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特開2023-36748有彩色プロセスカラーインクジェットインキ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036748
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】有彩色プロセスカラーインクジェットインキ
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20230307BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
C09D11/322
B41M5/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201031
(22)【出願日】2022-12-16
(62)【分割の表示】P 2020201541の分割
【原出願日】2020-12-04
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 良介
(72)【発明者】
【氏名】杉原 真広
(72)【発明者】
【氏名】速水 真由子
(72)【発明者】
【氏名】正時 睦子
(72)【発明者】
【氏名】野村 高教
(72)【発明者】
【氏名】亀山 雄司
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、様々な記録媒体における、ブリード、ビーディング、フェザリング、裏抜けといった画像欠陥の改善、並びに、吐出安定性及び耐擦過性の向上である。また別の課題として、上記に加え、非浸透性記録媒体に印刷した際の、ビーディング、濡れ広がり性の悪化(白抜け等)、及び、耐ブロッキング性の向上がある。
【解決手段】水、顔料、有機溶剤、バインダー樹脂、及び、ワックスを含有する有彩色プロセスカラーインクジェットインキであって、当該有機溶剤が、1気圧下における沸点が190℃以下である有機溶剤を含み、かつ、インキ全量に対する、1気圧下における沸点が150℃以上である有機溶剤の量、及び、前記バインダー樹脂の含有量を、それぞれS及びRとしたとき、S/Rの値が3.0以下である、有彩色プロセスカラーインクジェットインキである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、顔料、有機溶剤、バインダー樹脂、及び、ワックスを含有する有彩色プロセスカラーインクジェットインキであって、
前記有機溶剤が、1気圧下における沸点が190℃以下である有機溶剤を含み、かつ、インキ全量に対する、1気圧下における沸点が150℃以上である有機溶剤の量をS、及び、インキ全量に対する、前記バインダー樹脂の含有量をRとしたとき、S/Rの値が3.0以下である、有彩色プロセスカラーインクジェットインキ。
【請求項2】
インクジェットヘッドを連通するように構成されたインキ循環機構を有する印刷装置用である、請求項1記載の有彩色プロセスカラーインクジェットインキ。
【請求項3】
前記ワックスが、ポリオレフィン系ワックスを含む、請求項1または2に記載の有彩色プロセスカラーインクジェットインキ。
【請求項4】
インキ全量に対する、1気圧下における沸点が190℃超である有機溶剤の量が1質量%以下であり、かつ、前記S/Rの値が2.3以上3.0以下である、請求項1~3のいずれかに記載の有彩色プロセスカラーインクジェットインキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有彩色プロセスカラーインクジェットインキに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷方式は、インクジェットヘッドにある非常に微細なノズルからインキの微小液滴を記録媒体に対して吐出し、着弾させて、画像や文字を形成する方式である(以下、画像及び/または文字が記録された記録媒体を「印刷物」と総称する)。インクジェット印刷方式は、他の印刷方式と比べて、印刷装置のサイズ及びコスト、印刷時のランニングコスト、フルカラー化の容易性などの面で優れており、普及が著しい。また、近年のインクジェットヘッド性能の著しい向上に伴い、従来オフセット印刷方式が用いられていた産業印刷市場への、インクジェット印刷方式の展開が期待されている。
【0003】
産業印刷市場では、上質紙、普通紙、コピー紙といった高浸透性記録媒体(吸液性記録媒体)に加えて、コート紙、アート紙のような難浸透性記録媒体(低吸液性記録媒体)へも印刷できることが求められる。
【0004】
しかし、インクジェット印刷方式で使用されるインキ(インクジェットインキ)は、オフセット印刷方式で使用されるインキと比較して粘度が非常に低いために、例えば難浸透性記録媒体に対してカラー画像を印刷した際、異色間で色が混ざってしまうブリード(混色にじみ)と呼ばれる現象、および、単色において色の濃淡が数珠状になって見えるビーディングと呼ばれる現象が発生し、画像品質が落ちてしまう。また、高浸透性記録媒体に印刷した際は、記録媒体の繊維に沿ってインキの不規則な滲みが発生するフェザリングと呼ばれる現象が起こるとともに、インキが紙の裏面にまで浸透してしまう裏抜けという現象が発生し、やはり画像品質が大きく低下してしまう。
【0005】
上記課題の解決を図るべく、これまでに様々な検討が行われている。例えば特許文献1では、ブリード及びビーディングを抑制するために、グリコールエーテル系の難水溶性溶剤、アセチレングリコール系の界面活性剤、及び、アミノアルコールを含むインキが開示されている。特許文献1によれば、上記難水溶性溶剤により、疎水性コートされた記録媒体への濡れ性及び浸透性を向上させ、ビーディングを抑制している。しかしながら上記難水溶性溶剤は、記録媒体に対する濡れ性及び浸透性が高すぎるために、上質紙等の高浸透性記録媒体に印刷した際に、インキが、記録媒体を構成するセルロース繊維に沿って流動及び浸透し、文字や細線の印字部周辺にフェザリング及び裏抜けが発生するという問題がある。
【0006】
特許文献2には、ゲル化剤を配合することでインキに感温性を持たせ、また、インクジェットヘッドの温度と記録媒体の温度に差を設けることで、当該インクジェットヘッドから射出する時には低粘度、かつ、記録媒体に着弾したときには高粘度にし、ブリード、ビーディング、フェザリング、及び裏抜けを防止する方法が開示されている。しかしながら、この方法ではインクジェットヘッドを高温にする必要がある。例えば特許文献2の実施例では、インクジェットヘッドの温度を70℃としており、当該インクジェットヘッドの温度が一定にならない場合は吐出安定性が悪化する可能性が高い。また、インキの粘度が比較的高いために、高速印刷時のインクジェット吐出安定性の悪さが懸念される。更に、インキが記録媒体に着弾してから固化及び乾燥するまでの時間が非常に短いため、高速印刷時には、ブリード、ビーディング、フェザリング、及び裏抜けといった現象の防止が不十分なものとなる恐れがある。加えて特許文献2記載のインキには、難浸透性記録媒体に対する印刷物の耐擦過性が悪いという問題もある。
【0007】
なお本出願人は以前、特許文献3にて、ブリード(混色にじみ)を抑制するべく、特定の構造および酸価を有する定着樹脂を使用するインキを提案した。このインキでは、上記定着樹脂が界面活性剤のように機能することで、隣接するインキ液滴同士の合一、及び、ブリードを抑制している。しかしながらこのインキを使用した場合、上記定着樹脂による界面活性効果によって、上質紙等の高浸透性記録媒体に対するインキの浸透性が高くなりすぎてしまい、フェザリング及び裏抜けが発生してしまう恐れがあった。
【0008】
以上のように、高浸透性記録媒体および難浸透性記録媒体の双方で、ブリード、ビーディング、フェザリング、及び裏抜けがなく、耐擦過性にも優れた印刷物を得ることができ、更には吐出安定性にも優れたインクジェットインキは、これまで存在しない現状であった。
【0009】
また近年では、高浸透性記録媒体及び難浸透性記録媒体だけではなく、インキが全く浸透しない記録媒体(非浸透性記録媒体)に対しても、画像品質に優れた印刷物の作製が求められている。広告看板市場で使用されるポリ塩化ビニルシート、軟包装印刷市場で使用されるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム等が非浸透性記録媒体の代表例であり、インクジェット印刷方式の展開を促進するためには、これらの記録媒体への対応も必須といえる。
【0010】
しかしながら非浸透性記録媒体に対する印刷でも、例えば上述したビーディングが発生し、画像品質が落ちる恐れがある。また、使用する非浸透性記録媒体や印刷条件によっては、付与されたインキが当該非浸透性記録媒体上で十分に濡れ広がらず、斑点状またはスジ状に白く抜ける現象(白抜け、白スジ)、および、印刷物をロール状に巻き取った際に、印刷層の一部が当該非浸透性記録媒体の非印刷面(裏面)に付着してしまう現象(ブロッキング)等が起こる可能性もある。
【0011】
上述した課題を解決する方法として、例えば特許文献4には、重量平均分子量及び酸価が異なる、2種類の水溶性樹脂を使用したインキが開示されている。上記特許文献4には、重量平均分子量及び酸価が比較的近い水溶性樹脂を併用することで、インキ中での当該水溶性樹脂の均一化、及び、分子間相互作用によるインキ粘度の上昇が起き、非浸透記録媒体上でのビーディング(液寄り)を防止するとともに、吐出安定性及び耐擦過性の向上が実現できる、とある。しかしながら、上述の通り、特許文献4記載のインキは粘度が高いため、非浸透性記録媒体上での濡れ広がりが不十分となり、白抜け及び白スジが発生する恐れが高い。また高速印刷する際は、粘度の高さに起因した吐出安定性の悪化が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2012-136573号公報
【特許文献2】特開2009-280671号公報
【特許文献3】特開2018-203802号公報
【特許文献4】特開2012-1611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであって、その目的は、様々な記録媒体に対して、ブリード、ビーディング、フェザリング、及び裏抜けといった画像欠陥のない印刷物が得られ、さらに吐出安定性にも優れた、有彩色プロセスカラーインクジェットインキを提供することにある。また本発明の別の目的は、上記に加え、非浸透性記録媒体に印刷した際にも、ビーディングがなく、濡れ広がり性にも優れ、更には耐ブロッキング性も良好である印刷物が得られる、有彩色プロセスカラーインクジェットインキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らが、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の有機溶剤の量とバインダー樹脂の量を特定の範囲内とし、さらにワックスを併用することで、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち本発明は、水、顔料、有機溶剤、バインダー樹脂、及び、ワックスを含有する有彩色プロセスカラーインクジェットインキであって、
前記有機溶剤が、1気圧下における沸点が190℃以下である有機溶剤を含み、かつ、
インキ全量に対する、1気圧下における沸点が150℃以上である有機溶剤の量をS、及び、インキ全量に対する、前記バインダー樹脂の含有量をRとしたとき、S/Rの値が3.0以下である、有彩色プロセスカラーインクジェットインキに関する。
【0016】
また本発明は、インクジェットヘッドを連通するように構成されたインキ循環機構を有する印刷装置用である、上記有彩色プロセスカラーインクジェットインキに関する。
【0017】
また本発明は、前記ワックスが、ポリオレフィン系ワックスを含む、上記有彩色プロセスカラーインクジェットインキに関する。
【0018】
また本発明は、インキ全量に対する、1気圧下における沸点が190℃超である有機溶剤の量が1質量%以下であり、かつ、前記S/Rの値が2.3以上3.0以下である、上記有彩色プロセスカラーインクジェットインキに関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、様々な記録媒体に対して、ブリード、ビーディング、フェザリング、及び裏抜けといった画像欠陥のない印刷物が得られ、さらに吐出安定性にも優れた、有彩色プロセスカラーインクジェットインキを提供することが可能となった。また本発明により、上記に加え、非浸透性記録媒体に印刷した際にも、ビーディングがなく、濡れ広がり性にも優れ、更には耐ブロッキング性も良好である印刷物が得られる、有彩色プロセスカラーインクジェットインキを提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明の有彩色プロセスカラーインクジェットインキ(以下、単に「カラーインキ」、「インキ」ともいう)について説明する。なお、本明細書において「水性媒体」とは、少なくとも水を含む液体からなる媒体を意味する。
【0021】
一般に、インキ中に含まれる有機溶剤の沸点を下げることで、当該インキの乾燥性が増し、難浸透性記録媒体上でのブリードを抑制することができる。例えば、1気圧下における沸点が190℃以下である有機溶剤を使用することで、インキが記録媒体上で乾燥不良を起こすことがなく、難浸透性記録媒体に印刷した際であっても、インキ液滴同士の合一によるブリードを抑えることができる。その一方、単色のインキで発生するビーディングは、上記所作によって悪化する可能性がある。その理由として、インキの乾燥性が高すぎることで、インキ液滴内で乾燥挙動に偏りが生じることが考えられる。
【0022】
また、インキ中のバインダー樹脂量に対する、当該インキ中の有機溶剤量を小さくすることで、当該インキの乾燥に伴う粘度の上昇度合いを高め、高浸透性記録媒体上でのフェザリング及び裏抜けを抑制することができる。また、色が異なるインキ液滴の合一の抑制にもつながるため、ブリードの更なる改善も可能となると考えられる。しかしながら、上記乾燥挙動の偏りが更に激しくなることで、ビーディングの更なる悪化につながる恐れがある。
【0023】
加えて、上述した所作はどちらも、インクジェットヘッド上でのインキの乾燥及び粘度上昇を早めることにつながるため、吐出安定性の悪化を招く可能性がある。従って、好適な沸点を有する有機溶剤の選択、並びに、当該有機溶剤及びバインダー樹脂の配合量の調整だけでは、ビーディング及び吐出安定性を改善することが難しい。
【0024】
そこで、本発明者らが鋭意検討を進めた結果、上述した所作を施したうえで、更にワックスを併用することによって、ブリード、フェザリング及び裏抜けを抑制しながら、ビーディング及び吐出安定性の悪化が防止できることを見出した。ワックスを添加することで、ビーディング及び吐出安定性の悪化が防止できる理由は定かではないが、例えば以下が考えられる。
【0025】
詳細は後述するが、インキ中に含まれるワックスとバインダー樹脂とは、樹脂の種類が異なる。そのためワックス及びバインダー樹脂は、インキ中で完全に均一化するのではなく、それぞれが微視的なクラスターを形成すると考えられる。一方、記録媒体上に付与されたインキが乾燥する際、当該インキの液滴内部では対流が発生する。その際、上記対流に巻き込まれるクラスターの流動につられて、インキ中の他の成分も流動し、結果として、インキ液滴内部での成分の偏りが抑制され、乾燥挙動が均一化し、ビーディングが改善すると考えられる。
【0026】
また上述した通り、本発明ではバインダー樹脂の量に対する有機溶剤の量が小さく、乾燥途中のインキの粘度が高いことから、対流時にはインキ内部全体で流動が生じやすい。その結果、インキ中の成分の更なる偏りの抑制、乾燥挙動の均一化、及び、ビーディングの更なる改善が実現できる。また非浸透性記録媒体に印刷した際は、上記のインキ内部全体での流動が、当該インキ液滴の流動を促すことで、濡れ広がり性が向上すると考えられる。
【0027】
なお、インクジェットヘッド内に存在するインキのように、気液界面がインキの一部にしか存在しない場合、上述した対流が、かえって局所的な乾燥及び粘度上昇を防止するように機能することで、吐出安定性の悪化が抑制できると考えられる。
【0028】
加えて、上記クラスターが、乾燥中のインキ内部における顔料同士の近接化を防止することで、ビーディングがいっそう改善する、更には、ワックスのクラスターが、バインダー樹脂のクラスター間で形成され得るネットワークを阻害することで、インキの微視的な粘性増加が抑制され、吐出安定性が向上する、ことも考えられる。
【0029】
また高浸透性記録媒体に印刷する際は、ワックスが当該高浸透性記録媒体の空隙を埋めることから、裏抜けのいっそうの改善が実現できる。更に非浸透性記録媒体に印刷する際は、ワックスによる、耐ブロッキング性の向上も期待できる。
【0030】
以上のように、本発明の課題をすべて同時に解決するためには、上述したインキの構成は必須不可欠であるといえる。
【0031】
続いて以下で、本発明の有彩色プロセスカラーインクジェットインキを構成する各成分について説明する。
【0032】
<有機溶剤>
本発明のインキは、1気圧下における沸点が190℃以下である有機溶剤を含み、かつ、インキ全量に対する、1気圧下における沸点が150℃以上である有機溶剤の量をS、及び、インキ全量に対する、前記バインダー樹脂の含有量をRとしたとき、S/Rの値が3.0以下である。上記S/Rの値は、0.8以上3.0以下が好ましく、1.0以上2.9以下がより好ましく、1.2以上2.8以下が特に好ましい。この範囲内であれば、上述した効果が得られるだけではなく、例えば後述する顔料分散樹脂を使用する場合は、バインダー樹脂および当該顔料分散樹脂の相溶性が向上することで、インクジェットヘッドからの吐出安定性も良化する。
【0033】
なお、ある実施形態では、上記S/Rの値が2.3以上3.0以下が好ましく、2.6以上3.0以下がより好ましく、2.8以上3.0以下が特に好ましい。S/Rの値が上記範囲内である場合、非浸透性記録媒体に印刷した際に、ビーディングがなく、濡れ広がり性にも優れ、更には耐ブロッキング性も良好である印刷物が得られる。
【0034】
なお本明細書における「有機溶剤」とは、物質を溶解及び/または分散させるのに用いられる有機化合物であり、25℃・1気圧下において液体であるものを指す。
【0035】
前記有機溶剤として、水溶性有機溶剤を使用することが好ましい。なお「水溶性有機溶剤」とは、25℃・1気圧下において、水に対する溶解度が5g/100gHO以上である有機溶剤を指す。当該水溶性有機溶剤として、例えば、1価アルコール系溶剤、2価アルコール系溶剤、アルキレングリコールモノアルキルエーテル系溶剤、アルキレングリコールジアルキルエーテル系溶剤等を好適に使用できる。
【0036】
<有機溶剤の沸点>
上述した通り、本発明のインキは、1気圧下における沸点が190℃以下である有機溶剤を含む。なお、1気圧下での沸点は、DSC(示差走査熱量分析)などの熱分析装置を用いることで測定できる。
【0037】
1気圧下における沸点が190℃以下である有機溶剤としては、
1価アルコール系溶剤として、エタノール(沸点78℃)、1-プロパノール(沸点97℃)、イソプロパノール(沸点82℃)、1-ブタノール(沸点117℃)、2-ブタノール(沸点100℃)、イソブタノール(沸点108℃)、1-ペンタノール(沸点137.8℃)、3-メチル-1-ブタノール(沸点132℃)、3-メチル-2-ブタノール(沸点112℃)、2-メチル-2-ブタノール(沸点102℃)、3-ペンタノール(沸点115.6℃)、n-ヘキサノール(沸点157℃)、2-メチル-1-ペンタノール(沸点148℃)、2-エチルブチルアルコール(沸点147℃)、n-ヘプタノール(沸点175.8℃)、2-ヘプタノール(沸点160℃)、3-ヘプタノール(沸点156℃)、2-オクタノール(沸点179℃)、2-エチルヘキサノール(沸点185℃)、シクロヘキサノール(沸点161℃)、2-メチルシクロヘキサノール(沸点174℃)、グリシドール(沸点167℃)、フルフリルアルコール(沸点170℃)、テトラヒドロフルフリルアルコール(沸点178℃)、3-メトキシ-1-ブタノール(沸点158℃)、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(沸点174℃)、2-(2-メトキシメトキシ)エタノール(沸点168℃)等が、
2価アルコール系溶剤(ジオール系溶剤)として、プロピレングリコール(沸点188℃)、2,3-ブタンジオール(沸点182℃)等が、
アルキレングリコールモノアルキルエーテル系溶剤として、エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点135℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171℃)、エチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点161℃)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(沸点142℃)、エチレングリコールモノアリルエーテル(沸点159℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点121℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点160℃)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点150℃)、プロピレングリコールモノn-ブチルエーテル(沸点170℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点187℃)等が、
アルキレングリコールジアルキルエーテル系溶剤として、エチレングリコールジメチルエーテル(沸点85℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点162℃)、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル(沸点176℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(沸点189℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点171℃)、
アルキレングリコールジアルキルエーテルアセテート系溶剤として、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点156℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点160℃)等が、
鎖状アミド系溶剤として、N,N-ジメチルホルムアミド(沸点153℃)、N,N-ジメチルプロピオンアミド(沸点176℃)等が、
複素環化合物系溶剤として、ピペラジン(沸点110℃)、モルホリン(沸点129℃)、N-メチルモルホリン(沸点115℃)、N-エチルモルホリン(沸点138℃)等が、その他の溶剤として、乳酸エチル(沸点155℃)、シクロヘキサノン(沸点156℃)、メチルシクロヘキサノン(沸点171℃)等が、
アルカノールアミン系溶剤として、N,N-ジメチルアミノエタノール(沸点134℃)、N,N-ジエチルアミノエタノール(沸点162℃)、N-メチルエタノールアミン(沸点156℃)、2-エチルアミノエタノール(沸点169℃)、N-tert-ブチルエタノールアミン(沸点177℃)、ジエチルイソプロパノールアミン(沸点159℃)等が、それぞれ挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの有機溶剤は単独で使用しても良く、複数を混合して使用することもできる。
【0038】
上記列挙した中でも、1気圧下における沸点が190℃以下である有機溶剤として、1価アルコール系溶剤、2価アルコール系溶剤(ジオール系溶剤)、グリコールモノアルキルエーテル系溶剤、グリコールジアルキルエーテル系溶剤、アルカノールアミン系溶剤からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。またその中でも、1価アルコール系溶剤、2価アルコール系溶剤、グリコールモノアルキルエーテル系溶剤、アルカノールアミン系溶剤からなる群から選択される1種以上を含むことがより好ましく、特に、2価アルコール系溶剤及び/またはアルキレングリコールモノアルキルエーテル系溶剤を含むことが好ましい。これらの有機溶剤を含むことによって、各種記録媒体への浸透性や濡れ拡がり性が好適化し、ブリード、ビーディング、フェザリング及び裏抜けが抑制される。さらに、バインダー樹脂の溶解性が向上することで、吐出安定性が向上する。
【0039】
また、上記効果をより好適に発現させる観点から、本発明のインキは、1気圧下における沸点が190℃以下である有機溶剤を2種以上含むことが好ましい。その際は、1価アルコール系溶剤、2価アルコール系溶剤、グリコールモノアルキルエーテル系溶剤、アルカノールアミン系溶剤からなる群から選択される有機溶剤を2種以上含むことが好ましい。また特に、2価アルコール系溶剤を1種以上と、グリコールモノアルキルエーテル系溶剤を1種以上とを含むことが好ましい。これらの有機溶剤を含むことによって、記録媒体によらず、ブリード、ビーディング、フェザリング及び裏抜けが抑制でき、さらにはインクジェット吐出安定性も向上する。
【0040】
なお、1気圧下における沸点が190℃以下である有機溶剤を2種以上使用する場合、当該1気圧下における沸点が190℃以下である有機溶剤の中で最も沸点が高い有機溶剤の沸点と、最も沸点が低い有機溶剤の沸点との差が、10~100℃であることが好ましく、25~90℃であることがより好ましく、30~70℃であることが特に好ましい。沸点の差を上記範囲内とすることで、記録媒体によらず、ブリード、ビーディング、フェザリング及び裏抜けが抑制でき、インクジェット吐出安定性も向上する。
【0041】
一方本発明のインキでは、1気圧下における沸点が150℃以上である有機溶剤の含有量がバインダー樹脂の含有量の3質量倍量以下である。なお、当該1気圧下における沸点が150℃以上である有機溶剤の含有量の算出にあたっては、上述した1気圧下における沸点が190℃以下である有機溶剤(ただし沸点が150℃以上であるもの)も計算に含めるものとする。
【0042】
1気圧下における沸点が150℃以上である有機溶剤としては、
1価アルコールとして、n-ヘキサノール(沸点157℃)、n-ヘプタノール(沸点176℃)、2-ヘプタノール(沸点160℃)、3-ヘプタノール(沸点156℃)、n-オクタノール(沸点195℃)、2-オクタノール(沸点179℃)、2-エチルヘキサノール(沸点185℃)、3,5,5-トリメチルヘキサノール(沸点194℃)、1-ノナノール(沸点214℃)、n-デシルアルコール(沸点233℃)、n-ドデカノール(沸点257℃)、シクロヘキサノール(沸点161℃)、2-メチルシクロヘキサノール(沸点174℃)、ベンジルアルコール(沸点205℃)、グリシドール(沸点167℃)、フルフリルアルコール(沸点170℃)、テトラヒドロフルフリルアルコール(沸点178℃)、αテルピネオール(沸点221℃)、3-メトキシ-1-ブタノール(沸点158℃)、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(沸点174℃)、2-(2-メトキシメトキシ)エタノール(沸点168℃)、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール(沸点194℃)、1-ブトキシエトキシプロパノール(沸点229℃)等が、
2価アルコールとして、エチレングリコール(沸点198℃)、プロピレングリコール(沸点188℃)、1,3-プロパンジオール(沸点214℃)、1,2-ブタンジオール(沸点193℃)、1,3-ブタンジオール(沸点207℃)、1,4-ブタンジオール(沸点230℃)、2,3-ブタンジオール(沸点182℃)、1,2-ペンタンジオール(沸点206℃)、1,3-ペンタンジオール(沸点209℃)、1,2-ヘキサンジオール(沸点223℃)、2-メチル-1,3-プロパンジオール(沸点214℃)、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(沸点208℃)、3-メチル-1,3-ブタンジオール(沸点203℃)、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール(沸点226℃)、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(沸点244℃)、ジエチレングリコール(沸点245℃)、トリエチレングリコール(沸点287℃)、テトラエチレングリコール(沸点328℃)、ジプロピレングリコール(沸点232℃)、トリプロピレングリコール(沸点271℃)、テトラプロピレングリコール(沸点271℃)等が、
3価以上のアルコール系溶剤(ポリオール系溶剤)として、グリセリン(沸点290℃)、1,2,4-ブタントリオール(沸点312℃)、トリメチロールプロパン(沸点295℃)等が、
アルキレングリコールモノアルキルエーテル系溶剤として、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171℃)、エチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点161℃)、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点208℃)、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル(沸点229℃)、エチレングリコールモノベンジルエーテル(沸点256℃)、エチレングリコールモノアリルエーテル(沸点159℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点193℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点196℃)、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(沸点207℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230.6℃)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点220℃)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点259℃)、ジエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル(沸点272℃)、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル(沸点302℃)、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル(沸点283℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点249℃)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点255℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点271℃)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点304℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点160℃)、プロピレングリコールモノn-ブチルエーテル(沸点170℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点187℃)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点231℃)、ジプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル(沸点212℃)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点242℃)等が、
アルキレングリコールジアルキルエーテル系溶剤として、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点162℃)、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル(沸点176℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(沸点189℃)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(沸点255℃)、ジエチレングリコールメチルブチルエーテル(沸点212℃)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(沸点216℃)、トリエチレングリコールメチルブチルエーテル(沸点261℃)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(沸点275℃)等が、
アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート系溶剤として、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点156℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点218℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点160℃)等が、
含窒素系溶剤として、N,N-ジエチルアミノエタノール(沸点162℃)、N,N-ジブチルアミノエタノール(沸点226℃)、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン(沸点244℃)、N-メチルエタノールアミン(沸点156℃)、N-メチルジエタノールアミン(沸点245℃)、2-エチルアミノエタノール(沸点169℃)、N-エチルジエタノールアミン(沸点251℃)、モノ-n-ブチルエタノールアミン(沸点199℃)、モノ-n-ブチルジエタノールアミン(沸点270℃)、N-tert-ブチルエタノールアミン(沸点177℃)、ジエチルイソプロパノールアミン(沸点159℃)、トリエタノールアミン(沸点335℃)、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン(沸点246℃)、4-(2-ヒドロキシエチル)モルホリン(沸点227℃)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチル-β-メトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-エトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ブトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ペントキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ヘプトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-2-エチルヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-オクトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ブトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ペントキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ヘプトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-オクトキシプロピオンアミド、2-ピロリドン(沸点245℃)、N-メチルピロリドン(沸点202℃)、N-エチルピロリドン(沸点218℃)3-メチル-2-オキサゾリジノン、3-エチル-2-オキサゾリジノン等が、
その他溶剤として、乳酸エチル(沸点155℃)、イソホロン(沸点215℃)、メチルシクロヘキサノン(沸点171℃)、γ-ブチロラクトン(沸点204℃)、ε-カプロラクトン(沸点241℃)、等が、それぞれ挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの有機溶剤は単独で使用しても良く、複数を混合して使用することもできる。
【0043】
各種記録媒体に対し、ブリード、ビーディング、フェザリング及び裏抜けがない印刷物が得られ、インキ中のバインダー樹脂や界面活性剤(使用する場合)を不安定化させることがなく、更には、自身の粘度が低く吐出安定性にも優れたインキが得られるという観点から、1気圧下における沸点が150℃以上である有機溶剤は、1価アルコール系溶剤、2価アルコール系溶剤、グリコールモノアルキルエーテル系溶剤なる群から選択されることが好ましく、2価アルコール系溶剤またはグリコールモノアルキルエーテル系溶剤を含むことがさらに好ましく、2価アルコールを含むことが特に好ましい。
【0044】
また2価アルコール系溶剤の中でも、少なくとも炭素数2~6のアルカンジオールを1種以上使用することが好ましく、炭素数3~6のアルカンジオールを使用することがより好ましく、炭素数5~6のアルカンジオールを使用することが特に好ましい。特に、炭素数6のアルカンジオールを含むことによって、難浸透性記録媒体に対する浸透性および濡れ広がり性が向上し、ブリード及びビーディングが抑制されるだけでなく、界面活性剤を使用する場合は、当該界面活性剤との相溶性が向上し、インクジェット吐出安定性が向上する。
【0045】
更に、難浸透性記録媒体に対して印刷した際、インキが乾燥する際に当該インキ中の成分の偏りが抑制され、ブリード及びビーディングのない印刷物が得られる点から、上記1気圧下における沸点が150℃以上である有機溶剤は、2種以上含まれることが好ましく、2価アルコール系溶剤を2種以上含むことが特に好ましい。
【0046】
一方で、本発明のインキに含まれる、1気圧下における沸点が250~300℃である有機溶剤の含有量は、インキ全量に対し9質量%以下(0質量%であってもよい)であることが好ましく、5質量%以下(0質量%であってもよい)であることがより好ましく、3質量%以下(0質量%であってもよい)であることが特に好ましい。沸点が250~300℃である有機溶剤の量を制限することによって、インキが乾燥不良を起こすことがなくなり、難浸透性記録媒体に印刷した際に、ブリードを抑えることができる。さらに、高浸透性記録媒体に印刷した際は、フェザリングおよび裏抜けを起こすことがない。
【0047】
1気圧下における沸点が250~300℃である有機溶剤として、グリセリン(沸点290℃)、1,6-ヘキサンジオール(沸点250℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点278℃)、トリエチレングリコールメチルブチルエーテル(沸点261℃)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(沸点275℃)、トリエチレングリコール(沸点287℃)、トリプロピレングリコール(沸点271℃)、テトラプロピレングリコール(沸点250℃以上)、ポリエチレングリコール200(沸点250℃以上)、ポリエチレングリコール400(沸点250℃以上)、ポリエチレングリコール600(沸点250℃以上)、N-メチルオキサゾリジノン(沸点257℃)等が挙げられる。
【0048】
また非浸透性記録媒体に印刷した際、ビーディングがなく耐ブロッキング性にも優れる印刷物が得られる観点から、ある実施形態では、1気圧下における沸点が190℃超である有機溶剤の含有量が、インキ全量に対し1質量%以下(0質量%であってもよい)であることが好ましく、0.5質量%以下(0質量%であってもよい)であることが特に好ましい。
【0049】
本発明で用いられる有機溶剤は、1気圧下における沸点の加重平均値が100~235℃であることが好ましく、120~210℃であることが更に好ましく、120~195℃であることが特に好ましい。また、コート紙等の難浸透性記録媒体に対する画像品質(ブリード及びビーディングの抑制等)を考慮すれば、120~180℃であることが特に好適である。有機溶剤の1気圧下における沸点の加重平均値が100℃以上であれば、インクジェットヘッドからの吐出安定性が良化するうえ、高浸透性記録媒体に印刷した際の画像品質が向上する。また沸点の加重平均値が235℃以下であれば、記録媒体上で乾燥不良を起こすことなく、また残存した有機溶剤によって、インキ液滴同士の合一によるにじみ等を引き起こすことがなくなり、画像品質が良化するうえ、コート紙を始めとした難浸透性記録媒体への印刷物の耐擦過性も向上する。なお、上記沸点の加重平均値の算出には、上記の1気圧下での沸点が250~300℃である有機溶剤も含めるものとする。また、インキ中に含まれる有機溶剤が2種類以上である場合、上記1気圧下における沸点の加重平均値とは、それぞれの有機溶剤について算出した、1気圧下での沸点と、有機溶剤全量に対する質量割合との乗算値を、足し合わせることで得られる値である。更に、上記有機溶剤が1種類である場合、上記「1気圧下における沸点の加重平均値」を、「1気圧下における有機溶剤の沸点」に読み替えるものとする。
【0050】
また、沸点の加重平均値を上記範囲に収める観点から、1気圧下における沸点が100~225℃である有機溶剤の配合量が、インキ中の有機溶剤全量に対して50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることが特に好ましい。
【0051】
またある実施形態では、非浸透性記録媒体に印刷した際、ビーディングがない印刷物が得られる観点から、1気圧下における、水及び有機溶剤の沸点の加重平均値が100~130℃であることが好ましく、101~125℃であることが更に好ましく、102~120℃であることが特に好ましい。なお、「1気圧下における、水及び有機溶剤の沸点の加重平均値」とは、インキ中に含まれる水及び有機溶剤を対象とし、上述した、1気圧下における沸点の加重平均値の算出方法を用いて計算された値である。
【0052】
更に前記有機溶剤は、20℃における比熱が 0.40~0.70cal/g℃であることが好ましく、0.45~0.65cal/g℃であることがより好ましい。0.40cal/g℃以上であれば、インキの乾燥工程において急激な温度変化が生じず、インキ液滴内での乾燥挙動に偏りがにくくなり、ビーディングおよびブリードを抑制できる。0.70cal/g℃以下であれば、インキの乾燥工程においてインキの温度が上がりやすく、インキ乾燥性に優れ、フェザリング及び裏抜けが良化するだけでなく、インキに含まれるワックスやバインダー樹脂の相溶性が向上し、耐擦過性も向上する。
【0053】
有機溶剤の比熱は、例えばDSC(示差走査熱量計)によって測定することができる。具体的には、高感度示差走査熱量計Thermo plus EV02 DSC8231(リガク製)を用い、アルミニウム製サンプルパンに測定対象となる有機溶剤を約10g加えたのち、サンプルシーラーを用いて密閉したもの、当該サンプルパン(空容器)、及び、比熱が既知である物質の3種について、同一条件で測定を行い、得られたDSCチャートから当該有機溶剤の比熱を算出することができる。
【0054】
本発明で用いられる有機溶剤は、25℃における静的表面張力の加重平均値が25~40mN/mであることが好ましく、26~35mN/mであることが更に好ましく、27~32mN/mであることが特に好ましい。25℃における静的表面張力の加重平均値が25mN/m以上であると、難浸透性記録媒体上での濡れ広がり性および浸透性が向上し、ブリード及びビーディングが抑制された印刷物が得られる。また25℃における静的表面張力の加重平均値が40mN/m以下であると、高浸透性記録媒体へのインキの浸透性が制御され、フェザリング及び裏抜けが抑制された印刷物が得られる。
また、インキ中に含まれる有機溶剤が2種類以上である場合、有機溶剤の25℃における静的表面張力の加重平均値とは、それぞれの有機溶剤の25℃における静的表面張力と、有機溶剤全量に対する質量割合との乗算値を、足し合わせることで得られる値である。
【0055】
なお、25℃下における静的表面張力は、Wilhelmy法により測定される値であり、具体的には、協和界面科学社製CBVP-Zを用い、白金プレートを使用して測定できる値である。
【0056】
本発明で用いられる有機溶剤の含有量の総量は、インキ全量に対し1~29質量%であることが好ましい。またインクジェットヘッド上で吐出安定性を確保し、難浸透性記録媒体であっても優れた密着性、乾燥性、及び、画像品質(ブリード及びビーディングの抑制等)を有する印刷物が得られるという観点から、インキ全量中3~27質量%であることがより好ましく、非浸透性記録媒体に印刷した際に、ビーディングがなく、濡れ広がり性にも優れ、更には耐ブロッキング性も良好である印刷物が得られるという観点から、5~25質量%であることが特に好ましい。
【0057】
<顔料>
本発明の有彩色プロセスカラーインクジェットインキは、発色性及び色再現性に優れた印刷物を得る観点から、有彩色プロセスカラーを呈させるための色材として顔料を使用する。なお本発明における「有彩色プロセスカラー」とは、印刷において使用される4色のうち有彩色(明度、色相、及び彩度を併せ持つ、無彩色以外の色)であるものを指し、具体的には、シアン色、マゼンタ色、イエロー色の3色を指す。
【0058】
有彩色プロセスカラーインクジェットインキに用いることができる顔料としては、特に制限はなく、従来既知の顔料を用いることができる。顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれも用いることができる。また、印刷用途及び塗料用途に一般的に使用される顔料であってよく、それら顔料から色再現性、発色性、及び耐光性等の必要となる用途に応じて、適切な顔料を選択することができる。
【0059】
なお、有彩色プロセスカラーを呈させるため、当該有彩色プロセスカラーと同じ色を呈する顔料のみを使用してもよい(例えば、シアンインキの顔料としてシアン顔料のみを使用してもよい)し、色再現性、発色性、耐光性などを向上させる観点から、当該有彩色プロセスカラーと同じ色を呈さない顔料を使用してもよい(例えば、シアンインキの顔料としてグリーン顔料を使用してもよい)。更に、2種類以上の顔料を併用してもよい。
【0060】
有彩色プロセスカラーインクジェットインキのうち、シアン色を呈するインキ(シアンインキ)に用いることができる顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1、2、3、14、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、22、60、62、64、66などが挙げられる。中でも発色性及び耐光性に優れる観点から、C.I.ピグメントブルー15:3、及び15:4からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。また上述した通り、色再現性を向上させる目的で、C.I.ピグメントグリーン7、36、43、58などのグリーン顔料を混合してもよい。
【0061】
シアンインキ中の顔料の含有量は、シアンインキの全質量中、0.1~10質量%であることが好ましく、1~10質量%がより好ましい。
【0062】
有彩色プロセスカラーインクジェットインキのうち、マゼンタ色を呈するインキ(マゼンタインキ)に用いることができる顔料としては、発色性及び耐光性に優れる観点から、ナフトール系顔料、キナクリドン系顔料、及び、ジケトピロロピロール系顔料等を使用することが好ましい。具体的には、
ナフトール系顔料として、例えば、C.I.ピグメントレッド48:1、48:2、48:3、48:4、49、49:1、49:2、50、50:1、50:2、51、52、52:1、52:2、53、53:1、55、56、57、57:1、57:2、58、58:1、58:2、60、60:1、62、63:1、63:2、64、64:1、65、66、67、68、69、70、99、115、117、151、193、200、201、243、247等のレーキ化アゾ顔料、C.I.ピグメントレッド1、3、4、6、40、93、144等のβ-ナフトール顔料、C.I.ピグメントレッド2、5、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、31、32、95、112、114、119、136、146、147、148、150、162、164、170、171、175、176、183、184、185、187、188、208、210、238、242、245、253、256、258、261、266、268、269等のナフトールAS顔料が、
キナクリドン系顔料として、例えば、C.I.ピグメントレッド122、202、207、209、C.I.ピグメントバイオレット19等が、
ジケトピロロピロール系顔料として、C.I.ピグメントレッド254、255等が挙げられる。
中でも、色再現性に優れる点から、ナフトール系顔料またはキナクリドン系顔料が好ましく、ナフトールAS顔料またはキナクリドン顔料がより好ましく使用できる。さらに、ナフトールAS顔料を含むことが特に好ましい。特に、ナフトールAS顔料として、C.I.ピグメントレッド31、32、122、146、147、150、176、184、185、202、209、282、及び、269からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましく、C.I.ピグメントレッド31、146、147、150、184、185、及び269からなる群から選択される1種以上を含むことがより好ましい。
【0063】
マゼンタインキ中の顔料の含有量は、マゼンタインキの全質量中、0.1~10質量%であることが好ましく、2~10質量%がより好ましい。
【0064】
有彩色プロセスカラーインクジェットインキのうち、イエロー色を呈するインキ(イエローインキ)に用いることができる顔料として、例えば、C.I.ピグメントイエロー10、11、12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185、及び213などが挙げられる。なかでも発色性に優れる観点からC.I.ピグメントイエロー12、13、14、74、83、120、150、151、154、155、180及び185からなる群から選択される1種以上が好ましい。
【0065】
<顔料分散樹脂>
上述した顔料をインキ中で安定的に分散保持する方法として、(1)顔料表面の少なくとも一部を顔料分散樹脂によって被覆する方法、(2)水溶性及び/または水分散性の界面活性剤を顔料表面に吸着させる方法、(3)顔料表面に親水性官能基を化学的・物理的に導入し、分散樹脂や界面活性剤なしでインキ中に分散する方法(自己分散顔料)などを挙げることができる。
【0066】
本発明のインキは、上記のうち(1)の方法、すなわち、顔料分散樹脂を用いる方法が好適に選択される。これは、樹脂を構成する重合性単量体組成や分子量を選定・検討することにより、顔料に対する顔料分散樹脂の被覆能や前記顔料分散樹脂の電荷を容易に調整できるため、微細な顔料に対しても分散安定性を付与することが可能となり、更には吐出安定性、発色性、及び色再現性に優れた印刷物が得られるためである。
【0067】
顔料分散樹脂の種類は特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン(メタ)アクリル系樹脂、(無水)マレイン酸系樹脂、スチレン(無水)マレイン酸系樹脂、オレフィン(無水)マレイン酸系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂(多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合体)などを使用することができるが、これらに限定されない。中でも、吐出安定性、材料選択性の大きさ、合成の容易さ等の点で、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、及び、エステル系樹脂、オレフィン系樹脂からなる群より選択される1種以上を使用することが好ましい。また、インキの分散安定性及び吐出安定性が良化する観点から、後述するバインダー樹脂を使用する場合、当該バインダー樹脂と同種の樹脂を、顔料分散樹脂として使用することが好適である。
【0068】
なお本明細書において「(メタ)アクリル系樹脂」は、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、またはアクリル-メタクリル系樹脂を意味する。ここで「アクリル-メタクリル系樹脂」とは、アクリル酸及び/またはアクリル酸エステルと、メタクリル酸及び/またはメタクリル酸エステルとを、重合性単量体として使用した樹脂を意味するものとする。また「(無水)マレイン酸」は、無水マレイン酸またはマレイン酸を意味する。
【0069】
上記の顔料分散樹脂は、既知の方法により合成することも、市販品を使用することもできる。またその構造についても特に制限なく、例えばランダム構造、ブロック構造、櫛形構造、星型構造等を有する樹脂が利用できる。更に、顔料分散樹脂として、水溶性樹脂を選択してもよいし、非水溶性樹脂を選択してもよい。なお「水溶性樹脂」とは、対象となる樹脂の、25℃・1質量%水混合液が、肉眼で見て透明であるものを指し、「非水溶性樹脂」とは水溶性樹脂以外の樹脂を指す。
【0070】
本発明において、顔料分散樹脂として水溶性樹脂を用いる場合、その酸価が100mgKOH/g超450mgKOH/g以下であることが好ましく、120~400mgKOH/gであることがより好ましい。特に好ましくは150~350mgKOH/gである。酸価を上記の範囲内とすることで、顔料の分散安定性を保つことが可能でありインクジェットヘッドから安定して吐出することが可能となる。また、顔料分散樹脂の水に対する溶解性が確保できるうえ、当該顔料分散樹脂間での相互作用が好適なものとなることで、顔料分散液の粘度を抑えることができる点からも好ましい。
【0071】
一方、顔料分散樹脂として非水溶性樹脂を用いる場合、その酸価は0~100mgKOH/gであることが好ましく、5~90mgKOH/gであることがより好ましく、10~80mgKOH/gであることが更に好ましい。酸価が前記範囲内であれば、乾燥性や耐擦過性に優れた印刷物が得られる。
【0072】
なお樹脂の酸価は既知の装置により測定することができる。本明細書における樹脂の酸価は、JIS K 2501に準じ、電位差滴定法により測定した値である。具体的な測定方法の例として、京都電子工業社製AT-610を用い、トルエン-エタノール混合溶媒に樹脂を溶解させたのち、水酸化カリウム溶液で滴定し、終点までの滴定量から、酸価を算出する方法が挙げられる。
【0073】
本発明のインキでは、顔料に対する吸着能を向上させ分散安定性を確保するという観点から、顔料分散樹脂に芳香族基を導入することが好ましい。なお、芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、アニシル基などが挙げられるが、これらに限定されない。中でもフェニル基、ナフチル基やトリル基が、分散安定性を十分に確保できる面から好ましい。
【0074】
顔料の分散安定性、吐出安定性、印刷品質、乾燥性の両立の観点から、芳香環を含有する単量体の導入量は、顔料分散樹脂を構成する単量体全量に対し5~75質量%であることが好ましく、5~65質量%であることがより好ましく、10~50質量%であることが更により好ましい。
【0075】
また、芳香族基に加えて、顔料分散樹脂に炭素数8~36のアルキル基を導入することが特に好適である。アルキル基の炭素数を8~36とすることにより、顔料分散液の低粘度化、顔料の分散安定性の向上、及び、吐出安定性の向上を実現できるためである。なおアルキル基の炭素数として、より好ましくは炭素数10~30であり、更に好ましくは炭素数12~24である。またアルキル基は炭素数8~36の範囲であれば、直鎖状及び分岐鎖状のいずれも使用することができるが、直鎖状のものが好ましい。直鎖状のアルキル基としてはオクチル基(C8)、ラウリル基(C12)、ミリスチル基(C14)、セチル基(C16)、ステアリル基(C18)、アラキル基(C20)、ベヘニル基(C22)、リグノセリル基(C24)、セロトイル基(C26)、モンタニル基(C28)、メリッシル基(C30)、ドトリアコンタニル基(C32)、テトラトリアコンタニル基(C34)、ヘキサトリアコンタニル基(C36)などが挙げられる。
【0076】
炭素数8~36のアルキル鎖を含有する単量体の導入量は、顔料分散液の低粘度化と印刷物の耐擦過性とを両立させる観点から、顔料分散樹脂を構成する単量体全量に対し5~60質量%であることが好ましく、10~55質量%であることがより好ましく、15~50質量%であることが特に好ましい。
【0077】
なお、顔料分散樹脂として水溶性樹脂を用いる場合、インキへの溶解度を上げるため、樹脂中の酸基が塩基で中和されていることが好ましい。塩基の添加量が過剰かどうかは、例えば顔料分散樹脂の10質量%水溶液を作製し、前記水溶液のpHを測定することにより確認することができる。顔料の分散安定性及び吐出安定性を向上させるという観点から、前記水溶液のpHが7~11であることが好ましく、7.5~10.5であることがより好ましい。
【0078】
上記の、顔料分散樹脂を中和するための塩基としては、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、アミノメチルプロパノールなどの有機アミン系溶剤、アンモニア水、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0079】
顔料分散樹脂として水溶性樹脂を用いる場合、その重量平均分子量は、1,000~500,000の範囲であることが好ましく、5,000~40,000の範囲であることがより好ましく、10,000~35,000の範囲であることが更に好ましく、15,000~30,000の範囲であることが特に好ましい。重量平均分子量が前記範囲であることにより、顔料が水中で安定的に分散し、またインキに使用した際の粘度調整などが行いやすい。重量平均分子量が1,000以上であると、インキ中に添加されている水溶性有機溶剤に対して顔料分散樹脂が溶解しにくくなるために、顔料に対する当該顔料分散樹脂の吸着が強まり、分散安定性及び吐出安定性が向上する。重量平均分子量が50,000以下であると、分散時の粘度が低く抑えられるとともに、インキの分散安定性やインクジェットヘッドからの吐出安定性が向上し、長期にわたって安定な印刷が可能になる。
【0080】
顔料分散樹脂の重量平均分子量は、例えばJIS K 7252に準じた方法によって測定できる、ポリスチレン換算値である。具体的な測定方法の例として、東ソー社製TSKgelカラムと、RI検出器とを装備した東ソー社製HLC-8120GPCを用い、また展開溶媒としてTHFを使用して測定する方法が挙げられる。
【0081】
顔料分散樹脂の配合量は、顔料の配合量に対して1~100質量%であることが好ましい。顔料分散樹脂の比率を上記範囲内とすることで、顔料分散液の粘度を抑え、インキの分散安定性及び吐出安定性が良化する。顔料と顔料分散樹脂の比率としてより好ましくは2~50質量%であり、特に好ましくは4~45質量%である。
【0082】
顔料分散樹脂は、単独種を用いても、複数種を併用してもよい。
【0083】
<分散助剤>
本発明のインキでは、顔料の分散安定性及び吐出安定性を著しく向上させるとともに、顔料の微細分散が可能となることで印刷物の色再現性もまた向上する観点から、上述した分散手法のうち(1)または(2)の方法を選択する際に、分散助剤を併用してもよい。分散助剤は、顔料に対する、顔料分散樹脂または界面活性剤の吸着率の向上に寄与する材料である。本発明では、分散助剤として従来既知の材料を任意に使用でき、特に、色素誘導体と言われる化合物が好適に使用できる。色素誘導体とは、有機色素分子内に置換基を導入した化合物であり、前記有機色素として、モノアゾ系色素、ジスアゾ系色素、ポリアゾ系色素、アントラキノン系色素、イソインドリノン系色素、イソインドリン系色素、キナクリドン系色素、キノフタロン系色素、ジオキサジン系色素、ジケトピロロピロール系色素、スレン系色素、チオインジゴ系色素、ナフタロシアニン系色素、フタロシアニン系色素、ペリノン系色素、ペリレン系色素、ベンズイミダゾロン系色素、金属錯体系色素などが挙げられる。なお上記「色素」は、顔料及び染料の総称である。
【0084】
本発明で分散助剤を使用する場合、その配合量は、顔料の配合量に対して0.1~10質量%とすることが好ましく、0.5~5質量%とすることが特に好ましい。0.1質量%以上とすることで、顔料に対する添加比率が十分な量となり、分散安定性、及び吐出安定性が向上する。また10質量%以下とすることで、顔料微細化が必要以上に進むことがなくなるため、分散安定性が向上するとともに、印刷物の耐光性の悪化を防止できる。
【0085】
<バインダー樹脂>
本発明のインキでは、ブリード、フェザリング及び裏抜けの防止、並びに、印刷物の耐擦過性の向上のため、バインダー樹脂を用いる。
【0086】
本明細書における「バインダー樹脂」とは、印刷物の層(印刷層、インキ層)を記録媒体に結着させるために使用される樹脂である。なお上述したように、本発明のインキは顔料分散樹脂を含んでもよいが、インキ中に含まれる樹脂が水溶性樹脂である場合、当該樹脂が顔料分散樹脂とバインダー樹脂とのどちらに相当するかは、顔料に対する吸着率によって区別されるものとする。すなわち、顔料に対する吸着率が、配合量全量に対し50質量%以上である樹脂を顔料分散樹脂、50質量%未満である樹脂をバインダー樹脂と判断する。
【0087】
なお、顔料に対する吸着率を測定する方法の例として、必要に応じて水で希釈したインキに遠心分離処理を施し(例えば、30,000rpmで4時間)、顔料と上澄み液とに分離する。そして、前記上澄み液に含まれる固形分を測定したとき、前記固形分が、水性インキ中に含まれる、同じ構成を有する樹脂全量に対して50質量%以上であれば、前記樹脂をバインダー樹脂であると判断する。
【0088】
水性インキ用のバインダー樹脂の形態として、一般に水溶性樹脂と(水分散性)樹脂微粒子(非水溶性樹脂の一形態)とが知られており、本発明ではどちらかを選択して用いてもよいし、両者を組み合わせて使用してもよい。例えば樹脂微粒子は、水溶性樹脂と比較して高分子量であり、印刷物の耐擦過性を高めることができるうえ、印刷物の画像品質にも優れる。また、高浸透性記録媒体に対して印刷する際に、当該高浸透性記録媒体の空隙を効果的に埋めることができるため、フェザリングが抑制される。一方で、バインダー樹脂として水溶性樹脂を使用したインキは、吐出安定性に優れる。
【0089】
バインダー樹脂の酸価は、1~80mgKOH/gであることが好ましい。また、顔料の分散安定性を確保し、速やかに気液界面に移動することで画像品質に優れた印刷物が得られ、更に、高浸透性記録媒体を使用した際に、当該高浸透性記録媒体の空隙を埋めるように速やかに移動することで、フェザリング及び裏抜けのない印刷物が得られるという観点から、3~65mgKOH/gであることがより好ましく、5~35mgKOH/gであることが特に好ましい。なお、バインダー樹脂の酸価は、上述した顔料分散樹脂の酸価と同様に測定することができる。
【0090】
バインダー樹脂のガラス転移温度は、要求される特性に応じて、例えば以下のように選択できる。具体的には、吐出安定性や印刷物の耐擦過性を向上させ、乾燥性及び耐ブロッキング(印刷後の記録媒体を重ねた際、印刷層が別の記録媒体に貼りつく現象)性にも優れたインキを得るためには、前記ガラス転移温度は60~140℃であることが好ましく、70~135℃であることがより好ましく、80~130℃であることが特に好ましい。
【0091】
ガラス転移温度は、DSC(示差走査熱量計)を用いて測定される値であり、JIS K7121に準じ、例えば以下のように測定できる。樹脂を乾固したサンプル約2mgをアルミニウムパン上で秤量し、該アルミニウムパンを試験容器としてDSC測定装置(例えば、島津製作所社製DSC-60Plus)内のホルダーにセットする。そして5℃/分の昇温条件にて測定を行い、得られたDSCチャートから読み取った、低温側のベースラインと変曲点における接線との交点の温度を、本明細書におけるガラス転移温度とする。
【0092】
本発明で用いられるバインダー樹脂の種類として(メタ)アクリル系樹脂、スチレン(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレタン・(メタ)アクリル複合系樹脂、スチレンブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン(無水)マレイン酸系樹脂、エステル系樹脂等が挙げられる。中でも、分散安定性及び吐出安定性に優れたインキが得られるという観点から、バインダー樹脂が、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレタン・アクリル複合系樹脂、ポリオレフィン系樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂を使用することが好ましく、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン(メタ)アクリル系樹脂から選択される1種以上の樹脂を使用することがより好ましい。
【0093】
上記のバインダー樹脂は、既知の方法により合成することも、市販品を使用することもできる。またその構造についても特に制限なく、例えばランダム構造、ブロック構造、櫛形構造、星型構造等を有する樹脂が利用できる。
【0094】
バインダー樹脂として水溶性樹脂を使用する場合、その重量平均分子量は、インクジェットノズルからの吐出安定性を確保し、様々な記録媒体に対して、優れた耐擦過性を有する印刷物が得られるという観点から、5,000~50,000であることが好ましく、高浸透性記録媒体に印刷した際のフェザリング及び裏抜けを抑制できるという観点から、8,000~45,000であることがより好ましく、10,000~40,000であることが更に好ましい。なお、バインダー樹脂の重量平均分子量は、上述した顔料分散樹脂の酸価と同様に測定することができる。
【0095】
インキ全量に対するバインダー樹脂の含有量は、固形分換算で1~15質量%であることが好ましく、2~12質量%であることがより好ましく、4~10質量%であることが更に好ましい。バインダー樹脂の量を上記範囲内とすることで、分散安定性や吐出安定性が低下することなく、また記録媒体によらず、画像品質及び耐擦過性に優れた印刷物を得ることができる。
【0096】
<ワックス>
本発明のインキは、ワックスを含有する。本明細書において「ワックス」とは、常温(25℃)で固体であり、加熱すると液体となる有機化合物である。例えば、融点が40~200℃であり、当該融点を上回る温度環境下で分解することなく溶融するものをいう。
【0097】
ワックスの融点は、印刷物の擦過性の観点から、60~200℃であることが好ましく、100~180℃であることがより好ましく、120~160℃であることが特に好ましい。
【0098】
上記ワックスは、水溶性の材料であっても非水溶性の材料であってもよいが、非水溶性の材料、特に樹脂粒子(エマルション)であることが好ましい。また化学構造による例示として、炭化水素ワックス、エステルワックス(例えば脂肪酸エステルワックス)、シリコーンワックス、ポリアルキレングリコールワックスがある。
なお例えば、50℃以上のガラス転移温度を有するアクリル・シリコーンコポリマーエマルジョンは、一般には上記の融点条件を満たさない可能性が高く、従って本発明におけるワックスには該当しない。
【0099】
本発明で使用することができるワックスを更に具体的に示すと、例えば、天然ワックスおよび合成ワックスを挙げることができる。天然ワックスとしては、石油系ワックスであるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等;植物系ワックスであるカルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス等;動物系ワックスであるラノリン、蜜蝋等;鉱物系ワックスであるモンタンワックス、セレシン等;を挙げることができる。合成ワックスとしては、ポリオレフィン系ワックス、フィッシャー・トロブシュワックス、アクリル・シリコーンコポリマー、ウレタン・シリコーンコポリマー、ポリエチレングリコール、パラフィンワックス誘導体、モンタンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体等を挙げることができる。これらワックスは、水性インクジェットインキにおいて、1種または2種以上を併用して使用することができる。
【0100】
上記に例示した中でも、耐擦過性及び各種記録媒体での優れた画質が得られる点で、炭化水素ワックスまたはシリコーンワックスが好ましく、炭化水素ワックスであるポリオレフィン系ワックスがより好ましく用いられる。特に、ポリオレフィンワックスを含むことによって、バインダー樹脂と当該ポリオレフィンワックスが、それぞれ微視的なクラスターを形成し、インキが乾燥する際のインキ成分の偏りを抑制し、ビーディングが改善される。さらに、当該クラスターがインクジェットノズル近傍での局所的な乾燥及び粘度上昇を防止するように機能することで、吐出安定性が向上する。
【0101】
ポリオレフィン系ワックスとして、例えば、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックスが挙げられる。吐出安定性及び耐擦過性の点からはポリエチレン系ワックスが好ましい。なおいずれも、1種または2種以上を併用して使用することができる。
【0102】
また上記ポリオレフィン系ワックスは、分子量10,000未満の軟質ポリオレフィンであることが好ましい。
【0103】
上記ワックスが樹脂粒子である場合、その平均粒子径は、5~300nmであることが好ましく、30~250nmであることがより好ましく、40~200nmであることが特に好ましい。ワックスの平均粒子径が5nm以上であれば印刷物の耐擦過性が向上し、300nm以下であれば、インクジェット吐出安定性が向上するだけでなく、記録媒体によらず優れた画像品質の印刷物を得ることができる。なおワックスの平均粒子径は、後述する顔料の平均二次粒子径と同様の方法により測定できる。
【0104】
樹脂粒子の形態を有するワックスは、例えば、加熱して溶融させた常温固体のワックスと、熱水と、乳化剤とを混合することで製造できる。また、ワックスは市販品を使用することもでき、例えば、ビックケミー社製の、AQUACER-507、AQUACER-513、AQUACER-515、AQUACER-526、AQUACER-531、AQUACER-533、AQUACER-535、AQUACER-537、AQUACER-539、AQUACER-552、AQUACER-840、AQUACER-1547等、サンノプコ社製のノプコートPEM-17等、BASF社製のJONCRYLWAX4、JONCRYLWAX26、JONCRYLWAX28、JONCRYLWAX120等、東邦化学社製のハイテックEシリーズ、ハイテックPシリーズ等、信越化学工業社製のシャリーヌFE230N、シャリーヌFE502等が挙げられる。
【0105】
吐出安定性に優れ、印刷物の耐擦過性が優れ、ビーディングがない高濃度の印刷物が得られる点で、ワックスの含有量は、インキ全量中0.2~8質量%であることが好ましく、0.3~5質量%であることがより好ましく、0.5~4質量%であることが特に好ましい。
【0106】
また上記と同様の理由により、インキ全重量中のワックスの含有量をA(質量%)、バインダー樹脂の含有量をB(質量%)としたとき、B÷Aが0.5~20であることが好ましく、1~15であることがより好ましく、5~15であることが特に好ましい。
【0107】
<界面活性剤>
本発明のインキは、吐出安定性に優れ、ブリード及びビーディングがない、画像品質に優れた印刷物が得られるという観点から、界面活性剤を1種以上含むことが好ましい。
界面活性剤として、アセチレンジオール系、アセチレンアルコール系、シロキサン系、アクリル系、フッ素系、ポリオキシアルキレンエーテル系等、用途に合わせて様々なものが挙げられる。中でも、アセチレンジオール系界面活性剤、シロキサン系界面活性剤、及び、ポリオキシアルキレンエーテル系界面活性剤からなる群から選択される1種以上のノニオン系界面活性剤を含むことが好ましく、アセチレンジオール系、及び、シロキサン系界面活性剤からなる群から選択される1種以上を含むことがより好ましく、シロキサン系の界面活性剤を含むことが特に好ましい。
【0108】
本発明で使用できる界面活性剤は、水溶性であっても非水溶性であってもよい。なお、常温で固体であり、加熱すると例えば40~200℃で融解するシロキサン系界面活性剤は、上述したシリコーンワックスを兼ねる材料であってもよい。
【0109】
アセチレンジオール系界面活性剤及びシロキサン系界面活性剤は、記録媒体に着弾した後のインキ液滴中で、前記液滴中に存在する顔料の影響を受けることなく、速やかに、気液界面及び記録媒体-液滴界面に配向すると考えられる。その結果、難浸透性記録媒体上であっても、インキの濡れ性の向上、及び、上記インキ液滴の速やかな平滑化が実現でき、乾燥性の向上に加え、液滴同士の滲みや濃淡ムラが少なく、ブリードやビーディングが少ない、画像品質に優れた印刷物を得ることが可能となる。またシロキサン系界面活性剤を使用した場合、上記に加えて印刷物の耐擦過性もまた向上するうえ、詳細は不明ながら、非塗工紙等の高浸透性記録媒体に対して印刷した際に、インキの過度な浸透及び拡散が抑制され、フェザリングや裏抜けのない優れた印刷物が得られる。特に本発明では、詳細は不明ながら、上述した特性の向上に加え、吐出安定性にも優れたインキが得られることから、アセチレンジオール系界面活性剤と、シロキサン系界面活性剤とを併用することが好適である。
【0110】
本発明で用いられるアセチレンジオール系界面活性剤として、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール、ヘキサデカ-8-イン-7,10-ジオール、6,9-ジメチル-テトラデカ-7-イン-6,9-ジオール、7,10-ジメチルヘキサデカ-8-イン-7,10-ジオール、及び、そのエチレンオキサイド及び/またはプロピレンオキサイド付加物が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0111】
また本発明で好適に使用できるシロキサン系界面活性剤として、例えば、東レ・ダウコーニング社製の8032ADDITIVE、FZ-2104、FZ-2120、FZ-2122、FZ-2162、FZ-2164、FZ-2166、FZ-2404、FZ-7001、FZ-7002、FZ-7006、L-7001、L-7002、SF8427、SF8428、SH3748、SH3749、SH3771M、SH3772M、SH3773M、SH3775M、SH8400、BYKケミー社製のBYK-331、BYK-333、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349、BYK-UV3500、BYK-UV3510、BYK-UV3530、BYK-UV3570、エボニック社製のTEGO Wet 240、TEGO Wet 250、TEGO Wet 260、TEGO Wet 270、TEGO Wet 280、TEGO Glide 410、TEGO Glide 432、TEGO Glide 435、TEGO Glide 440、TEGO Glide 450、TEGO Twin 4000、TEGO Twin4100、信越化学工業社製のKF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-640、KF-642、KF-643、KF-644、KF-945、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017、KF-6020、KF-6204、X-22-4515、日信化学工業社のシルフェイスSAGシリーズ等が挙げられる。特に、1個以上のエチレンオキサイド基及び/または1個以上のプロピレンオキサイド基を、ポリジメチルシロキサン鎖の側鎖及び/または両末端に導入したシロキサン系界面活性剤が好適に使用できる。
【0112】
また本発明で好適に使用できるポリオキシアルキレンエーテル系界面活性剤として、例えば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0113】
一般式(1): R-O-(EO)m-(PO)n-H
【0114】
上記一般式(1)において、Rは、炭素数8~22であるアルキル基、炭素数8~22であるアルケニル基、炭素数8~22であるアルキルカルボニル基、または、炭素数8~22であるアルケニルカルボニル基を表す。なお上記Rは、分岐構造であってもよい。また、EOはエチレンオキサイド基を、POはプロピレンオキサイド基を表す。mはEOの平均付加モル数を示し、2~50の数であり、nはPOの平均付加モル数を示し、0~50の数である。なおnが0でない場合、(EO)mと(PO)nの付加順序は問わず、付加はブロックでもランダムでもよい。
【0115】
本発明で使用される界面活性剤は、分子中で疎水性基と親水性基とに分かれて存在していることが好適である。そのため、上記に例示した界面活性剤の中でも、親水性であるエチレンオキサイド基を有しているものが特に好適に選択される。
【0116】
一方、バインダー樹脂との親和性を高め、顔料の分散安定性及び吐出安定性に優れたインキが得られるとともに、難浸透性記録媒体に印刷した際にブリードやビーディングがなく、また高浸透性記録媒体に印刷した際にフェザリングや裏抜けがない印刷物が得られるという観点から、HLB値が0~5である界面活性剤を使用することが好適であり、前記HLB値が0~4である界面活性剤を含むことが特に好適である。
【0117】
特に、分散安定性や吐出安定性に加え、難浸透性記録媒体上に対しては、ブリードやビーディングの少ない、優れた画像品質を有する印刷物が得られ、非塗工紙等の高浸透性記録媒体上に対しては、フェザリングや裏抜けのない印刷物が得られ、また同時に、非浸透性記録媒体上に対しては、ビーディングがなく、濡れ広がり性にも優れた印刷物が得られる観点から、HLB値が0~5(好ましくは0~4)である界面活性剤と、HLB値が6~18(好ましくは7~18、より好ましくは8~16、特に好ましくは10~16)である界面活性剤とを併用することが好ましい。中でも、上述した効果を特段に発現させる観点から、上記HLB値が0~5(好ましくは0~4)である界面活性剤として、アセチレンジオール系界面活性剤と、シロキサン系界面活性剤とを併用することが極めて好ましい。
【0118】
なお、HLB(Hydrophile-Lipophile Balance)値とは、材料の親水・疎水性を表すパラメータの一つであり、小さいほど疎水性が高く、大きいほど親水性が高いことを表す。化学構造からHLB値を算出する方法は種々知られており、また実測する方法も様々知られているが、本発明では、アセチレンジオール系界面活性剤やポリオキシアルキレンエーテル系界面活性剤のように、化合物の構造が明確に分かる場合は、グリフィン法を用いてHLB値の算出を行う。なおグリフィン法とは、対象の材料の分子構造と分子量を用いて、下記式(2)を用いてHLB値を算出する方法である。
【0119】
式(2): HLB値=20×(親水性部分の分子量の総和)÷(材料の分子量)
【0120】
一方、シロキサン系界面活性剤のように、構造不明の化合物が含まれる場合は、例えば「界面活性剤便覧」(西一郎ら編、産業図書株式会社、1960年)のp.324に記載されている以下方法によって、界面活性剤のHLB値を実験的に求めることができる。具体的には、界面活性剤0.5gをエタノール5mLに溶解させたのち、前記溶解液を25℃下で攪拌しながら、2質量%フェノール水溶液で滴定し、液が混濁したところを終点とする。終点までに要した前記フェノール水溶液の量をA(mL)としたとき、下記式(3)によってHLB値が算出できる。
【0121】
式(3): HLB値=0.89×A+1.11
【0122】
本発明における界面活性剤の含有量は、インキ全量に対して0.2~4質量%であることが好ましい。より好ましくは0.5~2質量%である。
【0123】
<水>
本発明のインキに含まれる水は、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。またその含有量は、インキ全質量中20~90質量%の範囲であることが好ましい。
【0124】
<その他の成分>
本発明のインキは、上述した成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインキとするためにpH調整剤を添加することができる。pH調整剤として利用できる化合物として、上述したアルカノールアミン系溶剤に加え、例えば、
その他含窒素化合物として、アンモニア水、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、尿素、ピペリジンなどが、
アルカリ金属の水酸化物として、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが、
アルカリ金属の炭酸塩として、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどが、
酸性化合物として、塩酸、硫酸、酢酸、クエン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、リン酸、ホウ酸、フマル酸、マロン酸、アスコルビン酸、グルタミン酸などが、それぞれ挙げられるが、これらに限定されない。なお上記のpH調整剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、上記アルカノールアミン系溶剤は、有機溶剤とpH調整剤とを兼ねる材料であってよい。
【0125】
pH調整剤の配合量は、インキ全量に対し0.01~5質量%であることが好ましく、0.1~3質量%であることがより好ましく、0.2~1.5質量%であることが最も好ましい。
【0126】
また本発明のインキは、上記の成分の他に、所望の物性値を持つインキとするために、消泡剤、防腐剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤などの添加剤を必要に応じて適宜に添加することができる。これらの添加剤の添加量は、インキの全質量に対して、0.01~10質量%が好適である。一方で、本発明のインキは重合性単量体を実質的に含まないことが好ましい。
【0127】
<含窒素化合物のpKa値>
上述した通り、本発明のインキには、有機溶剤及び/またはpH調整剤として、含窒素化合物が使用できる。一方で、使用する含窒素化合物によっては、顔料の分散安定性や吐出安定性に悪影響を及ぼす可能性があることから、本発明においては、含窒素化合物の量、特に上記特性に影響を及ぼしやすい、分子量が500以下である含窒素化合物の量を制限することが好適である。
【0128】
なお本明細書では、分子量が500以下である含窒素化合物を、総称して「含窒素化合物」と呼ぶものとする。当該含窒素化合物の具体例として、上述したアルカノールアミン系溶剤、含窒素系溶剤、及び、その他含窒素化合物として例示したもののうち、分子量が500以下であるものが挙げられる。
【0129】
一般に顔料を含む水性インキでは、顔料粒子間に発生する電荷反発により、当該顔料粒子の分散状態が維持され、分散安定性を確保している。長期に渡って分散安定性を維持する方法として、インキのpHを中性~弱塩基性に調整する手法がある。pHを中性~弱塩基性で維持することで、顔料表面を覆う電気二重層内のイオン濃度を上げ、電気二重層斥力を高めて、顔料粒子間に大きな反発力を生じさせることができる。しかしながら、含窒素化合物の中には、酸性であるもの、あるいは、強塩基性であるものがあり、それらの化合物と顔料とを併用することで、当該顔料の分散安定性が悪化し、またそれに伴い吐出安定性も悪くなる恐れがある。また、ワックスを更に併用した場合、当該バインダー樹脂のインキに対する相溶性が悪化し、印刷物の画像品質及び耐擦過性が悪化する可能性もある。
【0130】
本発明者らが鋭意検討を進めた結果、含窒素化合物のうち、25℃におけるpKa値が2以下(好ましくは、前記pKa値が4未満)、または、10以上(好ましくは、前記pKa値が9.5超)である、分子量が500以下の含窒素化合物の配合量の総量を、水性インクジェットインキ全量に対して3質量%以下とすることが好ましく、1質量%以下とすることがより好ましい。これらの化合物は酸性または強塩基性であり、大量に配合すると、上記の通り、分散安定性、吐出安定性、並びに印刷物の耐擦過性及び画像品質に悪影響を及ぼす恐れがあるためである。
【0131】
一方で、含窒素化合物を使用する場合は、25℃におけるpKa値が4~9.5である塩基性有機化合物を使用することが好ましい。詳細な要因は不明であるが、酸解離定数(pKa値)が適度に小さいこと、及び、有機化合物であることが、顔料及びバインダー樹脂(a-1)に対するダメージを抑制しているものと考えられる。
【0132】
25℃におけるpKa値が4~9.5である含窒素化合物の具体例としては、ジエタノールアミン(pKa=8.9)、メチルジエタノールアミン(pKa=8.5)、トリエタノールアミン(pKa=7.8)、1-アミノ-2-プロパノール(pKa=9.4)、ジイソプロパノールアミン(pKa=9.0)、トリイソプロパノールアミン(pKa=8.0)、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(pKa=8.1)、イミダゾール(pKa=7.0)、及びアニリン(pKa=4.6)が挙げられる。上記の中でも、水性媒体に対する溶解度が高い点、及び、人体に対する安全性の点等から、アルカノールアミンを用いることが好ましく、pKa値の小さいトリエタノールアミンを含むことが特に好ましい。なお上記の化合物は1種のみ使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0133】
pKa値が4~9.5である含窒素化合物を使用する場合、その含有量は、インキ全量に対して1.25質量%以下とすることが好ましい。また、0.1~1.0質量%とすることが更に好ましい。前記範囲内であれば、分散安定性や吐出安定性を悪化させることなく、印刷物の耐擦過性及び画像品質の悪化を防止できる。
【0134】
なお、インキの分散安定性、吐出安定性、耐擦過性、画像品質を総合的に両立する観点からは、pKa値によらず、含窒素化合物の配合量の総量を、水性インクジェットインキ全量に対して3質量%以下とすることが好ましく、1.25質量%以下とすることが更に好ましい。
【0135】
なお、本発明のpKa値は既知の方法、例えば電位差滴定法によって測定できる。また、25℃におけるpKa値が2以下である含窒素化合物の例として、尿素(pKa値=0.2)が挙げられる。また、25℃におけるpKa値が10以上である含窒素化合物の例として、シクロヘキシルアミン(pKa値=10.6)、モノエチルアミン(pKa値=10.7)、ジエチルアミン(pKa値=11.0)、トリエチルアミン(pKa値=10.7)、ピペリジン(pKa値=11.2)が挙げられる。
【0136】
<インキの製造方法>
上述した成分を含む本発明のインキは、既知の方法によって製造できる。特に、分散安定性及び吐出安定性に優れたインキが得られる点から、顔料を含む顔料分散液をあらかじめ製造したのち、当該顔料分散液、有機溶剤、バインダー樹脂、ワックス、及び、必要に応じて界面活性剤等を混合する、という製造方法が好適に選択される。以下に本発明のインキの製造方法の例を説明するが、上記の通り、前記製造方法は以下に限定されるものではない。
【0137】
(1)顔料分散液の製造(1-1)水溶性樹脂である顔料分散樹脂を用いて分散処理する方法 顔料分散樹脂として水溶性樹脂を用いる場合、上記顔料分散樹脂と水と、必要に応じて有機溶剤とを混合・攪拌し、顔料分散樹脂水溶液を作製する。前記顔料分散樹脂水溶液に、顔料、及び、必要に応じて分散助剤、追加の水、追加の有機溶剤を添加し、混合・攪拌(プレミキシング)した後、分散機を用いて分散処理を行う。その後、必要に応じて遠心分離、濾過、固形分の調整を行い、顔料分散液を得る。
【0138】
(1-2)非水溶性樹脂である顔料分散樹脂を用いて分散処理する方法 また、非水溶性樹脂である顔料分散樹脂により被覆された、顔料の分散液を製造する場合、あらかじめ、メチルエチルケトン等の樹脂溶解用有機溶媒に顔料分散樹脂を溶解させ、必要に応じて上記顔料分散樹脂を中和した、顔料分散樹脂溶液を作製する。上記顔料分散樹脂溶液に、顔料と、水と、必要に応じて分散助剤、有機溶剤、追加の有機溶媒を添加し、混合・攪拌(プレミキシング)した後、分散機を用いて分散処理を行う。その後、減圧蒸留により上記樹脂溶解用有機溶媒を留去し、必要に応じて、遠心分離、濾過、固形分の調整を行い、顔料分散液を得る。
【0139】
上記方法(1-1)及び(1-2)において、顔料の分散処理の際に使用される分散機は、一般に使用される分散機ならいかなるものでもよいが、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ビーズミル及びナノマイザーなどが挙げられる。上記の中でもビーズミルが好ましく使用され、具体的にはスーパーミル、サンドグラインダー、アジテータミル、グレンミル、ダイノーミル、パールミル及びコボルミルなどの商品名で市販されている。
【0140】
上記方法(1-1)及び(1-2)において、顔料の粒度分布を制御する方法として、上述した分散機で使用する粉砕メディアのサイズを調整すること、前記粉砕メディアの材質を変更すること、前記粉砕メディアの充填率を大きくすること、攪拌部材(アジテータ)の形状を変更すること、分散処理時間を長くすること、分散処理後濾過や遠心分離等で分級すること、及びこれらの手法の組み合わせが挙げられる。顔料を好適な粒度分布範囲に収めるためには、上記分散機の粉砕メディアの直径を0.1~3mmとすることが好ましい。また粉砕メディアの材質として、ガラス、ジルコン、ジルコニア、チタニアが好ましく用いられる。
【0141】
(1-3)顔料分散樹脂を用いて摩砕混練処理する方法 更に本発明では、以下に示す、摩砕混練処理による方法も好適に利用できる。顔料、顔料分散樹脂、有機溶剤、無機塩、及び必要に応じて分散助剤を、混練機により混練したのち、得られた混合物に水を添加し、混合・攪拌する。そして、遠心分離、濾過、洗浄によって、無機塩、及び、必要に応じて有機溶剤を除去し、更に固形分の調整を行い、顔料分散液を得る。
【0142】
上記方法(1-3)において使用される混練機は、一般に使用される分散機ならいかなるものでもよいが、高粘度の混合物が混練でき、微細な顔料を含む顔料分散液となることで、画像品質、発色性、及び色再現性に優れる印刷物が得られる点から、ニーダーまたはトリミックスが好ましく使用される。なお、混練時の温度を調整することで、得られる顔料分散液の粒度分布を制御することができる。
【0143】
また前記無機塩としては、塩化ナトリウム、塩化バリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等が好適に使用できる。
【0144】
(2)インキの調製 上記で得られた顔料分散液に、バインダー樹脂、ワックス、有機溶剤、水、及び必要に応じて上記で挙げた界面活性剤、pH調整剤やその他の添加剤を加え、攪拌・混合する。なお、必要に応じて前記混合物を40~100℃の範囲で加熱しながら攪拌・混合してもよい。
【0145】
(3)粗大粒子の除去 上記混合物に含まれる粗大粒子を、濾過、遠心分離などの手法により除去し、水性インクジェットインキとする。濾過分離の方法としては、既知の方法を適宜用いることができるが、フィルターを使用する場合、その開孔径は、好ましくは0.3~5μm、より好ましくは0.5~3μmである。また濾過を行う際は、フィルターは単独種を用いても、複数種を併用してもよい。
【0146】
<インキの特性>
本発明のインキは、25℃における粘度を3~20mPa・sに調整することが好ましい。この粘度領域であれば、4~10KHzの周波数を有するヘッドだけではなく、10~70KHzの高周波数のヘッドにおいても、安定した吐出特性を示す。特に、25℃における粘度を4~10mPa・sとすることで、600dpi以上の設計解像度を有するインクジェットヘッドに対して用いても、安定的に吐出させることができる。なお、上記粘度は常法により測定することができる。具体的にはE型粘度計(東機産業社製TVE25L型粘度計)を用い、インキ1mLを使用して測定することができる。
【0147】
また、安定的に吐出できるインキにするとともに、画像品質に優れた印刷物が得られる点から、本発明のインキは、25℃における静的表面張力が18~35mN/mであることが好ましく、20~32mN/mであることが特に好ましい。なお、静的表面張力は25℃の環境下において、Wilhelmy法により測定された表面張力を指す。具体的には協和界面科学社製CBVP-Zを用い、白金プレートを使用して測定できる。
【0148】
更に、記録媒体に着弾した後、速やかに界面活性剤が配向し、記録媒体上で好適な濡れ性を得ることで優れた画像品質を得るという観点から、本発明のインキは、最大泡圧法による、10ミリ秒における動的表面張力が26~36mN/mであることが好ましく、より好ましくは28~36mN/mであり、特に好ましくは30~36mN/mである。なお、本明細書における動的表面張力は、Kruss社製バブルプレッシャー動的表面張力計BP100を用いて、25℃環境下で測定した値である。
【0149】
本発明のインキは、優れた発色性を有する印刷物を得るために、顔料の平均二次粒子径(D50)を40~500nmとすることが好ましく、より好ましくは50~400nmであり、特に好ましくは60~300nmである。平均二次粒子径を上記好適な範囲内に収めるためには、上記のように顔料分散処理工程を制御すればよい。なお、顔料の平均二次粒子径(D50)とは、粒度分布測定機(本明細書においては、マイクロトラック・ベル社製ナノトラックUPAEX-150を用いた)を用い、動的光散乱法によって測定される体積基準のメジアン径を表す。
【0150】
<水性インクジェットインキのセット>
本発明の有彩色プロセスカラーインクジェットインキは1色のみで使用してもよい。また、シアン色、マゼンタ色、イエロー色の3色の有彩色プロセスカラーインクジェットインキをセットとして使用してもよい。更に、有彩色プロセスカラーインクジェットインキ(のセット)と、有彩色プロセスカラー以外の色を呈するインキとを組み合わせ、水性インクジェットインキのセットとして使用することもできる。
【0151】
中でも、本発明の有彩色プロセスカラーインクジェットインキは、ブラック色を呈するインキ(ブラックインキ)と組み合わせて使用することで、漆黒感があり画像品質にも優れるカラー印刷画像を得ることができるため好ましい。更に、白色以外の記録媒体へ印刷を行う際には、白色を呈するインキ(ホワイトインキ)と併用することで、鮮明な画像を得ることができる。
【0152】
また、ブラックインキ及びホワイトインキの他にも、バイオレット色、ブルー色、レッド色、オレンジ色、グリーン色、ブラウン色等を呈する特色インキを、有彩色プロセスカラーインクジェットインキ(のセット)と組み合わせて使用することもできる。
【0153】
本発明の有彩色プロセスカラーインクジェットインキと組み合わせて使用されるブラックインキ及び/またはホワイトインキは、顔料と水を含む。またブラックインキ及び/またはホワイトインキは、顔料及び水のほかに、有機溶剤、顔料分散樹脂、分散助剤、バインダー樹脂、ワックス、界面活性剤、pH調整剤、及びその他の成分を含んでもよい。これらの成分に関する詳細は、上述した有彩色プロセスカラーインクジェットインキの場合と同様である。
【0154】
特に、耐擦過性に優れた印刷物が得られる観点から、ブラックインキ及び/またはホワイトインキがワックスを含むことが好ましい。当該ワックスとして、有彩色プロセスカラーインクジェットインキに使用できるワックスとして上記で例示したものを使用することができる。ワックスの配合量は、吐出安定性及び印刷物の耐擦過性に優れるインキが得られる点から、ブラックインキの場合は、当該ブラックインキ全量中0.2~8質量%であることが好ましく、0.3~5質量%であることがより好ましく、0.5~4質量%であることが特に好ましい。またホワイトインキの場合は、当該ホワイトインキ全量中0.1~6質量%であることが好ましく、0.3~5質量%であることがより好ましく、0.5~4質量%であることが特に好ましい。
【0155】
また、ブラックインキがワックスを含む場合、その配合量は、有彩色プロセスカラーインクジェットインキのワックスの配合量よりも0.5質量%以上多いことが好ましく、1.0質量%以上多いことがより好ましく、1.5質量%以上多いことが特に好ましい。これによって、乾燥方法や記録媒体によらず、ブラックインクジェットインキ、シアンインキ、マゼンタインキ、及び、イエローインキの全てで、印刷濃度や画像品質を高めることができる。
【0156】
上記ブラックインキに使用される顔料としては、例えば、アニリンブラック、ペリレンブラック、及び、アゾ ブラック等の黒色有機顔料、並びに、カーボンブラック、四酸化三鉄、及び、銅クロムブラック等の黒色無機顔料が使用できる。本発明では、黒色度及び着色性が高く、少量の添加であっても印刷濃度の高い印刷物が得られる点、入手容易性等の点から、カーボンブラックを使用することが好ましい。
【0157】
上記カーボンブラックとして、カーボンブラックの表面に親水性官能基を化学的・物理的に導入し、分散樹脂や界面活性剤なしで水性媒体中に分散が可能となる、自己分散カーボンブラックを使用することもできる。特に、高浸透性記録媒体でのフェザリングを抑制し、優れた画像品質を有する印刷物が得られる点で、ブラックインキが自己分散カーボンブラックを含むことが好ましく、自己分散カーボンブラックと樹脂分散顔料とを含むことがより好ましい。
【0158】
上記自己分散カーボンブラックの例として、カーボンブラックの表面に、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、スルホン基、リン酸基、フェニル基、第4級アンモニウムおよびこれらの塩から選択される少なくとも一種の官能基が、直接又は他の官能基を介して化学結合により導入されたものが挙げられる。前記官能基の種類及び量は、インキ中での自己分散カーボンブラックの分散安定性、印刷濃度、吐出安定性、及び、乾燥性等を考慮しながら適宜決定される。中でも、特に高い印刷濃度を有する印刷物が得られる点で、上記官能基として、アニオン性の官能基を有することが好ましい。上記アニオン性の官能基として、例えば、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、スルホン基、リン酸基およびこれらの塩から選択される官能基が挙げられる。中でも、上記官能基として、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基を含むことが好ましい。
【0159】
なお、自己分散カーボンブラックとして、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、キャボット社製のCAB-O-JETシリーズ、オリヱント化学工業社製のBONJETシリーズ、東海カーボン社製のAqua-Blackシリーズ、冨士色素社製のFuji-JET Blackシリーズなどが挙げられる。
【0160】
自己分散カーボンブラックの平均二次粒子径は、例えば、30nm~200nmが好ましく、50nm~170nmがより好ましく、80nm~150nmが特に好ましい。前記平均二次粒子径(D50)とは、粒度分布測定機(例えば、マイクロトラック・ベル社製ナノトラックUPAEX-150)を用い、動的光散乱法によって測定される体積基準のメジアン径を表す。
【0161】
ブラックインキ中の顔料の含有量の総量は、当該ブラックインキの全質量中、1~10質量%であることが好ましく、2~10質量%がより好ましい。
【0162】
一方、上記ホワイトインキに使用される有機顔料の例として、特開平3-26724号公報、特開2009-263553号公報等に開示されている中空樹脂粒子が挙げられる。また、無機顔料の例として、硫酸バリウム等のアルカリ土類金属硫酸塩、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩、微粉ケイ酸、合成ケイ酸塩等のシリカ類、ケイ酸カルシウム、アルミナ、アルミナ水和物、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、クレイ等が挙げられる。中でも隠蔽性や着色力の観点から、酸化チタンが最も好ましい。
【0163】
ホワイトインキ中の顔料の含有量の総量は、当該ホワイトインキ全質量中、3~50質重量部%であることが好ましく、5~30重質量部%であることがより好ましい。
【0164】
<インキ-前処理液セット>
本発明のインキは、凝集剤を含む前処理液と組み合わせ、インキ-前処理液セットの形態で使用することもできる。凝集剤を含む前処理液を記録媒体上に付与することで、インキ中に含まれる固体成分を意図的に凝集させる層(インキ凝集層)を形成することができる。そして前記インキ凝集層上にインキを着弾させることで、インキ液滴間のにじみや色ムラを防止し、印刷物の画像品質を著しく向上させることができる。なおこの効果は、記録媒体として高浸透性記録媒体を使用する場合に顕著であり、画像品質だけでなく、発色性及び色再現性にも優れた印刷物を得ることができる。更に、前処理液に使用する材料によっては、印刷物の密着性、耐擦過性、耐ブロッキング性もまた向上できる。
【0165】
本明細書における「凝集剤」とは、インキに含まれる、顔料や樹脂粒子の分散状態を破壊し凝集させる、及び/または、水溶性樹脂を不溶化し前記インキを増粘させることができる成分を意味する。本発明のインキと組み合わせる前処理液に使用する凝集剤としては、画像品質、発色性及び色再現性を著しく向上できる観点から、金属塩及びカチオン性高分子化合物から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。中でも、優れた画像品質、発色性及び色再現性を得るという観点から、前記凝集剤として金属塩を使用することが好ましく、Ca2+、Mg2+、Zn2+、Al3+からなる群から選択される多価金属イオンの塩を含むことが特に好ましい。なお、凝集剤として金属塩を使用する場合、その含有量は、前処理液全量に対し、2~30質量%であることが好ましく、3~25質量%であることが特に好ましい。
【0166】
その他前処理液には、有機溶剤、界面活性剤、pH調整剤、消泡剤、防腐剤などを適宜に添加することができる。それぞれ、具体的に使用できる材料は、上記インキの場合と同様である。
【0167】
なお、前処理液の静的表面張力は、本発明のインキと組み合わせて使用した際に、画像品質に優れた印刷物が得られるという観点から、20~45mN/mであることが好ましく、23~40mN/mであることがより好ましい。特に好ましくは25~37mN/mである。なお前処理液の静的表面張力は、インキの静的表面張力と同様の方法で測定できる。
【0168】
<インクジェット記録方法>
本発明のインキは、インクジェットヘッドから吐出して記録媒体上に付与する記録方法(インクジェット記録方法)に使用される。
【0169】
なお、記録媒体上に付与する前に、有機溶剤の乾燥やワックスの成膜を防止し、インキのインクジェット吐出安定性を著しく高める観点、及び、当該インキ中の成分を均一に分散させ、ブリード、ビーディング、フェザリング、及び裏抜けといった画像欠陥のない印刷物が得られる観点から、当該インキは、インクジェットヘッドを連通するように構成されたインキ循環機構を有する印刷装置で使用されることが好適である。
【0170】
インクジェットヘッドを連通するように構成されたインキ循環機構の例として、インキ供給口、ノズル、インキ連通路、及び、インキ排出口を備えたインクジェットヘッド;当該インキ供給口に接続されたインキ供給用流路;当該インキ排出口に接続されたインキ排出用流路;当該インキ供給用流路及び/または当該インキ排出用流路に接続されたポンプ;を有する系が挙げられる。なお、インキ供給用流路とインキ排出用流路とは、直接接続されていてもよいし、別の構成を介して接続されていてもよい。別の構成を介して接続されている例として、インキ供給用流路の一端と、インキ排出用流路の一端とが、ともに同一のインキタンクに接続されている構成が挙げられる。
【0171】
また上記インクジェットヘッドでは、インキ供給口から供給されたインキが、ノズルかインキ連通路かのどちらかを通過するようになっている。当該ノズルに流入したインキは、当該インクジェットヘッドから吐出される。一方、当該インキ連通路に流入したインキは、インキ排出口から排出され、インキ排出用流路、及び、インキ供給用流路を経由して、再びインクジェットヘッドに戻る構成となっている。
【0172】
上記インクジェット記録方法におけるパス方式として、記録媒体に対しインクジェットインキを1回だけ吐出して記録するシングルパス方式、及び、当該記録媒体の搬送方向と直行する方向に、短尺のシャトルヘッドを往復走査させながら吐出・記録を行うシリアル方式、のどちらを採用してもよい。ただし、シリアル方式の場合、インクジェットヘッドの動きを加味して吐出タイミングを調整する必要があり、着弾位置のずれが生じやすい。そのため、本発明のインキを印刷する際は、シングルパス方式、特に、固定されたインクジェットヘッドの下部に記録媒体を通過させる方式が好ましく用いられる。
【0173】
インキを吐出する方式にも特に制限は無く、既知の方式、例えば、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、インキを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等が利用できる。本発明において、ドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)が好ましい。
【0174】
また、インクジェットヘッドから吐出されるインキの液滴量は、乾燥負荷の軽減効果が大きく、また色再現性やその他の画像品質の向上という点からも、0.2~30ピコリットルであることが好ましく、1~20ピコリットルであることがより好ましい。
【0175】
本発明のインキを、インクジェット印刷方式により記録媒体上に付与した後、前記記録媒体上の水性インキの乾燥機構を備えていることが好ましい。前記乾燥機構で用いられる乾燥方法として、加熱乾燥法、熱風乾燥法、赤外線(例えば波長700~2500nmの赤外線)乾燥法、マイクロ波乾燥法、ドラム乾燥法などが挙げられる。
【0176】
本発明では、インキ中の液体成分の突沸を防止し、色再現性や画像品質に優れた印刷物を得る観点から、加熱乾燥法を採用する場合は乾燥温度を35~100℃とすることが、また熱風乾燥法を採用する場合は熱風温度を50~250℃とすることが、それぞれ好ましい。また同様の観点から、赤外線乾燥法を採用する場合は、赤外線照射に用いる赤外線の全出力の積算値の50%以上が、700~1500nmの波長領域に存在することが好ましい。
【0177】
また上記乾燥方法は、単独で用いてもよいし、複数を続けて使用してもよいし、同時に併用してもよい。例えば加熱乾燥法と熱風乾燥法を併用することで、それぞれを単独で使用したときよりも素早く、水性インキを乾燥させることができる。
【0178】
<記録媒体>
本発明のインキを印刷する記録媒体は、特に限定されるものではなく、高浸透性記録媒体、難浸透性記録媒体、非浸透性記録媒体等、いずれも既知のものを任意に使用できる。上述の通り、本発明のインキは、記録媒体の浸透性によらず、画像品質、発色性及び色再現性に優れた印刷物を得ることができる。
【0179】
なお本明細書では、記録媒体の浸透性は、動的走査吸液計によって測定される吸水量によって判断するものとする。具体的には、下記方法によって測定される、接触時間100msecにおける純水の吸水量が、1g/m2未満である記録媒体を「非浸透性記録媒体」、1g/m2以上8g/m2未満である記録媒体を「難浸透性記録媒体」、及び、8g/m2以上である記録媒体を「高浸透性記録媒体」とする。
【0180】
記録媒体の吸水量は、以下の条件で測定できる。動的走査吸液計として、熊谷理機工業社製KM500winを使用し、23℃・50%RHの条件下、15~20cm角程度にした記録媒体を用いて、以下に示す条件で、純水の転移量を測定する。
・測定方法:螺旋走査(Spiral Method)
・測定開始半径:20mm
・測定終了半径:60mm
・接触時間:10~1,000msec
・サンプリング点数:19(接触時間の平方根に対してほぼ等間隔になるよう測定)
・走査間隔:7mm
・回転テーブルの速度切替角度:86.3度
・ヘッドボックス条件:幅5mm、スリット幅1mm
【0181】
高浸透性記録媒体の例として、更紙、中質紙、上質紙、再生紙などの非塗工紙、綿、化繊織物、絹、麻、不織布などの布帛、皮革などが挙げられる。中でも、インキの発色性及び画像品質に優れた印刷物が得られる点から、更紙、中質紙、上質紙、再生紙などの非塗工紙が好ましい。
【0182】
また、非浸透性記録媒体または難浸透性記録媒体の例として、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルアルコールの様なプラスチック基材、コート紙、アート紙、キャスト紙のような塗工紙基材、アルミニウム、鉄、ステンレス、チタンの様な金属基材、ガラス基材などが挙げられる。
【0183】
上記列挙した記録媒体は、その表面が滑らかであっても、凹凸のついたものであっても良いし、透明、半透明、不透明のいずれであっても良い。また、これらの記録媒体の2種以上を互いに貼り合わせたものでも良い。更に印字面の反対側に剥離粘着層などを設けても良く、また印字後、印字面に粘着層などを設けても良い。また本発明のインクジェット記録方法で使用される記録媒体の形状は、ロール状でも枚葉状でもよい。
【0184】
なお、本発明のインキの濡れ性を向上し、画像品質、色再現性及び乾燥性を向上させ、また、印刷物表面が均一化するため耐擦過性や密着性もまた向上できるため、上記列挙した記録媒体に対し、コロナ処理やプラズマ処理といった表面改質を施すことも好ましい。
【0185】
<コーティング処理>
本発明のインキを用いて作製した印刷物は、必要に応じて、印刷面をコーティング処理してもよい。前記コーティング処理の具体例として、コーティング用組成物の塗工・印刷や、ドライラミネート法、無溶剤ラミネート法、押出しラミネート法などによるラミネート加工などが挙げられ、いずれかを選択してもよいし、両者を組み合わせても良い。
【0186】
なお、コーティング用組成物を塗工・印刷することによって印刷物にコーティング処理を施す場合、その塗工・印刷方法として、インクジェット印刷のように記録媒体に対して非接触で印刷する方式と、記録媒体に対し前記コーティング用組成物を当接させて印刷する方式のどちらを採用してもよい。また、コーティング用組成物を記録媒体に対して非接触で印刷する方式を選択する場合、前記コーティング用組成物として、本発明の水性インクジェットインキから顔料を除外した、実質的に着色剤成分を含まないインキ(クリアインキ)を使用することが好適である。
【実施例0187】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、以下の記載において、「部」及び「%」とあるものは特に断らない限りそれぞれ「質量部」、「質量%」を表す。
【0188】
<顔料分散樹脂の製造例>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、ブタノール93.4部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱したのち、重合性単量体としてアクリル酸30部、スチレン35部、ラウリルメタクリレート35部、及び、重合開始剤としてV-601(和光純薬製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、110℃で3時間反応させた後、V-601を0.6部添加し、更に110℃で1時間反応を継続した。その後、反応系を室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノールを39部添加して中和したのち、水を100部添加した。その後、混合溶液を100℃以上に加熱してブタノールを留去したのち、水を用いて固形分が30%になるように調整することで、顔料分散樹脂の水性化溶液(固形分30%)を得た。なお、上記に記載した方法で測定した、顔料分散樹脂の重量平均分子量は16,000、酸価は230であった。また上記「水性化溶液」とは、水性溶媒と、前記水性溶媒に分散及び/または溶解した成分とを含む溶液を意味する。
【0189】
<顔料分散液の製造例>
攪拌器を備えた混合容器に、顔料15部と、顔料分散樹脂の水性化溶液(固形分30%)15部と、水70部とを、順次投入したのち、プレミキシングを行った。その後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した、容積0.6Lのダイノーミルを用いて本分散を行うことで、顔料分散液(顔料濃度15%)を得た。
【0190】
顔料分散液の製造にあたって使用した顔料は以下のとおりである。
・顔料分散液C1:C.I.PigmentBlue15:3(トーヨーカラー社製「LIONOGEN BLUE FG-7358G」)
・顔料分散液M1:C.I.ピグメントレッド150(東京色材社製「トーシキレッド150TR」)
・顔料分散液M2:C.I.ピグメントレッド150(東京色材社製「トーシキレッド150TR」)を7.5部と、C.I.ピグメントレッド122(DIC社製「FASTGEN SUPER MAGENTA RG」)7.5部との混合物
・顔料分散液Y1:C.I.ピグメントイエロー12(DIC社製「SYMULER FAST YELLOW GFCONC」)
・顔料分散液Y2:C.I.ピグメントイエロー74(クラリアント社製「HANSA YELLOW 5GX01」)
【0191】
<樹脂粒子1~3(スチレンメタクリル樹脂粒子)の製造例>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、水40部、及び、界面活性剤としてアクアロンKH-10(第一工業製薬製)0.2部を仕込み、界面活性剤水溶液を作成した。また別の混合容器に、重合性単量体としてスチレン25部、メタクリル酸3部、メチルメタクリレート62部、ブチルアクリレート10部、界面活性剤としてアクアロンKH-10を1.8部、及び、水51.2部を投入し、よく混合してエマルジョン前駆体を作製した。
【0192】
作製したエマルジョン前駆体のうちの1.5部を、界面活性剤水溶液を含む反応容器に添加し、よく混合した。次いで、前記反応容器内を60℃に昇温し、窒素ガスで置換した後、過硫酸カリウム5%水溶液1部と、無水重亜硫酸ナトリウム1%水溶液0.2部とを添加し、反応容器内を60℃に保持したまま、重合反応を開始した。60℃で5分間反応させた後、上記エマルジョン前駆体の残分(151.5部)、過硫酸カリウム5%水溶液9部、及び、無水重亜硫酸ナトリウム1%水溶液1.8部を、1.5時間かけて滴下し、その後更に2時間反応を継続した。その後、反応系を30℃まで冷却したのち、ジエチルアミノエタノールを添加して混合溶液のpHを8.5とし、更に水を用いて固形分が30%になるように調整することで、スチレンメタクリル樹脂微粒子である、樹脂粒子1の水分散液(固形分30%)を得た。
【0193】
また、重合性単量体を表1記載のように変更した以外は、上記樹脂粒子1と同様の操作によって、スチレンメタクリル樹脂粒子である、樹脂粒子2および3の水分散液(固形分30%)を得た。
【0194】
【表1】
【0195】
なお表1には、樹脂粒子1~3の酸価、ガラス転移温度、重量平均分子量も記載した。また、表1に記載された重合性単量体の略称は、以下の通りである。
・St:スチレン
・MAA:メタクリル酸
・MMA:メチルメタクリレート
・BA:ブチルアクリレート
・PME-400:メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(日油社製ブレンマーPME-400)
【0196】
<樹脂粒子4(ウレタン樹脂粒子)の製造例>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、メチルエチルケトン150部、及び、重合性単量体として1,6-ヘキサンジオールを主骨格としたポリカーボネートジオール(分子量2,000)69部、イソホロンジイソシアネート11.8部、ヘキサメチレンジイソシアネート9部、ジメチロールプロピオン酸8.3部を仕込み、窒素ガスで置換したのち、反応容器内を80℃に加熱し、6時間重合反応を行った。次いで、更にトリメチロールプロパン1.9部を添加し、80℃で反応を継続した。その後、反応系を室温まで冷却した後、水を添加し、更に水酸化カリウム水溶液を攪拌しながら添加し、中和した。そして、減圧下で混合溶液を加熱してメチルエチルケトンを留去したのち、水を用いて固形分が40%になるように調整することで、ウレタン樹脂粒子である、樹脂粒子4の水分散液(固形分40%)を得た。なお、上記に記載した方法で測定した、樹脂粒子4の重量平均分子量は20,000、酸価は37であった。
【0197】
<水溶性樹脂1~3の製造例>
ブタノールに滴下した混合物の構成(重合性単量体の種類・量、及び、V-601の量)、110℃で3時間反応させた後に添加したV-601の量、及び、中和に使用したジメチルアミノエタノール(DMAE)の量を、表2記載のように変更した以外は、上記顔料分散樹脂と同様の操作によって、(メタ)アクリル水溶性樹脂、または、スチレン(メタ)アクリル水溶性樹脂である、水溶性樹脂1~3の水溶液(固形分40%)を得た。なお表2には、水溶性樹脂1~3の酸価、ガラス転移温度も記載した。
【0198】
【表2】
【0199】
<有彩色プロセスカラーインキのセット1~38の製造例>
下記記載の材料をディスパーで攪拌を行いながら混合容器へ順次投入し、十分に均一になるまで攪拌した。その後、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過を行い、シアンインキ1を調整した。また、顔料分散液C1の代わりに、顔料分散液M1、Y1を使用した以外は、上記シアンインキと同様の方法により、マゼンタインキ1、イエローインキ1を調整した。上記シアンインキ1、マゼンタインキ1、及び、イエローインキ1を、有彩色プロセスカラーインキのセット1とした。
・顔料分散液C1(顔料濃度15%) 26.7部
・AQUACER 515(固形分35%、BYKケミー社製ポリエチレン系ワックス) 2.8部
・水溶性樹脂2(固形分40%) 20部
・プロピレングリコールモノメチルエーテル 5部
・1,2-プロパンジオール 7部
・1,2-ヘキサンジオール 5部
・トリエタノールアミン 0.5部
・サーフィノール104 1部
・TEGO WET 280 1部
・プロキセルGXL 0.05部
・イオン交換水 31部
【0200】
また、下記表3に記載の材料を使用した以外は有彩色プロセスカラーインキのセット1と同様の方法により、有彩色プロセスカラーインキのセット2~38を得た。
【0201】
【表3】
【0202】
【表3】
【0203】
【表3】
【0204】
なお表3における「顔料分散液の組み合わせ」とは、有彩色プロセスカラーインキのセットを構成する、シアンインキ、マゼンタインキ、イエローインキのそれぞれの製造にあたって使用した顔料分散液の組み合わせを表すものである。具体的には、下表に示した組み合わせで、上記シアンインキ、マゼンタインキ、イエローインキを製造した。
【0205】
【表4】
【0206】
また、表3に記載された材料は以下の通りである。
(ワックス)
・P5300:ハイテック P5300(東邦化学工業社製、ポリプロピレン系ワックス、固形分30%水分散体、融点146℃、平均粒子径78nm)
・AQ515:AQUACER 515(BYKケミー社製、ポリエチレン系ワックス、固形分35%水分散体、融点135℃ 平均粒子径36nm)
・AQ541:AQUACER 541(BYKケミー社製、ポリエチレン系ワックス、固形分30%水分散体、融点80℃ 平均粒子径180nm)
・FE230N:シャリーヌFE230N(日信化学工業社製、シリコン系ワックス、固形分30%水分散体、平均粒子径270nm)
(水溶性有機溶剤)
・IPA:イソプロパノール(沸点82℃、表面張力21mN/m)
・MP:プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点121℃、表面張力26mN/m)
・MB:3-メトキシ-1-ブタノール(沸点158℃、表面張力29mN/m)
・MMB:3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(沸点174℃、表面張力30mN/m)
・PG:プロピレングリコール(沸点188℃、表面張力35mN/m)
・DEDG:ジエチレングリコールジエチルエーテル(沸点189℃、表面張力23mN/m)
・1,2-BD:1,2-ブタンジオール(沸点:192℃、表面張力32mN/m)
・HeG:エチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点:208℃、表面張力表面張力25mN/m)
・1,2-HeD:1,2-ヘキサンジオール(沸点223℃、表面張力26mN/m)
・BDG:ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:230℃、表面張力28mN/m)
・GY:グリセリン(沸点:290℃、表面張力62mN/m)
(界面活性剤)
・S.104:サーフィノール104(日信化学工業社製アセチレンジオール系界面活性剤、HLB値:3.0)
・S.465:サーフィノール465(日信化学工業社製アセチレンジオール系界面活性剤、HLB値:13.2)
・TW280:TEGO Wet 280(エボニック社製シロキサン系界面活性剤、HLB値:3.5)
(pH調整剤)
・TEA:トリエタノールアミン(pKa値:7.8、沸点:335℃)
・DMAE:ジメチルアミノエタノール(pKa値:9.9、沸点:133℃)
・NaOH:20w/v%水酸化ナトリウム水溶液
(その他)
・プロキセルGXL:アーチケミカルズ社製1,2-ベンゾイソチアゾール-3-オン溶液(防腐剤)
【0207】
[実施例1~33、比較例1~5]
上記で製造した水性インクジェットインキ1~38について、以下に示す評価1~6を実施した。評価結果は表3に示すとおりであった。
【0208】
<評価1:吐出安定性の評価>
記録媒体を搬送できるコンベヤの上部に、インクジェットヘッドであるSamba G3L(FUJIFILM Dimatix社製)を3個設置し、当該Samba G3Lごとに、ポンプ及びインキタンクを準備した。なおSamba G3Lは設計解像度が1200dpiであり、インキ供給口、ノズル、インキ連通路、及び、インキ排出口を備えている。次いで、1個のSamba G3Lにつきチューブを3本準備し、それぞれ、当該Samba G3Lのインキ供給口とポンプ、当該ポンプとインキタンク、並びに、当該インキタンクと当該Samba G3Lのインキ排出口を接続した。
次に、上記で製造した有彩色プロセスカラーインキのセット1~38のそれぞれを上記タンクに充填し、上記ポンプを稼働してインクジェットヘッド及び流路内をインキで満たしたのち、ノズルチェックパターンを印刷した。ノズル抜けがないことを確認したのち、25℃の環境下、上記ポンプを稼働させた状態で所定時間待機させた。そして、再度ノズルチェックパターンを印刷し、ノズル抜け本数をカウントすることで、吐出安定性を評価した。評価基準は下記のとおりとし、評価基準値2~4を実用可能領域とした。なお、表3に記載した評価結果は、評価を行った3色のインキのうち、最も評価結果が悪かった色のものである。
4:3時間待機させた後であっても、ノズル抜けが全くなかった
3:2時間待機させた後であってもノズル抜けが全くなかったが、3時間待機させた後に、ノズル抜けが1本以上発生していた
2:1時間待機させた後であってもノズル抜けが全くなかったが、2時間待機させた後に、ノズル抜けが1本以上発生していた
1:1時間待機させた後に、ノズル抜けが1本以上発生していた
【0209】
<評価2:画像品質(ブリード)の評価>
評価1で使用したインクジェット印刷装置に、上記で製造した有彩色プロセスカラーインキのセット1~38のそれぞれを、上流側から、シアン、マゼンタ、イエローの順番で充填した。ポンプを稼働してインクジェットヘッド及び流路内をインキで満たした後、王子製紙社製OKトップコート+(コート紙、坪量104.7g/m2)上に、5cm×5cmの大きさの単色ベタパッチ(印字率100%)が、シアン、マゼンタ、イエロー、シアンの順番で隣接した画像(ベタパッチ画像)を印刷した。
印刷後10秒以内に、上記印刷物を70℃エアオーブンに投入し、1分間乾燥させた。その後印刷物をオーブンから取り出し、各パッチ間の境界にじみの度合をルーペおよび目視で確認することで、画像品質(ブリード)を評価した。評価基準は下記のとおりとし、評価基準値2~4を実用可能領域とした。なお、表3に記載した評価結果は、最も評価結果が悪かった箇所のものである。
4:ルーペ及び目視で見た際、境界にじみは見られなかった
3:ルーペではわずかに境界にじみが見られたが、目視では境界にじみの有無を判別できなかった
2:目視でも境界にじみが観察されたが、その程度はわずかであった
1:目視で、明らかな境界にじみが観察された
【0210】
<評価3:画像品質(ビーディング:コート紙)の評価>
評価1で使用したインクジェット印刷装置に、上記で製造した有彩色プロセスカラーインキのセット1~38のそれぞれを、上流側から、シアン、マゼンタ、イエローの順番で充填した。ポンプを稼働してインクジェットヘッド及び流路内をインキで満たした後、王子製紙社製OKトップコート+(コート紙、坪量104.7g/m2)上に、30~240%の間で30%ずつ総印字率(各色の印字率の合計)を変化させた3色パッチが、間隔を開けて並んだ画像(階調パッチ画像)を印刷した。なお、各パッチにおける、シアンインキ、マゼンタインキ及びイエローインキの印字率は同一とした。例えば、総印字率240%のパッチは、シアンインキの印字率を80%、マゼンタインキの印字率を80%、イエローインキの印字率を80%とした画像である。
印刷後10秒以内に、上記印刷物を70℃エアオーブンに投入し、1分間乾燥させた。その後印刷物をオーブンから取り出し、濃淡ムラの有無を目視観察することで、コート紙に対するビーディングを評価した。評価基準は以下の通りとし、評価基準値2~4を実用可能領域とした。
4:いずれの総印字率においても濃淡ムラが見られなかった
3:総印字率210%以下では濃淡ムラが見られなかった
2:総印字率180%以下では濃淡ムラが見られなかった
1:総印字率180%において明らかに濃淡ムラが見られた
【0211】
<評価4:耐擦過性の評価>
評価1で使用したインクジェット印刷装置に、上記で製造した有彩色プロセスカラーインキのセット1~38のそれぞれを充填した。ポンプを稼働してインクジェットヘッド及び流路内をインキで満たした後、王子製紙社製OKトップコート+(コート紙、坪量104.7g/m2)上にベタパッチ画像を印刷し、10秒以内に印刷物を70℃エアオーブンに投入した。1分間乾燥させた後に印刷物をオーブンから取り出し、色ごとに、200gの荷重をかけながら、試験用白綿布(カナキン3号)で所定回数擦った。そして、擦った後の印刷物を目視観察することで、耐擦過性を評価した。評価基準は以下の通りとし、評価基準値2~4を実用可能領域とした。なお、表3に記載した評価結果は、最も評価結果が悪かった色のものである。
4:20回擦っても、印刷面の傷やインキの剥がれは見られなかった
3:10回擦っても、印刷面の傷やインキの剥がれは見られなかったが、20回擦ると、印刷面の傷やインキの剥がれが見られた
2:5回擦っても、印刷面の傷やインキの剥がれは見られなかったが、10回擦ると、印刷面の傷やインキの剥がれが見られた
1:5回擦ったところで、印刷面の傷やインキの剥がれが見られた。
【0212】
<評価5:画像品質(フェザリング)の評価>
評価1で使用したインクジェット印刷装置に、上記で製造した有彩色プロセスカラーインキのセット1~38のそれぞれを充填した。ポンプを稼働してインクジェットヘッド及び流路内をインキで満たした後、王子製紙社製OKプリンス(上質紙)上に、5cmの長さの単色細線が、間隔を開けて並んだ画像(細線画像)を印刷した。なおあらかじめ、王子製紙社製OKトップコート+(コート紙、坪量104.7g/m2)上に上記細線画像の印刷を行い、上記単色細線の幅が100μmとなるように、画像データやヘッド駆動条件を調整した。
印刷後10秒以内に、上記印刷物を70℃エアオーブンに投入し、1分間乾燥させた。その後印刷物をオーブンから取り出し、細線の滲みの有無を目視観察することで、フェザリングを評価した。評価基準は以下の通りとし、評価基準値2~4を実用可能領域とした。なお、表3に記載した評価結果は、最も評価結果が悪かった色のものである。
4:滲みにより細線が太ることもなく、紙繊維に沿ったインキ滲みは確認されなかった
3:滲みにより細線が太ることはないが、紙繊維に沿ったインキ滲みが10箇所未満観察された
2:滲みにより細線が若干太り、紙繊維に沿ったインキ滲みが10箇所以上20箇所未満観察された
1:滲みによる細線の太りが激しく、紙繊維に沿ったインキ滲みが20箇所以上あった
【0213】
<評価6:裏抜けの評価>
評価1で使用したインクジェット印刷装置に、上記で製造した有彩色プロセスカラーインキのセット1~38のそれぞれを充填した。ポンプを稼働してインクジェットヘッド及び流路内をインキで満たした後、1色ずつ、日本製紙社製NPiフォーム55(上質紙)上にベタ画像(印字率100%)を印刷し、10秒以内に印刷物を70℃エアオーブンに投入した。1分間乾燥させた後に印刷物をオーブンから取り出し、ベタ画像の裏面の光学濃度(OD値)の測定を行うことで、裏抜けを評価した。なお、分光濃度計(X-RITE社製eXact)を用い、光源はD50、視野角は2°、濃度ステータスはISO Status T、濃度白色基準は絶対値とした。また評価基準は以下の通りとし、評価基準値2~4を実用可能領域とした。表3に記載した評価結果は、最も評価結果が悪かった色のものである。
4:OD値0.17未満
3:OD値0.17以上0.20未満
2:OD値0.20以上0.23未満
1:OD値0.23以上
【0214】
評価の結果、水、顔料、有機溶剤、バインダー樹脂、及び、ワックスを含有し、更に、沸点が190℃以下である有機溶剤を2種以上含み、かつ、インキ全量に対する、1気圧下における沸点が150℃以上である有機溶剤の量をS、及び、インキ全量に対する、前記バインダー樹脂の含有量をRとしたとき、S/Rの値が3.0以下である有彩色プロセスカラーインクジェットインキは、吐出安定性に優れ、コート紙に対するビーディング、ブリード及び耐擦過性、更に、上質紙を用いたときのフェザリング及び裏抜けの全てにおいて実用可能な品質を有していることが確認された。
【0215】
[実施例34~39]
上記で製造した有彩色プロセスカラーインキのセット28~33については、更に、以下に示す評価7~9を実施し、非浸透性記録媒体に対する濡れ広がり、ビーディング、及び、耐ブロッキング性を確認した。評価結果は表5に示すとおりであった。
【0216】
【表5】
【0217】
<評価7:画像品質(ビーディング:フィルム)の評価>
記録媒体としてフタムラ化学社製FOR#20(2軸延伸ポリプロピレンフィルム、厚さ20μm)を使用した以外は、上述した評価3と同様の方法及び評価基準により、フィルムに対するビーディングを評価した。
【0218】
<評価8:画像品質(濡れ広がり性)の評価>
評価1で使用したインクジェット印刷装置に、上記で製造した有彩色プロセスカラーインキのセット28~33のそれぞれを、上流側から、シアン、マゼンタ、イエローの順番で充填した。ポンプを稼働してインクジェットヘッド及び流路内をインキで満たした後、1色ずつ、フタムラ化学社製FOR#20(2軸延伸ポリプロピレンフィルム、厚さ20μm)上にベタ画像(印字率100%)を印刷し、10秒以内に印刷物を70℃エアオーブンに投入した。1分間乾燥させた後に印刷物をオーブンから取り出し、白抜け度合いをルーペ及び目視で確認することで、濡れ広がり性を評価した。評価基準は以下の通りとし、評価基準値2~4を実用可能領域とした。なお、表5に記載した評価結果は、最も評価結果が悪かった色のものである。
4:ルーペ及び目視で見た際、白抜けは見られなかった
3:ルーペではわずかに白抜けが見られたが、目視では白抜けの有無を判別できなかった
2:目視でも白抜けが観察されたが、その程度はわずかであった
1:目視で、明らかな白抜けが観察された
【0219】
<評価9:耐ブロッキング性の評価>
評価1で使用したインクジェット印刷装置に、上記で製造した有彩色プロセスカラーインキのセット28~33のそれぞれを、上流側から、シアン、マゼンタ、イエローの順番で充填した。ポンプを稼働してインクジェットヘッド及び流路内をインキで満たした後、フタムラ化学社製FE2001(PETフィルム、厚さ12μm)上にベタパッチ画像を印刷し、10秒以内に印刷物を70℃エアオーブンに投入した。2分間乾燥させた後に印刷物をオーブンから取り出し、1色ごとに、4cm×4cm角にカットした。なおシアン色については、印刷物中に2個存在するベタパッチのうち片方のみを使用した。
次いで、カットしたベタパッチの印刷面と、上記フタムラ化学社製FE2001の裏面(非印刷面)とを重ね合わせて試験片とし、永久歪試験機にセットした。環境条件は、荷重10kg/cm2、温度40℃、80%RHとし、24時間静置した。そして当該永久歪試験機から試験片を取り出した後、90度の角度を保ちながら、重ねたPETフィルムを瞬間的に引張り剥がし、剥がした後の印刷面を目視で確認することで、耐ブロッキング性を評価した。評価基準は以下の通りとし、評価基準値2~4を実用可能領域とした。なお、表5に記載した評価結果は、最も評価結果が悪かった色のものである。
4:印刷面の取られは全くなかった
3:印刷面の取られが、全面積中10%以下であった
2:印刷面の取られが、全面積中10%超30%以下であった
1:印刷面の取られが、全面積中30%を超えていた