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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003674
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 107/02 20060101AFI20230110BHJP
   C10M 145/14 20060101ALI20230110BHJP
   C10M 137/04 20060101ALI20230110BHJP
   C10M 137/02 20060101ALI20230110BHJP
   C10M 105/32 20060101ALI20230110BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20230110BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20230110BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20230110BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20230110BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20230110BHJP
【FI】
C10M107/02
C10M145/14
C10M137/04
C10M137/02
C10M105/32
C10N40:04
C10N40:00 D
C10N30:06
C10N30:02
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104895
(22)【出願日】2021-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 耕平
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA07A
4H104BB31A
4H104BB32A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BH02C
4H104BH03C
4H104CB08C
4H104LA01
4H104LA03
4H104LA20
4H104PA03
4H104PA39
(57)【要約】
【課題】低いトラクション係数と、高い低温流動性と、高いオイル消費抑制性能とをバランスよく有するものとすることが可能な潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】 下記基油(A)及び(B):
(A)1-テトラデセンの重合体であるポリ-α-オレフィン系基油、
(B)API基油分類におけるグループV基油及び基油(A)以外のポリ-α-オレフィン系基油からなる群から選択される少なくとも1種の基油、
を含む潤滑油基油を含有してなり;前記基油(A)が、1-テトラデセンの二量体である成分(A1)と、1-テトラデセンの三量体である成分(A2)とを含むものであり;前記基油(A)中に含有される前記成分(A1)及び(A2)の質量比([成分(A1)]/[成分(A2)])が3~10であり;前記潤滑油基油の全量を基準として、前記基油(A)の含有量が40質量%以上85質量%以下であり;前記潤滑油基油の全量を基準として、前記基油(B)の含有量が15質量%以上60質量%以下であり;かつ、前記潤滑油基油の全量を基準として、前記基油(A)及び前記基油(B)の合計量が80質量%以上であることを特徴とする潤滑油組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記基油(A)及び(B):
(A)1-テトラデセンの重合体であるポリ-α-オレフィン系基油、
(B)API基油分類におけるグループV基油及び基油(A)以外のポリ-α-オレフィン系基油からなる群から選択される少なくとも1種の基油、
を含む潤滑油基油を含有してなり、
前記基油(A)が、1-テトラデセンの二量体である成分(A1)と、1-テトラデセンの三量体である成分(A2)とを含むものであり、
前記基油(A)中に含有される前記成分(A1)及び(A2)の質量比([成分(A1)]/[成分(A2)])が3~10であり、
前記潤滑油基油の全量を基準として、前記基油(A)の含有量が40質量%以上85質量%以下であり、
前記潤滑油基油の全量を基準として、前記基油(B)の含有量が15質量%以上60質量%以下であり、かつ、
前記潤滑油基油の全量を基準として、前記基油(A)及び前記基油(B)の合計量が80質量%以上であることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
前記潤滑油基油の全量を基準として、前記基油(A)の含有量が40質量%以上83質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記潤滑油基油の全量を基準として、前記基油(A)の含有量が40質量%以上75質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記基油(A)の全量を基準として、前記成分(A1)及び(A2)の合計量が90質量%以上であることを特徴とする請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
ポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤を更に含むことを特徴とする請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
(亜)リン酸エステルからなる摩擦防止剤を更に含むことを特徴とする請求項1~5のうちのいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
変速機及び/又は電動モーターの潤滑及び/又は冷却に用いられるものであることを特徴とする請求項1~6のうちのいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のエンジン、電動モーター、変速機等に用いる潤滑油組成物に対して、用途に応じた性能が要求されており、様々な潤滑油組成物が研究されている。例えば、国際公開第2020/068527A1(特許文献1)においては、第一基油として、C14モノオレフィン、C16モノオレフィン、それらの混合物のルイス酸触媒の存在下でのオリゴマー化によって製造される、C28-32の炭化水素フラクション(二量体)と、任意に含まれ得るC42-48炭化水素フラクション(三量体)とを含有する基油と、任意に含まれ得る第二基油としての第一基油とは異なるグループII、III又はIVの基油とを含む潤滑油組成物が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載のような従来の潤滑油組成物は、低いトラクション係数と、高い低温流動性と、蒸発損失の低減の観点での高いオイル消費抑制性能とをバランスよく有するものとするといった点では未だ十分なものではなかった。
【0003】
なお、従来、電動モーターと変速機は、一般的に異なる潤滑油組成物を用いて潤滑されてきた。しかしながら、電動モーター及び変速機を同一の潤滑油組成物を用いて潤滑することが可能となれば、潤滑油組成物の循環機構を簡略化することが可能となるため、近年では、電動モーターと変速機とを同一の潤滑油組成物によって潤滑することが研究されている。また、油冷式の電動モーターにおいては、そのモーター内部の発熱部位(例えばコイル、コア、磁石等)に冷却媒体として潤滑油組成物を接触させることで高い冷却効果を得ることもできることから、冷却油としても利用可能な潤滑油組成物の研究が進められている。また、変速機(トランスミッション)の分野においては、特に省燃費化や耐久性向上の観点から、トラクション係数を低減が求められている。このように、電動モーターや変速機の分野においては、その用途等から、特に、低いトラクション係数と、高い低温流動性と、高いオイル消費抑制性能をバランスよく有する潤滑油組成物の出現が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/068527A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、低いトラクション係数と、高い低温流動性と、高いオイル消費抑制性能とをバランスよく有するものとすることが可能な潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、潤滑油組成物を、下記特定の基油(A)及び(B)を含む潤滑油基油を含有してなる組成物とし、その潤滑油基油の全量を基準とした、前記基油(A)の含有量を40質量%以上85質量%以下とするとともに前記基油(B)の含有量を15質量%以上60質量%以下とし、さらに、その潤滑油基油の全量を基準とした、前記基油(A)及び前記基油(B)の合計量を80質量%以上とすることにより、低いトラクション係数と、高い低温流動性と、高いオイル消費抑制性能とをバランスよく有するものとすることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の潤滑油組成物は、
下記基油(A)及び(B):
(A)1-テトラデセンの重合体であるポリ-α-オレフィン系基油、
(B)API基油分類におけるグループV基油及び基油(A)以外のポリ-α-オレフィン系基油からなる群から選択される少なくとも1種の基油、
を含む潤滑油基油を含有してなり、
前記基油(A)が、1-テトラデセンの二量体である成分(A1)と、1-テトラデセンの三量体である成分(A2)とを含むものであり、
前記基油(A)中に含有される前記成分(A1)及び(A2)の質量比([成分(A1)]/[成分(A2)])が3~10であり、
前記潤滑油基油の全量を基準として、前記基油(A)の含有量が40質量%以上85質量%以下であり、
前記潤滑油基油の全量を基準として、前記基油(B)の含有量が15質量%以上60質量%以下であり、かつ、
前記潤滑油基油の全量を基準として、前記基油(A)及び前記基油(B)の合計量が80質量%以上であることを特徴とするものである。
【0008】
また、前記本発明の潤滑油組成物においては、前記潤滑油基油の全量を基準として、前記基油(A)の含有量が40質量%以上83質量%以下(より好ましくは40質量%以上75質量%以下)であることが好ましい。
【0009】
また、前記本発明の潤滑油組成物においては、前記基油(A)の全量を基準として、前記成分(A1)及び(A2)の合計量が90質量%以上であることが好ましい。
【0010】
また、前記本発明の潤滑油組成物においては、ポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤を更に含むことが好ましい。
【0011】
さらに、前記本発明の潤滑油組成物においては、(亜)リン酸エステルからなる摩擦防止剤を更に含むことが好ましい。
【0012】
また、前記本発明の潤滑油組成物は、変速機及び/又は電動モーターの潤滑及び/又は冷却に用いられるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低いトラクション係数と、高い低温流動性と、高いオイル消費抑制性能とをバランスよく有するものとすることが可能な潤滑油組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、本明細書においては、特に断らない限り、数値X及びYについて「X~Y」という表記は「X以上Y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Xにも適用されるものとする。
【0015】
本発明の潤滑油組成物は、
下記基油(A)及び(B):
(A)1-テトラデセンの重合体であるポリ-α-オレフィン系基油、
(B)API基油分類におけるグループV基油及び基油(A)以外のポリ-α-オレフィン系基油からなる群から選択される少なくとも1種の基油、
を含む潤滑油基油を含有してなり、
前記基油(A)が、1-テトラデセンの二量体である成分(A1)と、1-テトラデセンの三量体である成分(A2)とを含むものであり、
前記基油(A)中に含有される前記成分(A1)及び(A2)の質量比([成分(A1)]/[成分(A2)])が3~10であり、
前記潤滑油基油の全量を基準として、前記基油(A)の含有量が40質量%以上85質量%以下であり、
前記潤滑油基油の全量を基準として、前記基油(B)の含有量が15質量%以上60質量%以下であり、かつ、
前記潤滑油基油の全量を基準として、前記基油(A)及び前記基油(B)の合計量が80質量%以上であることを特徴とするものである。以下、先ず、基油(A)及び(B)について説明し、次いで、潤滑油基油及び潤滑油組成物の組成や特性等について説明する。
【0016】
[基油(A)]
本発明にかかる基油(A)は、1-テトラデセンの重合体であるポリ-α-オレフィン系基油である。そして、前記基油(A)は、1-テトラデセンの二量体である成分(A1)と、1-テトラデセンの三量体である成分(A2)とを含むものである必要がある。このように、基油(A)は、成分(A1)と成分(A2)とを必須成分として含む1-テトラデセンの重合体である。
【0017】
また、前記基油(A)は、前記基油(A)中に含有される前記成分(A1)及び(A2)の質量比([成分(A1)]/[成分(A2)])が3~10である必要がある。前記成分(A1)及び(A2)の質量比が、前記下限以上である場合には、前記下限未満の場合と比較してトラクション係数が低い値となり、他方、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して使用時の蒸発損失を低減させることにより、使用時のオイル消費を抑制する性能(オイル消費抑制性能)が向上する。また、同様の観点でより高い効果が得られることから、前記成分(A1)及び(A2)の質量比([成分(A1)]/[成分(A2)])は3.0~9.0であることがより好ましく、4.0~6.0であることが更に好ましく、4.0~5.5であることが特に好ましく、4.0~5.3であることが更に好ましい。
【0018】
また、前記基油(A)としては、前記成分(A1)及び(A2)の合計量が前記基油(A)の全量を基準として90質量%以上(より好ましくは93質量%以上、更に好ましくは98~100質量%)のものが好ましい。前記成分(A1)及び(A2)の合計量が前記下限以上である場合には、前記下限未満の場合と比較して、トラクション係数をより低くすることが可能となる。
【0019】
また、前記基油(A)中の前記成分(A1)の含有量としては、基油(A)の総量に対して55~95質量%であることがより好ましく、80~90質量%であることが更に好ましい。前記成分(A1)の含有量が、前記下限以上である場合には、前記下限未満の場合と比較してトラクション係数をより低くすることが可能となり、他方、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して蒸発損失をより低減させることが可能となる。
【0020】
また、前記基油(A)中の前記成分(A2)の含有量としては、基油(A)の総量に対して10~50質量%であることがより好ましく、10~20質量%であることが更に好ましい。前記成分(A2)の含有量が、前記下限以上である場合には、前記下限未満の場合と比較して蒸発損失をより低減させることが可能となり、他方、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較してトラクション係数をより低くすることが可能となる。
【0021】
また、前記基油(A)は、1-テトラデセンの重合体であればよいため、前記成分(A1)及び(A2)以外の1-テトラデセンを重合してなる他の重合成分(四量体や五量体等)を更に含んでいてもよい。ただし、低いトラクション係数の維持の観点から、前記基油(A)に含まれる前記成分(A1)及び(A2)以外の他の重合成分は、1-テトラデセンの五量体以下の重合体(1-テトラデセンの四量体及び/又は五量体)であることが好ましく、1-テトラデセンの四量体であることがより好ましい。このように、前記基油(A)においては、前記成分(A1)及び(A2)以外の他の重合成分を含む場合であっても、その重合成分は1-テトラデセンの四量体であることがより好ましい(言い換えれば、1-テトラデセンの五量体以上の重合体を含まないものであることがより好ましい)。
【0022】
また、前記基油(A)が前記成分(A1)及び(A2)以外の他の重合成分を含む場合、前記他の重合成分の含有量(他の重合成分の総量)は前記基油(A)の全量を基準として10質量%以下(より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは2質量%以下)であることが好ましい。前記他の重合成分(1-テトラデセンの四量体や五量体等)の含有量が前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して、より効率よくトラクション係数を低くすることが可能となる。
【0023】
前記基油(A)中の前記成分(A1)、前記成分(A2)、その他の重合成分(1-テトラデセンの四量体や五量体等)の含有量は、その基油に対してガスクロマトグラフィーによる測定を行ってガスクロマトグラムを求め、基油中の各成分(二量体、三量体、その他の重合成分(四量体、五量体等))の質量基準の含有量の値(面積%)を算出することにより求めてもよい。このようなガスクロマトグラフィーによる分析方法は特に制限されないが、例えば、以下に記載するような条件で、基準物質としての1-テトラデセンの二量体、三量体、四量体、五量体等のガスクロマトグラムを求めた後、測定対象としての基油のガスクロマトグラムを求め、基準物質の測定結果との対比から、測定対象としての基油中に含まれる各成分(二量体、三量体、四量体、五量体等)の質量基準の含有量(含有比率:面積%)の関係を求める方法を採用してもよい。
【0024】
<ガスクロマトグラフィーの条件>
測定装置 :GC-2010(株式会社島津製作所製)
カラム :ウルトラアロイ-1HT(長さ:30mm、内径:0.25mm、フロンティアラボ株式会社製)
キャリアガス:ヘリウム(100kPa)
測定試料 :基油をそのまま利用(溶媒で希釈せずに利用)
試料注入量 :0.2μL
検出器 :水素炎イオン化検出器(FID)
検出器温度 :300℃
オーブン温度:40℃で5分保持した後、5℃/minの昇温速度で280℃まで昇温。
【0025】
また、基油(A)が、1-テトラデセンの二量体と、1-テトラデセンの三量体とを混合(必要に応じて他の重合成分も併せて混合)して得られたものである場合には、その製造時の各成分の仕込み比を、そのまま各成分の質量比として利用してもよい。なお、1-テトラデセンの重合体の各成分(1-テトラデセンの二量体(成分(A1))、1-テトラデセンの三量体(成分(A2))、その他の1-テトラデセンの重合成分(四量体や五量体等))を製造するための方法は特に制限されず、それそれ公知の方法により製造することができる。例えば、成分(A1)や(A2)等の各成分をそれぞれ製造する場合、1-テトラデセンを公知の方法(例えば、チグラー触媒法、ラジカル重合法、塩化アルミニウム法、フッ化ホウ素法など触媒の存在下で低圧重合することにより重合する方法等)で重合せしめた後、その重合物から蒸留分離により、目的とする成分をそれぞれ単離することにより、各成分をそれぞれ得る方法を採用できる。
【0026】
また、基油(A)を製造するための方法も特に制限されず、前述のようにして、1-テトラデセンの重合体の各成分を単離した後、1-テトラデセンの二量体(成分(A1))、1-テトラデセンの三量体(成分(A2))、その他の1-テトラデセンの重合成分(四量体や五量体等)を、目的とする設計に応じて適宜混合することにより、基油(A)を製造する方法を採用してもよい。
【0027】
[基油(B)]
本発明にかかる基油(B)は、API基油分類におけるグループV基油及び基油(A)以外のポリ-α-オレフィン系基油からなる群から選択される少なくとも1種の基油である。
【0028】
API基油分類におけるグループV基油とは、API(アメリカ石油協会:American Petroleum Institute)による基油の分類がグループVとなる基油である(以下、場合により、単に「APIグループV基油」と称する)。このようなAPIグループV基油としては、例えば、モノエステル(例えばブチルステアレート、オクチルラウレート);ジエステル(例えばジトリデシルグルタレート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルセパケート等);ポリエステル(例えばトリメリット酸エステル等);ポリオールエステル(例えばトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)等のエステル系基油を好適に利用できる。また、このようなAPIグループV基油としては、市販品(例えば、BASF社製の商品名「Synative ES 2970」等)を適宜利用してもよい。
【0029】
また、前記基油(A)以外のポリ-α-オレフィン系基油としては、前記基油(A)以外のポリ-α-オレフィンよりなるものであればよく、1-テトラデセン以外のα-オレフィンの重合体、1-テトラデセンと1-テトラデセン以外のα-オレフィンとの共重合体、又は、それらの混合物である基油が挙げられる。また、前記基油(A)以外のポリ-α-オレフィンとしては、1-テトラデセンの重合体以外のものであって、APIによる基油の分類がグループIVの基油(API基油分類におけるグループIV基油)を好適に利用できる。また、前記基油(A)以外のポリ-α-オレフィン系基油としては、炭素数が6~12の直鎖状のα‐オレフィンのオリゴマーを好適に利用できる。また、このような基油(A)以外のポリ-α-オレフィン系基油としては、市販品(例えば、エクソンモービル(ExxonMobil)社製の商品名「Spectrasyn」等)を適宜利用してもよい。
【0030】
[潤滑油基油]
本発明にかかる潤滑油基油は、前記基油(A)及び(B)を含むものである。また、前記潤滑油基油においては、前記基油(A)及び(B)の含有量(合計量)が前記潤滑油基油の全量を基準として80質量%以上である必要がある。前記基油(A)及び(B)の合計量を前記下限以上とすることで、前記下限未満の場合と比較して、低いトラクション係数と、低温流動性と、蒸発損失低減性能とを有することが可能となる。また、同様の観点でより高い効果を得ることが可能となることから、前記潤滑油基油の全量を基準とした前記基油(A)及び(B)の含有量(合計量)は90質量%以上(更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上)であることがより好ましい。なお、前記基油(A)及び(B)以外の基油としては特に制限されないが、例えば、API基油分類におけるグループIIの基油、グループIIIの基油等を挙げることができる。なお、前記潤滑油基油としては、高温清浄性や耐水性の向上の観点から、前記基油(A)及び(B)のみからなるものがより好ましい。
【0031】
また、本発明にかかる潤滑油基油においては、前記基油(A)の含有量が前記潤滑油基油の全量を基準として40質量%以上85質量%以下である必要がある。前記基油(A)の含有量が前記下限以上である場合には、前記下限未満の場合と比較してトラクション係数が低い値となり、他方、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して低温流動性が高くなる。また、同様の観点でより高い効果を得ることが可能となることから、前記潤滑油基油の全量を基準とした前記基油(A)の含有量は40質量%以上83質量%以下(より好ましくは40質量%以上75質量%以下、更に好ましくは45質量%~75質量%)であることが好ましい。
【0032】
また、本発明にかかる潤滑油基油においては、前記基油(B)の含有量が前記潤滑油基油の全量を基準として15質量%以上60質量%以下である必要がある。前記基油(B)の含有量が前記下限以上である場合には、前記下限未満の場合と比較して、低温流動性が高くなり、他方、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較してトラクション係数が低い値となる。また、同様の観点でより高い効果を得ることが可能となることから、前記潤滑油基油の全量を基準とした前記基油(B)の含有量は17質量%以上60質量%以下(より好ましくは25質量%以上60質量%以下、更に好ましくは25質量%以上55質量%以下)であることが好ましい。
【0033】
また、前記潤滑油基油中の前記成分(A1)の含有量としては、潤滑油基油の総量に対して30~80質量%であることがより好ましく、40~70質量%であることが更に好ましい。前記成分(A1)の含有量が、前記下限以上である場合には、前記下限未満の場合と比較してトラクション係数をより低くすることが可能となり、他方、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して低温粘度をより低くすることが可能となる。
【0034】
また、前記潤滑油基油中の前記成分(A2)の含有量としては、潤滑油基油の総量に対して5.0~35.0質量%であることがより好ましく、7.5~16.0質量%であることが更に好ましい。前記成分(A2)の含有量が、前記下限以上である場合には、前記下限未満の場合と比較してトラクション係数をより低くすることが可能となり、他方、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して低温粘度をより低くすることが可能となる。
【0035】
さらに、本発明にかかる潤滑油基油においては、低トラクション係数化、低温流動性の向上及びオイル消費抑制性能の向上をよりバランスよく図ることが可能となることから、前記潤滑油基油中の前記基油(A)及び(B)の質量比([基油(A)]/[基油(B)])が2/3~17/3(更に好ましくは1~3)であることがより好ましい。
【0036】
また、本発明にかかる潤滑油基油としては、40℃における動粘度が10.0~30.0mm/sのものが好ましく、11.0~19.0mm/sのものがより好ましい。なお、本明細書において「40℃における動粘度」とは、JIS K2283‐2000に準拠し、測定装置として自動粘度計(商品名「CAV-2100」、Cannon Instrument社製)を用いて測定された40℃での動粘度を意味する。
【0037】
本発明にかかる潤滑油基油としては、100℃における動粘度が2.0~5.0mm/sのものが好ましく、3.5~4.1mm/sのものがより好ましい。なお、本明細書において「100℃における動粘度」とは、JIS K2283‐2000に準拠し、測定装置として自動粘度計(商品名「CAV-2100」、Cannon Instrument社製)を用いて測定された100℃での動粘度を意味する。
【0038】
また、本発明にかかる潤滑油基油は、粘度指数が110以上(より好ましくは110~140)のものが好ましい。粘度指数が、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して、低温での粘度急上昇がより抑制されて、低温での流動性がより高いものとなり、他方、前記粘度指数が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して、得られる潤滑油組成物の粘度の温度依存性をより低下させて、幅広い温度域において動力伝達効率をより向上させることが可能となる。なお、本明細書において「粘度指数」とは、JIS K 2283-2000に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0039】
[潤滑油組成物]
本発明の潤滑油組成物は、前記潤滑油基油を含有してなるものである。このように、本発明の潤滑油組成物は、前記潤滑油基油を含有してなるものであればよく、例えば、前記潤滑油基油のみを含有する形態のものであっても(この場合、潤滑油組成物は基油(A)と基油(B)を含有する組成物(潤滑油基油からなるもの)となる)、あるいは、前記潤滑油基油とともに添加剤を含む形態のものであってもよい。
【0040】
また、本発明の潤滑油組成物における前記潤滑油基油の含有量は特に制限されるものではないが、潤滑油組成物の全量を基準として90質量%以上(より好ましくは92質量%以上、更に好ましくは95質量%以上)であることが好ましい。
【0041】
本発明の潤滑油組成物が、前記潤滑油基油とともに添加剤を含む形態のものである場合、かかる添加剤としては、その用途に応じて、潤滑油の分野において利用されている公知の添加剤(例えば、特開2003-155492号公報、国際公開2017/073748号、特開2020-76004号公報等に記載されているもの等)を適宜利用できる。
【0042】
このような添加剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、粘度指数向上剤、流動点降下剤、無灰分散剤、金属系清浄剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、金属不活性化剤、ゴム膨潤剤、摩擦調整剤、消泡剤、粘度調整剤、希釈油等を挙げることができる。このような添加剤は、潤滑油組成物の用途に応じて、1種を単独で利用してもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。
【0043】
前記粘度指数向上剤としては特に制限されず、公知の粘度指数向上剤を適宜利用できる。粘度指数向上剤の中でも、粘度指数を高める効果およびせん断安定性の向上の観点で、ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤(ポリ(メタ)アクリレートからなる粘度指数向上剤)がより好ましい。なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。このようなポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤としては、いわゆる非分散型のものであっても、分散型のものであってもよい。また、粘度指数向上剤に用いられるポリ(メタ)アクリレートとしては、重量平均分子量が5,000~35,000のものが好ましい。なお、ここにいう「重量平均分子量」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で求められる値(標準ポリスチレン換算により得られた分子量)を意味する。また、前記粘度指数向上剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。粘度指数向上剤を利用する場合、その含有量は前記潤滑油組成物の全量を基準として0.01~10.0質量%(より好ましくは0.10~7.0質量%)であることが好ましい。
【0044】
前記流動点降下剤としては特に制限されず、公知の流動点降下剤を適宜利用でき、例えば、ポリ(メタ)アクリレート、エチレン-酢酸ビニルコポリマー等が挙げられる。このような流動点降下剤の中でも、低温流動点降下作用およびせん断安定性の向上の観点から、ポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤(ポリ(メタ)アクリレートからなる流動点降下剤)がより好ましい。このようなポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤としては、いわゆる非分散型のものであっても、分散型のものであってもよい。また、前記流動点降下剤に用いる前記ポリ(メタ)アクリレートとしては、流動点降下作用およびせん断安定性の向上の観点から、重量平均分子量が40,000~100,000のものが好ましい。また、かかる重量平均分子量の上限値は80,000以下(より好ましくは60,000以下)であることがより好ましい。なお、ここにいう「重量平均分子量」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で求められる値(標準ポリスチレン換算により得られた分子量)を意味する。また、前記流動点降下剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。流動点降下剤を利用する場合、その含有量は前記潤滑油組成物の全量を基準として0.01~1.0質量%(より好ましくは0.03~0.6質量%)であることが好ましい。
【0045】
前記無灰分散剤としては特に制限されず、公知の無灰分散剤(例えば、特開2003-155492号公報、特開2020-76004号公報、国際公開2013/147162号等参照)が適宜使用でき、中でも、非ホウ素化コハク酸イミド、ホウ素化コハク酸イミド、及び、これらの混合物を好適に利用できる。なお、前記非ホウ素化コハク酸イミド、前記ホウ素化コハク酸イミド、又は、これらの混合物としては、窒素原子の含有量が0.5~3.0質量%のものが好ましい。なお、前記無灰分散剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。さらに、前記無灰分散剤を利用する場合、その含有量は前記潤滑油組成物の全量を基準として0.2~6.0質量%(より好ましくは0.5~5.0質量%)であることが好ましい。
【0046】
前記金属系清浄剤としては特に制限されないが、例えば、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレート等が挙げられる。前記金属系清浄剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。さらに、金属系清浄剤を利用する場合、その含有量は前記潤滑油組成物の全量を基準として0.01~1.0質量%(より好ましくは0.05~0.6質量%)であることが好ましい。
【0047】
前記酸化防止剤としては特に制限されないが、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。酸化防止剤を利用する場合、その含有量は前記潤滑油組成物の全量を基準として0.1~2.0質量%(より好ましくは0.2~1.0質量%)であることが好ましい。
【0048】
前記摩耗防止剤としては、特に限定されず、潤滑油組成物の分野において摩耗防止剤として用いられている公知の化合物(例えば、特開2003-155492号公報、特開2020-76004号公報、国際公開2013/147162号等参照)を適宜用いることがで中でも、(亜)リン酸エステルがより好ましい。なお、本明細書において「(亜)リン酸エステル」とは、リン酸エステル及び/又は亜リン酸エステルを意味する。このような(亜)リン酸エステルからなる摩耗防止剤としては、リン原子(P)の含有量が2.0~35.0質量%のものが好ましい。なお、摩耗防止剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。また、摩耗防止剤を利用する場合、その含有量は前記潤滑油組成物の全量を基準として0.02~2.0質量%(より好ましくは0.05~1.0質量%)であることが好ましい。なお、前記摩耗防止剤としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を利用することも可能ではあるが、変速機の潤滑の用途に利用した場合に、耐摩耗性の点で、(亜)リン酸エステル等の他の成分と比較して必ずしも高度な効果が得られないため、電動モーター及び変速機を同一の潤滑油組成物を用いて潤滑するといった観点では、ZnDTP以外のものを利用することが好ましく、中でも、(亜)リン酸エステルを利用することが特に好ましい。
【0049】
前記金属不活性化剤としては特に制限されないが、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体、トリルトリアゾールまたはその誘導体、1,3,4-チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4-チアジアゾリル-2,5-ビスジアルキルジチオカーバメート、2-(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、β-(o-カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。金属不活性化剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。また、金属不活性化剤を利用する場合、その含有量は前記潤滑油組成物の全量を基準として0.01~0.5質量%(より好ましくは0.02~0.3質量%)であることが好ましい。
【0050】
前記ゴム膨潤剤としては特に制限されないが、潤滑油用のシール膨潤剤として用いることが可能な公知の化合物を適宜利用でき、例えば、エステル系、硫黄系、芳香族系等のシール膨潤剤(例えばスルホラン化合物等)が挙げられる。ゴム膨潤剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。また、ゴム膨潤剤を利用する場合、その含有量は特に制限されないが、前記潤滑油組成物の全量を基準として0.01~1.0質量%(より好ましくは0.05~0.8質量%)であることが好ましい。
【0051】
前記摩擦調整剤としては特に制限されないが、例えば、アミン系、アミド系、イミド系、脂肪酸エステル系、脂肪酸系、脂肪族アルコール系、脂肪族エーテル系の摩擦調整剤が挙げられる。また、このような摩擦調整剤としては、より高い摩擦低減作用が得られるといった観点から、アミン系摩擦調整剤がより好ましく、アルキルアミン、アルケニルアミンが更に好ましい。摩擦調整剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。また、摩擦調整剤を利用する場合、その含有量は前記潤滑油組成物の全量を基準として0.005~3.0質量%(より好ましくは0.01~2.5質量%)であることが好ましい。
【0052】
前記消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1,000~100,000mm2/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸とのエステル、メチルサリシレート、および、o-ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。消泡剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。また、消泡剤を利用する場合、その含有量は特に制限されないが、前記潤滑油組成物の全量を基準として0.0001~0.005質量%(より好ましくは0.0003~0.003質量%)であることが好ましい。
【0053】
前記粘度調整剤としては、特に制限されず、潤滑油組成物の分野において粘度調整剤として用いられている公知の化合物を適宜利用できる。このような粘度調整剤としては、重量平均分子量が5,000~20,000(より好ましくは6,000~15,000)のポリマーであることが好ましい。また、前記粘度調整剤として利用する重量平均分子量が5,000~20,000のポリマーとしては、エチレン-α-オレフィン共重合体が好ましく、エチレンプロピレンコポリマーがより好ましい。なお、エチレン-α-オレフィン共重合体(より好ましくはエチレンプロピレンコポリマー)は、ブロックコポリマーであっても、あるいは、ランダムコポリマーであってもよい。なお、ここにいう「重量平均分子量」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で求められる値(標準ポリスチレン換算により得られた分子量)を意味する。また、前記粘度調整剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。このような粘度調整剤を利用する場合、その含有量は特に制限されないが、前記潤滑油組成物の全量を基準として0.01~10.0質量%(より好ましくは0.01~7.0質量%)であることが好ましい。
【0054】
前記希釈油としても特に制限されず、公知のものを適宜利用できる。このような希釈油を利用する場合、その含有量は特に制限されないが、前記潤滑油組成物の全量を基準として0.01~10.0質量%(より好ましくは0.01~5.0質量%)であることが好ましい。
【0055】
また、本発明の潤滑油組成物は、添加剤を含む形態のものである場合、前記潤滑油基油とともに前記ポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤を含むものであることがより好ましい。本発明の潤滑油組成物がポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤を更に含む場合には、低温時の流動性をより向上させることが可能となる。
【0056】
さらに、本発明の潤滑油組成物は、添加剤を含む形態のものである場合、前記潤滑油基油とともに(亜)リン酸エステルからなる摩擦防止剤を含むものであることがより好ましい。本発明の潤滑油組成物が(亜)リン酸エステルからなる摩擦防止剤を更に含む場合には、耐摩耗性を向上することが可能となる。
【0057】
なお、本発明の潤滑油組成物に、上述のような添加剤を含有させる場合、添加剤はそれぞれ各成分ごとに別々に準備して添加してもよいし、あるいは、他の成分の混合物を準備して添加してもよい。このような他の成分の混合物としては、市販のパッケージ(例えば、無灰分散剤、金属系清浄剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、金属不活性化剤、ゴム膨潤剤、希釈油を含む添加剤パッケージ)を適宜利用してもよい。
【0058】
また、本発明の潤滑油組成物のトラクション係数は、0.0044以下であることが好ましく、0.001~0.0042であることがより好ましい。前記トラクション係数が、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して、これを用いた場合に、省燃費化や耐久性向上の点でより高い効果が得られるとともに、動力伝達効率をより向上させることが可能となり、他方、前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して、潤滑箇所での潤滑油組成物の油膜形成性及び油膜保持性がより向上し、幅広い温度域においてより良好な潤滑状態を保持することが可能となる。なお、ここにいう「トラクション係数」としては、EHL試験機(PCS Instruments社製の試験機「EHD2」)を用い、部材として鋼ディスク及び鋼ボールを利用して、温度:25℃、荷重:20N、周速(平均速度):0.5m/s、すべり率(SRR):3%の条件下で測定した値を採用する。
【0059】
本発明の潤滑油組成物の-40℃におけるBF粘度は、10,000mPa・s以下(より好ましくは8,000mPa・s、更に好ましくは6,000mPa・s以下、特に好ましくは4,400mPa・s以下)であることが好ましい。-40℃におけるBF粘度が前記上限値以下である場合には、潤滑油組成物の低温流動性が高い水準にあるものと判断できる。なお、本明細書における-40℃におけるBF粘度は、ASTM D 2983に準拠して測定される値を意味する。
【0060】
さらに、本発明の潤滑油組成物としては、40℃における動粘度が9.0~30.0mm/sのものが好ましく、11.7~21.4mm/sのものがより好ましい。40℃における動粘度が前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して、特に40℃近傍の比較的低温の温度域(好ましくは20~60℃程度)において動力伝達効率をより向上させることが可能となる。他方、40℃における動粘度が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して、特に40℃近傍の比較的低温の温度域(好ましくは20~60℃程度)において、潤滑箇所での潤滑油組成物の油膜形成性及び油膜保持性がより向上して、より良好な潤滑状態を保持することが可能となる。
【0061】
また、本発明の潤滑油組成物としては、100℃における動粘度が2.0~5.0mm/sのものが好ましく、3.0~4.6mm/sのものがより好ましい。100℃における動粘度が前記上限以下である場合には前記上限を超えた場合と比較して、特に100℃近傍の比較的高温の温度域(好ましくは80~120℃程度)において動力伝達効率をより向上させることが可能となる。他方、100℃における動粘度が前記下限以上である場合には前記下限未満である場合と比較して、特に100℃近傍の比較的高温の温度域(好ましくは80~120℃程度)において、潤滑箇所での潤滑油組成物の油膜形成性及び油膜保持性がより向上して、より良好な潤滑状態を保持することが可能となる。
【0062】
また、本発明の潤滑油組成物は、250℃におけるNOACK蒸発量が14.5質量%以下(より好ましくは14.0質量%以下、更に好ましくは13.7)のものが好ましい。潤滑油組成物の250℃におけるNOACK蒸発量の下限は特に制限されるものではないが、3質量%以上であることが好ましい。なお、本明細書において「250℃におけるNOACK蒸発量」とは、ASTM D 5800に準拠して測定される250℃における潤滑油組成物の蒸発量である。なお、NOACK蒸発量が14.5質量%以下である場合には、使用時に蒸発による組成物の損失が低減されて、高い水準でオイルの消費を抑制することが可能となる。
【0063】
また、本発明の潤滑油組成物は、その特性から、変速機、電動モーターの潤滑や冷却に特に好適に用いることができる。すなわち、本発明の潤滑油組成物は、低いトラクション係数と、高い低温流動性と、高いオイル消費抑制性能とをバランスよく有するものとなることから、特に、変速機及び/又は電動モーターの潤滑及び/又は冷却の用途に好適に利用できる。
【実施例0064】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
先ず、各実施例等で利用した基油及び添加剤を以下に記載する。なお、各実施例等においては、以下に記載する基油(1)~(10)をそれぞれ準備して利用した。ここで、基油(1)~(3)は本発明にかかる「基油(A)」に相当するものであり、基油(4)~(10)は本発明にかかる「基油(B)」に相当するものである。また、基油(4)~(5)は1-テトラデセンの重合体よりなるものではあるが、1-テトラデセンの二量体と三量体の質量比の観点で、本発明にかかる「基油(A)」に相当しないものである。
【0066】
〔I〕基油について
[基油(1)]表1に示す組成を有する1-テトラデセンの重合体である基油
[基油(2)]表1に示す組成を有する1-テトラデセンの重合体である基油
[基油(3)]表1に示す組成を有する1-テトラデセンの重合体である基油
[基油(4)]表1に示す組成を有する1-テトラデセンの重合体である基油
[基油(5)]表1に示す組成を有する1-テトラデセンの重合体である基油
[基油(6)]表1に示す組成を有する1-ドデセンの重合体である基油(API基油分類:グループIV)
[基油(7)]表1に示す組成を有する1-デセンの重合体である基油(API基油分類:グループIV)
[基油(8)]1-デセンの重合体である基油(エクソンモービル社製、商品名「Spectrasyn 4」、API基油分類:グループIV)
[基油(9)]1-デセンの重合体である基油(エクソンモービル社製、商品名「Spectrasyn 6」、API基油分類:グループIV)
[基油(10)]エステル系基油(BASF社製の商品名「Synative ES 2970」、API基油分類:グループV)
【0067】
【表1】
【0068】
〔II〕添加剤について
[添加剤パッケージ]無灰分散剤(非ホウ素化コハク酸イミド及びホウ素化コハクイミドの混合物);金属系清浄剤(カルシウムスルホネート、全塩基価:300(TBN300)、カルシウム濃度:12質量%);酸化防止剤(アミン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤の混合物);摩耗防止剤(亜リン酸エステル);金属不活性化剤(チアジアゾール);ゴム膨潤剤(スルホラン化合物);及び、希釈油を含む添加剤パッケージ
[粘度調整剤]エチレン-α-オレフィン共重合体(重量平均分子量:8,600)
[粘度指数向上剤]ポリメタクリレート(非分散型、重量平均分子量:20,000)
[流動点降下剤]ポリメタクリレート(非分散型、重量平均分子量:56,000)。
【0069】
(実施例1~10及び比較例1~8)
下記表2~5に示す組成となるように、前述の基油〔I〕及び添加剤〔II〕の中から適宜選択した成分を利用して、潤滑油組成物を調製した。なお、各実施例等においては、潤滑油基油として、基油〔I〕に記載されている基油から2種類を選択して表2~5に記載の割合で混合した基油の混合物を利用した。ここで、表2~5中、潤滑油基油の含有量の単位の「inmass%」は潤滑油基油の全量に対する各基油の含有量(質量%)を表し、添加剤の含有量の単位の「mass%」は潤滑油組成物全量に対する各成分の含有量(質量%)を表す。また、表2~5中、C14二量体は1-テトラデセンの二量体を示し、C14三量体は1-テトラデセンの三量体を示し、C14四量体は1-テトラデセンの四量体を示し、C14二量体を場合により(A1)成分と示し、C14三量体を場合により(A2)成分と示す。また、表2~5中の組成に関して「-」はその成分を利用していないことを示す。なお、比較例5~8においては、基油(4)~(7)を「基油(A)」との比較のための基油として利用している。このような基油(A)との対比(基油(1)~(3)との対比)の観点から、便宜上、表5中、基油(4)~(7)を場合により「基油(C)」と表記する。
【0070】
また、表2~5には、各潤滑油基油(基油(1)~(10)の中から選択された2種の基油の混合物)の40℃及び100℃の各温度における動粘度、及び、各潤滑油組成物の40℃及び100℃の各温度における動粘度を併せて示す。なお、表2~5に示す潤滑油基油及び潤滑油組成物の各温度における動粘度は、JIS K2283-2000に準拠して、測定装置として自動粘度計(商品名「CAV-2100」、Cannon Instrument社製)を用いて測定した値である。また、表2~5には、潤滑油基油の粘度指数も併せて示す。なお、潤滑油基油の粘度指数は、JIS K 2283-2000に準拠して測定した値である。
【0071】
[各実施例等で得られた潤滑油組成物の特性の評価方法について]
<トラクション係数の測定>
各実施例等で得られた潤滑油組成物のトラクション係数を、EHL試験機(PCS Instruments社製の試験機「EHD2」)を用い、部材として鋼ディスク及び鋼ボールを利用して、温度:25℃、荷重:20N、周速(平均速度):0.5m/s、すべり率(SRR):3%の条件で測定した。得られた結果を表2~5に示す。なお、トラクション係数が0.0044以下である場合には、低トラクション係数の観点で高い水準にあるといえる(トラクション係数が十分に低いといえる)。
【0072】
<ブルックフィールド粘度(BF粘度)の測定>
各実施例等で得られた潤滑油組成物の-40℃におけるBF粘度を、ASTM D 2983に準拠して、測定装置としてブルックフィールド粘度用恒温槽/ブルックフィールド粘度計を用いて、温度:-40℃の条件で測定した。得られた結果を表2~5に示す。なお、BF粘度の値が10,000mPa・s以下となる場合には、低温での流動性が高い水準にあるといえる。
【0073】
<NOACK蒸発量の測定>
各実施例等で得られた潤滑油組成物の250℃におけるNOACK蒸発量を、ASTM D 5800に準拠して測定した(採用した条件:250℃、1時間)。得られた結果(NOACK蒸発量)を表2~5に示す。なお、使用時の潤滑油組成物の蒸発損失量が多くなると、その損失量に応じて粘度が上昇し、低温での流動性が低下する。このような観点で、NOACK蒸発量の値はより低い値であることが望ましく、NOACK蒸発量が14.5質量%以下である場合には蒸発損失の抑制性能が高い水準にあるものと判断できる。
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
表2~5の記載からも明らかなように、基油(A)に相当する基油(1-テトラデセンの二量体である成分(A1)と、1-テトラデセンの三量体である成分(A2)とを質量比([成分(A1)]/[成分(A2)])が3~10となるように含有する基油)を40質量%以上85質量%以下で含有しかつ基油(B)に相当する基油を15質量%以上60質量%以下で含有する潤滑油基油を含む、実施例1~10で得られた潤滑油組成物はいずれも、トラクション係数が0.0044以下、BF粘度が10000mPa・s以下、かつ、NOACK蒸発量が14.5質量%以下となっていた。
【0079】
これに対して、基油(A)に相当する基油を利用していても、その含有量が85質量%を超えた場合(比較例1~2)においてはいずれも、BF粘度が10000mPa・sを大きく超えた値となっており、低温流動性が低いものとなっていた。また、基油(A)に相当する基油を利用していても、その含有量が40質量%未満である場合(比較例3~4)においては、トラクション係数が0.0044よりも大きな値となっており、低トラクション係数の点で十分なものとはならなかった。さらに、基油(A)の代わりに1-ドデセンの重合体である基油(API基油分類:グループIV)を用いた場合(比較例5)には、トラクション係数が0.0044よりも大きな値となっており、この場合にも、やはり低トラクション係数の点で十分なものとはならなかった。更に、基油(A)の代わりに1-ドデセンの重合体である基油(API基油分類:グループIV)を用いた場合(比較例5)には、NOACK蒸発量が14.5質量%を超える値となっており、蒸発損失の抑制性能も十分なものとはならなかった。また、基油(A)の代わりに1-デセンの重合体である基油(API基油分類:グループIV)を用いた場合(比較例6)は、NOACK蒸発量が14.5質量%を超える値となっており、蒸発損失の抑制性能が十分なものとはならなかった。また、基油(A)の代わりに成分(A1)と成分(A2)とを質量比([成分(A1)]/[成分(A2)])が10を超えた値となっている基油を用いた場合(比較例7)にも、NOACK蒸発量が14.5質量%を超える値となっており、蒸発損失の抑制性能が十分なものとはならなかった。さらに、基油(A)の代わりに成分(A1)と成分(A2)とを質量比([成分(A1)]/[成分(A2)])が3未満となっている基油を用いた場合(比較例8)には、トラクション係数が0.0044よりも大きな値となっており、低トラクション係数の点で十分なものとはならなかった。
【0080】
このような結果から、本発明の潤滑油組成物によれば、低トラクション係数、低温流動性、及び、オイル消費抑制性能(蒸発損失の抑制性能)をいずれも高い水準でバランスよく有するものとなることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上説明したように、本発明によれば、低いトラクション係数と、高い低温流動性と、高いオイル消費抑制性能とをバランスよく有するものとすることが可能な潤滑油組成物を提供することが可能となる。したがって、本発明の潤滑油組成物は、特に、変速機、電動モーター等の機器用の潤滑油や冷却油等の用途に利用するための組成物として有用である。