(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036587
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】癌を処置するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230307BHJP
C07K 16/40 20060101ALI20230307BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230307BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230307BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230307BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230307BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230307BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230307BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230307BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230307BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230307BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20230307BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/40 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A61K39/395 T
A61K39/395 U
A61K45/00
A61P35/02
G01N33/68
G01N33/50 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022188552
(22)【出願日】2022-11-25
(62)【分割の表示】P 2019550759の分割
【原出願日】2018-03-16
(31)【優先権主張番号】62/471,994
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/586,220
(32)【優先日】2017-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】506000184
【氏名又は名称】イナート・ファルマ・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】INNATE PHARMA PHARMA S.A.
(71)【出願人】
【識別番号】514264651
【氏名又は名称】オレガ・バイオテック
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】ステファニー・シャントゥー
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・グルダン
(72)【発明者】
【氏名】カリーヌ・パトゥレル
(72)【発明者】
【氏名】イヴァン・ペロ
(72)【発明者】
【氏名】バンジャマン・ロッシ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】可溶性ヒトCD39の酵素活性を阻害する抗原結合化合物を提供する。
【解決手段】腫瘍細胞等の細胞の表面で発現されるヒトCD39タンパク質上に存在するエピトープに結合し、細胞膜結合型CD39酵素(細胞の表面で発現されるCD39)の酵素活性(ATPアーゼ活性)を強力に阻害する、抗原結合化合物を提供する。該化合物を産生する細胞;そのような化合物並びにその抗体、フラグメント、バリアント及び誘導体を製造する方法;それを含む医薬組成物;疾患、例えば癌を診断、処置又は予防するためにこの化合物を使用する方法も提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性細胞外ドメインヒトCD39(NTPDアーゼ1)タンパク質に結合し、且つそのATPアーゼ活性を阻害することができる抗体。
【請求項2】
外因的に添加されたATPの存在下で前記CD39タンパク質の前記ATPアーゼ活性を阻害し、任意選択により、外因的に添加されたATPは、20μMの濃度で提供される、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
細胞の表面でヒトCD39タンパク質に結合することができ、且つ細胞の表面で前記CD39タンパク質の前記ATPアーゼ活性を阻害することができる、請求項1又は2に記載の抗体。
【請求項4】
前記化合物若しくは抗体は、分泌型CD39タンパク質アイソフォームL2若しくはL4に結合せず、及び/又は前記化合物若しくは抗体は、膜結合型CD39タンパク質アイソフォームL1若しくはL3に結合しない、請求項1~3の何れか一項に記載の抗体。
【請求項5】
前記可溶性細胞外ドメインCD39は、配列番号44又は配列番号45のアミノ酸配列を含む、請求項1~4の何れか一項に記載の抗体。
【請求項6】
ヒトCD16ポリペプチド、ヒト32aポリペプチド、ヒトCD32bポリペプチド及び/又はヒトCD64ポリペプチドへの結合を実質的に欠く、請求項1~5の何れか一項に記載の抗体。
【請求項7】
Fcドメインを含み、任意選択により、前記Fcドメインは、野生型Fcドメインと比較して、ヒトFcγ受容体CD16A、CD16B、CD32A、CD32B及び/又はCD64の1つ若しくは複数又は全てへの結合が減少又は消失しているアミノ酸改変を含む、請求項1~6の何れか一項に記載の抗体。
【請求項8】
完全長抗体又は抗体フラグメントである、請求項1~7の何れか一項に記載の抗体。
【請求項9】
溶液中においてヒト細胞外ドメインCD39タンパク質のATPアーゼ活性の50%超、任意選択により80%超の低下を生じさせることができる、請求項1~8の何れか一項に記載の抗体。
【請求項10】
CD39発現細胞による前記細胞外ATPアーゼ活性の少なくとも80%の低下を生じさせることができる、請求項1~9の何れか一項に記載の抗体。
【請求項11】
1μg/ml以下の、CD39のATPアーゼ活性の阻害に関するEC50によって特徴付けられ、CD39の酵素活性の阻害は、ATPを定量することにより、Ramos細胞中におけるATPアーゼ活性の中和を評価することによって決定される、請求項1~10の何れか一項に記載の抗体。
【請求項12】
Ramos細胞への結合に関して、2μg/ml以下、任意選択により1μg/ml以下、0.5μg/ml以下、0.1μg/ml以下の、フローサイトメトリーによって決定されるEC50によって特徴付けられる、請求項1~11の何れか一項に記載の抗体。
【請求項13】
配列番号1のCD39ポリペプチドへの結合に関して、重鎖CDR及び軽鎖CDRを含む抗体又は抗体I-394、I-395、I-396若しくはI-399の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む抗体と競合する、請求項1~12の何れか一項に記載の抗体。
【請求項14】
配列番号1のCD39ポリペプチドへの結合に関して、抗体I-394の重鎖CDR及び軽鎖CDRを含む抗体と競合し、且つ溶液中においてヒト細胞外ドメインCD39ポリペプチドのATPアーゼ活性を中和する抗体であって、Fcドメインを欠いているか、又はヒトCD16への結合を欠くヒトFcドメインを含み、任意選択により、前記Fcドメインは、ヒトCD16A、ヒトCD16B、ヒトCD32A、ヒトCD32B及び/又はヒトCD64への結合を減少させるアミノ酸改変を含み、任意選択により、さらに、前記Fcドメインは、Kabat残基N297でN連結グリコシル化を含む、抗体。
【請求項15】
アミノ酸配列DYNMH(配列番号8)を含むHCDR1;アミノ酸配列YIVPLNGGSTFNQKFKG(配列番号9)を含むHCDR2;アミノ酸配列GGTRFAY(配列番号10)を含むHCDR3;アミノ酸配列RASESVDNFGVSFMY(配列番号11)を含むLCDR1;アミノ酸配列GASNQGS(配列番号12)を含むLCDR2領域;及びアミノ酸配列QQTKEVPYT(配列番号13)を含むLCDR3領域を含む、請求項1~14の何れか一項に記載の抗体。
【請求項16】
アミノ酸配列DYNMH(配列番号16)を含むHCDR1;アミノ酸配列YINPNNGGTTYNQKFKG(配列番号17)を含むHCDR2;アミノ酸配列GGTRFAS(配列番号18)を含むHCDR3;アミノ酸配列RASESVDNYGISFMY(配列番号19)を含むLCDR1;アミノ酸配列AASTQGS(配列番号20)を含むLCDR2領域;及びアミノ酸配列QQSKEVPFT(配列番号21)を含むLCDR3領域を含む、請求項1~14の何れか一項に記載の抗体。
【請求項17】
アミノ酸配列DTYIN(配列番号24)を含むHCDR1;アミノ酸配列RIDPANGNTKYDPKFQG(配列番号25)を含むHCDR2;アミノ酸配列WGYDDEEADYFDS(配列番号26)を含むHCDR3;アミノ酸配列RASESVDNYGISFMN(配列番号27)を含むLCDR1;アミノ酸配列AASNQGS(配列番号28)を含むLCDR2領域;及びアミノ酸配列HQSKEVPWT(配列番号29)を含むLCDR3領域を含む、請求項1~14の何れか一項に記載の抗体。
【請求項18】
アミノ酸配列SFWMN(配列番号32)を含むHCDR1;アミノ酸配列EIDPSDFYTNSNQRFKG(配列番号33)を含むHCDR2;アミノ酸配列GDFGWYFDV(配列番号34)を含むHCDR3;アミノ酸配列SASSSINSNYLH(配列番号35)を含むLCDR1;アミノ酸配列RTSNLAS(配列番号36)を含むLCDR2領域;及びアミノ酸配列QQGSSLPRT(配列番号37)を含むLCDR3領域を含む、請求項1~14の何れか一項に記載の抗体。
【請求項19】
可溶性ヒトCD39(NTPDアーゼ1)タンパク質に結合し、且つそのATPアーゼ活性を阻害することができる抗体であって、
(a)(i)配列番号6の重鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖と、(ii)配列番号7の軽鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖とを含む抗体;
(b)(i)配列番号14の重鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖と、(ii)配列番号15の軽鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖とを含む抗体;
(c)(i)配列番号22の重鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖と、(ii)配列番号23の軽鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖とを含む抗体;及び
(d)(i)配列番号30の重鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖と、(ii)配列番号31の軽鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖とを含む抗体
からなる群から選択される抗体。
【請求項20】
細胞によって発現されたヒトCD39ポリペプチドに特異的に結合する単離抗体であって、ATPの存在下で樹状細胞の活性化を増加させることができる単離抗体。
【請求項21】
単球由来の樹状細胞が前記抗体及びATPと共にインビトロでインキュベートされる場合、前記moDC中における活性化の細胞表面マーカーの発現の増加を生じさせることができる、請求項1~20の何れか一項に記載の抗体。
【請求項22】
外因的に添加されたATPは、0.125mM、0.25mM又は0.5mMで提供される、請求項20又は21に記載の抗体。
【請求項23】
活性化の細胞表面マーカーの発現の増加は、24時間にわたってATPの存在下でmoDCをインキュベートし、且つフローサイトメトリーによってmoDC上でCD80、CD83及び/又はHLA-DRの細胞表面発現を分析することによって評価される、請求項21又は22に記載の抗体。
【請求項24】
前記細胞表面マーカーの発現の増加は、陰性対照(例えば、培地)と比較して少なくとも40%、50%、75%又は80%である、請求項21~23の何れか一項に記載の抗体。
【請求項25】
ATPの存在下において、CD39を発現するDC細胞と共にT細胞がインビトロで共培養された場合にT細胞増殖を増加させることができる、請求項1~24の何れか一項に記載の抗体。
【請求項26】
前記抗体と、配列番号1のアミノ酸配列を含む野生型CD39ポリペプチドとの間の結合と比較して、それぞれの場合に残基Q96、N99、E143及びR147(配列番号1を基準にする)での突然変異を含む突然変異体CD39ポリペプチドへの結合が減少している、請求項1~25の何れか一項に記載の単離抗体。
【請求項27】
細胞によって発現されたヒトCD39ポリペプチドに特異的に結合する単離抗体であって、ATPの存在下で樹状細胞の活性化を増加させることができる単離抗体。
【請求項28】
単球由来の樹状細胞が前記抗体及びATPと共にインビトロでインキュベートされる場合、前記moDC中における活性化の細胞表面マーカーの発現の増加を生じさせることができる、請求項1~27の何れか一項に記載の抗体。
【請求項29】
外因的に添加されたATPは、0.125mM、0.25mM又は0.5mMで提供される、請求項27又は28に記載の抗体。
【請求項30】
活性化の細胞表面マーカーの発現の増加は、24時間にわたってATPの存在下でmoDCをインキュベートし、且つフローサイトメトリーによってmoDC上でCD80、CD83及び/又はHLA-DRの細胞表面発現を分析することによって評価される、請求項27~29の何れか一項に記載の抗体。
【請求項31】
細胞表面マーカーの発現の増加は、陰性対照(例えば、培地)と比較して少なくとも40%、50%、75%又は80%である、請求項27~30の何れか一項に記載の抗体。
【請求項32】
ATPの存在下において、CD39を発現するDC細胞と共にT細胞がインビトロで共培養された場合にT細胞増殖を増加させることができる、請求項1~31の何れか一項に記載の抗体。
【請求項33】
前記抗体と、配列番号1のアミノ酸配列を含む野生型CD39ポリペプチドとの間の結合と比較して、それぞれの場合に突然変異R138A、M139A及びE142K(配列番号1を基準にする)を含む突然変異体CD39ポリペプチドへの結合が減少している、請求項1~32の何れか一項に記載の単離抗体。
【請求項34】
前記抗体と、配列番号1のアミノ酸配列を含む野生型CD39ポリペプチドとの間の結合と比較して、それぞれの場合に突然変異K87A、E100A及びD107A(配列番号1を基準にする)を含む突然変異体CD39ポリペプチドへの結合が減少している、請求項1~33の何れか一項に記載の単離抗体。
【請求項35】
前記抗体と、配列番号1のアミノ酸配列を含む野生型CD39ポリペプチドとの間の結合と比較して、それぞれの場合に突然変異N371K、L372K、E375A、K376G及びV377Sと、残基376及び377(配列番号1を基準にする)間のバリンの挿入とを含む突然変異体CD39ポリペプチドへの結合が減少している、請求項1~34の何れか一項に記載の単離抗体。
【請求項36】
ネイクド抗体、任意選択により、細胞傷害剤に結合されていない抗体である、請求項1~35の何れか一項に記載の抗体。
【請求項37】
抗体フラグメント、任意選択により、Fcドメインを欠く抗体フラグメントである、請求項1~36の何れか一項に記載の抗体。
【請求項38】
ヒトFcドメインを有する抗体であり、前記ヒトFcドメインは、前記FcドメインとヒトFcγ受容体との間の結合を減少させるように改変されている、請求項1~37の何れか一項に記載の抗体。
【請求項39】
表面プラズモン共鳴によって評価される場合、CD39ポリペプチドへの結合に関して10-9M未満のKDを有する、請求項1~38の何れか一項に記載の抗体。
【請求項40】
改変されたヒトIgG1 Fcドメインを含み、前記改変されたヒトIgG1 Fcドメインは、Kabat残基N297でN結合グリコシル化を含み、且つKgbat残基234及び235、任意選択により、さらにKabat残基331、任意選択により、Kabat残基234、235、237並びにKabat残基330及び/又は331でアミノ酸置換を含み、任意選択により、前記Fcドメインは、L234A/L235E/P331S置換、L234F/L235E/P331S置換、L234A/L235E/G237A/P331S置換又はL234A/L235E/G237A/A330S/P331S置換を含む、請求項1~39の何れか一項に記載の抗体。
【請求項41】
請求項1~40の何れか一項に記載の抗体と、薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物。
【請求項42】
請求項1~40の何れか一項に記載の抗体を含み、任意選択により、請求項1~40の何れか一項に記載の抗体を特異的に認識する標識された二次抗体をさらに含むキット。
【請求項43】
請求項1~40の何れか一項に記載の抗体の重鎖及び/又は軽鎖をコードする核酸。
【請求項44】
請求項1~40の何れか一項に記載の抗体を産生する組換え宿主細胞。
【請求項45】
疾患の処置又は予防を、それを必要とする個体において行うための方法であって、請求項1~40の何れか一項に記載の抗体又は請求項41に記載の組成物の有効量を前記個体に投与することを含む方法。
【請求項46】
個体において可溶性CD39タンパク質のATPアーゼ活性を低下させるための方法であって、請求項1~40の何れか一項に記載の抗体又は請求項41に記載の組成物の有効量を前記患者に投与することを含む方法。
【請求項47】
前記個体は、癌を有する、請求項45又は46に記載の方法。
【請求項48】
癌を有する対象においてT細胞活性、NK細胞活性及び/若しくはB細胞活性を増加させ、且つ/又は癌を有する対象においてT細胞活性、NK細胞活性及び/若しくはB細胞活性のアデノシンにより媒介される阻害を軽減するための方法であって、請求項1~40の何れか一項に記載の抗体又は請求項41に記載の組成物の有効量を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項49】
癌を有する対象において樹状細胞の活性化を増加させ、且つ/又は癌を有する対象においてDC細胞のATPにより媒介される活性化を回復させるための方法であって、請求項1~40の何れか一項に記載の抗体又は請求項41に記載の組成物の有効量を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項50】
前記個体は、検出可能な可溶性CD39タンパク質を有する、請求項48又は49に記載の方法。
【請求項51】
前記個体は、循環、腫瘍組織及び/又は腫瘍隣接組織において、検出可能な可溶性CD39タンパク質を有する、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
ヒトPD-1の阻害活性を中和する抗体と組み合わせて、請求項1~40の何れか一項に記載の抗体又は請求項41に記載の組成物の有効量を前記個体に投与することを含む、請求項48~51の何れか一項に記載の方法。
【請求項53】
細胞傷害剤を含む組成物と組み合わせて、請求項1~40の何れか一項に記載の抗体又は請求項41に記載の組成物の有効量を前記個体に投与することを含む、請求項48~51の何れか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記細胞傷害剤は、腫瘍細胞死を生じさせることができる化学療法剤である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記細胞傷害剤は、腫瘍細胞からのATPの細胞外放出を生じさせることができる化学療法剤である、請求項53又は54に記載の方法。
【請求項56】
癌の処置又は予防を、それを必要とする個体において行うための方法であって、
a)循環及び/又は腫瘍環境において可溶性CD39タンパク質を検出することと、
b)任意選択により、参照レベルと比較して増加しているレベルにおいて、可溶性CD39タンパク質が循環及び/又は腫瘍環境中に含まれていると決定すると、請求項1~40の何れか一項に記載の抗体又は請求項41に記載の組成物を前記個体に投与することと
を含む方法。
【請求項57】
可溶性CD39タンパク質を検出することは、前記個体から生物学的サンプルを得ることと、前記サンプルを、可溶性CD39タンパク質に結合する抗体と接触させることと、可溶性CD39タンパク質を検出することとを含む、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
抗CD39抗体は、可溶性CD39タンパク質の酵素活性の中和に関する少なくともEC50に対応する血液(血清)及び/又は腫瘍組織中における濃度を達成するのに有効な量で少なくとも1回投与される、請求項45~57の何れか一項に記載の方法。
【請求項59】
可溶性CD39タンパク質の酵素活性の中和は、前記CD39タンパク質が抗CD39抗体と共にインキュベートされるときに加水分解されたATPの減少を定量することにより、溶液中におけるCD39細胞外ドメインタンパク質のATPアーゼ活性の中和を評価することによって決定される、請求項45~58の何れか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記腫瘍又は癌は、固形腫瘍である、請求項45~59の何れか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記腫瘍又は癌は、白血病、膀胱癌、神経膠腫、神経膠芽腫、卵巣癌、メラノーマ、前立腺癌、甲状腺癌、食道癌又は乳癌である、請求項45~60の何れか一項に記載の方法。
【請求項62】
CD39に結合し、且つそのATPアーゼ活性を阻害することができる抗体を(例えば、癌の処置のために)特定又は選択するための方法であって、
a)ATPの存在下において、CD39に結合する1つ又は複数の試験抗体を樹状細胞と共にインキュベートすることと、
b)前記樹状細胞上での活性化のマーカーの細胞表面発現を評価することであって、抗体が樹状細胞の表面上で活性化のマーカーの増加を生じさせるという決定は、前記抗体が(例えば、癌の処置のために)ATPアーゼ活性CD39の阻害に適していることを示す、評価することと、
c)任意選択により、抗体が樹状細胞の表面上での活性化のマーカーの増加を生じさせる場合に前記抗体を選択することと
を含む方法。
【請求項63】
ATPの濃度は、陰性対照(例えば、試験抗体なしの培地)が樹状細胞の活性化のマーカーの細胞表面発現の増加をもたらさない濃度である、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
ATPの濃度は、少なくとも0.125mMである、請求項62又は63に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、任意の図面、両方がその全体において参照により本明細書中に組み込まれる2017年3月16日提出の米国仮特許出願第62/471,994号明細書及び2017年11月15日提出の米国仮特許出願第62/586,220号明細書の利益を主張する。
【0002】
配列表の参照
本願は、電子方式の配列リストと共に提出されている。本配列リストは、2018年3月15日作成の「CD39-6_ST25」という名称で提供されており、サイズは、53kBである。本配列リストの電子方式の情報は、その全体において参照により本明細書中に組み込まれる。
【0003】
本発明は、可溶性ヒトCD39の酵素活性を阻害する抗原結合化合物(例えば、抗体)に関する。本発明は、そのような化合物を産生する細胞;そのような化合物並びにその抗体、フラグメント、バリアント及び誘導体を製造する方法;それを含む医薬組成物;疾患、例えば癌を診断、処置又は予防するためにこの化合物を使用する方法にも関する。
【背景技術】
【0004】
8種の異なるENTPD遺伝子は、NTPDアーゼタンパク質ファミリのメンバーをコードする。個々のNTPDアーゼサブタイプは、細胞内での位置と機能特性とが異なる。細胞膜結合型ヌクレオシド三リン酸ジホスホヒドロラーゼは、ヌクレオチドのcリン酸塩及びbリン酸塩を加水分解することにより、細胞表面でのヌクレオチドレベルを制御する。
【0005】
NTPDアーゼ1(エクトヌクレオシド三リン酸ジホスホヒドロラーゼ1)(CD39/ENTPD1又は血管CD39としても既知である)は、別の酵素CD73(エクト-5’-ヌクレオチダーゼ)と一緒に機能して、細胞外アデノシン三リン酸(ATP)及び細胞外アデノシン二リン酸(ADP)を加水分解してアデノシンを生成し、このアデノシンは、アデノシン受容体に結合してT細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞の応答を阻害し、それにより免疫系が抑制される。CD73/CD39経路を介したアデノシンの生成は、制御性T細胞(Treg)の免疫抑制機能の主要な機構として認識されている。一部のヒト癌では、CD39+Tregの数が増加しており、いくつかのインビボモデルを使用して、腫瘍の増殖及び転移の促進におけるCD39+Tregの重要性が実証されている。しかしながら、CD39は、腫瘍細胞によっても発現されており、CD39+腫瘍細胞は、アデノシン経路を介して免疫抑制を媒介する可能性がある。癌細胞中のCD39は、ATPアーゼ活性を示し、CD73と一緒にアデノシンを生成する。CD73+CD39+癌細胞は、CD39依存的及びアデノシン依存的に、CD4 T細胞及びCD8 T細胞の増殖並びに細胞傷害性エフェクターCD8T細胞(CTL)の生成を阻害した。CD39は、いくつかの固形腫瘍(結腸直腸癌、頭頸部癌、膵癌)及び慢性リンパ球性白血病で増加していることが報告されている。CD39発現細胞中のCD39に結合して阻害する抗体は、特許文献1で開示されている。抗体「A1」(eBiosciences,Inc.)は、染色用途に使用され、細胞中のCD39活性を中和する能力を示さない。非特許文献1では、FcγRに結合し、且つエフェクター機能を有する抗CD39が使用されているが、ブロッキングであるとも述べられている。実際には、CD39をブロックしないか又は純粋なブロッカーでない抗体の使用と組み合わされた、様々な細胞タイプ(例えば、白血球及び腫瘍細胞)によるCD39発現により、抗体の根本的な活性の評価のための設定は複雑になる。今日まで、CD39活性部位の唯一の報告された阻害剤は、依然として、ARL67156に例示される小分子の非加水分解性ATP類似体であり、これは、この活性部位の直接阻害が必要であることを示唆する。しかしながら、ARL67156は、CD39に特異的ではなく、他のNTPDアーゼ(例えば、NTPDアーゼ1、NTPDアーゼ3、NPP1又はマウスNTPDアーゼ8)も阻害し、さらに弱い競合阻害剤としてのものであるにすぎない(非特許文献2)。
【0006】
C39は、N末端及びC末端の付近の2個の膜貫通ドメインと、短い細胞質N末端セグメント及び細胞質C末端セグメントと、活性部位を含む大きい細胞外ドメインとを有する。しかしながら、CD39は、概して、この分子の2個の端部における2個の膜貫通ドメインによって膜に固定されているが、CD39の可溶性触媒活性型がヒト及びマウスの循環中でも見られ得ることも最近報告されている(非特許文献3)。様々な抗CD39抗体が説明されているにもかかわらず、可溶性細胞外CD39タンパク質のATPアーゼ活性を阻害することができる抗体は、報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2009/095478号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hayes et al.(2015)Am.J.Transl.Res.7(6):1181-1188
【非特許文献2】Levesque et al.(2007)Br.J.Pharmacol.152:141-150
【非特許文献3】Yegutkin et al.,(2012)FASEB J.26(9):3875-3883
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、可溶性(細胞外ドメイン)ヒトCD39タンパク質の酵素活性(ATPアーゼ活性)を阻害する抗体を得ている。この抗体は、さらに、腫瘍細胞等の細胞の表面で発現されるヒトCD39タンパク質上に存在するエピトープに結合し、細胞膜結合型CD39酵素(細胞の表面で発現されるCD39)の酵素活性(ATPアーゼ活性)を強力に阻害する。この抗体を有利に使用して、膜結合型及び可溶性の両方のCD39タンパク質(溶液中での細胞外ドメインタンパク質)を中和することにより、個体でのCD39活性のより高い中和を達成し得、それにより例えば癌及び/又は感染性疾患の処置のために免疫抑制が低減される。膜結合型CD39酵素の酵素活性(ATPアーゼ活性)を阻害する他の抗CD39抗体が既に説明されているが、この抗体は、細胞膜に結合しない可溶性CD39タンパク質を阻害しない。
【0010】
従って、ある実施形態において、提供されるのは、可溶性CD39タンパク質(sCD39)に結合し、且つそのATPアーゼ活性を阻害又は中和する抗原結合ドメイン又はそのようなものを含むタンパク質(任意選択により、抗体又は抗体フラグメント)である。ある実施形態において、このsCD39タンパク質は、膜結合型CD39で見出される2個の膜貫通ドメイン(すなわちN末端及びC末端の付近の膜貫通ドメイン)を欠いている。ある実施形態において、sCD39は、例えば、ヒト個体の循環において見出される非膜結合型sCD39タンパク質である。ある実施形態において、sCD39は、配列番号44のアミノ酸配列を含むか又はこの配列からなる(任意選択により、C末端タグ又は別の非CD39由来アミノ酸配列をさらに含む)。ある実施形態において、本タンパク質、本抗体又は本抗体フラグメントは、例えば、本明細書で開示されたように細胞の非存在下で行われる方法又はアッセイ(例えば、実施例、方法を参照されたい)に従って溶液中でsCD39と共にインキュベートされた場合、sCD39のATPアーゼ活性を阻害する。ある実施形態において、本タンパク質、本抗体又は本抗体フラグメントは、可溶型(細胞外ドメインタンパク質)及び膜結合型の両方でヒトCD39タンパク質に特異的に結合する。
【0011】
理論に拘束されることを望まないが、一部の抗体は、膜結合型CD39(memCD39)のドメイン運動を阻害することにより、膜結合型CD39を中和し得るが、可溶性CD39タンパク質(sCD39)の活性に類似の影響を及ぼさない。memCD39は、ホモ多量体として生じるが、sCD39は単量体であることが報告されており、加えて、memCD39中の膜貫通ドメインは、活性部位との機能的関係の基礎をなす動的運動を受けることも報告されている。その結果、sCD39と異なり、memCD39は、抗体により媒介される中和を可能にする設定を提示する場合がある。1つの可能性は、(例えば、memCD39ホモ多量体内の)2個のmemCD39分子に同時に結合する二価抗体の使用が機能的中和に必要とされることである。
【0012】
sCD39(及びmemCD39)の活性を中和する本抗体は、二価バインダーとしての使用に加えて、sCD39に加えてmemCD39を標的としているかどうかにかかわらず、一価バインダーとしても有効であり得る。その結果、ある実施形態において、提供されるのは、ヒトCD39タンパク質(sCD39及び/又はmemCD39)に一価で結合し、且つその酵素(ATPアーゼ)活性を中和する抗原結合タンパク質である。この抗原結合タンパク質は、任意選択により、単一のCD39タンパク質に結合し、且つ/又はCD39タンパク質に結合することができる単一の抗原結合ドメインを有するとして規定され得る。ある実施形態において、提供されるのは、ヒトCD39タンパク質(sCD39及び/又はmemCD39)に一価で結合し、且つその酵素(ATPアーゼ)活性を中和する抗体フラグメント(任意選択により、F(ab)フラグメント、一本鎖抗体、scFv、多重特異的抗体)である。ある実施形態において、ヒトCD39タンパク質に一価で結合するCD39中和抗原結合タンパク質は、多重特異的抗原結合タンパク質(例えば、多重特異的抗体、二重特異的抗体、三重特異的抗体等)である。ある実施形態において、ヒトCD39タンパク質に一価で結合するCD39中和抗原結合タンパク質は、CD39(sCD39及び/又はmemCD39)に結合する第1の(又は単一の)抗原結合ドメインと、CD39以外のタンパク質に結合する第2の抗原結合ドメインとを含む。
【0013】
有利には、ある実施形態において、本抗体は、ヒトFcγ受容体(例えば、ヒトCD16、ヒトCD32a、ヒト32b及びヒトCD64の1つ又は複数(又は全て))への結合が減少しているか又はそれを実質的に欠いているように改変されているヒトFcドメインを含む。ある態様において、この抗体は、そのCD39阻害活性に関してADCC、CDC又は毒素により媒介されるCD39発現細胞の枯渇に依存しない。この抗体は、「純粋な」CD39ブロッカーとして使用され得、免疫調節活性を可能にする。
【0014】
代替実施形態において、本結合分子は、この結合分子が、そのFcドメインを介してエフェクター機能を保持及び/又は媒介するように生成され得る。ある実施形態において、この抗体は、ヒトFcγ受容体(例えば、ヒトCD16、ヒトCD32a、ヒトCD32b及びヒトCD64の1つ又は複数(又は全て))に結合するヒトFcドメインを含む。
【0015】
別の実施形態において、このFcドメインは、任意選択により、1つ又は複数のヒトFcγ受容体への結合を保持するが、1つ又は複数の他のヒトFcγ受容体への結合が減少していることにより、Fcγ受容体結合が減少するように改変され得る。
【0016】
ある態様において、本抗体は、血管CD39に特異的に結合し、例えば、この抗体は、配列番号1の配列を有するポリペプチドに結合するが、分泌型CD39アイソフォームポリペプチド(例えば、CD39-L2ポリペプチド及び/又はCD39-L4ポリペプチド)に結合しない。任意選択により、本抗CD39抗体は、血管CD39に特異的に結合し、例えば、この抗体は、配列番号1の配列を有するポリペプチドに結合するが、膜結合型CD39アイソフォーム(例えば、CD39-L1ポリペプチド及び/又はCD39-L3ポリペプチド)に結合しない。
【0017】
本開示の抗体は、細胞の表面で発現される膜結合型CD39タンパク質の酵素活性を阻害し得る。
【0018】
ある態様において、この抗体は、そのCD39阻害活性に関してCD39下方調節に依存しない。
【0019】
本開示の抗体は、CD39の内部移行の誘導の有無にかかわらず及びCD16(FcγIII受容体)の結合の有無にかかわらず、並びに/又はCD39発現細胞へのADCC及び/若しくはCDCの実質的な指向の有無にかかわらず、可溶性CD39の阻害に加えて、細胞の表面で発現される膜結合型CD39タンパク質の酵素活性を阻害し得る。任意選択により、この抗体は、Fcドメインを保持し、且つヒトFcRnへの結合を保持する。
【0020】
ADCC及び/又はCDCの誘導により機能する抗体は、CD39のATPアーゼ活性の完全な中和/阻害を伴わなくても効率的であり得るが、十分な抗体がCD39発現細胞に結合してADCCが誘導される限り、中和する非枯渇性抗体は、ATPアーゼの酵素活性のより強力な阻害を必要とする場合がある。ある実施形態において、非枯渇性抗体は、任意選択により、さらにヒトへの抗体の投与に適合する濃度において、(例えば、本明細書で開示された方法によって評価される場合に)可溶性CD39タンパク質のATPアーゼ活性の少なくとも50%、60%、70%、80%又は90%の低下をもたらすであろう。ある実施形態において、非枯渇性抗体は、任意選択により、さらにヒトへの抗体の投与に適合する濃度において、本明細書で開示された方法によって測定される場合、(例えば、CD39+細胞(例えば、B細胞、Ramos細胞)によるAMP生成の減少によって評価される場合にCD39発現細胞のATPアーゼ活性の少なくとも70%、80%、90%の低下をもたらすであろう。
【0021】
抗体が結合するCD39上のエピトープは、様々な細胞(例えば、癌細胞、CD4T細胞、CD8T細胞、B細胞、遺伝子移入細胞)によって発現されるCD39ポリペプチド上に存在し、フローサイトメトリーによって決定される場合に高親和性で結合する。
【0022】
抗体は、任意選択により、表面でCD39ポリペプチドを発現する細胞への結合に関して、2μg/ml以下、1μg/ml以下、0.5μg/ml以下、0.1μg/ml以下又は0.05μg/ml以下の、フローサイトメトリーによって決定されるEC50によって特徴付けられ得る。ある実施形態において、この細胞は、表面でCD39を発現するように作製されている細胞である。ある実施形態において、この細胞は、表面でCD39を内因的に発現する細胞であり、例えば制御性T(TReg)細胞、B細胞、癌細胞、リンパ腫細胞(例えば、Ramos細胞)、白血病細胞、膀胱癌細胞、神経膠腫細胞、神経膠芽腫細胞、卵巣癌細胞、黒色腫細胞、前立腺癌細胞、甲状腺癌細胞、食道癌細胞又は乳癌細胞である。
【0023】
ある態様において、提供されるのは、(a)細胞の表面で発現された膜結合型CD39タンパク質(例えば、配列番号1のアミノ酸配列を含む)の酵素活性を阻害することができ、且つ(b)可溶性CD39タンパク質(例えば、配列番号44のアミノ酸配列を含む)の酵素活性を阻害することができる抗CD39抗体である。ある実施形態において、この抗体は、ヒトFcγ受容体(例えば、CD16、CD32a、CD32b、CD64)及び/若しくはC1qに(例えば、この抗体のFcドメインを介して)実質的に結合せず、且つ/又はADCC及び/若しくはCDCをCD39発現細胞に実質的に向けない。任意選択により、この抗体は、Fcドメインを保持し、且つヒトFcRnへの結合を保持する。
【0024】
ある実施形態において、この抗体は、抗CD39抗体の次の連続投与まで、所望の期間(例えば、1週間、2週間、1ヶ月)にわたり、sCD39及び/又はmemCD39の酵素活性を中和するのに有効な量で投与される。
【0025】
ある実施形態において、この抗体は、少なくとも、sCD39タンパク質のATPアーゼ活性の阻害に関するEC50、EC70又はEC100に等しい抗体の血中濃度をもたらす投与量及び/又は頻度で投与され、任意選択により、この濃度は、少なくとも1週間、2週間、1ヶ月にわたり維持されるか、又は抗CD39抗体の次の連続投与まで維持される。
【0026】
ある態様において、本抗体は、R138、M139及びE142(配列番号1を基準とする)からなる群から選択されるアミノ酸残基(例えば、これらの残基の1つ、2つ又は3つ)を含むCD39上のエピトープに結合する。
【0027】
ある態様において、抗CD39抗体は、野生型CD39ポリペプチド(配列番号1のCD39ポリペプチド)と比較して、R138、M139及びE142(配列番号1を基準とする)からなる群から選択される残基の1つ、2つ又は3つで突然変異を有するCD39ポリペプチドへの結合の減少(例えば、実質的に完全な結合の喪失)を示し、任意選択により、突然変異体CD39ポリペプチドは、突然変異R138A、M139A及びE142Kを有する。任意選択のある態様において、この抗体は、突然変異体19以外の表1の突然変異体CD39ポリペプチドの何れかへの結合を喪失していない。別の任意選択の態様において、この抗CD39抗体は、野生型CD39ポリペプチド(配列番号1のCD39ポリペプチド)と比較して、Q96、N99、E143及びR147(配列番号1を基準とする)からなる群から選択される残基の1つ、2つ、3つ又は4つで突然変異を有するCD39ポリペプチドへの結合の減少(任意選択により、減少しているが、実質的に完全ではない結合の喪失;又は任意選択により、実質的に完全な結合の喪失)を示し、任意選択により、突然変異体CD39ポリペプチドは、突然変異Q96A、N99A、E143A及びR147Eを有する。
【0028】
ある態様において、本抗体は、Q96、N99、E143及びR147(配列番号1を基準とする)からなる群から選択されるアミノ酸残基(例えば、これらの残基の1つ、2つ、3つ又は4つ)を含むCD39上のエピトープに結合する。ある態様において、本抗体は、本抗体と、配列番号1のアミノ酸配列を含む野生型CD39ポリペプチドとの間の結合と比較して、それぞれの場合にQ96、N99、E143及びR147(配列番号1を基準とする)からなる群から選択される1つ、2つ、3つ又は4つの残基で突然変異を含む突然変異体CD39ポリペプチドへの結合が減少している(例えば、実質的に完全な結合の喪失)。
【0029】
ある態様において、本抗体は、(a)R138、M139及びE142(配列番号1を基準とする)からなる群から選択されるアミノ酸残基(例えば、これらの残基の1つ、2つ又は3つ)と、(b)Q96、N99、E143及びR147からなる群から選択されるアミノ酸残基(例えば、これらの残基の1つ、2つ、3つ又は4つ)とを含むCD39上のエピトープに結合する。
【0030】
ある態様において、抗CD39抗体は、野生型CD39ポリペプチド(配列番号1のCD39ポリペプチド)と比較して、それぞれの場合に(a)Q96、N99、E143及びR147(配列番号1を基準とする)からなる群から選択される残基の1つ、2つ、3つ又は4つで突然変異を有するCD39ポリペプチドと、(b)R138、M139及びE142(配列番号1を基準とする)からなる群から選択される残基の1つ、2つ又は3つで突然変異を有するCD39ポリペプチドとの両方への結合の減少(例えば、実質的に完全な結合の喪失)を示す。任意選択により、(a)の突然変異体CD39ポリペプチドは、突然変異Q96A、N99A、E143A及びR147Eを有する。任意選択により、(b)の突然変異体CD39ポリペプチドは、突然変異R138A、M139A及びE142Kを有する。任意選択により、この抗体は、突然変異体5及び19以外の表1の突然変異体CD39ポリペプチドの何れかへの結合を喪失していない。
【0031】
ある態様において、本抗体は、K87、E100及びD107(配列番号1を基準とする)からなる群から選択されるアミノ酸残基(例えば、これらの残基の1つ、2つ、3つ又は4つ)を含むCD39上のエピトープに結合する。
【0032】
ある態様において、抗CD39抗体は、野生型CD39ポリペプチド(配列番号1のCD39ポリペプチド)と比較して、K87、E100及びD107(配列番号1を基準とする)からなる群から選択される残基の1つ、2つ、3つ又は4つで突然変異を有するCD39ポリペプチドへの結合の減少(実質的に完全な結合の喪失)を示し、任意選択により、突然変異体CD39ポリペプチドは、突然変異K87A、E100A及びD107Aを有する。任意選択により、この抗体は、突然変異体15以外の表1の突然変異体CD39ポリペプチドの何れかへの結合を喪失していない。
【0033】
ある態様において、本抗体は、N371、L372、E375、K376及びV377(配列番号1を基準とする)からなる群から選択されるアミノ酸残基(例えば、これらの残基の1つ、2つ、3つ又は4つ)を含むCD39上のエピトープに結合する。
【0034】
ある態様において、抗CD39抗体は、野生型CD39ポリペプチド(配列番号1のCD39ポリペプチド)と比較して、N371、L372、E375、K376及びV377(配列番号1を基準とする)からなる群から選択される残基の1つ、2つ、3つ、4つ又は5つで突然変異を有するCD39ポリペプチドへの結合の減少(例えば、実質的に完全な結合の喪失)を示し、任意選択により、突然変異体CD39ポリペプチドは、突然変異N371K、L372K、E375A、K376G及びV377Sと、残基376及び377間のバリンの挿入とを有する。任意選択により、この抗体は、突然変異体11以外の表1の突然変異体CD39ポリペプチドの何れかへの結合を喪失していない。
【0035】
ある実施形態において、本CD39中和抗体は、精製済形態において、細胞フリーアッセイでsCD39タンパク質のATPアーゼ活性の低下を引き起こし得ることによって特徴付けられ得、任意選択により、少なくとも70%、80%又は90%の、sCD39によるAMP生成の減少を引き起こし、任意選択により、例えば本明細書で開示されたアッセイで評価される場合、(陰性対照と比較して)存在するATPの増加を生じさせる。例えば、sCD39阻害を、抗CD39抗体とのインキュベーション後に存在するATPの量に比例する発光ユニットを定量することによって評価し得る。ある実施形態において、このCD39中和抗体は、1μg/ml以下、任意選択により0.5μg/ml以下、任意選択により0.1μg/ml以下の、sCD39タンパク質のATPアーゼ活性の阻害に関するEC50によって特徴付けられ得る。
【0036】
任意選択により、sCD39タンパク質のATPアーゼ活性の阻害を、試験抗体の用量範囲を37℃で1時間にわたり実施例、方法で説明されている可溶性組換えヒトCD39タンパク質と共にインキュベートする細胞フリーバージョンのアッセイにおいて、Cell Titer Glo(商標)(Promega)を使用して定量することによって決定し、20μMのATPを、37℃でさらに30分にわたりプレートに添加した後にCell Titer Glo(商標)(CTG)試薬を添加し、暗所での5分にわたるインキュベーション後、Enspire(商標)ルミノメーターを使用して放射光を定量する(例えば、実施例、方法を参照されたい)。
【0037】
任意選択により、本CD39中和抗体は、精製済形態において、CD39の細胞のATPアーゼ活性の低下を引き起こし得ることによってさらに特徴付けられ得、任意選択で、少なくとも70%、80%又は90%の、CD39発現細胞によるAMP生成の減少を生じさせる。ある実施形態において、このCD39中和抗体は、1μg/ml以下、任意選択により0.5μg/ml以下、任意選択により0.1μg/ml以下の、細胞によって発現されるCD39のATPアーゼ活性の阻害に関するEC50(例えば、CD39発現細胞によるAMP生成の阻害に関するEC50)によって特徴付けられ得る。
【0038】
任意選択により、細胞によって発現されるCD39のATPアーゼ活性の阻害は、ATPの加水分解によって生成されたAMPを定量することにより、Ramos細胞中でのATPアーゼ活性の中和を評価することによって決定される(例えば、実施例、方法を参照されたい)。
【0039】
ある態様において、CD39発現細胞によるATPアーゼ活性の中和を、CD39発現細胞(例えば、本明細書で使用されるRamosリンパ腫細胞、例えばATCC、リファレンスCRL-1596から入手可能)を抗体と接触させ、且つ例えば質量分析によってAMPの産生を評価することによって決定し、生成されたAMPの減少は、ATPアーゼ活性の中和を示す。任意選択により、抗体は、このアッセイにおいて、少なくとも70%、80%又は90%の、生成されたAMPの減少を生じさせる。任意選択により、抗体は、少なくとも70%、80%又は90%の、B細胞による細胞外ATPアーゼ活性の減少を生じさせる。
【0040】
ある態様において、提供されるのは、sCD39と、細胞表面で発現されるCD39(memCD39)との両方に存在する抗原決定基に結合する中和抗CD39抗体である。
【0041】
提供されるある態様で提供されるのは、抗体I-394が結合するCD39上のエピトープへの結合に関して競合する(例えば、CD39ポリペプチド上のエピトープへの結合に関して、I-394の何れかの重鎖CDR及び軽鎖CDR又は可変領域を有する抗体と競合する)中和抗CD39抗体である。
【0042】
本明細書の実施形態の何れかのある態様において、提供されるのは、モノクローナル抗体I-394と同一のエピトープに結合し、且つ/又はCD39ポリペプチドへの結合に関して競合する(例えば、I-394の重鎖CDR及び軽鎖CDR又は可変領域を有する抗体と同一のエピトープに結合し、且つ/又はCD39ポリペプチドへの結合に関して競合する)抗原結合化合物である。ある実施形態において、提供されるのは、配列番号6及び配列番号7のVH領域及びVL領域をそれぞれ有する抗体と同一のエピトープに結合し、且つ/又はCD39ポリペプチドへの結合に関して競合する抗原結合化合物である。
【0043】
ある実施形態において、抗CD39抗体は、I-394が結合するCD39上のアミノ酸残基からなる群から選択される1つ、2つ又は3つのアミノ酸残基を含むエピトープに結合する。
【0044】
本明細書の実施形態の何れかのある態様において、提供されるのは、モノクローナル抗体I-395と同一のエピトープに結合し、且つ/又はCD39ポリペプチドへの結合に関して競合する(例えば、I-395の重鎖CDR及び軽鎖CDR若しくは可変領域を有する抗体と同一のエピトープに結合し、且つ/又はCD39ポリペプチドへの結合に関して競合する)抗原結合化合物(例えば、抗体又は抗体フラグメント)である。本明細書の実施形態の何れかのある態様において、提供されるのは、モノクローナル抗体I-396と同一のエピトープに結合し、且つ/又はCD39ポリペプチドへの結合に関して競合する(例えば、I-396の重鎖CDR及び軽鎖CDR若しくは可変領域を有する抗体と同一のエピトープに結合し、且つ/又はCD39ポリペプチドへの結合に関して競合する)抗原結合化合物である。本明細書の実施形態の何れかのある態様において、提供されるのは、モノクローナル抗体I-397と同一のエピトープに結合し、且つ/又はCD39ポリペプチドへの結合に関して競合する(例えば、I-397の重鎖CDR及び軽鎖CDR若しくは可変領域を有する抗体と同一のエピトープに結合し、且つ/又はCD39ポリペプチドへの結合に関して競合する)抗原結合化合物である。本明細書の実施形態の何れかのある態様において、提供されるのは、モノクローナル抗体I-398と同一のエピトープに結合し、且つ/又はCD39ポリペプチドへの結合に関して競合する(例えば、I-398の重鎖CDR及び軽鎖CDR若しくは可変領域を有する抗体と同一のエピトープに結合し、且つ/又はCD39ポリペプチドへの結合に関して競合する)抗原結合化合物である。本明細書の実施形態の何れかのある態様において、提供されるのは、モノクローナル抗体I-399と同一のエピトープに結合し、且つ/又はCD39ポリペプチドへの結合に関して競合する(例えば、I-399の重鎖CDR及び軽鎖CDR若しくは可変領域を有する抗体と同一のエピトープに結合し、且つ/又はCD39ポリペプチドへの結合に関して競合する)抗原結合化合物である。
【0045】
ある実施形態において、本結合分子(例えば、抗体又は抗体フラグメント)は、可変重鎖ドメイン(VH)であって、抗体I-394、I-395、I-396、I-397、I-398若しくはI-399に関する重鎖CDR1、重鎖CDR2及び重鎖CDR3(例えば、本明細書で説明されている)を含む可変重鎖ドメイン(VH)と、可変軽鎖ドメイン(VL)であって、それぞれI-394抗体、I-395抗体、I-396抗体、I-397抗体、I-398抗体若しくはI-399抗体に関する軽鎖CDR1、軽鎖CDR2及び軽鎖CDR3(例えば、本明細書で説明されている)を含む可変軽鎖ドメイン(VL)とを含むか、又はCDR(又は重鎖CDR及び/若しくは軽鎖CDRのセット)が前記CDR(又は重鎖CDR及び/若しくは軽鎖CDRの前記セット)に対する少なくとも70%、80%、90%又は95%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を含む。本明細書の実施形態の何れかのある態様において、本抗体は、重鎖であって、抗体I-394、I-395、I-396、I-397、I-398又はI-399の重鎖可変領域(VH)の3個のCDRを含む重鎖と、軽鎖であって、それぞれI-394抗体、I-395抗体、I-396抗体、I-397抗体、I-398抗体又はI-399抗体の軽鎖可変領域(VL)の3個のCDRを含む軽鎖とを含み得、任意選択により、CDRは、Kabat、Chothia又はIMGTのナンバリングスキームに従って決定される。
【0046】
ある態様において、提供されるのは、Fcドメインを含む抗体であって、このFcドメインは、このFcドメインと、ヒトC16Aポリペプチド、ヒトCD16Bポリペプチド、ヒトCD32Aポリペプチド、ヒトCD32Bポリペプチド及び/又はヒトCD64ポリペプチドとの間の結合を(同一のアイソタイプの野生型Fcドメインと比較して)減少させるように改変されており、この抗体は、(i)配列番号6の重鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖と、(ii)配列番号7の軽鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖とを含む、抗体である。ある態様において、このFcドメインは、このFcドメインとヒトC1qポリペプチドとの間の結合を(同一のアイソタイプの野生型Fcドメインと比較して)減少させるように改変されている。ある実施形態において、この抗体は、220、226、229、233、234、235、236、237、238、243、264、268、297、298、299、309、310、318、320、322、327、330及び331(Kabat EUナンバリング)からなる群から選択される残基の何れか1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又はより多くで重鎖定常領域中にアミノ酸置換を含む。ある実施形態において、この抗体は、234、235、237、322、330及び331からなる群から選択される残基の何れか3つ、4つ、5つ又はより多くで重鎖定常領域中にアミノ酸置換を有する。
【0047】
ある実施形態において、腫瘍微小環境及び/又は循環においてsCD39の活性を中和するのに十分な量及び頻度において、癌を有する個体に本抗体を投与する。ある実施形態において、腫瘍微小環境中におけるアデノシンの生成及び/又は濃度を減少させるのに十分な量及び頻度で本抗体を投与する。ある実施形態において、腫瘍微小環境中におけるAMP及び/又はアデノシンの生成及び/又は濃度を減少させるのに十分な量及び頻度で本抗体を投与する。ある実施形態において、腫瘍細胞によって発現されるCD39の活性を中和するのに十分な量及び頻度で本抗体を投与する。ある実施形態において、白血球又はリンパ球(例えば、CD4T細胞、CD8T細胞、TReg細胞及び/又はB細胞)によって発現されるCD39の活性を中和するのに十分な量及び頻度で本抗体を投与する。
【0048】
本抗体は、CD39により媒介されるATP加水分解の阻害で有用であり、例えばそれにより腫瘍微小環境及び/又は循環中におけるアデノシンの濃度の低下がもたらされる。従って、この抗体は、例えば、癌の処置において、T細胞、B細胞及びアデノシン受容体(A2A受容体)を発現する他の細胞へのCD39及び/又はアデノシンの免疫抑制効果の逆転で有用であるであろう。ある実施形態において、本抗CD39抗体は、T細胞中での増殖、サイトカイン産生、細胞傷害性及び/又はNFκB活性のアデノシンにより媒介される阻害を中和する。
【0049】
本抗体は、腫瘍微小環境中への及び/又は循環中でのアデノシンの産生、量及び/又は濃度の阻害で有用であるであろう。
【0050】
別の態様において、提供されるのは、個体を処置するための方法であって、本明細書で説明された抗CD39抗原結合化合物の何れかの治療的有効量を個体(例えば、疾患、腫瘍等を有する個体)に投与することを含む方法である。ある態様において、提供されるのは、個体を処置するための方法であって、CD39ポリペプチドを阻害する本開示の抗原結合化合物の治療的有効量を個体(例えば、疾患、腫瘍等を有する個体)に投与することを含むか、それから基本的になるか、又はそれからなる方法である。ある実施形態において、この抗CD39抗原結合化合物(例えば、抗体)を第2の治療薬、任意選択によりヒトPD-1の阻害活性を中和する治療薬(例えば、抗体)、任意選択により抗PD-1抗体、任意選択により抗PD-L1抗体と組み合わせて個体に投与する。ある実施形態において、この抗CD39抗原結合化合物(例えば、抗体)を、癌を有する個体であって、ヒトPD-1の阻害活性を中和する薬剤による処置への反応が不良であるか、又はこの反応に関する予後が不良である個体に投与する。ある実施形態において、この抗体は、細胞アッセイにおいてCD39ポリペプチドを阻害する。この化合物は、ある実施形態において、非枯渇性抗体(結合する細胞を枯渇させない抗体、例えばFcサイレント抗体)である。任意選択により、この化合物は、二価でCD39ポリペプチドに結合する。任意選択により、この抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体である。任意選択により、この抗体は、ヒトFcγ受容体(例えば、CD16A、CD16B、CD32A、CD32B及び/又はCD64)への結合を排除するように改変されたIgG(例えば、IgG1)アイソタイプの重鎖定常領域を含む。
【0051】
別の態様において、従来の医薬製剤中での安定性及び/又は溶解性が増加している抗体を医薬製剤中において他の抗体と有利に組み合わせ得る。ある実施形態において、提供されるのは、医薬製剤であって、(i)CD39ポリペプチドを阻害し、且つ安定性の増加を示す抗体、例えばCDR中に複数の芳香族残基を含み、且つKabat位置234、235、237、322、330及び331での残基の何れか3つ、4つ、5つ又はより多くでアミノ酸置換を含む改変ヒトIgG1 Fcドメインを含む、抗体と、(ii)ヒトIgGアイソタイプの第2の抗体、任意選択により、抗癌活性を有する第2の抗体とを含む医薬製剤である。ある実施形態において、第2の抗体は、この第2の抗体が結合している細胞に向かってADCCを誘導することができ、任意選択により、この第2の抗体は、腫瘍細胞上に存在する抗原(腫瘍抗原)に結合する。ある実施形態において、第2の抗体は、この第2の抗体の超可変領域が結合するタンパク質の活性を中和することができる。ある実施形態において、提供されるのは、医薬製剤であって、(i)CD39ポリペプチドを阻害し、且つ安定性の増加を示す抗体、例えばCDR中に複数の芳香族残基を含み、且つKabat位置234、235、237、322、330及び331での残基の何れか3つ、4つ、5つ又はより多くでアミノ酸置換を含む改変ヒトIgG1 Fcドメインを含む、抗体と、(ii)ヒトIgGアイソタイプの第2の抗体であって、ヒトPD-1の阻害活性、任意選択により抗PD-1抗体の阻害活性、任意選択により抗PD-L1抗体の阻害活性を中和する第2の抗体とを含む医薬製剤である。ある実施形態において、本抗CD39抗体及び第2の抗体の両方は、Kabat位置234、235、237、322、330及び331での残基の何れか3つ、4つ、5つ又はより多くでアミノ酸置換を含む改変ヒトIgG1 Fcドメインを含む。
【0052】
ある態様において、提供されるのは、CD39発現細胞(例えば、個体の白血球及び/又は腫瘍細胞)によるATP加水分解を減少させるための方法又は細胞性CD39の酵素活性の中和のための方法であって、CD39発現細胞を、CD39を阻害する本開示の抗体と接触させることを含む方法である。ある実施形態において、CD39発現細胞を本開示の抗原結合化合物と接触させるステップは、CD39を阻害する抗体の治療的有効量を個体に投与することを含む。ある実施形態において、この個体は、癌を有する。
【0053】
ある態様において、提供されるのは、(例えば、個体での)腫瘍環境中に存在するアデノシンを減少させるための方法であって、CD39ポリペプチドを阻害する本開示の抗体の治療的有効量を個体に投与することを含むか、それから基本的になるか、又はそれからなる方法である。ある実施形態において、この個体は、癌を有する。
【0054】
ある実施形態において、CD39ポリペプチドを阻害する抗体の有効量とは、個体におけるATPからAMPへのCD39に媒介される異化の阻害に関する少なくともEC50(任意選択によりEC70、任意選択により実質的にEC100)の血中濃度を(例えば、抗原結合化合物のその後の投与までに)達成及び/又は維持するのに有効な量である。ある実施形態において、CD39ポリペプチドを阻害する抗原結合化合物の有効量とは、個体の血管外組織中におけるATPからAMPへのCD39に媒介される異化の阻害に関するEC50(任意選択によりEC70、任意選択により実質的にEC100)を達成するのに有効な量である。ある実施形態において、CD39ポリペプチドを阻害する抗原結合化合物の有効量とは、個体におけるATPからAMPへのCD39に媒介される異化の阻害に関するEC50(任意選択によりEC70、任意選択により実質的にEC100)を達成するのに有効な量である。ある実施形態において、CD39ポリペプチドを阻害する抗原結合化合物の有効量は、1~20mg/kg体重である。ある実施形態において、この有効量を1週間毎、2週間毎、1ヶ月毎又は二ヶ月毎に個体に投与する。
【0055】
任意選択により、この個体は、癌を有するか又は癌を有しやすいヒトである。任意選択により、この個体は、CD39及び/又は存在(分泌若しくは放出)又は可溶性のCD39タンパク質を発現する悪性細胞によって特徴付けられる癌を有するか又はこの癌を有しやすいヒトである。任意選択により、この個体は、癌を有するか又を有しやすく、且つ循環性の可溶性細胞外CD39タンパク質又はCD39を発現する腫瘍浸潤性の白血球を検出可能なレベルで有するヒトである。
【0056】
この抗体は、任意選択により、10-9M未満(それよりも良好な)、好ましくは10-10M未満若しくは好ましくは10-11M未満のヒトCD39ポリペプチドに対する結合親和性(KD)によって特徴付けられ、且つ/又は1μg/ml未満(それよりも良好な結合)におけるEC50でのヒトCD39との結合によって特徴付けられ、好ましくは、この抗体は、細胞表面でヒトCD39を発現する細胞(例えば、腫瘍細胞)への結合に関して、0.5μg/ml以下、任意選択により0.2μg/ml以下、任意選択により0.1μg/ml以下のEC50を有する。
【0057】
この抗体は、任意選択により、キメラ抗体、ヒト抗体又はヒト化抗体である。
【0058】
この抗体は、任意選択により、1μg/ml未満(それよりも良好な)、任意選択により0.5μg/ml未満の、CD39発現細胞(例えば、Ramos腫瘍細胞)中におけるCD39の酵素活性の中和に関するEC50によって特徴付けられる。
【0059】
ある実施形態において、この抗体は、結合特異性と、CD39の酵素活性を中和する能力とを保持するモノクローナル抗体又はそのフラグメントである。ある実施形態において、この抗体は、IgG1抗体である。例えば、この抗体は、ヒトIgG1アイソタイプのFcドメインであって、このFcドメインと、Fcγ受容体(例えば、CD16)との間の結合を減少させるように改変されているヒトIgG1アイソタイプのFcドメインを含む抗体であり得る。ある実施形態において、この抗原結合化合物は、Fcドメインを欠いているか、又は抗体介在細胞性細胞傷害(ADCC)及び/若しくはCDCを誘導しないFcドメインを含み、任意選択により、この抗原結合化合物は、FcγRIIIA(CD16)ポリペプチドに結合しないFcドメインを含む。ある実施形態において、このFcドメイン(例えば、ヒトIgG1アイソタイプ、ヒトIgG2アイソタイプ、ヒトIgG3アイソタイプ又はヒトIgG4アイソタイプに由来する)は、野生型Fcドメインと比較してアミノ酸改変(例えば、置換)を含み、この置換により、このFcドメイン(又はこのFcドメインを含む抗体)のFcγ受容体(例えば、CD16)に結合する能力及び/又は補体に結合する能力が低下する。ある実施形態において、この抗原結合化合物は、毒性部分に連結されていない。
【0060】
また、提供されるのは、先述の特性の何れかを有する、ヒト又はヒト化抗体又は抗体断片をコードする核酸、このような核酸を含むベクター、このようなベクターを含む細胞、抗CD39抗体の発現に適切な条件下でこのような細胞を培養することを含むヒト抗CD39抗体を産生させる方法である。本開示は、このようなタンパク質、核酸、ベクター及び/又は細胞及び一般的には活性成分又は本組成物の処方、送達、安定性若しくは他の特徴を促進する不活性成分であり得る1つ以上のさらなる成分(例えば、様々な担体)を含む、組成物、例えば薬学的に許容可能な組成物及びキットにも関する。本開示は、CD39介在性生物学的活性の調整などにおいて、例えばそれに関連する疾患、特に癌の処置において、このような抗体、核酸、ベクター、細胞、生物及び/又は組成物を作製し且つ使用する、様々な新規の及び有用な方法にさらに関する。
【0061】
本開示は、リンパ球(例えば、T細胞)の活性の増強を、それを必要とする対象において行う方法、又はリンパ球(例えば、T細胞)の活性を回復させるための方法、又はリンパ球(例えば、T細胞)のアデノシンにより媒介される阻害を軽減する方法であって、上述の組成物の何れかの有効量を対象に投与することを含む方法も提供する。ある実施形態において、この対象は、癌に罹患している患者である。例えば、この患者は、固形腫瘍、例えば結腸直腸癌、腎癌、卵巣癌、肺癌、乳癌又は悪性の黒色腫に罹患している可能性がある。或いは、この患者は、造血癌、例えば急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、多発性骨髄腫又は非ホジキンリンパ腫に罹患している可能性がある。
【0062】
本開示は、個体の疾患の処置のための方法であって、この処置は、CD39の酵素活性の中和のために(例えば、0.05~1μg/ml、0.1~1μg/mlのEC100)、少なくともEC50(例えば、0.01~0.5μg/mlのEC50)、任意選択によりEC70又は任意選択によりEC100に対応する血液(若しくは血清)又は血管外組織(例えば、腫瘍環境)中における濃度を抗CD39抗体の2回の連続する投与間で達成及び/又は維持するのに有効な量で抗CD39抗体を少なくとも1回(任意選択により少なくとも2回)投与する少なくとも1回の投与サイクルにわたり、CD39の酵素活性を中和する抗CD39抗体を個体に投与することを含む、方法も提供する。この抗体を、例えば少なくとも約0.1μg/ml、0.5μg/ml、1μg/ml又は2μg/mlの循環又は細胞外組織(例えば、腫瘍環境)中における濃度を達成及び/又は維持するための量で投与し得る。例えば、0.05~1μg/ml又は0.1~1μg/mlの血管外組織中における濃度を達成するために、この抗CD39抗体を、0.5~10μg/ml又は1~10μg/mlの抗CD39抗体の循環中における濃度を達成するのに有効な量で投与する。任意選択により、この抗CD39抗体を、抗CD39抗体の2回の連続投与間で少なくとも1週間、2週間、3週間、4週間及び/又は投与サイクル全体にわたって少なくとも2回投与し、且つ抗CD39抗体の濃度を少なくとも上述の濃度に維持するのに有効な量で投与する。
【0063】
本開示は、個体の疾患の処置のための方法であって、この処置は、少なくとも1μg/ml、任意選択により少なくとも10μg/ml、任意選択により1~100μg/mlの抗CD39抗体の血中濃度又は組織中濃度を抗CD39抗体の2回の連続する投与間で達成及び/又は維持するのに有効な量で抗CD39抗体を少なくとも1回(任意選択により少なくとも2回)投与する少なくとも1回の投与サイクルにわたり、CD39の酵素活性を中和する抗CD39抗体を個体に投与することを含む、方法も提供する。任意選択により、この抗CD39抗体を抗CD39抗体の2回の連続投与間で少なくとも1週間、2週間、3週間、4週間及び/又は投与サイクル全体にわたって少なくとも2回投与し、且つ少なくとも1μg/ml、任意選択により少なくとも10μg/ml、任意選択により1~100μg/mlの抗CD-39抗体の連続した血中濃度又は組織中濃度を維持するのに有効な量で投与する。
【0064】
これらの態様は、本明細書に記載された説明でより詳細に説明されており、追加の態様、特徴及び利点は、本明細書に記載された説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【
図1】代表的なスクリーニング結果を示し、陽性対照I-394抗体と比較した抗体I-397、I-398及びI-399を示す。
【0066】
【
図2】
図2Aは、抗体BY40、I-394、I-395及びI-396が細胞膜結合型CD39を阻害し、I-394及びI-395の両方が全ての濃度でより高い効力を示すだけでなく、BY40と比較して細胞性CD39のより大きい最大阻害も示すことを示す。
図2Bは、抗体I-395及びI-396は、両方とも陰性対照抗体(BY40)及び陽性対照抗体(I-394)と比較して可溶性CD39を阻害することを示す。
【0067】
【
図3A】CD39タンパク質の表面上の突然変異体5(M5)、15(M15)及び19(M19)で突然変異した残基の位置を示す。
【0068】
【
図3B】様々な抗体に関する突然変異体5、15及び19への結合の結果を示す。
【0069】
【
図4】フローサイトメトリーによって評価した場合の、ヒトCD39を発現する細胞への抗体I-394の結合を示す。I-394は、ヒトCD39を発現する細胞(CHO-huCD39)、カニクイザルCD39を発現する細胞(CHO-cyCD39)及びRamosリンパ腫細胞に結合するが、マウスCD39を発現する細胞(CHO-moCD39)に結合しない。
【0070】
【
図5】抗体I-394は、存在するATPの量に比例する発光単位を定量することによって評価した場合、腫瘍(Ramos)細胞、ヒトCD39を発現する細胞(CHO-huCD39)及びカニクイザルCD39を発現する細胞(CHO-cyCD39)中でのCD39酵素活性のブロッキングで非常に強力であることを示す。
【0071】
【
図6】抗体I-394は、存在するATPの量に比例する発光単位を定量することによって評価した場合、可溶性組換えヒトCD39タンパク質の酵素活性のブロッキングで非常に強力であることを示す。
【0072】
【
図7】ELISAアッセイで評価した場合、抗体I-394は、ヒトCD39に結合するが、ヒトアイソフォームCD39-L1、CD39-L2、CD39-L3又はCD39-L4の何れにも結合しないことを示す。
【0073】
【
図8】CD4T細胞活性化へのATPにより媒介されるDC活性化の効果を評価するための実験手順を示し、ATP活性化DCを洗浄し、次いで5日間の混合リンパ球反応(MLR)のために同種のCD4T細胞と共に(比1 MoDC/4 T細胞)インキュベートした。T細胞の活性化及び増殖をフローサイトメトリーによるCD25発現及びCell Trace Violet希釈により分析した。
【0074】
【
図9】moDCによるHLA-DR発現を示す。この図は、抗CD39ブロッキング抗体I-394及びCD39の化学的阻害剤が0.125mM、0.25mM又は0.5mMのそれぞれでmoDC活性化をもたらしたことを示す。しかしながら、抗CD39抗体BY40又は抗CD73抗体は、樹状細胞(DC)のATPにより誘導される活性化を促進することができず、これは、抗体が、ATPの異化を回避するのに十分に酵素活性をブロックできないことを示唆する。凡例(上から下へ)は、グラフ中のバー(左から右へ)に対応する。
【0075】
【
図10】moDCによるCD83発現を示す。この図は、抗CD39ブロッキング抗体I-394及びCD39の化学的阻害剤が0.125mM、0.25mM又は0.5mMのそれぞれでmoDC活性化をもたらしたことを示す。しかしながら、抗CD39抗体BY40又は抗CD73抗体は、樹状細胞(DC)のATPにより誘導される活性化を促進することができず、これは、抗体が、ATPの異化を回避するのに十分に酵素活性をブロックできないことを示唆する。凡例(上から下へ)は、グラフ中のバー(左から右へ)に対応する。
【0076】
【
図11】CD25発現を示し、ATPの存在下で活性化されたMoDCがMLRアッセイにおいてT細胞の活性化及び増殖を誘導できたことを示し、抗CD39ブロッキング抗体I-394による、ATPにより媒介されたMoDC活性化の増強により、T細胞の増殖及び活性化がより高くなった。凡例(上から下へ)は、グラフ中のバー(左から右へ)に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0077】
定義
「含む」が使用される場合、これは、「から基本的になる」又は「からなる」に任意選択により置き換えられ得る。
【0078】
ヒトCD39(「血管」CD39、NTPdアーゼ1、ENTPD1、ATPDアーゼ及び血管ATPジホスホヒドロラーゼとしても既知である)は、ATPアーゼ活性を示す。CD39は、細胞外ATP及び細胞外ADPをAMPに加水分解し、このAMPは、別の酵素5-プライムヌクレオチダーゼによりアデノシンにさらに変換される。「血管」ヒトCD39成熟ポリペプチド鎖のアミノ酸配列は、受入番号P49961においてGenbankで示されており(この開示全体が参照により本明細書に組み込まれる)、且つ下記のとおりである。
【化1】
【0079】
ヒトCD39-L1(NTPDアーゼ2又はENTPD2としても既知である)は、受入番号NP_001237においてGenbankで示されており(この開示全体が参照により本明細書に組み込まれる)、且つ下記のとおりである。
【化2】
【0080】
ヒトCD39-L2(NTPDアーゼ6又はENTPD6としても既知である;ENTPD6アイソフォーム1)は、受入番号NP_001238においてGenbankで示されており(この開示全体が参照により本明細書に組み込まれる)、且つ下記のとおりである。
【化3】
【0081】
ヒトCD39-L3(NTPDアーゼ3又はENTPD3としても既知である;ENTPD3アイソフォーム)は、受入番号NP_001239においてGenbankで示されており(この開示全体が参照により本明細書に組み込まれる)、且つ下記のとおりである。
【化4】
【0082】
ヒトCD39-L4(NTPDアーゼ5又はENTPD5としても既知である)は、受入番号NP_001240(前駆体)においてGenbankで示されており(この開示全体が参照により本明細書に組み込まれる)、且つ下記のとおりである。
【化5】
【0083】
本明細書に関連して、「中和する」又は「中和すること」は、CD39ポリペプチドを指す場合(例えば、「CD39を中和する」、「CD39の活性を中和する」又は「CD39の酵素活性を中和する」)、CD39のATP加水分解(ATPアーゼ)活性が阻害されるプロセスを指す。これは、特にAMP及び/又はADPのCD39により媒介される生成の阻害を含み、すなわちATPからAMP及び/又はADPへのCD39により媒介される異化の阻害を含む。膜結合型CD39の場合、これを、例えばATPからAMP及び/又はADPへの変換を阻害する試験化合物の能力を測定する細胞アッセイにおいて直接的又は間接的に測定し得る。可溶性CD39の場合、これを、試験化合物と共に、本明細書で説明された組換え可溶性CD39をインキュベートし、次いでATPからAMP及び/又はADPへの変換を測定することにより、直接的又は間接的に測定し得る。例えば、本明細書で説明されているように、ATPの消失及び/又はAMPの生成を評価し得る。例えば、ATPの消失及び/又はAMPの生成を、存在するATPの量に比例する発光単位を定量することによって評価し得る。ある実施形態において、例えば本明細書で説明されたアッセイ(例えば、ATPの消失及び/又はAMPの生成)を参照すると、抗体調製物は、ATPからAMPへの変換の少なくとも60%の減少を生じさせるか、ATPからAMPへの変換の少なくとも70%の減少を生じさせるか、又はATPからAMPへの変換の少なくとも80%又は90%の減少を生じさせる。
【0084】
「癌の処置」などが抗CD39結合物質(例えば、抗体)に関して言及される場合には常に、これは、(a)癌の処置の方法であって、このような治療を必要とする個体、哺乳動物、特にヒトに、癌の処置を可能にする用量で(治療的有効量)、好ましくは本明細書中で指定されるような用量(量)で(好ましくは薬学的に許容可能な担体物質中で)抗CD39結合物質を投与する(少なくとも1回の処置)ステップを含む方法;(b)(特にヒトにおける)癌の処置のための抗CD39結合物質の使用又はその処置における使用のための抗CD39結合物質;(c)癌の処置のための医薬品の製造のための抗CD39結合物質の使用、任意選択により、抗CD39結合物質を薬学的に許容可能な担体と混合することを含む、癌の処置のための医薬品又は有効用量の癌の処置に適切な抗CD39結合物質を含む医薬品の製造のために抗CD39結合物質を使用する方法;又は(d)本願が提出される国で特許を得ることを可能とする主題に従う、a)、b)及びc)の何れかの組み合わせを含み得る。
【0085】
本明細書中で使用される場合、「抗原結合ドメイン」という用語は、エピトープに免疫特異的に結合可能な三次元構造を含むドメインを指す。従って、ある実施形態において、このドメインは、超可変領域、任意選択により、抗体鎖のVH及び/又はVLドメイン、任意選択により、少なくともVHドメインを含み得る。別の実施形態において、結合ドメインは、抗体鎖の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含み得る。別の実施形態において、結合ドメインは、非免疫グロブリン骨格からのポリペプチドドメインを含み得る。
【0086】
用語「抗体」は、本明細書で使用される場合、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を指す。重鎖中の定常ドメインのタイプに応じて、抗体は、下記の5種の主要なクラスの1つに割り当てられる:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgM。これらのいくつかは、サブクラス又はアイソタイプ(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4及び同類のもの)にさらに分類される。代表的な免疫グロブリン(抗体)構造単位は、四量体を含む。各四量体は、ポリペプチド鎖の2つの同一の対から構成され、各対は1本の「軽」鎖(約25kDa)及び1本の「重」鎖(約50~70kDa)を有する。各鎖のN末端は、抗原認識に主に関与する約100~110又はそれを超えるアミノ酸の可変領域を定める。可変軽鎖(VL)及び可変重鎖(VH)という用語は、これらの軽鎖及び重鎖をそれぞれ指す。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、「アルファ」、「デルタ」、「イプシロン」、「ガンマ」及び「ミュー」とそれぞれ呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造及び三次元立体配置は周知である。IgGは、生理学的状況において最も共通する抗体であるため、及び実験室で最も容易に作製されるため、本明細書中で使用される抗体の代表的なクラスである。任意選択により、本抗体はモノクローナル抗体である。抗体の特定の例は、ヒト化、キメラ、ヒト又はそうでなければヒトに適切な抗体である。「抗体」は、本明細書中に記載の抗体の何れかの何らかの断片又は誘導体も含む。
【0087】
「特異的に結合する」という語は、単離標的細胞の表面上に存在するタンパク質、その中のエピトープ又はネイティブタンパク質の何れかの組換え形態を用いて評価した場合、抗体が好ましくは競合的結合アッセイにおいて結合パートナー、例えばCD39に結合し得ることを意味する。競合的結合アッセイ及び特異的な結合を決定するための他の方法を以下でさらに記載し、これらは、当技術分野で周知である。
【0088】
抗体が特定のモノクローナル抗体(例えば、抗体I-394、I-395、I-396、I-397、I-398又はI-399)と「競合する」と言われる場合、これは、本抗体が、組換えCD39分子又は表面発現CD39分子の何れかを用いた結合アッセイにおいて、モノクローナル抗体と競合することを意味する。例えば、試験抗体が結合アッセイにおいて参照抗体のCD39ポリペプチド又はCD39発現細胞への結合を減少させる場合、本抗体は、参照抗体とそれぞれ「競合する」と言われる。
【0089】
「親和性」という用語は、本明細書中で使用される場合、エピトープへの抗体の結合の強度を意味する。抗体の親和性は、[Ab]x[Ag]/[Ab-Ag](式中、[Ab-Ag]は、抗体-抗原複合体のモル濃度であり、[Ab]は未結合抗体のモル濃度であり、[Ag]は未結合抗原のモル濃度である)として定められる解離定数Kdにより与えられる。親和性定数Kaは、1/Kdにより定義される。mAbの親和性を決定するための方法は、Harlow,et al.,Antibody:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1988),Coligan et al.,eds,Current Protocols in Immunology,Greene Publishing Assoc.and Wiley Interscience,N.Y.,(1992,1993)及びMuller,Meth.Enzymol.92:589-601(1983)で見出すことができ、この参考文献は、全体的に参照により本明細書中に組み込まれる。mAbの親和性を決定するための当技術分野で周知のある標準的な方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)スクリーニング(BIAcore(商標)SPR分析装置による分析など)の使用である。
【0090】
本明細書に関連して、「決定基」はポリペプチド上の相互作用又は結合の部位を指す。
【0091】
「エピトープ」という用語は、抗原性決定基を指し、抗体が結合する抗原上のエリア又は領域である。タンパク質エピトープは、直接結合に関与するアミノ酸残基並びに特異的な抗原結合抗体又はペプチドにより効果的に阻止されるアミノ酸残基、すなわち抗体の「フットプリント」内のアミノ酸残基を含み得る。これは、例えば、抗体又は受容体と組み合わせ得る複合抗原分子上の最も単純な形態又は最小構造領域である。エピトープは、直鎖状又は立体構造/構造であり得る。「直鎖状エピトープ」という用語は、アミノ酸の直鎖状配列(一次構造)上で隣接するアミノ酸残基から構成されるエピトープとして定義される。「立体構造又は構造エピトープ」という用語は、全てが隣接しておらず、従って分子の折り畳みにより互いに対して近接するようになるアミノ酸の直鎖状配列の分離部分を表す(二次、三次及び/又は四次構造)アミノ酸残基から構成されるエピトープとして定義される。立体構造エピトープは三次元構造に依存する。従って、「立体構造」という用語は、「構造」と交換可能に使用されることが多い。
【0092】
用語「内在化」(「細胞内内在化」と交換可能に使用される)は、細胞の細胞外表面から細胞の細胞内表面に分子を移行させるプロセスに関連する分子的な、生化学的な、及び細胞の事象を指す。分子の細胞内内在化の原因となるプロセスは、公知であり、特に細胞外分子(例えば、ホルモン、抗体及び小さい有機分子)、膜関連分子(例えば、細胞表面受容体)並びに細胞外分子に結合した膜関連分子の複合体(例えば、膜貫通受容体に結合したリガンド又は膜関連分子に結合した抗体)の内在化を伴い得る。そのため、「内在化の誘導及び/又は増加」は、細胞内内在化が開始される事象並びに/又は細胞内内在化の速度及び/若しくは程度が増加する事象を含む。
【0093】
「薬剤」という用語は、本明細書中で、化学的化合物、化学的化合物の混合物、生体高分子又は生体物質から作製される抽出物を指すために使用される。「治療剤」という用語は、生物学的活性を有する薬剤を指す。
【0094】
本明細書中での目的のために、「ヒト化」又は「ヒト」抗体は、1つ以上のヒト免疫グロブリンの定常及び可変フレームワーク領域が動物免疫グロブリンの結合領域、例えばCDRと融合される抗体を指す。このような抗体は、結合領域が由来する非ヒト抗体の結合特異性を維持するが、非ヒト抗体に対する免疫反応を回避するために設計される。このような抗体は、抗原負荷に反応して特異的なヒト抗体を作製させるために「操作」されている、トランスジェニックマウス又は他の動物から入手し得る(例えば、全体的な教示が参照により本明細書中に組み込まれる、Green et al.(1994)Nature Genet 7:13;Lonberg et al.(1994)Nature 368:856;Taylor et al.(1994)Int Immun 6:579を参照されたい)。全て当技術分野で公知である、遺伝学的又は染色体導入法並びにファージディスプレイ技術によって完全ヒト抗体も構築し得る(例えば、McCafferty et al.(1990)Nature 348:552-553を参照されたい)。ヒト抗体は、インビトロ活性化B細胞によっても作製し得る(例えば、参照によりそれらの全体において組み込まれる米国特許第5,567,610号明細書及び同第5,229,275号明細書を参照されたい)。
【0095】
「キメラ抗体」は、(a)抗原結合部位(可変領域)が、異なるか若しくは改変されているクラス、エフェクター機能及び/若しくは種の定常領域又はキメラ抗体に新しい特性を付与する完全に異なる分子、例えば酵素、毒素、ホルモン、成長因子、薬物などに連結されるように、定常領域又はそれらの一部が改変されるか、置き換えられるか、又は交換されているか、又は(b)可変領域又はそれらの一部が改変されるか、置き換えられるか、又は異なるか若しくは改変されている抗原特異性を有する可変領域と交換されている、抗体分子である。
【0096】
「超可変領域」という用語は、本明細書中で使用される場合、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、一般に、「相補性決定領域」又は「CDR」(例えば、軽鎖可変ドメイン中の残基24~34(L1)、50~56(L2)及び89~97(L3)及び重鎖可変ドメイン中の31~35(H1)、50~65(H2)及び95~102(H3);Kabat et al.1991)及び/又は「超可変ループ」からの残基(例えば、軽鎖可変ドメイン中の残基26~32(L1)、50~52(L2)及び91~96(L3)及び重鎖可変ドメイン中の26~32(H1)、53~55(H2)及び96~101(H3);Chothia and Lesk,J.Mol.Biol1987;196:901-917)又は抗原結合に関与する必須アミノ酸を決定するための同様の系からのアミノ酸残基を含む。一般的には、この領域中のアミノ酸残基の付番は、Kabat et al.、前出に記載の方法により行われる。「Kabat位置」、「Kabatにおけるような可変ドメイン残基付番」及び「Kabatによる」などの句は、本明細書中で、重鎖可変ドメイン又は軽鎖可変ドメインに対するこの付番系を指す。Kabat付番系を用いて、ペプチドの実際の直鎖状アミノ酸配列は、可変ドメインのFR若しくはCDRの短縮又はそれへの挿入に対応する少数の又はさらなるアミノ酸を含有し得る。例えば、重鎖可変ドメインは、CDR H2の残基52の後に1つのアミノ酸挿入(Kabatによる残基52a)及び重鎖FR残基82の後に残基の挿入(例えば、Kabatによる残基82a、82b及び82cなど)を含み得る。残基のKabat付番は、「標準的な」Kabat付番配列での抗体の配列の相動性の領域でのアライメントにより、特定の抗体に対して決定され得る。
【0097】
「フレームワーク」又は「FR」残基は、本明細書中で使用される場合、CDRとして定められる領域を除く、抗体可変ドメインの領域を意味する。各抗体可変ドメインフレームワークは、CDRによって分離される近接領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)にさらに分けられ得る。
【0098】
「Fcドメイン」、「Fc部分」及び「Fc領域」という用語は、例えば、ヒトγ(ガンマ)重鎖の約アミノ酸(aa)230~約aa450からの、抗体重鎖のC末端断片又は他のタイプの抗体重鎖(例えば、ヒト抗体の場合、α、δ、ε及びμ)におけるその対応配列又はその天然のアロタイプを指す。別段の指定がない限り、免疫グロブリンに対する一般的に受容されるKabatアミノ酸付番は、この開示を通じて使用される(Kabat et. al.(1991)Sequences of Protein of Immunological Interest,5th ed.,United States Public Health Service,National Institute of Health,Bethesda,MDを参照されたい)。
【0099】
「単離」、「精製」又は「生物学的に純粋」という用語は、実質的に又は基本的に、そのネイティブ状態で見られるような通常それに付随する成分を含まない物質を指す。純度及び均一性は、一般的にはポリアクリルアミドゲル電気泳動又は高速液体クロマトグラフィーなどの分析学的化学技術を用いて決定される。標品中に存在する主要な種であるタンパク質は実質的に精製されている。
【0100】
「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指すために本明細書中で交換可能に使用される。この用語は、1つ以上のアミノ酸残基が対応する天然のアミノ酸の人工的な化学模倣物であるアミノ酸ポリマー並びに天然のアミノポリマー及び非天然のアミノポリマーに適用される。
【0101】
「組換え」という用語は、例えば、細胞又は核酸、タンパク質又はベクターに関して使用される場合、細胞、核酸、タンパク質又はベクターが異種核酸若しくはタンパク質の導入又はネイティブ核酸若しくはタンパク質の改変により修飾されているか、又は細胞が、そのように修飾された細胞に由来することを示す。従って、例えば、組換え細胞は、細胞のネイティブ(非組換え)形態内では見出されない遺伝子を発現するか、又はそうでなければ異常に発現されるか、発現が少ないか又は全く発現されないネイティブ遺伝子を発現する。
【0102】
本明細書に関連して、ポリペプチド又はエピトープに「結合」する抗体という用語は、特異性及び/又は親和性をもって前記決定基に結合する抗体を指す。
【0103】
「同一性」又は「同一である」という用語は、2つ以上のポリペプチドの配列間の関係において使用される場合、2つ以上の一連のアミノ酸残基間の一致数により決定される場合のポリペプチド間の配列関連性の度合いを指す。「同一性」は、特定の数学的モデル又はコンピュータープログラム(すなわち「アルゴリズム」)により扱われるギャップアライメント(存在する場合)を用いた2つ以上の配列のより小さいものの間の完全な一致のパーセントを評価する。関連ポリペプチドの同一性は、公知の方法により容易に計算され得る。このような方法としては、Computational Molecular Biology,Lesk,A.M.,ed.,Oxford University Press,New York,1988;Biocomputing:Informatics and Genome Projects,Smith,D.W.,ed.,Academic Press,New York,1993;Computer Analysis of Sequence Data,Part 1,Griffin,A.M.and Griffin,H.G.,eds.,Humana Press,New Jersey,1994;Sequence Analysis in Molecular Biology,von Heinje,G.,Academic Press,1987;Sequence Analysis Primer,Gribskov,M.and DevereuX,J.,eds.,M.Stockton Press,New York,1991;及びCarillo et al.,SIAM J.Applied Math.48,1073(1988)に記載のものが挙げられるが限定されない。
【0104】
同一性を決定するための方法は、試験される配列間の一致が最大となるように設計される。同一性を決定する方法は、公開されているコンピュータープログラムに記載されている。2つの配列間の同一性を決定するためのコンピュータープログラム法としては、GAP(Devereux et al.,Nucl.Acid.Res.12,387(1984);Genetics Computer Group,University of Wisconsin,Madison,Wis.),BLASTP、BLASTN and FASTA(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215,403-410(1990))を含む、GCGプログラムパッケージが挙げられる。BLASTXプログラムは、National Center for Biotechnology Information(NCBI)及び他のソース(BLAST Manual,Altschul et al.NCB/NLM/NIH Bethesda,Md.20894;Altschul et al.、前出)から公開されている。周知のSmith Watermanアルゴリズムも同一性を決定するために使用し得る。
【0105】
抗体の製造
抗CD39抗原結合ドメイン又はそのようなドメインを含むタンパク質(例えば、抗体又は抗体フラグメント)は、癌及び/又は可溶性ヒトCD39ポリペプチド(例えば、膜結合型CD39で見出されるN末端及びC末端付近の2つの膜貫通ドメインを欠いているヒトCD39ポリペプチド(例えば、配列番号44のアミノ酸配列を有する細胞外ドメインタンパク質))に結合する他の疾患(例えば、感染性疾患)の処置に使用され得る。ある実施形態において、この薬剤は、CD39のATPアーゼ活性を阻害する。ある実施形態において、この抗体は、アデノシンのCD39により媒介される生成を阻害する。ある実施形態において、この抗体は、ATPからAMPへのCD39により媒介される異化を阻害する。ある実施形態において、この抗体は、リンパ球活性(例えば、T細胞)のアデノシンにより媒介される阻害を阻害する。ある態様において、この抗体は、完全長抗体、抗体フラグメント及び合成又は半合成の抗体由来分子から選択される。
【0106】
可溶性(及び任意選択により膜結合型)CD39タンパク質の酵素活性(ATPアーゼ活性)を強力に阻害する抗体は、ある実施形態において、可溶性(及び任意選択により膜結合型)CD39タンパク質の高次構造の1つにおいて、この可溶性(及び任意選択により膜結合型)CD39タンパク質のドメイン移動を固定又は制限し得、それにより、この可溶性CD39タンパク質がその基質を加水分解することを防ぐ。この抗体は、これを可溶性(及び任意選択により膜結合型)CD39のC末端ドメイン及びN末端ドメインの両方に同時に結合することによって達成し得る。
【0107】
ある実施形態において、抗CD39抗原結合ドメイン又はこの抗原結合ドメインを含む抗原結合タンパク質(例えば、抗体又は抗体フラグメント、多重特異性結合タンパク質、二重特異性抗体等)は、相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)を含む。この抗原結合ドメインを、所望の特性及び/又は改善された特性をもたらすように設計又は改変し得る。
【0108】
ある実施形態において、抗CD39抗原結合タンパク質は、ヒトCD39ポリペプチドに結合し、且つその活性を阻害し得、この抗原結合タンパク質は、フレームワーク(例えば、ヒト起源のアミノ酸配列を有するフレームワーク)並びにCDR1、CDR2及びCDR3をそれぞれ含むVH及びVLを含む。ある実施形態において、この抗原結合タンパク質は、CD39に結合した場合、CD39のドメイン移動を制限する。任意選択により、VHフレームワーク及び/又はVLフレームワーク(例えば、FR1、FR2、FR3及び/又はFR4)は、ヒト起源である。
【0109】
特定の実施形態において、この結合分子及び結合ドメインは、例えば、2本のポリペプチド鎖で見出される関連VLドメイン及び関連VHドメインの形態の免疫グロブリン可変ドメインに由来し得るか、又は一本鎖抗原結合ドメイン(例えば、scFv、VHドメイン、VLドメイン、dAb、V-NARドメイン又はVHHドメイン)に由来し得る。
【0110】
ある態様において、このCD39結合剤は、完全ヒト抗体、ヒト化抗体及びキメラ抗体から選択される抗体である。
【0111】
ある態様において、この薬剤は、本明細書でさらに開示されているように、ヒトIgG1の定常ドメイン又はFcドメインに由来する(例えば、改変されている)定常ドメイン又はFcドメインを含む抗体のフラグメントである。
【0112】
ある態様において、この薬剤は、抗体フラグメントであって、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、Fab’-SHフラグメント、F(ab)2フラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fvフラグメント、重鎖Ig(ラマIg又はラクダIg)、VHHフラグメント、単一ドメインFV及び一本鎖抗体フラグメントから選択される抗体フラグメントを含む。ある態様において、この薬剤は、合成又は半合成の抗体由来分子であって、scFv、dsFV、ミニボディ、ダイアボディ、トリアボディ、カッパボディ、IgNAR及び多重特異性(例えば、二重特異性)抗体から選択される合成又は半合成の抗体由来分子を含む。この薬剤は、任意選択により、Fcドメインをさらに含み得る。
【0113】
ある態様において、この抗体は、少なくとも部分的に精製された形態である。
【0114】
ある態様において、この抗体は、基本的に単離された形態である。
【0115】
抗体を、当技術分野で既知の様々な技術により製造し得る。ある実施形態において、本開示の抗体を(例えば、ファージディスプレイライブライから生成された)抗体ライブラライからの選択により製造する。別の実施形態において、CD39ポリペプチド(好ましくは、可溶性ヒトCD39細胞外ドメインポリペプチド)を含む免疫原による非ヒト動物(好ましくはマウス)への免疫付与により、抗体を産生させる。このCD39ポリペプチドは、任意選択により、完全長CD39ポリペプチドのフラグメント又は誘導体(典型的には免疫原性フラグメント)であり得、このフラグメント又は誘導体を含み得、すなわちCD39ポリペプチドを発現する細胞の表面上に露出したエピトープを含むこのポリペプチドの一部であり得るか又はこの一部を含み得る。そのようなフラグメントは、典型的には、成熟ポリペプチド配列の少なくとも約7個の連続したアミノ酸を含み、さらにより好ましくは、その少なくとも約10個の連続したアミノ酸を含む。フラグメントは、典型的には、受容体の細胞外ドメインに基本的に由来する。ある実施形態において、この免疫原は、脂質膜中(典型的には細胞の表面)に野生型ヒトCD39ポリペプチドを含む。特定の実施形態において、この免疫原は、任意選択により処理されているか又は溶解している、無傷の細胞(特に無傷のヒト細胞)を含む。別の実施形態において、このポリペプチドは、組換えCD39ポリペプチドである。
【0116】
抗原で非ヒト哺乳動物に免疫付与するステップを、マウス中で抗体の産生を刺激するための当技術分野で公知のあらゆる方法で実行し得る(例えば、E.Harlow and D.Lane,Antibodies:A Laboratory Manual.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY(1988)を参照されたい。この開示全体が参照により本明細書に組み込まれる)。この抗体を産生するハイブリドーマの単離は、公知であり、当技術分野で公知のあらゆる方法で実行し得る。
【0117】
例えば、(Ward et al.Nature,341(1989)p.544、この開示全体が参照により本明細書に組み込まれる)で開示されているように、免疫グロブリンのコンビナトリアルライブラリの選択によっても抗体を製造し得る。
【0118】
抗体の競合が評価され得る様々な免疫学的スクリーニングアッセイの何れか1つを使用して、CD39(特にモノクローナル抗体I-394と実質的に又は基本的に同一のCD39上の領域)に結合する1つ又は複数の抗体の特定を容易に決定し得る。多くのそのようなアッセイは、日常的に実行されており、且つ当技術分野で公知である(例えば、1997年8月26日に刊行された米国特許第5,660,827号明細書を参照されたい。この明細書は、参照により本明細書に具体的に組み込まれる)。
【0119】
例えば、検査する試験抗体が異なる供給源動物から得られる場合又は異なるIgアイソタイプ由来である場合、対照(例えば、I-394)と試験抗体とを混合し(又はプレ吸着させ)、CD39ポリペプチドを含む試料に適用させる簡単な競合アッセイを利用し得る。ウエスタンブロッティングに基づくプロトコル及びBIACORE分析の使用は、そのような競合研究での使用に適している。
【0120】
特定の実施形態において、CD39抗原試料への適用前に一定の期間にわたって対照抗体(例えば、I-394)と様々な量の試験抗体とをプレミックスする(例えば、約1:10又は約1:100)。他の実施形態において、対照及び様々な量の試験抗体をCD39抗原試料への曝露中に簡単に混合し得る。(例えば、分離技術又は洗浄技術を使用して非結合抗体を排除することにより)遊離抗体から結合を区別し得る限り、且つ(例えば、種特異的な若しくはアイソタイプ特異的な二次抗体を使用することにより、又は検出可能な標識でI-394を特異的に標識することにより)試験抗体からI-394を区別し得る限り、この試験抗体がそれぞれのI-394の抗原への結合を減少させるかどうかを決定し得る。完全に無関係な抗体の非存在下での(標識された)対照抗体の結合は、対照高値として役立ち得る。対照低値を、標識(I-394)抗体を完全に同一のタイプ(I-394)の非標識抗体と共にインキュベートすることにより得ることができ、競合が生じて標識抗体の結合が減少するであろう。試験アッセイでは、試験抗体の存在下での標識抗体の反応性の有意な低下は、CD39上の同一の領域又はエピトープを認識し得る試験抗体の指標である。約1:10~約1:100のI-394:試験抗体の任意の比において、CD39抗原へのI-394の結合を少なくとも約50%、例えば少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約80%又は90%(例えば、約65~100%)減少させる試験抗体を選択し得る。好ましくは、そのような試験抗体は、CD39抗原へのI-394の結合を少なくとも約90%(例えば、約95%)減少させるであろう。
【0121】
例えば、フローサイトメトリー試験により競合を評価することもできる。このような試験において、ある種のCD39ポリペプチドを保有する細胞を最初に例えばI-394とインキュベートし、次いで蛍光色素又はビオチンで標識される試験抗体とインキュベートし得る。本抗体は、飽和量のそれぞれのI-394との予備インキュベーション時に得られる結合が、それぞれのI-394との予備インキュベーションを行わずに抗体により得られる結合の約80%、好ましくは約50%、約40%以下(例えば、約30%、20%又は10%)(蛍光手段により測定される場合)である場合、I-394と競合すると言われる。代替的に、抗体は、飽和量の試験抗体と予備インキュベートされる細胞上で(蛍光色素又はビオチンにより)それぞれの標識化I-394抗体と共に得られる結合が、試験抗体との予備インキュベーションを行わずに得られる結合の約80%、好ましくは約50%、約40%又はそれ未満(例えば、約30%、20%又は10%)である場合、I-394と競合すると言われる。
【0122】
試験抗体が予め吸着され、CD39抗原が固定化される表面に飽和濃度で適用される単純な競合アッセイも使用し得る。単純競合アッセイにおける表面は、好ましくはBIACOREチップ(又は表面プラズモン共鳴分析に適切な他の媒体)である。次いで、対照抗体(例えば、I-394)をCD39飽和濃度で表面と接触させ、CD39及び対照抗体の表面結合を測定する。対照抗体のこの結合を試験抗体の非存在下でのCD39含有面への対照抗体の結合と比較する。試験アッセイにおいて、試験抗体の存在下での対照抗体によるCD39含有面の結合の顕著な減少は、試験抗体が対照抗体と「交差反応」するようになることを示す。少なくとも約30%又はそれを超えて、好ましくは約40%だけCD39抗原への対照(I-394など)抗体の結合を減少させる何らかの試験抗体は、対照(例えば、I-394)と競合する抗体であるとみなされ得る。好ましくは、このような試験抗体は、少なくとも約50%(例えば、少なくとも約60%、少なくとも約70%又はそれを超える)だけCD39抗原への対照抗体(例えば、I-394)の結合を減少させる。当然のことながら、対照及び試験抗体の順序は逆転し得、すなわち対照抗体を最初に表面に結合させ得、試験抗体をその後に競合アッセイにおいて表面と接触させる。好ましくは、CD39抗原に対してより高い親和性を有する抗体は、(抗体が交差反応することが推測される)第2の抗体に対して見られる結合の減少がより大きい規模であると予想されるため、最初に表面に結合させる。このようなアッセイのさらなる例は、例えば、その開示が参照により本明細書中に組み込まれるSaunal(1995)J.Immunol.Methods 183:33-41で提供される。
【0123】
ある実施形態において、本抗体をイムノアッセイで検証して、可溶性CD39及び/又はCD39を発現する細胞(例えば、悪性細胞)に結合する能力を試験する。例えば、血液のサンプリング又は腫瘍生検を実施し、可溶性CD39を単離し且つ/又は腫瘍細胞を集める。次いで、当業者に公知の標準的な方法を使用して、所与の抗体のsCD39及び/又は細胞に結合する能力を評価する。抗体は、例えば、個体又は患者の有意な割合(例えば、10%、20%、30%、40%、50%又はより高く)から、CD39を発現することが知られている細胞(例えば、腫瘍細胞)の相当な割合(例えば、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%又はより高く)に結合し得る。抗体を、患者のsCD39及び/又は悪性細胞の存在又はレベルを決定するための診断目的に使用し得、例えば患者が抗CD39剤による処置に適しているかどうか、又は本明細書で説明された治療方法での使用に適しているかどうかを評価するためのバイオマーカーとして使用し得る。sCD39及び/又は細胞への抗体の結合を評価するために、この抗体を直接的又は間接的に標識し得る。間接的に標識される場合、標識された二次抗体が概して追加される。
【0124】
抗体がエピトープ領域内で結合するか否かの判定は、当業者にとって公知のように行い得る。このようなマッピング/特徴評価方法の一例として、抗CD39抗体に対するエピトープ領域は、CD39タンパク質における露出アミン/カルボキシルの化学修飾を用いて、エピトープ「フットプリンティング」により決定され得る。このようなフットプリンティング技術のある具体例は、HXMS(質量分析により検出される水素-重水素交換)の使用であり、ここで受容体及びリガンドタンパク質アミドプロトンの水素/重水素交換、結合及び逆交換が起こり、タンパク質結合に加わる骨格アミド基は、逆交換から保護され、従って重水素化されたままとなる。関連領域は、この点でペプシンのタンパク質分解、ファストマイクロボア高速液体クロマトグラフィー分離及び/又はエレクトロスプレーイオン化質量分析により同定され得る。例えば、Ehring H,Analytical Biochemistry,Vol.267(2)pp.252-259(1999)Engen,J.R.and Smith,D.L.(2001)Anal.Chem.73,256A-265Aを参照されたい。適切なエピトープ同定技術の別の例は核磁気共鳴エピトープマッピング(NMR)であり、一般的には遊離抗原及び抗体などの抗原結合ペプチドと複合体形成する抗原の二次元NMRスペクトルにおけるシグナルの位置を比較する。抗原は、一般的には、15Nで選択的に同位体標識され、抗原に対応するシグナルのみがNMR-スペクトルで見られ、抗原結合ペプチドからのシグナルが見られないようになる。抗原結合ペプチドとの相互作用に関与するアミノ酸由来の抗原シグナルは、一般に、遊離抗原のスペクトルと比較して、複合体のスペクトルにおいて位置をシフトさせ、結合に関与するアミノ酸はそのように同定され得る。例えば、Ernst Schering Res Found Workshop.2004;(44):149-67;Huang et al.,Journal of Molecular Biology,Vol.281(1)pp.61-67(1998);及びSaito and Patterson,Methods.1996 Jun;9(3):516-24を参照されたい。
【0125】
エピトープマッピング/特徴評価は質量分析方法を用いて行うこともできる。例えば、Downard,J Mass Spectrom.2000 Apr;35(4):493-503及びKiselar and Downard,Anal Chem.1999 May 1;71(9):1792-1801を参照されたい。プロテアーゼ消化技術もエピトープマッピング及び同定との関連で有用であり得る。抗原性決定基関連領域/配列は、プロテアーゼ消化により、例えばCD39に対して約1:50の比率でトリプシンを使用することによってpH7~8でo/n消化を使用することにより、続いてペプチド同定のために質量分析(MS)を行うことにより決定し得る。続いて、抗CD39結合物によりトリプシン切断から保護されるペプチドは、トリプシン消化に供した試料及び抗体とインキュベートし、続いて例えばトリプシン(それにより結合物に対するフットプリントが明らかになる)による消化に供した試料の比較により同定し得る。キモトリプシン、ペプシンなどの他の酵素も又は代替的に同様のエピトープ特徴評価方法で使用し得る。さらに、酵素性消化により、可能性のある抗原性決定基配列が表面に露出していない、従っておそらく免疫原性/抗原性について関連がないと思われるCD39ポリペプチドの領域内にあるか否かを分析するための迅速な方法が提供され得る。
【0126】
部位特異的突然変異誘発は、結合エピトープを明らかにするのに有用な別の技術である。例えば、「アラニンスキャニング」において、タンパク質セグメント内の各残基をアラニン残基で置き換え、結合親和性に対する結果を測定する。突然変異が結合親和性の顕著な低下につながる場合、結合に関与する可能性が高い。構造エピトープに特異的なモノクローナル抗体(すなわち折り畳まれていないタンパク質に結合しない抗体)を使用して、アラニン置換がタンパク質の全体的な折り畳みに影響しないことを確認し得る。例えば、Clackson and Wells,Science 1995;267:383-386;及びWells,Proc Natl Acad Sci USA 1996;93:1-6を参照されたい。
【0127】
エピトープ「フットプリンティング」のために電子顕微鏡も使用し得る。例えば、Wang et al.,Nature 1992;355:275-278は、低温電子顕微鏡、三次元画像再構成及びX結晶学の同時適用を使用して、ネイティブササゲモザイクウイルスのキャプシド表面上のFab断片の物理学的フットプリントを決定した。
【0128】
エピトープ評価のための「標識不含」アッセイの他の形態としては、表面プラズモン共鳴(SPR、BIACORE)及び反射型干渉分光法(RifS)が挙げられる。例えば、Faegerstam et al.,Journal Of Molecular Recognition 1990;3:208-14;Nice et al.,J.Chromatogr.1993;646:159-168;Leipert et al.,Angew.Chem.Int.Ed.1998;37:3308-3311;Kroeger et al.,Biosensors and Bioelectronics 2002;17:937-944を参照されたい。
【0129】
抗体と同じであるか又は実質的に同じであるエピトープに結合する抗体は、本明細書中に記載の代表的な競合アッセイの1つ以上で同定され得ることも注意すべきである。
【0130】
脊椎動物での又は細胞での免疫付与及び抗体の産生時、特定の選択ステップを実施して、特許請求される抗体を単離し得る。これに関して、特定の実施形態において、本開示は、そのような抗体を産生する方法であって、(a)CD39ポリペプチドを含む免疫原で非ヒト哺乳動物に免疫付与することと、(b)前記免疫付与された動物から抗体を調製することと、(c)CD39に結合することができるステップ(b)からの抗体を選択することとを含む方法にも関する。任意選択により、次いで、CD39に結合することができる選択された抗体を精製し、(例えば、本明細書の方法の何れかに従って)CD39のATPアーゼ活性を阻害する能力に関して試験する。
【0131】
典型的には、本明細書で提供される抗CD39抗体は、約104~約1011M-1(例えば、約108~約1010M-1)の範囲において、CD39ポリペプチド(例えば、本明細書の実施例で製造された単量体CD39ポリペプチド)に対する親和性を有する。例えば、抗CD39抗体は、例えば、(例えば、BIAcore(商標)SPR分析装置での分析による)表面プラズモン共鳴(SPR)スクリーニングによって決定される場合、CD39に関して1×10-9M未満の平均解離定数(KD)を有し得る。特定のより例示的な態様において、本開示は、CD39に関して約1×10-8M~約1×10-10M又は1×10-9M~約1×10-11MのKDを有する抗CD39抗体を提供する。
【0132】
抗体は、例えば、約100、60、10、5又は1ナノモル以下の(すなわちより親和性の)平均KD、好ましくはサブナノモルの平均KD、又は任意選択により約500、200、100又は10ピコモル以下の平均KDによって特徴付けられ得る。例えば、チップ表面上において、組換えにより産生されたヒトCD39タンパク質を固定し、その後、溶液中で試験する抗体を適用することにより、KDを決定し得る。ある実施形態において、この方法は、CD39への結合に関して抗体I-394、I-395、I-396、I-397、I-398又はI-399と競合することができる(b)からの抗体を選択するステップ(d)をさらに含む。
【0133】
実施形態の何れかのある態様において、本方法に従って調製された抗体は、モノクローナル抗体である。別の態様において、本明細書の方法に従って抗体を製造するために使用される非ヒト動物は、哺乳動物、例えば齧歯動物、ウシ、ブタ、家禽、ウマ、ウサギ、ヤギ又はヒツジである。
【0134】
CD39ポリペプチド上に存在するエピトープに結合する抗体をコードするDNAをハイブリドーマから単離し、適切な宿主へのトランスフェクションのために適切な発現ベクター中に入れる。次いで、この宿主を抗体又はそのバリアント(例えば、このモノクローナル抗体のヒト化バージョン、この抗体の活性フラグメント、この抗体の抗原認識部位を含むキメラ抗体又は検出可能な部分を含むバージョン)の組換え産生に使用する。
【0135】
本開示のモノクローナル抗体(例えば、抗体I-394)をコードするDNAを、(例えば、マウス抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)従来の手順を使用して容易に単離して配列決定し得る。ある態様において、提供されるのは、本明細書の何れかの実施形態の抗CD39抗体の重鎖又は軽鎖をコードする核酸である。単離すると、このDNAを発現ベクターに入れることができ、次いでこの発現ベクターを宿主細胞(例えば、大腸菌(E.coli)細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又は通常は免疫グロブリンタンパク質を産生しない骨髄腫細胞)に遺伝子移入して、この組換え宿主細胞中でモノクローナル抗体の合成を得る。本明細書の他の箇所で説明されているように、そのようなDNA配列は、多数の目的の何れかのために改変され得、例えば抗体をヒト化するために、フラグメント又は誘導体を製造するために、又は例えば抗体の結合特異性を最適化するために抗原結合部位中で抗体の配列を改変するために改変され得る。ある実施形態において、提供されるのは、抗体(例えば、I-394)の軽鎖及び/又は重鎖をコードする単離核酸配列並びにそのような核酸を(例えば、ゲノム中に)含む組換え宿主細胞である。抗体をコードするDNAの細菌中での組換え発現は、当技術分野で公知である(例えば、Skerra et al.,Curr.Opinion in Immunol.,5,pp.256(1993);及びPluckthun,Immunol.130,p.151(1992)を参照されたい)。
【0136】
sCD39及び/若しくはmemCD39に結合することができ、且つ/又は他の所望の特性を有することができる抗体が特定されると、典型的には、この抗体も、他のポリペプチド(例えば、無関係のポリペプチド)に結合する能力に関して、本明細書で説明されたもの等の方法を使用して評価される。理想的には、この抗体は、CD39のみに相当な親和性で結合するが、無関係のポリペプチド又はNTPDアーゼファミリの他のポリペプチド(特にCD39-L1、CD39-L2、CD39-L3及びCD39-L4若しくはNTPDアーゼ8)に有意なレベルで結合しない。しかしながら、CD39に対する親和性が他の無関係なポリペプチド)に対するよりも相当に大きい(例えば、10×、100×、500×、1000×、10,000×又はより高い)限り、この抗体は、本方法での使用に適していることが認識されるであろう。
【0137】
ある実施形態において、抗CD39抗体は、それらがヒトFcγ受容体、例えばCD16A、CD16B、CD32A、CD32B及び/又はCD64の何れか1つ以上に実質的な特異的結合を有しないように調製され得る。このような抗体は、Fcγ受容体に対する結合を欠くこと又は低い結合性を有することが知られている様々な重鎖の定常領域を含み得る。代替的に、Fc受容体結合を回避するために、F(ab’)2断片など、定常領域を含まない(又は部分的に含む)抗体断片を使用し得る。Fc受容体結合は、例えば、BIACOREアッセイにおけるFc受容体タンパク質への抗体の結合を試験することを含め、当技術分野で公知の方法に従い評価し得る。また、Fc受容体への結合を最小化又は除外するためにFc部分が修飾される(例えば、1、2、3、4、5つ又はそれを超えるアミノ酸置換を導入することによって)何らかの抗体IgGアイソタイプを一般に使用し得る(例えば、その開示が参照により本明細書中に組み込まれる国際公開第03/101485号パンフレットを参照されたい)。Fc受容体結合を評価するための細胞に基づくアッセイなどのアッセイは、当技術分野で周知であり、例えば国際公開第03/101485号パンフレットに記載されている。
【0138】
ある実施形態において、抗体は、エフェクター細胞との最小限の相互作用を有する「Fcサイレント」抗体を生じるFc領域における1つ以上の特異的突然変異を含み得る。サイレンシングされたエフェクター機能は、抗体のFc領域における突然変異によって得ることができ、当技術分野において記載されてきた。N297A突然変異、LALA突然変異(Strohl,W.,2009,Curr.Opin.Biotechnol.vol.20(6):685-691);D265A(Baudino et al.,2008,J.Immunol.181:6664-69)及びHeusser et al.,国際公開第2012/065950号パンフレットを参照されたい。これらの開示は、参照により本明細書に組み込まれる。ある実施形態において、抗体は、ヒンジ領域に1、2、3つ又はそれを超えるアミノ酸置換を含む。一実施形態では、抗体はIgG1又はIgG2であり、残基233~236、任意選択により、233~238(EU付番)において1つ、2つ又は3つの置換を含む。一実施形態では、抗体はIgG4であり、残基327、330及び/又は331(EU付番)に1つ、2つ又は3つの置換を含む。サイレントFc IgG1抗体の例は、IgG1 Fcアミノ酸配列におけるL234A及びL235A突然変異を含むLALA突然変異体である。Fcサイレント突然変異の別の例は、例えば、DAPA(D265A、P329A)突然変異(米国特許第6,737,056号明細書)としてIgG1抗体において用いられる、残基D265又はD265及びP329における突然変異である。別のサイレントIgG1抗体は、残基N297における突然変異(例えば、N297A、N297S突然変異)を含み、その結果、グリコシル化/非グリコシル化抗体を生じる。他のサイレント突然変異は、残基L234及びG237における置換(L234A/G237A);残基S228、L235及びR409における置換(S228P/L235E/R409K、T、M、L);残基H268、V309、A330及びA331における置換(H268Q/V309L/A330S/A331S);残基C220、C226、C229及びP238における置換(C220S/C226S/C229S/P238S);残基C226、C229、E233、L234及びL235における置換(C226S/C229S/E233P/L234V/L235A;残基K322、L235及びL235における置換(K322A/L234A/L235A);残基L234、L235及びP331における置換(L234F/L235E/P331S);残基234、235及び297における置換;残基E318、K320及びK322における置換(L235E/E318A/K320A/K322A);残基(V234A、G237A、P238S)における置換;残基243及び264における置換;残基297及び299における置換;EU付番系によって定義される残基233、234、235、237及び238がPAAAP、PAAAS及びSAAASから選択される配列を含む置換(国際公開第2011/066501号パンフレットを参照されたい)を含む。
【0139】
ある実施形態において、抗体は、Fc領域に1つ以上の特異的突然変異を含むことができる。例えば、そのような抗体は、ヒトIgG1起源のFcドメインを含み、Kabat残基234、235、237、330及び/又は331における突然変異を含む。そのようなFcドメインの一例は、Kabat残基L234、L235及びP331における置換(例えば、L234A/L235E/P331S又は(L234F/L235E/P331S))を含む。このようなFcドメインの別の例は、Kabat残基L234、L235、G237及びP331における置換(例えば、L234A/L235E/G237A/P331S)を含む。このようなFcドメインの別の例は、Kabat残基L234、L235、G237、A330及びP331における置換(例えば、L234A/L235E/G237A/A330S/P331S)を含む。ある実施形態において、抗体は、Fcドメイン、任意選択により、ヒトIgG1アイソタイプのFcドメインを含む抗体であり、L234X1置換、L235X2置換及びP331X3置換を含み、X1はロイシン以外の任意のアミノ酸残基、X2はロイシン以外の任意のアミノ酸残基、X3はプロリン以外の任意のアミノ酸残基であり、任意選択により、X1はアラニン若しくはフェニルアラニン又はその保存的置換であり;任意選択により、X2はグルタミン酸又はその保存的置換であり;任意選択により、X3はセリン又はその保存的置換である。別の実施形態において、抗体は、Fcドメイン、任意選択により、ヒトIgG1アイソタイプのFcドメインを含む抗体であり、L234X1置換、L235X2置換、G237X4置換及びP331X4置換を含み、X1はロイシン以外の任意のアミノ酸残基、X2はロイシン以外の任意のアミノ酸残基、X3はグリシン以外の任意のアミノ酸残基、X4はプロリン以外のアミノ酸残基であり、任意選択により、X1はアラニン若しくはフェニルアラニン又はその保存的置換であり;任意選択により、X2はグルタミン酸又はその保存的置換であり;任意選択により、X3はアラニン又はその保存的置換であり;任意選択により、X4はセリン又はその保存的置換である。別の実施形態において、抗体は、Fcドメイン、任意選択により、ヒトIgG1アイソタイプのFcドメインを含む抗体であり、L234X1置換、L235X2置換、G237X4置換、G330X4置換及びP331X5置換を含み、X1はロイシン以外の任意のアミノ酸残基、X2はロイシン以外の任意のアミノ酸残基、X3はグリシン以外の任意のアミノ酸残基、X4はアラニン以外のアミノ酸残基、X5はプロリン以外のアミノ酸残基であり、任意選択により、X1はアラニン若しくはフェニルアラニン又はその保存的置換であり;任意選択により、X2はグルタミン酸又はその保存的置換であり;任意選択により、X3はアラニン又はその保存的置換であり;任意選択により、X4はセリン又はその保存的置換であり;任意選択により、X5はセリン又はその保存的置換である。本明細書で使用されている略記法では、形式は、野生型残基:ポリペプチド中の位置:突然変異体残基であり、残基位置は、KabatによるEU付番に従って示される。
【0140】
ある実施形態において、抗体は、以下のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域又はそれらと少なくとも90%、95%若しくは99%同一のアミノ酸配列を含むが、Kabat位置234、235及び331にアミノ酸残基を保持する(下線)。
【化6】
【0141】
ある実施形態において、抗体は、以下のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域又はそれらと少なくとも90%、95%若しくは99%同一のアミノ酸配列を含むが、Kabat位置234、235及び331にアミノ酸残基を保持する(下線)。
【化7】
【0142】
ある実施形態において、抗体は、以下のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域又はそれらと少なくとも90%、95%若しくは99%同一のアミノ酸配列を含むが、Kabat位置234、235、237、330及び331にアミノ酸残基を保持する(下線)。
【化8】
【0143】
ある実施形態において、抗体は、以下のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域又はそれらと少なくとも90%、95%若しくは99%同一の配列を含むが、Kabat位置234、235、237及び331にアミノ酸残基を保持する(下線)。
【化9】
【0144】
Fcサイレント抗体は、ADCC活性を生じないか又は低いADCC活性を生じ、すなわち、Fcサイレント抗体は、50%未満の特異的細胞溶解であるADCC活性を示す。好ましくは、抗体は、実質的にADCC活性を欠き、例えば、Fcサイレント抗体は、5%未満又は1%未満のADCC活性(特異的細胞溶解)を示す。Fcサイレント抗体は、CD39発現の表面でのCD39のFcγR媒介性架橋の欠如も生じ得る。
【0145】
ある実施形態において、抗体は、220、226、229、233、234、235、236、237、238、243、264、268、297、298、299、309、310、318、320、322、327、330、331及び409(重鎖定常領域における残基の付番はKabatによるEU付番に従う)からなる群から選択される任意の1、2、3、4、5つ又はそれを超える残基において重鎖定常領域に置換を有する。ある実施形態において、抗体は、残基234、235及び322における置換を含む。ある実施形態において、抗体は残基234、235及び331における置換を有する。ある実施形態において、抗体は、残基234、235、237及び331における置換を有する。ある実施形態において、抗体は、残基234、235、237、330及び331における置換を有する。一実施形態では、Fcドメインは、ヒトIgG1サブタイプのものである。アミノ酸残基は、KabatによるEU付番に従って示される。
【0146】
ある実施形態において、本抗体は、この抗体のインビボ半減期を増加させるためにヒトFcRnポリペプチドへの結合を増加させるアミノ酸置換を含むFcドメインを含む。例示的な突然変異がStrohl,W.,2009,Curr.Opin.Biotechnol.vol.20(6):685-691で説明されており、この開示は、参照により本明細書に組み込まれる。ヒトIgG1アイソタイプの抗体で使用される置換の例は、残基M252、S254及びT256での置換;残基T250及びM428での置換;残基N434での置換;残基H433及びN434での置換;残基T307、E380及びN434での置換;残基T307、E380及びN434での置換;残基M252、S254、T256、H433、N434及び436での置換;残基I253での置換;残基P257、N434、D376及びN434での置換である。
【0147】
ある実施形態において、本抗体は、プロテアーゼによる開裂に対する感受性の低下を付与するアミノ酸置換を含むFcドメインを含む。マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)は、腫瘍形成に関連するプロテイナーゼの最も顕著なファミリを表す。癌細胞は、MMPを発現し得るが、細胞外MMPの大部分は、様々なタイプの間質細胞によりもたらされ、この間質細胞は、腫瘍に浸潤し、且つプロテイナーゼ及びプロテイナーゼ阻害剤の特定のセットをそれぞれ産生し、これらは、細胞外空間に放出され、腫瘍周辺の環境を特異的に変更する。腫瘍微小環境中に存在するMMPは、ヒンジ領域内で抗体を開裂し得、そのため腫瘍部位内で機能するように設計されている治療用抗体の不活性化につながる場合がある。ある実施形態において、アミノ酸置換を含むFcドメインは、GluV8、IdeS、ゼラチナーゼA(MMP2)、ゼラチナーゼB(MMP-9)、マトリックスメタロプロテイナーゼ-7(MMP-7)、ストロメリシン(MMP-3)及びマクロファージエラスターゼ(MMP-12)からなる群から選択されるプロテアーゼの何れか1つ、2つ、3つ又はより多く(又は全て)による開裂に対する感受性が低下している。ある実施形態において、開裂に対する感受性が低下している抗体は、残基E233-L234及び/又はL235でアミノ酸置換を含むFcドメインを含む。ある実施形態において、この抗体は、残基E233、L234、L235及びG236でアミノ酸置換を含むFcドメインを含む。ある実施形態において、この抗体は、残基233~238の1つ又は複数でアミノ酸置換を含むFcドメインを含み、その結果、例えばE233-L234-L235-G236配列がP233-V234-A235に置き換えられる(G236は欠失している)。例えば、国際公開第99/58572号パンフレット及び同第2012087746号パンフレットを参照されたい。これらの開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0148】
抗原結合化合物を、任意の所望の段階において、CD39の酵素活性を阻害し(特にsCD39のATPアーゼ活性をブロックし)、且つ可溶性CD39タンパク質による(及び任意選択により、さらにCD39発現細胞による)ADP及びAMP(及びCD73と一緒にアデノシン)の産生を減少させ、次いでリンパ球のアデノシンにより媒介される阻害の活性を回復させ、且つ/又はこの阻害を軽減する能力に関して評価し得る。
【0149】
抗体の阻害活性(例えば、免疫増強能力)を、例えばATPの消失(加水分解)及び/又はAMPの生成を検出するためのアッセイで評価し得る。
【0150】
可溶性組換えヒトCD39タンパク質を阻害する抗体の能力を、可溶性CD39タンパク質(例えば、実施例、方法で産生される、配列番号44又は配列番号45のアミノ酸配列を有するタンパク質、任意選択により、精製タグ又は他の機能する若しくは機能しない非CD39由来のアミノ酸配列をさらに含む)と共に試験抗体をインキュベートした後にATPを検出することにより試験し得る。例えば、実施例、方法を参照されたい。簡潔に説明すると、試験抗体の用量範囲を37℃で1時間にわたり実施例1で説明する可溶性組換えヒトCD39タンパク質と共にインキュベートするアッセイにおいて、Cell Titer Glo(商標)(Promega)を使用してATPを定量し得る。37℃でさらに30分にわたりプレートに20μMのATPを添加した後、CTG試薬を添加する。暗所での5分間の短いインキュベーション後、Enspire(商標)ルミノメーターを使用して放射光を定量する。
【0151】
CD39タンパク質を発現する細胞を阻害する抗体の能力を、細胞(例えば、Ramos細胞、CD39が遺伝子移入された細胞等)と共に試験抗体をインキュベートした後にATPを検出することにより試験し得る。例えば、実施例、方法を参照されたい。細胞を試験抗体と共に37℃で1時間にわたりインキュベートし得る。次いで、細胞を37℃でさらに1時間にわたり20μMのATPと共にインキュベートする。プレートを400gで2分にわたり遠心分離し、細胞上清を発光マイクロプレート(白色ウェル)に移す。この上清にCTGを添加し、Enspire(商標)ルミノメーターを使用して、暗所での5分間のインキュベーション後に放射光を定量する。抗CD39抗体の有効性を、抗体の存在下での放射光と、ATPのみ(最大光放射)並びにATP及び細胞(最小光放射)とを比較することにより決定する。
【0152】
抗体の存在下でのAMPへのATPの加水分解の減少、及び/又はATPの増加、及び/又はAMPの生成の減少は、この抗体がCD39を阻害することを示す。ある実施形態において、例えば実施例、方法のように、試験抗体と共に、CD39ポリペプチドを発現する細胞(例えば、Ramos細胞)をインキュベートした後、Cell Titer Glo(商標)(Promega)を使用してATPを検出することによって評価した場合、抗体調製物は、細胞によって発現されるCD39ポリペプチドの酵素活性の少なくとも60%の低下を生じさせることができ、好ましくは、この抗体は、細胞中においてCD39ポリペプチドの酵素活性の少なくとも70%、80%又は90%の低下を生じさせる。
【0153】
ある実施形態において、例えば実施例、方法のように、試験抗体と共に可溶性組換えCD39ポリペプチドをインキュベートした後、Cell Titer Glo(商標)(Promega)を使用してATPを検出することによって評価した場合、抗体調製物は、(例えば、細胞の非存在下で)可溶性組換えCD39ポリペプチドの酵素活性の少なくとも60%の低下を生じさせることができ、好ましくは、可溶性組換えCD39ポリペプチドの酵素活性の少なくとも70%、80%又は90%の低下を生じさせることができる。
【0154】
抗体の活性を、例えばリンパ球活性のアデノシンにより媒介される阻害を軽減するために、又はリンパ球活性の活性化を生じさせるために免疫細胞(例えば、アデノシン受容体発現免疫細胞;A2A受容体発現細胞)の活性を調節する能力に関する間接アッセイでも測定し得る。これを、例えばサイトカイン放出アッセイを使用して対処し得る。別の例において、抗体を、リンパ球の増殖を調節する能力に関する間接アッセイで評価し得る。
【0155】
一例において、提供されるのは、抗CD39抗体又は抗原結合ドメインを製造又は特定するための方法であって、
(a)ヒトCD39ポリペプチドに結合する抗体を含む複数の試料(例えば、細胞培養上清、ハイブリドーマ上清)を準備するステップと、
(b)この試料を精製ステップに供して、精製されたモノクローナル抗体をそれぞれ含む複数の試料を得、(例えば、細胞の非存在下で)各抗体試料を可溶性細胞外ドメインCD39タンパク質と接触させ、そのATPアーゼ活性の中和を評価するステップと、
(c)ATPアーゼ活性の中和をもたらすステップ(b)の抗体を選択し、任意選択により、少なくとも70%、任意選択により80%又は任意選択により90%の中和をもたらす抗体を選択するステップと
を含む方法である。ある実施形態において、ステップ(a)は、CD39ポリペプチドにより1つ又は複数の非ヒト哺乳動物に免疫付与することと、そのような哺乳動物から、ヒトCD39ポリペプチドに結合する抗体を含む複数の試料を得ることとを含む。
【0156】
一例において、提供されるのは、抗CD39抗体又は抗原結合ドメインを製造又は特定するための方法であって、
(a)ヒトCD39ポリペプチドに結合する複数の精製された抗体を準備するステップと、
(b)各抗体を可溶性細胞外ドメインCD39タンパク質と接触させ、そのATPアーゼ活性の中和を評価するステップと、
(c)少なくとも70%、任意選択により80%又は任意選択により90%のATPアーゼ活性の中和をもたらすステップ(b)の抗体を選択するステップと
を含む方法である。
【0157】
任意選択により、この方法は、
(d)各抗体をCD39発現細胞、任意選択によりヒトB細胞、任意選択によりRamosヒトリンパ腫細胞と接触させ、ATPアーゼ活性の中和を評価するステップと、
(e)少なくとも70%、任意選択により80%又は任意選択により90%のATPアーゼ活性の低下をもたらすステップ(d)の抗体を選択するステップと
をさらに含み得る。ステップ(b)及び(c)をステップ(d)及び(e)前又は後に実施し得る。
【0158】
CD39上のエピトープ
ある態様において、本抗体は、細胞表面で発現されたCD39上に存在する抗原決定基に結合する。
【0159】
ある態様において、本抗体は、抗体I-394、I-395,I-396、I-397又はI-398と実質的に同一のエピトープに結合する。ある実施形態において、この抗体は、抗体I-394、I-395、I-396、I-397又はI-398が結合するエピトープと少なくとも部分的に重複するか、又はこのエピトープ中の少なくとも1個の残基を含むCD39のエピトープに結合する。この抗体が結合する残基は、CD39ポリペプチドの表面上(例えば、細胞の表面上で発現されるCD39ポリペプチド中)に存在すると特定され得る。
【0160】
CD39突然変異体が遺伝子移入された細胞への抗CD39抗体の結合を測定し得、且つ抗CD39抗体の、野生型CD39ポリペプチド(例えば、配列番号1)に結合する能力と比較し得る。抗CD39抗体と突然変異体CD39ポリペプチド(例えば、表1の突然変異体)との間の結合の減少は、(例えば、特定の突然変異体を発現する細胞のFACS試験のような既知の方法により測定した場合若しくは突然変異体ポリペプチドへの結合のBiacore試験により測定した場合に)結合親和性の減少が存在すること、及び/又は(例えば、抗CD抗体濃度対ポリペプチド濃度のプロットにおいてBmaxの減少により実証される場合に)抗CD39抗体の総結合能力の減少が存在することを意味する。結合の有意な減少は、抗CD39抗体がCD39に結合している場合、突然変異した残基が抗CD39抗体への結合に直接関与していること、又はこの結合タンパク質に近接していることを示す。
【0161】
いくつかの実施形態において、結合の有意な減少は、抗CD39抗体と突然変異体CD39ポリペプチドとの間の結合親和性及び/又は結合能力が、この抗体と野生型CD39ポリペプチドとの間の結合と比較して40%超、50%超、55%超、60%超、65%超、70%超、75%超、80%超、85%超、90%超又は95%超減少していることを意味する。特定の実施形態において、結合は、検出可能な限界未満まで減少する。いくつかの実施形態において、結合の有意な減少は、突然変異体CD39ポリペプチドへの抗CD39抗体の結合が、この抗CD39抗体と野生型CD39ポリペプチドとの間で観測されているものの、50%未満(例えば、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%又は10%未満)である場合に証明される。
【0162】
いくつかの実施形態において、抗体I-394、I-395、I-396、I-397、I-398又はI-399が結合するアミノ酸残基を含むセグメント中の残基が異なるアミノ酸に置換されている突然変異体CD39ポリペプチドの場合の結合が、そのような置換を含まない野生型CD39ポリペプチド(例えば、配列番号1のポリペプチド)への結合と比較して有意に低いことを示す抗CD39抗体が提供される。
【0163】
いくつかの実施形態において、抗体I-394が結合するCD39上のエピトープに結合する抗CD39抗体(例えば、I-394以外)が提供される。
【0164】
本明細書の何れかの実施形態において、抗体は、PCT公報国際公開第2009/095478号パンフレット(この開示は、参照により本明細書に組み込まれる)で言及されているBY40、BY12又はBA54g以外の抗体(又はそのCDRを共有する抗体)として特徴付けられ得る。
【0165】
ある態様において、本抗CD39抗体は、Q96、N99、E143及びR147(配列番号1を基準にする)からなる群から選択される残基で突然変異を有するCD39ポリペプチドへの結合が減少しており、任意選択により、この突然変異体CD39ポリペプチドは、突然変異:Q96A、N99A、E143A及びR147Eを有する。ある態様において、この抗CD39抗体は、Q96、N99、E143及びR147(配列番号1を基準にする)からなる群から選択されるアミノ酸残基(例えば、この残基の1つ、2つ、3つ又は4つ)を含むCD39上のエピトープに結合する。
【0166】
ある実施形態において、抗体は、この抗体と、配列番号1のアミノ酸配列を含む野生型CD39ポリペプチドとの間の結合と比較して、それぞれの場合にR138、M139及びE142(配列番号1を基準にする)からなる群から選択される残基の1つ又は複数(又は全て)で突然変異を含む突然変異体CD39ポリペプチドへの結合が減少している。
【0167】
ある実施形態において、抗体は、この抗体と、配列番号1のアミノ酸配列を含む野生型CD39ポリペプチドとの間の結合と比較して、それぞれの場合にK87、E100及びD107(配列番号1を基準にする)からなる群から選択される残基の1つ又は複数(又は全て)で突然変異を含む突然変異体CD39ポリペプチドへの結合が減少している。
【0168】
ある実施形態において、抗体は、この抗体と、配列番号1のアミノ酸配列を含む野生型CD39ポリペプチドとの間の結合と比較して、それぞれの場合にN371、L372、E375、K376及びV377(配列番号1を基準にする)からなる群から選択される残基の1つ又は複数(又は全て)で突然変異を含む突然変異体CD39ポリペプチドへの結合が減少している。
【0169】
例示的な抗体可変領域の配列
本開示に係る例示的な抗CD39 VH及びVLのペアは、抗体I-394のものであり、その重鎖可変領域のアミノ酸配列は、下記で列挙されており(配列番号6)、その軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、下記で列挙されている(配列番号7)。配列番号6及び配列番号7において、Kabatナンバリングに従うCDRに下線を引いている。任意選択により、このVH及びVLは、ヒトアクセプターフレームワークを含む(例えば、このフレームワークを組み入れるように改変されている)。ある実施形態において、本開示の抗CD39抗体は、配列番号6のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域のVH CDR1、CDR2及び/又はCDR3(例えば、Kabatナンバリングに従う)を含む。ある実施形態において、本開示の抗CD39抗体は、配列番号7のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域のVL CDR1、CDR2及び/又はCDR3(例えば、Kabatナンバリングに従う)を含む。ある実施形態において、本開示の抗CD39抗体は、配列番号6のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域のKabat CDR1、CDR2及び/又はCDR3を含むVHと、配列番号7のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域のKabat CDR1、CDR2及び/又はCDR3を含むVLとを含む。
I-394 VH:
【化10】
I-394 VL:
【化11】
【0170】
抗CD39抗体は、例えば、下記を含み得る:アミノ酸配列:DYNMH(配列番号8)若しくはその少なくとも4個の連続したアミノ酸の配列を含むHCDR1であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、異なるアミノ酸に置換され得る、HCDR1;アミノ酸配列:YIVPLNGGSTFNQKFKG(配列番号9)又はその少なくとも4個、5個、6個、7個、8個、9個若しくは10個の連続したアミノ酸の配列を含むHCDR2であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、異なるアミノ酸に置換され得る、HCDR2;アミノ酸配列:GGTRFAY(配列番号10)又はその少なくとも4個、5個若しくは6個の連続したアミノ酸の配列を含むHCDR3であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、異なるアミノ酸に置換され得る、HCDR3;アミノ酸配列:RASESVDNFGVSFMY(配列番号11)又はその少なくとも4個、5個、6個、7個、8個、9個若しくは10個の連続したアミノ酸の配列を含むLCDR1であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、異なるアミノ酸に置換され得る、LCDR1;アミノ酸配列:GASNQGS(配列番号12)又はその少なくとも4個、5個若しくは6個の連続したアミノ酸の配列を含むLCDR2領域であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、異なるアミノ酸に置換され得る、LCDR2領域;及び/又はアミノ酸配列:QQTKEVPYT(配列番号13)又はその少なくとも4個、5個、6個、7個若しくは8個の連続したアミノ酸の配列を含む、I-394のLCDR3領域であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、欠失され得るか若しくは異なるアミノ酸に置換され得る、LCDR3領域。CDRの位置は、Kabatナンバリングに従い得る。
【0171】
本開示に係る別の例示的な抗CD39 VH及びVLのペアは、抗体I-395のものであり、その重鎖可変領域のアミノ酸配列は、下記で列挙されており(配列番号14)、その軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、下記で列挙されている(配列番号15)。配列番号14及び配列番号15において、Kabatナンバリングに従うCDRに下線を引いている。任意選択により、このVH及びVLは、ヒトアクセプターフレームワークを含む(例えば、このフレームワークを組み入れるように改変されている)。ある実施形態において、本開示の抗CD39抗体は、配列番号14のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域のVH CDR1、CDR2及び/又はCDR3(例えば、Kabatナンバリングに従う)を含む。ある実施形態において、本開示の抗CD39抗体は、配列番号15のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域のVL CDR1、CDR2及び/又はCDR3(例えば、Kabatナンバリングに従う)を含む。ある実施形態において、本開示の抗CD39抗体は、配列番号14のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域のKabat CDR1、CDR2及び/又はCDR3を含むVHと、配列番号15のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域のKabat CDR1、CDR2及び/又はCDR3を含むVLとを含む。
I-395 VH:
【化12】
I-395 VL:
【化13】
【0172】
抗CD39抗体は、例えば、下記を含み得る:アミノ酸配列:DYNMH(配列番号16)若しくはその少なくとも4個の連続したアミノ酸の配列を含むHCDR1であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、異なるアミノ酸に置換され得る、HCDR1;アミノ酸配列:YINPNNGGTTYNQKFKG(配列番号17)又はその少なくとも4個、5個、6個、7個、8個、9個若しくは10個の連続したアミノ酸の配列を含むHCDR2であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、異なるアミノ酸に置換され得る、HCDR2;アミノ酸配列:GGTRFAS(配列番号18)又はその少なくとも4個、5個、6個の連続したアミノ酸の配列を含むHCDR3であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、異なるアミノ酸に置換され得る、HCDR3;アミノ酸配列:RASESVDNYGISFMY(配列番号19)又はその少なくとも4個、5個、6個、7個、8個、9個若しくは10個の連続したアミノ酸の配列を含むLCDR1であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、異なるアミノ酸に置換され得る、LCDR1;アミノ酸配列:AASTQGS(配列番号20)又はその少なくとも4個、5個若しくは6個の連続したアミノ酸の配列を含むLCDR2領域であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、異なるアミノ酸に置換され得る、LCDR2領域;及び/又はアミノ酸配列:QQSKEVPFT(配列番号21)又はその少なくとも4個、5個、6個、7個若しくは8個の連続したアミノ酸の配列を含む、I-396のLCDR3領域であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、欠失され得るか若しくは異なるアミノ酸に置換され得る、LCDR3領域。CDRの位置は、Kabatナンバリングに従い得る。
【0173】
本開示に係る別の例示的な抗CD39 VH及びVLのペアは、抗体I-396のものであり、その重鎖可変領域のアミノ酸配列は、下記で列挙されており(配列番号22)、その軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、下記で列挙されている(配列番号23)。配列番号22及び配列番号23において、Kabatナンバリングに従うCDRに下線を引いている。任意選択により、このVH及びVLは、ヒトアクセプターフレームワークを含む(例えば、このフレームワークを組み入れるように改変されている)。ある実施形態において、本開示の抗CD39抗体は、配列番号22のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域のVH CDR1、CDR2及び/又はCDR3(例えば、Kabatナンバリングに従う)を含む。ある実施形態において、本開示の抗CD39抗体は、配列番号23のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域のVL CDR1、CDR2及び/又はCDR3(例えば、Kabatナンバリングに従う)を含む。ある実施形態において、本開示の抗CD39抗体は、配列番号22のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域のKabat CDR1、CDR2及び/又はCDR3を含むVHと、配列番号23のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域のKabat CDR1、CDR2及び/又はCDR3を含むVLとを含む。
I-396 VH:
【化14】
I-396 VL:
【化15】
【0174】
抗CD39抗体は、例えば、下記を含み得る:アミノ酸配列:DTYIN(配列番号24)若しくはその少なくとも4個の連続したアミノ酸の配列を含むHCDR1であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、異なるアミノ酸に置換され得る、HCDR1;アミノ酸配列:RIDPANGNTKYDPKFQG(配列番号25)又はその少なくとも4個、5個、6個、7個、8個、9個若しくは10個の連続したアミノ酸の配列を含むHCDR2であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、異なるアミノ酸に置換され得る、HCDR2;アミノ酸配列:WGYDDEEADYFDS(配列番号26)又はその少なくとも4個、5個、6個、7個、8個、9個若しくは10個の連続したアミノ酸の配列を含むHCDR3であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、異なるアミノ酸に置換され得る、HCDR3;アミノ酸配列:RASESVDNYGISFMN(配列番号27)又はその少なくとも4個、5個、6個、7個、8個、9個若しくは10個の連続したアミノ酸の配列を含むLCDR1であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、異なるアミノ酸に置換され得る、LCDR1;アミノ酸配列:AASNQGS(配列番号28)又はその少なくとも4個、5個若しくは6個の連続したアミノ酸の配列を含むLCDR2領域であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、異なるアミノ酸に置換され得る、LCDR2領域;及び/又はアミノ酸配列:HQSKEVPWT(配列番号29)又はその少なくとも4個、5個、6個、7個若しくは8個の連続したアミノ酸の配列を含む、I-396のLCDR3領域であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、欠失され得るか若しくは異なるアミノ酸に置換され得る、LCDR3領域。CDRの位置は、Kabatナンバリングに従い得る。
【0175】
本開示に係る別の例示的な抗CD39 VH及びVLのペアは、抗体I-399のものであり、その重鎖可変領域のアミノ酸配列は、下記で列挙されており(配列番号30)、その軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、下記で列挙されている(配列番号31)。配列番号30及び配列番号31において、Kabatナンバリングに従うCDRに下線を引いている。任意選択により、このVH及びVLは、ヒトアクセプターフレームワークを含む(例えば、このフレームワークを組み入れるように改変されている)。ある実施形態において、本開示の抗CD39抗体は、配列番号30のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域のVH CDR1、CDR2及び/又はCDR3(例えば、Kabatナンバリングに従う)を含む。ある実施形態において、本開示の抗CD39抗体は、配列番号31のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域のVL CDR1、CDR2及び/又はCDR3(例えば、Kabatナンバリングに従う)を含む。ある実施形態において、本開示の抗CD39抗体は、配列番号30のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域のKabat CDR1、CDR2及び/又はCDR3を含むVHと、配列番号31のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域のKabat CDR1、CDR2及び/又はCDR3を含むVLとを含む。
I-399 VH:
【化16】
I-399 VL:
【化17】
【0176】
抗CD39抗体は、例えば、下記を含み得る:アミノ酸配列:SFWMN(配列番号32)若しくはその少なくとも4個の連続したアミノ酸の配列を含むHCDR1であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、異なるアミノ酸に置換され得る、HCDR1;アミノ酸配列:EIDPSDFYTNSNQRFKG(配列番号33)又はその少なくとも4個、5個、6個、7個、8個、9個若しくは10個の連続したアミノ酸の配列を含むHCDR2であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、異なるアミノ酸に置換され得る、HCDR2;アミノ酸配列:GDFGWYFDV(配列番号34)又はその少なくとも4個、5個若しくは6個の連続したアミノ酸の配列を含むHCDR3であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、異なるアミノ酸に置換され得る、HCDR3;アミノ酸配列:SASSSINSNYLH(配列番号35)又はその少なくとも4個、5個、6個、7個、8個、9個若しくは10個の連続したアミノ酸の配列を含むLCDR1であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、異なるアミノ酸に置換され得る、LCDR1;アミノ酸配列:RTSNLAS(配列番号36)又はその少なくとも4個、5個若しくは6個の連続したアミノ酸の配列を含むLCDR2領域であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、異なるアミノ酸に置換され得る、LCDR2領域;及び/又はアミノ酸配列:QQGSSLPRT(配列番号37)又はその少なくとも4個、5個、6個、7個若しくは8個の連続したアミノ酸の配列を含む、I-399のLCDR3領域であって、任意選択により、これらのアミノ酸の1個若しくは複数は、欠失され得るか若しくは異なるアミノ酸に置換され得る、LCDR3領域。CDRの位置は、Kabatナンバリングに従い得る。
【0177】
I-394抗体、I-395抗体、I-396抗体及びI-399抗体の何れかにおいて、HCDR1、HCDR2、HCDR3及びLCDR1、LCDR2、LCDR3の配列(別々に各CDR又は全てのCDR)は、Kabatナンバリングシステムのもの(下線を引くことにより、VH及びVLの配列中に示す)、Chotiaナンバリングシステムのもの若しくはIMGTナンバリングシステムのもの又は任意の他の適切なナンバリングシステムであると指定され得る。
【0178】
ある態様において、指定した可変領域、FR及び/又はCDRの配列は、1個又は複数の配列改変を含み得、例えば置換(1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個又はより多くの配列改変)を含み得る。ある実施形態において、この置換は、保存的改変である。
【0179】
別の態様において、本抗CD39化合物は、配列番号6のVHドメインに対して少なくとも約60%、70%又は80%の配列同一性、任意選択により少なくとも約85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有するVHドメインを含む。別の態様において、本抗CD39抗体は、配列番号7のVLドメインに対して少なくとも約60%、70%又は80%の配列同一性、任意選択により少なくとも約85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有するVLドメインを含む。
【0180】
抗体のフラグメント及び誘導体(別途明記しない限り又は文脈により明らかに矛盾しない限り、本願で使用される用語1つ又は複数の「抗体」に包含される)を当技術分野で既知の技術により製造し得る。「フラグメント」は、無傷の抗体の一部を含み、一般には抗原結合部位又は可変領域を含む。抗体フラグメントの例として下記が挙げられる:Fabフラグメント、Fab’フラグメント、Fab’-SHフラグメント、F(ab’)2フラグメント及びFvフラグメント;ダイアボディ;連続したアミノ酸残基の1つの連続した配列からなる一次構造を有するポリペプチドである任意の抗体フラグメント(本明細書では、「一本鎖抗体フラグメント」又は「一本鎖ポリペプチド」と称される)、例えば、限定されないが、(1)一本鎖Fv分子、(2)会合した重鎖部分を有しない、1個のみの軽鎖可変ドメインを含む一本鎖ポリペプチド又はこの軽鎖可変ドメインの3個のCDRを含む、この一本鎖ポリペプチドのフラグメント、及び(3)会合した軽鎖部分を有しない、1個のみの重鎖可変領域を含む一本鎖ポリペプチド又はこの重鎖可変領域の3個のCDRを含む、この一本鎖ポリペプチドのフラグメント;並びに抗体フラグメントから形成された多重特異性(例えば、二重特異性)抗体。含まれるのは、特にナノボディ、ドメイン抗体、単一ドメイン抗体又は「dAb」である。
【0181】
特定の実施形態において、抗体を産生するハイブリドーマのDNAを、発現ベクター中への挿入前に、例えば相同非ヒト配列の代わりにヒト重鎖定常ドメイン及びヒト軽鎖定常ドメインのコード配列を置換することにより(例えば、Morrison et al.,PNAS pp.6851(1984))又は非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全て又は一部を免疫グロブリンコード配列に共有結合的に連結させることにより改変し得る。この方法において、元々の抗体の結合特異性を有する「キメラ」抗体又は「ハイブリッド」抗体が調製される。典型的には、そのような非免疫グロブリンポリペプチドは、抗体の定常ドメインの代わりである。
【0182】
任意選択により、抗体は、ヒト化されている。抗体の「ヒト化」形態は、マウス免疫グロブリンに由来する最小配列を含む特定のキメラ免疫グロブリン、その免疫グロブリン鎖又はフラグメント(例えば、Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2若しくは抗体の他の抗原結合部分配列)である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、このレシピエント抗体では、このレシピエントの相補性決定領域(CDR)からの残基が元々の抗体(ドナー抗体)のCDRからの残基に置き換えられており、同時に元々の抗体の所望の特異性、親和性及び能力が維持されている。
【0183】
任意選択により、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基は、対応する非ヒト残基に置き換えられ得る。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体又は移入されたCDR若しくはフレームワークの配列の何れでも見出されない残基を含み得る。これらの改変は、抗体の性能をさらに改善及び最適化するために行われる。一般に、このヒト化抗体は、少なくとも1個の(典型的には2個の)可変ドメインの実質的に全てを含み、この可変ドメインでは、CDR領域の全て又は実質的に全てが元々の抗体のものに対応し、且つFR領域の全て又は実質的に全てがヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものである。このヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)(典型的には、ヒト免疫グロブリンのもの)の少なくとも一部も最適に含むであろう。さらなる詳細に関して、Jones et al.,Nature,321,pp.522(1986);Reichmann et al,Nature,332,pp.323(1988);Presta,Curr.Op.Struct.Biol.,2,pp.593(1992);Verhoeyen et Science,239,pp.1534;及び米国特許第4,816,567号明細書(これらの開示全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。抗体をヒト化するための方法は、当技術分野で公知である。
【0184】
抗原性を低下させるために、ヒト化抗体の作製で使用するヒト可変ドメイン(軽及び重の両方)の選択が非常に重要である。いわゆる「ベストフィット」法によれば、抗体の可変ドメインの配列を既知のヒト可変ドメイン配列の全ライブラリに対してスクリーニングする。次いで、マウスの配列に最も近いヒト配列をヒト化抗体のためのヒトフレームワーク(FR)として許容する(Sims et al.,J.Immunol.151,pp.2296(1993);Chothia and Lesk,J.Mol.196,1987,pp.901)。別の方法は、軽鎖又は重鎖の特定のサブグループの全ヒト抗体のコンセンサス配列からの特定のフレームワークを使用する。同一のフレームワークをいくつかの異なるヒト化抗体に使用し得る(Carter et al.,PNAS 89,pp.4285(1992);Presta et al.,J.Immunol.,151,p.2623(1993))。
【0185】
抗体がCD39及び他の好ましい生物学的特性に対して高い親和性を保持しつつヒト化されることがさらに重要である。この目標を達成するために、ある方法によれば、親配列及びヒト化配列の三次元モデルを使用する、親配列及び様々な概念上のヒト化産物の分析プロセスにより、ヒト化抗体を調製する。三次元免疫グロブリンモデルは、一般に入手可能であり、当業者によく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の推定上の三次元構造を説明する及び表示するコンピュータープログラムが入手可能である。これらの表示の調査により、この候補免疫グロブリン配列の機能における残基のあり得る役割の分析が可能になる。このようにして、コンセンサス配列及びインポート配列からFR残基を選択して組み合わせ得、その結果、所望の抗体特性が達成される。
【0186】
「ヒト化」モノクローナル抗体を作製する別の方法は、免疫付与に使用されるマウスとしてXenoMouse(Abgenix、Fremont、CA)を使用することである。XenoMouseは、免疫グロブリン遺伝子が、機能するヒト免疫グロブリン遺伝子に置き換えられているマウス宿主である。そのため、このマウスにより産生された抗体又はこのマウスのB細胞から作製したハイブリドーマ中で産生された抗体は、既にヒト化されている。XenoMouseは、米国特許第6,162,963号明細書で説明されており、この明細書の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0187】
同様に、ヒト抗体を様々な他の技術に従って製造し得、例えばヒト抗体のレパートリーを発現するように操作されている他のトランスジェニック動物を免疫付与のために使用することにより(Jakobovitz et al.,Nature 362(1993)255)又はファージディスプレイ法を使用する抗体のレパートリーからの選択により製造し得る。そのような技術は、当業者に既知であり、本願で開示されたモノクローナル抗体から出発して実施され得る。
【0188】
1mg/mL~500mg/mLの濃度で含む医薬処方物中に抗CD39抗体が組み込まれ得、前記処方物のpHは2.0~10.0である。本処方物は、緩衝液系、保存剤、等張化剤、キレート剤、安定化剤及び界面活性剤をさらに含み得る。ある実施形態において、医薬処方物は、水性処方物、すなわち水を含む処方物である。このような処方物は、一般に溶液又は懸濁液である。さらなる実施形態において、本医薬処方物は水性溶液である。「水性処方物」という用語は、少なくとも50%w/wの水を含む処方物として定義される。同様に「水溶液」という用語は、少なくとも50%w/wの水を含む溶液として定義され、「水性懸濁液」という用語は、少なくとも50%w/wの水を含む懸濁液として定義される。
【0189】
別の実施形態において、本医薬処方物は、凍結乾燥処方物であり、医師又は患者が使用前にそれに溶媒及び/又は希釈剤を添加する。
【0190】
別の実施形態において、本医薬処方物は、事前に溶解する必要がない使用準備済みの乾燥処方物(例えば、凍結乾燥又は噴霧乾燥)である。
【0191】
さらなる態様において、本医薬処方物は、このような抗体の水溶液及び緩衝液を含み、この抗体は1mg/mL又はそれを超える濃度で存在し、前記処方物のpHは約2.0~約10.0である。
【0192】
別の実施形態において、本処方物のpHは、約2.0~約10.0、約3.0~約9.0、約4.0~約8.5、約5.0~約8.0及び約5.5~約7.5からなる一覧から選択される範囲である。
【0193】
さらなる実施形態において、緩衝液は、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸塩、グリシルグリシン、ヒスチジン、グリシン、リジン、アルギニン、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸ナトリウム及びトリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン、ビシン、トリシン、リンゴ酸、コハク酸塩、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、アスパラギン酸又はこれらの混合物からなる群から選択される。これらの具体的な各緩衝液は、代替的な実施形態を構成する。
【0194】
さらなる実施形態において、本処方物は、薬学的に許容可能な保存剤をさらに含む。さらなる実施形態において、本処方物は等張剤をさらに含む。さらなる実施形態において、本処方物はキレート剤も含む。さらなる実施形態において、本処方物は安定化剤をさらに含む。さらなる実施形態において、本処方物は界面活性剤をさらに含む。便宜上、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,19th edition,1995を参照する。
【0195】
ペプチド医薬処方物中に他の成分が存在し得る可能性がある。このようなさらなる成分としては、湿潤剤、乳化剤、抗酸化剤、充填剤、等張性調節剤、キレート剤、金属イオン、油性ビヒクル、タンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン、ゼラチン又はタンパク質)及び双性イオン(例えば、ベタイン、タウリン、アルギニン、グリシン、リジン及びヒスチジンなどのアミノ酸)が挙げられ得る。このようなさらなる成分は、当然のことながら、医薬処方物の全体的な安定性に悪影響を与えるべきではない。
【0196】
抗体を含有する医薬組成物は、いくつかの部位、例えば局所部位、例えば皮膚及び粘膜部位、吸収を迂回する部位、例えば動脈における、静脈における、心臓における投与及び吸収を含む部位、例えば皮膚、皮下における、筋肉又は腹部における投与において、このような処置を必要とする患者に投与し得る。医薬組成物の投与は、このような処置を必要とする患者への、いくつかの投与経路を通じて、例えば皮下、筋肉内、腹腔内、静脈内、舌、舌下、頬側、口腔における投与、経口、胃腸における投与、鼻腔、肺、例えば細気管支及び肺胞又はそれらの組み合わせを通じた投与、上皮、真皮、経皮、膣、直腸、眼、例えば結膜を通じた投与、ウレタル(uretal)及び非経口投与であり得る。
【0197】
適切な抗体処方物は、他の既に開発されている治療用モノクローナル抗体での経験を調べることによっても決定し得る。いくつかのモノクローナル抗体は、リツキサン(リツキシマブ)、ハーセプチン(トラスツズマブ)、ゾーレア(オマリズマブ)、ベクザー(トシツモマブ)、キャンパス(アレムツズマブ)、ゼバリン、オンコリム(Oncolym)など、臨床的状況で有効であることが示されており、抗体と共に同様の処方物を使用し得る。例えば、モノクローナル抗体は、100mg(10mL)又は500mg(50mL)の何れかの単回使用バイアルで、9.0mg/mL塩化ナトリウム、7.35mg/mLクエン酸ナトリウム二水和物、0.7mg/mLポリソルベート80及び注射のための滅菌水中でIV投与用に処方された10mg/mLの濃度で供給され得る。pHは6.5に調整する。別の実施形態において、本抗体は、pHが6.0の約20mMクエン酸Na、約150mM NaClを含む処方物中で供給される。
【0198】
疾患の診断及び処置
本明細書で説明された抗CD39抗体を使用して個体(特にヒト個体)を処置する方法も提供される。ある実施形態において、本開示は、ヒト患者への投与のための医薬組成物の調製における、本明細書で説明された抗体の使用を提供する。典型的には、この個体は、癌又は感染性疾患(例えば、ウイルス感染、細菌感染)に罹患しているか又はこれらのリスクがある。ある実施形態において、この個体は、循環及び/又は組織サンプル(例えば、腫瘍サンプル若しくは腫瘍隣接組織サンプル)において、検出可能な可溶性(細胞外)CD39タンパク質を有する。
【0199】
例えば、ある態様において、提供されるのは、リンパ球の活性の回復又は増強を、それを必要とする個体において行う方法であって、本開示の中和抗CD39抗体を前記個体に投与するステップを含む方法である。この抗体は、例えば、ヒト抗CD39抗体又はヒト化抗CD39抗体であって、CD39-L1、CD39-L2、CD39-L3及び/又はCD39-L4に結合することなく、「血管」CD39の可溶型及び膜型に特異的に結合してこれらのATPアーゼ活性を中和し、任意選択によりヒトCD16が実質的に結合しない(及び任意選択により、さらに、他のヒトFcγ受容体(例えば、CD32a、CD32b又はCD64)が結合しない)ヒト抗CD39抗体又はヒト化抗CD39抗体であり得る。そのような抗体は、血管CD39以外のアイソフォームでの結合の欠如に起因して、望ましくない副作用又は毒性を低減させ、且つ血管系中におけるCD39発現内皮細胞に対する枯渇効果又は他のFcにより媒介される効果を生じる望ましくない副作用又は毒性を低減させるであろう。
【0200】
ある実施形態において、この方法は、リンパ球の活性の増加が有利である疾患又は免疫抑制、免疫抑制細胞若しくは例えばCD4T細胞、CD8T細胞、B細胞)により生成されたアデノシンにより引き起こされるか、若しくはこれらによって特徴付けられる疾患を有する個体のリンパ球(例えば、T細胞)の活性を増加させることに向けられる。この方法は、例えば、腫瘍微小環境(及びこの環境中における、CD39により媒介されるアデノシン産生)が、免疫系による認識の欠如(免疫逃避)に寄与し得ると疑われる固形腫瘍を有する個体を処置するのに特に有用であるであろう。腫瘍環境(腫瘍組織又は腫瘍隣接組織)は、例えば、CD39発現免疫細胞(例えば、CD4T細胞、CD8T細胞、B細胞)の存在によって特徴付けられ得る。
【0201】
より具体的には、本方法及び本組成物は、様々な癌及び他の増殖性疾患並びに感染性疾患の処置に利用される。この方法は、リンパ球の抗標的細胞(例えば、抗腫瘍)活性を阻害するアデノシンを減少させることにより機能し、任意選択により、さらに、リンパ球の抗腫瘍活性を増加させ得るATPを増加させることにより機能することから、この方法は、非常に広い範囲の癌及び感染性疾患に適用可能である。ある実施形態において、本抗CD39組成物は、ヒトPD-1の阻害活性を中和する(例えば、PD-1とPD-L1との間の相互作用を阻害する)薬剤による処置に対する応答が低い(又は感受性ではない)個体の癌を処置するのに有用である。処置し得る癌の代表例として、特に腫瘍微小環境中のアデノシンが抗腫瘍免疫応答の抑制で強力な役割を果たし得る固形腫瘍が挙げられる。ある実施形態において、抗CD39抗体で処置されるヒト患者は、肝臓癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)を含む頭頸部の癌、乳癌、肺癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)、メラノーマ、子宮癌、結腸癌、直腸癌、肛門領域の癌、胃癌、精巣癌、子宮癌、卵管の癌腫、子宮内膜の癌腫、子宮頸部の癌腫、膣の癌腫、外陰部の癌腫、非ホジキンリンパ腫、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織の肉腫、尿道癌、陰茎癌、小児期の固形腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱癌、腎臓又は尿管の癌、腎盂の癌腫、中枢神経系(CNS)の新生物、原発性CNSリンパ腫、腫瘍の血管新生、脊髄軸腫瘍、脳幹グリオーマ、下垂体腺腫、カポジ肉腫、類表皮癌、扁平上皮癌、アスベストにより誘導されるものを含む環境誘導性の癌、例えば多発性骨髄腫、B細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫/縦隔原発性B細胞性リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性リンパ腫、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、免疫芽球性大細胞型リンパ腫、前駆Bリンパ芽球性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、急性リンパ芽球性白血病、菌状息肉腫、未分化大細胞型リンパ腫、T細胞リンパ腫及び前駆Tリンパ芽球性リンパ腫を含む血液系悪性腫瘍及び前記癌の何れかの組み合わせを有する。本開示は、転移性癌の処置にも適用可能である。患者は、処置前、処置中又は処置後、上記臨床特性の1つ以上に対して試験又は選択され得る。
【0202】
ある実施形態において、本抗CD39抗体を、例えば循環中における及び/又は組織(例えば、腫瘍若しくは腫瘍隣接組織)中における可溶性(細胞外)CD39タンパク質の検出可能な及び/又は上昇したレベルによって特徴付けられる癌の処置で使用する。
【0203】
ある実施形態において、本抗CD39抗体を、CD39を発現する悪性細胞によって特徴付けられる癌の処置で使用する。
【0204】
ある実施形態において、本抗CD39抗体を、CD39、任意選択によりsCD39、任意選択によりmemCD39の酵素活性の中和のために、少なくともEC50、任意選択によりEC70、任意選択により実質的にEC100の血中濃度を(例えば、1週間、2週間、3週間、4週間にわたり及び/又は抗原結合化合物のその後の投与まで)個体において達成及び/又は維持するのに有効な量で投与する。ある実施形態において、抗CD39抗体の有効量とは、個体の血管外組織中において、CD39、任意選択によりsCD39、任意選択によりmemCD39の酵素活性の中和のために、EC50、任意選択によりEC70、任意選択により実質的にEC100を達成するのに有効な量である。ある実施形態において、抗CD39抗体の有効量は、CD39、任意選択によりsCD39、任意選択によりmemCD39の酵素活性の中和の阻害のために、EC50、任意選択によりEC70、任意選択により実質的にEC100を個体において達成(又は維持)するのに有効な量である。
【0205】
任意選択により、ある実施形態において、ADCCによるCD39発現腫瘍細胞の枯渇を対象とするいくつかの抗体(例えば、受容体飽和をもたらすものと同等の又は実質的に低い濃度で完全な効力を提供し得る)とは対照的に、本抗CD39抗体は、実質的なFcγ受容体媒介活性を示さず、本抗CD39抗体を、抗CD39抗体の次の連続投与まで、所望の期間(例えば、1週間、2週間、1ヶ月)にわたり、CD39発現の下方制御を実質的に生じさせることなく、任意選択により、さらにCD39の酵素活性を中和するのに有効な量で投与する。
【0206】
ある実施形態において、本抗CD39抗体を、ATPからAMPへのCD39により媒介される異化の阻害のために(例えば、sCD39のATPアーゼ活性の中和を評価することによる;可溶性(細胞外)CD39タンパク質のATPアーゼ活性の中和を評価することによる、実施例5を参照されたい)、少なくともEC50、任意選択によりEC70、任意選択により実質的にEC100の血中濃度を個体において(例えば、1週間、2週間、3週間、4週間にわたり及び/又は抗CD39抗体のその後の投与まで)達成及び/又は維持するのに有効な量で投与する。
【0207】
ある実施形態において、提供されるのは、個体の癌を処置又は予防するための方法であって、(例えば、PBMCで評価される場合に)循環中における50%、70%又は完全な(例えば、90%)の受容体飽和CD39発現細胞に必要な濃度と比べて高い循環中の濃度、任意選択により目的の血管外組織(例えば、腫瘍又は腫瘍環境)中の濃度を指定の期間にわたり達成又は維持する量で抗CD39抗体を、疾患を有する個体に投与することを含む方法である。任意選択により、達成される濃度は、指定の受容体飽和に必要な濃度と比べて少なくとも20%、50%又は100%高い。
【0208】
ある実施形態において、提供されるのは、個体の癌を処置又は予防するための方法であって、(例えば、CD39発現細胞(例えば、実施例、方法でのRamos細胞)上の抗CD39抗体を滴定することにより、フローサイトメトリーによって評価される場合に)CD39発現細胞への結合に関して、EC50、任意選択によりEC70か又は任意選択によりEC100と比べて高い循環中の濃度、任意選択により目的の血管外組織(例えば、腫瘍又は腫瘍環境)中の濃度を指定の期間にわたり達成又は維持する量で抗CD39抗体を個体に投与することを含む方法である。任意選択により、達成される濃度は、CD39発現細胞への結合に関して、EC50、任意選択によりEC70又は任意選択によりEC100と比べて少なくとも20%、50%又は100%高い。
【0209】
EC50、EC70又はEC100を、例えば本明細書の実施例で示されているCD39の酵素活性の中和(例えば、ATPからAMPへの(又はATPから下流のアデノシンへの)加水分解を評価することによるB細胞中におけるATPアーゼ活性の中和)に関する細胞アッセイで評価し得る(実施例、方法を参照されたい)。CD39の酵素活性の中和に関する「EC50」は、この酵素活性の中和に関する最大の反応又は効果の50%を生じる抗CD39抗体の効率的な濃度を指す。CD39の酵素活性の中和に関する「EC70」は、最大の反応又は効果の70%を生じる抗CD39抗体の効率的な濃度を指す。CD39の酵素活性の中和に関する「EC100」は、この酵素活性のそのようは中和に関する実質的に最大の反応又は効果を生じる抗CD39抗体の効率的な濃度を指す。
【0210】
いくつかの実施形態において、特に固形腫瘍の処置の場合、達成される濃度は、酵素活性の中和のために少なくともEC50又はEC70(任意選択により約EC100又は少なくとも約EC100)に対応する組織中(血管外、例えば腫瘍又は腫瘍環境中)の濃度をもたらすように設計されている。
【0211】
ある実施形態において、抗CD39抗体の量は、1~20mg/kg体重である。ある実施形態において、この量を毎週、2週間毎、毎月又は2ヶ月毎に個体に投与する。
【0212】
ある実施形態において、提供されるのは、癌を有するヒト個体を処置する方法であって、少なくとも1回の投与サイクル(任意選択により、少なくとも2回、3回、4回又はより多くの投与サイクル)にわたり、本開示の抗CD39抗体の有効量を個体に投与することを含み、このサイクルは、8週間以下の期間であり、少なくとも1回のサイクルのそれぞれに関して、抗CD39抗体の1回、2回、3回又は4回の用量は、1~20mg/kg体重の用量で投与される、方法である。ある実施形態において、この抗CD39抗体を静脈内注入により投与する。
【0213】
ヒトを処置するための適切な処置プロトコルは、例えば、抗CD39抗体の本明細書で開示された量を患者に投与することを含み、この方法は、抗CD39抗体の少なくとも1回の用量を投与する少なくとも1回の投与サイクルを含む。任意選択により、抗CD39抗体の少なくとも2回、3回、4回、5回、6回、7回又は8回の用量を投与する。ある実施形態において、投与サイクルは、2週間~8週間である。
【0214】
ある実施形態において、提供されるのは、個体の疾患(例えば、癌、固形腫瘍、血液腫瘍)を処置又は予防するための方法であって、少なくとも1回の投与サイクルにわたりCD39の酵素活性を中和する抗CD39抗体を、疾患(例えば、癌、固形腫瘍、血液腫瘍)を有する個体に投与することを含み、この投与サイクルは、抗CD39抗体の少なくとも1回目の及び2回目の(並びに任意選択により、3回目、4回目、5回目、6回目、7回目及び/若しくは8回目の又はさらなる)投与を含み、この抗CD39抗体は、(例えば、血液腫瘍の処置のために)少なくとも0.1μg/ml、任意選択により少なくとも0.2μg/ml、任意選択により少なくとも1μg/ml若しくは任意選択により少なくとも2μg/ml又は(例えば、固形腫瘍の処置のために、血液腫瘍の処置のために)任意選択により少なくとも約1μg/ml、2μg/ml、10μg/ml若しくは20μg/ml、例えば1~100μg/ml、1~50μg/ml、1~20μg/ml若しくは1~10μg/mlの抗CD39抗体の血中濃度(血清濃度)を2回の連続した投与間で達成及び維持するのに有効な量で投与される、方法である。ある実施形態において、指定の継続的な血中濃度が維持され、この血中濃度は、指定の期間の持続期間(例えば、抗体の2回の投与間で数週間、すなわち1週間、2週間、3週間、4週間)にわたり指定の血中濃度を実質的に下回らず、すなわち、血中濃度は、指定の期間中に変化する可能性があるが、維持される指定の血中濃度は、最小濃度又は「トラフ」濃度を表す。ある実施形態において、抗CD39抗体の治療的有効量とは、抗体の投与後に少なくとも約1週間、約2週間又は約1ヶ月の期間にわたり、CD39の酵素活性の中和のために、血液及び/又は組織中において(少なくとも)EC50濃度、任意選択によりEC70濃度、任意選択によりEC100濃度をもたらすことができるそのような酵素の量である。
【0215】
本開示の抗CD39抗体による処置の前又は処置中、可溶性(細胞外)CD39タンパク質、CD39発現細胞、アデノシン、ATP、ADP及び/又はAMPレベルの存在又はレベルを患者の腫瘍内で及び/又は患者の腫瘍に隣接して評価し、この患者が処置に適しているかどうかを評価し得る(例えば、患者が処置に反応する可能性があるかどうかを予測し得る)。可溶性(細胞外)CD39、CD39発現細胞、アデノシンのレベル、ATP、ADP及び/又はAMPの存在又はレベルの増加は、個体が本開示の抗CD39抗体(例えば、限定されないが、基質に結合したCD39を阻害する抗体)による処置に適している(例えば、この抗CD39抗体から利益を得る可能性が高い)ことを示す場合がある。
【0216】
本開示の抗CD39抗体による処置の前又は処置中、アデノシン、ADP及び/又はAMPのレベルを任意選択により患者の腫瘍内で及び/又は患者の腫瘍に隣接して評価し、この患者が抗CD39抗体による処置から利益を得ているかどうかも評価し得る。処置(又は抗体の投与)前のレベルと比較した、投与(又は抗体の投与)後の比較されたアデノシン、ATP、ADP及び/又はAMPのレベルの低下は、個体が本開示の抗CD39抗体(例えば、限定されないが、基質に結合したCD39を阻害する抗体)による処置から利益を得ていることを示す場合がある。任意選択により、患者が抗CD39抗体による処置から利益を得ている場合、方法は、この患者に抗CD39抗体のさらなる用量を投与することをさらに含み得る(例えば、継続的な処置)。
【0217】
ある実施形態において、患者の腫瘍内で及び/又は患者の腫瘍に隣接してアデノシン、ADP及び/又はAMPのレベルを評価することは、癌患者由来の組織(例えば、癌組織、癌の近位又周辺の組織、癌隣接組織、隣接非腫瘍組織又は正常隣接組織)からなる群から選択されるヒト組織の生物学的サンプルを患者から得ることと、この組織内のアデノシン、ATP、ADP及び/又はAMPのレベルを検出することとを含む。患者からのレベルは、このレベルを、例えば健康な個体に対応する参照レベルと比較し得る。
【0218】
ある実施形態において、本開示は、癌の処置又は予防を、それを必要とする個体において行うための方法であって、
a)循環又は腫瘍環境、任意選択的に腫瘍及び/又は隣接組織内において可溶性(細胞外)CD39タンパク質及び/又はCD39発現細胞を検出することと、
b)任意選択により、参照レベル(例えば、健康な個体又は抗CD39抗体から実質的な利益を引き出していない個体に対応する)と比較して増加しているレベルにおいて、可溶性(細胞外)CD39タンパク質及び/又はCD39発現細胞が循環又は腫瘍環境中に含まれていると決定すると、この個体に抗CD39抗体を投与することと
を含む方法を提供する。CD39発現細胞は、腫瘍細胞又は白血球、例えば循環細胞又は腫瘍浸潤細胞、例えばCD4T細胞、CD8T細胞、TReg細胞、B細胞を含み得る。
【0219】
ある実施形態において、本開示は、癌の処置又は予防を、それを必要とする個体において行うための方法であって、
a)この個体が、任意選択により循環、任意選択により腫瘍及び/又は隣接組織において、検出可能な可溶性(細胞外)CD39を有するかどうかを評価することと、
b)任意選択により、参照レベル(例えば、健康な個体又は本開示の抗CD39抗体から実質的な利益を引き出していない個体に対応する)と比較して増加しているレベルにおいて、可溶性(細胞外)CD39タンパク質を検出すると、この個体に本開示の抗CD39抗体を投与することと
を含む方法を提供する。
【0220】
任意選択により、これらの方法の何れかにおいて、腫瘍環境内で可溶性CD39タンパク質及び/又はCD39発現細胞(又はアデノシン、ATP、ADP及び/若しくはAMP)を検出することは、癌組織及び/又は癌に近位の若しくは周辺の組織(例えば、癌隣接組織、隣接非腫瘍組織又は正常隣接組織)を含む生物学的サンプルを個体から得ることと、sCD39タンパク質、CD39発現細胞(又はアデノシン、ATP、ADP及び/若しくはAMP)のレベルを検出することとを含む。CD39発現細胞は、例えば、腫瘍細胞、CD4T細胞、CD8T細胞、TReg細胞、B細胞を含み得る。
【0221】
癌を有する個体は、循環細胞上での又は腫瘍微小環境中の細胞上での(例えば、腫瘍細胞、CD4T細胞、CD8T細胞、TReg細胞、B細胞上での)sCD39の存在及び/又はCD39の発現を評価するための事前検出ステップなしで本抗CD39抗体により処置し得る。任意選択により、この処置方法は、個体からの血液からの又は腫瘍の生物学的サンプル(例えば、癌組織、癌の近位又周辺の組織、癌隣接組織、隣接非腫瘍組織又は正常隣接組織)におけるCD39の核酸又はポリペプチドを検出するステップを含み得る。生物学的サンプルが、CD39を発現する細胞を含むという決定(例えば、参照と比較した顕著な発現;高レベルでのCD39の発現、抗CD39抗体による高強度の染色)は、患者が、CD39を阻害する薬剤による処置から強い利益を有し得る癌を有することを示す。ある実施形態において、この方法は、生物学的サンプル中におけるCD39の核酸又はポリペプチドの発現のレベルを決定することと、このレベルを、健康な個体に対応する参照レベルと比較することとを含む。生物学的サンプルが、sCD39タンパク質及び/又は参照レベルと比較して増加したレベルでCD39の核酸若しくはポリペプチドを発現する細胞を含むという決定は、患者が、本開示の抗CD39抗体により有利に処置され得る癌を有することを示す。ある実施形態において、生物学的サンプル中におけるCD39ポリペプチドを検出することは、可溶性細胞外CD39タンパク質を検出することを含む。ある実施形態において、生物学的サンプル中におけるCD39ポリペプチドを検出することは、悪性細胞、CD4T細胞、CD8T細胞、TReg細胞、B細胞の表面上で発現されるCD39ポリペプチドを検出することを含む。ある実施形態において、生物学的サンプルが、CD39の核酸又はポリペプチドを顕著に発現する細胞を含むという決定は、患者が本開示の抗CD39抗体により有利に処置され得る癌を有することを示す。「顕著に発現される」は、CD39ポリペプチドに言及する場合、CD39ポリペプチドが、所与の患者から採取した相当な数の細胞中で発現されることを意味する。用語「顕著に発現される」の定義は、正確なパーセンテージ値に拘束されないが、いくつかの例では、「顕著に発現される」と言われている受容体は、患者から採取した腫瘍細胞の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%又はより多くで存在するであろう。
【0222】
個体が、CD39ポリペプチドを発現する細胞によって特徴付けられる癌を有するかどうかを決定することは、例えば、癌環境(例えば、腫瘍又は腫瘍隣接組織)からの細胞を含む個体から生物学的サンプルを(例えば、生検を実施することにより)得ることと、前記細胞を、CD39ポリペプチドに結合する抗体と接触させることと、細胞がその表面上でCD39を発現するかどうかを検出することとを含み得る。任意選択により、個体が、CD39を発現する細胞を有するかどうかを決定することは、免疫組織化学アッセイを実行することを含む。
【0223】
本抗体組成物は、単剤療法において、又はその抗体が投与されている特定の治療目的のために通常利用される薬剤を含む1つ以上の他の治療剤との併用処置において使用され得る。さらなる治療剤は、通常、処置されている特定の疾患又は状態に対する単剤療法においてその薬剤に対して一般的に使用される量及び治療計画で投与される。このような治療剤としては、抗癌剤及び化学療法剤、例えば腫瘍細胞からのATPの細胞外放出を生じさせることができる化学療法剤が挙げられるが限定されない。
【0224】
ある実施形態において、抗CD39中和抗体は、ヒトCD16への結合を欠くが、CD16発現エフェクター細胞(例えば、NK又はエフェクターT細胞)の活性を増強する。従って、ある実施形態において、第2の又はさらなる第2の治療薬は、(例えば、NK細胞によって発現されるCD16を介して)それが結合している細胞に対してADCCを誘導することができる抗体又は他のFcドメイン含有タンパク質である。一般的には、このような抗体又は他のタンパク質は、目的の抗原、例えば腫瘍細胞上に存在する抗原(腫瘍抗原)及びFcドメイン又はその一部に結合するドメインを含み、Fcドメインを介した抗原結合ドメイン及びFcγ受容体(例えば、CD16)への結合を示す。ある実施形態において、そのADCC活性は、少なくとも部分的にCD16によって媒介される。ある実施形態において、さらなる治療薬は、天然又は改変ヒトFcドメイン、例えばヒトIgG1又はIgG3抗体由来のFcドメインを有する抗体である。「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性」又は「ADCC」という用語は、当技術分野で十分に理解されている用語であり、Fc受容体(FcR)を発現する非特異的細胞傷害性細胞が標的細胞上の結合抗体を認識し、続いて標的細胞の溶解を引き起こす、細胞媒介性反応を指す。ADCCを媒介する非特異的細胞傷害性細胞には、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、単球、好中球及び好酸球が含まれる。「ADCC誘導抗体」という用語は、当業者に公知のアッセイによって測定されるADCCを示す抗体を指す。そのような活性は、典型的には、Fc領域の様々なFcRとの結合によって特徴付けられる。いかなる特定の機構によっても限定されるものではないが、当業者は、抗体がADCCを示す能力が、例えば、そのサブクラス(IgG1又はIgG3など)による、Fc領域に導入された突然変異によるか又は抗体のFc領域における糖パターンの改変によるものであり得ることを認識するであろう。ADCCを誘発する抗体の例には、リツキシマブ(リンパ腫、CLLの処置用、トラスツズマブ(乳癌の処置用)、アレムツズマブ(慢性リンパ球性白血病の処置用)及びセツキシマブ(結腸直腸癌、頭頸部扁平上皮癌の処置用)が挙げられる。ADCC増強抗体の例としては、GA-101(低フコシル化抗CD20)、margetuximab(Fc増強抗HER2)、メポリズマブ、MEDI-551(Fc操作抗CD19)、オビヌツズマブ(糖操作/低フコシル化抗CD20)、オカラツズマブ(Fc操作抗CD20)、XmAb(登録商標)5574/MOR208(Fc操作抗CD19)が挙げられるが限定されない。
【0225】
ある実施形態において、抗CD39中和抗体は、ヒトPD-1の阻害活性(例えば、PD-1とPD-L1との間の相互作用を阻害する)を中和する薬剤の有効性を、とりわけヒトPD-1の阻害活性を中和する薬剤による処置に対する応答が弱い(又は敏感でない)個人において増強する。従って、ある実施形態において、第2の又はさらなる第2の治療剤は、ヒトPD-1の阻害活性を中和する抗体又は他の薬剤である。
【0226】
プログラム死1(PD-1)(「プログラム細胞死1」とも呼ばれる)は、CD28ファミリの受容体の阻害性メンバーである。完全なヒトPD-1配列は、GenBank受入番号U64863に見出すことができる。PD-1の阻害活性の阻害又は中和は、PD-L1誘導PD-1シグナル伝達を妨げるポリペプチド剤(例えば、抗体、Fcドメインに融合したポリペプチド、イムノアドヘシンなど)の使用を含み得る。現在、市販又は臨床評価中のPD-1/PD-L1経路を阻止する少なくとも6つの薬剤が存在する。1つの薬剤は、BMS-936558(ニボルマブ/ONO-4538、Bristol-Myers Squibb、以前はMDX-1106)である。ニボルマブ(商品名Opdivo(登録商標))は、PD-1及びCD80の両方へのPD-L1リガンドの結合を阻害するFDA認可完全ヒトIgG4抗PD-L1mAbであり、国際公開第2006/121168号パンフレットにおいて抗体5C4として記載され、その開示は、参照により本明細書に組み込まれる。メラノーマ患者では、3mg/kgの用量で最も有意なORが観察されたが、他の癌のタイプでは10mg/kgであった。ニボルマブは、一般に癌の進行まで3週間毎に10mg/kgで投与される。「ヒトPD-1の阻害活性を低下させる」、「PD-1を中和する」又は「ヒトPD-1の阻害活性を中和する」という用語と、PD-1が、PD-1と、PD-L1又はPD-L2などの1つ以上のその結合パートナーとの間の相互作用から生じるシグナル伝達能力において阻害される過程を指す。PD-1の阻害活性を中和する薬剤は、PD-1と、PD-L1、PD-L2などのその結合パートナーの1つ以上との間の相互作用に起因するシグナル伝達を減少、阻止、阻害又は抑制する。従って、このような薬剤は、増殖、サイトカイン産生及び/又は細胞傷害性などのT細胞エフェクター機能を増強するように、Tリンパ球上に発現される細胞表面タンパク質によって媒介されるか又はそれを介した負の共刺激シグナルを減少させることができる。
【0227】
ランブロリズマブ又はペンブロリズマブ(商品名Keytruda(商標))とも呼ばれるMK-3475(Merck社製ヒトIgG4抗PD1mAb)は、メラノーマの治療のためにFDAによって承認され、他の癌において試験されている。ペンブロリズマブは、疾患の進行まで2週間又は3週間毎に2mg/kg又は10mg/kgで試験した。Merck3745又はSCH-900475としても知られているMK-3475は、国際公開第2009/114335号パンフレットにも記載されている。
【0228】
MPDL3280A/RG7446(アテゾリズマブ、商品名Tecentrig(登録商標)、Roche/Genentech社製抗PD-L1)は、FcγR結合及びその結果としての抗体依存性細胞傷害(ADCC)を最小限に抑えることによって効力及び安全性を最適化するように設計された、操作されたFcドメインを含むヒト抗PD-L1mAbである。1、10、15及び25mg/kg以下の用量のMPDL3280Aを3週間毎に最高1年間投与した。第3相試験では、MPDL3280AをNSCLCにおいて3週間毎に静脈内注入により1200mgで投与する。
【0229】
AMP-224(Amplimmune及びGSK)は、Fcドメインに融合したPD-L2細胞外ドメインを含むイムノアドヘシンである。PD-1を中和する薬剤の他の例は、PD-L2に結合する抗体(抗PD-L2抗体)を含み得、PD-1とPD-L2との間の相互作用を阻止する。
【0230】
ピディリズマブ(CT-011;CureTech)(CureTech/Teva社製ヒト化IgG1抗PD1mAb)、ピディリズマブ(CT-011; CureTech)(例えば、国際公開第2009/101611号パンフレットを参照されたい)は別の例である。薬剤はリツキシマブ感受性再発性FLを有する30人の患者において試験され、患者は、4週間毎の3mg/kgでの静脈内CT-011の4回にわたる注入に、CT-011の最初の注入の2週間後に始まって毎週375mg/m2で4週間にわたり投与されるリツキシマブを組み合わせて処置された。
【0231】
さらなる公知のPD-1抗体及び他のPD-1阻害剤としては、AMP-224(GSKにライセンスされたB7-DC/IgG1融合タンパク質)、国際公開第2012/145493号パンフレットに記載のAMP-514、国際公開第2011/066389号パンフレット及び米国特許出願公開第2013/034559号明細書に記載の抗体MEDI-4736(デュルバルマブ、商品名Imfinzi(商標)、AstraZeneca/Medimmuneにより開発された抗PD-L1)、国際公開第2010/077634号パンフレットに記載の抗体YW243.55.S70(抗PD-L1)、BMS-936559としても知られているMDX-1105は、国際公開第2007/005874号パンフレットに記載のBristol-Myers Squibbにより開発された抗PD-L1抗体及び国際公開第2006/121168号パンフレット、国際公開第2009/014708号パンフレット、国際公開第2009/114335号パンフレット及び国際公開第2013/019906号パンフレットに記載の抗体及び阻害剤が挙げられ、これらの開示は、参照により本明細書中に組み込まれる。抗PD1抗体のさらなる例は、国際公開第2015/085847号パンフレット(Shanghai Hengrui Pharmaceutical Co.Ltd.)に開示されており、例えばそれぞれ配列番号6、配列番号7及び/又は配列番号8の軽鎖可変ドメインCDR1、2及び3並びにそれぞれ配列番号3、配列番号4又は配列番号5の抗体重鎖可変ドメインCDR1、2及び3を有する抗体であり、配列番号は国際公開第2015/085847号パンフレットに従った付番であり、その開示は、参照により本明細書に組み込まれる。PD-1又はPD-L1への結合についてこれらの抗体の何れかと競合する抗体も使用することができる。代表的な抗PD-1抗体は、ペンブロリズマブ(Merk&Co.によってKeytruda(商標)として販売)である(参照により本明細書中に組み込まれる国際公開第2009/114335号パンフレットも参照されたい)。
【0232】
いくつかの実施形態において、PD-1中和剤は、PD-L1のPD-1への結合を阻害する抗PD-L1mAbである。いくつかの実施形態において、PD-1中和剤は、PD-1のPD-L1への結合を阻害する抗PD1mAbである。いくつかの実施形態では、PD-1中和剤は、イムノアドヘシン(例えば、定常領域(例えば、免疫グロブリン配列のFc領域)に融合したPD-L1又はPD-L2の細胞外又はPD-1結合部分を含むイムノアドヘシンである。
【0233】
処置方法において、CD39結合化合物及び第2の治療剤は、個別に、一緒に、又は連続して、又はカクテルにして投与し得る。いくつかの実施形態において、本抗原結合化合物は、第2の治療剤の投与前に投与される。例えば、CD39結合化合物は、第2の治療剤の投与のおよそ0~30日前に投与し得る。いくつかの実施形態において、CD39結合化合物は、第2の治療剤の投与の、約30分~約2週間、約30分~約1週間、約1時間~約2時間、約2時間~約4時間、約4時間~約6時間、約6時間~約8時間、約8時間~1日又は約1~5日前に投与する。いくつかの実施形態において、CD39結合化合物は、治療剤の投与と同時に投与する。いくつかの実施形態において、CD39結合化合物は、第2の治療剤の投与後に投与する。例えば、CD39結合化合物は、第2の治療剤の投与からおよそ0~30日後に投与し得る。いくつかの実施形態において、CD39結合化合物は、第2の治療剤の投与から、約30分~約2週間、約30分~約1週間、約1時間~約2時間、約2時間~約4時間、約4時間~約6時間、約6時間~約8時間、約8時間~1日又は約1~5日後に投与する。
【実施例0234】
方法
CD39突然変異体の生成
CD39突然変異体をPCRにより生成した。増幅した配列をアガロースゲル上で泳動させ、Macherey Nagel PCR Clean-Up Gel Extractionキット(リファレンス740609)を使用して精製した。次いで、各突然変異体に関して生成した精製済PCR産物をClonTech InFusionシステムにより発現ベクターに連結した。突然変異した配列を含むベクターをMiniprepとして調製し、次いで配列決定した。配列決定後、Promega PureYield(商標)Plasmid Midiprep Systemを使用して、突然変異した配列を含むベクターをMidiprepとして調製した。HEK293T細胞をDMEM培地(Invitrogen)中で増殖させ、InvitrogenのLipofectamine 2000を使用してベクターを遺伝子移入し、48時間にわたりCO2インキュベータ中で37℃においてインキュベートした後、導入遺伝子の発現に関して試験した。下記の表に示すように、突然変異体をHek-293T細胞に遺伝子移入した。下記の表1において標的となるアミノ酸突然変異を、配列番号1のナンバリングを使用して示す。
【0235】
【0236】
可溶性huCD39のクローニング、産生及び精製
分子生物学
下記のプライマー:TACGACTCACAAGCTTGCCGCCACCATGGAAGATACAAAGGAGTC(配列番号42)(フォワード)、及び
【化18】
(リバース)を使用して、ヒトPBMC cDNAからhuCD39タンパク質をクローニングした。次いで、精製済PCR産物を、InFusionクローニングシステムを使用して発現ベクター中にクローニングした。精製ステップのためにタンパク質のC末端部分中にM2タグ(FLAGタグ、配列番号45において下線を引いた)を追加しており、(例えば、配列番号45の)CD39細胞外ドメインタンパク質は、何れの実施形態においても、M2タグを欠くように任意選択により指定され得ることが認識されるであろう。
【0237】
huCD39タンパク質の発現及び精製
クローニングした配列の検証後、CHO細胞をヌクレオフェクト(nucleofect)し、次いで産生プールをサブクローニングして、huCD39タンパク質を産生する細胞クローンを得た。ローラー中で増殖したhuCD39クローンから上清を回収し、M2クロマトグラフィーカラムを使用して精製し、M2ペプチドを使用して溶出させた。次いで、精製済タンパク質をS200サイズ排除クロマトグラフィーカラム上にロードした。単量体に相当する精製済タンパク質をTBS PH7.5緩衝液で製剤化した。M2タグを有しないCD39-M2細胞外ドメイン組換えタンパク質のアミノ酸配列は、下記のとおりであった。
【化19】
【0238】
M2タグを有するCD39-M2細胞外ドメイン組換えタンパク質の最終アミノ酸配列は、下記のとおりであった。
【化20】
【0239】
可溶性CD39の酵素活性の阻害
産生された可溶性CD39タンパク質の酵素活性の抗体による阻害を、存在するATPの量に比例して発光シグナルを生じる試薬の使用によりATP加水分解の評価を可能にするCell Titer Glo(商標)(Promega、リファレンスG7571)を使用して評価した。この方法では、可溶性CD39により媒介されるATP加水分解の阻害を評価し得る。簡潔に説明すると、100μg/ml~6×10-3μg/mlの抗CD39抗体の用量範囲を37℃で1時間にわたり、方法セクションで説明したアミノ酸配列(配列番号45)を有する400ng/mlの可溶性組換えヒトCD39タンパク質と共にインキュベートした。このプレートに37℃でさらに30分にわたり20μMのATPを添加した後、CTG(Cell Titer Glo)試薬を添加した。暗所での5分間の短いインキュベーション期間後、Enspire(商標)ルミノメーターを使用して放射光を定量した。抗体の存在下での放射光と、ATPのみ(最大光放射)並びにATP及び可溶性CD39タンパク質(最小光放射)との比較により、抗CD39抗体の効力を決定した。
【0240】
細胞性CD39の酵素活性の阻害
抗体による、CD39を発現する細胞におけるCD39酵素活性の阻害を、存在するATPの量に比例して発光シグナルを生じる試薬の使用によりATP加水分解の評価を可能にするCell Titer Glo(商標)(Promega、リファレンスG7571)を使用して評価した。そのため、このアッセイを、細胞培養上清中においてCD39により加水分解されるATPの阻害の評価を可能にするように設計した。簡潔に説明すると、5×104個のRamosヒトリンパ腫細胞、5×103個の、ヒトCD39を発現するCHO細胞、カニクイザルCD39を発現するCHO細胞及びマウスCD39を発現するCHO細胞を、30μg/ml~5×10-4μg/mlの抗CD39抗体と共に37℃で1時間インキュベートした。次いで、細胞を37℃でさらに1時間にわたり20μMのATPと共にインキュベートした。プレートを400gで2分にわたり遠心分離し、細胞上清50μlを発光マイクロプレート(白色ウェル)に移す。この上清にCellTiter-Glo(登録商標)Reagent(CTG)50μlを添加し、暗所での5分間のインキュベーション後、Enspire(商標)ルミノメーターを使用して放射光を定量した。抗体の存在下での放射光と、ATPのみ(最大光放射)並びにATP及び細胞(最小光放射)との比較により、抗CD39抗体の効力を決定した。
【0241】
抗体の生成:マウスにおける免疫付与及びスクリーニング
抗ヒトCD39抗体を得るために、上記で説明した組換えヒトCD39-M2細胞外ドメイン組換えタンパク質によりBalb/cマウスに免疫付与した。マウスに、腹腔内で、CD39タンパク質50μg及びComplete Freund Adjuvantの乳濁液による1回の1回目の免疫付与を行い、腹腔内でCD39タンパク質50μg及びIncomplete Freund Adjuvantの乳濁液による2回目の免疫付与を行い、最後に静脈内でCD39タンパク質10μgによる追加免疫を行った。免疫脾臓細胞を追加免疫の3日後にX63.Ag8.653不死化B細胞と融合させ、放射線照射した脾臓細胞の存在下で培養した。ハイブリドーマを半固体メチルセルロース含有培地に播種し、増殖中のクローンを、clonepix 2装置(Molecular Devices)を使用して採取した。
【0242】
実施例1:既知の中和CD39 mAbのエピトープマッピング
抗体がどのように細胞性CD39の酵素(ATPアーゼ)活性を阻害することができるかについての洞察を得るために、本発明者らは、細胞アッセイにおいてCD39のATPアーゼ活性を阻害することが報告されている抗体(国際公開第2009/095478号パンフレットで開示されたBY40)が結合するエピトープを調べた。
【0243】
抗CD39抗体のエピトープを定義するために、本発明者らは、CD39の表面上に分子表面で露出したアミノ酸の置換により定義されるCD39突然変異体を設計した。配列番号1のナンバリングを使用して表1に示す突然変異体をHek-293T細胞に遺伝子移入した。
【0244】
I-394の用量範囲(10~2.5~0.625~0.1563~0.0391~0.0098~0.0024~0.0006μg/ml)を、フローサイトメトリーにより、20種の生成した突然変異体で試験する。BY40抗体は、両方ともCD39の突然変異体5を発現する細胞への結合が完全に喪失していたが、あらゆる他の突然変異体への結合を喪失していなかった。突然変異体5は、残基Q96、N99、E143及びR147でアミノ酸置換を含む。CD39の表面上での突然変異体5の位置を
図3Aに示す。
【0245】
実施例2:既知の中和CD39 mAbは、組換え可溶性CD39タンパク質のATPアーゼ活性を阻害することができない
細胞アッセイにおいてCD39のATPアーゼ活性を阻害することが報告されている2種の抗体(BY40及びBY12)を、組換え可溶性CD39タンパク質のATPアーゼ活性を阻害することができるかどうかを決定するために評価した。上記で説明したように産生された可溶性CD39タンパク質の酵素活性の抗体による阻害を、Cell Titer Glo(商標)(Promega、リファレンスG7571)を使用して評価した。細胞性CD39タンパク質の酵素活性の抗体による阻害を上記で示したように評価した。
【0246】
予想したように、BY40は、細胞中においてCD39タンパク質のATPアーゼ活性を阻害した。しかしながら、BY40は、可溶性CD39タンパク質の酵素活性を阻害することができなかった。
図2Bは、BY40と、本明細書で特定された新規の抗体との比較を示す。
【0247】
実施例3:sCD39の活性をブロックするための新規のmAbのスクリーニング
sCD39のATPアーゼ活性を中和する抗体を探すために一連の免疫付与を実行した。抗ヒトCD39抗体を得るために、上記で説明した組換えヒトCD39-M2細胞外ドメイン組換えタンパク質で動物に免疫付与した。様々なプロトコルを使用して及び様々な動物において、合計で15の系列の免疫付与を実行した。含まれているのは、様々なマウス株、ラット及びウサギであった。
【0248】
最初の免疫付与プロトコルでは、一次スクリーニングは、野生型CHO細胞系及びhuCD39を発現するCHO細胞系を使用するフローサイトメトリーによる増殖中のクローンの上清(SN)の試験を含んだ。細胞をそれぞれ0.1μM及び0.005μMのCFSEで染色した。フリーサイトメトリースクリーニングのために、全ての細胞を同程度に混合し、APCで標識されたヤギ抗マウスポリクローナル抗体(pAb)により、上清中における反応性抗体の存在が明らかになった。次いで、huCD39に結合した抗体に関して、開発して上記(方法)で説明したスクリーニングアッセイを使用して、可溶性CD39の酵素活性の阻害に関して上清をスクリーニングした。
【0249】
結果は、多数の特異的CD39結合抗体を得ることができるが、これらの免疫付与の何れからの抗体も可溶性CD39の酵素活性の阻害を全く示さないことを示した。1つの可能性は、CD39上の優性エピトープが、CD39の触媒部位に又はこの触媒部位の付近に適切に配置されたエピトープを含まないことである。細胞性CD39を阻害する利用可能な抗体の少なさと、抗体を使用した酵素の触媒部位の阻害における既知の困難さとを考慮すると、sCD39を中和する抗体の非存在は、可溶性(細胞外ドメイン)CD39を阻害する抗体を得ることができないことを示す可能性がある。他の可能性は、機能しないスクリーニングアッセイ及び/又は不適切に折りたたまれた若しくは機能する可溶性CD39タンパク質に関し、なぜなら、特に可溶性CD39を阻害し得る抗体の欠如により、sCD39遮断アッセイの検証が妨げられるからである。
【0250】
可溶性CD39を阻害し得る抗体の非存在を考慮して、抗体BY40のエピトープにより特定されるようにCD39の活性部位に結合する抗体の生成を促進するように設計されたスクリーニングプロトコルにより、さらなる免疫付与を実行した。簡潔に説明すると、一次スクリーニングは、上述の免疫付与と同様に野生型CHO細胞系及びhuCD39を発現するCHO細胞系を使用するフローサイトメトリーによる増殖中のクローンの上清(SN)の試験、これに続く、野生型CD39と比較して表1に示すCD39突然変異体5を発現するHek-293T細胞への結合の喪失に関するスクリーニングを含んだ。突然変異体5は、残基Q96、N99、E143及びR147で置換を有する。しかしながら、再び結果は、突然変異体5への結合の喪失を示す多数の特異的CD39結合抗体を得ることができるが、最初の免疫付与の何れからの抗体も可溶性CD39の酵素活性の阻害を全く示さないことを示した。
【0251】
実施例4:エピトープ特異的スクリーニングの一部としての、sCD39活性を阻害する一次抗体の特定
本発明者らは、BY40様抗体と競合しない抗体を有するために、Q96、N99、E143及びR147領域(突然変異体5により定義される)に結合しない抗CD39抗体を特定しようとした。CD39のATPアーゼ活性をブロックする能力を必要としないそのような抗体は、例えば、細胞性CD39を阻害するBY40抗体又はBY40様抗体の存在下で細胞上の遊離CD39タンパク質を検出して定量するための、BY40結合部位に結合する細胞性CD39を阻害する抗体の薬理学的研究に有用であり得る。
【0252】
CD39突然変異体5への結合の喪失に関してハイブリドーマをスクリーニングした実施例3の免疫付与の結果から出発して、CD39突然変異体5への結合の喪失を示すものの中の1つではないハイブリドーマを選択した。このハイブリドーマ(I-394)は、おそらく突然変異体5への結合の部分的減少に起因するより広いプールの中の1つであったが、突然変異体5への結合を喪失せず、従って最初に保持されなかった。
【0253】
可溶性CD39の酵素活性の阻害のためのさらなる免疫付与からの上清の継続的なスクリーニングに関連して、クローン化して産生した抗体I-394を対照として含めた。驚くべきことに、抗体I-394は、エピトープ特異的スクリーニングで保持されるクローンの中の1つでないにもかかわらず、この抗体は、上記(方法)で説明したアッセイにおいて可溶性CD39の酵素活性の強い阻害を示した。
【0254】
N結合型グリコシル化の欠如及びヒトFcγ受容体CD16A、CD16B、CD32A、CD32B及びCD64への結合の欠如をもたらす突然変異L234A/L235E/G237A/A330S/P331S(Kabat EUナンバリング)を有するIgG1 Fcドメインを有するヒト定常領域を有するように改変されたI-394を産生させた。簡潔に説明すると、I-394抗体のVH配列及びVk配列(それぞれ配列番号6及び配列番号7に示すVH可変領域及びVk可変領域)を、上述の突然変異及びhuCk定常ドメインをそれぞれ有するhuIgG1定常ドメインを含む発現ベクターにクローニングした。これら2種の得られたベクターをCHO細胞系に共遺伝子移入した。細胞の確立されたプールを使用して、CHO培地中で抗体を産生させた。次いで、この抗体を、プロテインAを使用して精製した。I-394のぞれぞれの重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列を下記に示す(Kabat CDRに下線を引いている)。
I-394重鎖可変ドメイン配列:
【化21】
I-394軽鎖可変ドメイン配列:
【化22】
【0255】
次いで、抗体I-394を、CD39の表面上に分子表面で露出したアミノ酸の置換により定義されるCD39突然変異体への結合の喪失に関して試験した。配列番号1のナンバリングを使用して表1に示す突然変異体をHek-293T細胞に遺伝子移入した。抗体I-394の用量範囲をフローサイトメトリーによって20種の突然変異体で試験した。
図3Bに示すように、I-394は、CD39の突然変異体19を発現する細胞への結合の完全な喪失を示した。突然変異体19は、残基R138、M139及びE142で置換を含む。そのため、I-394のコアエピトープは、残基R138、M139及びE142の1つ又は複数(又は全て)を含む。
【0256】
突然変異体5への結合を喪失し、且つ細胞性CD39を阻害する能力を有するが可溶性CD39を阻害する能力を有しない先行の抗体BY40と異なり、抗体I-394は、隣接する突然変異体19への結合を喪失し、突然変異体5への結合が強く減少する(しかし、いくつかの残基は、突然変異体5に結合する)。興味深いことに、突然変異体19の残基は、残基5のものに近接しているか又は隣接しており、その結果、I-394は、BY40と比較してエピトープのシフトを表す可能性がある。そのため、抗体I-394は、可溶性CD39タンパク質のATPアーゼ活性の阻害を可能にする抗CD39抗体に関する有用な新規のエピトープを提示する。同様に、可溶性CD39タンパク質のATPアーゼ活性を中和するさらなる抗体を検出するためのスクリーニングアッセイの検証及び試験を可能とする特異的陽性対照も提供される。
【0257】
実施例5:sCD39中和mAbに関する非エピトープ特異的スクリーニング
可溶性CD39の抗体により媒介される阻害が可能であることを示す実施例4の結果に基づいて、sCD39のATPアーゼ活性を中和する抗体を探すために、実施例3と異なるプロトコルを使用する異なる免疫付与からの融合を再検討した。
【0258】
次いで、ATPアーゼ阻害に関するスクリーニングのための様々なアプローチを評価した。一実験では、I-394抗体を使用して、可溶性CD39のATPアーゼ活性を阻害する能力が陰性であることが分かった実施例3の免疫付与のハイブリドーマから上清をスパイクした。上清へのI-394のこの添加により、CD39のATPアーゼ活性を阻害する陰性上清の能力は、回復しなかった。次いで、抗体I-394を、プロテインA被覆ビーズを使用して陰性上清から精製し、本発明者らは、精製されたI-394が再びATP活性を阻害し得ることを観察した。
【0259】
上述の結果を考慮して、可溶性CD39又は細胞性CD39のATPアーゼ活性の阻害を評価することなく、且つエピトープに関するスクリーニングバイアスなしに、野生型CHO細胞系及びhuCD39を発現するCHO細胞系を使用するフローサイトメトリーにより、新たな免疫付与及び過去の免疫付与からの増殖クローンをスクリーニングする新たな免疫付与及びスクリーニングのプロトコルを開発した。突然変異体5又は突然変異体19への結合の喪失に関するデータが一部のハイブリドーマに関して利用可能であったが、そのようなデータをクローン選択に使用せず、ATPアーゼブロッキングアッセイにおいて陰性結果の場合にクローニングのためにハイブリドーマを救出する目的で保持するのみであった。CD39に結合するハイブリドーマを選択してクローニングし、次いで下記のプロトコルに従ってプロテインAを使用して精製した:
- ハイブリドーマ上清300μlにプロテインAビーズ10μlを添加する
- 最終濃度が1,5μMとなるようにNaClを添加する
- 4℃で3~4時間にわたりチューブを回転させる
- 1500rpmで1分間遠心分離する
- 上清を除去し、TBS 1mlによる3回の洗浄を実施する
- 3回目の洗浄後にTBSを全て除去する
- クエン酸塩0,1M pH3 50μlを添加し、ホモジナイズし、次いで5分にわたりRTでインキュベートする
- 1500rpmで1分にわたりビーズを遠心分離する
- 溶出液50μlを回収し、TBS 450μlを速やかに添加し、次いで4℃で貯蔵する。
【0260】
次いで、得られた抗体を、I-394と同程度までCD39のATPアーゼ活性を阻害する能力に関して比較アッセイでスクリーニングした。可溶性CD39及び細胞性CD39の酵素活性の阻害に使用するアッセイは、上記(方法)で説明したとおりであった。驚くべきことに、この方法で製造した例示的抗体のいくつかは、可溶性CD39の阻害(及び細胞性CD39の阻害)を示した。
図1は、代表的なスクリーニング結果を示し、陽性対照I-394抗体と比較して抗体I-397、I-398及びI-399を示す。同様に、異なる免疫付与からの抗体I-395及びI-396は、可溶性CD39タンパク質の酵素活性を阻害した。
図2A及び
図2Bは、抗体I-395及びI-396の結果を示しており、より多くの抗体が可溶性CD39中和及び細胞性CD39中和の両方の追加実験に利用可能であった。
図2Aは、抗体I-395及びI-396が、両方ともBY40抗体及びI-394抗体と比較して細胞膜結合型CD39を阻害し、I-394及びI-395が、両方ともBY40と比較して大きい効力及び細胞性CD39の最大阻害を示すことを示す。
図2Bは、抗体I-395及びI-396が、両方ともBY40抗体及びI-394抗体と比較して可溶性CD39を阻害することを示す。BY40は、いかなる濃度でも可溶性CD39を阻害しないが、I-394、I-395及びI-396は、全て可溶性CD39を阻害し、I-394が最大の効力を示し、続いてI-395がより低い効力を示し、次いでI-396がより低い効力を示す。
【0261】
得られた結果は、ハイブリドーマ上清中の因子が、細胞培養と可溶性CD39アッセイとの両方でATPを迅速に加水分解する可能性を高め、その結果、従来の方法を使用した抗体のスクリーニングではATPに関するシグナルが検出されない。可溶性因子は、CD39又は例えば融合パートナーにより産生されるいくつかの他の酵素であり得る。
【0262】
次いで、I-394に関して本明細書で示したのと同一の方法において、N結合型グリコシル化の欠如及びヒトFcγ受容体CD16A、CD16B、CD32A、CD32B及びCD64への結合の欠如をもたらす突然変異L234A/L235E/G237A/A330S/P331S(Kabat EUナンバリング)を有するIgG1 Fcドメインを有するヒト定常領域を有するように改変された抗体をクローニングした。次に、得られた抗体を滴定にかけ、次いで効力に従って抗体をランク付けするためにEC50及びIC50の決定を評価するために、実施例7~9(滴定、ATPアーゼ活性の阻害)に示すようにより詳細な活性評価にかけることができる。
【0263】
実施例6:sCD39中和mAbのエピトープマッピング
実施例4で示すように、I-394は、CD39の突然変異体19を発現する細胞への結合の完全な喪失を示したが、突然変異体5への結合を喪失していなかった。実施例5のさらなる抗CD39抗体のエピトープを定義するために、これらを、実施例1及び表1で説明されているCD39突然変異体のパネルへの結合の喪失に関して試験した。配列番号1のナンバリングを使用して表1に示す突然変異体をHek-293T細胞に遺伝子移入した。試験抗体の用量範囲(10~2.5~0.625~0.1563~0.0391~0.0098~0.0024~0.0006μg/ml)を、フローサイトメトリーにより、20種の生成された突然変異体で試験する。
【0264】
結果は、可溶性CD39を阻害する能力に関して実施例5で選択された抗体がいくつかの異なるエピトープを表すことを示した。実施例5において可溶性細胞外CD39の阻害を示した抗体のうち、抗体I-395は、残基Q96、N99、E143及びR147で置換を有する突然変異体5への結合の喪失を示し、残基R138、M139及びE142で置換を有する突然変異体19への結合の装置も示した抗体の一例である。突然変異体19は、残基R138、M139及びE142で置換を含む。そのため、I-395のCD39上のコアエピトープは、残基Q96、N99、E143及びR147の1つ、2つ、3つ又は4つと、残基R138、M139及びE142の1つ、2つ又は3つとを含む。
【0265】
一方、抗体I-398は、残基R138、M139及びE142で置換を有する突然変異体19への結合の喪失を示したが、残基Q96、N99、E143及びR147で置換を有する突然変異体5への結合が減少していないか又は喪失していない抗体の一例である。
【0266】
実施例5において可溶性細胞外CD39の阻害を示した他の抗体は、非常に異なるエピトープを有し、且つ突然変異体5又は突然変異体19の何れかへの結合の喪失を示さず、これは、可溶性CD39がsCD39上の他の部位への結合によっても阻害され得ることを示唆する。一部の抗体の場合、表1の20種の突然変異体の1つへの結合の喪失により、CD39上の結合部位の位置特定が可能となり、他の場合、結合部位は、依然として決定されておらず、なぜなら、20種の突然変異体の何れに対しても結合が喪失されなかったからである。実施例5において可溶性CD39のATPアーゼ活性の阻害を示す抗体のうち、抗体I-396は、他の20種の突然変異体の何れに対しても結合を喪失することなく、置換K87A、E100A及びD107Aを有する突然変異体15への結合の喪失を示した。そのため、この抗体のCD39上のコアエピトープは、残基K87、E100及びD107の1つ又は複数(又は全て)を含む。抗体I-399は、他の20種の突然変異抗体の何れに対しても結合を喪失することなく、置換N371K、L372K、E375A、K376G、V377Aを有し、且つK376とV377との間にバリンの挿入(表1では「挿入377V」と称される)を有する突然変異体11への結合の喪失を示した。そのため、この抗体のCD39上のコアエピトープは、残基N371、L372、E375、K376及びV377の1つ又は複数(又は全て)を含む。
図3Aは、CD39タンパク質の表面上の突然変異体5(M5)、突然変異体15(M15)及び突然変異体19(M19)中で突然変異した残基の位置を示す。
図3Bは、様々な抗体に関する突然変異体5、突然変異体15及び突然変異体19への結合の結果を示す。
【0267】
そのため、この結果は、可溶性CD39を阻害する抗体を様々なエピトープに対して得ることができることを示す。これらのエピトープとして下記が挙げられる:細胞性CD39のみを阻害し可溶性CD39を阻害しない(突然変異体5への結合を喪失している)BY40抗体又はBY40様抗体の結合部位に隣接して位置する突然変異体19の1個又は複数の残基により定義されるエピトープ、突然変異体19の1個又は複数の残基により定義されるが、突然変異体5によっても部分的に定義されるエピトープ(BY40抗体又はBY40様抗体と比較して小さいシフトを示す可能性がある)、突然変異体19の1個又は複数の残基により定義され、且つ突然変異体5の残基により定義されないエピトープ並びに他のエピトープ、例えば突然変異体11の1個若しくは複数の残基又は突然変異体15の1個若しくは複数の残基により定義されるか、又は突然変異体5、突然変異体15若しくは当然変異体19の何れかへの結合が全く減少していない他の抗体によりさらに定義されるもの(エピトープの位置特定が依然として決定されていない)。
【0268】
実施例7:フローサイトメトリーによる、CD39発現細胞に対する抗体滴定
抗体I-394を、ヒトCD39を発現するCHO細胞、カニクイザル(マカカ・ファスキクラリス(macaca fascicularis))CD39を発現するCHO細胞、マウスCD39を発現するCHO細胞及びヒトRamosリンパ腫細胞(ATCC(商標)、リファレンスCRL-1596)への結合に関して2回の反復実験で試験した。細胞を4℃で30分にわたり30μg/ml~5×10-4μg/mlの様々な濃度の非標識抗CD39と共にインキュベートした。洗浄後、4℃で30分にわたり細胞をヤギ抗マウスH+L標識二次抗体と共にインキュベートした。
【0269】
結果を
図4に示す。抗体I-394は、ヒトCD39を発現する細胞(CHO-huCD39)、カニクイザルCD39を発現する細胞(CHO-cyCD39)及びRamosリンパ腫細胞に結合したが、マウスCD39を発現する細胞(CHO-moCD39)に結合しなかった。I-394は、実験の第1のセット及び第2のセットそれぞれにおいて0.16μg/ml及び0.19μg/mlのEC
50値でRamos細胞に結合した。いくつかの他の抗CD39抗体は、Ramos細胞への結合に関して同等のEC
50値を示した。
【0270】
実施例8:細胞性ATPアーゼ活性の阻害に関するIC50の決定
上記(方法)で説明した細胞性CD39の酵素活性の阻害に関して使用したアッセイを使用して、CD39発現細胞中におけるCD39のATPアーゼ活性の抗体I-394による阻害を評価した。
【0271】
結果を
図5に示す。I-394は、腫瘍(Ramos)細胞中におけるCD39酵素活性のブロックで非常に強力であり、試験した全ての他の抗体と比較して効力が高い。I-394は、ヒトCD39を発現する細胞(CHO-huCD39)中及びカニクイザルCD39を発現する細胞(CHO-cyCD39)中においてCD39酵素活性もブロックする。マウスCD39を発現する細胞(CHO-moCD39)を陰性対照として示す。算出したIC
50(50,000個のRamos細胞によって発現されたCD39の酵素活性の50%の阻害)は、0.05μg/mlである。達成された最大阻害は、81.6%である。アイソタイプ対照は、効果がなかった。
【0272】
実施例9:組換え可溶性CD39タンパク質のATPアーゼ活性の阻害に関するIC50の決定
上記(方法)で説明した可溶性CD39の酵素活性の阻害に関して使用したアッセイを使用して、可溶性CD39タンパク質のATPアーゼ活性の抗体I-394による阻害を評価した。結果を
図6に示す。I-394は、可溶性CD39タンパク質の酵素活性を阻害する。比較すると、抗体BY40は、可溶性CD39タンパク質の酵素活性を阻害しなかった。算出したIC
50は、0.003μg/mlである。達成された最大阻害は、74.9%である。
【0273】
実施例10:CD39-L1アイソフォーム、CD39-L2アイソフォーム、CD39-L3アイソフォーム、CD39-L4アイソフォームに対するELISA滴定
抗体I-394を、一晩4℃で500ng/ml又は1μg/mlにおいてPBS 1Xで96ウェルプレートにコーティングした、下記に示すアミノ酸配列を有する組換えヒトCD39アイソフォーム(Rec-huCD39アイソフォーム)への結合に関して試験した。ウェルをTBS Tween 20で洗浄し、TBSブロッキング緩衝液でRTにおいてさらに2時間飽和させた。一次抗体の用量範囲濃度をRTで2時間にわたりTBSブロッキング緩衝液中でインキュベートした。ウェルをTBS Tween 20で洗浄した。二次抗体(TBSブロッキング緩衝液中のGAM-HRP又はGAH-HRP)をRTで1時間にわたりインキュベートし、TMBで明らかにした。光学密度をOD=450でEnspire(商標)により測定した。
【0274】
クローニングしたhuCD39(血管アイソフォーム)のアミノ酸配列:
ヒトCD39-L1(NTPDアーゼ2又はENTPD2としても既知である):
【化23】
ヒトCD39-L2(NTPDアーゼ6又はENTPD6としても既知である):
【化24】
ヒトCD39-L3(NTPDアーゼ3又はENTPD3としても既知である):
【化25】
ヒトCD39-L4(NTPDアーゼ5又はENTPD5としても既知である):
【化26】
【0275】
I-394は、CD39に結合したが、アイソフォームCD39-L1、CD39-L2、CD39-L3又はCD39-L4の何れにも結合しなかった。アイソタイプ対照抗体(IC)は、何れのCD39分子又はCD39-L分子にも結合しなかった。結果を
図7に示す。
【0276】
実施例11:樹状細胞の活性化
ATPは、炎症誘発性を有するが、ATPのCD39により媒介される異化により、樹状細胞(DC)活性化を損ない得、次いで腫瘍抗原に対するより広範な適応免疫反応が変化すると考えられる。抗CD39抗体を使用するCD39遮断が、ATPの存在下での樹状細胞(DC)活性化のCD39により媒介される変化を克服し得たかどうかを評価するために、本発明者らは、ATPの存在下で抗CD39抗体と共に単球由来のDC(moDC)をインキュベートした。
【0277】
簡潔に説明すると、ヒト単球をヒトの健康な血液から精製し、6日にわたりGM-CSF及びIL-4の存在下でMoDCに分化させた。次いで、MoDCを24時間にわたりATP(Sigma、0.25~1mM)の存在下で活性化させ、フローサイトメトリーにより、CD80、CD83及びHLA-DRの発現を分析することによりDC活性化を評価した。任意選択により、CD39阻害剤:ARL6716(Tocris、250μM)、CD73阻害剤:APCP(Tocris 50μM)、抗CD39ブロッキング抗体I-394若しくはBY40(BY40に関して、国際公開第2009/095478号パンフレットを参照されたい)又は抗CD73ブロッキング抗体の存在下で1時間にわたりMoDCをプレインキュベートした。LPS(Invivogen、10ng/ml)を陽性対照として使用した。CD4T細胞活性化へのATPにより媒介されるDC活性化の生じた効果を評価するために、ATPにより活性化されたDCを洗浄し、次いで5日にわたる混合リンパ球反応(MLR)のために同種CD4T細胞と共にインキュベートした(比1 MoDC/4 T細胞)。T細胞の活性化及び増殖をフローサイトメトリーによるCD25発現及びCell Trace Violet希釈により分析した(
図8)。
【0278】
結果を
図9、
図10及び
図11に示す。陰性対照(培地)の存在下では、1mMのATPの存在下でmoDCの活性化を観察したが、0.125mM、0.25mM又は0.5mMでのATPではmoDCの活性化は可能でなかった。活性部位への結合によりCD39酵素活性を完全にブロックすると考えられるCD39の化学阻害剤の添加により、0.125mM、0.25mM又は0.5mMのそれぞれでmoDC活性化がもたらされる。しかしながら、抗CD39抗体(例えば、BY40抗体又は抗CD73抗体)は、樹状細胞(DC)のATPにより誘導される活性化を促進することができず、これは、抗体が、ATPの異化を回避するのに十分に酵素活性をブロックできないことを示唆する。驚くべきことに、CD39のATPアーゼ活性を実質的に完全にブロックし、従ってATPの蓄積を可能にし得る抗CD39ブロッキング抗体I-394(図面では、濃度10μg/mlで示す)は、0.125mM、0.25mM又は0.5mMのそれぞれでHLA-DR又はCD83の発現によって評価した場合、moDC活性化を可能にした(
図9及び
図10)。興味深いことに、ATPの存在下で活性化されたMoDCは、MLRアッセイにおいてより良好なT細胞の活性化及び増殖を誘導し得た。さらに、抗CD39ブロッキング抗体I-394による、ATPにより媒介されるMoDCの活性化の増強により、より高いT細胞の増殖及び活性化がもたらされた(
図11)。
【0279】
ATPの存在下でCD39阻害剤がDCを活性化する能力の評価により、CD39の高度な阻害を達成し得る抗CD39抗体を特定して評価するための方法が提供される。
【0280】
DCへのCD39によりもたらされる免疫抑制効果を緩和するための抗CD39抗体の使用の可能性により、(特に腫瘍細胞上の)抗原に対する適応免疫反応の増強がもたらされ得る。さらに、そのような抗CD39抗体は、化学療法剤の免疫原性効果を増強するために使用される場合、特に興味深い場合がある。腫瘍細胞の壊死を生じさせる多くの化学療法剤は、ATPを誘導することができ、抗CD39抗体との併用は、この設定で抗腫瘍反応を増強するのに特に有用であり得る。
【0281】
本明細書中で引用される刊行物、特許出願及び特許を含む全ての参考文献は、本明細書中の他の箇所でなされる特定の文献の何れかの個別に提供される組み込みにかかわらず、(法律によって許される最大の限度で)各参考文献が個々に及び具体的に参照により組み込まれることが示され、本明細書中でその全体において記載されているかのように、同定度に参照により全体的に本明細書に組み込まれる。
【0282】
「1つの(a)」及び「1つの(an)」及び「その(the)」という語及び同様の指示対象の使用は、本明細書中で別段の指示がない限り又は文脈に明らかに矛盾しない限り、単数及び複数の両方を包含するものと解釈すべきである。
【0283】
別段の指定がない限り、本明細書中で提供される全ての厳密値は、対応する近似値の代表である(例えば、特定の要因に関して提供される全ての代表的厳密値又は測定値は、必要に応じて、「約」により修飾される対応する近似測定値も提供するとみなされ得る)。
【0284】
1つ又は複数の要素に関する「含む」、「有する」、「包含する」又は「含有する」などの語を使用した本明細書における何らかの態様又は実施形態の本明細書中の記述は、別段の指定がない限り又は内容に明らかに矛盾しない限り、その特定の1つ又は複数の要素「からなる」、「から基本的になる」又はそれを「実質的に含む」、本明細書における同様の態様又は実施形態に対する支持を提供するものとする(例えば、特定の要素を含む場合の本明細書中に記載の組成物は、別段の指定がない限り又は内容に明らかに矛盾しない限り、その要素からなる組成物も記載するものとしても理解されるべきである)。
【0285】
本明細書中で提供されるあらゆる実施例又は代表的な語(例えば、「など」)の使用は、本発明を単により良好に明らかにするものとして意図され、別段の主張がない限り、本発明の範囲において限定を提起しない。本明細書中のいかなる語も、何らかの請求項に記載されていない要素を本発明の実施に必須であるものとして示すものと解釈すべきではない。