IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アールエスイーエム・リミテッド・パートナーシップの特許一覧

特開2023-36864SASPモジュレータおよび老化アテニュエータを含む組成物、ならびに細胞老化を調節するためのその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036864
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】SASPモジュレータおよび老化アテニュエータを含む組成物、ならびに細胞老化を調節するためのその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230307BHJP
   A61K 31/155 20060101ALI20230307BHJP
   A61K 31/381 20060101ALI20230307BHJP
   A61K 31/404 20060101ALI20230307BHJP
   A61K 31/69 20060101ALI20230307BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20230307BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20230307BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230307BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20230307BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20230307BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20230307BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230307BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230307BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20230307BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230307BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230307BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230307BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230307BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230307BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230307BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230307BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20230307BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20230307BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230307BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61K31/155
A61K31/381
A61K31/404
A61K31/69
A61K31/7088
A61K31/713
A61K35/76
A61K35/761
A61K38/16
A61K38/17
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K47/68
A61K48/00
A61P1/00
A61P1/16
A61P1/18
A61P3/04
A61P3/06
A61P3/10
A61P9/00
A61P9/10
A61P9/10 101
A61P9/10 103
A61P11/00
A61P13/12
A61P17/00
A61P17/02
A61P17/14
A61P19/00
A61P19/02
A61P19/10
A61P21/00
A61P25/16
A61P25/28
A61P27/02
A61P27/06
A61P43/00 111
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/86 Z
C12N15/113 Z
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209256
(22)【出願日】2022-12-27
(62)【分割の表示】P 2019536626の分割
【原出願日】2017-09-22
(31)【優先権主張番号】62/398,183
(32)【優先日】2016-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/398,797
(32)【優先日】2016-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/398,819
(32)【優先日】2016-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】515228759
【氏名又は名称】アールエスイーエム,リミテッド パートナーシップ
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】サピエハ,プシェミスワフ
(72)【発明者】
【氏名】マレット,フレデリック アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】オバハ,マリカ
(72)【発明者】
【氏名】ボーリュー,ノーマンド
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン,アリエル
(57)【要約】      (修正有)
【課題】細胞の細胞老化または細胞内の老化関連分泌表現型(SASP)の誘導を調節するための組成物および方法を提供する。
【解決手段】方法は、細胞老化およびSASPの誘導を制御するための手段として、IRE1αのレベルまたは活性を調節することを含む。対象の眼の中の細胞をビグアニド化合物およびビグアニド化合物を含む眼科用組成物と接触させることを含む、眼血管疾患を治療および予防するための方法も記載される。
【選択図】図20
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEMA3Aのレベルまたは活性を低下させることを含む、(i)細胞の老化、または(ii)細胞の老化関連分泌表現型(SASP)を阻害または予防する方法。
【請求項2】
前記方法が、前記細胞をSEMA3Aアンタゴニストと接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(i)細胞の老化、または(ii)対象における細胞の老化関連分泌表現型を阻害または予防する方法であって、有効量のSEMA3Aアンタゴニストを前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項4】
前記SEMA3Aアンタゴニストが、(a)SEMA3A抗体、(b)SEMA3AアンチセンスもしくはshRNA、および/または(c)SEMA3Aまたはその機能的多様体もしくは断片に結合する可溶性NRP1ポリペプチド(NRP1トラップ)である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記可溶性NRP1ポリペプチドが、表2に記載のNRP1トラップまたはその機能的多様体もしくは断片である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞が、ニューロン、ミクログリア細胞、内皮細胞、骨髄細胞、単球、マクロファージ、または脂肪組織細胞である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞が最終分化細胞である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記老化がパラクリン老化である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記老化が、細胞性虚血に続発する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が、前記細胞においてIRE1αの活性化、ならびにPai1、IL-6、Il-1β、TGF-b、tp53、XBP1(複数可)、および/またはVegfaの発現を減少させる、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
SEMA3Aアンタゴニストおよび担体を含む、(i)細胞の老化、または(ii)細胞の老化関連分泌表現型を阻害または予防するための組成物。
【請求項12】
細胞の老化または細胞の老化関連分泌表現型を阻害または予防するためのSEMA3Aアンタゴニストの使用。
【請求項13】
前記SEMA3Aアンタゴニストが、(a)SEMA3A抗体、(b)SEMA3AアンチセンスもしくはshRNA、および/または(c)(i)SEMA3Aまたはその機能的多様体もしくは断片に結合する可溶性NRP1ポリペプチド(NRP1トラップ)であるか、または(ii)(i)の前記ポリペプチドをコードする核酸、または前記核酸を含むベクターである、請求項11に記載の組成物または請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記細胞が、ニューロン、ミクログリア細胞、内皮細胞、骨髄細胞、単球、マクロファージ、または脂肪組織細胞である、請求項11もしくは13に記載の組成物、または請求項12もしくは13に記載の使用。
【請求項15】
前記細胞が最終分化細胞である、請求項11もしくは13に記載の組成物、または請求項12もしくは13に記載の使用。
【請求項16】
前記老化がパラクリン老化である、請求項11、13~15のいずれか一項に記載の組成物、または請求項12~15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
前記アンタゴニストが、前記細胞において、IRE1αの活性化、ならびにPai1、IL-6、II-1b、TGF-b、tp53、XBP1(複数可)、およびVegfaの発現を減少させる、請求項11、13~16のいずれか一項に記載の組成物、または請求項12~16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
(i)細胞の老化を阻害または予防するための、または(ii)細胞の老化関連分泌表現型(SASP)のための医薬品の調製に使用するためのSEMA3Aアンタゴニスト。
【請求項19】
前記アンタゴニストが、(a)SEMA3A抗体、(b)SEMA3AアンチセンスもしくはshRNA、および/または(c)(i)可溶性NRP1ポリペプチド(NRP1トラップ)またはその機能的多様体もしくは断片、または(ii)(i)の前記ポリペプチドをコードする核酸、または前記核酸を含むベクターである、請求項18に記載の使用のためのSEMA3Aアンタゴニスト。
【請求項20】
前記細胞は、サルコペニア、神経変性、表皮の薄化、皮膚の皺、抜け毛、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、アテローム性動脈硬化症、変形性関節症、骨粗鬆症、パーキンソン病、腸管疾患、緑内障、椎間板変性、脳動脈瘤、大動脈瘤、膵臓線維症、または嚢胞性線維症、肥満、またはメタボリックシンドロームを患っている対象からのものである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法、請求項11、13~17のいずれか一項に記載の組成物、請求項12~17のいずれか一項に記載の使用、または請求項18または19に記載の使用のためのSEMA3Aアンタゴニスト。
【請求項21】
SEMA3Aレベルまたは活性を増大させることを含む、細胞の老化または細胞の老化関連分泌表現型(SASP)を刺激または誘導する方法。
【請求項22】
細胞をSEMA3Aポリペプチドまたはその機能的多様体もしくは断片と接触させることを含む、細胞の老化または細胞の老化関連分泌表現型を刺激または誘導する方法。
【請求項23】
SEMA3Aポリペプチドを発現させるために、SEMA3Aポリペプチド、もしくはその機能的多様体もしくは断片、または前記SEMA3Aポリペプチド、もしくはその機能的多様体もしくは断片をコードする核酸を対象に投与することを含む、細胞の老化または対象の細胞の老化関連分泌表現型を刺激または誘導する方法。
【請求項24】
創傷治癒(例えば、皮膚創傷治癒)を改善するための、請求項21~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞におけるIRE1αの活性化、ならびにPai1、IL-6、II-1b、TGF-b、tp53、XBP1(複数可)、および/またはVegfaの発現を増加させる、請求項21~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
SEMA3Aポリペプチド、もしくはその機能的多様体もしくは断片、または前記SEMA3Aポリペプチド、もしくはその機能的多様体もしくは断片をコードする核酸を含む、細胞の老化または細胞の老化関連分泌表現型を刺激または誘導するための組成物。
【請求項27】
細胞の老化または細胞の老化関連分泌表現型を刺激または誘導するためのSEMA3Aポリペプチドまたはその機能的多様体もしくは断片の使用。
【請求項28】
前記細胞が、肝線維症、肺高血圧症、心筋梗塞、癌、腎線維症または心臓線維化を有するかまたは有する危険性がある対象に由来する、請求項26に記載の組成物または請求項27に記載の使用。
【請求項29】
創傷治癒を改善するための、請求項26もしくは28に記載の組成物、または請求項27もしくは28に記載の使用。
【請求項30】
細胞の老化または細胞の老化関連分泌表現型を誘導するための医薬品の調製に使用するためのSEMA3Aポリペプチドまたはその機能的多様体もしくは断片。
【請求項31】
細胞の老化または細胞の老化関連分泌表現型の刺激または誘導に使用するためのSEMA3Aポリペプチドまたはその機能的多様体もしくは断片。
【請求項32】
前記細胞が、肝線維症、肺高血圧症、心筋梗塞、または心臓線維化を有するかまたは有する危険性がある対象に由来する、請求項30または31に記載の使用のためのSEMA3Aポリペプチドまたはその機能的多様体もしくは断片。
【請求項33】
創傷治癒を改善するための、請求項30または31に記載の使用するためのSEMA3Aポリペプチドまたはその機能的多様体もしくは断片。
【請求項34】
細胞の老化または細胞の老化関連分泌表現型を刺激または誘導するための医薬品の調製に使用するためのSEMA3Aポリペプチドまたはその機能的多様体もしくは断片をコードする核酸。
【請求項35】
前記細胞が、肝線維症、肺高血圧症、心筋梗塞または心臓線維化を有するかまたは有する危険性がある対象に由来する、請求項34に記載の核酸。
【請求項36】
請求項35または36に記載の核酸を含むベクター。
【請求項37】
請求項36に記載のベクターを含む細胞。
【請求項38】
SASP阻害剤を対象に投与することを含む、血管性眼疾患または障害を治療または予防する方法であって、前記SASP阻害剤が、(i)IRE1αの発現の阻害剤、(ii)IRE1α RNAseの活性の阻害剤、(ii)ビグアニド化合物、または(iii)mTOr阻害剤である、方法。
【請求項39】
前記血管性眼疾患または障害が、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、虚血性網膜症、高血圧性網膜症、薬物誘発性網膜血管症、糖尿病性黄斑浮腫、加齢性黄斑変性症、若年性黄斑変性症、網膜血管新生、網膜中心静脈閉塞症、分岐網膜静脈閉塞症、脈絡膜血管新生、ポリープ状脈絡膜血管症、目に対する物理的な傷害、緑内障、裂孔原性網膜剥離(RRD)、網膜血管炎、網膜マクロ動脈瘤、網膜細動脈瘤、フックスジストロフィー症、虚血性視神経症、黄斑性毛細血管拡張症、視神経炎、アッシャー症候群、網膜色素変性症、ぶどう膜炎、虚血性視神経症(ION)、またはシュタルガルト病である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記血管性眼疾患もしくは障害が、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、加齢性黄斑浮腫、網膜血管新生、網膜中心静脈閉塞症、分枝網膜静脈閉塞症、または脈絡膜血管新生である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記血管性眼疾患または障害が、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、乾性(萎縮性)加齢黄斑変性症、湿性(滲出性)加齢黄斑変性症、分枝網膜静脈閉塞症、または黄斑性毛細血管拡張症である、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
SASP阻害剤を対象に投与することを含む、網膜血管形成を阻害する方法であって、前記SASP阻害剤が、(i)IRE1αの発現の阻害剤、(ii)IRE1α RNAseの活性の阻害剤、(iii)ビグアニド化合物、または(iv)mTOr阻害剤である、方法。
【請求項43】
前記網膜血管形成が、細胞性虚血に続発する、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記対象が、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、加齢性黄斑変性症、網膜中心静脈閉塞症、分枝網膜静脈閉塞症、脈絡膜血管新生、ポリープ状脈絡膜血管症、黄斑性毛細血管拡張症と診断されている、請求項38~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
SASP阻害剤を対象に投与することを含む、眼球血管修復を促進するおよび/または眼虚血を軽減する方法であって、前記SASP阻害剤が、(i)IRE1αの発現の阻害剤、(ii)IRE1α RNAseの活性の阻害剤、(iii)ビグアニド化合物、または(iv)mTOr阻害剤である、方法。
【請求項46】
SASP阻害剤を対象に投与することを含む、眼の細胞老化を予防または低減する方法であって、前記SASP阻害剤が、(i)IRE1αの発現の阻害剤、(ii)IRE1α RNAseの活性の阻害剤、(iii)ビグアニド化合物、または(iv)mTOr阻害剤である、方法。
【請求項47】
前記投与は局所または局所眼投与である、請求項38~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記局所眼投与は、結膜下(テノン嚢下)、硝子体内、眼球後部、後強膜近傍または房内投与である、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記局所眼投与は、硝子体内投与である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記SASP阻害剤がビグアニド化合物である、請求項38~49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記ビグアニド化合物が、メトホルミン、フェンホルミン、ブホルミン、プログアニル、クロルプログアニル、シンタリンAまたはシンタリンBである、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記ビグアニド化合物がメトホルミンである、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
ビグアニド化合物と好適な医薬担体とを含む眼科用組成物。
【請求項54】
前記ビグアニド化合物が、(i)メトホルミン、(ii)フェンホルミン、(iii)ブホルミン、(iv)プログアニル、(v)クロルプログアニル、(vi)シンタリンA、(vii)シンタリンB、または(iv)それらの任意の組み合わせである、請求項53に記載の眼科用組成物。
【請求項55】
前記ビグアニド化合物がメトホルミンである、請求項54に記載の眼科用組成物。
【請求項56】
血管性眼疾患または障害を治療または予防するためのものである、請求項53~55のいずれか一項に記載の眼科用組成物。
【請求項57】
網膜血管形成を阻害するための、請求項53~55のいずれか一項に記載の眼科用組成物。
【請求項58】
眼球血管修復を促進するため、および/または眼虚血を軽減するための、請求項53~55のいずれか一項に記載の眼科用組成物。
【請求項59】
血管性眼疾患または障害の治療または予防に使用するための、SASP阻害剤を含む組成物であって、前記SASP阻害剤が、(i)IRE1αの発現の阻害剤、(ii)IRE1α RNAseの活性の阻害剤、または(iii)mTOr阻害剤である、組成物。
【請求項60】
前記血管性眼疾患または障害が、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、虚血性網膜症、高血圧性網膜症、薬物誘発性網膜血管症、糖尿病性黄斑浮腫、加齢性黄斑変性症、若年性黄斑変性症、網膜血管新生、網膜中心静脈閉塞症、分岐網膜静脈閉塞症、脈絡膜血管新生、ポリープ状脈絡膜血管症、目に対する物理的な傷害、緑内障、裂孔原性網膜剥離(RRD)、網膜血管炎、網膜マクロ動脈瘤、網膜細動脈瘤、フックスジストロフィー症、虚血性視神経症、黄斑性毛細血管拡張症、視神経炎、アッシャー症候群、網膜色素変性症、ぶどう膜炎、虚血性視神経症(ION)、またはシュタルガルト病である、請求項59に記載の組成物。
【請求項61】
網膜血管形成の阻害使用するための、SASP阻害剤を含む組成物であって、前記SASP阻害剤が、(i)IRE1αの発現の阻害剤、(ii)IRE1α RNAseの活性の阻害剤、または(iii)mTOr阻害剤である、組成物。
【請求項62】
眼血管修復の促進、および/もしくは眼虚血の軽減に使用するための、SASP阻害剤を含む組成物であって、前記SASP阻害剤が、(i)IRE1αの発現の阻害剤、(ii)IRE1α RNAseの活性の阻害剤、または(iii)mTOr阻害剤である、組成物。
【請求項63】
眼細胞老化の予防または軽減に使用するための、SASP阻害剤を含む組成物であって、前記SASP阻害剤が、(i)IRE1αの発現の阻害剤、(ii)IRE1α RNAseの活性の阻害剤、または(iii)mTOr阻害剤である、組成物。
【請求項64】
前記組成物が眼科用組成物である、請求項59~63のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項65】
血管性眼疾患または障害を治療または予防するためのものである、請求項53~55、59、60のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項66】
(i)網膜血管形成を阻害する、(ii)病理学的網膜血管新生を阻害する、(iii)眼血管修復を促進する、(iv)眼虚血を軽減する、かつ/または(v)眼細胞老化を予防または軽減するための、請求項53~55のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項67】
血管性眼疾患または障害を治療または予防するための医薬品の調製において使用するための、請求項53~55のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項68】
(i)網膜血管形成を阻害する、(ii)眼血管修復を促進するおよび/もしくは眼虚血を軽減する、かつ/または(v)眼細胞老化を予防または軽減するための、医薬品の調製に使用するための、請求項53~55のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項69】
(i)網膜血管形成を阻害する、(ii)病理学的網膜血管新生を阻害する、(iii)眼血管修復を促進する、(iv)眼虚血を軽減する、かつ/または(v)眼細胞老化を予防または軽減するための、SASP阻害剤を含み、前記SASP阻害剤である、組成物の使用。
【請求項70】
血管性眼疾患または障害の治療または予防のための、医薬品の調製に使用するためのSASP阻害剤を含む組成物であって、前記SASP阻害剤が、(i)IRE1αの発現の阻害剤、(ii)IRE1α RNAseの活性の阻害剤、または(iii)mTOr阻害剤である、組成物。
【請求項71】
(i)網膜血管形成(病理学的的網膜血管新生)を阻害する、(ii)眼血管修復を促進する、(iii)眼虚血を軽減する、かつ/または(iv)眼細胞老化を予防または軽減するための医薬品の調製に使用するための、SASP阻害剤を含む組成物であって、(i)IRE1αの発現の阻害剤、(ii)IRE1α RNAseの活性の阻害剤、または(iii)mTOr阻害剤である、組成物。
【請求項72】
IRE1αの発現または活性を低下させることを含む、(i)細胞の老化、または(ii)細胞の老化関連分泌表現型を阻害または予防する方法。
【請求項73】
前記活性がIRE1αリボヌクレアーゼ活性を含む、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
前記方法が、前記細胞をIRE1α阻害剤と接触させることを含む、請求項72または73に記載の方法。
【請求項75】
(i)細胞の老化、または(ii)対象の細胞の老化関連分泌表現型を阻害または予防する方法であって、IRE1α阻害剤を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項76】
前記阻害剤が、IRE1α、4u8c、ボルテゾミブ、N-[(2-ヒドロキシ-1-ナフタレニル)メチレン]-2-チオフェンスルホンアミド(STF-083010)、またはMKC-3946に対するアンチセンスもしくはshRNAである、請求項72~75のいずれか一項に記載の方法。
【請求項77】
前記細胞が最終分化細胞である、請求項72~76のいずれか一項に記載の方法。
【請求項78】
前記細胞がニューロンまたはミクログリア細胞である、請求項77に記載の方法。
【請求項79】
前記老化がパラクリン老化である、請求項72~78のいずれか一項に記載の方法。
【請求項80】
前記SASPが細胞性虚血に続発する、請求項72~79のいずれか一項に記載の方法。
【請求項81】
前記細胞におけるIRE1αの活性化、SA-β-galの活性、および/またはPai1、IL-6、Il-1b、TGF-b、tp53、XBP1(複数可)、および/またはVegfaの発現を減少させる、請求項72~80のいずれか一項に記載の方法。
【請求項82】
IRE1α阻害剤を含む、(i)細胞の老化、または(ii)細胞の老化関連分泌表現型を阻害または予防するための組成物。
【請求項83】
(i)細胞の老化、または(ii)細胞の老化関連分泌表現型を阻害または予防するためのIRE1α阻害剤の使用。
【請求項84】
前記IRE1α阻害剤が、IRE1α、4u8c、ボルテゾミブ、N-[(2-ヒドロキシ-1-ナフタレニル)メチレン]-2-チオフェンスルホンアミド(STF-083010)、またはMKC-3946に対するアンチセンスもしくはshRNAである、請求項82に記載の組成物、または請求項83に記載の使用。
【請求項85】
前記細胞が最終分化細胞である、請求項82もしくは84に記載の組成物、または請求項83もしくは84に記載の使用。
【請求項86】
前記細胞がニューロンまたはミクログリア細胞である、請求項85に記載の組成物または使用。
【請求項87】
前記老化がパラクリン老化である、請求項82、84~86のいずれか一項に記載の組成物、または請求項83~86のいずれか一項に記載の使用。
【請求項88】
前記SASPが細胞性虚血に続発する、請求項82、84~87のいずれか一項に記載の組成物、または請求項83~87のいずれか一項に記載の使用。
【請求項89】
前記細胞におけるIRE1αの活性化、SA-β-galの活性、および/またはPai1、IL-6、Il-1b、TGF-b、tp53、XBP1(複数可)、および/またはVegfaの発現を減少させる、請求項82、84~88のいずれか一項に記載の組成物、または請求項83~88のいずれか一項に記載の使用。
【請求項90】
(i)細胞の老化、または(ii)細胞の老化関連分泌表現型を阻害または予防するための医薬品の調製に使用するためのIRE1α阻害剤。
【請求項91】
前記阻害剤が、IRE1α、ボルテゾミブ、N-[(2-ヒドロキシ-1-ナフタレニル)メチレン]-2-チオフェンスルホンアミド(STF-083010)、またはMKC-3946に対するアンチセンスもしくはshRNAである、請求項90に記載の使用のためのIRE1α阻害剤。
【請求項92】
前記細胞は、サルコペニア、神経変性、表皮の薄化、皮膚の皺、抜け毛、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、アテローム性動脈硬化症、変形性関節症、骨粗鬆症、パーキンソン病、腸管疾患、緑内障、椎間板変性、脳動脈瘤、大動脈瘤、膵臓線維症、または嚢胞性線維症を患っているか、またはその危険性のある対象からのものである、請求項72~81のいずれか一項に記載の方法、請求項82、84~89のいずれか一項に記載の組成物、請求項83~89のいずれか一項に記載の使用、または請求項90もしくは91に記載の使用のためのIRE1α阻害剤。
【請求項93】
前記細胞が、癌治療を受けたことがある、または癌治療を受けている対象からのものである、請求項72~81、92のいずれか一項に記載の方法、請求項82、84~89、92のいずれか一項に記載の組成物、請求項83~89、92のいずれか一項に記載の使用、または請求項90~92のいずれか一項に記載の使用のためのIRE1α阻害剤。
【請求項94】
前記細胞が、網膜細胞ではなく、かつ前記老化が網膜血管疾患と関連していない、請求項72~81、92、93のいずれか一項に記載の方法、請求項82、84~89、92、93のいずれか一項に記載の組成物、請求項83~89、92、93のいずれか一項に記載の使用、請求項90~93のいずれか一項に記載の使用のためのIRE1α阻害剤。
【請求項95】
IRE1αレベルまたは活性を増大させることを含む、細胞の老化または細胞の老化関連分泌表現型(SASP)を刺激または誘導する方法。
【請求項96】
前記方法が、前記細胞をIRE1αレベルまたは活性を増大させる化合物と接触させることを含む、請求項95に記載の方法。
【請求項97】
細胞の老化または対象の細胞の老化関連分泌表現型を刺激または誘導する方法であって、IRE1αレベルまたは活性を増大させる有効量の化合物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項98】
前記化合物がApy29またはスニチニブである、請求項96または97に記載の方法。
【請求項99】
前記細胞が、肝線維症、腎線維症、肺高血圧症、心筋梗塞または心臓線維化を有するかまたは有する危険性がある対象に由来する、請求項96~98のいずれか一項に記載の方法。
【請求項100】
創傷治癒を改善するための、請求項96~99のいずれか一項に記載の方法。
【請求項101】
前記方法は、前記細胞におけるIRE1αの活性化、SA-β-galの活性、および/またはPai1、IL-6、Il-1b、TGF-b、tp53、XBP1(複数可)、および/またはVegfaの発現を増加させる、請求項96~100のいずれか一項に記載の方法。
【請求項102】
IRE1αレベルまたは活性を増大させる化合物を含む、細胞の老化または細胞内の老化関連分泌表現型を刺激または誘導するための組成物。
【請求項103】
前記化合物がApy29またはスニチニブである、請求項102に記載の組成物。
【請求項104】
細胞の老化または細胞内の老化関連分泌表現型を刺激または誘導するためのIRE1αレベルまたは活性を増大させる化合物の使用。
【請求項105】
前記細胞が、肝線維症、腎線維症、肺高血圧症、心筋梗塞、または心臓線維化を有するかまたは有する危険性がある対象に由来する、請求項102もしくは103に記載の組成物または請求項67に記載の使用。
【請求項106】
創傷治癒を改善するための、請求項102、103もしくは105のいずれか一項に記載の組成物、または請求項67もしくは68に記載の使用。
【請求項107】
細胞の老化または細胞内において老化関連分泌表現型を誘導するための医薬品の調製において使用するためのIRE1αレベルまたは活性を増大させる化合物。
【請求項108】
細胞の老化または細胞内の老化関連分泌表現型の刺激または誘導に使用するためのIRE1αを増加させる化合物。
【請求項109】
前記細胞が、肝線維症、腎線維症、肺高血圧症、心筋梗塞または心臓線維化を有するかまたは有する危険性がある対象に由来する、請求項107または108に記載の使用のための化合物。
【請求項110】
創傷治癒を改善するための、請求項108~109のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項111】
対象において脂質パラメータを変更する方法であって、前記方法は、前記対象に、(a)可溶性NRP1ポリペプチド、もしくはその多様体もしくは断片、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物を投与することを含み、
前記脂質パラメータの変更は、(a)総コレステロールレベルを低下させること、(b)非HDLコレステロールレベルを低下させること、(c)トリグリセリドレベルを低下させること、(d)総コレステロール:HDLコレステロールの比を低下させること、(e)循環遊離脂肪酸を減少させること、(f)HDLコレステロールを上昇させること、または(f)(a)~(e)のいずれかの組み合わせである、方法。
【請求項112】
対象において脂肪蓄積に関連する疾患または状態を予防または治療するための方法であって、前記対象に(a)可溶性NRP1ポリペプチド、もしくはその機能的多様体もしくは断片、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物を投与することを含む、方法。
【請求項113】
脂肪蓄積に関連する前記疾患または状態は、高体格指数(BMI)、肥満、メタボリックシンドローム、NAFLD、心血管疾患(CVD)、高血圧および/またはII型糖尿病(TIIDM)である、請求項112に記載の方法。
【請求項114】
前記心血管疾患は、鬱血性心不全、高コレステロール血症、および/またはアテローム性動脈硬化症である、請求項113に記載の方法。
【請求項115】
対象において体組成パラメータを変更するための方法であって、前記方法は、対象に(a)可溶性NRP1ポリペプチド、もしくはその機能的多様体もしくは断片、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物を投与することを含み、
前記体組成パラメータは、内臓脂肪面積(VFA)、体格指数(BMI)、ウエストヒップ比(WHR)、ウエストと身長の比率(WHeR)、胴囲(WC)、上腕囲(AC)、円錐度指数、体脂肪率(PBF)、上腕三頭筋皮下脂肪、肩甲骨下皮膚襞、白色脂肪組織(WAT)レベル、または褐色脂肪性(BAT)組織レベルである、方法。
【請求項116】
前記可溶性NRP1ポリペプチドまたはその断片が、表2に記載されているか、または図17もしくは図18に記載されているNRP1ポリペプチドトラップを含むかまたはそれからなる、請求項111~115のいずれか一項に記載の方法。
【請求項117】
前記可溶性NRP1ポリペプチドまたはその機能的多様体もしくは断片が全身投与される、請求項111~116のいずれか一項に記載の方法。
【請求項118】
対象において脂質パラメータを変更するために、(a)可溶性NRP1ポリペプチド、もしくはその機能的多様体もしくは断片、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物を含む組成物であって、
前記脂質パラメータの変更は、(a)総コレステロールレベルを低下させること、(b)非HDLコレステロールレベルを低下させること、(c)トリグリセリドレベルを低下させること、(d)総コレステロール:HDLコレステロールの比を低下させること、(e)循環遊離脂肪酸を減少させること、(f)HDLコレステロールを上昇させること、または(f)(a)~(e)のいずれかの組み合わせである、組成物。
【請求項119】
対象における脂肪蓄積に関連する疾患または状態を予防または治療するための、(a)可溶性NRP1ポリペプチド、もしくはその機能的多様体もしくは断片、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物を含む組成物。
【請求項120】
脂肪蓄積に関連する前記疾患または状態は、高体格指数(BMI)、肥満、メタボリックシンドローム、NAFLD、心血管疾患(CVD)、高血圧および/またはII型糖尿病(TIIDM)である、請求項119に記載の組成物。
【請求項121】
前記心血管疾患は、鬱血性心不全、高コレステロール血症、および/またはアテローム性動脈硬化症である、請求項120に記載の組成物。
【請求項122】
対象において体組成パラメータを変更するために、(a)可溶性NRP1ポリペプチド、もしくはその機能的多様体もしくは断片、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物を含む組成物であって、
前記体組成パラメータは、内臓脂肪面積(VFA)、体格指数(BMI)、ウエストヒップ比(WHR)、ウエストと身長の比率(WHeR)、胴囲(WC)、上腕囲(AC)、円錐度指数、体脂肪率(PBF)、上腕三頭筋皮下脂肪、肩甲骨下皮膚襞、白色脂肪組織(WAT)レベル、または褐色脂肪性(BAT)組織レベルである、組成物。
【請求項123】
前記可溶性NRP1ポリペプチドが、表2に記載されているか、または図17もしくは図18に記載されているNRP1ポリペプチドトラップを含むかまたはそれからなる、請求項118~122のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項124】
前記可溶性NRP1ポリペプチドまたはその機能的多様体もしくは断片が、全身投与のためのものである、請求項118~123のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項125】
対象において脂質パラメータを変更するために、(a)可溶性NRP1ポリペプチド、もしくはその機能的多様体もしくは断片、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物の使用であって、
前記脂質パラメータの変更は、(a)総コレステロールレベルを低下させること、(b)非HDLコレステロールレベルを低下させること、(c)トリグリセリドレベルを低下させること、(d)総コレステロール:HDLコレステロールの比を低下させること、(e)循環遊離脂肪酸を減少させること、(f)HDLコレステロールを上昇させること、または(f)(a)~(e)のいずれかの組み合わせである、使用。
【請求項126】
対象における脂肪蓄積に関連する疾患または状態を予防または治療するための、可溶性NRP1ポリペプチド、もしくはその機能的多様体もしくは断片、(b)NRP1抗体、または(C)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物の使用。
【請求項127】
脂肪蓄積に関連する前記疾患または状態は、高体格指数(BMI)、肥満、メタボリックシンドローム、NAFLD、心血管疾患(CVD)、高血圧および/またはII型糖尿病(TIIDM)である、請求項126に記載の使用。
【請求項128】
前記心血管疾患は、鬱血性心不全、高コレステロール血症、および/またはアテローム性動脈硬化症である、請求項127に記載の使用。
【請求項129】
対象において体組成パラメータを変更するための、(a)可溶性NRP1ポリペプチド、もしくはその機能的多様体もしくは断片、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物の使用であって、
前記体組成パラメータは、内臓脂肪面積(VFA)、体格指数(BMI)、ウエストヒップ比(WHR)、ウエストと身長の比率(WHeR)、胴囲(WC)、上腕囲(AC)、円錐度指数、体脂肪率(PBF)、上腕三頭筋皮下脂肪、肩甲骨下皮膚襞、白色脂肪組織(WAT)レベル、または褐色脂肪性(BAT)組織レベルである、使用。
【請求項130】
前記可溶性NRP1ポリペプチド、もしくはその機能的多様体もしくは断片が、表2に記載されているか、または図7もしくは図9Aに記載されているNRP1ポリペプチドトラップを含むかまたはそれからなる、請求項125~129のいずれか一項に記載の使用。
【請求項131】
前記可溶性NRP1ポリペプチドまたはその機能的多様体もしくは断片が、全身投与のためのものである、請求項125~130のいずれか一項に記載の使用。
【請求項132】
対象において脂質パラメータを変更するための医薬品の調製のための、(a)可溶性NRP1ポリペプチド、もしくはその機能的多様体もしくは断片、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物の使用であって、
前記脂質パラメータの変更は、(a)総コレステロールレベルを低下させること、(b)非HDLコレステロールレベルを低下させること、(c)トリグリセリドレベルを低下させること、(d)総コレステロール:HDLコレステロールの比を低下させること、(e)循環遊離脂肪酸を減少させること、(f)HDLコレステロールを上昇させること、または(f)(a)~(e)のいずれかの組み合わせである、使用。
【請求項133】
対象における脂肪蓄積に関連する疾患または状態を予防または治療するための医薬品を調製するための、NRP1ポリペプチド、もしくはその機能的多様体もしくは断片、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物の使用。
【請求項134】
脂肪蓄積に関連する前記疾患または状態は、高体格指数(BMI)、肥満、メタボリックシンドローム、NAFLD、心血管疾患(CVD)、高血圧および/またはII型糖尿病(TIIDM)である、請求項133に記載の使用。
【請求項135】
前記心血管疾患は、鬱血性心不全、高コレステロール血症、および/またはアテローム性動脈硬化症である、請求項134に記載の使用。
【請求項136】
対象において体組成パラメータを変更するための医薬品の調製のための、(a)可溶性NRP1ポリペプチド、もしくはその機能的多様体もしくは断片、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物の使用であって、
前記体組成パラメータは、内臓脂肪面積(VFA)、体格指数(BMI)、ウエストヒップ比(WHR)、ウエストと身長の比率(WHeR)、胴囲(WC)、上腕囲(AC)、円錐度指数、体脂肪率(PBF)、上腕三頭筋皮下脂肪、肩甲骨下皮膚襞、白色脂肪組織(WAT)レベル、または褐色脂肪性(BAT)組織レベルである、使用。
【請求項137】
前記可溶性NRP1ポリペプチドが、表2に記載されているか、または図17もしくは図18に記載されているNRP1ポリペプチドトラップを含むかまたはそれからなる、請求項132~136のいずれか一項に記載の使用。
【請求項138】
前記医薬品が全身投与のためのものである、請求項132~137のいずれか一項に記載の使用。
【請求項139】
配列番号52、54、58、60、62、64、66、もしくは76に示される可溶性NRP1ポリペプチド、またはその機能的多様体もしくは断片。
【請求項140】
請求項139に記載の可溶性NRP1ポリペプチド、機能的多様体または断片をコードする核酸。
【請求項141】
請求項140に記載の核酸を含むベクター。
【請求項142】
ウイルスベクター(好ましくはレンチウイルスベクターまたはアデノウイルスベクター)である、請求項141に記載のベクター。
【請求項143】
請求項140に記載の核酸または請求項142もしくは142に記載のベクターを含む宿主細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2017年9月22日に出願されたシリアル番号PCT/CA2017/*を有するPCT出願であり、PCT第21条(2)に基づき英語で公開され、それ自体が2016年9月23日に出願された米国仮特許出願第62/474,827号、2016年9月23日に出願された米国仮特許出願第62/398,797号、および2016年9月22日に出願された米国仮出願第62/398,183号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。配列表の参照
【0002】
本出願は、2017年9月22日に作成され、約249KBのサイズを有する、「12810_651_SL_ST25.txt」という名称のコンピュータ可読形式の配列表を含む。コンピュータ可読形式は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明の分野
【0003】
本発明は、細胞老化を調節するための組成物および方法に関する。より具体的には、本発明は、血管性眼疾患などの細胞老化に関連する疾患および状態の予防および治療における老化関連分泌表現型(SASP)の調節に関する。
【背景技術】
【0004】
細胞老化は、細胞が依然として生存可能であり、かつ代謝的に活性であるが、増殖する能力を失っている細胞の状態として一般に定義されている。細胞老化は、DNA末端複製によるテロメア短縮、DNA損傷、腫瘍抑制遺伝子および癌遺伝子の活性変化、酸化ストレス、炎症、化学療法剤、ならびにUV照射および電離放射線への曝露など、様々な刺激または因子によって引き起こされ得る(Kuilmanら、Genes & Development.(2010)24:2463-2479)。
【0005】
老化表現型を導く3種類の細胞経路、すなわち複製老化、早期老化および分化後老化(SAD)が記載されている。複製老化は、多数の細胞分裂後に起こる老化の一種である。例えば、培養中で増殖すると、初代細胞は約50回の細胞分裂後に細胞老化を受ける。さらなる増殖に対するこうした障壁は、連続細胞分裂のたびに細胞のテロメアが短くなり、このため、細胞がDNA損傷応答の引き金となる点(いわゆる「ヘイフリック限界」)に到達し、最終的に増殖停止の誘導および老化の原因となると考えられる。
【0006】
細胞老化はまた、テロメアの喪失または機能不全の非存在下でも誘発され得る。この種の細胞老化は、早期細胞老化と呼ばれ、例えば化学療法、放射線療法、DNA損傷化合物への曝露から生じるDNA損傷などの刺激、または日光および紫外線、酸化ストレス、炎症、強い分裂促進シグナル伝達、およびリボソームストレスなどの刺激など、様々な刺激から生じる可能性がある。DNA損傷は、有糸分裂中の染色体不等分離、DNA鎖の切断、またはDNAの化学修飾(例えばアルキル化)から生じる異数性などの染色体機能不全の形態をとり得る。早期細胞老化はまた、実際のDNA損傷を反映していても反映していなくてもよいDNA損傷応答(DDR)によって誘発され得る。
【0007】
近年では、いくつかの疾患では、最終分化した有糸分裂後の細胞が老化様表現型(SASPを含む)を獲得することが示されているので、老化過程には、細胞増殖の単純な停止以上のものを伴うことが明らかになった。この第3のタイプの老化は、分化後老化(SAD)と呼ばれており、遺伝毒性、タンパク質毒性、酸化的およびリボソームストレッサーなど様々なストレッサーによって誘発され得る(例えば、Naylor R.M.ら、2013 Clin.Pharmacol Ther.93(1):105-116を参照されたい)。
【0008】
すべての老化細胞がすべての可能な老化マーカーを発現するわけではない。それにもかかわらず、老化細胞の顕著な特徴としては、(i)増殖停止、(ii)細胞形態の拡大および平坦化、(iii)核内におけるDNA損傷病巣、(iv)増殖因子プロテアーゼ、サイトカインおよび老化関連分泌表現型(SASP)として定義されている他の因子の分泌、(v)老化関連β-ガラクトシダーゼ(SA-β-gal)活性(これはリソソーム量の増加を一部反映する)、(vi)腫瘍抑制因子p16INK4aの発現(pRBを活性化する可能性があり、かつ老化関連ヘテロクロマチン病巣(SAHF)の形成を引き起こす可能性がある)、および(vii)PML核小体の数およびサイズの増加が挙げられる。さらに、多様な因子が細胞老化を誘導することが知られているが、2つの腫瘍抑制経路、p53/p21およびp16INK4/pRBが細胞老化の調節において重要な役割を果たすことが示されている。
【0009】
近年の研究は、細胞老化の関与を胚形成および組織修復などの複雑な生理学的過程にまで広げた(19-22)。逆に、慢性疾患および加齢では、老化細胞の増加は組織の機能不全を悪化させる(23-25)。その状態に応じて、細胞老化は有益であるか、または有害であるかのいずれかであることが示されている(RodierおよびCampisi,JCB,2011,192(4):547-556およびNaylorら、Clin Pharmacol Ther.2013 93(1):105-116 for review on cellular senescenceを参照されたい)。
【0010】
細胞老化は、表皮の薄化、皮膚の皺、抜け毛および白髪、筋肉の厚さおよび筋力の低下(サルコペニア)、炎症発生率の増加、代謝障害、持久力の喪失、アテローム性動脈硬化症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、神経変性疾患、変形性関節症、骨粗鬆症、パーキンソン病、ならびに白内障など、様々な加齢性疾患および状態の病因に因果関係があるとされてきた。加えて、細胞老化は、化学療法および/または放射線療法中およびその後に経験する健康な組織への損傷、ならびに化学療法および/または放射線療法後の劣った健康への影響に寄与すると考えられている。
【0011】
細胞老化は、また有益でもあり得る。例えば、DNA損傷に応答した抗癌メカニズムとしてのその役割は、何十年もの間に確立されてきた。さらに、老化細胞は、効率的な組織修復および創傷治癒にとって重要であることが示されている。実際、SASPの多くの因子(例えば、創傷治癒に関与する増殖因子およびプロテアーゼ、病原体を死滅させる免疫細胞の誘引剤、ならびに幹細胞または前駆細胞を動員するタンパク質)は、組織修復にとって重要である。したがって、SASPはまた、細胞損傷/機能不全を周囲組織に伝達し、必要に応じて修復を刺激するように機能し得る。近年の研究では、この概念が裏付けられている。例えば、老化細胞は、増殖期の間に治癒の過程を開始させる炎症反応が(SASPを介して)始まるのを助けるために、創傷の近くに迅速に確立されることが研究により示されている。このように老化が急速に早まることにより、免疫細胞を引き付けて活性化させ、感染と戦い、死細胞および細片を取り除く。再構築期の間、老化細胞は増殖期の間にある繊維状タンパク質を溶解するにあたってある役割を果たし、瘢痕の形成を制限する。細胞老化の有益な効果はまた、肝線維症、心筋梗塞および心臓線維化、アテローム性動脈硬化症、ならびに肺高血圧症においても報告されている。
【0012】
したがって、細胞が細胞老化を受けるのを予防すること、または老化を活性化する(例えば、SASPをもたらし得る)DNA損傷、DNA損傷応答経路もしくはクロマチン変化を妨げること、細胞老化を逆転もしくは制限すること、および/または細胞老化を受ける細胞においてパラクリン老化を減少させることは、老化が有害である疾患および状態を予防もしくは治療するのに有利となる。逆に、細胞老化によって積極的に影響を受ける疾患および状態において細胞老化を促進することは、回復を改善するか、またはそのような疾患もしくは状態の重症度を軽減し得る。
【0013】
肥満およびそれに続くメタボリックシンドロームの続発症、2型糖尿病(TIIDM)、および心血管合併症は、世界的流行病となる。世界的な肥満は1980年以来2倍以上となり、2014年には19億人以上の成人が過体重であり、そのうち6億人が肥満であった(World Health Organization(WHO)、2015)。
【0014】
過体重および肥満は、健康を害する可能性のある異常または過剰な脂肪蓄積として定義されている。体格指数(BMI)は、成人の過体重および肥満を分類するために一般的に使用される身長に対する体重の単純な指数である。この指数は、ヒトの体重キログラムを身長の平方メートルで割ったもの(kg/m)として定義されている。WHOの定義は、以下のとおりである。(i)BMIが25kg/m以上の場合、過体重である、および(ii)BMIが30kg/m以上である場合、肥満である。男女において、および成人のすべての年齢において、BMIは同じであるため、過体重および肥満の有用な集団レベルの尺度となる。しかし、BMIは、異なる個人において、同じ肥満度に相当しない可能性もあるため、おおよそのガイドとして考えられている。
【0015】
脂肪蓄積は、肥満、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、メタボリックシンドローム、およびリポジストロフィー症候群などのある状態の範囲において観察される。BMIの上昇(過体重または肥満)は、次の疾患および状態の主な危険因子である:心血管疾患((CVD)、主に心臓病や脳卒中)、インスリン抵抗性(TIIDMを発症する危険性が上昇)。過剰な脂肪蓄積はまた、筋骨格障害(特に変形性関節症)、およびいくつかの癌(子宮内膜、乳房、および結腸)などの他の疾患または状態に罹患する危険性が高まる。これらの疾患の危険性は一般的に、BMIが増加するとともに増す。
【0016】
シンドロームXとしても公知であるメタボリックシンドロームは、肥満のヒトならびに腹部脂肪の量が増加しているヒトに影響を及ぼし、インスリン抵抗性、脂質異常症(高トリグリセリド血症、低血清HDLコレステロール値、LDLコレステロール値の上昇)および高血圧を特徴とする。これらの条件は互いに関連しており、根底にある媒介物質、メカニズムおよび経路を共有している。脂肪分布の変化、WHR(ウエストヒップ比)の増加、および内臓脂肪の蓄積は、代謝リスク指数の増加に関連している。
【0017】
メタボリックシンドロームに関連する症状のほとんどは症状がないが、ウエストが大きいことは明らかな徴候である。いくつかの組織は、メタボリックシンドロームを診断するための基準を有する。NCEP ATP IIIの定義は、メタボリックシンドロームの最も広く使用されている基準の1つである。この定義には、高血糖/インスリン抵抗性、内臓肥満、アテローム性脂質異常症、および高血圧/内皮機能不全の重要な特徴を組み込んでいる。国立衛生研究所が使用しているガイドラインによれば、以下の特性のうちの3つ以上が存在するか、または対象がそれらの特性を制御するために薬を服用している場合、対象はメタボリックシンドロームを有する:(i)内臓肥満(すなわち、胴囲が大きい、例えば、女性の場合は少なくとも35インチ(89センチメートル)、男性の場合は40インチ(102センチメートル)の腹囲である、(ii)高トリグリセリドレベル-1デシリットルあたり150ミリグラム(mg/dL)、または1リットルあたり1.7ミリモル(mmol/L)、または血中に見られるこのタイプの脂肪が多い、(iii)高密度リポタンパク質(HDL)コレステロールの減少-男性では「良い」コレステロールの40mg/dL(1.04mmol/L)未満、女性では50mg/dL(1.3mmol/L)未満、(iv)血圧の上昇-130/85ミリメートル水銀(mmHg)以上、および(v)空腹時血糖値の上昇-100mg/dL(5.6mmol/L)以上。
【0018】
肥満誘発メタボリックシンドロームの現在認められているメカニズムは、脂肪性脂質の蓄積がサイトカインの放出を引き起こし、M1活性化および全身性炎症を誘発するというものである(OlefskyおよびGlass、2010)。慢性炎症およびマクロファージ活性化は、インスリン抵抗性を引き起こすと仮定されているが(OsbornおよびOlefsky、2012)、脂肪組織の炎症が過剰な栄養素を効率良く貯蔵できる適応応答であるかどうか(Wernstedt Asterholmら、2014)、および脂肪組織の拡大にとって適切な血管形成が必須であるかどうかについては議論の余地がある(Cullbergら、2013)。脂肪細胞の酸素消費量(Leeら、2014)および脂肪組織血管リモデリング(Sungら、2013)の両方が脂肪組織の炎症状態を制御し、引き続き、インスリン非感受性および高血糖症を引き起こす。
【0019】
肥満関連問題についての社会的認識が高まっているにもかかわらず、過体重および肥満の対象の割合は上昇し続けている。したがって、依然として、それらの高い有病率ならびに関連する罹患率および死亡率を考慮して、脂肪の蓄積に関連する疾患および状態の予防および/または治療のための新しいアプローチを開発する必要がある。
【0020】
本明細書は、その内容全体が参照により本明細書に組み入れられるいくつかの文書を参照する。
【発明の概要】
【0021】
虚血性網膜症における血管床の崩壊は、それが糖尿病性網膜症(DR)において糖血症主導型であるか、未熟児網膜症(ROP)において酸素主導型であるかにかかわらず、細胞機能を損なう生化学的および炎症性ストレッサーの集合を受けた低酸素性/虚血性中枢神経系(CNS)組織となる。これらの無血管帯は、これらの領域を切除するレーザー光凝固療法の臨床的成功によって証明される(5)ように、病理学的血管形成を媒介する血管新生促進因子の供給源である(4)。病理学的前網膜血管形成の次の波を理解することに多くの努力が注がれてきたが、神経組織低酸素症の前駆状態の間に遊んでいる細胞プロセスについては比較的ほとんど知られていない。網膜虚血の初期段階で機能する細胞性反応をより完全に理解することは、新生血管網膜疾患を呈している、毎年生まれる9,300万人のDRおよび1500万人の早産児のうちの一部分に利益をもたらす治療手段を提供し得る(6~8)。
【0022】
虚血性網膜症における変性血管系に直接並べられる網膜神経節細胞(RGC)などの中枢ニューロンは、適切な機能のために安定した代謝供給を必要とする。興味深いことに、DRの進行中に、明白な網膜血管病変の程度(9)とRGCで観察される比較的微妙で長期にわたる形態学的および機能的異常(10~12)との間に断絶がある。さらに、DRにおいてRGCアポトーシスを裏付けるエビデンスがあるが(13~15)、神経細胞死の規模および動態は依然として議論の的となっている(16~18)。DRにおける網膜神経節ニューロンの相対的な回復力は、それらが代替的脈管叢から代謝供給を受けるか、またはそれらを虚血誘導性細胞死に影響されにくくする防御メカニズムを開始することを示唆している。
【0023】
虚血性傷害の間に神経組織の完全性を維持するために誘発されるメカニズムは、重大な生存上の利点を与え、適時の機能の修復および回復を可能にする(44、61、62)。細胞老化をもたらすメカニズムは、発癌を制限するためにアポトーシスのメカニズムと並行して進化した可能性があるが(21)、網膜に見られるような有糸分裂後のCNSニューロンについては、細胞老化はストレッサー誘発性神経変性を妨げ得る。60年近く、加齢および疾患の状況において研究されているが(63)、本明細書に報告されている本出願人の研究では、CNSにおける耐候性虚血における細胞老化についての新しい役割を提示する。これらの研究ではさらに、病理学的過程におけるパラクリン老化など、老化の調節におけるSEMA3Aの、これまでに記載されていない役割を明らかにし、老化に関連する疾患および状態においてSEMA3A活性を調節するにあたっての治療的利益を明らかにする。
【0024】
より具体的には、一態様では、本出願人らは、無血管化網膜帯内のニューロンによって引き起こされる予想外のメカニズムを同定した。このメカニズムでは、ニューロンは、早期細胞老化状態に入り、ERストレスエフェクターイノシトール要求性酵素-1α(IRE-1α)のエンドリボヌクレアーゼ活性を活性化することによって老化関連分泌表現型(SASP)をとる。分泌された胚パターン形成の手がかりであるセマフォリン3A(SEMA3A)などのSASPを介して産生される因子により、虚血性網膜において老化がニューロン、ミクログリアおよびその上にある血管系まで広がり(パラクリン老化)、このことが破壊的な網膜前血管形成に寄与する。
【0025】
1.眼疾患を治療および予防するためのSASPモジュレータおよび老化アテニュエータを含む組成物、ならびにそれらの使用。
第1の態様では、本明細書に記載のデータは、低酸素ストレスに耐えるために、老化の経路が網膜において恒常性のメカニズムとして最初に関与していることを示している。しかしながら、それが持続すると、老化経路は病理学的になり、組織の完全性が損なわれる。細胞老化の結果として、炎症性因子の分泌を介して適切な血管再生を妨げるSASPとなる。特に、本明細書に示すように、増殖性糖尿病性網膜症を患っている患者を分析すると、硝子体内にSASP関連サイトカインが示された。さらに、周知のビグアニドメトホルミンによるSASPの薬理学的阻害、またはIRE1αに対する薬理学的もしくは遺伝的干渉は、老化を制限し、修復的血管再生を増強し、破壊的な血管新生を防止し(図6H~J)、インビボにおいて網膜の病状を失速させる。これらのデータでは、病理学的血管形成における細胞およびパラクリン老化を示唆する、これまでに記載されていないパラダイムのエビデンスを提供し、網膜症、ならびに加齢関連黄斑変性(AMD)および黄斑浮腫などの眼血管疾患(血管障害)を治療するためのSASPのモジュレータの眼送達の治療的利益を明らかにする。
【0026】
したがって、本発明によれば、血管性眼疾患または障害(眼血管症、特に老化に関連する眼の疾患または障害、例えば網膜症)を治療または予防する方法であって、対象の眼において細胞老化を低減する(減衰する/阻害する)ことを含む方法が提供される。細胞老化は、対象の細胞を、細胞老化を減少させる1種以上の化合物(老化阻害剤)と接触させることによって減少させ得る。実施形態では、老化阻害剤は、眼細胞中のSASPを低減または阻害する。
【0027】
本発明は、老化阻害剤(例えば、SASP阻害剤)を対象に投与することを含む、網膜血管形成(病理学的血管新生)を阻害する方法をさらに提供する。実施形態では、網膜血管形成は虚血に続発する。
【0028】
本発明はまた、老化阻害剤(例えば、SASP阻害剤)を対象に投与することを含む、眼血管修復を促進するおよび/または眼虚血を軽減する方法を提供する。
【0029】
本発明はまた、老化阻害剤を対象に投与することを含む、眼細胞老化を予防または軽減する方法を提供する。実施形態では、老化阻害剤はSASP阻害剤である。
【0030】
本発明はまた、眼細胞を老化阻害剤と接触させることを含む、眼細胞の老化を予防または軽減する方法を提供する。実施形態では、老化阻害剤はSASP阻害剤である。
【0031】
実施形態では、上記の老化はパラクリン老化である。実施形態では、老化は、分化後の老化である。実施形態では、老化は、早期老化である。実施形態では、早期老化は、IRE1αの発現および/またはRNAse活性の増加を特徴とする。実施形態では、老化は、網膜老化である。実施形態では、老化は、(i)P16INK4a、Tp53、IRE1α、Cdkn1a、Cdkn2aの発現および/または活性、ならびに/もしくは老化関連β-gal活性の増加、(ii)γH2Axおよび/またはPMLの発現、および/または(iii)老化関連分泌表現型(SASP)の発現を特徴とする。実施形態では、SASPは、IL-1β、IL-6、Pai1、TGFβ1、IRE1αおよび/またはVEGF-αの分泌を含む。実施形態では、上記のSASPは、細胞性虚血に続発する。
【0032】
実施形態では、細胞はヒト細胞である。実施形態では、細胞は、網膜細胞である。実施形態では、細胞は内皮細胞である。実施形態では、細胞はミクログリア細胞である。実施形態では、細胞はニューロンである。実施形態では、細胞は網膜神経節細胞である。実施形態では、細胞は網膜神経節ニューロンである。実施形態では、細胞は、血管細胞である。実施形態では、細胞は血管内皮細胞である。実施形態では、細胞は、血管細胞ではない(すなわち、無血管領域/区域に位置する)。実施形態では、細胞は、線維芽細胞である。実施形態では、細胞は、マクロファージである。
【0033】
実施形態では、投与は局所または局所眼投与である。実施形態では、局所眼投与は、結膜下(テノン嚢下)、硝子体内、眼球後部、後強膜近傍または前房内投与である。実施形態では、局所眼投与は、硝子体内投与である。特定の実施形態では、局所眼投与は、硝子体内注射である。
【0034】
本発明はまた、本発明の方法で使用するための老化阻害剤またはSASP阻害剤を含む組成物に関する。実施形態では、組成物は眼科用組成物である。実施形態では、組成物は好適な医薬担体、希釈剤、または賦形剤を含む。実施形態では、好適な医薬担体、希釈剤または賦形剤は通常、本明細書に開示される阻害剤との混合物には見られない(すなわち、非天然担体または組成物は、天然には見られない、すなわち合成または人工である)。実施形態では、組成物は、血管性眼疾患または障害を治療または予防するためのものである。実施形態では、組成物は、網膜血管形成を阻害するためのものである。実施形態では、組成物は、眼血管修復を促進するため、かつ/または眼虚血を軽減するためのものである。実施形態では、組成物は、眼の細胞老化を予防または軽減するためのものである。実施形態では、組成物は、(i)血管性眼疾患もしくは障害を治療もしくは予防する、(ii)網膜血管形成を阻害する(例えば、病理学的網膜血管新生)、(iii)眼血管修復を促進する、かつ/もしくは眼虚血を軽減する、かつ/または(iv)眼細胞老化を予防または軽減するための医薬品の調製において使用するためのものである。
【0035】
実施形態では、上記のSASP阻害剤は、IRE1αの阻害剤ではない。実施形態では、SASP阻害剤は、ビグアニド化合物である。実施形態では、ビグアニド化合物は、メトホルミン、フェンホルミン、ブホルミン、プログアニル、クロルプログアニル、シンタリンAまたはシンタリンBである。実施形態では、ビグアニド化合物は、メトホルミンである。実施形態では、SASP阻害剤は、IRE1αの阻害剤である。
【0036】
実施形態では、血管性眼疾患または障害は、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、虚血性網膜症、高血圧性網膜症、薬物誘発性網膜血管症、糖尿病性黄斑浮腫、加齢性黄斑変性症、若年性黄斑変性症、網膜血管新生、網膜中心静脈閉塞症、分岐網膜静脈閉塞症、脈絡膜血管新生、ポリープ状脈絡膜血管症、目に対する物理的な傷害、緑内障、裂孔原性網膜剥離(RRD)、網膜血管炎、網膜マクロ動脈瘤、網膜細動脈瘤、フックスジストロフィー症、虚血性視神経症、黄斑性毛細血管拡張症、視神経炎、アッシャー症候群、網膜色素変性症、ぶどう膜炎、虚血性視神経症(ION)、またはシュタルガルト病である。一実施形態では、血管性眼疾患もしくは障害は、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、加齢性黄斑浮腫、網膜血管新生、網膜中心静脈閉塞症、分枝網膜静脈閉塞症、または脈絡膜血管新生である。一実施形態では、血管性眼疾患は、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、乾性(萎縮性)加齢黄斑変性症、湿性(滲出性)加齢黄斑変性症、分枝網膜静脈閉塞症、または黄斑性毛細血管拡張症である。
【0037】
実施形態では、本発明のSASP阻害剤または組成物で治療された対象は、上記の血管性眼疾患または障害のうちの1つと診断されている。実施形態では、対象は、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、加齢性黄斑変性症、病理学的網膜血管新生、網膜中心静脈閉塞症、分枝網膜静脈閉塞症、脈絡膜血管新生、ポリープ状脈絡膜血管症、または黄斑性毛細血管拡張症と診断された。
【0038】
2.IRE1αまたはSEMA3Aモジュレータを含む細胞老化を調節するための組成物および方法。
(i)IRE1αモジュレータ
本発明はまた、(i)細胞の細胞老化、または(ii)細胞の老化関連分泌表現型(および/またはその誘導)を阻害または予防する方法であって、IRE1αの発現、活性化または活性を低減させることを含む方法を提供する。本発明はまた、(i)細胞の細胞老化、または(ii)対象の細胞内において老化関連分泌表現型の誘導を阻害または予防する方法であって、その対象にIRE1α阻害剤を投与することを含む方法に関する。実施形態では、本発明の方法は、細胞におけるIRE1αの活性化、SA-β-galの活性、および/またはPai1、IL-6、Il-1b、TGF-b、tp53、XBP1(複数可)、および/またはVegfaの発現を減少させる。
【0039】
本発明はさらに、(i)細胞の細胞老化を阻害もしくは予防するため、または(ii)IRE1α阻害剤を含む細胞内において老化関連分泌表現型を誘導するためのIRE1α阻害剤を含む組成物に関する。実施形態では、組成物は、(i)細胞の細胞老化を阻害もしくは予防するため、または(ii)細胞内において老化関連分泌表現型を誘導するためのものである。実施形態では、組成物は、(i)細胞の細胞老化を阻害もしくは予防するため、または(ii)細胞内において老化関連分泌表現型を誘導するための医薬品の調製に使用するためのものである。
【0040】
実施形態では、IRE1α阻害剤は、IRE1α、4u8c、ボルテゾミブ、N-[(2-ヒドロキシ-1-ナフタレニル)メチレン]-2-チオフェンスルホンアミド(STF-083010)、またはMKC-3946に対するアンチセンスもしくはshRNAである。実施形態では、阻害剤は、細胞においてIRE1αの活性化、SA-β-galの活性、および/またはPai1、IL-6、Il-1b、TGF-b、tp53、XBP1(複数可)、および/またはVegfaの発現を低減させる。
【0041】
本発明はまた、(i)細胞の老化、または(ii)細胞の老化関連分泌表現型(SASP)(および/またはその誘導)を刺激または誘導する方法であって、IRE1αレベルまたは活性を増大させることを含む方法を提供する。本発明はまた、IRE1αレベルまたは活性を増大させることを含む創傷修復の改善方法を提供し、この方法では、(i)細胞の細胞老化または(ii)細胞内の老化関連分泌表現型(SASP)を増加または誘導する。本発明は、(i)細胞の細胞老化または(ii)対象の細胞における老化関連分泌表現型を刺激または誘導する方法であって、IRE1αレベルまたは活性を増大させることを含む方法をさらに提供する。実施形態では、上記の方法は、細胞を、IRE1αのレベルまたは活性を増大させる化合物と接触させることを含む。実施形態では、上記の方法は、細胞においてIRE1αの活性化、SA-β-galの活性、および/またはPai1、IL-6、Il-1b、TGF-b、tp53、XBP1(複数可)、および/またはVegfaの発現を増加させる。
【0042】
実施形態では、IRE1α活性は、IRE1αリボヌクレアーゼ活性およびキナーゼ活性を含む。
【0043】
本発明は、IRE1αレベルまたは活性を増大させる化合物を含む組成物をさらに提供する。実施形態では、組成物は、(i)細胞の老化、または(ii)細胞内において老化関連分泌表現型を誘導するためのものである。実施形態では、組成物は、肝線維症、腎線維症、肺高血圧症、心筋梗塞、または心臓線維化を治療または予防するためのものである。実施形態では、組成物は、創傷治癒を改善するためのものである。実施形態では、組成物は、(i)細胞の老化、または(ii)細胞内において老化関連分泌表現型を誘導するための医薬品の調製に使用される。実施形態では、組成物は、肝線維症、腎線維症、肺高血圧症、心筋梗塞、または心臓線維化を治療または予防するための医薬品の調製に使用される。実施形態では、組成物は、創傷治癒を改善するための医薬品の調製に使用するためのものである。
【0044】
実施形態では、IRE1αレベルまたは活性を増大させる化合物は、Apy29またはスニチニブである。
【0045】
実施形態では、上記の細胞は、最終分化細胞である。実施形態では、細胞はニューロン、ミクログリア細胞、または内皮細胞である。実施形態では、細胞は、網膜細胞である。実施形態では、細胞は、骨髄性細胞である。実施形態では、細胞は、網膜神経節細胞である。実施形態では、細胞は、網膜神経節ニューロンである。実施形態では、細胞は、血管細胞である。実施形態では、細胞は、血管内皮細胞である。実施形態では、細胞は、血管細胞ではない(すなわち、無血管領域/区域に位置する)。実施形態では、細胞は、線維芽細胞である。実施形態では、細胞は、マクロファージである。実施形態では、細胞は、単球である。実施形態では、細胞は、肝細胞である。実施形態では、細胞は、肝星細胞である。実施形態では、細胞は、ヒト細胞である。実施形態では、細胞は、ヒト微小血管内皮細胞である。特定の実施形態では、細胞は、眼細胞ではない。
【0046】
実施形態では、上述の老化は、パラクリン老化である。実施形態では、老化は、分化後の老化である。実施形態では、老化は、早期老化である。実施形態では、早期老化は、IRE1αの発現および/またはRNAse活性の増加を特徴とする。実施形態では、老化は、網膜老化である。実施形態では、老化は、(i)P16INK4a、Tp53、IRE1a、Cdkn1a、Cdkn2aの発現および/または活性の増加、ならびに/もしくは老化関連β-gal活性、(ii)γH2Axおよび/またはPMLの発現、および/または(iii)老化関連分泌表現型(SASP)の発現を特徴とする。実施形態では、SASPは、IL-1β、IL-6、Pai1、TGFβ1、IRE1aおよび/またはVEGFaの分泌を含む。実施形態では、上記のSASPは、細胞性虚血に続発する。実施形態では、細胞は、サルコペニア、神経変性、表皮の薄化、皮膚の皺、抜け毛、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、アテローム性動脈硬化症、変形性関節症、骨粗鬆症またはパーキンソン病、腸管疾患、緑内障、椎間板変性、脳動脈瘤、大動脈瘤、膵臓線維症、または嚢胞性線維症に罹患しているかまたは罹患する危険性がある対象に由来する。実施形態では、細胞は、癌治療を受けたことがある、または癌治療を受けている対象に由来する。実施形態では、細胞は、網膜細胞ではない。実施形態では、細胞老化は、網膜血管疾患と関連していない(すなわち、それは網膜疾患の状況では生じない)。実施形態では、細胞老化は、血管性眼疾患と関連していない(すなわち、眼疾患の状況では生じない)。実施形態では、細胞老化は、糖尿病性網膜症に関連していない(すなわち、糖尿病性網膜症の状況では生じない)。実施形態では、細胞老化は、黄斑変性症と関連していない。実施形態では、細胞は、肝線維症、腎線維症、肺高血圧症、心筋梗塞、または心臓線維化を有するかまたは有する危険性がある対象に由来する。実施形態では、対象は創傷を受けている(例えば、皮膚/組織創傷(例えば、切り傷)を有する)。
【0047】
(ii)SEMA3Aモジュレータ
さらなる態様では、本明細書に提示されるデータは、病理学的過程におけるパラクリン老化など、老化の調節におけるSEMA3Aの、これまでに記載されていない役割のエビデンスを提供し、老化に関連する疾患および状態においてSEMA3A活性を調節するにあたっての治療的利益を明らかにする。実際に、データは、SEMA3AがERストレスエフェクターイノシトール要求性酵素-1α(IRE-1α)ならびに老化エフェクターp53およびp16を活性化することを実証している。
【0048】
したがって、一態様では、(i)細胞の老化、または(ii)細胞の老化関連分泌表現型(SASP)(および/またはその誘導)を調節する方法であって、SEMA3Aレベルまたは活性を調節することを含む方法を提供する。実施形態では、SEMA3Aのレベルまたは活性を調節することは、細胞をSEMA3AアンタゴニストまたはSEMA3Aアゴニストと接触させることを含む。
【0049】
関連する態様では、本発明は、(i)細胞の老化、または(ii)細胞の老化関連分泌表現型(SASP)(および/またはその誘導)を阻害または予防する方法であって、SEMA3Aのレベルまたは活性を減少させることを含む方法を提供する。実施形態では、SEMA3Aのレベルまたは活性を減少させることは、細胞をSEMA3Aアンタゴニストと接触させることを含む。
【0050】
本発明は、(i)細胞の老化、または(ii)対象の細胞の老化関連分泌表現型(SASP)(および/またはその誘導)を阻害または予防する方法であって、SEMA3Aのレベルまたは活性を減少させることを含む方法をさらに提供する。実施形態では、SEMA3Aのレベルまたは活性を減少させることは、SEMA3Aアンタゴニストを対象に投与する(または対象の細胞に接触させる)ことを含む。
【0051】
さらなる態様では、本発明は、SEMA3Aアンタゴニストに関する。実施形態では、SEMA3Aアンタゴニストは、(a)SEMA3A抗体、(b)SEMA3AアンチセンスもしくはshRNA、および/または(c)可溶性NRP1ポリペプチド、もしくはその機能的断片(NRP1トラップ)である。
【0052】
本発明はまた、上記のSEMA3Aアンタゴニストを含む組成物に関する。このようなアンタゴニストまたはそれを含む組成物は、上記の方法において使用され得る(例えば、(i)細胞の老化、または(ii)細胞の老化関連分泌表現型(SASP)の誘導の阻害または予防における使用のため)。
【0053】
関連する態様において、本発明は、(i)細胞の老化、または(ii)細胞の老化関連分泌表現型(SASP)(および/またはその誘導)を阻害または予防するための医薬品の調製における本発明のSEMA3Aアンタゴニストまたは組成物の使用に関する。実施形態において、本明細書に記載の方法および組成物は、サルコペニア、神経変性(例えば、アルツハイマー病)、表皮の薄化、皮膚の皺、抜け毛、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、アテローム性動脈硬化症、変形性関節症、骨粗鬆症、パーキンソン病、腸管疾患、緑内障、椎間板変性、脳動脈瘤、大動脈瘤、膵臓線維症、または嚢胞性線維症メタボリックシンドロームおよび/もしくは肥満である、老化に関連する疾患もしくは状態を治療もしくは予防するためのものである。実施形態では、細胞は、網膜細胞ではない。実施形態では、細胞は、網膜神経節細胞ではない。実施形態では、細胞は、対象の眼由来(眼細胞)ではない。実施形態では、細胞老化は、網膜血管疾患と関連していない。
【0054】
実施形態では、上記の方法は、細胞におけるIRE1αの活性化ならびにPai1、IL-6、Il-1b、TGF-b、tp53、XBP1(複数可)、および/またはVegfaの発現を低減させる。
【0055】
実施形態では、細胞は、最終分化細胞である。実施形態では、細胞はニューロン、ミクログリア細胞、または内皮細胞である。実施形態では、細胞は、網膜細胞である。実施形態では、細胞は、骨髄性細胞である。実施形態では、細胞は、脂肪組織細胞である。実施形態では、細胞は、網膜神経節細胞である。実施形態では、細胞は、網膜神経節ニューロンである。実施形態では、細胞は、血管細胞である。実施形態では、細胞は、血管内皮細胞である。実施形態では、細胞は、血管細胞ではない(すなわち、無血管領域/区域に位置する)。実施形態では、細胞は、線維芽細胞である。実施形態では、細胞は、マクロファージである。実施形態では、細胞は、単球である。実施形態では、細胞は、肝細胞である。実施形態では、細胞は、肝星細胞である。実施形態では、細胞は、ヒト細胞である。実施形態では、細胞は、ヒト微小血管内皮細胞である。特定の実施形態では、細胞は、眼細胞ではない。実施形態では、上述の老化は、パラクリン老化である。実施形態では、老化は、細胞性虚血に続発する。実施形態では、SASPは、細胞性虚血に続発する。実施形態では、老化は、耐糖能異常に続発する。実施形態では、SASPは、耐糖能異常に続発する。
【0056】
実施形態では、細胞は、サルコペニア、神経変性(例えば、アルツハイマー病)、表皮の薄化、皮膚の皺、抜け毛、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、アテローム性動脈硬化症、変形性関節症、骨粗鬆症、パーキンソン病、腸管疾患、緑内障、椎間板変性、脳動脈瘤、大動脈瘤、膵臓線維症、または嚢胞性線維症、メタボリックシンドロームおよび/もしくは肥満である老化関連疾患または状態に罹患している、または罹患する危険性がある対象に由来する。実施形態では、細胞は、網膜細胞ではない。実施形態では、細胞は、網膜神経節細胞ではない。実施形態では、細胞は、対象の眼由来(眼細胞)ではない。実施形態では、細胞老化は、網膜血管疾患と関連していない。実施形態では、細胞老化は、眼の疾患(眼細胞の老化)と関連していない。実施形態では、細胞老化は、アルツハイマー病と関連していない。実施形態では、細胞老化は、糖尿病と関連していない。実施形態では、細胞老化は、癌と関連していない。実施形態では、細胞老化は、敗血症性ショックと関連していない。
【0057】
別の態様では、本発明は、(i)細胞の老化、または(ii)細胞の老化関連分泌表現型を刺激もしくは誘導する方法であって、細胞をSEMA3Aポリペプチドもしくはその機能的多様体もしくは断片に接触させることを含む方法に関する。
【0058】
(i)細胞の細胞老化、または(ii)対象の細胞における老化関連分泌表現型を刺激または誘導する方法であって、有効量のSEMA3Aポリペプチドまたはその機能的多様体もしくは断片を対象に投与することを含む、方法も提供される。
【0059】
さらなる態様では、本発明は、細胞を含む組織において創傷治癒を改善するための方法に関し、この方法は、細胞をSEMA3Aポリペプチドまたはその機能的多様体もしくは断片と接触させることを含む。
【0060】
関連する態様では、本発明は、SEMA3Aポリペプチド、もしくはその機能的多様体もしくは断片、それをコードする核酸、SEMA3Aポリペプチド、もしくはその機能的多様体もしくは断片を送達および/または発現するためのベクター、ならびにそのようなポリペプチドもしくは機能多様体もしくは断片、核酸および/もしくはベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0061】
本発明はまた、上記のSEMA3Aポリペプチド、もしくはその機能的多様体もしくは断片、核酸、ベクターおよび/または宿主細胞を含む組成物に関する。このような組成物、SEMA3Aポリペプチドまたは機能的多様体もしくは断片、核酸、ベクターおよび宿主細胞は、(例えば、(a)(i)細胞の老化、または(ii)細胞において老化関連分泌表現型を誘導するために、(b)(i)細胞の老化、または(ii)細胞における老化関連分泌表現型を誘導するための医薬品の調製において、または(c)創傷治癒を改善するために)、上述の方法において使用され得る。
【0062】
実施形態では、(i)細胞老化、(ii)SASP、または(iii)創傷治癒を刺激または誘導する方法における上述の細胞は、最終分化細胞である。実施形態では、細胞はニューロン、ミクログリア細胞、または内皮細胞である。実施形態では、上述の老化は、パラクリン老化である。実施形態では、SASPは、細胞性虚血に続発する。実施形態では、細胞は、肝線維症、肺高血圧症、心筋梗塞、癌、腎線維症、または心臓線維化を有するかまたは有する危険性がある対象に由来する。
【0063】
実施形態では、上述の方法は、細胞におけるIRE1αの活性化ならびにPai1、IL-6、Il-1b、TGF-b、tp53、XBP1(複数可)、およびVegfaの発現を低減させる。
【0064】
本発明はまた、本明細書に開示のポリペプチド(例えば、NRP1トラップ、SEMA3A、IRE1αなど)アンチセンス、shRNAなどをコードする核酸、ならびに本明細書に開示の核酸、ポリペプチド、アンチセンス、shRNAを送達および/または発現するためのベクターおよび宿主細胞を提供する。
【0065】
本発明の他の目的、利点、および特徴は、添付の図面を参照して例示としてのみ与えられる、その特定の実施形態の以下の非限定的な説明を読むことによってより明らかになるであろう。
【0066】
3.脂質パラメータの調節 別の態様では、本発明は、対象において脂質パラメータを変更する方法に関し、本方法は、対象に以下を投与することを含む:(a)可溶性NRP1ポリペプチドもしくはその断片、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物。脂質パラメータの変更は、(a)総コレステロールレベルを低下させること、(b)非HDLコレステロールレベルを低下させること、(c)トリグリセリドレベルを低下させること、(d)総コレステロール:HDLコレステロールの比を低下させること、(e)循環遊離脂肪酸を減少させること、(f)HDLコレステロールを上昇させること、または(f)(a)~(e)のいずれかの組み合わせである。
【0067】
別の態様では、本発明は、対象において脂肪蓄積に関連する疾患または状態を予防または治療するための方法に関し、本方法は、対象に以下を投与することを含む:(a)可溶性NRP1ポリペプチドもしくはその断片、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物。
【0068】
一実施形態では、脂肪蓄積に関連する疾患または状態は、高体格指数(BMI)、肥満、メタボリックシンドローム、NAFLD、心血管疾患(CVD)、高血圧および/またはII型糖尿病(TIIDM)である。
【0069】
一実施形態では、心血管疾患は、鬱血性心不全、高コレステロール血症、および/またはアテローム性動脈硬化症である。
【0070】
別の態様では、本発明は、対象において体組成パラメータを変更するための方法に関し、本方法は、対象に以下を投与することを含む:(a)可溶性NRP1ポリペプチドもしくはその断片、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物。体組成パラメータは、内臓脂肪面積(VFA)、体格指数(BMI)、ウエストヒップ比(WHR)、ウエストと身長の比率(WHeR)、胴囲(WC)、上腕囲(AC)、円錐度指数、体脂肪率(PBF)、上腕三頭筋皮下脂肪、肩甲骨下皮膚襞、白色脂肪組織(WAT)レベル、および/または褐色脂肪性(BAT)組織レベルである。
【0071】
実施形態では、可溶性NRP1ポリペプチドまたはその断片は、表2に記載されているか、または図7もしくは図9Aに記載されているNRP1ポリペプチドトラップを含むかまたはそれからなる。
【0072】
一実施形態では、可溶性NRP1ポリペプチドまたはその断片は、全身投与される。
【0073】
別の態様では、本発明は、対象において脂質パラメータを変更するために、(a)可溶性NRP1ポリペプチドもしくはその断片、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物を含む組成物に関する。脂質パラメータの変更は、(a)総コレステロールレベルを低下させること、(b)非HDLコレステロールレベルを低下させること、(c)トリグリセリドレベルを低下させること、(d)総コレステロール:HDLコレステロールの比を低下させること、(e)循環遊離脂肪酸を減少させること、(f)HDLコレステロールを上昇させること、または(f)(a)~(e)のいずれかの組み合わせである。
【0074】
別の態様では、本発明は、対象における脂肪蓄積に関連する疾患または状態を予防または治療するための、(a)可溶性NRP1ポリペプチドもしくはその断片、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物を含む組成物に関する。
【0075】
一実施形態では、脂肪蓄積に関連する疾患または状態は、高体格指数(BMI)、肥満、メタボリックシンドローム、NAFLD、心血管疾患(CVD)、高血圧および/またはII型糖尿病(TIIDM)である。
【0076】
一実施形態では、心血管疾患は、鬱血性心不全、高コレステロール血症、および/またはアテローム性動脈硬化症である。
【0077】
別の態様では、本発明は、対象において体組成パラメータを変更するために、(a)可溶性NRP1ポリペプチドもしくはその断片、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物を含む組成物に関する。
体組成パラメータは、内臓脂肪面積(VFA)、体格指数(BMI)、ウエストヒップ比(WHR)、ウエストと身長の比率(WHeR)、胴囲(WC)、上腕囲(AC)、円錐度指数、体脂肪率(PBF)、上腕三頭筋皮下脂肪、肩甲骨下皮膚襞、白色脂肪組織(WAT)レベル、または褐色脂肪性(BAT)組織レベルである。
【0078】
一実施形態では、可溶性NRP1ポリペプチドまたはその断片は、表2に記載されているか、または図7もしくは図9Aに記載されているNRP1ポリペプチドトラップを含むかまたはそれからなる。
【0079】
一実施形態では、可溶性NRP1ポリペプチドまたはその断片は、全身投与のためのものである。
【0080】
別の態様では、本発明は、対象において脂質パラメータを変更するために、(a)可溶性NRP1ポリペプチドもしくはその断片、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物の使用に関する。
脂質パラメータの変更は、(a)総コレステロールレベルを低下させること、(b)非HDLコレステロールレベルを低下させること、(c)トリグリセリドレベルを低下させること、(d)総コレステロール:HDLコレステロールの比を低下させること、(e)循環遊離脂肪酸を減少させること、(f)HDLコレステロールを上昇させること、または(f)(a)~(e)のいずれかの組み合わせである。
【0081】
別の態様では、本発明は、対象における脂肪蓄積に関連する疾患または状態を予防または治療するための、可溶性NRP1ポリペプチドもしくはその断片、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物の使用に関する。
【0082】
一実施形態では、脂肪蓄積に関連する疾患または状態は、高体格指数(BMI)、肥満、メタボリックシンドローム、NAFLD、心血管疾患(CVD)、高血圧および/またはII型糖尿病(TIIDM)である。
【0083】
一実施形態では、心血管疾患は、鬱血性心不全、高コレステロール血症、および/またはアテローム性動脈硬化症である。
【0084】
別の態様では、本発明は、対象において体組成パラメータを変更するために、(a)可溶性NRP1ポリペプチドもしくはその断片、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物の使用に関する。
体組成パラメータは、内臓脂肪面積(VFA)、体格指数(BMI)、ウエストヒップ比(WHR)、ウエストと身長の比率(WHeR)、胴囲(WC)、上腕囲(AC)、円錐度指数、体脂肪率(PBF)、上腕三頭筋皮下脂肪、肩甲骨下皮膚襞、白色脂肪組織(WAT)レベル、または褐色脂肪性(BAT)組織レベルである。
【0085】
一実施形態では、可溶性NRP1ポリペプチドまたはその断片は、表2に記載されているか、または図7もしくは図9Aに記載されているNRP1ポリペプチドトラップを含むかまたはそれからなる。
【0086】
一実施形態では、可溶性NRP1ポリペプチドまたはその断片は、全身投与のためのものである。
【0087】
別の態様では、本発明は、対象において脂質パラメータを変更するための医薬品を調製するための、(a)可溶性NRP1ポリペプチドもしくはその断片、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物の使用に関する。
脂質パラメータの変更は、(a)総コレステロールレベルを低下させること、(b)非HDLコレステロールレベルを低下させること、(c)トリグリセリドレベルを低下させること、(d)総コレステロール:HDLコレステロールの比を低下させること、(e)循環遊離脂肪酸を減少させること、(f)HDLコレステロールを上昇させること、または(f)(a)~(e)のいずれかの組み合わせである。
【0088】
別の態様では、本発明は、対象における脂肪蓄積に関連する疾患または状態を予防または治療するための医薬品の調製のために、可溶性NRP1ポリペプチドもしくはその断片、(b)NRP1抗体、(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物の使用に関する。
【0089】
一実施形態では、脂肪蓄積に関連する疾患または状態は、高体格指数(BMI)、肥満、メタボリックシンドローム、NAFLD、心血管疾患(CVD)、高血圧および/またはII型糖尿病(TIIDM)である。
【0090】
一実施形態では、心血管疾患は、鬱血性心不全、高コレステロール血症、および/またはアテローム性動脈硬化症である。
【0091】
別の態様では、本発明は、対象において体組成パラメータを変更するための医薬品を調製するための、(a)可溶性NRP1ポリペプチドもしくはその断片、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物の使用に関する。
体組成パラメータは、内臓脂肪面積(VFA)、体格指数(BMI)、ウエストヒップ比(WHR)、ウエストと身長の比率(WHeR)、胴囲(WC)、上腕囲(AC)、円錐度指数、体脂肪率(PBF)、上腕三頭筋皮下脂肪、肩甲骨下皮膚襞、白色脂肪組織(WAT)レベル、または褐色脂肪性(BAT)組織レベルである。
【0092】
一実施形態では、可溶性NRP1ポリペプチドまたはその断片は、表2に記載されているか、または図7もしくは図9Aに記載されているNRP1ポリペプチドトラップを含むかまたはそれからなる。
【0093】
一実施形態では、医薬品は、全身投与のためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0094】
図1-1】網膜虚血が、細胞老化および老化関連分泌表現型を誘発することを示す図である。(A)酸素誘発網膜症(OIR)のマウスモデルの概略図。(B)P14酸素正常状態およびOIR網膜の大規模ゲノムワイドRNA配列からの炎症およびアポトーシスの特徴に対応する代表的な遺伝子セット濃縮分析(GSEA)。OIR表現型と正および負に相関する遺伝子発現プロファイルを表す。
図1-2】網膜虚血が、細胞老化および老化関連分泌表現型を誘発することを示す図である。(C)P14OIR(左列)対酸素正常網膜(右列)におけるFridmanの老化関連遺伝子(28)のヒートマップおよびGSEAクラスター。(NES=正規化濃縮スコア、FDRq=偽発見率)、log2の発現(倍変化)を低発現(-2、左)から高発現(2、右)まで表すカラースケール。
図1-3】網膜虚血が、細胞老化および老化関連分泌表現型を誘発することを示す図である。(D)P14OIRおよび酸素正常状態マウスからの網膜細胞溶解物の免疫ブロットが老化マーカー誘導されていることを示している。(E)RT-qPCRは、P14OIR対酸素正常網膜における老化関連遺伝子、Cdkn1a(p21)およびCdkn2a(p16)の発現が誘導されていることを示している。
図1-4】網膜虚血が、細胞老化および老化関連分泌表現型を誘発することを示す図である。(F)P14酸素正常状態およびOIRフラットマウント網膜の代表的なイソレクチンB4(IB4)および老化関連β-ガラクトシダーゼ染色(SA-β-gal)。
図1-5】網膜虚血が、細胞老化および老化関連分泌表現型を誘発することを示す図である。(G)P14OIR対酸素正常フラットマウント網膜における老化関連β-ガラクトシダーゼ染色(SA-β-gal)の定量化(百分率)。網膜の四角で囲まれた中央(c)/末梢(p)および血管/無血管帯の高倍率像を示す(末梢OIR網膜と比較して中央***P<0.0001(n=10)、中心P14酸素正常網膜と比較して無血管†††P<0.0001(n=7))。(H)P14酸素正常およびOIR網膜の矢状切片の代表的なIB4およびSA-β-gal染色。四角で囲まれた中央の無血管網膜帯の高倍率画像を右パネルに示す。配向のために、網膜神経節細胞(GCL)、内核層(INL)および外核層(ONL)を示す。(I)P14での網膜矢状切片におけるSA-β-galで染色した面積率の定量化(*酸素正常網膜と比較してP<0.05(N=10)、†網膜の他のP14のOIR層と比較してP<0.05(n=7)、ns=有意ではない)。
図1-6】網膜虚血が、細胞老化および老化関連分泌表現型を誘発することを示す図である。(J)P14 OIRおよび酸素正常網膜のTUNEL染色。スケールバーは、500μM(H)である。高倍率の画像および(H、J)スケールバーは、200μMである。データは平均値±SEMで表す。
図2-1】細胞老化が網膜症の進行中に伝播することを示す図である。(A)OIRの進行中(P14、P17およびP21)の網膜のイソレクチンB4(IB4)染色。(B)OIR全体において細胞老化の伝播の概略図を示す。下部パネルにSA-β-gal染色フラットマウントOIR網膜を示す(スケールバー50μm)。より高倍率の画像により、異なる老化細胞集団が明らかになる(スケールバー25μm)。
図2-2】細胞老化が網膜症の進行中に伝播することを示す図である。(C)P14 OIR網膜の代表的な共焦点顕微鏡写真では、RGC(Brn3a染色(2列目))における老化マーカー(γH2AX(上段)およびPai1(中段))の強い染色を示す。差し込み図は、囲った領域の高倍率画像である。
図2-3】細胞老化が網膜症の進行中に伝播することを示す図である。(D)P17 OIRフラットマウント網膜の代表的な共焦点顕微鏡写真により、老化マーカー(PML(下段)およびγH2AX(上段))がミクログリア(IBA1)および血管IB4と同時標識することが明らかである。
図2-4】細胞老化が網膜症の進行中に伝播することを示す図である。(E)2つの異なるサンプルについてのP14 OIR対酸素正常状態網膜のパラクリン老化関連遺伝子のヒートマップおよびGSEAクラスター。(F)RT-qPCRは、P14 OIR対酸素正常網膜において、Pai1、Il1β、Tgf-β1、I16、Vegf-a、Ire1αおよびTp53の発現が誘導されていることを示す。β-アクチンを参照遺伝子として使用した。CおよびDでは、スケールバーは、100μmである。データは平均値±SEMで表す。
図3-1】SEMA3Aが老化およびパラクリン老化を媒介することを示す図である。(A)P10、P14、P17およびP21での酸素正常対照と比較した、OIR中のSEMA3Aタンパク質発現レベルのウエスタンブロット分析。β-アクチンは、添加対照として使用する。(B)マウス胚性線維芽細胞(MEF)におけるRas誘導老化中のSEMA3Aタンパク質レベルの免疫ブロット分析。選択後14日目に採取したH-RasV12癌遺伝子または対照空ベクターでレトロウイルスにより形質導入したMEFからの細胞溶解物。(C)空ベクター、MEK1単独またはMEKおよびヒトパピローマウイルス癌タンパク質E6およびE7でレトロウイルスにより形質導入されたヒト正常二倍体線維芽細胞(IMR90)におけるSEMA3A転写産物レベル。データは、GEOプロファイルGSE2487(77)からのものである(**MEKと比較してP<0.05CT、および††MEK/E6/E7と比較してP<0.05)。(D)増殖性または老化培養初代ヒト活性化肝星状細胞(HSC)中のSEMA3A転写産物レベル(**P=0.027)。
図3-2】SEMA3Aが老化およびパラクリン老化を媒介することを示す図である。(E)P2で組換えSEMA3A(100ng/ml)の硝子体内注射を受け、P5で採取されたP5仔マウスの網膜を、老化マーカーに対する免疫ブロット分析に供し、矢状凍結切片をSA-β-gal染色に供した(F)。(G)処理7日後のFACS分析によって得られたSEMA3A処理(100および500ng/ml)HRMEC(ヒト網膜微小血管内皮細胞)の細胞周期分布プロファイル(P<0.0001;二元配置ANOVA)、(H)電気細胞インピーダンスセンシング(ECIS)によってリアルタイムで測定された経内皮抵抗は、SEMA3Aが内皮細胞の増殖を減少させることを実証した(3~7日)(0.048>P>0.009)。
図3-3】SEMA3Aが老化およびパラクリン老化を媒介することを示す図である。(I)HRMEC、網膜ニューロン(661W)、およびJ774(マクロファージ様細胞)を組換えSEMA3A(100ng/ml)またはビヒクル(CT)で7日間刺激し、SA-β-galで染色し、(J)において定量化した。(n=3別々の実験)、両側スチューデントt検定Jより、**P<0.005および***P<0.0001。(K)馴化培地(CM)を老化網膜ニューロン(661W)およびH刺激後に7日間増殖させたマクロファージ様のJ774細胞(150μM、2時間)から回収した。老化細胞をSA-β-galで染色し(右)、CM中の分泌されたSEMA3A(S3A)タンパク質のレベルを免疫ブロットにより評価した(左)。(L)示されたベクター(Lv.sh_GFPまたはLv.sh_SEMA3A)を感染させ、Hまたはビヒクル(CT)で処理したニューロン661W細胞のSA-β-gal染色。老化は、7日間の処理後に評価した。(M)(J)におけるように処理されたSA-β-gal陽性細胞の百分率の定量化(n=3の独立した実験)。*P<0.005、未処理sh_GFP細胞と比較したH処理sh_GFP細胞;および†P<0.005、H処理sh_GFP細胞と比較したH処理sh_S3A細胞。両側スチューデントのt検定。データは平均値±SEMで表す。
図3-4】SEMA3Aが老化およびパラクリン老化を媒介することを示す図である。(N)HRMECにおけるパラクリン老化の誘導(老化したまたはしていないニューロン前駆細胞由来のCM((661W)図(I)参照))を、SA-β-gal染色によって7日後に評価した。(O)老化した661W細胞由来のCMを用いて、(I)におけるように処理されたSA-β-gal陽性細胞を定量化(百分率)したもの。
図3-5】SEMA3Aが老化およびパラクリン老化を媒介することを示す図である。(P)P12においてLv.sh_S3AまたはLv.sh_GFPを硝子体内注射したP14 OIRマウス由来の網膜のIB4染色およびSA-β-gal染色したもの。(Q)定量化したもの(***P<0.0001)。
図4】P14 OIR対酸素正常網膜における折畳み不全タンパク質応答の特徴についてのヒートマップおよびGSEAを示す図である。(A)OIR表現型と正および負に相関する遺伝子発現プロファイルを表す。(B)P14およびP17 OIRにおけるLysM-Cre/ROSA26EYFPfl/fl網膜の代表的なSA-β-galおよびIB4染色。(C)P14およびP17 OIRにおけるLysM-Cre/ROSA26EYFPfl/flからの中央領域における代表的なγH2AX染色およびEYFP。白い矢状は、γH2AXおよびEYFP+ミクログリアの同時標識を指す。
図5】SEMA3Aが老化細胞によって分泌され、ヒト網膜微小血管系内皮細胞においてパラクリン老化を誘発することを示す図である。RT-qPCRによって測定された、P14(A)およびP17、P21(B)網膜におけるSEMA3Aの相対的mRNAレベル(酸素正常対OIR)。(C)神経細胞(661W)におけるSh-RNA下方制御の効率を示す、SEMA3Aタンパク質発現のウエスタンブロット分析。(D)パラクリン老化の寄与を得るための馴化培地(CM)実験を説明する概略図。sh_GFPまたはsh_SEMA3Aを発現する網膜ニューロン前駆細胞株由来のCMをHで老化させ、CMを採取してHRMECに適用した。HRMECにおけるパラクリン老化の誘導を、SA-β-gal染色によって7日後に評価した。(E)Lv.sh_GFPまたはLv.sh_S3Aに感染した網膜ニューロン前駆細胞由来のCM中の分泌されたSEMA3Aのレベルを免疫ブロットにより評価した。(F)老化した(またはしていない)網膜ニューロン前駆細胞(Hまたはビヒクル処理)からのCMに曝露したHRMECにおけるp53の発現の免疫ブロット分析。(G)sh_GFPまたはsh_SEMA3A(sh_S3A)をトランスフェクトし、Hまたはビヒクルで処理した網膜ニューロン前駆細胞からのCMに曝露したHRMECの免疫ブロット分析。(H)組換えSEMA3A(100ng/ml)または老化J774細胞由来のCM(Sen-J774)で処理し、7日後に採取したHRMEC溶解物中のERストレスエフェクター、p-IRE1αS724の免疫ブロット分析。
図6-1】SEMA3AがJ774マクロファージ/単球において老化を誘導することを示す図である。(A)Lv.sh_GFPまたはLv.sh-IRE1αの硝子体内注射を受けたマウス由来のP14網膜溶解物を抗IRE1αおよびCreに対して免疫ブロットした。(B)陽性対照として、SEMA3A(100ng/ml、7日間)またはHで処理したJ774マクロファージのSA-β-gal染色。四角で囲まれた領域には、より高い倍率の図を示す。(C)陽性対照として、SEMA3A(100ng/ml、7日)またはHに曝露されたJ774マクロファージ、および破線矢印で示されるそれぞれのJ774条件からの馴化培地(CM)で処理されたHRMECの免疫ブロット分析。(D)IRE1αに対する免疫ブロットにより、HRMECにおけるIRE1αのレンチウイルス媒介性枯渇の効率が実証される。
図6-2】SEMA3AがJ774マクロファージ/単球において老化を誘導することを示す図である。に感染させ、次いで組換えSEMA3A(100ng/ml、7日)またはビヒクル(CT)で処理したHRMECのSA-β-gal染色。(F)SEMA3A(100ng/ml、7日間)またはビヒクル(CT)で処理したJ774におけるCdkn1a、Cdkn2aの相対的mRNA発現レベル。
図7】IRE1αのRNAse活性が老化に寄与していることを示す図である。(A)3日間または7日間SEMA3A(S3A)(100ng/mL)またはビヒクルで刺激したJ774細胞溶解物中の老化マーカーについての免疫ブロットは、p-IRE1αS724、p53、Pai1が誘導されていることを示している(n=3)。(B)J774マクロファージにおけるRT-qPCRでは、7日間のSEMA3A(100ng/mL)への曝露後にmRNAがPai1、I16、I11β、Tgf-β1およびTp53の発現を増大させることが明らかになった。(C)7日間SEMA3A(100ng/mL)またはビヒクルで刺激したJ774マクロファージのγH2AXおよびDAPIの代表的な共焦点免疫蛍光染色(スケールバーは100μmであzる)。囲った領域の高倍率の図を示す(スケールバーは50μmである)。処理後7日目にビヒクル、S3A(100ng/ml)、および/または4μ8c(1ng/ml)とで処理したJ774細胞溶解物中の(D)XBP1(複数可)(スプライスアイソフォーム)の免疫ブロットならびに(E)XBP1(複数可)および非スプライスXBP1(u)のPCR。(F)SEMA3A単独または4μ8cで刺激したJ774におけるPai1、I16、I11β、Tgf-β1、Tp53、Ire1αおよびTnfαのレベルのRT-qPCR。β-アクチンを参照遺伝子として使用した。***P<0.0001、*P<0.005。スケールバー:C&Gについては100μm。Cの高倍率は50μmである。データは平均値±SEMで表す。
図8-1】メトホルミンがSASPおよび病理学的網膜血管形成を無効にすることを示す図である。(A)この研究のために選択された患者から得られた血管造影法、スペクトル領域光コヒーレンストモグラフィー(SD-OCT)および3D網膜マップ。非血管性眼病理を有する対照患者(CT)(n=10)を、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)を有する患者(n=10)と比較した。表1(実施例6)には、患者の特徴を示す。(B)パラクリン老化に関与するサイトカインについての患者の硝子体液のマルチプレックス査定は、VEGF-A、Pai1、IL-6、およびIL-8における誘導を示している。結果は、CT患者に対して標準化された倍変化として表す。点は、個々の値を表すものである;**P<0.001、***P<0.0001。
図8-2】メトホルミンがSASPおよび病理学的網膜血管形成を無効にすることを示す図である。(C)P12においてメトホルミンまたはビヒクルを硝子体内注射したOIRマウスのP14およびP17からの網膜溶解物中のp-NFκBS536およびp-IRE1αS724の免疫ブロット分析。(D)P12においてメトホルミンまたはビヒクルを硝子体内注射したP14 OIRマウスの網膜において測定したCdkn1a、Cdkn2aおよびIl6のレベルについてのRT-qPCR(β-アクチンを参照遺伝子として使用した)。P12においてメトホルミンまたはビヒクルを硝子体内注射したマウスにおける、IB4およびSA-β-galで標識した代表的なP14(E)およびP17(F)OIRフラットマウント網膜。
図8-3】メトホルミンがSASPおよび病理学的網膜血管形成を無効にすることを示す図である。(G)EおよびFと同様に処理したP14およびP17 OIRマウスにおけるSA-β-gal染色面積の割合の定量化(**P14でP=0.0042(n=9)、**P17でP=0.0013(n=11)。メトホルミンと媒体注入網膜との比較)。(H)P12でメトホルミンまたはビヒクルを硝子体内注射したP14およびP17 OIRマウスの代表的なIB4染色フラットマウント網膜。OIRのP14(I)およびP17(J)における無血管領域を定量化したものである。網膜前の血管新生は、P17OIRで査定した(K)。結果は、全網膜領域に対する無血管領域または新生血管領域の百分率として表す(***P<0.0001および***P<0.001;メトホルミンとビヒクル注射網膜とを比較(n=13))。横線は割合(パーセント)の平均値を表し、点は個々の値を表す。スケールバーは、500μMである。データは平均値±SEMで表す。
図9-1】アフリベルセプトが血管修復または細胞老化を促進することなく病理学的血管形成を無効にすることを示す図である。P12においてアフリベルセプトまたはビヒクルを硝子体内注射したマウスにおける、IB4およびSA-β-galで標識した代表的なP14(A)およびP17(C)OIRフラットマウント網膜。AまたはCと同様に処理したP14(B)およびP17(D)OIRマウスにおけるSA-β-gal染色面積の割合の定量化(P14でP=0.3087(n=13~14)、P17でP=0.1580(n=13)、アフリベルセプトとビヒクル注入網膜との比較)。OIRのP14(P=0.4897、n=11~13)
図9-2】アフリベルセプトが血管修復または細胞老化を促進することなく病理学的血管形成を無効にすることを示す図である。P12においてアフリベルセプトまたはビヒクルを硝子体内注射したマウスにおける、IB4およびSA-β-galで標識した代表的なP14(A)およびP17(C)OIRフラットマウント網膜。AまたはCと同様に処理したP14(B)およびP17(D)OIRマウスにおけるSA-β-gal染色面積の割合の定量化(P14でP=0.3087(n=13~14)、P17でP=0.1580(n=13)、アフリベルセプトとビヒクル注入網膜との比較)。OIRのP14(P=0.4897、n=11~13)(E)、およびP17(P=0.9502、n=6~7)(F)における無血管領域の定量化。網膜前の血管新生は、P17OIRで査定した(G)。結果は、全網膜領域に対する無血管領域または新生血管領域の百分率として表す(***P<0.0207、n=5~6)、アフリベルセプトとビヒクル注射網膜とを比較(n=5~6))。横線は割合(パーセント)の平均値を表し、点は個々の値を表す。スケールバーは、500μMである。データは平均値±SEMで表す。
図10-1】OIR中およびI型糖尿病のSTZモデルにおいて網膜細胞老化が誘導されていることを示す図である。(A)図1Iにおいて表されるP14 OIRおよび酸素正常状態での全眼凍結切片のイソレクチンB4(IB4)およびTUNEL染色。
図10-2】OIR中およびI型糖尿病のSTZモデルにおいて網膜細胞老化が誘導されていることを示す図である。(B)凍結切片化したP14酸素正常状態およびOIR網膜でのγH2AX(緑色;左列)、p-IRE1αS724(緑色;中央列)およびPai1(緑色;右列)、イソレクチンB4(IB4)(赤色)、ならびにDAPI(青色)の代表的な共焦点免疫蛍光。
図10-3】OIR中およびI型糖尿病のSTZモデルにおいて網膜細胞老化が誘導されていることを示す図である。(C)凍結切片化したP14 OIR眼のPML(緑色;左列)、p16(緑色;右列)、IB4およびDAPIの代表的な共焦点免疫蛍光。(D)P21 OIRでのフラットマウント網膜のPML、イソレクチンB4(IB4)およびDAPIに対する代表的な共焦点免疫蛍光。
図10-4】OIR中およびI型糖尿病のSTZモデルにおいて網膜細胞老化が誘導されていることを示す図である。(E)クエン酸塩およびSTZ網膜からの凍結切片の代表的なSA-β-gal染色。網膜神経節細胞(GCL)、内核層(INL)および外核層(ONL)は配向のために示されている。(F)成体マウスクエン酸塩(対照)またはSTZ(糖尿病)由来のフラットマウント網膜上のα-SMAまたはNG2、イソレクチンB4(IB4)の代表的な共焦点免疫蛍光。
図11】OIR中の血管到達率を示す図である。酸素正常状態およびOIRの間に、P17およびP21において、α-SMA(A)またはNG2(B)、イソレクチンB4(IB4)について染色された網膜フラットマウントの代表的な共焦点免疫蛍光。スケールバーは、200μMである。
図12】メトホルミンがOIR中に老化を抑制することを示す図である。(A)メトホルミン(10μg/μl、P12)またはビヒクル(PBS)を注射したP14およびP17 OIR網膜からの凍結切片の代表的なSA-β-gal染色。(B)メトホルミンで処理されたか、または処理されていない凍結切片化されたP14OIR網膜上のTUNEL(左)およびDAPI(中央)の代表的な共焦点免疫蛍光。網膜神経節細胞(GCL)、内核層(INL)および外核層(ONL)は配向のために示されている。(C)OIR中の切断カスパーゼ-3タンパク質発現レベルのウエスタンブロット分析(P14、P17およびP21)。β-アクチンを添加対照として使用する。スケールバーは、200μmである。
図13】OIRにおいて、メトホルミンおよびアフリベルセプトの影響を受けない遺伝子を示す図である。(A)P12においてメトホルミンまたはビヒクルを硝子体内注射したP14 OIRマウスの網膜において測定したVegf-a、Vegf-c、Vegfr-1およびVegfr-2のレベルのRT-qPCR(β-アクチンを参照遺伝子として使用した)。(B)P12においてアフリベルセプトまたはビヒクルを硝子体内注射したP14OIRマウスの網膜において測定したCdkn2a、Tp53、Il1β、Tgf-β1およびSema3aのレベルについてのRT-qPCR(β-アクチンを参照遺伝子として使用した)。
図14】SA-β-galの定量化がどのように行われるかを示す図である。Image Jソフトウェア解析を使用した、フラットマウント網膜(または矢状の眼の切片)上のSA-β-gal染色の定量化の略図。
図15】例示的なビグアニド化合物およびIRE1αの阻害剤の構造を示す図である。(A)ビグアニド(CAS#56-03-1)、(B)メトホルミン(N,N-ジメチルイミドジカルボンイミド酸ジアミド;CAS#657-24-9)、(C)ブホルミン(1-ブチルビグアニド、CAS#692-13-7)、および(D)フェンホルミン(2-(N-フェネチルカルバムイミドイル)グアニジン、CAS#114-86-3)、(E)IRE1αのRNAse活性を阻害する「化合物3」IRE1α阻害剤(Wangら、2012、Nat.Chem.Bio.8(12):982-989)。
図16】ヒトSEMA3A前駆体タンパク質のアミノ酸配列を示す図である。この配列(配列番号50)は、シグナルペプチド(アミノ酸1~21)を除去することによってさらに成熟形態に加工される。
図17-1】ラット(受託番号EDL96784、NP_659566、配列番号48)、ヒト(受託番号NM003873、配列番号96)、およびマウス(受託番号NP_032763、配列番号48)、NRP1コンセンサス配列と共にNRP1タンパク質配列(配列番号47)のアライメントを示す図である。NRP1シグナルドメイン(アミノ酸1~20/1~21/1~27)、サブドメインa1(約aa22~約aa148)、サブドメインa2(約aa149~約aa275)、サブドメインb1(約aa276~aa428)、およびサブドメインb2(約aa429~約aa589)、ドメインc(約aa590~約aa859)、膜貫通ドメイン(約aa860~約aa883)および細胞質ドメイン(約aa884~約aa923)が同定されている。
図17-2】ラット(受託番号EDL96784、NP_659566、配列番号48)、ヒト(受託番号NM003873、配列番号96)、およびマウス(受託番号NP_032763、配列番号48)、NRP1コンセンサス配列と共にNRP1タンパク質配列(配列番号47)のアライメントを示す図である。NRP1シグナルドメイン(アミノ酸1~20/1~21/1~27)、サブドメインa1(約aa22~約aa148)、サブドメインa2(約aa149~約aa275)、サブドメインb1(約aa276~aa428)、およびサブドメインb2(約aa429~約aa589)、ドメインc(約aa590~約aa859)、膜貫通ドメイン(約aa860~約aa883)および細胞質ドメイン(約aa884~約aa923)が同定されている。
図18-1】図18A~Gは、本発明の例示的トラップ間のアミノ酸配列アラインメントを示す図である(示されている各トラップに対応する配列番号は、表2および9を参照されたい)。
図18-2】図18A~Gは、本発明の例示的トラップ間のアミノ酸配列アラインメントを示す図である(示されている各トラップに対応する配列番号は、表2および9を参照されたい)。
図18-3】図18A~Gは、本発明の例示的トラップ間のアミノ酸配列アラインメントを示す図である(示されている各トラップに対応する配列番号は、表2および9を参照されたい)。
図18-4】図18A~Gは、本発明の例示的トラップ間のアミノ酸配列アラインメントを示す図である(示されている各トラップに対応する配列番号は、表2および9を参照されたい)。
図18-5】図18A~Gは、本発明の例示的トラップ間のアミノ酸配列アラインメントを示す図である(示されている各トラップに対応する配列番号は、表2および9を参照されたい)。
図18-6】図18A~Gは、本発明の例示的トラップ間のアミノ酸配列アラインメントを示す図である(示されている各トラップに対応する配列番号は、表2および9を参照されたい)。
図18-7】図18A~Gは、本発明の例示的トラップ間のアミノ酸配列アラインメントを示す図である(示されている各トラップに対応する配列番号は、表2および9を参照されたい)。
図19】ヒト可溶性ニューロピリン-1(NRP1)タンパク質配列を示す図である。(A)NRP1アイソフォームb/s12(644アミノ酸;参照番号NP_001019799.1;NM_001024628.2;Uniprot:O-14786-2、配列番号44)、(B)NRP1アイソフォームc/Siv(609アミノ酸;参照番号NP_001019800.1;NM001024629.2;Uniprot:O14786、配列番号45)、(C)NRP1アイソフォームSIII(704アミノ酸;Ensembl:ENSP00000363956、配列番号46)。
図20】NRP1トラップの単回注射による細胞老化の減衰を示す図である。(A)P12においてトラップMおよびGを硝子体内注射されたマウスにおけるSA-β-galで標識された代表的なP17 OIRフラットマウント網膜。(B)SA-β-gal染色の定量化は、マウスがトラップMまたはトラップGの単回注射を受けたときに、細胞老化が有意に減衰していることを明らかにしている。
図21-1】食餌誘発性肥満の間にNRP1発現マクロファージが脂肪組織に蓄積することを示す図である。(A)好酸球のNRP1発現レベル(脂肪組織、末梢血)、好中球(血液、滑液、骨髄)、単球(古典的:MHCII+、MHCII-、MHCII-LN、骨髄、非古典的:MHCII中間体、MHCIIが高い、MHCII-、骨髄)、マクロファージ(脂肪組織、骨髄、赤脾髄、肺常在性、肺CD11b+、中枢神経系、定常状態腹膜(高)、定常状態腹膜(低)小腸漿膜、小腸固有層)(1群あたりn=1~4)。
図21-2】食餌誘発性肥満の間にNRP1発現マクロファージが脂肪組織に蓄積することを示す図である。((B)10週間の高脂肪食(HFD)における脂肪組織マクロファージ(ATM)集団FACS、および白色脂肪組織(WAT)における通常食(RD)C57BL/6の年齢一致対照、(C)マクロファージ(ATM)におけるNRP1発現レベル(1群あたりn=9)。(D~G)NRP1リガンドのmRNA発現:C57BL/6腹膜後白色脂肪組織(RPWAT)(群当たりn=5)のRDおよび10週間のHFDにおける(D)Sema3a、(E)Vegfa、(F)Vegfb、および(G)Tgfb1。データは平均±SEMとして表す。スチューデントの対応のないt検定(B~G)*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
図22】NRP1がFAの取り込みおよび食作用を促進することを示す図である。(A)対照およびLysM-Cre-NRP1fl/flマクロファージ内での急性BODIPY(商標)の取り込み(1群あたりn=7~8)、HFD給餌対照およびLysM-Cre-NRP1fl/flマウスの(B)後腹膜白色脂肪組織(RPWAT)、(C)肝臓、(D)血漿、および(E)心臓でのBODIPY(商標)の取り込み(n=6/群)。(F)対照および(G)脂肪細胞馴化培地中でインキュベートしたLysM-Cre-NRP1fl/flマクロファージのORO(オイルレッドO)染色。(H)対照および脂肪細胞馴化培地(DMEMおよびインスリン)中でインキュベートしたLysM-Cre-NRP1fl/flマクロファージ、(I)DMEMおよびインスリン、(J)DMEM、(K)マクロファージ培地(F12)のORO染色の定量化(1群あたりn=18~35)。データは平均±SEMとして表す。スチューデントの対応のないt検定、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
図23】NRP1を欠くマクロファージが食作用能力を低下させることを示す図である。食作用は、LysM-Cre-NRP1fl/flおよび対照マクロファージ中のpHrodoグリーンザイモサンバイオ粒子コンジュゲート(pHrodo green zymosan bioparticles conjugate)を用いて測定した。pHrodo蛍光は、対照およびLysM-Cre-NRP1fl/flマクロファージで検出された(1群あたりn=8)。データは平均±SEMで表した。スチューデントの対応のないt検定、**p<0.01。
図24】高脂肪食を与えられたマウスにおいて、NRP1ポリペプチドトラップが体重増加を妨げることを示す図である(実施例4を参照されたい)。体重増加に対するNRP1トラップの効果を査定した。NRP1のドメインa1、a2およびb1を含む可溶性NRP1トラップ(トラップM、図9A)を発現するアデノウイルス;アデノGFP;または生理食塩水(対照)を雄マウスに投与し、同時にマウスは、通常食から高脂肪食(HFD、T0)に切り替えた。体重増加は、10週間にわたって監視した。データは平均値±SEMで表す。スチューデントの対応のないt検定、*p<0.05、**p<0.01、生理食塩水対アデノトラップM、二元配置アノバ、ボンフェローニ事後検定、N=5。
図25】トラップMを発現するマウスにおける耐糖能試験を示す図である。(A)マウス1kgあたり2gのグルコースの腹腔内注射後にHFDを与えたマウスの異なる時点での糖血(mM)。6~8週齢のC57B16/Jマウスに食塩水またはアデノ-トラップMを静脈内注射した(0.25x1010PFU/注射)。注射直後にマウスに高脂肪食を与えた。糖血は、マウス1kgあたり2gのグルコースの腹腔内注射後の異なる時点で査定した。(B)二元配置のAnova Bonferroni事後検定において(A)**P<0.01(アデノGFP対アデノトラップM)に示す曲線下面積。N=5。
図26】全身注射後のトラップMの薬力学的特性の分析を示す図である。C57B16マウス(6~8週齢)に精製したトラップM(0.5mg/kg用量)を尾静脈注射し、注射から6時間、24時間および48時間後に血清サンプルを採取した。IMACセファロースを用いて約75μlの血清から捕捉されたトラップMを、抗ヒトNRP1(cubAIドメイン)を用いた免疫ブロット法によって検出した。
図27】アデノウイルス原種による形質導入後のトラップG、A、DおよびMのCos細胞発現を示す図である。Cos細胞は、示されたアデノウイルス原種により形質導入した。トラップGおよびMは、IMACセファロースを用いて形質導入細胞の上清から精製し、トラップAおよびDは、プロテインA/Gセファロースを用いて濃縮した。トラップは、抗ヒトNRP1(cubAIドメイン)を用いた免疫ブロッティングによって検出した。凡例:NI)非感染Cos細胞からの上清、アデノ-緑色蛍光タンパク質(GFP)感染Cos細胞からのGFP上清、S1)リポフェクタミン(商標)2000トランスフェクションアデノウイルス原種、S2)エフェクテントランスフェクションアデノウイルス原種、S3)PEIトランスフェクションアデノウイルス原種、A2)アデノウイルス原種増幅ラウンド2、A3)アデノウイルス原種増幅ラウンド3。具体的には、精製はIMACセファロース(IMAC)またはプロテインA/Gセファロース(A/G)を用いて行った。
図28】アデノウイルス-トラップM構築物による全身感染後のトラップMの薬理学的分布の解析を示す図である。C57B16マウス(6~8週齢)に、アデノウイルストラップMまたは対照アデノウイルス-GFP原種を尾静脈注射した。マウスは、感染の2週間後に屠殺し、血清、腎臓および肝臓組織を回収し、解析まで-80℃で貯蔵した。トラップMは、IMACセファロースを用いてPBS/2%トリトンx-100に溶解した血清(約75μl)または腎臓もしくは肝臓由来の組織溶解物(約40mg)から捕獲し、抗ヒトNRP1(cubAIドメイン)を用いた免疫ブロットにより検出した。凡例;1)非感染マウス、2)アデノGFP感染マウス、および3)アデノトラップM感染マウス。
図29】アデノウイルス感染の2週間後のトラップMの発現を示す図である。トラップMは、IMACセファロースを使用してPBS2%トリトンX-100に溶解した血液(約25μl)から捕獲し、抗ヒトNRP1(cubAIドメイン)を用いた免疫ブロッティングにより検出した。凡例;NI:非感染マウス。
【発明を実施するための形態】
【0095】
1.眼血管疾患における細胞老化およびSASPの役割
本明細書に提示されたデータは、耐候性虚血における細胞老化および眼血管疾患における血管形成の調節についての新規の役割を確立する。異なる網膜症モデルにおいては、実際に、網膜の異なる細胞内集団において老化細胞の一時的な蓄積が確立された。より具体的には、SASPを採用することによって、網膜ニューロンは、老化を網膜ミクログリアおよび内皮細胞に広げ、さらに病理学的な網膜前血管形成をさらに悪化させる一連のパラクリン因子および炎症性合図の産生を刺激することが見出された。本出願人らは、SASPを阻害(例えば、ビグアニド化合物(例えば、メトホルミン)の投与、またはIRE1αの薬理学的もしくは遺伝的阻害)することにより細胞老化を調節することで、血管性眼疾患において、虚血誘発老化を阻害し、血管再生を増やし、病理学的血管新生を抑制することを示した。したがって、SASPは、虚血性細胞が早期老化状態に入り、パラクリン老化を駆動し、破壊的血管形成を悪化させ、かつ修復的血管再生を妨げる炎症性サイトカインを分泌することで、病理学的血管増殖の媒介に関与していることが示された。
【0096】
本明細書に提示されるデータは、網膜症などの眼血管疾患の文脈において、細胞老化が、最初にニューロンを細胞死から保護し、同時にそれらが修復血管形成プログラムを誘発することを妨げるという点で、同じ疾患内で二分の役割を果たすことを裏付けている。加えて、網膜症において観察されるパラクリン老化およびそれに関連した血管調節因子の産生は、生理学的に無血管の硝子体へ新生血管が行われないようにし、かつ網膜血管系における早期加齢関連合併症を促進し得る。このことは、加齢黄斑変性症および糖尿病性網膜症など、加齢に関連する血管新生性眼疾患の発生率が上昇する点において、特に関連がある。そのため、老化のモジュレータを投与することにより、病理学的血管新生段階の間において細胞老化を予防することは、それ故に、眼血管疾患および網膜血管障害などの障害のための簡単な治療的解決策を表し得る。
【0097】
2.細胞老化を伴う血管性眼疾患を治療または予防する方法
したがって、本発明の一態様によれば、対象における血管性眼疾患または障害の少なくとも1つの症状または徴候を治療および/または予防するための組成物および方法が提供される。本発明のこの態様による方法は、SASPの阻害剤(例えば、メトホルミンなどのビグアニド化合物)を対象に投与することを含む。特定の態様では、SASPの阻害剤は、対象の眼内に局所的(例えば、全身的とは対照的に局所にまたは硝子体内に)に投与される。メトホルミンなどのビグアニド化合物の場合、全身投与では血液網膜障壁が存在するために化合物をその標的部位に到達させることが一般に不可能となるため、眼内投与が特に好ましい。実施形態では、血管性眼疾患または障害は、細胞性虚血に続発する。
【0098】
本発明によるSASPの阻害から利益を得ることができる血管性眼疾患または状態としては、異常な血管形成(例えば、病理学的血管新生および/または血管再生の減少)を特徴とするあらゆる疾患、障害または状態が挙げられる。これらの疾患は、正常な眼の機能に寄与する細胞(例えば、眼球血管細胞、網膜細胞、ニューロン、ミクログリア)への代謝供給(例えば、酸素、血液、栄養素)が減少(一過性または持続/慢性)することによって引き起こされ得、これにより、老化細胞(または老化表現型を有する細胞)の存在を導く。このような状態は、虚血事象の後に存在し得るが、このように限定されるものではない。このため、本明細書で使用される用語「血管性眼疾患もしくは障害」または「血管性眼疾患もしくは状態」は、眼内の血管の正常な生理機能に影響を及ぼす疾患、障害または状態を指す。このような眼疾患または症状の非限定的な例としては、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、虚血性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、加齢性黄斑変性症、網膜血管新生、網膜中心静脈閉塞症、分岐網膜静脈閉塞症、脈絡膜血管新生、ポリープ状脈絡膜血管症、眼に対する物理的な損傷、緑内障、裂孔原性網膜剥離(RRD)、網膜血管炎、網膜マクロ動脈瘤、網膜細動脈瘤、フックスジストロフィー症、虚血性視神経症、若年性黄斑変性症、黄斑性毛細血管拡張症、視神経炎、アッシャー症候群、網膜色素変性症、ぶどう膜炎、シュタルガルト病、レーバー先天性黒内障(LCA)が挙げられる。実施形態では、血管性眼疾患または障害は、虚血性網膜症である。実施形態では、虚血性網膜症は、糖尿病性網膜症、網膜症または未熟児、眼静脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、または分枝網膜静脈閉塞症に関連する。
【0099】
本発明に従ってSASPを阻害する化合物または剤は、ビグアニド化合物(例えば、メトホルミン)、mTor阻害剤(例えば、ラパログ、Torin 1)、および/またはIRE1α発現の阻害剤(例えば、アンチセンス、shRNAなど)、IRE1α活性化(S724リン酸化)の阻害剤、および/またはIRE1α RNAse活性の阻害剤(例えば、薬理学的阻害剤/アンタゴニスト)が挙げられる。一般に、本発明に従ってSASPを阻害する「IRE1α阻害剤」は、最終的にIRE1α RNAse活性を低下させるかまたは無効にするものである。
【0100】
特定の態様では、血管性眼疾患および障害(例えば、増殖性網膜症を伴う)の文脈において、SASPを阻害し、細胞老化を予防および/もしくは減衰する化合物および剤は、生理学的血管形成(すなわち有益な血管形成)を増やし、病理学的血管形成を減少し(病理学的血管新生)、したがって組織修復を促進する。
【0101】
IRE1αは、ヒトにおいてERN1遺伝子によってコードされる酵素である(Entrez:2081、Ensembl ENSG00000178607、Uniprot:O75460、Refseq mRNA:NM_152461、NM_001433、Refseq(protein):NP_001424.3)。このタンパク質は、固有のキナーゼ活性およびエンドリボヌクレアーゼ活性を有し、また。小胞体に基づくストレスシグナルに対する応答としての遺伝子発現の変化において重要である(主に折畳み不全タンパク質応答(UPR))。この遺伝子について、異なるアイソフォームをコードする2つの選択的スプライス転写多様体が見出された。IRE1αは、2つの機能的酵素ドメイン、エンドヌクレアーゼ、およびトランス自己リン酸化キナーゼドメインを有する。IRE1αは、活性化されると、オリゴマー化し、従来とは異なるRNAスプライシング活性を行い、Xボックス結合タンパク質1(XBP1)mRNAからイントロンを除去し、それが機能的転写因子XBP1に翻訳されるようになる。XBP1は、ERストレスからの回復を促進するERシャペロンおよび小胞体関連分解(ERAD)遺伝子を上方制御する。IRE1αを阻害する化合物(すなわち、阻害剤)もまた、当該分野において公知である。
【0102】
本明細書で使用される用語「IRE1α阻害剤」または「IRE1αアンタゴニスト」とは、細胞老化およびSASPの誘導(すなわち、IRE1αリボヌクレアーゼ活性およびXBP1プロセシング)に関連するIRE1α媒介細胞シグナル伝達を低減または遮断することができる剤を指す。非限定的例としては、IRE1αの発現(転写または翻訳)を低減または遮断する剤、IRE1α活性化を低減または遮断することができる剤(例えば、S724のリン酸化および/またはIRE1αの二量体化)が挙げられる。このように限定されるものではないが、剤は天然または合成であってもよく、小分子またはタンパク質/ポリペプチド/核酸であってもよく、例えばこれらに限定されないが、本明細書に記載のIRE1αタンパク質または任意の薬理学的阻害剤をコードするIRE1α核酸配列に特異的なアンチセンスまたはshRNAであってもよい。本発明のIRE1α阻害剤またはIRE1αアンタゴニストは、IRE1α核酸またはIRE1αタンパク質に結合して、IRE1αの発現、活性化または活性を低下させ、最終的には細胞内のIRE1α RNAse活性の低下をもたらす。
【0103】
RNaseドメインの触媒コアおよび/またはキナーゼドメインのATP結合ポケットを標的とする阻害剤が記載されている。RNAse結合ポケットを標的とする阻害剤の非限定的な例としては、サリチルアルデヒド(例えば、3-メトキシ-6-ブロモサリチルアルデヒド-Volkmanら、2011、JBC 286(14):12743~12755、PMCID:PMC3069474)、4μ8C、MKC-3946、STF-083010、およびトヨカマイシンが挙げられる。キナーゼドメインを介してIRE1αのRNase活性を阻害する化合物も同定され、これは、「キナーゼ阻害RNaseアテニュエータ」(KIRA)と命名されており、KIRA3およびKIRA6(Cas#1589527-65-0)を含み、IRE1αのキナーゼおよびRNAse活性を両方とも阻害する。スニチニブおよびAPY29は、ATP結合ポケットを阻害するが、IRE1α RNaseドメインをアロステリックに活性化する化合物の例である(Wangら、2012年、Nat.Chem.Bio.8(12):982-989)。IRE1αのさらなるキナーゼおよび/またはRNAse阻害剤および活性化剤は、Wang(上記)に記載されている。特定の実施形態では、本発明に従って使用されるIRE1α阻害剤は、IRE1αのRNAse活性を阻害するが、そのキナーゼ活性を阻害することはない。
【0104】
ビグアニドは、式HN(C(NH)NHを有する有機化合物のクラスである。これらの化合物は元来フレンチライラック(Galega officinalis)抽出物から発見され、血糖値を下げることが示された。したがって、それらは元来2型糖尿病の治療に使用されていた。様々なビグアニドの誘導体が、糖尿病の治療用の医薬剤として使用されているが、多嚢胞性卵巣症候群および癌など、他の疾患および状態のためにも使用されている。非限定的な例としては、メトホルミン(N、N-ジメチルイミドジカルボン酸ジアミド(IUPAC名)、CAS657-24-9;DrugBankDB00331;ChemSpider3949;Glucophage XR(商標);Carbophage SR(商標);Riomet(商標);Fortamet(商標);Glumetza(商標);Obimet(商標);gluformin(商標);Dianben(商標);Diabex(商標);Diaformin(商標);Siofor(商標);およびMetfogamma(商標))、ブホルミン(1-ブチルビグアニド、CAS#692-13-7)、フェンホルミン(2-(N-フェネチルカルバムイミドイル)グアニジン、CAS#114-86-3)、プログアニル、(1-[アミノ-(4-クロロアニリノ)メチリデン]-2-プロパン-2-イルグアニジン、クロルグアニドとしても知られている)クロルプログアニル、シンタリンA、(1,1’-デカン-1、10-ジイルジグアニジン、Cas#111-23-9)およびシンタリンB、(1,1’-ドデカメチレンジグアニジニウムジクロリド、Cas#61167-43-9)が挙げられる。図15は、本発明に従って使用され得るビグアニドおよびいくつかの機能的誘導体の構造を示す。
【0105】
本発明のSASP阻害剤は、アンジオポエチン-2阻害剤(例えば、国際公開第2016/085750号に記載されているもの)、VEGFアンタゴニスト(例えば、抗VEGF抗体(例えば、ラニビズマブ/LUCENTIS(商標)))、小分子VEGF阻害剤(例えば、スネチニブ)、VEGF-阻害融合タンパク質(例えば、アフリベルセプト/EYELEA(商標))、および/またはSEMA3Aアンタゴニスト(例えば、以下(表2および図18を参照されたい)、または、例えば、国際公開第2016/033699号に記載のSEMA3a抗体またはNRP1トラップ)など、血管性眼疾患および障害を治療するために使用される他の薬物と組み合わせて投与されてもよい。
【0106】
3.IRE1αを阻害することによる細胞老化およびSASPの減少または予防
本明細書に提示されたデータは、細胞老化およびSASPの調節におけるIRE1αの役割をさらに確立する。細胞老化(オートクリンおよび/またはパラクリンなど)、パラクリン老化は、IRE1α活性(すなわち、IRE1α活性化および細胞シグナル伝達)を低下させることによって阻害または予防され得る。
【0107】
IRE1α活性は、いくつかのアプローチによって阻害され得る。IRE1α細胞活性の阻害は、IRE1α(i)核酸またはタンパク質の発現、(ii)活性化(セリン724リン酸化)、および/または(iii)細胞内のRNAse活性(および任意によりそのキナーゼ活性)を低下させることによって直接行われ得る。上記のように、IRE1α阻害剤は当該分野で公知であり、IRE1αの発現(例えば、sh_RNAのIRE1αアンチセンス)、IRE1αの活性化(例えば、KIRA3、KIRA6)、および/またはIRE1αリボヌクレアーゼ(および任意によりキナーゼ)(例えば、サリチルアルデヒド、4μ8C、MKC-3946、STF-083010、KIRA3、KIRA6、およびトヨカマイシン)の活性を阻害する剤が挙げられる。
【0108】
したがって、本発明は、IRE1αのレベルまたは活性を低下させることを含む、細胞の細胞老化または細胞内の老化関連分泌表現型(SASP)の誘導を阻害または予防する方法を提供する。
【0109】
本発明はまた、細胞をIRE1αの阻害剤と接触させることを含む、細胞の細胞老化または細胞内の老化関連分泌表現型(SASP)の誘導を阻害または予防する方法に関する。
【0110】
対象にIRE1αの阻害剤を投与することを含む、細胞の細胞老化、または対象の細胞内において老化関連分泌表現型の誘導を阻害または予防する方法も提供される。
【0111】
上記の方法は、細胞老化が有害である疾患または状態、例えば、種々の年齢加齢状態(例えば、サルコペニア、神経変性、表皮の薄化、皮膚の皺、抜け毛および白髪、白内障、肥満、メタボリックシンドローム、ならびに他の老年期疾患など)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、アテローム性動脈硬化症、変形性関節症、骨粗鬆症、緑内障、パーキンソン病、腸管疾患、椎間板変性、脳動脈瘤、大動脈瘤、膵線維症、血管性眼疾患(例えば、網膜血管疾患(増殖性網膜症、糖尿病性網膜症、虚血性網膜症、黄斑変性症、緑内障)ならびに嚢胞性線維症などの治療または予防に有用であり得る。細胞老化の阻害または予防はまた、例えば代謝機能不全、加齢の加速、後年の癌の危険性の増加などの、化学療法/放射線療法の副作用を軽減するために、癌治療中および/または癌治療後に有用であり得る。実施形態では、本発明に包含される老化関連疾患または状態は、1つ以上の血管性眼疾患(例えば、網膜血管疾患(増殖性網膜症、糖尿病性網膜症、虚血性網膜症、黄斑変性、緑内障))を除くものとする。
【0112】
IRE1αの発現、したがってIRE1α媒介細胞老化を減少させるために様々なアプローチが利用可能である。非限定的な例としては、小型ヘアピンshRNA(RNAi)、アンチセンス、リボザイム、IRE1αプロモーターを標的とするTALエフェクターなどの使用が挙げられる。細胞におけるshRNAまたは類似の阻害性RNAの発現は、プラスミドの送達、またはウイルス(例えば、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターなど)または細菌ベクターを介した送達によって得ることができる。
【0113】
したがって、代替的実施形態において、本発明は、目的のmRNAの分解および/または翻訳の阻害をもたらすための外因性投与のためのアンチセンス、shRNA分子およびリボザイムを提供する。本発明はまた、本明細書に開示のアンチセンス、shRNA分子、リボザイムなどを送達および/または発現するためのベクターおよび宿主細胞を提供する。アンチセンス、shRNA分子、およびリボザイムは、好ましくは哺乳動物(好ましくはヒト)のIRE1αを標的とする。治療用アンチセンスオリゴヌクレオチド適用の例としては、以下が挙げられる:1992年8月4日に発行の米国特許第5,135,917号、1992年3月24日に発行の米国特許第5,098,890号、1992年2月11日に発行の米国特許第5,087,617号、1992年11月24日に発行の米国特許第5,166,195号、1991年4月2日に発行の米国特許第5,004,810号、1993年3月16日に発行の米国特許第5,194,428号、1989年2月21日に発行の米国特許第4,806,463号、1994年2月15日に発行の米国特許第5,286,717号、米国特許第5,276,019号、および米国特許第5,264,423号、BioWorld Today、1994年4月29日、p.3。
【0114】
好ましくは、アンチセンス分子において、特異的結合が望まれる条件下、例えばこの場合は生理的条件下で、インビボアッセイもしくは治療処置の場合、またはインビトロアッセイの場合、アッセイが行われる条件下において、アンチセンス分子の非標的配列への非特異的結合を回避するのに十分な程度の目的のmRNAに対する相補性がある。アンチセンス結合のための標的mRNAとしては、タンパク質をコードするための情報のみでなく、例えば5’非翻訳領域、3’非翻訳領域、5’キャップ領域、およびイントロン/エクソン接合部リボヌクレオチドを形成する関連リボヌクレオチドも挙げることができる。本発明のIRE1α阻害剤として、こうした分子を提供するために使用され得るアンチセンスおよびリボザイム核酸のスクリーニング方法が、米国特許第5,932,435号に開示されている。
【0115】
いくつかの実施形態では、本発明によるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、約5~約100のヌクレオチド単位を含み得る。理解されるように、ヌクレオチド単位は、ホスホジエステルまたは骨格構造を形成する他の結合を介して隣接するヌクレオチド単位に好適に結合した塩基-糖の組み合わせ(または類似構造の組み合わせ)である。
【0116】
さらなる実施形態では、目的のポリペプチドをコードする核酸(IRE1α)、またはその断片の発現は、一種の転写後遺伝子サイレンシングであるRNA干渉(RNAi)技術、を使用して阻害または予防され得る。RNAiを使用して、疑似「ノックアウト」、すなわち目的の遺伝子またはコード領域によりコードされる産物の発現が低減されるシステムを作り出すことができ、その結果、システム内においてコードされた産物の活性が全体的に低下する。このように、RNAiは、目的の核酸またはその断片もしくは多様体を標的とし、それがコードする産物の発現および活性レベルを低下させるために行われ得る。このようなシステムは、このような産物の活性に関連する障害を治療するためのみでなく、その産物の機能的研究のためにも使用され得る。RNAiは、例えば公開された米国特許出願第20020173478号(Gewirtz;2002年11月21日公開)および第20020132788号(Lewisら;2002年11月7日公開)に記載されている。RNAiを実施するための試薬およびキットは、例えばAmbion Inc.(Austin、TX、USA)およびNew England Biolabs Inc.(Beverly、MA、USA)から市販されている。
【0117】
いくつかの系におけるRNAiのための最初の剤は、標的核酸に対応するdsRNA分子である。次いで、dsRNA(例えば、shRNA)は、21~23ヌクレオチド長(19~21bp二重鎖、それぞれ2ヌクレオチドの3’オーバーハングを有する)である短鎖干渉RNA(siRNA)に切断されると考えられる。この最初の切断工程に影響を与えると考えられている酵素は「ダイサー」と呼ばれており、dsRNA特異的リボヌクレアーゼのRNase IIIファミリーのメンバーとして分類される。あるいは、RNAiは、細胞に直接導入すること、またはそのようなsiRNAまたはsiRNA様分子の好適な前駆体(例えば、前駆体(複数可)をコードするベクター(アデノウイルスベクターなどのウイルスベクター))を細胞に導入することによって細胞内で生成することによってもたらされ得る。次いで、siRNAは他の細胞内成分と会合して、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)を形成し得る。このようにして形成されたRISCは、その後、相同性により、そのsiRNA成分と標的転写物との間の塩基対相互作用を介して目的の転写物を標的化し、その結果、siRNAの3’末端から約12のヌクレオチドの標的転写物を切断する。したがって、標的mRNAが切断され、コードするタンパク質産物のレベルが低下する。
【0118】
RNAiは、好適インビトロ合成siRNA(shRNA)またはsiRNA様分子を細胞に導入することによってもたらされ得る。RNAiは、例えば化学合成RNAを用いて実施することができる。あるいは、好適な発現ベクターを使用して、そのようなRNAをインビトロまたはインビボのいずれかで転写してもよい。センス鎖およびアンチセンス鎖(同じベクター上または別々のベクター上に存在する配列によってコードされる)のインビトロ転写は、例えばT7RNAポリメラーゼを使用してもたらされ得る。この場合、ベクターは、T7プロモーターに作動可能に連結された好適なコード配列を含んでもよい。実施形態では、インビトロ-転写RNAは、インビトロでプロセシングを行って(例えば大腸菌RNaseIIIを用いて)、RNAiに繋がるサイズにしてもよい。センスおよびアンチセンス転写物は、組み合わせて目的の標的細胞に導入されるRNA二本鎖を形成する。siRNA様分子にプロセシングされ得る小型ヘアピンRNA(shRNA)を発現する他のベクターが使用されてもよい。インビトロまたはインビボのいずれかにおいて、種々のベクターを使用した方法、およびそのようなベクターを細胞に導入するための種々の方法(例えば遺伝子治療)が、当技術分野において公知である。
【0119】
したがって、一実施形態では、目的のポリペプチド(IRE1α)をコードする核酸、またはその断片の発現は、目的のポリペプチド(例えば、IRE1α)をコードする核酸またはその断片、あるいはそれらと相同な核酸に対応するsiRNAまたはsiRNA様分子を細胞内に導入するか、または細胞内で生成することによって阻害され得る。「siRNA様分子」とは、siRNAに類似しており(例えば、サイズおよび構造について)、siRNA活性を引き出すことができる、すなわち発現のRNAi媒介阻害をもたらすことができる核酸分子を指す。様々な実施形態では、こうした方法は、細胞内へのsiRNAもしくはsiRNA様分子の直接投与、または上記のベクターを利用した方法の使用を必然的に伴い得る。一実施形態では、siRNAまたはsiRNA様分子は、約30ヌクレオチド長未満である。さらなる実施形態では、siRNAまたはsiRNA様分子は約21~23ヌクレオチド長である。一実施形態では、siRNAまたはsiRNA様分子は、19~21bpの二重鎖部分を含み、各鎖は2ヌクレオチドの3’オーバーハングを有する。実施形態では、siRNAまたはsiRNA様分子は、目的のポリペプチドをコードする核酸、またはその断片もしくは多様体(もしくは多様体の断片)と実質的に同一である。このような多様体は、目的のポリペプチドと同様の活性を有するタンパク質をコードすることができる。
【0120】
4.IRE1αリボヌクレアーゼ活性の増大により細胞老化を促進する方法
特定の条件下では、細胞老化の刺激が有益な場合もある。オートクリンおよびパラクリン老化などの細胞老化は、IRE1α活性(すなわち、IRE1α RNAse活性および細胞シグナル伝達)を刺激または増大させることによって促進または誘導することができる。IRE1α活性は、細胞内のIRE1αの発現を増加させること、またはIRE1αRNAse活性を活性化する化合物(例えば、APY29、スニチニブ、または化合物3(Joshiら、2015、6(15):1309-1335に記載))と細胞を接触させることなど、いくつかのアプローチによって増大させることができる。
【0121】
細胞老化を促進する方法は、老化が組織修復、創傷治癒、肝線維症、腎線維症、心筋梗塞、心臓線維化、アテローム性動脈硬化症、肺高血圧症および癌などの有益な効果を有する疾患および状態において有用であり得る。
【0122】
5.SEMA3Aモジュレータを含む細胞老化を調節するための組成物および方法。
クラス3セマフォリン(Sema3)は、その既知の生物学的役割が多様であり、かつ成長しているタンパク質のサブファミリーである。Sema3の作用機序は、ニューロピリン、プレキシンおよび細胞接着分子(CAM)のヘテロマー複合体を含む膜貫通受容体への結合を必要とする。SEMA3A遺伝子(GeneCard ID:GC07M083955;Entrez Gene ID:10371;Ensembl:ENSG00000075213)は、シグナルペプチド、Ig-様C2-型(免疫グロブリン様)ドメイン、PSIドメイン、およびSemaドメイン(これはシグナル伝達に必要である)を含む771のアミノ酸タンパク質(NP_006071.1;UniprotKB:Q14563、配列番号50)をコードする。この分泌タンパク質は、軸索誘導合図として最初に記載されていたが、現在では臓器の発生、骨代謝、血管形成、血管透過性、成長円錐の崩壊、筋形成再生、および神経筋接合部の形成など、免疫系、炎症、統合失調症、および糖尿病性網膜症などの網膜疾患など、様々な生理学的および病理学的プロセスに関与している。
【0123】
Sema3aは一般に、ニューロピリン-1(NRP1)および共受容体(例えばクラスAプレキシン(例えばPLXna1-Plxna4、Plxnd1)、L1cam、chL1、Robo1)を含む受容体複合体を介してシグナル伝達する。NRP1(Ensemble;ENSG00000099250;ENST00000265371;Uniprot:O14786;OMIM:602069;HGNC:8004;GeneCard ID:GC10M033216、配列番号44~47、95および96)は、大きい細胞内ドメインを有する単回通過膜貫通受容体である。ニューロピリン-1の基本構造は、5つのドメイン:3つの細胞外ドメイン(a1a2(CUB)、b1b2(FV/FVIII)、およびc(MAM))、膜貫通ドメイン、ならびに細胞質ドメインを含む。a1a2ドメインは、ジスルフィド架橋を形成する4つのシステイン残基を一般に含む補体成分C1rおよびC1s(CUB)と相同である。このドメインは、SEMA3Aに結合する。ドメインb1b2(FV/FVIII)は、VEGFに結合する。サブドメインb1中のアミノ酸Y297は、Y297をアラニンに置換することで、NRP1へのVEGFの結合が著しく低下するため、VEGFへの結合に重要である。サブドメインb1も、SEMA3Aのリガンド結合に寄与する。実際、本出願人らは、驚くべきことに、Y297(Y297A)の置換もまたSEMA3AのNRP1への結合を有意に減少させることを見出した。結晶学的エビデンスでは、VEGF165およびSema3Aが直接NRP1について競合するというよりも、別個の重複しない部位において、NRP1に同時に結合できることを明らかにした。
【0124】
膜貫通型(アイソフォーム1、923 aa、図17、配列番号:47、95、および96、NM003873、Uniprot:O14786-1)に加えて、細胞外ドメインの一部のみを含有する天然に存在する可溶性NRP1タンパク質(sNRP1)は、細胞によって分泌され得る。551~704のアミノ酸(アイソフォームb/s12 NRP1(644のアミノ酸;RefSeq:NP_001019799.1;NM_001024628.2、配列番号44)、s11 NRP1(704のアミノ酸;ENSP00000363956、配列番号46)、sIII NRP1(551aa)およびc/sIV NRP1(609のアミノ酸;RefSeq:NP_001019800.1;NM001024629.2、配列番号45)(Cackowskiら、2004、Genomics、84(1):82-94;Rossignol Mら、Genomics 2000;70(2):211-222;およびGagnon MLら、2000,Proc.Natl.Acad.Sci.USA;97(6):2573-2578))の範囲の異なる可溶性形態が記載されている。タンパク質の全長型は17のエクソンすべてを含むのに対して、可溶性アイソフォームは、NRP1遺伝子の選択的スプライシングまたはイントロンによる読み取りによって作製される。b/s12およびc/sIV NRP1アイソフォームは、a1a2ドメインおよびb1b2ドメイン、ならびにb/cリンカーのほどんどを含むが、cドメインは含まない。アイソフォームsIIIは、a1a2ドメイン、b1サブドメインを含み、b2サブドメインについては一部のみを含む。s11 NRP1アイソフォームは、a1a2ドメインおよびb1b2ドメインを含み、その後にエクソン11および83の新規アミノ酸によってコードされるb/cリンカーの一部分が続く。
【0125】
本発明の第2の態様では、虚血性網膜症のモデルにおける以下の研究において、驚くべきことに、SEMA3Aは、細胞老化のモジュレータとして同定された。実際に、無血管化された網膜帯のニューロンによって引き起こされる予想外のメカニズムは、それらが早期細胞老化状態に入り、老化関連分泌表現型(SASP)をとるところで同定された。本明細書に記載のデータは、老化細胞によるSEMA3Aの分泌がIRE1aを介してパラクリン老化を駆動し、虚血組織において、ニューロン、ミクログリア、およびその上にある血管系などの様々な細胞型に対して老化を伝播する(パラクリン老化)ことを示すものである。さらに、SEMA3Aへ持続的に曝露することにより、IRE1αを活性化し、老化を誘導し、かつ老化状態を促進し、強化するために重要であることが知られている一群の遺伝子、例えばPai1、I16、Il1β、TGF-βおよびTp53の発現を駆動することが示された。SEMA3Aはまた、細胞老化の特徴であるγH2AXを発現する老化関連DNA損傷病巣を促進することも示された。特に、かつ本明細書に示されるように、SEMA3Aに対する遺伝的干渉は老化を制限し、かつ組織修復を刺激する。
【0126】
本発明者らは、SEMA3Aのレベルまたは活性を調節することが、細胞老化、および細胞老化中に放出されるタンパク質(典型的には、SASPの炎症誘発性サイトカイン)の分泌を制御できることを見出した。本発明者らは、SEMA3Aの発現または活性を阻害することによって、細胞老化を予防、制限または減少させることができ、また、SASPの誘導を予防または減少させることができることを見出した。同様に、(例えば、その発現を増加させることによって、または細胞をSEMA3Aポリペプチドと接触させることによって)SEMA3A活性を増大させることで、老化を促進し、SASPを誘導する。
【0127】
これらのデータは、病理学的プロセスにおいてSASPを介したオートクリンおよびパラクリンの老化を調節する際におけるSEMA3Aの、これまでには予期されなかった役割についてのエビデンスを提供するものであり、老化に関連する疾患および状態において、SEMA3A活性を調節する治療上の利点を明らかにするものである。
【0128】
(i)SEMA3Aシグナル伝達を阻害することによって細胞老化を阻害または予防する方法
オートクリンおよびパラクリン老化などの細胞老化は、SEMA3A活性(すなわち、SEMA3A細胞シグナル伝達)を低下させることによって阻害または予防することができる。SEMA3A活性は、いくつかのアプローチによって阻害され得る。SEMA3A細胞活性の阻害は、(i)SEMA3A核酸またはタンパク質の発現を減少させることによって、(ii)細胞によるその分泌を阻害することによって、または(III)細胞表面上においてその受容体への結合を阻害するために、分泌されたSEMA3Aを隔離することによって、直接行われ得、これによって、細胞内シグナル伝達、IRE1αの活性化、ならびに細胞老化の開始および/もしくは伝播を妨げる。SEMA3Aの活性を阻害するための剤およびアプローチの非限定的な例としては、以下のものが挙げられる:(i)SEMA3Aに対する抗体、(ii)その受容体の1つに対する(すなわち、その受容体に結合するSEMA3Aと競合するもの)抗体、(iii)SEMA3Aの発現を減少させるためのアンチセンスおよびRNAi法、ならびに/または(iv)機能的SEMA3Aトラップとして作用する可溶性受容体もしくはその断片の使用。
【0129】
したがって、本発明は、SEMA3Aのレベルまたは活性を低下させることを含む、細胞の細胞老化または細胞内の老化関連分泌表現型(SASP)の誘導を阻害または予防する方法を提供する。
【0130】
本発明はまた、細胞をSEMA3Aアンタゴニストと接触させることを含む、細胞の細胞老化または細胞内の老化関連分泌表現型(SASP)の誘導を阻害または予防する方法に関する。
【0131】
対象に有効量のSEMA3Aアンタゴニストを投与することを含む、細胞老化または対象の細胞における老化関連分泌表現型の誘導を阻害または予防する方法も提供される。
【0132】
本明細書で使用される用語「SEMA3A阻害剤」または「SEMA3Aアンタゴニスト」は、SASPのSEMA3A誘導およびSEMA3A誘導細胞老化に関連するSEMA3A媒介細胞シグナル伝達を低減または遮断することができる剤を指す。本発明の「SEMA3A阻害剤」または「SEMA3Aアンタゴニスト」は、SEMA3Aポリペプチドの発現またはその同族の受容体との相互作用を低減し、SEMA3A媒介細胞シグナル伝達が減少するか無効になるようにするために、SEMA3AポリペプチドまたはSEMA3A核酸(SEMA3A遺伝子またはmRNA)に結合するか、または相互作用する。非限定的な例としては、SEMA3Aの発現(転写または翻訳)を低減または遮断する剤、SEMA3A分泌を低減もしくは遮断することができる剤、またはその受容体NRP1へのSEMA3Aの結合を低減もしくは遮断することができる剤が挙げられる。そのように限定されるものではないが、剤は天然または合成であってもよく、これに限定するものではないが、SEMA3AまたはNRP1受容体に特異的に結合する抗体などのタンパク質/ポリペプチド、可溶性NRP1ポリペプチドまたはその断片(例えばSEMA3Aに結合するNRP1トラップ)、ペプチド、小分子、限定するものではないが、SEMA3Aタンパク質をコードするSEMA3A核酸配列に特異的なアンチセンスまたはshRNAなどのポリヌクレオチド、またはその機能的多様体もしくは断片であってもよい。
【0133】
上記の方法は、細胞老化が有害である疾患または状態、例えば種々の加齢状態(例えば、サルコペニア、神経変性、表皮の薄化、皮膚の皺、抜け毛および白髪、白内障、ならびに他の老年期疾患など)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、アテローム性動脈硬化症、変形性関節症、骨粗鬆症およびパーキンソン病、緑内障、腸管疾患、椎間板変性、脳動脈瘤、大動脈瘤、膵臓線維症、嚢胞性繊維症の治療または予防に有用であり得る。細胞老化の阻害または予防はまた、例えば代謝機能不全、加齢の加速、後年の癌の危険性の増加など、化学療法/放射線療法の副作用を軽減するために、癌治療中および/または癌治療後に有用であり得る。実施形態では、本発明に包含される老化関連疾患または状態には、眼疾患(例えば、網膜血管疾患(虚血性網膜症、黄斑浮腫))、炎症、脳虚血、卒中または癌を含まない。
【0134】
a.抗体
本発明の特定の態様において、SEMA3A活性(例えば、SEMA3A誘導性IRE1αの活性化)は、SEMA3A抗体を用いることによって阻害され得る。これらの抗体は、それがその同族の受容体であるNRP1へのその結合を阻害する方法でSEMA3Aに結合し、これによってSEMA3A媒介細胞シグナル伝達を防止する(79、80)。
【0135】
あるいは、NRP1へのSEMA3Aの結合を遮断する、NRP1受容体を直接標的とする抗体が使用されてもよい。本発明の特定の態様では、NRP1を標的とする抗体は、その受容体へのSEMA3Aの結合を遮断するが、NRP1へのVEGFの結合を実質的に干渉するものではない。一実施形態では、NRP1抗体は、NRP1ポリペプチドのa1a2(A)ドメインに結合する。
【0136】
本明細書で使用される用語「SEMA3A抗体」は、SEMA3Aタンパク質に特異的に結合(相互作用)し、かつSEMA3Aタンパク質と同じ抗原決定基を共有するもの以外の他の天然タンパク質に対して、実質的な結合を示さない抗体を指す。同様に、用語「NRP1抗体」は、NRP1タンパク質に特異的に結合(相互作用)し、かつNRP1タンパク質と同じ抗原決定基を共有するもの以外の他の天然タンパク質に対して、実質的な結合を示さない抗体を指す。SEMA3A/NRP1抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、ならびにキメラ抗体が挙げられる。抗体または免疫グロブリンという用語は最も広い意味で使用され、それらが所望の生物学的活性を示す限り、モノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体、および抗体断片を網羅する。抗体断片は、全長抗体の一部分、一般にその抗原結合領域またはその可変領域を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびFv断片、ダイアボディ、直鎖状抗体、単鎖抗体分子、単一ドメイン抗体(例えば、ラクダ科動物由来)、サメNAR単一ドメイン抗体、および抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられる。抗体断片はまた、これに限定するものではないが、VH領域(VH、VH-VH)、アンチカリン、PepBody(商標)、抗体-T細胞エピトープ融合(Troybody)、またはPeptibodyなど、CDRまたは抗原結合ドメインを含む結合部分を指すことができる。
【0137】
抗ヒトSEMA3A/NRP1抗体は、これまでにも調製されおり(80)、Santa Cruzなど、様々な供給元からも市販されている。一般に、抗体(モノクローナル抗体およびハイブリドーマなど)を調製するための技術および抗体を用いて抗原を検出するための技術は、当該分野において周知であり、種々のプロトコールが周知であり、かつ容易に利用可能である。
【0138】
b.可溶性受容体またはその断片
Sema3媒介細胞老化の調節は、天然に存在する可溶性NRP1ポリペプチドまたは合成NRP1ポリペプチド(例えば、インビトロで細胞株中で(組換えにより)産生されるかまたは化学合成される)を使用することによって達成され得る。本明細書で使用される用語「NRP1トラップ」または「NRP1ポリペプチドトラップ」は、天然に存在する可溶性NRP1ポリペプチド(例えば、図17、19、表2、および配列番号44~47、95および96に示されるNRP1分泌アイソフォームなど)、SEMA3Aリガンド結合に関して内因性(細胞性、膜結合性)NRP1と競合するNRP1の任意の機能的可溶性断片またはNRP1の任意の機能的多様体など、天然に存在しない可溶性NRP1ポリペプチドおよび合成可溶性NRP1ポリペプチドを包含する。一実施形態では、本発明のNRP1トラップは天然には存在しない(すなわち、天然発生ではない)が、天然に存在するNRP1ポリペプチドに「由来する」ものである(すなわちそれらは合成である。例えばNRP1アイソフォーム1の細胞外ドメインを含むNRP1トラップ(例えば、膜貫通(細胞)NRP1のアミノ酸1~857)またはその断片もしくは多様体)。一般に、本発明のNRP1トラップは、最初にそれらのN末端にシグナルペプチドを含み(例えば、図17に示されるNRP1アミノ酸配列のアミノ酸約1~21)、これは細胞による成熟および分泌の際に切断される。したがって、本発明のNRP1ポリペプチドトラップは、精製ポリペプチドとして投与した場合、または精製されたか、もしくは実質的に純粋である形態を含む医薬組成物として調製した場合、アミノ酸1~21を欠いている。同様に、本発明のNRP1トラップをコードする核酸は、NRP1トラップを合成し、細胞により分泌されるようにするシグナルペプチド(例えば、N末端において最初の21アミノ酸をコードする最初の63のヌクレオチド)をコードする5’内のポリヌクレオチド配列を含む。条件および細胞型に応じて、分泌のために除去されるシグナルペプチドの長さは異なり得る。アミノ酸1~20、1~21および1~27の除去(図17~18を参照されたい、例えば配列番号47、95および96)が記載されている。特定の実施形態では、シグナルペプチドは、図17、または配列番号47、95または96に記載のNRP1ポリペプチドの最初の21アミノ酸に対応する。
【表1】
【0139】
本発明に従って使用され得るNRP1トラップの非限定的な例としては、配列番号44~47、95および96に示される天然の可溶性NRP1、下記の表2、図18および国際公開第2016/03699号(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されるNRP1トラップが挙げられる。当然のことながら、対象に投与されるかまたは細胞と接触する成熟した活性型の可溶性NRP1トラップは、シグナルペプチドならびに細胞膜膜結合NRP1内に通常存在する膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインに対応するアミノ酸配列の部分を欠いている。

【表2】
【0140】
一実施形態では、本発明のNRP1トラップは、以下を含む:(i)ヒトNRP1ポリペプチドのアミノ酸1~856(好ましくはその成熟形態、シグナルペプチドに続くアミノ酸(例えば、アミノ酸21、22または28)~アミノ酸856)、(ii)ヒトNRP1ポリペプチドのアミノ酸1~583(好ましくはその成熟形態、シグナルペプチドに続くアミノ酸(例えば、アミノ酸21、22または28)~アミノ酸583)、(iii)ヒトNRP1ポリペプチドのアミノ酸1~424(好ましくはその成熟形態、シグナルペプチドに続くアミノ酸(例えば、アミノ酸21、22または28)~アミノ酸424)、(iv)ヒトNRP1ポリペプチドのアミノ酸1~265(好ましくはその成熟形態、シグナルペプチドに続くアミノ酸(例えば、アミノ酸21、22または28)~アミノ酸265)、(v)ヒトNRP1ポリペプチドのアミノ酸1~430および584~856(好ましくはその成熟形態、シグナルペプチドに続くアミノ酸(例えば、アミノ酸21、22または28)~アミノ酸430、およびアミノ酸584~アミノ酸856)、(vi)ヒトNRP1ポリペプチドのアミノ酸1~274および584~856(好ましくはその成熟形態、シグナルペプチドに続くアミノ酸(例えば、アミノ酸21、22または28)~アミノ酸274、およびアミノ酸584~アミノ酸856)、(vii)ヒトNRP1ポリペプチドのアミノ酸1~430および584~856(好ましくはその成熟形態、シグナルペプチドに続くアミノ酸(例えば、アミノ酸21、22または28)~アミノ酸430、およびアミノ酸584~アミノ酸856)。実施形態では、NRP1ポリペプチドは、図17、配列番号44、45、46、47、95、もしくは96に記載のアミノ酸配列、またはその対立遺伝子多様体もしくは機能的多様体を含むかまたはそれらからなる。
【0141】
NRP1がシグナル伝達および細胞応答に及ぼすそのリガンドの効果を明確に調節していることを考えると、他のものではなくSEMA3Aの活性を特異的に阻害することが有利であり得る。特定の実施形態では、本発明のNRP1トラップは、NRP1が、例えばVEGFに結合する能力を低下させる1つ以上の突然変異を含み得る。そのような突然変異は、他のリガンドと関連する内因性NRP1活性への影響をより少なくしながら、SEMA3Aの結合と関連するNRP1の活性をより特異的に調節するために使用され得る。
【0142】
したがって、一実施形態では、本発明のNRP1トラップはSEMA3Aに結合するが、VEGFには結合しないポリペプチドである。例えば、NRP1トラップは、SEMA3Aに結合するが、VEGF結合に必要なb1および/またはb2サブドメイン(複数可)には結合しないa1および/またはa2サブドメイン(複数可)(例えば、1.1、トラップM、トラップN、トラップY-表2を参照されたい)を含んでもよい。一実施形態では、NRP1由来トラップは、図17に記載のヒトNRP1アミノ酸配列のアミノ酸22~275に対応するドメインa1およびa2を含む。NRP1トラップはまた、NRP1に対するVEGFの結合を無効にするかまたは有意に減少させるが、NRP1に対するSEMA3Aの結合についてはそれらを行わない突然変異(例えば、欠失または置換)を含み得るか、またはVEGF(例えば、トラップZ、表2および6も参照されたい)と比較して、SEMA3Aに優先的に結合し得る。そのような突然変異の非限定的な例としては、NRP1の319位でのグルタミン酸および320位でのアスパラギン酸での置換が挙げられる(例えば、トラップACおよびZにおけるようにE319KおよびD320K)。
【0143】
一実施形態では、可溶性NRP1ポリペプチドまたはその機能的多様体もしくは断片(すなわち、NRP1トラップ)は、図17図18、配列番号44、45、もしくは46、または表2に記載のトラップ、またはSEMA3Aに結合するその任意の機能的多様体を含むか、またはそれらからなる。実施形態では、可溶性NRP1ポリペプチドトラップは、配列番号47、95または96に記載のポリペプチドの細胞外ドメインを含むかまたはそれらからなる。実施形態では、本発明に従って使用されるNRP1トラップは、VEGF165に対する結合親和性の少なくとも3倍であるSEMA3Aに対する結合親和性を有する。実施形態では、本発明に従って使用されるNRP1トラップは、VEGF165に対する結合親和性の少なくとも4倍であるSEMA3Aに対する結合親和性を有する。実施形態では、本発明に従って使用されるNRP1トラップは、VEGF165に対する結合親和性の少なくとも5倍であるSEMA3Aに対する結合親和性を有する。実施形態では、本発明に従って使用されるNRP1トラップは、VEGF165に対する結合親和性の少なくとも10倍であるSEMA3Aに対する結合親和性を有する。実施形態では、本発明に従って使用されるNRP1トラップは、VEGF165に対する結合親和性の少なくとも15倍であるSEMA3Aに対する結合親和性を有する。実施形態では、本発明に従って使用されるNRP1トラップは、VEGF165に対する結合親和性の少なくとも18倍であるSEMA3Aに対する結合親和性を有する。実施形態では、本発明に従って使用されるNRP1トラップは、VEGF165に対する結合親和性の少なくとも10倍であるSEMA3Aに対する結合親和性を有する。実施形態では、本発明に従って使用されるNRP1トラップは、VEGF165に対する結合親和性の少なくとも20倍であるSEMA3Aに対する結合親和性を有する(例えば、表6を参照されたい)。
【0144】
本発明のNRP1トラップは分泌されるので、一般に、例えば、ヒトNRP1アイソフォーム1(配列番号95、96、および図17)に見いだされる、膜貫通ドメイン(例えば、図17に示すNRP1ポリペプチド配列のアミノ酸残基860~883に対応する)および細胞質ドメイン(例えば、図17に示すNRP1ポリペプチドアイソフォーム1配列のアミノ酸残基884~923に対応する)を欠いている。実施形態では、本発明のNRP1トラップは、NRP1のドメインcを完全にまたは部分的に欠いている。NRP1アイソフォーム1は、より大きなcドメインを含み(図17を参照されたい)、一方、アイソフォームbおよびcのドメインの方がより短い。
【0145】
上記のように、本発明はまた、本明細書に記載の方法における本明細書に記載のNRP1ポリペプチドトラップの機能的多様体および機能的断片の使用を包含する。機能的多様体は、「野生型」(天然)ヒトNRP1ポリペプチド配列(集団中に天然に見出される任意の対立遺伝子多様、すなわち対立遺伝子多様体を含む)に由来する。したがって、本明細書で使用される場合、「機能的多様体」または「機能的断片」は、細胞老化に関して本発明のNRP1トラップと実質的に同じ生物学的活性を有する(すなわち、SASPの誘導および細胞老化を減少または予防することができる)あらゆるNRP1誘導体を指す。したがって、機能的誘導体としては、これに限定するものではないが、本明細書に開示のNRP1ポリペプチドトラップと、任意の修飾、および/またはアミノ酸置換、欠失、付加(例えば、配列内挿入)、またはカルボキシル末端融合が異なるタンパク質が挙げられる。これらは、本発明のNRP1トラップの企図された生物学的効果(例えば、SEMA3A媒介細胞老化の阻害もしくは予防、またはSASPによる細胞老化のSEMA3A依存性伝播の阻害もしくは予防、および最終的にはIRE1α活性化およびRNAse活性などの阻害)を有意に低下させることはない。修飾は、本発明のNRP1トラップの企図された機能に実質的に悪影響を及ぼすことがない限り、ポリペプチド骨格(すなわち、アミノ酸配列)、アミノ酸側鎖、およびアミノまたはカルボキシ末端など、どこにおいても起こり得る(すなわち、多様体は、SEMA3Aポリペプチドを結合および隔離することができる機能的多様体である(例えば、天然のヒト可溶性NRP1アイソフォームまたは表2および図18に例示したものなど、「野生型」ヒトNRP1の細胞外ドメインのポリペプチド断片に対応するNRP1トラップ)。
【0146】
表3は、本発明のNRP1トラップにおいて修飾(変化または改変)され得るアミノ酸の例を提供する。好ましくは、機能的多様体における修飾(複数可)は、(i)以下の表3に従ってなされた保存的置換である、(ii)集団において見出される機能的対立遺伝子もしくは多型多様に対応している、または(iii)ヒトNRP1ポリペプチドのオルソログに見られるアミノ酸多様に対応している。NRP1タンパク質のいくつかのオルソログが、当該分野において公知である。例えば、ヒトNRP1ポリペプチド配列を他の既知のオルソログ(例えば、マウスおよびラット-図17を参照されたい)のNRP1ポリペプチド配列と比較することによって、当業者は保存された残基および種間で異なる残基を容易に同定することができる。したがって、所望の生物学的活性(例えば、細胞老化の阻害もしくは予防、またはSASPを介する細胞老化の伝播の阻害もしくは予防)に実質的な影響を与えることなく修飾され得るアミノ酸を同定することができる。このようなアミノ酸の非限定的な例は表4に提供されている。
【表3】
【表4】
【0147】
本発明のNRP1トラップの他の機能的多様体は、集団において検出された天然の(対立遺伝子)多様体に対応する1つ以上の突然変異を導入することによって作製され得る。これらの天然の多様体は、NCBI、GeneCard、HOMIMおよびEnsemblのWebサイトなど周知の公的に利用可能なデータベースを用いて、容易に同定できる。
【0148】
実施形態では、本発明のNRP1トラップの機能的多様体は、配列番号47のアミノ酸1~857またはその機能的断片を含むかまたはそれからなる。実施形態では、機能的多様体は、表4に記載の1つ以上のアミノ酸位置に配置された1つ以上の保存的アミノ酸置換を含む。実施形態では、アミノ酸置換は表4に記載のとおりである。実施形態において、本発明の可溶性NRP1ポリペプチドトラップまたはその機能的断片もしくは多様体(対立遺伝子多様体)は、合成、精製、安定性および/または生物学的利用能を増大させるための1つ以上の追加のポリペプチドドメイン(複数可)を含んでもよい。例えば、本発明のNRP1トラップは、FCドメイン(またはヒトFCドメインなどのその一部)または精製タグ(例えば、6x-ヒスチジンタグ)を含んでもよい。そのような追加のポリペプチドドメイン(複数可)は、可溶性NRP1ポリペプチドまたはその機能的断片もしくは多様体に直接的または間接的に(リンカーを介して)連結され得る。一実施形態では、1つ以上の追加のドメインは、NRP1ポリペプチドトラップのC末端にある。一実施形態では、1つ以上の追加のドメインは、NRP1ポリペプチドトラップのN末端にある。
【0149】
本発明の可溶性NRP1ポリペプチドまたはその機能的多様体もしくは断片は、1つ以上のポリペプチドリンカーを任意により含んでもよい。このようなリンカーは、1つ以上の追加のポリペプチドドメイン(複数可)を本発明の可溶性ポリペプチド(例えば、インビボでポリペプチドの安定性を増大させるポリペプチドドメイン、および/またはポリペプチドの精製を促進するドメイン)に連結するために使用されてもよい。リンカー配列は、1つ以上のポリペプチド断片またはドメインを除去する(例えば、可溶性NRP1ポリペプチドまたはその機能的多様体もしくは断片のインビボ投与前の精製タグを除去する)ために使用され得るペプチダーゼまたはプロテアーゼ切断部位を任意により含んでもよい。ポリペプチドの切断および例えばポリペプチドドメイン(複数可)(例えば、6xHisタグ精製ドメイン)の除去を可能にするリンカーまたはドメインの1つの非限定的な例としては、TEVプロテアーゼ切断部位を含むポリペプチド(例えば、EXXYXQ\GまたはS(式中、\は切断部位を表す、配列番号97および98)が挙げられる。他の多くのTEV切断部位が知られており、また他の多くのプロテアーゼ/ペプチダーゼ切断部位が当業者に知られており、本発明のポリペプチドに導入して、1つ以上のポリペプチドドメインまたは断片を任意により除去し得る。
【0150】
ポリペプチドリンカーはまた、野生型NRP1ポリペプチドに通常見られるが、本発明の可溶性NRP1ポリペプチドまたはその機能的多様体もしくは断片には存在しないドメインを全体的にまたは部分的に置換するために使用されてもよい。例えば、本発明のNRP1トラップにおいて、合成リンカーは、完全にまたは部分的にサブドメインa1、a2、b1、b2およびcを置換し得る。リンカーの長さは、除去されたドメインの全長またはその一部分に対応し得る。こうしたリンカーは、タンパク質の折畳み、安定性、またはNRP1リガンドへの結合を増加させ得る。リンカーを含むNRP1トラップの非限定的な例は、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2016/033699号に記載されている。有用なポリペプチドリンカーの1つの非限定的な例は、ポリアルギニンポリペプチドである。他のリンカーは当該分野において公知であり、本発明に従って使用され得る。
【0151】
したがって、本発明は、可溶性NRP1ポリペプチドまたはその機能的多様体もしくは断片、可溶性NRP1ポリペプチドまたは機能的多様体もしくは断片をコードする核酸、その核酸を含むベクター、およびその核酸またはベクターを含む宿主細胞をさらに提供する。
【0152】
c.SEMA3A発現の阻害
SEMA3Aの発現、したがってSEMA3A媒介細胞老化を減少させるために様々なアプローチが利用可能である。非限定的な例としては、小型ヘアピンshRNA(RNAi)、アンチセンス、リボザイム、SEMA3Aプロモーター、CRISPR/Cas9/Cpf1系などを標的とするTALエフェクターなどの使用が挙げられる。
【0153】
細胞におけるshRNAまたは類似の阻害性RNAの発現は、プラスミドの送達、またはウイルス(例えば、レンチウイルスベクター)もしくは細菌ベクターを介した送達によって得ることができる。SEMA3Aの発現を阻害するために使用され得るshRNAの非限定的な例を表9に提供する(実施例11を参照されたい)。
【0154】
したがって、代替的実施形態において、本発明は、目的のmRNAの分解および/または翻訳の阻害をもたらすための外因性投与のためのアンチセンス、shRNA分子(iRNA)およびリボザイムを提供する。好ましくは、アンチセンス、shRNA分子、およびリボザイムは、哺乳動物(好ましくはヒト)のSEMA3Aを標的とする。本発明のSEMA3A阻害剤として、こうした分子を提供するために使用され得るアンチセンスおよびリボザイム核酸の例示的スクリーニング方法が、米国特許第5,932,435号に開示されている。
【0155】
さらなる実施形態では、目的のポリペプチドをコードする核酸(SEMA3AもしくはNRP1)、またはその断片の発現は、一種の転写後遺伝子サイレンシングであるRNA干渉(RNAi)技術を使用して阻害または予防され得る。治療用アンチセンスオリゴヌクレオチド適用の例、ならびにアンチセンス分子、shRNAおよびRNAi技術に関する追加の情報は、IRE1αの阻害に関して上記に提供されており、またSEMA3Aの発現の阻害にも同じ程度に適用される。
【0156】
したがって、一実施形態では、目的のポリペプチド(SEMA3AもしくはNRP1)をコードする核酸、またはその断片の発現は、目的のポリペプチド(例えば、SEMA3A)をコードする核酸またはその断片、あるいはそれらと相同な核酸に対応するsiRNAまたはsiRNA様分子を細胞内に導入するか、または細胞内で生成することによって阻害され得る。
【0157】
(ii)SEMA3A活性の増大による細胞老化の促進方法
オートクリンおよびパラクリン老化などの細胞老化は、SEMA3A活性(すなわち、SEMA3A細胞シグナル伝達)を刺激または増大させることによって促進または誘導することができる。SEMA3A活性は、細胞内のSEMA3Aの発現を増大させることによるか、または細胞をSEMA3Aポリペプチドまたはその機能的断片もしくは多様体と接触させることによることなど、いくつかのアプローチによって、増大させることができる。
【0158】
細胞老化を促進する方法は、老化が組織修復、癌、腎線維症、創傷治癒、肝線維症、心筋梗塞、心臓線維化、アテローム性動脈硬化症および肺高血圧症などの有益な効果を有する疾患および状態において有用であり得る。
【0159】
6.脂質パラメータの調節
本出願人は、NRP1遺伝子が脂質代謝(脂肪摂取/貯蔵/蓄積)の制御に関与していること、および可溶性NRP1ポリペプチドまたはその断片(例えば、NRP1トラップ)を投与することが、食事誘発性体重増加を有意に減少させ、かつ脂質パラメータを改善し、血糖値およびインシュリン感受性に対する利点を伴う(または同時に好結果を伴う)ことを見出した。
【0160】
したがって、さらなる態様において、本発明は、NRP1遺伝子および/またはその関連NRP1タンパク質(例えば、膜貫通アイソフォーム1)の発現および/または活性を調節することを含む、対象における脂質パラメータを変更する方法を提供する。特定の態様では、この方法は、NRP1タンパク質の発現および/または活性を低減または阻害する化合物または組成物を対象に投与することを含む。実施形態では、この方法は、対象に(a)可溶性NRP1ポリペプチドもしくはその断片(例えば、NRP1トラップ)、(b)NRP1抗体、または(c)(a)および/もしくは(b)を薬学的に許容される担体と共に含む組成物を投与することを含む。
【0161】
本明細書で使用されるとき、表現「脂肪蓄積に関連する疾患または状態」は、脂肪蓄積によって引き起こされるかまたは脂肪蓄積との共存症と見なされるあらゆる疾患または状態(例えば、食事誘発性過体重または肥満)を含む。共存症は、元の状態(例えば、脂肪蓄積、過体重または肥満)の存在下で、その有病率が非常に上昇する(すなわち、こうした追加の疾患または状態に罹患する危険性が増加する)医学的状態である。この用語は、元の代謝状態(例えば、脂肪蓄積)と同時に存在する状態、またはそのような共存状態を発症する危険性のいずれかを示し得る。脂肪蓄積に関連する疾患または状態は、対象における脂肪蓄積によって引き起こされるか、そうでなければ脂肪蓄積に関連すると言われている。脂肪の蓄積に関連する疾患や状態は次のとおりである:高BMI、肥満、メタボリックシンドローム、NAFLD、心血管疾患(CVD;心疾患(例えば、鬱血性心不全)、冠状動脈疾患(高コレステロール血症およびアテローム性動脈硬化症)、肺塞栓症、脂質異常症および脳卒中)、高血圧、ならびにII型糖尿病(TIIDM)。実施形態では、脂肪蓄積は、25kg/m以上のBMIに相当する。別の実施形態では、脂肪蓄積は、30kg/m以上のBMIに相当する。
【0162】
脂肪蓄積に関連する体組成パラメータは、当技術分野において周知である。こうした体組成パラメータとして、内臓脂肪面積(VFA)、体格指数(BMI)、ウエストヒップ比(WHR)、ウエストと身長の比率、胴囲(WC)、上腕囲(AC)、円錐度指数、体脂肪率(PBF)、上腕三頭筋皮下脂肪、肩甲骨下皮膚襞、白色脂肪組織(WAT)レベル、または褐色脂肪性(BAT)組織レベルが挙げられる。
【0163】
NRP1媒介脂質代謝の調節は、天然に存在する可溶性NRP1ポリペプチドまたは本明細書に記載の合成(例えば、組換えにより産生されたもしくは化学合成された)NRP1ポリペプチドを使用して達成され得る。
【0164】
7.組成物/製剤
活性成分(複数可)(例えば、1つ以上のIRE1α阻害剤など1つ以上のSASP阻害剤、SEMA3Aの阻害剤(例えば、NRP1トラップ)など)は、医薬組成物中に提供されてもよい。本発明に従って使用するための医薬組成物は、活性化合物を薬学的に使用できる調製物に加工するのを容易にする賦形剤および助剤を含む1種以上の生理学的に許容される担体を用いて、従来の様式で製剤されてもよい。医薬組成物としては、他の医薬品または医薬剤、担体、アジュバント、例えば、防腐剤、安定化剤、湿潤剤または乳化剤、溶解促進剤、浸透圧を調節するための塩、および/または緩衝剤を挙げることができる。適切な製剤は、選択される投与経路に依存する。注射のために、本発明の剤は、水溶液中、好ましくは、生理学的に適合する緩衝液、例えばハンクス液、リンゲル液、または生理食塩緩衝液中で製剤されてもよい。製剤を製造するための当技術分野において周知の方法は、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,(第20版)編、A.R.Gennaro A R.,2000,Lippencott Williams & Wilkinsに見出すことができる。
【0165】
実施形態では、本発明の組成物は、眼への送達、例えば点眼剤または眼注射剤用に製剤される。眼投与のために、化合物は、当該技術分野で周知のように、活性化合物を眼投与に好適である薬学的に許容される担体と組み合わせることによって、容易に製剤することができる。実施形態では、担体は、本発明の化合物/剤/阻害剤との混合物中に天然には見られない担体(すなわち、天然に存在しない担体)である。
【0166】
例えば、医薬組成物は、局所投与、硝子体内投与、嚢内投与、結膜下投与、テノン嚢下投与、眼球後投与、後強膜近傍投与、またはそれらの組み合わせのために製剤され得る。いくつかの実施形態では、医薬組成物は局所投与用に製剤されている。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、硝子体内投与用に製剤されている。
【0167】
注射用製剤は、防腐剤を添加した単位剤形、例えばアンプル、または複数回投与用容器で提供することができる。この組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁剤、液剤または乳剤のような形態を取ってもよく、製剤化剤(懸濁化剤、安定化剤および/または分散化剤など)を含んでもよい。
【0168】
あるいは、医薬化合物のための他の送達系を使用してもよい。リポソームおよび乳剤は、周知の送達ビヒクルの例である。眼周囲薬物送達に特に有用な送達系(例えば、予防および/もしくは治療、または網膜疾患などの眼疾患において)としては、後部の内膜において一貫した治療薬剤濃度を達成する最も安全な手段のうちの1つと考えられる経強膜吸収経路が挙げられる。
【0169】
効果的な投与量。本発明での使用に好適である医薬組成物は、活性成分(複数可)が企図する目的を達成するのに有効な量で含まれている組成物を含む。より具体的には、治療有効量は、治療されている対象の現存する症状のうちの少なくとも1つの発症を予防するかまたは軽減するのに有効な量を意味する。有効量の決定は、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0170】
実施形態では、本発明に従って使用される化合物(複数可)の有効量は、本明細書に記載の疾患および状態(例えば、眼血管疾患および本明細書に記載の他の疾患および状態)において、細胞老化に関連する少なくとも1つの症状または生理学的影響を低減または予防するのに十分に細胞老化または細胞老化の(SASPを介した)伝播を阻害する。こうした活性を有する特定の化合物は、SASPおよび/またはIRE1αの用量依存的阻害を決定するインビトロアッセイによって同定することができる。
【0171】
あるいは、他の実施形態では、本発明に従って使用される化合物(複数可)の有効量は、SASPを誘発または増大させ、かつ細胞老化を引き起こすのに十分なものである。
【0172】
本発明の方法において使用される任意の化合物について、治療上有効な用量は細胞アッセイから最初に推定することができる。例えば、用量は、細胞アッセイにおいて決定されるIC50(すなわち、SASPおよび/またはIRE1αの細胞内シグナル伝達機能の最大阻害の半分を達成する試験化合物の濃度)(通常、Il-1βなどの炎症メディエーターまたは低酸素、虚血、細胞ストレス、ERストレスなどの他の活性化刺激に反応して)を含む循環濃度範囲を達成するために、細胞および動物モデルにおいて製剤され得る。
【0173】
治療有効量とは、対象における症状の改善をもたらす化合物の量を指す。同様に、予防上有効な量は、患者の症状(例えば、血管透過性亢進、斑点および/またはかすみ目、周皮細胞喪失(pericytes loss)、黄斑浮腫、網膜腫脹、血液網膜関門漏出、病理学的血管新生、血管修復の減少など)を予防するか、または遅延させるのに必要な量を指す。このような化合物の毒性および治療効果は、細胞培養物または実験動物における標準的な薬学的手順、例えば最大耐量(MTD)およびED(50%最大応答に対する有効量)を決定することによって決定することができる。毒性効果と治療効果との用量比が治療指数であり、これはMTDとED50との比として表すことができる。高い治療指数を示す化合物が好ましい。正確な製剤化、投与経路および投与量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選択され得る。
【0174】
投与量および投与間隔は、所望の調節効果または最小有効濃度(MEC)を維持するのに十分なレベルの活性化合物を提供するように個々に調整することができる。MECは化合物ごとに異なるが、インビトロデータから推定することができる。例えば、SASPおよび/またはIRE1αの発現または活性の実質的な阻害を達成するのに必要な濃度(例えば、SASPに関連するサイトカイン、プロテアーゼおよび増殖因子の分泌、リボヌクレアーゼ活性の活性化およびXBP1のプロセシング)である。MECを達成するのに必要な投与量は、個々の特性および投与経路に依存する。
【0175】
定義
本出願における用語の明確であり、かつ一貫した理解を提供するために、以下のさらなる定義が提供される。
【0176】
冠詞「a」、「an」、および「the」は、本明細書では、1つまたは1つより多い(すなわち少なくとも1つの)冠詞の文法上の目的語を指すために使用される。
【0177】
本明細書および特許請求の範囲で使用されるように、「含んでいる(comprising)」(ならびに「含む(comprise)(comprises)」などの、「含む(comprise)」の任意の形態」)、「有している(having)」(ならびに「有する(have)」および「有する(has)」など、有している(having)の任意の形態)、「含んでいる(including)」(ならびに「含む(includes)(include)」などの、含んでいる(including)の任意形態)、または「含有する(containing)」(ならびに「含有する(contains)(contain)」などの、「含有する(containing)」の任意の形態)の単語は、包括的またはオープンエンド型であり、記載されていない追加の要素または方法ステップを除外するものではなく、「含むがこれらに限定されない(including but not limited to)」および「含むがこれらに限定されない(comprising but not limited to)」という句と同義的に使用される。
【0178】
本明細書における数値範囲の列挙のために、それらの間にある同じ程度の精度を有するそれぞれの介在する数が明示的に企図される。例えば、18~20の範囲である場合、18、19および20の数が明示的に企図され、また、6.0~7.0の範囲については、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、および7.0の数が明示的に企図される。用語「などの」は、本明細書において、「などであるが、限定されない」という句を意味するために使用され、それと同義的に使用される。
【0179】
本明細書において他に定義されない限り、本開示に関連して使用される科学的および技術的用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するものとする。例えば、本明細書に記載の細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学およびタンパク質および核酸化学、ならびにハイブリダイゼーションに関連して使用される任意の命名法およびその技術は、当技術分野において周知のものであり、かつ一般的に使用されるものである。用語の意味および範囲は明確であるものとするが、何らかの潜在的なあいまいさがある場合には、本明細書で提供される定義は、あらゆる辞書または外部の定義よりも優先される。さらに、文脈上別段の要求がない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。
【0180】
本明細書に開示されている方法の実施、ならびに産物および組成物の調製および使用は、特に明記しない限り、分子生物学、生化学、クロマチン構造および分析、計算化学、細胞培養、組換えDNAならびに関連分野における従来技術が使用され、当該技術の範囲内である。これらの技術は、文献に十分に説明されている。例えば、Green and Sambrook MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL,第4版、Cold Spring Harbor Laboratory Press,2014;Ausubelら、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,John Wiley & Sons,New York,2003および定期更新版;the series METHODS IN ENZYMOLOGY,Academic Press,San Diego;Wolffe,CHROMATIN STRUCTURE AND FUNCTION、第3版、Academic Press、San Diego、1998;METHODS IN ENZYMOLOGY、第304巻「Chromatin」(P.M.WassarmanおよびA.P.Wolffe,編)、Academic Press,San Diego,1999;およびMETHODS IN MOLECULAR BIOLOGY、第119巻、「Chromatin Protocols」(P.B.Becker、編)Humana Press,Totowa,1999を参照されたい。
【0181】
本明細書で使用される「治療する/治療している/治療」および「予防する/予防している/予防」という用語は、所望の生物学的応答、すなわちそれぞれ治療効果および予防効果を引き出すことを指す。本発明によれば、治療効果は、本発明の医薬組成物または化合物(例えば、SASP阻害剤)の投与後の症状の改善、および/または疾患もしくは状態(例えば、血管性眼疾患)の重症度の低下を含む。
【0182】
本明細書で使用されるように、老化に関連する疾患または状態に関して用語「予防する」または「予防」は、疾患または状態に関連する少なくとも1つの症状の進行の減少または発症の遅延または細胞老化の1つの特徴を指すことを意味する。
【0183】
本明細書に記載されるのは、細胞老化を調節するための方法である。本明細書で使用される場合、「細胞老化」とは、細胞が生存可能であり、かつ代謝的に活性であるが、増殖する能力を失うかまたは組織構造の一部のままであるが組織の残部と適切に機能/伝達できない細胞の状態(すなわち休眠状態になる)を指す。細胞老化は、年齢、または突然変異もしくは染色体損傷などのDNA損傷を誘発する因子、またはSASPに関連する遺伝子などの遺伝子発現の変化をもたらすDNA損傷応答もしくはクロマチン構造の破壊を誘発する因子への曝露とともに増加する可能性がある。老化は、テロメア短縮、染色体異数性、DNA鎖切断、DNA化学修飾(例えばアルキル化)、またはDNA損傷応答(DDR)の誘発など、DNAまたは染色体傷害の結果であると考えられている。細胞老化は、例えば、虚血、癌遺伝子活性化(DDRによる)DNA損傷化合物、例えば化学療法剤、またはDNA損傷放射線、例えばイオン化およびUV照射によって引き起こされ得る。老化は、コルチコイド治療、抗レトロウイルス治療、PPARγアゴニストによる治療、キサンチンオキシダーゼ阻害剤による治療、ビスホスホネートによる治療、抗原虫剤による治療、および炎症剤による治療など、他の様々な治療レジメンによって引き起こされ得る。老化はまた、カロリー摂取量の増加、インスリン抵抗性、II型糖尿病、高インスリン血症、高脂肪食、高タンパク質食、ERストレス応答(本明細書において実証されるUPR応答)、およびこれらの疾患に関連する腸内細菌叢の変化など、代謝の不均衡によっても引き起こされ得る。老化細胞は、メタロプロテアーゼ、成長因子および炎症性サイトカイン、老化関連分泌表現型(SASP)と呼ばれるプロセスなど、独特のセクレトームを発達させ(37)、これにより、細胞自律的および細胞非自律的(パラクリン)な方式において、周囲組織に老化を伝播することができる(38~40)。したがって、パラクリン細胞老化は、老化関連分泌表現型(SASP)の結果として細胞において誘導され得る。パラクリン老化とは、老化細胞による炎症促進性サイトカイン(SASP)など、タンパク質の分泌が増大している状態を指す。
【0184】
様々な実施形態において、細胞老化は以下によって引き起こされる:(a)虚血、(b)細胞の老化、(c)細胞に対するDNA損傷、(d)化学療法剤との接触、(e)DNA損傷放射線による細胞の照射、(f)細胞と抗レトロウイルス剤との接触、(g)細胞と炎症誘発剤との接触、(h)細胞とDNA損傷剤との接触、(i)クロマチン構造を破壊する剤と細胞との接触、(j)テロメア侵食、(k)低酸素症、(1)癌遺伝子の活性化、(m)テロメア機能不全、および(o)(a)~(m)のうちの少なくとも2つの任意の組み合わせ。
【0185】
細胞老化を受けた細胞は、以下の特徴のうちの1つ以上を呈し得る:成長停止、γ-H2AX(ヒストン多様体H2AXのリン酸化型)核病巣の形成、pI6INK4Aのレベルの上昇、p21の発現レベルの上昇(Cipl/Waf1)、老化関連β-ガラクトシダーゼの活性の増加、老化関連ヘテロクロマチン病巣(SAHF)の生成、増殖の喪失、ヒストン3リジン9のトリメチル化(H3K9me3)、小胞体ストレスおよび折畳み不全タンパク質応答(UPR)の誘導、tp53のレベルおよび/または活性化の増加、PML核小体の数およびサイズの増大、IRE1αの活性化、グルコース消費量の増加、炎症誘発性サイトカイン、「老化関連分泌表現型」(SASP)のプロテアーゼおよび増殖因子の発現および/または分泌の増加、(これに限定するものではないが、以下を挙げることができる;Pai1、IL-6、IL-7、IL-lα、IL-lβ、IL-8、TGF-β1、MCP-2、MCP4、MIP-la、MIP-3a、エオタキシン-3、GM-CSF、MIF、EGF、FGF、HGF、VEGF、KGF、PIGH、NGF、MMP1、MMP3、MMP12、MMP13、MMP14、IGFBP2、IGFBP3、IGFBP4、IGFBP6、IGFBP7、フィブロネクチン、カテプシンB、TIMP-2);Ki67の発現の欠如、細胞形態の拡大および平坦化、持続的DNA損傷応答(DDR)のシグナル伝達、および老化を増強するクロマチン変化を伴うDNAセグメントの形成(DNA-SCARS)(これは、ホスホATMおよびATR基質などのDDRタンパク質を含み得る核病巣である)。細胞老化を受けた細胞は、典型的には、細胞老化を受けていない細胞におけるP16INK4aの発現レベルと比較して、p16INK4aの発現レベルの増加を有する。また、細胞老化を受けた細胞は、典型的には細胞老化を受けていない細胞と比較して、増加したレベルのSA-β-Gal活性を有する。
【0186】
本明細書で使用されるとき、「老化細胞」または「老化表現型を有する細胞」は、以下の特徴のうちの少なくとも1つを有する細胞を指す:(i)成長停止、(ii)細胞形態の拡大および平坦化、(iii)核内のDNA損傷病巣、(iv)老化関連分泌表現型(SASP)として定義される成長因子プロテアーゼ、サイトカインおよび他の因子の分泌(例えば、PAI1、TNFAAIP2、IGFBP3、VIM、CDKN1A、FN1、CDKN2B、RRAS、IRF7、HSPA2、TES、CTGF、CCND1、ESM1、THBS1、S100A11、RAB31、IGFBP5、IL6、IL1β、TGFβ1、VEGFA、TP53)、(v)老化関連β-ガラクトシダーゼ(SA-β-gal)活性(リソソーム質量の増加を部分的に反映する)、(vi)腫瘍抑制因子p16INK4aの発現(pRBを活性化し、かつ老化関連ヘテロクロマチン病巣(SAHF)の形成を引き起こし得る)、(vii)SEMA3Aの発現、(viii)IRE1α活性化(S724リン酸化)、およびXBP1のスプライシングの増加、および/または(ix)γH2AXの発現の増加、PMLおよび/またはp53の活性化。実施形態では、「老化細胞」は、少なくとも(i)、(ii)および/または(ii)、(v)、(vi)および(ix)の特徴を有する細胞である。実施形態では、老化は、細胞性虚血に続発する。実施形態では、老化は、パラクリン老化である。実施形態では、老化は、分化後の老化である。実施形態では、老化は、早期老化である。実施形態では、早期老化は、IRE1αの発現および/またはRNAse活性の増加を特徴とする。実施形態では、老化は、網膜老化である。実施形態では、老化は、ミクログリア老化である。実施形態では、老化は、(i)P16INK4a、Tp53、IRE1a、Cdkn1a、Cdkn2aの発現および/または活性の増加、ならびに/もしくは老化関連β-gal活性の増加、(ii)γH2Axおよび/またはPMLの発現、および/または(iii)老化関連分泌表現型(SASP)の発現を特徴とする。実施形態では、SASPは、IL-1β、IL-6、Pai1、TGFβ1、IRE1αおよび/またはVEGF-αの分泌を含む。実施形態では、上述のSASPは、細胞性虚血に続発する。
【0187】
実施形態では、上記の細胞は、最終分化細胞である。実施形態では、細胞は、ニューロン、ミクログリア細胞、骨髄細胞、単球、マクロファージ、内皮細胞、肝細胞、脂肪細胞、線維芽細胞、および/または網膜細胞である。実施形態では、細胞は、細胞性虚血を患っている。実施形態では、細胞は、網膜神経節細胞である。実施形態では、細胞は、網膜神経節ニューロンである。実施形態では、細胞は、血管細胞である。実施形態では、細胞は、血管内皮細胞である。実施形態では、細胞は、無血管細胞である(すなわち、無血管領域/区域に位置する)。実施形態では、細胞は、肝星細胞である。実施形態では、細胞は、微小血管内皮細胞である。特定の実施形態では、細胞は、眼細胞ではない。特定の実施形態では、細胞は、網膜細胞ではない。実施形態では、細胞は、哺乳動物細胞である。実施形態では、細胞は、ヒト細胞である。
【0188】
本明細書で使用される「細胞性虚血」とは、細胞代謝に必要な(組織の生存を維持するため)酸素および/または栄養素(例えば、グルコース)供給が制限されること、ならびに代謝廃棄物が不適切に除去されることを指す。細胞性虚血には、鬱血(血管収縮、血栓症または塞栓症など)から生じることもある、身体のある部分での局所貧血を含む。虚血は、部分的(灌流不足)または全体的であり得る。虚血は一般に、血管の問題(例えば、塞栓症、血栓症(例えば、アテローム性動脈硬化症)、外傷、動脈瘤、心筋症、低血糖、放射線療法、低血圧、貧血など)によって引き起こされ、結果として、組織の損傷または機能不全となる。
【0189】
本明細書に記載の化合物(複数可)、生物製剤および医薬組成物に適用される用語「有効量」は、所望の治療結果を得るのに必要な量を意味する。例えば、有効量は、治療用化合物、生物学的製剤または組成物が投与されている障害の症状を治療、治癒、または軽減するのに有効なレベルである。求められる特定の治療目的に有効な量は、治療される障害、およびその重症度および/または発症/進行の段階、生物学的利用能、および使用される特定の化合物、生物学的組成物もしくは医薬組成物の活性、対象の投与経路、もしくは投与方法、および導入場所、特定の化合物のクリアランス速度、もしくは生物学的特性および他の薬物動態学的特性、治療期間、接種レジメン、特定の化合物、生物製剤もしくは組成物と組み合わせて、または同時に使用する薬物、治療される対象の年齢、体重、性別、食事、生理機能および全身健康状態、および関連する科学技術の当業者に周知である同様の因子など、様々な因子に左右される。投与量のいくらかの変動は、治療されている対象の状態に応じて起こり得、医師または他の治療を施す個人は、いずれの事象においても、個々の患者にとって適切な用量を決定する。
【0190】
「相同性」および「相同な」とは、2つのペプチドまたは2つの核酸分子間の配列類似性を指す。相同性は、整列した配列中の各位置を比較することによって決定することができる。核酸間またはアミノ酸配列間の相同性の程度は、配列によって共有される位置において、同一のまたは一致するヌクレオチドまたはアミノ酸の数を対応させたものである。この用語が本明細書で使用されるとき、2つの配列が実質的に同一であり、配列の機能的活性が保存されている場合、核酸/ポリヌクレオチド配列は別の配列に対して「相同」である(本明細書で使用する用語「相同」は、進化的関係を推定するものではない)。2つの核酸配列は、(許容されるギャップを有し)最適に整列された場合、それらが少なくとも約50%の配列類似性もしくは同一性を共有する場合、または配列が規定の機能的モチーフを共有する場合には、実質的に同一とみなされる。代替の実施形態では、最適に整列された実質的に同一の配列における配列類似性は、少なくとも60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%または99%同一であり得る。本明細書で使用されるとき、配列間の相同性の所与の割合は、最適に整列された配列における配列同一性の程度を表す。「無関係」または「非相同」配列は、本明細書に開示される核酸およびポリペプチドのいずれとも、40%未満の同一性、好ましくは約25%未満の同一性を共有する。
【0191】
実質的に相補的な核酸は、一方の分子の相補体が他方の分子と実質的に同一である核酸である。2つの核酸またはタンパク質配列は、最適に整列されたときにそれらが少なくとも約70%の配列同一性を共有する場合、実質的に同一であると見なされる。代替の実施形態では、配列同一性は、例えば、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%であってもよい。同一性を比較するための配列の最適なアラインメントは、局所相同性アルゴリズム(SmithとWaterman、1981、Adv.Appl.Math 2:482)、相同性アライメントアルゴリズム(NeedlemanとWunsch、1970,J.Mol.Biol.48:443)、類似性検索法(PearsonとLipman,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444)、およびこれらのアルゴリズムのコンピュータ化された実装(Wisconsin Genetics Software PackageのGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA(Genetics Computer Group,Madison,WI,U.S.A.)など、様々なアルゴリズムを用いて行ってもよい。配列同一性はまた、BLASTアルゴリズム(Altschulら、1990、J.Mol.Biol.215:403-10(公開されている既定の設定を使用))を用いて決定してもよい。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Informationkから(インターネットhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/)入手可能であり得る。BLASTアルゴリズムは、最初に、データベース配列中の同じ長さのワードと整列したときに、ある正の値の閾値スコアTに一致するかまたはそれを満たす、クエリ配列中の長さWの短いワードを特定することによって高得点配列ペア(HSP)を特定する。Tは、近隣ワードスコア閾値と呼ばれる。最初の近隣ワードヒットは、より長いHSPを見つけるための検索を開始するためのシードとして機能する。累積的アラインメントスコアが増加し得る限り、ワードヒットは各配列に沿って両方向に伸長される。以下のパラメータが満たされると、各方向へのワードヒットの伸長は停止する:累積アラインメントスコアは、その最大達成値から数量X、減少する、1つ以上のネガティブスコアの残基アラインメントの累積により、累積スコアがゼロ以下になる、またはいずれかの配列の終わりに達する。BLASTアルゴリズムパラメータW、TおよびXは、アラインメントの感度および速度を決定する。BLASTプログラムは、デフォルトとして、11のワード長(W)、BLOSUM62スコアリングマトリックス(HenikoffとHenikoff、1992、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915-10919)、50のBLOSUM62スコアリングマトリックスアライメント(B)、10の期待値(E)(または1もしくは0.1、もしくは0.01、もしくは0.001、もしくは0.0001)、M=5、N=4、および両方の鎖の比較を使用してもよい。BLASTアルゴリズムを用いた2つの配列間の統計的類似性の1つの尺度は、最小合計確率(P(N))であり、これは2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列間の一致が偶然に起こる確率の指標となる。本発明の代替の実施形態において、試験配列の比較における最小合計確率が約1未満、好ましくは約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合、ヌクレオチドまたはアミノ酸配列は実質的に同一であるとみなされる。
【0192】
2つの核酸配列が実質的に相補的であることの別の指標は、2つの配列が中程度に厳格であるか、または好ましくは厳格な条件下で互いにハイブリダイズしていることである。中程度に厳格である条件下でのフィルター結合配列のハイブリダイゼーションは、例えば、65℃で0.5MのNaHPO、7%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、1mMのEDTAにおいて実施し、42℃において0.2xSSC/0.1%SDSで洗浄してよい(Ausubelら、(編)、1989、Current Protocols in Molecular Biology、第1巻、Green Publishing Associates,Inc.,およびJohn Wiley & Sons,Inc.,NewYork、p.2.10.3を参照されたい)。代替的に、厳格な条件下でのフィルター結合配列に対するハイブリダイゼーションは、例えば、65℃で0.5MのNaHPO、7%SDS、1mMのEDTAにおいて実施し、68℃において0.1xSSC/0.1%SDSで洗浄してよい(Ausubelら、(編)、1989、前出を参照されたい)。ハイブリダイゼーション条件は、目的の配列に応じて、既知の方法に従って変更してもよい(Tijssen、1993、Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology--Hybridization with Nucleic Acid Probes,第I部、第2章「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays」,Elsevier,New Yorkを参照されたい)。一般に、厳格な条件は、定義されたイオン強度およびpHで特定の配列の熱融点よりも約5℃低くなるように選択される。例えば、実施形態では、本発明の化合物は、NRP1またはSEMA3A核酸配列(好ましくはヒト配列)にハイブリダイズするアンチセンス/RNAiまたはshRNAである。
【0193】
本発明を以下の非限定的な実施例によってさらに詳細に説明する。
【0194】
実施例1
網膜虚血誘発性細胞老化
虚血性網膜症における血管変性に続いて引き起こされる細胞過程を解明するために、マウス仔にDRおよびROPで観察されるものと同様の無血管性神経帯をもたらす酸素誘発性網膜症(OIR)のモデルに供した(27)。マウス仔は、生後(P)7日から12日まで75%の酸素に曝露して、血管閉塞を誘発し、周囲空気に戻し、P17において最大の網膜前血管新生が達成された(27)(図1A)。次に、(病理学的前網膜血管形成が始まるときに)P14 OIRで網膜のハイスループットRNAシーケンシングによる不偏トランスクリプトーム分析を行い、遺伝子セット濃縮分析(GSEA)を行って、調節された規定の遺伝子発現パターンを同定した。予想通り、本発明者らは、炎症のクラスター(NES(正規化濃縮スコア)=1.58;FDRq(偽発見率)=0.004)およびアポトーシス(NES=1.63;FDRq=0.002)において強い正の相関を見出した(図1B)。神経網膜の非常に有糸分裂後の性質を考えると、本発明者らは、予想外にも、Fridman老化特徴(28)クラスターにおける有意な濃縮に気付いた(NES=1.81;FDRq=0.0)(図1C)。
【0195】
細胞老化は、細胞が生存可能であり、かつ代謝的に活性なままである、永久的な細胞周期停止の状態である(29)。網膜などの主に有糸分裂後の組織では、老化は、虚血性網膜において活性化されることが報告されているDNA損傷応答または腫瘍抑制ネットワークの刺激により引き起こされ得る(30)。したがって、老化状態は、虚血に関連する低代謝供給から網膜細胞を保護し、低酸素関連細胞死から回避するのを補助し得る。OIR中の老化の誘導は、p53、p16INK4a、Pai1、PML、γH2AXなどの古典的な老化関連タンパク質の上方制御およびERストレスエフェクターイノシトール要求性酵素1α(IRE1α)の活性化によってさらに裏付けられ、これにより、細胞老化を促進することが示唆されており(31)(図1D)、OIR網膜においてサイクリン依存性キナーゼ阻害剤(CDKi)Cdkn1aおよびCdkn2aの転写レベルが有意に増加していた(図1E)。
【0196】
OIR中に老化プログラムを引き起こした細胞を決定するために、P14において網膜フラットマウント上で老化関連β-ガラクトシダーゼ(SA-β-gal)染色を行った。イソレクチンB4(IB4)で対比染色すると、老化細胞は血管化領域(18.79%;P<0.0001)と比較して、主に無血管帯に存在することが明らかになった(細胞のうちの36.99%がSA-β-galである)。少数のSA-β-gal細胞もまた、対照酸素正常網膜において見出された(図1Fおよび図1G)。それに一致して、矢状方向の網膜切片の分析により、網膜神経節細胞層(GCL)の無血管化領域(10.77%対0.3%;P=0.0167)において、および内核層において(INL)はより少ない範囲まで(2.61%対0.45%;P=0.0342)(図1Hおよび図1I)、SA-β-gal染色が有意に増加していることが明らかになった。いずれの層も、虚血性網膜症において変性する網膜内血管系と密接に関連している。図1Bの虚血性網膜の低酸素性/酸化性および炎症性(32)、ならびにアポトーシス遺伝子のGSEAのために、さらに、どの細胞がOIRの間にアポトーシス死を受けていたかを確かめることを目指した。末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ媒介ビオチン化dUTPニックエンドラベリング(TUNEL)は、INL(図1J)および末梢(図10A)の大部分において、アポトーシス細胞が優勢であることを明らかにした。まとめると(図1J)、これらのデータから、網膜細胞老化およびアポトーシスの相互に排他的なパターン(中央区域に関連するGCLの細胞は主に老化表現型をとり、INLの細胞はアポトーシスに対してより感受性が高いこと)が明らかになった。
【0197】
実施例2
網膜症が、細胞老化を伝播する老化関連分泌型表現型を引き起こす

SASPは、典型的にはオートクリンおよびパラクリン様式で老化を強化し、炎症を高め、組織微小環境に有害な影響を与える(34)。本発明者らは、P14においてOIRの間にGCLで最初に観察された細胞老化(図1J)が、網膜の他の細胞集団に伝播するかどうかを調べた。P14でのOIRの最初のSA-β-gal染色は、無血管領域に集中し(図2Aおよび図2Bの左のパネル)、Brn3a+RGCと老化マーカー(γH2AX、Pai1、およびp-IRE1αS724)との共局在化によって実証されるように、網膜神経節ニューロン(RGC)を中心とした(図2C)。この初期の時点では、血管内に老化関連標識は存在しない(図10Bおよび図10C)。P17では、老化マーカーγH2AXまたはPMLをIB4(血管)およびIBA1(ミクログリア)により同時標識するによって証明されるように(図2D)、最大の新血管新生の間に、細胞老化は、病理学的血管房(図2Aおよび図2Bの中間のパネル)および網膜ミクログリアに局在する。この血管系は、蛇行状で、かつ漏れやすく(35)、周皮細胞への到達が少なく安定しない(図11A図11B)(36)。OIRの P21までに、網膜血管系が再生されると、SA-β-gal染色は主に血管細胞に限定される(図2Aおよび図2Bの右のパネル、図10D)。この後の時点で、周皮細胞の到達が再度得られる(図11A図11B)。加えて、本発明者らは、ストレプトゾトシン誘発I型糖尿病の8週目に、マウスのGCL中においてSA-β-gal染色細胞を観察した(図10E図10F)。OIRモデルがマウス仔において実施され、血管形成反応が年齢に従って広がることを考えると、STZモデルにおける網膜老化の存在は、特に重要である(37)。これらの所見は、広範囲の眼血管障害における細胞老化の存在を裏付けるものである。OIRモデルが眼血管病理学においてよく知られ、確立されているモデルであることを考慮して、このモデルにおいてさらなる研究が行われた。それにもかかわらず、網膜症の異なるモデルでは、網膜の異なる細胞内集団において、老化細胞が一時的に蓄積していることを観察した。疾患の進行と対応させて、細胞老化の動的に進化するパターンは、パラクリン老化を裏付けるものである。
【0198】
老化細胞は、メタロプロテアーゼ、成長因子および炎症性サイトカイン、老化関連分泌表現型(SASP)と呼ばれるプロセスなど、独特のセクレトームを発達させ(39)、これにより、細胞自律的および細胞非自律的(パラクリン)な方式において、周囲組織に老化を伝播することができる(40~42)。また、OIR網膜のヒートマップおよびGSEAにより、網膜虚血とパラクリン老化関連遺伝子との間の正の相関が同定された(NES=1.4;FDRq=0.049)(図2E)。OIRにおけるSASP関連サイトカインの発現の上昇は、Pai1、Il6、Il1β、Tgf-β1、Vegf-a、ならびにIRE1α、および腫瘍抑制因子Tp53については、RT-qPCRによって確認され(図2F)、病理学的血管形成の中心となるいくつかのサイトカインが、老化網膜細胞に由来し得ることが示唆される。
【0199】
実施例3
老化細胞によるSEMA3Aの分泌がパラクリン老化を駆動する
細胞老化の広がりを考えて、本発明者らは、OIRにおいてこのプロセスを駆動する要因を識別しようとした。細胞周期を乱すことが示唆されている網膜虚血に関連するエフェクター分子(43)は、古典的なガイダンス分子セマフォリン3A(SEMA3A)である。SEMA3Aは、OIRの血管閉塞期および血管増殖期全体において誘導され(44)、かつ低酸素ニューロンによって分泌され、再生中の血管および代謝供給を網膜があまり罹患していない領域に偏らせる(44、45)。SEMA3Aの発現が網膜症の進行中の老化細胞に関連するマーカーと一時的に一致していることを考えると(図3A図5Aおよび図5B)、本発明者らは、SEMA3Aによるパラクリン老化の伝播への寄与を疑問視した。
【0200】
第一に、パラクリン老化に対してSEMA3Aが潜在的に寄与しているというエビデンスは、ストレス誘発老化ヒト肝星状細胞(HSC)(図3D)と同様に、RasV12(図3B)およびMEK(図3C)などの老化誘発癌遺伝子がSEMA3Aの産生を引き起こすという観察から生じたものである。また、P5仔において、組換え型Sema3Aを硝子体内注射することにより、p53、p16INK4a、およびIRE1α(図3E)の著しい増加を誘導し、SA-β-gal染色(図3F)の顕著な増大を伴っていた。
【0201】
最終的に、7日間、HRMECをSEMA3Aへ曝露(OIRの最初の週を模倣して)することで、電気細胞インピーダンスセンシング(ECIS)によって測定されるように、S期を有意に減少させながらG0/G1における細胞周期停止を増加させ(図3G)、かつ正常な内皮細胞の成長を妨げた(図3H)。
【0202】
老化の促進におけるSEMA3Aの役割は、組換えSEMA3Aへ細胞を直接曝露することによってさらに実証される。これにより、マクロファージ様J774細胞(P<0.0001)において、網膜ニューロンの細胞系(網膜ニューロンのモデル化に使用される661W光受容体)(46)(P<0.001)において、およびHRMECにおいて(P<0.001)において、老化が誘導される(図3Iおよび図3J)。さらに、網膜症における酸化環境を模倣するH駆動老化(3)は、マクロファージ様J774細胞(J774)およびニューロン661W細胞など、網膜症において老化に入る集団をモデル化する細胞株において、SEMA3Aの分泌を引き起こした(図3K)。
【0203】
パラクリン内皮細胞の老化の駆動におけるニューロン由来SEMA3Aの潜在的な関与を検証するために、本発明者らは、老化した661W細胞由来の馴化培地(CM)にヒト網膜微小血管内皮細胞(HRMEC)を曝露し(図3Lおよび図3M)、Sema3aは、小型ヘアピンRNA(shRNA)を担持するレンチウイルス(Lv)ベクターによってサイレンシングさせた(44、47)。このアプローチの有効性が実証された(図5C図5E)。老化した網膜ニューロン細胞株からのCMは、HRMECの68%において、SA-β-gal発現の誘導が得られたパラクリン様式で老化を効果的に伝播させた(P<0.005)(図3N、左のパネル、O)。老化細胞によって分泌された因子が、隣接細胞において老化を刺激する傾向を有することが強調されている。逆に、Sema3A欠損老化網膜ニューロンの前駆体細胞由来のCMは、HRMEC細胞において有意に少ないパラクリン老化を引き起こした(P<0.005)(図3N、右のパネル、O)。並行して、HRMECを老化ニューロン前駆体由来の馴化培地(CM)でインキュベーションすることは、SEMA3A依存の様式ではp53を活性化するのに十分であった(図5Fおよび図5G)。興味深いことに、OIRのP12においてLv.sh_Sema3aを硝子体内投与することによってSEMA3Aを下方制御することで、P14において老化SA-β-gal陽性網膜細胞の数が75%有意に減少し、OIR中における老化に対するSEMA3Aの重大な寄与が強調された(図3Pおよび図3Q)。まとめると、これらのデータは、細胞老化の間のSEMA3Aの産生およびパラクリン老化の伝播におけるその寄与のエビデンスを提供するものである
【0204】

実施例4
網膜症におけるERストレス転写物の濃縮
ERストレス条件下において引き起こされる折畳み不全タンパク質応答(UPR)の経路では、虚血など、代謝が不均衡である間に生き残るための適応メカニズムを細胞に提供することができる(48、49)。本出願人の所見によって裏付けられるように、ERストレスの活性化は早期老化を駆動するのを助け得る。OIRの網膜のトランスクリプトーム分析では、UPRに関連する転写物における有意なGSEA濃縮が明らかになった(NES=1.41;FDRq=0.047)(図4A)。SEMA3AがUPRのIRE1α分枝を活性化することが示されたことを考慮して(図3Eおよび図5H)、虚血性網膜における早期老化に対するIRE1αの寄与について調べた。
【0205】
虚血性網膜症の間に、ミクログリア、およびミクログリアマーカーを発現する骨髄細胞の浸潤の実質的な関係がある。骨髄性ドライバーLysM-CreマウスをROSA26EYFPfl/flと交配させ、EFYP+骨髄/ミクログリア細胞に富む無血管帯(図4B)においてSA-β-gal染色を観察した(図4C)。EFYP+ミクログリアはまた、老化関連DNA損傷マーカーγH2AXで染色し、P14 OIR網膜の血管/無血管境界、およびP17での病理学的血管形成部位(房)に優先的に局在化した(図4C)。
【0206】
実施例5
SEMA3AがIRE1αを活性化し、IRE1αのRNAse活性が老化に寄与する
IRE1αは、その細胞質ゾル末端にセリン/トレオニンキナーゼドメインおよび別個のエンドリボヌクレアーゼドメインの両方を有するI型膜貫通タンパク質である(54、55)。IRE1αは、IRE1α 依存性崩壊(RIDD)とも呼ばれるそのRNase活性を介して、ER-ゴルジ分泌経路を横断するタンパク質をコードするmRNAを優先的に標的とする(56)。SEMA3AがIRE1αを介して老化を駆動することを踏まえて(図2図3)、本発明者らは次に、いずれの触媒アームがこの生理学的応答を説明できるかについて調べた。骨髄性細胞が網膜虚血により老化する確証を得たことを考慮して、J774マクロファージ/単球細胞を使用し、SEMA3Aへ持続して曝露を行うことでIRE1αを活性化し(図7A)、老化を誘導し(図6B)、Pai1、Il6、Il1β、TGF-βおよびTp53などの老化状態を促進および強化するために重要であることが知られている遺伝子の一団の発現をもたらした(図7B)。また、SEMA3Aは、細胞老化の特徴であるγH2AX(図7C)を発現する老化関連DNA-損傷病巣を促進した(57)。同様に、内皮細胞内でのIRE1αのshRNA媒介ノックダウンが、SEMA3Aにより駆動された老化を予防した(図6Dおよび図6E)。
【0207】
SEMA3Aにより駆動された老化が、IRE1αのキナーゼ活性またはRNAse活性を介して起こっているのかを判断するために、IRE1αのエンドリボヌクレアーゼ活性の選択的細胞透過性クマリンo-ヒドロキシアルデヒド薬理学的阻害剤4μ8cを用いた。4μ8cに曝露(図7D)することで、SEMA3Aの誘導による成長の停止を防ぎ、SEMA3A誘導による老化が無効となった(データは示さず)。裏付けとして、4μ8cはまた、SEMA3A媒介によるスプライシングおよびIRE1αエフェクターXボックス結合タンパク質-1(XBP1)の活性化を妨げた(図7Dおよび図7E)。最終的に、IRE1αのエンドリボヌクレアーゼ活性の薬理学的阻害が、Tnf-αまたはIRE1α自体にはいかなる影響も及ぼさないが、特定の老化関連遺伝子Vegf-a、Tgf-β1、Il-1β、Il-6、Pai-1、Tp53の産生を阻害した(図7F)。これらのデータは、老化を引き起こすにあたってIRE1αのエンドリボヌクレアーゼ活性が重要であることを強調したものである。
【0208】
実施例6
メトホルミンがSASPおよび病理学的網膜血管形成を無効にする
虚血性網膜症におけるSASPおよびパラクリン老化の治療的阻害の臨床的関連性を確立するために、本発明者らは、活発な増殖性糖尿病性網膜症(PDR)を患っている患者の硝子体における重要なSASPタンパク質のレベルを査定した。血管造影法およびスペクトルドメイン光コヒーレンストモグラフィー(SD-OCT)を実施し、三次元(3D)網膜マップを作成して、網膜損傷の範囲を評価した(図8A)。非希釈硝子体は、糖尿病に関連しない網膜損傷のみを示した網膜上膜および黄斑円孔などの非血管病理を有するPDR患者および対照患者から得た。患者の詳細な特徴は、表1に含む。多重磁気ビーズを用いたイムノアッセイによる硝子体SASPタンパク質を評価することにより、PDR患者において老化関連因子Pai-1(P=0.0004)、IL-6(P=0.001)、IL-8(P=0.0037)、およびVEGF-A(P=0.0085)の有意な増加が明らかになった(図8B)。パラクリン老化と網膜症との間の関連性を考えると(図1Cおよび図3E)、本発明者らは、治療上、SASPを調節して、病理学的網膜血管形成についての結果を査定しようとした。この点について、広く使用されているビグアニド系抗糖尿病薬メトホルミンは、成長停止プログラムを妨害することなくSASPを減少させることが報告されている(58)。P12においてメトホルミンを単回硝子体内注射することにより、OIRのマウス網膜においては、NF-κBおよびIRE1α活性化が減衰した(図8C)。これは、RT-qPCRによって判定されたときに、IL6、Cdkn1a、Cdkn2aおよびSema3Aの大幅な減少につながり(図8D)、また、P14(P=0.0086)(図8Eおよび図8G、ならびに図12A)、およびP17(P=0.0036)(図8Fおよび図8G、ならびに図12A)においてSA-β-galの有意な減少となった。VEGFシグナル伝達経路の成分は、影響を受けなかった(図13A)。全身投与によりマウスの体重増加を妨げられ、それゆえ交絡因子となり得ることを考えて、メトホルミンの硝子体内注射を行うことを選択した(32)。
【表5】
【0209】
本発明者は次に、メトホルミンによる処理およびその後のSASPの阻害がアポトーシスの増加をもたらすかどうかを判断した。TUNEL染色では、GCLの細胞においてアポトーシスを悪化させることなく、ビヒクル処理した網膜と比較した場合、メトホルミンによる処理がINL層におけるアポトーシス細胞の数を減少させることが明らかになった(図12B)。これらの所見は、網膜のウエスタンブロッティングによって、網膜症の様々な段階での切断カスパーゼ-3を確認した(図12C)。最終的に、P17において査定したとき、メトホルミンを硝子体内注射することで、血管再生が2倍以上増加し(P<0.0001)(図8Hおよび図8J)、病理学的血管新生を半分に抑制した(P<0.0001)(図8H図8K)。全身経路によりメトホルミンを投与しても、局所硝子体内投与の必要性が強調されている病理学的網膜血管形成については、いかなる利点も示さなかったことに留意することが重要である。まとめると、これらのデータは、病理学的眼球血管形成(病理学的血管新生)の治療において、メトホルミンなどのビグアニドによりSASPが治療的に阻害されることを裏付けるものである。
【0210】
実施例7
VEGFトラップ眼は、病理学的網膜血管形成を無効にするが、血管再生を増加させること、または老化を減少させることはない。
本発明者らは次に、現在使用されているVEGFトラップ眼(アフリベルセプト)などの抗VEGF治療法(59、60)が網膜症の間の網膜老化に影響を与えるかどうかを判断した(60)。アフリベルセプトは、ヒトVEGF受容体1および2の細胞外ドメインならびにFc部分から構成される組換え融合タンパク質である。アフリベルセプトは、少なくともVEGF-Aおよび胎盤成長因子(PLGF)に結合する(59)。OIRのP12において、アフリベルセプトを硝子体内注射しても、P14(P=0.3087)(図9A図9B)、またはP17(P=0.1580)(図9C図9D)において、SA-β-gal染色に有意な影響を及ぼさなかった(P=0.3087)。興味深いことに、SASPを減少させ、かつ血管再生を増強するメトホルミンによる治療とは対照的に、アフリベルセプトは、P14(P=0.4897)(図9A図9C)またはP17(P=0.9502)(図8B図8D)において、血管再生速度を調節することはなく、また、老化の駆動因子でもない(図13B)。予想通り、アフリベルセプトを硝子体内注射することで、P17 0IRでの新血管新生の顕著な減少をもたらした(P=0.0207)(図9G)、(*P<0.001))。したがって、アフリベルセプトによる治療は、網膜虚血または老化を軽減すること、または網膜血管修復を増強することなく、病理学的血管新生を直接阻止するのみである。まとめると、これらのデータは、細胞老化と虚血により駆動された病理学的血管形成との間の関連性をさらに強めている。
【0211】
実施例8
可溶性SEMA3A中和トラップの調製
SEMA3Aを阻害/中和するための高親和性トラップを生成した。これらのトラップは、ニューロピリン1(NRP1)に由来し、任意により6X-HisタグまたはFCタンパク質に結合された(図18および表2参照)。全NRP1細胞外ドメインまたはSEMA3A結合を維持することができる機能的多様体のいずれかを含む様々な多様体が生成された。b1ドメイン(VEGFに結合する)を含み、中和VEGF165突然変異を含むトラップが生成された。トラップは、形質転換ヒト細胞において高度に発現され、分泌されることが示された。構造-活性相関(SAR)およびインビボ有効性研究のためのトラップサンプルを産生するための簡単な精製および製剤化プロトコールを開発した。
【0212】
方法
細胞培養および材料。ヒトニューロピリン1(GenBank(商標)受託番号NM_003873、配列番号66)は、Origene Inc.から入手した。Origenクローンは、ロイシンをイソロイシンに変えるアミノ酸140に保存的突然変異を含む。293T(ATCC)細胞を、10%ウシ胎児血清を添加したダルベッコ改変イーグル培地中で増殖させた。pFUSE-hIgG1-Fc1ベクターは、InvivoGen Inc.から購入した。
【0213】
クローニング。ニューロピリン-1の細胞外ドメイン(残基1~856)、またはその一部分を、Phusion(商標)高忠実度ポリメラーゼ(New England Biolabs)を用いてOrigeneクローンRC217035からPCR増幅し、ヒトFC-1コード配列とインフレームであるpFUSE-hIgG1-Fc1のEcoR1-BglIIにクローニングした。可溶性型のトラップをコードする構築物は、対応するFC構築物のFCコード部分の上流に、TEVプロテアーゼ切断部位をコードする配列、続いて6×His残基および終止コドンを挿入することによって生成した。Q5 site directed mutagenesis kit(NEB)を使用して、さらなる欠失(b1、b1b2)またはVEGF165結合突然変異(例えば、Y297A)を導入した。構築物配列はすべて、サンガーシーケンシング(Genome Quebec)により検証した。
【0214】
ヒト細胞におけるトラップの発現の評価。マウスおよびヒトのトラップをコードする構築物を、293T細胞にトランスフェクトした。細胞を、FreeStyle(商標)293培地(Invitrogen)中でトランスフェクションの48時間後に増殖させた。細胞溶解物は、トランスフェクションの48時間後に293T細胞から調製した。細胞をPBSで広範に洗浄し、標準量のプロテアーゼ阻害剤(AEBSF、TPCK、TLCK、アプロチニン、ロイペプチン、ペプスタチン、およびE64、Sigma)を補充した氷冷溶解緩衝液(50mM HEPES pH7.5、150mM NaCl、1.5mM MgCl2、1%トリトンXH-100および10%グリセロール)中で溶解した。細胞溶解物は、微量遠心分離(12000g、20分)によって清澄化した。溶解物濃度は、標準マイクロBCA(Sigma)によって決定した。等量のタンパク質を5~20%PAGE-SDS勾配ゲルにロードし、PVDF(Amersham)に移した。トランスフェクトされた細胞からの清澄化した馴化培地を、プロテインAセファロース(Pharmacia)またはTalonレジン(Clontech)のいずれかと共にFCまたは6xHisタグのためにインキュベートした。レジンをPBSで洗浄し、ゲル分離および転写の前に2XPAGE-SDSサンプル緩衝液中で希釈した。免疫ブロッティングに使用した抗体は、抗ヒトニューロピリン-1(Cell signaling)、マウスモノクローナル抗6X-HIS(In Vitrogen)、およびレポーターHRP結合抗ヒト、マウスおよびウサギIgG(BioRAD)であった。すべての抗体を1/2000希釈で使用した。メンブレンをECL(Amersham)と共にインキュベートした後、Fujiイメージングシステムを使用して化学発光シグナルを捕捉した。
【0215】
トラップの発現および精製。293-T細胞は、ポリエチルアミン(PEI)またはリン酸カルシウム沈殿標準トランスフェクション法のいずれかにより、種々のトラップをコードするプラスミドでトランスフェクトした。翌日、細胞を無血清培地で2回洗浄し、無血清完全培地(Free style 293培地、InVitrogen)を供給した。無血清培地中で60~72時間成長させた後、馴化培地を回収し、スウィングバケット遠心分離(2000RPM、20分間)によって細胞破片から除去した。プロテインAまたはGセファロース(Pharmacia)で継代し、続いてPBSで広範に洗浄し、0.1Mグリシン(pH3.0)で溶出することにより、FCトラップをトランスフェクトした293T細胞の馴化培地から精製した。溶出画分は、1/10容量の1Mトリス(pH8)および1/10容量の10xPBS(pH7.4)を添加することによって直ちに中和した。可溶性6XHISタグ付きトラップは、Talonアガロース(Clontech)により継代し、その後PBSにより広範に洗浄し、段階的イミダゾール溶出(典型的には10~150μMの範囲)によって、トランスフェクト293T細胞の馴化培地から精製した。トラップの精製画分のサンプルを5~15%または5~20%勾配PAGE-SDSゲル上で分析した。ゲルは、Safely Blue staining kit(InVitrogen)を用いて染色した。
【0216】
インビボ注射用精製トラップの無菌配合物40mlの馴化培地からの精製溶出画分をプールし、PBS中において総容量10mlに希釈した。希釈したトラップタンパク質を0.2μMの低タンパク質結合フィルター(Progene)を通して濾過することにより滅菌した。タンパク質溶液を濃縮し、滅菌PES濃縮装置(Pierce、公称MWCO 30KD)によりPBSと緩衝液を交換した。無菌濃縮トラップサンプル(約30~50μl)を分析し、上記のようにPAGE-SDSで染色した。
【0217】
実施例9
SEMA3Aのトラップの親和性
AP-VEGF165の産生。ヒトVEGF165多様体1(NM_001025366)のコード配列を、アルカリホスファターゼドメイン(AP-VEGF165)とインフレームで、pAPtag5ベクター(GenHunter)にサブクローニングした。ポリエチレンイミン(PEI)トランスフェクション法を用いて、HEK293T細胞にAP-VEGF165構築物をトランスフェクトした。一晩のトランスフェクション工程後、細胞を無血清培地(In vitrogen)中でさらに60時間培養した。細胞培地を回収し、PES装置(Pierce)で濃縮した。濃縮したAP-VEGF165リガンドをPAGE-SDSで分析し、SimplyBlue safe stain(Life technologies)を用いて定量化した。
【0218】
Sema3AおよびAP-VEGF165結合アッセイ。SEMA3AまたはVEGF165への結合のKDを決定するための飽和曲線は、以下のようにして得た。高タンパク質結合96ウェルプレート(Maxisorp、Nunc)のウェルを、PBSで希釈した精製トラップでコーティングし、その後結合緩衝液(2%カゼインおよび0.05%Tween 20含有PBS)でブロックした。SEMA3A-FC(R&D systems)またはAP-VEGF165リガンドを広範囲の濃度にわたって結合緩衝液中で希釈し、ウェルに添加した。一晩インキュベートした後、ウェルを0.05%tween含有PBSで洗浄した。結合SEMA3a-FCは、HRP結合抗ヒトIgG(Biorad)およびECL基質(Pierce)を用いて検出した。あるいは、結合AP-VEGF165は、CPDスター基質(Roche)を用いて検出した。化学発光シグナルは、TECANリーダーで取得した。解離定数(KD)は、Graph Pad prismソフトウェアを用いた非線形曲線フィッティングによって決定した。
【0219】
本発明のトラップのSEMA3AおよびVEGFに対する相対的親和性を査定した。トラップは、実施例8に記載したように調製した。試験されたトラップの概略図(HISまたはFCタグなし)も図18に示す。
【表6】
【0220】
試験した可溶性NRP1トラップは、一般に、VEGFよりもSEMA3Aに対してより効率良く結合する。SEMA3AおよびVEGFは通常、NRP1に対して同じ一般的親和性を有すると考えられることから、SEMA3Aに対するこうした優先は、驚くべきことであることがわかった。出願人らはまた、驚くべきことに、NRP1の297位(Y297A)に突然変異を導入すると、VEGFへの結合のみでなく、NRP1への結合も阻害することを見出した。こうした突然変異は、これまではSEMA3Aに対する親和性の増加と関連していていると考えられていたが、VEGFの阻害よりもSEMA3A阻害が好ましい条件において有利であり得る。ベバシズマブなどのVEGF阻害剤を用いてVEGFを阻害することは、インビトロおよびインビボにおける結腸直腸癌細胞において、細胞老化を誘導することが示唆されており(Hasanら、2011 Int.J.Cancer 1;129(9):2115~2123)、VEGFに対して低い親和性を有するNRP1トラップを使用することは、老化関連疾患および状態の状況において好ましい場合もある。さらに、好ましくはVEGFよりもSema3aと相互作用するNRP1トラップは、VEGF細胞シグナル伝達の阻害に関連する副作用の減少を示すことが予想される。
【0221】
実施例10
NRP1トラップによる細胞老化の減衰
OIRマウスに、P12においてNRP1トラップGまたはMまたはビヒクルを硝子体内注射し、細胞老化について網膜を監視した。図20に示すように、P17 OIRフラットマウント網膜をSA-β-gal染色により定量化することにより、マウスがトラップMまたはトラップGの単回注射を受けたときに細胞老化の有意な減衰を示し、トラップMは細胞老化の阻害により効果的であることが判明した。興味深いことに、トラップMはSEMA3Aに対して、VEGFに対する場合より約20倍大きいkdを有するが、トラップGについては、SEMA3Aに対する優先度はそれほど重要ではない(表6を参照されたい)。
【0222】
実施例11
実験手順
動物。すべての研究は、眼科および視覚研究における動物の使用(Use of Animals in Ophthalmic and Vision Research)に関するAssociation for Research in Vision and Ophthalmology(ARVO)の声明に従って行われ、カナダ動物管理協会(Canadian Council on Animal Care)によって制定されたガイドラインに同意してモントリオール大学の動物実験委員会(Animal Care Committee of the University of Montreal)によって承認された。C57Bl/6野生型(WT)は、The Jackson Laboratoryから購入した。LyzM-Cre(Lyz2tm1(cre)Iflo/J;no.004781)は、The Jackson Laboratoryから購入した。(C57Bl/6WT、LysM-Cre、およびLysM-Cre/ROSA26EYFPfl/f、本発明者らは、骨髄系列のEYFP発現細胞を有するマウスを作製した(71)。
【0223】
O2誘発性網膜症。異なる系統(C57Bl/6WT、LyzM-Cre、LysM-Cre/IRE1fl/fl、LysM-Cre/IRE1+/+、IRE1fl/flおよびLysM-Cre/ROSA26EYFPfl/fl)由来のマウス仔およびそれらのマウス育成中の母親(CD1、CharlesRiver)は、出生後7日目(P7)から12日目まで75%Oにさらされ、その後、室内の空気に戻された。このモデルは、破壊的な病理学的血管形成の後期を特徴とするROPおよび糖尿病性網膜症など、ヒトの眼の血管新生疾患の代用として役立つ(72、73)。室内空気に戻すと、低酸素により駆動された新血管新生(NV)が、P14以降に発生する(27)。本発明者らは、異なる時点で眼球を摘出し、mRNA、タンパク質アッセイまたはフラットマウントのために網膜を切開した。
【0224】
RNA-Seqサンプルの調製およびシーケンシング。RNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて網膜から全RNAを単離した。次いで、Dynabeads(登録商標)mRNA DIRECT(商標)Micro Kit(Thermo Fisher SCIENTIFIC)を用いて、1μgの全RNAからmRNAを精製した。全トランスクリプトームライブラリーは、Ion Total RNA-seq Kit v2を用いて調製した。増幅ライブラリーの収量およびサイズ分布は、DNA1000キットを使用してAgilentバイオアナライザーで査定した。シーケンシングは、Ion Chef(商標)Instrument(Ion Torrent(商標)、Thermo Fisher SCIENTIFIC)で実施した。
【0225】
cDNAライブラリーの構築およびシーケンシング。分析は、Torrent Suiteソフトウェアv4.4(Thermo Fisher)および全トランスクリプトーム解析プラグインv 4.2-r7(Thermo Fisher)を用いて行った。全トランスクリプトーム解析プラグインにより、Tophat2を使用してマウス参照ゲノム(mm10)にリードを揃え、次にマッピングされていないリードをBowtie2を使用して整列させ、一緒にマージする。FPKMは、Cufflinkを使用して計算される。
【0226】
遺伝子セット濃縮分析(GSEA)。Broad Institute of MITおよびHarvard Universityによって提供されたGSEA v2.2.1ソフトウェアを使用して、遺伝子セット濃縮分析を行った。目的の表現型における分子シグネチャ間の相関を検証するためにGSEAを使用した。ToPhat/Cuffdiffコマンドパイプラインによって生成されたlog2で正規化されたFPKM(Fragment Per Kilobase of transcript per Million)データを用いて濃縮分析を実施した。FPKM値は比率として変換された(FPKMx/[FPKM酸素正常]平均)、次に、log2を正規化し(log2[比率])、中央値を中央に配置する(log2比率-[log2比率酸素正常]平均)。
【0227】
デフォルトのパラメータは以下のように変更した:目的の遺伝子セットは、分子シグネチャデータベース(MSigDB)からの機能的注釈付き遺伝子セットのカタログにおいて見出した。表現型は1000回並び替えた。表現型ラベルは、「OIR」対「酸素正常状態」とした。15より小さく500より大きい遺伝子セットは解析から除外した。ヒットを採点するために使用される統計は、「加重p2」とし、使用されるクラス分離メトリックは「t検定」であった。
【0228】
半定量的およびリアルタイムPCR分析。GenElute(商標)Mammalian Total RNA Miniprep Kit(Sigma)を用いてRNAを単離し、ゲノムDNAの増幅を防ぐためにDNase Iによる消化を行った。M-MLV逆転写酵素を用いてRNAを逆転写し、ABI Biosystems Real-Time PCR装置でSybrGreen(商標)を用いて遺伝子発現を解析した。β-アクチンを参照遺伝子として使用した。プライマー配列は、表7に表示する。XBP-1半定量PCR産物を0.4U/μLのPstI酵素と37℃で5時間インキュベートした後、2.5%アガロースゲルで分離することにより、XBP-1のスプライシングを調べた。
【表7】
【0229】
フローサイトメトリー分析。ヒト網膜微小血管内皮細胞(HRMEC)細胞周期分析(PI biolegend)を製造業者の説明書に従って、また以前に報告されたように(43)実施した。簡単に説明すると、HRMEC(1x10)を6ウェルプレートに播種し、100ng/mlおよび500ng/mlのSEMA3Aと共に7日間インキュベートした。サンプルを、フローサイトメトリーによって分析した。FACSは、LSRII(BD Biosciences)装置で行い、データをFlowJoソフトウェア(バージョン7.6.5)を用いて分析した。
【0230】
電気細胞-基質インピーダンスセンシング(ECIS)増殖アッセイ。経内皮電気抵抗のリアルタイム分析は、5000HRMEC/mlを8W10E+標準8ウェルアレイ(Applied BioPhysics、NY)に播種することによって行った。細胞は、10nF未満の静電容量まで成長させた。細胞を内皮基本培地(EBM-2、Lonza)で5時間飢餓状態にした後、100ng/mlのSEMA3Aまたはビヒクル(EBM-2)で120時間処理し、インピーダンスをECISZθインピーダンス機器(Applied BioPhysics、NY)を用いて測定した。測定は処理後120時間行った。
【0231】
ヒトのサンプル。Maisonneuve-Rosemont Hospital(HMR)倫理委員会(Ref.CER:10059)によるヒト臨床プロトコールおよびインフォームド・コンセントフォームの承認、ならびに増殖性網膜症に罹患した患者からの局所コア硝子体生検サンプリングのための患者の募集を受けた。全手順が、Maisonneuve-Rosemont Hospitalの眼科の外来診療所内の小処置室で外来患者用処置として行われた。すべての器具を開梱して、無菌様式で取り扱った。この研究は、ヘルシンキ宣言の原則に準拠している。
【0232】
硝子体切除。以前にPDRと診断された患者は全員追跡され、一名の硝子体網膜外科医(FAR)によって手術された。対照患者は、同じ外科医による非血管病理(ERMまたはMH)のための外科的治療を受けたものとした。手術室の設定では、患者は局所後眼窩/眼窩周囲麻酔下で手術を受けた。5%ポビドンヨード溶液を使用して眼周囲の皮膚を清浄し、眼の中および盲嚢内への局所滴下を5分間そのままにした。3ポート25ゲージ経毛様体扁平部硝子体切除術は、25ゲージバルブ付きカニューレ(Alcon)によって行った。広角観察システム(Resight、Zeiss)を使用する顕微鏡による可視化の下で、未希釈硝子体を25ゲージ硝子体切除装置(vitrector)で収集した。硝子体生検後、注入ラインを開き、糖尿病性硝子体出血および牽引性網膜剥離を治療するために、硝子体切除術および膜剥離を通常の様式で行った。これに続いて、汎網膜眼内レーザー光凝固術、液体-空気交換、および硝子体内抗VEGF注射を行った。
【0233】
マルチプレックスによるサイトカインの定量化。硝子体サンプルをドライアイス上で凍結し、生検直後に-80℃で保存した。分析前に、硝子体サンプルを4℃で5分間、15000xgで遠心分離した。Pai1、VEGF、IL-6、IL-8。マルチプレックスパネル(Cancer Panel 1(Bio-rad))は、製造者のプロトコールに従って使用した。Luminexアッセイは、Bio-Plex 200アレイリーダー(Bio-rad)を用いて分析した。それぞれの分析物の定量的測定は、患者サンプルから得られた生データを標準曲線と比較することによって達成された。検出限界のため、合計4つのサイトカイン(Croa、GrobおよびIL-1β)を除外する必要があった。
【0234】
免疫蛍光法(IF)。タンパク質の発現を局在化するために、マウスから眼球を摘出し、4%パラホルムアルデヒド中で室温で4時間固定し、30%スクロース中で一晩インキュベートし、次いでOCT化合物中で凍結した。その後、目全体を-20℃の最適な切断温度の化合物に埋め込み、12μmの切片を作製した。落射蛍光顕微鏡(Zeiss AxioImager)または共焦点顕微鏡(Olympus confocal FV1000)を用いてIF実験および切片の視覚化を行った。
【0235】
汎網膜血管系を視覚化するために、切開した網膜をフラットマウントし、網膜血管系用にPBS中1mMのCaCl中のローダミン標識グリフォニア(Bandeiraea)シンプリシフォリアレクチンI(Vector Laboratories,Inc.)と共に一晩インキュベートした。ImageJおよびSWIFT-NV法を用いたP17での無血管領域または新血管新生領域の範囲(74)。
【0236】
タンパク質の局在化のために、フラットマウント網膜を、指示されたように異なる抗体とインキュベートした。インビトロIFのために、培養細胞を0.1%ゼラチンコーティングカバーガラス上にプレーティングし、一晩血清飢餓状態にし、7日間SEMA3A(100ng/ml)により刺激した。細胞冷PBSで簡単に洗浄し、3.5%パラホルムアルデヒド含有PBS中で20分間固定した。細胞をPBSですすぎ、PBS中の0.3%トリトンで5分間透過処理した。固定細胞を1%BSAでブロックし、次いでPBS中0.1%BSA中の一次抗体と共に1時間インキュベートした。結合した一次抗体は、Alexa Fluor二次抗体を用いて1時間インキュベーションした後に可視化した。カバーガラスをFluoromount(Sigma-Aldrich)を用いて取り付け、共焦点顕微鏡(Olympus confocal FV1000)により分析した。サンプルは、x63/1.4NA oilまたは30倍対物レンズで観察した。画像は、Photoshop CS4(Adobe Systems)を用いてアセンブルした。免疫組織化学に使用したすべての抗体については、表8を参照されたい。
【表8】

老化関連β-ガラクトシダーゼ(SA-β-gal)アッセイ。老化関連β-ガラクトシダーゼアッセイは、以前に記載されたように実施した(57、75)。
【0237】
インビボでのSA-β-galの定量化。フラットマウント網膜または目の矢状切片における老化関連β-ガラクトシダーゼ染色は、図14に記載のImage Jソフトウェアを使用して解析した。
【0238】
レンチウイルスの産生。本発明者らおよび他の発明者らが以前に記載したように(35、44、76)、HEK293T細胞(Invitrogen)に、Cre、緑色蛍光タンパク質GFP、または小型ヘアピンRNA(Sh_RNA)を含むベクタープラスミドを、SEMA3A、IRE1α、またはGFPに対して(以下の表9を参照されたい)、第3世代のパッケージプラスミドpV-SVG、pMDL、およびpREV(Open Biosystems)とともにトランスフェクトすることによって、レンチウイルス(HIV-由来)を調製した。DMEM完全培地(Invitrogen)中で約10個の細胞を播種し、上記のプラスミドでトランスフェクトし、30時間インキュベートした。続いて、上清を新鮮な完全DMEM培地と交換し、さらに30時間インキュベートした。分泌されたウイルスを回収し、50000gで超遠心分離し、PBSに再懸濁し、等分し、-80℃で保存した。
【0239】
硝子体内注射。P2、P10またはP12 C57BL/6の仔を3.0%イソフルランで麻酔し、50ゲージのガラス製キャピラリーチップを取り付けた10μLのハミルトンシリンジを用いて、0.5μLのレンチウイルス(「レンチウイルスの産生」を参照されたい)、組換えSEMA3A(100ng/μL)、メトホルミン(10μg/μL)、またはアフリベルセプト(10μg/μL)を硝子体腔内に注射した。約254±11.0ng/μLのレンチウイルスSh_GFPおよびSh_Sema3a、Lv.Cre(15.0ng/mL)、Lv.GFP(15.0ng/mL)を含む323.3±15.3ng/μLを注射した。ウイルス力価は、p24 ELISAキット(ZeptoMetrix)を用いて査定した。使用したレンチウイルスの力価は(ng p24において)、LV.Sh_RNAIRE1α(8.52ng/mL)、およびLV.Sh_RNA.GFP(8.47ng/mL)であった。
【表9】
【0240】
馴化培地(CM)の調製。ヒト網膜微小血管内皮細胞(HRMEC)、網膜ニューロン661W光受容体細胞およびマウスマクロファージ(J774A.1細胞株)は、トランスフェクションの48時間後、または各実験に示されているとおりではないが、組換えSEMA3A(100ng/μL)、H(150μM、2時間)と共に7日間インキュベートした。上清を遠心分離し、濾過し、次いで、その後の使用のために凍結した。ウエスタンブロットのために、超遠心式アミコンフィルターユニット(Millipore)を使用してCMで濃縮した。
【0241】
ウエスタンブロッティング。本発明者らは、様々な時点で眼球を摘出し、網膜タンパク質レベルを査定するために網膜を迅速に切開し、均質化した。網膜ホモジネート、細胞溶解物からのタンパク質濃度は、BCAアッセイ(Sigma)によって査定し、次いでタンパク質30μgは、標準SDS-PAGE法による各条件について分析した。ウエスタンブロッティングに使用した抗体は、上記の表8に列挙する。
【0242】
統計分析。必要に応じて、スチューデントT検定およびANOVAを使用した。それぞれAP<0.005およびP<0.05は、Prism、バージョン5ソフトウェア(GraphPad)を使用して、統計的に異なると見なした。
【0243】
使用した組換えタンパク質。組換えヒトセマフォリン3A(マウス骨髄腫細胞株、NS0)(R&D Systems)濃度は、インビトロでは、100ng/mlおよび500ng/ml、ならびにインビボでは100ng/mlで使用した。
【0244】
材料。メトホルミン、アッセイ(RIPA)緩衝液、プロテアーゼ阻害剤カクテル、およびホスファターゼ阻害剤は、Sigma Chemicalsから購入した。アフリベルセプト(Eylea(商標)は、Bayerから購入した。4μ8c阻害剤は、Torcis(Biosciences)から得た。
【0245】
安定な細胞株およびトランスフェクションのプラスミドおよび生成。製造業者の指示に従って、Lipofectamine(商標)2000を使用して、37℃で16時間、661W細胞およびHRMEC(Open Biosystems)細胞をそれぞれ500ngのSh_RNAプラスミドターゲティング、Sema3a、IRE1αおよび非関連sh_RNA(sh_GFP)で安定的にトランスフェクトした。本発明者らは、2週間にわたって2mgのピューロマイシンを用いて選択することによって安定な細胞株を生成した。Lipofectamine(商標)2000を使用する、J774細胞中でのGFP、IRE1αWT、IRE1αのドミナントネガティブ変異体、RNaseデッド変異体K907Aの発現プラスミド。IRE1α用のプラスミドは、Addgeneから入手した(Fumihiko Urano:プラスミド#20744および#20745)。
【0246】
実施例12
実施例13~15の実験手順
マウス。すべての研究は、カナダ動物管理協会のガイドラインに従って実施し、モントリオール大学の動物実験委員会によって承認された。C57Bl/6野生型マウス、LysM-Creマウス(B6.129P2-Lyz2tm1(cre)Ifo/J;No.004781)、およびニューロピリン-1フロックスマウス(B6.129(SJL)-NRP1tm2Ddg/J;No.005247)は、The Jackson Laboratoryから購入し、ハウス内で飼育した。食餌:HFD:60%脂肪カロリー、BioServ F3282。対照飼料:2018 Teklad Global 18%タンパク質げっ歯類飼料。
【0247】
脂肪組織マクロファージの蛍光活性化細胞選別(FACS)。後腹膜脂肪パッドを回収し、秤量し、DMEM F12培地中で均質化し、次いで1mg/mLのコラゲナーゼD(Sigma)と共に37℃で45分間インキュベートした。次にEDTAを10mMの濃度で添加し、混合物をさらに5分間インキュベートした。次に、ホモジネートを70μmのセルストレーナーで濾過し、遠心分離した。ペレットを再懸濁し、溶解緩衝液(10mMKCHO;150mM;NHCl;0.1mMEDTA)中において室温で5分間インキュベートし、遠心分離した。ペレットを1xPBSに再懸濁し、100μmセルストレーナーで濾過した。細胞懸濁液をZombie Aqua Fixable Viability Kit(BioLegend)と共に室温で15分間インキュベートした。次いで細胞をLEAF精製抗マウスCD16/32(Biolegend)と共に室温で15分間インキュベートして、Fc受容体を遮断した。次いで、細胞を以下の抗体と共に4℃で25分間インキュベートした:Brilliant Violet 785抗マウスCD45.2(BioLegend)、Brilliant Violet 711抗マウス/ヒトCD11b(BioLegend)、APC/CY7抗マウスLy-6G(BioLegend)、Pe/Cy7抗マウスF4/80(BioLegend)、PE抗マウスCD11c(BioLegend)、FITC抗マウスLy-6C(BioLegend)およびAPC抗マウスCD304(ニューロピリン-1)またはAPCラットIgG2a、κ アイソタイプ対照(BioLegend)。CD206発現を分析するために、細胞の透過処理および固定は、Cytofix/Cytopermキット(BD Bioscience)を用いて、4℃で20分間行った。次いで、細胞内受容体を遮断するために、細胞をラット血清(Cedarlane)と共に4℃で25分間インキュベートした。細胞を最後にBrilliant Violet 421抗マウスCD206(MMR)(BioLegend)で4℃にて25分間染色した。FACSは、Fortessa(BD Biosciences)装置で実施し、データはFlowJoソフトウェア(バージョン7.6.5)を使用して解析した。
【0248】
インビボでのBODIPYの取り込み。インビボでのBODIPYの取り込みアッセイを、10週間HFDを給餌したLysM-Cre-NRP1+/+およびLysM-Cre-NRP1fl/flの雄マウスで行った。マウスを4時間飢餓状態にした後、1%BSA中の100μLの30μM BODIPY(商標)500/510C1、C12の腹腔内注射を行った。BODIPY(商標)注射3時間後に、マウスを安楽死させた。心臓穿刺により血液を採取し、その後血漿を遠心分離により分離した。心臓、肝臓および白色脂肪組織のサンプルを採取し、1xRIPA緩衝液(Cell Signaling)中で均質化した。ホモジネートおよび血漿のBODIPY(商標)蛍光を、Infinite M1000 Proリーダー(Tecan)を用いて、488nmの波長発光および525nmの励起で読み取り、タンパク質濃度に対して正規化した(QuantiPro(商標)BCAアッセイキット(Sigma)を用いて定量化した)。
【0249】
一次マクロファージ培養。8~12週齢のLysM-Cre-NRP1+/+およびLysM-Cre-NRP1fl/flマウスを2L/分の酸素中2%イソフルランで麻酔し、次いで頸椎脱臼により安楽死させた。その後、マウスの腹部皮膚の小切開を行った。皮膚を各サイズのマウスに合わせて引き出し、腹腔を5mlのPBS+3%FBSで2分間洗浄した。次いで、採取した細胞を1000rpmで5分間遠心分離し、培地(DMEM F12+10%FBSおよび1%ストレプトマイシン/ペニシリン)に再懸濁し、プレーティングした。37℃、5%CO雰囲気下で1時間培養した後、培地を交換し、BODIPY取り込み、pHrodo食作用アッセイ、またはオイルレッド-O染色に使用する前に、細胞を同じ条件で次の24時間培養した。
【0250】
定量的RT-PCR(qPCR)分析。トリゾール試薬プロトコール(Invitrogen)に従って、100~500mgの凍結(-80℃)RP-WATを用いてRNA抽出を行った。製造業者の指示に従って、全RNA(1μg)を逆転写した(iScript cDNA synthesis kit、Bio-Rad)。SYBR Green(Bio-Rad)および一反応物あたり40ngのcDNAを用いてqPCRを行った(7500リアルタイムPCRシステム、Applied Biosystem)。発現レベルは、β-アクチンの発現に対して正規化した。プライマー(Integrated DNA Technologies)配列は、以下に列挙する:
【表10】
【0251】
ImmGen skylineデータセット。免疫学的ゲノムプロジェクトデータフェーズ1(GEO受託コードGSE15907)およびフェーズ2(GSE37448)を抽出し、ロバストマルチアレイ平均(RMA)によってRに正規化し、antiLog値をプロットした。
【0252】
免疫組織化学(IHC)。RPWAT組織を4%PFA中で48時間固定し、次いで20%メタノール中で10分間インキュベートし、PBSですすいだ。3%BSA(Hyclone、GE)+0.3%トリトン(商標)X-100(Sigma)中で1時間ブロッキング後、ローダミン標識グリフォニア(Bandeiraea)シンプリシフォリアレクチンI(Vector Laboratories Inc.)、抗ラットF4/80(ロバIgG;eBioscience)、抗ウサギペリリピン(ロバIgG;Abcam)、抗ラットニューロピリン-1抗体(ロバIgG;R&D)と共に4℃で一晩インキュベートした。Alexa-Fluor二次抗体を2時間20℃でインキュベートした。次いで、RPWATを顕微鏡スライド上に載せ、画像を共焦点顕微鏡によって撮影した。
【0253】
マクロファージBODIPYの取り込み。LysMCRE-NRP1+/+およびLysMCRE-NRP1fl/flから抽出したマクロファージを1x10細胞/ウェルで48ウェルプレートに播種した。BODIPY500/510C1、C12(Life technologies)を0.5および1μg/mlの濃度で添加し、5分間室温でインキュベートし、次いで、氷上に置いた。ウェルを冷PBSで洗浄し、次いで1%パラホルムアルデヒド(Electron Microscopy Science)で固定した。蛍光をInfinite M1000 Proリーダー(Tecan)を用いて、波長発光488nmおよび励起525nmで読み取った。次いで細胞を1/20000の濃度のDAPI(Life Technologies)で染色し、励起358nm、発光461nmで蛍光を測定した。
【0254】
pHrodo食作用アッセイ。LysMCRE-NRP1+/+およびLysMCRE-NRP1fl/flから抽出したマクロファージを96ウェルプレートに1x10細胞/ウェルで播種した。pHrodo(登録商標)グリーンザイモサンバイオ粒子コンジュゲート(Green Zymosan Bioparticles Conjugate)(登録商標)(Life Technologies)を、0.5%/mLの濃度でFluoroBrite(商標)DMEM培地+10%FBS+1%PenStrep中に再懸濁した。バイオ粒子再懸濁液100μLは、陰性対照として、細胞および空のウェルに添加した。細胞を37℃で90分間インキュベートし、pH/食作用依存性蛍光を励起509nm、発光533nmにおいて、TECANプレートリーダーで検出した。正味の食作用は、実験サンプルの蛍光から陰性対照の蛍光を差し引くことによって計算した。
【0255】
オイルレッドO染色および定量化。培養脂肪細胞および腹腔マクロファージをPBSで洗浄し、10%PFA中で30分間固定し、すすいだ。次いで、細胞を、2回濾過した0.3%オイルレッドO溶液と共に60分間インキュベートし、すすいだ。脂肪細胞については倍率10倍、マクロファージについては倍率63倍で光学顕微鏡下で写真を撮影した。脂肪滴の定量化は、ImageJから、限界値限界法(Limit of threshold method)を用いて行った。
【0256】
アデノトラップMプロトコールの存在下での体重増加。6~8週齢のC57B16/Jマウスを6つの群(通常食+食塩水、通常食+アデノトラップM、通常食+アデノGFP、高脂肪食+食塩水、高脂肪食+アデノトラップM、高脂肪食+アデノGFP)に分けた。マウスに生理食塩水、アデノトラップMまたはアデノGFPを静脈内注射した(尾静脈)(0.25x1010PFU/注射)。これらのマウスの半分には高脂肪食を与え、残りの半分には通常食を与え、毎週の間隔で体重を測定した。
【0257】
注射の2週間および8週間後に、尾から一滴の血液を採取した。トラップMの存在は、抗His抗体を用いた免疫沈降により血液中で査定した(図26図28および図29を参照されたい)。
【0258】
耐糖能試験(GTT)。6~8週齢のC57B16/Jマウスに食塩水またはアデノ-トラップMを静脈内注射した(0.25x1010PFU/注射)。注射直後にマウスに高脂肪食を与えた。糖血は、ベースライン時、および2gのD-グルコース/kgの腹腔内注射から15分後、30分後、60分後、120分後、および240分後に査定した。記録された測定値を図25に示す(N=5、N.Sは二元配置Anova Bonferroni事後検定では有意でないことを意味する)。
【0259】
インスリン耐性試験(ITT)。マウスは、5.5時間(午前中)飢餓にした。血糖は、ベースライン時、0.75U/kgのインスリンの腹腔内注射から30分後、60分後および120分後に測定した。
【0260】
インビボでのBODIPY(商標)の取り込み。インビボBODIPY(商標)取り込みアッセイは、LysM-Cre-NRP1+/+およびLysM-Cre-NRP1fl/fl雄マウスで、10週間HFDを与えて実施した。マウスを4時間飢餓状態にした後、1%BSA(Hyclone、GE)中の100μLの30μMBODIPY(商標)500/510C1、C12(Life technologies)の腹腔内注射を行った。BODIPY注射3時間後に、マウスを安楽死させた。心臓穿刺により血液を採取し、その後血漿を遠心分離により分離した。心臓、肝臓および白色脂肪組織のサンプルを採取し、1xRIPA緩衝液(Cell Signaling)中で均質化した。ホモジネートおよび血漿のBODIPY蛍光を、Infinite M1000 Proリーダー(TECAN)を用いて、488nmの波長発光および525nmの励起で読み取り、タンパク質濃度に対して正規化した(QuantiPro(商標)BCAアッセイキット(Sigma)を用いて定量化した)。
【0261】
オイルレッドO染色および定量化。培養脂肪細胞および腹腔マクロファージをPBSで洗浄し、10%PFA中で30分間固定し、すすいだ。次いで、細胞を、2回濾過した0.3%オイルレッドO(Sigma)溶液と共に60分間インキュベートし、すすいだ。脂肪細胞については倍率10倍、マクロファージについては倍率63倍で光学顕微鏡下で写真を撮影した。脂肪滴の定量化は、ImageJから、限界値限界法(Limit of threshold method)を用いて行った。
【0262】
アデノウイルスの産生。トラップADおよびAEは、Q5 site directed mutagenesis kit(New England Biolabs)を使用して、VEGF165結合変異体残基D320Kを導入することによって、トラップMおよびO(前述の国際公開第2016/033699号に記載)から誘導した。アデノウイルストラップ構築物は、最初にトラップM、G、AおよびDのコード配列をpENTR1A(Life technologies)のEcoRI-EcoRV部位にサブクローニングし、続いて目的ベクターpAd/CMV/V5-DEST(Life technologies)中でLRクロナーゼ相同組換えを行うことによって作製した。現在の構築物セットは、pAdeno-TrapA、C、GまたはMおよびpAdeno-GFPと称される。すべての構築物挿入配列をサンガーシーケンシング(Genome Quebec)により検証した。pAD/CMV/V5-destへのトラップコーディング配列組換え後に生成されたすべての接合領域も同様にシーケンシングを行った。
【0263】
統計分析。データは平均値±SEMで表す。必要に応じて、両側スチューデントt検定およびANOVAを使用して、異なる群を比較した。P<0.05は統計的に異なると見なした。
【0264】
実施例13
食餌誘発性肥満の間の脂肪組織において蓄積するNRP1発現マクロファージ
食餌誘発性肥満(DIO)の際に、壊死脂肪細胞放出脂肪酸(FA)は、冠状構造を形成する周囲のマクロファージによって部分的に取り込まれる。脂質代謝および肥満におけるマクロファージの重要性を考慮して、骨髄性細胞におけるNRP1の発現プロファイルを、immunological consortium ImmGenのデータを用いて分析した(HengとPainter、2008)。NRP1の発現は、他の定常状態の組織内在性マクロファージ、単球および好中球と比較して、脂肪組織マクロファージ(ATM)において最も頑強であった(図21A)。このデータは、脂肪組織恒常性におけるNRP1+マクロファージの潜在的な役割を示した。
【0265】
したがって、C57BL/6マウスを8週齢から始めて10週間高脂肪食(HFD;60%脂肪カロリー)に入れ、ATM集団を蛍光活性化セルソーティング(FACS)により調べた。他の研究によれば、年齢を一致させた通常食(RD;18%脂肪カロリー)の対照と比較したとき、HFDを与えたマウスの脂肪組織において、ATMの存在の増加が検出された(図21B)。これは、NRP1+ATMにおいて比例した増加と平行であった(図21C)。10週齢のHFD給餌マウスおよび年齢を一致させたRDマウスの両方からの後腹膜白色脂肪組織(RPWAT)の免疫組織化学(IHC)では、マクロファージおよび血管におけるNRP1の頑強な発現が確認された(データは示さず)。22週のHFDの後、NRP1は冠状構造に局在し、これは死にかけているおよび死亡した脂肪細胞を取り囲む食作用性マクロファージのクラスターに対応している(データは示さず)。調べたNRP1リガンドのうち、トランスフォーミング成長因子ベータ1(Tgfb1)のみがHFD給餌マウスの後腹膜白色脂肪組織(RPWAT)において有意に上昇したが(図21G)、一方、セマフォリン3A(Sema3a)、血管内皮成長因子-A(Vegfa)、または-B(Vegfb)は影響を受けなかった(図21D図21F)。まとめると、これらのデータは、ATMにおけるNRP1の頑強な発現を実証しており、かつHFD誘発性体重増加の間の脂肪組織におけるNRP1+マクロファージの増加を示唆している。
【0266】
実施例14
NRP1は、マクロファージによる脂肪酸の取り込みおよび食作用を促進する。
肥満において、長鎖脂肪酸(FA)の取り込みは、脂肪細胞において上方制御されている(Berkら、1999;Petrescuら、2005)。脂肪組織の恒常性および体重増加におけるNRP1マクロファージの役割を解明するために、骨髄系統の細胞において特異的に除去されたNRP1を用いてLysM-CRE-NRP1fl/flマウス系統を作製した(Dejdaら、2014)。したがって、長鎖FA類似体(C1-BODIPY-C12、18-炭素FA)の取り込みを、LysM-Cre-NRP1fl/flおよび対照LysM-Cre-NRP1+/+マクロファージにおいて測定した。NRP1欠損マクロファージは、急性曝露中、対照マクロファージよりも有意に少ないFAを取り込んだ(図22A)。加えて、C1-C12 BODIPYを全身投与することで、血漿および心臓と比較した場合(図22D図22E)、LysM-Cre-NRP1fl/flマウスのRPWATおよび肝臓において有意に上昇したレベルのタグ付きFAが明らかになった(図22Bおよび図22C)。これにより、脂質取り込みにおけるNRP1マクロファージの役割が固まる。
【0267】
NRP1が、マクロファージにおける脂質の隔絶に影響を与えたかどうかを判断するために、マクロファージ内の中性脂質をオイルレッドO染色で染色したが、オイルレッドO染色は、脂肪細胞馴化培地中でインキュベートしたLysM-Cre-NRP1fl/flマクロファージにおいては有意に減少した(図22F図22G)。脂肪細胞およびマクロファージ培地は、グルコースおよびインスリン濃度が異なるので、NRP1欠損マクロファージにおける内在化脂質の減少が、インスリンを含むか、または含まない脂肪細胞培地、ならびにマクロファージ培地などの非馴化培地においても生じるかを査定した。すべての条件において、NRP1マクロファージは、対照よりも有意に少ない中性脂質を隔離した(図22H図22K)。
【0268】
肥満マウスおよびヒトにおいて脂肪細胞死が増加するにつれて、細胞残屑を貪食し、放出された脂質を隔離するためにマクロファージが壊死部位に誘致される(Cintiら、2005)。NRP1欠損マクロファージにおいて脂質の取り込みの減少を観察したため、本発明者らはそれらの食作用能力も損なわれているかどうかを疑問視した。食作用は、LysM-Cre-NRP1fl/flおよび対照マクロファージにおけるpHrodoグリーンザイモサンバイオ粒子コンジュゲートを用いて測定し、NRP1を欠くマクロファージが貪食能の低下(図23)を有していたことがわかった。
【0269】
まとめると、上記の結果は、NRP1欠損マクロファージがFAの取り込みおよび食作用能力を損なっていることを実証している。
【0270】
実施例15
NRP1トラップは高脂肪食に関連した体重増加を減少させる
体重増加に対するNRP1トラップの効果を査定した。NRP1のドメインa1、a2およびb1を含む可溶性NRP1トラップを発現するアデノウイルス(トラップM、表2参照);アデノGFP;または生理食塩水(対照)を雄マウスに投与し、同時にマウスは、通常食から高脂肪食(HFD、T0)に切り替えた。体重増加は、10週間にわたって監視した。データは平均値±SEMで表す。スチューデントの対応のないt検定、*p<0.05、**p<0.01、生理食塩水対アデノトラップM、二元配置アノバ、ボンフェローニ事後検定、N=5。
【0271】
図24に示すように、NRP1を投与することで、マウスの体重増加を妨げた。7週目および8週目に観察された体重増加の増加は、NRP1トラップを発現する循環アデノウイルスの減少と一致する。驚くべきことに、体重増加の防止は、雌マウスよりも雄マウスにおいて重要であった(データは示さず)。
【0272】
耐糖能に対するNRP1トラップの効果も査定した。6~8週齢のC57B16/Jマウスに生理食塩水、アデノGFPまたはアデノトラップMを静脈内注射し、注射直後に高脂肪食を与えた。糖血は、2gのグルコース/kgマウスの腹腔内注射後の異なる時点で査定した。図25Bに示すとおり、アデノトラップMで処理したマウスは、生理食塩水またはアデノGFPで処理したマウスよりもグルコースに対する耐性が高かった。
【表11】
【0273】
特許請求の範囲は、実施例に記載されている好ましい実施形態によって限定されるべきではなく、説明全体と一致する最も広い解釈を与えられるべきである。

参考文献
【表12】
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図1-6】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図3-5】
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図7
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図9-1】
図9-2】
図10-1】
図10-2】
図10-3】
図10-4】
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17-1】
図17-2】
図18-1】
図18-2】
図18-3】
図18-4】
図18-5】
図18-6】
図18-7】
図19
図20
図21-1】
図21-2】
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
【配列表】
2023036864000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-01-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
2023036864000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2023-01-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEMA3Aアンタゴニストおよび担体を含む、対象におけるニューロンの早期老化に関連する疾患または状態を治療するための組成物であって、
前記SEMA3Aアンタゴニストが、SEMA3Aに結合する可溶性NRP1ポリペプチドであり、配列番号82の配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、組成物。
【請求項2】
前記可溶性NRP1ポリペプチドが、配列番号82のアミノ酸配列と少なくとも98%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記可溶性NRP1ポリペプチドが、配列番号82のアミノ酸配列を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記可溶性NRP1ポリペプチドが、fragment crystallizable(Fc)ドメインに融合される、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記Fcドメインが、前記可溶性NRP1ポリペプチドのアミノ末端に融合している、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記可溶性NRP1ポリペプチドと前記Fcドメインとの間にリンカーをさらに含む、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項7】
前記老化がパラクリン老化である、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記老化が細胞性虚血に続発する、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記対象が、神経変性疾患に罹患している、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記担体が、全身投与に適した薬学的に許容される担体である、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記担体が、眼投与に適した薬学的に許容される担体である、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。