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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036627
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】有機金属化合物及びその精製法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/22 20060101AFI20230307BHJP
   C07D 207/06 20060101ALN20230307BHJP
【FI】
C07F7/22 W
C07F7/22 M
C07D207/06
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194698
(22)【出願日】2022-12-06
(62)【分割の表示】P 2020505377の分割
【原出願日】2018-07-31
(31)【優先権主張番号】2975104
(32)【優先日】2017-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CA
(71)【出願人】
【識別番号】517377710
【氏名又は名称】シースター ケミカルズ アンリミティッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100097043
【弁理士】
【氏名又は名称】浅川 哲
(72)【発明者】
【氏名】オデドラ・ラジェッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ドン・クンハイ
(72)【発明者】
【氏名】ファブリヤック・ダイアナ
(72)【発明者】
【氏名】グラフ・ウェスレー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高純度酸化スズの堆積に有用な化合物と、かかる有機金属化合物の精製法を提供する。
【解決手段】この化合物は以下の式で表される。
-Sn-A4-x
ここで、Aは、(YaR’z)及び飽和の3員から7員の窒素含有複素環式基からなる群から選択され、各R基は、1~10個の炭素原子を有するアルキル基からなる群から独立して選択され、各R’基は、1~10個の炭素原子を有するアルキル基からなる群から独立して選択され、xは、0~3の整数であり、Yは、N、O及びPからなる群から選択され、zは、YがOの場合には1であり、YがN若しくはPの場合には2である。このような化合物を用いて成膜された膜は、高コンフォーマル性と高エッチング選択性を示し、光学的に透明である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機金属化合物を精製する方法であって、
A)式Iの有機金属化合物の第1段での蒸留において
-Sn-A4-x 式I
Aは、(YR’)及び飽和の3員から7員の窒素含有複素環式基からなる群から選択され、
各R基は、1~10個の炭素原子を有するアルキル基、及びアリール基からなる群から独立して選択され、
各R’基は、1~10個の炭素原子を有するアルキル基、及びアリール基からなる群から独立して選択され、
xは、0~3の整数であり、
Yは、N、O及びPからなる群から選択され、
zは、YがOの場合には1であり、YがN又はPの場合には2であり、
前記第1段での蒸留において、
i)第1の有機金属化合物を含む供給材料を第1の減圧下で第1蒸留空間へ供給し、
ii)前記供給材料の一部を蒸発させる第1の温度まで第1蒸留空間を加熱し、
iii)蒸留物が形成されるよう、前記供給材料の蒸発した部分を第1蒸留空間から取り除き、
B)前段からの蒸留物の、前記第1段に次ぐ、他の少なくとも1段における蒸留において、
i)前段からの蒸留物を、前記第1の減圧に次ぐ減圧下で前記第1蒸留空間に次ぐ蒸留空間へ供給し、
ii)前段からの蒸留物の一部を蒸発させる前記第1の温度に次ぐ温度まで前記第1蒸留空間に次ぐ蒸留空間を加熱し、
iii)前段からの蒸留物の蒸発した部分を、前記第1段で形成された蒸留物に次ぐ蒸留物が形成されるよう、前記第1蒸留空間に次ぐ蒸留空間から取り除き、
C)前記第1段に次ぐ段における最終段からの最終蒸留物の取り除きにおいて、
最終蒸留物が95%以上、好ましくは98%以上の純度のある有機金属化合物を得るのに十分な回数の前記Bのステップを繰り返す、有機金属化合物の精製法。
【請求項2】
前記第1段に次ぐそれぞれの段において、
前記蒸留空間は、その前段より低い圧力を有し、及び/又は
前記蒸留空間の温度は、それぞれの温度がその前段の温度より低い、請求項1に記載の有機金属化合物の精製法。
【請求項3】
前記各段において、チューブ内の蒸気により前記蒸留空間が加熱され、
前記第1段に次ぐそれぞれの段において、チューブ内の蒸気は、供給材料の蒸発部分、あるいはそれぞれの段の前段からの蒸留物である、請求項1に記載の有機金属化合物の精製法。
【請求項4】
Aは、(NR’)基であり、好ましくは(NMe)、(NEtMe)、又は(NEt)である、請求項1に記載の有機金属化合物の精製法。
【請求項5】
各R’基は、異なるアルキル基を示す、請求項1に記載の有機金属化合物の精製法。
【請求項6】
前記式Iの有機金属化合物は、MeSn(NMe、MeSn(NEtMe)、t-BuSn(NEtMe)、t-BuSn(NMe3、t-BuSn(NEt3、i-PrSn(NEtMe)、i-PrSn(NMe3、n-PrSn(NEtMe)3、n-PrSn(NMe3、EtSn(NEtMe)、i-BuSn(NEtMe)、i-BuSn(NMe、n-BuSn(NMe、sec-BuSn(NMe、EtSn(NEtMe)、MeSn(NEtMe)、Sn(NMe、Sn(NEt、Sn(NEtMe)、BuSn(NEtMe)、EtSn(NMe、及びMeSn(NEt、Sn(ピロリジニル)、及びBuSn(ピロリジニル)からなる群から選択される、請求項1に記載の有機金属化合物の精製法。
【請求項7】
金属汚染を1ppm未満、好ましくは100ppb未満、さらに好ましくは1ppb未満となるまで十分な回数の前記Bのステップを繰り返す、請求項1に記載の有機金属化合物の精製法。
【請求項8】
核磁気共鳴スペクトル測定法により95%以上、好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の純度を持ち、又は金属汚染が1ppm以下、好ましくは100ppb以下、さらに好ましくは1ppb以下である、式Iの化合物である高純度有機金属化合物であり、
-Sn-A4-x 式I
ここで、
Aは、(YR’)及び飽和の3員から7員の窒素含有複素環式基からなる群から選択され、
各R基は、1~10個の炭素原子を有するアルキル基からなる群から独立して選択され、
各R’基は、1~10個の炭素原子を有するアルキル基からなる群から独立して選択され、
xは、0~3の整数であり、
Yは、N、O及びPからなる群から選択され、
zは、YがOの場合には1であり、YがN又はPの場合には2である、高純度有機金属化合物。
【請求項9】
Aは、(NMe)、(NEtMe)、又は(NEt)である、請求項8に記載の高純度有機金属化合物。
【請求項10】
zが2の場合、各R’基は異なるアルキル基を表す、請求項8に記載の高純度有機金属化合物。
【請求項11】
前記式Iの高純度有機金属化合物は、MeSn(NMe、MeSn(NEtMe)、t-BuSn(NEtMe)3、t-BuSn(NMe3、t-BuSn(NEt3、i-PrSn(NEtMe)、i-PrSn(NMe3、n-PrSn(NEtMe)3、n-PrSn(NMe3、EtSn(NEtMe)、i-BuSn(NEtMe)、i-BuSn(NMe、n-BuSn(NMe、sec-BuSn(NMe、EtSn(NEtMe)、MeSn(NEtMe)、Sn(NMe、Sn(NEt、Sn(NEtMe)、BuSn(ОMe)、t-BuSn(ОtBu)、t-BuSn(ОnBu)、n-BuSn(ОtBu)、i-BuSn(ОtBu)、sec-BuSn(ОtBu)、i-PrSn(ОtBu)、n-PrSn(ОtBu)、BuSn(NEtMe)、EtSn(NMe2)2及びMeSn(NEtからなる群から選択される、請求項8に記載の高純度有機金属化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高純度酸化スズの堆積に有用な有機金属化合物と、かかる有機金属化合物の精製に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体業界では、構造が益々微細化した部品が次々と製造され続けている。そのような半導体デバイスの製造に関して、半導体デバイス性能の維持、又は向上を図るにあたっての、新たな設計及び製造面での課題が浮上している。高密度、高歩留まり、及び良好なシグナルインテグリティ、更に適切な電力供給を実現する半導体の配線スタックの製造にも課題が伴う。
【0003】
リソグラフィは、主要なパターン転写技術であり、半導体デバイス及び液晶デバイス等の、微細構造を含む多様な電子デバイスの製造に幅広く利用されている。デバイス構造の微細化に合わせ、リソグラフィプロセスで使用されるマスキングパターンも、下層への精確なパターン転写用に最適化が求められる。
【0004】
マルチパターニングリソグラフィは、半導体デバイスの構造密度向上を目的として、フォトリソグラフィ用に開発された各種技術を指す。マルチパターニングの一種であるダブルパターニングは、複数のマスクと、フォトリソグラフィ工程とにより、特定のレベルの半導体デバイスを製造するものである。ダブルパターニングは、間隔低減、配線の細径化等の利点により、半導体デバイス配線に関する変数と、性能を維持するための配線品質との関係性を変えるものである。
【0005】
近年、業界における問題点を一部解決することを目的として、液浸リソグラフィ方法が提案されている。
【0006】
液浸リソグラフィを採用することにより、解像度と焦点深度が向上したレジストパターンを、既存の露光システムに搭載されたレンズを使用して低コストで形成できる。これにより、液浸リソグラフィが大きく注目されている。
【0007】
液浸リソグラフィとマルチパターニングへの移行に伴い、フォトレジスト、BARC、及びその他の従来のマスキング層の上に堆積するために、コンフォーマルに堆積される新たな種類の材料が必要である。この新しいコンフォーマル堆積層は、次の2つの主要な機能が実現できる。
1)液浸リソグラフィ液による化学的損傷防止用の透明な保護層(又は「マスク」)として機能できる。この場合、コンフォーマル層は透明である必要があり、パターニングと露光の不利な問題を伴うことなく、リソグラフィプロセスに適用できる必要がある。
2)従来技術やアモルファスカーボン等の従来の膜(厚さが増すにつれて透明度が下がる)よりも、エッチング選択性が高い。例えば、マルチパターニングプロセスでは、十分なエッチング保護を実現するために、より厚い(>10,000A)、したがって透明度のより低いアモルファス炭素層が必要になり得る。金属酸化物コンフォーマル膜であれば、同様の耐エッチング性を実現するために、プラズマエッチングプロセス中に必要なエッチング選択性を維持しながら、透明を保つことができる。
【0008】
滑らかさ、エッチング及び堆積特性、100%段差被覆/コンフォーマル性要件、のような目的により、安定した化学構造を実現するため、これらプロセスで使用される反応ガスは高純度であることが求められる。
【0009】
エッチング中、又はリソ浸漬処理中にレジスト保護層として使用されるため、膜も高純度で作製されることが求められる。膜内の不純物は、化学的又は光学的に有害な反応を起こす可能性がある。当該反応は、パターン品質低下を招いたり、デバイス構造の限界寸法に悪影響を及ぼしたりし、統合デバイスの性能を低下させる可能性がある。
【0010】
従来のレジスト組成物は、様々な理由により、液浸リソグラフィプロセスで必ずしも使用可能であるとは限らない。例えば、液浸リソグラフィプロセスでは、露光中にレジスト膜が屈折率液体(液浸液)と直接接触するため、レジスト膜はこの液により化学的損傷を受けやすい。液浸リソグラフィプロセスでの使用に適したレジスト組成物は、露光光に対して透明である必要もある。更に、空気層を介した露光を行うリソグラフィでは、従来のレジスト組成物が有効であっても、液浸リソグラフィでは、液体により特性が変化するため、パターンの十分な解像度を実現できない場合がある。
【0011】
したがって、益々厳しくなっている業界の要件を満たすことができる改善された透明レジスト保護層が未だに求められている。更に、概説したように、マルチパターニングにはより高い選択性のALD膜が必要となる。
【発明の概要】
【0012】
本明細書には、高純度酸化スズの堆積に有用な化合物が開示されている。このような化合物を用いて成膜された膜は、高コンフォーマル性、高エッチング選択性、高硬度及び高弾性係数を示し、光学的に透明である。
【0013】
化合物には、下記式Iの化合物が含まれる。
-Sn-A4-x 式I
式中、
Aは、(YaR’z)及び3員から7員の窒素含有複素環式基からなる群から選択され、
各R基は、1~10個の炭素原子を有するアルキル又はアリール基からなる群から独立して選択され、
各R’基は、1~10個の炭素原子を有するアルキル、アシル、又はアリール基からなる群から独立して選択され、
xは、0~4の整数であり、
aは、0~1の整数であり、
Yは、N、O、S、及びPからなる群から選択され、
zは、YがO若しくはSの場合、又はYが存在しない場合には1であり、YがN若しくはPの場合には2である。
【0014】
式Iの化合物を使用することによって、低温での酸化スズの化学気相堆積(CVD)及び原子層堆積(ALD)が可能になり、金属系不純物が少なく、硬度及び弾性係数が高く、デバイス構造及びトポグラフィに対して99%を超える段差被覆(即ち、高コンフォーマル性)を実現する高純度酸化スズからなる膜が生成する。
【0015】
更に、多段蒸留による式Iの化合物の精製が開示されている。この精製によって、所謂「超高純度」化合物がもたらされる。この化合物は、従来の手段によって精製された化合物と比較して金属系不純物の濃度が著しく低い。本明細書に開示したプロセスにかかる超高純度化合物を使用することによって、従来技術で公知のものと比べて特性が改善された膜が生成される。例えば、これらの膜は、密閉特性が改善され、金属系不純物が少なく、かかる金属系不純物による歩留まり損失や長期的信頼性の不具合についても改善される。多段蒸留は、パッケージ化された複数のカラム、複数のトレイを用いた段階蒸留カラム、複数の蒸留カラム、又はその他の種類の多段蒸留の形式によって実施されてもよい。
【0016】
このように生成された酸化スズ膜は、多層パターニング統合技術で使用される従来のマスキング用のコンフォーマル層と比べて高いエッチング選択性を示し、これによりアモルファス炭素、ホウ素ドープされている炭素等の従来の膜と比較してより薄い膜要件に適合できる。
【0017】
一実施形態では、式Iの有機金属化合物において、Aは、(NR’)基及び3員から7員の窒素含有複素環式基からなる群から選択される。一実施形態では、Aは、(NR’)基である。一実施形態では、Aは、3員から7員の窒素含有複素環式基である。一実施形態では、Aは、ピロリジニル基である。一実施形態では、A4-xは、(NMe又は(NEtMe)である。
【0018】
別の実施形態では、R基及びR’基は、独立して選択された1~10個の炭素原子を有するアルキル基である。各R基及びR’基は、独立して選択された1~6個の炭素原子を有するアルキル基であってもよいと考えられる。いくつかの実施形態では、各R基及びR’基は、独立して選択された1~4個の炭素原子を有するアルキル基である。いくつかの実施形態では、R及びR’は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、tert-ブチル、イソブチル、及びn-ブチルからなる群から独立して選択される。いくつかの実施形態では、R及びR’は、異なるアルキル基を示す。
【0019】
一実施形態では、式Iの前記化合物は、MeSn(NMe、MeSn(NEtMe)、t-BuSn(NEtMe)、i-PrSn(NEtMe)、n-Pr(NEtMe)、EtSN(NEtMe)、i-BuSn(NEtMe)、EtSn(NEtMe)、MeSn(NEtMe)、Sn(NEtMe)、BuSn(NEtMe)、EtSn(NMe、MeSn(NEt、Sn(ピロリジニル)、及びBuSn(ピロリジニル)からなる群から選択される。
【0020】
いくつかの実施形態では、式Iの前記化合物は、MeSn(NMe、MeSn(NEtMe)、EtSn(NMe、MeSn(NEt、Sn(ピロリジニル)、及びBuSn(ピロリジニル)からなる群から選択される。
【0021】
いくつかの実施形態では、式Iの前記化合物は、MeSn(NEtMe)及びMeSn(NMeからなる群から選択される。
【0022】
いくつかの実施形態では、式Iの前記化合物は、MeSn(NMeである。
【0023】
いくつかの実施形態では、開示された上述のいずれかの化合物である有機金属化合物と、Snを含有する別の有機金属化合物とを含む組成物が提供される。前記別の有機金属化合物は、式Iの化合物であってもよい。
【0024】
各種実施形態では、別の有機金属化合物は、MeSn(NMe及びSn(NMeからなる群から選択される。
【0025】
一実施形態では、多段蒸留を使用して有機金属化合物を精製する方法が開示される。一実施形態では、金属汚染を1ppm未満に抑えるために、2から20段を必要とする。一実施形態では、金属汚染を100ppb未満に抑えるために、2から20段を必要とする。一実施形態では、金属汚染を10ppb未満に抑えるために、2から20段を必要とする。一実施形態では、金属汚染を1ppb以下に抑えるために、2から20段を必要とする。
【0026】
本発明の前述やその他の特徴及び本発明の効果は、添付の図面に示された好適な実施形態についての以下の詳細な説明に照らしてより明白になる。理解されるとおり、本発明は、各種の点において本発明から逸脱することなく変形が可能である。したがって、図面及び説明は、本質的に例示を目的とするものであり、これらに限定するためのものではないと解される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1は、MeSnNMeのNMRスペクトルを示す。
【0028】
図2は、Sn(NMeのNMRスペクトルを示す。
【0029】
図3は、MeSn(NEtMe)のNMRスペクトルを示す。
【0030】
図4は、BuSn(NMeのNMRスペクトルを示す。
【0031】
図5は、MeSnEtのNMRスペクトルを示す。
【0032】
図6は、MeSnのNMRスペクトルを示す。
【0033】
図7は、BuSn(OMe)のNMRスペクトルを示す。
【0034】
図8は、BuSn(OAc)のNMRスペクトルを示す。
【0035】
図9は、EtSn(NMeのNMRスペクトルを示す。
【0036】
図10は、MeSn(NEtのNMRスペクトルを示す。
【0037】
図11は、Sn(ピロロジニル)のNMRスペクトルを示す。
【0038】
図12は、BuSn(ピロロジニル)のNMRスペクトルを示す。
【0039】
図13は、EtSn(ピロロジニル)のNMRスペクトルを示す。
【0040】
図14は、MeSn(NMeのNMRスペクトルを示す。
【0041】
図15は、tBuSn(NMeのNMRスペクトルを示す。
【0042】
図16は、(NMeSnのエタノールとの反応のNMRを示す。
【0043】
図17は、MeSnNMeの水との反応のNMRを示す。
【0044】
図18は、BuSn(OAc)のメタノールとの反応のNMRを示す。
【0045】
図19は、BuSn(OMe)の酢酸との反応のNMRを示す。
【0046】
図20は、BuSn(NMeのメタノールとの反応のNMRを示す。
【0047】
図21は、200℃での加熱前後のMeSnのNMRを示す。
【0048】
図22は、200℃での加熱前後のEtSn(NMeのNMRを示す。
【0049】
図23は、150℃での加熱前後のMeSn(NMeのNMRを示す。
【0050】
図24は、式Iの例示的化合物の分解温度を示す。
【0051】
図25は、多段蒸留装置の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
下記式Iの有機金属化合物が開示される。
-Sn-A4-x 式I
式中、
Aは、(YR’)及び3員から7員の窒素含有複素環式基からなる群から選択され、
各R基は、1~10個の炭素原子を有するアルキル又はアリール基からなる群から独立して選択され、
各R’基は、1~10個の炭素原子を有するアルキル、アシル、又はアリール基からなる群から独立して選択され、
xは、0~4の整数であり、
aは、0~1の整数であり、
Yは、N、O、S、及びPからなる群から選択され、
zは、YがO若しくはSの場合、又はYが存在しない場合には1であり、YがN若しくはPの場合には2である。
【0053】
式Iの化合物は、Rが1~10個の炭素原子を有するアルキル及びアリール基からなる群から選択されたものを含む。特定の化合物は、Rが1~6個の炭素原子を有するアルキル及びアリール基からなる群から選択されたものである。更に特定のものは、Rが1~4個の炭素原子を有するアルキル及びアリール基からなる群から選択されたものである。かかる化合物の例としては、Rがメチル、エチル、又はブチル基であるものが挙げられる。
【0054】
式Iの化合物は、R’が1~10個の炭素原子を有するアルキル、アシル、及びアリール基からなる群から選択されたものを含む。特定の化合物は、R’が1~6個の炭素原子を有するアルキル、アシル、及びアリール基からなる群から選択されたものである。更に特定のものは、R’が1~4個の炭素原子を有するアルキル、アシル、及びアリール基からなる群から選択されたものである。かかる化合物の例としては、R’がメチル、エチル基、又はアセチル基であるものが挙げられる。
【0055】
式Iの化合物は、YがN、O、S、及びPからなる群から選択されたものを含む。特定の化合物は、YがN及びOからなる群から選択されたものである。
【0056】
式Iの化合物は、xが0~4の整数であるものを含む。特定の実施形態では、xは1~3の整数である。より好ましくは、xは2である。
【0057】
式Iの化合物は、Aが、アジリジニル、ピロリジニル、及びピペリジニル等の3員から7員の窒素含有複素環式基であるものを含む。特定の化合物は、Aがピロリジニル又はピペリジニル基である。
【0058】
式Iの化合物は、Rがアルキル基であり、AがNR’基であり、R’がアルキル基であるものを含む。特定の化合物は、R及びR’が異なるアルキル基を示すものである。
【0059】
式Iの化合物は、良好な反応性を示し、さらに熱安定性が良好である。したがって、分解を生じることなく、化合物を堆積チャンバーに供給することが可能である。(分解が生じると、堆積膜が不均一となる)。本発明の化合物の示す優れた安定性、反応性プロファイルは更に、成長チャンバーに供給する材料の量を低減(少ない材料の方が経済的である)し、サイクル短縮を実現できることを意味する(チャンバー内に残存し、プロセスの最後にポンプで排出される材料の量が少なくなるため)。したがって、より厚い膜を短時間で堆積できるため、スループットが向上する。更に、ALDは、式Iの化合物を使用して、当技術分野のプロセスよりもはるかに低い温度で(又はより広い温度範囲で)実行可能である。また、熱安定性は更に、合成後に材料が大幅に精製し易くなり、取扱いが簡単になることを意味している。
【0060】
かかる化合物は、液浸リソグラフィで使用されるレジスト層を封止及び保護するのに有用である(即ち、「マスク」として機能する)。したがって、本明細書に開示される化合物は、フォトレジスト又は他の有機マスキング層上に堆積するのに適した特性を有する透明酸化スズ膜の製造における、液浸リソグラフィ時に、下層の保護に利用できる。これにより、低欠陥密度、改善されたデバイス信頼性、高デバイス密度、高歩留まり、良好なシグナルインテグリティ、適切な電力供給等の業界の要件に対して、改善された半導体デバイス性能を有するデバイスが製造可能となる。
【0061】
更に、本明細書に開示の方法に式Iの化合物を使用することによって、低温での酸化スズの化学気相堆積(CVD)及び原子層堆積(ALD)が可能になり、金属系不純物が少なく、デバイス構造及びトポグラフィに対して99%を超える段差被覆(即ち、高コンフォーマル性)を実現する高純度酸化スズからなる膜が生成される。
【0062】
式Iの化合物は、当該技術分野において既知のプロセスによって調製され得る。以下の実施例は、かかるプロセスの例示であるが、限定することを意図するものではない。

実施例1:Me Sn(NMe )の合成
【0063】
20mLの2.5Mブチルリチウムのヘキサン溶液及び50mLの無水ヘキサンを、250mLのフラスコに仕込んだ。この溶液に、十分に反応が進むまでMeNHガスを通し、反応混合物を2時間攪拌した。100mLの無水ヘキサンに溶かした10gのMeSnClの溶液をこれに追加し、混合物を12時間攪拌した。固形物を取り除くために濾過を実施した。溶媒は減圧下で取り除いた。得られた液体生成物を、減圧下で蒸留により精製した。図1に示すように、NMRにより生成物をMeSnNMeと確認した。

実施例2:Sn(NMe の合成
【0064】
80mLの2.5Mブチルリチウムのヘキサン溶液及び50mLの無水ヘキサンを、250mLのフラスコに仕込んだ。この溶液に、十分に反応が進むまでMeNHガスを通し、反応混合物を2時間攪拌した。これに100mLの無水ベンゼンに溶かした13gのSnClの溶液を追加し、混合物を4時間攪拌した。冷却後、固形物を取り除くために濾過を実施した。溶媒は減圧下で取り除いた。得られた液体生成物を、減圧下で蒸留により精製した。図2に示すように、NMRにより生成物をSn(NMeと確認した。

実施例3:Me Sn(NEtMe) の合成
【0065】
不活性雰囲気下で、25.00mLの2.5Mブチルリチウムのヘキサン溶液及び200mLの無水ヘキサンを、1Lの丸底フラスコに仕込み、続いて、100mLの無水ヘキサンに溶かした5.40mLのHNEtMeをゆっくりと追加した。この反応混合物を室温で1時間攪拌した。200mLの無水ベンゼンに溶かした6.70gのMeSnClの溶液を上記フラスコに追加し(氷浴内で冷却)、反応混合物を室温で終夜攪拌した。得られた濾液から溶媒を減圧下で取り除いた。得られた液体生成物を減圧下(80℃、9.8×10-2Torr)で蒸留により分離した。図3に示すように、NMR分光法により生成物をMeSn(NEtMe)と確認した。
1)nBuLi+HNEtMe→LiNEtMe+ブタン 式II
2)MeSnCl+2LiNEtMe→MeSn(NEtMe)+2LiCl
式III

実施例4:Bu Sn(NMe の合成
【0066】
24mLの2.5Mブチルリチウムのヘキサン溶液及び100mLの無水ヘキサンを、250mLのフラスコに仕込んだ。この溶液に、十分に反応が進むまでMeNHガスを通し、反応混合物を2時間攪拌した。これに100mLの無水ベンゼンに溶かした9.11gのBuSnClの溶液を追加し、混合物を4時間攪拌した。固形物を取り除くために濾過を実施した。溶媒は減圧下で取り除いた。得られた液体生成物を、減圧下で蒸留により精製した。図4に示すように、NMRにより生成物をBuSn(NMeと確認した。

実施例5:Me SnEt の合成
【0067】
6.59gのMeSnClを100mLの無水エーテルに溶かし、N下で30mLの3M EtMgBrを加えた。4時間の攪拌後、混合物を0.1M HCl溶液で処理し、有機層を回収した。回収した有機層は、更に飽和NaHCO溶液で処理し、有機層を回収した。エーテルを取り除くためにN下で蒸留を実施した。減圧下で蒸留により精製を実施した。図5に示すように、NMRにより生成物をMeSnEtと確認した。

実施例6:Me Snの合成
【0068】
エーテルに溶かした23.5gのSnClの溶液に、N下で150mLの3M MeMgIを加えた。4時間の攪拌後、混合物を0.1M HCl溶液で処理し、有機層を回収した。回収した有機層は、更に飽和NaHCO溶液で処理し、有機層を回収した。エーテルを取り除くために分別蒸留を実施した。減圧下で蒸留により精製を実施した。図6に示すように、NMRにより生成物をMeSnと確認した。

実施例7:Bu Sn(OMe) の合成
【0069】
20gのBuSnCl及び20mLの無水メタノールを、250mLのフラスコに仕込み、続いて、30mLの無水メタノールに溶かした7gのナトリウムメトキシドを加えた。この混合物を12時間還流した。固形物を取り除くために濾過を実施した。溶媒は減圧下で取り除いた。得られた液体生成物を、減圧下で蒸留により精製した。図7に示すように、NMRにより生成物をBuSn(OMe)と確認した。

実施例8:Bu Sn(OAc) の合成
【0070】
最初に、6gの酢酸を30mLの無水メタノールに溶かした5.4gのナトリウムメトキシドの溶液に追加することにより酢酸ナトリウムを生成した。続いて、これを30gのBuSnClを30mLの無水メタノールに混ぜた混合物に追加した。得られた混合物を4時間還流した。固形物を取り除くために濾過を実施した。溶媒は減圧下で取り除いた。得られた液体生成物を、減圧下で蒸留により精製した。図8に示すように、NMRにより生成物をBuSn(OAc)と確認した。

実施例9:Et Sn(NMe の合成
【0071】
22mLの2.5Mブチルリチウムのヘキサン溶液及び400mLの無水ヘキサンを、1Lのフラスコに仕込んだ。得られた溶液にMeNHガスを通し、反応混合物を1時間攪拌した。これに100mLの無水ベンゼンに溶かした6.71gのEtSnClの溶液を追加し、混合物を4時間攪拌した。固形生成物を取り除くために濾過を実施した。得られた濾液から溶媒を減圧下で取り除いた。得られた液体生成物を、減圧下で蒸留により精製した。図9に示すように、NMRにより生成物をEtSn(NMeと確認した。

実施例10:Me Sn(NEt の合成
【0072】
24mLの2.5Mブチルリチウムのヘキサン溶液及び50mLの無水ヘキサンを、250mLのフラスコに仕込み、続いて、4.39gのEtNHを加えた。この反応混合物を2時間攪拌した。これに100mLの無水エーテルに溶かした6.59gのMeSnClの溶液を追加し、混合物を4時間攪拌した。固形物を取り除くために濾過を実施した。溶媒は減圧下で取り除いた。得られた液体生成物を、減圧下で蒸留により精製した。図10に示すように、NMRにより生成物をMeSn(NEtと確認した。

実施例11:Sn(ピロリジニル) の合成
【0073】
不活性雰囲気下で、0.5mLのSn(NMe及び25mLの無水ヘキサンを、100mLの丸底フラスコに仕込み、続いて、1.1mLのピロリジンを滴下追加した。この反応混合物を室温で2時間攪拌後、溶媒を減圧下で蒸留により取り除いた。図11に示すように、反応フラスコ内の残留物は、NMR分光法によりSn(ピロロジニル)と確認した。

実施例12:Bu Sn(ピロロジニル) の合成
【0074】
不活性雰囲気下で、25mLの2.5Mブチルリチウムのヘキサン溶液及び200mLの無水ヘキサンを、1Lの丸底フラスコに仕込み、続いて、25mLの無水ヘキサンに溶かした5.3mLのピロリジンをゆっくりと追加した。この反応混合物を室温で1時間攪拌し、その後、氷浴に投入した。50mLの無水ヘキサンに溶かした9.46gのBuSnClの溶液を上記フラスコに追加し、反応混合物を室温で2時間攪拌した。固形生成物を取り除くために濾過を実施した。得られた濾液から溶媒を減圧下で取り除いた。図12に示すように、NMR分光法により生成物をBuSn(ピロロジニル)と確認した。

実施例13:Et Sn(ピロロジニル) の合成
【0075】
不活性雰囲気下で、5.3mLのピロリジン及び200mLの無水ペンタンを、1Lの丸底フラスコに仕込んだ。該反応フラスコを一旦、氷浴に投入し、25mLの2.5Mブチルリチウムのヘキサン溶液をしっかりと攪拌しつつ反応フラスコにゆっくりと追加した。この反応混合物を室温で1時間攪拌し、再度、氷浴に投入した。100mLの無水ペンタンに溶かした7.7gのEtSnClの溶液及び20mLの無水ベンゼンを上記フラスコに追加し、反応混合物を室温で終夜攪拌した。固形生成物を取り除くために濾過を実施した。得られた濾液から溶媒を減圧下で取り除いた。最終生成物を真空蒸留により精製した。図13に示すように、NMR分光法により生成物をEtSn(ピロロジニル)と確認した。

実施例14:Me Sn(NMe の合成
【0076】
不活性雰囲気下で、25mLの2.5Mブチルリチウムのヘキサン溶液及び400mLの無水ヘキサンを、1Lのフラスコに仕込んだ。該反応フラスコを氷浴に投入し、この溶液に、白色のシャーベット状の溶液が得られるまで(およそ15分)MeNHガスを通した。その後、反応混合物を室温で1時間攪拌した。上記反応フラスコを再度、氷浴に投入し、100mLの無水ベンゼンに溶かした6.7gのMeSnClの溶液をゆっくりと追加し、混合物を室温で終夜攪拌した。固形生成物を取り除くために濾過を実施した。得られた濾液から溶媒を減圧下で取り除いた。得られた液体生成物を、減圧下で蒸留により精製した。図14に示すように、NMR分光法により生成物をMeSn(NMeと確認した。

実施例15:tBuSn(NMe の合成
【0077】
Sn(NMe+tBuLi→tBuSn(NMe+LiNMe 式IV
【0078】
不活性雰囲気下で、100mLのSn(NMe及びおよそ3Lの無水ヘキサンを、5Lの丸底フラスコに仕込んだ。攪拌機によってこの混合物を攪拌し、-15℃のエチレングリコール浴に投入した。グローブボックス内で、無水ヘキサンに溶かした200mLの1.7M tert-ブチルリチウム溶液及びおよそ200mLの無水ヘキサンを、1Lのフラスコに仕込んだ。このtBuLi溶液を上記反応フラスコにゆっくりと追加した。得られた反応混合物を室温で3時間攪拌した。その後、撹拌を停止し、反応混合物から塩を終夜沈殿させた。この液体を別の5L丸底フラスコにキャヌラで挿入した。得られた溶媒を蒸留により取り除き、62gの最終生成物を減圧下(120℃、6.2×10-2Torr)で蒸留により分離した。図15に示すように、NMR分光法により生成物をtBuSn(NMeと確認した。tBuSn(NMeが90%、tBuSn(NMeが10%であった。
【0079】
同様に、Sn(NEtMe)をRLi(式中、R=Et、iPr、iBu、nPr)と反応させることにより、上述の手順の後にRSn(NEtMe)型の錯体が合成できる。
Sn(NEtMe)+RLi→RSn(NEtMe)+LiNEtMe 式V
ここで、R=Et、iPr、iBu、nPr

実施例16:Sn(NEtMe) +EtLi→EtSn(NEtMe) +LiNEtMe
【0080】
不活性雰囲気下で、100gのSn(NEtMe)及びおよそ2.5Lの無水ヘキサンを、5Lの丸底フラスコに仕込んだ。攪拌機によってこの混合物を攪拌し、-15℃のエチレングリコール浴に投入した。グローブボックス内で、無水ベンゼンに溶かした655mLの0.5Mエチルリチウム溶液及びおよそ200mLの無水ベンゼンを、1Lのフラスコに仕込んだ。このEtLi溶液を上記反応フラスコにゆっくりと追加した。得られた反応混合物を室温で3時間攪拌した。その後、撹拌を停止し、反応混合物から塩を終夜沈殿させた。この液体を別の5L丸底フラスコにキャヌラで挿入した。得られた溶媒を蒸留により取り除き、最終生成物を減圧下で蒸留により分離した。

実施例17:Sn(NEtMe) +iPrLi→iPrSn(NEtMe) +LiNEtMe
【0081】
不活性雰囲気下で、100gのSn(NEtMe)及びおよそ2.5Lの無水ヘキサンを、5Lの丸底フラスコに仕込んだ。攪拌機によってこの混合物を攪拌し、-15℃のエチレングリコール浴に投入した。グローブボックス内で、無水ペンタンに溶かした468mLの0.7Mイソプロピルリチウム溶液及びおよそ200mLの無水ヘキサンを、1Lのフラスコに仕込んだ。このiPrLi溶液を上記反応フラスコにゆっくりと追加した。得られた反応混合物を室温で3時間攪拌した。その後、撹拌を停止し、反応混合物から塩を終夜沈殿させた。この液体を別の5L丸底フラスコにキャヌラで挿入した。得られた溶媒を蒸留により取り除き、最終生成物を減圧下で蒸留により分離した。

実施例18:Sn(NEtMe) +iBuLi→iBuSn(NEtMe) +LiNEtMe
【0082】
不活性雰囲気下で、100gのSn(NEtMe)及びおよそ3Lの無水ヘキサンを、5Lの丸底フラスコに仕込んだ。攪拌機によってこの混合物を攪拌し、-15℃のエチレングリコール浴に投入した。グローブボックス内で、無水ヘプタンに溶かした193mLの1.7Mイソブチルリチウム溶液及びおよそ200mLの無水ヘキサンを、1Lのフラスコに仕込んだ。このiBuLi溶液を上記反応フラスコにゆっくりと追加した。得られた反応混合物を室温で3時間攪拌した。その後、撹拌を停止し、反応混合物から塩を終夜沈殿させた。この液体を別の5L丸底フラスコにキャヌラで挿入した。得られた溶媒を蒸留により取り除き、最終生成物を減圧下で蒸留により分離した。

実施例19:Sn(NEtMe) +nPrLi→nPrSn(NEtMe) +LiNEtMe
【0083】
不活性雰囲気下で、100gのSn(NEtMe)及びおよそ3Lの無水ヘキサンを、5Lの丸底フラスコに仕込んだ。攪拌機によってこの混合物を攪拌し、-15℃のエチレングリコール浴に投入した。グローブボックス内で、無水ヘプタンに溶かした193mLの1.7M n-プロピルリチウム溶液及びおよそ200mLの無水ヘキサンを、1Lのフラスコに仕込んだ。このnPrLi溶液を上記反応フラスコにゆっくりと追加した。得られた反応混合物を室温で3時間攪拌した。その後、撹拌を停止し、反応混合物から塩を終夜沈殿させた。この液体を別の5L丸底フラスコにキャヌラで挿入した。得られた溶媒を蒸留により取り除き、最終生成物を減圧下で蒸留により分離した。

実施例20:比較反応性試験
【0084】
a)
・Sn(NMeに水を加えた。反応は自発的に起こった。透明なSn(NMeが濁り、白色固体が形成された。
・Sn(NMeに無水エタノールを加えた。この混合物を加温し、NMRにより-NMe基が-OEt基に完全に置換されていることを確認した。エタノールを追加し、NMRにより反応が完了したことを更に確認した(図16)。
【0085】
b)
・MeSnNMeに水を加えた。NMRによると、いかなる反応の発生も示されなかった。この混合物を50℃で1時間加熱した。NMRにより、反応の発生が示された(図17)。
・MeSnNMeに無水メタノールを加えた。NMRによると、いかなる反応の発生も示されなかった。この混合物を50℃で1時間加熱した。透明な溶液が濁った。NMRにより、反応の発生が確認された。
【0086】
c)
・BuSn(OAc)に水を加えた。反応は自発的に起こった。透明なBuSn(OAc)が濁り、白色固体が形成された。
・BuSn(OAc)に無水メタノールを加えた。NMRによると、いかなる反応の発生も示されなかった(図18)。
【0087】
d)
・BuSn(OMe)に水を加えた。反応は自発的に起こった。透明なBuSn(OMe)が濁り、白色固体が形成された。
・BuSn(OMe)に酢酸を加えた。NMRにより、一部の-OMe基が-OAc基に置換されていることが示された(図19)。
【0088】
e)
・BuSn(NMeに水を加えた。反応は自発的に起こった。透明なBuSn(NMeが濁り、白色固体が形成された。
・BuSn(NMeにメタノールを加えた。NMRにより、一部の-NMe基が-OMe基に置換されていることが示された(図20)。

実施例21:熱安定性試験
【0089】
式Iの化合物の熱安定性試験が、設定温度で1時間加熱された密閉ガラスアンプル内で実施された。NMRを実施し、何らかの熱分解が発生しているか否かを確認した。更に目視により、熱処理後の固体の形成の有無を調べた。図21は、200℃での加熱前後のMeSnのNMRを示す。NMRと目視の両方により、200℃での1時間の加熱後に有意な変化は確認されなかった。
【0090】
図22は、200℃での加熱前後のEtSn(NMeのNMRを示す。NMRと目視の両方により、200℃での1時間の加熱後に有意な変化は確認されなかった。
【0091】
図23は、150℃での加熱前後のMeSn(NMeのNMRを示す。NMRと目視の両方により、150℃での24時間の加熱後に有意な変化は確認されなかった。
【0092】
図24は、式Iの例示的化合物の分解温度を示す。
【0093】
これらの結果は、式Iの化合物は熱的に安定であることを示し、観察可能な分解を伴わずに堆積チャンバーへ化合物を供給できることを示している。

多段蒸留
【0094】
化学製造業界において各種の多段蒸留が知られているが、テトラメチルスズ又は式Iの他の化合物を含む有機金属材料の精製にこれまで使用されてはいない。
【0095】
図25の概略図に示すように、多重効用又は多段蒸留(MED)は、海水の脱塩によく使用される蒸留プロセスである。同プロセスは、複数の段又は「効用」からなる。(図25の概略図では、第1階が最上部に示されている。ピンクの領域が蒸気、水色の領域が液体供給材料である。青緑色の部分は凝縮物を示す。供給材料が第1段以外の段にどのように入るのかは図示していないが、これらは容易に理解されよう。Fは供給材料の入口、Sは加熱蒸気の入口、Cは加熱蒸気の出口、Wは精製された材料(凝縮物)の出口、Rは廃棄材料の出口、Oは冷却剤の入口、Pは冷却剤の出口、VCは最終段の冷却部を示す。)各段において、供給材料はチューブ内の蒸気によって加熱される。供給材料の一部は蒸発し、この蒸気が次の段のチューブへと流れ込み、更に蒸留物を加熱し蒸発させる。各段では基本的に前段のエネルギーを再利用する。
【0096】
プラントは、一端に熱源が、他端にヒートシンクがそれぞれ設けられた複数のチューブの壁によって分割されている一連の閉鎖空間と捉えることができる。各空間は、第n段のチューブの外部と、第n+1段のチューブの内部という連通する2つの部分空間からなる。各空間は、その手前の空間よりも低い温度と圧力を有し、チューブ壁ではその両側の流体の温度の中間の温度となる。各空間内の圧力は、両方の部分空間の壁の温度と平衡になり得ず、中間の圧力を有する。その結果、第1の部分空間では圧力が低く、或いは温度が高くなり、供給材料は蒸発する。第2の部分空間では、圧力が高く、或いは温度が低くなり、蒸気は凝縮する。これにより、蒸発エネルギーが温かい第1の部分空間から冷たい第2の部分空間へと流れる。第2の部分空間では、チューブ壁を介した伝導によりエネルギーが冷たい次の空間へと流れる。
【0097】
以下の表1に示すように、多段蒸留によるSnMeの精製によって、従来の手段で精製されたものと比較して不純物濃度が著しく低い化合物が得られる。
【表1】
【0098】
本明細書を説明する文脈において(特に、以下の請求項の文脈において)、単数形の用語の使用は、本明細書に別途規定されたり、文脈から明らかに矛盾したりしない限り、単数と複数の両方を網羅するものと解釈される。「備える」、「有する」、「含む」、「含有する」という用語は、別途規定されていない限り、制限されない用語として解釈される(即ち、「以下を含むがこれに限定されない」ことを意味する)。「接続される」という用語は、介在されるものの有無にかかわらず、部分的に又は全体的にその内に含有される、添付される、又は結合されることと解釈される。
【0099】
本明細書に記載された数値範囲への言及は、本明細書に別途規定されていない限り、当該範囲内の個別の各値を個々に参照する簡便な方法となるようにのみ意図されたものであり、個別の各値は、本明細書に個別に言及されているかのように本明細書に組み込まれている。
【0100】
本明細書に記載の全ての方法は、本明細書に別途規定されたり、文脈から明らかに矛盾したりしない限り、任意の適切な順序で実施され得る。任意の例や全ての例、又は本明細書に示された例示的な文言(例えば、「等」)の使用は、本明細書の実施形態をよりよく示すことのみを目的にしたものであり、別途請求されていない限り、本発明の範囲に制限を課すものではない。各種実施形態及び構成要素は、必要に応じて適切な形で入れ替えたり組み合わせたりすることができる。
【0101】
本明細書のいずれの文言も、本発明の実施に不可欠な請求されていない構成要素を示すと解されるべきではない。
【0102】
当業者であれば、本発明の主旨及び範囲を逸脱することなく、本発明に各種変形や変更を加えることができることは自明であろう。本発明を開示された特定の形式に限定する意図はなく、本発明は寧ろ、添付の請求項に定義された本発明の主旨及び範囲内にある全ての変形、代替構造、及び均等物を網羅するものである。したがって、本発明は、添付の請求項及びその均等物の範囲内にあるものであれば、本発明の変形及び変更を網羅することが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
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図24
図25