(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036800
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】電解コンデンサ用の電解液及び電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 9/035 20060101AFI20230307BHJP
H01G 9/022 20060101ALI20230307BHJP
H01G 9/028 20060101ALI20230307BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20230307BHJP
H01G 9/145 20060101ALI20230307BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
H01G9/035
H01G9/022
H01G9/028 G
H01G9/00 290C
H01G9/145
H01G9/15
H01G9/00 290E
H01G9/00 290H
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205130
(22)【出願日】2022-12-22
(62)【分割の表示】P 2018225331の分割
【原出願日】2018-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000236953
【氏名又は名称】富山薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【弁理士】
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【弁理士】
【氏名又は名称】比企野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100161997
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 大一郎
(72)【発明者】
【氏名】秋本 啓太
(72)【発明者】
【氏名】石田 晃浩
(72)【発明者】
【氏名】佐野 信
(72)【発明者】
【氏名】原部 実成
(72)【発明者】
【氏名】永山 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】浦本 昌英
(57)【要約】
【課題】過酷な環境下でも、長期にわたって高性能を維持できる電解コンデンサ用の電解液及びこの電解液を用いた電解コンデンサを提供する。
【解決手段】表面に誘電酸化被膜層を有する陽極箔、陰極箔、及び固体電解質層を有するコンデンサ素子と、該コンデンサ素子に含浸された電解液と、を有する電解コンデンサ用の電解液であり、前記電解液が、ヒドロキシ基とカルボキシル基を有する2~4の縮合環を有する化合物と無機酸との複合化合物若しくはその塩を含有する有機溶媒からなることを特徴とする電解コンデンサ用の電解液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に誘電酸化被膜層を有する陽極箔、陰極箔、及び固体電解質層を有するコンデンサ素子と、該コンデンサ素子に含浸された電解液と、を有する電解コンデンサ用の電解液であり、
前記電解液が、ヒドロキシ基とカルボキシル基を有する2~4の縮合環を有する有機化合物と無機酸との複合化合物若しくはその塩を含有する有機溶媒からなり、前記複合化合物若しくはその塩を5~15重量%含有することを特徴とする電解コンデンサ用の電解液。
【請求項2】
前記縮合環が、ナフタレン、アントラセン又はフェナントレンである、請求項1に記載の電解コンデンサ用の電解液。
【請求項3】
前記縮合環が、ナフタレンである、請求項1に記載の電解コンデンサ用の電解液。
【請求項4】
前記無機酸が、ホウ酸である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用の電解液。
【請求項5】
前記複合化合物の塩が、アンモニア、又は1~4級アミンとの塩である、請求項1~4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用の電解液。
【請求項6】
前記複合化合物の塩が、3級アミンとの塩である、請求項1~5のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用の電解液。
【請求項7】
前記固体電解質層が、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、又はそれらの誘導体の層である、請求項1~6のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用の電解液。
【請求項8】
前記溶媒が、ポリアルキレングリコール、γ―ブチロラクトン、γ―バレロラクトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール又はベンジルアルコールである、請求項1~7のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用の電解液。
【請求項9】
前記溶媒が、非プロトン性の極性溶媒である、請求項1~7のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用の電解液。
【請求項10】
前記複合化合物若しくはその塩を5~10重量%含有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用の電解液。
【請求項11】
さらに、ニトロ化合物からなる添加物を含有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用の電解液。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の電解液を使用する電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酷な環境下でも、長期にわたって高性能を維持できる電解コンデンサ用の電解液及びこの電解液を用いた電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、AV機器や車載用の電装機器などにおいては、高信頼化の要望がますます高まっている、そこで使用される電解コンデンサ用においても、小型、大容量、高周波領域における等価直列抵抗(以下、ESRともいう。)などの性能の向上が必要になっている。
【0003】
特に、電子機器の高周波化に伴い、電解コンデンサにおいても、高周波領域での等価直列抵抗(以下、ESRという)特性に優れた大容量の電解コンデンサが求められてきている。最近では、このような高周波領域におけるESRを低減するために、電解質として従来の駆動用電解液よりも電気伝導度の高い導電性ポリマー等の固体電解質又は固体電解質と電解液とを備えた電解コンデンサが検討され製品化されている。
【0004】
具体的には、ポリピロール、ポリチフェン、ポリアニリンなどの導電性ポリマーからなる固体電解質とともに、フタル酸、マレイン酸、アジピン酸、サリチル酸などのアンモニウム塩、アミン塩や、サリチル酸とほう酸の複合化合物であるボロジサリチル酸のアンモニウム、アミン塩などを含有し、γ―ブチロラクトン、γ―バレロラクトン、エチレングリコールなどの有機溶媒からなる電解液を含む電解コンデンサが使用されている。かかる電解コンデンサは、大容量を有し、かつ漏れ電流も小さいことから、高特性を有する電解コンデンサとして知られている(特許文献1~3参照)。
【0005】
また、車載用の電装機器などに使用される電解コンデンサおいては、最高使用温度が85~150℃となどの過酷な高温環境下において、しかも、長期にわたって、高性能を維持できる特性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5052746号公報
【特許文献2】特開2015-165550号公報
【特許文献3】特許第5305569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特に、車載用のAV機器や電装機器などにおける、最高使用温度が85~150℃となどの過酷な高温環境下においても、長期にわたって、大きい容量を維持することができ、かつ低いESRを維持できる電解コンデンサ用の電解液及びこの電解液を用いた電解コンデンサの提供を目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々研究を重ねたところ、下記の態様を有する本発明に到達した。
(1)表面に誘電体酸化被膜層を有する陽極箔、陰極箔、及び固体電解質層を有するコンデンサ素子と、該コンデンサ素子に含浸された電解液と、を有する電解コンデンサ用の電解液であり、
前記電解液が、ヒドロキシ基とカルボキシル基を有する2~4の縮合環を有する有機化合物と無機酸との複合化合物若しくはその塩を含有する有機溶媒からなることを特徴とする電解コンデンサ用の電解液。
【0009】
(2)前記縮合環が、ナフタレン、アントラセン又はフェナントレンである、上記(1)に記載の電解コンデンサ用の電解液。
(3)前記縮合環がナフタレンである、上記(1)に記載の電解コンデンサ用の電解液。
(4)前記無機酸がホウ酸である、上記(1)~(3)のいずれかに1項に記載の電解コンデンサ用の電解液。
(5)前記複合化合物の塩が、アンモニア、又は1~4級アミンとの塩である、上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用の電解液。
(6)前記複合化合物の塩が、3級アミンとの塩である、上記(1)~(5)のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用の電解液。
【0010】
(7)前記固体電解質層が、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、又はそれらの誘導体の層である、上記(1)~(6)のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用の電解液。
(8)前記溶媒が、ポリアルキレングリコール、γ―ブチロラクトン、γ―バレロラクトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール又はベンジルアルコールである、上記(1)~(7)のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用の電解液。
【0011】
(9)前記複合化合物若しくはその塩を0.1~40重量%含有する、上記(1)~(8)のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用の電解液。
(10)さらに、ニトロ化合物からなる添加物を含有する、上記(1)~(9)のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用の電解液。
(11)上記(1)~(10)のいずれか1項に記載の電解液を使用する電解コンデンサ。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電解液によれば、最高使用温度が85~150℃となどの過酷な高温環境下においても、長期にわたって、大きい容量を維持することができ、かつ低いESRを維持できる電解コンデンサ用の電解液が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<電解コンデンサ>
本発明の電解液は、表面に誘電性酸化被膜層を有する陽極及び陰極、固体電解質を有するコンデンサ素子と、該コンデンサ素子に含浸された電解液と、を有する電解コンデンサに使用される。
本発明で使用する固体電解質は、ドーパント成分をドープした導電性ポリマーである。導電性ポリマーとしては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン又はそれらの誘導体が用いられる。
【0014】
本発明で使用する固体電解質層は、上記ドーパント成分の存在下で導電性ポリマーのモノマーを化学酸化重合又は電解酸化重合することによって得ることができる。もしくは、化学酸化重合によって微粒子状に形成された導電性ポリマーを水等の溶媒に分散した分散液又は溶解した溶液を接触させることで得ることができる。また、上記化学酸化重合又は電解酸化重合は、上記ドーパント成分及び導電性ポリマーのモノマーの一部又は全てを、化学酸化ドープが起こりうる官能基を有するモノマーに置き換えても良い。
【0015】
導電性ポリマーのモノマーは、具体的には、3,4-エチレンジオキシチオフェン、メチル-3,4-エチレンジオキシチオフェン、エチル-3,4-エチレンジオキシチオフェン、プロピル-3,4-エチレンジオキシチオフェン、3,4-プロピレンジオキシチオフェン、メチル-3,4-プロピレンジオキシチオフェン、エチル-3,4-プロピレンジオキシチオフェン、プロピル-3,4-プロピレンジオキシチオフェン、3,4-エチレンジオキシフラン、メチル-3,4-エチレンジオキシフラン、エチル-3,4-エチレンジオキシフラン、プロピル-3,4-エチレンジオキシフラン、3,4-プロピレンジオキシフラン、メチル-3,4-プロピレンジオキシフラン、エチル-3,4-プロピレンジオキシフラン、プロピル-3,4-プロピレンジオキシフラン、3,4-エチレンジチアチオフェン、メチル-3,4-エチレンジチアチオフェン、エチル-3,4-エチレンジチアチオフェン、プロピル-3,4-エチレンジチアチオフェン、3,4-プロピレンジチアチオフェン、メチル-3,4-プロピレンジチアチオフェン、エチル-3,4-プロピレンジチアチオフェン、プロピル-3,4-プロピレンジチアチオフェン等が挙げられる。
上記のなかでも、電解コンデンサのESRが低い点が優れる、3,4-エチレンジオキシチオフェン、メチル-3,4-エチレンジオキシチオフェン、エチル-3,4-エチレンジオキシチオフェンが特に好ましい。
【0016】
上記ドーパント成分としては、高分子への化学酸化ドープが起こりうる官能基を有していればよく、硫酸エステル基、リン酸エステル基、リン酸基、カルボキシル基、スルホ基等が好ましい。これらの中でも、ドープ効果の点より、硫酸エステル基、カルボキシル基、スルホ基がより好ましく、スルホ基が特に好ましい。
ドーパント成分として、具体的には、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸、パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸、又はこれらの金属塩等が挙げられる。これらは単独の重合体であっても、2種類以上の共重合体であってもよい。これらの中でも、ポリスチレンスルホン酸が特に好ましい。
【0017】
上記化学酸化ドープが起こりうる官能基を有するモノマーの例としては6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸ナトリウム、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸リチウム、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸カリウム、8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸、8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸ナトリウム、8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-エチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-プロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸アンモニウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸トリエチルアンモニウム等が挙げられる。
【0018】
上記分散媒としては、水又は有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、セロソルブ類、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類等を用いることができる。
【0019】
本発明の導電性ポリマー分散液又は溶液には、高沸点有機溶媒を含有させてもよい。高沸点有機溶媒の中でも、特に沸点が150~250℃である高沸点有機溶媒が好ましい。該高沸点有機溶媒の具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、スルホラン、ジメチルスルホン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等が挙げられる。これらの中でも特にエチレングリコール又はγ-ブチロラクトンが、表面が均一な導電性ポリマーを含有する固体電解質層を形成できる点でより好ましい。
【0020】
導電性ポリマー分散液又は溶液における有機溶媒の含有量は、1~20質量%が好ましく、5~15質量%が特に好ましい。有機溶媒の含有量が1質量%未満の場合、表面が均一な導電性ポリマーを含有する固体電解質層を形成する効果に若干劣る問題があり、20質量%超の場合、乾燥工程に時間を要する問題がある。
また、導電性ポリマー分散液又は溶液には、成膜性、膜強度を調整するために、バインダ樹脂、界面活性剤、アルカリ化合物を含有させてもよい。導電性ポリマー分散液は、導電性ポリマーが分散媒に分散しているものであり、導電性ポリマーの一部が分散媒に溶解していてもよい。
【0021】
電解コンデンサに用いる陽極及び陰極としては、弁作用金属が好ましく、具体的には、アルミニウム、タンタル、ニオブ 及びチタンからなる群より選ばれる1種が挙げられ、なかでも、アルミニウムが好ましい。弁作用金属は、通常、焼結体又は箔の形状で用いられる。
電解コンデンサは、用いる陽極及び陰極の形状により、チップ型又は巻回型とすることができる。
【0022】
本発明の電解コンデンサでは、固体電解質の形成は、導電性ポリマーの分散液又は溶液にコンデンサ素子を浸漬などの手段により接触させ、溶媒を乾燥することにより形成させてもよいし、コンデンサ素子を導電性ポリマーのモノマー溶液に浸漬し、次いで、化学重合や電解重合により形成してもよい。
【0023】
(電解液)
本発明における電解液は、電解質を含有する有機溶媒を含有する。
本発明の電解液における電解質は、ヒドロキシ基とカルボキシル基を有する2~4の縮合環を有する化合物と無機酸との複合化合物若しくはその塩である。
かかる2~4の縮合環は、2~4個のベンゼン環が縮合したものであり、ナフタレン環、アントラセン環又はフェナントレン環が好ましく、なかでも、有機溶媒への溶解性の高いナフタレン環が好ましい。
これらの縮合環には、置換基を有していてもよく、置換基としては、好ましくは炭素数が1~8の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素数が1~8の直鎖又は分岐のアルコキシ基、炭素数が1~8の直鎖又は分岐のケトン基、炭素数が1~8の直鎖又は分岐のエステル基、ヒドロキシ基等が挙げられる。また、2以上の縮合環を有していてもよい。
【0024】
ヒドロキシ基とカルボキシル基を有する2~4の縮合環を有する化合物の好ましい具体例としては、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、2-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸、2,4-ジヒドロキシ-1-ナフトエ酸、3,6-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3,7-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3,8-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-6-メチル-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-7-メチル-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-8-メチル-2-ナフトエ酸、1-ヒドロキシ-4-メチル-2-ナフトエ酸、1-ヒドロキシ-7-メチル-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-6-メトキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-7-メトキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-8-メトキシ-2-ナフトエ酸、1-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ナフトエ酸、1-ヒドロキシ-7-メトキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-6-エチル-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-7-エチル-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-8-エチル-2-ナフトエ酸、1-ヒドロキシ-4-エチル-2-ナフトエ酸、1-ヒドロキシ-7-エチル-2-ナフトエ酸、1-ヒドロキシ-2-アントラセンカルボン酸、2-ヒドロキシ-1-アントラセンカルボン酸、3-ヒドロキシ-2-アントラセンカルボン酸、3-ヒドロキシ-6-メチル-2-アントラセンカルボン酸、3-ヒドロキシ-7-メチル-2-アントラセンカルボン酸、3-ヒドロキシ-6-メトキシ-2-アントラセンカルボン酸、3-ヒドロキシ-7-メトキシ-2-アントラセンカルボン酸、1-ヒドロキシ-2-フェナントレンカルボン酸、2-ヒドロキシ-1-フェナントレンカルボン酸、3-ヒドロキシ-2-フェナントレンカルボン酸、3-ヒドロキシ-6-メチル-2-フェナントレンカルボン酸、3-ヒドロキシ-7-メチル-2-フェナントレンカルボン酸、3-ヒドロキシ-6-メトキシ-2-フェナントレンカルボン酸、3-ヒドロキシ-7-メトキシ-2-フェナントレンカルボン酸などが挙げられる。
【0025】
また、2以上の縮合環を有する化合物の好ましい具体例としては、4,4’-メチレンビス(3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸)、4,4’-メチレンビス(3-ヒドロキシ-7-メチル-2-ナフトエ酸)、4,4’-メチレンビス(3-ヒドロキシ-7-メトキシ-2-ナフトエ酸)、2,2’-ジヒドロキシ-3,3’-ジカルボキシ-1,1’-ビナフチル、3,3’-ジカルボキシ-2,2’-ジヒドロキシ-6,6’-ジメチル-1,1’-ビナフチル、3,3’-ジカルボキシ-2,2’-ジヒドロキシ-6,6’-ジメトキシ-1,1’-ビナフチルなどが挙げられる。
【0026】
本発明において縮合環を有する化合物とともに複合化合物を形成する無機酸としては、ホウ酸、ジ亜リン酸、ほうフッ酸、リン酸、スルホン酸などが挙げられる。なかでも、特性が優れるホウ酸が好ましい。
【0027】
本発明におけるヒドロキシ基とカルボキシル基を有する2~4の縮合環を有する化合物とホウ酸との複合化合物の具体例としては、ボロビス(1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸)、ボロビス(2-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸)、ボロビス(3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸)、ボロビス(1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸)、ボロビス(2,4-ジヒドロキシ-1-ナフトエ酸)、ボロビス(3,6-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸)、ボロビス(3,7-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸)、ボロビス(3,8-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸)、ボロビス(3-ヒドロキシ-6-メチル-2-ナフトエ酸)、ボロビス(3-ヒドロキシ-7-メチル-2-ナフトエ酸)、ボロビス(3-ヒドロキシ-8-メチル-2-ナフトエ酸)、ボロビス(1-ヒドロキシ-4-メチル-2-ナフトエ酸)、ボロビス(1-ヒドロキシ-7-メチル-2-ナフトエ酸)、ボロビス(3-ヒドロキシ-6-メトキシ-2-ナフトエ酸)、ボロビス(3-ヒドロキシ-7-メトキシ-2-ナフトエ酸)、ボロビス(3-ヒドロキシ-8-メトキシ-2-ナフトエ酸)、ボロビス(1-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ナフトエ酸)、ボロビス(1-ヒドロキシ-7-メトキシ-2-ナフトエ酸)、ボロビス(3-ヒドロキシ-6-エチル-2-ナフトエ酸)、ボロビス(3-ヒドロキシ-7-エチル-2-ナフトエ酸)、ボロビス(3-ヒドロキシ-8-エチル-2-ナフトエ酸)、ボロビス(1-ヒドロキシ-4-エチル-2-ナフトエ酸)、ボロビス(1-ヒドロキシ-7-エチル-2-ナフトエ酸)、ボロビス(1-ヒドロキシ-2-アントラセンカルボン酸)、ボロビス(2-ヒドロキシ-1-アントラセンカルボン酸)、ボロビス(3-ヒドロキシ-2-アントラセンカルボン酸)、ボロビス(3-ヒドロキシ-6-メチル-2-アントラセンカルボン酸)、ボロビス(3-ヒドロキシ-7-メチル-2-アントラセンカルボン酸)、ボロビス(3-ヒドロキシ-6-メトキシ-2-アントラセンカルボン酸)、ボロビス(3-ヒドロキシ-7-メトキシ-2-アントラセンカルボン酸)、ボロビス(1-ヒドロキシ-2-フェナントレンカルボン酸)、ボロビス(2-ヒドロキシ-1-フェナントレンカルボン酸)、ボロビス(3-ヒドロキシ-2-フェナントレンカルボン酸)、ボロビス(3-ヒドロキシ-6-メチル-2-フェナントレンカルボン酸)、ボロビス(3-ヒドロキシ-7-メチル-2-フェナントレンカルボン酸)、ボロビス(3-ヒドロキシ-6-メトキシ-2-フェナントレンカルボン酸)、ボロビス(3-ヒドロキシ-7-メトキシ-2-フェナントレンカルボン酸)などが挙げられる。
【0028】
なかでも、ESRが上昇しにくい、ボロビス(3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸)、ボロビス(3-ヒドロキシ-7-メチル-2-ナフトエ酸)又はボロビス(3-ヒドロキシ-7-メトキシ-2-ナフトエ酸)が好ましい。
本発明におけるヒドロキシ基とカルボキシル基を有する2~4の縮合環を有する化合物とホウ酸との複合化合物は、原料であるヒドロキシ基とカルボキシル基を有する2~4の縮合環を有する化合物とホウ酸とから、両者を溶媒中で反応させるなどの既知の方法により得ることができる。
【0029】
本発明におけるヒドロキシ基とカルボキシル基を有する2~4の縮合環を有する化合物と無機酸との複合化合物の塩としては、アンモニア、又は1~4級アミンとの塩が好ましい。かかる1~4級アミンとしては、3級アミンが好ましい。
3級アミンとしては、トリアルキルアミン類(トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、メチルジエチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルn-プロピルアミン、ジメチルイソプロピルアミン、メチルエチルn-プロピルアミン、メチルエチルイソプロピルアミン、ジエチルn-プロピルアミン、ジエチルイソプロピルアミン、トリn-プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリn-ブチルアミン、トリtert-ブチルアミンなど)、フェニル基含有アミン(ジメチルフェニルアミン、メチルエチルフェニルアミン、ジエチルフェニルアミンなど)が挙げられる。
【0030】
なかでも、トリアルキルアミンであり、更に好ましくは、トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、メチルジエチルアミン及びトリエチルアミンからなる群より選ばれる1種以上を含むものである。
本発明におけるヒドロキシ基とカルボキシル基を有する2~4の縮合環を有する化合物とホウ酸との複合化合物の塩は、ドロキシ基とカルボキシル基を有する2~4の縮合環を有する化合物とホウ酸との複合化合物と、アンモニア、又は1~4級アミンとを溶媒中で反応させるなどの既知の方法により得ることができる。
【0031】
(有機溶媒)
電解液に用いる有機溶媒は、プロトン性極性溶媒又は非プロトン性極性溶媒を用いることができ、単独で用いても2種類以上混合して用いてもよい。
プロトン性極性溶媒としては、一価アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等)、多価アルコール類及びオキシアルコール化合物類(エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロピレングリコール、ジメトキシプロパノール等)などが挙げられる。
【0032】
非プロトン性の極性溶媒としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、アミド系(N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等)、スルホラン系(スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン等)、鎖状スルホン系(ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、エチルイソプロピルスルホン)、環状アミド系(N-メチル-2-ピロリドン等)、カーボネイト類(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、イソブチレンカーボネート等)、ニトリル系(アセトニトリル等)、スルホキシド系(ジメチルスルホキシド等)、2-イミダゾリジノン系〔1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノン(1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジ(n-プロピル)-2-イミダゾリジノン等)、1,3,4-トリアルキル-2-イミダゾリジノン(1,3,4-トリメチル-2-イミダゾリジノン等)〕等が挙げられる。
【0033】
電解液に用いる有機溶媒は、上記の中でも、コンデンサの容量発現が高い理由からスルホラン、γ-ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ベンジルアルコール及びグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。特には、γ-ブチロラクトン又はエチレングリコールが好ましい。
【0034】
本発明の電解液における上記電解質の含有量は、0.1~40質量%が好ましく、1~20質量%がより好ましく、5~15質量%が特に好ましい。電解質の含有量が0.1質量%未満の場合、十分な電気特性が得られにくく、一方、40質量%超の場合、高温環境下において低いESRの維持率が悪くなる。
【0035】
<添加物質>
本発明の電解液に、電解コンデンサの寿命性能や抵抗性能などの特性を改善する目的で、上記電解質以外の添加することができる。かかる添加物質は、特に限定されるものではない。例えば、以下のものが挙げられる。
リン系化合物(リン酸エステルなど)、ホウ酸系化合物(ホウ酸、ホウ酸と多糖類[マンニット、ソルビットなど]との錯化合物)、ホウ酸と多価アルコール(エチレングリコール、グリセリンなど)との錯化合物、ニトロ化合物(o-ニトロ安息香酸、m-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノールなど)が挙げられる。これら添加剤を加えることで駆動用電解液の火花電圧を上昇させることができる場合がある。
【0036】
また、電解液には酸化防止剤を添加することができ、その酸化防止剤としてはフェノール化合物、アミン化合物、アゾ化合物、シラン化合物、キノン化合物、カルボン酸化合物が挙げられる。
【実施例0037】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内での変更が可能である。
(導電性ポリマー分散液の調製)
ドーパント成分である、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量:50,000)の20質量%水溶液12.2gを、水187.5gに混合して10分間攪拌した。次に、モノマーとしての3,4-エチレンジオキシチオフェン2.04gを投入してさらに15分間攪拌しモノマー溶液を調製した。得られたモノマー溶液は、薄い黄色を呈していた。
【0038】
上記モノマー溶液に含まれるポリスチレンスルホン酸の量は、モノマー溶液に含まれる3,4-エチレンジオキシチオフェン100質量部に対して119質量部であった。モノマー溶液を攪拌しながら、酸化剤としての硫酸鉄(III)0.012gと、過硫酸アンモニウム4.46gを滴下して、室温下で15時間攪拌して化学酸化重合を行った。このときモノマー溶液は、薄い黄色から濃紺色へ変化した。次いで、得られた反応液に対して、両性イオン交換樹脂(オルガノ社商品名:MB-1、イオン交換形:-H、-OH)を50.1g投入して、2時間攪拌した。これにより、反応溶液のpHは1.15から1.83に変化した。これにより、1.3質量%のポリスチレンスルホン酸がドーピングされたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含有する導電性ポリマー分散液を調製した。
【0039】
(コンデンサの作製)
表面をエッチング処理した後に化成処理を行って酸化皮膜層を形成し、リード端子を取り付けたアルミニウム陽極箔と、表面をエッチング処理しリード端子を取り付けたアルミニウム陰極箔とをセルロース繊維からなるセパレータ(厚み0.05mm)を介して巻回して、コンデンサ素子を作製した。
【0040】
このコンデンサ素子を上記導電性ポリマー分散液に浸漬し、コンデンサ素子を引き上げた後150℃で30分間乾燥し溶媒を蒸発させることにより、導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成した。次いで、表1に示す組成の電解液をこのコンデンサ素子に含浸した後、コンデンサ素子を有底筒状のアルミニウムケースに挿入し、開口端部に封口ゴムを装着して、カーリング加工することにより封止した。その後エージング処理を施し、アルミニウム電解コンデンサを形成した。
このコンデンサの定格電圧は35Vであり、封止後の外形寸法は、直径10mm、高さ16mmを有する円筒形であった。
【0041】
(コンデンサ試験)
作製したコンデンサを150℃雰囲気下で定格電圧の負荷試験を行い、容量(120Hz)及びESR(100kHz)の測定を行った。その結果を表1に示す。
なお、容量変化率は、(1000時間後の容量 / 初期容量 ‐1)の百分率で表し、また、ESR変化率は、(1000時間後のESR / 初期ESR ‐1)の百分率を表す。
【0042】
本発明の電解液は、AV機器、携帯電話、ノートパソコンなどの各種民生用機器用電源、車載用の電装機器、産業機器などにおいて多用される電解コンデンサにおける電解液として広く使用される。