒートシール性水系樹脂組成物を2つの基材それぞれに乾燥後の固形付着量が2~10g/cm2になるように塗布し、基材の塗布面同士を重ね合わせて、ヒートシール機(例えば、ヒートシールテスターTP-701S(テスター産業(株)製)等)で80℃~180℃の熱をかけながら、0.5~5kgf/cm2程度の圧力を加える方法
(2)本開示のヒートシール性水系樹脂組成物を一方の基材に乾燥後の固形付着量が2~20g/cm2になるように塗布し、80℃~180℃の熱を加えながら、もう一方の基材を重ね合わせて0.5~5kgf/cm2程度の圧力を加える方法
(3)予め、剥離容易な基材に本開示のヒートシール性水系樹脂組成物を乾燥後の固形付着量が4~20g/cm2になるように塗布し、80℃~180℃の熱を加え水分を揮発させてヒートシール性水系樹脂組成物の膜を形成させ、得られた膜を剥離容易な基材から剥離して取得し、これを2つの基材の間に配置し、80℃~180℃で0.5~5kgf/cm2の圧力を加える方法
等が例示される。
ヒートシール性水系樹脂組成物の膜は、基材の片面だけでなく、両面に設けてもよい。
【0062】
本開示のヒートシール性水系樹脂組成物を塗工する基材として、ガラス基材、プラスチック基材、紙基材、布基材、ゴムシート基材、発泡体シート基材、金属基材等が例示される。プラスチック基材として、熱可塑性プラスチック基材、熱硬化性プラスチック基材等が例示される。熱可塑性プラスチック基材として、汎用プラスチック基材、エンジニアリングプラスチック基材等が例示される。汎用プラスチック基材として、オレフィン系、ポリエステル系、アクリル系、ビニル系、ポリスチレン系等が例示される。オレフィン系として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ノルボルネン等が例示される。ポリエステル系として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、ポリカプロラクトン(PCL)等が例示される。アクリル系として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等が例示される。ビニル系として、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール等が例示される。ポリスチレン系として、ポリスチレン(PS)樹脂、スチレン・アクリロニトリル(AS)樹脂、スチレン・ブタジエン・アクリロニトリル(ABS)樹脂等が例示される。エンジニアリングプラスチック基材として、汎用エンプラ、スーパーエンプラ等が例示される。汎用エンプラとして、ポリカーボネート、ポリアミド(ナイロン)等が例示される。スーパーエンプラとして、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等が例示される。熱硬化性プラスチック基材として、ポリイミド、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等が例示される。その他のプラスチック基材として、トリアセチルセルロース樹脂、セロハン、可塑化澱粉等が例示される。紙基材として、和紙、クラフト紙、グラシン紙、上質紙、合成紙、トップコート紙等が例示される。布基材として、各種の繊維状物質の単独または混紡等による織布や不織布等が例示される。ゴムシート基材として、天然ゴム、ブチルゴム等が例示される。発泡体シート基材として、発泡ポリウレタン、発泡ポリクロロプレンゴム等が例示される。金属基材として、アルミニウム箔、銅箔等が例示される。また、基材は、表面処理(コロナ放電等)がなされているものであってよい。また、基材の片面あるいは両面に、本開示のヒートシール性水系樹脂組成物の膜との間にその他の層や膜(例えば易接着層、アンカー層等)が設けられたものであってよい。基材は、バイオマス素材で生分解性に優れることから、好ましくは紙基材であり、より好ましくはクラフト紙である。なお、基材の厚みは、特に限定されず、通常、30~300μm程度であればよい。
【0063】
本開示のヒートシール性水系樹脂組成物を基材上に塗工する方法として、ロールコーター塗工、リバースロールコーター塗工、バーコーター塗工、メイヤーバー塗工、エアナイフ塗工、グラビア塗工、リバースグラビア塗工、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷等が例示される。なお、塗工量は特に限定されないが、通常は、乾燥後の質量が2~20g/m2になる範囲であり、好ましくは4~10g/m2であり、より好ましくは5~8g/m2である。また、本開示のヒートシール性水系樹脂組成物の膜の厚さは2~20μm程度である。本開示で提供するヒートシール性水系樹脂組成物を基材に水系塗工する場合、ヒートシール性水系樹脂組成物の使用量自体を少なくできる。従来、例えば基材に紙等を使用しヒートシール性樹脂組成物をラミネートする場合、紙のリサイクル性を阻害する等の問題があったが、本開示ではヒートシール性水系樹脂組成物の使用量を少なくすることで紙のリサイクル性を阻害しないという良好な効果を奏することができる。
【0064】
本開示のヒートシール性水系樹脂組成物はヒートシール剤として使用することが好ましいが、本開示のヒートシール性水系樹脂組成物が奏する効果を発揮できるような各種の用途に用いることも可能である。
【実施例0065】
以下に、実施例を挙げて本開示の具体例を説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。なお、実施例中、部及び%は特記しない限り全て固形分質量基準である。
【0066】
<製造例1:水添ロジングリセリンエステルの製造>
水添ロジン(製品名「パインクリスタル KR-85」、荒川化学工業(株)製)500gを1リットルのフラスコに取り、窒素シール下に180℃に昇温し、溶融撹拌下に200℃でグリセリン60gを加えたのち280℃まで昇温し、同温度で12時間エステル化反応を行ない、水添ロジングリセリンエステル515gを得た。
【0067】
<製造例2:ロジングリセリンエステルの製造>
中国産馬尾松由来ガムロジン(広西梧州荒川化学工業有限公司製)500gを1リットルのフラスコに取り、窒素シール下に180℃に昇温し、溶融撹拌下に200℃でグリセリン60gを加えたのち280℃まで昇温し、同温度で12時間エステル化反応を行ない、ロジングリセリンエステル515gを得た。
【0068】
<製造例3:不均化ロジンエステルの製造>
中国産馬尾松由来ガムロジン(広西梧州荒川化学工業有限公司製)1000gに触媒として5%パラジウムカーボン0.3gを加え、窒素シール下、280℃で4時間撹拌して不均化反応を行ない、不均化ロジンを得た。得られた不均化ロジン500gを1リットルのフラスコに取り、窒素シール下に180℃に昇温し、溶融撹拌下に200℃でグリセリン43g及びジエチレングリコール33gを加えたのち270℃まで昇温し、同温度で12時間エステル化反応を行ない、不均化ロジンエステル517gを得た。
【0069】
<実施例1:ヒートシール性水系樹脂組成物(1)の調製>
滴下ロート、温度計、窒素導入管、撹拌機及び冷却管を備えた反応容器に、水添ロジン(製品名「パインクリスタル KR-85」、荒川化学工業(株)製)10部、及びポリブチレンサクシネートアジペート(製品名「BioPBS FD92」、PTT MCC Biochem Co., Ltd.製)(本開示において、「PBSA」ともいう。)90部の混合物を160℃まで昇温し、撹拌しながら、ポリビニルアルコール(製品名「クラレポバール 32-80」((株)クラレ製)5部を水45部で溶解した水溶液を50分かけて滴下した。加熱・撹拌をしながら、80℃に加熱した蒸留水112.5部を1時間かけて滴下し、固形分40質量%のヒートシール性水系樹脂組成物(1)(水中油型のエマルジョン)を調製した。
【0070】
<実施例2~20及び比較例1~8:ヒートシール性水系樹脂組成物(2)~(20)及び(C1)~(C8)の調製>
実施例2~20及び比較例1~8は、表1~表3に記載の組成に変更したことを除き、実施例1と同様の手法により行い、ヒートシール性水系樹脂組成物(2)~(20)及び(C1)~(C8)を得た。なお、(D)成分を加える場合の処理方法として、実施例1のポリビニルアルコール水溶液滴下の工程の後に(D)成分を加えた以外は実施例1と同様の手法により行った。
【0071】
<評価例1:積層体(1)の作製>
ヒートシール性水系樹脂組成物を乾燥後の固形付着量が6g/m2となるように、クラフト紙(製品名「HEIKO」、(株)シモジマ製、坪量:70g/m2)にメイヤーバーを用いて塗布し、120℃で3分乾燥させヒートシール性水系樹脂組成物の膜を形成し、積層体(1)を得た
【0072】
<評価例2~20及び比較評価例1~8:積層体(2)~(20)及び(C1)~(C8)の作製>
評価例2~20及び比較評価例1~8は、ヒートシール性水系樹脂組成物(1)をそれぞれヒートシール性水系樹脂組成物(2)~(20)又は(C1)~(C8)に変更したことを除き、評価例1と同様の手法により行い、積層体(2)~(20)及び(C1)~(C8)を得た。
【0073】
<性能評価(1):外観観察>
ヒートシール性水系樹脂組成物の水への分散の程度について、下記の基準で評価した。
〇:良好に分散した。
×:分散しなかった。
【0074】
<性能評価(2):ヒートシール強度(N/15mm)>
各積層体を75mm×110mmに裁断して、塗工面を内側に縦半分に折った。折目側を端から20mmのシール幅で、ヒートシールテスターTP-701S(テスター産業製)を用いて、熱圧着(110℃、1秒、2kgf/cm2)した。これを5等分し、15mm×55mmの試験片を5つ作製した。それぞれの試験片において、シール部を中央にして180°開き、テンシロン万能試験機RTG1210(エー・アンド・デイ製)を使用し、つかみ具間隔:30mm、剥離速度:300mm/minで上下方向に引っ張り、最大荷重の値を測定した。5つの試験片での平均値をヒートシール強度の値とした。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
表1~表3中の用語の意味は下記のとおりである。なお、表中の各成分の数値は固形分の質量を示している。
水添ロジン:製品名「パインクリスタル KR-85」(荒川化学工業(株)製、軟化点:80~90℃)
水添ロジングリセリンエステル:製造例1(軟化点:95~105℃)
ロジン:「中国産馬尾松由来ガムロジン」(広西梧州荒川化学工業有限公司製、軟化点:80~90℃)
ロジングリセリンエステル:製造例2(軟化点:95~105℃)
不均化ロジンエステル:製造例3(軟化点:70~80℃)
パラフィンワックス:製品名「Paraffin Wax-135」(日本精蝋(株)製、融点:55~60℃)
アセチルスクロース:製品名「モノペットSOA」(第一工業製薬(株)製、融点:78~90℃)
水添石油樹脂:製品名「アルコンP-90」(荒川化学工業(株)製、軟化点:85~95℃)
PBSA:ポリブチレンサクシネートアジペート(製品名「BioPBS FD92」、PTT MCC Biochem Co., Ltd.製)
PCL:ポリカプロラクトン(製品名「Capa6800D」(Ingevity製)、融点:58~60℃)
PLA:ポリ乳酸(製品名「テラマックTP-4000」(ユニチカ(株)製)、融点:170℃)
PVA-1:製品名「クラレポバール 30-88」((株)クラレ製、ケン化度:87.0~89.0、粘度(4%、20℃、mPa・s):27.0~33.0)
PVA-2:製品名「クラレポバール 32-80」((株)クラレ製、ケン化度:79.0~81.0、粘度(4%、20℃、mPa・s):29.0~35.0)
PVA-3:製品名「クラレポバール 5-82」((株)クラレ製、ケン化度:80.0~83.0、粘度(4%、20℃、mPa・s):4.5~5.2)
PVA-4:製品名「クラレポバール L-8」((株)クラレ製、ケン化度:69.5~72.5、粘度(4%、20℃、mPa・s):5.0~5.8)
グリセリン:製品名「グリセリン 特級」(キシダ化学(株)製)
スクロース:製品名「スクロース 特級」(キシダ化学(株)製)
尿素:製品名「尿素 生化学用」(キシダ化学(株)製)
グルコース:製品名「D(+)-グルコース 特級」(キシダ化学(株)製)
酢酸:製品名「酢酸 特級」(キシダ化学(株)製)
アスパラギン酸:製品名「L-アスパラギン酸 特級」(キシダ化学(株)製)
けん化度(mol%)の測定方法:JIS K 6726-1994 ポリビニルアルコール試験方法に準ずる。